JP3745594B2 - 電池及びこの電池の電極成形装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、正負の電極が交互にセパレータ等の電解質を保持するための電解質保持層を介して近接して配置された発電要素を備えた電池、並びにこの電池の電極成形方法及び電極成形装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、一次電池や二次電池などの化学電池は、電解質の保持や絶縁膜の役割を担うセパレータ等を介して正負の電極を近接させて配置した発電要素よりなっている。例えば、巻き型電池は、正負1枚ずつの電極の間にセパレータを介して渦巻型に巻回させることで円筒状の発電要素を形成している。また、積層型電池は複数枚の正負の電極をセパレータを介して交互に積層させることにより発電要素を形成している。形成された発電要素をケースに収納し、外から圧迫することによって正負電極それぞれとセパレータとの間の密着性を維持して、位置ずれや抵抗上昇を防いでいる。また、上記発電要素の正負電極とセパレータとの間を電解質保持性の樹脂等で接合させて、外から圧迫しなくても密着性を維持している電池もある。
【0003】
ところが、従来のように外的な圧迫もしくは内的な接合により形成された発電要素を密着させてしまうと、電極とセパレータとの間の隙間がほとんどなくなるので、電解液を注入した場合に、発電要素内部への電解液の浸透は、電極の側面からの浸透やセパレータからの浸透がほとんどになる。従って、発電要素全体に電解液が浸み渡るのには、かなりの長時間を要していた。
【0004】
この問題を解決する方法として、国際公開公報、WO9,848,466に電極表面に溝を設けることが開示されている。これによれば電極の端部に至る溝を形成することにより、電解液の注液浸透速度および内部に発生するガス抜き速度、接着用の溶剤蒸発速度を速くすることが可能になると開示されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
電極に溝を形成する場合、例えば、断面形状がくさび形や丸形などの形状になっている溝においては、圧縮により溝を形成する際に、溝部分が損傷したり、損傷が激しいときは切断したりする恐れがあった。
【0006】
また、溝底面部と側面部を有する溝断面形状において溝底面部と側面部とのなす角度が直角もしくは鋭角になると、成形用突起により圧縮して溝加工を行う際に、溝周辺部の破損が生じやすく、この破損による破片が金型や溝加工後の電極に付着して不良品を発生させ、歩留まりを低下させる原因になっていた。
【0007】
また、集電板の両面に活物質層を形成した電極においては、その電極の両面に溝を形成する場合に変形を起こしやすく、また溝形成後の厚み調整用圧延プレスを通した後において、溝の変形が残る、あるいは溝の深さが浅くなるなどの問題が生じる可能性があった。
【0008】
この発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、電解液の注液速度やガス抜き速度、溶剤の乾燥速度を速めるための溝形成が、より確実に、かつ電極を破損させることなくできるようにして、歩留まりを向上させることを目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る電池は、集電板の両面に電極活物質層を有する正及び負の電極が電解質保持層を介して配置された発電要素を備えた電池において、少なくとも正負いずれか一方の電極の両電極活物質層に、少なくとも一端が電極の端部に至る複数の溝が形成され、該溝の断面形状が側面部と底面部を有し、該底面部と側面部とのなす角度が鈍角であり、両電極活物質層の溝の底面部が、略対向する位置に形成され、上記両電極活物質層の溝の断面形状における底面部幅が異なっているものである。
【0010】
本発明に係る電極成形装置は、集電板の両面に電極活物質層を有する正及び負の電極が、電解質保持層を介して配置された発電要素を備えた電池の電極成形装置において、上記電極を挟んで配置され、上部に平面部と、この平面部となす角度が鈍角に形成された側面部とからなる突起部が形成された2つの金型、及びこの金型を上記電極の両側から押し当てて上記電極活物質層を圧縮する金形駆動部を備え、両電極活物質層の溝の底面部が、略対向する位置に形成され、上記両電極活物質層の溝の断面形状における底面部幅が異なっているものである。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態について、現在携帯機器用を中心として開発が盛んに行われているリチウムイオン電池を中心に説明をするが、発明がこれに限定されるものではない。また、発明の対象となるのは正極もしくは負極のいずれでもよく、本実施の形態において、正極、負極いずれの極を用いた例を示したものにおいても、他方の極について適用することができる。
【0012】
図1は、本発明の一実施の形態を示す断面図であり、溝加工を施した電極の形状を示す断面図である。図において、1は正極、2は正極活物質層、3は正極集電体、4は正極1の正極活物質層2に形成された溝で、少なくとも一端が正極1の端部まで形成され、形成された溝4の底面部5と側面部6とのなす角度αは鈍角になっているものである。
【0013】
このような溝4の形成は、正極1や正極集電板3に損傷を与えにくく、また、溝4の形成後においても溝4の形状を維持し易いため、電解液の浸透速度や発生ガスのガス抜き速度、接着剤の溶剤の乾燥速度を速くすることができる。
【0014】
溝4の断面形状としては底面部5と側面部6とを有しており、且つこの底面部5と側面部6のなす角度αが鈍角であれば、特に制限はない。このとき正極1の平坦部(上の面)と溝4の底面部5とは必ずしも平行である必要もなく、また、溝4の断面形状は直線のみで構成されている必要はなく、丸みを帯びているなどの形状でもよい。
【0015】
溝4の底面部5の長さは長ければ注液性や乾燥性を良くできるが、長すぎると電池特性を悪化させることがあるので、好ましくは1.0mm以下がよい。しかし、短すぎると上下の溝4の位置がずれやすくなるため、好ましくは0.1mm以上がよい。
【0016】
上下の溝4の底面部5の幅wは同一でもよいし、どちらかの幅wを長くしてもよい。好ましくは、上下の溝4の位置がずれを生じないようにするために、一方の底面部5の幅wに対して他方の底面部5の幅wを1倍以上、3倍以下とするのがよい。このとき、図2の断面図に示すように、上下一方の面の底面部5の幅wを狭くし、他方の面の底面部5の幅wを広くしてもよいし、ランダムにいずれか一方の面の底面部5の幅wを狭くし、他方の面の底面部5の幅wを広くしても特に問題はない。また、図3の断面図に示すように、1つ面内の底面部5の幅wを交互に広くすると注液や乾燥の効率がよくなる。
【0017】
また、溝4の深さ方向の形状としては、電極に損傷を与えなければ、ある程度の深さが良いが、図4の断面図に示すように、正極1の厚さをt1、正極集電板3の厚さをt2、溝4部の正極1の厚さをt3、正極1(活物質層2)のポロシティP、活物質層2の圧縮による横方向への伸び率をr1、集電板3の圧縮による横方向への伸び率をr2としたときに、下記式(1)を満たすような形状であれば、電極及び集電板にほとんど損傷を与えることなく加工を行うことができるので好ましい。従って、突起状金型を用いたプレス加工などの圧縮によって溝形成を行う場合、突起状金型の突起高さは、この式(1)に則るように決定すればよい。
t3=(t1−t2)×(1−P)×(1−r1)
+t2×(1−r2) 式(1)
【0018】
また、各溝4は少なくとも一端が正極1の端部に至るものであれば、必ずしも直線状である必要はなく、また、図5乃至図7の平面図に示すように、複数本を平行線状、格子状、斜め格子状に形成することも可能である(図において、実線部が溝を示している)。溝4の正極1表面に占める面積割合は多ければ注液性や乾燥性を良くできるが、多すぎると電池特性を悪化させることがあるので、好ましくは20%以下がよい。
【0019】
次に、上記正極1の成形方法について説明する。
まず、正極1は、アルミニウム箔等の導電性金属板等からなる正極集電板3の上下面に、リチウムコバルト複合酸化物等の正極活物質と導電剤と結着剤と溶剤からなる正極合剤ペーストをそれぞれ塗布し、乾燥させることにより溶剤を揮発させて、正極活物質層2を形成する。
【0020】
次に、正極活物質層2の両面に溝4を形成する。溝4を形成する方法は、例えば、図8の側面図および図9の平面図に示すような、突起部43を有する平板状の金型41,42を上下させて加工する平板プレス加工や、図10の側面図および図11の斜視図に示すような突起部53を有する2本のロール状金型51,52間に正極1を通すことにより溝4を形成するロール状プレス方法を適用することができる。なお、図9および図11において、実線部が突起部43,53を示している。
【0021】
平板状の金型41,42、あるいはロール状金型51,52に設けられた突起部43,53は上面が平面で、この平面部と側面部とのなす角度は鈍角になっている。
【0022】
また、上下の平板状金型41,42もしくはロール状金型51,52の両方に同形状の突起部43,53を形成させて、上下の突起部43,53が重なり合うようにし、正極1の両面に同時に同位置に溝4を形成させることにより、正極1や集電板3に損傷を与えにくくし、また、溝4の形成後においても溝4の形状を維持し易くする効果が大きくなる。
【0023】
また、重なり合う突起部43,53の断面形状における平面部の幅の比率が1倍以上、3倍以下とすることにより、両面に塗布された電極活物質層の両面の対向した溝同士の位置ずれを少なくし、溝形状の変形を少なくすることができる。
【0024】
また、上下2つの金型41,42または51,52の突起部43または53の平面部が、略対向するように配置し、断面形状における平面部の幅を上下で異なるようにすることによって、上下対向するように形成された溝の位置ずれが生じても互いに重なり合いやすくなり、正極1や集電体3へのダメージを少なくすることができる。
【0025】
また、突起部43,53の平面部と側面部とのなす角度を90度より大きく170度以下とすることによって、溝形成時に溝周辺の脱落等を抑えることができ、量産性を向上させることができる。
【0026】
また、突起部43,53の断面形状における平面部の幅を、0.1mm以上、1.0mm以下とすることによって、電池の放電特性を維持しながら、電解液の注液速度および乾燥速度を速めることができる。
【0027】
また、隣り合う突起43,53同士の間隔を20mm以下とすることによって、正極1の乾燥速度および電解液の注液速度を速めることができる。
【0028】
溝4を形成した後、最終的に目標の厚みにプレスを行い、正極1表面を平滑にすると共に厚み調整も同時に行う。
【0029】
次に、上記溝4を形成した正極1を用いたリチウムイオン電池の製造方法について説明する。
まず、銅箔等の金属集電板等からなる負極集電板に、グラファイト等のリチウムイオンを吸蔵・放出可能なホスト物質と結着剤とを有する負極合剤を塗布し、負極を形成する。
【0030】
次に、負極および溝4を形成した正極1それぞれを方形に切断し、図12の斜視図および図13の断面図に示すように、セパレータ7、正極1、セパレータ7、負極8を交互に配して重ね合わせることによって、積層型の発電要素9を形成する。
【0031】
図13に示したように、正極1が必ず負極8と対向していなければならない場合、正極1を負極8よりも少し小さいサイズに形成すると共に、積層の上下端にそれぞれ負極8を配置するようにしている。そして、セパレータ7は、絶縁を確実にするために、負極8より少し大きいサイズに形成すると共に、積層の上下端に配置した負極8の上下にも配置するようにしている。さらに、正極1と負極8とセパレータ7は、それぞれ隣接する対向面同士が固着されて発電要素9を一体化している。
【0032】
セパレータ7は、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどの微多孔性樹脂フイルム等の方形のシートであり、上記のように正極1よりもサイズが少し大きくなっている。
【0033】
また、上記微多孔性樹脂フイルムに代えて、アルミナ、シリカ、二酸化チタン、あるいは窒化アルミニウム等の金属酸化物、金属窒化物等の微粒子等からなる多孔質体を用いてもよい。
【0034】
また、各正極1とセパレータ7間および各負極8とセパレータ7間は接着剤等両者を固着させる溶液等で固着してもよい。
【0035】
この接着剤等としては例えばポリフッ化ビニリデンやポリビニールアルコールなどの接着性樹脂溶液やその樹脂溶液にアルミナやシリカ、二酸化チタン、窒化アルミニウム等の金属酸化物、金属窒化物等のフィラーを添加、分散させた溶液を用いても良い。
【0036】
次に、上記のようにして、作製された積層型の発電要素9は、図14の斜視図に示すように、バリア性を有するアルミラミネートシート10で覆い、まず、アルミラミネートシート10の一辺を残して周囲を封口する。この際、発電要素9の各正極1と各負極8にそれぞれリード11を予め接続しておき、リード11はアルミラミネートシート10を重ね合わせた間から先端部を突出させた状態で確実に封口する。
【0037】
次に、アルミラミネートシート10をチャンバー内に収容する等して真空引きすることにより、発電要素9の内部から空気を引き抜き、アルミラミネートシート10内に非水電解液を注入する。そして、リード11を介して予備充電を行うことにより正極1と負極8間にガスを発生させてから、再度真空引きして、このガスを引き抜き、その後、アルミラミネートシート10の残る1辺を完全に封口し内部を密封することによりリチウムイオン電池を完成する。
【0038】
本実施の形態のリチウムイオン電池は、正極1と負極8とセパレータ7を固着して発電要素9を一体化することにより、発電要素9をテープ等で止め付けたり金属容器等に収納して圧迫しなくても、正極1と負極8間の間隔距離が変化したり、これら電極1,8とセパレータ7の重なりがずれたりする恐れをなくすことができるので、このように柔軟なアルミラミネートシート10内に収納することが可能となる。
【0039】
また、本実施の形態のリチウムイオン電池は、最初の充電時にのみ正極1からガスが発生するので、アルミラミネートシート10を完全に封口する前に予備充電を行ってガスを予め抜いておくことが必要になる。
【0040】
一般に、発電要素9の電極1,8とセパレータ7との間が接着剤によって固着されている場合、非水電解液を注入した際に、電極1,8とセパレータ7との間から非水電解液が発電要素9の内部に浸入することができないし、また、セパレータ7は、微多孔性樹脂フイルム等を用いるので、不織布等に比べて非水電解液が染み込みにくい。
【0041】
しかし、本実施の形態においては、正極1には複数本の溝4が形成されているので、非水電解液は発電要素9の側面に開口する溝4を伝わって内部に入り込み、溝4周囲の正極1の正極活物質層2の中やセパレータ7中に迅速に浸透すると共に、セパレータ7を介して対向する負極の負極合剤層中にも迅速に浸透することができる。
【0042】
また、非水電解液を注入する前の真空引きの際や、予備充電後の真空引きの際にも、発電要素9の内部の空気や予備充電で発生したガスをこの正極1の溝4を通して迅速に引き抜くことができるようになる。
【0043】
さらに、正極1とセパレータ7とを接着剤で接着し乾燥させる際にも、この接着剤の溶媒を溝4を通して迅速に揮発させることができるようになる。
【0044】
以上説明したように、本実施の形態のリチウムイオン電池によれば、発電要素9内への非水電解液の拡散速度が向上すると共に、発電要素9内からガス抜きを迅速に行うことができるようになるので、非水電解液の注入作業や真空引きの作業時間を短縮して生産性を向上させることができる。
【0045】
また、非水電解液の拡散、ガス抜きや溶剤の乾燥が迅速に行われることにより、電極1,8とセパレータ7とを固着して発電要素9を一体化しても、生産性が低下するようなことがなくなる。また、固着して発電要素9を一体化することにより、発電要素9を柔軟なアルミラミネートシート10内に収納して、電池容器の肉厚を薄く、軽量で安価なものとすることができる。
【0046】
なお、上記実施の形態は、正極1と負極8とセパレータ7を固着する場合について説明したが、これらが固着されない場合であっても、同様の効果が得られる。
【0047】
また、上記実施の形態では、発電要素9をアルミラミネートシート10内に収納する場合について説明したが、これに限らず、他の柔軟なシート状の電池容器に収納しても良く、金属缶等からなる堅牢な電池容器に収納しても良い。
【0048】
また、上記実施の形態では、正極1にのみ溝4を設けたが、正極1が必ず負極8と対向していなければならないというような事情がなければ、負極8にも溝4を設けることができ、負極8にのみ溝4を設けることも可能となる。
【0049】
また、上記実施の形態では、図13に示したような方形の正極1、負極8の間にセパレータ7を介して重ねた積層型の発電要素9の例を説明したが、図15のような正極1と負極8の間にセパレータ7を介して巻いた巻き型の発電要素9、その他正極と負極の間にセパレータを介して楕円状に巻いた楕円状の巻き型の発電要素、正極と負極の間にセパレータを介して折り畳んだ折り畳み型発電要素に適用して効果を発揮する。
【0050】
また、上記実施の形態では、リチウムイオン電池について説明したが、本発明は、これに限らず一次電池や他の二次電池にも同様に実施することができる。そして、正極と負極とセパレータの構成も、これら電池の種類等に応じて任意に変更することができる。
【0051】
【実施例】
以下に、より具体的な実施例を示す。
実施例1.
正極は、厚さ20μmのアルミニウム箔からなる正極集電板の両面に、正極活物質としてリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2)を90重量部と導電剤として人造黒鉛を6重量部と結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を4重量部に溶剤としてN−メチルピロリドン(NMP)を適当量加えたものからなる正極合剤ペーストをそれぞれ塗布し乾燥させることにより、正極活物質層を形成し、作製した。
【0052】
この正極をロール加圧式溝加工機に通すことにより溝形成を行った。この溝加工機は、直径250mm、長さ400mmでステンレス製のロール表面に凸状の突起を斜め格子状(90度交差)に形成し、このロールを二本対向させて、そのロール間に正極を通すことで溝を加工することができる装置である。この溝加工機のロールの突起の断面形状は、上ロールの突起上面の幅が0.3mm、突起下面の幅が0.35mm、突起高さが30μmの断面形状が台形状で、突起の間隔が10mmであり、下ロールの突起上面の幅が0.4mm、突起下面の幅が0.45mm、突起高さが30μmの断面形状が台形状で、突起の間隔が10mmである。このロールで正極の両面に溝を形成したとき、正極の片面には溝底面の幅が0.3mm、深さが30μmの溝が形成され、もう一方の面には溝底面の幅が0.4mm、深さが30μmの長方形状の溝が形成され、全体の厚さが170μmの正極となった。
【0053】
この溝形成後の正極に損傷等は見当たらなく、断面観察を行うと、両面において溝形成の位置にずれはなかった。この正極をロールプレス機にかけて、最終厚さを160μmとした時、溝深さは25μmとなった。この厚み調整のために行ったプレス後の正極に損傷等は見当たらなく、断面観察を行うと、図16の断面図に示すように、両面において形成された溝4の位置にずれはなく、溝4の形状に変形はなかった。この正極1シートを幅100mm、長さ150mmに切断して正極とした。
【0054】
負極は、厚さ15μmの銅箔からなる負極集電体の両面にグラファイト90重量部と、結着剤であるPVDF10重量部に溶剤としてNMPを適当量加えたものとからなる負極合剤ペーストをそれぞれ塗布し、乾燥させることにより負極合剤層を形成し、さらに、ロールプレス機にかけて最終厚み160μmの負極シートとした。この負極シートを幅105mm、長さ155mmに切断して負極とした。
【0055】
セパレータは厚さ25μmのポリエチレン製微多孔性樹脂フイルムのシートを幅110mm、長さ160mmに切断して用意した。
【0056】
これら正極、負極とセパレータとを固着させる接着剤として、PVDF樹脂をNMPに溶かした溶液に平均粒径0.01μmのアルミナ粉末を分散させたペーストを作製した。
【0057】
負極、セパレータ、正極、セパレータ、負極の順に上記接着剤を塗布しながら積層し、80℃に設定した真空乾燥機中で加圧しながら乾燥させて、積層型発電要素とした。このときの乾燥終了の目安は正極集電体と負極集電体との間の電気抵抗が100MΩに達した時とした。この時の乾燥時間は40分であった。
【0058】
上記作製した積層型発電要素の正極集電体および負極集電体にリード端子をスポット溶接機で取り付けた後、この積層型発電要素を、3辺を熱融着させて袋状にした幅140mm、長さ200mmのアルミラミネートシートの袋に入れて、真空チャンバ内で、6フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を1mol/l含むエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の1:1溶液からなる電解液を適当量袋内に注入し、これを真空に引いて電解液を真空含浸させた後、予備充電を行い、発生したガスを引き抜いてから、熱融着機で残る1辺を封口して積層型電池とした。
【0059】
この積層型発電要素に電解液を注液する速度や、ガス抜き速度は特に問題にならなかった。
【0060】
実施例2.
直径250mm、長さ400mmでステンレス製のロール表面に凸状の突起を平行に形成した2本のロールを用いた。上ロールの突起断面形状は、突起上面の幅が0.3mm、突起下面の幅が0.35mm、突起高さが30μmで、突起の間隔が10mmであり、下ロールの突起断面形状は、突起上面の幅が0.3mm、突起下面の幅が0.35mm、突起高さが30μmの断面形状が長方形状で、突起の間隔が10mmである。溝形成以外は、実施例1と同様にして積層型電池を作製した。
【0061】
このロールで正極の両面に溝を形成したとき、正極の片方の面には溝底面の幅が0.3mm、深さが30μmの溝が形成され、もう一方の面には溝底面の幅が0.3mm、深さが30μmの長方形状の溝が形成され、全体厚さが170μmの正極となった。
【0062】
この溝形成後の正極に損傷等は見あたらなかったが、断面観察を行うと、両面溝において、約0.15mmの位置ずれが生じていた。上下の溝形状の幅が同じであると、溝形成時に位置ずれを生じやすい。この正極をロールプレスにかけて最終厚みを160μmとした結果、溝深さが25μmとなった。この厚み調整のために行ったプレス後の正極に損傷等は見当たらなかったが、断面観察を行うと、図17の断面図に示すように、両面において溝形成の位置にずれがあるため、溝形状に変形が生じていた。
【0063】
この正極シートを用いて実施例1と同様に、積層型発電要素を組み上げ、乾燥した。この時の乾燥時間は45分であった。この積層型発電要素に電解液を注液する速度や、ガス抜き速度は特に問題にならなかった。溝形状に変形が生じたため、溝断面面積が減少して若干乾燥速度等が遅くなったが、問題はなかった。
【0064】
比較例1.
実施例1と同様に凸状の突起を斜め格子状(90度交差)に形成したロールを用いた。上ロールの突起断面形状は、突起上面の幅が0mm、突起下面の幅が0.3mm、突起高さが30μmの断面形状がくさび状で、突起の間隔が10mmであり、下ロールの突起断面形状は、突起上面の幅が0mm、突起下面の幅が0.3mm、突起高さが30μmの断面形状がくさび状で、突起の間隔が10mmである。溝形成以外は実施例1と同様にして行った。
【0065】
このロールで正極の両面に溝を形成したとき、正極は溝部で切断され、損傷が激しく、電池に仕上げることはできなかった。
【0066】
比較例2.
実施例1で用いた上下ロールのロールの突起高さを40μmに変更し、その他の突起形状寸法は実施例1と同一にしたロールを用いて、溝形成を行った。
【0067】
このロールで正極の両面に溝を形成したとき、正極の片方の面には溝底面の幅が0.3mm、深さが40μmの溝が形成され、もう一方の面には溝底面の幅が0.4mm、深さが40μmの長方形状の溝が形成され、全体厚さが170μmの正極となった。
【0068】
この溝形成後の正極には表面に凹凸が多く見られ、断面観察を行うと、集電板が大きく変形し、損傷を受けている様子が見受けられた。これは上下の溝形成において、突起の高さが高すぎ、上記式(1)以上に圧縮を行ったため、電極及び集電板にダメージを与えたものである。
【0069】
実施例3.
実施例1において用いた溝形成用ロールの突起形状の幅および突起の間隔(ピッチ)を変化させて溝形成を行った。溝形成以外は実施例1と同様にして積層型電池を作製し、溝幅と乾燥時間および放電容量との関係、溝の間隔と乾燥時間の関係および平面内の溝面積比率と放電容量との関係を調べた。
【0070】
図18は、溝幅と乾燥時間および放電容量との関係を示す図である。図18に示したように、溝幅が狭くなると乾燥時間が長くなる傾向にあり、溝幅が0.1mm以下になると乾燥時間が60分を越えるので、時間がかかり過ぎる。溝幅が広くなるほど放電容量が低下する傾向にあり、溝幅が1.0mmを越えると放電容量が80%より小さくなるので問題になる。また、溝幅が0.1mm以下になると溝形成において位置ずれが生じやすく、溝形成が難しくなる。この結果から溝幅は0.1mm以上、1.0mm以下が好ましいことがわかる。
【0071】
図19は、溝幅を0.3mmに固定した場合の溝の間隔と乾燥時間の関係を示す図である。図19に示したように、溝間隔が広くなると乾燥時間が長くなる傾向にあり、溝間隔が20mmより大きくなると、乾燥時間が60分を越えることがわかった。このため、溝間隔は20mm以下が好ましい。
【0072】
図20は、平面内の溝面積比率と放電容量との関係を示す図である。図20に示したように、溝面積比率が20%を越えると電池の放電容量が80%より低下するので、溝の面内に占める面積比率は20%以下が好ましい。
【0073】
実施例4.
実施例1と同様に凸状の突起を斜め格子状(90度交差)に形成したロールを用いた。上下ロールの突起断面形状は、突起高さが30μm、底面部と側面部とのなす角度が145度、突起の間隔が10mmの断面形状が台形状であり、溝幅比率、すなわち、上ロールの溝幅と、この上ロールの溝と対向する下ロールの溝幅との比を1〜4まで変化させた上下ロールを用いて溝形成を行った。具体的には、上ロールの溝幅を0.3mm、下ロールの溝幅を0.3mmとした場合、上ロールの溝幅を0.2mm、下ロールの溝幅を0.4mmとした場合、上ロールの溝幅を0.15mm、下ロールの溝幅を0.45mmとした場合、上ロールの溝幅を0.12mm、下ロールの溝幅を0.48mmとした場合に、溝断面積をほぼ一定にして、溝形成を行った。
【0074】
この溝形成後の溝形状は、一方のロールの溝幅が大きくなるほど、溝幅が大きい方の溝の変形が大きく、溝深さが浅くなる傾向があった。図21は、溝幅比率と乾燥時間との関係を示す図であり、図21に示したように、溝幅の比率が1:3より大きくなると乾燥時間が60分より長くなり、乾燥時間がかかりすぎることがわかる。従って、溝幅の比率は1:3以下とするのが好ましい。
【0075】
比較例3.
実施例2で用いた上ロールと下ロールを用い、下ロールを溝幅方向に0.45mmずらして溝形成を行った。
【0076】
このとき、正極の片方の面には溝底面幅が0.3mm、深さが30μmの溝が形成され、もう一方の面には溝底面幅が0.3mm、深さが30μmの長方形状の溝が形成され、全体厚さ170μmの正極となった。
【0077】
この溝形成後の正極表面に凹凸が現れ、所々溝部で切断されているところが見られた。断面観察を行うと、図22の断面図に示すように、両面において、溝形成位置が約0.3mmずれ、上下の溝4が完全にずれているため、集電体3に一部損傷が見受けられ、溝4が上下で完全にずれてしまうと、正極1極として使用できないことがわかった。
【0078】
実施例5.
実施例1と同様に凸状の突起を斜め格子状(90度交差)に形成したロールを用いた。ロールの突起断面形状は、突起上面の幅を0.3mmに固定し、突起上面部と側面部の角度を変化させて溝形成を行い、突起上面部と側面部の角度(溝側面角度)と乾燥速度との関係を調べた。
【0079】
図23は、溝側面角度と乾燥速度との関係を示す図であり、図に示されているように、150度以上の角度になると乾燥時間が長くなる傾向にあり、170度を越えると急激に乾燥時間が長くなる。従って、溝側面角度は170度以下とするのがよい。角度が170度を越えると急激に乾燥時間が長くなる原因は、溝加工の後の厚さ調整のためのプレス加工時に、溝が潰されてしまい、溝断面積が小さくなっているためであることがわかった。
【0080】
実施例6.
実施例1で作製した正極シートを幅50mm、長さ250mmに切断して正極とし、実施例1で作製した負極シートを幅52mm、長さ300mmに切断して、負極とした。
【0081】
実施例1と同様のセパレータを幅54mm長さ305mmに切断して、正極および負極の各表面に実施例1と同様の接着剤を塗布しながら、セパレータ・正極・セパレータ・負極と重ね、これを回巻して巻き型電極体を作成した。この巻型電極体を80℃に設定した真空乾燥機中で乾燥させて、巻き型発電要素とした。このときの乾燥時間は40分であった。
【0082】
上記作製した巻き型発電要素にリード端子をスポット溶接機で取り付けた後、アルミニウム缶に入れて、実施例1と同様の電解液を適当量注入し、真空に引いて電解液を真空含浸させた後、予備充電を行い、発生したガスを引き抜いてから、封口して円筒巻き型電池とした。
【0083】
この円筒巻き型発電要素に電解液を注液する速度や、ガス抜き速度は特に問題にならなかった。この円筒巻き型電池の電池特性も従来と同様であった。
【0084】
実施例7.
実施例1で作製した正極シートを幅50mm、長さ250mmに切断して正極とし、実施例1で作製した負極シートを幅52mm、長さ300mmに切断して、負極とした。
【0085】
実施例1と同様のセパレータを幅54mm長さ305mmに切断して、正極および負極の各表面に実施例1と同様の接着剤を塗布しながら、セパレータ・正極・セパレータ・負極と重ねて、楕円状に回巻して楕円状巻き型電極体を作製し、この楕円状巻き型電極体を80℃に設定した真空乾燥機中で加圧しながら乾燥させて、扁平状巻き型発電要素とした。このときの乾燥時間は40分であった。
【0086】
上記作製した扁平状巻き型発電要素にリード端子をスポット溶接機で取り付けた後、3辺を熱融着させて袋状にしたアルミラミネートシートに入れて、実施例1と同様の電解液を適当量注入し、これを真空に引いて電解液を真空含浸させた後、予備充電を行い、発生したガスを引き抜いてから、熱融着機で残る1辺を封口して平板状巻き型電池とした。
【0087】
上記扁平状巻き型発電要素に電解液を注液する速度や、ガス抜き速度は特に問題にならなかった。この平板巻き型電池の電池特性も従来と同様であった。
【0088】
【発明の効果】
本発明に係る電池によれば、集電板の両面に電極活物質層を有する正及び負の電極が電解質保持層を介して配置された発電要素を備えた電池において、少なくとも正負いずれか一方の電極の両電極活物質層に、少なくとも一端が電極の端部に至る複数の溝が形成され、該溝の断面形状が側面部と底面部を有し、該底面部と側面部とのなす角度が鈍角であり、両電極活物質層の溝の底面部が、略対向する位置に形成され、上記両電極活物質層の溝の断面形状における底面部幅が異なっているものであるので、溝形成において電極や集電板に損傷を与えにくく、また、溝形成後においても溝の形状を維持し易いため、電解液の浸透速度や発生ガスのガス抜き速度、接着剤の溶剤の乾燥速度を速くすることができ、また、対向する溝の位置ずれが生じても互いに重なり合いやすく、電極や集電体へのダメージを少なくすることができる。
【0089】
本発明に係る電極成形装置によれば、集電板の両面に電極活物質層を有する正及び負の電極が、電解質保持層を介して配置された発電要素を備えた電池の電極成形装置において、上記電極を挟んで配置され、上部に平面部と、この平面部となす角度が鈍角に形成された側面部とからなる突起部が形成された2つの金型、及びこの金型を上記電極の両側から押し当てて上記電極活物質層を圧縮する金形駆動部を備え、両電極活物質層の溝の底面部が、略対向する位置に形成され、上記両電極活物質層の溝の断面形状における底面部幅が異なっているものであるので、溝形成において電極や集電板に損傷を与えにくく、また、溝形成後においても溝の形状を維持し易いため、電解液の浸透速度や発生ガスのガス抜き速度、接着剤の溶剤の乾燥速度を速くすることができ、また、対向する溝の位置ずれが生じても互いに重なり合いやすく、電極や集電体へのダメージを少なくすることができる。る。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施の形態を示すものであって、溝加工を施した電極の形状を示す断面図である。
【図2】 本発明の一実施の形態を示すものであって、溝加工を施した電極の形状を示す断面図である。
【図3】 本発明の一実施の形態を示すものであって、溝加工を施した電極の形状を示す断面図である。
【図4】 本発明の一実施の形態を示すものであって、溝加工を施した電極の断面寸法を説明する断面図である。
【図5】 本発明の一実施の形態を示すものであって、溝加工を施した電極の溝パターンを示す平面図である。
【図6】 本発明の一実施の形態を示すものであって、溝加工を施した電極の溝パターンを示す平面図である。
【図7】 本発明の一実施の形態を示すものであって、溝加工を施した電極の溝パターンを示す平面図である。
【図8】 本発明の一実施の形態を示すものであって、平板プレスによる溝加工を模式的に示す側面図である。
【図9】 本発明の一実施の形態を示すものであって、平板プレスによる溝加工の金型表面を示す平面図である。
【図10】 本発明の一実施の形態を示すものであって、ロール状プレス機による溝加工を模式的に示す側面図である。
【図11】 本発明の一実施の形態を示すものであって、ロール状プレス機による溝加工のロール金型表面を示す斜視図である。
【図12】 本発明の一実施の形態を示すものであって、非水電解質二次電池の電極とセパレータを示す分解斜視図である。
【図13】 本発明の一実施の形態を示すものであって、積層型非水電解質二次電池の構造を示す縦断面図である。
【図14】 本発明の一実施の形態を示すものであって、発電要素をアルミラニネートシートで封口した非水電解質二次電池を示す斜視図である。
【図15】 本発明の一実施の形態を示すものであって、巻き型非水電解質二次電池の発電要素の構造を示す縦断面図である。
【図16】 本発明の実施例1を示すものであって、溝加工を施した電極の溝形状を示す断面図である。
【図17】 本発明の実施例2を示すものであって、溝加工を施した電極の溝形状を示す断面図である。
【図18】 本発明の実施例3を示すものであって、溝の幅と乾燥時間および放電容量の関係を示す図である。
【図19】 本発明の実施例3を示すものであって、溝間隔と乾燥時間の関係を示す図である。
【図20】 本発明の実施例3を示すものであって、溝面積比率と放電容量の関係を示す図である。
【図21】 本発明の実施例4を示すものであって、上下の溝幅の比率と放電容量の関係を示す図である。
【図22】 本発明の実施例5を示すものであって、溝加工を施した電極の形状を示す断面図である。
【図23】 本発明の実施例6を示すものであって、溝側面角度と乾燥時間との関係を示す図である。
【符号の説明】
1 正極、2 正極活物質層、3 正極集電板、4 溝、5 底面部、6 側面部、
7 セパレータ、8 負極、9 積層型の発電要素、10 アルミラミネートシート、
11 端子、12 外装缶、41 平板型上金型、42 平板型下金型、
43,53 突起部、51 ロール状上金型、52 ロール状下金型。
Claims (2)
- 集電板の両面に電極活物質層を有する正及び負の電極が電解質保持層を介して配置された発電要素を備えた電池において、少なくとも正負いずれか一方の電極の両電極活物質層に、少なくとも一端が電極の端部に至る複数の溝が形成され、該溝の断面形状が側面部と底面部を有し、該底面部と側面部とのなす角度が鈍角であり、両電極活物質層の溝の底面部が、略対向する位置に形成され、上記両電極活物質層の溝の断面形状における底面部幅が異なっていることを特徴とする電池。
- 集電板の両面に電極活物質層を有する正及び負の電極が、電解質保持層を介して配置された発電要素を備えた電池の電極成形装置において、上記電極を挟んで配置され、上部に平面部と、この平面部となす角度が鈍角に形成された側面部とからなる突起部が形成された2つの金型、及びこの金型を上記電極の両側から押し当てて上記電極活物質層を圧縮する金形駆動部を備え、上記2つの金型の突起部の平面部は、略対向するように配置され、断面形状における平面部の幅が異なっていることを特徴とする電極成形装置。
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