この発明の実施の形態について説明すると、この発明でいう有機色素化合物とは、分子内に可視光を吸収する原子団を有する有機化合物全般を意味し、斯かる有機色素化合物は原子同士が共有結合のみによって結合してなるものであっても、共有結合と、例えば、イオン結合、配位結合などの非共有結合とを介して結合してなるものであってもよい。この発明においては、斯かる要件を充足する有機色素化合物であって、かつ、吸収極大の短波長側で書込光を実質的に吸収するものであるかぎり、特定の化学構造や調製方法のものに限定されることなく、極めて有利に用いることができる。なお、この発明でいう吸収極大とは、特に断らないかぎり、薄膜状態における吸収極大を指すものとする。
この発明で用いる有機色素化合物としては、置換基を1又は複数有することあるモノメチン鎖又はジメチン鎖、トリメチン鎖、テトラメチン鎖、ペンタメチン鎖、ヘキサメチン鎖、ヘプタメチン鎖などのポリメチン鎖の両端に置換基を1又は複数有することある、互いに同じか異なるイミダゾリン環、イミダゾール環、ベンゾイミダソール環、α−ナフトイミダゾール環、β−ナフトイミダゾール環、インドール環、イソインドール環、インドレニン環、イソインドレニン環、ベンゾインドレニン環、ピリジノインドレニン環、オキサゾリン環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、ベンゾオキサゾール環、ピリジノオキサゾール環、α−ナフトオキサゾール環、β−ナフトオキサゾール環、セレナゾリン環、セレナゾール環、ベンゾセレナゾール環、α−ナフトセレナゾール環、β−ナフトセレナゾール環、チアゾリン環、チアゾール環、イソチアゾール環、ベンゾチアゾール環、α−ナフトチアゾール環、β−ナフトチアゾール環、テルラゾリン環、テルラゾール環、ベンゾテルラゾール環、α−ナフトテルラゾール環、β−ナフトテルラゾール環、さらには、アクリジン環、アントラセン環、イソキノリン環、イソピロール環、イミダノキサリン環、インダンジオン環、インダゾール環、インダリン環、オキサジアゾール環、カルバゾール環、キサンテン環、キナゾリン環、キノキサリン環、キノリン環、クロマン環、シクロヘキサンジオン環、シクロペンタンジオン環、シンノリン環、チオジアゾール環、チオオキサゾリドン環、チオフェン環、チオナフテン環、チオバルビツール酸環、チオヒダントイン環、テトラゾール環、トリアジン環、ナフタレン環、ナフチリジン環、ピペラジン環、ピラジン環、ピラゾール環、ピラゾリン環、ピラゾリジン環、ピラゾロン環、ピラン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピリリウム環、ピロリジン環、ピロリン環、ピロール環、フェナジン環、フェナントリジン環、フェナントレン環、フェナントロリン環、フタラジン環、プテリジン環、フラザン環、フラン環、プリン環、ベンゼン環、ベンゾオキサジン環、ベンゾピラン環、モルホリン環、ロダニン環などの環状核が結合してなるシアニン色素、メロシアニン色素、オキソノール色素、アズレニウム色素、スクアリリウム色素、ピリリウム色素、チオピリリウム色素、フェナントレン色素などのポリメチン系色素に加えて、アクリジン系、アザアヌレン系、アゾ金属錯体系、アントラキノン系、インジゴ系、インダンスレン系、オキサジン系、キサンテン系、ジオキサジン系、チアジン系、チオインジゴ系、テトラピラポルフィラジン系、トリフェニルメタン系、トリフェノチアジン系、ナフトキノン系、フタロシアニン系、ベンゾキノン系、ベンゾピラン系、ベンゾフラノン系、ポルフィリン系、ローダミン系の色素を挙げることができる。
特に望ましい有機色素化合物は、一般式1乃至一般式3のいずれかで表されるシアニン色素若しくはスチリル色素又はアゾ化合物の金属錯体であって、波長850nmより短波長に吸収極大を有し、光記録媒体に用いると、その吸収極大の短波長側において波長700nm以下の書込光、とりわけ、波長390乃至450nm又は波長630乃至680nmの範囲の書込光を実質的に吸収するものである。
一般式1及び一般式2を通じて、Z1乃至Z3は、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、ピリジン環、キノリン環、キノキサリン環などの芳香環を表し、それらの芳香環は置換基を1又は複数有していてもよい。置換基の例としては、例えば、メチル基、トリフルオロメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、5−メチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基などの脂肪族炭化水素基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などの脂環式炭化水素基、フェニル基、ビフェニリル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、キシリル基、メシチル基、o−クメニル基、m−クメニル基、p−クメニル基などの芳香族炭化水素基、メトキシ基、トリフルオロメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、フェノキシ基、ベンゾイルオキシ基などのエーテル基、メトキシカルボニル基、トリフルオロメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、アセトキシ基、ベンゾイルオキシ基などのエステル基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基などのハロゲン基、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ブチルチオ基、フェニルチオ基などのチオ基、メチルスルファモイル基、ジメチルスルファモイル基、エチルスルファモイル基、ジエチルスルファモイル基、プロピルスルファモイル基、ジプロピルスルファモイル基、ブチルスルファモイル基、ジブチルスルファモイル基などのスルファモイル基、第一級アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、エチルアミノ基、ジエチルアミノ基、プロピルアミノ基、ジプロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、ブチルアミノ基、ジブチルアミノ基、ピペリジノ基などのアミノ基、メチルカルバモイル基、ジメチルカルバモイル基、エチルカルバモイル基、ジエチルカルバモイル基、プロピルカルバモイル基、ジプロピルカルバモイル基などのカルバモイル基、さらには、ヒドロキシ基、カルボキシ基、シアノ基、ニトロ基、スルフィノ基、スルホ基、メシル基などが挙げられる。なお、一般式1において、Z1及びZ2は互いに同じものであっても異なるものであってもよい。
一般式1及び一般式2におけるY1乃至Y3は炭素原子又はヘテロ原子を表し、ヘテロ原子の例としては、例えば、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、セレン原子、テルル原子などの周期律表における第15族及び第16族の原子が挙げられる。なお、Y1乃至Y3における炭素原子は、例えば、エチレン基やビニレン基などの2個の炭素原子を主体とする原子団であってもよい。また、一般式1におけるY1及びY2は互いに同じものであっても異なるものであってもよい。
一般式1及び一般式2におけるR1及びR2並びにR7乃至R9は脂肪族炭化水素基を表す。脂肪族炭化水素基の例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、イソプロペニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、2−ブテニル基、1,3−ブタジエニル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、2−ペンテニル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、5−メチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基などが挙げられ、斯かる脂肪族炭化水素基はZ1乃至Z3におけると同様の置換基を1又は複数有していてもよい。なお、一般式1におけるR1及びR2並びに一般式2におけるR7乃至R9は、それぞれ、互いに同じものであっても異なるものであってもよい。
一般式1及び一般式2におけるR3乃至R5並びにR10及びR11は、個々の一般式においてそれぞれ独立に、水素原子又は適宜の置換基を表す。置換基の例としては、例えば、メチル基、トリフルオロメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、5−メチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基などの脂肪族炭化水素基、メトキシ基、トリフルオロメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、フェノキシ基、ベンゾイルオキシ基などのエーテル基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基などのハロゲン基、さらには、ヒドロキシ基、カルボキシ基、シアノ基、ニトロ基などが挙げられる。なお、一般式1及び一般式2において、Y1乃至Y3がヘテロ原子である場合、Z1及びZ2におけるR3乃至R6の一部又は全部、また、Z3におけるR10及びR11の一方若しくは両方が存在しないこととなる。
一般式1及び一般式2におけるL1及びL2はポリメチン鎖を表し、一般式1におけるL1としては、例えば、トリメチン鎖、ペンタメチン鎖、ヘプタメチン鎖などの、奇数個のメチン基が連なってなるポリメチン鎖から、また、一般式2におけるL2としては、例えば、ジメチン鎖、テトラメチン鎖、ヘキサメチン鎖などの、偶数個のメチン基が連なってなるポリメチン鎖から選択される。斯かるポリメチン鎖は置換基及び/又は環状基を有していてもよく、置換基の例としては、例えば、メチル基、トリフルオロメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基などの脂肪族炭化水素基、メトキシ基、トリフルオロメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基などのエーテル基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基などのハロゲン基、ジフェニルアミノ基、p−メトキシジフェニルアミノ基などのアミノ基、さらには、ニトロ基、シアノ基などが挙げられ、また、環状基としては、例えば、シクロペンテン環、シクロヘキセン環などが挙げられる。ちなみに、波長660nm付近の書込光を用いる光記録媒体における光吸収剤としては、一般式1で表される有機色素化合物であって、L1がヘプタメチン鎖であるものが望ましい。また、波長405nm付近の書込光を用いる光記録媒体へ一般式1又は一般式2で表される有機色素合物を適用する場合には、L1及びL2として、それぞれ、トリメチン鎖及びジメチン鎖を有するものが望ましい。
一般式1及び一般式2におけるX1及びX2は対イオンであって、有機溶剤における有機色素化合物の溶解度やガラス状態における安定性を勘案しながら適宜のものとすればよく、通常、弗素イオン、塩素イオン、臭素イオン、沃素イオン、過塩素酸イオン、過沃素酸イオン、六弗化燐酸イオン、六弗化アンチモン酸イオン、六弗化錫酸イオン、硝酸イオン、燐酸イオン、硼弗化水素酸イオン、四弗硼素酸イオンなどの無機酸アニオン、サリチル酸、p−ヒドロキシサリチル酸、チオシアン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、ナフタレンスルホン酸イオン、ナフタレンジスルホン酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン、アルキルスルホン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、アルキルカルボン酸イオン、トリハロアルキルカルボン酸イオン、アルキル硫酸イオン、トリハロアルキル硫酸イオン、ニコチン酸イオンなどの有機酸アニオン、さらには、アゾ系、ビスフェニルジチオール系、チオカテコールキレート系、チオビスフェノレートキレート系、ビスジオール−α−ジケトン系などの有機金属錯体アニオン、さらには、トリメチルアンモニウムイオン、トリエチルアンモニウムイオンなどのカチオンから選択する。
一般式3について説明すると、Z4及びZ5は互いに同じか異なる芳香族炭化水素又は複素環基を表し、芳香族炭化水素基の例としては、例えば、フェニル基、ビフェニリル基、ナフチル基などが、また、複素環基の例としては、例えば、ピリジル基、キノリル基、イソオキサゾリル基、イソチアゾリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、チオジアゾリル基、ピラゾリル基などが挙げられる。斯かる芳香族炭化水素基及び複素環基は置換基を1又は複数有していてもよく、置換基の例としては、例えば、一般式1及び一般式2のZ1乃至Z3におけると同様の置換基が挙げられる。一般式3におけるR12は、例えば、フェノール性ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルフィノ基、スルホ基などの酸性基を表し、これらの酸性基は無機塩基又は有機塩基との塩の形態であってもよい。
一般式3で表されるアゾ化合物は、通常、その1又は複数が金属(中心原子)に配位してなる金属錯体の形態で用いられる。中心原子となる金属としては、通常、周期律表における第3族乃至第12族の金属元素であって、例えば、原子、酸化物、あるいは、弗化物、臭化物、沃化物などのハロゲン化物の形態にあるものが挙げられる。斯かる金属元素の例としては、例えば、スカンジウム、イットリウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、テクネチウム、レニウム、鉄、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金、亜鉛、カドミウム、水銀などが挙げられる。
望ましいのは2価の金属(M)を中心原子とする金属錯体であって、とりわけ、一般式4で表される金属錯体である。一般式4において、Azは一般式3で表されるアゾ化合物であって、mはMに配位する配位子(Az)としてのアゾ化合物の数を表し、通常、1又は2である。Dは適宜対イオンを表し、nは錯体における電荷の均衡を保つためのDの数である。この発明で用いるアゾ金属錯体は、通常、−2価、0価又は1価の電荷をとるが、電荷が0価であるときのnは零であり、したがって、Dは存在しないこととなる。対イオンDとしては、例えば、六弗化燐酸イオン、弗素酸イオン、臭素酸イオン、沃素酸イオン、硝酸イオン、燐酸イオン、過塩素酸イオン、過沃素酸イオン、六弗化アンチモン酸イオン、六弗化錫酸イオン、硼弗化水素酸イオン、四弗硼素酸イオン、チオシアン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、ナフタレンスルホン酸イオン、ベンゼンカルボン酸イオン、アルキルカルボン酸イオン、トリハロアルキルカルボン酸イオン、アルキル硫酸イオン、トリハロアルキル硫酸イオン、ニコチン酸イオンなどのアニオンや、アンモニウムイオン、テトラアルキルアンモニウムイオンなどのカチオンが挙げられる。
なお、一般式1乃至一般式3で表される有機色素化合物において、構造上、シス/トランス異性体などの異性体が存在する場合には、いずれの異性体もこの発明に包含されるものとする。
この発明で用いる有機色素化合物の例としては、例えば、化学式1乃至化学式38で表されるものが挙げられる。このうち、化学式1乃至化学式19で表されるものは波長630乃至680nm付近の書込光を用いる光記録媒体において、また、化学式20乃至化学式38で表されるものは波長390乃至450nm付近の書込光を用いる光記録媒体において極めて有用である。化学式1乃至化学式38で表される有機色素化合物は、いずれも、吸収極大の短波長側で上記のごとき書込光を実質的に吸収する。すなわち、化学式1乃至化学式19で表される有機色素化合物は、いずれも、680nmより長波長に吸収極大を有し、吸収極大の短波長側で波長630乃至680nm付近の書込光を実質的に吸収する。また、化学式20乃至化学式38で表される有機色素化合物は、いずれも、450nmより長波長に吸収極大を有し、吸収極大の短波長側で波長390乃至450nm付近の書込光を実質的に吸収する。ちなみに、化学式2で表される有機色素化合物は、薄膜状態において、図1に見られるがごとき可視吸収スペクトルを示す。図1の可視吸収スペクトルから明らかに、化学式2で表される有機色素化合物は波長730nm及び820nm付近にそれぞれ吸収極大を有し、それらの吸収極大の短波長側において波長660nm付近の書込光を実質的に吸収する。なお、化学式1乃至化学式38で表される化合物は、いずれも、公知の方法によるか、あるいは、類縁化合物を調製するための公知の方法に準じて所望量を得ることができる。
この発明は、既述のとおり、基板と、有機色素化合物を用いてその基板上に設けられた記録層とを含んでなり、その記録層へ書込光を照射し、有機色素化合物をして基板にピットを形成せしめることによって情報を記録する光記録媒体を主たる適用対象とするものである。
斯かる光記録媒体は、この発明の有機色素化合物を用いることによって、従来公知の光記録媒体に準じて作製することができる。一般的な方法としては、例えば、上記したごとき有機色素化合物と、記録層における光反射率や光吸収率を調節すべく、必要に応じて、可視光に感度を有する他の色素化合物の1又は複数を含有せしめたり、汎用の耐光性改善剤、バインダー、分散剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、界面活性剤、可塑剤などを1又は複数添加したうえで有機溶剤に溶解し、溶液を噴霧法、浸漬法、ローラー塗布法、回転塗布法などにより基板の片面に均一に塗布し、乾燥させることによって記録層となる薄膜を形成した後、必要に応じて、光反射率が45%以上、望ましくは、55%以上になるように、真空蒸着法、化学蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などにより、金、銀、銅、白金、アルミニウム、コバルト、錫、ニッケル、鉄、クロムなどの金属若しくはそれらの合金か、あるいは、汎用の有機系反射層用材による記録層に密着する反射層を形成したり、傷、埃、汚れなどから記録層を保護する目的で、難燃剤、安定剤、帯電防止剤などを含有せしめた紫外線硬化樹脂や熱硬化樹脂などを塗布し、光照射するか加熱して硬化させることによって反射層に密着する保護層を形成する。その後、必要に応じて、上述のようにして記録層、反射層及び記録層を形成した一対の基板を、例えば、接着剤、粘着シートなどにより保護層同士を対向させて貼合せるか、あるいは、保護層に対して基板におけると同様の材料、形状の保護板を貼り付ける。なお、記録層を形成する方法は、当該有機色素化合物を溶液にして塗布する方法に限定されてはならず、昇華性のある有機色素化合物については、それ以外の、例えば、真空蒸着法、化学蒸着法、原子層エピタクシー法などの方法により、有機色素化合物の薄膜を基板上に直接形成してもよい。
耐光性改善剤としては、例えば、ニトロソジフェニルアミン、ニトロソアニリン、ニトロソフェノール、ニトロソナフトールなどのニトロソ化合物や、テトラシアノキノジメタン化合物、ジインモニウム塩、ビス[2´−クロロ−3−メトキシ−4−(2−メトキシエトキシ)ジチオベンジル]ニッケル(商品名『NKX−1199』、株式会社林原生物化学研究所製造)、アゾ系金属錯体、ホルマザン金属錯体などの金属錯体が用いられ、必要に応じて、これらは適宜組合せて用いられる。望ましい耐光性改善剤はニトロソ化合物やホルマザン金属錯体を含んでなるものであり、特に望ましいのは、同じ特許出願人による特願平11−88983号明細書(発明の名称「フェニルピリジルアミン誘導体」)に開示されたフェニルピリジルアミン骨格を有するニトロソ化合物か、あるいは、特願平11−163036号明細書(発明の名称「ホルマザン金属錯体」)に開示された、ホルマザン骨格における5位の位置にピリジン環を有し、かつ、3位の位置にピリジン環若しくはフラン環が結合してなるホルマザン化合物又はその互変異性体の1又は複数を配位子とする、例えば、ニッケル、亜鉛、コバルト、鉄、銅、パラジウムなどとの金属錯体を含んでなるものである。斯かる耐光性改善剤と併用するときには、有機溶剤における当該有機色素化合物の溶解性を低下させたり、望ましい光特性を実質的に損なうことなく、読取光や環境光などへの露光による有機色素化合物の劣化、退色、変色、変性などの望ましくない変化を効果的に抑制することができる。配合比としては、通常、有機色素化合物1モルに対して、耐光性改善剤を0.01乃至5モル、望ましくは、0.1乃至2モルの範囲で加減しながら含有せしめる。
有機色素化合物を基板に塗布するための有機溶剤としては、光記録媒体の作製に頻用されるTFPか、あるいは、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、イソプロピルシクロヘキサン、tert−ブチルシクロヘキサン、オクタン、シクロオクタン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素類、四塩化炭素、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,2−ジブロモエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、α−ジクロロベンゼンなどのハロゲン化物、メタノール、エタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、2−メトキシエタノール(メチルセロソルブ)、2−エトキシエタノール(エチルセロソルブ)、2−イソプロポキシ−1−エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、1−ブタノール、1−メトキシ−2−ブタノール、3−メトキシ−1−ブタノール、4−メトキシ−1−ブタノール、イソブチルアルコール、ペンチルアルコール、イソペンチルアルコール、シクロヘキサノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ジアセトンアルコール、フェノール、ベンジルアルコール、クレゾールなどのアルコール類及びフェノール類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4−ジオキサン、アニソール、1,2−ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジシクロヘキシル−18−クラウン−6、メチルカルビトール、エチルカルビトールなどのエーテル類、フルフラール、アセトン、1,3−ジアセチルアセトン、エチルメチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、燐酸トリメチルなどのエステル類、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチル燐酸トリアミドなどのアミド類、アセトニトリル、プロピオニトリル、スクシノニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、ニトロメタン、ニトロベンゼンなどのニトロ化合物、エチレンジアミン、ピリジン、ピペリジン、モルホリン、N−メチルピロリドンなどのアミン類、ジメチルスルホキシド、スルホランなどの含硫化合物をはじめとするTFP以外の汎用の有機溶剤から選択し、必要に応じて、これらを適宜混合して用いる。
基板も汎用のものでよく、通常、圧出成形法、射出成形法、圧出射出成形法、フォトポリマー法(2P法)、熱硬化一体成形法、光硬化一体成形法などにより適宜の材料を最終用途に応じて、例えば、直径12cm、厚さ0.6mm又は1.2mmのディスク状に形成し、これを単板で用いるか、あるいは、粘着シート、接着剤などにより適宜貼合せて用いる。基板の材料としては、実質的に透明で、波長400乃至800nmの範囲の光に対して80%以上、望ましくは、90%以上の透過率を有するものであれば、原理上、材質は問わない。個々の材料としては、例えば、ガラス、セラミックのほかに、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスチレン(スチレン共重合物)、ポリメチルペンテン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリカーボネート・ポリスチレン−アロイ、ポリエステルカーボネート、ポリフタレートカーボネート、ポリカーボネートアクリレート、非晶性ポリオレフィン、メタクリレート共重合物、ジアリルカーボネートジエチレングリコール、エポキシ樹脂などのプラスチックが用いられ、通常、ポリカーボネートが頻用される。プラスチック製基板の場合、同期信号並びにトラック及びセクターの番地を表示する凹部は、通常、成形の際にトラック内周に転写される。その凹部は、形状については特に制限はないものの、平均幅が0.1乃至0.8μmの範囲になるように、また、深さが20乃至300nmの範囲になるようにするのが望ましい。
基板に当該有機色素化合物を塗布することによって記録層を構成する場合には、有機色素化合物を前述のごとき有機溶剤における濃度0.5乃至5%(w/w)の溶液にして、乾燥後の記録層の厚みが10乃至1,000nm、望ましくは、50乃至500nmになるように基板に均一に塗布する。なお、溶液の塗布に先立って、基板の保護や接着性の改善などを目的に、必要に応じて、基板に下引層を設けてもよく、下引層の材料としては、例えば、イオノマー樹脂、ポリアミド樹脂、ビニル系樹脂、天然樹脂、シリコン、液状ゴムなどの高分子物質が挙げられる。また、バインダーを用いる場合には、ニトロセルロース、燐酸セルロース、硫酸セルロース、酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、パルミチン酸セルロース、酢酸・プロピオン酸セルロースなどのセルロースエステル類、メチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロース、ブチルセルロースなどのセルロースエステル類、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどのビニル樹脂、スチレン−ブタジエンコポリマー、スチレン−アクリロニトリルコポリマー、スチレン−ブタジエン−アクリロニトリルコポリマー、塩化ビニル−酢酸ビニルコポリマー、無水マレイン酸共重合体などの共重合樹脂類、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリアクリロニトリルなどのアクリル樹脂類、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル類、ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン類をはじめとするポリマーが単独又は組合せて、重量比で、有機色素化合物の0.01乃至10倍用いられる。
この発明による光記録媒体の使用方法について説明すると、この発明によるDVD−Rなどの高密度光記録媒体は、例えば、GaN系、AlGaInP系、GaAsP系、GaAlAs系、InGaP系、InGaAsP系若しくはInGaAlP系の半導体レーザーか、あるいは、分布帰還型、ブラッグ反射型などの第二高調波発生素子(SHG素子)と組合せたNd−YAGレーザーなどによる波長680nm以下のレーザー光、とりわけ、390乃至450nm、あるいは、630乃至680nmのレーザー光を用いて諸種の情報を高密度に書き込むことができる。読取には、書込におけると同様の波長か、あるいは、それをやや上回る波長のレーザー光を用いる。書込、読取の際のレーザー出力について言えば、この発明において有機色素化合物と組合せて用いる耐光性改善剤の種類と配合量にもよるけれども、この発明による光記録媒体においては、情報を書き込むときのレーザー出力は、ピットが形成されるエネルギーの閾値を越えて比較的強めに、一方、書き込まれた情報を読み取るときの出力は、その閾値を下回って比較的弱めに設定するのが望ましい。一般的には、4mWを上回り、50mWを越えない範囲で書き込み、読取は0.1乃至4mWの範囲で加減する。記録された情報は、光ピックアップにより、光記録媒体の記録面におけるピットとピットが形成されていない部分の反射光量又は透過光量の変化を検出することによって読み取る。
斯くして、この発明による光記録媒体においては、波長700nm以下のレーザー光によるピックアップを用いることによって、現行の標準的なCD−Rに採用されている1.6μmを下回るトラックピッチで0.834μm/ピットを下回るピット長の微小なピットを高密度に形成することができる。したがって、例えば、直径12cmのディスク状基板を用いる場合には、現行の標準的なCD−Rによっては容易に達成できなかった、記録容量が片面で0.682GBを遥かに越え(通常、片面4.7GB以上)、画像及び音声を約2時間分記録できる極めて高密度の光記録媒体を実現できることとなる。
この発明による光記録媒体は、文字情報、画像情報、音声情報及びその他のデジタル情報を高密度に記録することができるので、文書、図面、データ及びコンピュータープログラムなどを記録・管理するための民生用及び業務用記録媒体として極めて有用である。この発明による光記録媒体を用い得る個々の業種と情報の形態としては、例えば、建設・土木における建築・土木図面、地図、道路・河川台帳、アパチュアカード、建築物見取図、災害防止資料、配線図、配置図、新聞・雑誌情報、地域情報、工事報告書など、製造における設計図、成分表、処方、商品仕様書、商品価格表、パーツリスト、メンテナンス情報、事故・故障事例集、苦情処理事例集、製造工程表、技術資料、デッサン、ディテール、自社作品集、技術報告書、検査報告書など、販売における顧客情報、取引先情報、会社情報、契約書、新聞・雑誌情報、営業報告書、企業信用調査、在庫一覧など、金融における会社情報、株価記録、統計資料、新聞・雑誌情報、契約書、顧客リスト、各種申請・届出・免許・許認可書類、業務報告書など、不動産・運輸における物件情報、建築物見取図、地図、地域情報など、電力・ガスにおける配線・配管図、災害防止資料、作業基準表、調査資料、技術報告書など、医療におけるカルテ、病歴・症例ファイル、医療関係図など、塾・予備校におけるテキスト、問題集、教育用資料、統計資料など、大学・研究所における学術論文、学会記録、研究月報、研究データ、文献及び文献のインデックスなど、情報における調査データ、論文、特許公報、天気図、データ解析記録、顧客ファイルなど、法律における判例など、観光における観光情報、交通情報など、マスコミ・出版における自社出版物のインデックス、新聞・雑誌情報、人物ファイル、スポーツ記録、テロップファイル、放送台本など、官庁関係における地図、道路・河川台帳、指紋ファイル、住民票、各種申請・届出・免許・許認可資料、統計資料、公共資料などが挙げられる。とりわけ、一回のみ書き込めるこの発明の光記録媒体は、記録情報が改竄されたり消去されてはならない、例えば、カルテや公文書などの記録保存に加えて、美術館、図書館、博物館、放送局などの電子ライブラリーとしても極めて有用である。
この発明による光記録媒体のやや特殊な用途としては、コンパクトディスク、デジタルビデオディスク、レーザーディスク、MD(光磁気ディスクを用いる情報記録システム)、CDV(コンパクトディスクを利用するレーザーディスク)、DAT(磁気テープを利用する情報記録システム)、CD−ROM(コンパクトディスクを利用する読取専用メモリ)、DVD−RAM(デジタルビデオディスクを利用する書込可能な読取メモリ)、デジタル写真、映画、ビデオソフト、オーディオソフト、コンピューターグラフィック、出版物、放送番組、コマーシャルメッセージ、ゲームソフトなどの編集、校正、さらには、大型コンピューター、カーナビゲーション用の外部プログラム記録手段としての用途が挙げられる。
以下、この発明の実施の形態につき、実施例に基づいて説明する。