JP3795694B2 - 磁性材料およびボンド磁石 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は磁性材料およびボンド磁石に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、高性能希土類永久磁石としてはSm−Co系磁石、Nd−Fe−B系磁石などが知られており、現在量産化が進められている。これらの磁石にはFeまたはCoが多量に含まれ、飽和磁束密度の増大に寄与している。また、これらの磁石中の希土類元素は、結晶場中における4f電子の挙動に由来する非常に大きな磁気異方性をもたらす。これにより保磁力の増大化が図られ、高性能な磁石が実現されている。このような高性能磁石は主としてスピーカー、モーター、計測器などの電気機器に使用されている。
【0003】
近年、各種電気機器の小形化の要求が高まり、それに応えるために前記永久磁石の最大磁気エネルギー積を向上し、より高性能の永久磁石が求められている。
【0004】
これに対し本発明者らは、TbCu7 相を主相とする磁性材料において、主相中のFe濃度が高く、飽和磁束密度の高い磁性材料を提案した(特願平4−277474)。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
このようなFe濃度が高いTbCu7 相を主相とする磁性材料においても更なる残留磁束密度の増大が要求されている。Fe濃度が高いTbCu7 相を主相とする磁性材料に大きな保磁力を付与するためには、例えば液体急冷、メカニカルアロイング等の製造プロセスを採用することが有効である。しかしながら、これらのプロセスを経た磁性材料は、結晶粒が微細であり通常の磁場配向のような簡単なプロセスでの磁化容易軸方向への結晶配向が困難になる。その結果、大きな残留磁束密度を有する磁性材料が得られないという問題があった。
【0006】
本発明は、主相がTbCu7 相で、残留磁束密度の高い磁性材料を提供しようとするものである。
【0007】
また、本発明は主相が相で、残留磁束密度の高い自在量を含むボンド磁石を提供しようとするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明に係わる磁性材料は、 一般式
R1x R2y Bz M100-x-y-z
ただし、R1は少なくとも一種の希土類元素(Yを含む)で、50原子%以上がSmである、R2はZrおよびHfから選ばれる少なくとも一種の元素、MはFe単独またはFeが50原子%以上のFe及びCoからなる元素、x、y及びzは原子%でそれぞれ2≦x、4≦x+y≦20、0.001≦z≦10を示す、にて表され、主相がTbCu7 型結晶構造を有することを特徴とするものである。
【0009】
等方性の磁性材料において、個々の結晶粒が独立に振る舞う場合には一般的に飽和磁束密度(Bs)に対する残留磁束密度(Br)の比率(Br/Bs)が0.5を越えない。ただし、微細化した結晶粒が結晶粒界を介して交換相互作用により結合すると、等方性の磁性材料であっても前記Br/Bsが0.5を越える場合がある。
【0010】
TbCu7 相を主相とし、かつ硼素(B)を含む前記一般式で示される本発明に係わる磁性材料は、結晶粒間の交換相互作用が増大されるため、残留磁束密度が向上される。これは、次に説明する硼素の挙動によるものと考えられる。硼素は、例えばTbCu7 相のインタースティシャル位置に侵入したり、希土類元素、遷移金属元素と結合して粒界相を形成するなどの形で磁性材料中に取り込まれる。このような磁性材料中への硼素の取り込みは、結晶粒を微細化する、粒界構造に影響を与える等により結晶粒間の交換相互作用を増強して前記Br/Bsが0.5を越える性質を発現でき、磁性材料の残留磁束密度を向上することができる。
【0011】
本発明に係わるボンド磁石は、一般式
R1x R2y Bz M100-x-y-z
ただし、R1はYを含む希土類元素から選ばれる少なくとも1つの元素で、50原子%以上がSmである、R2はZrおよびHfから選ばれる少なくとも1つの元素、MはFe単独またはFeが50原子%以上のFe及びCoからなる元素、x、y、zはそれぞれ原子%でx≧2、4≦x+y≦20、0.001≦z≦10である、にて表され、主相がTbCu7 型結晶構造を有する磁性材料粉末と、
バインダと
を含むことを特徴とするものである。
【0012】
このようなボンド磁石は、残留磁束密度の高い磁性材料を含むため、大きな最大エネルギー積を有する。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の磁性材料は、一般式
R1x R2y Bz Au M100-x-y-z-u
ただし、R1は少なくとも一種の希土類元素(Yを含む)、R2はZr、Hf及びScから選ばれる少なくとも一種の元素、AはH、N、C及びPから選ばれる少なくとも一種の元素、MはFe及びCoの少なくとも1つの元素、x、y、z及びuは原子%でそれぞれ2≦x、4≦x+y≦20、0.001≦z≦10、0≦u≦20を示す、にて表され、主相がTbCu7 型結晶構造を有する。
【0014】
前記主相は、磁性材料中の占有量が最大の相で、前記TbCu7 型結晶構造を有する主相は磁気特性を担うものである。このため、本発明の磁性材料中の主相の含有比率が低下すると、主相の特性が反映されないため、少なくとも50体積%以上の含有比率を有することが望まれる。
【0015】
本発明に係わる磁性材料において、前記TbCu7 型結晶構造の格子定数a、cの比c/aは0.847以上であることが好ましい。前記c/aは、TbCu7 相中のFeおよびCo濃度と密接に関連しており、c/aの上昇に伴ってFeおよびCo濃度が増大する。TbCu7 相中のFeおよびCo濃度の増大は、飽和磁束密度の増大に繋がり、磁気特性を向上させることができる。このような効果は、c/aが0.847以上の磁性材料において特に顕著である。前記c/aの値は、磁性材料を構成する成分の比率または製造方法により制御することができる。
【0016】
次に、(1)前記一般式の磁性材料を構成する各成分の働きおよび各成分の配合量を規定した理由、(2)A元素を含まない磁性材料の製造方法、(3)A元素としてNを配合した磁性材料の製造方法、(4)A元素としてCを配合した磁性材料の製造方法、(5)磁石の製造方法について詳細に説明する。
【0017】
(1)前記一般式の磁性材料を構成する各成分の働きおよび各成分の配合量を規定した理由
(1−1)R1元素
R1元素である希土類元素としては、La、Ce,Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Lu、Yが挙げられ、これらは1種または2種以上の混合物で使用される。R1元素は、前記磁性材料に大きな磁気異方性をもたらし、高い保磁力を付与する。特に、R1元素は50原子%以上がSmであることが好ましい。この場合、Sm以外の残部はPr、Ndであることが好ましい。
【0018】
前記R1元素を2原子%未満にすると磁気異方性の低下が著しく大きな保磁力を有する磁性材料を得ることが困難になる。一方、前記R1元素が過剰に配合されると、磁性材料の飽和磁束密度が低下する。したがって、R1元素含有量xは4≦x≦16であることが好ましい。
【0019】
(1−2)R2元素
R2元素としては、Zr、Hf及びScの群から選ばれる少なくとも1つの元素を用いることができる。このようなR2元素は、主として主相の希土類サイトを占有し、希土類サイトの平均原子半径を低減させるなどの作用により、主相であるTbCu7 型相中のFeおよびCo濃度を高めることが可能になる。好ましいR2元素の含有量yは、0.1≦y≦10、さらに好ましくは1≦y≦3である。
【0020】
また、R1元素及びR2元素の合計量を4原子%未満にするとα−Fe(Co)の析出が著しく大きな保磁力を有する磁性材料を得ることが困難になる。一方、R1元素及びR2元素の合計量が20原子%を越えると磁性材料の飽和磁束密度が低下する。より好ましいR1元素及びR2元素の合計含有量(x+y)は、4≦x+y≦16である。
【0021】
(1−3)B(硼素)
硼素は、本発明の目的である残留磁束密度の高い磁性材料を得るために有効な元素である。硼素の含有量を0.001原子%未満にすると、残留磁束密度の高い磁性材料を得ることが困難になる。一方、硼素の含有量が10原子%を越えるとR2 Fe14B相の生成が顕著になり、磁性材料の磁気特性が劣化する。好ましい硼素の含有量zは、0.01≦z≦4、さらに好ましくは0.1≦z≦3である。
【0022】
(1−4)A元素
A元素は、H、N、C、Pから選ばれる少なくとも1つの元素である。前記A元素は、主として主相の格子間位置に存在し、前記A元素を含まない場合と比較して前記主相のキュリー温度、磁気異方性を向上させる働きを有する。
【0023】
前記A元素は、少量の配合でその効果が発揮されるが、20原子%を越えるとα−Fe(Co)の析出が多くなる。より好ましいA元素の含有量uは、2≦u≦20、更に好ましくは5≦u≦10である。
【0024】
(1−5)M元素
M元素は、FeおよびCoから選ばれた少なくとも1つの元素であり、磁性材料の飽和磁束密度を増大させる働きを有する。前記M元素は、磁性材料中に70原子%以上含有されることにより効果的に飽和磁束密度が増大される。
【0025】
M元素の一部をCr、V、Mo、W、Mn、Ni、Sn、Ga、Al、Siから選ばれる少なくとも1つのT元素で置換することを許容する。このようなT元素の置換により、磁性材料全体に占める主相の割合を増加させたり、主相中のMおよびTの総量を増加させることが可能になる。また、磁性材料の保磁力を増大させることが可能になる。
【0026】
ただし、前記T元素でM元素を多量に置換すると、飽和磁束密度の低下を招く。このため、T元素の置換量は原子%でM元素の20%以下にすることが望ましい。また、飽和磁束密度の高い磁性材料を得る観点から、M元素およびT元素の総量中に占めるFe量は50原子%以上にすることが好ましい。
【0027】
本発明に係わる磁性材料は、酸化物などの不可避的不純物を含有することを許容する。
【0028】
(2)磁性材料の製造方法
(2−1)まず、所定量のR1、R2、Mの各元素および必要に応じて前記M元素の一部を置換するT元素を含有するインゴットをアーク溶解または高周波溶解にて調製する。このインゴットを小片に切り出し、所定量の硼素(B)とともに高周波誘導加熱等により溶融した後、溶湯を高速で回転する単ロール上に噴出して急冷薄帯を製造する。インゴット中に予め硼素を含有させ、この溶湯から急冷薄帯を製造することも可能である。
【0029】
前記溶湯の温度は、高くし過ぎるとR2 Fe14B相が急冷薄帯中に生成する恐れがある。このため、前記溶湯の温度は900℃〜1500℃にすることが好ましい。
【0030】
前記液体急冷法としては、単ロール法のほかに双ロール法、回転ディスク法、ガスアトマイズ法などの手段を用いてもよい。
【0031】
(2−2)所定量のR1、R2、B、Mの各元素および必要に応じて前記M元素の一部を置換するT元素の各原料粉末の混合体に機械的エネルギーを付与し、固相反応により合金化させるメカニカルアロイング法またメカニカルグラインディング法により磁性材料を製造する。
【0032】
なお、前記磁性材料の製造方法において、急冷工程および固相反応工程をAr、Heなどの不活性ガス雰囲気で行うことが望ましい。このような雰囲気で急冷または固相反応させることによって、酸化による磁気特性の劣化が防止された磁性材料を製造することが可能になる。
【0033】
前記方法で得られた磁性材料は、必要に応じてAr、Heなどの不活性ガス雰囲気中または真空中、300〜1000℃で0.1〜10時間の熱処理が施されることを許容する。このような熱処理を施すことにより、保磁力等の磁気特性を向上させたりすることが可能になる。
【0034】
(3)A元素としてNを配合した磁性材料の製造方法
まず、前記(2−1)、(2−2)の方法で得られた合金材料をボールミル、ブラウンミル、スタンプミル、ジェットミル等によって平均粒径数μm〜数100μmに粉砕し、この合金粉末を窒素ガス雰囲気中で熱処理(窒化処理)することにより磁性材料を製造する。ただし、前記(2)の方法のようにメカニカルアロイング法またはメカニカルグラインディング法で製造された合金材料は粉末状態であるため前記粉砕工程を省略することも可能である。
【0035】
前記窒化処理が施される合金粉末の原料として前記(1)の液体急冷法で得られる合金材料(薄帯)を用いる場合には、急冷直後の保磁力(iHc)が56kA/m(700 Oe)以下、より好ましくは20kA/m(250 Oe)以下であるか、または厚さが30μm以下の薄帯を用いることが望ましい。前者の薄帯は、例えば液体急冷法として単ロール法を採用した場合、前記ロールの回転速度を高めることにより得られる。後者の薄帯は、例えば液体急冷法として単ロール法を採用した場合、溶湯を噴射するノズルと単ロールとのギャップを調整することにより得られる。このような薄帯を粉砕して得られた合金粉末を窒化処理することにより残留磁束密度がさらに向上された磁性材料を得ることが可能になる。
【0036】
前記窒化処理は、0.001〜100気圧の窒素ガス雰囲気中、200〜700℃の温度下で行うことが好ましい。このような圧力および温度下での窒化処理は、0.1〜300時間行えばよい。
【0037】
特に、窒化処理時の窒素圧力をp(気圧)、窒化処理温度をT(℃)とした時、pが2気圧以上で、かつ2p+400≦T≦2p+420の関係を満たすことが好ましい。
【0038】
すなわち、本発明者らは前記合金粉末を窒化処理する際、窒素圧力と窒素吸収開始温度との間に図1に示す関係があることを見出した。ここで、窒素吸収開始温度は、窒素含有ガス中で室温より昇温した場合に窒素吸収が起こる温度とする。α−Fe相が磁性材料中に析出し始める温度は、前記窒素吸収開始温度とほぼ等しいため、窒素圧力を高めた場合、窒素圧力が低い場合に比較して高温で窒化処理を行ってもα−Fe相の析出を少なくすることが可能になる。したがって、前記条件で窒化処理を行うことにより過剰のα−Fe相の析出を抑制しつつ、前記合金粉末内部への窒素の拡散が容易になり、磁気特性が良好に磁性材料を得ることが可能になる。
【0039】
ただし、窒素圧力が2気圧以上の条件でその温度をT<2p+400にすると、窒化処理を行っても単位時間当りの窒素吸収量が少なく、窒化処理時間が長くなってコストの増大を招く恐れがある。一方、窒素圧力が2気圧以上の条件でその温度をT>2p+420にすると、窒素圧力を高めてもα−Fe相の析出が多くなって、磁性材料の磁気特性を劣化させる恐れがある。
【0040】
前記窒化処理の雰囲気は、窒素ガスに代えてアンモニア等の窒素化合物ガスを用いてもよい。このアンモニアの使用により、窒化反応速度を高めることが可能になる。
【0041】
前記窒化処理の前工程として0.001〜100気圧の水素ガス雰囲気中、100〜700℃の温度下で熱処理を行うか、または窒素ガスに水素を混合したガスを用いることにより、高効率の窒化を行うことが可能になる。
【0042】
前記窒化処理においては、窒素を含まない別のガスを混合することも可能であるが、酸素を混合する場合には熱処理中の酸化物生成による磁気特性劣化を避けるために、酸素分圧を0.02気圧以下にすることが望ましい。
【0043】
なお、前記合金粉末の調製過程においてRN(Rは前述したR1およびR2からの選ばれる少なくとも1種)等の窒素化合物を原料として用い、固相反応により調製することによって前記A元素として窒素が配合された磁性材料を製造することも可能である。
【0044】
(4)A元素としてCを配合した磁性材料の製造方法
まず、前記(2−1)、(2−2)の方法で得られた合金材料をボールミル、ブラウンミル、スタンプミル、ジェットミル等によって平均粒径数μm〜数100μmに粉砕し、この合金粉末を例えばメタン等の炭素含有ガスの雰囲気中で熱処理することにより炭素が取り込まれた磁性材料を製造する。ただし、前記(2)の方法のようにメカニカルアロイング法またはメカニカルグラインディング法で製造された合金材料は粉末状態であるため前記粉砕工程を省略することも可能である。
【0045】
前記熱処理が施される合金粉末の原料として前記(1)の液体急冷法で得られる合金材料(薄帯)を用いる場合には、急冷直後の保磁力(iHc)が56kA/m(700 Oe)以下、より好ましくは20kA/m(250 Oe)以下であるか、もしくは厚さが30μm以下の薄帯を用いることが望ましい。このような薄帯を粉砕して得られた合金粉末を炭素含有ガスの雰囲気中で熱処理することにより残留磁束密度がさらに向上された磁性材料を得ることが可能になる。
【0046】
前記熱処理は、0.001〜100気圧の炭素含有ガスの雰囲気中、200〜700℃の温度下で行うことが好ましい。このような圧力および温度下での熱処理は、0.1〜300時間行えばよい。
【0047】
A元素としてCを配合した磁性材料は、前記メタンのような炭素含有ガスを用いる他に、合金の調製段階で炭素を添加することにより製造することが可能である。
【0048】
なお、A元素としてリンを配合した磁性材料は、合金の調製段階でリンを添加することにより製造することが可能である。
【0049】
(5)永久磁石の製造方法
永久磁石を製造する場合には、通常、前記磁性材料を粉砕した合金粉末を用いる。ただし、前記磁性材料の製造工程において既に粉砕が行われている場合にはこれを省略することが可能である。このような合金粉末を用いて下記に示すような方法で永久磁石を製造する。
【0050】
(5−1)前記合金粉末をバインダと混合し、圧縮成形することによりボンド磁石を製造する。
【0051】
前記合金粉末としては、粒径2.8μm以下の微細な粉末の含有量が5体積%以下、より好ましくは2体積%以下であるものを用いることが望ましい。このような微細な合金粉末は、比表面積が大きいために酸化され易く、かつ固気反応によりα−Feを生成し易い。このため、前記微細な合金粉末を含まない合金粉末を用いることによって、磁気特性がより向上されたボンド磁石を得ることが可能になる。
【0052】
前記合金粉末中の微細な粉末を除去するには、例えば前記合金粉末を気流分散機を用いて分級する方法、または前記合金粉末を溶媒中に分散させ、浮遊粒子を除去する方法等を採用することができる。
【0053】
前記バインダは、例えばエポキシ樹脂、ナイロン等の合成樹脂を用いることができる。前記合成樹脂としてエポキシ樹脂のような熱硬化性樹脂を用いる場合には、圧縮成形後、100〜200℃の温度でキュア処理を施すことが好ましい。前記合成樹脂としてナイロンのような熱可塑性樹脂を用いる場合には、射出成形法を用いることが望ましい。
【0054】
前記圧縮成形工程において、磁場を印加して合金粉末の結晶方位を揃えることにより、高磁束密度を有するボンド磁石を得ることが可能になる。
【0055】
前記ボンド磁石において、R2 Fe14B相(ただし、RはYを含む希土類元素から選ばれる少なくとも1つの元素を示す)を主相とする磁性材料粉末を含むことを許容する。
【0056】
前記一般式R1x R2y Bz Au M100-x-y-z-u (u=0)の合金粉末を窒化処理する際、粉末内部まで十分かつ均一に窒化するためには粉末粒径は小さい、例えば50μm以下、更には30μm以下程度、であることが好ましい。ただし、前述したように比表面積を大きくする粒径2.8μm以下の微細な粉末の含有量が5体積%以下である合金粉末を用いることが好ましい。しかしながら、このような50μm以下の微細な粉末を用いてボンド磁石を製造すると、充填率を上げることが困難になる。その結果、ボンド磁石の磁気特性を向上することが困難になる。
【0057】
一方、前記R2 Fe14B系の磁性材料は余り細かく粉砕すると磁気特性が劣化する。したがって、比較的大きい粒径、例えば50μm以上程度の粒径を有するR2 Fe14B系の粉末と、それより粒径の小さい前記一般式R1x R2y Bz Au M100-x-y-z-u の粉末とを混合して用いることにより、充填率を向上することができ、結果として磁気特性の優れたボンド磁石を得ることができる。
【0058】
前記一般式R1x R2y Bz Au M100-x-y-z-u にて表される合金粉末(A)と前記R2 Fe14B相を主相とする合金粉末(B)の混合比率は、重量割合でA/Bが0.1〜10であること好ましい。前記A/Bを0.1未満にすると、ボンド磁石中に占める残留磁束密度のような磁気特性の優れた合金粉末(A)の量が低下して磁気特性を十分に高めることが困難になる。一方、前記A/Bが10を越えると、ボンド磁石の最密充填性を改善することが困難になる。
【0059】
(5−2)前記合金粉末を低融点金属または低融点合金と混合した後、圧縮成形することによりメタルボンド磁石を製造する。
【0060】
前記低融点金属としては、例えばAl、Pb、Sn、Zn、Cu、Mgなどの金属を挙げることができ、前記合金は前記金属の合金を用いることができる。
【0061】
前記圧縮成形工程において、磁場を印加して前記合金粉末の結晶方位を揃えることにより、高磁束密度を有するメタルボンド磁石を得ることが可能になる。
【0062】
(5−3)前記合金粉末をホットプレスまたは熱間静水圧プレス(HIP)により高密度の成形体として一体化することにより永久磁石を製造する。
【0063】
前記加圧工程において、磁場を印加して前記合金粉末結晶方位を揃えることにより、高磁束密度を有する永久磁石を製造できる。
【0064】
前記加圧工程後に300〜700℃の温度で加圧しながら塑性変形加工を施すことにより、前記合金粉末が磁化容易軸方向に配向した永久磁石を製造することが可能になる。
【0065】
(5−4)前記合金粉末を焼結することにより永久磁石を製造する。
【0066】
【実施例】
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。
【0067】
(実施例1)
まず、高純度のSm、Zr、Co、Fe原料を、Ar雰囲気中でアーク溶解してインゴットを調製した。インゴットの組成は、Sm7.5原子%、Zr2.5原子%、Co27原子%、残部をFeとした。このインゴットを20g程度の小片に切り出し、60mg程度のBとともに石英製のノズルに装填し、アルゴンガス雰囲気中で高周波誘導加熱により溶融した後、溶湯を周速40m/sで回転する銅製の単ロール上に噴出して合金薄帯を作製した。噴出する際の温度は、1300℃とした。ICPによる組成分解の結果、前記合金薄帯中には1.88原子%のBが含有され、Sm7.35Zr2.45Co26.5B1.88Febal の組成を有するものであった。つづいて、前記合金薄帯を石英管に真空封入し、720℃で15分間熱処理を施した。
【0068】
前記熱処理後の合金薄帯における生成相をX線回折にて調べた。その結果、回折パターン上、微小なα−Feの回折ピークの他はすべての回折ピークが六方晶系のTbCu7 型結晶構造にて指数付けされ、TbCu7 相が主相をなすことが確認された。また、X線回折の結果より、TbCu7 相の格子定数はa=0.4853nm、c=0.4184nmと評価でき、格子定数比c/aは0.8621であることがわかった。
【0069】
前記熱処理後の合金薄帯について、乳鉢を用いて粒径100μm以下に粉砕し、この磁性材料粉末にエポキシ樹脂を2重量%添加し混合した後、8000kg/cm2 の圧力で圧縮成型し、さらに150℃の温度で2.5時間キュア処理を施することによりボンド磁石を製造した。
【0070】
得られたボンド磁石の室温における磁気特性を測定した結果、残留磁束密度、保磁力及び最大エネルギー積はそれぞれ0.75T、210kA/m、64kJ/m3 であった。
【0071】
(実施例2)
前記実施例1の合金薄帯を石英管に真空封入し、720℃で15分間熱処理を施した。熱処理材について、乳鉢を用いて粒径32μm以下に粉砕した後、1気圧の窒素ガス雰囲気中、440℃で65時間熱処理(窒化処理)を施して磁性材料粉末を合成した。この磁性材料粉末の組成は、Sm6.76Zr2.25Co24.35 B1.70N8.12Febal であった。
【0072】
前記磁性材料粉末における生成相をX線回折にて測定することにより図2に示すX線回折パターンを得た。図2に示すように、回折パターン上、微小なα−Feの回折ピークの他はすべての回折ピークが六方晶系のTbCu7 型結晶構造にて指数付けされ、TbCu7 相が主相をなすことが確認された。また、X線回折の結果より、TbCu7 相の格子定数はa=0.4927nm、c=0.4255nmと評価でき、格子定数比c/aは0.8636であることがわかった。
【0073】
次いで、前記磁性材料粉末をエタノール中で浮遊させ、浮遊物を除去することにより粒径3.8μm以下の微細な粉末を5体積%以下まで除去した。このような微粉除去後の磁性材料粉末にエポキシ樹脂を2重量%添加し混合した後、8000kg/cm2 の圧力で圧縮成型し、その後150℃の温度で2.5時間キュア処理を施したボンド磁石を製造した。
【0074】
得られたボンド磁石の室温における磁気特性を測定した結果、残留磁束密度、保磁力及び最大エネルギー積はそれぞれ0.75T、560kA/m、81kJ/m3 であった。
【0075】
(実施例3〜10)
まず、高純度のSm、Nb、Pr、Dy、Zr、Hf、V、Ni、Cr、Al、Ga、Mo、W、Si、Co、Feの各原料をAr雰囲気中でアーク溶解して8種のインゴットを作製した。つづいて、これらのインゴットの小片を硼素(B)とともに石英製のノズルにそれぞれ装填し、アルゴンガス雰囲気中で高周波誘導加熱により溶融した後、溶湯を周速40m/sで回転する銅製の単ロール上に噴出して8種の合金薄帯を作製した。これらの合金薄帯を石英管に真空封入し、720℃で15分間熱処理を施し、さらに乳鉢を用いて粒径32μm以下に粉砕した後、1気圧の窒素ガス雰囲気中、440℃で65時間熱処理(窒化処理)をそれぞれ施することにより下記表1に示す組成の8種の磁性材料粉末を合成した。
【0076】
前記各磁性材料粉末は、X線回折の結果、全てTbCu7 相が主相をなすことが確認され、その格子定数比c/aは0.854〜0.876の範囲であることがわかった。
【0077】
次いで、前記磁性材料粉末を用いて前記実施例2と同様な方法により8種のボンド磁石を製造した。
【0078】
得られた各ボンド磁石の室温における残留磁束密度、保磁力、最大エネルギー積を調べた。これらの結果を下記表1に併記した。
【0079】
【表1】
【0080】
前記表1から明らかなように実施例3〜10のボンド磁石は、残留磁束密度、保磁力、最大エネルギー積が大きく、優れた磁気特性を示すことがわかる。
【0081】
(比較例1)
まず、高純度のSm、Zr、Fe、Coの各原料を所定量調合し、実施例1と同様な条件で合金薄帯を作製し、真空中で熱処理した後、実施例2と同様の方法で窒化処理を施して磁性材料粉末を製造した。なお、インゴットの組成はSm7.5原子%、Zr2.5原子%、Co27原子%、残部をFeとした。またBの添加量は14原子%となるように調整した。
【0082】
得られた磁性材料粉末のX線回折を行なった結果、TbCu7 相、R2 Fe14B相及びα−Fe相の生成が確認された。また、それぞれの相のメインピークの回折強度比は、TbCu7 相:R2 Fe14B相:α−Fe相=19:33:48であった。
【0083】
次いで、前記磁性材料粉末を用いて実施例1と同様にしてボンド磁石を製造した。得られたボンド磁石の室温における残留磁束密度、保磁力、最大エネルギー積は、それぞれ0.12T、32kA/m、1.0kJ/m3 と低い磁気特性であった。これは、磁性材料中の硼素(B)の配合量が本発明の範囲(10原子%以下)を越え、前述した粉末X線回折の結果からα−Fe相およびR2 Fe14B相の析出が著しいことに起因するものと考えられる。
【0084】
(比較例2)
高純度のSm、Zr、Fe、Coの各原料を所定量調合し、実施例1と同様な条件で合金薄帯を作製し、真空中で熱処理した後、実施例2と同様の方法で窒化処理を施して磁性材料粉末を製造した。なお、インゴットの組成はSm7.5原子%、Zr2.5原子%、Co27原子%、残部がFeであり、Bは添加されていなかった。
【0085】
得られた磁性材料粉末について、粉末のX線回折を行なった結果、実施例1と同様にTbCu7 相が主相をなすことが確認され、TbCu7 相の格子定数比c/aは0.861であることがわかった。
【0086】
次いで、前記磁性材料粉末を用いて実施例1と同様にしてボンド磁石を製造した。得られたボンド磁石の室温における残留磁束密度、保磁力、最大エネルギー積は、それぞれ0.60T、550kA/m、57kJ/m3 であり、実施例2と比較して磁気特性が劣る。これは、Bの添加を行わなかったことにより、残留磁束密度が実施例2より小さく、これに起因して最大エネルギー積も実施例1より低下したものと推測される。
【0087】
(実施例11−1〜11−3)
まず、高純度のSm、Zr、Co、Feの各原料を、Ar雰囲気中でアーク溶解してインゴットを調製した。なお、インゴットの組成はSm7.5原子%、Zr2.5原子%、Co27.0原子%、残部がFeであった。このインゴットを所定量のBとともに石英製のノズルに装填し、アルゴンガス雰囲気中で高周波誘導加熱により溶融した後、溶湯を周速40m/sで回転する直径300mmの銅製の単ロール上に噴出して合金薄帯を作製した。噴出する際の温度は、1350℃とした。ICPによる組成分析の結果、前記合金薄帯中には1.9原子%のBが含有され、Sm7.4 Zr2.4 Co29.8B1.9 Febal の組成を有するものであった。得られた合金薄帯の保磁力を振動試験型磁力計(VSM)を用いて測定した。その結果、保磁力は12〜68kA/mであった。
【0088】
次いで、保磁力が12kA/m、36kA/mおよび68kA/mの合金薄帯を選び、これら合金薄帯をそれぞれ不活性雰囲気(Ar;0.9気圧)中、700℃で30分間熱処理を施した。つづいて、これら合金薄帯をボールミルにより平均粒径20μm前後にそれぞれ粉砕した後、それぞれ1気圧の窒素ガス雰囲気中、450℃で50時間熱処理(窒化処理)を施することにより下記表2に示す組成の3種の磁性材料粉末を合成した。
【0089】
前記各磁性材料粉末は、X線回折の結果、全てTbCu7 相が主相をなすことが確認され、その格子定数比c/aは0.854〜0.876の範囲であることがわかった。
【0090】
前記各磁性材料粉末について、振動試験型磁力計(VSM)を用いて磁気特性(残留磁束密度、最大エネルギー積)を調べた。なお、これらの磁気特性は磁性材料粉末の密度を7.74g/cm3 として計算し、反磁界係数0.15として補正した結果を下記表2に示す。
【0091】
(実施例12〜15)
まず、高純度のSm、Nb、Pr、Dy、Zr、Hf、Mn、Ni、Cr、Al、Ga、Mo、W、Si、Nb、Co、Feの各原料をAr雰囲気中でアーク溶解した後、鋳型に注入して4種のインゴットを作製した。これらのインゴットを所定量のBとともに石英製のノズルに装填し、アルゴンガス雰囲気中で高周波誘導加熱により溶融した後、溶湯を周速40m/sで回転する直径300mmの銅製の単ロール上に噴出して合金薄帯を作製した。前記各溶湯を噴出する際の温度は、1320℃とした。ICPによる組成分析の結果、前記各合金薄帯中には1.1原子%、1.6原子%、0.5原子%、1.7原子%のBがそれぞれ含有され、Sm7.9 Zr2.2 Ni3.3 Ga1.1 Co22.0B1.1 Febal.(実施例12)、Sm6.5 Nd1.1 Zr2.6 Mo2.2 Cr1.1 Si1.1 Co25.0B1.6 Febal.(実施例13)、Sm7.4 Pr1.1 Zr1.6 Hf0.5 W0.5 Al0.2 C2.2 Co33.9B0.5 Febal.(実施例14)、Sm7.2 Nd0.6 Dy2.2 Zr2.7 Mn1.1 Nb1.1 Co26.0B1.7 Febal.(実施例15)の組成を有するものであった。得られた各合金薄帯の保磁力を振動試験型磁力計(VSM)を用いて測定した。その結果、実施例12〜15の合金薄帯の保磁力はそれぞれ20kA/m、33kA/m、29kA/m、22kA/mであった。
【0092】
次いで、前記各合金薄帯をそれぞれ不活性雰囲気(Ar;0.9気圧)中、700℃で30分間熱処理を施した。つづいて、これら合金薄帯をボールミルにより平均粒径20μm前後にそれぞれ粉砕した。ひきつづき、実施例12、13、14の合金粉末をそれぞれ1気圧の窒素ガス雰囲気中、450℃で50時間熱処理(窒化処理)を施することにより下記表2に示す組成の3種の磁性材料粉末を合成した。また、実施例15の合金粉末を0.02気圧のアンモニアガスおよび1気圧の窒素ガスの雰囲気中、350℃で10時間熱処理を施することにより下記表2に示す組成の磁性材料粉末を合成した。
【0093】
前記各磁性材料粉末は、X線回折の結果、全てTbCu7 相が主相をなすことが確認され、その格子定数比c/aは0.854〜0.876の範囲であることがわかった。
【0094】
前記各磁性材料粉末について、振動試験型磁力計(VSM)を用いて磁気特性(残留磁束密度、最大エネルギー積)を調べた。なお、これらの磁気特性は磁性材料粉末の密度を7.74g/cm3 として計算し、反磁界係数0.15として補正した結果を下記表2に示す。
【0095】
【表2】
【0096】
前記表2から明らかなように急冷直後の保磁力が56kA/m以下の合金薄帯(12kA/m、36kA/m)を用いて窒化処理することにより得られた実施例11−1、11−2の磁性材料粉末は、いずれも最大エネルギー積が急冷直後の保磁力が56kA/mを越える合金薄帯(68kA/m)を用いて窒化処理することにより得られた実施例11−3の磁性材料粉末に比べて大きいことがわかる。
【0097】
また、急冷直後の保磁力が56kA/m以下の合金薄帯を用いて窒化処理することにより得られた実施例12〜15の磁性材料粉末は、いずれも磁気特性が優れていることがわかる。
【0098】
なお、実施例11−1〜11−3の合金薄帯の作製において、保磁力が56kA/mを越えるものの割合が30%弱であったが、溶湯が噴射される銅ロールの回転速度(周速度)を42m/secにすることにより保磁力が56kA/mを越えるものの割合を5%未満にすることができ、特に得られた合金薄帯を分別することなくそのまま加熱処理、粉砕、窒化処理等を施すことにより実施例11−1、11−2と同様な特性を有する磁性材料粉末を得ることができる。
【0099】
(実施例16−1、16−2)
まず、高純度のSm、Zr、Co、Feの各原料を、Ar雰囲気中でアーク溶解してインゴットを調製した。なお、インゴットの組成はSm7.5原子%、Zr2.5原子%、Co27原子%、残部がFeであった。このインゴットを所定量のBとともに石英製のノズルに装填し、アルゴンガス雰囲気中で高周波誘導加熱により溶融した後、溶湯を周速40m/sで回転する直径300mmの銅製の単ロール上に噴出して合金薄帯を作製した。噴出する際の温度は、1350℃とした。ICPによる組成分析の結果、前記合金薄帯中には1.9原子%のBが含有され、Sm7.4 Zr2.4 Co29.8B1.9 Febal の組成を有するものであった。得られた複数の合金薄帯の厚さをノギスを用いて測定した。その結果、前記各合金薄帯の厚さは5〜45μmであった。
【0100】
次いで、厚さが30μm以下の合金薄帯および厚さが30μmを越える合金薄帯をそれぞれ選び、これら合金薄帯をそれぞれ不活性雰囲気(Ar;0.9気圧)中、700℃で30分間熱処理を施した。つづいて、これら合金薄帯をボールミルにより平均粒径20μm前後にそれぞれ粉砕した後、それぞれ1気圧の窒素ガス雰囲気中、430℃で100時間熱処理(窒化処理)を施することにより下記表3に示す組成の2種の磁性材料粉末を合成した。
【0101】
前記各磁性材料粉末は、X線回折の結果、全てTbCu7 相が主相をなすことが確認され、その格子定数比c/aは0.854〜0.876の範囲であることがわかった。
【0102】
前記各磁性材料粉末について、振動試験型磁力計(VSM)を用いて磁気特性(残留磁束密度、最大エネルギー積)を調べた。なお、これらの磁気特性は磁性材料粉末の密度を7.74g/cm3 として計算し、反磁界係数0.15として補正した結果を下記表3に示す。
【0103】
(実施例17〜20)
まず、高純度のSm、Nb、Pr、Dy、Zr、Hf、Mn、Ni、Cr、Al、Ga、Mo、W、Si、Nb、Co、Feの各原料をAr雰囲気中でアーク溶解した後、鋳型に注入して4種のインゴットを作製した。これらのインゴットを所定量のBとともに石英製のノズルに装填し、アルゴンガス雰囲気中で高周波誘導加熱により溶融した後、溶湯を周速40m/sで回転する直径300mmの銅製の単ロール上に噴出して合金薄帯を作製した。前記各溶湯を噴出する際の温度は、1340℃とした。ICPによる組成分析の結果、前記各合金薄帯中には1.1原子%、1.6原子%、0.5原子%、1.7原子%のBがそれぞれ含有され、Sm7.9 Zr2.2 Ni3.3 Ga1.1 Co22.0B1.1 Febal.(実施例17)、Sm6.5 Nd1.1 Zr2.6 Mo2.2 Cr1.1 Si1.1 Co25.0B1.6 Febal.(実施例18)、Sm7.4 Pr1.1 Zr1.6 Hf0.5 W0.5 Al0.2 Co33.9B0.5 C2.2 Febal.(実施例19)、Sm7.2 Nd0.6 Dy2.2 Zr2.7 Mn1.1 Nb1.1 Co26.0B1.7 Febal.(実施例20)の組成を有するものであった。得られた各合金薄帯の厚さをノギスを用いて測定した。その結果、前記各合金薄帯は下記表3に示す厚さを有していた。
【0104】
次いで、前記各合金薄帯をそれぞれ不活性雰囲気(Ar;0.9気圧)中、700℃で30分間熱処理を施した。つづいて、これら合金薄帯をボールミルにより平均粒径20μm前後にそれぞれ粉砕した。ひきつづき、実施例17、18、19の合金粉末をそれぞれ1気圧の窒素ガス雰囲気中、430℃で100時間熱処理(窒化処理)を施することにより下記表3に示す組成の3種の磁性材料粉末を合成した。また、実施例20の合金粉末を0.02気圧のアンモニアガスおよび1気圧の窒素ガスの雰囲気中、350℃で10時間熱処理を施することにより下記表3に示す組成の磁性材料粉末を合成した。
【0105】
前記各磁性材料粉末は、X線回折の結果、全てTbCu7 相が主相をなすことが確認され、その格子定数比c/aは0.854〜0.876の範囲であることがわかった。
【0106】
前記各磁性材料粉末について、振動試験型磁力計(VSM)を用いて磁気特性(残留磁束密度、最大エネルギー積)を調べた。なお、これらの磁気特性は磁性材料粉末の密度を7.74g/cm3 として計算し、反磁界係数0.15として補正した結果を下記表3に示す。
【0107】
【表3】
【0108】
前記表3から明らかなように急冷直後の厚さが30μm以下の合金薄帯(厚さ15〜20μm)を用いて窒化処理することにより得られた実施例16−1の磁性材料粉末は、最大エネルギー積が急冷直後の厚さが30μmを越える合金薄帯(厚さ32〜36μm)を用いて窒化処理することにより得られた実施例16−2の磁性材料粉末に比べて大きいことがわかる。
【0109】
また、急冷直後の厚さが30μm以下の合金薄帯を用いて窒化処理することにより得られた実施例17〜20の磁性材料粉末は、いずれも磁気特性が優れていることがわかる。
【0110】
(実施例21〜30)
まず、高純度のSm、Zr、Co、B、Feの各原料を、Ar雰囲気中でアーク溶解してインゴットを調製した。なお、インゴットの組成はSm7.7原子%、Zr2.5原子%、Co27原子%、B2.2原子%、残部がFeであった。このインゴットを石英製のノズルに装填し、アルゴンガス雰囲気中で高周波誘導加熱により溶融した後、溶湯を周速45m/sで回転する直径300mmの銅製の単ロール上に噴出して合金薄帯を作製した。噴出する際の温度は、1360℃とした。
【0111】
次いで、前記合金薄帯を石英管に真空封入し、700℃で20分間熱処理を施した。この熱処理合金薄帯をボールミルを用いて平均粒径30μm以下に粉砕した。この合金粉末についてX線回折を行った。その結果、TbCu7 相が主相をなすことが確認された。また、X線回折の結果より、TbCu7 相の格子定数はa=0.486nm、c=0.419nmと評価でき、格子定数比c/aは0.862であることがわかった。
【0112】
次いで、前記合金粉末について下記表4に示す条件で窒化処理をそれぞれ施することにより10種の磁性材料粉末を合成した。
【0113】
前記各磁性材料粉末について、α−Fe相の割合および振動試験型磁力計(VSM)を用いて最大エネルギー積を調べた。なお、α−Fe相の割合はX線回折から求めたα−Fe相の主反射強度(IFe)およびTbCu7 相の主反射強度 (ITb)を下記式に代入することにより算出した主反射強度比(I)により評価した。
【0114】
I(%)=[IFe/(IFe+ITb)]×100
また、前記最大エネルギー積は磁性材料粉末の密度を7.74g/cm3 として計算し、反磁界係数0.15として補正した。これらの結果を下記表4に示す。
【0115】
【表4】
【0116】
前記表4から明らかなように窒化処理時の窒素圧力をp(気圧)、窒化処理温度をT(℃)とした時、pが2気圧以上で、かつ2p+400≦T≦2p+420の関係を満たす条件で窒化処理することにより得られた実施例21〜28の磁性材料粉末は、最大エネルギー積が前記条件から外れる窒化処理を施すことにより得られた実施例29、30の磁性材料粉末に比べて高く、磁気特性がより向上されることがわかる。
【0117】
(実施例31−1、31−2)
まず、高純度のSm、Zr、Co、B、Feの各原料を、Ar雰囲気中でアーク溶解してインゴットを調製した。なお、インゴットの組成はSm7.7原子%、Zr2.5原子%、Co27原子%、B2.2原子%、残部がFeであった。このインゴットを石英製のノズルに装填し、アルゴンガス雰囲気中で高周波誘導加熱により溶融した後、溶湯を周速45m/sで回転する直径300mmの銅製の単ロール上に噴出して合金薄帯を作製した。噴出する際の温度は、1300℃とした。
【0118】
次いで、前記合金薄帯を石英管に真空封入し、700℃で20分間熱処理を施した。つづいて、この熱処理合金薄帯をボールミルを用いて粉砕し、分級することにより下記表5に示す粒度分布を有する合金粉末(実施例31−1)および粒径22μm以下の合金粉末(実施例31−2)を得た。実施例31−1の合金粉末は、下記表5に示すように粒径2.8μm以下の微細粉末の体積比率が0.93%であることが確認された。
【0119】
【表5】
【0120】
次いで、前記各合金粉末を10気圧の窒素ガス雰囲気中、440℃で65時間熱処理(窒化処理)を施することにより下記表6に示す組成の2種の磁性材料粉末を合成した。得られた各磁性材料粉末についてX線回折を行った。その結果、α−Feの回折ピークのほかはすべて回折ピークがTbCu7 型結晶構造で指数付けられることが確認された。また、X線回折の結果より、TbCu7 相の格子定数はa=0.4930nm、c=0.4252nmと評価でき、格子定数比c/aは0.8625であることがわかった。さらに、前記各磁性材料粉末について粒度分布測定を行った。その結果、実施例31−1の磁性材料粉末は粒径2.8μm以下の微細粉末の含有量が体積比率で1.08%、実施例31−2の磁性材料粉末の同粒径の微細粉末の含有量が体積比率で5.35%、であった。
【0121】
次いで、前記各磁性材料粉末にエポキシ樹脂を2重量%添加し混合した後、8000kg/cm2 の圧力で圧縮成型し、さらに150℃の温度で2.5時間キュア処理を施することにより2種のボンド磁石を製造した。
【0122】
得られた各ボンド磁石の室温における磁気特性(残留磁束密度、保磁力および最大エネルギー積)を測定した。その結果を下記表6に併記する。
【0123】
(実施例32〜36)
まず、高純度のSm、Nb、Pr、Er、Zr、Hf、Ni、V、Ga、Mo、W、Si、B、Co、Feの各粉末をAr雰囲気中でアーク溶解した後、鋳型に注入して5種のインゴットを作製した。これらのインゴットを石英製のノズルに装填し、アルゴンガス雰囲気中で高周波誘導加熱により溶融した後、溶湯を周速45m/sで回転する銅製の単ロール上に噴出して合金薄帯を作製した。前記各溶湯を噴出する際の温度は、1310℃とした。ICPによる組成分析の結果、前記各合金薄帯はSm6.3 Nd2.2 Zr2.2 Mo2.2 Si1.1 Co22.8B0.9 Febal.(実施例32)、Sm7.2 Pr1.1 Zr2.2 V2.2 W1.1 Ni3.2 Co17.2B0.9 Febal.(実施例33)、Sm8.2 Er1.1 Zr1.1 Hf1.1 Mo2.2 Ga1.1 Co20.7B0.9 Febal.(実施例34)、Sm6.6 Nd2.2 Zr2.2 Co15.2B1.4 C1.1 Febal.(実施例35)、Sm7.6 Nd1.1 Zr2.2 Co15.1B1.9 Febal.(実施例36)の組成を有するものであった。
【0124】
次いで、前記各合金薄帯をそれぞれ石英管に真空封入し、700℃で20分間熱処理を施した。つづいて、これら熱処理合金薄帯をボールミルを用いて粉砕して合金粉末を得た。
【0125】
次いで、前記各合金粉末を10気圧の窒素ガス雰囲気中、440℃で65時間熱処理(窒化処理)を施することにより下記表6に示す組成の5種の磁性材料粉末を合成した。得られた各磁性材料粉末についてX線回折を行った。その結果、α−Feの回折ピークのほかはすべて回折ピークがTbCu7 型結晶構造で指数付けられることが確認された。また、X線回折の結果より、格子定数比c/aは0.852〜0.873であることがわかった。さらに、前記各磁性材料粉末について粒度分布測定を行った。その結果、実施例32〜36の磁性材料粉末は粒径2.8μm以下の微細粉末の含有量がそれぞれ体積比率で1.01%、1.23%、2.06%、0.98%、0.92%、であった。
【0126】
次いで、前記各磁性材料粉末にエポキシ樹脂を2重量%添加し混合した後、8000kg/cm2 の圧力で圧縮成型し、さらに150℃の温度で2.5時間キュア処理を施することにより5種のボンド磁石を製造した。
【0127】
得られた各ボンド磁石の室温における磁気特性(残留磁束密度、保磁力および最大エネルギー積)を測定した。その結果を下記表6に併記する。
【0128】
【表6】
【0129】
前記表6から明らかなように粒径2.8μm以下の微細粉末の含有割合が5体積%以下の磁性材料粉末を用いて得られた実施例31−1のボンド磁石は、室温における残留磁束密度、保磁力および最大エネルギー積がいずれも同粒径の微細粉末の含有割合が5体積%を越える磁性材料粉末を用いて得られた実施例31−2のボンド磁石に比べて優れていることがわかる。
【0130】
また、粒径2.8μm以下の微細粉末の含有割合が5体積%以下の磁性材料粉末を用いて得られた実施例32〜36のボンド磁石は、室温における残留磁束密度、保磁力および最大エネルギー積が優れていることがわかる。
【0131】
(実施例37−1〜37−5)
まず、高純度のSm、Zr、Co、Fe原料を、Ar雰囲気中でアーク溶解してインゴットを調製した。インゴットの組成は、Sm7.5原子%、Zr2.5原子%、Co27原子%、残部をFeとした。このインゴットをBとともに石英製のノズルに装填し、アルゴンガス雰囲気中で高周波誘導加熱により溶融した後、溶湯を周速42m/sで回転する銅製の単ロール上に噴出して合金薄帯を作製した。噴出する際の温度は、1350℃とした。ICPによる組成分解の結果、前記合金薄帯中には2.16原子%のBが含有されていることがわかった。
【0132】
次いで、前記合金薄帯を石英管に真空封入し、720℃で15分間熱処理を施した。前記熱処理後の合金薄帯を乳鉢を用いて粒径30μm以下に粉砕した後、10気圧の窒素ガス雰囲気中、450℃で80時間熱処理(窒化処理)を施して磁性材料粉末を合成した。この磁性材料粉末の組成は、Sm6.88Zr2.29Co24.77 B1.97N9.00Febal であった。
【0133】
前記磁性材料粉末は、X線回折の結果より、微小なα−Feの回折ピークの他はすべての回折ピークが六方晶系のTbCu7 型結晶構造にて指数付けされ、TbCu7 相が主相をなすことが確認された。また、X線回折の結果より、TbCu7 相の格子定数はa=0.4925nm、c=0.4258nmと評価でき、格子定数比c/aは0.8646であることがわかった。
【0134】
ついで、前記TbCu7 型の磁性材料粉末と篩分けにより50μm以上の粒径のみからなるR2 Fe14B系の磁性材料粉末(GM社製商品名;MQP−Bパウダー)とを下記表7に示す割合で混合した5種の混合磁性材料粉末を調製し、これら混合磁性材料粉末にエポキシ樹脂をそれぞれ2重量%添加し混合した後、8000kg/cm2 の圧力で圧縮成型し、さらに150℃の温度で2.5時間キュア処理を施することにより5種のボンド磁石を製造した。
【0135】
得られた各ボンド磁石の嵩密度および室温における磁気特性(残留磁束密度、保磁力および最大エネルギー積)を測定した。その結果を下記表7に併記する。なお、下記表7中には前記TbCu7 型の磁性材料粉末のみを用いて製造したボンド磁石(実施例37−6)とR2 Fe14B系の磁性材料粉末のみを用いて製造したボンド磁石(比較例3)の嵩密度および室温における磁気特性を併記する。
【0136】
【表7】
【0137】
前記表7から明らかなようにTbCu7 型の磁性材料粉末とR2 Fe14B系の磁性材料粉末からなる混合磁性材料粉末を用いて製造した実施例37−1〜37−5のボンド磁石はTbCu7 型の磁性材料粉末を用いて製造した実施例37−6のボンド磁石に比べて充填密度が向上し、磁石の高性能化が図れたことがわかる。
【0138】
また、R2 Fe14B系の磁性材料粉末のみを用いて製造した比較例3のボンド磁石は腐食し易く、これに伴う磁気特性の劣化が顕著である。
【0139】
これに対し、TbCu7 型の磁性材料粉末とR2 Fe14B系の磁性材料粉末からなる混合磁性材料粉末を用いて製造した実施例37−1〜37−5のボンドは耐蝕性が向上される。例えば、湿度が90%、温度80℃の恒温恒湿槽で50hの耐蝕試験を行なった後の磁気特性の変化を調べた。TbCu7 型の磁性材料粉末を50体積%以上含むホンド磁石は、錆の発生は認められず優れた耐蝕性を示した。R2 Fe14B系の磁性材料粉末の比率が増えるにしたがって錆の発生が顕著になり、磁気特性の劣化も顕著となった。
【0140】
下記表8に前記表7中の実施例37−1〜37−3および比較例3の耐蝕試験の結果を示す。
【0141】
【表8】
【0142】
【0143】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば残留磁束密度が高い磁性材料を提供することができる。また、このような磁性材料を用いることにより、磁気特性の優れたボンド磁石のような永久磁石を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に用いられる合金粉末を窒化処理する際の窒素圧力と窒素吸収開始温度との関係を示す特性図。
【図2】実施例2の磁性材料粉末のX線回折パターンを示す特性図。
Claims (9)
- 一般式
R1x R2y Bz M100-x-y-z
ただし、R1は少なくとも一種の希土類元素(Yを含む)で、50原子%以上がSmである、R2はZrおよびHfから選ばれる少なくとも一種の元素、MはFe単独またはFeが50原子%以上のFe及びCoからなる元素、x、y及びzは原子%でそれぞれ2≦x、4≦x+y≦20、0.001≦z≦10を示す、にて表され、主相がTbCu7 型結晶構造を有することを特徴とする磁性材料。 - 前記TbCu7 型結晶構造の格子定数a、cの比であるc/aが0.847以上であることを特徴とする請求項1記載の磁性材料。
- 前記一般式中のzは、0.1≦z≦3であることを特徴とする請求項1または2記載の磁性材料。
- 前記一般式中のyは、0.1≦y≦10であることを特徴とする請求項1乃至3いずれか記載の磁性材料。
- 一般式
R1 x R2 y B z M 100-x-y-z
ただし、R1はYを含む希土類元素から選ばれる少なくとも1つの元素で、50原子%以上がSmである、R2はZrおよびHfから選ばれる少なくとも1つの元素、MはFe単独またはFeが50原子%以上のFe及びCoからなる元素、x、y、zはそれぞれ原子%でx≧2、4≦x+y≦20、0.001≦z≦10である、にて表され、主相がTbCu 7 型結晶構造を有する磁性材料粉末と、
バインダと
を含むことを特徴とするボンド磁石。 - 前記バインダは、合成樹脂からなることを特徴とする請求項5記載のボンド磁石。
- 前記磁性材料粉末は、粒径2.8μm以下の粉末の含有割合が5体積%以下であることを特徴とする請求項5または6記載のボンド磁石。
- R 2 Fe 14 B相(ただし、RはYを含む希土類元素から選ばれる少なくとも1つの元素を示す)を主相とする磁性材料粉末がさらに配合されることを特徴とする請求項5乃至7いずれか記載のボンド磁石。
- 前記一般式R1 x R2 y B z M 100-x-y-z の磁性材料粉末(A)と前記R 2 Fe 14 B相を主相とする磁性材料粉末(B)の混合比率は、重量割合でA/Bが0.1〜10であることを特徴とする請求項8記載のボンド磁石。
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