JP3876458B2 - 深絞り加工性が優れたアルミニウム合金材の製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、自動車のボディシート、骨格材及びホイールや船舶、電気製品の外板等に適した、深絞り加工性に優れたMgを含むアルミニウム合金材の製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
アルミニウム合金材は鋼材と比べて軽量化が可能であり、しかもリサイクルし易いところから省エネルギー化や省資源化の要求に応えて、自動車のボディシート、骨格材、ホイールや船舶、電気製品の外板材などに鋼材に代わって使用され始めている。このような用途向けのアルミニウム合金として、従来より、Mgを含有する強度及び成形性の良好なアルミニウム合金が提案されている。
【0003】
しかしながら、これらMgを含む合金材は一般に鋼材に比較して深絞り加工性に劣るという問題があった。前記のような用途においては、例えば自動車部材のボディインナー材の成形加工に見るように、立体的な構造・形状とするため、張り出し加工のほか深絞り加工が多用されており、深絞り加工性の向上が求められている。深絞り加工性の指標として塑性ひずみ比r値による平均r値が広く用いられているが、従来のMg含有アルミニウム合金材は鋼材と比べ、この平均r値が低く、厳しい深絞り加工に対してはしばしば破断するケースがあり、高度の成形加工に耐えられなかった。このようなことから、これまでのアルミニウム合金材は、自動車部材などの成形材としての要求に十分応えることができず、平均r値を向上し、深絞り加工性を改善することが望まれていた。
【0004】
このような要求に応えるため、従来種々の提案がなされており、例えば、特開平4−301055号公報には、Mg:3.5〜6.5重量%のアルミニウム合金を圧延率50%以上で冷間圧延し、280〜440℃の温度で0.5〜12時間保持して中間焼鈍し、10〜50%の圧延率で冷間圧延し、最終熱処理を100℃/分以上の昇温速度で450〜560℃に加熱し、その温度範囲で10〜300秒間保持して溶体化処理し、然る後150℃以下の温度まで100℃/分以上の速度で冷却することによって伸びが28%以上、平均r値が0.7以上の深絞り加工性に優れた自動車部品用アルミニウム合金材を得る製造方法が開示されている。
【0005】
また、特開平4−9445号公報には、Mg:4〜6重量%、Zr:0.05〜0.2重量%のアルミニウム合金に均質化熱処理を施し、熱間圧延と冷間圧延を行った後、軟質化焼鈍を施し、次いで30%以上の圧延率で冷間圧延を行った後、450〜550℃の温度で高温短時間の焼鈍を施し、その後80〜1000℃/分の平均冷却速度で100℃以下の温度まで冷却することにより、200〜500オングストロームのZr系金属間化合物が0.5〜2.0%の体積率で含まれることを特徴とする、伸びが高い自動車部品用アルミニウム合金材を得る製造方法が開示されている。しかしながら、これらに提案されるアルミニウム合金によっても、平均r値はまだ低く、前記のような深絞り性の要求に十分応えることはできなかった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、平均r値が高く、深絞り加工性に優れたアルミニウム合金材の製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、その目的を達成するため、Mg:2〜6重量%、Zr:0.10〜0.3重量%含有し、さらに必要に応じてFe:0 . 5重量%以下,Cu:0 . 5重量%以下,Zn:0 . 5重量%以下,Ti:0 . 1重量%以下,B:0 . 05重量%以下及びBe:0 . 005重量%以下の内の一種又は二種以上を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金材を冷間圧延した後に焼鈍処理を施す工程において、最終焼鈍処理直前の冷間圧延率を60%以上とし、該最終焼鈍処理において、該冷間圧延材を60℃/時間以下の昇温速度で加熱して再結晶焼鈍させることにより、平均r値の高い、深絞り加工性の向上したアルミニウム合金材を製造する。
また、前記再結晶焼鈍温度を、330〜550℃として、適切に再結晶焼鈍を進行せしめる。
【0008】
【作用】
すなわち、本発明者らは、前記従来技術の欠点を解消するため種々検討した結果、Mgを特定量含有するアルミニウム合金に特定量のZrを含有せしめて、アルミニウム合金材の圧延組織を再結晶させるに際して、該合金材を強度に冷間圧延して圧延集合組織とし、再結晶温度に至るまでの昇温速度を可及的低速として再結晶させると、平均r値が高く、深絞り加工性の優れたアルミニウム合金材を得ることができることを見いだして、本発明を完成したものである。
【0009】
ここにいうr値は、ランクフォードの塑性ひずみ比r値であって、引張試験片の幅方向の真ひずみεW と厚さ方向の真ひずみεt との比、r=εW /εt によって定義され、深絞り性との関係から成形性の評価において極めて重要な特性値とされているが、圧延材を対象とすることから、異方性が著しい。このため、圧延方向のr値をr0 、圧延方向と45度及び直角方向のr値をそれぞれr45及びr90として、下記(1)式によりこれらを平均した平均r値を求めて成形性を評価することが一般的であり、以下本発明においてもJIS5号引張試験片を用いて測定した平均r値による。
平均r値=(r0 +r90+2r45)/4 (1)
このように平均r値は、深絞り性を評価するパラメータで、平均r値が高いほど材料の深絞り加工性が優れる。また、この値は材料の結晶方位と関係し、圧延集合組織を有するものは平均r値が高くなる。従って、平均r値を向上させるためには、圧延集合組織を強く発達させ、しかも再結晶焼鈍する時にその圧延集合組織をできるだけ残存させる必要がある。
【0010】
本発明者らは、強化元素のMgと共にZrを加えたアルミニウム合金を、強度の圧延により圧延集合組織を強く発達させて後、再結晶温度以上で焼鈍する際に、再結晶温度に至る昇温速度を一定範囲内に小さくすると、圧延集合組織の方位が保持されて、高い平均r値が得られることを突き止め、本発明を完成させたものである。これは、昇温速度を小さくして再結晶に至るまで時間をかけて緩やかに温度を上げることで、その間にAl3 Zr金属間化合物の析出反応が、再結晶の進行に先行して進み、Al3 Zr金属間化合物が転位及びセルの境界へ析出するために、再結晶の方位がこれによって規制され、圧延集合組織の方位が保持されるものと理解される。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明のアルミニウム合金材の具体的な成分及び製造工程によって本発明を説明する。
本発明のアルミニウム合金の化学成分は、Mg:2〜6重量%、Zr:0.10〜0.3重量%、残部Alからなり、その他、Mg、Zr以外の合金元素は、必要に応じて添加することができる。すなわち、更に高強度を必要とする場合は、Fe、Cu、Znの一種又は二種以上を各々最大0.5重量%程度添加する。鋳造する際の割れ防止のため、Tiを0.1重量%以下とBを0.05重量%以下添加することができる。合金溶湯の溶製に当たっては不純物元素はアルミニウムインゴット及び返り材からJIS規格程度含有されていてもよい。また、本発明によるMg:2〜6重量%を含有するアルミニウム合金溶湯を溶製するに当たってはMgの酸化防止のため0.005重量%以下のBeを添加することが望ましい。
【0012】
Mg及びZrの作用及び化学成分の限定理由は、次のとおりである。
Mgは、アルミニウム合金に強度を付与する元素である。2重量%未満であると十分な強度が得られず、一方6重量%を超えると熱間加工時に加工割れが発生するなど熱間圧延が困難となり、また応力腐食割れに敏感になるため、Mg含有量は2〜6重量%の範囲とする。
【0013】
Zrは、アルミニウム合金材の最終焼鈍中に、Al3 Zrとして微細な析出物を転位及びセル境界に析出し、転位及びセルの移動を妨げてその圧延方位を残存させ、平均r値を高める効果がある。そのZr量が0.10未満であるとその効果が小さく、高い平均r値が得られない。しかし、Zrが0.3重量%を超えると、鋳造する時巨大な晶出物を生成し、その延性が劣化する。従って、Zrの含有量は0.10〜0.30重量%に規制する必要がある。
【0014】
次に、本発明のアルミニウム合金材を得る製造法について説明する。
上記組成のAl−Mg合金材は、通常のDC鋳造、或いはベルトキャスター法、双ロール法や3C法などの連続鋳造法で製造することができ、これらの鋳造方法について特に限定されるものではない。鋳造後、必要に応じてソーキングを施し、熱間圧延を行い、その後冷間圧延を行う。冷間圧延の途中で、必要に応じて1回又は2回以上の中間焼鈍を行ってもよいが、最終焼鈍直前の冷間圧延率が60%以上とすることが必要である。
【0015】
最終焼鈍直前の冷間加工率が60%以上となると、圧延集合組織が強く発達し、次の再結晶焼鈍工程により、この圧延集合組織が残存して平均r値が高くなる。しかし、冷間加工率が60%未満では圧延集合組織の発達が不十分であるため再結晶焼鈍後の平均r値が低く、十分な深絞り加工性が得られない。従って、最終焼鈍直前の冷間圧延率を60%以上に規定する必要がある。
【0016】
最終焼鈍は、再結晶温度以上の温度で行うが、好ましい温度範囲は、330〜550℃である。330℃未満では、再結晶が進行し難く、550℃を超えると、局部的に溶融が起こる虞れがあり、好ましくない。
最終焼鈍の昇温速度は60℃/時間以下で、好ましくは20〜60℃/時間である。すなわち、60℃/時間以下とすることで微細なAl−Zr系金属間化合物(Al3 Zr)が転位及びセル境界に十分に析出し、再結晶温度において、圧延集合組織を残存させたまま再結晶させることができるため、平均r値の高いアルミニウム合金材を得ることができる。
60℃/時間を超える速度で昇温させると、Al3 Zrが転位及びセル境界での析出が不十分なまま、再結晶が進行するため圧延集合組織を十分に残存させることができず、平均r値が低くなる。しかし、昇温速度が20℃/時間以下になると、生産効率が低下して工業的に不経済であるから、20℃/時間以上とすることが好ましい。焼鈍後の冷却速度は特に限定する必要はない。最終焼鈍後、必要に応じて焼入れ歪みを解消するために矯正加工を施し、更に安定化処理を行う。
以上の工程により得られたアルミニウム合金板の平均r値は0.9以上となり、優れた深絞り加工性が得られる。
【0017】
実施例
本発明及び比較例のアルミニウム合金の化学成分を表1に示す。合金番号1〜5は、本発明の範囲にあるが、合金番号6の組成は、Zrを含有せず、本発明の範囲外である。
【0018】
本発明例及び比較例のアルミニウム合金材の製造条件を表2に示す。
【0019】
【0020】
本発明例は、アルミニウム合金溶湯を半連続鋳造(DC)で厚さ500mmの鋳塊を得て後、7mmの面削を施し、500℃で4時間保持してソーキングし、300〜500℃で熱間圧延後、所定の圧延率で冷間圧延し最終焼鈍したもの(製造番号:I 、II、III 、IV、 V )、及び連続鋳造(CC)後そのまま熱間圧延及び所定の圧延率で冷間圧延し、最終焼鈍したもの(製造番号:VI)であり、最終焼鈍は、48℃/時間と58℃/時間(製造番号:III )の昇温速度で480℃に加熱し、1時間保持後水冷した。
【0021】
比較例として、Zrを含有しないもの(製造番号:VII )、最終焼鈍時の冷延率が60%未満のもの(製造番号:VIII)及び最終焼鈍の昇温速度が速いもの(製造番号:IX、 X )がある。これらにおいて、鋳造法、面削及びソーキングの条件は本発明例と同じである。
【0022】
このようにして製造したアルミニウム合金材の機械的性質、平均r値を表3に示す。
表3において、本発明の化学成分、Zr含有量、冷間圧延率及び最終熱処理の昇温速度及び温度の要件を満たす試験符号A〜Fの例は、いずれも平均r値が0.9以上を示すことが判る。これに対して、比較例のこれらの要件のいずれかを外れるもの、すなわち、Zrを含まないもの(試験符号:G、合金番号:6)、最終焼鈍時の冷延率が23%であって60%未満のもの(試験符号:H、製造番号:VIII)、最終焼鈍時の昇温速度が100℃/時間(試験符号:I、製造番号: IX )及び昇温速度106 ℃/時間(試験符号:J、製造番号: X )のものは、平均r値が低く、本発明の目的とする深絞り加工性が得られないことが判る。
【0023】
【0024】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明によれば、平均r値が0.9以上で、深絞り加工性の優れたアルミニウム合金材を製造することができる。従って、自動車のボディシート、骨格部材及びホイールや船舶その他電気機器の外板に至る広い用途の構造材に適したアルミニウム合金圧延材を製造することができる。
Claims (5)
- Mg:2〜6重量%、Zr:0.10〜0.3重量%含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金材を冷間圧延した後に焼鈍処理を施す工程において、最終焼鈍処理直前の冷間圧延率を60%以上とし、該最終焼鈍処理において、該冷間圧延材を60℃/時間以下の昇温速度で加熱して再結晶焼鈍させることを特徴とする深絞り加工性の優れたアルミニウム合金材の製造方法。
- さらに、Fe:0 . 5重量%以下,Cu:0 . 5重量%以下及びZn:0 . 5重量%以下の一種又は二種以上を含有する請求項1に記載の深絞り加工性の優れたアルミニウム合金材の製造方法。
- さらに、Ti:0 . 1重量%以下及び/又はB:0 . 05重量%以下を含有する請求項1又は2に記載の深絞り加工性の優れたアルミニウム合金材の製造方法。
- さらに、Be:0 . 005重量%以下を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の深絞り加工性の優れたアルミニウム合金材の製造方法。
- 前記再結晶焼鈍温度が、330〜550℃であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の深絞り加工性の優れたアルミニウム合金材の製造方法。
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