JP3843427B2 - 立体映像表示部材及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、位相差フィルムの有無によって右目用映像表示部と左目用映像表示部とが構成された立体映像表示部材に関するものであり、さらにはその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
3次元画像を表示する技術については、古くから種々の試みがなされており、写真、映画、テレビジョン等、多くの分野で3次元画像表示方法が研究され、実用化されてきている。3次元画像の表示方式は、メガネ方式とメガネ無し方式に大別され、どちらの方式も両眼視差のある画像を観察者の左右の眼に入力し立体映像として観察することができるものである。
【0003】
メガネ方式の代表的なものとしては、偏光メガネ方式が知られているが、従来の技術では2台の投影装置を用いる必要がある等の問題があり、普及の妨げになっていた。しかしながら、近年、直視型の1つの表示装置にて立体表示を可能とする方式が提案され注目を集めている。
【0004】
前記直視型の1つの表示装置にて立体表示を可能とする偏光メガネ方式の立体画像表示方法について簡単に説明する。例えば液晶パネルの表面に分割波長板フィルター(いわゆるマイクロポーラライザー)を貼り付ける。分割波長フィルターは、走査線の1ライン置きに位相差フィルムを配列した構造を有している。このような構成の表示装置では、位相差フィルムによって液晶パネルからの直線偏光の方向が回転される。位相差フィルムの無い部分では、液晶パネルからの直線偏光はそのままである。その結果、表示画面の偶数ライン(例えば位相差フィルムが設けられたライン)と奇数ライン(例えば位相差フィルムが無いライン)とで偏光方向が互いに直交するものとなる。この表示画面からの光を右眼と左眼とで偏光方向が互いに直交する偏光メガネによって観察すると、例えば右眼には偶数ラインの画像の光のみが到達し、左眼には奇数ラインの画像の光のみが到達する。液晶パネルにおいて、偶数ラインに右眼用画像、奇数ラインに左眼用画像を表示すれば、上記偏光メガネを着用することで立体映像を観察することが可能になる。
【0005】
上述の立体映像表示方法では、上記分割波長板フィルターの性能が表示画像の品質に大きな影響を与える。そのため、かかるフィルターの製造技術等に関して、種々の提案がなされている。
【0006】
例えば、特許文献1には、位相差フィルムを切削除去して右眼用映像表示部と左眼用映像表示部とを形成する技術が開示されている。位相差フィルムの切削除去に際して、ダイヤモンドカッターではなく超硬刃を用い、効率的な切削を実現している。
【0007】
また、特許文献2には、右眼用映像表示部と左眼用映像表示部の境界部分に吸光部(ブラックストライプ)を形成する技術が開示されている。ブラックストライプを形成することで、右眼用映像と左眼用映像を確実に分離することができ、鮮明で良好な立体感を有する立体映像の観察が可能になる。
【0008】
【特許文献1】
特開2001−100150号公報
【0009】
【特許文献2】
特開2002−185983号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記分割波長板フィルターに関しては、未だ解決すべき課題が多く、実用化に当たっては、これら課題を改善することが急務である。
【0011】
例えば、上記分割波長板フィルターにおいては、支持体側から画像を観察することになり、したがって、支持体には、通常、ガラス板が用いられている。これは、ガラス板が光透過性に優れること、複屈折がほとんど無いこと等の理由による。通常のプラスチック基板では、複屈折が大きすぎて偏光状態に影響を及ぼす虞れがあり、上記分割波長板フィルターの支持体としては不適当である。
【0012】
しかしながら、ガラス基板は重くて割れやすく、取り扱いが煩雑である。また、薄型化にも限度がある。上記特許文献1には、複屈折の少ないセルロースアセテートブチレート(CAB)板を用いることも開示されているが、セルロースアセテートブチレート板は吸湿性が高く、寸法精度を維持することが難しい。上記分割波長板フィルターは、対応する走査線に位相差フィルムを高精度に位置合わせして設置する必要があり、支持体にも高い寸法精度が要求される。
【0013】
また、上記分割波長板フィルターの作製に際しては、特許文献1にもあるように、位相差フィルムの切削除去が必要である。このとき、位相差フィルムを確実に切断するためには、位相差フィルムの厚さよりも若干切削深さを深くする必要がある。この位相差フィルムの切削除去により形成された切削溝は、そのままにすると光学特性の劣化をもたらすので、例えば紫外線硬化樹脂で埋め込むことが好ましい。
【0014】
しかしながら、上記切削溝は、微細な幅で、しかもある程度の深さを有するので、これを確実に埋め込むことは難しい。例えば、通常の紫外線硬化樹脂で埋め込むと、硬化収縮により埋め込み樹脂層と切削溝底との間に隙間ができてしまう。このような隙間ができると、白濁する等、フィルターの光透過性が著しく劣化する。
【0015】
さらに、ブラックストライプについても問題がある。鮮明な立体映像を得るためにはブラックストライプを形成することが好ましいが、特許文献2に記載されるように分割波長フィルターの表面に形成したのではブラックストライプを損傷する虞れがある。また、ブラックストライプは、その機能を考えたときに位相差フィルムよりも観察者に近い側に配置することが好ましいが、ブラックストライプを表面に形成する技術をそのまま採用すると、ブラックストライプは支持体の外側面に形成することになる。これではブラックストライプと位相差フィルムの間に支持体、接着層(粘着層)、さらには光等方性フィルムが介在することになり、距離が大きくなり過ぎて右眼用映像と左眼用映像を確実に分離することができない。
【0016】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものである。すなわち、本発明は、先ず、軽量化や薄型化が容易で、取り扱い性にも優れた立体映像表示部材を提供することを目的とする。また、本発明は、位相差フィルム切削除去後の切削溝を隙間無く埋め込むことができ、光学特性に優れた立体映像表示部材を提供することを目的とし、さらにはその製造方法を提供することを目的とする。さらに、ブラックストライプを損傷することがなく、鮮明で良好な立体感を有する立体映像を観察することが可能な立体映像表示部材を提供することを目的とし、その製造方法を提供することを目的とする。
【0017】
【課題を解決するための手段】
上述の目的を達成するために、本発明は、透明な支持体上に位相差フィルムが積層されるとともに、当該位相差フィルムが所定の間隔で帯状に切削除去されてなる立体映像表示部材において、上記切削除去により帯状の位相差フィルム間に位相差フィルムの厚さ以上の深さを有する切削溝が形成され、ガラス転移温度が30℃〜80℃であるオリゴマーを20〜70重量%含み、ガラス転移温度が−50℃〜0℃であるモノマーを25〜75重量%含む紫外線硬化樹脂組成物により上記切削溝が埋め込まれていることを特徴とする。
【0020】
紫外線硬化樹脂組成物として、ガラス転移温度が低いモノマーを含有する組成物を用いれば、その柔軟性により切削溝内に密着し、硬化収縮により隙間が生ずることはない。特に、紫外線硬化樹脂組成物の粘度を100〜200mP・sとしておけば、良好な塗布状態を実現することができ、前記と相俟って切削溝内を確実に紫外線硬化樹脂組成物で埋め込むことができる。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を適用した立体映像表示部材及びその製造方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0024】
(第1の実施形態)
【0025】
本実施形態は、立体映像表示部材の支持体を有機無機ナノコンポジット基板とした例である。
【0026】
先ず、本実施形態の立体映像表示部材の説明に先立って、この立体映像表示部材を用いた立体映像表示装置の構成及び動作原理について説明する。
【0027】
本実施形態の立体映像表示部材は、例えばノート型コンピュータの液晶パネルに取り付けて使用され、極めて簡単な構造で立体映像の表示を可能とするものである。図1は、本発明の立体映像表示部材(分割波長板フィルター)1のノート型コンピュータ2の液晶パネル部3への装着状態を示すものである。
【0028】
ノート型コンピュータ2は、折りたたみ構造の液晶パネル部3を有しており、この液晶パネル部3から視差を含む映像を表示することができる。液晶パネル部3自体は、通常のノート型コンピュータの液晶パネル部と同様のものでよく、立体映像を表示するためのアプリケーションが開いていない場合は、通常の画像(動画並びに静止画)を表示することが可能である。
【0029】
ノート型コンピュータ2の本体には、キーボード部4が形成されており、このキーボード部4に連続する形で使用者の手前側にはパームレスト部5が設けられている。また、このパームレスト部5の中央部にはポインタパッド部6が形成されている。
【0030】
上記液晶パネル部3は、ノート型コンピュータ2の本体に対して回動操作可能とされており、使用者が任意の角度に設定することができるとともに、使用していないときにはこれを折り畳むことにより収納、あるいは携帯することができる。また、液晶パネル部3の周囲には、液晶パネル部3を支持する支持フレーム7が設けられており、この支持フレーム7に設けられた突条部8によって上記分割波長板フィルター1の底部が支持される。
【0031】
立体映像の表示は、上記液晶パネル部3と上記分割波長板フィルター1とを組み合わせることで可能になる。図2は、その組み合わせ構造を説明するための分解斜視図である。
【0032】
液晶パネル部3側は、通常の液晶パネルと同様、一対の透明支持基板11,13の間に液晶画素部12が配された構造を有している。液晶画素部12は、例えば赤色画素部12R、緑色画素部12G、青色画素部12Bの組み合わせからなり、これらがマトリクス状に配列されている。また、液晶画素部12には、所要の電気配線が施され、単純マトリクス駆動方式、あるいはアクティブマトリクス駆動方式により表示が行われ、立体画像の表示の際には視差に対応した画像情報を表示する。
【0033】
上記透明支持基板13の観察者側には、偏光板14が配されており、液晶画素部12からの光は、この偏光板14を透過することにより所定の方向の直線偏光とされる。
【0034】
一方、分割波長板フィルター1は、帯状の位相差フィルム15を有しており、その幅は液晶画素部12の画素ピッチと同程度に設定されている、したがって、位相差フィルム15の本数は、液晶画素部12の走査線の数の半分ということになる。
【0035】
立体表示に際しては、液晶画素部12には、右眼用の画像と左眼用の画像が1ラインおきに表示される。このとき、前記画像のいずれか一方(例えば右眼用の画像)は、分割波長板フィルター1の位相差フィルム15を透過することで、その偏光方向が90度回転することになる。他方の画像(例えば左眼用の画像)は、位相差フィルム15を透過しないので、偏光方向は回転せずにそのまま維持される。
【0036】
観察者は、図2(B)に示すような右眼と左眼とでレンズ部分に偏光方向の異なる偏光フィルター16R,16Lが入った偏光メガネ16をかけることで、右眼用の画像と左眼用の画像をそれぞれの眼で認識し、立体映像として認識する。
【0037】
以上が立体映像表示の原理であるが、次に本実施形態の立体映像表示部材、すなわち分割波長板フィルター1の構造について説明する。
【0038】
図3は、分割波長板フィルターの一例を示すものである。分割波長板フィルターは、最も基本的には、光学的に透明な支持体21上に位相差フィルター22を接着剤23によって貼り合わせただけの極めて簡単な構造を有する。
【0039】
位相差フィルム22は、先にも述べた通り、例えば液晶表示部の走査線に対応して帯状に形成されており、走査線の1ラインおきに走査線ピッチと同程度の幅、例えば200μm程度の幅を有して形成されている。この位相差フィルム22は、例えばポリカーボネートフィルムを延伸して複屈折性を付与したものであり、直線偏光を90度回転するという1/2波長板としての機能を有する。
【0040】
上記位相差フィルム22は、切削除去によって所定の幅を持った帯状のパターンとして残存し、例えば位相差フィルム22が残存するラインが右眼用の映像に、位相差フィルム22が切削除去されたラインが左眼用の映像に対応する。位相差フィルム22の厚さは70μm程度であり、上記切削除去に際しては、確実にこれを分断するために前記厚さよりも深く切削する。例えば、複数の切削刃を配列して一度に複数本ずつ切削除去する場合、切り込み深さは切削刃毎に若干異なる虞れがある。これら複数の切削刃全てにおいて確実に切削除去するためには、位相差フィルム22の厚さに所定のマージンを加えて切削することが好ましい。そこで、例えば、支持体21が50μm程度切削されるように切り込みを入れる。その結果、位相差フィルム22と位相差フィルム22の間には、深さ150μm程度の切削溝24が形成されることになる。
【0041】
この切削溝24は、そのまま残存すると分割波長板フィルターの光学特性に悪影響を及ぼす。そこで、例えば紫外線硬化樹脂25によりこの切削溝24を埋め込み、平坦化する。紫外線硬化樹脂25による平坦化により、分割波長板フィルターの光学特性は著しく改善される。
【0042】
上記構造の分割波長板フィルターにおいて、本実施形態では支持体21に有機無機ナノコンポジット基板を用いる。有機無機ナノコンポジット基板は、有機物である樹脂材料に非常に微細な(ナノオーダーの粒径を有する)無機物を混入したものであり、例えば新日鐵化学社製、商品名HT基板等を用いることができる。この有機無機ナノコンポジット基板では、熱特性、光特性、機械特性等の点でプラスチックの域を遙かに超えた物性が実現される。
【0043】
例えば、光特性においては、可視光全域において高い透明性と低複屈折性が実現され、全光線透過率は92%程度、複屈折(可視域)は0.3nm未満である。したがって、上記支持体21に用いても、複屈折が偏光に影響を及ぼすことはなく、ガラス基板を用いた場合と遜色のない光学特性を得ることができる。また、機械特性についても、硬化型樹脂であるため硬度と剛性に優れ、また寸法精度も高い。したがって、例えば表面にハードコート層を設ける必要がなく、表示部に対して高精度の位置合わせも可能である。
【0044】
上記有機無機ナノコンポジット基板は、プラスチック基板と同様、軽量で薄型化が容易であり、またガラス基板のように割れる虞れもないことから取り扱いも容易である。
【0045】
分割波長板フィルターの構造としては、上記図3に示すものに限らず、例えば図4に示すように、支持体21と位相差フィルム22の間に光等方性フィルム26を介在させてもよい。具体的には、支持体21上に接着剤(粘着剤)27によって光等方性フィルム26を貼り付け、この上に接着剤23により位相差フィルム22を貼り付ける。この場合、切削溝24は光等方性フィルム26の厚み方向の中途部に至るまで入れられている。切削溝24内が紫外線硬化樹脂25により埋め込まれていることは、先の例と同様である。
【0046】
上記の構造において、光等方性フィルム26としては、トリアセチルセルロースフィルム(TACフィルム)や無延伸ポリカーボネートフィルム等を使用することができる。ここで、TACフィルムは吸湿性が高いことから、無延伸ポリカーボネートフィルムを用いることが好ましい。ただし、光等方性フィルム26として無延伸ポリカーボネートフィルムを用いる場合には、これと接する接着剤(粘着剤)は有機溶剤を含んでいないことが好ましい。これは、有機溶剤によって無延伸ポリカーボネートフィルムの光等方性が損なわれる虞れがあるからである。したがって、この場合には、接着剤23や接着剤27として、有機溶剤を含まない紫外線硬化接着剤等を用いることが好ましい。
【0047】
かかる構造の分割波長板フィルターにおいても、支持体21に有機無機ナノコンポジット基板を用いることにより、先の例と同様の効果を得ることができる。
【0048】
(第2の実施形態)
【0049】
本実施形態は、切削溝をガラス転移温度の低いモノマーを含む紫外線硬化樹脂組成物で埋め込み、硬化収縮による隙間の発生を防止するものである。分割波長板フィルターの構造は、先の第1の実施形態で説明したもの(図3や図4に示す構造のもの)と同様であり、ここではその説明は省略する。
【0050】
例えば、図4に示す構造の分割波長板フィルターにおいて、切削溝24の幅は200μm程度であり、深さは確実に位相差フィルム22を切断するために150μm程度とされている。このような微細な幅を有し深さの深い切削溝24を紫外線硬化樹脂25で埋める場合、紫外線硬化樹脂25の硬化収縮が問題となる。例えば、通常の紫外線硬化樹脂を用いると、図5(a)に示すように、紫外線硬化樹脂25が硬化に伴って収縮し、切削溝24の底部との間に隙間sが生ずる。このような隙間が生じた分割波長板フィルターを観察すると、白濁等の光学特性の著しい劣化が見られ、使いものにならない。そこで、本実施形態では、ガラス転移温度の低いモノマーを含む紫外線硬化樹脂組成物を用い、図5(b)に示すように、切削溝24を紫外線硬化樹脂25で隙間無く埋め込む。
【0051】
図6は、図4に示す構造の分割波長板フィルターの製造プロセスを示すものである。
【0052】
図4に示す分割波長板フィルターを作製するには、先ず、図6(a)に示すように、支持体21上に接着剤27を介して光等方性フィルム26を貼り合わせる。このとき、支持体21としては、先の第1の実施形態で述べたような有機無機ナノコンポジット基板を用いることが好ましいが、これに限らず、ガラス基板やプラスチック基板(例えば、セルロースアセテートブチレート板)等を用いてもよい。
【0053】
光等方性フィルム26としては、トリアセチルセルロースフィルム(TACフィルム)や無延伸ポリカーボネートフィルム等を使用する。ここで、光等方性フィルム26として無延伸ポリカーボネートフィルムを用いる場合には、これと接する接着剤23や接着剤27として、有機溶剤を含まない紫外線硬化接着剤等を用いる。
【0054】
次に、図6(b)に示すように、上記光等方性フィルム26上に接着剤23を介して位相差フィルム22を貼り合わせる。位相差フィルム22は、例えばポリカーボネートフィルムを所定の方向に延伸し、必要な複屈折性を付与したものである。
【0055】
位相差フィルム22を貼り合わせた後、図6(c)に示すように、当該位相差フィルム22を表示装置の1ラインおきに帯状に残存するように、その一部を切削除去する。このとき、位相差フィルム22が確実に切削除去されるように、位相差フィルム22の厚さ以上、例えば光等方性フィルム26の厚み方向の中途部(例えば50μm程度)まで切削刃が入るように、上記切削除去を行う。
【0056】
なお、この切削除去に際して、光等方性フィルム26として無延伸ポリカーボネートフィルムを用いた場合には、切削時にポリカーボネートのガラス転移温度Tgである150℃を越えないように冷却することが好ましい。切削の際にポリカーボネートからなる光等方性フィルム26の温度がガラス転移温度Tg(150℃)を越えると、光等方性が失われる虞れがある。
【0057】
上記位相差フィルム22の切削除去により、切削溝24が形成されるが、次に、この切削溝24を紫外線硬化樹脂で埋め込む。紫外線硬化樹脂による埋め込みに際しては、図6(d)に示すように、紫外線硬化樹脂を流し込む領域を囲んで枠31を設置する。枠31の上面には、樹脂吸収シート32を貼り付けておき、枠31からはみ出た余分な樹脂を吸収するようにしておく。これにより、端部の樹脂盛り上がりを抑えることができ、平滑な紫外線硬化樹脂層を形成することができる。
【0058】
このように枠31を設置した後、図6(e)に示すように枠31内に紫外線硬化樹脂25を塗布し、これを紫外線硬化する。紫外線硬化樹脂25は、例えばバーコーターを用いて塗布すればよい。なお、紫外線硬化樹脂25の塗布に際しては、紫外線硬化樹脂組成物の粘度が100〜200mP・sの範囲内とすることが好ましい。あまり粘度が高すぎると、微細な切削溝24内に隙間無く充填することが難しくなる。
【0059】
ここで、本実施形態では、紫外線硬化樹脂25を形成するための紫外線硬化樹脂組成物として、ガラス転移温度の低いモノマーを配合した紫外線硬化樹脂組成物を用いる。具体的には、ガラス転移温度が30℃〜80℃であるオリゴマーを20〜70重量%含み、ガラス転移温度が−50℃〜0℃であるモノマーを25〜75重量%含む紫外線硬化樹脂組成物を用いる。このようなガラス転移温度の低いモノマーを配合した紫外線硬化樹脂組成物は硬化後にも柔軟性を有し、上記切削溝24を埋め込んだ際に、硬化収縮による隙間ができることはない。
【0060】
上記モノマーのガラス転移温度が上記範囲を越えて高すぎたり、上記ガラス転移温度を有するモノマーの配合比が上記範囲より少なすぎると、硬化した紫外線硬化樹脂の柔軟性が失われ、切削溝24との間に隙間ができてしまう。逆に、上記モノマーのガラス転移温度が上記下限より低かったり、上記ガラス転移温度を有するモノマーの配合比が上記範囲を越えて多すぎると、紫外線硬化樹脂25の物性の劣化が問題になる。例えば、紫外線硬化樹脂25にタックが生じてしまい、ゴミ等が付着し易くなる。
【0061】
上記紫外線硬化樹脂組成物に用いるガラス転移温度−50℃〜0℃のモノマーとしては、例えばイソアミルアクリレート(Tg:−45℃)、ラウリルアクリレート(Tg:−3℃)、メトキシ−トリエチレングリコールアクリレート(Tg:−50℃)、フェノキシエチルアクリレート(Tg:−22℃)、フェノキシ−ポリエチレングリコールアクリレート(Tg:−25℃)、2−ヒドロキシエチルアクリレート(Tg:−15℃)、2−ヒドロキシプロピルアクリレート(Tg:−7℃)、2−アクリロイロキシエチルコハク酸(Tg:−40℃)、イソステアリルアクリレート(Tg:−7℃)、2−エチルヘキシルメタクリレート(Tg:−10℃)、イソデシルメタクリレート(Tg:−41℃)、トリデシルメタクリレート(Tg:−46℃)、n−デシルアクリレート(Tg:−40℃)、イソオクチルアクリレート(Tg:−45℃)等を挙げることができる。
【0062】
上記オリゴマーとしては、ポリエステルアクリレート系オリゴマー、エポキシアクリレート系オリゴマー、ウレタンアクリレート系オリゴマー、ポリブタジエンアクリレート系オリゴマー等を挙げることができる。これらオリゴマーは、一般には高分子末端をモノマー変性したものであり、高分子骨格によってガラス転移温度が変わる。したがって、ガラス転移温度が30℃〜80℃の範囲内に入るように高分子骨格を設計したものを用いることが好ましい。
【0063】
実際、オリゴマーとして商品名クローダマーE−1644(Tg:51℃)を用い、モノマーとしてフェノキシエチルアクリレート(Tg:−22℃)を用いて紫外線硬化樹脂組成物を調製し、これを用いて切削溝24を埋め込んだ。紫外線硬化樹脂組成物の配合は、オリゴマー50重量部、モノマー45重量部、ラジカル系光重合開始剤(商品名イルガキュア184)5重量部、安定剤(商品名イルガノックス505)0.5重量部である。また、硬化条件は、照度100mW/cm2、積算光量700mJ/cm2とした。その結果、隙間の発生の問題を解消することができた。
【0064】
上記により切削溝24を紫外線硬化樹脂25で埋め込んだ後、紫外線硬化樹脂25上にハードコート層を形成することも可能である。ガラス転移温度の低いモノマーを配合した紫外線硬化樹脂組成物を用いた場合、紫外線硬化樹脂25が柔軟性を有することになる。上記ハードコート層の形成は、表面硬度や表面平滑性を確保する上で有効である。
【0065】
例えば、オリゴマー20重量部、水添ジシクロペンタジエニルジアクリレート80重量部、ラジカル系光重合開始剤(商品名イルガキュア184)5重量部、安定剤(商品名イルガノックス505)0.5重量部なる配合とし、照度100mW/cm2、積算光量700mJ/cm2なる硬化条件で硬化したところ、紫外線硬化樹脂25上に良好なハードコート層が形成された。
【0066】
(第3の実施形態)
【0067】
本実施形態は、光吸収部(ブラックストライプ)の改良に関するものであり、光吸収部を分割波長板フィルターに内在させたものである。
【0068】
分割波長板フィルターの基本的な構造は、先の第1の実施形態や第2の実施形態のものと同様であり、ここでは図4に示す構造のものを基に本実施形態について説明する。
【0069】
図7は、図4に示すものと同様の基本構造を有し、ブラックストライプを内在させた分割波長板フィルターの一例を示すものである。この分割波長板フィルターでは、支持体21上に光吸収部28が印刷形成されており、この上に接着剤27及び接着剤23を介して光等方性フィルム26や位相差フィルム22が貼り合わされている。
【0070】
支持体21としては、先の第1の実施形態で述べたような有機無機ナノコンポジット基板を用いることが好ましいが、これに限らず、ガラス基板やプラスチック基板(例えば、セルロースアセテートブチレート板)等を用いてもよい。上記光吸収部28は、この支持体21の表面にカーボンペースト等を印刷することにより形成される。光吸収部28の形成位置は、帯状の位相差フィルム22の両側縁に沿った部分、すなわち位相差フィルム22が残存する部分と切削除去された部分との境界部である。
【0071】
上記位相差フィルム22は、切削除去によって所定の幅を持った帯状のパターンとして残存し、例えば位相差フィルム22が残存するラインが右眼用の映像に、位相差フィルム22が切削除去されたラインが左眼用の映像に対応する。切削溝24が光等方性フィルム26の厚み方向の中途部に至るまで入れられており、切削溝24内が紫外線硬化樹脂25により埋め込まれていることは、先の各実施形態と同様である。このとき、紫外線硬化樹脂25の形成に、先の第2の実施形態と同様、ガラス転移温度の低いモノマーを配合した紫外線硬化樹脂組成物を用いてもよい。
【0072】
以上の構造を有する分割波長板フィルターでは、光吸収部28が内在されて表面に露出していないため、光吸収部28を不用意に損傷することがない。また、例えば光吸収部28を支持体21の外面に形成する場合と比べて、支持体21の厚さ分だけ光吸収部28と位相差フィルム22との距離を小さくすることができる。支持体21の厚さは光等方性フィルム26や接着剤23,27の厚さに比べて極めて大きく、上記距離は大幅に縮小されることになる。その結果、光吸収部28が確実にその役割を果たし、コントラストが大幅に改善されて鮮明な立体画像を得ることができる。
【0073】
図8は、光吸収部28を光等方性フィルム26上に形成した例を示すものである。本例では、光吸収部28を形成した光等方性フィルム26を、光吸収部28が支持体21と対向するように貼り合わせ、光吸収部28が形成された面とは反対側の面上に位相差フィルム22を貼り合わせている。このような構造を採用することにより、光吸収部28と位相差フィルム22との間隔をより一層小さくすることが可能である。
【0074】
上記のように光吸収部28を内在させることは、分割波長板フィルターを製造する上でも利点を有する。以下、図7に示す分割波長板フィルターの製造プロセスについて説明する。
【0075】
図7に示す分割波長板フィルターを作製するには、先ず、図9(a)に示すように支持体21上に光吸収部28を形成する。光吸収部28は、例えばカーボンペースト等を印刷することにより簡単に形成することができる。
【0076】
次いで、図9(b)に示すように接着剤27や接着剤23を介して光等方性フィルム26や位相差フィルム22を貼り合わせる。その後、図9(c)に示すように、切削刃33により位相差フィルム22を切削除去するが、このとき光吸収部28を切削の位置決めマークとして利用する。これにより高精度な切削除去が可能となる。
【0077】
上記位相差フィルム22の切削除去により切削溝24が形成されるが、次に、図9(d)に示すように、この切削溝24を紫外線硬化樹脂25で埋め込む。紫外線硬化樹脂25を形成するための紫外線硬化樹脂組成物としては、先の第2の実施形態と同様、ガラス転移温度の低いモノマーを配合した紫外線硬化樹脂組成物を用いてもよい。
【0078】
【発明の効果】
以上の説明からも明らかなように、本発明においては、先ず第1に、支持体に有機無機ナノコンポジット基板を用いているので、立体映像表示部材の軽量化、薄型化を実現することが可能である。また、有機無機ナノコンポジット基板は、優れた光特性、機械強度を有するので、立体映像表示部材の光学特性に影響を及ぼすことはなく、また高精度の位置合わせも可能である。
【0079】
第2に、本発明においては、位相差フィルムを切削除去した切削溝をガラス転移温度の低いモノマーを配合した紫外線硬化樹脂組成物を用いて埋め込んでいるので、隙間なく埋め込むことが可能であり、白濁等のない光学特性に優れた立体映像表示部材を提供することが可能である。
【0080】
第3に、本発明においては、光吸収部(ブラックストライプ)を立体映像表示部材に内在するようにしているので、これを不用意に損傷する虞れがなく、信頼性の高い立体映像表示部材を提供することができる。また、光吸収部と位相差フィルム間の距離を縮小することができるので、鮮明で良好な立体感を有する立体映像を得ることが可能な立体映像表示部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】立体映像表示部材のノート型パソコンへの装着の様子を示す概略斜視図である。
【図2】(a)は液晶画素部と分割波長板フィルターとの組み合わせ構造を模式的に示す分解斜視図であり、(b)は偏光メガネの概略斜視図である。
【図3】本発明を適用した立体映像表示部材の一例を示す概略断面図である。
【図4】本発明を適用した立体映像表示部材の他の例を示す概略断面図である。
【図5】切削溝の紫外線硬化樹脂による埋め込み状態を模式的に示す要部概略断面図であり、(a)は隙間が形成されている様子を示し、(b)は隙間が形成されていない様子を示す。
【図6】図4に示す立体映像表示部材の製造プロセスを示す概略断面図であり、(a)は光等方性フィルム貼り合わせ工程、(b)は位相差フィルム貼り合わせ工程、(c)は切削除去工程、(d)は枠設置工程、(e)は紫外線硬化樹脂組成物塗布工程を示す。
【図7】光吸収部を形成した立体映像表示部材の一例を示す概略断面図である。
【図8】光吸収部を形成した立体映像表示部材の他の例を示す概略断面図である。
【図9】図7に示す立体映像表示部材の製造プロセスを示す概略断面図であり、(a)は光吸収部形成工程、(b)は光等方性フィルム及び位相差フィルム貼り合わせ工程、(c)は切削除去工程、(d)は紫外線硬化樹脂組成物塗布工程を示す。
【符号の説明】
1 分割波長板フィルタ(立体映像表示部材)
2 ノート型コンピュータ
3 液晶パネル部
12 液晶画素部
14 偏光板
15 位相差フィルム
21 支持体
22 位相差フィルム
24 切削溝
25 紫外線硬化樹脂
26 光等方性フィルム
28 光吸収部
Claims (21)
- 透明な支持体上に位相差フィルムが積層されるとともに、当該位相差フィルムが所定の間隔で帯状に切削除去されてなる立体映像表示部材において、
上記切削除去により帯状の位相差フィルム間に位相差フィルムの厚さ以上の深さを有する切削溝が形成され、
ガラス転移温度が30℃〜80℃であるオリゴマーを20〜70重量%含み、ガラス転移温度が−50℃〜0℃であるモノマーを25〜75重量%含む紫外線硬化樹脂組成物により上記切削溝が埋め込まれていることを特徴とする立体映像表示部材。 - 上記紫外線硬化樹脂組成物は、塗布時の粘度が100〜200mP・sであることを特徴とする請求項1記載の立体映像表示部材。
- 上記紫外線硬化樹脂組成物の表面にハードコート層が形成されていることを特徴とする請求項1記載の立体映像表示部材。
- 上記位相差フィルムと支持体の間に光等方性フィルムが介在されていることを特徴とする請求項1記載の立体映像表示部材。
- 上記光等方性フィルムは、トリアセチルセルロースフィルムまたはポリカーボネートフィルムであることを特徴とする請求項4記載の立体映像表示部材。
- 上記支持体は、有機無機ナノコンポジット基板からなることを特徴とする請求項1記載の立体映像表示部材。
- 上記有機無機ナノコンポジット基板は、可視光領域における複屈折が0.3nm未満であることを特徴とする請求項6記載の立体映像表示部材。
- 上記切削除去によって上記位相差フィルムが切削除去された部分と、切削除去されていない部分との境界部に沿って光吸収部が形成されており、
上記光吸収部は、上記支持体と位相差フィルムとの間の位置に形成されていることを特徴とする請求項1記載の立体映像表示部材。 - 上記光吸収部は、上記支持体上に形成され、この上に上記位相差フィルムが積層されていることを特徴とする請求項8記載の立体映像表示部材。
- 上記支持体と位相差フィルムの間に光等方性フィルムが介在されていることを特徴とする請求項9記載の立体映像表示部材。
- 上記支持体と位相差フィルムの間に光等方性フィルムが介在され、上記光吸収部は光等方性フィルム上に形成されていることを特徴とする請求項8記載の立体映像表示部材。
- 上記光吸収部が上記支持体と対向するように光等方性フィルムが支持体上に重ね合わされ、
上記光等方性フィルムの光吸収部が形成された面とは反対側の面上に上記位相差フィルムが積層されていることを特徴とする請求項11記載の立体映像表示部材。 - 上記支持体は、有機無機ナノコンポジット基板からなることを特徴とする請求項8記載の立体映像表示部材。
- 上記有機無機ナノコンポジット基板は、可視光領域における複屈折が0.3nm未満であることを特徴とする請求項13記載の立体映像表示部材。
- 透明な支持体上に位相差フィルムを積層し、当該位相差フィルムを所定の間隔で帯状に切削除去して位相差フィルムの厚さ以上の深さを有する切削溝を形成した後、
ガラス転移温度が30℃〜80℃であるオリゴマーを20〜70重量%含み、ガラス転移温度が−50℃〜0℃であるモノマーを25〜75重量%含む紫外線硬化樹脂組成物を塗布して上記切削溝を埋め込むことを特徴とする立体映像表示部材の製造方法。 - 上記紫外線硬化樹脂組成物を塗布する際に、紫外線硬化樹脂組成物の粘度を100〜200mP・sとすることを特徴とする請求項15記載の立体映像表示部材の製造方法。
- 上記紫外線硬化樹脂組成物を塗布する際に、周囲を枠で囲み、この枠内にバーコーターを用いて紫外線硬化樹脂組成物を塗布することを特徴とする請求項15記載の立体映像表示部材の製造方法。
- 上記枠に樹脂吸収シートを貼り付けておくことを特徴とする請求項17記載の立体映像表示部材の製造方法。
- 上記支持体上に光等方性フィルムを積層した後、この上に位相差フィルムを積層し、
上記光等方性フィルムの厚さ方向の中途部に至るまで切削除去することを特徴とする請求項15記載の立体映像表示部材の製造方法。 - 上記光等方性フィルムをポリカーボネートフィルムとし、上記切削除去の際に150℃を越えないように冷却することを特徴とする請求項19記載の立体映像表示部材の製造方法。
- 上記支持体と上記位相差フィルムとの間の位置に光吸収部を形成し、当該光吸収部を位置合わせマークとして上記切削除去を行うことを特徴とする請求項15記載の立体映像表示部材の製造方法。
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