JP3830345B2 - 圧電磁器 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ナトリウム(Na)およびビスマス(Bi)を含む第1の元素と、チタン(Ti)を含む第2の元素と、酸素(O)とからなる酸化物を含有する圧電磁器に関する。
【0002】
【従来の技術】
圧電材料は、外部から電界が印加されることにより歪みを発生する(電気エネルギーの機械エネルギーへの変換)効果と、外部から応力を受けることにより表面に電荷が発生する(機械エネルギーの電気エネルギーへの変換)効果とを有するものであり、近年、各種分野で幅広く利用されている。例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3 ;PZT)などの圧電材料は、印加電圧に対して1×10-10 m/Vのオーダーでほぼ比例した歪みを発生することから、微少な位置調整などに優れており、光学系の微調整などにも利用されている。また、それとは逆に、圧電材料は加えられた応力あるいはそれによる自身の変形量に比例した大きさの電荷が発生することから、微少な力や変形を読み取るためのセンサーとしても利用されている。更に、圧電材料は優れた応答性を有することから、交流電界を印加することで、圧電材料自身あるいは圧電材料と接合関係にある弾性体を励振して共振を起こさせることも可能であり、圧電トランス、超音波モータなどとしても利用されている。
【0003】
現在実用化されている圧電材料の大部分は、PbZrO3 (PZ)−PbTiO3 (PT)からなる固溶体系(PZT系)である。その理由は、三方晶系のPZと正方晶(菱晶)系のPTの結晶学的な相境界(M.P.B.)付近の組成を用いることで、優れた圧電特性を得ることができるからである。このPZT系圧電材料には、様々な副成分あるいは添加物を加えることにより、多種多様なニーズに応えるものが幅広く開発されている。例えば、機械的品質係数(Qm)が小さいかわりに圧電定数(d33)が大きく、直流的な使い方で大きな変位量が求められる位置調整用のアクチュエータなどに用いられるものから、圧電定数(d33)が小さいかわりに機械的品質係数(Qm)が大きく、超音波モータなどの超音波発生素子のような交流的な使い方をする用途に向いているものまで様々なものがある。
【0004】
また、PZT系以外にも圧電材料として実用化されているものはあるが、それもマグネシウム酸ニオブ酸鉛(Pb(Mg,Nb)O3 ;PMN)などの鉛系ペロブスカイト組成を主成分とする固溶体がほとんどである。
【0005】
ところが、これらの鉛系圧電材料は、主成分として低温でも揮発性の極めて高い酸化鉛(PbO)を60〜70質量%程度と多量に含んでいる。例えば、PZTまたはPMNでは、質量比で約2/3が酸化鉛である。よって、これらの圧電材料を製造する際には、磁器であれば焼成工程、単結晶品であれば溶融工程などの熱処理工程において、工業レベルで極めて多量の酸化鉛が大気中に揮発し拡散してしまう。また、製造段階で放出される酸化鉛については回収することも可能であるが、工業製品として市場に出された圧電製品に含有される酸化鉛については現状では回収が難しく、これらが広く環境中に放出されると、酸性雨による鉛の溶出などが心配される。従って、今後圧電磁器および単結晶の応用分野が広がり、使用量が増大すると、無鉛化の問題が極めて重要な課題となる。
【0006】
鉛を全く含有しない圧電材料としては、例えばチタン酸バリウム(BaTiO3 )あるいはビスマス層状強誘電体などが知られている。しかし、チタン酸バリウムはキュリー点が120℃と低く、その温度以上では圧電性が消失してしまうので、はんだによる接合または車載用などの用途を考えると実用的でない。一方、ビスマス層状強誘電体は、通常400℃以上のキュリー点を有しており、熱的安定性に優れているが、結晶異方性が大きいので、ホットフォージングなどで自発分極を配向させる必要があり、生産性の点で問題がある。また、完全に鉛の含有をなくすと、大きな圧電性を得ることが難しい。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、最近では、新たな材料として、チタン酸ビスマスナトリウム系の材料について研究が進められている(例えば、特開平11−171643号公報,特開平11−180769号公報,特公平4−60073号公報)。しかしながら、このチタン酸ビスマスナトリウム系の材料では、未だ十分といえる圧電特性が得られておらず、圧電特性の向上が求められていた。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、ビスマスとナトリウムとチタンとを含む酸化物を含有するものにおいて、圧電特性を向上させることができる圧電磁器を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明による圧電磁器は、ナトリウムおよびビスマスを含む第1の元素と、チタンを含む4価の元素である第2の元素と、酸素とからなるペロブスカイト構造型の酸化物を含有しており、第2の元素に対する第1の元素の組成比(第1の元素/第2の元素)がモル比で0.9以上0.99以下の範囲内のものである。
【0010】
本発明による圧電磁器では、第2の元素に対する第1の元素の組成比が化学量論組成よりも小さくなっており、圧電特性の向上が図られている。なお、第2の元素に対する第1の元素の組成比は、モル比で0.93よりも大きく0.99よりも小さい範囲内であることがより好ましく、第1の元素は、更に、バリウム(Ba)およびカリウム(K)からなる群のうちの少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0011】
本発明による圧電磁器では、上記第1の元素が、ナトリウムを含む1価の元素と、ビスマスを含む3価の元素とを含み、3価の元素に対する1価の元素の組成比(1価の元素/3価の元素)が、モル比で0.8よりも大きく1よりも小さい範囲内のものであることがより好ましい。この場合、第1の元素における3価の元素に対する1価の元素の組成比が化学量論組成よりも小さくなっており、より圧電特性の向上が図られる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0014】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態に係る圧電磁器は、第1の元素と第2の元素と酸素とからなる酸化物を含有している。この酸化物は、ペロブスカイト構造を有しており、第1の元素は、第2の元素とペロブスカイト構造型の酸化物を形成する2価の元素、および合計で2価相当となる2種以上の元素からなる群のうちの少なくともナトリウムとビスマスとを含んでいる。このうちナトリウムは1価の元素であり、ビスマスは3価の元素である。すなわち、第1の元素は、ナトリウムを含む1価の元素と、ビスマスを含む3価の元素とを含んでいる。第2の元素は、チタンを含み、必要に応じてジルコニウム(Zr)およびハフニウム(Hf)などからなる群のうちの少なくとも1種を更に含んでいてもよい。この酸化物の組成は、例えば下記の化1で表される。
【0015】
【化1】
式中、Mは(Nas Bit )以外の第1の元素を表し、NはTi以外の第2の元素を表す。x,y,z,uおよびvはそれぞれ0<x≦1,0≦y<1,x+y=1,0.9≦z≦0.99,0<u≦1,0≦v<1,u+v=1の範囲内の値である。sおよびtはそれぞれ0<s<1,0<t<1,s+t=1の範囲内であり化学量論組成であればs/t=1であるが、化学量論組成からずれていてもよい。酸素の組成は化学量論的に求めたものであり、化学量論組成からずれていてもよい。
【0016】
すなわち、この酸化物は、第1の元素の組成である「z」の値がモル比で0.9≦z≦0.99と化学量論組成の1よりも小さいものである。つまり、この酸化物では、ペロブスカイト構造のAサイトがBサイトに比べて少なくなっている。これにより、この圧電磁器では、焼結性が向上すると共に、圧電特性が向上するようになっている。
【0017】
なお、「z」の値を0.9以上とするのは、それよりも小さいと逆に圧電特性が低下してしまうからである。また、「z」の値を0.93<z<0.99、更には0.95≦z≦0.98、より更には0.96≦z≦0.97の範囲内とすればより圧電特性を向上させることができるので好ましい。ちなみに、化1における「z」の値は、第2の元素の組成を1とした場合の第1の元素の組成なので、第2の元素に対する第1の元素のモル比による組成比(第1の元素/第2の元素)を意味している。
【0018】
ナトリウムおよびビスマス以外の第1の元素、すなわち化1における「M」には、例えば、2価の元素であればバリウム,マグネシウム(Mg),カルシウム(Ca)あるいはストロンチウム(Sr)が挙げられる。合計で2価相当となる2種以上の元素、例えば、1価の元素と3価の元素とであれば、1価の元素としてはカリウムあるいはリチウム(Li)などが挙げられ、3価の元素としては希土類元素などが挙げられる。これらは、(Nas Bit )z TiO3 と固溶されることで各種特性を向上させることができるものであり、目的とする特性に応じて1種または2種以上が選択される。例えば、圧電特性を向上させたい場合にはバリウムまたはカリウムとビスマス(Kq Bir )が選択される。qおよびrはそれぞれ0<q<1,0<r<1,q+r=1の範囲内であり化学量論組成であればq/r=1であるが、化学量論組成でなくてもよい。
【0019】
第1の元素における各元素の組成、例えば化1における「x」および「y」の値は、添加される元素Mに応じて最適値が決定される。同様に、第2の元素における各元素の組成、例えば化1における「u」および「v」の値は、添加される元素Nに応じて最適値が決定される。なお、「x」,「y」,「u」および「v」の値が最適値であるか否かに関係なく、「z」の値が上述したような範囲内にあれば、圧電特性は向上される。
【0020】
なお、この圧電磁器の結晶粒の平均粒径は例えば0.5μm〜20μmである。
【0021】
このような構成を有する圧電磁器は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0022】
まず、出発原料として、例えば、ビスマス,ナトリウム,チタンおよび必要に応じて元素M,Nを含む酸化物粉末をそれぞれ用意し、100℃以上で十分に乾燥させたのち、最終組成が上述した範囲となるように秤量する。なお、原料粉末には酸化物でなく、炭酸塩あるいはシュウ酸塩のように焼成により酸化物となるものを用いてもよい。
【0023】
次いで、例えば、秤量した原料粉末をボールミルなどにより有機溶媒中または水中で5時間〜20時間十分に混合したのち、十分乾燥し、プレス成形して、750℃〜900℃で1時間〜3時間仮焼する。続いて、例えば、この仮焼物をボールミルなどにより有機溶媒中または水中で10時間〜30時間粉砕したのち、再び乾燥し、バインダーを加えて造粒する。造粒ののち、例えば、この造粒粉を一軸プレス成型機あるいは静水圧成型機(CIP)などを用い100MPa〜400MPaの加重を加えてプレス成型しペレット状とする。
【0024】
ペレット状としたのち、例えば、この成形体を400℃〜800℃で2時間〜4時間熱処理してバインダーを揮発させ、950℃〜1300℃で2時間〜4時間本焼成する。本焼成の際の昇温速度および降温速度は、共に例えば50℃/時間〜300℃/時間程度とする。本焼成ののち、得られた焼結体を必要に応じて研磨し、電極を設ける。そののち、25℃〜100℃のシリコンオイル中で5MV/m〜10MV/mの電界を5分間〜1時間程度印加して分極処理を行う。これにより、上述した圧電磁器が得られる。
【0025】
このように本実施の形態によれば、第2の元素に対する第1の元素の組成比をモル比で0.9以上0.99以下の範囲内とするようにしたので、焼結性および圧電特性を向上させることができ、鉛を含有しない圧電磁器の利用の可能性を高めることができる。すなわち、焼成時に鉛が揮発することがなく、圧電部品として市場に流通し廃棄された後も環境中に鉛が放出される危険もない低公害化、対環境性および生態学的見地から極めて優れた圧電磁器の活用を図ることができる。
【0026】
特に、第2の元素に対する第1の元素の組成比をモル比で0.93よりも大きく0.99よりも小さい範囲内、より好ましくは0.95以上0.98以下の範囲内、更に好ましくは0.96以上0.97以下の範囲内とするようにすれば、更に圧電特性を向上させることができる。
【0027】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態に係る圧電磁器は、第1の実施の形態と同様に、1価の元素および3価の元素を含む第1の元素と、第2の元素と、酸素とからなる酸化物を含有している。この酸化物は、第1の元素における3価元素に対する1価元素の組成比(1価の元素/3価の元素)がモル比で0.8よりも大きく1よりも小さい範囲内とされ、第2の元素に対する第1の元素の組成比(第1の元素/第2の元素)が任意とされたことを除き、第1の実施の形態と同一の構成を有している。この酸化物の組成は、例えば下記の化2で表される。
【0028】
【化2】
式中、DはNa以外の1価の元素を表し、EはBi以外の3価の元素を表し、Aは1価の元素および3価の元素以外の第1の元素を表し、NはTi以外の第2の元素を表す。m,n,k,l,i,j,g,h,uおよびvはそれぞれ0<m≦1,0≦n<1,m+n=1,0<k≦1,0≦l<1,k+l=1,0<i<1,0<j<1,i+j=1,0.8<i/j<1,0<g≦1,0≦h<1,g+h=1,0<u≦1,0≦v<1,u+v=1の範囲内の値である。酸素の組成は化学量論的に求めたものであり、化学量論組成からずれていてもよい。
【0029】
すなわち、この酸化物は、第1の元素における3価の元素に対する1価の元素の組成比i/jの値が、モル比で0.8<i/j<1と化学量論組成の1よりも小さいものである。これにより、この圧電磁器では、焼結性が向上すると共に、圧電特性が向上するようになっている。なお、組成比i/jを0.8よりも大きくするのは、それよりも小さいと逆に圧電特性が低下してしまうからである。
【0030】
また、組成比i/jを0.9≦i/j≦0.98、更には0.92≦i/j≦0.98の範囲内とすればより圧電特性を向上させることができるので好ましい。更に、第2の元素に対する第1の元素の組成比、すなわち化2における「f」の値は、第1の実施の形態と同様に、モル比で0.9≦f≦0.99と化学量論組成の1よりも小さい。圧電特性をより向上させることができるからである。
【0031】
この圧電磁器は、第1の実施の形態と同様にして製造することができる。
【0032】
このように本実施の形態によれば、第1の元素における3価の元素に対する1価の元素の組成比をモル比で0.8よりも大きく1よりも小さい範囲内とするようにしたので、焼結性および圧電特性を向上させることができ、第1の実施の形態と同様に、鉛を含有しない圧電磁器の利用の可能性を高めることができる。
【0033】
特に、3価の元素に対する1価の元素の組成比をモル比で0.9以上0.98以下のの範囲内、好ましくは0.92以上0.98以下の範囲内とするようにすれば、更に圧電特性を向上させることができる。
【0034】
また、第2の元素に対する第1の元素の組成比をモル比で0.9以上0.99以下の範囲内とするようにすれば、更に焼結性および圧電特性を向上させることができる。
【0035】
【実施例】
更に、本発明の具体的な実施例について説明する。
【0036】
(実施例1〜7)
まず、出発原料として酸化ビスマス(Bi2 O3 )粉末、炭酸ナトリウム(Na2 CO3 )粉末および酸化チタン(TiO2 )粉末を用意し、100℃以上で十分に乾燥させたのち、それらを秤量した。その際、第2の元素であるチタンと第1の元素であるビスマスおよびナトリウムとのモル比は実施例1〜7で変化させると共に、第1の元素におけるビスマスとナトリウムとのモル比は1:1となるように配合した。
【0037】
次いで、秤量した原料粉末をボールミルによりジルコニアボールを用いてアセトン中で約15時間混合したのち、十分乾燥し、プレス成形して、850℃で約2時間仮焼した。続いて、この仮焼物をボールミルによりアセトン中で約15時間粉砕したのち、再び乾燥し、バインダーとしてポリビニールアルコール(PVA)を加えて造粒した。そののち、この造粒粉を一軸プレス成型機で100MPaの加重を加えて仮成形し、更に、CIPで400MPaの加重を加えて直径17mm、厚さ1mmの円盤状ペレットに成形した。成形ののち、この成形体を600℃で約3時間熱処理してバインダーを揮発させ、1200℃で2時間本焼成した。本焼成の際の昇温速度および降温速度は共に200℃/時間とした。
【0038】
これにより、化3に示した組成の酸化物を含有する実施例1〜7の焼結体を得た。得られた実施例1〜7の焼結体について第2の元素に対する第1の元素の組成比、すなわち化3に示したzの値を螢光X線分析装置を用い検量線法により求めたところ、表1に示したように0.90〜0.99の範囲内であった。
【0039】
【化3】
(Na0.5 Bi0.5 )z TiO3
【0040】
【表1】
【0041】
また、得られた実施例1〜7の焼成体を研磨して厚さ0.4mmの平行平板状としたのち、その両面に銀ペーストを650℃で焼き付け、電極を形成した。そののち、50℃のシリコンオイル中で10MV/mの電界を15分間印加して分極処理を行った。これにより、実施例1〜7の圧電磁器を得た。
【0042】
得られた実施例1〜7の圧電磁器について、インピーダンスアナライザー(ヒューレットパカード社製HP4194A)とデスクトップコンピュータとを用いた自動測定器で、共振***振法により電気機械結合係数(kr,kt)の測定を行った。なお、krは広がり方向の結合係数であり、ktは縦方向の結合係数である。それらの結果を表1に示す。
【0043】
また、本実施例に対する比較例1〜3として、化3に示したzの値が実施例1〜7よりも大きくまたは小さくなるように原料粉末の配合比を変化させたことを除き、他は本実施例と同一の条件で圧電磁器を作製した。比較例1〜3についても、本実施例と同様にして、zの値を求めると共に、電気機械結合係数の測定を行った。それらの結果についても表1に合わせて示す。なお、比較例1,2は実施例1〜7よりもzの値が大きい場合であり、比較例3は実施例1〜7よりもzの値が小さい場合である。また、比較例1では良好な焼結体を得ることができず、分極処理時に破壊してしまったので、電気機械結合係数の測定はできなかった。
【0044】
表1に示したように、実施例1〜7によれば、比較例2,3に比べて大きな電気機械結合係数を得ることができ、また、比較例1と異なり良好な焼結体を得ることもできた。すなわち、第2の元素に対する第1の元素の組成比、つまり化3に示したzの値を0.9≦z≦0.99とすれば、焼結性および圧電特性を向上できることが分かった。
【0045】
また、実施例1〜7の結果から、zの値を0.93<z<0.99、更には0.95≦z≦0.98、より更には0.96≦z≦0.97とすれば、より圧電特性を向上できることも分かった。
【0046】
(実施例8〜11)
実施例8,9では出発原料に炭酸バリウム(BaCO3 )粉末を用意し、化4に示したように(Na0.5 Bi0.5 )の一部をBaで置換するように原料粉末を配合したことを除き、実施例1,3と同一の条件で圧電磁器を作製した。また、実施例10,11では出発原料に炭酸カリウム(K2 CO3 )粉末を用意し、化5に示したように(Na0.5 Bi0.5 )の一部を(K0.5 Bi0.5 )で置換するように原料粉末を配合したことを除き、実施例1,3と同一の条件で圧電磁器を作製した。すなわち、実施例8,9では化1に示したMをバリウムとし、実施例10,11ではカリウムおよびビスマスとした。
【0047】
【化4】
【化5】
【0048】
実施例8〜11についても、実施例1と同様にして、第2の元素に対する第1の元素の組成比、すなわち化4または化5に示したzの値を求めると共に、電気機械結合係数の測定を行った。それらの結果を表2または表3に示す。
【0049】
【表2】
【表3】
【0050】
また、本実施例に対する比較例4,5として、化4または化5に示したzの値が実施例8〜11よりも大きくなるように原料粉末の配合比を変化させたことを除き、他は実施例8,9または実施例10,11と同一の条件で圧電磁器を作製した。比較例4,5についても、本実施例と同様にして、zの値を求めると共に、電気機械結合係数の測定を行った。それらの結果についても表2または表3に合わせて示す。
【0051】
表2および表3に示したように、実施例8〜11によれば、比較例4,5に比べて大きな電気機械結合係数を得ることができ、実施例1〜7と同様の結果を得られることが分かった。
【0052】
(実施例12〜16)
出発原料を配合する際に、化6に示したように、チタンに対するビスマスのモル比cを一定とし、3価の元素であるビスマスに対する1価の元素であるナトリウムのモル比b/cを実施例12〜16で変化させたことを除き、実施例1と同様にして圧電磁器を作製した。
【0053】
【化6】
Nab Bic TiO3 (cは一定)
【0054】
実施例12〜16についても、実施例1と同様にして、チタンに対するナトリウムおよびビスマスの組成比、すなわち化6に示したbおよびcの値を求めると共に、電気機械結合係数の測定を行った。それらの結果を表4に示す。更に、化7に示したように、化5に合わせて組成を表した場合のi,jおよびfの値を表5に示す。
【0055】
【化7】
(Nai Bij )f TiO3
【0056】
【表4】
【表5】
【0057】
また、本実施例に対する比較例6,7として、化6に示したbの値が実施例12〜16よりも大きくまたは小さくなるように原料粉末の配合比を変化させたことをを除き、他は本実施例と同一の条件で圧電磁器を作製した。比較例6,7についても、本実施例と同様にして、bおよびcの値を求めると共に、電気機械結合係数の測定を行った。それらの結果についても表4に合わせて示す。更に、比較例6,7についても、化7に示したように表した場合のi,jおよびfの値を表5に示す。
【0058】
表4および表5に示したように、実施例12〜16によれば、比較例6,7に比べて大きな電気機械結合係数を得ることができた。すなわち、第1の元素における3価の元素に対する1価の元素の組成比、つまり化6に示したb/cの値、化7に示したi/jの値を0.8よりも大きく1よりも小さくすれば、焼結性および圧電特性を向上できることが分かった。
【0059】
また、実施例12〜16の結果から、第1の元素における3価の元素に対する1価の元素の組成比をモル比で0.90≦i/j≦0.98の範囲内、更には0.92≦i/j≦0.98範囲内とすれば、より圧電特性を向上できることも分かった。
【0060】
なお、上記実施例ではいくつかの例を具体的に挙げて説明したが、第2の元素に対する第1の元素の組成比を0.90以上0.99以下の範囲内とするようにすれば、または第1の元素における3価の元素に対する1価の元素の組成比を0.8よりも大きく1よりも小さい範囲内とするようにすれば、他の圧電磁器についても上記実施例と同様の結果を得ることができる。例えば、第1の元素におけるナトリウムおよびビスマスの一部をバリウムおよびカリウムで置換するようにしても、第1の元素におけるナトリウムおよびビスマスと他の元素との組成比を変化させても同様の結果を得ることができる。また、第1の元素または第2の元素として他の元素を添加するようにしても同様である。
【0061】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記実施の形態および実施例では、ナトリウムおよびビスマス以外の他の第1の元素およびチタン以外の他の第2の元素について具体的に例を挙げて説明したが、本発明は、第1の元素または第2の元素として他の元素を含む場合であっても同様に適用することができる。
【0062】
【発明の効果】
以上説明したように請求項1ないし請求項4のいずれか1に記載の圧電磁器によれば、第2の元素に対する第1の元素の組成比をモル比で0.9以上0.99以下の範囲内とするようにしたので、焼結性および圧電特性を向上させることができ、鉛を含有しない圧電磁器の利用の可能性を高めることができる。すなわち、焼成時に鉛が揮発することがなく、圧電部品として市場に流通し廃棄された後も環境中に鉛が放出される危険もない低公害化、対環境性および生態学的見地から極めて優れた圧電磁器の活用が容易となるという効果を奏する。
【0063】
特に、請求項2記載の圧電磁器によれば、第2の元素に対する第1の元素の組成比をモル比で0.93よりも大きく0.99よりも小さい範囲内とするようにしたので、更に圧電特性を向上させることができるという効果を奏する。
また、請求項3記載の圧電磁器によれば、第1の元素における3価の元素に対する1価の元素の組成比をモル比で0.8よりも大きく1よりも小さい範囲内とするようにしたので、更に焼結性および圧電特性を向上させることができるという効果を奏する。
Claims (4)
- ナトリウム(Na)およびビスマス(Bi)を含む第1の元素と、チタン(Ti)を含む4価の元素である第2の元素と、酸素(O)とからなるペロブスカイト構造型の酸化物を含有しており、
前記第2の元素に対する前記第1の元素の組成比(第1の元素/第2の元素)は、モル比で0.9以上0.99以下の範囲内である
ことを特徴とする圧電磁器。 - 前記第2の元素に対する前記第1の元素の組成比は、モル比で0.93よりも大きく0.99よりも小さい範囲内である
ことを特徴とする請求項1記載の圧電磁器。 - 前記第1の元素は、ナトリウムを含む1価の元素と、ビスマスを含む3価の元素とを含み、
前記3価の元素に対する前記1価の元素の組成比(1価の元素/3価の元素)は、モル比で0.8よりも大きく1よりも小さい範囲内である
ことを特徴とする請求項1または請求項2記載の圧電磁器。 - 前記第1の元素は、更に、バリウム(Ba)およびカリウム(K)からなる群のうちの少なくとも1種を含む
ことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の圧電磁器。
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