JP3758542B2 - 自動車用部材の素材に適した伸びと伸びフランジ性がともに優れた高張力鋼板 - Google Patents
自動車用部材の素材に適した伸びと伸びフランジ性がともに優れた高張力鋼板 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車用部材の素材に適した伸びと伸びフランジ性がともに優れた高張力鋼板に関する。
【0002】
【従来技術】
環境保全につながる燃費向上の観点から、自動車用鋼板の高強度薄肉化が強く求められているが、自動車用部材はプレス成形により得られる複雑な形状のものが多く、加工性の指標である伸びと伸びフランジ性がともに優れた材料が必要とされている。
【0003】
従来、この種の鋼板は種々提案されており、例えば、特開平6−172924号公報には、転位密度の高いベイニティック・フェライト組織が生成した伸びフランジ性に優れる鋼板が提案されている。しかし、この鋼板は、転位密度の高いベイニティック・フェライト組織を含むため伸びが乏しいという欠点がある。
【0004】
特開平6−200351号公報には、組織の大部分をポリゴナルフェライトとし、TiCを中心として析出強化および固溶強化した伸びフランジ性に優れる鋼板が提案されている。しかし、この鋼板に用いられている一般的によく知られた析出物では、寸法の大きい析出物が生成しやすく、伸びおよび伸びフランジ性を同一強度で比べると低いという欠点がある。
【0005】
特開平7−11382号公報には、微細なTiCおよび/またはNbCが析出したアシキュラー・フェライト組織を有した伸びフランジ性に優れる鋼板が提案されている。しかし、この鋼板も、先に述べた特開平6−172924号公報に提案された鋼板同様、アシキュラー・フェライトという転位密度の高い組織であるため十分な伸びが得られていない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、自動車用部材のようにプレス時の断面形状が複雑な用途に適した、加工性の指標である伸びと伸びフランジ性がともに優れた高張力鋼板を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、以下の知見を得た。
(1)転位密度が低い組織とし、微細析出物で強化すると、強度−伸びバランスが向上する。
(2)実質的に単相組織とし、微細析出物で強化すると、強度−伸びフランジ性バランスが向上する。
(3)Moを含む複合析出物とすると、析出物が微細に析出する。
(4)複合析出物中のMoの割合が低くなると、析出物が粗大化するため、伸びと伸びフランジ性がともに低下する。
【0008】
本発明はこれらの知見に基づいて完成されたものであり、以下の(1)〜(3)を提供する。
【0009】
(1) 質量%で、C:0.02〜0.06%、Si:0.3%以下、Mn:0.5〜2.0%、P:0.06%以下、S:0.005%以下、Al:0.06%以下、N:0.006%以下、Mo:0.1〜0.5%、V:0.05〜0.2%を含み、残部がFeおよび不可避不純物からなり、フェライトの面積比率が95%以上である組織であり、原子%でMo/(V+Mo)≧0.25を満たす範囲でVおよびMoを含む平均粒径10nm未満の析出物が分散析出していることを特徴とする、引張強度が590MPa以上の自動車用部材の素材に適した伸びと伸びフランジ性がともに優れた高張力鋼板。
【0010】
(2) 質量%で、C:0.02〜0.06%、Si:0.3%以下、Mn:0.5〜2.0%、P:0.06%以下、S:0.005%以下、Al:0.06%以下、N:0.006%以下、Mo:0.1〜0.5%、V:0.05〜0.2%を含み、Ti≦0.03%、Nb≦0.02%のうち1種以上を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなり、フェライトの面積比率が95%以上である組織であり、原子%でMo/(V+Mo)≧0.25を満たす範囲でVおよびMoを含む平均粒径10nm未満の析出物が分散析出していることを特徴とする、引張強度が590MPa以上の自動車用部材の素材に適した伸びと伸びフランジ性がともに優れた高張力鋼板。
【0011】
(3) 上記(1)または(2)において、質量%で、さらにCr:0.15%以下、Cu:0.15%以下、Ni:0.16%以下の少なくとも1種を含有することを特徴とする、自動車用部材の素材に適した伸びと伸びフランジ性がともに優れた高張力鋼板。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明に係る自動車用部材の素材に適した伸びと伸びフランジ性がともに優れた高張力鋼板は、質量%で、C:0.02〜0.06%、Si:0.3%以下、Mn:0.5〜2.0%、P:0.06%以下、S:0.005%以下、Al:0.06%以下、N:0.006%以下、Mo:0.1〜0.5%、V:0.05〜0.2%を含み、残部がFeおよび不可避不純物からなり、フェライト面積比率が95%以上であり、原子%でMo/(V+Mo)≧0.25を満たす範囲でVおよびMoを含む平均粒径10nm未満の析出物が分散析出している。また、上記成分に加え、Ti≦0.03%、Nb≦0.02%のうち1種以上を含有してもよい。
【0013】
・フェライト面積比率95%以上:
フェライト面積比率を95%以上としたのは、伸びの向上には転位密度の低いフェライトが有効であり、また、伸びフランジ性の向上には単相組織とすることが有効であり、特に延性に富むフェライト単相組織でその効果が顕著であるためである。
【0014】
・原子%で、Mo/(V+Mo)≧0.25の範囲でVおよびMoを含む平均粒径10nm未満の析出物:
VとMoとを含む析出物は微細となるため、鋼を強化するのに有効である。従来は、析出物としてVCを用いることが主流であったが、Vは析出物形成傾向が強いためMoを含まない場合には粗大化しやすく、強化に対する効果が低くなることから、必要な強化量を得るには加工性を劣化させるまでの析出物が必要となる。これに対し、VとMoとを含む複合析出物は微細に析出して加工性を劣化させずに鋼を強化することができる。これは、Moの析出物形成傾向がVと比べて弱いため、析出物が安定的に微細に存在できることで強化に対する効果が高く、加工性を良好に維持できる析出物量で必要な強化量が得られるためと考えられる。特に、この複合析出物の平均粒径を10nm未満とすることで、析出物周囲の歪みが転位の移動の抵抗にとってより効果的となり、良好な鋼の強化が得られるため、複合析出物を平均粒径10nm未満のものとすることが好ましい。さらに好ましくは、平均粒径5nm以下である。析出物が安定的に微細に存在できるためには、析出物の組成が影響し、析出物の組成が、原子比で、Mo/(V+Mo)≧0.25となると、析出物の粗大化を抑制する効果が高くなり、所望の微細析出物を得ることができる。
【0015】
・化学成分
本発明では、上記析出物を析出させるため、質量%で、C:0.02〜0.06%、Si:0.3%以下、Mn:0.5〜2.0%、P:0.06%以下、S:0.005%以下、Al:0.06%以下、N:0.006%以下、Mo:0.1〜0.5%、V:0.05〜0.2%であり、残部がFeおよび不可避不純物からなる。また、組織をより微細化させて伸びおよび伸びフランジ性をさらに向上させる場合には、上記成分に加えTi≦0.03%、Nb≦0.02%のうち1種以上を含有することが好ましい。以下、これら各成分について説明する。
【0016】
C:0.02〜0.06%
Cは炭化物を形成し、鋼を強化するのに有効である。しかし、0.02%未満では、鋼の強化が不十分であり、0.06%を超えて添加するとパーライトが形成されることと析出物が粗大化することから伸びと伸びフランジ性を損なうおそれがある。このため、C含有量は0.02〜0.06%が好ましい。
【0017】
Si:0.3%以下
Siは固溶強化には有効な元素であるが、0.3%を超えて添加すると、フェライトからのC析出が促進されて粒界に粗大な鉄炭化物が析出しやすくなって伸びフランジ性が低下する傾向となり、また、鋼板表面性状が劣化する。このため、Si含有量は0.3%以下が好ましい。
【0018】
Mn:0.5〜2.0%
Mnは固溶強化により鋼を強化する観点からは0.5%以上が好ましいが、2.0%を超えて添加すると偏析し、かつ硬質相が形成され、伸びフランジ性が低下する。このため、Mn含有量は0.5〜2.0%が好ましい。
【0019】
P:0.06%以下
Pは固溶強化に有効であるが、0.06%を超えて添加すると偏析して伸びフランジ性が低下するおそれがあるため、0.06%以下が好ましい。
【0020】
S:0.005%以下
Sは少ないほど好ましく、0.005%を超えると伸びフランジ性を低下させるおそれがあるため、0.005%以下が好ましい。
【0021】
Al:0.06%以下
Alは脱酸剤として添加される。しかし、0.06%を超えると伸びおよび伸びフランジ性がともに低下する傾向にあるため0.06%以下が好ましい。
【0022】
N:0.006%以下
Nは少ないほど好ましく、0.006%を超えると粗大な窒化物が増え、伸びフランジ性が低下する傾向にあるため0.006%以下が好ましい。
【0023】
Mo:0.1〜0.5%
Moは本発明において重要な元素であり、0.1%以上含有させることで、パーライト変態を抑制しつつ、Vとの微細な複合析出物を形成し、優れた伸びおよび伸びフランジ性を確保しつつ、鋼を強化することができる。しかし、0.5%を超えて添加すると硬質相が形成され伸びフランジ性が低下する。このため、Mo含有量は0.1〜0.5%が好ましい。
【0024】
V:0.05〜0.2%
Vは本発明において重要な元素である。Moと複合析出物を形成することで、優れた伸びおよび伸びフランジ性を確保しつつ、鋼を強化することができる。しかし、0.05%未満では、鋼を強化する効果が不十分であり、0.2%を超えると伸びが劣化する。このため、V含有量は0.05〜0.2%が好ましい。
【0025】
Ti:0.03%以下
Tiは、N固定および組織の細粒化に有効であり、優れた伸びと伸びフランジ性を得ることに寄与するため、必要に応じて添加する。しかし、Ti量が0.03%を超えると伸びが劣化する傾向にあるため、Tiを含有させる場合には0.03%以下が好ましい。なお、TiによりNを固定する観点からは0.005%以上が好ましい。
【0026】
Nb:0.02%以下
Nbは、組織の微細化に有効であり、優れた伸びと伸びフランジ性を得ることに寄与するため、必要に応じて添加する。しかし、Nb量が0.02%を超えると伸びが劣化する傾向にあるため、Nbを含有させる場合には0.02%以下が好ましい。
【0027】
なお、上記成分の他、Cr:0.15%以下、Cu:0.15%以下、Ni:0.16%以下の1種類以上を含んでも特性上問題はない。
【0028】
なお、本発明の鋼板は、一般的な熱間圧延鋼板の製造条件によって製造することができる。
【0029】
【実施例】
表1に示す化学成分を有する鋼片を、1250℃に加熱し、通常の熱間圧延工程によって仕上温度880〜930℃で、板厚3.2mmに仕上げた。この後、600℃を超える巻取温度で、冷却速度と巻取温度を変化させて、種々の組織の鋼板を製造した。
【0030】
得られた鋼板を酸洗後、それら鋼板からJIS5号引張試験片および穴広げ試験片を採取した。引張試験片は圧延垂直方向から採取し、穴広げ試験は、130mm角の鋼板の中央に10mmφのポンチによりクリアランス12.5%で打ち抜いた穴を有する試験片を準備し、60°円錐ポンチにより打抜き穴のバリ側の反対方向から押し上げ、割れが鋼板を貫通した時点での穴径dを測定し、穴広げ率λを次式より算出した。
λ(%)=[(d−10)/10]×100
【0031】
鋼板から作製した薄膜を透過型電子顕微鏡(TEM)によって観察し、析出物寸法を測定した。析出物中のVおよびMoの組成は、TEMに装備されたEDXによる分析から決定した。
【0032】
表2に、引張強度(TS)、伸び(El)、穴広げ率(λ)、組織、析出物平均粒径、析出物組成を示す。
【0033】
表2に示す通り、本発明鋼のNo.1〜9はいずれもフェライト組織からなり、析出物の平均粒径は10nm未満で、原子%で、Mo比率が0.25以上となっているため、引張強度(TS)が590MPa以上で優れた伸びおよび伸びフランジ性を有している。
【0034】
これに対し、比較鋼のNo.10はMo無添加のため析出物が粗大化しており、伸びおよび伸びフランジ性がともに低く、特に伸びフランジ性が低い。また、No.11はC量が多すぎるため、パーライトが生成し、かつ析出物が粗大化しており、伸びおよび伸びフランジ性がともに低く、特に伸びフランジ性が低い。No.12はMn量が多すぎるため偏析が顕著であり、かつ組織内にマルテンサイトが生成し、転位密度も高いため、伸びおよび伸びフランジ性がともに低い。No.13はV量が少ないため、鋼の強化に必要な析出物が不足して引張強度(TS)が590MPa未満となっている。No.14はV量が多すぎるため、伸びおよび伸びフランジ性がともに低く、特に伸びが低い。鋼No.15はSi量が多すぎるため、伸びおよび伸びフランジ性がともに低い。
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、加工性の指標である伸びおよび伸びフランジ性に優れた高張力鋼板を提供することができ、自動車部材の軽量化に寄与する効果が顕著である。
Claims (3)
- 質量%で、
C:0.02〜0.06%、
Si:0.3%以下、
Mn:0.5〜2.0%、
P:0.06%以下、
S:0.005%以下、
Al:0.06%以下、
N:0.006%以下、
Mo:0.1〜0.5%、
V:0.05〜0.2%
を含み、残部がFeおよび不可避不純物からなり、フェライトの面積比率が95%以上である組織であり、原子%でMo/(V+Mo)≧0.25を満たす範囲でVおよびMoを含む平均粒径10nm未満の析出物が分散析出していることを特徴とする、引張強度が590MPa以上の自動車用部材の素材に適した伸びと伸びフランジ性がともに優れた高張力鋼板。 - 質量%で、
C:0.02〜0.06%、
Si:0.3%以下、
Mn:0.5〜2.0%、
P:0.06%以下、
S:0.005%以下、
Al:0.06%以下、
N:0.006%以下、
Mo:0.1〜0.5%、
V:0.05〜0.2%
を含み、Ti≦0.03%、Nb≦0.02%のうち1種以上を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなり、フェライトの面積比率が95%以上である組織であり、原子%でMo/(V+Mo)≧0.25を満たす範囲でVおよびMoを含む平均粒径10nm未満の析出物が分散析出していることを特徴とする、引張強度が590MPa以上の自動車用部材の素材に適した伸びと伸びフランジ性がともに優れた高張力鋼板。 - 質量%で、さらにCr:0.15%以下、Cu:0.15%以下、Ni:0.16%以下の少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の自動車用部材の素材に適した伸びと伸びフランジ性がともに優れた高張力鋼板。
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