JP3750480B2 - 情報記録媒体用ガラス基板の製造方法、及び情報記録媒体の製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は情報処理機器等の記録媒体として使用される情報記録媒体の製造方法及びその基板の製造方法等に関する。
【0002】
【従来の技術】
この種の情報記録媒体の一つとして磁気ディスクがある。磁気ディスクは、基板上に磁性層等の薄膜を形成して構成されたものであり、その基板としてはアルミニウム基板やガラス基板が用いられてきた。しかし、最近では、高記録密度化の追求に呼応して、アルミと比べて磁気ヘッドと磁気記録媒体との間隔(磁気ヘッドの浮上高さ)をより狭くすることが可能なガラス基板の占める比率が次第に高くなってきている。
【0003】
このように増加傾向にあるガラス基板は、磁気ディスクドライブに装着された際の衝撃に耐えるように一般的に強度を増すために化学強化されて製造されている。また、ガラス基板表面は磁気ヘッドの浮上高さ(フライングハイト)を極力下げることができるように、高精度に研磨して高記録密度化を実現している。
他方、ガラス基板だけではなく、磁気ヘッドも薄膜ヘッドから磁気抵抗(MRヘッド)に推移し、高記録密度化にこたえている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように高記録密度化にとって必要な低フライングハイト化のために磁気ディスク表面の高い平坦性は必要不可欠である。加えて、MRヘッドを用いた場合、サーマル・アスペリティー(ThermalAsperity)の問題からも磁気記録媒体の表面には高い平坦性が必要となる。このサーマル・アスペリティーは、磁気ディスクの表面上に突起があると、この突起にMRヘッドが影響をうけてMRヘッドに熱が発生し、この熱によってヘッドの抵抗値が変動し電磁変換に誤動作を引き起こす現象である。
また、磁気ディスク表面の高い平坦性があっても磁気ディスクの表面上にサーマル・アスペリティーの原因となる突起があると、この突起によってヘッドクラッシュが起きたり、このヘッドクラッシュが原因で磁気ディスクを構成する磁性膜などが剥がれるなど、磁気ディスクにも悪影響を及ぼす。
【0005】
このように、低フライングハイト化及びヘッドクラッシュの防止にとっても、サーマル・アスペリティーの発生防止のためにも磁気ディスク表面の高い平坦性の要請は日増に高まってきている。このような、磁気ディスク表面の高い平坦性を得るためには結局高い平坦性の基板表面が求められることになるが、もはや、高精度に基板表面を研磨するだけでは、磁気ディスクの高記録密度化を実現できない段階まで来ている。つまり、いくら、高精度に研磨しても基板上に異物が付着していては高い平坦性は得られない。勿論、従来から異物の除去はなされていたが、従来では許容されていた基板上の異物が、今日の高密度化のレベルでは問題視される状況にある。
【0006】
この種の異物としては、例えば、通常の洗浄では除去できない極めて微小な鉄粉、ステンレス片等が挙げられる。例えば、鉄粉などのパーティクルがガラス基板上に付着した状態、あるいは、化学強化処理液中にある鉄粉などのパーティクルが化学強化処理液中でガラス基板上に付着した状態で化学強化処理を行うと、化学強化過程で起こる酸化反応と、この工程で加わる熱によってガラス基板上に鉄が強固に付着して凸部(突起)が形成されることがわかった。このような凸部(突起)が形成されたガラス基板上に磁性膜等の薄膜を積層すると、磁気ディスク表面に凸部が形成され、低フライングハイト化及びヘッドクラッシュの防止や、サーマル・アスペリティーの防止の阻害要因となっていることがわかった。
このような微小な鉄粉がガラス基板に付着する原因を詳しく調査したところ、化学強化処理が行われる化学強化室内の雰囲気に鉄粉が含まれており、特に化学強化塩自体に数多くの鉄粉が含まれていることがわかった。詳しくは、発生要因毎に鉄粉の個数を調べたところ、化学強化塩(硝酸ナトリウムや硝酸カリウムなど)を調合して化学強化処理液をつくる前の化学強化塩自体に含まれる鉄粉が圧倒的であることがわかった。さらに、化学強化塩自体には、化学強化工程において情報記録媒体用ガラス基板に付着して情報記録媒体に悪影響を及ぼすその他のパーティクルが数多く含まれていることがわかった。
本願出願人は、先に、化学強化処理が行われる化学強化室内の雰囲気に含まれる鉄粉等を除去して、化学強化処理液中への鉄粉等の混入を防止する技術を開発し、既に出願を行っている(特開平10−194785号)。また、化学強化室内の雰囲気から化学強化処理液中へ混入した鉄粉等を、マイクローシーブ(エッチングで孔を開けた金網)などの高温耐食性に優れたフルターで化学強化処理液を濾過して除去する技術を開発し、既に出願を行っている(特開平10−194786号)。ここで、前者の方法は、化学強化処理が行われる化学強化室内の雰囲気に含まれる鉄粉等を除去するのに効果がある。後者の方法は、一定の効果があるものの、上述したように、化学強化処理液をつくる前の化学強化塩自体に含まれる鉄粉の数が圧倒的であるため、鉄粉除去の対策としては効果が十分ではない。また、後者の方法は、化学強化工程において情報記録媒体用ガラス基板に付着して情報記録媒体に悪影響を及ぼすその他のパーティクルの除去対策としても十分ではない。
また、上述した情報記録媒体用ガラス基板に限らず、電子デバイス用ガラス基板(フォトマスク用ガラス基板、位相シフトマスク用ガラス基板や、情報記録媒体用ガラス基板も含まれる。以降同じ意味で使用する。)や、光学素子に使用するガラス基板、あるいは光学ガラス製品においても、ガラス中に含まれるイオンを、イオン交換処理液中に含まれるイオンとイオン交換して、化学強化したり、あるいは屈折率分布を調整することが行われている。このようなガラス基板においても、イオン交換処理液中に鉄粉やステンレス片(Cr等)などのパーティクルが含まれていると、イオン交換の効率が低下したり、又、上述した凸部が形成される(例えば、この凸部の部分が光を遮断することによって所望の特性が得られない)など問題となることがある。
【0007】
本発明は、化学強化工程において情報記録媒体用ガラス基板に付着して情報記録媒体に悪影響を及ぼすパーティクルの付着を効果的に抑制できる情報記録媒体用ガラス基板の製造方法の提供を目的とする。
また、本発明は、特に、化学強化工程における微小な鉄粉等のガラス基板への付着による凸部の形成を効果的に抑制できる情報記録媒体用ガラス基板の製造方法の提供を目的とする。
さらに、本発明は、化学強化工程において情報記録媒体用ガラス基板に付着して情報記録媒に悪影響を及ぼすパーティクルの付着を効果的に抑制でき、したがって欠陥の少ない高品質の情報記録媒体を製造し得る製造方法の提供を目的とする。
また、本発明は、低フライングハイト化及びヘッドクラッシュの防止や、サーマル・アスペリティーの防止を達成しうる磁気ディスクの製造方法の提供を目的とする。
また、本発明は、イオン交換処理工程において電子デバイス用ガラス基板や光学素子用ガラス基板、光学ガラス製品等に付着して悪影響を及ぼすパーティクルの付着を効果的に抑制でき、したがって、欠陥の少ない電子デバイスや光学素子、光学ガラス製品等を製造し得る製造方法の提供を目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上述した目的を達成すべく研究開発を進めた結果、1μm以下(例えば0.2μm)の鉄粉(酸化鉄やステンレスを含む)等であっても凸部(突起)を形成することがあることがわかった。そして、化学強化塩自体に含まれる鉄粉等のパーティクルを事前に除去すると非常に効果的であり、このためには化学強化塩自体に含まれる鉄やクロムの定量分析を行うと非常に有効であることことを見い出し本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の構成としてある。
【0010】
(構成1)化学強化塩を含有する化学強化処理液にガラス基板を接触させることにより、ガラス基板を化学強化する工程を含む情報記録媒体用ガラス基板の製造方法において、前記化学強化塩として、ICP発光分析法又は蛍光X線分析法によって検出されるFe、Crの濃度がそれぞれ500ppb以下である化学強化塩を使用することを特徴とする情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【0011】
(構成2)前記化学強化塩として、ICP発光分析法又は蛍光X線分析法によって検出されるFe、Crの濃度がそれぞれ100ppb以下である化学強化塩を使用することを特徴とする構成1記載の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【0012】
(構成3)前記化学強化塩として、ICP発光分析法又は蛍光X線分析法によって検出されるFe、Crの濃度がそれぞれ20ppb以下である化学強化塩を使用することを特徴とする構成1記載の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【0013】
(構成4)化学強化塩を溶媒に溶解させた溶液をフィルタで濾過し、フィルターに捕捉されたパーティクルを酸に溶解させ、予め既知濃度試料の測定から求めた検量線に基づいて、ICP発光分光分析法又は蛍光X線分析法によって化学強化塩中に含まれる元素及びその濃度の定量分析を行うことを特徴とする構成1乃至3のいずれか一に記載の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【0014】
(構成5)化学強化塩を含有する化学強化処理液にガラス基板を接触させることにより、ガラス基板を化学強化する工程を含む情報記録媒体用ガラス基板の製造方法において、前記化学強化塩として、液体パーティクルカウンターを用いて測定される、基準液(ブランク)に化学強化塩を溶解させた試料中のパーティクル量と、基準液中のパーティクル量との差から求めた、粒径0.2μm以上のパーティクルの量が、120000個/g以下である化学強化塩を使用することを特徴とする情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【0015】
(構成6)化学強化塩を含有する化学強化処理液にガラス基板を接触させることにより、ガラス基板を化学強化する工程を含む情報記録媒体用ガラス基板の製造方法において、前記化学強化塩として、二次電子検出器又は反射電子検出器によって二次電子像又は反射電子像を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したとき、1gの化学強化塩中に含まれるパーティクルを捕捉最小粒径0.2μm、直径13mmφのフィルタで捕捉したとき、粒径0.2μm以上のパーティクルの量が、900個/mm2以下である化学強化塩を使用することを特徴とする情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【0016】
(構成7)前記粒径0.2μm以上のパーティクルの量が、500個/mm2以下である化学強化塩を使用することを特徴とする構成6記載の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【0017】
(構成8)前記粒径0.2μm以上のパーティクルの量が、30個/mm2以下である化学強化塩を使用することを特徴とする構成6記載の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【0018】
(構成9)化学強化塩を含有する化学強化処理液にガラス基板を接触させることにより、ガラス基板を化学強化する工程を含む情報記録媒体用ガラス基板の製造方法において、前記化学強化塩として、化学強化塩を比色法によって分析したときに、黒色、灰色又は赤茶色とならない化学強化塩を使用することを特徴とする情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【0019】
(構成10)化学強化塩を含有する化学強化処理液にガラス基板を接触させることにより、ガラス基板を化学強化する工程を含む情報記録媒体用ガラス基板の製造方法において、前記化学強化塩を溶媒に溶解させた溶液をフィルタで濾過し、フィルタにパーティクルを捕捉させたときに、このフィルタの色の濃度が一定基準以下となる化学強化塩を使用することを特徴とする情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【0020】
(構成11)構成1乃至10のいずれか一に記載の分析手法を用いることを特徴とする化学強化塩の検査方法。
【0021】
(構成12)前記情報記録媒体用ガラス基板が、磁気ディスク用ガラス基板であることを特徴とする構成1乃至10のいずれか一に記載の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【0022】
(構成13)磁気ディスク用ガラス基板が、磁気抵抗型ヘッド(MRヘッド)又は巨大(大型)磁気抵抗型ヘッド(GMRヘッド)と組み合わせて使用される磁気ディスク用ガラス基板であることを特徴とする構成12記載の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【0023】
(構成14)構成1乃至10のいずれか一に記載の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法によって得られたガラス基板上に少なくとも記録層を形成することを特徴とする情報記録媒体の製造方法。
【0024】
(構成15)構成1乃至10のいずれか一に記載の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法によって得られたガラス基板上に少なくとも磁性層を形成することを特徴とする磁気ディスクの製造方法。
【0025】
(構成16)イオン交換処理液にガラス部材を接触させることにより、ガラス部材中のイオンとイオン交換処理液中のイオンとをイオン交換処理する工程を含む光学ガラス製品の製造方法において、
前記イオン交換処理液に使われる塩として、請求項1〜3、5〜10のいずれか一項に記載の条件を満たす塩を用いることを特徴とする光学ガラス製品の製造方法。
【0026】
(構成17)前記光学ガラス製品が電子デバイス用ガラス基板又は光学素子用ガラス基板であり、前記イオン交換処理液が化学強化塩を含有する化学強化処理液であることを特徴とする構成16記載の光学ガラス製品の製造方法。
【0027】
【作用】
上記構成1〜3によれば、化学強化塩として、ICP発光分析法又は蛍光X線分析法によって検出されるFe、Crの濃度がそれぞれ500ppb以下である化学強化塩を使用することによって、化学強化処理液中の微小な鉄粉等がガラス基板へ付着して上述した凸部を形成するのを効果的に抑制できる。したがって、低フライングハイト化及びヘッドクラッシュの防止や、サーマル・アスペリティーの防止を達成しうる磁気ディスクを製造できる。
Fe、Crの濃度がそれぞれ500ppbを超えると、化学強化工程の際、凸部が形成される割合が非常に高くなるとともに、凸部の高さや凸部の密度が大きくなり、また、1.2μインチ高のグライドテストにおける不良率が高く、サーマル・アスペリティーによる再生の誤動作の確率も高くなる。同様の観点から、Fe、Crの濃度は、それぞれ250ppb以下が好ましく、100ppb以下、20ppb以下、10ppb以下、5ppb以下、1ppb以下、がさらに好ましい。
なお、ICP発光分光分析法は、試料中に含まれる分析対象元素を、高周波電力を誘導結合させて発生する誘導結合プラズマ(Inductively coupled plasma)によって気化励起し、得られる原子スペクトル線における発光強度を測定することによって、定量分析等を行う方法である(JISK0116)。
【0028】
上記構成4によれば、化学強化塩を溶媒に溶解させた溶液をフィルタで濾過し、フィルターに捕捉されたパーティクルを酸に溶解させ、予め既知濃度試料の測定から求めた検量線に基づいて、ICP発光分光分析法又は蛍光X線分析法によって化学強化塩中に含まれる元素及びその濃度の定量分析を行うことで、鉄やクロムなどの金属系のパーティクルを酸に溶解させ、感度の高いICP発光分光分析法等で定量分析を行うことが可能となる。ここで、既知濃度試料とは、幾つかの濃度の異なる標準試料のことをいい、検量線はこの濃度の異なる標準試料から求められるものである。
【0029】
上記構成5によれば、基準液(ブランク)に化学強化塩を溶解させた試料中のパーティクル量と、基準液中のパーティクル量との差から求めたパーティクル量を判断対象としているので、正確かつバラツキの少ないパーティクル量の測定値が得られ、これに基づき正しい判断が可能である。
さらに、化学強化塩自体に含まれる粒径0.2μm以上のパーティクルの量を120000個/g以下としているので、化学強化処理液中において情報記録媒体用ガラス基板に付着して情報記録媒体に悪影響を及ぼすパーティクルの付着を効果的に抑制できる。特に、化学強化処理液中の微小な鉄粉等がガラス基板へ付着して上述した凸部を形成するのを効果的に抑制できる。ここで、粒径0.2μm以上としているのは、それ未満のパーティクルは、サーマル・アスペリティーを引き起こす凸部の形成には影響ないと考えられるからである。
化学強化塩に含まれる粒径0.2μm以上のパーティクルの量が120000個/gを超える場合、化学強化処理液中の微小な鉄粉等がガラス基板へ付着して上述した凸部を形成する割合が高く凸部の数が多くなり、しかも凸部の高さや凸部の密度が大きくなる傾向にある。そして、サーマル・アスペリティーやヘッドクラッシュを起こす割合が高くなるので好ましくない。同様に、化学強化塩に含まれる粒径0.2μm以上のパーティクルの量が120000個/gを超える場合、化学強化処理液中において情報記録媒体用ガラス基板に付着して情報記録媒体に悪影響を及ぼすパーティクルの付着数が多くなるので好ましくない。これらと同様の観点から、化学強化塩に含まれる粒径0.2μm以上のパーティクルの量は8000個/g以下が好ましく、4000個/g以下がさらに好ましい。これは、化学強化塩に含まれるパーティクルの量が、化学強化処理液中における凸部の発生やパーティクルの付着に直接的に反映されるので、化学強化塩に含まれるパーティクルの量を減らすことによって、凸部を発生させる確率やパーティクルの付着数を減少させることができるからである。
なお、凸部の密度は、0.002/mm2以下が望ましく、0.0003/mm2以下がさらに望ましい。
【0030】
上記構成6〜8によれば、化学強化塩として、二次電子検出器や反射電子検出器によって二次電子像や反射電子像を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したとき、1gの化学強化塩中に含まれるパーティクルを捕捉最小粒径0.2μm、直径13mmφのフィルタで捕捉したとき、粒径0.2μm以上のパーティクル(鉄粉、ステンレス片、その他)の量が、900個/mm2以下である化学強化塩を使用することによって、化学強化処理液中の微小な鉄粉等がガラス基板へ付着して上述した凸部を形成するのを効果的に抑制できる。したがって、低フライングハイト化及びヘッドクラッシュの防止や、サーマル・アスペリティーの防止を達成しうる磁気ディスクを製造できる。なお、フィルタに捕捉される単位面積当たりのパーティクル量はフィルタの面積に反比例するので、フィルタの面積が異なる場合は換算を行えばよい。例えば、フィルタの面積を2倍にすると捕捉されるパーティクル量は1/2となるから、粒径0.2μm以上のパーティクル(鉄粉、ステンレス片、その他)の量が、450個/mm2以下である化学強化塩を使用すれば上記と同じ結果が得られる。
パーティクル(鉄粉、ステンレス片、その他)の量が、900個/mm2を超えると、化学強化工程の際、凸部が形成される割合が非常に高くなるとともに、凸部の高さや凸部の密度が大きくなり、また、1.2μインチ高のグライドテストにおける不良率が高く、サーマル・アスペリティーによる再生の誤動作の確率も高くなる。パーティクル(鉄粉、ステンレス片、その他)の量は、500個/mm2以下、300個/mm2以下、100個/mm2以下、30個/mm2以下が好ましく、10個/mm2以下がさらに好ましい。
【0031】
上記構成9によれば、化学強化塩として、化学強化塩を比色法によって分析したときに、黒色、灰色又は赤茶色とならない化学強化塩を使用することによって、化学強化処理液中の微小な鉄粉等がガラス基板へ付着して上述した凸部を形成するのを効果的に抑制できる。したがって、低フライングハイト化及びヘッドクラッシュの防止や、サーマル・アスペリティーの防止を達成しうる磁気ディスクを製造できる。
化学強化塩を比色法によって分析したときに、黒色、灰色又は赤茶色となる場合は、化学強化工程の際、凸部が形成される割合が非常に高くなるとともに、凸部の高さや凸部の密度が大きくなり、また、1.2μインチ高のグライドテストにおける不良率が高く、サーマル・アスペリティーによる再生の誤動作の確率も高くなる。
【0032】
上記構成10によれば、化学強化塩の溶液をフィルタで濾過し、フィルタにパーティクルを捕捉させ、このフィルタの色の濃度が一定基準以下である化学強化塩を使用することによって、化学強化処理液中の微小な鉄粉等がガラス基板へ付着して上述した凸部を形成するのを効果的に抑制できる。したがって、低フライングハイト化及びヘッドクラッシュの防止や、サーマル・アスペリティーの防止を達成しうる磁気ディスクを製造できる。
上記フィルタの色の濃度が一定基準より濃い場合は、化学強化工程の際、凸部が形成される割合が非常に高くなるとともに、凸部の高さや凸部の密度が大きくなり、また、1.2μインチ高のグライドテストにおける不良率が高く、サーマル・アスペリティーによる再生の誤動作の確率も高くなる。
【0033】
上記構成11によれば、構成1乃至10のいずれかに記載の分析手法を、化学強化塩の検査方法として使用できる。
【0034】
上記構成12によれば、前記情報記録媒体用ガラス基板が、磁気ディスク用ガラス基板であると、ヘッドクラッシュの原因となる上述した凸部が形成されるのを効果的に抑制できる。したがって、低フライングハイト化及びヘッドクラッシュの防止を達成しうる磁気ディスクを製造できる。
【0035】
上記構成13によれば、磁気ディスク用ガラスが、磁気抵抗型ヘッドと組み合わせて使用される磁気ディスク用ガラス基板であると、サーマル・アスペリティーやヘッドクラッシュを起こす原因となる上述した凸部が形成されるのを効果的に抑制でき、この結果低フライングハイト化を実現できる。磁気抵抗型ヘッドを用いる場合、低フライングハイト化が特に要求されるので、特に効果的である。
【0036】
上記構成14によれば、上記構成1乃至10のいずれか一に記載の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法によって得られたガラス基板を用いているので、化学強化処理液中において情報記録媒体用ガラス基板に付着して情報記録媒体に悪影響を及ぼすパーティクルの付着を効果的に抑制でき、欠陥の少ない高品質の情報記録媒体が得られる。
【0037】
上記構成15によれば、上記構成1乃至10のいずれか一に記載の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法によって得られたガラス基板を用いているので、化学強化処理液中の微小な鉄粉等がガラス基板へ付着して上述した凸部を形成するのを効果的に抑制できる。したがって、低フライングハイト化及びヘッドクラッシュの防止や、サーマル・アスペリティーの防止を実現した磁気ディスクが得られる。
【0038】
上記構成16〜17によれば、イオン交換処理液に使われる塩として、構成1〜3、5〜10のいずれか一項に記載の条件を満たす塩を用いることによって、イオン交換処理の際に、イオン交換の効率が低下したり、又、パーティクル(鉄粉、ステンレス片、その他)が光学ガラス製品の表面に付着するのを効果的に抑制できる。したがって、高品位の電子デバイス、光学素子、光学ガラス製品が得られる。光学ガラス製品の表面にこれらの異物が付着すると、遮光性の異物の場合は光を遮断し、透過性の異物の場合は光を屈折・散乱させるので好ましくない。
光学ガラス製品としては、例えば、光学素子、電子デバイス、屈折率分布型レンズ、光ファイバなどが挙げられ、電子デバイス用ガラス基板や光学素子用ガラス基板も含まれる。
【0039】
なお、本発明でいうパーティクルには、鉄のパーティクルが含まれる。これは、化学強化塩自体に含まれるパーティクルを分析したところ、O、Na、Mg、Al、Si、Cl、Fe、Crなどが検出された。特にパーティクルがFe(鉄)の場合であって、そのパーティクル(鉄)が化学強化処理液中でガラス基板に付着した場合、化学強化過程で起こる酸化反応と、この工程で加わる熱によってガラス基板上に強固に付着し凸部(突起)が形成され、この凸部がサーマル・アスペリティーやヘッドクラッシュを起こす確率が高い。なお、比較的大きなパーティクルの場合、そのパーティクルが強固に付着し凸部(突起)を形成し、また、比較的小さなパーティクルの場合、パーティクルが凝集して強固に付着し凸部(突起)を形成していることが顕微鏡で確認された。従って、磁気ディスクの場合、特に化学強化塩中に含まれる鉄などのパーティクルの量を制御することによって顕著な効果が現れる。
なお、鉄のパーティクルには、鉄はもちろんのこと、酸化鉄、ステンレスなどが含まれる。また、上述したような酸化反応と加熱によって凸部(突起)が形成されるパーティクルの他の材質としては、Ti、Al、Cl、Ce、ガラス片等が考えられる。
【0040】
本発明の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法について説明する。
本発明は、化学強化塩自体に含まれる鉄などのパーティクルの量や濃度を上述した分析方法で分析し、基準値以下の化学強化塩を使用することを特徴としている。
このように、化学強化塩自体に含まれるパーティクルの量が予め定めた基準値以下であることを分析によって判定し、基準値以下である化学強化塩を調合することによって、パーティクルの量が所定の値以下である化学強化処理液をつくることができる。したがって、化学強化処理工程における凸部の発生やパーティクルの付着を減らすことができる。
なお、基準値は、情報記録媒体に要求される欠陥の許容レベルに応じて設定できる。
また、前記基準値は、例えば、磁気ディスク(又はガラス基板)の主表面に対向して磁気ヘッドを配置し、所定のグライド高さで磁気ヘッドを磁気ディスク(又はガラス基板)に対し相対移動させ、所望のグライド特性となるように決定されたものであること、換言すれば、グライドテストの結果に基づいて前記基準値を決定することで、ヘッドクラッシュやサーマル・アスペリティー等を効果的に防止できる。ここで、所望のグライド特性とは、例えば、グライド高さ1.2μインチ以下で、ヒットやクラッシュの発生率が0%となるような特性をいう。
【0041】
上記分析結果に基づいて、化学強化塩自体に含まれるパーティクルを除去するには、例えば、化学強化塩を水に溶かした状態で、フィルター等の捕捉手段によってパーティクルを除去する。フィルターの性能(最小捕捉粒径)や種類を選択することによって、化学強化塩に含まれるパーティクルの量を所望の量や濃度に制御できる。また、最小捕捉粒径の異なる複数のフィルターを用い、粒径の大きいパーティクルを最小捕捉粒径の大きなフィルターで除去した後、粒径の小さいパーティクルを最小捕捉粒径の小さなフィルターで除去することもできる。
なお、本発明では化学強化塩以外の成分をすべて高純度に精製した試薬を用いる必要は無く、特に鉄粉や情報記録媒体に悪影響を及ぼすパーティクルだけを除去して清浄化された化学強化塩を用いれば足り、安価で済む。もちろん、このような高純度に精製された試薬を用いることもできるが高価である。
また、本発明で使用する化学強化塩は、固結防止用の添加剤を含まないことが好ましい。これは、固結防止用の添加剤にはパーティクルが多く含まれていると考えられるからである。
【0042】
化学強化方法としては、ガラス転移温度を超えない領域でイオン交換を行う低温型化学強化が好ましい。化学強化処理溶液として用いるアルカリ溶融塩としては、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、あるいはそれらを混合した硝酸塩や、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、あるいはそれらを混合した硫酸塩や、NaBr、KBr、あるいはそれらを混合した塩などが使用できる。
ガラス基板としてはアルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラスなどが挙げられる。
情報記録媒体用ガラス基板には、磁気記録媒体用ガラス基板、光記録媒体用ガラス基板、光磁気記録媒体用ガラス基板等が挙げられる。本発明は特に磁気抵抗型ヘッド用磁気ディスク及びその基板に関して顕著な効果を奏する。
【0043】
次に、本発明の磁気記録媒体(磁気ディスク)の製造方法について説明する。本発明では、上記本発明の磁気記録媒体用ガラス基板上に、少なくとも磁性層を形成して、磁気記録媒体を製造している。
【0044】
本発明では、サーマル・アスペリティーあるいはヘッドクラッシュの原因となるパーティクルの付着を効果的に抑制することができるので、ガラス基板上に磁性層等を形成した磁気記録媒体を製造する際に、ガラス基板の主表面にサーマル・アスペリティーの原因となるパーティクルによって形成される凸部が形成されにくく、より高いレベルでサーマル・アスペリティーやヘッドクラッシュを防止できる。凸部が形成されないので、例えば、1.2μインチ以下といった低グライドハイトも実現できる。特に、磁気抵抗型ヘッドによって再生を行う磁気記録媒体にとって、磁気抵抗型ヘッドの機能を十分に引き出すことができる。また、磁気抵抗型ヘッドに好適に使用することができるCoPt系等の磁気記録媒体としてもその性能を十分に引き出すことができる。
また、サーマル・アスペリティーの原因となるパーティクルによって、磁性層等の膜に欠陥が発生しエラーの原因となるということもない。
【0045】
磁気記録媒体は、通常、所定の平坦度、表面粗さを有し、必要に応じ表面の化学強化処理を施した磁気ディスク用ガラス基板上に、下地層、磁性層、保護層、潤滑層等を順次積層して製造する。
【0046】
磁気記録媒体における下地層は、磁性層に応じて選択される。
【0047】
下地層(シード層を含む)としては、例えば、Cr、Mo、Ta、Ti、W、V、B、Al、Niなどの非磁性金属から選ばれる少なくとも一種以上の材料からなる下地層等が挙げられる。Coを主成分とする磁性層の場合には、磁気特性向上等の観点からCr単体やCr合金であることが好ましい。また、下地層は単層とは限らず、同一又は異種の層を積層した複数層構造とすることもできる。例えば、Cr/Cr、Cr/CrMo、Cr/CrV、NiAl/Cr、NiAl/CrMo、NIAl/CrV等の多層下地層等が挙げられる。
【0048】
磁気記録媒体における磁性層の材料は特に制限されない。
【0049】
磁性層としては、例えば、Coを主成分とするCoPt、CoCr、CoNi、CoNiCr、CoCrTa、CoPtCr、CoNiPtや、CoNiCrPt、CoNiCrTa、CoCrPtTa、CoCrPtB、CoCrPtSiOなどの磁性薄膜が挙げられる。磁性層は、磁性膜を非磁性膜(例えば、Cr、CrMo、CrVなど)で分割してノイズの低減を図った多層構成(例えば、CoPtCr/CrMo/CoPtCr、CoCrPtTa/CrMo/CoCrPtTaなど)としてもよい。
【0050】
磁気抵抗型ヘッド(MRヘッド)又は大型磁気抵抗型ヘッド(GMRヘッド)対応の磁性層としては、Co系合金に、Y、Si、希土類元素、Hf、Ge、Sn、Znから選択される不純物元素、又はこれらの不純物元素の酸化物を含有させたものなども含まれる。
【0051】
また、磁性層としては、上記の他、フェライト系、鉄−希土類系や、SiO2、BNなどからなる非磁性膜中にFe、Co、FeCo、CoNiPt等の磁性粒子が分散された構造のグラニュラーなどであってもよい。また、磁性層は、内面型、垂直型のいずれの記録形式であってもよい。
【0052】
磁気記録媒体における保護層は特に制限されない。
【0053】
保護層としては、例えば、Cr膜、Cr合金膜、カーボン膜、水素化カーボン膜、ジルコニア膜、シリカ膜等が挙げられる。これらの保護膜は、下地層、磁性層等とともにインライン型スパッタ装置で連続して形成できる。また、これらの保護膜は、単層としてもよく、あるいは、同一又は異種の膜からなる多層構成としてもよい。
なお、上記保護層上に、あるいは上記保護層に替えて、他の保護層を形成してもよい。例えば、上記保護層に替えて、Cr膜の上にテトラアルコキシランをアルコール系の溶媒で希釈した中に、コロイダルシリカ微粒子を分散して塗布し、さらに焼成して酸化ケイ素(SiO2)膜を形成してもよい。
【0054】
磁気記録媒体における潤滑層は特に制限されない。
【0055】
潤滑層は、例えば、液体潤滑剤であるパーフロロポリエーテル(PFPE)をフレオン系などの溶媒で希釈し、媒体表面にディップ法、スピンコート法、スプレイ法によって塗布し、必要に応じ加熱処理を行って形成する。
【0056】
【実施例】
以下、実施例に基づき本発明をさらに具体的に説明する。
【0057】
実施例1及び比較例1
(1)荒ずり工程
まず、ダウンドロー法で形成したシートガラスから、研削砥石で直径96mmφ、厚さ3mmの円盤状に切り出したアルミノシリケイトガラスからなるガラス基板を、比較的粗いダイヤモンド砥石で研削加工して、直径96mmφ、厚さ1.5mmに成形した。
この場合、ダウンドロー法の代わりに、熔融ガラスを、上型、下型、胴型を用いてダイレクト・プレスして、円盤状のガラス体を得てもよい。また、フロート法で形成しても良い。
なお、アルミノシリケイトガラスとしては、モル%表示で、SiO2を57〜74%、ZnO2を0〜2.8%、Al2O3を3〜15%、LiO2を7〜16%、Na2Oを4〜14%、を主成分として含有する化学強化用ガラス(例えば、モル%表示で、SiO2:67.0%、ZnO2:1.0%、Al2O3:9.0%、LiO2:12.0%、Na2O:10.0%を主成分として含有する化学強化用ガラス)を使用した。
【0058】
次に、上記砥石よりも粒度の細かいダイヤモンド砥石で上記ガラス基板の両面を片面ずつ研削加工した。このときの荷重は100kg程度とした。これにより、ガラス基板両面の表面粗さをRmax(JISB0601で測定)で10μm程度に仕上げた。
次に、円筒状の砥石を用いてガラス基板の中央部分に孔を開けるとともに、外周端面も研削して直径を95mmφとした後、外周端面及び内周面に所定の面取り加工を施した。このときのガラス基板端面の表面粗さは、Rmaxで4μm程度であった。
【0059】
(2)砂掛け(ラッピング)工程
次に、ガラス基板に砂掛け加工を施した。この砂掛け工程は、寸法精度及び形状精度の向上を目的としている。砂掛け加工は、ラッピング装置を用いて行い、砥粒の粒度を#400、#1000と替えて2回行った。
詳しくは、はじめに、粒度#400のアルミナ砥粒を用い、荷重Lを100kg程度に設定して、内転ギアと外転ギアを回転させることによって、キャリア内に収納したガラス基板の両面を面精度0〜1μm、表面粗さ(Rmax)6μm程度にラッピングした。次いで、アルミナ砥粒の粒度を#1000に替えてラッピングを行い、表面粗さ(Rmax)2μm程度とした。
上記砂掛け加工を終えたガラス基板を、中性洗剤、水の各洗浄槽に順次浸漬して、洗浄した。
【0060】
(3)端面鏡面加工工程
次に、ブラシ研磨により、ガラス基板を回転させながらガラス基板の端面の表面粗さを、Rmaxで1μm、Raで0.3μm程度に研磨した。
上記端面鏡面加工を終えたガラス基板の表面を水洗浄した。
【0061】
(4)第一研磨工程
次に、第一研磨工程を施した。この第一研磨工程は、上述した砂掛け工程で残留したキズや歪みの除去を目的とするもので、研磨装置を用いて行った。
詳しくは、ポリシャ(研磨粉)として硬質ポリシャ(セリウムパッドMHC15:スピードファム社製)を用い、以下の研磨条件で第一研磨工程を実施した。
研磨液:酸化セリウム+水
荷重:300g/cm2(L=238kg)
研磨時間:15分
除去量:30μm
下定盤回転数:40rpm
上定盤回転数:35rpm
内ギア回転数:14rpm
外ギア回転数:29rpm
上記第一研磨工程を終えたガラス基板を、中性洗剤、純水、純水、IPA(イソプロピルアルコール)、IPA(蒸気乾燥)の各洗浄槽に順次浸漬して、洗浄した。
【0062】
(5)第二研磨工程
次に、第一研磨工程で使用した研磨装置を用い、ポリシャを硬質ポリシャから軟質ポリシャ(ポリテックス:スピードファム社製)に替えて、第二研磨工程を実施した。研磨条件は、荷重を100g/cm2、研磨時間を5分、除去量を5μmとしたこと以外は、第一研磨工程と同様とした。
上記第二研磨工程を終えたガラス基板を、中性洗剤、中性洗剤、純水、純水、IPA(イソプロピルアルコール)、IPA(蒸気乾燥)の各洗浄槽に順次浸漬して、洗浄した。
【0063】
(6)化学強化塩の準備及び分析工程
次に、新規に購入した化学強化塩の原料である硝酸カリウム、硝酸ナトリウムの各原料袋(ロット)から、一部を採取し、ロット毎に次のようにして試料を作製した。まず、化学強化塩自体に含まれるパーティクルを除去して、十分に清浄化された硝酸カリウム、硝酸ナトリウムの試料をそれぞれ作製した(実施例1)。清浄化は、硝酸カリウムと硝酸ナトリウムをそれぞれ超純水に溶解させ、液体用フィルターで濾過して行った。また、各原料袋から採取しただけの何ら清浄化処理が施されていない硝酸カリウム、硝酸ナトリウムの試料をそれぞれ作製した(比較例1)。
これらの硝酸カリウムと硝酸ナトリウムにそれぞれ含まれるFe、CrをそれぞれICP発光分光分析法を用いて次のようにして測定した。
なお、化学強化塩中には様々なパーティクルが存在するが、ここでは、付着すると除去が困難で欠陥の原因となる金属系のパーティクル(鉄粉、ステンレス片など)に特に着目して分析を行った。したがって、使用する治具やフィルターホルダーからこれらのパーティクルの発塵を防ぐため、使用する治具は全てガラス製もしくはプラスチック製とした。
【0064】
▲1▼十分に清浄化された試料(実施例1)と何ら清浄化されていない試料(比較例1)から、硝酸カリウムと、硝酸ナトリウムをそれぞれ一部採取し、110℃で一昼夜以上乾燥させた後、約200gを秤量した。この試料を超純水を加熱した温水に溶解させ、得られた溶液を、親水化処理されたPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製メンブレンフィルター(最小捕捉粒径:0.2μm)を用いて濾過した。このメンブレンフィルターを王水(塩酸3:硝酸1)2mlを含む酸水溶液(塩酸、硝酸、硫酸、フッ化水素酸、これらの混酸など)に浸漬し、フィルター上に捕捉された回収物を溶解させる。得られた酸水溶液に純水を加え、50mlに定容する。
【0065】
▲2▼分析にはICP発光分光分析装置(セイコー電子工業(株)社製:SPS−1200VR)を用いた。
まず、FeとCrについて、濃度既知の4点の濃度の溶液をそれぞれ調製し、上記ICP発光分光分析装置によって、絶対検量線法にてこれらの元素の定量を行った。測定条件を以下に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
▲3▼上記▲1▼で得られた試料を用い、上記ICP発光分光分析装置によって、上記と同じ測定条件で、元素の定量を行った。上記▲2▼で求めた検量線から測定濃度を求めた。なお、測定濃度から試料濃度への換算は下記の関係式(1)から求めた。
【0068】
試料中の含有量[ppb]=ICP測定値[mg/l]×109[ppb]×フラスコ容量[ml]/1000[ml/l]/試料重量[mg] …(1)
【0069】
測定結果は実施例1では500ppb以下、比較例1では500ppb超であった。この結果を表2に示す。なお、ロット間のばらつきが存在することが確認された。
【0070】
【表2】
【0071】
(7)化学強化工程
上記(6)の工程で分析を終えた化学強化塩を用い、硝酸カリウムと硝酸ナトリウムをそれぞれ60%、40%(合計73.5kg)を混合、溶解し、化学強化処理液を得た。得られた化学強化処理液を化学強化処理槽で400℃に加熱し、300℃に予熱された洗浄済みのガラス基板を約3時間浸漬して行った。なお、この浸漬の際に、ガラス基板の表面全体が化学強化されるようにするため、複数のガラス基板が端面で保持されるようにホルダーに収納した状態で行った。
このように、化学強化処理液に浸漬処理することによって、ガラス基板表層のリチウムイオン、ナトリウムイオンは、化学強化処理液中のナトリウムイオン、カリウムイオンにそれぞれ置換されガラス基板は強化される。
ガラス基板の表層に形成された圧縮応力層の厚さは、約100〜200μmであった。
上記化学強化を終えたガラス基板を、20℃の水槽に浸漬して急冷し約10分間維持した。
上記急冷を終えたガラス基板を、約40℃に加熱した硫酸に浸漬し、超音波をかけながら洗浄を行った。
【0072】
上記の工程を経て得られたガラス基板の表面粗さRaは0.5〜1nmであった。
また、このガラス表面を光学顕微鏡で観察したところ、実施例1では、サーマル・アスペリティーやヘッドクラッシュの原因となる凸部は認められなかったが、比較例1ではサーマル・アスペリティーやヘッドクラッシュの原因となる凸部が認められた。
【0073】
(8)磁気ディスク製造工程
上述した工程を経て得られた磁気ディスク用ガラス基板の両面に、インライン式のスパッタリング装置を用いて、NiAl(Ni:50at%、Al:50at%)のシード層(膜厚40nm)、CrMo(Cr:94at%、Mo:6at%)下地層(膜厚25nm)、CoCrPtTa(Co:75at%、Cr:17at%、Pt:5at%、Ta:3at%)磁性層(膜厚27nm)、水素化カーボン保護層(膜厚10nm)を順次成膜し、この保護層上にディップ法によってパーフロロポリエーテルからなる液体潤滑剤層(膜厚1nm)を形成して、MRヘッド用磁気ディスクを得た。
【0074】
(評価)
得られた磁気ディスクについてグライドテスト(グライド高さ:1.2μインチ、周速:8m/s)(1500枚)を実施したところ、実施例1では、ヒット(ヘッドが磁気ディスク表面の突起にかすること)やクラッシュ(ヘッドが磁気ディスク表面の突起に衝突すること)は認められなかった。また、サーマル・アスペリティーの原因となるパーティクルによって、磁性層等の膜に欠陥が発生していないことも確認できた。
また、グライドテストを終えた本実施例の磁気ディスクについて、磁気抵抗型ヘッドで再生試験を行ったが、複数のサンプル(500枚)の全数についてサーマル・アスペリティーによる再生の誤動作は認められなかった。
【0075】
比較例1では清浄化がなされていない化学強化塩を使用し、化学強化処理液を作ったこと以外は実施例1と同様にして、磁気ディスク用ガラス基板及び磁気ディスクを作製し、同様の評価を行った。
清浄化がなされていない化学強化処理液で化学強化した比較例1では、化学強化塩に含まれるFe、Crの濃度は500ppb超であり、化学強化工程の際、凸部が形成される割合が非常に高くなるとともに、凸部の高さや、凸部の密度が大きく、1.2μインチ高のグライドテスト(5000枚)における不良率は10%と高く、また、再生試験(500枚)を行ったがサーマル・アスペリティーによる再生の誤動作の確率も高かった。
【0076】
実施例2〜5
次に、塩の精製過程において、Fe、Crの量を調整した数種類の化学強化塩を用意し、これらの化学強化塩を使用したこと以外は実施例1と同様にして、磁気ディスク用ガラス基板を作製した。なお、各塩中に含まれるFe、Crの量は、実施例1と同様の測定方法で行った。
得られたガラス基板の表面を光学顕微鏡で観察したところ、サーマル・アスペリティーやヘッドクラッシュの原因となる凸部は認められなかったが、化学強化塩中(KNO3、NaNO3)に含まれるFeやCrの量が多くなるに従って、凸部の高さや凸部の発生率や凸部の密度が大きくなる傾向になっていることが確認された。しかし、凸部の高さは比較例1の凸部の高さより小さく、サーマル・アスペリティーやヘッドクラッシュを引き起こす高さではなかった。
【0077】
実施例6
実施例1における▲2▼のICP発光分析法の代わりに、全反射蛍光X線分析装置を用いて測定したこと以外は実施例1と同様にして、磁気ディスク用ガラス基板及び磁気ディスクを作製し、同様の評価を行った。
以下、分析方法、分析条件について説明する。
蛍光X線分析法は、X線管球で得られる強い一次X線を試料に照射し発生した固有X線の波長と強度を測定し、含有元素の同定を行い、さらに、マトリクス効果を考慮した検量線を標準試薬を用いて作成し、含有元素の定量を行う方法である。
ここで、、一般的なX線の入射角度は30°〜90°程度であるが、入射X線の全反射現象が現れる最大の入射角である臨界角〜30°程度でも良い。後者の方が原理的に感度が高く、入射角を臨界角の1/4〜1/2程度にするとさらに良い。
本実施例では、分析には全反射蛍光X線分析装置((株)テクノス社製:TREX610)を用いた。測定条件を以下に示す。
ターゲット:タングステン(W)(他のターゲットを使っても良い)
分光結晶 :モノクロメーター
検出器 :Si(Li)SSD
雰囲気 :真空
電圧 :30kV
電流 :200mA
測定時間 :500sec
入射角度 :0.05°
まず、FeとCrについて、濃度既知の4点の濃度の溶液をそれぞれ調製し、上記全反射蛍光X線分析装置を用いて絶対検量線法にてこれらの元素の定量を上記条件で行った。
測定手順は、上記溶液の既知量を清浄なシリコンウエハ上に滴下し、乾燥させた後、その乾燥残渣全体に一次X線を照射し、Fe、Crの固有X線の強度を測定する。なお、必ずしも乾燥させた状態でなくても、液体の状態であっても良い。
次に、実施例1で作製した十分に清浄化された試料から、硝酸カリウムと、硝酸ナトリウムをそれぞれ一部採取し、110℃で一昼夜以上乾燥させた後、約200gを秤量した。この試料を超純水を加熱した温水に溶解させ、得られた溶液を、シリコンウエハ上に滴下し、乾燥させた後、残渣を上記と同様にして分析した。
その結果、実施例1のICP発光分析法における測定結果とほぼ同じ定量結果が得られた。ただし、ICP発光分析法より感度が良く、しかも簡単に分析を行うことができた。
また、全反射蛍光X線分析装置を用いて分析を終えた化学強化塩を用いたこと以外は実施例1と同様にして作製した磁気ディスク用ガラス基板ついて、サーマル・アスペリティーやヘッドクラッシュの原因となる凸部は認められなず、磁気ディスクについてもグライド不良や、サーマル・アスペリティーによる再生の誤動作は認められなかった。
【0078】
実施例7及び比較例2
化学強化塩の分析をSEMを用いて行ったこと以外は実施例1及び比較例1と同様にして、磁気ディスク用ガラス基板及び磁気ディスクを作製し、同様の評価を行った。なお、分析は以下のようにして行った。
【0079】
▲1▼化学強化塩中には様々なパーティクルが存在するが、付着すると除去が困難で欠陥の原因となる金属系のパーティクル(鉄粉、ステンレス片など)に特に着目して分析を行う。したがって、使用する治具やフィルターホルダーからこれらのパーティクルの発塵を防ぐため、使用する治具は全てガラス製もしくはプラスチック製とした。
使用する治具は、事前にクリーンルーム内で純水を使用して洗浄しておく。
バイアル瓶は、ベンコット(鍋林(株)社製)に中性洗剤をつけ、瓶の中、口、キャップを2回洗浄し、洗剤を良く洗い流す。その後、0.2μmのメンブレンフィルタユニットを注射器に付け、その先にフィルターホルダー(直径13mm、捕捉最小粒径0.2μmのメンブレンフィルタを有する)を装着し、濾過した純水(以下所定の純水という)で、バイアル瓶の中を良くすすぐ。セラミック製のピンセットは、所定の純水で先端を良くすすぐ。フィルタホルダは、所定の純水で良くすすぐ。この時、フィルタを固定する付属のスペーサーもフィルタホルダにはめ込み一緒にすすぐ。洗浄後の治具は、きれいなベンコットの上に置き、パーティクルが再付着しないように注意する。
図1に示すように、洗浄したフィルタホルダAとBの間に、セラミック製のピンセットを使い、スペーサ2と、直径13mm、捕捉最小粒径0.2μm孔径のメンブレンフィルタ1をセットする。その際、フィルタホルダAとBの間から液が漏れないようにしっかりホルダをとめる。
【0080】
▲2▼50mlの注射器(注射針なし)にフィルタホルダのA側を装着し、試料(実施例1及び比較例1で作製した十分に清浄化された試料と、何ら清浄化されていない試料から、硝酸カリウムと、硝酸ナトリウムをそれぞれ一部採取し、110℃で一昼夜以上乾燥させた後、約200gを秤量し、この試料を超純水を加熱した温水に溶解させ、得られた溶液)を注射器内に注ぎ込む。なお、注射器(注射針なし)で試料を吸い上げた後、フィルタホルダのA側に装着してもよい。注射針は金属製であり、発塵のおそれがあるので使用しない。
注射器のピストンを押圧して、フォルダ内に試料を注入し、フィルタリングを行う。この際、ピストンを一気に押さず、抽出液が滴下する程度となるようにピストンを押圧する。また、フィルタホルダA内に気泡があると大きな押圧力が必要になるだけでなく、異物採取にムラがでるので気泡の有無を確認する。
フィルタリング終了後、所定の純水10mlを3回流しフラッシングして、フィルタに付いたカリウム、ナトリウムをフィルタ上から除去する。これらがフィルタ上に大量に残っているとチャージアップによりSEM観察がし難くなり、EDX分析(エネルギー分散型X線分光分析)時もそれらが邪魔して正確な分析ができなくなる。なお、温純水を用いると容易にフラッシングできる。フィルタは約24時間乾燥剤の入ったデシケーター中に入れ水分を除去する。
【0081】
(丸付き数字の3)上記で得られたメンブレンフィルタをカーボン試料台に載せカーボンドータイトで縁を取る。その際、全周にドータイトを塗らず、2mm程度の隙間を開けておく。こうすることで、次に説明する蒸着時の真空引きでメンブレンフィルタと両面テープの間に入った空気を抜くことができる。蒸着は白金パラジウムを10mAで30秒間行い、SEM分析用の試料を得る。これにより、加速電圧15kVで観察及び分析を問題なく行うことができる。
上記で得られたSEM分析用の試料を用い、SEM観察を行う。条件は、加速電圧15kV、WD15mm、反射電子検出器あるいは2次電子検出器を使い観察する。この際、反射電子検出器を有するSEM装置を用いると、原子番号の大きいもの程明るく見える原子番号効果によって、カーボンを多く含むフィルタは黒く写り、金属やガラスは白くはっきり写るので、目視や写真判定に極めて都合がよく、計数精度も高くなる。2次電子線像であるとフィルタと異物との区別がつきにくい。パーティクルが良く目立つ場所までステージを移動し、全体像(100倍)と拡大像(500倍)の写真を撮った。実施例7にかかるKNO3についての全体像(100倍)を図2に、拡大像(500倍)を図3に示す。比較例2にかかるKNO3についての全体像(100倍)を図4に、拡大像(500倍)を図5に示す。これらの写真から、単位面積当たりのパーティクルの量を求めることができる。なお、観察時に画面全体がパーティクルでチャージアップしている場合はフラッシングが不十分であったと考えられるので、すべて最初からやり直す。
次いで、EDX分析(エネルギー分散型X線分光法)(ESCA(X線光電子分光法)、SIMS(二次イオン質量分析)を用いてもよい)を行う。条件は、加速電圧15kV、WD15mm、反射電子検出器を使い分析する。500倍視野内からランダムに10ポイントのパーティクルを選び元素分析を行う。これによって化学強化塩に含まれるパーティクルがいかなる元素からなるか判明する。
【0082】
(丸付き数字の4)これらの測定の結果、実施例7では粒径0.2μm以上のパーティクル(鉄粉、ステンレス片など)の量が、30個/mm2以下(25個/mm2)であり、比較例2では粒径0.2μm以上のパーティクル(鉄粉、ステンレス片など)の量が、900個/mm2超(915個/mm2)であった。
【0083】
(評価)
磁性膜を成膜する前のガラス表面を光学顕微鏡で観察したところ、実施例7ではサーマル・アスペリティーやヘッドクラッシュの原因となる凸部は認められなかったが、比較例2ではサーマル・アスペリティーやヘッドクラッシュの原因となる凸部が認められた。
得られた磁気ディスクについてグライドテスト(グライド高さ:1.2μインチ、周速:8m/s)(1500枚)を実施したところ、実施例7では、ヒットやクラッシュは認められなかった。また、サーマル・アスペリティーの原因となるパーティクルによって、磁性層等の膜に欠陥が発生していないことも確認できた。また、グライドテストを終えた本実施例の磁気ディスクについて、磁気抵抗型ヘッドで再生試験を行ったが、複数のサンプル(500枚)の全数についてサーマル・アスペリティーによる再生の誤動作は認められなかった。
【0084】
一方、比較例2では1.2μインチ高のグライドテスト(5000枚)における不良率は10%と高く、また、再生試験(500枚)を行ったがサーマル・アスペリティーによる再生の誤動作の確率も高かった。
【0085】
実施例8〜10
次に、塩の精製過程において、Fe、Crの量を調整した数種類の化学強化塩を用意し、これらの化学強化塩を使用したこと以外は実施例1と同様にして、磁気ディスク用ガラス基板を作製した。なお、各塩中に含まれるFe、Crの量は、実施例7と同様の測定方法で行った。
実施例8: 87個/mm2(粒径0.2μm以上のパーティクル)
実施例9:292個/mm2(粒径0.2μm以上のパーティクル)
実施例10:485個/mm2(粒径0.2μm以上のパーティクル)
得られたガラス基板の表面を光学顕微鏡で観察したところ、サーマル・アスペリティーやヘッドクラッシュの原因となる凸部は認められなかったが、化学強化塩中(KNO3、NaNO3)に含まれるパーティクルの量(粒径0.2μm以上のパーティクル)が多くなるに従って、凸部の高さや凸部の発生率や凸部の密度が大きくなる傾向になっていることが確認された。しかし、凸部の高さは比較例2の凸部の高さより小さく、サーマル・アスペリティーやヘッドクラッシュを引き起こす高さではなかった。
【0086】
実施例11及び比較例3
実施例7及び比較例2における、フィルタリング後のフィルタを目視で観察し、着色等を比較し、この着色等と上記SEM分析結果等との相関をとることによっても、化学強化塩の良否の判定を行うことができ、有効な手段である。
具体的には、例えば、フィルタホルダからメンブレンフィルタを取り出し、キムワイプ(鍋林(株)社製)で水分を完全に除去する。この時メンブレンフィルタ上に塩の結晶が肉眼で確認できる場合はフラッシングが不十分であったと考えられるので、すべて最初からやり直す。次に、メンブレンフィルタのみを透明粘着シート(例えば明光商会社製:パウチなど)で挟み密閉する。用紙と一緒に密閉すると後で変色するからである。次に、白い紙の上に密閉したメンブレンフィルタを載せ再度密閉する。メンブレンフィルタは茶系色に着色するため、比較しやすいように下地に白い紙を使用する。
上記SEM分析結果と相関をとった結果、フィルタリング後のフィルタの色が一定基準より濃い場合製品不良の原因となった。ほとんど無着色か、薄い着色の場合は製品不良が生じることはなかった。
【0087】
実施例12及び比較例4
化学強化塩の分析を比色法を用いて行ったこと以外は実施例1及び比較例1と同様にして、磁気ディスク用ガラス基板及び磁気ディスクを作製し、同様の評価を行った。なお、分析は以下のようにして行った。
実施例1及び比較例1で作製した十分に清浄化された試料と、何ら清浄化されていない試料から、硝酸カリウムと、硝酸ナトリウムをそれぞれ一部採取し、110℃で一昼夜以上乾燥させた後、約200gを秤量し、この試料を超純水を加熱した温水に溶解させ、得られた溶液を、親水化処理されたPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製メンブレンフィルター(最小捕捉粒径:0.2μm、直径:13mmφ)を用いて濾過した。このメンブレンフィルターを王水(塩酸3:硝酸1)2mlを含む酸水溶液(塩酸、硝酸、硫酸、フッ化水素酸、これらの混酸など)に浸漬し、フィルター上に捕捉された回収物を溶解させる。得られた酸水溶液に純水を加え、50mlに定容し、この定容した溶液を比色法によって分析した。
比色法では、化学強化塩を比色法によって分析したときに、黒色、灰色又は赤茶色でないものを使用することが必要である。
上記IPC分析結果と相関をとった結果、黒色又は灰色はステンレスが多く含まれ、赤茶色は錆び(酸化鉄)が多く含まれたものであって、これらの色が出る場合濃度的にもステンレスや酸化鉄が500ppb以上含まれ、製品不良の原因となった。ほとんど無色か、薄い肌色の場合は製品不良が生じることはなかった。
【0088】
実施例13
化学強化塩の分析をパーティクルカウンターを用いて行ったこと以外は実施例1及び比較例1と同様にして、磁気ディスク用ガラス基板及び磁気ディスクを作製し、同様の評価を行った。なお、分析は以下のようにして行った。
【0089】
▲1▼試料作成のため、清浄なバイアル瓶に、5.000gの化学強化塩(新規に購入した硝酸カリウム)を入れ、0.2μmのフィルターで濾過した超純水50mlを加え蓋をした。このバイアル瓶を50℃の温水に漬け化学強化塩を溶解する。なお、溶液の温度が室温まで下がった時に、化学強化塩が再結晶しないことを確認した。
【0090】
▲2▼一方、液中パーティクルカウンターとして、光散乱式自動粒子計数器(RION社製:KL−20型)を用い、パーティクルカウンターの試料注入口から、10mlのIPA(イソプロピルアルコール)を5回流し、フラッシングする。
次いで、洗浄したビーカーに、0.2μmのフィルターで濾過した超純水600mlを静かに入れた基準液(バックグラウンド)を準備する。そして、この基準液10mlを上記と同様に5回流し、IPAを完全に排出する。
【0091】
▲3▼引き続き、基準液10mlを上記と同様に5回流し、粒子数の計数を行い、後半3回の平均値から基準液中の粒子数を粒子径毎に求めておく。この際、後半3回の計数で0.2μmの計数が200以上である場合、あるいは5回トータルの計数が300以上の場合は、基準液を再度作製し計数をやり直す。
【0092】
▲4▼基準液500mlに、▲1▼で作製した化学強化塩の溶液1.0mlを加え、ゆっくりと撹拌する。この試料を上記と同様に5回流し、粒子数の計数を行い、後半3回の平均値から試料液中の粒子数を粒子径毎に求める。
【0093】
▲5▼粒子数の増加数=試料液中の粒子数−基準液中の粒子数、から10ml中の粒子数の増加数が求められる。化学強化塩1g中の不純物粒子数は、下記の式から求められる。
【0094】
10ml中の粒子数の増加数/[(5g/50ml)×(1ml/500ml)×10ml]
【0095】
その結果、硝酸カリウムに含まれるパーティクルよりも、硝酸ナトリウムに含まれるパーティクルの方が多かった。硝酸ナトリウムに含まれるパーティクルの量は、粒径0.2μm以上0.3μm未満が1912個/g、粒径0.3μm以上0.5μm未満が1192個/g、粒径0.5μm以上1.0μm未満が161個/g、粒径1.0μm以上2.0μm未満が10個/g、粒径2.0μm以上3.0μm未満が310個/g、粒径3.0μm以上4.0μm未満が111個/g、粒径4.0μm以上5.0μm未満が60個/g、粒径5.0μm以上6.0μm未満が36個/g、粒径6.0μm以上が169個/gであり、粒径2.0μm以上のパーティクルは686個/g、粒径0.2μm以上2.0μm未満のパーティクルは3275個/gで、粒径0.2μm以上の合計のパーティクルの量は3961個/gであり、そのうち、粒径2.0μm以上のパーティクルの占める割合は17.3%であった。
【0096】
(評価)
磁性膜を成膜する前のガラス表面を光学顕微鏡で観察したところ、サーマル・アスペリティーやヘッドクラッシュの原因となる凸部は認められなかった。
得られた磁気ディスクについてグライドテスト(グライド高さ:1.2μインチ、周速:8m/s)(1500枚)を実施したところ、ヒットやクラッシュは認められなかった。また、サーマル・アスペリティーの原因となるパーティクルによって、磁性層等の膜に欠陥が発生していないことも確認できた。また、グライドテストを終えた本実施例の磁気ディスクについて、磁気抵抗型ヘッドで再生試験を行ったが、複数のサンプル(500枚)の全数についてサーマル・アスペリティーによる再生の誤動作は認められなかった。
【0097】
実施例14〜16、比較例5
次に、パーティクルの量が異なる化学強化塩を用意し、化学強化処理液を作ったこと以外は実施例13と同様にして、磁気ディスク用ガラス基板及び磁気ディスクを作製し、同様の評価を行った。なお、比較例5では清浄化がなされていない化学強化塩を使用した。
化学強化塩(硝酸ナトリウム)のパーティクルの量(粒径2.0μm以上、粒径0.2μm以上2.0μm未満、これらの合計)、凸部の高さ(平均値)、凸部の密度(平均値)、及び磁気ディスクのグライドテスト結果(不良率)(5000枚)を表3に示す。
なお、実施例14〜16及び比較例5において、粒径0.2μm以上の合計のパーティクルのうち、粒径2.0μm以上のパーティクルの占める割合は、それぞれ、18.2%(実施例14)、15.0%(実施例15)、22.1%(実施例16)、25.3%(比較例5)であった。
【0098】
【表3】
【0099】
表3からわかるように、清浄化された化学強化塩を使用する(その結果として、化学強化処理液中に含まれるパーティクルの量を減少させる)ことによって、効果的にガラス基板表面に形成される凸部を減少させることができるとともに、グライドテストでは磁気抵抗型ヘッドによる再生試験の結果も良好になることがわかる。特に、粒径0.2μm以上のパーティクルの量が4000個/g以下(粒径2.0μm以上のパーティクルの量が700個/g以下)の場合、凸部が形成されることなく、したがってグライドテストで不良が発生しないので好ましい。
一方、化学強化塩に含まれる粒径0.2μm以上のパーティクルの量が120000個/gを超える場合、中でも粒径2.0μm以上のパーティクルの占める割合が25%を超える場合、化学強化工程の際、凸部が形成される割合が高くなるとともに、凸部の高さも30nmを超え、凸部の密度も0.002/mm2を超えるので、1.2μインチ高のグライドテストにおける不良率(ヒットやヘッドクラッシュの割合)が高く、また、再生試験(500枚)を行ったが、グライドテストの不良率が高くなるにつれて、サーマル・アスペリティーによる再生の誤動作の確率も高くなった。また、清浄化がなされていない化学強化処理液で化学強化した比較例5では、化学強化塩に含まれる粒径0.2μm以上のパーティクルの量は193200個/gであり、化学強化工程の際、凸部が形成される割合が非常に高くなるとともに、凸部の高さが100nm、凸部の密度が0.007/mm2となり、1.2μインチ高のグライドテスト(5000枚)における不良率は10%と高く、また、再生試験(500枚)を行ったがサーマル・アスペリティーによる再生の誤動作の確率も高かった。
なお、実施例15〜16及び比較例5で形成された凸部を分析、観察したところ、凸部の成分は鉄を含むものであって、固形状のパーティクルが付着したものや、化学強化工程における酸化反応と、加わる熱によりパーティクル(鉄)が強く付着したような凸部が観察された。
【0100】
また、表3に示すグライドテストの結果に基づいて、所望のグライド特性が得られるように、化学強化塩自体に含まれるパーティクルの量を基準設定値として予め定め決定することで、所望のグライド特性が得られる磁気ディスク用ガラス基板、さらにはこのガラス基板上に少なくとも磁性層を形成することによって磁気ディスクを製造することができることがわかる。
すなわち、例えば、グライド高さが1.2μインチを満足する化学強化された磁気ディスク用ガラス基板を得るには、化学強化処理液にする前の化学強化塩自体に含まれるパーティクルの量を、粒径0.2μm以上のパーティクルの量が4000個/g以下である化学強化塩を使用して化学強化処理液(溶融塩)を得、この化学強化処理液を使って化学強化処理することで得られる。
以上実施例では、グライド高さが1.2μインチとして例に挙げたが、これに限定されず、上述したように、グライド高さと化学強化塩自体に含まれるパーティクルの量との相関関係を予め求めておき、所望のグライド高さが得られるように、化学強化塩自体に含まれるパーティクルの量を制御すれば良い。
【0101】
以上好ましい実施例を上げて本発明を説明したが、本発明は上記実施例に限定されない。
【0102】
例えば、分析に用いたフィルターのサイズ、孔径は上述のものに限定されない。フィルターサイズは例えば直径10mmφ〜50mmφの範囲、フィルターの孔径は例えば0.1〜2μmの範囲で分析方法に応じてそれぞれ適宜選択できる。
また、実施例1においてICP発光分析法の代わりに蛍光X線分析法を用いても、上記と同様にして元素の定量分析を行うことができる。ただし、ICP発光分析法の法が、感度、再現性の面で優れる。
さらに、複数の分析法を組み合わせて用いることで、分析の信頼性を向上させることができ、分析精度の向上から製品品質の向上を図ることができる。
【0103】
なお、本発明は化学強化工程を経て製造される情報記録媒体用ガラス基板であれば適用でき、光ディスク用ガラス基板、光磁気ディスク用ガラス基板等が各種情報記録媒体用ガラス基板に広く応用できる。この場合、光ディスク用ガラス基板や光磁気ディスク用ガラス基板では、凸部の密度が多いと記録・再生に悪影響を及ぼすので、凸部の密度に着目して化学強化塩自体に含まれるパーティクルの量を制御するとよい。
【0104】
【発明の効果】
以上説明したように本発明では、化学強化塩自体に含まれるパーティクルの量を分析し、分析に合格した化学強化塩だけてを使用しているので、化学強化処理液中において情報記録媒体用ガラス基板に付着して情報記録媒体に悪影響を及ぼすパーティクルの付着を効果的に抑制できる。特に、化学強化処理液中の微小な鉄粉等がガラス基板へ付着してサーマル・アスペリティーやヘッドクラッシュの原因となる凸部が形成されるのを効果的に抑制できる。
したがって、欠陥の少ない高品質の情報記録媒体が得られ、特に低フライングハイト化及びヘッドクラッシュの防止や、サーマル・アスペリティーによる再生機能の低下防止を達成しうる磁気ディスクが得られる。また、1.2μインチ以下の低フライングハイト化を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例で使用したフィルタホルダの分解斜視図である。
【図2】本発明の他の実施例に係る化学強化塩の分析結果を示すSEM写真である。
【図3】本発明の他の実施例に係る化学強化塩の分析結果を示すSEM写真である。
【図4】比較例に係る化学強化塩の分析結果を示すSEM写真である。
【図5】比較例に係る化学強化塩の分析結果を示すSEM写真である。
【符号の説明】
1 メンブレンフィルタ
2 スペーサ
A フィルタホルダ
B フィルタホルダ
Claims (11)
- 化学強化塩を含有する化学強化処理液にガラス基板を接触させることにより、ガラス基板を化学強化する工程を含む磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、
前記化学強化塩を溶媒に溶解させた溶液を最小補足粒径が0.2μmであるフィルタで濾過し、フィルターに捕捉されたパーティクルを酸に溶解させ、予め既知濃度試料の測定から求めた検量線に基づいてICP発光分光分析法又は蛍光X線分析法によって化学強化塩中に含まれる元素及びその濃度の定量分析を行った場合において検出されるFe、Crの濃度が、それぞれ500ppb以下に清浄化した化学強化塩を用いて溶融塩である化学強化処理液をつくり、
加熱された化学強化処理液にガラス基板を接触させることにより化学強化処理することを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。 - 前記化学強化塩として、ICP発光分析法又は蛍光X線分析法によって検出されるFe、Crの濃度がそれぞれ100ppb以下に清浄化した化学強化塩を用いて溶融塩である化学強化処理液をつくることを特徴とする請求項1記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
- 前記化学強化塩として、ICP発光分析法又は蛍光X線分析法によって検出されるFe、Crの濃度がそれぞれ20ppb以下に清浄化した化学強化塩を用いて溶融塩である化学強化処理液をつくることを特徴とする請求項1記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
- 化学強化塩を含有する化学強化処理液にガラス基板を接触させることにより、ガラス基板を化学強化する工程を含む磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、
前記化学強化塩として、液体パーティクルカウンターを用いて測定される、基準液(ブランク)に化学強化塩を溶解させた試料中のパーティクル量と、基準液中のパーティクル量との差から求めた、1gの化学強化塩中に含まれる粒径0.2μm以上のパーティクルの量が、120000個/g以下に清浄化した化学強化塩を用いて溶融塩である化学強化処理液をつくり、
加熱された化学強化処理液にガラス基板を接触させることにより化学強化処理することを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。 - 化学強化塩を含有する化学強化処理液にガラス基板を接触させることにより、ガラス基板を化学強化する工程を含む磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、
前記化学強化塩として、二次電子検出器又は反射電子検出器によって二次電子像又は反射電子像を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したとき、化学強化塩を溶解させた試料中のパーティクルを捕捉最小粒径0.2μm、直径13mmφのフィルタで捕捉したとき、1gの化学強化塩中に含まれる粒径0.2μm以上のパーティクルの量が、900個/mm2以下に清浄化した化学強化塩を用いて溶融塩である化学強化処理液をつくり、
加熱された化学強化処理液にガラス基板を接触させることにより化学強化処理することを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。 - 前記粒径0.2μm以上のパーティクルの量が、500個/mm2以下に清浄化した化学強化塩を用いて溶融塩である化学強化処理液をつくることを特徴とする請求項5記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
- 前記粒径0.2μm以上のパーティクルの量が、30個/mm2以下に清浄化した化学強化塩を用いて溶融塩である化学強化処理液をつくることを特徴とする請求項5記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
- 化学強化塩を含有する化学強化処理液にガラス基板を接触させることにより、ガラス基板を化学強化する工程を含む磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、
前記化学強化塩として、化学強化塩を比色法によって分析したときに、黒色、灰色又は赤茶色とならない化学強化塩であって請求項1記載の要件を満たす化学強化塩を使用することを特徴とする請求項1記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。 - 化学強化塩を含有する化学強化処理液にガラス基板を接触させることにより、ガラス基板を化学強化する工程を含む磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、
前記化学強化塩を溶媒に溶解させた溶液をフィルタで濾過し、フィルタにパーティクルを捕捉させたときに、請求項5記載のSEM分析結果と相関をとった結果、フィルタリング後のフィルタの色の濃度が、粒径0.2μm以上のパーティクルの量が900個/mm 2 超であるときのフィルタの色の濃度よりも薄い着色となる化学強化塩を使用することを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。 - 磁気ディスク用ガラス基板が、磁気抵抗型ヘッド(MRヘッド)又は巨大(大型)磁気抵抗型ヘッド(GMRヘッド)と組み合わせて使用される磁気ディスク用ガラス基板であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
- 請求項1乃至9のいずれか一項に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法によって得られたガラス基板上に少なくとも磁性層を形成することを特徴とする磁気ディスクの製造方法。
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