JP3796949B2 - 軸受用鋼線材の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、鋼線材の製造方法に係り、とくに軸受の鋼球およびコロに加工して好適な軸受用鋼線材の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、軸受用鋼球、ころは、圧延のままの軸受鋼線材を用いて、酸洗−球状化焼鈍−酸洗−表面処理工程と、さらに伸線加工工程とを経て切断されたのち、鍛造加工−研摩−焼入れ・焼戻し処理−仕上げ研摩工程を経て、製造されている。
【0003】
軸受用鋼球、ころは、寸法精度が高いことが要求されるため、その製造工程においてはとくに鍛造加工に供される線材の寸法精度が厳しく管理されている。そのため、鍛造加工の前に、線径を所定の寸法に精度良く調整する目的で伸線加工工程が必須であった。伸線加工は、圧延や酸洗による生じる線径のばらつきあるいは表面粗さのばらつきを修正することを目的として、通常、線材には減面率:5〜10%の圧延が施されている。
【0004】
しかし、冷間鍛造時の鍛造割れを防止するため、伸線時に表面疵の検査を行うことが要求されている。このため、軸受鋼線材では、一般硬鋼線のような高速伸線が行えず、生産性が低いという問題がある。また、さらに軸受用のため、伸線後の線径公差が厳しく要求され、伸線ダイスを頻度よく交換する必要がある。このように、伸線加工を行うために工程が複雑となり、製造コストの増加をもたらしていた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記した従来技術の問題を有利に解決し、線材から軸受用鋼球やころ等を製造する際に伸線加工を必要としない、安価な寸法精度の優れた、軸受用鋼線材の製造方法を提案することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、鋼球やころ等の製造工程において、従来必要としていた伸線加工を省略するために、伸線加工によらず鍛造加工前の寸法精度を高めることが必要であるとの考えのもとに鋭意検討した結果、伸線加工を省略するためには、酸洗後鍛造加工前の線材の、線径の公差は±0.10mm以内、表面粗さはRa 1.0μm 以下とする必要があるという知見を得た。そのためには、熱間圧延後の線径ばらつき(公差)を一定値以下に制御し、さらにスケール厚を10μm 以下にするのがよいことに想到した。
【0007】
なお、本発明における線径の公差とは、線材の同一断面における最大径と最小径を測定し、それらの目標値に対するばらつき範囲で表示する。また、表面粗さRaはJIS B 0601に規定されたRaで、触針式表面粗さ計で、JIS B 0601に規定された方法において、カットオフ値を0.8mm として求めたものである。
まず、本発明者らは、酸洗後の表面粗さをRa 1.0μm 以下と小さくするために、軸受鋼圧延線材のスケール量に着目した。圧延後あるいは球状化焼鈍後のスケール量が少ないほど酸洗の処理時間を短時間とすることができ、その結果、表面粗さも小さくなると考え、さらに検討した結果、本発明者らは、酸洗後の表面粗さをRa 1.0μm 以下とするためには、圧延線材のスケール量は10μm 以下であればよいこと、さらに、圧延線材のスケール量は、鋼中のS含有量および線材の熱間圧延後巻取り温度との制御により調整できること、を見い出した。すなわち、巻取り温度を〔 950−10000 ×S(重量%)〕以下とすることによりスケール厚さを10μm 以下とすることができる。
【0008】
ついで、本発明者らは、線材の線径の公差は、熱間圧延の加熱温度に大きく影響され、公差を小さくするには、加熱温度を高める必要があるとの知見を得た。
本発明は、上記した知見に基づいて、さらに検討して構成されたものである。
【0009】
すなわち、本発明は、重量%で、C:0.5 〜1.2 %、Si:0.8 %以下、Mn:0.2 〜1.5 %、S:0.010 %以下、Cr:0.5 〜1.6 %を含み、あるいはさらにMo:0.30%以下、Cu:0.50%以下、Ni:0.50%以下のうちから選ばれた1種または2種以上および/またはREM :0.010 %以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼素材を、900 〜1050℃に加熱して熱間圧延を施したのち、750 ℃以上( 950−10000 ×S(重量%))℃以下の温度で巻取ることを特徴とする、酸洗後の表面粗さ Ra が 1.0 μ m 以下、かつ線径の公差が± 0.10mm 以内にあり、伸線加工を省略できる軸受用鋼線材の製造方法であり、本発明においては、前記熱間圧延における仕上げ圧延を、4ロール圧延機を用いて行う圧延とするのが好ましい。
【0010】
【発明の実施の形態】
まず、鋼線材の組成限定理由について説明する。
C:0.5 〜1.2 %
軸受の鋼球やころの疲労寿命は、焼入れ−焼戻し後の硬さに大きく支配されるため、鋼球やころは、所定値以上の硬さを有することが要求されている。Cは、硬さを増加させる元素であり、本発明の用途では、所定の硬さを得るために0.5 %以上含有する必要がある。一方、1.2 %を超えると、球状化組織の形成が阻害される。このようなことから、Cは0.5 〜1.2 %の範囲に限定した。なお、好ましくは 0.7〜 1.1%である。
【0011】
Si:0.8 %以下
Siは、脱酸剤として作用する元素であり、添加が必要であるが、0.8 %を超えて添加しても大きな効果が期待できないため、Siは0.8 %以下とした。なお、好ましくは、0.1 〜0.5 %である。
Mn:0.2 〜1.5 %
Mnは、脱酸剤として作用しさらに焼入性を向上させる元素であるが、添加量が0.2 %未満では、これらの効果が認められない。一方、1.5 %を超えると、球状化組織が不安定となる。このため、Mnは0.2 〜1.5 %の範囲に限定した。
【0012】
S:0.010 %以下
Sは、本発明を構成する重要な構成要素の1つである。前述したように、スケールの生成量を増加させる傾向がある。このため、Sは、0.010 %以下に限定した。なお、好ましくは、0.007 %以下である。
Cr:0.5 〜1.6 %
Crは、球状化組織を安定して生成させ、焼入性を向上させる元素であり、本発明では0.5 %以上添加する。しかし、1.6 %を超えて添加しても効果が飽和するうえ添加量の増加により経済的に高価となる。このため、Crは0.5 〜1.6 %の範囲に限定する。
【0013】
Mo:0.30%以下、Cu:0.50%以下、Ni:0.50%以下のうちから選ばれた1種または2種以上
Mo、Cu、Niはいずれも鋼の焼入れ性を増加させる元素であり、必要に応じ添加できる。しかし、Mo、Cu、Niいずれも多量に添加すると、酸洗性、鍛造性を劣化させる。このため、Mo:0.30%、Cu:0.50%、Ni:0.50%を上限とした。
【0014】
REM :0.010 %以下
REM は、介在物を球状化し疲労寿命を向上させる作用を有するため、介在物の形態制御のため必要に応じ添加できる。しかし、0.010 %を超える添加は、介在物量を増加させ、かえって疲労寿命が低下する。
残部Feおよび不可避的不純物
残部はFeと不可避的不純物であるが、とくにPは、転がり疲労寿命に影響するため0.015 %以下に低減するのが望ましい。また、Oは、清浄度を低減する意味からも0.0010%以下とするのが望ましく、さらに疲労寿命の観点からは0.0007%以下とするのが好ましい。
【0015】
本発明では、上記した鋼組成に加えて、酸洗後の鋼線材の表面粗さRaを 1.0μm 以下とする。
酸洗後の表面粗さをRa: 1.0μm 以下とすれば、鍛造前に伸線加工を行わなくてもよくなる。これは、熱間圧延後の鋼線材表面に形成されるスケールを厚さ10μm 以下とすることによって達成される。
【0016】
また、本発明では、酸洗後の鋼線材の線径の公差が目標値に対し±0.10mm以内とする。線径の公差が±0.10mmを超えると、伸線加工が必要となる。
軸受用鋼線材は、通常熱間圧延後、球状化焼鈍−酸洗−表面処理−伸線加工工程を経たのち切断され鍛造加工を施されるが、本発明では、前述のように、酸洗後の表面粗さと線径の公差を規定しているので、伸線加工を省略でき、安価に製造できる。
【0017】
本発明における製造条件について説明する。
上記した組成の溶鋼を、転炉等の公知の溶製方法で溶製し、造塊−圧延法あるいは連続鋳造法より所定の寸法の鋼素材とする。本発明では、とくに溶製方法あるいは鋳造方法を限定する必要はない。
鋼素材は、900 〜1050℃に加熱されたのち熱間圧延を施され、所定の線径の鋼線材とされる。加熱温度が900 ℃未満では、変形抵抗が増加し、線径のバラツキが大きくなり、酸洗後の公差が大きくなる。一方、加熱温度が1050℃を超えると、地鉄界面が剥離しづらいスケール構造となり、線材表面に形成されるスケール量が増加し、かつ脱炭深さが大きくなる。このため、熱間圧延の加熱温度を900 〜1050℃の範囲に限定した。
【0018】
熱間圧延は、粗圧延と仕上げ圧延とからなり、粗圧延は通常の方法で良いが、仕上げ圧延は、図1に示すように2ロール圧延機を複数基配列した圧延機列で圧下方向をずらして圧延してもよいが、図2に示すように、特開平5−38502 号公報に記載されているような4ロール圧延機を複数基配列した圧延機列で圧下方向をずらして少なくとも2パス圧延する仕上げ圧延とするのが線径バラツキをより減少するうえで好ましい。
【0019】
また、熱間圧延終了後、線材は巻き取られる。
巻取り温度は、750 ℃以上( 950−10000 ×S(重量%))℃以下の温度とする。
巻取り温度が750 ℃未満では、温度制御が不安定になるとともに、巻取りが困難となる。一方、巻取り温度が( 950−10000 ×S(重量%))℃を超えると、線材に生成するスケール量が増加し酸洗性が劣化するため、線材の酸洗後表面粗さが粗くなり、伸線加工が必要となる。このようなことから、巻取り温度は750 ℃以上( 950−10000 ×S(重量%))℃以下の温度範囲に限定した。
【0020】
【実施例】
表1に示す化学組成を有する鋼を転炉溶製し、連続鋳造法により400 ×560mm の鋳片とした。これら鋳片を分塊圧延により150mm 角のビレットとした。ついで、これらビレットに表2に示す加熱圧延条件で熱間圧延を施し、鋼線材とした。なお、熱間圧延における仕上げ圧延は、2ロール圧延機または4ロール圧延機を3基連続させて圧延した。
【0021】
また、これら圧延鋼線材に、さらに球状化焼鈍、酸洗処理を施した後の表面粗さ及び線径を測定した。なお、球状化焼鈍条件は、790 ℃×8hrの均熱後 600℃までを15℃/hの徐冷とした。酸洗は、濃度:15±3 %の塩酸(液温:35±3 ℃) 中に40min 浸漬することにより行った。なお、線径の測定方法は、任意の箇所について同一断面の最大径と最小径を測定し、公差として目標値(7.50mm)に対するばらつき範囲を算出した。また、表面粗さは、触針式表面粗さ計を用い、2ヶ所でそれぞれ10mmの測定長さについて、前述の方法で測定した。
【0022】
それらの結果を表2に示す。
【0023】
【表1】
【0024】
【表2】
【0025】
本発明例は、酸洗後の線径の公差が目標値7.50mmに対し±0.10mm以下、さらに表面粗さも小さく、伸線加工を行わず鍛造加工ができた。これに対し、本発明の範囲を外れる比較例は、線径の公差が大きいかあるいは表面粗さが大きくなり、鍛造加工前に伸線加工が必須であった。
【0026】
【発明の効果】
本発明によれば、鋼線材から鋼球・ころ等の軸受を製造するに際し、従来必要とされていた伸線加工を省略することができ、軸受製造の製造コストを大幅に削減でき、産業上格段の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】2ロール圧延機による圧延方法の1例を模式的に示す説明図である。
【図2】4ロール圧延機による圧延方法の1例を模式的に示す説明図である。
Claims (3)
- 重量%で、
C:0.5 〜1.2 %、 Si:0.8 %以下、
Mn:0.2 〜1.5 %、 S:0.010 %以下、
Cr:0.5 〜1.6 %を含み、
残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼素材を、900 〜1050℃に加熱して熱間圧延を施したのち、750 ℃以上( 950−10000 ×S(重量%))℃以下の温度で巻取ることを特徴とする、酸洗後の表面粗さ Ra が 1.0 μ m 以下、かつ線径の公差が± 0.10mm 以内にあり、伸線加工を省略できる軸受用鋼線材の製造方法。 - 前記熱間圧延における仕上げ圧延が、4ロールミルを用いて行う圧延であることを特徴とする請求項1に記載の軸受用鋼線材の製造方法。
- 前記組成に加えて、さらに、重量%で、Mo:0.30%以下、Cu:0.50%以下、Ni:0.50%以下のうちから選ばれた1種または2種以上および/またはREM :0.010 %以下を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の軸受用鋼線材の製造方法。
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