JP3864698B2 - 連続鋳造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、連続鋳造を開始する際に、タンディッシュ内に受湯した取鍋からの初期の溶鋼の清浄度を向上させる連続鋳造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
鋼の連続鋳造では、取鍋内の溶鋼は、いったんタンディッシュに注入された後に浸漬ノズルを介して鋳型内に供給される。近年とくに鋼材の性能向上に対する要望が強まっており、次に述べるように鋼の清浄性を高めるためにタンディッシュ内で溶鋼中の酸化物などを除去するさまざまな方法が提案されている。
【0003】
特開平9−164455号公報には、タンディッシュの受湯部近傍の底部に設けた多孔質耐火物(ポーラスプラグ)製のガス吹き込み口から、溶鋼中に不活性ガスを吹き込む方法が提案されている。この方法は、溶鋼中のAlの酸化物などを不活性ガスの気泡に捕捉させて除去する方法である。
【0004】
この方法を用いることにより、鋳造中の定常状態の溶鋼の清浄度が向上することが期待される。しかし、連続鋳造を開始した直後の溶鋼の清浄度が良くない場合がある。その理由はつぎのとおりである。すなわち、受湯する前のタンディッシュ内には、タンディッシュを補修した際の耐火物などの屑が残存する場合があり、取鍋から最初にタンディッシュに供給された溶鋼中に、これら耐火物などの屑が混入する。また、取鍋底部に設けた溶鋼を供給するためのノズルの内部には、溶鋼の詰まりを防止するために、通常、珪砂などの詰め物が挿入されている。したがって、取鍋から最初にタンディッシュに供給された溶鋼中に、これら珪砂などの詰め物が混入する。単にタンディッシュの底部から溶鋼中に不活性ガスを短時間吹き込むだけでは、このように耐火物などの屑や珪砂などの詰め物が混入した溶鋼の清浄度を向上させることは困難である。
【0005】
特開平8−19836号公報には、取鍋からタンディッシュ内に溶鋼の供給を開始するに際し、取鍋からの溶鋼の供給速度を抑制しながら、タンディッシュに設けた誘導加熱装置を作動させて、タンディッシュ内の溶鋼を加熱する方法が提案されている。この方法では、取鍋からの初期の溶鋼の清浄度を向上させる一定の効果は期待できるものの、この公報にも記載されているように、取鍋からのごく初期の溶鋼の清浄度を安定して確実に向上させることは困難である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、連続鋳造を開始する際に、タンディッシュ内に受湯した取鍋からの初期の溶鋼の清浄度を、ごく初期の溶鋼の清浄度も含めて、安定して確実に向上させることができる連続鋳造方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨は、下記(1)に示す連続鋳造方法にある。
(1)溶鋼の加熱装置および底部にガス吹き込み口を有するタンディッシュを用いて、取鍋から受湯した溶鋼を鋳型内に給湯する連続鋳造方法において、下記内容の工程を有する連続鋳造方法。
▲1▼第1の工程;タンディッシュの底部に設けた鋳型内への溶鋼の給湯孔を閉じた状態で、取鍋からの溶鋼の受湯を開始し、タンデイッシュ内の溶鋼量が一定量になるまで工程。
【0008】
▲2▼第2の工程;タンディッシュ内の溶鋼量が一定量になった時点で、取鍋から溶鋼の受湯をいったん中断し、タンデイッシュ内に一定量の溶鋼を保持し、取鍋からの溶鋼の受湯を再開するまでの工程。
【0009】
少なくともこの第2の工程において、タンディッシュ内の溶鋼中にガス吹き込み口から不活性ガスを吹き込むとともに、溶鋼の加熱装置を作動させてタンディッシュ内の溶鋼を加熱する。
【0010】
▲3▼第3の工程;取鍋からの溶鋼の受湯を再開するとともに、給湯孔を開孔して鋳造を開始するまでの工程。
【0011】
上記(1)に記載の連続鋳造方法では、下記内容とするのが望ましい。
▲1▼第1の工程、第2の工程および第3の工程において、タンディッシュ内の溶鋼中にガス吹き込み口から不活性ガスを吹き込むとともに、溶鋼の加熱装置を作動させてタンディッシュ内の溶鋼を加熱する。
【0012】
上記(1)に記載の連続鋳造方法では、下記内容とするのが、より望ましい。
▲1▼第2の工程における取鍋からの溶鋼の受湯をいったん中断する時期が、タンディッシュ内の溶鋼量がタンディッシュ容量の70%以上になった時点であること。
【0013】
▲2▼タンディッシュ内の溶鋼中へ不活性ガスを吹き込む際のガスの吹き込み量が20〜50リットル(Normal)/分であること。
【0014】
▲3▼タンデイッシュ内の溶鋼を加熱する合計の加熱時間が5分間以上であること。
【0015】
従来から用いられているタンディッシュ底部に設けたガス吹き込み口から不活性ガスを吹き込むこと、および/または、タンディッシュに設けた溶鋼の加熱装置を作動させて溶鋼を加熱することは、とくに定常状態、すなわち鋳造速度などが一定となった後のタンディッシュ内の溶鋼の清浄度を向上させることに効果がある。しかし、取鍋からのごく初期の溶鋼を含めて、初期の溶鋼の清浄度を安定して確実に向上させることは困難である。
【0016】
つまり、取鍋から溶鋼を受湯しつつ、一方で鋳型内に溶鋼を給湯しながら、タンディッシュ内の溶鋼中に不活性ガスを吹き込み、タンディッシュに配置した溶鋼の加熱装置を作動させて溶鋼を加熱しても、取鍋からのごく初期の溶鋼の清浄化は困難である。このような状態では、取鍋から受湯した溶鋼は、直接、鋳型への給湯孔に向かって流れる。そのため、タンディッシュ内に受湯した取鍋内のごく初期の溶鋼中の酸化物などを十分に浮上させて、溶鋼系外に除去するだけの十分な時間が確保できない。
【0017】
取鍋から受湯するごく初期の溶鋼を含めて、取鍋からの初期の溶鋼の清浄度を安定して確実に向上させるには、取鍋から溶鋼の受湯を開始した後に、タンディッシュ内の溶鋼量が一定量になった時点で、取鍋からの溶鋼の受湯をいったん中断し、かつ、不活性ガスの吹き込みおよび溶鋼の加熱を行いつつ、タンデイッシュ内に一定量の溶鋼を保持し、タンディッシュ内に受湯した取鍋内のごく初期の溶鋼中の酸化物などを十分に浮上させて、溶鋼系外に除去するための十分な時間を確保するのが効果的であることがわかった。
【0018】
そこで、本発明の方法では、タンディッシュ内の溶鋼量が一定量になった時点で、取鍋から溶鋼の受湯をいったん中断し、タンデイッシュ内に一定量の溶鋼を保持し、取鍋からの溶鋼の受湯を再開するまでの工程を第2の工程とし、少なくともこの第2の工程において、タンディッシュ内の溶鋼中にガス吹き込み口から不活性ガスを吹き込むとともに、溶鋼の加熱装置を作動させてタンディッシュ内の溶鋼を加熱する。
【0019】
これらにより、取鍋からのごく初期の溶鋼を含めて、取鍋からの初期の溶鋼中の酸化物などを、安定して確実に浮上、除去できるので、溶鋼の清浄度を向上させることができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明の方法を、以下に具体的に説明する。
本発明の方法が対象とするタンディッシュの形状、容量などは、とくに限定するものではない。
図1は、本発明の方法が対象とするタンディッシュ形状の例を示す模式図である。その形状は、図1(a)に示すように、取鍋1から溶鋼5を受湯する部分と、受湯した溶鋼の鋳型4内への給湯孔3が1つの箱形容器に存在する、いわゆる通常の箱形の形状でもよい。また、その形状は、図1(b)に示すように、取鍋1からの溶鋼5を受湯する受湯部6と鋳型への給湯孔3を設けた給湯部7とが別の箱形の容器であり、それらを溶鋼の通流路8で連結する形状でも構わない。通常、その容量はおよそ20〜40t程度である。図中の符号2はタンデイッシュを、符号9は後述するガス吹き込み口を、符号10は後述する溶鋼の加熱装置を、符号11は気泡、符号12は凝固殻、符号13は取鍋の下ノズル、符号14は浸漬ノズルをそれぞれ示す。なお、ガス吹き込み口への配管などは図示していない。
【0021】
タンディッシュの底部に設けるガス吹き込み口は、多孔質耐火物でもよく、内径が1mm程度の鋼製の細管を複数本埋設した耐火物でもよい。これらガス吹き込み口の耐火物の1個の大きさおよび形状は、タンディッシュ底部への取り付け作業など、取り扱い易さの観点から、水平断面が50〜100mm程度の矩形がよく、またその水平断面積に相当する大きさで、水平断面が円形、多角形などの他の形状でもよい。
【0022】
ガス吹き込み口を取り付けるタンディッシュ底部の位置は、取鍋からの溶鋼の受湯部と鋳型への給湯孔との中間の位置から給湯孔にかけての範囲の底部の位置がよい。また、前述の通流路で連結したタンディッシュ形状の場合には、給湯孔を設ける給湯部の底部の位置がよい。溶鋼中の酸化物を、より効果的に浮上させることができるからである。さらに、ガス吹き込み口の位置を、鋳型への給湯孔近傍の周りとしてもよく、その際、ガス吹き込み口を、いわゆるリング状に給湯孔の周りに配置することができる。これらガス吹き込み口を配置する個数は、1個以上とすることができる。
【0023】
吹き込むガスは、Arなどの不活性ガス、または窒素ガスなどを用いるのがよい。
タンディッシュに設ける溶鋼の加熱装置の種類は、通常用いられている電磁誘導加熱装置でもよいし、プラズマトーチ加熱装置でもよい。また、その他の装置でも構わない。ただし、タンディッシュ内の20〜40t程度の溶鋼を、5〜10分間程度で迅速に加熱し、溶鋼の温度を定常状態の鋳造時に設定しているタンディッシュ内の溶鋼温度にまで加熱することができる加熱装置を用いるのが望ましい。この加熱による昇温は、取鍋の容量、タンディッシュの容量、取鍋から溶鋼を受湯する直前のタンディッシュの耐火物の温度などによって変わるが、およそ5〜35℃程度である。
【0024】
溶鋼の加熱装置を取り付けるタンディッシュの位置は、取鍋からの溶鋼の受湯部と鋳型への給湯孔との中間の位置から給湯孔にかけての範囲の位置がよい。また、前述の通流路で連結したタンディッシュ形状の場合で、溶鋼の加熱装置が電磁誘導加熱装置の場合には、通流路近傍の位置とすることができる。溶鋼の加熱装置が電磁誘導加熱装置の場合には、それら加熱装置を通流路、給湯部など外部に設け、溶鋼を加熱することができる。また、溶鋼の加熱装置がプラズマトーチ加熱装置の場合には、給湯部近傍の溶鋼の表面にトーチを設け、溶鋼を加熱することができる。
【0025】
これら溶鋼の加熱装置を配置する個数は、1個以上とすることができる。また、電磁誘導加熱装置とプラズマトーチ加熱装置とを併設しても構わない。前述の図1(a)中には、取鍋からの溶鋼の受湯部と鋳型への給湯孔との中間の位置より少し給湯孔側の位置に、電磁誘導加熱装置を設けた例を示す。前述の図1(b)中には、通流路および給湯部にそれぞれ電磁誘導加熱装置を設けた例を示す。
【0026】
本発明の方法は、溶鋼の加熱装置および溶鋼中へのガス吹き込み口を有するタンディッシュを用い、下記の第1〜第3の工程を有する方法である。
第1の工程は、タンディッシュの底部に設けた鋳型内への溶鋼の給湯孔を閉じた状態で、取鍋からの溶鋼の受湯を開始し、タンデイッシュ内の溶鋼量が一定量になるまで工程である。
【0027】
給湯孔は、通常、その下部に設ける浸漬ノズルを経て、溶鋼を鋳型内に供給する孔である。給湯孔を閉じた状態で、取鍋からの溶鋼を受湯するので、タンディッシュ内に受湯した溶鋼が、そのまま直接、給湯孔から鋳型内に流れ込むことを防止できる。
【0028】
第2の工程は、タンディッシュ内の溶鋼量が一定量になった時点で、取鍋から溶鋼の受湯をいったん中断し、タンデイッシュ内に一定量の溶鋼を保持し、取鍋からの溶鋼の受湯を再開するまでの工程である。
【0029】
少なくともこの第2の工程において、タンディッシュ内の溶鋼中にガス吹き込み口から不活性ガスを吹き込むとともに、溶鋼の加熱装置を作動させてタンディッシュ内の溶鋼を加熱する。
【0030】
ガス吹き込み口からタンディッシュ内の溶鋼中に不活性ガスを吹き込むとともに、溶鋼の加熱装置を作動させてタンディッシュ内の溶鋼を加熱する。取鍋からタンディッシュ内に受湯する初期の溶鋼の温度は、通常、定常状態の溶鋼の温度より低く、さらに、タンディッシュからの抜熱などにより、さらに溶鋼の温度は低下する。溶鋼を加熱する際、溶鋼の温度を定常状態の鋳造時に設定しているタンディッシュ内の溶鋼温度近傍まで加熱するのがよい。その際の加熱する温度は、取鍋およびタンディッシュの容量などの条件によって変わるが、およそ5〜35℃程度である。溶鋼の温度が低下すると溶鋼の粘度が上昇して、溶鋼中の酸化物などが浮上しにくくなる。したがって、溶鋼中に不活性ガスを吹き込むとともに、溶鋼を加熱することにより、溶鋼中の酸化物が浮上しやすくなるのである。溶鋼中を浮上してきた酸化物は、タンディッシュ内の溶鋼の表面に添加したフラックスなどによって捕捉され、溶鋼系外に除去される。
【0031】
不活性ガスの吹き込みおよび溶鋼の加熱を継続して行いつつ、一定量の溶鋼をタンデイッシュ内に保持することにより、溶鋼中の酸化物を効果的に浮上させることができる。タンディッシュ内に保持した溶鋼の表面に、溶鋼中を浮上してきた酸化物を捕捉するためのフラックスなどを添加するのが望ましい。
【0032】
第3の工程は、取鍋からの溶鋼の受湯を再開するとともに、給湯孔を開孔して鋳造を開始するまでの工程である。
【0033】
本発明の方法では、下記の内容とするのが望ましい。
すなわち、第1の工程、第2の工程および第3の工程において、タンディッシュ内の溶鋼中にガス吹き込み口から不活性ガスを吹き込むとともに、溶鋼の加熱装置を作動させてタンディッシュ内の溶鋼を加熱するのが望ましい。効果的にタンデイッシュ内の溶鋼中の酸化物を浮上させることができる。
【0034】
第1の工程において、溶鋼中に不活性ガスの吹き込みを開始する時期は、ガスが吹き抜けを起こさない程度にタンデイッシュ底部に溶鋼が溜まった時期からとするのがよい。そのときの溶鋼の深さは、不活性ガスの圧力などによって相違するので、予め試験により求めておくのがよい。
【0035】
また、第1の工程において、溶鋼の加熱を開始する時期は、用いる溶鋼の加熱装置を作動させて溶鋼を加熱できる程度に溶鋼の深さが達してからとするのがよい。予め試験により、加熱を開始する時期を求めておくのがよい。
【0036】
本発明の方法では、下記の内容とするのが、より望ましい。
すなわち、 第2の工程における取鍋からの溶鋼の受湯をいったん中断する時期が、タンディッシュ内の溶鋼量がタンディッシュ容量の70%以上になった時点であることが、より望ましい。
【0037】
タンディッシュ容量の70%未満で取鍋からの溶鋼の受湯をいったん中断すると、タンディッシュ内に保持する溶鋼量が少ないので、タンディッシュ内に残存した耐火物などの屑や取鍋底部のノズル内の珪砂などの詰め物などが溶鋼中に混入する割合が相対的に多くなる。したがって、溶鋼中の酸化物などが安定して浮上し、除去される効果が小さくなる。中断するのは、タンディッシュ容量の100%を受湯したときでもよい。
【0038】
また、タンディッシュ内の溶鋼中へ不活性ガスを吹き込む際のガスの吹き込み量が20〜50リットル(Normal)/分であることが、より望ましい。
【0039】
ガス吹き込み量が20リットル(Normal)/分未満では、酸化物を浮上させる効果が小さく、50リットル(Normal)/分を超えると、溶鋼の攪拌が著しく、溶鋼表面が波立ったりして、かえって、溶鋼の清浄度が悪化する。
【0040】
さらに、タンデイッシュ内の溶鋼を加熱する合計の加熱時間が5分間以上であることが、より望ましい。
【0041】
鋳造を開始するまでの溶鋼を加熱する合計の時間が5分間未満では、清浄度向上の効果が小さい。また、この合計の加熱時間は、20分間以下とするのが望ましい。20分間を超えると、その効果が飽和するとともに、タンデイッシュ耐火物の損耗が増加し、また鋼の生産性が悪くなる。
【0042】
第3の工程よりも後でも、鋳造が完了するまで、溶鋼中へ不活性ガスを吹き込むのが望ましい。また、第3の工程よりも後で、鋳造中にタンデイッシュ内の溶鋼の温度が定常状態の鋳造時に設定しているタンディッシュ内の溶鋼温度に達した場合には、その後のタンデイッシュ内の溶鋼の加熱を止めても構わない。その後に溶鋼の温度が低下すれば、溶鋼の加熱を再度行えばよい。
【0043】
本発明の方法は、通常の連々鋳の際、すなわちほぼ同じような化学組成の鋼を有する数個の取鍋内の溶鋼を、1つのタンディッシュを用いて連続して鋳造する際、最初の取鍋からタンディッシュ内に受湯する溶鋼の清浄化に適用することができる。
【0044】
また、本発明の方法は、化学組成の相違する溶鋼を1つのタンディッシュを用いて連続して鋳造する際、先に鋳造した溶鋼がタンディッシュを経てほぼ全て鋳型内に給湯されて、タンディッシュ内に残存しない状態で、後から鋳造する化学組成の相違する溶鋼を、タンディッシュに受湯して鋳造する場合にも、その溶鋼の清浄化に適用することができる。
【0045】
このとき、先に鋳造した溶鋼がタンディッシュ内からほぼ全て鋳型内に流れ出るとともに、できるだけ速やかに、後の鋳造する取鍋内の溶鋼をタンディッシュ内に給湯し,その後鋳片連結またはダミーバーの挿入をするのがよい。表面温度の高いタンディッシュが大気にさらされる時間が短く、極わずかにタンディッシュ表面に残存する溶鋼などが大気中の酸素で酸化されるのが抑制されるので、後から給湯した溶鋼の清浄化を効果的に行うことができる。
【0046】
【実施例】
以下の記載では、試験開始からの経過時間は、取鍋から溶鋼の受湯を開始する前に、タンディッシュ内の雰囲気をArガスで置換する操作を開始した時刻をスタートの零時刻とし、そこからの経過時間(分)を意味する。
(実施例1)
図1(a)に示すような通常の箱形で、容量が25tのタンディッシュを用い、C含有率が0.45質量%の炭素鋼を鋳造した。
【0047】
タンディッシュ底部の浸漬ノズルの上方に設けた給湯孔には、リング状にガス吹き込み口を配置した。
【0048】
受湯部と鋳型への給湯孔との中間の位置から給湯孔にかけての範囲内の位置に相当するタンディッシュの外部に誘導加熱方式の溶鋼の加熱装置を配置した。この溶鋼の加熱装置は、最大1600kwの出力を有し、出力が1000kw時に、タンディッシュ容量の25tの溶鋼を一定温度に保つことができる。
【0049】
実施例1の試験では、受湯を開始する前にタンディッシュ内の雰囲気をArガスで約3分間置換した。その後、第1の工程では、タンディッシュの底部に設けた鋳型内への溶鋼の給湯孔を閉じた状態で、取鍋からの溶鋼の受湯を開始し、ガス吹き込み口からタンディッシュ内の溶鋼中にArガスを40リットル(Normal)/分の吹き込み量で吹き込むとともに、試験開始からの経過時間約5分後、すなわち取鍋の溶鋼を受湯開始してから約2分後のタンディッシュ内溶鋼重量が10tになった時点で、溶鋼の加熱装置を作動させて溶鋼を加熱し、約10℃昇温してタンディッシュ内の溶鋼を定常状態でのタンデイッシュ内の溶鋼の目標温度である1520℃近傍まで加熱した。その際、溶鋼の加熱装置の作動条件は、1200kwの出力で一定とし、連続稼働とした。
【0050】
第2の工程では、試験開始からの経過時間5.5分後、すなわち取鍋の溶鋼を受湯開始してから約2.5分後のタンディッシュ内の溶鋼量が15tになった時点、すなわち、タンディッシュ容量の60%の溶鋼量になった時点で、取鍋からの溶鋼の受湯をいったん中断し、溶鋼を保持した。この第2の工程においても、第1の工程と同じく、不活性ガスの吹き込みおよび溶鋼の加熱を行った。
【0051】
第3の工程では、試験開始からの経過時間約14分後、すなわち取鍋の溶鋼を受湯開始してから約11分後に、取鍋からの溶鋼の受湯を再開するとともに、タンディッシュ底部に設ける給湯孔を開孔して鋳造を開始した。溶鋼中にArガスを吹き込み、溶鋼を加熱し始め、その後、取鍋からの溶鋼の受湯を中断してから、再度溶鋼の受湯を開始するまで、溶鋼の合計の加熱時間が約8.5分間であることを意味する。
【0052】
タンディッシュ内に溶鋼を保持している間、タンディッシュ内の溶鋼の重量をロードセル方式により常時測定した。また、タンディッシュ内の溶鋼量が15tに達した後、直径30mm、長さ100mmの容量の溶鋼試料をボンブ法により、タンディッシュ内の溶鋼から、時間の経過とともに採取し、得られたサンプルの全酸素量を分析し、全酸素量の推移を測定した。さらに、タンディッシュ上方から、時間の経過とともに、溶鋼中に通常の温度測定サンプラーを挿入して、溶鋼の温度を測定した。
【0053】
図2は、タンディッシュ内の溶鋼量の変化を時間経過とともに示す図である。図2における横軸の時間に関する零点は、タンディッシュ内の雰囲気をArガスで置換開始した時刻を示す。タンディッシュ内の雰囲気をArガスで置換開始した時刻からの経過時間で表現すれば、上述のとおり、タンディッシュ内の溶鋼量は、約3分後から増加し、約5.5分後に約15tの一定量とした。経過時間約14分後に、鋳造を開始するとともに、その後、タンディッシュ内の溶鋼量を漸増させた。
【0054】
図3は、タンディッシュ内の溶鋼温度の推移を示す図である。また、図4は、タンディッシュ内の溶鋼の全酸素量の推移を示す図である。図2、図3および図4における横軸の時間に関する零点は、タンディッシュ内の雰囲気をArガスで置換開始した時刻を示す。
【0055】
タンディッシュ内の溶鋼温度は、定常状態でのタンデイッシュ内の溶鋼の目標温度である1520℃に対して、取鍋から受湯した初期の溶鋼温度は約1510℃と低かった。溶鋼の加熱装置の作動後の約8分後、すなわち試験開始からの経過時間約13分後に溶鋼温度は、目標温度の約1520℃にまで上昇した。
【0056】
取鍋からタンディッシュ内に受湯した初期、すなわち試験開始からの経過時間約6分後の溶鋼の全酸素量約13ppmであり、試験開始からの経過時間約26分後の定常状態の全酸素量である約13ppmと同じ値で、取鍋から初期に受湯した溶鋼の清浄化を達成できた。経過時間約18分後の溶鋼の全酸素量も約12ppmであり、タンディッシュ内の溶鋼が、安定して確実に清浄化できたことがわかった。
(実施例2)
実施例1で用いたのと同じく、ガス吹き込み口および溶鋼の加熱装置を配置したタンディッシュを用い、C含有率が0.45質量%の鋼を鋳造した。
【0057】
取鍋内の溶鋼を最初にタンディッシュで受湯する際、下記に示す工程で受湯した。まず、受湯を開始する前にタンディッシュ内の雰囲気をArガスで約3分間置換した。
【0058】
第1の工程では、タンディッシュの底部に設けた鋳型内への溶鋼の給湯孔を閉じた状態で、取鍋からの溶鋼の受湯を開始し、ガス吹き込み口からタンデイッシュ内の溶鋼中にArガスを40リットル(Normal)/分の吹き込み量で吹き込むとともに、試験開始からの経過時間約5分後、すなわち取鍋の溶鋼を受湯開始してから約2分後のタンディッシュ内溶鋼重量が10tになった時点で、溶鋼の加熱装置を作動させて、その後にタンディッシュ内の溶鋼を定常状態でのタンデイッシュ内の溶鋼の目標温度である1520℃近傍まで加熱し、溶鋼温度を約10℃昇温させた。その際、溶鋼の加熱装置の作動条件は、1200kwの出力で一定とし、連続稼働とした。
【0059】
第2の工程では、試験開始からの経過時間約6分後、すなわち取鍋の溶鋼を受湯開始してから約3分後のタンディッシュ内の溶鋼量が20tになった時点、すなわち、タンディッシュ容量の80%の溶鋼量になった時点で、取鍋からの溶鋼の受湯をいったん中断し、溶鋼を保持した。この第2の工程においても、第1の工程と同じく、不活性ガスの吹き込みおよび溶鋼の加熱を行った。
【0060】
第3の工程では、試験開始からの経過時間約14分後、すなわち取鍋の溶鋼を受湯開始してから約11分後に、取鍋からの溶鋼の受湯を再開するとともに、タンディッシュ底部に設ける給湯孔を開孔して鋳造を開始した。溶鋼中にArガスを吹き込み、溶鋼を加熱し始め、その後、取鍋からの溶鋼の受湯を中断してから、再度溶鋼の受湯を開始するまで、溶鋼の合計の加熱時間が約8分間であることを意味する。
【0061】
タンディッシュ内の溶鋼の重量、タンディッシュ内の溶鋼の全酸素量、およびタンディッシュ内の溶鋼の温度の測定方法は、実施例1と同じとした。本発明の方法による実施例2におけるタンディッシュ内の溶鋼量の変化を図2に示す。また、タンディッシュ内の溶鋼の溶鋼温度および全酸素量の推移を、それぞれ図3および図4に示す。
【0062】
タンディッシュ内の溶鋼温度は、定常状態でのタンデイッシュ内の溶鋼の目標温度である1520℃に対して、取鍋から受湯した初期の溶鋼の温度は約1510℃と低かった。溶鋼の加熱装置の作動後の約8分後、すなわち試験開始からの経過時間約13分後に溶鋼温度は、目標温度の約1520℃にまで上昇した。
【0063】
取鍋からタンディッシュ内に受湯した初期、すなわち試験開始からの経過時間約6分後の溶鋼の全酸素量は約13ppmであり、試験開始からの経過時間約28分後の定常状態の全酸素量である約13ppmと同じ値で、取鍋から初期に受湯した溶鋼の清浄化を達成できた。さらに、経過時間約16分後の溶鋼の全酸素量は約12ppmであり、タンディッシュ内の溶鋼の保持量20tに対して、約8分間にわたって本発明の方法を適用することにより、溶鋼の保持量が15tの実施例1の試験よりもさらに効果的に、溶鋼の清浄化が達成できた。
(比較例)
実施例1で用いたのと同じガス吹き込み口および溶鋼の加熱装置を配置したタンディッシュを用い、C含有率が0.45質量%の鋼を鋳造した。
【0064】
比較例の試験では、取鍋内の溶鋼を最初にタンディッシュで受湯する際、下記に示す要領で受湯した。すなわち、タンディッシュの底部に設けた鋳型内への溶鋼の給湯孔を開口した状態で、取鍋からの溶鋼の受湯を開始した。これは、本発明の方法で規定する条件を外れていることを意味する。なお、受湯を開始する前にタンディッシュ内の雰囲気をArガスで約3分間置換した。
【0065】
タンディッシュ内の溶鋼中にArガスを40リットル(Normal)/分の吹き込み量で、ガス吹き込み口から吹き込むとともに、試験開始からの経過時間約6.5分後、すなわち取鍋の溶鋼を受湯開始してから約3.5分後のタンディッシュ内溶鋼重量が10tになった時点で、溶鋼の加熱装置を作動させて溶鋼を加熱し、その後、タンディッシュ内の溶鋼を定常状態でのタンデイッシュ内の溶鋼の目標温度である1520℃近傍まで加熱し、溶鋼温度を約10℃昇温させた。その際、溶鋼の加熱装置の作動条件は、1200kwの出力で一定とし、連続稼働とした。
【0066】
つぎに、試験開始からの経過時間約7.5分後のタンディッシュ内溶鋼重量が15tになった時点で、取鍋からの溶鋼の受湯する時間当たりの受湯量を減少させた。試験開始からの経過時間約11.5分後、すなわち、受湯量を減少させてから約4分後に、タンディッシュ内の溶鋼量は25tになるとともに、鋳型を振動させて鋳造を開始した。
【0067】
タンディッシュ内の溶鋼の重量、タンディッシュ内の溶鋼の全酸素量、およびタンディッシュ内の溶鋼温度の測定方法は、実施例1と同じとした。比較例3の試験でのタンディッシュ内の溶鋼量の変化を図2に示す。またタンディッシュ内の溶鋼の溶鋼温度および全酸素量の推移をそれぞれ図3および図4に示す。
【0068】
タンディッシュ内の溶鋼温度は、定常状態でのタンデイッシュ内の溶鋼の目標温度である1520℃に対して、取鍋から受湯した初期の溶鋼の温度は約1510℃と低かった。溶鋼の加熱装置の作動後の約5分後、すなわち試験開始からの経過時間約11分後に溶鋼温度は、目標温度の約1520℃にまで上昇した。
【0069】
取鍋からタンディッシュ内に受湯した初期の溶鋼の全酸素量は、試験開始からの経過時間約27分後の定常状態の全酸素量である約13ppmと比べて悪く、経過時間約13分後の溶鋼の全酸素量でも約14ppmであり、取鍋からの初期に受湯した溶鋼の清浄化は困難であった。
【0070】
【発明の効果】
本発明の方法の適用により、連続鋳造を開始する際の、最初に取鍋からタンディッシュ内に受湯した溶鋼の清浄度を安定して確実に向上させることができ、鋳造が定常状態となる部分の溶鋼の清浄度と同等の溶鋼の清浄度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の方法が対象とするタンディッシュ形状の例を示す模式図である。
【図2】タンディッシュ内の溶鋼量の変化を時間経過とともに示す図である。
【図3】タンディッシュ内の溶鋼温度の推移を示す図である。
【図4】タンディッシュ内の溶鋼の全酸素量の推移を示す図である。
【符号の説明】
1:取鍋 2:タンディッシュ
3:給湯孔 4:鋳型
5:溶鋼 6:受湯部
7:給湯部 8:通流路
9:ガス吹き込み口 10:溶鋼の加熱装置
11:気泡 12:凝固殻
Claims (3)
- 溶鋼の加熱装置および底部にガス吹き込み口を有するタンディッシュを用いて取鍋から受湯した溶鋼を鋳型内に給湯する連続鋳造方法において、タンディッシュの底部に設けた鋳型内への溶鋼の給湯孔を閉じた状態で、取鍋からの溶鋼の受湯を開始し、タンデイッシュ内の溶鋼量が一定量になるまでの第1の工程と、タンディッシュ内の溶鋼量が一定量になった時点で、取鍋から溶鋼の受湯をいったん中断し、タンデイッシュ内に一定量の溶鋼を保持し、取鍋からの溶鋼の受湯を再開するまでの第2の工程と、取鍋からの溶鋼の受湯を再開するとともに、上記給湯孔を開孔して鋳造を開始するまでの第3の工程とを有する連続鋳造方法であって、少なくとも第2の工程において、タンディッシュ内の溶鋼中に上記ガス吹き込み口から不活性ガスを吹き込むとともに、上記溶鋼の加熱装置を作動させてタンディッシュ内の溶鋼を加熱することを特徴とする連続鋳造方法。
- 第1の工程、第2の工程および第3の工程において、タンディッシュ内の溶鋼中に上記ガス吹き込み口から不活性ガスを吹き込むとともに、上記溶鋼の加熱装置を作動させてタンディッシュ内の溶鋼を加熱することを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造方法。
- 第2の工程における取鍋からの溶鋼の受湯をいったん中断する時期が、タンディッシュ内の溶鋼量がタンディッシュ容量の70%以上になった時点であり、タンディッシュ内の溶鋼中へ不活性ガスを吹き込む際のガスの吹き込み量が20〜50リットル(Normal)/分であり、タンデイッシュ内の溶鋼を加熱する合計の加熱時間が5分間以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の連続鋳造方法。
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