JP3852766B2 - カーボン膜中の状態分析方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はカーボン膜中の状態分析方法に関し、より詳細には、XPS法を用いて炭素原子の結合状態を定量的に評価可能な簡便かつ迅速なカーボン膜中の状態分析方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
炭素原子のみからなる炭素系の材料は炭素原子のみで構成されているにもかかわらず様々な種類の材料があり、具体的には、ダイヤモンド、グラファイト、アモルファスカーボン(a−C)、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、テトラヘドラルアモルファスカーボン(ta−C)、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノコイル、炭素繊維などがある。
【0003】
炭素系材料がこのように種々の構造を有するのは、結晶と非晶質という長周期性の違いに加え、炭素原子がsp混成状態(結合)炭素(sp−C)とsp混成状態(結合)炭素(sp−C)の結合状態をとり得ることによる。なお、正確にはsp混成状態(結合)炭素も存在するが、この結合は比較的不安定であり通常の物質中には含まれないので、実用上はsp結合炭素とsp結合炭素の2つの状態を考えれば充分である。
【0004】
ダイヤモンドはsp−Cからなる結晶であり、グラファイトはsp−Cからなる結晶である。グラファイトを構成するsp−Cは平面構造を有しC面でへき開性を示す結晶を形成する一方、ダイヤモンドを構成するsp−Cは3次元的な四面体構造を有し非常に強固な結晶を形成する。また、フラーレンやカーボンナノチューブはsp−Cからなる巨大分子とみなすことができる。
【0005】
アモルファスカーボンは非晶質の炭素であり、sp−Cとsp−Cとから構成され、sp−Cを多く含むほど四面体構造のネットワークが形成され易く硬くなるとされ、この硬さやsp−C組成比などによってDLCやta−Cなどと呼称される。特に、ta−Cはsp−Cが多く含まれており、非晶質状のダイヤモンドともいえる。このように、sp−Cとsp−Cとから構成される非晶質炭素においては、その特性はsp−Cとsp−Cの組成比に依存し、この組成比(すなわち炭素原子の結合状態)を評価することが重要な課題となっている(非特許文献1参照)。
【0006】
アモルファスカーボンは従来より、耐磨耗性や耐腐食性などの保護膜として使用されてきており、近年ではハードディスク装置の磁気記録媒体や磁気ヘッドの保護膜として10nm以下の厚みの膜が用いられているが、高記録密度化に伴ってさらに薄い膜であることが要求されるに至り、硬くて緻密な膜としてテトラヘドラルアモルファスカーボン(ta−C)膜が注目されている。
【0007】
ta−C膜は低エネルギーに加速された炭素イオンを用いて成膜され、その合成には真空アーク蒸着法が用いられる(特願2001−085784)。真空アーク蒸着法は、真空中においてアーク放電により蒸着原料を蒸発させて蒸着させる方法である。アーク放電は蒸着原料上の局所領域(カソードスポット)で発生するため、蒸着原料は溶解することがなく、アーク放電にともない蒸着原料が蒸発してその一部がプラズマ化する。この蒸着原料の蒸発に伴って微粒子が発生するために、形成した薄膜中には微粒子が混入し易い。このため、微粒子除去を目的として磁場によってプラズマのみを取り出す方法が考案されている。具体的には、湾曲させたソレノイドコイルによってプラズマは磁力線に沿って進み基板に到達する一方、微粒子や中性な蒸発物は直進するため基板に到達することができないという方法が採られる。
【0008】
ta−C膜としては、炭素イオンの加速エネルギーが100eV程度で最もsp−Cが多くなり、これ以上でも以下でもsp−Cは少なくなる。sp−Cとsp−Cの割合はta−C膜の特性にとって重要なパラメータとなっており、さらに、ta−C膜を磁気記録媒体や磁気ヘッドの保護膜へ応用することを考慮した場合には、極薄膜試料中でのsp−Cとsp−Cの評価も必要となる。
【0009】
【非特許文献1】
辻 博司、外4名、“低エネルギー炭素負イオンビーム蒸着膜の原子間結合状態のエネルギー依存性”、真空、Vol.42、No.3、p.221−224、1999年
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、炭素材料中のsp−Cとsp−Cの組成比は物性を決定する上での重要なパラメータあり、この決定には核磁気共鳴法(NuclearMagnetic Resonance(NMR))がよく用いられる。しかしながら、この手法による場合には100mg以上の検体試料が必要となるため、NMRで薄膜試料を測定することは困難であり、特に、ナノメートル程度の極薄膜については事実上不可能である。
【0011】
電子線エネルギー損失分光法(Electron Energy Loss Spectroscopy(EELS))は、ナノメートル程度の極薄膜の分析に適しているが、試料を薄膜化するなどの加工に時間を要することに加え、分析装置や手法も一般的には普及していない。また、炭素材料中のsp−Cとsp−Cの組成評価に必要なスペクトル解析手法が確立されているとはいい難く、定量性も充分ではないなどの問題がある。
【0012】
XPS法は、試料にX線を照射して光電効果によって試料表面から放出される電子のエネルギーを測定することにより、試料に含まれる原子の種類や化学結合状態を分析することができ、各原子や結合状態に対する光電子強度から定量的な評価が可能である。また、分析に必要な試料は、EELSのような薄膜化などの試料加工が不要であり、試料作製が容易である。さらに、NMRのように多量の試料は必要なく、ナノメートル程度の極薄膜に対する分析が可能である。
【0013】
炭素系材料に対するXPS分析では、一般に、カーボンのC1sピークを用いる。カーボンのC1sピークは、sp−Cやsp−Cなどの結合状態によって微妙に結合エネルギーが異なるために、この結合エネルギーの違いに対応した位置にそれぞれのピークが現れる。したがって、C1sピークを波形分離することによって、sp−Cとsp−Cの結合状態が評価できる。
【0014】
図1は、sp−Cからなる高圧合成ダイヤモンド(100)面のC1sスペクトルを実際に測定した例を説明するための図で、図中のSは実測により得られたスペクトルであって、そのピークが約285.3eVで半値幅が約0.8eVである。
【0015】
図2は、sp−Cからなる高配向性グラファイト(HOPG)のC1sスペクトルを実測した例を説明するための図で、図中のSが実測で得られたスペクトルである。このスペクトルのピークは約284.6eVで半値幅が約0.7eVである。sp−Cとsp−Cのピーク位置は1eV以下と小さく、半値幅と同程度であるために両者が混在した場合にピークは重なることになる。
【0016】
一般的に、結晶の完全性が低いほど半値幅は広がり、単結晶、多結晶、アモルファスの順に半値幅が広くなる傾向にある。
【0017】
例えば、図3は、多結晶質グラファイトのC1sスペクトルを説明するための図であり、図中のSが実測されたスペクトルで、多結晶グラファイトのC1sピークの半値幅は、図2で示した単結晶に近いHOPGのそれに比べて広くなっていることが分る。なお、アモルファスの場合はスペクトルの半値幅が結晶試料のスペクトルの半値幅より広くなるので、重なりがさらに大きくなる。
【0018】
図4はスパッタa−C膜に対するC1sスペクトル、図5および図6は各々基板バイアス−300V(図5)および基板バイアスなし(図6)の条件下でFCA法成膜したta−C膜に対するC1sスペクトルを説明するための図で、これらの図中のSが実測スペクトルである。これらの図から分るように、スパッタ法で成膜したa−C膜やFCA法で成膜したta−C膜のC1sスペクトルは一見単一のピークのように見えるが、実際にはsp−Cとsp−Cの2つの成分を含んでいることが知られている。このため、材料分析を行うに際しては、得られたC1sスペクトルをsp−Cとsp−Cの2つのピークに波形分離して解析する必要がある。
【0019】
XPS法で得られるスペクトルには、ピークの低結合エネルギー側に大きなバックグランドが現れる。これは主に、試料中で非弾性散乱された光電子によるものである。したがって、スペクトルの解析に際してはこのバックグランドを除去することが必要となるが、このバックグランドを正確に除去することは容易ではなく、その結果、波形分離においてもバックグランドの影響が現れる。
【0020】
炭素系材料のC1sピークを単純に波形分離した場合、2つのピークの結合エネルギー位置がお互いに近づく傾向があり、ときには同じ位置にピークが現れることがある。ピークの半値幅は炭素膜質に依存して変化するので、ピーク位置を固定して決定しない限り波形分離は困難である。
【0021】
しかし、XPS法による分析は測定時における試料の帯電の影響を受け易く、試料が帯電するとその電位の分だけ測定値として得られる結合エネルギーがシフトする。この影響を低減するために電子ビームやArなどのイオンビームを試料に照射しながら測定を行うが、完全には帯電の影響をなくすことができない。
【0022】
また、炭素系材料の電気抵抗率は種類によって大きく異なり、グラファイトのように約10−6Ωcmと金属的なものからダイヤモンドのように約1014Ωcmと絶縁体のものまで広範囲に渡っており、sp−C成分が多いほど抵抗率が高くなる傾向にある。
【0023】
以上のように、炭素膜の場合には使用した基板の種類によって帯電の影響が異なるなどのため、各試料についてC1sの2つのピークの測定値が一定の位置には現れない。このため、sp−Cとsp−Cのピーク位置をそれぞれダイヤモンドとグラファイトの位置に選ぶことができない。
【0024】
本発明は、かかる問題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、XPS法を用いて炭素原子の結合状態を定量的に評価可能な簡便かつ迅速なカーボン膜中の状態分析方法を提供することにある。
【0025】
【課題を解決するための手段】
本発明は、かかる目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、カーボン膜中の状態分析方法であって、XPS法により炭素系材料試料のC1sスペクトルを測定する第1のステップと、前記C1sスペクトルに対してバックグランド除去する第2のステップと、当該バックグランド除去して得られたスペクトルの2次微分を求めてその極小のうち高エネルギー側の極小をsp混成状態炭素のピークエネルギーと決定し、前記極小のうち低エネルギー側の極小をsp混成状態炭素のピークエネルギーと決定する第3のステップと、前記sp 混成状態炭素のピーク形状をグラファイト形状とし、前記sp 混成状態炭素のピーク形状をGauss−Lorentz分布を有する形状として、前記C1sスペクトルを、前記sp混成状態炭素と前記sp混成状態炭素のピークエネルギーを有する2つのピークに波形分離する第4のステップと、当該波形分離された2つのピークの高さと半値幅を前記C1sスペクトルにフィッティングする第5のステップと、当該フィッティングして得られた前記2つのピークの面積比を求めてsp混成状態炭素とsp混成状態炭素の組成比を算出する第6のステップと、を備えていることを特徴とする。
【0027】
また、請求項に記載の発明は、請求項1に記載のカーボン膜中の状態分析方法において、前記第1のステップのC1sスペクトルは、前記炭素系材料試料の表面にイオンビーム照射することなく得られたものであることを特徴とする。
【0028】
また、請求項に記載の発明は、請求項1または2に記載のカーボン膜中の状態分析方法において、前記炭素系材料試料が、膜厚10nm以下の極薄膜であることを特徴とする。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下に図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0030】
上述したように、XPS法は、EELSなどに比べて試料作製が簡便かつ容易であり、NMRなどに比べてナノメートル程度の極薄膜の分析も可能である。また、炭素系材料においては、試料表面にArなどのイオンビームを照射すると低エネルギー側のピークが大きくなるが低エネルギー側のピークのみのグラファイトについては変化はない。これは照射イオンによるダメージで表面の炭素がsp−C結合状態からsp−C結合状態に変化するためと考えられる。
【0031】
本発明のカーボン膜中の状態分析方法では、XPSのC1sスペクトルをsp−Cとsp−Cの2つのピークに波形分離し、これらのピーク面積を解析することで炭素系材料中の炭素原子の結合状態を評価する。また、XPSスペクトル測定前および測定中において試料表面に対してArなどのイオンビームを照射することをせず、試料表面にダメージを与えない状態で得られたC1sスペクトルを解析することでより正確な状態分析が可能となる。
【0032】
この波形分離の方法では、C1sスペクトルの2次微分の極小をsp−C(高エネルギー側)とsp−C(低エネルギー側)のピークエネルギー位置とする。好ましくは、いずれの炭素材料においてもsp−Cのピーク形状はグラファイトのsp−Cのピーク形状と同じであると仮定する一方、sp−Cのピーク形状はGauss−Lorentz分布と仮定する。そして、これらの両ピークの高さと半値幅をパラメータとしてC1sスペクトルにフィッティングさせることでスペクトルを2つのピークに波形分離する。
【0033】
図7は、本発明のカーボン膜中の状態分析方法の手順を説明するためのフローチャートである。まず、スペクトルのバックグランドを除去し(S101)、得られたスペクトルの2次微分を求めて、その極小をsp−C(高エネルギー側)とsp−C(高エネルギー側)のピークネルギーと決定する(S102)。次に、sp−Cのピークとsp−Cのピークに波形分離する(S103)。なお、この図では、この波形分離に際して、sp−Cのピーク形状をグラファイト形状とし、sp−Cのピーク形状をGauss−Lorentz分布を有する形状とする例を示している。このようにして波形分離した2つのピークの高さと半値幅をパラメータとしてC1sスペクトルにフィッティングし(S104)、最後に、得られた2つのピークの面積比からsp−Cとsp−Cの組成比を算出する(S105)。
【0034】
上述した本発明のカーボン膜中の状態分析方法によれば、C1sスペクトルの2次微分の極小からピークエネルギー位置を求めているので、緩やかに変化するバックグランドの除去による影響が少なく、測定時の帯電の影響を受けないで2つのピーク位置を決めることができる。また、波形分離した結果も、図1〜6に示すように波形分離前の実測スペクトル(S)とよく一致していることがわかる。さらに、低エネルギー側のピークをグラファイトと同じ非対称形状とすることによって、グラファイトからダイヤモンドまで統一的に波形分離が可能となる。
【0035】
なお、スペクトルの2次微分の極小から求めたピーク位置については、高さの低いピーク位置が真の値より他方のピーク位置に近づく傾向がある。この傾向は、ピーク高さが低いほど、また、半値幅が広いほど大きい。上記のようにして求めたsp−Cとsp−Cの比は正確性には欠けるが、相対的な比較は可能である。
【0036】
(実施例)
本実施例で使用した試料は、ダイヤモンド、高配向性グラファイト、多結晶質グラファイト、アモルファスカーボン膜、および、テトラヘドラルアモルファスカーボン膜である。ダイヤモンドは(100)面を有する高圧合成ダイヤモンドであり、高配向性グラファイトの表面は(0001)面である。アモルファスカーボン膜はスパッタ法で形成した膜(スパッタa−C膜)を使用し、ta−C膜はFCA法によって作製したものである。それらの主な作製条件を以下に示す。(1)スパッタa‐C膜
・成膜方法:DCマグネトロンスパッタ法
・ターゲット:カーボン(5N)
・Arガス:流量5sccm、圧カ0.7Pa
・放電出力:300W、200W
・基板:Si(基板加熱なし)
・膜厚120nm
(2)ta−C膜
・成膜方法:Filtered Cathodic Arc法
・ターゲット:カーボン(5N)
・Arc放電:電流120A、電圧〜25V
・Filter磁石:〜13mT(電流10A)
・基板:Si(基板加熱なし)
・基板バイアス:0V、−300V
・膜厚:100nm
【0037】
また、主なXPS測定条件は、X線源がAl−Kα(1486.6eV)で約25Wとし、検出器は角度45°に設置し、エネルギー間隔を0.05eVとした。また、分析領域は100μmとし、帯電防止としては電子ビームのみを用いた。測定試料は薄膜化などの特別な処理は行わずに基板ホルダーに載せて分析を行った。
【0038】
図1〜6は、このようにして得られたC1sスペクトル(S)と、これらのスペクトルに波形分離を施した結果を説明するための図である。以下に、各試料毎のスペクトル解析結果について説明する。
【0039】
(1)ダイヤモンド(図1)
図1中のSは、ダイヤモンドの(100)結晶面から得られたC1sスペクトルを示しており、このスペクトルは、対称形状のピークで、そのピーク位置は約285.30eV、半値幅(FWHM)は0.84eVである。
【0040】
低エネルギー側にあるショルダーピーク(P1)は、Arイオンビームを照射して表面にダメージを加えると大きくなることから、ダイヤモンド表面のグラファイト化に伴うものと考えられる。また、波形分離の結果得られたピーク(P2)がC1sピークを再現していることからも、このショルダーがsp−Cによるものと解釈できる。
【0041】
(2)高配向性グラファイト(図2)
図2中のSは、高配向性グラファイトの(0001)結晶面から得られたC1sスペクトルを示しており、このスペクトルは非対称形状を有しており、ピーク位置は約284.62eVである。
【0042】
パラメータを、FWHM=0.65eV、Gauss=84%、Tail length=13.28、Tail scale=0.54としてフィッティングして得られるピーク(P1)は測定データを非常によく再現している。したがって、低エネルギー側の非対称なピークについてはこの形状を用いた。
【0043】
(3)多結晶質グラファイト(図3)
図3中のSは、多結晶質グラファイトから得られたC1sスペクトルを示しており、このスペクトルは非対称形状のピークであり、ピーク位置は約284.60eV、FWHMは0.72eVである。なお、結晶構造がグラファイトであることから、sp−Cによる高エネルギー側のピークは確認されない。
【0044】
多結晶質グラファイトは図2に示した高配向性グラファイトとほぼ同じ形状のスペクトルを示すが、半値幅は若干大きくなっている。
【0045】
(4)スパッタa−C膜(図4)
図4中のSは、スパッタa−C膜から得られたC1sスペクトルを示しており、この図に示すように、波形分離して求めたピーク(P1とP2)の合成スペクトルはC1sスペクトルを再現している。なお、高エネルギー側のピーク(P2)と低エネルギー側のピーク(P1)は各々285.60eVと284.65eVであり、高エネルギー側のピークの面積強度比は約11%である。
【0046】
(5)ta−C膜(図5、図6)
図5および図6中のSは各々、基板バイアス−300Vおよび基板バイアスなしで成膜したta−C膜から得られたC1sスペクトルを示しており、これらの図から分るように、波形分離で求めたピーク(P1とP2)の合成スペクトルはいずれのC1sスペクトルをも再現している。
【0047】
図6に示した基板バイアスなしで成膜したta−C膜のスペクトルは、高エネルギー側のピーク(P2)と低エネルギー側のピーク(P1)は各々285.45eVと284.50eVであり、高エネルギー側ピークの面積強度比は約78%であり、sp−Cが主成分のta−C膜であることがわかる。
【0048】
一方、図5に示した基板バイアス−300Vで成膜したta−C膜のスペクトルは、高エネルギー側のピーク(P2)と低エネルギー側のピーク(P1)は各々285.50eVと284.60eVであり、高エネルギー側ピークの面積強度比は約54%であり、sp−C成分は、基板バイアスなしで成膜したta−C膜に比較して約24%の低下を示している。この事実は、基板に印加されるバイアスが成膜の際にイオンダメージを誘起し、sp−C膜の形成を抑制することによるものである。
【0049】
このように、本手法で求めた高エネルギー側ピーク強度比から、高配向性グラファイト、多結晶質グラファイト、スパッタa−C膜、基板バイアス−300Vで合成したta−C膜、基板バイアスなしで合成したta−C膜、ダイヤモンド、の順にsp−C比が大きくなることが確認でき、各種炭素系材料中の炭素原子の結合状態を、高エネルギー側ピークと低エネルギー側ピークの強度比で定量的に評価できることが示された。
【0050】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のカーボン膜中の状態分析方法によれば、分析前および分析中において試料表面に対してArなどのイオンビームを照射することをせずに得られたXPSのC1sスペクトルをバックグランド除去し、得られたスペクトルの2次微分を求めてその極小をsp−C(高エネルギー側)とsp−C(低エネルギー側)のピークネルギーと決定し、次に、sp−Cのピーク形状をグラファイト形状、sp−Cのピーク形状をGauss−Lorentz分布を有する形状としてピーク高さと半値幅でフィッティングし、最後に、得られた2つのピークの面積比からsp−Cとsp−Cの組成比を算出することとしたので、簡便かつ迅速に炭素原子の結合状態を定量的に評価可能となる。
【0051】
特に、本発明で採用するC1sピークの波形分離方法は、試料の帯電や非弾性散乱によるバックグランドなどに影響され難く、炭素原子の結合状態を評価するのに有効である。また、本発明はXPS法による分析方法であるため、ナノメートルレベルの極薄膜試料に対して有効な評価方法となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】sp−Cからなる高圧合成ダイヤモンド(100)面のC1sスペクトルおよび波形分離結果を説明するための図である。
【図2】sp−Cからなる高配向性グラファイト(HOPG)のC1sスペクトルおよび波形分離結果を説明するための図である。
【図3】多結晶質グラファイトに対するC1sスペクトルおよび波形分離結果を説明するための図である。
【図4】スパッタa−C膜に対するC1sスペクトルおよび波形分離結果を説明するための図である。
【図5】基板バイアス−300Vで成膜したta−C膜に対するC1sスペクトルおよび波形分離結果を説明するための図である。
【図6】基板バイアスなしで成膜したta−C膜に対するC1sスぺクトルおよび波形分離結果を説明するための図である。
【図7】本発明のカーボン膜中の状態分析方法の手順を説明するためのフローチャートである。

Claims (3)

  1. XPS法により炭素系材料試料のC1sスペクトルを測定する第1のステップと、
    前記C1sスペクトルに対してバックグランド除去する第2のステップと、
    当該バックグランド除去して得られたスペクトルの2次微分を求めてその極小のうち高エネルギー側の極小をsp混成状態炭素のピークエネルギーと決定し、前記極小のうち低エネルギー側の極小をsp混成状態炭素のピークエネルギーと決定する第3のステップと、
    前記sp 混成状態炭素のピーク形状をグラファイト形状とし、前記sp 混成状態炭素のピーク形状をGauss−Lorentz分布を有する形状として、前記C1sスペクトルを、前記sp混成状態炭素と前記sp混成状態炭素のピークエネルギーを有する2つのピークに波形分離する第4のステップと、
    当該波形分離された2つのピークの高さと半値幅を前記C1sスペクトルにフィッティングする第5のステップと、
    当該フィッティングして得られた前記2つのピークの面積比を求めてsp混成状態炭素とsp混成状態炭素の組成比を算出する第6のステップと、
    を備えていることを特徴とするカーボン膜中の状態分析方法。
  2. 前記第1のステップのC1sスペクトルは、前記炭素系材料試料の表面にイオンビーム照射することなく得られたものであることを特徴とする請求項1に記載のカーボン膜中の状態分析方法。
  3. 前記炭素系材料試料が、膜厚10nm以下の極薄膜であることを特徴とする請求項1または2に記載のカーボン膜中の状態分析方法。
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