JP3749781B2 - 徐放性フェロモン製剤 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、性フェロモンを圃場に浮遊させ昆虫の配偶行動を攪乱させる害虫防除方法、いわゆる交信攪乱法に使用される徐放性フェロモン製剤に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
害虫を交信攪乱法によって防除しようとするには、防除対象の害虫の性フェロモン物質そのものを利用する以外に、その性フェロモンの構成成分の一種もしくは幾何異性体などの化合物をディスペンサーといわれる徐放性フェロモン製剤にし、防除対象の圃場に点在配置しておく。圃場では、ディスペンサーから性フェロモン成分が長期間に渡り一定速度に制御されて放出され、害虫が交信攪乱されて防除される。
【0003】
このディスペンサーとしては、チューブ形状のものや袋形状のもの、アンプル形状のものなどプラスチック容器に性フェロモンを封入したものが種々提案されている。しかし、性フェロモンとして炭素数10〜14のアセテート系フェロモンのように沸点が低く、蒸気圧が高いものを採用し、これをプラスチック容器に封入したものは、プラスチック容器の壁部分がバリアーとして十分に機能しないため、放出有効期間が短くなってしまう。そのため交信攪乱のために必要な放出期間内に、新しいディスペンサーを2回、3回と交換しければならないこともあり、ディスペンサーを圃場に配置する作業の労力も倍加することになる。
【0004】
ディスペンサーを構成するプラスチック容器の壁のバリアー性能を向上させるために壁厚を厚くすると、プラスチックの使用量が増えるためコストが割高なるばかりでなく、容器を成形するときに単位時間当たりのプラスチックの吐出量が増加するために成形効率が低下するだけでなく、成形された容器中間体の二次加工が難しくなる。従って、プラスチック容器の壁厚を増すことは、必ずしも得策とはいえない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は前記のような情況に鑑みてなされたもので、沸点が低く、蒸気圧が高い性フェロモンであっても、徐放性があるため一定量の放出が長期間持続し、しかも生産効率が優れた徐放性フェロモン製剤を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
前記の目的を達成するためになされた本発明の徐放性フェロモン製剤は、1−プロパノール、1−ブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、1−ノナノール、1−デカノールのいずれかの炭素数3〜10の第一級アルコールおよび炭素数2〜4の二価アルコールから選ばれる少なくとも一種類のアルコールと、炭素数10〜14の不飽和アセテート類の性フェロモン物質とを混合した混合液をプラスチック容器に封入しており、前記混合液の該性フェロモン物質と該アルコールとの混合重量比が、95:5〜50:50であることを特徴とする。
【0007】
前記混合液の該性フェロモン物質と該アルコールとの混合重量比は、95:50〜50:50で適切に実施できる。この混合重量比が50:50以下であると一本当たりの性フェロモン物質の放出量が減少するため、単位面積当たりの設置本数を増加しなければならなくなり、また95:5以上であると性フェロモン物質の放出量が抑制されなくなり、しかも放出の経過にともなう放出速度が変化し、一定量を持続的に放出できなくなり、適当ではない。
【0008】
前記性フェロモン物質は、E5−デセニルアセテート、Z5−デセニルアセテート、Z8−ドデセニルアセテート、E8−ドデカニルアセテート、Z9−ドデセニルアセテート、E9−ドデセニルアセテート、7,9−ドデカジエニルアセテート、8,10−ドデカジエニルアセテート、E4−トリデセニルアセテート、Z4−トリデセニルアセテート、Z9−テトラデセニルアセテート、E9−テトラデセニルアセテート、Z11−テトラデセニルアセテート、E11−テトラデセニルアセテート、9,11−テトラデカジエニルアセテート、および9,12−テトラデカジエニルアセテートから選ばれる少なくとも1種類の不飽和アセテートである。
【0009】
前記炭素数3〜10の第一級アルコールが1−プロパノール、1−ブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、1−ノナノール、または1−デカノール、前記炭素数2〜4の二価アルコール(グリコール)が1,2−エタンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールで、これらの単体または混合物である。
【0010】
前記プラスチック容器は、ポリオレフィン系重合体からなり、その肉厚が0.2〜1.0mmのチューブ、カプセル、アンプル、または袋の形状を有する。ポリオレフィン系重合体は、具体的にはポリエチレン、ポリプロピレン、またはエチレンを90重量%以上含むエチレン−酢酸ビニル共重合体である。また、これらのポリマーブレンドでもよい。
【0011】
【発明の効果】
本発明を適用する徐放性フェロモン製剤は、不飽和アセテート類の性フェロモン物質に低級アルコール、低級グリコールを混合してプラスチック容器に封入したことことにより、混合液の分配により放出量が抑制され、しかも放出の経過にともなう放出速度に変化がなく、一定量の性フェロモン物質を持続的に放出する。また性フェロモン物質と低級アルコール、低級グリコールとの混合比率を調整することにより、性フェロモン物質の放出速度を任意に制御できるようになる。
【0012】
炭素数10〜14の不飽和アセテートのように、沸点が低く蒸気圧が高いフェロモンであると、従来は交信攪乱のために必要な放出期間内に、圃場に配置されたディスペンサーを新しいものに交換しければならなかった。しかし、本発明の徐放性フェロモン製剤であると、沸点が低く蒸気圧が高い性フェロモン物質であっても徐放性があり、一定量の放出が長期間持続するため、必要な放出期間内に交換する必要がなくなり、作業労力を大幅に削減できるようになる。
【0013】
さらに本発明の徐放性フェロモン製剤は、プラスチック容器の壁のバリアー性能を向上させるために壁厚を厚くする必要がないので、プラスチックの量が少なくてすみ、成形効率、加工性も良いので、コストを安く製造できる。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明を適用する徐放性フェロモン製剤は、以下のようにして製造される。
【0015】
まずプラスチックの容器にするためのチューブ(内径0.5〜2.0mm、肉厚が0.2〜1.0mm)をポリエチレン等で押出成形する。その際、チューブの切断長は任意でよいが、後の取り扱いの便利さを考え100mの長さ(プラスチック容器500本分)にしておく。一方、不飽和アセテート類の性フェロモン物質と低級アルコールまたは/および低級グリコールとを所定の比率で混合し、内容物の混合液を用意する。この混合液に前記により成形したチューブの一端を浸け、もう一方の端を吸引装置に繋いで吸引して性フェロモンを含有する混合液をチューブ内に吸い込む。それを200mm毎に熱鏝で加圧して融着封鎖し、その部分を切断する。
【0016】
上記工程により、図1に示すように、プラスチック容器2に性フェロモンを含有する混合液1が封入された徐放性フェロモン製剤が完成する。この徐放性フェロモン製剤は、害虫を防除すべき圃場に、所定量の性フェロモンが放出されるように割りふって一定ピッチで点在して配置される。
【0017】
【実施例】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、これに限定されるものではない。
【0018】
(実施例1)
内径1.21mm、外径2.41mm長さ200mmのプラスチック容器(ポリエチレンチューブ)に、E5−デセニルアセテート(E5−10:Ac)85重量%およびE5−デセニルアルコール(E5−10:OH)15重量%からなるPeach Twig Borer性フェロモン液を5重量部と、1−デカノールを5重量部とを混合した性フェロモンを含有する混合液を封入して、徐放性フェロモン製剤を30本試作した。封入された混合液の量は全体で200mg、その内E5−デセニルアセテートは85mgである。
【0019】
30本の徐放性フェロモン製剤を気温25℃、風速0.3m/sec.の環境下で放置し、5日毎に1本を回収してプラスチック容器に残存するE5−デセニルアセテートの量を測定した。測定は、回収したプラスチック容器を5mm片に切断しアセトンに一昼夜浸漬し、そのアセトン溶液をガスクロマトグラフィーにより内部標準法で定量することにより行った。この量を、封入されたE5−デセニルアセテートの量から差し引いて、E5−デセニルアセテートの放出量、放出速度を算出した。その結果を図2に示す。
【0020】
(比較例1)
実施例1と同様にして、E5−デセニルアセテート85重量%およびE5−デセニルアルコール15重量%からなるPeach Twig Borer性フェロモン液のみをプラスチック容器に封入した徐放性フェロモン製剤を試作し、実施例と同一条件で、E5−デセニルアセテートの経時的残量を測定し、放出速度を算出した。その結果を図2に示す。
【0021】
(比較例2)
実施例1と同様にして、E5−デセニルアセテート85重量%およびE5−デセニルアルコール15重量%からなるPeach Twig Borer性フェロモン液を6重量部と、ノルマルオクタデカニルアセテート(n−18:Ac)を4重量部とを混合した性フェロモンを含有する混合液をプラスチック容器に封入した徐放性フェロモン製剤を試作し、実施例と同一条件で、E5−デセニルアセテートの経時的残量を測定し、放出速度を算出した。その結果を図2に示す。
【0022】
図2から、比較例1および比較例2の徐放性フェロモン製剤は経過日数とともにE5−デセニルアセテートの放出速度が小さくなるが、実施例1の徐放性フェロモン製剤はE5−デセニルアセテートの放出速度が一定になっている(グラフが平坦になる)期間ががかなりの日数に亘ることが分かる。
【0023】
(実施例2)
実施例1と同様にして、E5−デセニルアセテート85重量%およびE5−デセニルアルコール15重量%からなるPeach Twig Borer性フェロモン液を5重量部と、1−デカノールを5重量部とを混合した性フェロモンを含有する混合液をプラスチック容器に封入して、徐放性フェロモン製剤を試作し、実施例と同一条件で、E5−デセニルアセテートの経時的残量を測定し、放出速度を算出した。その結果、E5−デセニルアセテートは経過日数に拘らず、一定の放出速度を示した。
【0024】
(実施例3)
実施例1と同様にして、E5−デセニルアセテート85重量%およびE5−デセニルアルコール15重量%からなるPeach Twig Borer性フェロモン液を5重量部と、1−ヘキサノールを5重量部とを混合した性フェロモンを含有する混合液をプラスチック容器に封入して、徐放性フェロモン製剤を試作し、実施例と同一条件で、E5−デセニルアセテートの経時的残量を測定し、放出速度を算出した。その結果、E5−デセニルアセテートは経過日数に拘らず、一定の放出速度を示した。
【0025】
(実施例4)
実施例1と同様にして、E5−デセニルアセテート85重量%およびE5−デセニルアルコール15重量%からなるPeach Twig Borer性フェロモン液を5重量部と、1−プロパノールを5重量部とを混合した性フェロモンを含有する混合液をプラスチック容器に封入して、徐放性フェロモン製剤を試作し、実施例と同一条件で、E5−デセニルアセテートの経時的残量を測定し、放出速度を算出した。その結果、E5−デセニルアセテートは経過日数に拘らず、一定の放出速度を示した。
【0026】
(実施例5)
実施例1と同様にして、E5−デセニルアセテート85重量%およびE5−デセニルアルコール15重量%からなるPeach Twig Borer性フェロモン液を5重量部と、1,3−プロパンジオールを5重量部とを混合した性フェロモンを含有する混合液をプラスチック容器に封入して、徐放性フェロモン製剤を試作し、実施例と同一条件で、E5−デセニルアセテートの経時的残量を測定し、放出速度を算出した。その結果、E5−デセニルアセテートは経過日数に拘らず、一定の放出速度を示した。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を適用する徐放性フェロモン製剤の断面図である。
【図2】徐放性フェロモン製剤から放出される性フェロモンの経時的速度の変化を示す図である。
【符号の説明】
1は性フェロモンを含有する混合液、2はプラスチック容器

Claims (4)

  1. 1−プロパノール、1−ブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、1−ノナノール、1−デカノールのいずれかの炭素数3〜10の第一級アルコールおよび炭素数2〜4の二価アルコールから選ばれる少なくとも一種類のアルコールと、炭素数10〜14の不飽和アセテート類の性フェロモン物質とを混合した混合液をプラスチック容器に封入しており、前記混合液の該性フェロモン物質と該アルコールとの混合重量比が、95:5〜50:50であることを特徴とする徐放性フェロモン製剤。
  2. 該性フェロモン物質がE5−デセニルアセテート、Z5−デセニルアセテート、Z8−ドデセニルアセテート、E8−ドデセニルアセテート、Z9−ドデセニルアセテート、E9−ドデセニルアセテート、7,9−ドデカジエニルアセテート、8,10−ドデカジエニルアセテート、E4−トリデセニルアセテート、Z4−トリデセニルアセテート、Z9−テトラデセニルアセテート、E9−テトラデセニルアセテート、Z11−テトラデセニルアセテート、E11−テトラデセニルアセテート、9,11−テトラデカジエニルアセテート、および9,12−テトラデカジエニルアセテートから選ばれる少なくとも1種類の不飽和アセテートであることを特徴とする請求項1に記載の徐放性フェロモン製剤。
  3. 記炭素数2〜4の二価アルコールが1,2−エタンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールであることを特徴とする請求項1に記載の徐放性フェロモン製剤。
  4. 前記プラスチック容器は、ポリオレフィン系重合体からなり、その肉厚が0.2〜1.0mmのチューブ、カプセル、アンプル、または袋の形状を有することを特徴とする請求項1に記載の徐放性フェロモン製剤。
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