JP3832137B2 - エンジンの燃料供給制御装置 - Google Patents

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  • Electrical Control Of Air Or Fuel Supplied To Internal-Combustion Engine (AREA)
  • Combined Controls Of Internal Combustion Engines (AREA)

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明はエンジンの燃料供給制御装置、特にガソリンエンジン用燃料の燃料性状を検出して、これを燃料供給量の演算に活かすようにしたものに関する。
【0002】
【従来の技術】
エンジンが不安定となる冷間始動時に、始動後増量補正係数により燃料増量を行い、空燃比を理論空燃比よりもリッチ側の値とすることによってエンジンを安定させるようにしたものがある(特開平6−105129号公報参照)。
また、始動後できるだけ早く空燃比フィードバック制御に入ったほうが三元触媒の活用される領域が拡大して排気性能が改善されるため、水温増量補正係数KTWによる燃料増量が行われれている途中でもO2センサ出力が活性した段階で水温増量補正係数KTWによる燃料増量を停止して空燃比フィードバック制御を開始するものがあり、このものでは、空燃比フィードバック制御の開始直後に実空燃比がリッチ側よりリーン側へと一気に変化して運転性が悪化するので、これを避けるため、未燃分増量補正係数により燃料増量を行うことによって、空燃比フィードバック制御の開始直後から実空燃比を速やかに理論空燃比付近へと収束させるようにしたものがある(特開平10−18883号公報参照)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記の始動後増量補正係数による噴射量補正が必要となる理由は次の通りである。吸気ポートに臨んで設けられている燃料噴射弁で具体的に述べると、噴射弁からの噴射燃料は、その全てが噴霧のまま気流に乗ってシリンダに導入されるのではなく、吸気弁傘裏部や吸気ポート壁に付着して液状となる。この吸気ポート壁に付着した燃料は、液状のままポート壁をゆっくりと伝いつつシリンダに到達する。つまり、この分の燃料(壁流燃料)だけは燃料供給遅れが生じて空燃比がリーン側に傾いてしまうのである。
【0004】
また、上記の未燃分増量補正係数による噴射量補正が必要になるのは、燃焼に寄与しない燃料分(つまり未燃分)があり、この分だけ空燃比がリーン側に傾くからである。ここで、未燃分には、たとえば燃焼せずにそのまま未燃HCとして排出される燃料分やシリンダ内からピストンリングの隙間を介してクランクケース内に出てオイル中に溶け込む燃料分がある。上記の壁流燃料が、応答遅れがあるもののシリンダ内に必ず入ってそのほとんどが燃焼に寄与するの対して、未燃分は燃焼に寄与することがない点で、両者が区別されている。
【0005】
この場合、壁流燃料や未燃分の量は、さらに燃料の性状(特に揮発性)にも依存し、揮発性が悪い燃料ほど壁流燃料や未燃分の量が多くなる。こうした燃料の揮発性の違いによる燃料壁流や未燃分の量の差を考慮し、従来の各種噴射量補正では、市販されている燃料のうち最も揮発性の悪い燃料(最重質ガソリン)が使用される場合でも、冷間時のエンジン回転が不安定とならないようにマッチングされている。上記の始動後増量補正係数や未燃分増量補正係数であれば、始動後増量補正係数や未燃分増量補正係数を演算する際に用いるデータを最重質ガソリンに対してマッチングする。
【0006】
しかしながら、最重質ガソリンよりも揮発性の良い燃料が使用されるときは、壁流燃料を対象とした噴射量補正量である場合にその噴射量補正量が大きくなり過ぎ、これによって最重質ガソリン使用時よりも空燃比がリッチ側に傾くため、排気エミッション(特にCO、HC)が悪くなる。また、未燃分を対象とした噴射量補正量である場合に最重質ガソリンよりも揮発性の良い燃料が使用されるときにも、その噴射量補正量が実質的に大きくなり、これによって最重質ガソリン使用時よりも空燃比がリッチに傾くため、排気エミッション(特にCO、HC)が悪くなる。
【0007】
そこで本発明は、過渡時に燃料供給量に対する排気空燃比の応答波形をサンプリングし、これら過渡時データに基づいて、予めECM(エレクトロニックコントロールモジュール)上に構築したプラントモデルのパラメータを、基準燃料に対するプラントモデルである規範モデルとの予測誤差が最小となるように調整することにより、使用燃料に対するプラントモデルを同定し、この同定したプラントモデルのカットオフ周波数と規範モデルに対するカットオフ周波数とを比較することにより、使用燃料の燃料性状の推定を可能とするとともに、その推定結果を燃料供給量の演算に活かすことにより、燃料性状に応じた最適な燃料供給量を与えることを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
第1の発明は、図64に示すように、エンジンの運転条件に応じた燃料供給量をエンジンに供給する手段51と、エンジンの排気空燃比を検出する手段52と、過渡時に前記燃料供給量を入力、前記排気空燃比を出力として現在の使用燃料での前記燃料供給量に対する排気空燃比の応答波形のデータをサンプリングする手段53と、これら入出力データに基づいて、予め構築したプラントモデルのパラメータを規範モデルとの予測誤差が小さくなるように調整することにより、前記使用燃料に対するプラントモデルを同定する手段54と、この同定されたプラントモデルのカットオフ周波数fcRealを演算する手段55と、前記規範モデルを基準燃料に対してマッチングしてある場合に、このプラントモデルのカットオフ周波数fcRealと規範モデルのカットオフ周波数fcRefとを比較し、プラントモデルのカットオフ周波数fc Real が規範モデルのカットオフ周波数fc Ref より高いとき、前記使用燃料の燃料性状は前記よりも軽質であると、またプラントモデルのカットオフ周波数fc Real が規範モデルのカットオフ周波数fc Ref より低いとき、前記使用燃料の燃料性状は前記基準燃料よりも重質であると推定する手段56と、この燃料性状の推定結果に基づいて前記燃料供給量を演算する手段57とを設けた。
【0009】
第2の発明は、図65に示すように、エンジンの運転条件に応じた燃料供給量をエンジンに供給する手段51と、エンジンの排気空燃比を検出する手段52と、過渡時に前記燃料供給量を入力、前記排気空燃比を出力として現在の使用燃料での前記燃料供給量に対する排気空燃比の応答波形のデータをサンプリングする手段53と、これら入出力データに基づいて、予め構築したプラントモデルのパラメータを規範モデルとの予測誤差が小さくなるように調整することにより、前記使用燃料に対するプラントモデルを同定する手段54と、この同定されたプラントモデルのカットオフ周波数fcRealを演算する手段55と、前記規範モデルを基準燃料に対してマッチングしてある場合に、このプラントモデルのカットオフ周波数fcRealと規範モデルのカットオフ周波数fcRefの差と、基準燃料の許容範囲とを比較し、プラントモデルのカットオフ周波数fc Real と規範モデルのカットオフ周波数fc Ref の差が基準燃料の許容範囲外であり、かつプラントモデルのカットオフ周波数fc Real が規範モデルのカットオフ周波数fc Ref よりも大きいとき、前記使用燃料の燃料性状は前記基準燃料よりも軽質であると、またプラントモデルのカットオフ周波数fc Real と規範モデルのカットオフ周波数fc Ref の差が基準燃料の許容範囲外であり、かつプラントモデルのカットオフ周波数fc Real が規範モデルのカットオフ周波数fc Ref より小さいとき、前記使用燃料の燃料性状は前記基準燃料よりも重質であると推定する手段61と、この燃料性状の推定結果に基づいて前記燃料供給量を演算する手段62とを設けた。
【0010】
第3の発明は、図66に示すように、エンジンの運転条件に応じた燃料供給量をエンジンに供給する手段51と、エンジンの排気空燃比を検出する手段52と、過渡時に前記燃料供給量を入力、前記排気空燃比を出力として現在の使用燃料での前記燃料供給量に対する排気空燃比の応答波形のデータをサンプリングする手段53と、これら入出力データに基づいて、予め構築したプラントモデルのパラメータを規範モデルとの予測誤差が小さくなるように調整することにより、前記使用燃料に対するプラントモデルを同定する手段54と、この同定されたプラントモデルのカットオフ周波数fcRealを演算する手段55と、前記規範モデルを基準燃料に対してマッチングしてある場合に、プラントモデルのカットオフ周波数に対する燃料性状推定値の特性を、プラントモデルのカットオフ周波数fc Real が前記規範モデルのカットオフ周波数より大きくなるほどより軽質であることを、またプラントモデルのカットオフ周波数fc Real が前記規範モデルのカットオフ周波数より小さくなるほどより重質であることを表すように予め設定する手段71と、前記演算されたプラントモデルのカットオフ周波数fcRealからこの特性を検索することにより燃料性状推定値を演算する手段72と、この燃料性状推定値に基づいて前記燃料供給量を演算する手段73とを設けた。
【0011】
第4の発明では、第1または第2の発明において前記燃料性状の推定結果を不揮発性メモリ(たとえばEEPROM)に記憶させておく。
【0012】
第5の発明では、第3の発明において前記燃料性状推定値を不揮発性メモリ(たとえばEEPROM)に記憶させておく。
【0013】
第6の発明では、第1の発明において前記燃料性状の推定が、前記規範モデルを重質ガソリンに対してマッチングした場合に、前記同定したプラントモデルのカットオフ周波数が規範モデルのカットオフ周波数より高いとき、前記重質ガソリンよりも軽質であると推定することである。
【0014】
第7の発明では、第2の発明において前記燃料性状の推定が、前記規範モデルを市販されている燃料のうち揮発性が悪くもなく良くもないほぼ中間の燃料に対してマッチングした場合に、前記同定したプラントモデルのカットオフ周波数と規範モデルのカットオフ周波数の差が基準燃料の許容範囲外であり、かつプラントモデルのカットオフ周波数が規範モデルのカットオフ周波数よりも大きいとき、前記中間の燃料よりも軽質であると、また前記同定したプラントモデルのカットオフ周波数と規範モデルのカットオフ周波数の差が基準燃料の許容範囲外であり、かつプラントモデルのカットオフ周波数が規範モデルのカットオフ周波数よりも小さいとき、前記中間の燃料よりも重質であると推定することである。
【0015】
第8の発明では、第1または第2の発明において前記燃料供給量が、エンジンの負荷と回転数から定まる基本燃料噴射量Tpと噴射量補正量とからなる場合に、前記燃料性状の推定結果に基づいて噴射量補正量を演算する。
【0016】
第9の発明では、第3の発明において前記燃料供給量が、エンジンの負荷と回転数から定まる基本燃料噴射量Tpと噴射量補正量とからなる場合に、前記燃料性状推定値に基づいて噴射量補正量を演算する。
【0017】
第10の発明では、第8または第9の発明において前記噴射量補正量が始動後増量補正量(始動後増量補正係数KAS)である。
【0018】
第11の発明では、第8または第9の発明において前記噴射量補正量が水温増量補正量(水温増量補正係数KTW)である。
【0019】
第12の発明では、第8または第9の発明において前記噴射量補正量が未燃分増量補正量(未燃分増量補正係数KUB)である。
【0020】
第13の発明では、第8または第9の発明において前記噴射量補正量が壁流補正量である。
【0021】
第14の発明では、第13の発明において前記壁流補正量が低周波成分である。
【0022】
第15の発明では、第13の発明において前記壁流補正量が高周波成分である。
【0023】
第16の発明では、第1から第3までのいずれか一つの発明において前記燃料供給量が始動時噴射量(始動時燃料噴射パルス幅TIST)である。
【0024】
第17の発明では、第1から第3までのいずれか一つの発明において前記燃料供給量が加速時割り込み噴射量(加速時割り込み噴射パルス幅IJSETn)である。
【0025】
第18発明では、第1から第17までのいずれか一つの発明おいて前記予測誤差が小さくなるように調整することが、予測誤差が最小となるように調整することである。
【0026】
第1、第8、第9の発明ではプラントモデルのパラメータを規範モデルとの予測誤差が小さくなるように入出力データに基づいて調整することで、また第18の発明ではプラントモデルのパラメータを規範モデルとの予測誤差が最小となるように入出力データに基づいて調整することでプラントモデルが同定される。このときのパラメータよりプラントモデルの伝達関数がわかり、これよりプラントモデルのカットオフ周波数が定まる。
【0027】
ここで、規範モデルを基準燃料に対してマッチングしてある場合に、使用燃料が基準燃料よりも軽質であるときは、プラントモデルのカットオフ周波数のほうが基準燃料に対するよりも高くなる(この逆に、使用燃料が基準燃料よりも重質であるときは、プラントモデルのカットオフ周波数のほうが基準燃料に対するよりも低くなる)。これは、基準燃料よりも軽質の燃料のほうが基準燃料よりも燃料輸送遅れが小さくなるため、その燃料応答性が高くなり、基準燃料と比べ、高周波域まで応答ゲインを維持できるためである。
【0028】
したがって、第1、第8、第9、第14の発明によれば、プラントモデルのカットオフ周波数と規範モデルのカットオフ周波数とを比較することで、使用燃料の燃料性状を推定することが可能となる。たとえば、規範モデルを基準燃料に対してマッチングしてある場合に、同定したプラントモデルのカットオフ周波数が規範モデルのカットオフ周波数より高いとき、また規範モデルを基準燃料に対してマッチングしてある場合に、同定したプラントモデルのカットオフ周波数と規範モデルのカットオフ周波数の差が許容範囲外であり、かつプラントモデルのカットオフ周波数が規範モデルのカットオフ周波数よりも大きいとき、使用燃料は基準燃料よりも軽質であると推定すればよい。
【0029】
このようにして、燃料性状を推定することが可能となると、この燃料性状の推定結果や燃料性状推定値に基づいて燃料供給量を演算することで、使用燃料の燃料性状に応じた燃料供給量を過不足なく与えることができる。
【0030】
たとえば、燃料性状の判定を行っていないものでは、基準燃料よりも軽質の燃料使用時にも、基準燃料に対してマッチングしたデータを用いて始動後増量補正量、水温増量補正量、未燃分増量補正量、壁流補正量、低周波成分、高周波成分、始動時燃料噴射量、加速時割り込み噴射量を演算したのでは、空燃比のリッチ化を招くのであるが、第10、第11、第12、第13、第14、第15、第16、第17の発明によれば、基準燃料よりも軽質の燃料使用時には、基準燃料の使用時よりも少ない量の始動後増量補正量、水温増量補正量、未燃分増量補正量、壁流補正量、低周波成分、高周波成分、始動時燃料噴射量、加速時割り込み噴射量が与えられることから、基準燃料よりも軽質の燃料使用時にも空燃比がリッチ側に偏ることがなくなる。
【0031】
第2の発明によれば、基準燃料に対するカットオフ周波数がバラツクことがあっても、燃料性状の推定を安定して行うことができる。
【0032】
第3の発明によれば、燃料供給量の演算精度を高めることができる。
【0033】
第4、第5の発明によれば、次回の運転時に始動当初より燃料性状の推定結果や燃料性状推定値を利用できる。
【0034】
【発明の実施の形態】
図1において、1はエンジン本体で、吸入空気はエアクリーナから吸気管8を通ってシリンダに供給される。燃料は、運転条件に応じて所定の空燃比となるようにECM2よりの噴射信号に基づき燃料噴射弁7からエンジン1の吸気ポートに向けて噴射される。
【0035】
ECM2にはクランク角センサ4からのREF信号(4気筒では180°ごと、6気筒では120°ごとに発生する気筒を識別するための信号)と1°信号、エアフローメータ6からの吸入空気量信号、三元触媒10の上流側(排気マニフォールド集合部)に設置した広域空燃比センサ(以下単に「A/Fセンサ」という)3からの空燃比信号、水温センサ11からの冷却水温信号、スロットルセンサ12からの絞り弁5開度信号等が入力され、これらに基づいてECM2では、吸入空気量Qaとエンジン回転数Neとから基本噴射パルス幅Tpを演算するとともに、加減速時にはこのTpに過渡補正量Kathosを加算することによって壁流燃料に関する補正を行う。過渡補正量Kathosは、加減速時に限らず、壁流燃料が大きく変化する始動時や燃料リカバー時、さらには後述する目標当量比Tfbyaの切換時にも働く。
【0036】
ECM2ではまた、冷間始動時のエンジン安定性をよくしたり高負荷時の要求出力に応えるため目標当量比Tfbyaを用いて燃料補正を行うほか、トランスミッションのギヤ位置センサ13からのギヤ位置信号、車速センサ(図示しない)からの車速信号等に基づいて運転状態を判断しながら条件に応じてリーン空燃比と理論空燃比との制御を行う。排気管9には三元触媒10が設置され、理論空燃比の運転時に最大の転換効率をもって、排気中のNOxの還元とHC、COの酸化を行う。この三元触媒10はリーン空燃比のときはHC、COは酸化するが、NOxの還元効率は低い。しかしながら、空燃比がリーン側に移行すればするほどNOxの発生量は少なくなり、所定の空燃比以上では三元触媒10で浄化するのと同じ程度にまで下げることができ、同時に、リーン空燃比になるほど燃費が改善される。したがって、負荷のそれほど大きくない所定の運転領域においては目標当量比Tfbyaを1.0より小さな値とすることによってリーン空燃比による運転を行い、それ以外の運転領域ではTfbyaを1.0とすることにより空燃比を理論空燃比に制御するのである。
【0037】
このように目標当量比Tfbyaは運転条件の変化に応じて切換わるのであるが、上記の過渡補正量KathosをTfbya=1.0(つまり理論空燃比)に対する値として計算しているのでは、出力空燃比域(このときTfbyaは1.0より大きい)からの減速時などTfbyaの切換時に過渡補正量Kathosに不足を生じて空燃比が一時的にオーバーリッチやオーバーリーンになり、制御空燃比の追従性が悪くなるので、これに対処するためECM2では、平衡付着量Mfhを目標当量比Tfbyaをもパラメータとして演算している。これを演算式で表すと、
Mfh=Avtp×Mfhtvo×Tfbya×CYLDRN#
ただし、Mfh :全気筒トータルでの平衡付着量、
Avtp :噴射弁部空気量相当パルス幅、
Mfhtvo :付着倍率、
CYLDRN#:シリンダ数、
である(特開平10−18882号公報参照)。そして、この平衡付着量(壁流燃料の平衡値のこと)Mfhと現時点での付着量Mfとの差に分量割合Kmfを乗じる演算により、つまり
Vmf=(Mfh−Mf)×Kmf
の式により付着速度(単位周期当たりの付着量のこと)Vmf(1サイクル毎の値)を計算し、平衡付着量Mfhが増加する場合(たとえば加速時)にはこれを過渡補正量Kathosとし、
CTIn=(Avtp×Tfbya+Kathos)×α×2+Ts+Chosn1
ただし、Kathos:過渡補正量(1サイクル毎の値)、
α :空燃比フィードバック補正係数、
Ts :無効噴射パルス幅、
Chosn1 :気筒別壁流補正量(各気筒1サイクル毎の値)、
の式により、シーケンシャル噴射(4気筒ではエンジン2回転毎に1回、各気筒の点火順序に合わせて噴射)時に燃料噴射弁に与える実噴射パルス幅CTInを気筒別に計算する。なお、「1サイクル毎の値」とは、1REF信号の入力毎の値、「各気筒1サイクル毎の値」とは4REF信号(4気筒の場合)の入力毎の値である。CTInとChosn1の「n」は気筒番号を表す。
【0038】
ここで、上記の気筒別壁流補正量Chosnについて説明すると、壁流燃料には直接にシリンダに流入される分が少なく比較的応答の遅いもの(低周波成分という)と、直接にシリンダに流入される分が主で応答の速いもの(高周波成分という)とがあり、上記のVmfが低周波成分を対象とする壁流補正量であるのに対して、Chosnは高周波成分を対象とする補正量である。つまり、Vmfだけでは高周波成分に対して対処不可能なため、高周波成分に対する補正量であるChosnを導入する必要があるわけである。具体的には、前回噴射からの噴射弁部空気量相当パルス幅Avtpの変化量であるΔAvtpnを用いて、Avtpが増えているとき(加速時)であれば、
Chosn=ΔAvtpn×Gztwp
ただし、Gztwp:増量ゲイン、
の式により、またAvtpが減少しているとき(減速時)は
Chosn=ΔAvtpn×Gztwm
ただし、Gztwm:減量ゲイン、
の式により計算し、これを気筒別に同期噴射の燃料噴射パルス幅に加算することによって、高周波成分に対する壁流補正を行っている。なお、上記の増量ゲインGztwp、減量ゲインGztwmは水温補正を行うためのものである。また、ΔAvtpnの最後に添付されているnは、CTInの場合と同じに気筒番号を表す。
【0039】
このように低周波成分に対する壁流補正量に加えて高周波成分に対する壁流補正量を導入しているものにおいても、Chosnの演算にTfbyaが考慮されていないのでは、特に出力空燃比域からの減速時などTfbyaの切換時にChosnに不足を生じて一時的にオーバーリッチやオーバーリーンが生じるので、これに対処するためECM2では、高周波成分に対する壁流補正量であるChosnについてもTfbyaに応じた値としている(特開平10−18882号公報参照)。これを演算式で表すと、
Chosn1=(Kathos−Kathos-4Ref)×(Gztwc−1)/A
ただし、Chosn1 :1サイクル目のChosn、
Kathos-4Ref:各気筒1サイクル前(4REF信号前)のKathos、
Gztwc :増量ゲインGztwpまたは減量ゲインGztwm、
A :低周波成分の1サイクル目の応答ゲイン、
である。
【0040】
なお、燃料カット(燃料カットを気筒別に行う場合と全気筒同時に行う場合とがある)を考慮して燃料リカバー時の壁流補正量(Chosn1 、Vmf)を計算することにより、目標当量比Tfbyaの切換を伴う燃料リカバー時にも、最適な壁流補正量を与えるようにしてもかまわない(特開平10−18882号公報参照)。
【0041】
一方、エンジンが不安定となる冷間始動時には、始動後増量補正係数KASにより燃料増量を行い、空燃比を理論空燃比よりもリッチ側の値とすることによってエンジンを安定させている(特開平6−101529号公報参照)。たとえば、後述する36式によりKASを計算しており、このときのKASは、概略、スタータスイッチのON時の値を初期値としてスタータスイッチのOFFタイミングより急な勾配で直線的に減少し、途中からはより緩やかな勾配となって減少し、最後に0になる値である。
【0042】
また、始動後できるだけ早くO2センサ3出力に基づく空燃比フィードバック制御に入ったほうが、三元触媒10の活用される領域が拡大して排気性能が改善されるため、水温増量補正係数KTWによる燃料増量が行われれている途中でもO2センサ3出力が活性した段階でKTWによる燃料増量を停止して空燃比フィードバック制御を開始しているのであるが、空燃比フィードバック制御の開始直後に実空燃比がリッチ側よりリーン側へと一気に変化して運転性が悪化するので、これを避けるため、未燃分増量補正量KUBによる燃料増量を行うことによって、空燃比フィードバック制御の開始直後から実空燃比を速やかに理論空燃比付近へと収束させている。
【0043】
ここで、未燃分とは、燃焼に寄与しない燃料分のことで、たとえば燃焼せずにそのまま未燃HCとして排出される燃料分やシリンダ内からピストンリングの隙間を介してクランクケース内に出てオイル中に溶け込む燃料分がある。壁流燃料が応答遅れがあるもののシリンダ内に必ず入ってほとんどが燃焼に寄与するの対して、未燃分は燃焼に寄与することがない点で、両者を区別している。
【0044】
そして、これら未燃分増量補正係数KUB、水温増量補正係数KTWと上記の始動後増量補正係数KASとは、上記の目標当量比Tfbyaの一部であり、たとえば、
Tfbya=Kml+KAS+KTW+KUB
ただし、Dml:燃空比補正係数、
の式により目標当量比Tfbyaを算出している。
【0045】
ここで、Kmlは、運転条件に応じた目標空燃比を定めるもので、エンジンの回転数と負荷をパラメータとするマップを検索することにより求められる。なお、目標空燃比の切換時にKmlのマップ値を検索した上で所定のダンパ操作を行わせるものもある。
【0046】
また、始動時には特別な燃料噴射パルス幅TISTを設定している(特開平7−63082号公報参照)。急加速時のように特に大きなトルクが要求されるときは、加速時割り込み噴射パルス幅IJSETnが演算され、同期噴射の途中でも割り込み噴射が行われることがある。
【0047】
さて、上記の始動後増量補正係数KASが必要となる理由は、壁流燃料の分だけの燃料供給遅れが生じてしまうからであるが、この壁流燃料量は、さらに燃料性状(特に揮発性)にも依存し、揮発性が悪い燃料ほど壁流燃料量が多くなる。こうした燃料の揮発性の違いによる壁流燃料量差を考慮し、従来の各種噴射量補正(たとえば従来の始動後増量補正)では、最重質ガソリンが使用される場合でも、冷間時のエンジン回転が不安定とならないようにKASの演算に用いるテーブル値がマッチングされている。また、上記の未燃分増量補正係数KUBによる噴射量補正が必要になるのは、燃焼に寄与しない燃料分(つまり未燃分)があるからである。
【0048】
この場合、壁流燃料や未燃分の量は、さらに燃料の性状(特に揮発性)にも依存し、揮発性が悪い燃料ほど壁流燃料や未燃分の量が多くなる。こうした燃料の揮発性の違いによる燃料壁流や未燃分の量の差を考慮し、従来の各種噴射量補正では、市販されている燃料のうち最も揮発性の悪い燃料(最重質ガソリン)が使用される場合でも、冷間時のエンジン回転が不安定とならないようにマッチングされている。上記のKASやKUBであれば、KASやKUBを演算する際に用いるデータを最重質ガソリンに対してマッチングしておくわけである。
【0049】
しかしながら、最重質ガソリンよりも揮発性の良い燃料が使用されるときは、壁流燃料を対象とした噴射量補正量である場合にその噴射量補正量が大きくなり過ぎ、これによって最重質ガソリン使用時よりも空燃比がリッチ側に傾くため、排気エミッション(特にCO、HC)が悪くなる。また、未燃分を対象とした噴射量補正量である場合に最重質ガソリンよりも揮発性の良い燃料が使用されたときにも、その噴射量補正量が実質的に大きくなり、これによって最重質ガソリン使用時よりも空燃比がリッチに傾くため、燃費が悪くなる。
【0050】
そこで、壁流燃料や未燃分の量が多い領域での過渡時に、燃料噴射量に対する排気空燃比の応答波形をサンプリングし、これら過渡時データに基づいて予めECM2上に構築したプラントモデルのパラメータを、規範モデルとの推定誤差が最小となるように調整することによりプラントモデルを同定し、前記調整されたパラメータに基づいてプラントモデルのカットオフ周波数を求め、これと基準燃料(Ref燃料)に対するプラントモデルである規範モデルのカットオフ周波数とを比較することにより、燃料性状を推定し、この推定した燃料性状に応じて始動後増量補正係数や未燃分増量補正係数を演算する。
【0051】
ECM2で実行されるこの最適化制御を次に説明する。
【0052】
図2は最適化制御の制御システムのブロック図である。
【0053】
本制御システムは大きく分けて、プラント同定部21、燃料性状推定部22、トリガリング機能23、コントローラ24から構成されている。
【0054】
図2を用いて制御の概要を説明し、その後にプラント同定について詳述する。
【0055】
まず、プラント同定部21の主な構成要素は、プラントモデル31、誤差検出手段32、最適化計算手段33、入力(実噴射パルス幅)のバッファリング手段34、出力(排気空燃比)のバッファリング手段35からなっており、エンジンパラメータより判定されたトリガより、実噴射パルス幅CTInおよびA/Fセンサ3出力電圧をサンプリングし、それぞれをプラントモデル31の入出力信号としてその領域においてのプラントモデル31の同定を行う。モデルの形式(次数)は予め物理モデルから設定してあり、実際の入出力信号に対して最適となるようにモデルパラメータを調整している。
【0056】
ここで、プラントモデル31は、燃料挙動特性を分母2次、分子2次の2次遅れ系モデル、排気動特性を分母1次の1次遅れ系モデルとした離散系カスケード結合のモデル(分母3次、分子3次の物理モデル)である。同定手法は最も一般的であるARXモデルを用いた一括処理最小2乗法としている。
【0057】
燃料性状推定部22は、基準燃料(Ref燃料)に対するプラントモデルである規範モデル37、カットオフ周波数比較手段38からなり、プラント同定部21により同定されたプラントモデル31のカットオフ周波数fcRealと規範モデル37のカットオフ周波数fcRefとを比較手段38において比較することにより燃料性状を判定する。
【0058】
ここでは、説明の簡単化のため、使用燃料が2種類しかない場合(揮発性の悪い方の燃料を重質ガソリン、揮発性の良いほうの燃料を軽質ガソリンとする)で説明すると、重質ガソリンに対してマッチングした規範モデルを用いた場合、同定したプラントモデル31のカットオフ周波数が規範モデルのカットオフ周波数より高いとき、軽質ガソリンが使用されていると判定できる。これは、軽質ガソリンのほうが重質ガソリンより燃料輸送遅れが小さくなるため、軽質ガソリンのほうが燃料応答性が高くなり、重質ガソリンと比べ、高周波域まで応答ゲインを維持できるためである。なお、燃料性状の推定前には、燃料性状の判定値を重質ガソリンに初期設定しておく。
【0059】
本制御では1トリップ(エンジンの運転の開始から停止まで)の間にたとえば1回、燃料性状を推定し、その推定結果を不揮発性メモリ(本実施形態においてはEEPROM14、図1参照)に記憶させておき、コントローラ24により次回始動時の燃料制御に反映させる。
【0060】
トリガリング機能23は、プラント同定に必要な入出力信号をサンプリングするとともに、プラント同定を開始するトリガを発生させる条件を判定するものである。
【0061】
ここで、一般的にシステムを同定するためには、広い帯域の周波数を含んだ入力が必要である。エンジンにおいては、M系列等の入力を生成するのは現実的でないので、入力がステップ的に変化する点をサンプリングトリガとする。また、EGR(排気還流)やスワールコントロール等、燃料挙動に大きく影響を及ぼす条件も排除する必要がある。上記のような条件が、同定するときのモード中に存在するかまたは同定用入力信号を生成する必要がある。
【0062】
コントローラ24は、具体的には始動後増量補正係数調整手段で、1トリップ中に推定された燃料性状に応じて、次回の始動直後の始動後増量補正量KASを適切な値とする。調整する項目はKASの初期値と減衰割合である。
【0063】
ここでは、前述のように制御の簡略化のため、重質ガソリン用か軽質ガソリン用かの2値切換で説明するが(したがって、始動後増量補正係数調整手段は始動後増量補正係数切換手段40となる)、燃料性状の分離性能とエンジンの要求から燃料性状の切換の段数を決定すればよい。
【0064】
燃料噴射量演算手段15は、前述したVmf、CTIn、Chosn1を演算するものである。
【0065】
次に、プラントモデル31の同定について、項を分けて詳述する。
【0066】
1.プラントモデル
燃料性状を推定するためには、エンジンのダイナミクスから燃料挙動のダイナミクスだけを抽出する必要がある。4サイクルエンジン(プラント)は、図3に示すような要素から構成されると考えられる。観測できる入出力は吸入空気量Qaに基づいて基本噴射パルス幅Tpを演算し、これに各種補正を行って求めた実噴射パルス幅CTIn(ただし、始動時は始動時噴射パルス幅TIST、加速時割り込み噴射時はIJSETn)と、A/D変換された排気マニフォールド集合部のA/Fセンサ出力値である。この入出力より得られるプラントモデルは、
1.1:燃料挙動モデル(無駄時間+遅れ系)、
1.2:排気モデル(無駄時間+遅れ系)および
1.3:各種演算および燃焼サイクルに依存する無駄時間
の3つより構成される。
【0067】
1.1燃料挙動モデル
燃料噴射弁から噴射される燃料の挙動は、図4のようにモデル化でき、その数学モデルは次のように表される。
【0068】
【数1】
fc=(1−kWW)・Ffi+Ffe
fe=e-t/TWW・kWW・Ffi/TWW
WW(s)=(1−kWW)+kWW/(sTWW+1)
ただし、GWW:燃料挙動の伝達関数、
fi:燃料噴射分、
fe:燃料蒸発分、
fc:シリンダ吸入燃料、
WW:付着率、
WW:蒸発の時定数、
この数学モデルは、一つの時定数(TWW)および一つのゲイン(kWW)で表されているが、燃料の振る舞いには、一般的に燃料の付着、蒸発による時定数と、シリンダ吸入遅れによる時定数とがあり、前述の表現でいえば、応答が遅いほうが低周波成分、応答が速いほうが高周波成分である。
【0069】
そこで、応答の異なる2種燃料の挙動に対しては、数1式の数学モデルを並列結合すればよい。このときの数学モデルは次のように表せる。
【0070】
【数2】
Figure 0003832137
ただし、Tsample:サンプル周期(空燃比をサンプリングする周期)、
1 :低周波成分の時定数、
2 :高周波成分の時定数、
1 :低周波成分のゲイン、
2 :高周波成分のゲイン、
1 :e-Tsample/T1
2 :e-Tsample/T2
1 :k1
2 :k2
数2式において、1番目の式(連続値系)を離散値系に変換したものが2番目の式、この2番目の式にz=esTsampleを代入して整理したものが3番目の式である。また、3番目の式をブロック図で示したのが図5である。
【0071】
なお、燃料挙動に伴う無駄時間については燃料挙動の数学モデルに取り込まず、出力信号を時系列的にオフセットさせることで、モデル次数の上昇を抑える(詳細は1.3で後述する)。
【0072】
1.2排気モデル
排気モデルは、図6のように各気筒毎の排気ダイナミクス、排気マニフォールド集合部におけるガス混合ダイナミクス、センサ特性の3要素から構成されると考える。これらを総合すると、「無駄時間+遅れ系」の物理モデルで表すことができる。遅れ系としては、排気ガス輸送遅れ+ガス混合遅れ+センサ応答遅れが考えられ、それぞれが1次遅れ以上のモデルである。ただし、今回はオンボードで(ECM2上で)プラントモデルを同定することを考えると、なるべく高次となることを避ける必要があり、排気モデルとして1つの時定数で代表し、次のように1次遅れ系の数学モデルで記述する。
【0073】
【数3】
ex(s)=1/(sTex+1)
ex(z)=(1−e-Tsample/Tex)/(z−e-Tsample/Tex)
ex(z)=(1−A3)/(z−A3)
ただし、Gex :排気動特性の伝達関数、
ex :蒸発時定数、
Tsample:サンプル周期、
3 :e-Tsample/Tex
数3式においても、1番目の式を離散値系に変換したものが2番目の式、2番目の式にz=esTsampleを代入して整理したものが3番目の式である。
【0074】
また、無駄時間については、燃料挙動モデルと同様に時系列的にオフセットさせることとし、排気モデルに取り込まない(1.3で後述する)。
【0075】
1.3無駄時間モデル
本プラントモデル31は、入力に実噴射パルス幅CTIn、出力にA/Fセンサ3出力電圧読み込み値とおいているため、図3に示したように、実噴射パルス幅CTInを演算してからA/Fセンサ出力値をECM2が読み込むまでにはいくつかの無駄時間(図では「Delay」で表示)が存在する。そこで、改めて入出力間の無駄時間を図7に詳細に示す。
【0076】
ここで、各無駄時間を説明する。
【0077】
1)Delay1:噴射量演算から実噴射タイミングまでのディレイ、
実噴射パルス幅CTInは10ms毎に演算しており、実際に燃料を噴射するタイミングまでは必ずしも毎サイクル同一ではない。そこで演算された噴射タイミング(燃料噴き始め)角度とそのときの回転数より、パルス幅演算タイミングからの時間を算出することにより無駄時間Delay1を求める。
【0078】
2)Delay2:実噴射タイミングからIVO(吸気弁開)までのディレイ、
これは、燃料を噴射し、吸気弁が開いて燃料がシリンダに吸入されるまでの時間である。本ディレイは燃料挙動特性により決まり、各運転条件および燃料性状によって設定する。たとえば、市販されている燃料のうち揮発性がほぼ中間の燃料を用いて、各運転条件(たとえばエンジン回転数と負荷)毎に燃料をステップ的に変化させて実際に応答時間を計測しながら適切な値を設定する。
【0079】
3)Delay3:IVOからEVO(排気弁開)まで(吸入→圧縮→燃焼→排気)のディレイ、
これは、燃料が吸気弁よりシリンダ内に吸入され、燃焼ガスが排気弁から排出されるまでの時間である。このディレイは回転数およびカムプロフィールから求めることができ、設計仕様より求められる。
【0080】
4)Delay4:燃焼ガスが排気弁を出てからA/Fセンサに到達するまでのディレイ、
これは、シリンダ内の燃焼ガスが排気弁より排出されてから排気管を通りA/Fセンサ部に到達するまでの時間である。排気の流速(回転数、負荷等に依存)と排気長さ、A/Fセンサ取り付け位置等によって設定する。なお、計算が複雑になるが、運転条件およびハードスペックから求めてもよい。
【0081】
5)Delay5:センサ応答ディレイ、
これは、A/Fセンサ部にガスが到達してからA/Fセンサが電圧を出力するまでの時間である。A/Fセンサ自体は酸素量が変動すると、数msで反応するが、センサカバーによるガス混合遅れが支配的であり、その時間はセンサカバーの形状により大きく異なる。このため、本ディレイはDelay4と同様にして適切な値を設定する。
【0082】
6)Delay6:センサ出力値をA/D変換しECM2に取り込むまでのディレイ、
これは、A/Fセンサが出力する電圧をECM2に取り込むためにA/D変換を行うことによるディレイである。現在のハード構成ではA/Fセンサ3のA/D変換は2ms毎に行っており、最大無駄時間は2msである。
【0083】
7)Delay7:センサ出力値をメモリにバッファリングするまでのディレイ、
A/Fセンサ出力値を10msでサンプリングする場合に、サンプリングタイミングによっては最大10msの無駄時間が生じるおそれがある。このため2msでA/D変換した値より算出した応答開始からサンプリングタイミングまでの無駄時間をDelay7として算出する。
【0084】
8)Delay8:バラツキ分、
これは、Delay1〜7より求めた無駄時間以外に生じるバラツキ分である。機種間バラツキや適合のバラツキ等が考えられ、運転毎にも不確定であるため、Delay1〜7経過後の空燃比信号の立ち上がりを判定し決定する。
【0085】
これで、各無駄時間の説明を終える。
【0086】
上記のDelay1〜8を分析すると、無駄時間は
▲1▼運転条件により決定する項、
▲2▼演算タイミングより決定する事項、
▲3▼燃料性状等により変動する項
に分類することができる(図8参照)。よって、実際の無駄時間は、次の式で表すことができる。
【0087】
Figure 0003832137
2.プラントモデルの同定
2.1同定するモデルの作成
実際のエンジンは強い非線形性を有するが、本制御では、ある動作点近傍では線形でありかつ時不変である、いわゆる線形時不変システム(LTI:Linear Time-Invariant System)であると仮定する。
【0088】
また、離散時間系LTIシステムを、Z領域ではなく時間領域で入出力を記述するため、シフトオペレータq-1を以下のように定義する。
【0089】
【数4】
-1x(k)=x(k−1)
ただし、離散時間=kT(T:サンプリング周期、k=0,1,2,・・・)である。
【0090】
これを用いて、離散値系の入力u(t)、出力y(t)のシステム伝達関数を記述すると、
【0091】
【数5】
y(k)=G(q,θ)・u(k)
となる。θはモデルを記述するパラメータにより構成される。しかし、これは理想的な入出力であり、外部からの雑音を考慮すると、
【0092】
【数6】
y(k)=G(q,θ)・u(k)+H(q,θ)・w(k)
と記述できる。ここで、H(q,θ)は雑音モデルであり、一般的な離散時間系LTIシステムは、数6式で表すことができる。同システムのブロック図は図9である。
【0093】
ここで、同システムの伝達関数G(q)は、数2式の3番目の式と数3式の3番目の式の積であり、さらにZ-1で記述されたものをシフトオペレータq-1で記述したものとなって、
【0094】
【数7】
Figure 0003832137
と表せる。このシステムの伝達関数G(q)を、
【0095】
【数8】
G(q,θ)=B(q,θ)/A(q,θ)
の式で定義すると、システムの出力値y(k)は、
【0096】
【数9】
y(k,θ)={B(q,θ)/A(q,θ)}・u(k)+H(q,θ)・w(k)
と表すことができる。このように、同定するモデルとしては、プラントモデルであるG(q)と、雑音モデルであるH(q)を適切な形としたものとを組み合わせたものを採用する。
【0097】
2.2同定手法
数6式で定義した離散時間系LTIシステムにおいて、時刻(k−1)までに測定された入出力データに基づいた出力y(k)の一段先予測値y(k|θ)は、
【0098】
【数10】
y(k|θ)=[1−H-1(q,θ)]y(k)+H-1(q,θ)G(q,θ)u(k)
の式で表される。これにより、時刻kにおける出力を(k−1)までに取得したデータで記述することができる。
【0099】
予測誤差ε(k|θ)は
【0100】
【数11】
ε(k|θ)=y(k)−y(k|θ)
の式で表すことができる。
【0101】
さて、パラメータ推定のための評価規範JN(θ)として、
【0102】
【数12】
Figure 0003832137
を設定する。ここで、関数l(k,θ,ε(k,θ))は予測誤差ε(k,θ)の大きさを測る任意のスカラ値関数であり、どのようなノルムを選択するかは、同定結果の利用目的に依存する(2乗ノルムや対数尤度など)。このような評価規範を定義することによって、未知パラメータθの推定値(θ(N)とする)が決定される。つまり、
【0103】
【数13】
Figure 0003832137
となるθを求めることである。
【0104】
一般的に同定手法には様々な手法が提案されているが、エンジンのようなものは間欠的なイベント(燃焼サイクル等)であり、非常に非線形性が強い制御対象である。しかしながら、本制御ではアルゴリズムの簡略化のため、動作点周りでは線形時不変(LTI)システムであると仮定している。
【0105】
今回は演算量の少なさ、同定精度、対外乱性能を考慮し、線形モデルの同定手法の代表的なものである「パラメトリックモデル同定であるARXモデルを用いた一括同定手法」を採用する。
【0106】
2.3ARXモデルの同定手法
ARXモデルは式誤差モデルと呼ばれ、次のように差分方程式の右辺に外乱項e(k)(ARXモデルでは白色雑音として仮定しており、w(k)とする)が入っている。
【0107】
【数14】
y(k)+a1・y(k−1)+・・・+ana・y(k−na)=b1・u(k−1)+・・・+bnb・u(k−nb)+e(k)モデルを記述するパラメータベクトルθは、
【0108】
【数15】
θ=[a1,・・・,ana,b1,・・・,bnbT
となる。データベクトル(回帰ベクトル)ψ(k)を、
【0109】
【数16】
ψ(k)=[−y(k−1),・・・,−y(k−na),u(k−1),・・・,u(k−nb)]T
と定義すると、出力y(k)は次式のように表現できる。
【0110】
【数17】
y(k)=θTψ(k)+w(k)
ARXモデルの一段先予測値y(k|θ)は、数10式より求めると、θに関して線形であり、
【0111】
【数18】
y(k|θ)=θTψ(k)
と表される。このときの予測誤差ε(k,θ)は、
【0112】
【数19】
ε(k,θ)=y(k)−θTψ(k)
と表わすことができる。この線形回帰モデルに対して最小2乗法を適用すると、スカラ値関数l(k,θ,ε(k,θ))は、
【0113】
【数20】
l(k,θ,ε(k,θ))=ε2(k,θ)
となり、パラメータ推定の評価規範JN(θ)は、
【0114】
【数21】
Figure 0003832137
となる。数21式をさらに計算すると、
【0115】
【数22】
Figure 0003832137
【0116】
【数23】
N(θ)=c(N)−2θTf(N)+θTR(N)θ
とおくことができる。
【0117】
ただし、数23式のc(N)、f(N)、R(N)は次の通りである。
【0118】
【数24】
Figure 0003832137
【0119】
【数25】
Figure 0003832137
【0120】
【数26】
Figure 0003832137
評価規範JN(θ)が最小となるのは、JN(θ)がθに関する二次関数であるため、最高次の係数が正であれば、JN(θ)の微分値がゼロとなるところである。数23式の微分値=0とすると、次の正規方程式(θに関する連立一次方程式)が得られる。
【0121】
【数27】
Figure 0003832137
これより、R(N)が正定値行列であれば、JN(θ)は微分値がゼロのとき最小となり(JN(θ)は下に凸の関数、図10参照)、
【0122】
【数28】
Figure 0003832137
の式によりパラメータθ(N)を推定することができる。以上の同定手順を図11に示す。
【0123】
なお、上記の正定値行列の条件には次の3つがある。
【0124】
1)同定対象がn次の場合は、入力信号u(k)はn個以上の正弦波を含んでいなければならない(ステップ入力信号に十分な周波数成分を含ませる)。
【0125】
2)同定対象は安定である(エンジンは定常では安定系と考えて差し支えない)。
【0126】
3)同定対象は可観測である。すなわち、A(q,θ)とB(q,θ)は共通因子を持たない(本モデルは離散系であるためB(q,θ)のほうが次数が高いが問題なし)。
【0127】
2.4実際のARXモデルの同定
本モデルは、数7式より分母3次、分子3次の離散系モデルであり、
【0128】
【数29】
A(q)=1+a1・q-1+a2・q-2+a3・q-3
【0129】
【数30】
B(q)=b1・q-1+b2・q-2+b3・q-3
と表すことができる。よってパラメータベクトルθおよびデータベクトルψ(k)は、以下のように表すことができる。
【0130】
【数31】
θ=[a1,a2,a3,b1,b2,b3T
【0131】
【数32】
ψ(k)=[−y(k−1),−y(k−2),−y(k−3),
u(k−1),u(k−2),u(k−3)]T
エンジン回転数が1200rpm時のサンプリング総数NをN=128(1280ms)とすると、数24式〜数26式は、
【0132】
【数33】
Figure 0003832137
【0133】
【数34】
Figure 0003832137
【0134】
【数35】
Figure 0003832137
と表すことができる。
【0135】
2.5プラントモデル同定に必要な入力信号
システムの同定を行うためには、入力信号が、対象のもつ全てのモードを励起している必要がある。つまり、入力信号が多数の周波数成分を含んでいる必要がある。システムの同定においては、理想的には白色性入力が望ましいが、実際には疑似白色2値信号(M系列)が用いられる。しかし、エンジンの壁流応答のようなものでは、有効な周波数帯域は非常に低いところであり(応答が遅い)、M系列のような入力を加えてもほとんど応答波形を得ることができない。そこで、ステップ入力を与えることにより得られる波形(図12参照)をもとに、システムを同定する。なお、ステップ入力のラプラス変換は1/sであるので、周波数ゲインは周波数に対して反比例で減少するため、パワースペクトルより有効な周波数域を決めておく必要がある。
【0136】
2.6実験結果
このようにして求めたパラメータθを用いれば、システムの伝達関数G(q,θ)が定まるので、同定結果と実データを重ねたボード線図を図13に示す(燃料性状が軽質であるほどカットオフ周波数が高くなる傾向がある)。実験結果によれば、吸気ポートに設けたスワールコントロールバルブが開状態、エンジン回転数が1200rpm近傍、冷却水温が40℃近傍かつ低負荷域において±3σで燃料性状の異なる2つのガソリンを分離することができた。
【0137】
これで、項分け説明を終える。
【0138】
次に、ECM2で実行される制御内容を、フローチャートにしたがって説明する。
【0139】
図14は燃料性状を推定するためのもので、一定時間毎(10ms毎)に実行する。ここでは、図14をメインルーチン、図15、図16を図14のサブルーチンとして構成しており、したがって、以下ではメインルーチンの説明途中でサブルーチンのあるステップになると、サブルーチンを説明する。
【0140】
図14においてステップ1では燃料性状判定済みフラグをみる。まだ燃料性状を判定していないときは、ステップ2以降に進む。
【0141】
ステップ2〜6は排気の空燃比(出力データ)をサンプリングする部分である。ステップ2では、A/Fセンサ3で検出される空燃比を読み込み、ステップ3でこの空燃比の読み込み数(サンプリング数)S1とサンプリング総数N(たとえば128)を比較する。S1≦Nであるときは、ステップ4に進んで、空燃比をバッファリングして今回の処理を終了する。S1>Nとなる前はステップ2、4の処理を繰り返す。
【0142】
S1>Nとなったタイミングでステップ3よりステップ5に進む。このとき、バッファにはN個の出力データが格納されている。たとえば、今回値をy(1)に、前回値をy(2)に、2回前の値をy(3)に、・・・、N−1回前の値をy(N)にというようにして、合計でN個の出力データが格納されている。
【0143】
ステップ5、6ではN回前の出力データをバッファから捨て、今回読み込んだ空燃比をバッファリングする。つまり、今回値をy(1)に格納する。なお、過去の出力データは1回ずつ古い側にシフトして格納されることはいうまでもない。
【0144】
図示しないが、ステップ応答時の実噴射パルス幅CTIn(入力データ)も、今回値をu(1)に、前回値をu(2)に、2回前の値をu(3)に、・・・、N−1回前の値をu(N)にというようにして合計でN個の入力データが格納されており、これらの入力データと上記の出力データとは前述した遅れ時間を考慮して対応付けられる。
【0145】
ステップ7、8では、これらN個ずつの入出力データを用いて実噴射パルス幅がステップ変化したときの排気空燃比の応答波形を解析し、その解析結果から使用燃料の燃料性状を推定する。
【0146】
ここで、「排気空燃比の応答波形の解析」とは、前述の表現によれば、入出力データに基づいてARXモデル(プラントモデル)のパラメータθを規範モデルとの予測誤差が最小となるように調整してARXモデルを同定することである。そこでARXモデルの同定を図15のサブルーチンにより、また燃料性状の推定について図16のサブルーチンにより説明する。
【0147】
まず図15において、ステップ21では、バッファにある入出力データ(入力についてu(1)〜u(128)、出力について−y(1)〜−y(128))より数32式を用いてデータベクトルψ(k)を作成する。
【0148】
ステップ22ではこのデータベクトルψ(k)から上記の数33式を用いてR(N)を、またステップ23では出力データy(k)とこのデータベクトルψ(k)から上記の数34式を用いてf(N)を演算し、これらR(N)、f(N)からステップ24において上記の数28式を用いてモデルパラメータθを演算する。
【0149】
次に、図16に移り、このようにして求めたモデルパラメータθからステップ31において離散時間系LTIシステムの伝達関数G(q,θ)を演算する(θから上記の数29式、数30式を用いてA(q)、B(q)を作成し、この2つよりG(q,θ)(=B(q)/A(q))を算出する)。
【0150】
このシステム伝達関数G(q,θ)からステップ32においてARXモデルのカットオフ周波数fcRealを演算する。ステップ33ではこのカットオフ周波数fcRealと規範モデルのカットオフ周波数fcRefを比較する。
【0151】
ここで、基準燃料に重質ガソリンを用いているので、軽質ガソリンが使用されていればfcReal>fcRefとなり、重質ガソリンが使用されているときはfcR eal≦fcRefとなる。したがって、fcReal>fcRefのとき(軽質ガソリンの使用時)はステップ34に進んで燃料性状切換フラグ=1とし、これに対して、fcReal≦fcRefのとき(重質ガソリンの使用時)は、ステップ33よりステップ35に進んで燃料性状切換フラグ=0とする。
【0152】
このようにしていずれの燃料が使用されているのかの判定が終了したら、図14のステップ9に進み、燃料性状切換フラグの値(燃料性状の判定結果)をEEPROMに格納したあと、ステップ10において燃料性状判定済みフラグ=1とする。この燃料性状判定済みフラグ=1の処理により、次回以降は、図14のステップ2以降に進むことができない(燃料性状の判定回数が1回だけとなる)。
【0153】
このようにして燃料性状の判定が可能になると、燃料噴射量の各種補正量や始動時燃料噴射量を燃料性状の違いに応じて与えることができる。これを具体的にKASの場合で説明する。
【0154】
図17は、始動後増量補正係数KASを演算するためのもので、一定時間毎(たとえば10ms毎)に実行する。
【0155】
ステップ41でEEPROMに格納されている燃料性状切換フラグを読み込む。ステップ42ではスタータスイッチをみてこれがONのときは、ステップ43に進み、冷却水温TWと回転数Neを読み込む。このうち冷却水温TWと燃料性状切換フラグの値から、ステップ44、45においてそれぞれ図18、図19を内容とするテーブルを検索することにより始動後増量水温補正値TKAS、第2始動後増量補正係数KASSを、また回転数Neと燃料性状切換フラグの値からステップ46において図20を内容とするテーブルを検索することにより始動後増量回転補正値TNKASを演算し、これらの値を用いステップ47において
【0156】
【数36】
KAS=TKAS×TNKAS+KASS
の式により始動後増量補正係数KASを算出する。
【0157】
ここで、TKAS、KAS、TNKASの値は、図18、図19、図20に示したように、同一の条件で燃料性状切換フラグ=1のとき(つまり軽質ガソリンの使用時)のほうが燃料性状切換フラグ=0のとき(つまり重質ガソリンの使用時)より小さくなる値である。
【0158】
ステップ48では、スタータスイッチがOFFになってからの処理に備えるため、TKASの値をTKASn-1に、KASSの値をKASSn-1に移して今回の処理を終了する。TKASn-1、KASSn-1は前回値を保持するためのメモリである。
【0159】
やがてスタータスイッチがOFFになると(始動完爆)、ステップ42よりステップ49以降の減衰操作に進む。
【0160】
ステップ49では、燃料性状切換フラグの値と始動後時間tとから図21を内容とするテーブルを検索することにより始動後増量減少時間割合TMKASを演算し、ステップ50でこの値だけ前回値を減少させた値を今回のTKAS(=TKASn-1−TMKAS)として算出する。スタータスイッチがOFFになった直後はTKAS>0であるので、そのままステップ53に進む。
【0161】
ステップ53〜56はステップ49〜52と同様である。ステップ53で燃料性状判定フラグの値と始動後時間tから図22を内容とするテーブルを検索することにより第2始動後増量減少時間割合TMKASSを演算し、ステップ54でこの値だけ前回値を減少させた値を今回のKASS(=KASSn-1−TMKASS)として算出する。このときも、KASS>0であるので、そのままステップ46に進んでステップ46以降の処理を実行する。
【0162】
上記のTMKAS、TMKASSも、図21、図22に示したように、同一の条件で比較したとき軽質ガソリンの使用時のほうが重質ガソリンの使用時より小さくなる値である。
【0163】
次回以降はステップ49、50、53、54を繰り返すことになるので、やがてTKASやKASSが0以下となり、このときはステップ52やステップ56に進んでTKASやKASSを0に制限する。
【0164】
この結果、TKAS、KASSとも、スタータスイッチのOFF時の値を初期値として、スタータスイッチのOFF後に一定の割合で減衰して0になる(ただし、TNKASが一定のとき)。ただし、TKASの初期値のほうがKASSの初期値より大きく、かつTKASの減少時間割合のほうがKASSの減少時間割合より大きい。したがって、TKASとKASSを加算した値であるKASは、スタータスイッチOFF時のTKASの値とKASSの値の合計を初期値として、スタータスイッチOFF後にまず急激な勾配で小さくなり、TKASが0になったタイミングからは緩やかな勾配に切換わって減少していく。
【0165】
この場合に、軽質ガソリンの使用時のほうが重質ガソリンの使用時よりもTKAS、KASSの各初期値(図18、図19のテーブル値)を小さく、かつTKAS、KASSの各減少時間割合(図21、図22のテーブル値)を大きくしているので、軽質ガソリン使用時のKASは、重質ガソリン使用時のKASより小さくなる(図23参照)。つまり、燃料性状の判定を行っていないものでは、軽質ガソリンの使用時にも、重質ガソリンに対してマッチングしたテーブル値を用いることによる空燃比のリッチ化を招くのであるが、このように、軽質ガソリンの使用であることを判定したときは、次回の始動時のKASの演算に際して、軽質ガソリン用のKASを演算することで、軽質ガソリンの使用時にも空燃比がリッチ側に偏ることがなくなるのである。
【0166】
図24のフローチャートは第2実施形態で、第1実施形態の図16に対応する。図16と同一部分には同一のステップ番号を付している。
【0167】
基準燃料に重質ガソリンを用いた第1実施形態に対して、第2実施形態は、市販されている燃料のうち揮発性が悪くもなく良くもないほぼ中間の燃料を基準燃料として、またこの基準燃料よりも揮発性の良い燃料を軽質ガソリン、この逆に基準燃料よりも揮発性の悪い燃料を重質ガソリンとして設定しておき、プラントモデルのカットオフ周波数と規範モデルのカットオフ周波数(つまり基準燃料に対するカットオフ周波数)の差を演算し、この周波数差と許容範囲とを比較して使用されている燃料の燃料性状を判定するようにしたもので、これによって、基準燃料に対するカットオフ周波数がバラツクことがあっても、燃料性状の推定を安定して行うことができる。
【0168】
図24において、図16と相違する部分を主に述べると、ステップ61で
【0169】
【数37】
Δfc=fcReal−fcRef
の式により基準燃料とのカットオフ周波数差Δfcを計算し、この周波数差Δfcの絶対値と許容範囲を定める所定値a(>0)、あるいはΔfcとaをステップ62、63において比較する。|Δfc|≦a(つまり基準燃料が使用されている)であれば、ステップ62よりステップ64に進んで燃料性状切換2フラグ=0とし、|Δfc|>aかつΔfc>a(つまり軽質ガソリンが使用されている)であるときはステップ63よりステップ65に進んで燃料性状切換2フラグ=1とし、それ以外(つまり重質ガソリンが使用されている)のときはステップ63よりステップ66に進んで燃料性状切換2フラグ=2とする。
【0170】
このように第2実施形態では、使用されている燃料が、基準燃料、軽質ガソリン、重質ガソリンのいずれであるかが判定された。
【0171】
ただし、第2実施形態のように、燃料性状判定値が3つの値になると、始動後増量補正係数KASを演算するに際し、図18〜図22に対応して3種類のテーブル値を用意する必要がある。
【0172】
次に、図25、図26、図28のフローチャートは第3実施形態で、それぞれ第1実施形態の図14、図16、図17に対応する。図25において図14と同一部分に、図26において図16と同一部分に、また図28において図17と同一部分にそれぞれ同一のステップ番号を付している。
【0173】
前述の2つの実施形態が燃料性状判定値(つまり燃料性状切換フラグや燃料性状切換2フラグの値)が2値あるいは3値であったのに対して、第3実施形態は、連続値としての燃料性状推定値を演算し、これをEEPROMに格納するとともに(図25のステップ71、72)、次回の始動時よりこの燃料性状推定値を用いて始動後増量補正係数KASを演算するようにしたものである。
【0174】
燃料性状推定値の演算について具体的に図26により説明すると、ステッ31、32で第1実施形態と同じにプラントモデルのカットオフ周波数を演算し、その演算したカットオフ周波数からステップ81において図27を内容とするテーブルを検索することにより燃料性状推定値を演算する。プラントモデルのカットオフ周波数と燃料性状推定値との関係は図27のようになるので、同特性を予めマッチングにより定めておけば、プラントモデルのカットオフ周波数から使用燃料の燃料性状を推定できるのである。
【0175】
次に、図28において、図17と異なる部分を主に説明すると、ステップ91で燃料性状推定値FCを読み込み、スタータスイッチのON時はこの値FCと冷却水温TW、回転数Neからステップ92、93、94において図29、図30、図31を内容とするマップを検索することにより、始動後増量水温補正値TKAS、第2始動後増量補正係数KASS、始動後増量回転補正値TNKASを、またスタータスイッチのOFF時には燃料性状推定値FCと冷却水温TWからステップ95、96において図32、図33を内容とするマップを検索することにより、始動後増量減少時間割合TMKAS、第2始動後増量減少時間割合TMKASSをそれぞれ演算する。
【0176】
ここで、TKAS、KASSは、図29、図30に示したように同一のFCであれば冷却水温TWが低いほど、またTWが同じであるとき燃料性状が重質になるほど大きくなる値、TMKAS、TMKASSは、図32、図33のように同一のFCであれば冷却水温TWが高くなるほど、またTWが同じであるとき燃料性状が軽質になるほど大きくなる値である。
【0177】
なお、燃料性状推定値とTWが同一であれば、TKASのほうがKASSより大きく、かつTMKASのほうがTMKASSより大きくなることはいうまでもない。
【0178】
この第3実施形態によれば、連続値としての燃料性状推定値FCに応じて始動後増量補正係数KASの演算に用いるデータ(マップ値)を割り付けているので、先の2つの実施形態よりも、始動後増量補正係数KASの演算精度が向上する。
【0179】
図34のフローチャートは第4実施形態で、第3実施形態の図28と置き換わるものである。なお、図28と同一部分には同一のステップ番号を付している。
【0180】
さて、KASを演算するのに用いるデータを、図29〜図33のようにマップ値で与えるのでは、マッチングの工数が莫大なものとなってしまう。そこでこの第4実施形態は、燃料性状推定値FCに応じた燃料性状補正値KFCを導入してこの補正値KFCで最重質ガソリンに対してマッチングしたデータ(テーブル値)を補正し、この補正したデータに基づいて始動後増量補正係数KASを演算することにより、マッチングの工数を減らすようにしたものである。
【0181】
具体的に説明すると、図28の場合と異なるのは、ステップ101、102〜115である。まずステップ101で燃料性状推定値FCから図35を内容とするテーブルを検索することにより、燃料性状補正値KFCを演算する。図35に示したように、KFCは、最重質ガソリン(燃料性状が最重質)のときを最大の1.0として燃料性状が軽質になるほど小さくなる値である。
【0182】
ステップ102、103では冷却水温TWから図36、図37を内容とするテーブルを検索することにより、TKAS、TMKAS(いずれも最重質ガソリンに対してマッチングした値である)を演算し、これらと上記のKFCとを用いステップ104において、
【0183】
【数38】
TKASF=TKAS×KFC
TMKASF=TMKAS×KFC
の式により、燃料性状対応の始動後増量水温補正値TKASFと燃料性状対応の始動後増量減少時間割合TMKASFを計算する。ステップ105、106、107ではステップ102、103、104と同様にして、冷却水温TWから図38、図39を内容とするテーブルを検索することにより、KASS、TMKASS(これらも最重質ガソリンに対してマッチングした値である)を演算し、
【0184】
【数39】
KASSF=KASS×KFC
TMKASSF=TMKASS×KFC
の式により、燃料性状対応の第2始動後増量補正係数KASSFと燃料性状対応の第2始動後増量減少時間割合TMKASSFを計算する。そして、これらの値を用いて、上記の数36式と同様の式である、
【0185】
【数40】
KAS=TKASF×TNKAS+KASSF
の式により始動後増量補正係数KASを算出する(ステップ108)。
【0186】
そしてステップ109ではスタータスイッチがOFFになってからの処理に備えるため、TKASFの値をTKASFn-1に、KASSFの値をKASSFn-1に移して今回の処理を終了する。ステップ110〜115は、スタータスイッチのOFF後にTKASF、KASSFについて図17のステップ49〜56と同様に減衰操作を行う部分である。
【0187】
たとえば、最重質ガソリンよりも燃料性状が軽質側のガソリンが使用されるときには、KFCが1.0より小さな値となるため、TKASF<TKAS、TMKASF<TMKAS、KASSF<KASS、TMKASSF<TMKASSとなることから、最重質ガソリンに対するKASよりも小さなKASが算出され、これによって、図28の場合と同様に、最重質ガソリンよりも燃料性状が軽質側のガソリンに対しても最適な始動後増量補正係数が与えられるのである。なお、最重質ガソリンの使用時は、KFC=1.0より、TKASF=TKAS、TMKASF=TMKAS、KASSF=KASS、TMKASSF=TMKASSとなり、従来装置と変わらない。
【0188】
この場合に、KASの演算に用いるデータを得るに際しては、図36〜図39に示す特性を最重質ガソリンに対してマッチングするだけで済むので、第4実施形態によれば、第3実施形態の場合よりマッチングの工数を低減できるのである。
【0189】
次に、図40、図48、図51のフローチャートは、第5、第6、第7の各実施形態で、それぞれ図17、図28、図34に対応する。なお、図40において図17と同一部分、図48において図28と同一部分、図51において図34と同一部分には同一のステップ番号を付している。
【0190】
前述の図17、図28、図34の3つの実施形態は、燃料性状切換フラグや燃料性状推定値に基づいて始動後増量補正係数KASを演算するものであったが、第5、第6、第7の各実施形態は、燃料性状切換フラグや燃料性状推定値に基づいて未燃分増量補正係数KUBを演算するようにしたものである。なお、未燃分増量補正係数KUBの演算方法そのものついては特開平10−18883号公報により提案している。
【0191】
図40から説明すると、ステップ41、121でEEPROMに格納されている燃料性状切換フラグの値のほか、吸入負圧、回転数Ne、冷却水温TWを読み込み、ステップ122で空燃比フィードバック制御条件(図では「空燃比F/B条件」で略記)であるかどうかの判定を行う。空燃比フィードバック制御を禁止する条件は、公知のように、始動時、高負荷時、減速時(フュエルカット時)、O2センサ3出力に異常があるとき、O2センサ3が未活性状態にあるときのいずれかに該当するときである。
【0192】
空燃比フィードバック制御を禁止する条件では、ステップ123、124に進み、冷却水温TWと燃料性状切換フラグの値から図41を内容とするテーブルを検索して水温増量補正係数の基本値KTW0を、また吸入負圧と回転数Neより図42を内容とするマップを検索して水温増量補正係数の負荷回転補正率RKTWを求め、ステップ125において
【0193】
【数41】
KTW=KTW0×RKTW
の式により水温増量補正係数KTWを計算する。
【0194】
ここで、KTW0の値は、図41に示したように同一の冷却水温TWでも軽質ガソリンの使用時(燃料燃料性状切換フラグ=1)のほうが、重質ガソリンの使用時(燃料燃料性状切換フラグ=0)よりも小さくなる値である。
【0195】
なお、図42は、軽質ガソリン、重質ガソリンに共通の特性を示しており、実際には、軽質ガソリン用と重質ガソリン用の別々のマップがあり、同一の回転数、同一の吸入負圧でみると、軽質ガソリン用のマップ値のほうが重質ガソリン用のマップ値より小さくなっている。
【0196】
最後にステップ126では未燃分増量補正係数KUBに0を入れる。このとき(空燃比フィードバック制御を禁止する条件)はKUBがないのと同じであり、従来と同様に水温増量補正係数KTWによる燃料増量を行うためである。
【0197】
これに対して、空燃比フィードバック制御条件の成立時になると、ステップ122よりステップ127に進み、水温増量補正係数KTWに0を入れるとともに、ステップ128、129で冷却水温TWと燃料性状切換フラグの値より図43を内容とするテーブルを検索して未燃分増量補正係数の基本値KUBASを、また吸入負圧と回転数Neより図44を内容とするマップを検索して未燃分増量補正係数の負荷回転補正率RKUBを求め、ステップ130において
【0198】
【数42】
KUB=KUBAS×RKUB
の式により未燃分増量補正係数KUBを計算する。
【0199】
KUBASの値も、図43のようにKTW0と同様に同一の冷却水温TWであれば軽質ガソリンの使用時(燃料燃料性状切換フラグ=1)のほうが、重質ガソリンの使用時(燃料燃料性状切換フラグ=0)よりも小さくなる値である。なお、図44も、図42と同様に軽質ガソリン、重質ガソリンに共通の特性を示しており、実際には、軽質ガソリン用と重質ガソリン用の独立したマップがあり、同一の回転数、同一の吸入負圧でみると、軽質ガソリン用のマップ値のほうが重質ガソリン用のマップ値より小さくなっている。
【0200】
なお、エンジン冷間時は未燃分がエンジン暖機完了後よりも増えるためベース空燃比が理論空燃比とならない(理論空燃比よりもリーン側にくる)ことを前述したが、エンジン冷間時に未燃分が増えた状態でも空燃比が理論空燃比となるようにKUBを適合している。
【0201】
詳細には、冷却水温TWだけをパラメータとしてKTWを演算するのではなく、負荷と回転数をもパラメータとしてKTWを演算するのは次の理由からである。従来のKTWはアイドル条件でのエンジンの安定度を主に考慮し、高回転、高負荷側ではそもそも安定度は問題ないと考え、冷却水温だけに対して適合していたのであるが、実際には図45に示したように、同一の冷却水温、同一の回転数でも吸入負圧(つまりエンジン負荷)が違えばKTWに対する要求値も違ってくる。したがって、スロットルバルブ5が全閉位置にあるときの吸入負圧(たとえばA点の吸入負圧)でエンジン安定度を満足する空燃比となるようにKTWを適合したのでは、同じ冷却水温と回転数でもアクセルペダルを踏み込むことによりスロットルバルブ5が所定開度まで開いた状態での吸入負圧(たとえばB点の吸入負圧)になると、KTWが不足することになってしまうのである。同様にして、図46のように同一の冷却水温、同一の吸入負圧でも回転数が異なると、KTWに対する要求値が違ってくるので、スロットルバルブ5が全閉位置かつアイドル時の回転数(たとえばC点の回転数)でエンジン安定度を満足する空燃比となるようにKTWを適合したのでは、同じ冷却水温と吸入負圧でも高回転(たとえばD点の回転数)のときKTWの精度が落ちる。なお、回転数に対する空燃比の特性は一様でなく、右上がりのときと左上がりのときの両方がある。
【0202】
なお、図45は同じ燃料性状の燃料において、エンジン冷間時に冷却水温と回転数を一定に保ったまま吸入負圧を変化させたときのベース空燃比とエンジン安定度を満足する空燃比の、また図46は燃料性状が同じでありながらエンジン冷間時に冷却水温と吸入負圧を一定に保ったまま回転数を変化させたときのベース空燃比とエンジン安定度を満足する空燃比の各特性を示したものである。
【0203】
そこで、重質ガソリン、軽質ガソリンのそれぞれに対して、たとえばアイドル時の吸入負圧と回転数の条件で冷却水温を相違させて水温増量補正係数の基本値KTW0を適合した後で、基本値KTW0を適合したときの吸入負圧と回転数より外れたときにも、エンジン安定度を満足する空燃比となるように吸入負圧と回転数を相違させて水温増量補正係数の負荷回転補正率RKTWを適合するのである。
【0204】
また、図45に示したように、同一の冷却水温、同一の回転数でも吸入負圧が違えばKUBに対する要求値が違ってくることから、A点の吸入負圧で理論空燃比となるようにKUBを適合したのでは、同じ冷却水温と回転数でもB点の吸入負圧になると、KUBが不足することになってしまい、また図46のように、同一の冷却水温、同一の吸入負圧でも回転数が異なればKUBに対する要求値が違ってくることから、C点の回転数で理論空燃比となるようにKUBを適合したのでは、同じ冷却水温と吸入負圧でもD点の回転数のとき、KUBの精度が低下するので、重質ガソリン、軽質ガソリンのそれぞれに対して、たとえばアイドル時の吸入負圧と回転数の条件で冷却水温を相違させて未燃分増量補正係数の基本値KUBASを適合するとともに、基本値KUBASを適合したときの吸入負圧と回転数より外れたときにも、理論空燃比となるように吸入負圧と回転数を相違させて未燃分増量補正係数の負荷回転補正率RKUBを適合する。
【0205】
図42、図44にRKTW、RKUBの一例を示したが、RKTW、RKUBの各特性はエンジンの機種毎に異なるので、最終的にはエンジンの機種毎に適合する。なお、図45、図46においては見やすくするためA点、B点やC点、D点から少し離してKTW、KUBを示している。したがって、冷却水温と吸入負圧、回転数が同一の条件でKUB<KTWとなることはいうまでもない。
【0206】
上記の吸入負圧については、エアフローメータからの吸入空気量Qaと回転数Neより所定のマップを検索することにより求めることができる。吸入負圧を吸気マニホールドのコレクタ部に設けた圧力センサにより検出することもできる。また、吸入負圧に代えて、基本噴射パルス幅Tp(あるいはQa)を用いることもできる。
【0207】
未燃分増量補正係数KUBの時系列イメージを図23に対応させて図47に示す。軽質ガソリンの使用時のほうが重質ガソリンの使用時よりもKUBASの値(図43のテーブル値)を小さく、かつRKUBの値(図44のテーブル値)を小さくしているので、図47のように軽質ガソリン使用時のKUBは、重質ガソリン使用時のKUBより小さくなる。つまり、燃料性状の判定を行っていないものでは、軽質ガソリンの使用時にも、重質ガソリンに対してマッチングしたテーブル値を用いることによる空燃比のリッチ化を招くのであるが、このように、軽質ガソリンの使用であることを判定したときは、次回の始動時のKUBの演算に際して、重質ガソリン使用時よりも少ない値を軽質ガソリン用のKUBとして演算することで、軽質ガソリンの使用時にも空燃比がリッチ側に偏ることがなくなるのである。
【0208】
次に、図48(第6実施形態)に移ると、図48では簡単のため図40で示した負荷回転補正率RKTW、RKUBを省略している。図48において、第5実施形態の図40と異なるのはステップ141、143であり、空燃比フィードバック制御を禁止する条件ではステップ141において冷却水温TWと燃料性状推定値FCとから図49を内容とするマップを検索することにより、水温増量補正係数の基本値KTW0を演算し、その演算値をステップ142で水温増量補正係数KTWに移し、これに対して空燃比フィードバック制御条件の成立時になると、ステップ143に進んで冷却水温TWと燃料性状推定値FCとから今度は図50を内容とするマップを検索することにより、未燃分増量補正係数の基本値KUBASを演算し、その演算値をステップ144で未燃分増量補正係数KUBに移している。図49、図50において同一の冷却水温、同一の燃料性状推定値FCに対して、KUBASの値のほうがKTW0の値より小さいことはいうまでもない。
【0209】
この第6実施形態によれば、連続値としての燃料性状推定値FCに応じて、水温増量補正係数KTW、未燃分増量補正係数KUBの演算に用いるデータ(マップ値)を割り付けているので、第5実施形態よりも、水温増量補正係数KTW、未燃分増量補正係数KUBの演算精度が向上する。
【0210】
次に、図51(第7実施形態)に移ると、図51でも簡単のため図40で示した負荷回転補正率RKTW、RKUBを省略している。図51において、第6実施形態の図48と異なるのは、ステップ101、151〜154である。
【0211】
まずステップ101で燃料性状推定値FCから図35を内容とするテーブルを検索することにより、燃料性状補正値KFCを演算した後、空燃比フィードバック制御を禁止する条件ではステップ151で冷却水温TWから図52を内容とするテーブルを検索することにより、KTW0(最重質ガソリンに対してマッチングした値である)を演算し、これと上記のKFCとを用いステップ152において、
【0212】
【数43】
KTW=KTW0×KFC
の式により、水温増量補正係数KTWを計算する。
【0213】
これに対して空燃比フィードバック制御条件の成立時になると、ステップ153、154において、ステップ151、152と同様にして冷却水温TWから図53を内容とするテーブルを検索することにより、KUBAS(これも最重質ガソリンに対してマッチングした値である)を演算し、
【0214】
【数44】
KUB=KUBAS×KFC
の式により、未燃分増量補正係数KUBを計算する。
【0215】
第7実施形態では、たとえば最重質ガソリンよりも燃料性状が軽質側のガソリンが使用されるときには、KFCが1.0より小さな値となるため、KTW<KTW0、KUB<KUBASとなることから、最重質ガソリンに対するKTW、KUBよりも小さなKTW、KUBが算出され、これによって、第6実施形態と同様に、最重質ガソリンよりも燃料性状が軽質側のガソリンに対しても、最適な水温増量補正係数と未燃分増量補正係数が与えられるのである。なお、最重質ガソリンの使用時は、KFC=1.0より、KTW=KTW0、KUB=KUBASとなり、従来装置と変わらない。
【0216】
この場合に、第7実施形態によれば、KTW、KUBの演算に用いるデータを得るに際して図52、図53に示す特性を最重質ガソリンに対してマッチングするだけで済むので、第6実施形態の場合よりマッチングの工数を低減できる。
【0217】
前述の第1、第3、第4の各実施形態では噴射量補正量としての始動後増量補正係数KASを対象として、また第5、第6、第7の各実施形態では噴射量補正量としての水温増量補正係数KTWおよび未燃分増量補正係数KUBを対象として、(A)燃料性状切換フラグを用いる場合、(B)燃料性状推定値FCを用いる場合、(C)燃料性状補正値KFCを用いる場合で説明したが、これに限られるものでない。たとえば、次の(1)、(2)の噴射量補正量や(3)、(4)の燃料噴射量を対象として、上記(A)〜(C)の3つの場合とも適用できる。
【0218】
(1)低周波成分(壁流燃料)。
【0219】
(2)高周波成分(壁流燃料)。
【0220】
(3)始動時燃料噴射量。
【0221】
(4)加速時割り込み噴射量。
【0222】
以下では、(1)〜(4)を対象として(C)を適用する場合を項を分けて説明する。
(1)低周波成分が噴射量補正量の場合
(1-1)付着倍率Mfhtvoの求め方
上記の付着倍率Mfhtvoは、単位噴射弁部流量相当パルス幅当たり、かつ1シリンダ当たりの平衡付着量のことであり、これは上記の特開平10−18882号公報によれば、負荷(Avtp)と回転数Neと燃料付着部の温度予測値Tfを用いて求めている。なお、燃料付着部の温度予測値Tfの演算については、特開平1−305142号公報に詳しいので説明は省略する。
【0223】
Mfhtvoの求め方について具体的に説明すると、これは、次のようにして演算している。まず、温度予測値Tfの上下各基準温度TfiとTfi+1(iは1から4(あるいは5)までの整数)に対する基準付着倍率データMfhtfiとMfhtfi+1を用い、Tf、Tfi、Tfi+1による補間計算で求める。たとえば、Mfhtf1、Mfhtf2と、基準温度Tf1、Tf2、現在の温度予測値Tfを用いて
【0224】
【数45】
Mfhtvo=Mfhtf1+(Mfhtf2−Mfhtf1
×(Tf1−Tf)/(Tf1−Tf2
の式(直線補間計算式)によりMfhtvoを計算する。
【0225】
上記の基準付着倍率データMfhtfi
【0226】
【数46】
Mfhtfi=Mfhqi×Mfhni
ただし、Mfhqi:基準付着倍率負荷項、
Mfhni:基準付着倍率回転項、
の式により計算する。
【0227】
ここで、Mfhqiはα−N流量Qh0と温度予測値Tfを用い補間計算付きで所定のマップを検索して求める。なお、Qh0は絞り弁開度TVOと回転数Neから求められる絞り弁部の空気流量で、既に公知のものである。Mfhniは回転数Neから補間計算付きで所定のテーブルを検索して求める。Mfhqiのマップ(図54参照)とMfhniのテーブル(図55参照)は、後述するKmfatのマップとKmfnのテーブルとともに、理論空燃比のときにマッチングしたデータが格納されている。また、図54と後述する図56の各マップは本来、冷却水温TWに対してマッチングしたものであるが、このマップ検索する際に、冷却水温TWに代えて温度予測値Tfを用いるわけである。
【0228】
(1-2)分量割合Kmfの求め方
上記の分量割合Kmfは、平衡付着量Mfhに対して、現時点での付着量(予測変数)Mfが単位周期当たり(たとえばクランク軸1回転毎)にどの程度の割合で接近するかの割合を表す係数のことであり、これは、上記の特開平10−18882号公報によれば、基本分量割合Kmfatと分量割合回転補正率Kmfnの積から演算している。
【0229】
ここで、Kmfatは温度予測値Tfを用いて求める。たとえば、α−N流量Qh0と温度予測値Tfとを用い、補間計算付きで所定のマップ(図56参照)を検索する。Kmfnは回転数Neから補間計算付きで所定のテーブル(図57参照)を検索する。
【0230】
なお、基準付着倍率回転項Mfhniと分量割合回転補正率Kmfnに添付されたnは気筒番号としてのnではなく、回転数Neを意味させている。
【0231】
(1-3)燃料性状の反映
低周波数成分を演算するのに用いる4つのデータ(基準付着倍率負荷項Mfhqiのマップ値、基準付着倍率回転項Mfhniのテーブル値、基本分量割合Kmfatのマップ値、分量割合回転補正率Kmfnのテーブル値)を最重質ガソリンに対してマッチングしておき、この最重質ガソリンにマッチングしたデータを上記の燃料性状補正値KFCで補正する。
(2)高周波成分が噴射量補正量の場合
上記の気筒別壁流補正量Chosn1 の演算に用いる増量ゲインGztwp、減量ゲインGztwmは、上記の特開平10−18882号公報によれば、水温TWから図58、図59を内容とするテーブルを検索することにより求められる値である。したがって、Chosn1 の演算に用いる2つのデータ(増量ゲインGztwpのテーブル値と減量ゲインGztwmのテーブル値)を最重質ガソリンに対してマッチングしておき、この最重質ガソリンにマッチングしたデータを上記の燃料性状補正値KFCで補正する。
(3)始動時燃料噴射量が燃料噴射量の場合
(3-1)始動時燃料噴射パルス幅TISTの求め方
始動時燃料噴射パルス幅TISTは、特開昭7−63082号公報等によれば、
【0232】
【数47】
TIST=TST×KTST×KNST
ただし、TST :始動時基本噴射パルス幅、
KTST:時間補正係数、
KNST:回転数補正係数、
の式により算出している。TST、KTST、KNSTは、図60、図61、図62を内容とするテーブルを検索して求める値である。
【0233】
(3-2)燃料性状の反映
始動時燃料噴射パルス幅を演算するのに用いる3つのデータ(TST、KTST、KNSTの各テーブル値)を最重質ガソリンに対してマッチングしておき、この最重質ガソリンにマッチングしたデータを上記の燃料性状補正値KFCで補正する。
(4)加速時割り込み噴射量が燃料噴射量の場合
(4-1)加速時割り込み噴射パルス幅の求め方
加速時割り込み噴射パルス幅IJSETnは、特開昭64−3245号公報によれば、噴射弁部空気量相当パルス幅Avtpの前回開噴射からの変化量であるΔAvtpn(nは気筒番号)を用いて、
【0234】
【数48】
IJSETn=ΔAvtpn×Gwtwp×Gzcyln+Ts
ただし、Gwtwp:増量ゲインGztwp、
Gzcyln:気筒別補正率、
の式により算出している。
【0235】
ここで、Gzcyln(nは気筒番号)が割り込み噴射が行われるサイクル位置から吸気行程までのクランク角差に応じて吸気系燃料の挙動が相違するので、これを考慮するため、図63を内容とするテーブルを検索して求める値である。
【0236】
なお、SPI(シングルポイントインジェクション)方式に対する演算式を記載してある特開昭64−3245号公報に対して、数48式は、MPI(マルチポイントインジェクション)方式に書き換えたものである。
【0237】
(4-2)燃料性状の反映
加速時割り込み噴射パルス幅を演算するのに用いるデータ(Gwtwp、Gzcylnの各テーブル値)を最重質ガソリンに対してマッチングしておき、この最重質ガソリンにマッチングしたデータを上記の燃料性状補正値KFCで補正する。
【0238】
このようにして、低周波成分、高周波成分といった噴射量補正量や始動時燃料噴射量、加速時割り込み噴射量といった燃料噴射量の演算に燃料性状補正値KFCを用いることで、各種の噴射量補正量や燃料噴射量の演算精度を高めることができ、これによって使用燃料の燃料性状が相違しても、適切な各種の噴射量補正量や燃料噴射量を与えることができるほか、各種の噴射量補正量や燃料噴射量の演算に用いるデータを得るに際して最重質ガソリンに対してマッチングするだけで済むので、マッチングの工数を低減できる。
【0239】
最後に、各種の噴射量や燃料噴射量は実施形態のものに限られるものでなく、燃料性状の影響を受けるものであれば、適用があることはいうまでもない。
【0240】
実施形態では、過渡時に燃料噴射量に対する排気空燃比の応答波形をサンプリングし、これら過渡時データに基づいて、予めECM上に構築したプラントモデルのパラメータを、基準燃料に対するプラントモデルである規範モデルとの予測誤差が最小となるように調整することにより、使用燃料に対するプラントモデルを同定する場合で説明したが、これに限られるものでなく、燃料噴射量に代えて燃料供給量を用いることもできる。また、予測誤差が最小となるように調整するほか、予測誤差が小さくなるように調整することでもかまわない。
【図面の簡単な説明】
【図1】エンジン制御の制御システム図。
【図2】燃料性状の推定に関係する制御システム図。
【図3】エンジンプラントモデルのブロック図。
【図4】燃料挙動のモデル図。
【図5】燃料挙動のパラレルパスブロック図。
【図6】排気モデル図。
【図7】入出力間の無駄時間を表す波形図。
【図8】無駄時間を分類した表図。
【図9】LTIシステムの一般的なブロック図。
【図10】評価関数(評価規範)の特性図。
【図11】ARXモデルの同定手法を示すフローチャート。
【図12】モデル同定に必要な入力信号とその応答を示す波形図。
【図13】同定結果と実データを重ねて示すボード線図。
【図14】燃料性状の推定を説明するためのフローチャート。
【図15】ARXモデルの同定を説明するためのフローチャート。
【図16】燃料性状の切換判定を説明するためのフローチャート。
【図17】始動後増量補正係数KASの演算を説明するためのフローチャート。
【図18】始動後増量水温補正値(初期値)の特性図。
【図19】第2始動後増量補正係数(初期値)の特性図。
【図20】始動後増量回転補正値の特性図。
【図21】始動後増量減少時間割合の特性図。
【図22】第2始動後増量減少時間割合の特性図。
【図23】始動後増量補正係数KASの時系列イメージを示す波形図。
【図24】第2実施形態の燃料性状の切換判定を説明するためのフローチャート。
【図25】第3実施形態の燃料性状の推定を説明するためのフローチャート。
【図26】第3実施形態の燃料性状推定値の演算を説明するためのフローチャート。
【図27】カットオフ周波数に対する燃料性状推定値の特性図。
【図28】第3実施形態の始動後増量補正係数KASの演算を説明するためのフローチャート。
【図29】第3実施形態の始動後増量水温補正値(初期値)の特性図。
【図30】第3実施形態の第2始動後増量補正係数(初期値)の特性図。
【図31】第3実施形態の始動後増量回転補正値の特性図。
【図32】第3実施形態の始動後増量減少時間割合の特性図。
【図33】第3実施形態の第2始動後増量減少時間割合の特性図。
【図34】第3実施形態の始動後増量補正係数KASの演算を説明するためのフローチャート。
【図35】第3実施形態の燃料性状補正値の特性図。
【図36】第3実施形態の始動後増量水温補正値(初期値)の特性図。
【図37】第3実施形態の始動後増量減少時間割合の特性図。
【図38】第3実施形態の第2始動後増量補正係数(初期値)の特性図。
【図39】第3実施形態の第2始動後増量減少時間割合の特性図。
【図40】第3実施形態の水温増量補係数KTW、未燃分増量補正係数KUBの演算を説明するためのフローチャート。
【図41】第3実施形態の水温増量補係数の基本値の特性図。
【図42】第3実施形態の水温増量補係数の負荷回転補正率の特性図。
【図43】第3実施形態の未燃分増量補正係数の基本値の特性図。
【図44】第3実施形態の未燃分増量補正係数の負荷回転補正率の特性図。
【図45】吸入負圧に対する水温増量補係数と未燃分増量補正係数の適合を説明するための空燃比特性図。
【図46】回転数に対する水温増量補係数と未燃分増量補正係数の適合を説明するための空燃比特性図。
【図47】第3実施形態の未燃分増量補正係数KUBの時系列イメージを示す波形図。
【図48】第4実施形態の水温増量補係数KTW、未燃分増量補正係数KUBの演算を説明するためのフローチャート。
【図49】第4実施形態の水温増量補係数の基本値の特性図。
【図50】第4実施形態の未燃分増量補正係数の基本値の特性図。
【図51】第5実施形態の水温増量補係数KTW、未燃分増量補正係数KUBの演算を説明するためのフローチャート。
【図52】第5実施形態の水温増量補係数の基本値の特性図。
【図53】第5実施形態の未燃分増量補正係数の基本値の特性図。
【図54】基準付着倍率負荷項の特性図。
【図55】基準付着倍率回転項の特性図。
【図56】基本分量割合の特性図。
【図57】分量割合回転補正率の特性図。
【図58】増量ゲインの特性図。
【図59】減量ゲインの特性図。
【図60】始動時基本噴射パルス幅の特性図。
【図61】回転数補正係数の特性図。
【図62】時間補正係数の特性図。
【図63】気筒別補正率の特性図。
【図64】第1の発明のクレーム対応図。
【図65】第2の発明のクレーム対応図。
【図66】第3の発明のクレーム対応図。
【符号の説明】
2 ECM
3 A/Fセンサ
7 燃料噴射弁
14 EEPROM
15 燃料噴射量演算手段
21 プラント同定部
22 燃料性状推定部
23 トリガリング機能
24 コントローラ
31 プラントモデル
37 規範モデル
38 比較手段

Claims (18)

  1. エンジンの運転条件に応じた燃料供給量をエンジンに供給する手段と、
    エンジンの排気空燃比を検出する手段と、
    過渡時に前記燃料供給量を入力、前記排気空燃比を出力として現在の使用燃料での前記燃料供給量に対する排気空燃比の応答波形のデータをサンプリングする手段と、
    これら入出力データに基づいて、予め構築したプラントモデルのパラメータを規範モデルとの予測誤差が小さくなるように調整することにより、前記使用燃料に対するプラントモデルを同定する手段と、
    この同定されたプラントモデルのカットオフ周波数を演算する手段と、
    前記規範モデルを基準燃料に対してマッチングしてある場合に、このプラントモデルのカットオフ周波数と規範モデルのカットオフ周波数とを比較し、プラントモデルのカットオフ周波数が規範モデルのカットオフ周波数より高いとき、前記使用燃料の燃料性状は前記よりも軽質であると、またプラントモデルのカットオフ周波数が規範モデルのカットオフ周波数より低いとき、前記使用燃料の燃料性状は前記基準燃料よりも重質であると推定する手段と、
    この燃料性状の推定結果に基づいて前記燃料供給量を演算する手段と
    を設けたことを特徴とするエンジンの燃料供給制御装置。
  2. エンジンの運転条件に応じた燃料供給量をエンジンに供給する手段と、
    エンジンの排気空燃比を検出する手段と、
    過渡時に前記燃料供給量を入力、前記排気空燃比を出力として現在の使用燃料での前記燃料供給量に対する排気空燃比の応答波形のデータをサンプリングする手段と、
    これら入出力データに基づいて、予め構築したプラントモデルのパラメータを規範モデルとの予測誤差が小さくなるように調整することにより、前記使用燃料に対するプラントモデルを同定する手段と、
    この同定されたプラントモデルのカットオフ周波数を演算する手段と、
    前記規範モデルを基準燃料に対してマッチングしてある場合に、このプラントモデルのカットオフ周波数と規範モデルのカットオフ周波数の差と、基準燃料の許容範囲とを比較し、プラントモデルのカットオフ周波数と規範モデルのカットオフ周波数の差が基準燃料の許容範囲外であり、かつプラントモデルのカットオフ周波数が規範モデルのカットオフ周波数よりも大きいとき、前記使用燃料の燃料性状は前記基準燃料よりも軽質であると、またプラントモデルのカットオフ周波数と規範モデルのカットオフ周波数の差が基準燃料の許容範囲外であり、かつプラントモデルのカットオフ周波数が規範モデルのカットオフ周波数より小さいとき、前記使用燃料の燃料性状は前記基準燃料よりも重質であると推定する手段と、
    この燃料性状の推定結果に基づいて前記燃料供給量を演算する手段と
    を設けたことを特徴とするエンジンの燃料供給制御装置。
  3. エンジンの運転条件に応じた燃料供給量をエンジンに供給する手段と、
    エンジンの排気空燃比を検出する手段と、
    過渡時に前記燃料供給量を入力、前記排気空燃比を出力として現在の使用燃料での前記燃料供給量に対する排気空燃比の応答波形のデータをサンプリングする手段と、
    これら入出力データに基づいて、予め構築したプラントモデルのパラメータを規範モデルとの予測誤差が小さくなるように調整することにより、前記使用燃料に対するプラントモデルを同定する手段と、
    この同定されたプラントモデルのカットオフ周波数を演算する手段と、
    前記規範モデルを基準燃料に対してマッチングしてある場合に、プラントモデルのカットオフ周波数に対する燃料性状推定値の特性を、プラントモデルのカットオフ周波数が前記規範モデルのカットオフ周波数より大きくなるほどより軽質であることを、またプラントモデルのカットオフ周波数が前記規範モデルのカットオフ周波数より小さくなるほどより重質であることを表すように予め設定する手段と、
    前記演算されたプラントモデルのカットオフ周波数からこの特性を検索することにより燃料性状推定値を演算する手段と、
    この燃料性状推定値に基づいて前記燃料供給量を演算する手段と
    を設けたことを特徴とするエンジンの燃料噴射制御装置。
  4. 前記燃料性状の推定結果を不揮発性メモリに記憶させておくことを特徴とする請求項1または2に記載のエンジンの燃料供給制御装置。
  5. 前記燃料性状推定値を不揮発性メモリに記憶させておくことを特徴とする請求項3に記載のエンジンの燃料供給制御装置。
  6. 前記燃料性状の推定は、前記規範モデルを重質ガソリンに対してマッチングした場合に、前記同定したプラントモデルのカットオフ周波数が規範モデルのカットオフ周波数より高いとき、前記重質ガソリンよりも軽質であると推定することであることを特徴とする請求項1に記載のエンジンの燃料供給制御装置。
  7. 前記燃料性状の推定は、前記規範モデルを市販されている燃料のうち揮発性が悪くもなく良くもないほぼ中間の燃料に対してマッチングした場合に、前記同定したプラントモデルのカットオフ周波数と規範モデルのカットオフ周波数の差が基準燃料の許容範囲外であり、かつプラントモデルのカットオフ周波数が規範モデルのカットオフ周波数よりも大きいとき、前記中間の燃料よりも軽質であると、また前記同定したプラントモデルのカットオフ周波数と規範モデルのカットオフ周波数の差が基準燃料の許容範囲外であり、かつプラントモデルのカットオフ周波数が規範モデルのカットオフ周波数よりも小さいとき、前記中間の燃料よりも重質であると推定することであることを特徴とする請求項2に記載のエンジンの燃料供給制御装置。
  8. 前記燃料供給量が、エンジンの負荷と回転数から定まる基本燃料噴射量と噴射量補正量とからなる場合に、前記燃料性状の推定結果に基づいて噴射量補正量を演算することを特徴とする請求項1または2に記載のエンジンの燃料供給制御装置。
  9. 前記燃料供給量が、エンジンの負荷と回転数から定まる基本燃料噴射量と噴射量補正量とからなる場合に、前記燃料性状推定値に基づいて噴射量補正量を演算することを特徴とする請求項3に記載のエンジンの燃料供給制御装置。
  10. 前記噴射量補正量は始動後増量補正量であることを特徴とする請求項8または9に記載のエンジンの燃料供給制御装置。
  11. 前記噴射量補正量は水温増量補正量であることを特徴とする請求項8または9に記載のエンジンの燃料供給制御装置。
  12. 前記噴射量補正量は未燃分増量補正量であることを特徴とする請求項8または9に記載のエンジンの燃料供給制御装置。
  13. 前記噴射量補正量は壁流補正量であることを特徴とする請求項8または9に記載のエンジンの燃料供給制御装置。
  14. 前記壁流補正量は低周波成分であることを特徴とする請求項13に記載のエンジンの燃料供給制御装置。
  15. 前記壁流補正量は高周波成分であることを特徴とする請求項13に記載のエンジンの燃料供給制御装置。
  16. 前記燃料供給量は始動時噴射量であることを特徴とする請求項1から3までのいずれか一つに記載のエンジンの燃料供給制御装置。
  17. 前記燃料供給量は加速時割り込み噴射量であることを特徴とする請求項1から3までのいずれか一つに記載のエンジンの燃料供給制御装置。
  18. 前記予測誤差が小さくなるように調整することは、予測誤差が最小となるように調整することであることを特徴とする請求項1から17までのいずれか一つに記載のエンジンの燃料供給制御装置。
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