JP3820013B2 - 腹腔鏡経由または切開経由によるヘルニア修復用の解剖学的人工器官 - Google Patents

Description

【０００１】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ヘルニアを修復するための解剖学的人工器官に関し、特に、腹腔鏡を用いて鼠蹊ヘルニアを修復するために適した解剖学的人工器官に関するものである。
【０００２】
【従来の技術】
従来より、鼠蹊部の修復およびヘルニアの処置のための解剖学的人工器官が知られている。この種の解剖学的人工器官は、生物学的適合性を有する人造材料からなる１または２以上の多孔性の人工器官プレートで構成され、前記人造材料は、吸収性または非吸収性のいずれでもよく、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、その他の同様の材質が使用される。必要な場合には、前記人造材料に、人工器官が移植される細胞質媒体に対して生物学的適合性を付与するための表面処理が施される場合もある。
【０００３】
【発明が解決しようとする課題】
これらの解剖学的人工器官は、例えば２枚の補綴材料からなるプレートを縫合して製造される。このような人工器官は、ベンダビッド（Bendavid）等に与えられた米国特許第４７６９０３８号に記載されている。この人工器官は、鼠蹊部を完全に復元するためにデザインされたものである。この特許の人工器官は、実質的に平板状をなす上側板である第１プレートと、下側板である第２プレートとを具備し、これらプレートはそれぞれ多孔質で可撓性を有する補綴材料からなるものである。これらプレートは一般に細長い形状を有し、直線的な連結線に沿って、連結手段、例えば縫合により、互いに連結されている。この人工器官は、さらに第３プレートを具備し、この第３プレートは前記直線的な連結線に沿って同じ縫合により他の２枚のプレートに連結されている。
【０００４】
鼠蹊部におけるヘルニアの修復を、後方かつ腹膜外からの腹腔鏡経路により行なう場合には、この人工器官を適正に配置し、この人工器官で腹側の腹部の壁の一定の解剖学的な要素を覆うことが重要である。これらの要素を内側から外側に、そして体の右側に向けて述べると、以下の通りである。
−内側へ向けて、腹側の後壁側の空間は、前方へ向かっては腹直筋により、後方へ向かっては腹膜により、下方へ向かっては恥骨の上端により、制限されている。
−中央部は、前方へ向かって横筋筋膜および鼠蹊鎌により、下方に腸管があり、上方に横筋がある状態で、制限されている。
−外側の部分において、前方へ向かっては、精索（生殖管および精管）の要素と共に鼠蹊管の内部の穴があり、下方に腰筋があり、上方に横断筋がある。
【０００５】
要約すると、そしてこれは本発明の出発点を構成するのであるが、鼠蹊部では特に、上述した全ての要素が空間的に同じ平面に位置しておらず、上方から下方へ向けて、かつ外側から内側へ向けて、斜めに配置されている。鼠蹊ヘルニアの場合、ヘルニアを復位した後に移植される人工器官は、鼠蹊部空間が斜めであることに対応し、かつ、この部分の輪郭に適合しながら、十分に要部をカバーしなければならない。
【０００６】
この要求は、公知の人工器官を使用する場合に大きな問題になる。これらの人工器官はいずれも、外科的に介入される部位の形状に真に適合しておらず、事実、外科医はしばしば人工器官を患部に適合させるために人工器官を切断する必要があった。上述したように解剖学的な要素を十分にカバーできないことはヘルニアの再発の主たる原因の一つになっていると考えられ、そのように再発したヘルニアは、以前のヘルニアにより誘発された解剖学的構造の悪化により、さらに処置が難しくなる。
【０００７】
したがって、本発明の主題は、実質的に予め裁断しなくても使用することができる人工器官、特に、後部腹膜外からの腹腔鏡経由による鼠蹊ヘルニアの修復に適し、鼠蹊部空間を適切にカバーすることができ、そのために前もって形状加工（例えば加熱成形）する必要がない人工器官を提供することにある。
【０００８】
【課題を解決するための手段】
本発明の人工器官が公知の人工器官と異なる点は、非対称をなす２枚のプレートを含み、この人工器官を展開した状態において、第２プレートは少なくとも一つの波形に延びる形状部を有し、下部鼠蹊部の構造要素、特に、生殖管、腸管および腰筋の全体形状に適合した解剖学的形状を有している点である。プレート間の連結線は少なくとも一つの波形をなす形状を有し、この展開した形状を描いて前記連結線と交差する母線は、第１プレートの平坦面に対して１５０゜以下の開口角をなしている。
【０００９】
このような人工器官によれば、前述したような解剖学的な要素の全てをカバーすることが可能であり、再発の原因となるような空洞を残すこともない。腸管及び生殖管の周囲の領域が特によく保護される。
【００１０】
さらに、この人工器官によれば、移植された対象者の快適さが高められる。この人工器官は従来の人工器官とは異なり、固定用ステープルをほとんど必要としないからである。本発明の人工器官は、前記連結線が壁面と導管面との交差部に配置され、移植箇所に自ら留まる。これにより、患者の腹部筋肉の動きによって鼠蹊部の解剖学的要素の相対位置が変化しても、それに応じて人工器官が移植部の外側を動かすことなく変位もしくは変形することができる。これに対し、前述した米国特許で提案されているような公知の人工器官では、この人工器官を周囲の解剖学的要素にステープル止めもしくは縫合固定し、所定の位置に釣っておかなければならない。したがって、平凡な筋肉の動き、例えば咳をしたり、着座姿勢から立ち上がったときなどにおいても、不愉快な感覚もしくは苦痛を生じさせる。
【００１１】
さらに、本発明の人工器官では、一般的な腹腔鏡または開腹による方法により、鼠蹊部に導入または移植することが可能である。結合手段（例えば縫合）に伴う連結線は、可撓性を有するが比較的に剛性も有するため、人工器官の位置決め軸の位置を決める梁のように作用するとともに、人工器官を展開させるときにはヒンジとしても作用する。
【００１２】
本発明の好ましい実施形態の人工器官によれば、第２プレートは２つの波打って延びる形状部（湾曲部）を有し、第１の波打って延びる湾曲部は腰筋の形状に適合しており、第２の波打って延びる湾曲部は腸管および生殖管の形状に適合している。
【００１３】
一つの好ましい実施形態では、第１プレートおよび第２プレートが互いに同じ補綴材料で形成されている。しかし、第１プレートおよび第２プレートは、互いに異なる可撓性を有する異なる補綴材料から形成されているとさらによいことが判明している。例えば第１プレートは相対的に堅い補綴材料、例えば１の厚さの編物や織物で形成され、第２プレートは相対的に柔らかい補綴材料、例えば２の厚さの編物や織物で形成されている場合に、有利であることが判明している。このように、上側に位置する板である方の第１プレートが実質的に垂直に直立し、体壁と管壁との交差線上に保持される。
【００１４】
本発明の好ましい実施形態では、人工器官を展開した状態で、第１プレートは実質的に右上方へ傾いたＬ字型をなし、その上部は面積が大きく、左側に位置する下部は面積が小さい。他の好ましい実施形態では、人工器官を展開した状態において、第１プレートが、上述したような右上方へ傾いた実質的Ｌ字形状の鏡対称をなす形状部分を有し、その部分の上部は相対的に大きい面積を有し、かつ右側の下部は相対的に小さい面積を有している。
【００１５】
さらに、第１プレートには、その水平方向に延びる端縁に沿って、かつ連結線に沿って、第２プレートの波形部分に対応する少なくとも一つの波形部分（湾曲部分）が形成されていてもよい。
【００１６】
連結手段は、例えば可動縫合であり、２枚のプレートが制限された範囲内で相対的に動くことを許容し、これにより、鼠蹊部の解剖学的要素の相対位置が変化してもそれに対応して変形することができるようになっている。連結手段は、各プレートの水平方向に延びる端縁を緩く縫合したものであってもよい。
【００１７】
このため、第１プレートおよび第２プレートのなす開き角度θは、前記解剖学的な要素の相対位置に応じて変えることができるが、その上限は１５０゜である。
【００１８】
本発明のこのましい実施形態では、第１プレートにその外周縁から連結手段の近傍の位置まで延びるスリットが形成されている。
【００１９】
さらに好ましくは、第１プレートおよび第２プレートの少なくとも一方に精索を囲む開口部が形成されている。また、一つの実施形態では、第１プレートおよび第２プレートの両方に精索を囲む開口部が形成されている。
【００２０】
さらに好ましくは、第１プレートには溝穴が形成されるとともに前葉部および後葉部が形成され、前記前葉部は前記連結線に対して実質的に垂直をなして前記第１プレートの外周縁から開口部に向けて延びる辺縁を有し、前記後葉部は前記連結線に対して実質的に傾斜して前記第１プレートの外周縁から前記開口部に向けて延びる辺縁を有し、これにより、前葉部は前記後葉部の一部を覆い隠している。
【００２１】
さらに好ましくは、第１プレートおよび第２プレートの少なくとも一方には、プレートを規則的かつ組織的に折り曲げるための手段が設けられる。この手段は、例えば、プレートを構成するメッシュ中に織り込まれた１または２以上の単繊維（フィラメント）である。このような折り曲げ手段を設けることにより、外科医はフィラメントを引っ張るだけで、プレートを規則正しく小さく折り畳むことができ、この人工器官をトロカール中に挿入したうえで、体内で再び規則正しく展開することが可能となる。
【００２２】
本発明の変形例に係る解剖学的人工器官は左右相称形状をなし、第１プレートには水平辺縁の延長方向に延長部分が形成され、この延長部分に第３プレートが連結され、延長部分と第３プレートの形状および配置は、第１プレートの本体および第２プレートの形状および配置とそれぞれ実質的に鏡対称をなし、その対称軸は第１プレートと同じ平面内にある。
【００２３】
前記構成によれば、本発明に係る左側および右側用の人工器官を区別して製造できるといってよいほどにすぐれた解剖学的人工器官が得られる。この人工器官の材質としては、周囲の細胞が入植してある程度馴染むほどに十分に多孔質であり、鼠蹊部の中膜および組織に対して生物学的適合性を有し、引っ張り力に抗する機械的な強度を有し、連結手段が少なくとも２枚のプレートのいずれか弱い方と同程度の機械的強度を有するような、適正な材質で有ればいずれも使用可能である。好ましい具体例としては、天然物または合成物（例えばポリプロピレンやポリエステル）からなる布（織物または編み物）もしくは不織布が挙げられる。
【００２４】
本発明は図面を用いた以下の詳細な説明により、さらによく理解されるであろう。ただし、本発明は図面に記載された実施形態に限定されるものではない。
【００２５】
【発明の実施の形態】
図面、特に図１は、本発明に係る解剖学的人工器官を腹腔鏡経由または開腹経由で鼠蹊ヘルニアの修復に使用した状態を示している。この腹腔鏡介入において使用されている技術は、例えば、熟練者にはよく知られた手法であるからここでは詳しく説明しない。概略すれば、腹膜外空間、すなわち腹直筋および横筋筋膜の後方に１または２以上のトロカールを挿入し、注入および腹膜と腹部壁との分離により腹膜外手術空間を形成する。図１は本発明に係る人工器官を人体の右手側にある腹膜外鼠蹊部の解剖学的要素に対して配置し、内側から外側を見た、すなわち人体の外側を見た状態を示す斜視図である。人体の右手側の腹部の腹側壁には、内側から外側へ向けて以下の解剖学的要素が見える。
−内側へ向けて、腹側の後壁側の空間は、前方へ向かっては腹直筋１６により、後方へ向かっては腹膜（図示略）により、下方へ向かっては恥骨１７の上端により、制限されている。
−中央部は、前方へ向かって横筋筋膜（図示略）および鼠蹊鎌により、下方に腸管１１があり、上方に横筋１８がある状態で、制限されている。
−外側の部分において、前方へ向かっては、精索（生殖管および精管）の要素と共に鼠蹊管の内部の穴があり、下方に腰筋１２があり、上方に横断筋１８がある。
【００２６】
この図からも明らかなように、鼠蹊部では上述した要素が空間的に同じ平面上にはなく、上方から下方へ向けて、かつ外側から内側へ向けて、傾斜して配置されている。鼠蹊ヘルニアの場合には、ヘルニアを復位したのち移植される人工器官は、鼠蹊部空間の傾斜に従って鼠蹊部の輪郭に適合することにより十分に要部をカバーしなければならない。図１はまた、人工器官の配置位置、およびこれから述べるその全体形状を示している。
【００２７】
図２〜図４は本発明の好ましい実施形態を示し、この人工器官１は、実質的に平板状である第１プレート２および第２プレート３を有し、これら２枚のプレート２，３は多孔質で可撓性を有する補綴材料で構成されており、それらの表面は必要に応じて、細胞の転移増殖を促進する薬品、または転移増殖を防ぐ薬品で被覆されている。これら２枚のプレート２，３は互いに非対称になっていることが重要であり、どちらの側に治療すべきヘルニアがあるかによって、人工器官１の左側を使用するか、右側を使用するか選択することが可能である。第１プレート２の材質は第２プレート３の材質と異なるか、もしくは異なる機械的特性を示してもよく、このためにこれら２枚のプレート２，３は互いに異なる可撓性を有していてもよい。
【００２８】
好ましい実施形態では、第１プレート２は、例えば１の厚さを有する編み物や織物などのように、相対的に堅い補綴材料で形成され、第２プレート３は、例えば２の厚さを有する編み物や織物などのように、相対的に柔軟な補綴材料で形成されている。第２プレート３の好ましい厚さは、例えば１．５ｍｍ〜２ｍｍのオーダーである。これら２枚のプレート２，３はいかなる生物学的適合性を有する材料で形成されていてもよく、吸収性であっても、非吸収性であってもよいが、複数繊維（マルチフィラメント）のポリエステル編み糸からなる織物で構成されていることがより好ましい。このように構成された人工器官によれば、適度な合成を有すると共に、外科医による移植及び取り扱いが容易であり、さらにその柔軟さにより鼠蹊部内の解剖学的形状に適合することが可能である。さらに、このような構造を有する人工器官は、鼠蹊部の底に「座る」傾向を有し、第１プレート２が実質的に直立した状態となり、位置がずれることがない。この種の位置ずれは、従来の鼠蹊ヘルニア修復用の人工器官プレートの欠点であった。第１プレート２は好ましくは約１５ｃｍ以下の高さを有し、第２プレート３は約２〜６ｃｍの深さを有する。また、これらプレート２，３は、生物学的な物質、例えばコラーゲン、とりわけ牛Ｉ型コラーゲンや、生物学的適合性を有する樹脂材料によって被覆されていてもよい。
【００２９】
プレート２，３は互いに連結手段（以下、符号５で示す）により連結線４に沿って連結されている。図示された実施形態、例えば図３および図４の実施形態では、連結手段５は可動縫合６（動くように縫い合わせること）である。図４は図３のＩＶ−ＩＶ線に沿う断面図であり、この図においてプレート２，３の水平方向に沿う辺縁７，８は、そのような可動縫合により連結されている。このような縫合はプレート２，３（図２参照）の辺縁７，８の近傍を緩く縫い合わせることにより有利に形成できる。可動縫合６は第１プレート２および第２プレート３の互いの変位を許容するので、人工器官を移植された患者の筋肉の動きに適合することが可能となる。但し、連結手段５はそのような可動縫合６に限定されるものではなく、連結手段５は他の連結手段も同様に使用できる。人工器官が鼠蹊部構造物の解剖学的な形状に適合し、無視できないほどの空間を残さない限り、他の連結手段も使用でき、他の連結手段としては例えばステープル止め、編み込み、溶接、接着剤による連結などが挙げられる。
【００３０】
人工器官１を展開した状態において、すなわち、体内に移植された後においては、第２プレート３は少なくとも一つの波打って延びる形状（湾曲部）を有しており、下方鼠蹊部構造体、すなわち、生殖管及び腸管１１、ならびに腰筋１２の全体形状と適合するような解剖学的形状となっている。
【００３１】
図３に示す好ましい実施形態では、第１プレート２が２つの波打った形状部分（湾曲部）１４，１５を有し、第１の波打ち部分１４は腰筋１２の形状に適合しており、第２の波打ち部分１５は生殖管及び腸管１１の形状に適合している。
【００３２】
この場合、第２プレート３にも、第１の波打ち部分１４および第２の波打ち部分１５と対をなす波打った形状部分９，１０が形成されている。
【００３３】
図２に示すように、連結線４にも第２プレート３の波打って延びる形状と対応する２つの波打った曲線部分が形成されている。波打ち形状部分９，１０を描く母線は、連結線４を通り、第１プレート２の平面に対して１５０゜以下の角度をなしている。
【００３４】
図２〜図４に示すように、右側ヘルニアの修復用の人工器官では、第１プレート２が、実質的に右上方へ傾いたＬ字状をなし、その上部は、左側にある下部１３よりも大きな面積を有している。左側ヘルニアの修復用の人工器官では、例えば図２〜図４に示した人工器官とは鏡対称をなす形状が採用される。
【００３５】
図１に示すように人工器官１が移植された場合には、第１プレート２の相対的に大きい面積を有する部分が腹側の筋肉壁（特に腹直筋１６および横筋１８）に当接する。第１プレート２の相対的に面積が小さい部分１３は、恥骨の上端と靭帯隆線２１（一点鎖線で示している）を覆う。第２プレート３の波打ち部分９，１０は、生殖管及び腸管１１並びに腰筋１２に実質的かつ完全に適合した形状をなしており、無視できないほどの空間は残されていない。水平方向に延びる辺縁７，８は壁面と管表面の交差線に当接する。精管２０も覆われる。精管２０は従来の人工器官では覆われることはなかった。従来の人工器官では、溝穴または開口部が一方のプレートに形成され、この穴に管が通されて、いわばこの穴は二次的な鼠蹊ヘルニアの再発を防ぐための「あぶみ」となっていたからである。
【００３６】
本発明の変形例に係る人工器官は、図５に示すように、左右相称のヘルニアを修復するために左右相称とされている。すなわち、この人工器官は、前述したような右側用人工器官と左側用人工器官の両方の形態を呈し、両者が一体的にもしくは非一体的に形成されたものである。第１プレート２は、水平辺縁の延長方向に延長部分２２を有し、この延長部分２２に第３プレート２３が連結され、延長部分２２と第３プレート２３の形状および配置は、第１プレート２（の本体）および第２プレート３の形状および配置とそれぞれ実質的に鏡対称をなし、その対称軸２４は第１プレート２と同じ平面内にある。第３プレート２３は第１プレート２に対して連結手段２５により連結され、図５に示すように、この実施形態では連結手段２５として可動縫合２６が使用されている。この人工器官は、既に述べた他の好ましい実施形態と実質的に同様に配置することができる。
【００３７】
図６および図７は、図１〜図４に示した基本的な解剖学的人工器官の改良例を示している。図６の実施形態において、第１プレート２には、精索１１を囲むように開口部２９が形成され、この開口部２９から切断線が延ばされて、２つの葉部２７，２８が形成されている。前葉部２７は連結線４に対して実質的に垂直をなして第１プレート２の外周縁から開口部２９に向けて延びる辺縁を有している。一方、後葉部２８は連結線４に対して実質的に傾斜して第１プレート２の外周縁から前記開口部２９に向けて延びる辺縁（点線で示している）を有している。そして、前葉部２７は後葉部２８の一部を覆い隠している。
【００３８】
このような構成によれば、この人工器官を、生殖管を取り巻くように導入して配置することが可能であり、しかも、腹部領域の前方側を十分にカバーすることが可能である。スリットは縫合またはステープル止めにより閉じることができる。図６の人工器官はさらに、この人工器官を規則的に折り畳むための折り畳み手段３０を具備しており、これによりこの人工器官は、組織的に折り畳まれて、トロカールへ容易に挿入でき、かつ、体内で容易に展開できるようになっている。折り畳み手段３０は例えば、人工器官のプレートを構成するメッシュ体に蛇行形状に縫い込まれた（織り込まれた）手術糸であってもよい。
【００３９】
図７に示す人工器官は、図６の人工器官との対比で説明する。この人工器官の第１プレート２にはスリットが形成されていないが、代わりに、水平方向に延びる辺縁７，８の一部のみが互いに可動縫合６により連結され、残りの部分には、実質的に水平なスリットが２枚のプレート２，３の間に形成されている。さらに、プレート２，３には、精索を囲むように穴２９ａ，２９ｂが形成され、第２プレート３は、水平に延びる延長部分３１を有している。この延長部分３１の先端３２は実質的に直線状にされている。この人工器官を展開した状態では、この延長部分３１は第１プレート２の下端の下を通り、第１プレート２の背後で腹壁により第２プレート３の他の部分に対して鋭角をなすように折り戻される。
【００４０】
この実施形態によれば、たくさんの利点が得られる。すなわち、鼠蹊部の腹膜後方の解剖学的組織に対して人工器官の形状を適合させることにより、人工器官の配置が容易になり、ひいては、移植に要する時間を短縮できる。さらに、第２プレート３を形成する材料が、例えば３次元状網目構造体のように柔軟性を有していれば、第２プレート３が多孔質であることと相まって、腹部輪郭の形状に人工器官を適合させることがいっそう容易になる。
【００４１】
本発明に係るスリットが形成されていない人工器官を、２つの独立した医療センターにおいて人間の患者に用い、追跡研究を行った結果、本発明の効果が明らかになった。結果を以下に示す。
【００４２】
［処置したヘルニアの数］
２５２：人工器官を固定した（一方は隆線に取付け、もう一方は腹部壁に取り付けた）
５１：人工器官を固定しなかった。
［移植方法］
腹膜外腹腔鏡経由
［平均回復時間］
人工器官を固定したグループは６ヶ月間
人工器官を固定しなかったグループは４ヶ月間
［追跡調査の最小／最大継続時間］
最小１ヶ月／最大１２ヶ月
［結果］
人工器官の早期移動が生じたもの（両グループ合計）：０件
ヘルニアの再発：０件
敗血症：０件
人工器官の形状に起因する合併症：０件
【図面の簡単な説明】
【図１】 本発明に係る人工器官を、人体の右手側にある腹膜外鼠蹊部の解剖学的要素に対して配置し、内側から外側を見た、すなわち人体の外側を見た状態を示す斜視図である。
【図２】 本発明に係る解剖学的人工器官を構成する第１プレートおよび第２プレートの全体形状を示す平面図である。
【図３】 本発明に係る解剖学的人工器官における、互いに可動縫合された２枚のプレートの形状を詳しく示す斜視図である。
【図４】 図３のＩＶ−ＩＶ線断面図である。
【図５】 左右相称ヘルニアの修復に使用される本発明の人工器官の変形例を示す図である。
【図６】 図１に示した人工器官の変形例を示す図である。
【図７】 図１に示した人工器官の他の変形例を示す図である。
【符号の説明】
１ 解剖学的人工器官
２ 第１プレート
３ 第２プレート
４ 連結線
５ 連結手段
６ 可動縫合
７,８ 水平方向に延びる辺縁
９,１０,１４,１５ 波打ち形状部
１１ 生殖管及び腸管
１２ 腰筋
２２ 延長部分
２３ 第３プレート
２４ 対称軸
２９，２９ａ，２９ｂ 開口部
２７ 前葉部
２８ 後葉部
３０ 折り曲げ手段

Claims (14)

1. 特に鼠蹊部のために適合され、後部腹腔鏡経由または切開経由による鼠蹊ヘルニアの修復を目的とする解剖学的人工器官であって、この人工器官（１）は、実質的に平板状をなす第１プレート（２）と、第２プレート（３）とを具備し、これらプレートはそれぞれ、多孔質で可撓性を有する補綴材料を有するとともに、互いに連結線（４）に沿って連結手段（５）により連結されており、前記２枚のプレートは互いに非対称であり、前記人工器官を展開した状態で、前記第２プレート（３）は少なくとも１つの波打って延びる形状部分（９）を有すると共に、下方鼠蹊部組織、特に生殖管と腸管と腰筋の一般的な形状に適合しえる解剖学的形状を有し、これに対応して、前記連結線（４）は少なくとも一つの波打つ曲線形状を有し、前記第１プレートと前記第２プレートの波打って延びる形状部分とのなす開度角θが１５０゜以下であることを特徴とする解剖学的人工器官。
2. 請求項１記載の解剖学的人工器官であって、前記第２プレート（３）は２つの波打って延びる形状部（９，１０）を有し、第１の波打って延びる形状部（９）は前記腰筋（１２）の形状に対応した形状をなし、第２の波打って延びる形状部（１０）は前記腸管と前記生殖管の形状に対応した形状をなしていることを特徴とする解剖学的人工器官。
3. 請求項１記載の解剖学的人工器官であって、前記第１プレート（２）および前記第２プレート（３）は、同一の補綴材料で形成されていることを特徴とする解剖学的人工器官。
4. 請求項１記載の解剖学的人工器官であって、前記第１プレート（２）および前記第２プレート（３）は、互いに異なる可撓性を有する補綴材料で形成されていることを特徴とする解剖学的人工器官。
5. 請求項１記載の解剖学的人工器官であって、前記第１プレート（２）は、相対的に堅い補綴材料、例えば編物または織物で形成され、前記第２プレート（３）は、相対的に柔軟な補綴材料、例えば編物または織物で形成されており、前記第１プレート（２）と前記第２プレート（３）との厚さの比が、略１：２であることを特徴とする解剖学的人工器官。
6. 請求項１記載の解剖学的人工器官であって、前記第１プレート（２）は、解剖学的人工器官が展開された状態において、実質的に右へ傾いた略Ｌ字状をなし、その上部は、左側にある下部（１３）よりも大きな面積を有することを特徴とする解剖学的人工器官。
7. 請求項１記載の解剖学的人工器官であって、前記第１プレート（２）は、解剖学的人工器官が展開された状態において、実質的に右へ傾いた略Ｌ字状に対する鏡対称形をなし、その上部は、右側にある下部（１３）よりも大きな面積を有することを特徴とする解剖学的人工器官。
8. 請求項１記載の解剖学的人工器官であって、前記連結手段（５）は各プレート（２，３）の水平方向に延びる辺縁（７，８）を緩く縫合することにより形成されていることを特徴とする解剖学的人工器官。
9. 請求項１記載の解剖学的人工器官であって、この解剖学的人工器官は左右相称形状をなし、前記第１プレート（２）には水平辺縁の延長方向に延長部分（２２）が形成され、この延長部分（２２）に第３プレート（２３）が連結され、前記延長部分（２２）と前記第３プレート（２３）の形状および配置は、前記第１プレート（２）の本体および前記第２プレート（３）の形状および配置とそれぞれ実質的に鏡対称をなし、その対称軸（２４）は前記第１プレート（２）と同じ平面内にあることを特徴とする解剖学的人工器官。
10. 請求項１記載の解剖学的人工器官であって、前記第１プレート（２）の外周縁から、前記連結手段（５）の近傍位置まで、スリットが形成されていることを特徴とする解剖学的人工器官。
11. 請求項１記載の解剖学的人工器官であって、前記第１プレート（２）および前記第２プレート（３）の少なくとも一方には、精索を囲む開口部（２９）が形成されていることを特徴とする解剖学的人工器官。
12. 請求項１１記載の解剖学的人工器官であって、前記第１プレート（２）および前記第２プレート（３）の両方に、精索を囲む開口部（２９ａ，２９ｂ）が形成されていることを特徴とする解剖学的人工器官。
13. 請求項１記載の解剖学的人工器官であって、前記第１プレート（２）にはスリットが形成されるとともに前葉部（２７）および後葉部（２８）が形成され、前記前葉部（２７）は前記連結線（４）に対して実質的に垂直をなして前記第１プレート（２）の外周縁から開口部（２９）に向けて延びる辺縁を有し、前記後葉部（２８）は前記連結線（４）に対して実質的に傾斜して前記第１プレート（２）の外周縁から前記開口部（２９）に向けて延びる辺縁を有し、これにより、前記前記前葉部（２７）は前記後葉部（２８）の一部を覆い隠していることを特徴とする解剖学的人工器官。
14. 請求項１記載の解剖学的人工器官であって、前記第１プレート（２）および前記第２プレート（３）の少なくとも一方は、そのプレートを規則的に折り曲げるための手段（３０）を有することを特徴とする解剖学的人工器官。

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