JP3779581B2 - 電子線装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、試料を電子線で走査したとき発生する信号により試料の像を得る電子線装置に係り、特に走査型電子顕微鏡に好適な電子線装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば走査電子顕微鏡などの電子線装置では、電子銃と対物レンズの間に光軸(電子線軸)に沿って2段に配置した偏向器によって電子線(電子ビーム)を偏向させ、試料に照射される電子線(一次電子線)が試料の観察領域を走査するようにしている。
【0003】
偏向器による偏向電界(電界形の場合)又は偏向磁界(磁界形の場合)は、偏向器の中心軸(光軸)から離れるにしたがって電界或いは磁界の均一性が保たれなくなってしまうことから、低倍率を得るために一次電子線の偏向角を大きくすると、一次電子線が偏向器内の不均一な電界又は磁界の影響を受け、この結果、得られた像の周辺部で歪やぼけが生じることになる。
この影響は、偏向器の構造、特に偏向器の内径に依存し、これにより最低倍率が制限されてしまう。
【0004】
そこで、従来の走査電子顕微鏡、特に対物レンズに焦点距離が短いインレンズやシュノーケル型レンズを採用した走査電子顕微鏡では、低倍率で使用する際には対物レンズの励磁を無効にしたり、或いは対物レンズの励磁を弱く設定した上で偏向器を1段だけ使用して一次電子線を偏向していた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来技術は、低倍率動作について充分な配慮がされているとは言えず、極低倍率のもとで広い視野を可能にする点に問題があった。
すなわち、上記したように、従来技術では、低倍率で使用する際には対物レンズの励磁を無効にしたり、或いは対物レンズの励磁を弱く設定した上で偏向器を1段だけ使用して一次電子線を偏向してるが、しかし、この場合、最低倍率(最大観察視野)は、最終段レンズである対物レンズの形状、特に穴径(孔径)に制限されてしまう。
【0006】
対物レンズの高分解能化を図る場合、対物レンズの穴径の縮小化が効果的であることが知られているが、このことは視野が狭くなることを意味し、その結果、対物レンズを高分解能化した場合、視野探しに適した低い倍率の像が得られなくなる。
【0007】
いずれにしても、上記従来技術では、10倍以下の低倍率の像を形成するのは極めて困難である。
また、対物レンズにより一次電子線を試料に収束させる場合、試料上での収束角は最小でも数mrad程度にしかならず、このときの焦点深度は最も深くても0.5mm程度が限界であった。
【0008】
本発明は、上述した従来技術の問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、偏向角を大きくしても歪が無く、深い焦点深度による極低倍率に容易に対応することができる電子線装置を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的は、少なくとも2段の電子レンズにより収束させた電子線で試料面を走査し、試料面から発生した二次電子を検出することにより、当該試料の像を観察する方式の電子線装置において、前記少なくとも2段の電子レンズの中で対物レンズを形成する電子レンズの電子銃側に位置する電子銃側偏向手段と、前記対物レンズを形成する電子レンズの前記試料側に位置する試料側偏向手段と、該試料側偏向手段を前記対物レンズを通る電子線の経路に対して出し入れ可能にする移動手段とを設け、高分解能像観察時には、前記試料側偏向手段を電子線の経路から取り出し、前記電子銃側偏向手段を用いて電子線を走査し、低倍率像観察時には、前記試料側偏向手段を電子線の経路に入れ、前記試料側偏向手段を用いて電子線を走査するようにして達成される。
【0010】
このとき、前記対物レンズの機能を実質的に無効にする手段を設け、前記低倍率像観察時には、前記対物レンズよりも電子銃側に位置する電子レンズによって電子線が収束されるように構成してもよい。
【0011】
同じく、このとき、前記電子銃側の偏向手段と前記試料側の偏向手段を切換える手段が設けられているようにしても良く、前記電子銃側の偏向手段で電子線を走査させ、前記試料側の偏向手段では走査中心を移動させるための制御手段が設けられているようにしても良い。
【0012】
また、このとき、前記試料を保持した試料ステージの垂直方向の位置を検出する手段を設け、前記試料ステージが所定の位置範囲内にあるときだけ、前記試料側の偏向手段の移動を可能にするようにしても良く、低倍率像観察時には、電子線の加速電圧が5kV以下に制御されるようにしても良い。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明による電子線装置について、図示の実施の形態により詳細に説明する。
図1は、本発明に係る電子線装置を走査型電子顕微鏡として具現した場合の一実施の形態で、電子顕微鏡の鏡筒などは省略して描かれている。
図1の構成において、鏡筒の頂部に陰極1と引出電極2が設けてあり、これらの間に電圧V1 が印加され、これにより陰極1から電子が放出される
この放出された電子が陰極1と加速電極3の間に印加されている電圧Vacc により加速されて一次電子線Eとなり、絞り5により不要な領域が除去され、レンズ制御電源12により制御されている収束レンズ4、6と、対物レンズ8により細く絞られて電子線ビームEbとなり、試料9上に照射される。なお、英字Eは、通常、電界を表わす符号として定着しているが、ここでは一次電子線を表わす符号として用いている。
【0014】
電子線ビームEbは、対物レンズ8の手前で陰極1側に配置されている2段型の偏向器7a、7b、又は対物レンズ8の後で試料9側に配置されている偏向器17の何れかによって偏向され、試料ステージ10の上に載置保持されている試料9の面を二次元的に走査する。
【0015】
図で下側にある偏向器17は、図2に示すように、偏向器駆動部18により電子線ビームEbの経路に対して出し入れ可能な構造に作られ、試料室21の外から位置が制御できるようになっており、偏向器位置検出部19により、偏向器17の位置が検出できるようになっている。
【0016】
電子線ビームEbが試料9に照射されると、試料9から二次電子Sa、Sb が発生し、例えばシンチレータを備えたフォトマルチプライヤからなる信号検出器14a、14bによって検出される。
従って、これら信号検出器14a、14bからは各二次電子Sa、Sb の強度に応じた信号が得られることになる。
【0017】
そこで、これら信号検出器14a、14bの信号を輝度変調信号として像表示装置15に供給することにより、像表示装置15の画像表示面に試料9の拡大像が表示されることになる。
なお、この実施形態では、対物レンズ8として、図示のように、シュノーケル型レンズが用いられているが、シュノーケル型以外の任意の形式のレンズを用いても良い。
【0018】
偏向器7a、7bと偏向器17の何れにより電子線ビームEbを偏向させるかは、偏向制御部16のスイッチによって切換られるようになっており、これらは観察目的や観察条件に応じて使用者により任意に選択される。
【0019】
例えば高分解能観察が目的のときは、偏向器17を電子線ビームEbの経路から引き出し、試料9の位置を対物レンズ8の極近傍まで近づけ、高分解能観察用の作動距離(ワーキングデスタンス:WD)に設定してから偏向器7a、7bにより電子線ビームEbを偏向させ、試料9が電子線ビームEbにより走査されるようにする。
【0020】
従って、このときは、従来技術と同様、最低倍率は数10倍以上の範囲に制限されるが、反面、高倍率像による高分解能での観察が得られることになる。
【0021】
一方、低倍率像の観察が目的のときは、対物レンズ8から試料9までの距離が必要な値にまで大きくなるようにして、この間の電子線ビームEbの経路に偏向器17を挿入し、低倍率用の作動距離に設定してから偏向器17を働かせ、電子線ビームEbが偏向され、試料9が走査されるように設定する。
【0022】
従って、このとき、偏向器17は、試料ステージ10の位置を確認して、対物レンズ8から試料9までの距離が所定値以上あるときだけ、挿入が可能になるようになっており、これにより10倍程度の低倍率で広い視野が確保できることになる。
【0023】
試料ステージ10は、図3に示すように、試料ステージ駆動部22によって位置が制御されるが、このときステージ位置検出部23によって試料ステージ10の垂直方向位置と傾斜角度が検出され、対物レンズ8から試料9までの距離が所定値以上あるときだけ偏向器17の挿入が可能になるように、位置制御部20によって制御される。
【0024】
また、偏向器17を電子線ビームEbの経路から引き出すことも同様で、挿入されている試料ステージ10の垂直方向位置と傾斜角度の何れか一方、又は双方が予め定められた範囲内になっているときだけ、引き出しが可能になるように、位置制御部20によって制御される。
【0025】
次に、図4のフローチャートにより、上記実施形態に係る走査電子顕微鏡の動作について説明する。
最初、使用者が観察条件を選択する(S1)。そして、高分解能観察が目的のときはS10以降の処理に進み、低倍率像の観察が目的のときはS20以降の処理に進む。
【0026】
いま、高分解能観察が選択されたとすると(S10)、このときは、まず、偏向器17を電子線ビームEbの経路から引き出し(S11)、次いで試料9の位置を対物レンズ8に近づけ、高分解能観察用の作動距離に設定する(S12)。
【0027】
この後、制御部16により偏向器7a、7bに切換え(S13)、これにより電子線ビームEbを偏向させ、試料9が電子線ビームEbにより走査されるようにする(S14)。
これにより、このときは従来技術と同様、最低倍率は数10倍以上の範囲に制限されるが、高倍率像による高分解能での観察が得られることになる。
【0028】
一方、低倍率像の観察が選択されたときは(S20)、まず、試料ステージ10の垂直方向位置と傾斜角度を確認する(S21)。
そして、結果がNG、つまり対物レンズ8から試料9までの距離が必要な値にまで大きくなっていなかったときは、試料ステージ10を動かして対物レンズ8から試料9までの距離が必要な値になるようにし(S22)、この後、偏向器17を電子線ビームEbの経路に挿入する(S23)。
【0029】
一方、S21での結果がOK、つまり対物レンズ8から試料9までの距離が必要な値になっていたときは、そのままS23の処理に進み、偏向器17を電子線ビームEbの経路に挿入する。
この後、制御部16により偏向器17に切換え(S24)、これにより電子線ビームEbを偏向させ、試料9が走査されるようにし(S25)、これにより10倍程度の低倍率でも広い視野が確保できるようにするのである。
【0030】
この実施形態では、低倍率像の観察に際しては、陰極1と加速電極3の間に印加されている電圧、すなわち加速電圧Vacc を5kV以下にするのが望ましい。これは、加速電圧が低い程、一次電子線ビームEbを偏向させるのに必要な磁界や電界が小さくて済むからで、偏向器7a、7b、及び偏向器17で発生させるべき磁界や電界が小さくでき、同じ強度ならより広範囲の走査が得られるからである。
【0031】
次に、この実施形態では、偏向器17が設けてあり、これは対物レンズ8よりも試料9側に配置されているので、これにより観察している視野を電気的に広範囲に移動させることができる。
この場合、対物レンズ8で一次電子線ビームEbを試料9上に収束させる動作をさせ、偏向器7a、7bで、試料9上の一次電子線ビームEbを走査する。そして、この状態で、視野移動に必要な制御信号を偏向制御部16から偏向器17に供給する。
【0032】
これにより、一次電子線ビームEbは、偏向器7a、7bにより試料9上で二次元的に走査され、このとき偏向器17では、一次電子線ビームEbによる走査の中心が移動させられるとになる。
例えば、いま、図5に示すように、偏向器7a、7bによる走査可能範囲をa×bとすると、偏向器17により走査中心を移動させて走査した場合、この走査可能範囲a×b全体が移動させられることになる。
【0033】
そして、この結果、図示のように、走査範囲はk1a×k2b(k1、k2:定数)と広範囲に広がることになる。
このとき試料ステージ10は、前述したように位置制御部20によって制御されることになる。
【0034】
また、この実施形態では、焦点深度の深い極低倍率像が容易に得られる。
この場合、まず、偏向制御部16により偏向器17を選択し、この偏向器17により一次電子線ビームEbを試料9上で二次元的に走査させる。
【0035】
この状態で、レンズ制御電源12により対物レンズ8の励磁を無効にするか、または弱励磁に設定して、対物レンズ8よりも陰極1側に位置する収束レンズ4、6により一次電子線ビームEbを試料9に収束させるようにする。
この結果、焦点深度が深くなり、焦点ずれの少ない極低倍率像を容易に得ることができる。
【0036】
次に、この実施形態における偏向器17について説明すると、これは、X方向とY方向の二次元方向に偏向可能なら、磁界形と静電形の何れの偏向器で構成しても良い。
まず、図6は、磁界形で構成した偏向器17の一実施形態で、上下1対になった電磁コイル17a、17bによりX方向の偏向が得られ、左右1対になった電磁コイル17c、17dでY方向の偏向が得られるように構成したもので、各々のコイルには制御部16から制御された電流が供給され、一次電子線ビームEbが磁界によって二次元方向に偏向される。
【0037】
次に、図7と図8は静電形で構成した偏向器17の実施形態で、まず図7は、上下と左右で対になった4枚の偏向板(電極板)17e、17f、17g、それに17hで構成された偏向器17の一実施形態で、次に図8は、45度の角度で順次配置した8枚の偏向板17i、17j、17k、17l、17m、17n、17o、それに17pで構成された偏向器17の一実施形態である。
【0038】
これら図7と図8の実施形態では、各々の偏向板には制御部16から制御された電圧が印加され、一次電子線ビームEbが電界により偏向される。
また、上記実施形態では、5kVの比較的低い加速電圧のとき偏向器17を動作させるようにし、これにより、極低倍率を実現するに必要な偏向器17の形状が小型化できるようにしている。
【0039】
【発明の効果】
本発明によれば、偏向器の偏向角を大きくしても歪やぼけの無い像が得られるので、例えば10倍以下の極低倍率の像観察にも簡単に対応することができ、従って、本発明によれば、視野探しを容易に行うことができるという効果が得られる。
また、本発明によれば、低倍率像を得る場合にも容易に深い焦点深度が得られるので、低倍率で広範囲の像が鮮明に観察できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による電子線装置を走査電子顕微鏡として具現した場合の一実施形態を示す概略構成図である。
【図2】本発明の一実施形態における偏向器と試料の位置関係を説明するための構成図である。
【図3】本発明の一実施形態における偏向器と試料ステージの制御を説明するためのブロック図である。
【図4】本発明の一実施形態の動作を説明するためのフローチャートである。
【図5】本発明の一実施形態における走査可能範囲の説明図である。
【図6】本発明の実施形態における磁界形偏向器の一例を示す説明図である。
【図7】本発明の実施形態における電界形偏向器の一例を示す説明図である。
【図8】本発明の実施形態における電界形偏向器の他の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
E 電子線(一次電子線)
Eb 電子線ビーム(一次電子線ビーム)
Sa、Sb 二次電子
1 陰極
2 引出電極
3 加速電極
4 収束レンズ
5 絞り
6 収束レンズ
7a、7b 偏向器
8 対物レンズ
9 試料
10 試料ステージ
12 レンズ制御電源
14a、14b 信号検出器
15 像表示装置
16 偏向制御部
17 偏向器
18 偏向器駆動部
19 偏向器位置検出部
20 位置制御部
21 試料室
22 試料ステージ駆動部
23 試料ステージ位置検出部
Claims (6)
- 少なくとも2段の電子レンズにより収束させた電子線で試料面を走査し、試料面から発生した二次電子を検出することにより、当該試料の像を観察する方式の電子線装置において、
前記少なくとも2段の電子レンズの中で対物レンズを形成する電子レンズの電子銃側に位置する電子銃側偏向手段と、
前記対物レンズを形成する電子レンズの前記試料側に位置する試料側偏向手段と、
該試料側偏向手段を前記対物レンズを通る電子線の経路に対して出し入れ可能にする移動手段とを設け、
高分解能像観察時には、前記試料側偏向手段を電子線の経路から取り出し、前記電子銃側偏向手段を用いて電子線を走査し、
低倍率像観察時には、前記試料側偏向手段を電子線の経路に入れ、前記試料側偏向手段を用いて電子線を走査するように構成したことを特徴とする電子線装置。 - 請求項1に記載の発明において、
前記対物レンズの機能を実質的に無効にする手段を設け、
前記低倍率像観察時には、前記対物レンズよりも電子銃側に位置する電子レンズによって電子線が収束されるように構成したことを特徴とする電子線装置。 - 請求項1に記載の発明において、
前記電子銃側偏向手段と前記試料側偏向手段を切換える手段が設けられていることを特徴とする電子線装置。 - 請求項1に記載の発明において、
前記試料側偏向手段に走査中心を移動させるための制御手段が設けられていることを特徴とする電子線装置。 - 請求項1に記載の発明において、
前記試料を保持した試料ステージの垂直方向の位置を検出する手段を設け、
前記試料ステージが所定の位置範囲内にあるときだけ、前記試料側偏向手段の移動を可能にするように構成したことを特徴とする電子線装置。 - 請求項1に記載の発明において、
前記低倍率像観察時には、電子線の加速電圧が5kV以下に制御されるように構成したことを特徴とする電子線装置。
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