JP3778684B2 - アイスクリーム - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、乳化剤や安定剤を含有せず、組織が滑らかで、風味に優れ、保形性のよいアイスクリームに関する。特に、本発明のアイスクリームは、ヒートショックに対して安定である。
【0002】
【従来の技術】
アイスクリームは、「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(昭和26年12月27日厚生省令第52号)」に成分規格や製造方法の基準が定められている。通常は、乳成分、糖類、卵成分等の原材料を混合して液状のミックスを調製し、このミックスをフリーザーでフリージングし、その後冷凍することによって製造されている。このようにして製造されたアイスクリームは、−18℃以下の冷凍下で保存されたり流通されている。しかし、流通過程あるいは家庭での保存中にヒートショックを受けることがある。例えば、流通過程で冷凍車からの荷下ろし中に外気の影響を受けて昇温した後、再冷凍されたような場合、あるいは消費者が店頭で購入してから家庭の冷凍庫に収納するまでの間に昇温し、その後冷凍庫に収納されて再凍結された場合、また家庭で冷凍庫のドアが頻繁に開閉された場合や、冷凍庫をデフロスト(霜取り)することによって温度上昇と下降が繰り返された場合等様々な状態でヒートショックを受ける。このように流通過程や保存中にヒートショックを受けると、融解したり、また保形性の低下や変形等を引き起こすといった問題がある。
【0003】
このようなことからアイスクリームミックスに、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、キサンタンガム、ローカストビーンガム等の安定剤や、蔗糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、レシチン、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル等の乳化剤、あるいは食物繊維等を添加することが行われている。
例えば、特開平3-139243号公報には、蛋白性水分散性マクロコロイド、砂糖、安定剤及び水分を少なくとも含有してなるアイスクリーム状組成物に於いて、卵黄(生)を該組成物に対して 0.3〜4.0 重量%含有させた、低カロリーで保形性の良いアイスクリーム様食品が開示されている。また、特開平9-135664号公報には、アイスクリームミックスに調整乳清タンパク質加工品を添加したり、あるいは必要に応じてこの調整乳清タンパク質加工品と共に塩類を添加したり、さらに乳化剤等も配合して保形性の良いアイスクリームを製造する方法が開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
このように、安定剤や乳化剤、あるいは調整乳清タンパク質加工品のような添加物等を配合すると、保形性の低下や変形と言った問題は改善される。
しかし、安定剤を配合した場合には、糊様の食感を呈することが避けられず、また乳化剤の場合には、乳化剤特有の風味が感じられたり、口溶け性も悪くなるといった問題がある。
上記の特開平9-135664号公報では、安定剤を配合せずに、調整乳清タンパク質加工品を配合しているが、調整乳清タンパク質加工品は、乳清タンパク質を加工処理して乳糖や塩類を除去して得られたものであるため、乳本来の風味に欠けるといった問題もある。
このため、本発明者らは、風味が良好で、ヒートショック耐性のあるアイスクリームを得ることについて検討した。従って、本発明は、乳化剤や安定剤を一切使用しなくとも、乳本来の風味が十分に感じられ、しかも保形性のよいアイスクリームを提供することを課題とするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記課題を解決するために、次のようなアイスクリームを提供するものである。
すなわち、無脂乳固形分、乳脂肪、糖類、および卵成分を主要成分とし、乳脂肪含有量の10〜40重量%が遊離脂肪からなり、かつ遊離脂肪が網目構造体を形成して氷晶体を包含しているアイスクリームである。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明のアイスクリームは、製造の際のミックスの調製にあたって、主要成分として無脂乳固形分、乳脂肪、糖類、および卵成分が用いられるが、安定剤および乳化剤を全く配合しない。安定剤や乳化剤を配合しない理由は、風味の向上を目的とするだけでなく、後述するようにフリージングの際に、ミックスの解乳化が促進されて乳脂肪が遊離し、網目構造体を形成しやすくするためである。
本発明において、無脂乳固形分として使用できる乳成分は、脱脂乳、全乳、あるいはこれらの乳を濃縮したものや一旦乾燥して粉乳とした脱脂粉乳や全粉乳を、水や生乳等の水性媒体に溶解した再構成乳等を用いることができる。これらの無脂乳固形分の配合量は、ミックスの全固形分に対して7〜20重量%である。
【0007】
また乳脂肪は、乳由来のものであればどのようなものでも用いることができ、例えば、無塩バターや乳クリームを挙げることができる。この乳脂肪は、ミックス中に8〜25重量%の範囲で配合する。尚、無脂乳固形分として全乳や全粉乳を用いた場合には、それらに含まれている乳脂肪量を考慮して脂肪率が前記の範囲内になるように配合する。上記の乳脂肪の配合率が、8重量%未満になると、後述するミックスをフリーザーでフリージングした際、乳脂肪の網目構造体が形成されず、一方25重量%を超えると、凝集が起こり同様に網目構造体が形成されないため、前記の範囲内で配合する。
【0008】
糖類としては、通常のアイスクリームに用いられているのと同様に蔗糖、ブドウ糖、果糖、異性化糖、あるいは水飴等が用いられ、これらの糖類の中から一種以上が選択される。またこれらの糖類にステビアやアスパルテームといった人工甘味料も配合することもできる。これらの糖類の配合量は、配合する糖類や人工甘味料の種類、あるいは嗜好性によって異なるが、およそ10〜15重量%とするのが好ましい。
【0009】
卵成分としては、全卵や卵黄、卵白等が用いられ、またこれらを粉末化したものであっても使用することができ、配合量は、ミックスの固形分あたり、1〜10重量%である。
その他目的に応じて、着香料や着色料等を若干量配合して風味や色彩の改善を図ることも可能である。
【0010】
上記のように各原料を配合して全固形分率が35〜45重量%となるミックスを調製し、このミックスを、ホモジナイザー等で100 〜150kgf/cm2の圧力下で均質化した後、68℃以上で、30分間以上加熱殺菌する。均質・殺菌処理した後、ミックスを0〜5℃程度に冷却して5〜15時間程度エージングする。次に、このようにして調製したミックスをフリーザーに導入し、ダッシャーの回転数 100〜300 rpm 、出口温度−5〜−6℃でフリージングする。またミックスのフリージング時間(ミックスをフリーザーに導入後、フリージングされて出口から排出されるまでの時間)は、0.5 〜8分間とするのが好ましい。
フリーザーのダッシャーの一般的な形態として、駕籠形ダッシャーと筒形ダッシャーがあるが、本発明においてはどちらの形態のダッシャーであっても同様に用いることができる。
次いでフリージングしたものを−30〜−40℃で急速凍結後、−18℃以下の冷凍庫に保存する。
【0011】
本発明において、ミックスに乳化剤および安定剤を全く配合していないため、上記のような条件下でフリージングすることにより、含有する乳脂肪の10〜40重量%が遊離脂肪となり、この遊離脂肪が網目構造体を形成し、フリージングによって生成した微細な氷晶体(水分の凍結結晶体)が遊離脂肪の網目構造体に包み込まれるような状態で保護されているため、ヒートショック耐性が高くなるのである。
その理由は、遊離脂肪が網目構造体を形成することは、一種のゲル体を形成していることに相当する。すなわち、アイスクリームミックス中の脂肪球は独立して分散しているが、フリージング中の撹拌による衝撃で、その脂肪球の中から滲みでた遊離脂肪がその周囲の脂肪球に付着して、脂肪球相互がつながっていく。その結果、つながった脂肪球が系全体に網目構造体を形成することになる。このことは、網目構造体が未形成のときの系をゾルとみなせば、網目構造体が形成された後の系はゲルが形成されたと考えることができる。そのため、アイスクリーム中の氷晶体が融解する温度に上昇しても、脂肪は融解しないので、網目構造体がそのまま保持され、ヒートショック耐性および保形性が付与されることになる。このように遊離脂肪の存在が重要な役割をはたすが、その量は10〜40重量%である。遊離脂肪量が10重量%未満の場合には、その量が足りなくなって系全体に網目構造体を形成させることができなく、また、40重量%を超えると脂肪球相互の凝集が進行し、網目構造体ではなく、大きな凝集体となって、この場合も網目構造体を形成しない。このようなことから、本発明においては網目構造体を形成させるために適度な遊離脂肪量を生成させることが必須である。
遊離脂肪量の測定は、ホイップクリームの遊離脂肪量を測定する方法と同様に、四塩化炭素を用いて遊離脂肪の抽出を行い、全脂肪量に対する値として算出できる。具体的には、少量の蒸留水でアイスクリームを溶解した後、分液ロートを用い四塩化炭素で遊離脂肪を2回抽出し、これに蒸留水を加え界面の分離をよくした後、四塩化炭素抽出画分を分取し、四塩化炭素を蒸発させ遊離脂肪の重量を測定する。全脂肪量はレーゼゴットリーブ法で測定する。
【0012】
本発明において、乳化剤および安定剤を全く配合していないミックスをフリーザーで、ダッシャーの回転数100 〜300 rpm 、出口温度−5〜−6℃でフリージングすることにより、目的とする本発明のアイスクリームを得ることができる。また通常フリージングの際に、オーバーランを出すが、オーバーランが増すと保形性の効果をより増幅することができる。すなわち、オーバーランが増すと、空気の熱伝導率が低いため、ヒートショック耐性が高くなる。
また、ミックスに乳化剤および安定剤を配合した場合には、ミックスの乳化安定性が増して遊離脂肪がほとんど生成されず、そして網目構造体が形成されない。またダッシャーの回転数が100rpm未満の場合には、攪拌力が弱いため、遊離脂肪を生成しない。一方、300rpmを超えると、遊離脂肪量が多くなって凝集し、乳脂肪の粒状化物を生成する。さらにフリーザーの出口温度が−5℃を超えると遊離脂肪量が増加して凝集し、粒状化物を生成するだけであり、−6℃未満では遊離脂肪量が少なく同様に網目構造体を形成しない。
従って、本発明においては、上記のフリージングの条件が総合されて目的とするアイスクリームを得ることができるのである。
【0013】
【試験例】
以下にミックスの乳脂肪率、およびフリーザーのダッシャーの回転数と出口温度を変化させた場合に得られたアイスクリームがどのように変化するか試験を行い、試験例1として示した。また乳化剤や安定剤の有無によってもどのように変化するか試験を行い試験例2として示した。
【0014】
【試験例1】
原料の配合
試験例1で用いるアイスクリームミックスを表1に示す配合率に基づいて調合した。尚、同時に成分についても示した。
【0015】
【表1】
注)表中の生クリームは、脂肪分40%、無脂乳固形分4.6 %であり、また脱脂濃縮乳は、脂肪分 0.3%で無脂乳固形分27.0%である。数値は全て重量%。
【0016】
ミックスの調製
生クリームと脱脂濃縮乳を混合して攪拌しながら40℃になるまで加温し、これにグラニュー糖および卵黄を添加した後、調合水の一部を加えて卵黄が均一に分散・溶解するまで十分に攪拌した。さらに残りの調合水を加えて65℃まで加温し、20分間保持した後、二段式均質機 (三和機械(株)社製、処理能力;3000l/H)を用いて一段目150kgf/cm2、二段目50kgf/cm2 で均質し、プレート式殺菌冷却機によって85℃、20秒間の殺菌を行い、直ちに5 ℃まで冷却した。これに所定量のバニラエキスを加え、5 ℃で一晩エージングしてミックスを調製した。
【0017】
アイスクリームの調製
上記のようにして調製したミックスを、フリーザー(APV-Crepaco 社製、型式;WS106GS,30形ダツシャー) に供給し、オーバーランを30%に固定し、他の条件は表2に示すフリージング条件で、フリージングした。得られたフリージング後のミックスをそれぞれ115 ml容の両面がポリエチレンコートされた円形紙容器に充填し、施蓋した後、-30 ℃で風速4m/sの急速凍結装置で硬化して試料のアイスクリームを得た。
【0018】
【表2】
【0019】
試料の比較評価
上記によって得られた各試料について、▲1▼製品の保形性、▲2▼官能評価、▲3▼網目構造の観察、▲4▼遊離脂肪量の測定を行って比較評価した。その結果を表3に示す。
尚、各項目における評価方法は、次の通りである。
▲1▼製品の保形性 ;容器から取り出した試料(アイスクリーム)を金網上に置き、20℃の無風の雰囲気下に1時間放置して融解落下量を測定した。保形性は、全重量に対する融解落下重量の比率(%)で表した。
▲2▼官能評価 ;20代の男子20名、女子23名の評価パネルによって、摂取した時の組織の滑らかさについて評価した。
評点は、以下の評価基準に基づいて評価した。
a) 著しく滑らかなもの :7点
b) 著しく粗いもの :1点
c) 上記a 、b の中間のもの:4点
▲3▼網目構造の観察;クライオシステムを装着した走査電子顕微鏡(日立製作所製型式;S-800)で、凍結状態を保持したまま観察できるクライオSEM法によって観察した。
▲4▼遊離脂肪の測定;少量の蒸留水でアイスクリームを溶解した後、分液ロートを用い四塩化炭素で遊離脂肪を2回抽出し、これに蒸留水を加え界面の分離をよくした後、四塩化炭素抽出画分を分取し、四塩化炭素を蒸発させて遊離脂肪の重量を測定した。全脂肪量はレーゼゴットリーブ法で測定した。
そして、全脂肪量に対する遊離脂肪量の割合を百分率(%)で示した。
【0020】
【表3】
【0021】
上記の表3から明らかなように、乳脂肪含有量が16重量%で乳化安定剤を含まないミックスを用い、ダッシャーの回転数 100〜300rpm、フリーザーの出口温度-5.0〜-6.0℃で製造した試料番号(6) 、(7) 、(10)、(11)、(14)、(15)のアイスクリームは、官能評価において、組織が滑らかであると評価され、保形性も良好なものであることが判る。またこの保形性を裏付ける遊離脂肪の量は、全て10〜40重量%の範囲にあり、しかもこの遊離脂肪が網目構造体を形成していることが走査電子顕微鏡によって確認された。
【0022】
一方、試料番号(1) 、(5) 、(9) 、(13)、(17)は、フリーザー出口温度が高いため、氷晶体が大きくなって粗い組織であると評価され、また遊離脂肪量も少なく、走査電子顕微鏡でも網目構造体が認められなかった。これが保形性を低下させている結果となっている。
試料番号(2) 、(3) 、(4) は、ダッシャー回転数が不足しているため練りが不足して粗い組織となり、遊離脂肪量も少なく、また網目構造体も形成されていないため、保形性が劣るものであった。
試料番号(18)は、遊離脂肪量が十分に生成されているのにもかかわらず網目構造体は一部認められただけで、他は凝集した脂肪塊として散在していた。このため保形性もあまり良くなかった。これはダッシャーの回転数が高すぎて、生成した網目構造体がすぐに破壊された可能性があると判断された。試料番号(8) 、(12)、(16)、(19)、(20)は、ザラザラした極めて悪い組織となり、保形性も良くなかった。これはフリーザーの出口温度が低いためにアイスクリームが硬くなり過ぎたものであり、またダッシャーの回転数が高いので攪拌力が強くなり過ぎて過度の遊離脂肪が生成して脂肪球が凝集し、バター状にチャーニングしたものと考えられる。
【0023】
上記の各試験例の中から、アイスクリームの組織、特に脂肪の状態の構造観察に用いた電子顕微鏡写真を図として示す。
図(写真)1は、試料番号(9) を3000倍で観察した走査電子顕微鏡像で、連続相中には矢印Fで示した1μm 程度の脂肪球が均一に分散している。大きな円形は気泡である。この走査顕微鏡像によると、網目構造体が全く形成されていないことが判る。
図(写真)2は、試料番号(10)の構造で、強制的にヒートショック試験(−5℃5時間、−25℃9時間を30回繰り返す)を実施した後の試料を観察(3000倍) したものである。試料番号(9) で認められたような脂肪球(矢印F)の数が明らかに少なく、脂肪球から遊離した脂肪 (矢印FF) が結晶化し網目構造体を形成している。写真中の記号Wと矢印Wは、無脂乳固形、砂糖などが水に溶解した連続相で、微小粒子の集合体として観察される。
図(写真)3は、図(写真)2の拡大像(4500倍)で各記号は図(写真)2と同様である。遊離脂肪の網目構造体と連続相の区別が明瞭である。
図(写真)4は、試料番号(12)を 100倍で観察したものである。この試料は(9) 、(10)と異なり、遊離した脂肪が凝集し、矢印で示した大きな脂肪塊(約 300μm)として存在している。これがチャーニングしたバター粒である。
このようにフリーザーの出口温度とダッシャー回転数といった操作条件を制御することによって、遊離脂肪よる網目構造体が形成される。
【0024】
【試験例2】
試料の調製
試験例1の表1に示したのと同じ原料を同じ比率で配合したミックスを2個調製し、このミックスの1個にローカストビーンガムと微結晶セルロースを2:3の割合で混合した安定剤 0.5重量%を配合し、もう1個のミックスに乳化剤としてステアリン酸モノグリセリドを 0.2重量%を配合して安定剤と乳化剤の配合されたミックスをそれぞれ調製した。この2種類のミックスをそれぞれ均質・殺菌等の処理を行った後フリーザーに導入し、ダッシャー回転数150 と250 rpm 、出口温度-5.5℃でフリージングして、急速凍結装置で硬化し、試料(21)、(22)を調製した。この試料(21)と(22)を試験例1に従って、保形性、網目構造、遊離脂肪量について同様に評価を行った。ただし、官能評価は、風味のみについて評価した。評価した結果を表4に示す。
【0025】
【表4】
【026】
試験例2は、試験例1によって確認された好ましい範囲の製造条件において、ミックスに安定剤や乳化剤を配合した場合の変化について調べたものである。
表4から明らかなように、官能評価において、安定剤や乳化剤の風味や食感が感じられ、また遊離脂肪量も少ない。これは、安定剤や乳化剤がミックスに配合されているために、その風味がアイスクリームに現れ、また遊離脂肪量についてはミックスの乳化力が増してフリージング中に解乳化がされずらくなっているものと判断される。そしてこの乳化力増加に伴う遊離脂肪量の減少によって、網目構造体が形成されず、それが保形性の低下になっている。
【0026】
【実施例】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明する。
【実施例1】
脂肪率40%の生クリーム35重量%と無脂乳固形率27%の脱脂濃縮乳30.4重量%をタンクに投入して攪拌しながら40℃まで加温した。これにグラニュー糖14重量%を加えて分散・溶解したものに、調合水18.4重量%の一部と生卵黄2.0 重量%を添加して卵黄を充分に分散させた後、残りの調合水を加えて65℃まで昇温した。これを20分間保持した後、二段式均質機( 三和機械(株)社製 処理能力;3000l/H)を用いて一段目150kgf/cm2、二段目50kgf/cm2 で均質し、プレート式殺菌冷却機によって85℃、20秒間の殺菌を行い、直ちに5 ℃まで冷却した。これにバニラエキス0.2 重量%を加え、5 ℃で一晩エージングしてミックスを調製した。
このミックスをフリーザー(APV クレパコ社製 型式; WS106GS 30形ダッシャー)に導入して、ダッシャー回転数200rpmでオーバーラン23%、フリーザーの出口温度-5.3℃でフリージングした。フリージングしたものを115ml 容プラスチック製容器に入れ、施蓋後、−30℃で静置して凍結硬化し、アイスクリームとした。
このアイスクリームは、風味が良好で、また遊離脂肪量は23重量%で、走査電子顕微鏡で観察したところ、網目構造体が観察され、保形性も良好なものであった。
【0027】
【実施例2】
脂肪率40%の生クリーム40重量%と無塩バター(脂肪率83%)5.0 重量%、および無脂乳固形率27%の脱脂濃縮乳30.4重量%をタンクに投入して攪拌しながら40℃まで加温した。これにグラニュー糖15.0重量%を加えて分散・溶解したものに、調合水7.4 重量%の一部と生卵黄2.0 重量%を添加して卵黄を充分に分散させた後、残りの調合水を加えて65℃まで昇温した。これを20分間保持した後、二段式均質機を用いて一段目150kgf/cm2、二段目50kgf/cm2 で均質し、プレート式殺菌冷却機によって85℃、20秒間の殺菌を行い、直ちに5 ℃まで冷却した。これにバニラエキス0.2 重量%を加え、5 ℃で一晩エージングしてミックスを調製した。
このミックスをフリーザー(APV クレパコ社製 型式; WS106GS 30形ダッシャー)に導入して、ダッシャー回転数180 rpm でオーバーラン10%、フリーザーの出口温度-5.8℃でフリージングした。フリージングしたものを115ml 容プラスチック製容器に入れ、施蓋後、−30℃で静置して凍結硬化し、アイスクリームとした。
このアイスクリームの遊離脂肪量は21.5重量%で、走査電子顕微鏡で観察したところ、網目構造体が観察され、保形性も良好なものであった。また風味も良好であった。
【0028】
【発明の効果】
アイスクリームは、流通過程や保存中にヒートショックを受けることがあって、ヒートショックを受けると保形性が低下したり変形することが避けられない。このようなことからアイスクリームの保形性を向上させるために、一般的にはミックスに安定剤や乳化剤を配合しているが、安定剤や乳化剤を配合すると、それがアイスクリームの風味や食感の低下となって現れる。
これに対して、本発明のアイスクリームは、安定剤や乳化剤を一切含有せず、配合されている乳脂肪の一部が遊離脂肪となり、この遊離脂肪が網目構造体を形成している。そして、その網目構造体にフリージングによって生成した微細な氷晶体(水分の凍結結晶体)が包み込まれるような状態で保護されている。これによって、遊離脂肪からなる網目構造体は、融点が高いため、氷晶体が融解するような温度であっても保護され、保形性が高くなりヒートショック耐性が向上する。従って、本発明のアイスクリームは、食品の最も重要な要件である風味が良いといった機能を維持しながら、保形性が改善されているものである。
【図面の簡単な説明】
本発明の試験例1のアイスクリームと対照のアイスクリームとの組織、特に脂肪の状態を示す説明図(走査電子顕微鏡写真)である。
【図1】本発明の試験例1における対照のアイスクリームの組織、特に脂肪の状態を示す説明図 (走査電子顕微鏡写真)(倍率3000倍)。
【図2】本発明の試験例1におけるヒートショック後の本発明のアイスクリームの組織、特に脂肪の状態を示す説明図 (走査電子顕微鏡写真)(倍率3000倍)。
【図3】本発明の試験例1における図2の拡大像を示す(倍率4500倍)。
【図4】本発明の試験例1における対照のアイスクリームの組織の状態を示す(倍率100 倍)。
Claims (1)
- 無脂乳固形分、乳脂肪、糖類、および卵成分を主要成分とし、乳脂肪含有量の10〜40重量%が遊離脂肪からなり、かつ遊離脂肪が網目構造体を形成して氷晶体を包含しているアイスクリーム。
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