JP3888121B2 - 複数のビームを用いた照明装置及び画像表示装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、複数のレーザービームを用いた照明装置において強度分布の均一化を実現するための技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
プロジェクションディスプレイと称する画像表示装置では、空間変調器として液晶パネルや、DMD(Digital Micromirror Device)等が用いられてきたが、近時、マイクロマシン技術によるアクティブ駆動式のグレーティング(回折格子)を用いたディスプレイが開発されて注目を集めている。使用する回折格子型素子の名前は、「グレーティングライトバルブ(Grating Light Valve)」(以下、「GLV」と略記する。)と呼ばれ、従来の空間変調器を使った場合に比べて、継ぎ目のない(シームレス)鮮明で明るい画像を表示できること及びマイクロマシン技術を用いて安価なコストで作成できること、そして、高速動作が可能であること等の特長を有している。
【0003】
このGLVを用いて画像を形成するには、回折光のうち、0次光を遮光して、±1次光だけを透過させるシュリーレンフィルタリングが必要である。
【0004】
図13はシュリーレンフィルター光学系aの要部について示したものである。図示しない光源からの光が、シリンドリカルレンズL0により集光されてGLVに照射され、その回折光がレンズL1、シュリーレンフィルターF、レンズL2をこの順で透過して出射される。
【0005】
尚、図中に示す光線「lt(+1)、lt(0)、lt(−1)」はGLVによる回折光を表しており、「lt(+1)」が+1次回折光、「lt(0)」が0次(回折)光、lt(−1)が−1次回折光をそれぞれ示しており、シュリーレンフィルタリングにより0次光だけが遮光される。
【0006】
GLVとしては反射型の素子が用いられており、メンブレンと呼ばれる多数の微小リボンがエアギャップをもって基板上に並列配置された構成を有している。そして、GLVの状態のうち、第一の状態(ピクセル消灯時)では全てのリボンの位相が揃えられる結果、±1次回折光は発生しない(反射光のみ)が、第二の状態(ピクセル点灯時)では、リボンが1つおきに静電気力により基板側に引き付けられて反射型回折格子が形成される結果、±1次回折光が発生する。そして、この±1次回折光のみを選択するために、GLVのフーリエ面で空間的フィルタリング(シュリーレンフィルタリング)を行うことが必要とされる。
【0007】
尚、ここで、フィルタリングのコントラストを上げるためには、入射光線の回折方向の角度範囲を充分に狭くしておくことが必要である。これは、入射光線が広がりをもっていると、フィルタリング面上での光線入射値について広がりができるため、消光時に漏れ光が生じてしまうためである。
【0008】
図14は上記光学系aのうち、GLVとレンズL1、そしてシュリーレンフィルター面Fだけを取り出して示したものであり、±1次回折光がフィルタリングにより選択される様子について概念的に示している(但し、GLVについては図示の便宜上、透過型素子として示している。)。
【0009】
このような光学系に対する光源として、例えば、レーザーディスプレイ等のようにレーザーを用いた場合には、スペックル(あるいはスペックルノイズ)が問題視される。尚、スペックルは、レーザーからの位相の揃ったコヒーレント光がランダムな位相面によって散乱されることにより、物体での隣接した領域からの乱れた波面が観察面上で干渉することに起因する現象である。そして、粒状の光強度分布となって現出するスペックルノイズを低減するための技術が必要不可欠とされる。特に、スペックルがスクリーンと観察者の目、つまり網膜との間で生じることが、レーザーディスプレイにおいては問題になる。
【0010】
また、照明の均一性については、照明光学系一般に要求されるために各種の方法が提案されており、例えば、下記の方法が挙げられる。
【0011】
(A)ビーム走査(スキャニング)による方法
(B)強度分布の変換による方法。
【0012】
先ず、(A)については、例えば、ガウシアンビーム(光強度分布がガウス分布に従うビーム)から均一な強度分布を得るために、図15に示すように、複数のビームを並列に配置し(この例では5個)、その並列化の方向にビーム走査するのではなく、当該方向に対して傾けた方向にビーム走査を行う方法が挙げられる。図には、5つの円で示すビームが左斜め上方から右斜め下方に配列されており、個々のビームについては、それぞれの左下に示すように、ガウシアン分布をもっている。そして、ビームの走査方向は、それぞれの矢印で示すように、図の左方から右方に向かう方向となるように規定されているので、右側に示すグラフ図のように各ビームの分布曲線(破線で示す。)を合成した強度分布(実線で示す。)を得ることができる。尚、この方法はレーザー加工や露光等、露光量の積分値について均一性が求められる用途で一般に良く用いられている。隣接するコヒーレントなビーム同士が重なり合えば干渉が生じるので、強度分布は不均一になるが、総露光量についての均一化が求められる場合には、全てのビームが空間的に重なっている必要がない(図のように各ビームが離れた配置を採れる)ので、このような方法でも問題ない。
【0013】
上記(B)については、例えば、非球面シリンドリカルレンズを用いて強度分布を変換する方法が考えられ、光学的な設計技術を駆使することで、ガウシアン分布の入力ビームに対してプロファイル変換を行って均一な強度分布を得るものである。
【0014】
尚、このような照明又は露光用には、異なる複数の光源を起源とするレーザービームを用いる形態と、レーザー光について強度分割を行うことで複数のビームを生成する形態とが挙げられ、以下では、後者を実現するための要素技術として知られている下記事項について説明する。
【0015】
(1)偏光による強度分割
(2)多重反射による強度分割。
【0016】
先ず、(1)の偏光を利用する場合について説明するが、その際には入射レーザー光について直線偏光を想定する。
【0017】
図16に示す構成例bのように、λ/2波長板(2分の1波長板)と、複屈折性結晶を配置した光学系に、図示しない光源からのレーザー光を入射させる場合について考える。尚、図中の「lt1」は入射光、「lt2」が波長板の透過光、「lt3」が複屈折性結晶の透過光をそれぞれ示しており、それらの光については図の下方に示すように、両向き矢印によって偏光状態(偏光方向)をそれぞれ示している。
【0018】
適当な方位に切断した複屈折性結晶に対して、λ/2波長板により偏光方向を適当な方位に回転させたレーザー光(図の「lt2」)を入射させれば、直交する偏光(つまり、直交関係にある2つの偏光)は空間的に分離される。従って、偏光方向を適切に調整すれば、強度の等しい2つの偏光(図の「lt3」を参照。)をもつビームを生成することができる。尚、ここでは、説明の便宜上、直交する2つの直線偏光への分離方法について述べたが、これに限らず右回りと左回りの円偏光であっても良い。また、複屈折性をもつ光学材料としては誘電体結晶や液晶等が知られているが、使用する波長に対して透過率が高く、かつ十分な分離角を実用的な厚みで得られるものを選定することが好ましい。
【0019】
このような目的のために作成された偏光光学素子としては、ビオ=サバールの発明したサバール板が挙げられ、これは、光学軸に対して45゜の方位をもって切り出された1軸性結晶を、平行平板として研磨したものである。サバール板に対して垂直に入射した光は、複屈折によって、互いに直交する偏光(常光線と異常光線)に分離されるが、両光線については結晶中の伝搬方向(つまり、エネルギー流の伝播方向を示すポインティングベクトルの方向)が異なるため、結晶中を伝搬するにつれて光線が分離される。但し、入射光線が垂直入射する場合には、結晶中でも出射後においても、波面の法線方向が常にサバール板に対して垂直であり、従って、垂直入射した光線は、互い直交関係をもつ2偏光に分離されて同じ方向に出射されることになる。
【0020】
このときの、2偏光のシフト量(あるいは位置ずれ量であり、これを「d」と記す。)は次式で与えられる。
【0021】
【数1】
【0022】
尚、上式中で用いた各記号の意味は下記の通りである。
【0023】
t;結晶の厚み
φ;直交する2偏光についての結晶中の分離角
no;1軸性結晶の常光線屈折率
ne;1軸性結晶の異常光線屈折率
θ ;サバール板の入射面法線と光学軸との間になす角度。
【0024】
例えば、分離角を最大にするために、θ=45゜とし、1軸性結晶として方解石を用いる場合に、no=1.658、ne=1.486の各数値を上式に代入することで、タンジェント項としてtanφ=0.109を得る。よって、t=10mm(ミリメートル)とすると、d=1.09mmのシフト量をもって分離された出射光線を得ることができる。
【0025】
複屈折を用いた偏光分離のための素子には、ウォラストンプリズム等の様々なタイプの素子が知られているが、入射光と出射光(常光線及び異常光線)の各方向を全て一致させることが必要な場合には、サバール板又はその改良品を用いるのが好ましい。尚、サバール板についてはこれを単体で使用する例と、その変形例として、サバール板を何枚も重ね合わせたもの等が良く用いられるが、その機能としては同じである(よって、以下の説明では、「サバール板」の概念には、複数枚の構成をも含めることにする。)。また、上記の数値例では方解石を挙げたが、これは天然の複屈折材料であって大型で良質のものを採掘するのが困難であるために高価である。そこで、低コスト化のためには、人工水晶等の安価な結晶を用いる必要がある。
【0026】
次に、上記(2)の多重反射を用いた分割方法について説明する。
【0027】
図17は、多重反射板cの構成例について示したものである。
【0028】
平行平板の片面(図の左面)には、光線入射用の窓部Wを除いて、全反射コート(強度反射率を「R」とする。)が施されている。これに対して、反対側の面(図の右面)には、多重反射の回数と位置に応じて、分割された複数の領域が設けられている。本例では、6つに分割された領域についてそれぞれに異なる強度反射率(これらをそれぞれ「R1、R2、…、R6」とする。)のコーティングが施されている(尚、後述するように、「R6=0」としているので図に示す分割数は5である。)。
【0029】
図中に示す6本の光線「lt_n」(n=0、1〜5)は出射光線をそれぞれ示しており、添え字の「n」は出射面側での反射回数に相当する。
【0030】
説明を簡単化するために、窓部Wについては強度損失がないものと仮定する(反射率0)と、各ビームの出射強度(入射強度を「1」とする。)は下記のようになる。
【0031】
・「lt_0」に示すビーム(出射面側での反射なしに出射するビーム)の強度=「1−R1」
・「lt_1」に示すビーム(出射面側で1回反射した後に出射するビーム)の強度=「R・R1・(1−R2)」
・「lt_2」に示すビーム(出射面側で2回反射した後に出射するビーム)の強度=「R2・R1・R2・(1−R3)」
・「lt_3」に示すビーム(出射面側で3回反射した後に出射するビーム)の強度=「R3・R1・R2・R3・(1−R4)」
・「lt_4」に示すビーム(出射面側で4回反射した後に出射するビーム)の強度=「R4・R1・R2・R3・R4・(1−R5)」
・「lt_5」に示すビーム(出射面側で5回反射した後に出射するビーム)の強度=「R5・R1・R2・R3・R4・R5・(1−R6)」。
【0032】
つまり、N回の反射後に出射するビームの強度は、RのN乗と、それまでに反射が行われた領域に亘る反射率の積、そして、出射領域の透過率を掛け合わせたものに等しい。
【0033】
今、6本のビームを生成するものとして、損失が最低であるためには6番目の領域についてARコートをすることが好ましいが、以下に示す計算上、「R6=0」とし、「R=1」と仮定する。また、平行平板内部での吸収や散乱を無視できるとすれば、全ビームの強度和が1に等しいという等値関係から下式が得られる。
【0034】
【数2】
【0035】
また、全てのビームについて、それらの強度を等しくすることが目的であるので、下式とおく(つまり、[数2]式における左辺の各項の値が全て等しいものとする。)。
【0036】
【数3】
【0037】
つまり、[数2]式において各ビームが等しい強度(1/6)をもつことから、[数3]式を用いて各反射率を順次に求めていくことにより、最終的に下式を得る。
【0038】
【数4】
【0039】
このような反射率をもつ各反射膜を、所望の波長及び入射角に対して設計し、平行平板に対する成膜工程を経て形成すれば良く、そのためにはマスキングと反射コーティングの作業を繰り返すだけで済むので比較的コストのかからない方法で実現できる。尚、平行平板の厚みについては、入射ビーム径に対して多重反射光の間隔を十分に取れるようにする。
【0040】
上記のようなビームの等強度分割によらずに、複数のレーザーを用いる場合(例えば、高輝度化の要請を受けてレーザーディスプレイ等でレーザーの高出力化を実現させたい場合等)には、各レーザーによるビームを要領よくコンパクトに合波することが必要である。また、複数のレーザーの使用は、各レーザー光がインコヒーレントな関係にあるため、上記したスペックルノイズについてのコントラスト低減にもつながるので有効である。
【0041】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、レーザーを光源とする照明装置に要求される事項として、照明の均一性が高いこと、平行光が得られること、スペックルノイズがないこと(又は目立たないこと)が挙げられるが、従来の照明装置にあってはこれらの事項の中でも、特に均一性について充分に満足のいく特性が得られないか又は所望の特性を得るまでに費やす労力の負担が大きいことが問題となっている。
【0042】
例えば、前記した方法(A)について、レーザービームを空間的に合波しようとすれば、必然的にビーム間にギャップ(強度分布において低い部分)が生じるので、このままではGLVのような線状領域を、隈無く多数の平行光で分割して同時に照明することは困難である。また、方法(B)において、非球面レンズ等を用いる場合には、一般に非球面シリンドリカルレンズについての設計、製造、評価が技術的に難しいことが問題とされていることからも分かるように、その代替技術が求められている。
【0043】
尚、均一性が悪いと効率の低下に繋がり、高輝度化等への支障を来す原因となり、また、ディスプレイ装置等ではダイナミックレンジを充分にとれなくなる等の弊害をもたらす虞がある。
【0044】
そこで、本発明は、複数のレーザーからの光線を用いた照明装置において、強度分布の均一化を実現することを課題とする。
【0045】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記した課題を解決するために、複数のレーザーからの光線を、強度の等しい複数のビームに分割してから、複屈折を用いてビームを空間的にずらした上で重ね合わせるようにして均一化された強度分布が得られるようにし、そして、複屈折後に得られる複数のビーム配置が空間的に周期性をもっており、コヒーレントな関係にある2つのビームの間に、インコヒーレントな関係をもつ複数のビームが配列されるとともに、あるビームを中心としてこれに隣接する1周期内のビームが当該中心のビームと干渉しない配置にしたものである。
【0046】
従って、本発明によれば、分割された強度の等しい複数のビームに対して、複屈折を用いてビームを空間的にずらして、可干渉性をもたないビーム同士を重ね合わせることによって、均一な強度分布をもった照明光を得ることができ、更に、ビーム群について空間的に規則的な配置をとることができ、また、中心位置のビームが、それと隣接関係にある別のビームと干渉しないように配列させることで、均一化及びスペックルコントラストの低減に有効である。
【0047】
【発明の実施の形態】
本発明は、複数のレーザーからの光線を用いるとともに、均一化された光強度分布の照明光を得るための光学的構成に関するものである。例えば、画像表示装置への適用においては、フロントプロジェクション(前面投射)型、リアプロジェクション(背面投射)型のレーザーディスプレイ等が挙げられるが、その他、レーザープリンタ、あるいはディジタル画像データから映画フィルムへの記録装置等、印刷や記録を含む画像装置に広く用いることができる。勿論、レーザー核融合、レーザーアニーリング等の加工や計測等の用途において均一照明光を必要とする場合に適用することで精度等の向上に寄与することが可能である。
【0048】
本発明に係る照明装置の具体的な構成について説明する前に、本発明の基本原理について説明する。
【0049】
先ず、複数のレーザーからの光線を用いることが前提とされる。これは、高輝度化の他、スペックルノイズの低減にも有効である。また、レーザー光の強度がほぼ等しくなるように合わせておくことが好ましい。
【0050】
そして、強度の等しい複数のビームに分割する手段をもつこと及び分割後には1回又は複数回の複屈折を用いてビームを空間的にずらした上で重ね合わせることが基本的事項である。即ち、並列化された複数のビームに対して、複屈折を利用してビームを空間的にシフトさせながら強度分割し、隣接した可干渉性をもたないビーム同士が空間的に重なり合うようにすることで、均一な強度分布を生成することができる。このような照明光を、例えば、GLV等の線状領域に対して照射することにより均一な照明を行えるが、1次元照明(線状照明)に限らず2次元の均一照明への適用が可能である。
【0051】
ビームの重ね合わせによる均一化方法については、重ね合わせに求められる条件についての考察を要する。尚、以下の説明では主にガウシアンビームを想定して説明するが、より一般的な強度分布をもつレーザー光についても、以下に示す考え方を適用できることは勿論である。
【0052】
複数のインコヒーレントかつ等強度のガウシアンビームを空間的に併置したときの強度分布例について示したものが図1及び図2である。
【0053】
これらの図においては、ガウシアンビームのビーム半径(強度がピーク値のe-2になるときの値。)を「1」とした場合における、各ビームの中心間隔(これを「S」と記す。)を変化させたときの様子を示しており、横軸にビームの配置方向における相対座標(ビーム半径を「1」とする。)をとり、縦軸に相対強度をとっている。
【0054】
図1では、ビームの中心間隔がS=2の状態から、S=1.5、S=1.4、S=1.3、S=1へと次第に狭まっていく場合の重なり具合をそれぞれ示している。尚、本図では9本のビームの強度和について実線で示し、個々のビームの強度については破線で示すことで両者の分布を区別している。
【0055】
また、図2では、ビームの中心間隔をS=2の状態から0.2刻みでS=1の状態まで順次に狭くしていったときの様子を示しており、各状態のグラフ曲線(強度分布曲線)を1つにまとめて示したものである。
【0056】
図から分かるように、ビームの重ね合わせによって総強度分布が均一化されることが分かるが、S値が1.5以上ではビーム間に強度の不均一性が次第に目立つようになる。つまり、S値の増加につれて強度分布における山谷の差が大きくなる傾向が認められる。
【0057】
また、S値が小さくなると、中心部での均一性が向上する。しかし、S値が小さくなっていくと、均一な部分の幅(図1や図2に示すグラフ図の横軸方向の幅)が相対的に狭くなる傾向が認められ、従って、強度和を示す分布曲線において裾部分の強度が相対的に増加していくことが分かる(これは、均一部分の幅が狭くなると、裾部分の占める割合が相対的に大きくなるためである。)。実際に利用するのは強度分布において主に均一な部分であるため、S値が小さすぎると光利用効率の低下を招く原因となる虞がある。
【0058】
以上の考察からビーム半径に対するS値としては、1乃至1.5程度の範囲が実用上望ましいことが分かる。尚、S=1やS=1.5についてはビームの重ね合わせにおいて一応の目安となる値であり、従って、実際上はそれらの近傍値であっても構わない。
【0059】
また、例えば、レーザーディスプレイ等の照明用途としては、干渉による強度分布の不均一性は望ましくないので、S値として約1乃至1.5程度の範囲において、隣接する左右それぞれ3本程度のビームについて干渉が生じないようにすることが望ましい。例えば、複数のビームのうちコヒーレントな関係にあるビームの中心間隔が全てガウシアンビーム半径の5倍(ピーク4個分のビーム幅に相当する。)以上となるように設定して離隔させる。
【0060】
GLVに係る照明光学系では、照明領域がGLV上の線上域に限られるので、前記方法(A)のように空間的にビームをずらしてスキャニングで重ね合わせることができない。従って、例えば、あるビームを中心として、当該ビームに隣接する左右3本(自分自身を含めて計7本)のビームについては、下記の事項が必要とされる。
【0061】
(I)直交関係にある偏光状態(直線偏光)あるいは右回り、左回りの円偏光のビームを用いること
(II)異なるレーザーからのビーム(起源をそれぞれ異にするビーム)を用いること
(III)(I)及び(II)の併用。
【0062】
これにより、ビーム間で干渉が起こらないようにすることができる。
【0063】
また、レーザーディスプレイ等への適用においてはスペックルの問題があり、スペックルのコントラストを低減させる上でも、上記(I)乃至(III)が有効である。即ち、異なるレーザーのビームや、直交する偏光のビームを重ね合わせることで、異なるスペックルパターンを平均化してスペックルコントラストを低減させることができる。その際には可干渉性がないビーム同士ができるだけ重なり合うようにしなければならないので、例えば、上記のように、隣接する7本のビームの非可干渉性(インコヒーレント)は均一性のみならず、スペックルコントラストの低減にも必要である。
【0064】
尚、高輝度化にとっては、できるだけ複数のビームを用いることが好ましいが、スペックルのコントラストを極力低減させるには、それらのビームを強度分布変換系(本発明では強度分布を均一化させるための光学系)に入射する以前に合波することが望ましい。即ち、合波されたビームを1本のビームとみなせば、強度分布の均一化に関しては上記の説明と同様に考えることができるからであり、例えば、レーザーディスプレイ等への適用においては、照明領域内の全ての点にできるだけ多くのインコヒーレントなビームが重ね合わされるようにすることが望ましい。
【0065】
以上の事項を踏まえた上で、ビーム構成の具体例を示すと次のようになる。
【0066】
例えば、異なる2つのレーザー(第一レーザー、第二レーザー)からのビームについてp偏光、s偏光を想定した形態(異なるレーザーからの光及び異なる偏光を利用した、上記(III)の場合)において、N番目に位置するビームが第一レーザーによるp偏光であるとした場合には、下記のようになる。
【0067】
・N+4番目のビーム=第一レーザーからのp偏光
・N+3番目のビーム=第二レーザーからのs偏光
・N+2番目のビーム=第一レーザーからのs偏光
・N+1番目のビーム=第二レーザーからのp偏光
・N−1番目のビーム=第二レーザーからのp偏光
・N−2番目のビーム=第一レーザーからのs偏光
・N−3番目のビーム=第二レーザーからのs偏光
・N−4番目のビーム=第一レーザーからのp偏光。
【0068】
この配置では、N番目のビームである第一レーザーによるp偏光を中心として、一方の傍らに「N+1」番目のビームが隣接され、さらにN+2乃至N+4番目の各ビームが位置されており、これらとは反対側には、N番目のビームの傍らに「N−1」番目のビームが隣接され、さらにN−2乃至N−4番目の各ビームが位置されている。従って、N番目のビームに関して隣接する3本のビーム(N+1乃至N+3番目、N−1乃至N−3番目の各ビーム)と、中心のビーム(N番目のビーム)とは干渉しないことが分かる。また、N−4番目と、N+4番目の各ビームについては、中心のビームと干渉し得るが、ビーム間隔が空間的に充分な距離をもっていて各ビームがほぼ分離されている場合には、干渉の影響は軽微である。
【0069】
以上のようなビーム群の配置、即ち、複屈折後に得られる複数のビーム配置が空間的に周期性を有すること、そして、コヒーレントな関係にある2つのビームの間にインコヒーレントな関係をもつ複数のビームが配列されるとともに、中心ビームに関して、これに隣接する1周期内のビームが当該中心ビームと干渉しない配置を採ることにより、均一かつ高効率であって、しかもスペックルコントラストを充分に抑えた照明光学系を構成することができる。
【0070】
尚、上記したビーム構成は、ほんの一例を示すものであり、隣接するビーム同士の関係は、入射ビームの間隔や結晶のもつ複屈折量によって配置が変ることがあるので、各種の実施形態が可能である。つまり、基本的には、同じレーザーからの直交関係にある偏光及び異なるレーザーからの1組の偏光(直交関係にある偏光等)を用いて、隣接する左右3本ずつのビームを並列配置した構成を採れば良い。上記の例では、N番目のビーム(中心ビーム)からN+4番目又はN−4番目のビームの間隔を一周期として繰り返す周期的配置がとられており、中心ビームとその直ぐ脇に隣接する別のレーザーからのp偏光、さらに、中心ビームと同じレーザーからのs偏光、別のレーザーからのs偏光によって構成されるビーム群を1単位する。ビーム配置の1周期については、勿論、これに限らず各種配置のビーム群を用いることができる(例えば、左側又は右側に隣接する3本のビーム配置あるいは、あるビーム自身とその左側又は右側に隣接する3本のビームを含む、合計4本のビーム配置についてビームを適宜に入れ替える等。)。要は、あるビームを中心とした所定本数のビームについて当該中心のビームとの間に干渉が極力生じないようにし、スペックルコントラストを低減させつつ、均一な照明を行えるように配置することが重要である。
【0071】
また、さらに多数のレーザーを用いることにより、例えば、平行平板等による強度分割の1単位となるビーム数を増やすようにしても良いが、スペックルコントラストを考慮した場合には、各ビームをできるだけ重ね合わせることが好ましい。
【0072】
次に、GLVに係る照明光学系において、シュリーレンフィルタリングに関する注意点について説明する。この光学系(図13参照)では、シュリーレンフィルタリングを行うために、強度分布変換後の光線の角度について十分な注意が必要であり、シュリーレンフィルタリング後のコントラストを十分に高くとるためには、GLVへの入射角度を±0.3度以下程度にすることが実用上望ましい。
【0073】
例えば、図3に示す構成を考えると、半導体レーザーアレイとしてのLD(レーザーダイオード)アレイ(あるいはLDアレイバー)1から発せられた光線が、マイクロレンズアレイ2を用いてコリメートされ、その後に複屈折性結晶3、さらにはシリンドリカルレンズ4を経てGLV5に照射される。尚、LDアレイ1は多数のエミッター(出射源あるいは放射源)を同一基板において一列に配列させたものである。尚、図の下方には、各エミッターから出射されてマイクロレンズアレイ2を透過した後(図の破線位置を参照)の各ビームの強度分布(ガウシアンビームを仮定している。)と、複屈折性結晶3を透過した直後の分布(図の破線位置での分布であり、実線で示す分布曲線がp偏光に係る強度分布を示し、一点鎖線で示す分布曲線がs偏光に係る強度分布を示している。)、そして、GLV5の照射面(線状領域)における強度分布をそれぞれ概念的に示している。
【0074】
LDアレイ1の各エミッターからの光線は互いにインコヒーレントであるため、マイクロレンズアレイ2を用いてコリメートした各光線について、複屈折性結晶3を用いて図の縦方向(光軸に直交する方向)にずらして重ね合わせるだけでも、強度分布をある程度は均一化することが可能である。
【0075】
しかしながら、GLVを使ったレーザーディスプレイ等の用途において、このような構成ではシュリーレンフィルタリングを考えた場合に充分でないという事情がある。
【0076】
LDアレイについて高出力化するためには、LDアレイにおける発光領域を活性層方向について数十μm(ミクロン)乃至数百μmにすることが求められる。ここでは仮にエミッターの発光領域幅を50μmとする。マイクロレンズアレイの焦点距離を1.5mm(ミリメートル)とすると、光源が理想的な点光源でなく大きさをもつことから、コリメート後の光線は±0.95゜程度の分布幅をもつことになる。従って、図3に示すような構成例のままでは、GLVレーザーディスプレイ用光学系としては、コントラストの観点から不適切である(光線角度を小さくするために、ビーム全体を拡大して、発散角を抑えなければならない。)。
【0077】
また、図3の構成では照明領域の各点が少数のエミッターからの光線によってのみ照明される(つまり、照射の対象点を特定した場合に当該点での明るさに寄与するエミッター数が少ない。)ので、スペックルコントラストの低減という観点からも問題が残る。
【0078】
従って、LDアレイを用いる場合には、さらに工夫を必要とする。例えば、GLVへの入射角度を抑えるには、複屈折性結晶3及びシリンドリカルレンズ4による集光以前に全体のビームを充分に拡大して発散角を小さくする。上記した数値例の場合では、角度倍率を1/4程度にするためにビームを4倍に拡大すれば良い。また、スペックルコントラストを低減させるには、後述するように、図3の紙面に垂直な方向に複数のLDアレイを並べて配置するか、あるいは複数のLDアレイを使って偏光結合により1つのビームが得られるように構成する必要がある。
【0079】
次に、上記したようなビーム群の構成を得るための具体的手段(光学的手段)について説明する。
【0080】
前述したように、光強度についての分割方法には、(1)偏光を利用した方法と、(2)多重反射による方法とが挙げられるので、両者を組み合わせた方法を以下に示す。
【0081】
図4に示す構成例6では、図示しないレーザー光源から一本の入射ビーム「lb」が多重反射板7(その構成については図17で説明した通りである。)によって等強度とされる6本のビームに分割された後に、λ/2波長板8を経てさらに複屈折性結晶9を透過して出力される。
【0082】
つまり、本光学系への入射ビームについては、上記したシュリーレンフィルタリングに関する事情を考慮して充分にコリメートされた平行光であるとしており、この平行光(レーザー光)は、多重反射板7によって複数の平行なビームに分割される(図では6本からなるビーム群の例を示す。)。そして、さらにビーム群はλ/2波長板8により適当な方位をもつ直線偏光として複屈折性結晶9に入射され、ここで直交する2偏光にそれぞれ分割された上で出射する。従って、図示のように隣接するビーム同士(例えば、図に示す光線「lt_p」と「lt_s」)については互いに直交関係をもって偏光しているので干渉はしない。しかし、1つおきに位置するビーム同士(例えば、図に示す光線「lt_p1」と「lt_p2」)については同じ偏光状態であり、従って、ビーム間に干渉が生じる結果、強度分布が不均一になる。
【0083】
上述したように、ガウシアンビームを仮定した場合に強度分布を均一化するためには、少なくとも隣接する3本ずつのビームが干渉なしに重なり合うようためのシフト量(図1や図2の横軸方向におけるずれ量であり、S値に対応する。)を適度に与える必要がある。
【0084】
そこで、図5に示すように、複数のレーザーからの光線を、多重反射板に入射させることで複数のビームに等強度分割し、さらに、それらのビームを、複屈折性結晶を含む光学系に通してずらした上で重ね合わせる構成を採用する。
【0085】
即ち、この例では、異なるレーザーからの2本の光線(図5には、「▲1▼」、「▲2▼」を付して区別している。)を用いており、各光線が多重反射板7によってそれぞれ分割されてから、λ/2波長板8を透過した後に、複屈折性結晶9を経た光がp偏光又はs偏光となる(2本の各ビームが多重反射板7により等強度の6本に分割され、さらに複屈折性結晶9によりp偏光、s偏光にシフトして分かれるので、2×6×2=24本のビームが得られる。)。そして、出射光を図6の上から順番に並べると、例えば、「▲1▼p、▲2▼p、▲1▼s、▲2▼s」(「▲1▼、▲2▼」は由来するそれぞれのレーザー光を示し、「p」はp偏光、「s」はs偏光をそれぞれ示す。)を1周期としたビーム配置が繰り返されることが分かる。従って、例えば、「▲1▼p」のビームを中心位置に設定すると、その直ぐ脇(第一隣接域)には「▲2▼s」又は「▲2▼p」のビームがきて、その両脇(第二隣接域)には「▲1▼s」のビームが位置する。そして、さらにその両脇(第三隣接域)には「▲2▼p」又は「▲2▼s」のビームが位置するので、中心のビーム(▲1▼p)に関して当該ビームとその両側に隣接するそれぞれ3本のビームとが干渉しないことは明らかである。
【0086】
このように、図5には、隣接する左右3本のビームが、異なるレーザーからの光線及び直交する2偏光の組み合わせによって実現される場合の構成について一例を示しており(前記のN乃至N−4の範囲に示したビーム配置を周期的に繰り返したのと同じ配列になる。)、あるビームを関して所定のビーム本数以内の範囲ではビーム同士が干渉することがなく、当該範囲において各ビームを重ね合わせることができる。
【0087】
以上のように、偏光による強度分割、多重反射による強度分割、そして複数のレーザーからの光を用いることについて、それらの組み合わせにおいて注意しなければならないのは、ビーム間にギャップが生じるか否かということである。即ち、多重反射板だけを用いても、これにより生成される複数のビーム間には、ギャップが不可避的に生じるため、空間的にビームを密に配置するためには複屈折を用いることが必要である。また、複数のレーザーからのビームを用いる場合には、ギャップを埋めるためにそれぞれのレーザー光を偏光合波する必要がある。
【0088】
また、強度分布について効率良く均一化するためには、前述したように多数のビームが必要となるが、ビーム本数を増やすことが目的ならば多重反射を用いた方がコスト的に有利であり、設計の自由度も高い。つまり、複屈折による分離は、直交する2偏光への分離に限られることが問題となるが、勿論、複数のサバール板を用いてこれを多段に重ねた配置を採ることも可能である。
【0089】
図6は、サバール板を多段(本例では2段)に配置した構成例10を示したものであり、2本のレーザー光は、λ/2波長板11、サバール板12を透過した後、さらにλ/2波長板13、サバール板14を透過してから重ね合わされる。尚、図の下方には、破線で示す位置での偏光状態(偏光方向)について両矢印で示しており(レーザー光の一方だけについて示す。)、λ/2波長板11を通って偏った光がサバール板12により直交関係の2偏光にシフト分離され、さらに、これらがλ/2波長板13を通ることで偏ってからサバール板14により直交関係の2偏光にシフト分離されるので、ビーム1本当たり4本のビームが得られることになる。
【0090】
本例では、サバール板14から出射される各ビームについて、第一のレーザー光に由来するものを「▲1▼」、第二のレーザー光に由来するものを「▲2▼」で区別し、p偏光、s偏光をそれぞれ「p」、「s」で区別することにすると、例えば、上から順に「▲1▼p、▲1▼s、▲2▼p、▲2▼s」をビーム配置が繰り返されることが分かる(従って、あるビームを中心としてこれに隣接する3本のビームと、中心のビームとが干渉しない関係にある。)。
【0091】
但し、サバール板の厚みや枚数の増加は、実用的見地からはあまり魅力的でないため、図5に示す構成のように、多重反射と複屈折とを組み合わせた構成が、実用上最も有効な手段と考えられる。勿論、さらに高出力化を必要とする場合等においては、これに加えて、偏光合波を含めた複数のレーザー光の使用が有効であることに変わりはない。
【0092】
例えば、高輝度化のために、2台以上のレーザーを用いる場合の照明装置の構成例15について図7に示す(尚、多重反射板7及びそれ以降の構成については、複屈折性結晶9の後段にシリンドリカルレンズ19、さらにはGLV20が配置されている点を除いて、図5の構成と同じである。)。
【0093】
本例では、第一のレーザーからの光lb1及び第二のレーザーからの光lb2が偏光ビームスプリッター(PBS)16を介してプリズムミラー18の頂角部に照射され、当該ミラーでの反射により光路変更を受けた光が多重反射板7に入射される。また、第三のレーザーからの光lb3及び第四のレーザーからの光lb4が偏光ビームスプリッター(PBS)17を介してプリズムミラー18に照射され、当該ミラーで光路変更を受けた光が多重反射板7に入射される。従って、図5との関係においてはプリズムミラー18からの一方が▲1▼のビームに相当し、他方が▲2▼のビームに相当する。
【0094】
このような偏光ビームスプリッターによる偏光合波や、ミラーによる合波等を用いて、(強度分布変換系への入射以前に)ビームの合波を行えば良い。勿論、3本以上の異なるレーザーからの光線について合波の後に、上記の場合と同様に多重反射板にビームを入射させても良いが、その際にはできるだけインコヒーレントな光線同士を重ね合わせることでスペックルコントラストを低減するために、図7の構成と同様なビームの合波を経た後で多重反射、さらには複屈折による分割を行うことが望ましい。
【0095】
尚、図7では説明の便宜上、2台以上のレーザーについて同じ平面上に配置されるものとしたが、図の紙面に対して垂直な方向に複数のレーザーを並設するといった各種の形態が可能である。また、図7では、GLV20(の線状領域)への照明を行うために、その前段のシリンドリカルレンズ19を用いて複屈折性結晶の透過後の光を集光している。そして、ビームスプリッター等の合波手段については適宜組み合わせて用いることができる。
【0096】
本発明に使用するレーザー光源については、特定のものに限定されないので、様々なレーザーを想定することができるが、ガウシアン分布のレーザー光を念頭においた場合には、例えば、固体レーザー、ファイバーレーザーあるいはその波長変換を利用したものが挙げられる。特に、ファイバーレーザーを使う場合には、高出力でコンパクトであること、そして、基盤(シリコン基板等)上に作成されたV溝アレイを用いて、出射端について受動的にアライメントができる(つまり、各ビームの相対的位置関係を設定できる)ので、本発明のレーザー光源として適している。
【0097】
また、複数のレーザーを個別に並列配置させる形態と、半導体レーザーアレイのように複数のレーザービームを得る形態が挙げられる。後者の場合には、例えば、マイクロレンズアレイによりコリメートされるLDアレイの使用が挙げられるが、この場合、半導体レーザーの各エミッターの強度がガウシアン分布をもつことが望ましい。ブロードエリア(発光領域幅が数十乃至数百μmとされる。)のエミッターの場合には、強度分布が多モードであることや、多重反射時における光線の広がりによる、不均一性が問題となるので、それに対する補正(例えば、多重反射板における各コーティング領域の反射率等を適正に設定して補正する等。)が必要となる。よって、その分、設計や製造が複雑になるが、上記したビームの重ね合わせによる平均化自体は一般に通用する原理であるため、ガウシアン分布から外れた分布(例えば、分布関数が「exp(−xk)」(k≠2)の場合)、あるいは不規則な強度分布をもつ光源の使用に対しても、ある程度有効に働くことが期待できる。また、多数のレーザーを並列化した配置で用いる場合には、個体間の平均化の効果も得られるため、全レーザーについての強度和として応用上あるいは実用上許容し得る範囲内であれば、特にガウシアン分布にこだわる必要はない。
【0098】
【実施例】
次に、具体的な実施例について説明する。
【0099】
先ず、YAGレーザーの第二高調波(波長532nm)のレーザーを8台使用し、各レーザーの出力はいずれも等しくて、そのビーム径(直径)を1mmとする。8台のレーザーからの光については偏光合波により、2台ずつのレーザー光を1つに合波すると、4本のビームを得ることができる。従って、図7の構成に示すように第一乃至第四のビームlb1〜4を同一平面内で配置しても良いが、ここでは、4つのビームのうち、2つ(以下、これらを「ビーム3」、「ビーム4」と記す。)については図7の紙面に垂直な方向から照射されるように配置する。残る2つのビーム(以下、これらを「ビーム1」、「ビーム2」と記す。)については図7と同様に紙面内の配置とする。
【0100】
以下では、説明の簡単化のためにビーム1、2についてのみ説明する(∵下記の説明においてビーム3、4の場合に適宜に置換しても基本的な内容は同じことであるから。)。
【0101】
複屈折の利用においてはサバール板を用いることにして、当該サバール板を出射した後のビームの中心間隔が1.3mmとなるように(前記したS=1.3の場合に相当する。)、多重反射板とサバール板の組み合わせについて設計する。
【0102】
サバール板を出射した後のビーム群については、サバール板の厚みを薄くして低コスト化できるように、ビーム配置に関して、ビーム1の常光線、ビーム1の異常光線、ビーム2の常光線、ビーム2の異常光線の順に並べることにする。
【0103】
先ず、ビーム1とビーム2は、前記プリズムミラー18での反射後に、ビーム間隔2.6mmをもって平行な関係になるように調整する。それぞれのビーム径が1mmであるから、プリズムミラーの頂角側での損失については当該頂角近傍での面取りを含めても充分に小さく抑えることができる。
【0104】
サバール板として方解石を用いるとすると、前記[数1]式から、1.3mmの偏光分離量を得るための厚みを計算することができ、約11.3mmを得る。尚、ここで、サバール板の光学軸は、入射面法線に対して45゜傾いているとしている。
【0105】
次に、多重反射板の設計に移るが、当該反射板内部での反射後に出射される各ビームは、ビーム間隔d=5.2mm(=1.3mm×4)をもってシフトしている必要がある。平行平板を構成する基盤の厚みを「t」とし、屈折率を「n」とするとき、スネルの法則と簡単な幾何学的関係の考察から下式が得られる。
【0106】
【数5】
【0107】
図8は、上式の導出について要部を示すものであり、「a」が入射角を示し、「b」が屈折角を示す。尚、上式の第二式は、図の点P1及びP2を結ぶ線分の長さにcosaを掛けたものがdに等しいことから得られる。
【0108】
上式を連立させてtについて解くと、下式のようになる。
【0109】
【数6】
【0110】
尚、[数6]式の関係について一例を示したものが図9であり、横軸に入射角「a」(単位:degree(゜))をとり、縦軸に厚み「t」(単位:mm)をとって両者の関係を示している。
【0111】
基盤材料として、BK7(n=1.51947)を用いることにし、厚みt=10mmとすると、入射角a≒24.7゜とすればよいことが数値計算から分かる(図9参照)。また、このときの屈折角はb≒15.96゜である。尚、実際の基盤厚みについては誤差をもつが、これについては基盤への光の入射角度を調整することで補償が可能である。
【0112】
以上の幾何学的関係を考慮して、最終的に等強度の6本のビームを得るには、図10に示すように多重反射板の各領域について反射コーティング処理を施せば良い。即ち、図の左方に示す入射面側については、2つの領域に区分けして、光線入射用窓部W(幅5.72mm)についてはその反射率R0=0%とし、全反射面(幅28.6mm)の反射率R=100%とする。そして、出射面側については、各領域の幅をそれぞれ5.70mmにするとともに、それぞれの反射率については前記[数4]式で求めたように、R1≒83.3%、R2=80%、R3=75%、R4≒66.7%、R5=50%とし、またR6については0%とする。
【0113】
尚、図10において、各領域については0.04mmの間隙をもって形成されている(図には、すき間を誇張して示している。)。
【0114】
本例において、最終的に得られる照明領域の高さ(幅)は、ビーム間隔×ビーム本数=5.2mm×6=31.2mmとなり、これはGLVを照明するのに充分な長さである。
【0115】
図11は、出射光の強度分布例について概略的に示したものである。
【0116】
ビーム1、2のそれぞれの常光線、異常光線は空間的にシフトされた配置を採り、それぞれの強度分布を示す曲線(ガウシアン分布としている。)を図には4種類の線種の違いで区別している。
【0117】
隣接するビームについては、そのピーク同士の間隔が1.3mmとされ、また、同種のビームについては、それぞれの間隔が5.2mm(=1.3mm×4)とされている。
【0118】
図12はGLVを用いた画像表示装置への適用例21について構成の概略を示したものである。
【0119】
レーザー光源22からの光は、上記に説明した強度分布変換系23(図には単レンズで代表的に示しているが、多重反射板や複屈折性結晶等を含む光学系である。)を介して均一化された上で空間変調器24(例えば、GLV)に照射される。当該空間変調器による回折光は、レンズ25、シュリーレンフィルター26、レンズ27を経た後、投影レンズ系28を透過してガルバノミラー29に達し、さらにはスクリーン30へと到達する。尚、GLVやガルバノミラー等の駆動制御手段については図示及び説明を省略する。
【0120】
以上の説明では、各ビームについては偏光合波によるビームと考えたが、偏光合波されたビームに対して、多重反射板の全領域の各反射率がp偏光とs偏光に対して等しくなければ、等強度のビームを出射することができない。一般に入射角度が大きくなるとコーティングに要求される精度に関して偏光依存性が大きくなるので、多重反射板への入射角度をできるだけ小さくすることが望ましい。しかし、図9に示したグラフ曲線からも分かるように、入射角度(a)を小さくすると基盤の板厚(t)が厚くなる。従って、両者の妥協点を模索して、実用上支障を来さない範囲で、入射角度を設定する必要がある。他方、入射角度が小さくなれば、各領域(反射領域)の幅が狭くなることにも注意すべきである。現実的には、各領域の間には多少のマージンを見込む必要があるので入射角度をあまり小さくすることはできない。入射面と反射面との間隔を長くとるためには、平行平板の両面に反射コーティングを施す代わりに、各面について独立の基盤を用いることでそれぞれ別体の構成として作成するとともに、各部材の調整を行うという形態も考えられるが、精度出しのために調整を必要とすること及び部品点数が増えること等の事情を考慮すると、偏光合波はできる限り避けて、例えば、図7の紙面に垂直な方向に沿って同じ偏光状態のビームを多数並列に配置する方法が望ましい。
【0121】
また、小型化の観点からは、複屈折性結晶の両面にコーティングをそれぞれ施すような構成形態も挙げられるが、複屈折性結晶中の多重反射は複雑であって設計が困難であることや、結晶の耐湿性や耐温度特性等を考えた場合には、複数回のコーティングを行うことは困難であり、あまり実用的ではない。
【0122】
上記した実施例では、使用される全てのビームがほぼ点光源とみなせる固体レーザーの高調波(SHGによる第二高調波)であるため、充分なコリメーションが可能である。つまり、全てのビームを互いに平行な光とすることができる(平行度が高い)ので、GLVに係るシュリーレンフィルタリング後のコントラストにおいても良好な特性を得ることが可能になる。
【0123】
尚、複数のレーザーを用いる場合に、各レーザーの出力が大きく相違すると、全てのビームを合成した後で強度分布に不均一性が生じることになる。そこで、これに対する補正を行えるように、例えば、各レーザーについて出力の調整をそれ自身で電気的に行えるようにするか、あるいは各レーザーの外部に強度調整のための手段を設けること、例えば、外部にレーザーの透過光の強度を調整するための手段等を講じることが望ましい。このような外部に設けられる出力調整手段としては、例えば、レーザー光が直線偏光である場合に、2分の1波長板と偏光子とを組み合わせる形態等が挙げられる。
【0124】
以上の説明では、GLVのように1次元の空間変調器を想定して、線状領域に対して均一な照明を行う場合について述べてきたが、2次元の空間変調器等への照明を行う場合にも本発明を適用することができる。即ち、1次元照明用に設けられた多重反射板とは別に、もう一枚の多重反射板を使って、多重反射が図5や図7の紙面に垂直な方向においても行われるように構成すれば、2次元への拡張は容易である(面的な広がりをもってビームの重ね合わせを行える。)。勿論、このことは、方位を変えたサバール板をもう一枚用いて、2次元に拡張しても同じことである。
【0125】
しかして、上記した構成によれば、スペックルノイズや干渉ノイズが十分に抑圧された均一な照明を、2台以上のレーザーを用いて高い効率をもって実現することができる。しかも、構成が比較的簡単であるために、装置の小型化やコスト低減に好適である。例えば、上記した照明装置を画像表示装置に適用することで、色再現性に優れた高品位画像の表示が可能なレーザーディスプレイ等を実現できる。
【0126】
【発明の効果】
以上に記載したところから明らかなように、請求項1〜4に係る発明によれば、分割された等強度のビームに対して、複屈折を用いて各ビームを空間的にずらして、可干渉性をもたないビーム同士を重ね合わせることによって、均一性に優れた照明光を得ることができるので、高効率化やスペックルの低減等が可能になる。そして、非球面シリンドリカルレンズ等を必要としない比較的簡易な構成で済むため、小型化及び低コスト化に適している。
そして、ビーム群について空間的に規則的な配置をとることができ、また、中心位置のビームが、それと隣接関係にある別のビームと干渉しないように配列させることで、均一化及びスペックルコントラストの低減に有効である。特に、異なるレーザーからの光及び異なる偏光状態の光を用いることにより、各種のビーム配置を採ることができるので、設計上の自由度が高い。
【図面の簡単な説明】
【図1】図2とともに、ガウシアンビームを重ね合わせることで得られる強度分布についての説明図であり、本図は、ビーム半径に対して、2倍、1.5倍、1.4倍、1.3倍、1倍のビーム中心間隔をもつ場合について示す。
【図2】ビーム半径に対して、2倍から1倍まで0.2刻みでビーム中心間隔を変えていった場合について示す図である。
【図3】半導体レーザーアレイとマイクロレンズアレイを用いた構成についての説明図である。
【図4】図5とともに多重反射板と複屈折性結晶を用いた強度分布変換光学系の構成例を示すものであり、本図はビーム数が1つの場合を示す。
【図5】ビーム数が2つの場合について一例を示す図である。
【図6】サバール板を多段構成とした例を示す図である。
【図7】照明装置の構成例を示す図である。
【図8】図9、図10とともに多重反射板の設計例について説明するための図であり、本図は諸元について幾何光学的な関係を示す説明図である。
【図9】入射角度と基盤厚との関係を例示したグラフ図である。
【図10】多重反射板における各部の反射率について説明するための図である。
【図11】出射光の強度分布について説明するための図である。
【図12】画像表示装置の構成例を概略的に示す図である。
【図13】図14とともにシュリーレンフィルター光学系について説明するための図であり、本図は光学系を概略的に示す斜視図である。
【図14】光学系の要部を示す説明図である。
【図15】ビーム走査による均一化法について説明するための図である。
【図16】偏光による強度分割法について説明するための図である。
【図17】多重反射による強度分割法について説明するための図である。
【符号の説明】
1…半導体レーザーアレイ、2…マイクロレンズアレイ、3、9、12、14…複屈折性結晶、5、20…グレーティングライトバルブ、7…多重反射板、15…照明装置、21…画像表示装置、24…空間変調器
Claims (4)
- 複数のレーザーからの光線を、強度の等しい複数のビームに分割してから、複屈折を用いてビームを空間的にずらした上で重ね合わせるようにして均一化された強度分布が得られるようにした照明装置において、
複屈折後に得られる複数のビーム配置が空間的に周期性をもっており、コヒーレントな関係にある2つのビームの間に、インコヒーレントな関係をもつ複数のビームが配列されるとともに、あるビームを中心としてこれに隣接する1周期内のビームが当該中心のビームと干渉しない配置とされていることを特徴とする複数のビームを用いた照明装置。 - 請求項1に記載した複数のビームを用いた照明装置において、
1周期分を構成する複数のビームが、異なるレーザーからの光であってかつ異なる偏光状態とされることを特徴とする複数のビームを用いた照明装置。 - 複数のレーザーからの光線を、強度の等しい複数のビームに分割してから、複屈折を用いてビームを空間的にずらした上で重ね合わせるようにして均一化された強度分布が得られるようにした画像表示装置において、
複屈折後に得られる複数のビーム配置が空間的に周期性をもっており、コヒーレントな関係にある2つのビームの間に、インコヒーレントな関係をもつ複数のビームが配列されるとともに、あるビームを中心としてこれに隣接する1周期内のビームが当該中心のビームと干渉しない配置とされていることを特徴とする複数のビームを用いた画像表示装置。 - 請求項3に記載した複数のビームを用いた画像表示装置において、
1周期分を構成する複数のビームが、異なるレーザーからの光であってかつ異なる偏光状態とされることを特徴とする複数のビームを用いた画像表示装置。
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