JP3775277B2 - 湿式粉砕方法およびその方法により製造したスラリー組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、無機粉体または有機固体物質の湿式粉砕方法に関し、さらに詳しくは、高濃度においても粘性変動の少ないスラリーを得る湿式粉砕方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
粉砕法により粉体の微粒化を実施する場合、乾式法よりも湿式法の方が粉砕速度も速く微粉の生成に適している。また湿式粉砕においては、高濃度のスラリーで粉砕を実施する方が、生産効率、粉砕メディア(以下、単にメディアということもある)の摩耗の観点などから有利である。
【0003】
しかしながら、スラリー濃度の上昇によって、スラリーの粘性(以下、スラリー粘度ともいう)が増加するため、配管の閉塞などハンドリング上の問題が発生する。特に、媒体攪拌型の粉砕機を使用した場合、スラリー粘度が上昇することによって、メディアとスラリーとの分離が困難となり、運転が継続できなくなるなどの問題点がある。スラリー粘度は被粉砕物が微粒化するにつれて増加するため、特に微粒子状で粘性の安定なスラリーを得ることは困難であった。
【0004】
さらに、金属酸化物の粉体のように、水媒体中で水酸基を有する粉末は、粉砕直後は低粘性であっても、粉砕後のスラリーを放置すると、時間の経過とともに粘性が増加する場合がある。このような場合には、後工程でスラリーを使用する時に希釈したり、分散剤などをさらに添加しないと、そのスラリー自身の粘度が高すぎて使用できなくなることがある。
【0005】
そこで、従来は、経験的に、スラリー濃度をあらかじめ低くして粉砕したり、分散剤をあらかじめ多量に添加するなどして、安定なスラリーを得ていた。
【0006】
しかしながら、スラリー濃度を低下させると、生産効率が低下し、メディアの摩耗が増加するだけでなく、後工程で乾燥などの処理を実施する場合にはその負荷も大きくなる。
【0007】
一方、分散剤を多量に添加する方法は、例えばセラミックス焼結体原料などに用いる場合には、その後の脱脂工程への負荷が増加したり、製品へ悪影響を及ぼすなどの問題点があった。
【0008】
さらに、スラリー粘度が上昇するために、粉砕処理を継続することができず、所望の粒子径のスラリーが得られない場合もあった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記の事情に鑑み、少量の分散剤を用いた場合でも、高濃度かつ微粒子状の安定なスラリーを得る湿式微粉砕方法、およびそのような方法により製造された微粒子状粉体を含むスラリー組成物を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、特に少量の分散剤を使用した高濃度のスラリー状態で粉体を湿式粉砕する際に、分散液の粘性に影響する因子を種々検討した結果、粉砕時に使用する粉砕メディアの大きさがスラリーの粘性(スラリー粘度)に大きな影響を与えることを見出した。すなわち、同一の平均粒径まで粉砕したとき、使用する粉砕メディアの粒径を小さくすることで、スラリー粘度を低減できることを見出した。その結果、小径のメディアを使用することで、従来得られているものよりも高濃度のスラリーを、少量の分散剤を用いて微粉砕することが可能となった。
【0011】
しかしながら、被粉砕物の粒子径が大きい場合、小さいメディアを使用すると被粉砕物中の粗粒分が残存することが知られている。そのため、多段で粉砕することによって、粗粒分の残存を抑制する手法が提供されている(特公平7−98157号公報)。しかしながら、このような場合、多段粉砕の切り替えのタイミングについては詳しい検討がなされておらず、粉砕途中で粘性が増加し、粉砕機の運転の継続が困難になったり、後工程での処理が、ハンドリング等を含めて、困難になるなど、さまざまな問題が発生していた。
【0012】
本発明者は粉砕メディアの切り替えのタイミングについて鋭意検討した結果、粉砕スラリーを放置したときにスラリー粘度の変動幅が少ない時点で、小径の粉砕メディアへの切り替えを行うことで、その後に行われる追加粉砕時のスラリー粘度の安定性が維持できることを見出した。そして、この手法を用いることで、少量の分散剤を使用することによる従来には得られなかった高濃度で微粒のアルミナスラリーが効率よく得られることを見出した。
【0013】
本発明はこれらの研究開発成果に基づくもので以下の各発明からなる。
【0014】
(1)粉体を湿式粉砕する際に順次メディア径の小さい粉砕メディアを使用して多段粉砕する湿式粉砕方法において、あらかじめ多段粉砕とは別に予備粉砕を実施し、予備粉砕後のスラリーを放置し、放置前後の粘度の差が実使用上の許容範囲内であって粉砕粉の粒径が最少となる時点での粉砕粉の平均粒径を決定し、多段粉砕において該予備粉砕と同一直径のメディアを用いた粉砕では、粉砕粉がその平均粒径に達する直前に、粉砕メディアの直径を小さいものに切り替えることを特徴とする湿式粉砕方法。
(2)多段粉砕と別に実施する予備粉砕を、多段粉砕と同一直径のメディアを用いて実施することを特徴とする(1)に記載の湿式粉砕方法。
【0015】
(3)上記予備粉砕による粉砕粉の平均粒径の決定を、粉砕メディア直径が異なる複数の多段粉砕条件で行い、多段粉砕において、粉砕粉が同一メディア直径において決定された平均粒径に達する直前に、粉砕メディア直径を小さいものに切り替える操作を2回以上実施することを特徴とする(1)または(2)に記載の湿式粉砕方法。
【0016】
(4)予備粉砕時のスラリーの放置時間が3日間であり、スラリーの放置前後、の粘度の差の許容範囲が100cP以下である(1)〜(3)の何れか1項に記載の湿式粉砕方法。
【0017】
(5)粉砕メディアが、高純度アルミナボールまたはジルコニアボールである(1)〜(4)の何れか1項に記載の湿式粉砕方法。
【0018】
(6)粉体が金属酸化物または金属塩である(1)〜(5)の何れか1項に記載の湿式粉砕方法。
【0019】
(7)粉体がアルミナである(1)〜(5)の何れか1項に記載の湿式粉砕方法。
【0020】
(8)アルミナの平均粒径が1〜150μmの範囲内である(7)に記載の湿式粉砕方法。
【0021】
(9)アルミナの比表面積が1m2/g以上である(7)または(8)に記載の湿式粉砕方法。
【0022】
(10)粉砕後のアルミナの比表面積が20m2/g以上である(6)〜(9)の何れか1項に記載の湿式粉砕方法。
【0023】
(11)(1)〜(10)のいずれか1項に記載の湿式粉砕方法で製造したスラリー組成物。
【0024】
(12)スラリー組成物が、固形物濃度が70質量%以上、分散剤の有効成分濃度が固形物量に対して1質量%以下である(11)に記載のスラリー組成物。
【0025】
(13)スラリー組成物が、固形分濃度が70質量%以上、分散剤の有効成分濃度が固形物量に対して0.5質量%以下、固形分の比表面積が20m2/g以上、粘性の変化が製造直後より3日間放置後に100cP以下である(11)に記載のスラリー組成物。
(14)スラリー組成物が、アルミナスラリー組成物である請求項13に記載のスラリー組成物。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0027】
本発明において被粉砕物は、微粉砕した後の粉砕スラリーが増粘性を示すなど通常は粘性の安定しない物であれば、何ら限定されるものではなく、無機物質および有機物質のいずれの粉体も本発明に適用することができる。無機物質の粉体としては、例えばアルミナ、水酸化アルミニウム、ジルコニア、チタニア、ムライト、カオリナイト、アンダルサイトなどの金属酸化物の粉体、硫酸バリウム等の金属塩の粉体、鉄鉱石等の鉱石類の粉体、各種無機触媒の粉体などがあげられる。これらのうちアルミナ、水酸化アルミニウム、ジルコニア、チタニア、硫酸バリウム、シリカが好適であり、特にアルミナが好適である。有機物質の粉体としては、有機顔料、有機染料、有機顕色剤、有機ポリマー等の粉体があげられる。
【0028】
またその他の粉体の例としては、シリカ、タルク、バライト粉、炭酸バリウム、亜鉛華、硫化亜鉛、酸化アンチモン、カーボンブラック、アセチレンブラック、アニリンブラック、黄鉛、亜鉛黄、クロム酸バリウム、酸化鉄、アンバー、パーマネントブラウン、バラブラウン、べんがら、カドミウムレッド、パーマネントレッド4R、パラレッド、ファイヤーレッド、コバルト紫、マンガン紫、ファストバイオレットB、メチルバイオレットレーキ、群青、紺青、アルカリブルーレーキ、フタロシアニンブルー、クロムグリーン、ビリジアン、エメラルドグリーン、フタロシアニングリーン、硫化亜鉛、珪酸亜鉛、硫化亜鉛カドミウム、硫化ストロンチウム等がある。
【0029】
被粉砕物の粒径についても、なんら、限定されるものではないが、一般的には平均粒径で、1〜200μm、好ましくは1〜150μm、さらに好ましくは1〜100μmのものが用いられる。また、その比表面積については、例えば1m2/g以上、好ましくは5m2/g以上、さらに好ましくは20m2/g以上のものが用いられる。
【0030】
分散媒は被粉砕物に対して非溶媒であれば、特に限定されるものではなく、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類、マシーン油、ベンジン、植物油等の油類などから被粉砕物と粉砕目的に応じて選定すれば良い。
【0031】
湿式粉砕装置についても、ボールミル、振動ミル、遊星ボールミル、アトライター、ビーズミルなどの粉砕メディアを使用するものであれば特に限定されない。特に、微粒子状粉体を得るためには、アトライター、ビーズミル等の媒体攪拌型粉砕機を用いるのが好適である。また、回分式(バッチ式)、連続式などその運転形態についてもなんら限定されるものではない。連続粉砕方式であれば、被粉砕物と溶媒をスラリー槽中で混合し、均質なスラリーを得た後、また回分式の場合には、被粉砕物と溶媒の所定量をスラリー化せず直接、粉砕機に供することができる。
【0032】
この際、必要に応じて分散剤を添加することもできる。分散剤は、被粉砕物、分散媒に応じて適宜選択することができるが、例えば低分子又は高分子のカルボン酸塩、スルホン酸塩、リン酸エステル塩、硫酸エステル塩等の界面活性剤があげられる。添加量については、前述のように必要最小限とするのが望ましく、セラミックス粉体用途などにおいては、有効成分として粉体の固形物量に対し好ましくは1質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下であることが望ましい。
【0033】
被粉砕物と分散媒等(例えば分散剤等の他の液体を含む。)との割合(スラリー濃度)については、粉砕効率等を考慮すれば、可能な限り高い方が有効である。
【0034】
スラリー濃度=(被粉砕物/(被粉砕物+分散媒等))
とした場合、スラリー濃度は、通常60質量%以上、望ましくは70質量%以上、さらに望ましくは80質量%が好ましい。
【0035】
被粉砕物が凝集粒からなり、粉砕とともに、一旦スラリー粘度が低下する性質を持っているものである場合は、粉砕の進行に伴って、被粉砕物を追加し、最終的に高濃度のスラリーとすることも可能である。
【0036】
使用する粉砕メディアとしてはガラスビーズ、ジルコニア、アルミナなどのセラミックビーズ、スチールボール等の通常、固体物質の粉砕に使用される粉砕メディアがあげられる。これらの粉砕メディアから被粉砕物の硬度、粉砕メディアの摩耗粉の混入(コンタミネーション)が許容し得るか否かにより適宜選定すればよい。
【0037】
粉砕メディアの粒径(粉砕メディア直径または粉砕メディア径。)については、被粉砕物の粒径に応じて粗粒分が残らない大きさのものを選定すれば良い。通常はジルコニア、アルミナなどのセラミックスビーズが使用されるが、アルミナビーズは高純度のアルミナを使用したものでないと摩耗量が多すぎて実使用に耐えられない。しかしながら、高純度のアルミナビーズは粒径が1mmφ以下のものは汎用的ではなく、微小粒径のセラミックビーズとしては、ジルコニアビーズを使用するのが好ましい。
【0038】
湿式粉砕においては、一般的にある程度の粉砕メディアの摩耗による不純物の混入は避けられない。このため、例えばジルコニア、アルミナの粉砕においては、被粉砕物と同材質の粉砕メディアを使用することで、純度の維持を図ることができる。アルミナの粉砕においては、上述のように高純度アルミナメディアは事実上1mmφより大きいものしか使用できないため、微粒子状のαアルミナを粉砕メディアの混入なしに得ることは困難であった。
【0039】
本発明の湿式粉砕方法では、2段以上の多段粉砕を行うことにより前述の課題の解決を図ることができる。これを、アルミナの2段粉砕の場合を例として以下に説明する。例えば、1mmφより大きな高純度アルミナメディアを用いて、予備粉砕により決定した粘性の変動しない最小の粒径まで粉砕した後、例えば1mmφ以下のジルコニアメディアを使用した2段目の粉砕を行うことで、スラリー粘度が安定で不純物の混入が通常のセラミックス用途などでは問題とならないレベルである0.5質量%以下とすることが可能である。この際、1段目の粉砕に用いるボール径については、特に限定されないが、5mmφ以下の、99.9%以上の純度のアルミナボール、さらに好ましくは、3mmφのアルミナボールを使用するのがよい。
【0040】
本発明の湿式粉砕方法では、本粉砕の前に、まず予備粉砕を実施する。予備粉砕は、一連の本粉砕(多段粉砕)の前に、多段粉砕の粉砕段数に応じて、好ましくは多段粉砕と同一径のメディアを用いて行う。例えば多段粉砕の1段目と2段目の切り替え時のタイミングを決定する予備粉砕では、多段粉砕の1段目と同一径のメディアを用いて、多段粉砕の1段目と同一のスラリーを用いて条件出しを行う。また、多段粉砕の2段目と3段目の切り替え時のタイミングを決定する予備粉砕では、多段粉砕の2段目と同一径のメディアを用いて、多段粉砕の2段目と同一のスラリーを用いて条件出しを行う。また、多段粉砕の3段目と4段目の切り替え時のタイミングを決定する予備粉砕では、多段粉砕の3段目と同一径のメディアを用いて、多段粉砕の3段目と同一のスラリーを用いて条件出しを行う。
【0041】
本発明の湿式粉砕方法では、多段粉砕の段数に応じて複数条件の予備粉砕を行い、多段粉砕の各段の切り替え時の全てのタイミングを決定しておくことが好ましいが、必ずしも多段粉砕の全ての切り替え時のタイミングを決定しておく必要はなく、多段粉砕の1回以上のメディア変更時において本発明の製造方法を実施すれば本発明の効果が得られる。
【0042】
また本発明の、予備粉砕による粘度変化が少ない平均粒径の決定は、一連の本粉砕(多段粉砕)と平行して実施するのは予備粉砕スラリーの放置時間の確保上困難であり、本粉砕に先立って予備粉砕を実施し、多段粉砕時の、全てのメディアの、変更のタイミングを決定しておくのが好ましい。
【0043】
予備粉砕の進行により、被粉砕物は微粒化し、スラリー粘度は上昇する。また、粉砕直後のスラリーが低粘性であっても、時間の経過とともに粘性が増加する場合がある。このため、あらかじめ粉体のスラリーを所定時間粉砕する毎にサンプリングし、サンプリング直後の粘度と所定時間放置した後の粘度とをそれぞれ測定して、放置前後の粘度の差(以下、単に、粘度差という)が所定基準より小さくなる最も細かい平均粒子径を求める。粘度差は通常のハンドリングで問題を生じない範囲の値であれば特に限定されないが、好ましくは100cP以下とするのがよい。放置期間は、スラリー粘度がそれ以上変化せず、スラリーの製造後から実際に使用されるまでの貯蔵期間等を考慮した実使用条件に近いところで適宜選択すればよい。一般的には、放置期間は3日、より好ましくは10日とするのが好ましい。
【0044】
本粉砕においては、粉体の平均粒径が予備粉砕で求めた平均粒径に到達する直前に、一次粉砕で使用したものより粒径の小さい粉砕メディアに切り替え、粉砕を継続する。さらに、この操作を所望の平均粒径のスラリーが得られるまで必要な回数(段数)、繰り返し実施すればよい。
【0045】
粉砕メディアの切り替えにあたっては、粉砕の進行に伴って、より粒径の小さい粉砕メディア(以下、小径メディアともいう)に切り替えないと粘性安定化の効果はない。本粉砕において、予備粉砕で求めた粘度変化の少い最小平均粒子径よりも細かく粉砕した後、小径メディアに切り替えても、もはや、得られたスラリーの粘性は安定しない。また、この最小平均粒子径よりもはるかに粗いところで、小径メディアに切り替えると、前述のように未粉砕の粗大粒が残存するため好ましくない。したがって、予備粉砕で求めた最小粒径の直前で小径メディアに切り替えるのが最も好ましい。
【0046】
3段以上の多段粉砕においても2段粉砕の場合と同様に、予備粉砕で求めた、粘度差が所定基準より小さくなる最も細かい平均粒子径に到達する直前に小径メディアに切り替えることを繰り返して各段の操作を行えばよい。この場合、予備粉砕においては、それぞれの粒径のメディアを用いて粉砕を行い放置前後のスラリーの粘度を測定すればよい。
【0047】
本発明の湿式粉砕方法によって、安定なスラリーが得られる理由については、明らかではないが、以下の理由であると推定している。
【0048】
粉砕が進むにつれて、粉体の比表面積は増大し、粉体表面に束縛される溶媒の量が増加し、相対的に自由溶媒量が減少するため、粘性は増加してくる。このとき、メディア径が大きいと、メディア1個当りの衝撃エネルギーが大きいため、衝撃粉砕が優勢になる。この場合、粉砕により新たに生じた表面は大きな表面エネルギーを持つため、その分、多量の溶媒を表面に束縛する。一方、メディア径が小さいと、メディア1個あたりの衝撃エネルギーはそれほど大きくはなく、この場合に生じる新たな表面は、大きな粉砕メディアを使用した場合と比較して、表面エネルギーは低く、それほど多くの溶媒を束縛しない。したがって、小径メディアで粉砕することによってスラリー粘度を低くできるものと考えられる。
【0049】
スラリー粘度の経時変化についても、その機構は明らかにされていないが、酸化物粉体のように水中で水酸基を有するものについては、以下のようであると推定している。
【0050】
上述のように、粉砕によって生じた新たな表面は、溶媒を表面に束縛する。しかし、その後の時間の経過とともに、表面の束縛水が粉体表面で水酸基となり、いわゆる再水和現象を起こし、溶媒を徐々に取りこんでいき、さらに自由水が低減していく。このため、粉砕完了後、スラリーを放置しておくことで、その粘性が増加していくものと推定している。
【0051】
この再水和現象は粉砕によって新たに生じる表面の活性により影響を受けることが知られている。従って、前述のようにメディア径が大きいものほど、表面活性が高いので、スラリー中の粉体における再水和量も多くなり、放置後のスラリーの粘性増加も大きくなる。しかも、一旦、粘性増加を示す領域までスラリーが粉砕されると、その後、小径メディアで表面エネルギーの増加を抑制しながらこのスラリーを粉砕しても、再水和現象が生じ、放置後に粘性は増加する。
【0052】
したがって、本発明のように、特定のタイミングで順次メディア径を減少させていき、表面エネルギーの上昇を最小限に抑えながら、粉砕を進めることで、粉砕直後のみならず、数日間放置後でも、低粘性のスラリーを得ることが可能となるものと考えられる。
【0053】
【実施例】
以下、実施例・比較例によって、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
(粉砕条件)
粉砕機としてビーズミル(アシザワ株式会社製RL−10型)を用い,被粉砕物粉体として平均粒径が50μm、BET比表面積が6m2/gのアルミナ50kg、純水20kg、分散剤(ポリカルボン酸アンモニウム、東亞合成製アロンA−6114、有効成分40質量%)625gを使用して、固形分濃度約70質量%のスラリーを作製後、スラリーをビーズミルと分散用タンクの間を循環させながら粉砕した。図1に、実験フローを示した。
【0055】
図1に示す粉砕システムは、分散用タンク1、一次粉砕用粉砕機2、二次粉砕用粉砕機3、スラリーポンプ4、分散用タンク1の撹拌機11、バルブ14,15を備える。
【0056】
被粉砕物粉体であるアルミナ粉体は分散用タンク1内で、分散剤であるポリカルボン酸アンモニウムと共に撹拌機11で撹拌分散されスラリー化する。この粗分散液は、一次粉砕用粉砕機2に導入され、分散用タンク1と一次粉砕用粉砕機2の間をスラリーポンプ4で循環され、微粉砕される。スラリーの粉体の平均粒径が予備粉砕により決定された所定粒径に達したところで、バルブ14を閉、バルブ15を開にして、二次粉砕用粉砕機3にスラリーを導入し、分散用タンク1と2次粉砕用粉砕機3の間をスラリーポンプ4で循環し、更に微粉砕する。
【0057】
本実施例では一次粉砕用粉砕機2と二次粉砕用粉砕機3とは同じ装置を用いたが、両者を別の装置や、別の方式のものを用いてもよい。また更に粉砕メディアを変更して微粉砕を続ける場合は、二次粉砕用粉砕機3による粉砕中に、一次粉砕用粉砕機2の内部の洗浄と粉砕メディアの変更を行い、一次粉砕用粉砕機2を三次粉砕用粉砕機とし、バルブ14、15の切り替えにより、二次粉砕用粉砕機3による微粉砕から切り替えればよい。
【0058】
(実施例1)
予備粉砕メディアとして3mmφのアルミナメディアを用いて、ビーズミル(アシザワ株式会社製RL−10型)を用い,被粉砕物粉体として平均粒径が50μm、BET比表面積が6m2/gのアルミナ50kg、純水20kg、分散剤(ポリカルボン酸アンモニウム、東亞合成製アロンA−6114、有効成分40質量%)625gを使用して、固形分濃度約70質量%のスラリーを予備粉砕した。
【0059】
10分毎にスラリーのサンプリングを行い、粉砕直後および、3日間放置後のスラリー粘度を測定した。その結果、平均粒径が0.80μmまでは、粉砕直後のスラリー粘度は100cP以下であった。さらに、3日間放置後のスラリー粘度も150cP以下であり、放置前後でのスラリー粘度の変動はほとんどなかった。一方、平均粒径が0.80μmより細かくなると、粉砕直後のスラリー粘度は40cP前後であったが、スラリーを3日間放置するとスラリー粘度は急激に増加し、200cP以上となった。スラリーの粘度はさらに、その後、数日経過しても変化はなかった。
【0060】
図2は予備粉砕における粉砕粉の平均粒径(μm)、スラリーの粘度(cP)、3日間放置後のスラリー粘度(cP)を予備粉砕時間(平均滞留時間)(分)に対してプロットしたグラフである。図中、◇のプロットは、予備粉砕時間とスラリーの粉砕粉の平均粒径との関係と予備粉砕直後の粘度との関係を、○のプロットは、予備粉砕時間と3日間放置後のスラリー粘度との関係を示す。
【0061】
次に、予備粉砕と同条件で本粉砕(多段粉砕)を実施し、平均粒径0.80μmまで多段粉砕の第1段目を60分間実施し、さらに、得られたスラリーを1mmφのジルコニアボールを用いて、0.60μmまで第2段目の多段粉砕を実施した。
【0062】
図2に多段粉砕の第2段目の粉砕で10分後、20分後の平均粒径(図中◆のプロット)、粉砕直後のスラリーの粘度(図中◆のプロット)、3日間放置後のスラリーの粘度(図中●のプロット)を併記する。なお、第2段目の粉砕時間10分の結果を予備粉砕時間70分の位置に、第2段目の粉砕時間20分の結果を、予備粉砕時間80分の位置に便宜的にプロットした。
【0063】
第2段目の粉砕を20分間行ったスラリーの粉砕直後の粘度は30cPであったが、得られたスラリーを3日間放置した後のスラリー粘度は60cPであった。また、固形物の比表面積は23m2/gであった。粉砕メディアから混入したジルコニアの量は酸化物換算でアルミナ中の0.3質量%であった。
【0064】
(比較例1)
実施例1と同条件で0.73μmまで一次粉砕し、さらに、得られたスラリーを1mmφのジルコニアボールを用いて、0.68μmまで二次粉砕した。粉砕直後のスラリー粘度は30cPであった。得られたスラリーの3日間放置後のスラリー粘度は1000cP以上となった。
【0065】
(比較例2)
実施例1と同条件で0.67μmまで一次粉砕したところ、スラリー粘度は40cPであったが、3日間放置後の粘度は1000cP以上となった。図2に粉砕後の平均粒径(図中に◇でプロット)、粉砕直後の粘度(図中に◇でプロット)、3日間放置後の粘度(図中に○でプロット)の測定結果を示す。
【0066】
【発明の効果】
本発明の湿式粉砕方法を用いて、粉砕時に特定のタイミングで順次小径メディアを用いることにより、粗粒分の残存が少なく、しかも、分散剤の添加量が少なくても、高濃度で、粘性の安定した微粒スラリーを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】粉砕の実験フローを示す図である。
【図2】粉砕された粉体の粉砕時間と、粉砕後の平均粒径、粉砕直後のスラリー粘度、3日間放置後のスラリー粘度の変化を示すグラフである。
【符号の説明】
1 分散用タンク
2 一次粉砕用粉砕機
3 二次粉砕用粉砕機
4 スラリーポンプ
11 撹拌機
14 バルブ
15 バルブ
Claims (14)
- 粉体を湿式粉砕する際に順次メディア径の小さい粉砕メディアを使用して多段粉砕する湿式粉砕方法において、あらかじめ多段粉砕とは別に予備粉砕を実施し、予備粉砕後のスラリーを放置し、放置前後の粘度の差が実使用上の許容範囲内であって粉砕粉の粒径が最少となる時点での粉砕粉の平均粒径を決定し、多段粉砕において該予備粉砕と同一直径のメディアを用いた粉砕では、粉砕粉がその平均粒径に達する直前に、粉砕メディアの直径を小さいものに切り替えることを特徴とする湿式粉砕方法。
- 多段粉砕と別に実施する予備粉砕を、多段粉砕と同一直径のメディアを用いて実施することを特徴とする請求項1に記載の湿式粉砕方法。
- 上記予備粉砕による粉砕粉の平均粒径の決定を、粉砕メディア直径が異なる複数の多段粉砕条件で行い、多段粉砕において、粉砕粉が同一メディア直径において決定された平均粒径に達する直前に、粉砕メディア直径を小さいものに切り替える操作を2回以上実施することを特徴とする請求項1または2に記載の湿式粉砕方法。
- 予備粉砕時のスラリーの放置時間が3日間であり、スラリーの放置前後の、粘度の差の許容範囲が100cP以下である請求項1〜3の何れか1項に記載の湿式粉砕方法。
- 粉砕メディアが、高純度アルミナボールまたはジルコニアボールである請求項1〜4の何れか1項に記載の湿式粉砕方法。
- 粉体が金属酸化物または金属塩である請求項1〜5の何れか1項に記載の湿式粉砕方法。
- 粉体がアルミナである請求項1〜5の何れか1項に記載の湿式粉砕方法。
- アルミナの平均粒径が1〜150μmの範囲内である請求項7に記載の湿式粉砕方法。
- アルミナの比表面積が1m2/g以上である請求項7または8に記載の湿式粉砕方法。
- 粉砕後のアルミナの比表面積が20m2/g以上である請求項6〜9の何れか1項に記載の湿式粉砕方法。
- 請求項1〜10のいずれか1項に記載の湿式粉砕方法で製造したスラリー組成物。
- スラリー組成物が、固形物濃度が70質量%以上、分散剤の有効成分濃度が固形物量に対して1質量%以下である請求項11に記載のスラリー組成物。
- スラリー組成物が、固形分濃度が70質量%以上、分散剤の有効成分濃度が固形物量に対して0.5質量%以下、固形分の比表面積が20m2/g以上、粘性の変化が製造直後より3日間放置後に100cP以下である請求項11に記載のスラリー組成物。
- スラリー組成物が、アルミナスラリー組成物である請求項13に記載のスラリー組成物。
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