JP3795842B2 - タンパク質含有ゲル、タンパク質含有ゲル乾燥体及びタンパク質含有ゲルの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、生化学、分析化学、薬学、医療などの分野で有用なタンパク質含有ゲル、前記タンパク質含有ゲルの乾燥体、および前記タンパク質含有ゲルの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
高分子ゲルは水溶性有機高分子の三次元架橋物が水または有機溶媒を含んで膨潤したものであり、ソフトマテリアル、高吸水性材料、薬剤放出制御剤、アクチュエータ、人工器官等の材料として、医療・医薬、食品、土木、バイオエンジニアリング、スポーツ関連などの分野で広く用いられている(例えば、ゲルハンドブック(長田義仁、梶原莞爾編:エヌ・ティー・エス株式会社、1997年)。
【0003】
これまで、高分子ゲルの物性を改良する目的で多くの研究開発が行われており、例えばゲル強度を向上させるためには、表面架橋による方法(米国特許5,314,420号公報、特公平6−39487号公報)や無機物質との複合化による方法(特開2002−53629号公報)が、また吸水性を改良するためには、架橋剤を選定する方法(WO94−20547号公報)やプラズマ重合による方法(長田義仁、高瀬三男、日本化学会誌、3巻,439頁、1983年)などが報告されている。
【0004】
また、医薬・医療の分野では、細胞培養ゲル、コンタクトレンズ、医療用吸収性ヒドロゲル、バイオアドヒージョンゲル、薬物放出制御剤、医療センサ、組織工学用材料などへの応用を実現するため、力学物性や各種機能性を高めたゲル材料の開発が強く望まれている。例えば、人工組織体の作成のためには生体適合性及び光や熱刺激への応答性等の機能性を有する材料が望まれ、特に、ゼラチン等のタンパク質と有機架橋剤で架橋されたポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)等の有機架橋高分子を複合化した材料が検討されている(松田武久、人工臓器28巻、1号、242〜245頁、1999年)。
【0005】
しかし、これらの有機架橋剤を用いて形成される有機架橋高分子からなるゲル(例えば、T.Takigawa他, Journal of Chemical Physics, 113巻 No.17, 7640−7645頁、2000年)は力学物性が低いために取り扱い性が悪く、使用時に破壊され易く、また薄い材料として使用することが出来ない等の問題があった。
また、これらの有機架橋高分子ゲル中にタンパク質を含有させた場合は、タンパク質が不均一な分散状態となり易く、タンパク質の含有比率や種類が制限されタンパク質の機能が十分に発揮できない問題があった。
【0006】
かかるタンパク質の分散性(均一複合化)や得られたゲルの機能性を改良するために有機架橋高分子とタンパク質間にグラフト結合を生じさせる方法も報告されているが(例:大屋章二ら、高分子学会予稿集、50巻、10号、2180)、複雑な合成工程が必要とされ、また力学物性や取り扱い性の悪さは未解決のままであった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明が解決しようとする課題は、タンパク質を均一分散して含み、優れた力学物性と安定性を有するタンパク質含有ゲル、前記タンパク質含有ゲルの乾燥体及び前記タンパク質含有ゲルの製造方法を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、少なくとも一部が層状に剥離した粘土鉱物と、水とタンパク質の存在下にN−アルキルアクリルアミドなどの水溶性モノマーを重合させて得られる水溶性有機高分子と粘土鉱物とが複合化して形成された三次元網目中に水とタンパク質を含有するゲルが、優れた力学物性、取り扱い性および安定性を有するタンパク質含有ゲルを形成することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は水溶性有機高分子と粘土鉱物とが複合化して形成された三次元網目を有するゲルであって、前記三次元網目中にタンパク質が分散し、担持されていることを特徴とするタンパク質含有ゲルを提供する。また、本発明は前記タンパク質含有ゲルを乾燥して得られるタンパク質含有ゲル乾燥体を提供する。
さらに、前記タンパク質含有ゲルの製造方法であって、重合後に水溶性有機高分子を形成する水溶性モノマー、粘土鉱物、タンパク質および水を含む均一溶液中で前記水溶性モノマーを重合させることを特徴とするタンパク質含有ゲルの製造方法。本発明は重合後に水溶性有機高分子を形成する水溶性モノマー、粘土鉱物、タンパク質および水を含む均一溶液中で前記水溶性モノマーを重合させることを特徴とするタンパク質含有ゲルの製造方法を提供する。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明のタンパク質含有ゲルの形成に用いる水溶性有機高分子は、水に膨潤または溶解する性質を有し、水に均一分散可能な水膨潤性の粘土鉱物と相互作用を有するものが好ましく、例えば、粘土鉱物と水素結合、イオン結合、配位結合、共有結合等を形成できる官能基を有するものが好ましい。これらの官能基を有する水溶性有機高分子としては、具体的には、アミド基、アミノ基、水酸基、テトラメチルアンモニウム基、シラノール基、エポキシ基などを有する水溶性有機高分子が挙げられ、なかでもアミド基を有する水溶性有機高分子が好ましい。
【0011】
また、かかる水溶性有機高分子の内、熱、pH又は光に応答する機能や、生体適合性、生分解性などの特性を有しているものは、用途に応じてより好ましく用いられ、例えば、水溶液中でのポリマー物性(例えば親水性と疎水性)が下限臨界共溶温度(Lower Critical Solution Temperature:LCST)前後のわずかな温度変化により大きく変化する特性を有する水溶性有機高分子として、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)が挙げられる。
【0012】
アミド基を有する水溶性有機高分子の具体例としては、N−アルキルアクリルアミド、N,N−ジアルキルアクリルアミドおよびアクリルアミド等のアクリルアミド類、または、N−アルキルメタクリルアミド、N,N−ジアルキルメタクリルアミドおよびメタクリルアミド等のメタクリルアミド類の中から選択される一つ又は複数を重合して得られる水溶性有機高分子が挙げられる。これらアルキルアクリルアミドやアルキルメタクリルアミドのアルキル基としては、炭素数が1〜4のものが特に好ましく用いられる。
【0013】
より具体的には、例えば、ポリ(N−メチルアクリルアミド)、ポリ(N−エチルアクリルアミド)、ポリ(N−シクロプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(アクリロイルモルフォリン)、ポリ(メタクリルアミド)、ポリ(N−メチルメタクリルアミド)、ポリ(N−シクロプロピルメタクリルアミド)、ポリ(N−イソプロピルメタクリルアミド)、ポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)、ポリ(N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−メチル−N−エチルアクリルアミド)、ポリ(N−メチル−N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−メチル−N−n−プロピルアクリルアミド)、ポリ(N,N−ジエチルアクリルアミド)、ポリ(N−アクリロイルピロリディン)、ポリ(N−アクリロイルピペリディン)、ポリ(N−アクリロイルメチルホモピペラディン)、ポリ(N−アクリロイルメチルピペラディン)及びポリ(アクリルアミド)等が例示される。
【0014】
かかる水溶性有機高分子としては、単一水溶性モノマーからの重合体の他、複数の異なる水溶性モノマーを重合して得られる共重合体を用いることもできる。また上記水溶性モノマーと有機溶媒可溶性モノマーとの共重合体も、得られた重合体が水に膨潤または溶解するものであれば使用することができる。
【0015】
本発明のタンパク質含有ゲルの形成に用いられる粘土鉱物は、水に膨潤性を有するものであり、好ましくは水によって層間が膨潤する性質を有するものが用いられる。より好ましくは少なくとも一部が水中で層状に剥離して分散できるものであり、特に好ましくは水中で1ないし10層以内の厚みの層状に剥離して均一分散できる層状粘土鉱物である。例えば、水膨潤性スメクタイトや水膨潤性雲母などが用いられ、より具体的には、ナトリウムを層間イオンとして含む水膨潤性ヘクトライト、水膨潤性モンモリロナイト、水膨潤性サポナイト、水膨潤性合成雲母などが挙げられる。
【0016】
本発明のタンパク質含有ゲル形成に用いるタンパク質は、オリゴペプチドやポリペプチドを含むタンパク質の他に、糖タンパク質、リポタンパク質およびリン酸化タンパク質などのいずれの複合タンパク質も特に制限なく使用できる。
これらは生体由来のタンパク質、合成タンパク質、もしくはDNA組み替えにより細菌等により産出されるタンパク質のいずれであっても良い。本発明に用いるタンパク質は、生理活性を有するタンパク質であることが好ましく、例えば、血清タンパク質、酵素、免疫応答タンパク質、ホルモンタンパク質、生体組織を構成するタンパク質、凝血性因子、抗血栓性物質、細胞接着性因子などが挙げられる。
【0017】
生理活性を有するタンパク質としては、例えば、アルブミン、IgG、マクログロブリンおよび血液凝固因子などの血清タンパク質;アミラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、セルラーゼ、オキシダーゼおよびデヒドロゲナーゼなどの酵素;サイトカイン、モノクロール抗体およびポリクローナル抗体などの免疫応答物質;インシュリン、グルカゴン、オキシトシン、バソプレシン、セクレチンおよびACTHなどのホルモンタンパク質;ゼラチンやコラーゲンなどの生体組織を構成するタンパク質;フィブリノーゲンなどの血液凝固因子やフィブロネクチンなどが例示される。
【0018】
本発明のタンパク質含有ゲルの形成に用いる溶媒は、水であるが、タンパク質含有ゲルの形成が行われる限り、水と混和し、水溶性モノマーや粘土鉱物およびタンパク質と均一溶液を形成する水と混和する有機溶剤を含んでいても良い。また、均一溶液を形成する限り、塩などを含む水溶液も使用可能である。
水と混和する有機溶剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド及びそれらの混合溶媒が挙げられる。
【0019】
本発明のタンパク質含有ゲルは、水溶性有機高分子と粘土鉱物とが複合化して形成された三次元網目中に水とタンパク質を含有するゲルであり、水溶性有機高分子と少なくとも一部が層状に剥離した粘土鉱物が水中で三次元網目を形成してなるゲル中にタンパク質が微細に含まれたものである。即ち、水溶性有機高分子と粘土鉱物が水中で分子レベルで複合化(橋架け)することにより形成された三次元網目の中にタンパク質が化学結合や各種相互作用(イオン性相互作用、水素結合、疎水相互作用、キレート形成、高分子絡み合いなど)の働きで微細に分散して旦持されている。なお、本発明のタンパク質含有ゲルには、タンパク質含有ゲルの三次元網目が維持される限り、水以外に水と混和する有機溶剤を含んでいても良い。
【0020】
また、本発明は、本発明のタンパク質含有ゲルを慣用の方法で乾燥し、水を除去することにより得られるタンパク質含有ゲル乾燥体を提供する。タンパク質含有ゲル乾燥体に、水または水と混和する有機溶媒などの溶媒を含ませることにより、容易にタンパク質含有ゲルを再生することができる。タンパク質含有ゲル乾燥体は、タンパク質含有ゲルに比べて嵩張らず軽量で、貯蔵や輸送に好適に用いられる。
【0021】
本発明において、水とタンパク質が水溶性有機高分子と粘土鉱物からなる三次元網目の中に担持される場合、該タンパク質が水溶性有機高分子及び/または粘土鉱物と化学結合したり、相互作用したり、また絡み合いなどによりタンパク質の微細分散が達成されることにより、タンパク質がゲルの中に安定して保持される。また、本発明におけるタンパク質含有ゲルの特性を保持できる限り、目的に応じて他の成分を添加することも可能である。
【0022】
本発明のタンパク質含有ゲルの製造方法としては、水溶性有機高分子の重合原料である水溶性モノマーと粘土鉱物と水とタンパク質を含む均一溶液または均一分散液を調製した後、水溶性モノマーを重合させる方法が好ましい。該均一溶液中でナノメーターレベルで層状に剥離して分散した粘土鉱物は、水溶性モノマーの重合時に架橋剤の働きをすることより、水溶性有機高分子と粘土鉱物の三次元網目が形成され、その三次元網目中に微細にタンパク質が取り込まれる。
【0023】
その他、タンパク質を含む水溶性モノマーを合成し、粘土鉱物と水の共存下で水溶性モノマーと該タンパク質を含む水溶性モノマーとの重合を行わせる方法でも良い。しかし、水溶性有機高分子と粘土鉱物及びタンパク質の各々の溶液を調製した後、単純に混合する方法では、優れた力学物性や機能性、均一性を有するタンパク質含有ゲルを調製することは困難である。
【0024】
前述の水溶性モノマーまたはタンパク質を含む水溶性モノマーの重合反応は例えば、過酸化物の存在、加熱または紫外線照射など慣用の方法を用いたラジカル重合により行わせることができる。ラジカル重合開始剤および触媒としては、慣用のラジカル重合開始剤および触媒のうちから適宜選択して用いることができる。好ましくは水に分散性を有し、系全体に均一に含まれるものが用いられる。特に好ましくは層状に剥離した粘土鉱物と強い相互作用を有するカチオン系ラジカル重合開始剤である。
【0025】
具体的には、重合開始剤として水溶性の過酸化物、例えばペルオキソ二硫酸カリウムやペルオキソ二硫酸アンモニウム、水溶性のアゾ化合物、例えば、和光純薬工業株式会社製のVA−044、V−50、V−501などが好ましく用いられる。その他、ポリエチレンオキシド鎖を有する水溶性のラジカル開始剤なども用いられる。
【0026】
また触媒としては、3級アミン化合物であるN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンやβ−ジメチルアミノプロピオニトリルなどが好ましく用いられる。重合温度は、用いる水溶性有機高分子、重合触媒および開始剤の種類などに合わせて0℃〜100℃の範囲に設定する。重合時間も触媒、開始剤、重合温度、重合溶液量(厚み)などの重合条件によって異なり、一概に規定できないが、一般に数十秒〜十数時間の間で行う。得られたタンパク質含有ゲルを洗浄処理しても可溶性成分として溶出するものが少ないことから、本発明のタンパク質含有ゲルの製造では、水溶性モノマーの重合率が高いことが判る。
【0027】
本発明のタンパク質含有ゲルは、力学物性が高く、取り扱い性に優れているため、重合容器の形状を設計したり、重合後のゲル形状を加工することにより、種々の大きさや形状をもったタンパク質含有ゲルを調製できる。例えば、繊維状、棒状、平板状、円柱状、らせん状または球状など任意の形状を有するタンパク質含有ゲルを調製可能である。また上記の重合反応において更に慣用の界面活性剤を共存させる等の方法で、得られるタンパク質含有ゲルを微粒子形態で製造することも可能である。
【0028】
本発明において、タンパク質含有ゲルを構成する水溶性有機高分子と粘土鉱物との比率は、水溶性有機高分子と粘土鉱物とからなる三次元網目を有するゲル構造体が調製されれば良く、また用いる水溶性有機高分子や粘土鉱物の種類によっても異なり一概に規定できないが、ゲル合成が容易であることや均一性に優れることから、水溶性有機高分子に対する粘土鉱物の質量比が0.01〜10であることが好ましく、より好ましくは0.03〜2.0、特に好ましくは0.1〜1.0である。水溶性有機高分子に対する粘土鉱物の質量比が0.01未満では、ゲル特性が十分に得られにくく、質量比が10を超えると、得られるゲルが脆くなりやすい。
【0029】
一方、水溶性有機高分子と粘土鉱物の和に対するタンパク質の割合は、タンパク質が微細分散して三次元網目の中に含まれれば良く、また用いるタンパク質の種類や目的、用途によっても異なり特に限定されない。具体的には、タンパク質濃度がppmレベルから水溶性有機高分子と粘土鉱物の和に対する質量比で数倍まで、タンパク質の機能性やゲル均一性などから判断し広い範囲から選択して用いられる。
【0030】
水溶性有機高分子と粘土鉱物の和に対する水の比率も、重合溶液での溶媒量調整、もしくはその後の膨潤や乾燥により、目的に応じて零に近い値から非常に大きい値まで任意に設定できる。本発明で得られるタンパク質含有ゲルに含まれる水の最大量は、水溶性有機高分子や粘土鉱物の成分の種類及び比率、また温度やpHなどの環境条件などにより異なるが、従来の同じ水溶性有機高分子の有機架橋ゲルに比べて、高い力学物性を維持した状態のまま、含む溶媒の割合を大きく変化させることができる。
【0031】
本発明のタンパク質含有ゲルは、有機架橋剤を用いずに水溶性有機高分子と粘土鉱物で形成された三次元網目を有する高分子ゲルであり、従来の有機架橋剤を用い重合して得られる水溶性有機高分子の有機架橋ゲル(以下、有機架橋ゲルと呼ぶ)にタンパク質を含ませたゲルに比べて、桁違いに大きい強靱性を有する。例えば、タンパク質含有ゲルに含まれる溶媒が水で、水溶性有機高分子に対する水の質量比率を10として評価した場合、本発明のタンパク質含有ゲルは、引っ張り試験の破断伸びが少なくとも50%以上、良好なものは100%以上、より良好なものは300%以上のものが得られる。
【0032】
また引っ張り強度も、一般の有機架橋ゲルにタンパク質を含ませたものより大きい。例えば、タンパク質含有ゲルに含まれる溶媒が水で、水溶性有機高分子に対する水の質量比率を10として評価した場合、引っ張り強度が少なくとも5KPa以上、良好なものは10KPa以上、より良好なものは30KPa以上のものが得られる。これに対して比較例1及び2に示すように有機架橋ゲル中にタンパク質を担持して得られたタンパク質含有ゲルは、本発明のタンパク質含有ゲルと比べて極めて弱く、引っ張り試験でのチャックへの装着ができないものや、試験開始直後に破壊され、力学物性値が得られないものなどであった。
【0033】
本発明のタンパク質含有ゲルは、他の力学変形に対しても良好な機械特性を示し、例えば大きな圧縮、引っ張りまたは曲げ変形に対しても優れた強靱性を有する。具体的には、本発明のタンパク質含有ゲルには、元のタンパク質含有ゲルに比べて厚み方向で1/3以下の厚みに、良好なものは1/5以下の厚みに圧縮変形されても、その形状が破壊されないタンパク質含有ゲルや、または長さ中心点で100度以上の角度に、良好なものは150度以上の角度に曲げ変形されても、その形状が破壊されないタンパク質含有ゲルが含まれる。
【0034】
本発明のタンパク質含有ゲルは、透明性が高いものが得られる。透明性は水溶性有機高分子に対する粘土鉱物の量比や水溶性有機高分子と粘土鉱物の和に対するタンパク質の量比、また水の含有率などにより異なるが、ゲルに含まれる溶媒が水で、水溶性有機高分子に対する水の質量比率が10である直径25mmの円柱状のゲルでは、少なくとも全透過率が50%以上で、良好なものは70%以上、特に良好なものは80%以上のものが得られる。
【0035】
また、本発明でのタンパク質含有ゲルには、特定温度(Tc)を境にその上下の温度で透明性や体積が大きく異なり、その変化を可逆的に発現できる機能性を有するものが含まれる。このような熱刺激応答性を有するタンパク質含有ゲルは、水溶性有機高分子として水溶液中で下限臨界共溶温度(LCST)を示す水溶性有機高分子を用いて調製できる。具体的には、水溶性有機高分子としてポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)やポリ(N−ジエチルアクリルアミド)を用いた場合、低温側で透明及び/又は膨潤状態、高温側で不透明及び/又は体積収縮状態となるものが得られる。
【0036】
【実施例】
次いで本発明を実施例により、より具体的に説明するが、もとより本発明は、以下に示す実施例にのみ限定されるものではない。
【0037】
(実施例1)
粘土鉱物には、[Mg5.34Li0.66Si8O20(OH)4]Na0.66 +の組成を有する水膨潤性合成ヘクトライト(商標ラポナイトXLG、日本シリカ株式会社製)を100℃で2時間真空乾燥して用いた。有機水溶性モノマーとして、N−イソプロピルアクリルアミド(NIPA:興人株式会社製)をトルエンとヘキサンの混合溶媒(1/10質量比)を用いて再結晶し無色針状結晶に精製してから用いた。ゼラチンは和光純薬製ブタ真皮由来混合物を用い、予め20質量%の水溶液に調製して用いた。
【0038】
重合開始剤は、ペルオキソ二硫酸カリウム(KPS:関東化学株式会社製)をKPS/水=0.192/10(g/g)の割合で純水で希釈し、水溶液にして使用した。触媒は、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA:関東化学株式会社製)をそのまま使用した。水はイオン交換水を蒸留した純水を用いた。水は全て高純度窒素を予め3時間以上バブリングさせ含有酸素を除去してから使用した。
【0039】
35℃の恒温室において、内部を窒素置換した内径25mm、長さ80mmの平底ガラス容器に、純水16.96gとテフロン製攪拌子を入れ、攪拌しながら0.662gのラポナイトXLGを気泡が入らないように注意しながら少量ずつ加え、無色透明の溶液を調製し、10分間撹拌後、温度を室温(約23℃)に戻した。これにNIPA2.0g、次いでゼラチン水溶液2gを添加し、15分間攪拌してわずかに黄色味がかった透明溶液を得た。次いで、氷浴にてTMEDA16μlを添加し1分撹拌後、KPS水溶液1.06gを攪拌して加え、15秒ほど更に攪拌して無色透明溶液を得た。
【0040】
この溶液の一部を底の閉じた内径5.5mm、長さ150mmのガラス管容器3本に酸素にふれないようにして移した後、上部に密栓をし、20℃で15時間静置して重合を行った。残りの溶液も平底ガラス容器内で20℃、15時間静置し、重合を行った。なお、これらの溶液調製から重合までの操作は全て酸素を遮断した窒素雰囲気下で行った。15時間後に平底ガラス容器内、及びガラス管容器内に弾力性、強靱性のある無色透明・均一な円柱状、及び棒状のゲルが生成しており、両容器から注意深く取り出した。
【0041】
また、ゲル中に粘土鉱物などによる不均一又は不透明な凝集は何ら観測されなかった。ゲルを120℃の真空乾燥機で質量一定になるまで乾燥させることにより、[タンパク質/(水溶性有機高分子+粘度鉱物+タンパク質)]×100=650質量%の水を含むヒドロゲルであることがわかった。取り出したヒドロゲルの精製は、ヒドロゲルを2Lの水に2日間浸漬して取り出し、次いで70℃の水1Lに2時間浸漬して取り出す操作を三回繰り返して行った。
【0042】
精製ヒドロゲルを100℃、減圧下にて乾燥して水分を除いたヒドロゲル乾燥体を得た。ゲル乾燥体を20℃に水に浸漬することにより、乾燥前と同じ形状の弾性のあるヒドロゲルに戻ることが確認された。ゲル乾燥体のKBr法によるフーリエ変換赤外線吸収スペクトル(FT−IR)測定を行い(日本分光株式会社製フーリエ変換赤外分光光度計FT/IR−550を使用)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)及びゼラチンに加えてラポナイトXLGに固有な赤外線吸収(例えば460cm−1、650cm−1、1005cm−1)が観測された。
【0043】
またゲル乾燥体の熱質量分析は、セイコー電子工業株式会社社製、TG−DTA220を用いて、空気流通下、10℃/分で800℃まで昇温して測定し、粘度鉱物÷(水溶性有機高分子+タンパク質)=0.276(質量比)を得た。更にゲル乾燥体をエポキシ樹脂の中に包埋し、ウルトラミクロトームで超薄切片を作成し、高分解能電子顕微鏡(日本電子株式会社製JEM−200CX)により加速電圧100KVで測定した結果、1〜数層程度に剥離した粘土層が観測された。
【0044】
また、5.5mm直径×30mm長さのゲルを大過剰の純水中に10日間保持した時の下式で定義した膨潤率(質量比率)は33倍であった。
膨潤率=溶媒÷(水溶性有機高分子+粘度鉱物+タンパク質)
得られたものは大きく膨潤はするが溶解することは無いヒドロゲルであることが確認された。
【0045】
以上から、本実施例で得られたゲルは、仕込み組成に沿った成分比を有する、水溶性有機高分子(ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド:PNIPA))とゼラチンと粘土鉱物と水からなるヒドロゲルであること、PNIPAの合成において架橋剤を添加していないにも拘わらず、無色、透明、均一なヒドロゲルとなること、ヒドロゲルから水分を除いて得られるゲル乾燥体を水に浸漬することにより再びもとの形状のヒドロゲルに戻ること、ゼラチンを用いないでもほぼ同様なヒドロゲルが形成されること等から、PNIPAと粘土鉱物が分子レベルで複合化した三次元網目が水中で形成され、ゼラチンが微細にゲルの中に含有されていると結論された。なお、粘土鉱物を共存させない以外は同様な条件で合成した水溶性有機高分子は粘調な高分子水溶液となりゲルとはならなかった。
【0046】
棒状に調製したヒドロゲル(断面積は0.237cm2)をチャック部での滑りの無いようにして引っ張り試験装置(株式会社島津製作所製、卓上型万能試験機AGS−H)に装着し、評点間距離30mm、引っ張り速度100mm/分にて引っ張り試験を行った。ここでは水含有率を一定にして評価するため未精製のゲルを用いた。その結果、引っ張り強度が75.9kPa、破断伸びが796%、弾性率が7.23kPaであった。なお、弾性率は引っ張り荷重が0.05N〜0.3Nでの傾きを用い、断面積は強度、弾性率共に初期断面積を用いた。
【0047】
本実施例で得られたタンパク質含有ゲルは上記のような強靱さを持つと共に、特定の温度(Tc)以下では透明で膨潤し、Tc以下の温度では白濁し収縮する性質を示した。透明性測定からゲルのTcは32℃であった。透明性は平底ガラス容器に入ったゲルを日本電色工業株式会社製NDH−300Aを用いて全透過率を温度を変えながら測定した。全透過率は、20℃で90.1%、30℃で89.1%、32℃で35.7%、33℃で4.2%であった。
【0048】
(実施例2と3)
実施例2では粘土鉱物(ラポナイトXLG)の量を0.396gとすること、実施例3では粘土鉱物(ラポナイトXLG)の量を0.396g、水を15.96g、ゼラチン水溶液を3gとすること以外は、いずれも実施例1と同様にして重合を行い、ヒドロゲルを調製した。いずれも弾力性、強靱性のある均一で透明なタンパク質含有ゲルが得られた。平底容器に入ったゲルの20℃での全透過率は91.4%(実施例2)及び88.6%(実施例3)であり、10日間後の膨潤率は31倍(実施例2)及び28倍であった。実施例2について引っ張り試験を実施例1と同様にして測定した。引っ張り強度、破断伸び、弾性率は、それぞれ44.5kPa、1003%、3.10kPaであった。また、実施例1と同様に測定した透明性の温度変化は、30℃で89.1%、32℃で47.2%、33℃で5.0%であり、Tcは32℃であった。
【0049】
(実施例4と5)
有機水溶性モノマーとして、実施例4ではN,N−ジメチルアクリルアミド(DMAA:和光純薬工業株式会社)を1.76g、実施例5ではN,N−ジエチルアクリルアミド(DEAA:和光純薬工業株式会社)を2.24g用いること、及び、実施例4と5共に水とゼラチン水溶液を17.96gと1g用いる以外は実施例1と同様にして重合を行い、ヒドロゲルを調製した。なお、DMAA及びDEAAはシリカゲルカラム(メルク社製)を有機水溶性モノマー100mlに対して80mlの容積で用いて重合禁止剤を取り除いてから使用した。
【0050】
その結果、共に、弾力性、強靱性のある均一な乳白濁したタンパク質含有ゲルが得られた。平底容器に入ったゲルの20℃での全透過率は63.1%(実施例4)及び9.8%(実施例5)であった。実施例1と同様にして引っ張り試験を行った結果、引っ張り強度、破断伸び、弾性率が実施例4ではそれぞれ120kPa、1436%、5.78kPa、実施例5では159kPa、668%、15.5kPaであった。
【0051】
(実施例6と7)
実施例6及び7では、ゼラチン水溶液の代わりにアルブミン(シグマ社製、ウシ血清由来)を0.01g用いること、水を18.96g用いること、また粘土鉱物(ラポナイトXLG)の量を0.66g(実施例6)または0.396g(実施例7)とした以外は、実施例1と同様にして重合を行い、ヒドロゲルを調製した。
【0052】
その結果、共に、弾力性、強靱性のある均一なやや乳濁した透明なタンパク質含有ゲルが得られた。平底容器に入ったゲルの20℃での全透過率は76.8%(実施例6)及び77.9%(実施例7)であった。実施例1と同様に測定した透明性の温度変化は実施例6では30℃で63.9%、32℃で41.3%、33℃で26.2%、35℃で0%であり、Tcは33℃であった。また実施例7では、30℃で68.7%、32℃で43.7%、33℃で3.6%であり、Tcは32℃であった。また、実施例6において、実施例1と同様にして引っ張り試験を行った結果、強度、破断伸び、弾性率がそれぞれ86.5kPa、705%、10.4kPaであった。
【0053】
(実施例8)
ゼラチン水溶液の代わりにウシ血清アルブミンを0.01g用いること、水を18.96g用いたこと以外は実施例4と同様にして重合を行い、ヒドロゲルを調製した。その結果、弾力性、強靱性のある、均一な、少し乳濁したタンパク質含有ゲルが得られた。平底容器に入ったゲルの20℃での全透過率は60.8%であった。実施例1と同様にして引っ張り試験を行った結果、強度、破断伸び、弾性率がそれぞれ94.6kPa、1323%、5.1kPaであった。
【0054】
(比較例1)
粘土鉱物を用いないこと、NIPA水溶性モノマーを添加した後、有機架橋剤をNIPAの5モル%添加すること以外は実施例1と同様にして、20℃で15時間重合を行った。有機架橋剤としては、N,N’−メチレンビスアクリルアミド(BIS)(関東化学株式会社製)をそのまま使用した。その結果、白濁した脆いゲルが得られた。実施例1と同様にして測定した結果、[溶媒/(水溶性有機高分子+タンパク質)]×100は810質量%、また5.5mm直径×30mm長さのゲルを10日間、多量の水中に保持した後の膨潤率[溶媒/(水溶性有機高分子+タンパク質)]は9.0倍であり、タンパク質を含有した有機架橋ヒドロゲルであることが確認された。20℃での全透過率は1%であり、温度による透明性変化は示さなかった。また、実施例1と同様にして引っ張り試験を行おうとしたが、強度が弱く、且つ脆くてすぐ破壊するため引っ張り試験装置に装着することもできなかった。
【0055】
(比較例2)
粘土鉱物を用いないこと、NIPA水溶性モノマーを添加した後、有機架橋剤をNIPAの5モル%添加すること以外は実施例6と同様にして、20℃で15時間重合を行った。有機架橋剤としては、N,N’−メチレンビスアクリルアミド(BIS)(関東化学株式会社製)をそのまま使用した。その結果、白濁した脆いゲルが得られた。実施例1と同様にして測定した結果、[溶媒/(水溶性有機高分子+タンパク質)]×100は960質量%、また5.5mm直径×30mm長さのゲルを10日間、多量の水中に保持した後の膨潤率[溶媒/(水溶性有機高分子+タンパク質)]は10.7倍であり、タンパク質を含有した有機架橋ヒドロゲルであることが確認された。20℃での全透過率は0.9%であり、温度による透明性変化は示さなかった。また、実施例1と同様にして引っ張り試験を行おうとしたが、強度が弱く、且つ脆くてすぐ破壊するため引っ張り試験装置に装着することもできなかった。
【0056】
【発明の効果】
本発明のタンパク質含有ゲルは、タンパク質の持つ生理活性を有する共に、強度、伸び、強靱性などの優れた力学物性を有する。例えば、水溶性有機高分子に対する水の質量比率を10として評価した場合、本発明のタンパク質含有ゲルは、引っ張り試験の破断伸びが少なくとも50%以上、特に優れたものでは300%以上を達成することができ、また、引っ張り強度も少なくとも10KPa以上で、特に優れたものでは30KPa以上を達成することができる。
【0057】
本発明のタンパク質含有ゲルは、タンパク質が微細分散して旦持されているために、含有されるタンパク質本来の生理活性をそのまま発現させることができ、血清タンパク質、酵素、免疫応答タンパク質、ホルモンタンパク質、生体組織を構成するタンパク質、凝血性因子、抗血栓性物質、細胞接着性因子などの生理活性を有するタンパク質を含有させた場合は、これらに由来するそれぞれの生理活性を効果的に発現させることができるため、特に医療・医薬分野で有用である。
【0058】
本発明のタンパク質含有ゲルを乾燥して得られるタンパク質含有ゲル乾燥体は水を添加することにより、容易に本発明のタンパク質含有ゲルに復元できタンパク質含有ゲルに比べて嵩張らず軽量で貯蔵や輸送に好適に用いられる。
また、本発明のタンパク質含有ゲルの製造方法は、水溶性有機高分子にタンパク質をグラフトするなどの複雑な工程を要せずに優れた力学物性を有するタンパク質含有ゲルを製造することができる。
Claims (10)
- 水溶性有機高分子と粘土鉱物とが複合化して形成された三次元網目を有するゲルであって、前記三次元網目中にタンパク質が分散し、担持されていることを特徴とするタンパク質含有ゲル。
- 前記タンパク質が生理活性を有するタンパク質である請求項1に記載のタンパク質含有ゲル。
- 前記三次元網目が有機架橋剤を用いずに形成されている請求項1に記載のタンパク質含有ゲル。
- 前記水溶性有機高分子に対する前記粘土鉱物の質量比が0.01〜10である請求項1に記載のタンパク質含有ゲル。
- 前記水溶性有機高分子がアミド基を有する水溶性有機高分子であり、前記粘土鉱物が水膨潤性のスメクタイトである請求項1に記載のタンパク質含有ゲル。
- 前記タンパク質含有ゲルに含まれる水溶性有機高分子に対する水の質量比率が10である場合に、引っ張り破断伸びが50%以上であり、破断強度が5kPa以上である請求項1に記載のタンパク質含有ゲル。
- 請求項1〜6のいずれか1つに記載のタンパク質含有ゲルを乾燥して得られることを特徴とするタンパク質含有ゲル乾燥体。
- 請求項1〜6のいずれか1つに記載のタンパク質含有ゲルの製造方法であって、重合後に水溶性有機高分子を形成する水溶性モノマー、粘土鉱物、タンパク質および水を含む均一溶液中で前記水溶性モノマーを重合させることを特徴とするタンパク質含有ゲルの製造方法。
- 前記水溶性モノマーに対する前記粘土鉱物の質量比が0.01〜10である請求項8に記載のタンパク質含有ゲルの製造方法。
- 前記水溶性モノマーがアクリルアミド類またはメタクリルアミド類であり、粘土鉱物が水膨潤性スメクタイトである請求項8に記載のタンパク質含有ゲルの製造方法。
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