JP3862467B2 - フレームの変形制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車の車体フレーム等に生じる変形を調整するフレームの変形制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
Ti−Ni系合金やTi−Ni−Cu系合金といった熱弾性型マルテンサイト変態を生じる形状記憶合金(SMA)は、低温にて安定なマルテンサイト相(以下、M相と呼称する)と、高温にて安定なオーステナイト相(以下、A相と呼称する)との2つの相を有し、これら2つの相間での相変態を温度の変化により生じさせることができ、M相側で塑性変形を起こした合金を加熱することでA相に移行して形状が回復する形状記憶効果を有しており、この形状を回復させる際に大きな応力を発生することから、アクチュエータとして利用することができる。
【0003】
特に、この形状記憶合金によるアクチュエータは、小型で高出力が得られることから、自動車の車体等を構成するフレーム材の変形状態を調整する用途に適しており、形状に依存することなく所要の強度特性を得ることが可能となる。すなわち、フレーム材の変形を拘束する向き、あるいは助長する向きの荷重を発生するアクチュエータをフレーム材に配置して、外力に応答してアクチュエータを動作させて、フレーム材の変形を抑制したり、あるいはフレーム材を予め設定された形状へ誘導したりしてフレームの変形状態を制御することにより、形状によって定まる破壊特性や振動特性等の各種の強度特性を任意に変化させることが可能となる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかるに、熱弾性型マルテンサイト変態を用いた形状記憶合金における形状記憶効果を利用するには、M相からA相への相変態が終了するまで温度を上昇させる必要があり、アクチュエータを高速に動作させるには、相変態温度までの昇温に要するエネルギーを短時間で供給する必要がある。形状記憶合金材に対する加熱方法としては、熱接触法や電流通電法などが考えられるが、いずれも短時間にエネルギーを供給するには限界がある。他方、相変態温度までの温度変化量を小さく設定することで応答性を高めることが可能であるが、相変態温度は形状記憶合金材の組成に左右され、環境温度はアクチュエータの用途によりまちまちであるため、従来の手法では相変態温度までの温度変化量を小さくするのに制約が多く、応答性向上の要望を十分に満足することができないでいた。
【0005】
本発明は、このような従来技術の問題点を解消するべく案出されたものであり、その主な目的は、応答性を向上させることが可能なように構成されたフレームの変形制御装置を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
このような目的を果たすために、本発明においては、フレーム材の変形を拘束する向き、あるいは助長する向きの荷重を発生するアクチュエータをフレーム材に配置して、このフレーム材の変形の抑制、あるいは予め設定された形状への誘導がなされるように作動させるようにしたフレームの変形制御装置において、アクチュエータ(発明の実施の形態中の磁性SMAアクチュエータ1)が、フレーム材に入力される外力に応じて加熱手段(発明の実施の形態中の電熱体2)により熱を加えることにより相変態を生じて所要の荷重を発生し、且つ磁場形成手段(発明の実施の形態中のコイル3)により傾きのある磁場を形成することでマルテンサイト相に保持される磁性形状記憶合金からなり、予め動作方向の初期応力を負荷した状態でフレーム材に配置され、磁場形成手段が、アクチュエータの温度に応じて制御されるものとした。
【0007】
これによると、形状記憶合金内の応力の大きさにより相変態温度が変化することから、使用する形状記憶合金の特性に応じて応力の大きさを適切に定めることで相変態温度までの温度の変化量を小さくすることができ、これにより少ない入熱で相変態を起こすことが可能となり、発熱量が少なくて済むと共に応答速度の向上を図ることができる。なお、アクチュエータを構成する形状記憶合金は、相変態による動作方向に応じて予めM相側で塑性変形を生じさせておくものとし、例えば伸長方向の応力を発生させる場合には圧縮変形させておく。
【0008】
さらに、磁場が相変態を起こす臨界点の近傍にくるように温度に応じて磁場の傾きの大きさを調整して、温度の変化量が環境温度の変動にかかわらずに概ね一定に保たれるようにすることにより、相変態温度までの温度の変化量をより一層小さくして発熱量の低減並びに応答速度の向上を図ることができる上に温度変動に左右されない安定した応答性を得ることができる。なお、磁性形状記憶合金としては、Fe−Pd系合金を挙げることができる。また、前記アクチュエータの温度は、これを直接計測するものの他、フレーム材等のアクチュエータの近傍の部材の温度、あるいは雰囲気温度から推定するものであっても良い。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下に添付の図面を参照して本発明の構成を詳細に説明する。
【0010】
図1は、本発明によるフレーム変形制御装置の一例を示している。このフレーム変形制御装置は、磁性形状記憶合金からなる磁性SMAアクチュエータ1と、この磁性SMAアクチュエータ1を加熱する電熱体(加熱手段)2と、磁性SMAアクチュエータ1に対して傾きのある磁場を形成するコイル(磁場形成手段)3と、温度センサ4により測定された磁性SMAアクチュエータ1の温度に応じて、給電部5からコイル3に供給される駆動電流の大きさを、また外力検出センサ6からの信号に基づいて、給電部7から電熱体2に供給される駆動電流のオン・オフをそれぞれ制御するコントローラ8とからなっている。
【0011】
磁性SMAアクチュエータ1は、予め動作方向の初期応力を負荷した状態でフレーム材に配置される。この初期応力は、フレーム材への配置位置を、構造上、動作方向に応じた所要の応力が負荷される部位に設定することで得ることができる。また、応力負荷部材を別途設けることでも可能である。例えば図2に示す例では、応力負荷部材としての筒状の保持材8で形状記憶合金材9を外囲した態様で形成されており、形状記憶合金材9は、相変態による動作方向に応じて予めM相側で塑性変形を生じさせておいた上で、さらに荷重を加えて動作方向の初期応力が生じた状態で、この形状記憶合金材と弾性係数の大きく異なる材料にて形成された保持材8に固着される。
【0012】
例えば、伸長方向に動作する構成とした場合には、予めM相側で圧縮変形させておいた上で、形状記憶合金材9を圧縮状態で保持材8に固着してその変形を拘束し、図3(A)に示すように、形状記憶合金材9に伸長方向の応力を生じさせる。この初期状態にある磁性SMAアクチュエータ1に対して、図3(B)に示すように外力Fが作用すると、保持材8が座屈して形状記憶合金材9に対する拘束がなくなり、ここで、形状記憶合金材9を加熱すると、相変態温度に到達してA相に移行し、形状記憶合金材9に伸長方向の応力が生じて外力Fを受け止め、その外力Fが発生応力より小さいと磁性SMAアクチュエータ1は外力に抗して伸長動作する。
【0013】
特に、ここでは、予めコイル3により形成された磁場中におかれた磁性SMAアクチュエータ1に対して電熱体2により熱を加えて相変態を生起させ、これにより所要の荷重を発生させる。すなわち、図4に示すように、温度センサ4により磁性SMAアクチュエータ1の温度を測定し(STEP1)、この温度に基づいてコイル3への印加電流の大きさを決定し(STEP2)、磁性SMAアクチュエータ1に対して所要の強さの磁場が形成される(STEP3)。そして、外力検出センサ6からの信号に基づいて作動判定を行い(STEP4)、外力が入力したものと判定されると、電熱体2に電流を印加して(STEP5)、磁性SMAアクチュエータ1を加熱し(STEP6)、これにより相変態を生じて所要の応力が発生する(STEP7)。
【0014】
形状記憶合金においては、応力の大きさにより相変態温度が変化することから、使用する形状記憶合金の特性に応じて応力の大きさを適切に定めることで相変態温度までの温度の変化量を小さくすることができ、これにより少ない入熱で相変態を起こすことが可能となり、発熱量が少なくて済むと共に応答速度の向上を図ることができる。すなわち、図5に示すように、所定の温度T1の状態において、応力をσ1からσ2に低下させると相変態温度までの温度の変化量が小さくなり、応力をσ1からσ3に増大すると相変態温度までの温度の変化量が大きくなる。この場合、使用環境で想定される温度領域内に相変態温度が入らないように、すなわち環境温度の変動でA相に移行しないように温度の変化量を適切に設定する必要があり、この点に制約されるものの相変態温度までの温度の変化量を形状記憶合金の特性に左右されずに比較的自由に設定することができる。
【0015】
この使用環境での温度変動による制約条件は、前記のとおり、初期応力の付加に加えて磁性形状記憶合金に対して磁場を形成することで解決することができる。すなわち、磁性形状記憶合金においては、図6に示すように、傾きをもつ磁場を形成することでM相からA相へ移行する相変態温度を上昇させることができ、曲線Iで示すように、応力σ1の状態で磁場が相変態を起こす臨界点の近傍にくるように温度に応じて磁場の傾きの大きさを調整して、相変態温度までの温度の変化量を小さくすると共にこの温度の変化量が環境温度の変動にかかわらずに概ね一定に保たれるようにする。これにより、少ない入熱で相変態を起こすことができ、発熱量が少なくて済むと共に応答速度の向上を図ることができ、しかも環境温度の変動に左右されない安定した応答性を得ることができる。例えば温度がT1からT2に低下すると、磁場の傾きの大きさを小さくし、温度がT1からT3に上昇すると、磁場の傾きの大きさを大きくする。これにより点A、点B並びに点Cのいずれの状態でも、概ね同一の応答性を得ることができる。
【0016】
なお、磁場形成手段として前記のコイルに代えて永久磁石を用いる構成も可能である。この場合、磁性SMAアクチュエータに対する永久磁石の離間距離を調整することで磁場の傾きの大きさを制御すれば良い。また、前記の外力検出センサとしては、フレーム材自体あるいはこれに結合された他の部材に生じる歪みを検出する歪みセンサを挙げることができる。また、車体フレームにおいて衝突外力に対応するものとしては、衝突時に車体に発生する加速度を検出する加速度センサが望ましく、これによると、歪みセンサに比較して早期に外力の入力を検出して所要の制御を開始し得る。この他、部材の変形に伴う適所に定めた測点の変位を検出する変位センサも可能である。
【0017】
次に、磁性SMAアクチュエータのフレーム材への配置態様について説明する。まず、図7に示す例では、閉断面をなすフレーム21内に、磁性SMAアクチュエータ22とコイル23とが設けられている。磁性SMAアクチュエータ22は、対向する一対の壁21a・21bの内面にそれぞれ複数固着され、この両側の磁性SMAアクチュエータ群を同時に駆動するコイル23が、両側の磁性SMAアクチュエータ22に挟まれた態様でフレーム21の中心部に設けられている。磁性SMAアクチュエータ22は、その長手方向、すなわち動作方向がフレーム21の長手方向に沿うように配置され、コイル23は、その中心線が磁性SMAアクチュエータ22の長手方向に直交する向きに配置されている。なお、コイル23は、フレーム21から突出したリブやフレーム21に内挿されたブラケット等の適宜な支持手段で支持される。この構成では、フレーム21が強磁性体として働くことで磁性SMAアクチュエータ22の出力増加を図ることができる。
【0018】
図8に示す例では、角パイプ状のフレーム31の四隅に磁性SMAアクチュエータ32がそれぞれ設けられ、フレーム31内にコイル33が設けられている。磁性SMAアクチュエータ32は、フレーム31の外面のコーナ部分に固着され、その長手方向、すなわち動作方向がフレーム31の長手方向に沿うように配置されている。コイル33は、その中心線が磁性SMAアクチュエータ32の長手方向に沿う向きに配置されている。ここでは、大きな傾きのある磁場を形成するため、コイル33の軸線方向長さが磁性SMAアクチュエータ32よりも短くなるように設定されている。この構成においても、フレーム31が強磁性体として働き、磁性SMAアクチュエータ32の出力を増大させることができる。
【0019】
図9に示す例では、角パイプ状のフレーム41の一方の壁41aの一部を切り起こした態様で設けられた一対のブレス43間に磁性SMAアクチュエータ42が挟設され、フレーム41内にコイル44が設けられている。この構成では、図10に示すように、フレーム41の中心線から側面までの距離をB、ブレス長さ、すなわちフレーム41の中心線からブレス43の端縁までの距離をL、フレーム41のコーナの径をRとすると、図11に示すように、磁性SMAアクチュエータ42がフレーム41に作用し得る力が、ブレス長さLがB−Rを越える付近から急激に増大する。これにより、磁性SMAアクチュエータ42の出力をフレーム41に効率良く作用させるには、ブレス43がコーナにかかるように形成することが望ましく、さらにフレーム41の側方の壁41b側に回り込んで側方に張り出す形態としても良い。
【0020】
また、図12及び図13に示すように、フレームの一部をなす部材に、磁性SMAアクチュエータとその駆動に要する部品とが予め組み込まれたアクチュエータユニットをフレームに組み付けるようにしても良い。図12では、角パイプ状の一対のフレーム51・52間に、アクチュエータユニット53が介装されるようになっている。アクチュエータユニット53は、フレーム51・52と同様の口字形状断面をなす取付材54の内部に磁性SMAアクチュエータ55を組み込んでなっている。フレーム51・52並びに取付材54の各接合部分にはそれぞれ、外向きに突出した態様でフランジ56〜58が形成され、その所要の部位を接合することで一体化される。
【0021】
図13では、角パイプ状のフレーム61に形成された切り欠き部62にアクチュエータユニット63が埋め込まれるようになっている。アクチュエータユニット63は、コ字形状断面をなす取付材64の内側に磁性SMAアクチュエータ65を組み込んでなっている。フレーム61並びに取付材64の各接合部分にはそれぞれ、外向きに突出した態様でフランジ66・67が形成され、その所要の部位を接合することで一体化される。
【0022】
なお、前記図7、図8及び図9に示した例では、アクチュエータが配置されるフレーム材に閉断面形状をなすものを示したが、本発明は開断面形状のフレーム材にも同様に適用することができる。また、前記図7、図8、図9、図12及び図13に示した例は、適宜に組み合わせた構成としても良い。
【0023】
【発明の効果】
このように本発明によれば、使用する形状記憶合金の特性に応じて応力の大きさを適切に定めることで相変態温度までの温度の変化量を小さくすることができ、これにより少ない入熱で相変態を起こすことが可能となり、発熱量が少なくて済むと共に応答速度の向上を図ることができる。特に磁性形状記憶合金を用いて磁場の強さの傾きを温度に応じて制御するようにすると、相変態温度までの温度の変化量をより一層小さくして発熱量の低減並びに応答速度の向上を図ることができ、その上に温度変動に左右されない安定した応答性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明によるフレーム変形制御装置の例を示す概略構成図である。
【図2】本発明におけるアクチュエータの例を示す斜視図である。
【図3】A及びBからなり、外力が入力される前後の応力状態を示す断面図である。
【図4】図1に示した制御装置のフロー図である。
【図5】図1に示した制御装置における作動原理を説明するグラフである。
【図6】同じく図1に示した制御装置における作動原理を説明するグラフである。
【図7】本発明におけるアクチュエータのフレーム材への配置態様の例を示す斜視図である。
【図8】本発明におけるアクチュエータのフレーム材への配置態様の例を示す斜視図である。
【図9】本発明におけるアクチュエータのフレーム材への配置態様の例を示す斜視図である。
【図10】図9に示したフレーム変形制御装置の要部概念図である。
【図11】図10に基づいて求められたフレームへの作用力を示すグラフである。
【図12】本発明におけるアクチュエータのフレーム材への配置態様の例を示す斜視図である。
【図13】本発明におけるアクチュエータのフレーム材への配置態様の例を示す斜視図である。
【符号の説明】
1 アクチュエータ
2 電熱体(加熱手段)
3 コイル(磁場形成手段)
4 温度センサ
6 外力検出センサ
8 コントローラ
Claims (1)
- フレーム材の変形を拘束する向き、あるいは助長する向きの荷重を発生するアクチュエータを前記フレーム材に配置して、該フレーム材の変形の抑制、あるいは予め設定された形状への誘導がなされるように作動させるフレームの変形制御装置であって、
前記アクチュエータは、前記フレーム材に入力される外力に応じて加熱手段により熱を加えることにより相変態を生じて所要の荷重を発生し、且つ磁場形成手段により傾きのある磁場を形成することでマルテンサイト相に保持される磁性形状記憶合金からなり、予め動作方向の初期応力を負荷した状態で前記フレーム材に配置され、前記磁場形成手段が、前記アクチュエータの温度に応じて制御されることを特徴とするフレームの変形制御装置。
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