JP3848395B2 - 内燃機関の燃料噴射制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は内燃機関の燃料噴射制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
内燃機関の燃料噴射制御ないし空燃比制御においては一般にPID制御則が用いられ、目標値と操作量(制御対象出力)との偏差にP項(比例項)、I項(積分項)およびD項(微分項)を乗じてフィードバック補正係数(フィードバックゲイン)を求めているが、近時は、例えば特開平4−209940号公報記載のの技術の如く、現代制御理論を用いてフィードバック補正係数を求めることも提案されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、適応制御則のような現代制御理論を用い、供給燃料量を操作量として空燃比ないしは燃料量が目標値に一致するようにフィードバック制御する際にオープンループ制御域からフィードバック制御域に突入した場合、適応制御器の内部変数を適正に設定しないと、所期の収束速度を得ることができず、空燃比のスパイクなどを生じて制御の安定性が失われる。
【0004】
従って、この発明の目的は、オープンループ制御域からフィードバック制御域に突入した場合に、適応制御器の内部変数を適正に設定して制御の収束性と安定性とを向上させるようにした内燃機関の燃料噴射制御装置を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、請求項1項にあっては、内燃機関の排気する排気空燃比を含む運転状態を検出する運転状態検出手段と、前記内燃機関の供給燃料量を決定する供給燃料量決定手段と、所定周期ごとに複数の制御要素からなる適応パラメータを調整するパラメータ調整機構を有すると共に、前記供給燃料量を操作量として前記検出された排気空燃比が目標空燃比に一致するように、前記パラメータ調整機構で調整された適応パラメータを用いてフィードバック補正係数を算出する適応制御器を備えたフィードバック補正係数算出手段と、検出された運転状態に応じてフィードバック制御を行う領域か否かを判別する判別手段と、およびフィードバック制御を行う領域と判別されるとき、前記フィードバック補正係数に基づいて前記供給燃料量を補正する供給燃料量補正手段とを備えると共に、前記フィードバック補正係数算出手段は、運転状態が前記フィードバック制御を行う領域外から前記フィードバック制御を行う領域に移行したとき、検出された運転状態に応じて定められた領域ごとに、前記適応制御器のパラメータ調整機構が調整する複数の制御要素からなる適応パラメータを含む前記適応制御器の内部変数を設定する如く構成した。
【0007】
請求項2項にあっては、前記設定される適応制御器の内部変数は、前記フィードバック補正係数の過去値を含む如く構成した。
【0008】
請求項3項にあっては、前記設定される適応制御器の内部変数は、適応パラメータの適応速度を決定するゲイン行列の過去値を含む如く構成した。
【0009】
請求項4項にあっては、前記設定される適応制御器の内部変数は、フィードバック制御実行中に前記検出された運転状態に応じて定められた領域ごとに更新される如く構成した。
【0010】
請求項5項にあっては、前記検出された運転状態に応じて定められた領域は、アイドル域、目標空燃比が理論空燃比である制御域、目標空燃比がリッチである制御域および目標空燃比がリーンである制御域のいずれか1つを含む如く構成した。
【0011】
【作用】
請求項1項にあっては、所定周期ごとに複数の制御要素からなる適応パラメータを調整するパラメータ調整機構を有すると共に、供給燃料量を操作量として前記検出された排気空燃比が目標空燃比に一致するように、前記パラメータ調整機構で調整された適応パラメータを用いてフィードバック補正係数を算出する適応制御器を備えたフィードバック補正係数算出手段と、検出された運転状態に応じてフィードバック制御を行う領域か否かを判別する判別手段と、およびフィードバック制御を行う領域と判別されるとき、前記フィードバック補正係数に基づいて前記供給燃料量を補正する供給燃料量補正手段とを備えると共に、前記フィードバック補正係数算出手段は、運転状態が前記フィードバック制御を行う領域外から前記フィードバック制御を行う領域に移行したとき、検出された運転状態に応じて定められた領域ごとに、前記適応制御器のパラメータ調整機構が調整する複数の制御要素からなる適応パラメータを含む前記適応制御器の内部変数を設定する如く構成したので、オープンループ制御域からフィードバック制御域に突入した場合、適応制御器の内部変数を適正に設定して制御の収束性を早めると共に、安定性を向上させることができる。また、フィードバック補正係数の算出に影響の大きい適応パラメータが運転状態に応じて適正に設定されるため、フィードバック補正係数も適正に算出され、空燃比のスパイクなどの発生を抑えることができ、制御性が向上する。
【0013】
請求項2項にあっては、前記設定される適応制御器の内部変数は、前記フィードバック補正係数の過去値を含む如く構成したので、運転状態に応じた適正なフィードバック補正係数の過去値が設定されるため、フィードバック補正係数も適正に算出され、空燃比のスパイクなどの発生を抑えることができ、制御性を向上させることができる。
【0014】
請求項3項にあっては、前記設定される適応制御器の内部変数は、適応パラメータの適応速度を決定するゲイン行列の過去値を含む如く構成したので、運転状態に応じたゲイン行列を適正に設定することができ、適応制御器の内部変数を適正に設定することができて空燃比のスパイクなどの発生を抑えることができ、制御性を向上させることができる。
【0015】
請求項4項にあっては、前記設定される適応制御器の内部変数は、フィードバック制御実行中に前記検出された運転状態に応じて定められた領域ごとに更新される如く構成したので、オープンループ制御域からフィードバック制御域に突入した場合の制御の収束性を一層早めると共に、安定性を一層向上させることができる。と同時に、機関や空燃比センサなどが劣化したような場合でも、その劣化状態に応じて適切な内部変数を設定することができるため、フィードバック補正係数も適正に算出され、空燃比のスパイクなどの発生を抑えることができ、制御性を向上させることができる。
【0016】
請求項5項にあっては、前記検出された運転状態に応じて定められた領域は、アイドル域、目標空燃比が理論空燃比である制御域、目標空燃比がリッチである制御域および目標空燃比がリーンである制御域のいずれか1つを含む如く構成したので、適正な内部変数を設定することができ、フィードバック補正係数も適正に算出され、空燃比のスパイクなどの発生を抑えることができ、制御性を向上させることができる。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面に即してこの発明の実施の形態を説明する。
【0018】
図1はこの発明に係る内燃機関の燃料噴射制御装置を示す全体図である。
【0019】
図において、符号10はOHC直列4気筒の内燃機関を示しており、吸気管12の先端に配置されたエアクリーナ14から導入された吸気は、スロットル弁16でその流量を調節されつつサージタンク18と吸気マニホルド20を経て、2個の吸気弁(図示せず)を介して第1から第4気筒へと流入される。各気筒の吸気弁(図示せず)の付近にはインジェクタ22が設けられて燃料を噴射する。噴射されて吸気と一体となった混合気は、各気筒内で図示しない点火プラグで点火されて燃焼してピストン(図示せず)を駆動する。
【0020】
燃焼後の排気ガスは、2個の排気弁(図示せず)を介して排気マニホルド24に排出され、排気管26を経て触媒装置(三元触媒)28で浄化されて機関外に排出される。上記で、スロットル弁16はアクセルペダル(図示せず)とは機械的に切り離され、パルスモータMを介してアクセルペダルの踏み込み量および運転状態に応じた開度に制御される。また、吸気管12には、スロットル弁16の配置位置付近にそれをバイパスするバイパス路32が設けられる。
【0021】
内燃機関10には、排気ガスを還流路121を介して吸気側に還流させる排気還流機構100が設けられると共に、吸気系と燃料タンク36との間も接続され、キャニスタ・パージ機構200が設けられるが、その機構は本願の要旨と直接の関連を有しないので、説明は省略する。
【0022】
更に、内燃機関10は、いわゆる可変バルブタイミング機構300(図1にV/T と示す)を備える。可変バルブタイミング機構300は例えば、特開平2−275,043号公報に記載されており、機関回転数Neおよび吸気圧力Pbなどの運転状態に応じて機関のバルブタイミングV/T を2種のタイミング特性Lo V/T, Hi V/Tの間で切り換える。但し、それ自体は公知な機構なので、これ以上の説明は省略する。尚、このバルブタイミング特性の切り換えには、2個の吸気弁の一方を休止する動作を含む。
【0023】
図1において内燃機関10のディストリビュータ(図示せず)内にはピストン(図示せず)のクランク角度位置を検出するクランク角センサ40が設けられると共に、スロットル弁16の開度を検出するスロットル開度センサ42、スロットル弁16下流の吸気圧力Pb を絶対圧力で検出する絶対圧センサ44も設けられる。
【0024】
また、内燃機関10の適宜位置には大気圧Pa を検出する大気圧センサ46が設けられ、スロットル弁16の上流側には吸入空気の温度を検出する吸気温センサ48が設けられると共に、機関の適宜位置には機関冷却水温を検出する水温センサ50が設けられる。また、油圧を介して可変バルブタイミング機構300の選択するバルブタイミング特性を検出するバルブタイミング(V/T )センサ52(図1で図示省略)も設けられる。更に、排気系において排気マニホルド24の下流で触媒装置28の上流側の排気系集合部には、広域空燃比センサ54が設けられる。これらセンサ出力は、制御ユニット34に送られる。
【0025】
図2は制御ユニット34の詳細を示すブロック図である。広域空燃比センサ54の出力は検出回路62に入力され、そこで適宜な線型化処理が行われてリーンからリッチにわたる広い範囲において排気ガス中の酸素濃度に比例したリニアな特性からなる検出信号を出力する(以下、この広域空燃比センサを「LAFセンサ」と呼ぶ)。
【0026】
検出回路62の出力は、マルチプレクサ66およびA/D変換回路68を介してCPU内に入力される。CPUはCPUコア70、ROM72、RAM74を備え、検出回路62の出力は所定のクランク角度(例えば15度)ごとにA/D変換され、RAM74内のバッファの1つに順次格納される。またスロットル開度センサ42などのアナログセンサ出力も同様にマルチプレクサ66およびA/D変換回路68を介してCPU内に取り込まれ、RAM74に格納される。
【0027】
またクランク角センサ40の出力は波形整形回路76で波形整形された後、カウンタ78で出力値がカウントされ、カウント値はCPU内に入力される。CPUにおいてCPUコア70は、ROM72に格納された命令に従って後述の如く制御値を演算し、駆動回路82を介して各気筒のインジェクタ22を駆動する。更に、CPUコア70は、駆動回路84,86,88を介して電磁弁90(2次空気量を調節するバイパス路32の開閉)、および排気還流制御用電磁弁122ならびにキャニスタ・パージ制御用電磁弁225を駆動する。
【0028】
図3はこの発明に係る制御装置の動作を示すフロー・チャートである。尚、図3のプログラムは所定クランク角度で起動される。
【0029】
図示の装置にあっては図4ブロック図に示す如く、供給燃料量(図に基本噴射量Timと示す)を操作量として検出された排気空燃比(図にKACT(k) と示す)が目標空燃比(図にKCMD(k) と示す)に一致するように漸化式形式の制御則(STR型の適応制御器。図にSTRコントローラと示す)を用いてフィードバック補正係数(図にKSTR(k) と示す)を算出する手段を設けた。尚、演算を容易にするために、検出空燃比KACTも目標空燃比KCMDも、実際には、当量比、即ち、Mst/M=1/λで示している(Mst:理論空燃比、M=A/F(A:空気消費量、F:燃料消費量)、λ:空気過剰率)。
【0030】
以下説明すると、先ずS10において検出した機関回転数Neおよび吸気圧力Pb などを読み出し、S12に進んでクランキングか否か判断し、否定されるときはS14に進んでフューエルカットか否か判断する。フューエルカットは、所定の運転状態、例えばスロットル弁開度が全閉位置にあり、かつ機関回転数が所定値以上であるときに行われ、燃料供給が停止されて噴射量はオープンループで制御される。
【0031】
S14でフューエルカットではないと判断されたときはS16に進み、検出した機関回転数Neと吸気圧力Pbとからマップを検索して基本燃料噴射量Timを算出する。次いでS18に進んでLAFセンサ54の活性化が完了したか否か判定する。これは例えば、LAFセンサ54の出力電圧とその中心電圧との差を所定値(例えば0.4v)と比較し、差が所定値より小さいとき活性化が完了したと判定することで行う。
【0032】
活性化が完了したと判断されるときはS20に進み、LAFセンサ検出値(センサ出力)を読み込み、S22に進んで検出値から検出空燃比KACT(k)(k:離散系のサンプル時刻)を演算する。次いでS24に進んでフィードバック補正係数KFB を演算する。
【0033】
図5はその作業を示すサブルーチン・フロー・チャートである。
【0034】
以下説明すると、S100でフィードバック制御領域か否か判断する。これは図示しない別ルーチンで行われ、例えば全開増量時や高回転時、または排気還流機構が動作して運転状態が急変したときなどはオープンループで制御される。
【0035】
そしてS100で肯定されるときはS102に進んで前回、即ち、図3フロー・チャートに示すプログラムの前回起動時(前回制御周期)もフィードバック制御領域であったか否か判断し、肯定されるときはS104に進んで適応制御則に基づくフィードバック補正係数KSTR(以下この補正係数を「適応補正係数」と言う)を演算する。
【0036】
以下これについて説明すると、先に図4に示した適応制御器は、本出願人が先に提案した適応制御技術を前提とする。それはSTR(セルフチューニングレギュレータ)コントローラからなる適応制御器とその適応(制御)パラメータ(ベクトル)を調整する適応(制御)パラメータ調整機構とからなり、STRコントローラは、燃料噴射量制御のフィードバック系の目標値と制御量(プラント出力)を入力し、適応パラメータ調整機構によって同定された係数ベクトルを受け取って出力を算出する。
【0037】
このような適応制御において、適応制御の調整則(機構)の一つに、I.D.ランダウらの提案したパラメータ調整則がある。この手法は、適応制御システムを線形ブロックと非線形ブロックとから構成される等価フィードバック系に変換し、非線形ブロックについては入出力に関するポポフの積分不等式が成立し、線形ブロックは強正実となるように調整則を決めることによって、適応制御システムの安定を保証する手法である。即ち、ランダウらの提案したパラメータ調整則においては、漸化式形式で表される調整則(適応則)が、上記したポポフの超安定論ないしはリヤプノフの直接法の少なくともいづれかを用いることでその安定性を保証している。
【0038】
この手法は、例えば「コンピュートロール」(コロナ社刊)No.27,28頁〜41頁、ないしは「自動制御ハンドブック」(オーム社刊)703頁〜707頁、" A Survey of Model Reference Adaptive Techniques - Theory and Ap-plications" I.D. LANDAU 「Automatica」Vol. 10, pp. 353-379, 1974、"Uni- fication of Discrete Time Explicit Model Reference Adaptive ControlDesigns" I.D.LANDAU ほか「Automatica」Vol. 17, No. 4, pp. 593-611, 1981 、および" Combining Model Reference Adaptive Controllers and Stochastic Self-tuning Regulators" I.D. LANDAU 「Automatica」Vol. 18, No. 1, pp. 77-84, 1982 に記載されているように、公知技術となっている。
【0039】
図示例の適応制御技術では、このランダウらの調整則を用いた。以下説明すると、ランダウらの調整則では、離散系の制御対象の伝達関数B(Z-1)/A(Z-1) の分母分子の多項式を数1および数2のようにおいたとき、パラメータ調整機構が同定する適応パラメータθハット(k) は、数3のようにベクトル(転置ベクトル)で示される。またパラメータ調整機構への入力ζ(k) は、数4のように定められる。ここでは、m=1、n=1、d=3の場合、即ち、1次系で3制御サイクル分の無駄時間を持つプラントを例にとった。
【0040】
【数1】
【0041】
【数2】
【0042】
【数3】
【0043】
【数4】
【0044】
ここで、数3に示される適応パラメータθハットは、ゲインを決定するスカラ量b0 ハット-1(k) 、操作量を用いて表現される制御要素BR ハット(Z-1, k)および制御量を用いて表現される制御要素Sハット(Z -1, k)からなり、それぞれ数5から数7のように表される。
【0045】
【数5】
【0046】
【数6】
【0047】
【数7】
【0048】
パラメータ調整機構はこれらのスカラ量や制御要素の各係数を同定・推定し、前記した数3に示す適応パラメータθハットとして、STRコントローラに送る。パラメータ調整機構は、プラントの操作量u(i)および制御量y(j)(i,jは過去値を含む)を用いて目標値と制御量との偏差が零となるように適応パラメータθハットを算出する。適応パラメータθハット(k) は、具体的には数8のように計算される。数8で、Γ(k) は適応パラメータの同定・推定速度を決定するゲイン行列(m+n+d次)、eアスタリスク(k) は同定・推定誤差を示す信号、それぞれ数9および数10のような漸化式で表される。尚、数10においてD(z-1)は設計者が与える所望の漸近安定な多項式であり、この例では1に設定した。
【0049】
【数8】
【0050】
【数9】
【0051】
【数10】
【0052】
また数9中のλ1(k) ,λ2(k) の選び方により、種々の具体的なアルゴリズムが与えられる。例えば、λ1(k) =1,λ2(k) =λ(0<λ<2)とすると漸減ゲインアルゴリズム(λ=1の場合には最小自乗法)、λ1(k) =λ1(0<λ1<1),λ2(k) =λ2(0<λ2<λ)とすると可変ゲインアルゴリズム(λ2=1の場合には重み付き最小自乗法)、λ1(k) /λ2(k) =σとおき、λ3が数11のように表されるとき、λ1(k) =λ3(k) とおくと固定トレースアルゴリズムとなる。また、λ1(k) =1,λ2(k) =0のとき固定ゲインアルゴリズムとなる。この場合は数9から明らかな如く、Γ(k) =Γ(k-1) となり、よってΓ(k) =Γの固定値となる。燃料噴射ないし空燃比などの時変プラントには、漸減ゲインアルゴリズム、可変ゲインアルゴリズム、固定ゲインアルゴリズム、および固定トレースアルゴリズムのいずれもが適している。尚、数11においてtrΓ(0) はΓの初期値のトレースである。
【0053】
【数11】
【0054】
ここで、図4にあっては、前記したSTRコントローラ(適応制御器)と適応パラメータ調整機構とは燃料噴射量演算系の外におかれ、検出空燃比KACT(k) が目標空燃比KCMD(k-d’) (ここでd’はKCMDがKACTに反映されるまでの無駄時間を示し、よって無駄時間制御周期前の目標空燃比を意味する)に適応的に一致するように動作してフィードバック補正係数KSTR(k) を演算する。即ち、STRコントローラは、適応パラメータ調整機構によって適応的に同定された係数ベクトルθハット(k) を受け取って目標空燃比KCMD(k-d’)に一致するようにフィードバック補償器を形成する。演算されたフィードバック補正係数KSTR(k) は基本噴射量Timに乗算され、補正された燃料噴射量が出力燃料噴射量Tout(k)として制御プラント(内燃機関)に供給される。
【0055】
このように、適応補正係数KSTR(k) および検出空燃比KACT(k) が求められて適応パラメータ調整機構に入力され、そこで適応パラメータθハット(k) が算出されてSTRコントローラに入力される。STRコントローラには入力として目標空燃比KCMD(k) が与えられ、検出空燃比KACT(k) が目標空燃比KCMD(k-d')に一致するように漸化式を用いて適応補正係数KSTR(k) を算出する。
【0056】
適応補正係数KSTR(k) は、具体的には数12に示すように求められる。
【0057】
【数12】
【0058】
図5フロー・チャートに戻ると、次いでS106に進んで適応補正係数KSTRのマップ値の更新を行い、次いでS108に進んで適応パラメータθハット(k) のマップ値の更新を行う。これらについては後述する。次いでS110に進み、S104で求めた適応補正係数KSTRをフィードバック補正係数KFB とする。
【0059】
他方、S100でフィードバック制御領域ではないと判断されたときはS112に進んで適応補正係数KSTRを1.0としてS110に進む。フィードバック補正係数は供給燃料量に乗算されてそれを補正することから、1.0としたことは換言すれば、フィードバック制御を行わないことを意味する。
【0060】
またS102で前回フィードバック制御領域ではなかったと判断されるときは、オープンループ制御領域からフィードバック制御領域に突入したことになるので、S114に進んで目標空燃比に応じて適応パラメータθハット(k-1) および適応補正係数KSTRの値をそれぞれマップ値から検索する。
【0061】
図6は適応補正係数KSTRの、図7は適応パラメータθハットのマップ特性を示す説明図である。適応補正係数KSTRと適応パラメータθハットは前記した運転状態、より具体的には機関回転数Neと機関負荷(吸気圧力Pb)ごとに定められた領域ごとに設定されるものとする。この運転領域には、特にアイドル領域が含まれている。これは、アイドル領域が他の領域に比べ、適応パラメータθハット(k) や適応補正係数KSTRの値が大きく異なるためである。尚、図7では適応パラメータθハットを転置行列として設定する例を示したが、適応パラメータθハットをそのまま設定しても良いことは言うまでもない。
【0062】
更に、適応パラメータθハットと適応補正係数KSTRのマップは目標空燃比KCMDによりその値が異なるため、目標空燃比別に、即ち、目標空燃比が理論空燃比の場合(KCMD=1.0)やリーンバーン制御の場合(KCMD=0.7)など設定すべき目標空燃比の数(n個)に応じてマップを複数個(No.1〜No.n)用意する。また、適応パラメータθハット(k) の初期値については、今述べた領域ごとにその5個の要素が設定される。尚、これらマップ値は後述の更新に備えて、ROM72ではなく、RAM74のバックアップ部に格納する。
【0063】
即ち、先に述べたように適応パラメータ調整機構は、ζ(k-d) 、即ち、プラント入力u(k) (=適応補正係数KSTR)およびプラント出力(=KACT(k) )の現在値および過去値をひとまとめにしたベクトルを入力し、その因果関係から適応パラメータθハット(k) を算出する。
【0064】
従って、フィードバック制御領域外、即ち、適応制御領域外から適応制御を開始する場合、数8などから明らかな如く、ζ(k-d) 、θハット(k-1) 、ゲイン行列Γ(k-1) などの内部変数の過去値がないと、正しい適応補正係数KSTRを演算することができないか、最悪の場合には発振してしまう恐れがある。
【0065】
そこで、この実施の形態においては、適応パラメータθハット(k) 、より詳しくは操作量を用いた制御要素などの要素であるr1 ,r2 ,r3 ,so ,bo の初期値、および適応補正係数KSTR(プラント入力)を機関の運転領域および目標空燃比ごとに予めメモリに格納しておくようにした。そして、S114では機関回転数Neなどから検索した値を用いて適応パラメータθハットの過去値(k-1) および中間変数の過去値ζ(k-d) とし、S104に進んで適応補正係数KSTRを演算する。尚、ゲイン行列Γ(k-1) は適応速度を決定するものであるので、運転状態に応じてマップなどに格納される初期値などの所定の行列値とする(図示は省略するが、マップ値としては図6の適応補正係数KSTRと同様なもので良い)。
【0066】
更に、先にS106,S108で触れたように、フィードバック制御が行われるとき、目標空燃比に応じて当該運転領域のマップ値を更新する。この更新は具体的には、前回値(ないときはマップ値)との加重平均を求める、即ち、学習値を算出することで行う。
【0067】
具体的には、例えば適応パラメータθハットのマップ値の更新を例にとれば、機関回転数Neが1000rpm、吸気圧力Pbが400mmHgの領域のゲインを決定するスカラ量bo のマップ値をbomapとし、フィードバック制御中に同一の運転状態で得られた値をbo1とすると、
bomap=bomap×W + bo1×(1−W)
で求める(W:重み係数)。
【0068】
尚、ここで、適応パラメータθハットの更新はその各要素(r1 ,r2 ,r3 ,so ,bo )ごとに個別に行われる。また適応補正係数KSTRについては、KSTR(k) のみを学習し、S114で読み出す際に、KSTR(k-i) のそれぞれに用いるようにすれば良い。
【0069】
上記によってオープンループ制御領域からフィードバック制御領域に突入するときに適応補正係数KSTRを適正に算出することができ、制御量がハンチングすることなく、空燃比のスパイクなどが生じることがなく、制御の安定性を向上することができる。
【0070】
図3フロー・チャートに戻ると、次いでS26に進んで基本燃料噴射量(供給燃料量)Timに、目標空燃比補正係数KCMDM(目標空燃比KCMD( 当量比) に吸入空気の充填効率補正を施して得た値) と求めたフィードバック補正係数KFB と各種補正係数KTOTALとを乗算して補正すると共に、加算項TTOTALを加算して補正し、先に述べたように出力燃料噴射量Tout を決定し、次いでS28に進んで出力燃料噴射量Tout を操作量としてインジェクタ22に出力する。
【0071】
ここで、各種補正係数KTOTALは水温補正など乗算で行う各種の補正係数の積算値を意味し、加算項TTOTALは気圧補正など加算値で行う補正係数の合計値を示す(但し、インジェクタの無効時間などは出力燃料噴射量Tout の出力時に別途加算されるので、これに含まれない)。
【0072】
尚、S18で否定されたときは空燃比がオープンループ制御となるので、S30に進んでフィードバック補正係数KFB の値を1.0とし、S26に進んで出力燃料噴射量Tout を求める。またS12でクランキングと判断されたときはS32に進んでクランキング時の燃料噴射量Ticr を検索し、S34に進んで検索値に基づいて始動モードの式に従って出力燃料噴射量Tout を算出すると共に、S14でフューエルカットと判断されたときは、S36に進んで出力燃料噴射量Tout を零とする。
【0073】
この実施の形態は上記の如く、オープンループ制御領域からフィードバック制御領域に突入するときに適応補正係数KSTRを適正に算出することができ、制御量がハンチングすることがないと共に、空燃比のスパイクなどが生じることがなく、よって制御の安定性を向上することができる。特に、フィードバック制御領域から一旦オープンループ制御領域に移行し、再びフィードバック制御領域に移行したような場合で、かつ運転状態が復帰の前後で大きく変化している状況においても、適応補正係数KSTRを的確に決定することができる。
【0074】
また、検出値が安定したときは、高応答の適応制御則によるフィードバック補正係数を用いて目標空燃比と検出空燃比との制御偏差を一気に吸収させるべく動作させ、制御の収束性を向上させることができる。特に、実施の形態においてはフィードバック補正係数が基本値に乗算されて操作量が決定されるように制御の収束性が向上させられているので、一層好適に制御の安定性と収束性とをバランスさせることができる。
【0075】
図8は、この発明の第2の実施の形態を示す、図7と同様の適応パラメータθハット(k) のマップ特性を示す説明図である。
【0076】
第1の実施の形態と相違する点に焦点をおいて第2の実施の形態を説明すると、第2の実施の形態では適応パラメータθハット(k) の要素のうち、ゲインを決定するスカラ量のみマップ化するようにした。このマップも第1の実施の形態と同様、目標空燃比に応じてNo.1からNo.nまで複数個設定される。またゲインを決定するスカラ量以外の各要素は、初期値などの所定値に設定される。これにより、メモリ容量などを低減することができる。尚、5個の要素のうち、ゲインを決定するスカラ量を選択したのは、数12からも明らかなように、適応補正係数KSTR(k) を算出するときに、これが最も重要度が高いからである。
【0077】
尚、残余の構成は、第1の実施の形態と異ならない。
【0078】
第2の実施の形態は上記の如く構成したので、第1の実施の形態に類似した作用、効果を得ることができると共に、マップ値を格納するメモリ容量を低減することができる。尚、第2の実施の形態においては5個の要素のうち、1個のみとしたが、2個ないし4個としても良い。
【0079】
尚、第1および第2の実施の形態においては、フィードバック補正係数として適応制御則を用いた適応補正係数のみ用いたが、それ以外にPID制御則を用いた低応答のPID補正係数を用意し、フィードバック制御領域において適宜切り換えるようにしても良い。この場合、フィードバック領域の突入時には前述の手法で適応補正係数KSTRを算出すると共に、実際のフィードバック制御はPID補正係数で行い、所定期間経過後に適応補正係数KSTRを用いたフィードバック制御を行うことも考えられる。
【0080】
また第1および第2の実施の形態において内部変数のうち適応補正係数KSTRと適応パラメータθハット(k) を運転状態に応じて設定したが、適応パラメータのみを運転状態に応じて設定し、適応補正係数KSTRは所定値に設定するようにしても良い。これは、機関の燃料制御がほぼ安定しているような状態では適応補正係数KSTRは運転領域にかかわらず所定値(例えば1.0)になっており、所定値(例えば1.0)に設定しても制御性が低下しないためである。
【0081】
また第1および第2の実施の形態では目標値を空燃比としたが、燃料噴射量そのものを目標値としても良い。
【0082】
また第1および第2の実施の形態においてフィードバック補正係数KSTRを乗算係数(項)として求めたが、加算項であっても良い。
【0083】
また第1および第2の実施の形態においてスロットル弁16をパルスモータで作動したが、アクセルペダルと機械的にリンクさせ、アクセルペダルの動きに応じて作動しても良い。
【0084】
また第1および第2の実施の形態において適応制御器としてSTRを例にとって説明したが、MRACS(モデル規範型適応制御)を用いても良い。
【0085】
【発明の効果】
請求項1項にあっては、オープンループ制御域からフィードバック制御域に突入した場合、適応制御器の内部変数を適正に設定して制御の収束性を早めると共に、安定性を向上させることができる。また、フィードバック補正係数の算出に影響の大きい適応パラメータが運転状態に応じて適正に設定されるため、フィードバック補正係数も適正に算出され、空燃比のスパイクなどの発生を抑えることができ、制御性が向上する。
【0087】
請求項2項にあっては、運転状態に応じた適正なフィードバック補正係数の過去値が設定されるため、フィードバック補正係数も適正に算出され、空燃比のスパイクなどの発生を抑えることができ、制御性を向上させることができる。
【0088】
請求項3項にあっては、運転状態に応じたゲイン行列を適正に設定することができ、適応制御器の内部変数を適正に設定することができて空燃比のスパイクなどの発生を抑えることができ、制御性を向上させることができる。
【0089】
請求項4項にあっては、オープンループ制御域からフィードバック制御域に突入した場合の制御の収束性を一層早めると共に、安定性を一層向上させることができる。と同時に、機関や空燃比センサなどが劣化したような場合でも、その劣化状態に応じて適切な内部変数を設定することができるため、フィードバック補正係数も適正に算出され、空燃比のスパイクなどの発生を抑えることができ、制御性を向上させることができる。
【0090】
請求項5項にあっては、適正な内部変数を設定することができ、フィードバック補正係数も適正に算出され、空燃比のスパイクなどの発生を抑えることができ、制御性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明に係る内燃機関の燃料噴射制御装置を全体的に示す概略図である。
【図2】図1の装置の制御ユニットの構成を詳細に示すブロック図である。
【図3】図1の装置の動作を示すフロー・チャートである。
【図4】図1の装置の動作を機能的に示すブロック図である。
【図5】図3フロー・チャートのフィードバック補正係数KFB の演算作業を示すサブルーチン・フロー・チャートである。
【図6】図5フロー・チャートの作業で用いる適応補正係数KSTRのマップ値の特性を示す説明図である。
【図7】図5フロー・チャートの作業で用いる適応パラメータのマップ値の特性を示す説明図である。
【図8】この発明の第2の実施の形態を示す、図7と同様の適応パラメータのマップ値の特性を示す説明図である。
【符号の説明】
10 内燃機関
22 インジェクタ
34 制御ユニット
54 広域空燃比センサ(LAFセンサ)
Claims (5)
- a.内燃機関の排気する排気空燃比を含む運転状態を検出する運転状態検出手段と、
b.前記内燃機関の供給燃料量を決定する供給燃料量決定手段と、
c.所定周期ごとに複数の制御要素からなる適応パラメータを調整するパラメータ調整機構を有すると共に、前記供給燃料量を操作量として前記検出された排気空燃比が目標空燃比に一致するように、前記パラメータ調整機構で調整された適応パラメータを用いてフィードバック補正係数を算出する適応制御器を備えたフィードバック補正係数算出手段と、
d.検出された運転状態に応じてフィードバック制御を行う領域か否かを判別する判別手段と、
および
e.フィードバック制御を行う領域と判別されるとき、前記フィードバック補正係数に基づいて前記供給燃料量を補正する供給燃料量補正手段と、
を備えると共に、前記フィードバック補正係数算出手段は、運転状態が前記フィードバック制御を行う領域外から前記フィードバック制御を行う領域に移行したとき、検出された運転状態に応じて定められた領域ごとに、前記適応制御器のパラメータ調整機構が調整する複数の制御要素からなる適応パラメータを含む前記適応制御器の内部変数を設定することを特徴とする内燃機関の燃料噴射制御装置。 - 前記設定される適応制御器の内部変数は、前記フィードバック補正係数の過去値を含むことを特徴とする請求項1項記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
- 前記設定される適応制御器の内部変数は、適応パラメータの適応速度を決定するゲイン行列の過去値を含むことを特徴とする請求項1項または2項記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
- 前記設定される適応制御器の内部変数は、フィードバック制御実行中に前記検出された運転状態に応じて定められた領域ごとに更新されることを特徴とする請求項1項記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
- 前記検出された運転状態に応じて定められた領域は、アイドル域、目標空燃比が理論空燃比である制御域、目標空燃比がリッチである制御域および目標空燃比がリーンである制御域のいずれか1つを含むことを特徴とする請求項1項ないし4項のいずれかに記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
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