JP3854382B2 - ゲル状固体電解質形成用高分子マトリクス、固体電解質および電池 - Google Patents
ゲル状固体電解質形成用高分子マトリクス、固体電解質および電池 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、非水系電池、特にリチウムイオン電池、を形成するに適した高分子マトリクスを含んで形成されたゲル状固体電解質ならびに該固体電解質を含む非水系電池に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年電子技術の発展はめざましく、各種の機器が小型軽量化されてきている。この電子機器の小型軽量化と相まって、その電源となる電池の小型軽量化の要望も非常に大きくなってきている。少ない容積及び重量でより大きなエネルギーを得るためには電池一本当たりの電圧が高いことが必要となり、この見地から最近リチウムまたはリチウムイオンを吸蔵可能な炭素質材料を負極活物質とし、正極活物質として例えばリチウムコバルト酸化物を使用した電池が注目されている。
【0003】
しかしながら、水系の電解液を用いるとリチウムまたはリチウムイオンを吸蔵した炭素質材料やリチウムアルミニウム合金に接すると容易に分解されてしまうため、電解液としてはリチウム塩を有機溶媒に溶解した非水系の電解液が用いられている。この非水系電解液の電解質としては、LiPF6 、LiAsF6 、LiClO4 、LiBF4 、LiCH3 SO3 、LiCF3 SO3 、LiN(CF3 SO2 )2 、LiC(CF3 SO2 )3 、LiCl、LiBr等がある。また、電解質の有機溶媒としてはプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、などの高誘電率を有し電解質をよく溶解する溶媒と、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、などの低沸点溶媒との混合溶媒が主として用いられる。高誘電率を有する溶媒の沸点は一般に約200℃以上と高く、常温での蒸気圧も低いが、低粘度溶媒の方は一般に沸点は約100℃付近のものが多く、常温での蒸気圧も高い。
【0004】
一方このような有機電解液が注入された非水系二次電池が高温にさらされて内部の電解液の蒸気圧が非常に大きくなったり、また過充電されて電解液の分解ガスが発生したりすると、電池内部の圧力が増大し爆発するかも知れない危険な状態になることが予測される。そのため、現在市販されている非水系二次電池には高くなりすぎた圧力を、電池そのものが爆発する前に解放するために破裂板が装着されている。この破裂板が作動すれば着火しやすい有機電解液の蒸気が電池外部に漏れ出すことになる。このような漏液の他の原因としては、缶体とキャップ部のパッキンの経時変化による劣化や、電池が不用意な取り扱われ方をしておきるパッキン部の変形などが予想される。よって非水系電解質を用いた電池には、万一非水系電解液が電池外部に漏れるとその電解液の高い蒸気圧ゆえ容易に着火し火災を招く潜在的な危険性が存在する。
【0005】
これまでリチウムを用いた非水系二次電池は、主として携帯電話やパーソナルコンピュータ、ビデオカムコーダなどの家庭で用いられる小型電子機器の電源として用いられてきた。この間、通常の使用環境下では市場での火災の事故発生は皆無であり、二次電池の安全性についても一般の理解が得られてきた。そこで、これまでの安全性に関する実績をもとに、最近になって電気自動車用や、夜間電力を有効利用するためのロードレヴェリング用の大型電源としての開発が本格化してきている。電池が大型化すると、万一火災が生じたときの危険性は、小型電池の時とは比較にならない。そこでこのような大型の二次電池に対しては、従来以上にその安全対策は重要になってくる。
【0006】
本発明者らは、このような二次電池の安全性に関する問題が、有機溶媒、特に低温での蒸気圧の高い低粘度溶媒の使用に起因すること、また万一電池のパッキン部が不良になると有機電解液が容易に流れ出す構造であることに着目し、その改善を考えた。即ち、既に1970年代から開発されている高分子であるポリエチレンオキサイドと、高誘電率溶媒であるプロピレンカーボネートで構成された、ゲル状の物質中にLiClO4 やLiPF6 等のリチウムの電解質を分散させた高分子固体電解質が、大型電池の安全上必須であると判断した。しかしながらこれまで各種の高分子固体電解質の開発が伝えられ、実際それらを用いた一次電池も市販されているものの、二次電池として用いられて数百回を超えるサイクル特性が得られたものはない。その原因の一つは固体電解質に用いられる高分子マトリクス物質がリチウム金属やリチウムを吸蔵する負極との界面で還元されてしまい、リチウムイオンの伝導性の悪い不動態膜が生長してしまうためであると考えられる。また今一つの原因は、従来の有機溶媒を用いた電解液に比し、高分子固体電解質のリチウムイオンの伝導度が低いために電池の内部抵抗が高くなり、電極活物質の本来の容量を利用しようとすると過充電や過放電が生じ、電極活物質を短時間に劣化させるためであると考えられる。
【0007】
ところでフッ化ビニリデン重合体は、現在非水系電解液を用いた小型のリチウムイオン二次電池の電極活物質を結着するバインダーとして積極的に利用されている。それはテトラフルオロエチレン重合体がリチウムにより容易に還元されてしまうような負極電極上での還元性雰囲気でも、このフッ化ビニリデン重合体は全く還元されず、殆どの有機電解液が酸化されてしまうような正極上での酸化性雰囲気でも全く酸化されず、広い電位窓に亙って電気化学的に安定であるからである。
【0008】
またフッ化ビニリデンのモノマーは、二個の水素が電子のドナーとなり、二個のフッ素が電子のアクセプターとなるので、モノマー単位で高い分極を有しており、電解質などの極性を有する物質をよくその内部に溶解させる媒体となるからである。
【0009】
さらに特公昭54−044220号公報で明らかにされているように、ガラス転移点の低い高分子中では、有機色素分子のような巨大分子でも室温で高分子中を高速に伝播することが知られている。フッ化ビニリデン重合体は、そのガラス転移点が−45℃と低く、室温はガラス転移点から50℃以上も高いのでその非晶部の分子運動は十分に活発で、その内部に包含した電解質を高速に伝播させる能力があると考えられる。
【0010】
以上の理由で、活物質を包みながらも、活物質内部へのリチウムイオンの伝播を阻害しないと言う相矛盾する特性を備えなければならないバインダーとして、フッ化ビニリデン重合体が広く使用されているものと考えられる。
【0011】
そこで高分子固体電解質の基本的な骨格構造としてフッ化ビニリデン重合体を用いることが当然予測されるが、これについては既に1980年代初頭に、日本においてフッ化ビニリデン重合体を用いた高分子固体電解質が既に報告されている(Tsuchida,E.et al.Electrochimica Acta.28(5),591−595(1983))。
【0012】
しかしながらフッ化ビニリデン重合体は、約50%結晶化した結晶性高分子であり、結晶部の高分子の分子運動性は極端に悪いため、結晶部のイオン伝導性は非常に低いと思われる。そこで1990年代になると、米国特許第5296318号公報に開示されている如く、フッ化ビニリデンと6フッ化プロピレンとの結晶性を低下させた共重合体を用いた高分子固体電解質が報告されている。この特許公報に開示されている8wt%以上の6フッ化プロピレンを共重合したフッ化ビニリデン系共重合体は、6フッ化プロピレン中の3フッ化メチル基が立体障害となるため、その結晶化度が大変低い。よってフッ化ビニリデンの単独重合体を用いたものに比較し、高いイオン伝導性が得られているものと考えられる。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、このフッ化ビニリデンと6フッ化プロピレンとの共重合体を用いた高分子固体電解質にも大きな実用上の欠点があることが明らかとなってきた。即ち、この共重合体は、本質的に結晶化し難くゴム的な構造物となるため、有機溶媒と混合されたゲルとして用いられたとき、80℃以上の高温に曝されると容易に溶解してしまい、正極と負極との間の絶縁性を維持できなくなることである。
【0014】
本発明の主要な目的は、耐熱特性が良く且つイオン伝導性が高いゲル状固体電解質を、主として高分子マトリクスの改良により提供することにある。
【0015】
本発明の他の目的は、該ゲル状固体電解質を含む非水系電池を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明者らの研究によれば、上述の目的の達成のためには、3フッ化塩化エチレンをコモノマーとしたフッ化ビニリデン系共重合体の架橋物を高分子マトリクスとして用いることが極めて好ましいことが見出された。即ち、フッ化ビニリデン系共重合体からなるゲル状固体電解質のイオン伝導性を高め、且つ耐熱性を良好とするためには、フッ化ビニリデン系共重合体を架橋することが好ましいが、上述した3フッ化塩化エチレン−フッ化ビニリデン系共重合体は、このような架橋構造の導入に極めて適した特性を有し、且つ良好なイオン伝導性を有するゲル状固体電解質を与えることが見出された(後述実施例および比較例参照)。
【0017】
すなわち、本発明は、その第1の観点において、フッ化ビニリデン単量体を50〜97モル%含み、かつ3フッ化塩化エチレン単量体を0.1モル%以上含むフッ化ビニリデン系共重合体の架橋物からなる高分子マトリクスに非水系電解液を含浸して得られたゲル状固体電解質を提供するものである。
【0019】
更に、本発明は、リチウムを吸蔵放出する正極材料からなる正極と、同じくリチウムを吸蔵放出する負極材料からなる負極を備えた二次電池形成用の高分子固体電解質であって、正極または負極を構成する粉末電極材料を結着するバインダーとして上記のフッ化ビニリデン系共重合体を用いて電極構造体を形成し、その後該電極構造体を非水系電解液中に浸漬することにより、該フッ化ビニリデン系共重合体に非水系電解液を含浸することにより形成した粉末電極材料と一体の電極構造物として形成されたゲル状固体電解質を提供するものである。
【0020】
上記高分子固体電解質は、3フッ化塩化エチレン重合単位の導入の結果として、化学的にあるいは物理的に、架橋された状態で上記フッ化ビニリデン系共重合体を有することが好ましい。
【0021】
また本発明の非水系電池は、正極と負極との間に上記のいずれかのゲル状固体電解質を有することを特徴とするものである。
【0022】
より詳しくは、上記した高分子マトリクスに非水系電解液を含浸し、粉末電極材料を実質的に含まない高分子固体電解質層は、一対の正極と負極の間に配置された際に、電解液とセパレータの役割を兼ね備えたものとなる。
【0023】
また上記ゲル状固体電解質に正極または負極の粉末電極材料を分散含有させたゲル状固体電解質層は、それぞれ正極層または負極層を形成する。
【0024】
そして、それぞれ集電基体に接着された正極および負極層としてのゲル状固体電解質層間にセパレータとしての機能を有するゲル状固体電解質層を挾持させることにより本発明の非水系電池が形成される。正極層および負極層を構成するゲル状固体電解質層とセパレータの機能も有するゲル状固体電解質層は、いずれもゲル同士であるため、互いに良好な接着性を示し、簡単に剥離しない積層構造を与える。
【0026】
【発明の実施の形態】
本発明の固体電解質形成用フッ化ビニリデン系共重合体は、フッ化ビニリデン単量体を50モル%以上、97モル%以下含み、かつ3フッ化塩化エチレン単量体を0.1モル%以上、50モル%以下含むフッ化ビニリデン系共重合体である。
【0027】
フッ化ビニリデンの優れた耐酸化還元特性を保持するためには、フッ化ビニリデン−3フッ化塩化エチレン共重合体中に含まれるフッ化ビニリデン重合単位は多い程良く、少なくとも50モル%以上とする必要がある。また、得られた固体電解質のイオン伝導度を高くするためには、該共重合体中に含まれるフッ化ビニリデン単量体以外の単量体が多い程良く、フッ化ビニリデン単量体は最大でも97モル%以下とする必要がある。さらに3フッ化塩化エチレン単量体の含量は、必要な架橋促進効果を与えるために上記共重合体中に少なくとも0.1モル%以上含まれている必要がある。好ましくは1〜30モル%である。
【0028】
本発明のフッ化ビニリデン系共重合体は、所定の組成条件が満たされる範囲で、上記フッ化ビニリデンと、3フッ化塩化エチレンのみから構成することもできるが、必要に応じてモノフッ化エチレン、3フッ化エチレン、4フッ化エチレン、6フッ化プロピレン、パーフルオロメチルビニルエーテル等のフッ化ビニリデンとの共重合性の良い含フッ素単量体を含めた共重合体とすることもできる。モノフッ化エチレン、3フッ化エチレン、4フッ化エチレンは、フッ化ビニリデンの水素やフッ素を水素またはフッ素で置換したものであり、元々水素とフッ素の大きさがそれほど違わないので結晶化の阻害要因とは成りにくく、ゲル中に結晶部が一部残るため耐熱性を阻害しにくいと推定される。一方米国特許第5296318号明細書に開示された6フッ化プロピレンは、4フッ化エチレンの1個のフッ素をCF3 基に置換したものであるが、この置換されたCF3 基が大きすぎて、フッ化ビニリデンとの共重合体を形成したときに結晶化を阻害しやすいので、その共重合比はその他のモノマーよりも控えめにしなければならない。どの程度の共重合比にすればよいかの判定は、該共重合体を用いて得たゲル膜の示差熱分析を行い融点の存在の有無を調査すればよい。100℃以上に融点を有することが、電気自動車用などの高温での使用が予測される場合は、内部短絡を防止するため、好ましい。
【0029】
フッ化ビニリデンやモノフッ化エチレン、3フッ化エチレンがモノマー単位で極性を持つのに対し、3フッ化塩化エチレンや4フッ化エチレン、6フッ化プロピレン、パーフルオロメチルビニルエーテルはモノマーそのものに極性がない。従って極性を持たないモノマーの該共重合体中に占める割合が大きくなるとLiPF6 等の電解質をその内部に取り込みにくくなり、かつプロピレンカーボネート等の電解液とも相溶しにくくなり、ゲル状固体電解質形成用高分子マトリクスとしては好ましくない。従って極性を持たないモノマーの該共重合体中に占める割合は多くとも50モル%以下でなければならない。
【0030】
3フッ化エチレンや、3フッ化塩化エチレン、4フッ化エチレン、6フッ化プロピレンを共重合していくと、ガラス転移点が上昇する。これはこれらのモノマーが分子鎖全体に剛直性を与えるからである。水素とフッ素はその大きさがほとんど変わらないが、若干フッ素の方が大きい。この若干の差が分子鎖全体の剛直性に与える影響は意外に大きい。ポリエチレンとポリテトラフルオロエチレンの耐熱性の違いは、この水素とフッ素の若干の大きさの違いにある。従って、該共重合体中の分子鎖にポリテトラフルオロエチレン類似の部分が増えるに従い、ガラス転移点が上昇する。一方、パーフルオロメチルビニルエーテルを共重合すると側鎖としてエーテル部が激しく分子運動をするため、分子鎖全体のガラス転移点を下げる効果がある。よって各モノマーをどの程度共重合するとよいかは、得られた共重合体を用いたゲル膜のガラス転移点を実際に測定するのがよい。電池として使用するには低温での充放電を保証するためガラス転移点は−25℃以下であることが好ましい。
【0031】
耐熱性を良好とするために上記フッ化ビニリデン系共重合体は比較的高分子量であることが望ましく、より具体的には固有粘度(本願においては、樹脂4gを1リットルのN,N−ジメチルホルムアミドに溶解させた溶液の30℃における対数粘度、を意味する)が、0.5〜10.0、特に0.8〜7.0の範囲のものが好ましい。
【0032】
前記フッ化ビニリデン系共重合体は、単独もしくは他の高分子マトリクス形成用樹脂との混合物として使用することが可能であるが、少なくとも高分子マトリクスの50重量%以上を占めることが望ましい。他の樹脂の例としては、フッ化ビニリデン単独重合体や、フッ化ビニリデンと前記フッ化ビニリデン系共重合体中の単量体とは異なる単量体との共重合体、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレートなどの従来から高分子固体電解質として用いられている重合体やそのオリゴマー等が挙げられる。
【0033】
上記高分子マトリクスとともに本発明の固体電解質を形成する非水系電解液としては、例えばリチウム塩などの電解質を、非水系溶媒(有機溶媒)100重量部に対し、5〜30重量部の割合で溶解したものを用いることができる。
【0034】
ここで電解質としては、LiPF6 、LiAsF6 、LiClO4 、LiBF4 、LiCl、LiBr、LiCH3 SO3 、LiCF3 SO3 、LiN(CF3 OSO2 )2 、LiC(CF3 OSO2 )3 、LiN(CF3 SO2 )2 、LiC(CF3 SO2 )3 、等がある。また、電解質の有機溶媒としてはプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、及びこれらの混合溶媒などが用いられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0035】
本発明の非水系電池の基本構造は、図1に断面図を示すように、一般的にはシート状に形成された固体電解質1を、同様の固体電解質を含む一対の正極2(2a:集電基体、2a:正極合剤層)及び同様の固体電解質を含む負極3(3a:集電基体、3b:負極合剤層)間に挾持された形態で配置することにより得られる。
【0036】
すなわち、本発明の固体電解質は、電極活物質と非水系電解液を保持する正極合剤層2aおよび負極合剤層2bの構造体、さらにはその両極層間に挾持されるゲル層1を構成するために使用される。正極合剤層2bおよび負極合剤層3bは、例えば以下のようにして形成される。まず、上記フッ化ビニリデン系共重合体(あるいは他の樹脂との混合物)を有機溶媒、粉末電極材料とともに混合してスラリーとし、集電基体2aまたは3aに塗布する。次に、有機溶媒を乾燥・除去して得られた電極体を電解液に浸漬し、電解液を含浸させることにより正極2または負極3が得られる。ここで用いる有機溶媒とは、好ましくは極性のものであり、例えばN−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホアミド、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラメチルウレア、トリエチルホスフェート、トリメチルホスフェート、などが挙げられる。これら有機溶媒は単独でまたは二種以上混合して用いられ、これら有機溶媒100重量部当たり、上記共重合体を0.1〜30重量部、特に1〜25重量部、の割合で使用することが好ましい。電極構造体の電解液への含浸時間は数時間あれば十分であり、それ以上長くても効果は変わらない。
【0037】
正極2−負極3間に挾持されるゲル層1は上記フッ化ビニリデン系共重合体(あるいは他の樹脂との混合物)と、非水系電解液とから、例えば以下のようにして形成される。まず、前記のように電解質を有機溶媒に溶解して非水電解液を形成する。次にフッ化ビニリデン系樹脂を、揮発性の有機溶媒に溶解した溶液を調製し、別記非水電解液と均一に混合する。更に前記揮発性の有機溶媒を揮発させる工程を経てフィルム状の高分子固体電解質を得る。このとき用いる揮発性の有機溶媒としては、比較的低い温度で高い蒸気圧を有し揮発しやすく且つフッ化ビニリデン系共重合体をよく溶解するものが好ましい。テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、1,3−ジオキソラン、シクロヘキサノン、等が用いられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0038】
また、電解質を溶解する有機溶媒としてよく用いられるプロピレンカーボネートなどはそれ自身がフッ化ビニリデン系共重合体の溶媒として用いることが可能であるので、揮発性の有機溶媒を用いることなく高分子固体電解質を構成することが可能である。この場合は、予めフッ化ビニリデン系共重合体を有機溶媒で溶解した溶液の中に電解質を加えて更に溶解することも可能であるし、フッ化ビニリデン系共重合体と電解質を同時に有機溶媒で溶解することも可能である。フッ化ビニリデン系共重合体と電解質を溶解させた溶液を室温に冷やしてゲル化させフィルム状の高分子固体電解質からなる膜構造物1を得る。
【0039】
更に、フッ化ビニリデン系共重合体をフィルム化してから電解液を含浸して高分子固体電解質を得ることも可能である。少量生産のためのフィルム化する手段としては、先に示したテトラヒドロフランなどの有機溶媒で本フッ化ビニリデン系共重合体を溶解し、その溶液をガラス板などの上にキャストして溶媒を蒸発させる溶媒キャスト法が好適に利用される。また大量生産のためのフィルム化手段としては、インフレイション法やTダイ押し出し法、カレンダー法等の通常のフィルム化手段が好適に利用される。このフィルム化するときに架橋剤を同時に添加してフィルム化時に、放射線を照射したり加温したりして架橋反応を促進させることも好適に行える。尚、架橋後に電解液を含浸する方が、架橋時に電解液が無い分余計な副反応が抑えられ架橋効率は一般に増大する。
【0040】
リチウムイオン電池としての構成を例に取った場合、固体電解質ゲル層1は、厚さ0.002〜1.000mm、特に0.010〜0.200mm程度であることが好ましく、フッ化ビニリデン系共重合体100重量部に対して、10〜1000重量部、特に100〜500重量部の割合で非水電解液を含浸させたものが好ましく用いられる。
【0041】
また正極2および負極3は、鉄、ステンレス綱、銅、アルミニウム、ニッケル、チタン等の金属箔あるいは金属網等からなり、厚さが0.005〜100mm、小規模の場合には例えば0.005〜0.020mmとなるような集電基体2a、3aの例えば一面に、例えば厚さが0.010〜1.000mmの正極合剤層2b、負極合剤層3bを形成し、更に電解液を含浸することにより得られる。
【0042】
正極合剤層2bおよび負極合剤層3bは、上述したフッ化ビニリデン系共重合体と電解液を揮発性の有機溶媒に溶解した溶液、例えば100重量部に対し、粉末電極材料(正極または負極活物質及び必要に応じて加えられる導電助剤、その他の助剤)1〜20重量部を分散させて得られた電極合剤スラリーを塗布乾燥により得られる。
【0043】
リチウムイオン二次電池用の活物質としては、正極の場合は、一般式LiMY2 (Mは、Co、Ni、Fe、Mn、Cr、V等の遷移金属の少なくとも一種:YはO、S等のカルコゲン元素)で表わされる複合金属カルコゲン化合物、特にLiNix Co1-x O2 (0≦x≦1)をはじめとする複合金属酸化物やLiMn2 O4 などのスピネル構造をとる複合金属酸化物が好ましい。
【0044】
負極の活物質としては、黒鉛、活性炭、あるいはフェノール樹脂やピッチ等を焼成炭化したもの、さらには椰子殻活性炭等の炭素質物質に加えて、金属酸化物系のGeO、GeO2 、SnO、SnO2 、PbO、PbO2 、SiO、SiO2 等、或いはこれらの複合金属酸化物等が用いられる。
【0045】
さらに前述したように層1、2bおよび3bの高分子固体電解質を構成するフッ化ビニリデン系共重合体を、積極的に架橋することは、該共重合体の非水系電解液への溶解を抑制し、適度に膨潤した耐熱性の良好なゲル状態を維持するのに効果がある。その結果、電池としてより高温での使用が可能となり、電池の耐熱性を向上するのに役立つものである。この架橋法としてはポリアミン類や、ポリオール類や、不飽和結合を有する重合性架橋剤とラジカル発生剤を添加して行なう化学的手段と、電子線照射やガンマー線照射などの物理的手段とが好適に用いられる。本発明のフッ化ビニリデン−3フッ化塩化エチレン共重合体における、3フッ化モノ塩化エチレンの塩素の部分は、アミンなどのアルカリ物質により容易に脱塩素を起こすため、架橋の促進のために好適なサイトを与える。また、該化学的架橋法においてカーボンブラック、黒鉛、シリカゲル、フロリジル、等の粉体を添加することにより、架橋速度が極端に速められることが見出されている。このように架橋して得られたゲルは100℃の高温においても電解液に溶解することはない。
【0046】
なお、該共重合体の架橋は該共重合体の乾燥フィルムまたは電解液を含むフィルム、該共重合体の有機溶媒溶液、あるいは該共重合体と電極活物質を含む合材、のいずれの状態においても行なうことができる。
【0047】
また正極層2bおよび負極層3bの形成に際し、共重合体に電解液を含浸してゲル化する工程は、活物質と導電助剤を含む電極層を形成するとき同時に行ってもよいし、電極層を形成してから電解液を含浸してもよい。
【0048】
化学的架橋に用いられるポリアミン類としては、ジブチルアミン、ピペリジン、ジエチルシクロヘキシルアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンカルバメート、N,N′−ジシンナミリデン−1,6−ヘキサジアミン、4,4′−ビス(アミノシクロヘキシル)メタカルバメート、等が好適に用いられるが、これらに限定されるものではない。
【0049】
ポリオール類としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ヒドロキノン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルメタン、等が好適に用いられるが、これらに限定されるものではない。
【0050】
不飽和結合を有する重合性架橋剤としてはジビニルベンゼン、ジメタクリル酸エチレングリコール、ジメタクリル酸トリエチレングリコール、ジメタクリル酸テトラエチレングリコール、ジメタクリル酸1,3−ブチルグリコール、ジメタクリル酸プロピレングリコール、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、メタクリル酸アリル、アクリル酸アリル、2−ヒドロキシ1,3−ジメタクリロキシプロパン、ビスフェノール系ジメタクリレート、ビスフェノール系ジアクリレート、環状脂肪族ジアクリレート、ジアクリル化イソシアヌレート、トリメタクリル酸トリメチロールプロパン、トリアクリルホルマール、トリアクリルイソシアヌネート、トリアリルシアヌネート、脂肪族トリアクリレート、テトラメタクリル酸ペンタエリスリトール、テトラアクリル酸ペンタエリスリトール、脂肪族テトラアクリレート、等が好適に用いられるが、これらに限定されるものではない。
【0051】
ラジカル発生剤としては、各種の有機過酸化物が使用可能であり、ジ−t−ブチルパーオキシド等のジアルキルパーオキシド類、ベンゾイルパーオキシドなどのジアシルパーオキシド類、2,5−ジメチル−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン等のパーオキシケタール類、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート類、等が好適に用いられが、これらに限定されるものではない。
【0052】
また上記のポリアミン類や、ポリオール類や、不飽和結合を有する重合性架橋剤とラジカル発生剤に加えて加硫促進剤として、フッ化ビニリデンの脱フッ酸反応を促進するが、それ自身は付加しにくい性質の化合物が用いられる。加硫促進剤の例としてはR4 P+ X- 、R4 N+ X- で示される有機フォスフォニウム塩、第4級アンモニウム塩などが用いられる。
【0053】
本発明のゲル状固体電解質は、正極或いは負極の活物質のバインダーとしても用いられるが、この場合は電子伝導性をもたせるために導電助剤としてカーボンブラック、黒鉛微粉末あるいは繊維等の炭素質物質やニッケル、アルミニウム等の金属微粉末あるいは、繊維が添加される。この導電助剤を受酸剤(加硫反応時に発生するフッ酸などの酸性物質の受容体)として用いることも可能であり、黒鉛微粉末よりカーボンブラックの方がゲル化の進行が速い原因は、カーボンブラックが受酸剤として働いていると推定される。従来、受酸剤として用いられてきた酸化マグネシウム、酸化鉛、酸化カルシウム、酸化珪素、酸化錫、等は電池内部でリチウムイオンをトラップすることが考えられ、電池性能に悪影響を与える可能性があるので使用に適さない。カーボンブラックの添加量はフッ化ビニリデン系共重合体の0.1〜50重量%が適当である。
【0054】
前記ゲル状固体電解質を構成する高分子マトリクスを架橋するその他の方法としては、電子線やガンマー線を照射して架橋構造を導入する手段が好適に用いられる。このときの放射線量としては10〜500kGy程度が好適である。また、この放射線架橋の効果を増大するために、予め、ゲル状固体電解質を構成する高分子マトリクスの中に、先に挙げた不飽和結合を有する重合性架橋剤を添加することも好適に用いられる。
【0055】
上記のようにして得られた図1に示す構造の積層シート状電池体は、必要に応じて、捲回し、折り返し等により更に積層して、容積当たりの電極面積を増大させ、更には比較的簡単な容器に収容して取り出し電極を形成する等の処理により、例えば、角形、円筒型、コイン型、ペーパー型等の全体構造を有する非水系電池が形成される。
【0056】
【実施例】
以下、実施例および比較例により本発明を更に具体的に説明する。
【0057】
(実施例1)
(フッ化ビニリデン系共重合体の調製)
内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水1075g、メチルセルロース0.42g、酢酸エチル6.3g、ジノルマルプロピルパーオキシジカーボネート4.2g、フッ化ビニリデン378g及び3フッ化塩化エチレン4.2gを仕込み、重合開始させて2時間後から3フッ化塩化エチレン37.8gを2.1gずつ30分ごとに分割添加して、25℃で21時間懸濁重合を行った。重合完了後、重合体スラリーを脱水、水洗後、80℃で20時間乾燥して重合体粉末を得た。重合率は88重量%で、得られた重合体の固有粘度は1.01であった。
【0058】
(化学的手段による架橋)
このフッ化ビニリデン系共重合体10gをテトラヒドロフラン90gに溶解させ、そこに架橋剤としてヘキサイメチレンジアミン1.5g、加速剤としてジエチルアミン0.6gを添加し、第一の溶液を調製した。次にLiPF6 4.5gをプロピレンカーボネート30ml中に溶解させた第二の溶液を調製した。この第一の溶液と第二の溶液を室温で混合して1時間よく撹拌した後、ガラス板上にキャストし、テトラヒドロフランを揮発させるために50℃で12時間静置した。得られた厚さ約80μmのゲル状の固体電解質膜を秤量したところ使用したテトラヒドロフランに見合った重量減少が確認された。
【0059】
(実施例2)
(物理的手段による架橋)
実施例1で得たフッ化ビニリデン系共重合体10gをテトラヒドロフラン90gに溶解させ、そこに架橋剤としてトリアリルイソシアヌレート1.0gを添加し、第一の溶液を調製した。次にLiPF6 6gをプロピレンカーボネート30ml中に溶解させた第二の溶液を調製した。この第一の溶液をガラス板上にキャストし、テトラヒドロフランを揮発させるために室温で1時間静置した。得られた厚さ約30μmのキャスト膜を秤量したところ使用したテトラヒドロフランに見合った重量減少が確認された。このキャスト膜にガンマー線を150kGy照射して架橋を行わせた。次にこの架橋されたキャスト膜を第二の溶液に浸漬して80℃で2時間保持し電解液を含浸した厚さ約100μmのゲル状固体電解質膜を得た。
【0060】
(比較例1)(VDF−HFP系共重合体の調製)
内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水1176g、メチルセルロース0.3g、フッ化ビニリデン528g及び6フッ化プロピレン72gを仕込み、28℃で16.5時間懸濁重合を行った。重合完了後、重合体スラリーを脱水、水洗後、80℃で20時間乾燥して重合体粉末を得た。重合率は、80重量%で、得られた重合体の固有粘度は1.11であった。
【0061】
(高分子固体電解質膜の調製)
上記で得られたフッ化ビニリデン系共重合体15gをテトラヒドロフラン90gに溶解させ、第一の溶液を調製した。次にLiPF6 4.5gをプロピレンカーボネート30ml中に溶解させた第二の溶液を調製した。この第一の溶液と第二の溶液を混合してよく撹拌した後、ガラス板上にキャストし、テトラヒドロフランを揮発させるために室温で1時間静置した。なお、以上の作業は電解質が水分などにより分解することのないように露点が−70℃以下の窒素気流下で行った。得られた厚さ約80μmのゲル状の固体電解質膜を秤量したところ使用したテトラヒドロフランに見合った重量減少が確認された。
【0062】
(比較例2)(VDF−HFPの化学架橋)
比較例1で得たフッ化ビニリデン系共重合体15gを用いて、実施例1と同様にして化学架橋を行い、厚さ約80μmのゲル状の固体電解質膜が得られた。
【0063】
(比較例3)(VDF−HFPの物理架橋)
比較例1で得たフッ化ビニリデン系共重合体10gを用いて、実施例2と同様にして物理架橋を行い、厚さ約100μmのゲル状の固体電解質膜が得られた。
【0064】
(耐熱性テスト−1)
得られた各固体電解質膜を小型密閉容器中に取り100℃のオーブンに入れ、1時間加温した後に取り出し室温まで冷却し、その形状の変化を目視・観察した。結果を表1にまとめた。尚、Aは固体電解質膜の形状が全く変化しなかったことを表し、Bは膜周辺部が多少丸くなるものの溶融しなかったことを表し、Cは少なくとも膜の一部は溶融せず形状が残っていることを表し、Dは膜全体が溶融し形状が保持できなかったことを表す。
【0065】
【表1】
【0066】
以上のように本発明によるゲル状固体電解質膜の耐熱安定性は、従来のものより著しく向上し、100℃でも形状を維持しており、本発明から成るゲル状固体電解質を用いた電池は正極と負極が短絡するような危険が著しく少なくなる。
【0067】
(イオン伝導度の測定)
露点が−70℃の窒素気流下で前記の各ゲル状固体電解質膜をポンチで打ち抜き、円盤状のフィルムを得た。これを二枚のSUS電極ではさみ2016型(直径20mm×厚み1.6mm)のコイン型電池の中に収納した後、大気中に取り出した。このコイン型電池を用いていわゆるCole−Cole−Plot法により固体電解質の抵抗値を求めた。即ち、コイン型電池の両極に周波数0.5mHzから500kHzで出力電圧5mVの交流電圧を印加したときの電流を測定して、その複素インピーダンスを求めた。次に各周波数で得られた複素インピーダンスを複素平面上にプロットし、実軸との交点を求め、交点の示す値を固体電解質膜の抵抗値とした。この測定の原理はSUS電極がリチウムイオンと合金を作らず電荷移動反応を行わないので、複素インピーダンスの複素平面上の軌跡は実軸に垂直な半無限直線となるからである。得られた抵抗値を測定した固体電解質の厚みと面積で補正することにより、比抵抗値が得られ、その逆数を持ってイオン伝導度とした。この様にして室温25℃での各固体電解質膜のイオン伝導度を求めたところ下表2の結果が得られた。
【0068】
【表2】
【0069】
以上のように本発明による高分子固体電解質膜のイオン伝導度は従来のものと比較しても全く遜色ないことが明らかとなった。
【0070】
(実施例3)
(正極合剤層の作成)
実施例1で得たフッ化ビニリデン系共重合体10gと、LiCoO2 (日本化学工業製“C−5”)50gと、カーボンブラック(三菱化学製、導電助剤)5gをテトラヒドロフラン150gに溶解させ、第一の溶液を調製した。次にLiPF6 4.5gをプロピレンカーボネート30ml中に溶解させた第二の溶液を調製した。この第一の溶液と第二の溶液を室温で混合して1時間よく撹拌した後、ガラス板上にキャストし、テトラヒドロフランを揮発させるために50℃で12時間静置した。
【0071】
(実施例4)
(正極合剤層の作成−化学架橋)
実施例1で得たフッ化ビニリデン系共重合体10gと、LiCoO2 を50gと、カーボンブラック5gとをテトラヒドロフラン150gに溶解させ、そこに架橋剤としてヘキサメチレンジアミン1.5g、加速剤としてジエチルアミン0.6gを添加し、第一の溶液を調製した。次にLiPF6 4.5gをプロピレンカーボネート30ml中に溶解させた第二の溶液を調製した。この第一の溶液と第二の溶液を室温で混合して1時間よく撹拌した後、ガラス板上にキャストし、テトラヒドロフランを揮発させるために50℃で12時間静置した。実施例3に比較すると、加速剤が添加されたためか室温で撹拌中から粘度の上昇が見られ、ゲル化が急速に進行していることがうかがわれた。
【0072】
(実施例5)
(正極合剤層の作成−物理架橋)
実施例1で得たフッ化ビニリデン系共重合体10gと、LiCoO2 50gと、カーボンブラック5gとをテトラヒドロフラン150gに溶解ないし分散させ、そこに架橋剤としてトリアリルイソシアヌレート1.0gを添加し、第一の液(スラリー)を調製した。次にLiPF6 4.5gをプロピレンカーボネート30ml中に溶解させた第二の液(溶液)を調製した。この第一の液をガラス板上にキャストし、テトラヒドロフランを揮発させるために室温で1時間静置した。得られた正極合剤層を秤量したところ使用したテトラヒドロフランに見合った重量減少が確認された。このキャスト膜にガンマー線を150kGy照射して架橋を行わせた。つぎにこの架橋されたキャスト膜を第二の液に浸漬して80℃で2時間保持し電解液を含浸した正極合剤層を得た。
【0073】
(実施例6)
(負極合剤層の作成−化学架橋1)
実施例1で得たフッ化ビニリデン系共重合体10gと、ピッチを酸素架橋して焼成された難黒鉛化性炭素材(呉羽化学製“カーボトロンP”)50gとをテトラヒドロフラン150gに溶解させ、そこに架橋剤としてヘキサメチレンジアミン1.5g、加速剤としてジエチルアミン0.6gを添加し、第一の液を調製した。次にLiPF6 4.5gをプロピレンカーボネート30ml中に溶解させた第二の液を調製した。この第一の液と第二の液を室温で混合して1時間よく撹拌した後、ガラス板上にキャストし、テトラヒドロフランを揮発させるために50℃で12時間静置した。
【0074】
(実施例7)
(負極合剤層の作成−化学架橋2)
実施例1で得たフッ化ビニリデン系共重合体10gと、難黒鉛化性炭素材(“カーボトロンP”)50gと、カーボンブラック5gをテトラヒドロフラン150gに溶解ないし分散させ、そこに架橋剤としてヘキサメチレンジアミン1.5g、加速剤としてジエチルアミン0.6gを添加し、第一の液を調製した。次にLiPF6 4.5gをプロピレンカーボネート30ml中に溶解させた第二の液を調製した。この第一の液と第二の液を室温で混合して1時間よく撹拌した後、ガラス板上にキャストし、テトラヒドロフランを揮発させるために50℃で12時間静置した。実施例6に比較すると、室温で撹拌中から粘度の上昇が見られ、ゲル化が急速に進行していることがうかがわれた。これは、添加されたカーボンブラックが単に導電助剤としての役割の他に、ゲル化におけるネットワークの形成に何らかの役割を果たしたため、と推定される。
【0075】
(実施例8)
(負極合剤層の作成−物理架橋)
実施例1で得たフッ化ビニリデン系共重合体10gと、難黒鉛化性炭素材(“カーボトロンP”)50gと、カーボンブラック5gをテトラヒドロフラン150gに溶解させ、そこに架橋剤としてトリアリルイソシアヌレート1.0gを添加し、第一の液を調製した。次にLiPF6 4.5gをプロピレンカーボネート30ml中に溶解させた第二の液を調製した。この第一の溶液をガラス板上にキャストし、テトラヒドロフランを揮発させるために室温で1時間静置した。得られた負極合剤層を秤量したところ、使用したテトラヒドロフランに見合った重量減少が確認された。このキャスト膜にガンマー線を150kGy照射して架橋を行わせた。つぎにこの架橋されたキャスト膜を第二の液に浸漬して80℃で2時間保持し電解液を含浸した負極合剤層を得た。
【0076】
(比較例4)
(正極合剤層の作成)
比較例1で得たフッ化ビニリデン系共重合体10gと、LiCoO2 を50gと、カーボンブラック5gとをテトラヒドロフラン150gに溶解ないし分散させ、第一の液を調製した。次にLiPF6 4.5gをプロピレンカーボネート30ml中に溶解させた第二の液を調製した。この第一の液と第二の液を室温で混合して1時間よく撹拌した後、ガラス板上にキャストし、テトラヒドロフランを揮発させるために50℃で12時間静置した。
【0077】
(比較例5)
(正極合剤層の作成−化学架橋)
比較例1で得たフッ化ビニリデン系共重合体10gを用いる他は、実施例4と同様にして化学架橋された正極合剤層を調製した。
【0078】
(比較例6)
(正極合剤層の作成−物理架橋)
比較例1で得たフッ化ビニリデン系共重合体10gを用いる他は、実施例5と同様にして物理架橋された正極合剤層を調製した。
【0079】
(比較例7)
(負極合剤層の作成)
比較例1で得たフッ化ビニリデン系共重合体10gと、難黒鉛化性炭素材(“カーボトロンP”)50gと、カーボンブラック5gとをテトラヒドロフラン150gに溶解させて第一の液を調製した。次にLiPF6 4.5gをプロピレンカーボネート30ml中に溶解させた第二の液を調製した。この第一の液と第二の液を室温で混合して1時間よく撹拌した後、ガラス板上にキャストし、テトラヒドロフランを揮発させるために50℃で12時間静置した。
【0080】
(比較例8)
(負極合剤層の作成−化学架橋)
比較例1で得たフッ化ビニリデン系共重合体10gを用いる他は、実施例7と同様にして化学架橋された負極合剤層を調製した。
【0081】
(比較例9)
(負極合剤層の作成−物理架橋)
比較例1で得たフッ化ビニリデン系共重合体10gを用いる他は、実施例8と同様にして物理架橋された負極合剤層を調製した。
【0082】
(耐熱性テスト−2)
得られた正極及び負極合剤層を、LiPF6 4.5gをプロピレンカーボネート30ml中に溶解させた溶液中に浸漬したものを100℃のオーブンに入れ、1時間加温した後に取り出し室温まで冷却し、その形状の変化を記録した。結果を表1にまとめた。尚、Aは合剤層の形状が全く変化しなかったことを表し、Bは合剤層から多少活物質が脱落するものの溶融しなかったことを表し、Cは少なくとも合剤層の一部は溶融せず形状が残っていることを表し、Bは合剤層全体が溶融し形状が保持できなかったことを表す。
【0083】
【表3】
【0084】
以上のように本発明による合剤層の耐熱安定性は、従来のものより著しく向上し、100℃でも形状を維持していることが明らかとなった。特に実施例3のように架橋剤や加速剤を添加しなくても耐熱性が向上したのは、正極合剤の活物質そのものがアルカリ性であるため3フッ化モノ塩化エチレンが脱塩素反応して架橋が進行したものと考えられる。また実施例6に比し実施例7が優れた耐熱性が得られたのは、添加した導電助剤であるカーボンブラックがゲル化のためのネットワークの形成において何らかの役割、例えば受酸剤としての役割を果たしたためと考えられる。
【0085】
【発明の効果】
上記実施例、比較例の結果よりも明らかなように、本発明の3フッ化塩化エチレン−フッ化ビニリデン系共重合体を高分子マトリクスとして電解液を含浸させることにより形成したゲル状固体電解質膜は、従来のヘキサフルオロプロピレン−フッ化ビニリデン系共重合体を用いて得られたものに比べて、特別な架橋促進処理をせずともゲル状固体電解質製膜のための処理工程において架橋による耐熱性向上効果が見られ(実施例3/比較例4)、また架橋処理を加えた際にも架橋の進行が速やかでより耐熱性の良いゲル状固体電解質膜が得られている(実施例1〜2および4〜8/比較例2〜3および5〜9)、更に共重合体化によるイオン伝導性も良好である(表2実施例1〜2/比較例1〜2)。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明の非水系電池の基本的積層構造を示す厚さ方向断面図。
【符号の説明】
1 シート状固体電解質
2 正極
2a 導電性基体
2b 正極合剤層
3a 導電性基体
3b 負極合剤層
Claims (6)
- フッ化ビニリデン単量体を50〜97モル%含み、かつ3フッ化塩化エチレン単量体を0.1モル%以上含むフッ化ビニリデン系共重合体の架橋物からなる高分子マトリクスに非水系電解液を含浸して得られたゲル状固体電解質。
- フッ化ビニリデン系共重合体がポリアミン類、ポリオール類および、不飽和結合を有する重合性架橋剤から選ばれた架橋剤と、ラジカル発生剤との存在下に架橋されてなる請求項1のゲル状固体電解質。
- フッ化ビニリデン系共重合体が電子線またはガンマー線の照射により架橋されてなる請求項1のゲル状固体電解質。
- リチウムを吸蔵放出する正極材料からなる正極と、同じくリチウムを吸蔵放出する負極材料からなる負極との間に請求項1〜3のいずれかのゲル状固体電解質を有する非水系電池。
- 正極または負極が、正極または負極を構成する粉末電極材料を結着するバインダーとしてフッ化ビニリデン単量体を50〜97モル%含み、かつ3フッ化塩化エチレン単量体を0.1モル%以上含むフッ化ビニリデン系共重合体の架橋物を用いて電極構造体を形成し、その後該電極構造体を非水系電解液中に浸漬することにより、該フッ化ビニリデン系共重合体に非水系電解液を含浸することにより形成した、粉末電極材料と一体化したゲル状固体電解質からなる電極構造物である請求項4の非水系電池。
- 粉末電極材料がカーボンブラックからなる導電助剤を含む請求項5の非水系電池。
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