JP3787247B2 - セラミックシートの製法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はセラミックシートとその製法に関し、特に、固体電解質膜の如き平板状固体電解質型燃料電池の素材として使用したときにクラックや割れなどを生じ難く、表面平滑性が良好で品質安定性に優れたセラミックシートとその製法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
平板状固体電解質型燃料電池の構造は、固体電解質の両面にアノード電極とカソード電極を付けたセル、または、電極の表面に電解質と更に対電極を付けたセルを縦方向に多数積層したセルスタックが基本であり、このとき各セルは互いに近接して配置され、且つ燃料ガスと空気が混じり合わない様にセパレーター(インターコネクター)が各セル間に配置されると共に、電解質膜やセルの周縁部とセパレーターはシール・固定される。また、電池セルの内部にマニホールドがある場合は、その周縁部でもシール・固定される。
【0003】
このセパレーターは、一般的に比重の大きい耐熱合金やセラミックで構成されており、かなり肉厚なシート状であるため相当の重量を有している。また、上記燃料電池の構成素材として用いられるセラミックシートは、相対的に軽量且つ薄肉であることが望まれている。更に、固体電解質型燃料電池の作動温度は800〜1000℃程度と高温であるので、その構成素材には大きな積層荷重がかかると共に相当の熱ストレスを受ける。
【0004】
一方、ジルコニアシートの如きセラミックシートは硬質で曲げ方向の外力に対して脆弱であるので、固体電解質膜等の燃料電池用構成素材として使用されるセラミックシートの表面に凹凸やウネリ等があると、その個所に前記積層荷重や熱ストレスが集中してクラックや割れを起こし、発電性能が急激に低下してくる。
【0005】
そこで本発明者らは、燃料電池の固体電解質膜用等として用いられるセラミックシートの上記積載荷重や熱ストレスによるクラックや割れを低減し、燃料電池としての性能向上と寿命延長を期してかねてより研究を進めており、その研究の一環として、シートの反り量や最大ウネリ高さを所定値以下に抑えれば、上記クラックや割れの発生が可及的に抑えられることを確認し、先に提案した(特開平8−151270号、同8−51271号)。
【0006】
上記公開公報で提示したセラミックシートであれば、かなり大版のシートであっても相当の積層荷重と熱ストレスに耐えることから、燃料電池としての発電容量の大幅な増大が可能となり、燃料電池の工業的実用化に向けて極めて有効な技術として期待される。
【0007】
ところが本発明者らが更なる改良研究を進めるうち、下記の様な事実が次第に明らかになってきた。即ち前記公開公報に開示した反りやウネリの小さいセラミックシートであっても、積載荷重や熱ストレスの程度によってはクラックや割れを生じることがあり、その原因は、セラミックグリーンシートの表面に存在するディンプルが大きな影響を及ぼしていることが確認された。
【0008】
特に、セラミックシートを前記電解質膜などとして実用化するに当たっては、該シートを50枚、あるいは100枚程度以上重ね合わせて組付け燃料電池とされるが、該シートに大きなディンプルやウネリが存在すると、該シートを重ね合わせて組付けたときに該ディンプルやウネリの部分に局部的な内部応力が生じ、燃料電池の稼動時に積載荷重や熱ストレスを受けると当該個所にクラックや割れが発生し易くなる。なおディンプルとは、シート表面に基本的に単独で生じている凹部または凸部であり、波の如く連続的に生じているウネリとは発生原因が異なるので区別される。
【0009】
ところでセラミックシートの一般的な製法は、セラミック原料粉末と有機質バインダーおよび分散媒からなるスラリーを、ドクターブレード法、カレンダー法、押出し法等によってシート状に成形し、これを乾燥し分散媒を揮発させてグリーンシートを得、これを所定形状に打抜き加工してから焼成し、有機質バインダーを分解除去すると共にセラミック粉末を相互に焼結させる方法であり、グリーンシートは焼結過程で長さにして70〜90%程度、面積にして50〜80%程度に収縮する。従って、該焼結時にグリーンシート表面で有機質バインダーの分解除去速度が不均一になったり、あるいは焼結に伴う収縮がシート表面で不均一になると、得られるセラミックシート表面に大きなディンプルやウネリが生じる原因となり、これが製品欠陥になるものと考えられる。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、特に平板状固体電解質型燃料電池に用いられる構成素材の如く、多数枚積み重ねて組付けられた状態で大きな積層荷重や熱ストレスを受ける様なセラミックシートを対象として、大きな積層荷重や熱ストレスを受けたときでも、クラックや割れを生じ難いセラミックシートの製法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記セラミックシートを工業的に効率よく製造することのできる方法を特定するもので、セラミックグリーンシートを焼成してセラミックシートを製造する際に、
(1)気孔率が15〜85%である多孔質シートの間に、前記グリーンシートをその周縁がはみ出さない様に挟み込み、且つ当該多孔質シートとセラミックグリーンシートの間に粉末として澱粉質粉末のみを介在させて焼成し、あるいは
(2)前記グリーンシートの上に該グリーンシートの周縁がはみ出さない様に多孔質シートを載せ、且つ当該多孔質シートとセラミックグリーンシートの間に粉末として澱粉質粉末のみを介在させて焼成する
ところに要旨が存在する。
【0013】
この方法によって得られるセラミックシートは、シート表面のディンプルやウネリが極めて小さくなり、前述した様な応力の局部集中によるクラックや割れを生じ難いので、平板状固体電解質型燃料電池に用いられるセラミックシートとして極めて有用である。
【0014】
特に本発明では、グリーンシートの焼成を行なう際に、気孔率の特定された多孔質シートを使用し、有機質バインダーの熱分解に伴う分解ガスの放出を均一化すると共に、該多孔質シートとグリーンシートとの間に粉末を介在させて多孔質シートとグリーンシートの部分的な付着を防いだり、両シート間に円滑な滑りを与えたりすることにより、焼結時のグリーンシートの収縮に伴う移動をスムーズにし、該シート表面に局部的な引張力や圧縮力が作用するのを阻止することによって、ディンプルを可及的に低減し、あるいは更にウネリを可及的に小さくできる様にしたところに特徴を有している。
【0015】
そしてこうした多孔質シートの作用を有効に発揮させるには、多孔質シートとして気孔率が15〜85%、より好ましくは35〜80%の範囲のものを使用することが好ましく、また前記粉末の作用を有効に発揮させるには、平均粒子径が0.3〜100μm、より好ましくは2〜80μmの範囲のものを使用することが望ましい。また粉末としては、焼結完了時点までに焼失する有機質粉末であり、中でも特に好ましいのは、個々の粒子がほぼ球形で滑り付与効果の優れた澱粉質粉末である。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明者らは前述した様な解決課題の下で、特に平板状固体電解質型燃料電池の構成素材として用いられるセラミックシートについて、燃料電池として稼動する際に生じるクラックや割れを抑制し、燃料電池の性能向上を図ると共に寿命延長を増進すべく、色々の角度から研究を進めてきた。
【0017】
その結果、大きな積層荷重を受けるシートに生じるクラックや割れは、セラミックシート表面に存在するディンプル高さに大きく影響され、この高さを100μm以下に抑え、好ましくは更にウネリ高さも100μm以下に抑えてやれば、クラックや割れが可及的に抑えられることを確認し、上記本発明に想到したものである。
【0018】
これは、先に説明した如く燃料電池用として使用する際に多数積層で大きな積層荷重を受けるセラミックシート表面に大きなディンプルが存在すると、当該部位に応力が集中してクラックや割れに直結するためであり、この様なところから本発明では、特にシート表面の最大ディンプル高さを「100μm以下」と厳密に規定し、好ましくは更に、シート表面のウネリ高さを「100μm以下」に抑えることを規定している。そして、これら高さの規定により、多数枚の積層による積層荷重や熱ストレスを受けた時の応力集中によって生じるクラックや割れを可及的に抑えることができ、燃料電池の構成素材として用いたときに、その性能向上と寿命を大幅に増進することが可能となる。
【0019】
なお上記ディンプル高さやウネリ高さを「100μm以下」と定めたのは、実際の使用条件を加味した下記の実験条件で、シートに生じるクラックや割れの発生頻度を抑えることのできる要件として定めた。
【0020】
すなわち評価実験では、ディンプル高さやウネリ高さの異なる様々の供試シートについて、燃料電池の構成素材として用いた時に受ける通常の積層荷重である0.1〜0.5kg/cm2を負荷した状態で、室温から1000℃まで10時間で昇温し、1000℃で1時間保持してから室温にまで降温する操作を10回繰り返し、クラックおよび割れの発生頻度が少ないものを良好と評価し、ディンプル高さの許容限界を上記の様に定め、更には、ウネリ高さの好ましい許容限界についても上記の様に定めた。
【0021】
クラックや割れを抑えるうえでより好ましいシート表面のディンプル高さは80μm以下、更に好ましくは50μm以下、特に好ましくは20μm以下であり、また、好ましい最大ウネリ高さは80μm以下、更に好ましくは50μm以下、特に好ましくは20μm以下である。
【0022】
なお本発明で定める上記ディンプル高さは、レーザー光学式三次元形状測定装置を使用し、シート面にレーザー光を照射してその反射光を三次元形状解析することによって求めることができる。即ちレーザー光学式三次元形状測定装置とは、被測定対象となるセラミックシート面にレーザー光を照射してシート表面でフォーカスを結び、その反射光をフォトダイオード上に均等に結像させるとき、シート面が変位に対し像に不均等が生じると、即座にこれを解消する信号を発して対物レンズの焦点を常にシート面に合う様にレンズが制御される構造を備えた非接触式の微小三次元形状解析装置であり、その移動量を検出することによって、被測定対象となるシート面の凹凸を非接触的に検出することができる。その分解能は通常1μm以下、より好ましくは0.1μm以下のものが使用され、この様な装置を使用することによって、シート表面のディンプル高さを正確に検知できる。
【0023】
ところで、シート表面のディンプル高さが大きくなる原因は種々考えられるが、最大の原因は、焼成の不均一(バインダー成分の熱分解による分解ガス発生速度の不均一)、あるいは焼結の進行に伴う前記収縮時の多孔質シート面との滑りの不均一等が挙げられる。
【0024】
従って、ディンプル高さを抑えるには、焼結時における熱分解ガスの放出速度をシート全面で均一化すると共に、多孔質シートとの付着を防ぎ、或いは焼結に伴う収縮時の多孔質シート面との滑りを良くすることが重要となる。
【0025】
即ち本発明者らが実験によって確認したところでは、グリーンシートの焼成を行なう際に、気孔率が15〜85%、より好ましくは35〜80%の範囲であり、グリーンシートと同じもしくは大きい寸法の多孔質シートをグリーンシートに載せて、或いは挟み込んで行なえば、均熱効果および重し効果によりグリーンシート全面からの分解ガスの放出と焼結が均一に進行し、焼成時に生じるディンプル高さを小さくできるのである。
【0026】
但し、本発明で定めるレベルのディンプル高さ、あるいは更にウネリ高さを満たす平滑度のセラミックシートを確実に得るには、上記気孔率の特定された多孔質シートを使用するだけでは尚不十分であり、焼結時における多孔質シートとグリーンシート接触界面の滑りの良否によっては、ディンプル高さやウネリ高さが大きくなることが確認された。これは次の様に考えられる。
【0027】
即ちグリーンシートの焼成時にスペーサーとして介在される多孔質シートは既に焼成されたものであり、グリーンシートの焼結工程では殆ど収縮しないのに対し、グリーンシートは、前述の如く焼結の際に長さで70〜90%程度、面積率にして50〜80%程度に収縮するので、焼結過程では両シート面の間、特にシートの外周縁側には滑り方向のずれが生じる。この時、両シート面は殆ど密接しているので、焼結温度条件下では該シート面で局部的な接合を起こす恐れがあり、かかる接合が起こるとその部分で滑りが阻害される結果、当該部分のグリーンシート面に圧縮力が作用すると共に、その近辺には引張力が作用し、それら局部的な圧縮力や引張力によってグリーンシート素材の移動量が不均一になり、これがディンプルとなって現われるものと考えられる。あるいは、成形に用いられる有機バインダーや可塑剤の特性から、セラミックグリーンシートが熱により粘着性を発現するものである場合、焼成中に多孔質シートと付着を起こす恐れがあり、上記と同様にグリーンシートの移動量が不均一になり、これがディンプルとなって現われるものと考えられる。これら移動量の不均一は、グリーンシートにかかる荷重が大きいほど、またグリーンシートにかかる荷重が不均一なほど顕著に現われる。
【0028】
そこで、こうした局部的な接合によるディンプルの発生原因を解消すべく研究を進めた結果、該多孔質シートとグリーンシートの接触面に平均粒子径が0.3〜100μm程度の粉末を介在させてやれば、該粉末によって接合が阻止されると共にシート面間の滑りもよくなり、両シート接触面で前述した様な局部的な引張力や圧縮力を生じる現象が抑えられ、粉末自体の滑り促進作用、更には該粉末の介在によってシート面間の隙間増大による分解ガスの放散促進作用とも相俟って、ディンプルが可及的に抑えられ、更にはウネリも抑えられることが確認された。
【0029】
ここで用いられる粉末としては、平均粒子径が0.3〜100μmの範囲のものが好ましく、0.3μm未満の粉末では余りに微細であるため上記接合阻止作用や滑り促進作用、分解ガスの放散促進作用が有効に発揮されず、一方100μmを超える粗粒物では、得られるセラミックシートのディンプルや表面粗度が大きくなって、固体電解質膜用として実用化する際の電極印刷などに悪影響を及ぼす恐れがでてくる。こうした利害得失を考慮してより好ましい粉末の平均粒子径は2μm以上、80μm以下、更に好ましくは5μm以上、60μm以下である。粉末として特に好ましいのは、粗粒子の少ないものであり、90体積%の粒子が200μm以下、更に好ましくは100μm以下のものである。
【0030】
該粉末としては、有機質粉末である。無機質粉末は、焼結処理後もシート表面に残存するばかりでなく、その種類によってはセラミックシート表面に融着することがあり、焼結後の除去が煩雑になる恐れがあるが、有機質粉末であれば、焼結条件下で焼失してしまうので後処理による除去作業などが不要であるからである。尚セラミックシートの焼結が完了した時点では、もはや多孔質シートとの接合を起こす恐れはなく、また有機質バインダー成分の放散も完了しているので、粉末が残存していなくても全く差し支えない。
【0031】
上記有機質粉末としては、上記の様に焼結条件下で焼失するものであればその種類の如何は問わず、天然有機質粉末もしくはアクリル樹脂粉末、メラミンシアヌレートなどの昇華性樹脂粉末などの合成有機樹脂粉末等を使用できるが、中でも特に好ましいのは、小麦粉、トウモロコシ澱粉(コーンスターチ)、甘藷澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉等の澱粉質粉末である。しかして澱粉質粉末は、ほぼ球形で粒径の揃った微粉末であり、不純物なども殆ど含まれておらず、滑剤としての作用も非常に優れたものであるからである。これら有機質粉末は、単独で使用してもよく或いは必要により2種以上を適宜併用することが可能である。
【0033】
粉末を塗布する方法は特に限定されないが、刷毛塗り、バフ塗り、粉末を分散媒に分散させて噴霧する方法、篩を通して振り落とす方法、粉末の浮遊流動層中或いは粉末溜めの表面にグリーンシートや多孔質シートを通過させる方法などが好ましい方法として推奨される。
【0034】
これら粉末の塗布量は特に制限されないが、塗布量が多過ぎると、シート全面の塗布厚みを均一化することが困難となり、厚み不均一に由来してセラミックシートのウネリが大きくなる傾向が見られ、逆に塗布量が不足する場合は、該粉末による焼結時の滑り促進と分解ガスの放散促進作用が十分に発揮され難くなり、ディンプルが生じ易くなる傾向が現われてくる。従って該粉末の塗布量は、焼結対象となるセラミックグリーンシートの面積当たり0.0001cc/cm2以上、より好ましくは0.0002cc/cm2以上で、0.1cc/cm2以下、より好ましくは0.02cc/cm2以下とすることが望ましい。
【0035】
尚グリーンシートの焼成に当たっては、グリーンシート一枚に多孔質シートを載せて焼成することも可能であるが、複数のグリーンシートを多孔質シートと交互に重ね合わせて同時に焼結する方法を採用すれば、焼結作業をより効率よく実施できるので有利である。また、最上層の多孔質シートの重さを重くしたり、多孔質シートの上に更に重しを載せて焼成を行なえば、重しの効果も加わって一段と平滑でディンプルやウネリの小さなセラミックシートを得ることができるので好ましい。
【0036】
セラミックシートの素材となるセラミックとしては、ジルコニア、アルミナ、チタニア、窒化アルミニウム、ホウ珪酸ガラス、コージェライト、ムライトなど様々の単独、混合もしくは複合酸化物が挙げられるが、本発明が特に有効に利用されるのは、平板状固体電解質型燃料電池の固体電解質膜や電極用シートである。固体電解質膜用として特に好ましいのはジルコニア系セラミックであり、具体的には、ジルコニアにMgO,CaO,SrO,BaOなどのアルカリ土類金属酸化物、Y2O3,La2O3,Ce2O3,Pr2O3,Nd2O3,Sm2O3,Eu2O3,Gd2O3,Tb2O3,Dy2O3,Ho2O3,Er2O3,Yb2O3などの希土類金属酸化物、更にはSc2O3,Bi2O3,In2O3などの安定化剤を1種もしくは2種以上含有するジルコニア系セラミックが挙げられ、その中には他の添加剤としてSiO2,Al2O3,Ge2O3,SnO2,Ta2O5,Nb2O5などが含まれていてもよい。
【0037】
この他、CeO2またはBi2O3にCaO,SrO,BaO,Y2O3,La2O3,Ce2O3,Pr2O3,Nd2O3,Sm2O3,Eu2O3,Gd2O3,Tb2O3,Dr2O3,Ho2O3,Er2O3,Yb2O3,PbO,WO3,MoO3,V2O5,Ta2O5,Nb2O5等の1種もしくは2種以上を添加したセリア系またはビスマス系、更にはLaGaO3の如きガレート系の固体電解質膜も好ましいものとして例示される。
【0038】
また、アノード電極シートの構成素材としては、Ni,Co,Feあるいはこれらの酸化物等と、上記ジルコニア及び/又はセリアとのサーメット、更にはこれらにMgO,CaO,SrO,BaOなどのアルカリ土類金属酸化物やMgAl2O4などを添加したサーメットなどが、またカソード電極シートの構成素材としては、ぺロブスカイト型結晶構造を有するランタン・マンガネート、ランタン・コバルテート、あるいは、これらのうちランタンをCa,Srなどで一部置換し、もしくはマンガンをCo,Fe,Crなどで一部置換し、更にはランタンとコバルトの一部をCa,Sr,Co,Feなどで置換した複合酸化物などが例示される。
【0039】
なお、燃料電池の固体電解質膜用などとして使用されるセラミックシートにはより高度の熱的、機械的、電気的、化学的特性が要求されるので、こうした要求特性を満足させるには、2〜12モル%、より好ましくは2.5〜10モル%、更に好ましくは3〜8モル%の酸化イットリウムで安定化された酸化ジルコニウム(正方晶及び/又は立方晶ジルコニア)がより好ましいものとして推奨される。
【0040】
また、該ジルコニアシートを特に燃料電池用の固体電解質膜や電極用シートとして実用化する場合は、要求強度を満たしつつ電気抵抗を可及的に抑えるため、シート厚さを10μm以上、より好ましくは50μm以上で、500μm以下、より好ましくは300μm以下とするのが良い。
【0041】
またシートの形状としては、円形、楕円形、角形、R(アール)を持った角形など何れでもよく、これらのシート内に同様の円形、楕円形、角形、Rを持った角形などの穴を1つもしくは2つ以上有するものであってもよい。更にシートの面積は、50cm2以上、好ましくは100cm2以上である。なおこの面積とは、シート内に穴がある場合は、該穴の面積を含んだ総面積を意味する。
【0042】
これらセラミックシートの製造は、常法に従ってセラミック原料粉末と有機質もしくは無機質バインダーおよび分散媒(溶剤)、必要により分散剤や可塑剤などを含むスラリーを、ドクターブレード法、カレンダーロール法、押出し法等によって平滑なシート、例えばポリエステルシート上に適当な厚みで塗布し、乾燥して分散剤を揮発除去することによりグリーンシートを得、これを適当な大きさに打抜いた後、前述の様に多孔質シートを載せて、あるいは多孔質シートに挟んで棚板上に載置し、1,000〜1,600℃程度の温度で2〜5時間程度加熱焼成する方法が採用される。
【0043】
この時、出来上がりシートの表面均質性を高め、ディンプルやウネリをより小さくするには、セラミックシートの原料粉末として平均粒径が0.1〜0.8μmの範囲で、且つできるだけ粒径の揃ったもの(粒度分布の小さなもの)、具体的には、該粉末の90体積%以上が5μm以下であるものを使用するのがよい。
【0044】
本発明で用いられるバインダーの種類にも格別の制限はなく、従来から知られた有機質もしくは無機質のバインダーを適宜選択して使用することができる。有機質バインダーとしては、例えばエチレン系共重合体、スチレン系共重合体、アクリレート系及びメタクリレート系共重合体、酢酸ビニル系共重合体、マレイン酸系共重合体、ビニルブチラール系樹脂、ビニルアセタール系樹脂、ビニルホルマール系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、ワックス類、エチルセルロース等のセルロース類等が例示される。
【0045】
これらの中でもグリーンシートの成形性や打抜き加工性、強度、焼成時の熱分解性等の点から、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等の炭素数10以下のアルキル基を有するアルキルアクリレート類、およびメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート等の炭素数20以下のアルキル基を有するアルキルメタクリレート類、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート等のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシアルキルアクリレートまたはヒドロキシアルキルメタクリレート類、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート等のアミノアルキルアクリレートまたはアミノアルキルメタクリレート類、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、モノイソプロピルマレートの如きマレイン酸半エステル等のカルボキシル基含有モノマーの少なくとも1種を重合または共重合させることによって得られる、数平均分子量が2,000〜200,000、より好ましくは5,000〜100,000の(メタ)アクリレート系共重合体が好ましいものとして推奨される。これらの有機質バインダーは、単独で使用し得る他、必要により2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。これらの中でも特に好ましいのは、イソブチルメタクリレートおよび/または2−エチルヘキシルメタクリレートを60重量%以上含むモノマーの共重合体である。
【0046】
また無機質バインダーとしては、ジルコニアゾル、シリカゾル、アルミナゾル、チタニアゾル等が単独で若しくは2種以上を混合して使用することができる。
【0047】
セラミック原料粉末とバインダーの使用比率は、前者100重量部に対して後者5〜30重量部、より好ましくは10〜20重量部の範囲が好適であり、バインダーの使用量が不足する場合は、グリーンシートの強度や柔軟性が不十分となり、逆に多過ぎる場合はスラリーの粘度調節が困難になるばかりでなく、焼成時のバインダー成分の分解放出量が多く且つ激しくなって均質なシートが得られ難くなる。
【0048】
またグリーンシートの製造に使用される分散媒としては、水、メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−ブタノール、1−ヘキサノール等のアルコール類、アセトン、2−ブタノン等のケトン類、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類等が適宜選択して使用される。これらの分散媒も単独で使用し得る他、2種以上を適宜混合して使用することができる。これら分散媒の使用量は、グリーンシート成形時におけるスラリーの粘度を加味して適当に調節するのがよく、好ましくはスラリー粘度が10〜200ポイズ、より好ましくは10〜50ポイズの範囲となる様に調整するのがよい。
【0049】
上記スラリーの調製に当たっては、セラミック原料粉末の解膠や分散を促進するため、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸アンモニウム等の高分子電解質、クエン酸、酒石酸等の有機酸、イソブチレンまたはスチレンと無水マレイン酸との共重合体およびそのアンモニウム塩あるいはアミン塩、ブタジエンと無水マレイン酸との共重合体およびそのアンモニウム塩等からなる分散剤;グリーンシートに柔軟性を付与するためのフタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル等のフタル酸エステル類、プロピレングリコール等のグリコール類やグリコールエーテル類からなる可塑剤など;更には界面活性剤や消泡剤などを必要に応じて添加することができる。
【0050】
かくして本発明によれば、セラミックシートの特にディンプル高さを100μm以下に抑え、より好ましくは更にウネリ高さも100μm以下に抑えることによって、平板状固体電解質型燃料電池用の固体電解質膜などの構成素材として優れた耐積層荷重性と耐熱ストレス性を有し、稼動時のクラックや割れの発生を可及的に抑えて寿命を大幅に延長することができ、また本発明の方法を採用すれば、その様な形状特性を備えたセラミックシートを生産性よく製造できる。
【0051】
【実施例】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0052】
なお下記実施例において、有機質粉末の粒子径は、島津製作所社製のレーザー回折式粒度分布測定装置「SALD−1100」を使用し、試料粉末をメタリン酸水溶液に懸濁させて1分間超音波を当てて分散させてから測定した。
【0053】
実施例1
(多孔質シートの作製)
平均粒子径が55μmの低ソーダアルミナ粉末(昭和電工社製商品名「AL−13」)100重量部に対し、メタクリレート系共重合体からなるバインダー(平均分子量:30,000、ガラス転移温度:0℃、固形分濃度:50重量%)12重量部、可塑剤としてジブチルフタレート2重量部、分散媒としてトルエン/イソプロピルアルコール(重量比=3/2)の混合溶媒30重量部を、直径10mmのジルコニアボールが装入されたナイロンポットに入れ、約60rpmで40時間混練してスラリーを調製した。このスラリーを濃縮脱泡して粘度を80ポイズに調整し、ドクターブレード法によりポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗工してグリーンシートを得た。
【0054】
このグリーンシートを、連続型打抜き装置(坂本造機社製商品名「865B」)に刃型を取り付けて、プレスストローク:40mm、プレススピード:80spmで所定の寸法に切断した。切断した該グリーンシートを、表面を研磨したアルミナ板上に載せ、500℃で脱脂した後1550℃で2時間焼成して多孔質シートを得た。該多孔質シートの厚さは0.4mm、気孔率は46%、単位面積当たりの重さは0.09g/cm2であった。
【0055】
(ジルコニアグリーンシートの作製)
市販の3モル%イットリア安定化ジルコニア粉末(第一稀元素社製商品名「HYS−3.0」、平均粒子径:0.7μm、90%径:1.9μm)100重量部に対し、メタクリレート系共重合体からなるバインダー(分子量:30,000、ガラス転移温度:−8℃、固形分濃度:50重量%)30重量部、可塑剤としてジブチルフタレート2重量部、分散媒としてトルエン/イソプロピルアルコール(重量比=3/2)の混合溶媒50重量部を、直径10mmのジルコニアボールが装入されたナイロンポットに入れ、約60rpmで40時間混練してスラリーを調製した。
【0056】
このスラリーを濃縮脱泡して粘度を30ポイズに調整し、最後に200メッシュのフィルターに通してからドクターブレード法によりポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗工し、厚さ約300μmのグリーンシートを得た。
【0057】
このグリーンシートを、連続型打抜き機(同前)に刃型を取付けて、プレスストローク:40mm、プレススピード:80spmで所定の寸法・形状に切断した。
【0058】
(ジルコニアシートの作製)
上記で得た一辺42cmの正方形状の多孔質シートを棚板上に載せ、該多孔質シートの上に小麦粉(平均粒子径:20μm、90%径:64μm)をふりかけて刷毛により均一にのばした。該小麦粉の平均塗布量は0.0008cc/cm2であった。その上に、上記で得た一辺40cmの正方形状のジルコニアグリーンシートを、その周縁が多孔質シートからはみ出さない様に重ね、その上に同様にして小麦粉をふりかけて均一にのばし、更にその上に上記と同じ多孔質シートを重ね、これを電気炉に入れて1400℃で2時間焼成することにより、一辺30cm、厚さ220μmの正方形状ジルコニアシートを得た。
【0059】
得られたジルコニアシートは、平滑でウネリやディンプルは殆ど認められなかった。
【0060】
比較例1
多孔質シートとジルコニアグリーンシートを重ね合わせて焼成を行なう際に、小麦粉を塗布しなかった以外は上記実施例1と全く同様にしてジルコニアシートを作製した。得られたジルコニアシートは緩やかなウネリを有すると共に、シート表面の数箇所に大きなディンプルが認められた。
【0061】
実施例2
(多孔質シートの作製)
塗工時の厚さを調整し、焼成温度を1575℃に代えた以外は前記実施例1と同様にして、一辺13.8cm、厚さ0.3mm、気孔率42%、単位面積当たりの重さ0.07g/cm2の正方形状多孔質シートを得た。
【0062】
(ジルコニアシートの作製)
上記で得た多孔質シートを棚板上に載せ、その上にコーンスターチ(平均粒径:14μm、90%径:22μm)をふりかけて刷毛で均一にのばした(塗布量:0.0005cc/cm2)。その上に、前記実施例1と同様にして得た一辺13.5cmの正方形状ジルコニアグリーンシートを載せ、その上に上記と同様にしてコーンスターチをふりかけて均一にのばし、この操作を5回繰り返すことにより、5枚の多孔質シートと5枚のジルコニアグリーンシートをコーンスターチを介して交互に合計10枚重ね合わせた。最後に、同様にコーンスターチを介して多孔質シートを重ね、これを電気炉に入れて1400℃で2時間焼成することにより、一辺が10cmの正方形状ジルコニアシート5枚を得た。
【0063】
得られた5枚のジルコニアシートは、いずれも平滑でウネリやディンプルは殆ど認められなかった。
【0064】
比較例2
多孔質シートとジルコニアグリーンシートの間にコーンスターチを介在させなかった以外は上記実施例2と全く同様にして焼成を行ない、5枚のジルコニアシートを得た。得られたジルコニアシートのうち、一番下に位置するジルコニアシートには、多孔質シートとの付着に起因すると思われる割れが発生していると共に、表面には数箇所に大きなディンプルが認められた。
【0071】
比較例3
平均粒子径が0.21μm、90%径が0.9μmのアルミナ粉末を使用(塗布量は約0.01cc/cm 2 )した以外は上記実施例2と全く同様にしてジルコニアシートを製造した。得られたジルコニアシートの表面にはアルミナ粉末が強く付着しており、超音波洗浄によっても除去することが困難であった。
【0072】
比較例4
平均粒子径が180μmのアルミナ粉末を使用した以外は上記比較例3と全く同様にしてジルコニアシートを製造した。得られたジルコニアシートの表面には、粗粒アルミナ粉末の介在に伴うディンプルやウネリが全面に生じていた。
【0073】
比較例5
アルミナ粉末を200メッシュの金網を通して振動を与えながら多孔質シート及びジルコニアグリーンシートにまぶした(塗布量:0.2cc/cm2)以外は、前記比較例3と同様にしてジルコニアシートの作製を行った。得られたシートは、焼成時のアルミナ粉末の塗布量が多過ぎて塗布厚さが不均一になったためか、ディンプルや大きなウネリが認められた。
【0074】
比較例6
前記比較例3を実施する際に、多孔質シートおよびジルコニアグリーンシート表面にまぶしたアルミナ粉末を吹き飛ばし、塗布量をごく僅か(0.00001cc/cm2)にしてから重ね合わせた以外は、比較例3と同様にしてジルコニアシートを作成した。得られたジルコニアシートは部分的に多孔質シートと接合しており、数箇所に大きなディンプルが確認された。
【0075】
比較例7
前記実施例1と同様にして得たジルコニアグリーンシートに小麦粉(同前)を塗布し、多孔質シートを介装することなく5枚を重ね合わせてから、実施例1と同じ条件で焼成を行なった。得られた焼結シートは相互に付着し合っており、ここのシートに剥がすことができなかった。
【0079】
比較例8
実施例1で用いた多孔質シートに代えて、重さが2g/cm2、気孔率が1%以下の緻密質アルミナシートを使用した以外は、前記実施例1と同様の方法でジルコニアシートを作製した。
【0080】
得られたジルコニアシートの表面には小さい皺が無数に発生しており、実用に耐える様なものではなかった。
【0081】
比較例9
小麦粉を塗布しなかった以外は上記比較例8と全く同様にしてジルコニアシートを作製した。得られたシートには亀裂が生じており、実用に耐えるものではなかった。
【0082】
評価試験例1
前記実施例1〜5および比較例1,4〜6,8で得たシート各20枚について、レーザー光学式非接触3次元形状測定装置(UBM社製商品名「UBC-14型」マイクロフォーカス エキスパート)を用いて表面にレーザー光を照射し、その反射光を三次元解析することによって、夫々のウネリ高さ及びディンプル高さを測定した。光源は半導体レーザー(780nm)、スポット径1μm、垂直分離能0.01μmであり、ディンプル高さは0.1mmのピッチで測定した。
【0083】
評価試験例2
アルミナ敷板の上に表面が平滑で平行度を保った2枚のアルミナ板(ニッカート社製商品名「SSA-S」)に各シートを挟んだ状態で載置し、その上にシートを全面に0.2kg/cm2の荷重を加えた状態で、室温から1000℃まで10時間かけて昇温し、1000℃で1時間保持してから室温にまで降温する操作を10回繰り返し、クラックの発生頻度を調べた。
【0084】
評価試験1,2の結果を表1に纏めて示す。
【0085】
【表1】
【0086】
【発明の効果】
本発明は以上の様に構成されており、セラミックシートの特にディンプル高さを特定し、好ましくは更にウネリ高さ低く抑えることによって、平板状固体電解質型燃料電池用の固体電解質膜等の構成素材として優れた耐積層荷重性と耐熱ストレス性を有し、稼動時のクラックや割れの発生を可及的に抑えることができ、その結果として、例えば高性能で且つ耐久寿命の大幅に改善された燃料電池などを提供できる。しかも本発明の方法によれば、その様な形状特性を備えたセラミックシートを工業的に効率よく製造し得ることになった。
Claims (3)
- セラミックグリーンシートを焼成してセラミックシートを製造する際に、気孔率が15〜85%である多孔質シートの間に、前記グリーンシートをその周縁がはみ出さない様に挟み込み、且つ当該多孔質シートとセラミックグリーンシートの間に粉末として澱粉質粉末のみを介在させて焼成することを特徴とするセラミックシートの製法。
- セラミックグリーンシートを焼成してセラミックシートを製造する際に、気孔率が15〜85%である多孔質シートを、前記グリーンシートの上に該グリーンシートの周縁がはみ出さない様に載せ、且つ当該多孔質シートとセラミックグリーンシートの間に粉末として澱粉質粉末のみを介在させて焼成することを特徴とするセラミックシートの製法。
- 前記粉末の平均粒子径が0.3〜100μmである請求項1または2に記載の製法。
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