JP3727230B2 - 光ディスク基板および光ディスク - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、光ディスク基板およびこれからなる光ディスクに関する。さらに詳しくはコンパクトディスク、光磁気ディスク(MOディスク)およびDVD(Digital Versatile Disc)等の光学記録媒体用途に適した基板およびこれからなる光ディスクに関する。特に本発明は、記録容量が極めて多い光ディスクに適した光ディスク基板に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、コンパクトディスク、MOディスクおよびDVD用基板に使用される代表的な樹脂としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)にホスゲンやジフェニルカーボネートを反応させて得られたポリカーボネート樹脂が知られており、この樹脂は透明性、耐熱性、寸法精度が良い等の優れた性質を有することから近年光学情報記録媒体等の分野で情報記録媒体基板の素材としても広く用いられている。しかしながら、前記ビスフェノールAからのポリカーボネート樹脂はベンゼン環の光学異方性から光弾性定数が大きく、従って成形品の複屈折が大きい欠点があり、この改善が求められている。また、さらに基板の薄厚化を図るために、その反りが問題となるため、さらに反りの少ないポリカーボネート樹脂の基板が求められている。
【0003】
また記録密度を高めるためには、より転写性のよい樹脂が求められている。また一方では耐久性のよい樹脂も求められているが、要求を満足する光ディスク基板はまだない。一方、最近コンパクトディスクのビデオ用の開発および商品化が進められている。そのため記録容量が従来のオーディオ用のコンパクトディスク(直径12cmのディスク当り約650MBの記録密度)に比べて約10倍(直径12cmのディスク当り約6.5GBの記録密度)またはそれ以上であることが要求され、されにその他の特性も一層高度化することが要望されている。
【0004】
特開平2−88634号公報には、特定構造のジヒドロキシジフェニルアルカンおよびそれからの新規な芳香族ポリカーボネートについて記載されている。この公報に開示されている代表的例は、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンを全ジヒドロキシ成分の100〜2モル%使用した芳香族ポリカーボネートである。具体的には、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンを100〜30モル%の割合で使用したホモ・またはコ・ポリカーボネートが示され、コポリマーの場合の共重合成分としては、ビスフェノールAが30、50、65または70モル%使用されている。
【0005】
上記公報には、得られた前記芳香族ポリカーボネートは、従来のポリカーボネートの用途、例えば電気分野、被覆および透明板ガラスの分野において使用され、高い耐熱性において優れていることが開示されている。特にコンパクトディスクとしての用途に関して唯一の実施例が示され、従来のビスフェノールAからのポリカーボネートに比べて、ビスフェノールAの65モル%および1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン35モル%からのコポリカーボネートは、ガラス転移温度(Tg)が185℃と高く、また通路の差(nm/mm)が+13であることが教示されている。この記載は前記コポリカーボネートは従来のビスフェノールAからのポリカーボネートに比べて耐熱性は改良されていることを示唆しているが、コンパクトディスクとして、それ以外の特性が優れていることを何等教示してはいない。
【0006】
また、特開平8−293128号公報には、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンを少なくとも20モル%含むジヒドロキシ成分より形成されるポリカーボネート樹脂が光ディスク基板として優れていることが示されている。この樹脂は、透明性、耐熱性、機械的物性、斜め入射複屈折、吸水率、転写性および反り等の特性に優れた光ディスク基板を提供する。しかしながら、さらに近年の成形サイクルの向上や高密度ディスクの要望に対して、殊に高温成形時における熱安定性が重要となり、より熱安定性に優れた樹脂が求められている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の第1の目的は、ポリカーボネート樹脂の優れた透明性、耐熱性および機械的物性を保持しつつ、成形時における熱安定性、斜め入射複屈折、吸水率、転写性、反り等を向上した特定構造の芳香族ポリカーボネート樹脂からなる光ディスク基板を提供することにある。
【0008】
本発明の第2の目的は、前記高密度の記録容量を有する光ディスク基板、殊にビデオ用光ディスク基板等に適した高機能を有し、且つ溶融成形が容易な光ディスク基板を提供することにある。
【0009】
本発明者はこれら目的を達成せんとして鋭意研究を重ねた結果、特定構造の芳香族ポリカーボネート樹脂を選択し、特定の比粘度範囲で、且つ吸水率が低い特性とし、さらに特定成分の割合を特定量以下とすることによって良好な転写性を達成し、反りが少なく、成形時の着色が低減された光学情報記録媒体基板が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者の研究によれば前記本発明の目的は、全芳香族ジヒドロキシ成分の少なくとも20モル%が1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンである芳香族ポリカーボネート樹脂より実質的に形成され、該ポリカーボネート樹脂は
(A)その0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液の20℃において測定された比粘度が0.2〜0.5の範囲であり、
(B)本文に定義された吸水率が0.2重量%以下であり、
および
(C)ポリカーボネート樹脂中に含まれる本文に定義された方法によって測定された下記一般式[X]の含有率が0.05%以下である、
ことを満足する樹脂により形成されていることを特徴とする光ディスク基板によって達成される。
【0011】
【化5】
【0012】
(但し、Rは、下記の4種の式で表される。)
【0013】
【化6】
【0014】
本発明の光ディスク基板を形成する芳香族ポリカーボネート樹脂は、それを構成する芳香族ジヒドロキシ成分として、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(以下“ビスフェノールTMC”と略称することがある)が全ヒドロキシ成分の少なくとも20モル%であることが必要である。
【0015】
前述したとおり、特開平2−88634号公報には、ビスフェノールTMC単独からの芳香族ポリカーボネート樹脂あるいはビスフェノールTMCと他のジヒドロキシ化合物からの共重合芳香族ポリカーボネート樹脂について記載されている。
【0016】
しかしながら、本発明者の研究によればビスフェノールTMC単独からの芳香族ポリカーボネート樹脂は、本発明の前記(A)〜(C)の要件を全て満足するものではなく、光ディスク基板としては不適当であることが判った。また、前記公報に記載された具体的な共重合体、つまりビスフェノールTMCとビスフェノールAとからの共重合ポリカーボネート樹脂も、共重合割合に関係なく同様に光ディスク基板としては、ビスフェノールAからの従来のポリカーボネート樹脂基板に比べて、耐熱性が改良されていること以外、特に優れているものとは云えないことが判った。
【0017】
ところが本発明者の研究によれば、特定の不純物を特定量としたビスフェノールTMCに対して特定の末端改質剤を使用するか、あるいは特定構造のジヒドロキシ化合物を一定割合共重合することによって得られた芳香族ポリカーボネート樹脂は、吸水率が極めて小さく、熱安定性が良好で光ディスクとして反りが少ない基板が得られることが見出された。
【0018】
以下本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂について説明する。
本発明の光ディスク基板の素材として使用される芳香族ポリカーボネート樹脂は、下記式で表される1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(ビスフェノールTMC)が全芳香族ジヒドロキシ成分当り、少なくとも20モル%の割合で構成されたポリカーボネート樹脂である。
【0019】
【化7】
【0020】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂は、前記ビスフェノールTMCを全芳香族ジヒドロキシ成分の少なくとも20モル%、好ましくは少なくとも30モル%使用している。このビスフェノールTMCの割合が20モル%未満の場合、得られた光ディスク基板または光ディスクは、透明性、耐熱性、機械的物性、斜め入射複屈折、吸水率、転写性あるいは反りのいずれかの性質が不満足となり、これら特性を全て満足する光ディスク基板または光ディスクは得られない。ビスフェノールTMCは、100モル%でもよいが吸水率が高くなるまたは流動性が悪くなる傾向になるので、ビスフェノールTMCの割合がこのように高い場合には、後述するように特定の末端基改質剤で末端を変性することが望ましい。
【0021】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂は、芳香族ジヒドロキシ成分として前記ビスフェノールTMCを一定割合使用することが必要であり、所望の特性、殊に吸水率を0.2重量%以下、好ましくは0.18重量%以下とするために、大別して2つの手段が採用される。その1つは、前記ビスフェノールTMCに対して特定のジヒドロキシ成分を組合わせて共重合ポリカーボネート樹脂とすることであり、他の手段は末端基に或る特定構造の末端改質剤を導入することである。これら2つの手段はそれぞれ単独でもよく、また組合わせてもよい。
【0022】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂は、それを構成する全芳香族ジヒドロキシ成分中のビスフェノールTMCの割合が30〜90モル%の範囲であるのが好ましく、40〜80モル%の範囲であるのが特に好ましい。
【0023】
本発明者の研究によれば、前記ビスフェノールTMCに対して、或る特定のジヒドロキシ成分を組合わせて得られた共重合ポリカーボネート樹脂は、光ディスク基板として特に適していることが見出された。すなわち、共重合ポリカーボネート樹脂は、(a)ビスフェノールTMC(これを成分aという)および(b)4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール(以下“ビスフェノールM”と略称することがある)および/または2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下“ビスフェノールC”と略称することがある)[これらを成分bという]を全芳香族ジヒドロキシ成分の少なくとも80モル%とし、且つ成分aと成分bとの割合がモル比で、20:80〜80:20であるポリカーボネート樹脂は光ディスク基板として特に好ましい。
【0024】
前記共重合ポリカーボネート樹脂の好ましい態様の1つは、成分aがビスフェノールTMCであり、且つ成分bがビスフェノールMである組合せであり、その場合成分a:成分bの割合がモル比で、30:70〜80:20の範囲、特に40:60〜70:30の範囲であるのが一層好ましい。
【0025】
また好ましい他の態様は、成分aがビスフェノールTMCであり、且つ成分bがビスフェノールCの組合せであり、その場合成分a:成分bの割合がモル比で、30:70〜80:20の範囲、特に40:60〜70:30の範囲であるのがより好ましい。これら好ましい態様において、成分aと成分bの合計は、全芳香族ジヒドロキシ成分中、少なくとも80モル%、好ましくは少なくとも90モル%であるのが有利であり、典型的には、成分aおよび成分bによって実質的に形成された共重合ポリカーボネート樹脂であるのが望ましい。
前記好ましい態様において、ビスフェノールTMCの割合が20モル%より少なくなると、樹脂の光弾性定数が大きくなり、またガラス転移温度も低下する傾向になるので好ましくない。
【0026】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂において、成分aおよび成分bが全芳香族ジヒドロキシ成分の少なくとも80モル%、好ましくは少なくとも90モル%を占めることが望ましいが、他のジヒドロキシ成分(成分C)を全芳香族ジヒドロキシ成分当り20モル%以下、好ましくは10モル%以下含有していても特に差支えない。
【0027】
かかる成分Cとしては、通常芳香族ポリカーボネートのジヒドロキシ成分として使用されている、成分aおよび成分b以外の成分であればよく、例えばハイドロキノン、レゾルシノール、4,4’−ビフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−イソプロピルシクロヘキサンが挙げられる。
【0028】
本発明の光ディスク基板として用いられる芳香族ポリカーボネート樹脂は、通常の芳香族ポリカーボネート樹脂を製造するそれ自体公知の反応手段、例えば芳香族ジヒドロキシ成分にホスゲンや炭酸ジエステル等のカーボネート前駆物質を反応させる方法により製造される。次にこれらの製造方法について基本的な手段を簡単に説明する。
【0029】
カーボネート前駆物質として例えばホスゲンを使用する反応では、通常酸結合剤および溶媒の存在下に反応を行う。酸結合剤としては例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物またはピリジン等のアミン化合物が用いられる。溶媒としては例えば塩化メチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素が用いられる。また反応促進のために例えば第三級アミンまたは第四級アンモニウム塩等の触媒を用いることもできる。その際、反応温度は通常0〜40℃であり、反応時間は数分〜5時間である。
【0030】
カーボネート前駆物質として炭酸ジエステルを用いるエステル交換反応は、不活性ガス雰囲気下所定割合の芳香族ジヒドロキシ成分を炭酸ジエステルと加熱しながら撹拌して、生成するアルコールまたはフェノール類を留出させる方法により行われる。反応温度は生成するアルコールまたはフェノール類の沸点等により異なるが、通常120〜300℃の範囲である。反応はその初期から減圧にして生成するアルコールまたはフェノール類を留出させながら反応を完結させる。また反応を促進するために通常エステル交換反応に使用される触媒を使用することもできる。前記エステル交換反応に使用される炭酸ジエステルとしては、例えばジフェニルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ジフェニル)カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート等が挙げられる。これらのうち特にジフェニルカーボネートが好ましい。
【0031】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂は、前記したように芳香族ジヒドロキシ成分として、ビスフェノールTMCあるいはビスフェノールTMCと他の芳香族ジヒドロキシ成分との混合物を使用し、それ自体公知のポリカーボネート形成の反応に従って製造することができる。
【0032】
その重合反応において、末端停止剤として通常使用される単官能フェノール類を使用することができる。殊にカーボネート前駆物質としてホスゲンを使用する反応の場合、単官能フェノール類は末端停止剤として分子量調節のために一般的に使用され、また得られた芳香族ポリカーボネート樹脂は、末端が単官能フェノール類に基づく基によって封鎖されているので、そうでないものと比べて熱安定性に優れている。
【0033】
かかる単官能フェノール類としては、芳香族ポリカーボネート樹脂の末端停止剤として使用されるものであればよく、一般にはフェノールあるいは低級アルキル置換フェノールであって、下記一般式で表される単官能フェノール類を示すことができる。
【0034】
【化8】
【0035】
[式中、Aは水素原子、炭素数1〜9の直鎖または分岐のアルキル基あるいはアリールアルキル基であり、rは1〜5、好ましくは1〜3の整数である。]
【0036】
前記単官能フェノール類の具体例としては、例えばフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−クミルフェノールおよびイソオクチルフェノールが挙げられる。
【0037】
これら単官能フェノールは、得られた芳香族ポリカーボネート樹脂の全末端に対して少なくとも5モル%、好ましくは少なくとも10モル%末端に導入されることが望ましい。
【0038】
本発明者の研究によれば、長鎖のアルキル基あるいは脂肪族ポリエステル基を置換基として有するフェノール類、または安息香酸クロライド類もしくは長鎖のアルキルカルボン酸クロライド類を使用して芳香族ポリカーボネート樹脂の末端基を封鎖すると、これらは前記単官能フェノール類と同様に末端停止剤または分子量調節剤として機能するのみならず、さらに得られた芳香族ポリカーボネート樹脂の改質にも役立つことが見出された。
【0039】
すなわち、長鎖のアルキル基あるいは脂肪族ポリエステル基を置換基として有するフェノール類、または安息香酸クロライド類もしくは長鎖のアルキルカルボン酸クロライド類(以下これらを、前記単官能フェノール類と区別するために“末端改質剤”と略称することがある)は、芳香族ポリカーボネート樹脂の末端に結合することによって、樹脂の溶融流動性が改良され、成形加工が容易となるばかりでなく、基板としての物性も改良される。特に樹脂の吸水率を低くする効果がある。
【0040】
従って、ビスフェノールTMCの割合が全芳香族ジヒドロキシ成分当り80モル%以上、殊に90モル%以上の場合は、得られた樹脂の吸水率が0.2重量%を越える場合があるが、このような場合、前記末端改質剤を使用することにより、樹脂の吸水率を0.2重量%以下に抑えることができる。前記末端改質剤は、当然のことながら単官能性化合物であるから、末端停止剤あるいは分子量調節剤としての機能も有している。
【0041】
かかる末端改質剤は、芳香族ポリカーボネート樹脂の組成によってその割合は一定ではないが、全末端に対して少なくとも5モル%、好ましくは少なくとも10モル%、末端に結合するように使用される。末端改質剤は前記単官能性フェノール類と組合せて使用することができる。
【0042】
前記末端改質剤としては下記一般式[I−a]〜[I−h]で表される化合物を使用することができる。
【0043】
【化9】
【0044】
【化10】
【0045】
【化11】
【0046】
【化12】
【0047】
[各式中、Xは−R−O−、−R−CO−O−または−R−O−CO−をである、ここでRは単結合または炭素数1〜10、好ましくは1〜5の二価の脂肪族炭化水素基を示し、Tは単結合または上記Xと同様の結合を示し、nは10〜50の整数を示す。
【0048】
Qはハロゲン原子または炭素数1〜10、好ましくは1〜5の一価の脂肪族炭化水素基を示し、pは0〜4の整数を示し、Yは炭素数1〜10、好ましくは1〜5の二価の脂肪族炭化水素基を示し、W1は水素原子、−CO−R1、−CO−O−R2またはR3である、ここでR1、R2およびR3は、それぞれ炭素数1〜10、好ましくは1〜5の一価の脂肪族炭化水素基、炭素数4〜8、好ましくは5〜6の一価の脂環族炭化水素基または炭素数6〜15、好ましくは6〜12の一価の芳香族炭化水素基を示す。
【0049】
lは4〜20、好ましくは5〜10の整数を示し、mは1〜100、好ましくは3〜60、特に好ましくは4〜50の整数を示し、Zは単結合または炭素数1〜10、好ましくは1〜5の二価の脂肪族炭化水素基を示し、W2は水素原子、炭素数1〜10、好ましくは1〜5の一価の脂肪族炭化水素基、炭素数4〜8、好ましくは5〜6の一価の脂環族炭化水素基または炭素数6〜15、好ましくは1〜12の一価の芳香族炭化水素基を示す。]
【0050】
前記した末端改質剤[I−a]〜[I−h]のうち好ましいのは、[I−a]および[I−b]の置換フェノール類である。この[I−a]の置換フェノール類としては、nが10〜30、特に10〜26のものが好ましく、その具体例としては、例えばデシルフェノール、ドデシルフェノール、テトデシルフェノール、ヘキサデシルフェノール、オクタデシルフェノール、エイコシルフェノール、ドコシルフェノールおよびトリアコンチルフェノール等を挙げることができる。
【0051】
また、[I−b]の置換フェノール類としてはXが−R−CO−O−であり、Rが単結合である化合物が適当であり、nが10〜30、特に10〜26のものが好適であって、その具体例としては、例えばヒドロキシ安息香酸デシル、ヒドロキシ安息香酸ドデシル、ヒドロキシ安息香酸テトラデシル、ヒドロキシ安息香酸ヘキサデシル、ヒドロキシ安息香酸エイコシル、ヒドロキシ安息香酸ドコシルおよびヒドロキシ安息香酸トリアコンチルが挙げられる。
【0052】
前記一般式[I−a]〜[I−g]で示される置換フェノール類または置換安息香酸クロライドにおいて置換基の位置は、p位またはo位が一般的に好ましく、その両者の混合物が好ましい。
【0053】
前記した末端改質剤のうち[I−a]および[I−b]は特に優れている。その理由は前述したとおり、これらは芳香族ポリカーボネート樹脂中に末端基として導入されると、その溶融流動性が改善されるばかりでなく、吸水率を低下させる効果もあるからである。芳香族ポリカーボネート樹脂を構成する全芳香族ジヒドロキシ成分中のビスフェノールTMCの割合が高く、例えば80モル%以上、特に90モル%以上の場合には樹脂の吸水性が0.2重量%を越える場合があるが、そのような場合には前記[I−a]および[I−b]の末端改質剤の使用により、0.2重量%以下に吸水率を低下することが可能である。しかし本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂は、ビスフェノールTMCの割合が少なくとも20モル%、好ましくは少なくとも30モル%である限り、前述した末端改質剤を使用してもよいことは云うまでもない。
【0054】
芳香族ポリカーボネート樹脂はその樹脂の0.7gを100mlの塩化メチレンに溶解し、20℃で測定した比粘度が0.2〜0.5の範囲のものであり、好ましくは0.25〜0.4の範囲のものである。比粘度が0.2未満では成形品が脆くなり、0.5より高くなると溶融流動性が悪く、成形不良を生じ、光学的に良好な光ディスク基板が得られ難くなる。
【0055】
本発明の光ディスク基板は、前記芳香族ポリカ−ボネ−ト樹脂を、例えば射出成形法、圧縮成形法、押出成形法等任意の方法で成形することにより得ることができるが、本発明の光ディスク基板は、射出成形法により得られたものが好適である。
【0056】
また本発明のポリカーボネート樹脂は、ASTM D−0570によって測定した吸水率が0.2重量%以下、好ましくは0.18重量%以下であることが必要である。吸水率が0.2重量%を超えると、光ディスク基板表面上に金属膜を形成させた光ディスクが吸水によって反りを生じ易くなり、トラッキングエラーを起こし易くなるので好ましくない。特に好ましい吸水率は0.15重量%以下である。
【0057】
本発明の光ディスク基板は、前記式[X]で表される化合物の含有量の合計が、ポリカーボネート樹脂中、0.05%以下であり、0.04%以下が好ましく、0.03%以下がより好ましい。但し、前記式[X]で表される化合物を完全に除去することは困難であり、0.001%程度含有していても差し支えない。含有率が0.05%を超えると熱安定性に劣り、溶融成形時に色相が悪化し、得られた光ディスク基板は外観に劣り、さらに光ディスクのジッター特性も悪化するので好ましくない。
【0058】
前記式[X]で表される化合物は、LC−MSで測定された分子量214、216、308に相当する成分であって、具体的には、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,5,5−トリメチルシクロヘキセン−2、4−(3,3,5−トリメチルシクロヘキセン−1−イル)フェノール、4−(3,5,5−トリメチルシクロヘキセン−1−イル)フェノール、4−(3,3,5−トリメチルシクロヘキサジエン−1,5−イル)フェノールである。これらの化合物のポリカーボネート樹脂中における含有量は、ポリカーボネート樹脂をモノマーに分解して、その分解物をHPLC分析して求められるピーク面積の割合(%)で示された値である。
【0059】
前記式[X]で表される化合物は、ビスフェノールTMCの製造工程において副生する不純物である。かかる不純物を除去する方法としては、ビスフェノールTMCをアルコール系、ケトン系またはベンゼン誘導体系の溶媒に溶解し、これに活性炭あるいは活性白土を加えてろ過後、ろ液から結晶化した生成物をろ過する方法が好ましく採用される。かかる精製に用いるアルコール系の溶媒としてはメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の低級アルコール、ケトン系の溶媒としてはアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、シクロヘキサノン等の低級脂肪族ケトン類およびこれらの混合物が好ましく、ベンゼン誘導体系の溶媒としてはトルエン、キシレン、ベンゼンおよびこれらの混合物が好ましい。溶媒の使用量はビスフェノールTMCが十分に溶解する量であれば足り、通常ビスフェノールTMCに対して2〜10倍量程度である。
【0060】
本発明の光ディスク基板は、オリゴマー含量が10%以下、好ましくは7%以下、特に好ましくは5%以下である芳香族ポリカーボネート樹脂が好適に使用される。このオリゴマー含量の値は下記方法およびカラムを使用して測定された値である。すなわち、東ソー(株)製、TSKgelG2000HXLとG3000HXLカラム各1本づつ直列に繋いで溶離液としてクロロホルムを用い、流量0.7ml/分で安定化した後、該ポリカーボネート樹脂のクロロホルム溶液を注入する方法で測定したGPCチャートのリテンションタイムが19分以降のオリゴマーピーク面積の合計の全ピーク面積に対する割合がオリゴマー含量であり、この値が10%以下、好ましくは7%以下であることが必要である。オリゴマー含量が7%、殊に10%を越えると、成形時の金型表面を汚染することがあるので望ましくなく、その汚染はオリゴマー含量が多くなる程顕著になる傾向がある。一方、オリゴマーは芳香族ポリカーボネート樹脂の製造過程で生じるものであり、完全に零(0)にすることはできない。
【0061】
オリゴマーは、前記した含量以下であればよく、その値を満足する限り、少割合含有されていても差支えない。0.1%以上、好ましくは0.15%以上の少割合の含量でオリゴマーが存在すると、それ以下のものと比べて溶融流動性が向上する。そのため、特に好ましくはオリゴマー含量は0.15〜4%の範囲である。
【0062】
芳香族ポリカーボネート樹脂中のオリゴマー含量を前記範囲に制御するには、大量のオリゴマーが樹脂中に含まれないように重合を充分に完結することが必要であり、また触媒および重合条件を適宣選択することが要求される。もしオリゴマー含量が前記範囲を越えている場合には、例えばオリゴマーを抽出等の手段により除去する処置が採用される。この抽出は芳香族ポリカーボネート樹脂の溶液(例えば塩化メチレン溶液)を、その樹脂の貧溶剤または非溶剤(例えばアセトンまたはメタノール)中に滴下する方法、あるいはその樹脂を貧溶媒または非溶媒に浸漬して、オリゴマーを抽出する方法等の手段によって実施することができる。
【0063】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂は、光ディスク基板、殊にビデオ用光ディスク基板として使用されるため、その中に未溶解粒子が或る一定量以上存在しないことが好ましい。
【0064】
すなわち、ポリカーボネート樹脂は、その20gを塩化メチレン1Lに溶解した溶液をハイアックロイコ社製液体パーティクルカウンターモデル4100を用いたレーザーセンサー法にて散乱光をラテックス粒子の散乱光に換算する方法で求めた径0.5μm以上の未溶解粒子が該ポリカーボネート樹脂1g当り25,000個以下且つ1μm以上の未溶解粒子が500個以下であることが好適である。0.5μm以上の未溶解粒子が25,000個を超えるか、または1μm以上の未溶解粒子が500個を超えると光ディスクに書き込まれた情報ピットに悪影響を及ぼしエラーレートが大きくなる場合がある。さらに好ましくは、0.5μm以上の未溶解粒子が20,000個以下、且つ1μm以上の未溶解粒子が200個以下である。また、10μm以上の未溶解粒子は実質的に存在しないことが好ましい。
【0065】
芳香族ポリカーボネート樹脂中における未溶解粒子の量を前記範囲とするためには、重合過程および造粒過程において、未溶解粒子が混入しないかあるいは除去し得る手段を採用すべきである。
【0066】
そのような手段としては、例えば操作をクリーンルームで行うこと、未溶解粒子の除去装置の付いた造粒装置を使用すること(具体的例としては、後述する実施例1で使用された軸受け部に異物取り出し口を有する隔離室を設けたニーダー)あるいは摺動部分に樹脂粒子が触れない構造の装置(例えばスプレードライヤー形式の造粒機)で造粒すること等がある。
【0067】
また、未溶解粒子を除去する他の手段として、樹脂の溶液を目開きの小さいフィルター(0.5〜1μm)によりろ過する方法あるいは樹脂を溶融して後、金属フィルター(10〜40μm)により固体粒子を除去する方法等が採用される。
【0068】
本発明の光ディスク基板は、全光線透過率が少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%の芳香族ポリカーボネート樹脂から形成される。全光線透過率が85%よりも低くなると、光ディスク基板として不適当である。また、芳香族ポリカーボネート樹脂の斜め入射複屈折位相差の値が60nm以下、好ましくは40nm以下であるのが適当である。この斜め入射複屈折位相差の値が60nmを越えると、光ディスクとして使用した場合記録の読み取りに支障を来すことになり不適当である。
【0069】
芳香族ポリカーボネート樹脂は、その光弾性定数の値が60×10-14cm2/μN(60×10-13cm2/dyn)以下、好ましくは50×10-14cm2/μN(50×10-13cm2/dyn)以下のものが有利に利用される。光弾性定数の値が前記値よりも大きい場合、光ディスクとして適さなくなる。
【0070】
芳香族ポリカーボネート樹脂は、そのガラス転移点が120℃以上が好ましく、130℃以上がより好ましく、145℃以上がさらに好ましい。ガラス転移点が低くなると光ディスク基板としての耐熱性が不足する。また芳香族ポリカーボネート樹脂の流動性はMFRの値で25g/10分以上が好ましく、30g/10分以上がより好ましく、45g/10分以上がさらに好ましい。流動性が低くなると成形性に劣り所望の光ディスク基板が得られなくなる。
【0071】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂は、カーボネート前駆物質としてホスゲンを使用し、また溶媒として塩化メチレン等の塩素系溶媒を使用した場合、塩素が少なからず残存している。この塩素の含有量が多いと成形金型が腐蝕したり、芳香族ポリカーボネート樹脂の熱安定性が低下したり、また光ディスクの金属膜の腐蝕が起こったりするので望ましくない。従って、塩素の含量は10ppm以下、好ましくは7ppm以下、特に好ましくは5ppm以下であるのが推奨される。ここで云う塩素含量とは、芳香族ポリカーボネート樹脂を三菱化学製全有機ハロゲン分析装置TOX10型を用いて燃焼法により測定された値を意味するものとする。
【0072】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂には、必要に応じて燐系熱安定剤を加えることができる。燐系熱安定剤としては、亜燐酸エステルおよび燐酸エステルが好ましく使用される。亜燐酸エステルとしては、例えばトリフェニルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4−ジフェニレンホスホナイト等の亜燐酸のトリエステル、ジエステル、モノエステルが挙げられる。これらのうち、トリスノニルフェニルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトが好ましい。
【0073】
一方、熱安定剤として使用される燐酸エステルとしては、例えばトリブチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクロルフェニルホスフェート、トリエチルホスフェート、ジフェニルクレジルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェート等が挙げられ、なかでもトリフェニルホスフェート、トリメチルホスフェートが好ましい。
【0074】
前記燐系熱安定剤は、単独で使用してもよく、また二種以上を組合せて使用してもよい。燐系熱安定剤は、芳香族ポリカーボネート樹脂に基づいて0.0001〜0.05重量%の範囲で使用するのが適当である。
【0075】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂には、酸化防止の目的で通常知られた酸化防止剤を添加することができる。その例としてはフェノール系酸化防止剤を示すことができ、具体的には例えばトリエチレングリコール−ビス(3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、1,6−ヘキサンジオール−ビス(3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、N,N−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド)、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジルホスホネート−ジエチルエステル、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、3,9−ビス{1,1−ジメチル−2−[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン等が挙げられる。これら酸化防止剤の好ましい添加量の範囲は芳香族ポリカーボネート樹脂に対して、0.0001〜0.05重量%である。
【0076】
さらに本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂には、必要に応じて多価アルコールの高級脂肪酸エステルを加えることもできる。この高級脂肪酸エステルを加えることによって、芳香族ポリカーボネート樹脂の熱安定性が向上し、成形時の樹脂の流動性が良くなり、さらに成形後の金型からの基板の離型性が改良されて離型不良によるディスク基板の変形が防止できる。かかる高級脂肪酸エステルとしては、炭素数2〜5の多価アルコールと炭素数10〜30の飽和脂肪酸との部分エステル、または全エステルであるのが好ましい。この多価アルコールとしては、グリコール類、グリセロールまたはペンタエリスリトールが挙げられる。
【0077】
前記高級脂肪族酸エステルは、芳香族ポリカーボネート樹脂に対して、0.005〜2重量%の範囲、好ましくは0.02〜0.1重量%の範囲で添加されるのが適当である。
【0078】
添加量が0.01重量%未満では、上記効果が得られず、一方2重量%を越えると金型表面の汚れの原因となるので好ましくない。
【0079】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂には、さらに光安定剤、着色剤、帯電防止剤、滑剤等の添加剤を透明性を損なわない範囲で加えることができる。また、他のポリカーボネート樹脂、熱可塑性樹脂を本発明の目的を損なわない範囲で少割合添加することもできる。
【0080】
本発明の光ディスクとしては、オーディオ用のコンパクトディスク(直径12cmのディスク当り約650MBの記録密度)から高密度のディスクまでを対象とする。例えば、最近再生専用では容量4.7GBのDVD−ROM、記録再生可能なDVD−R、DVD−RW、DVD−RAMにおいても容量4.7GBが実現されつつある。また、MOディスクでは5.25”サイズでは両面で5.2GB、3.5”では片面で1.3GBの光学情報記録媒体が上市されているが、デジタル高画質放送などに対応する直径12cmのディスクに換算して片面約6.5GB以上、殊に10GB以上の高密度光学記録媒体が要望され、本発明の光ディスク基板はこれらのものにも十分に適応できる特性を有する。特に、本発明の光ディスク基板は、直径12cmのディスクに換算して片面約6.5GB以上の再生専用または記録再生可能な高密度情報記録媒体用の基板として好適である。
【0081】
本発明の光ディスク基板は、その片面に金属薄膜を形成させることにより光ディスクが得られる。この金属としては、アルミニウム、Tb、Fe、Co、Gd、SiN、ZnS−SiO2、GeSbTe、ZnSおよびアルミニウム合金等があり、アルミニウムが適している。また薄膜は、スパッタリング、蒸着等の手段で形成させることができる。これらの金属薄膜の形成手段は、それ自体知られた方法で行うことができる。
【0082】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに説明する。なお実施例中の部は重量部であり、%は重量%である。なお、評価は下記の方法によった。
【0083】
比粘度:ポリマー0.7gを100mlの塩化メチレンに溶解し20℃の温度で測定した。
【0084】
ガラス転移点(Tg):デュポン社製910型DSCにより測定した。
【0085】
流動性(MFR):JIS K−7210に準拠して、東洋精機製セミオートメルトインデクサーを用いて、280℃、荷重2.16kgで10分間に流出したポリマー量(g)で示した。
【0086】
オリゴマー含量:東ソー製GPCカラムTSKgelG2000HXLとTSKgelG3000HXLを用い、溶離液としてクロロホルムを流量0.7ml/分で流しながら試料50mgをクロロホルム5mlに溶解した溶液を20μl注入する方法で求めたGPCチャートのリテンションタイムが19分以降のオリゴマー成分のピーク面積の全ピーク面積に対する割合を%で示した。
【0087】
吸水率:ASTM D−0570によって測定した。
【0088】
上記式[X]で示される化合物の含有率:ポリカーボネート樹脂2.5gを、苛性ソーダ0.035gをメタノール1mlとトルエン1.5mlの混合溶媒に溶解した溶液に加え、60℃、1時間処理して、ポリカーボネート樹脂を分解させ、この溶液をイオン交換水40ml中に入れて、フェノール類を析出させ乾燥した後、Develosil ODS−7のカラムにて、溶離液メタノール/0.2%酢酸水とメタノールとの混合液を用いて、50℃、280nmでグラジエントプログラムにてHPLC分析し、上記式[X]で示される成分の面積%を合計して求めた。
【0089】
塩化メチレン未溶解粒子:ポリカーボネート樹脂20gを塩化メチレン1Lに溶解した溶液をハイアックロイコ社製液体パーティクルカウンターモデル4100を用いたレーザーセンサー法にて散乱光をラテックス粒子の散乱光に換算する方法で求めた。
【0090】
全光線透過率(Tt):ASTM D−1003に準拠して日本電色シグマ80を用いて測定した。
【0091】
光弾性定数:理研計器(株)製の光弾性測定装置PA−150により測定した。
【0092】
斜め入射複屈折位相差:オーク製エリプソメータADR−200B自動複屈折測定装置を用い、入射角30度で測定した。
【0093】
反り:80℃、85%RHの恒温恒湿機中に、反面にアルミニウム製膜処理した光ディスクを1,000時間放置した後、小野測器製LM−1200光ディスク検査装置を用いて基板の反りを測定した。
【0094】
BLER:アルミ製膜後の光ディスクのBLER(C1ピーク)をCDP−3000を用いて測定した。
【0095】
熱安定性(△E):ポリカーボネート樹脂ペレットを射出成形機(日本製鋼所(株)製:日鋼アンカー V−17−65型)を用い、シリンダー温度380℃で10分間滞留させたものとさせないものの試験片(厚さ2mmの50mm角板)をそれぞれ作成し、その色相の変化(△E)を測定した。色相の変化は、色差計(日本電色(株)製Z1001DP)でそれぞれのL、a、b値を測定し、下記式を用いて算出した。
ΔE=[(L′−L)2+(a′−a)2+(b′−b)2]1/2
(L、a、bは滞留させないもの、L′、a′、b′は10分間滞留させたもの)
【0096】
ジッター:アルミ製膜後の光ディスク(380℃で成形)のジッターをAUDIO DEVELOPMENT製CD CATSを用いて測定した。ジッターは、小さい数値ほど信号の再現精度が良好であることを示す。
【0097】
実施例1
温度計、撹拌機、還流冷却器付き反応器にイオン交換水929.2部、48%カセイソ−ダ水溶液61.3部を入れ、活性炭処理して精製したX成分の含有量が0.045%の1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン39部、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール43.6部およびハイドロサルファイト0.17部を溶解した後、p−tert−ブチルフェノール1.51部と塩化メチレン637.9部を加えトリエチルアミン0.09部を添加した後撹拌下15〜25℃でホスゲン32.4部を40分を要して吹き込んだ。ホスゲン吹き込み終了後、48%カセイソーダ水溶液15.6部を加え、28〜33℃で1時間撹拌して反応を終了した。反応終了後、生成物を塩化メチレンで希釈して水洗したのち塩酸酸性にして水洗し、水相の導電率がイオン交換水と殆ど同じになったところで、軸受け部に異物取り出し口を有する隔離室を設けたニーダーにて塩化メチレンを蒸発して、ビスフェノールTMCとビスフェノールMの比がモル比で50:50である無色のポリマー86.4部を得た(収率97%)。
【0098】
このポリマーの比粘度は0.286、オリゴマー含量は2.3%、Tgは147℃、MFRは70g/10分であった。また吸水率は0.15重量%であった。このものの塩化メチレン未溶解粒子は0.5μm以上が15,000個/g、1μm以上が190個/gであった。このポリマーにトリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトを0.03%、トリメチルホスフェートを0.005%、ステアリン酸モノグリセリドを0.04%加えてペレット化した。このペレットを用いて測定した樹脂の全光線透過率は89%、光弾性定数は39×10-14cm2/μN、斜め入射複屈折位相差は20nmであった。[X]成分の含有率は0.03%であり、△Eの値は2.1と良好であった。このペレットを名機製作所(株)製M−35B−DMを用いて、120mmφ、0.6mmの厚みのROMディスクに射出成形した。それにアルミニウム膜をスパッタリングした後、松下電器産業(株)製DVD Bonding Machine FA−YG23を用いて2枚貼り合せて10GB/12cmのディスクを得た。このディスクの反りは0.2mm、BLERは45個/秒、ジッターは9.0%であった。
【0099】
実施例2
実施例1の1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンを31.2部、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノールを52.2部とした以外は実施例1と同様にして、ビスフェノールTMCとビスフェノールMの比がモル比で40:60であるポリマー86.4部を得た(収率96%)。このポリマーの比粘度は0.292、オリゴマー含量は2.8%、Tgは135℃、MFRは90g/10分であった。また吸水率は0.12重量%であった。
【0100】
このポリマーを実施例1と同様に成形し実施例1と同様に評価したところ、このものの塩化メチレン未溶解粒子は0.5μm以上が13,000個/g、1μm以上が140個/gであった。また全光線透過率は89%、光弾性定数は40×10-14cm2/μN、斜め入射複屈折位相差は24nm、[X]成分の含有率は0.02%、△Eは2.1、反りは0.15mm、BLERは38個/秒、ジッターは9.1%と良好であった。
【0101】
実施例3
実施例1の1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンを46.8部、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノールを34.9部とし、p−tert−ブチルフェノールの代わりに炭素原子数23のアルキルフェノール(オルソ置換体70%、パラ置換体30%の混合物)を3.8部用いる以外は実施例1と同様にしてビスフェノールTMCとビスフェノールMの比がモル比で60:40であるポリマー86.4部(収率94%)を得た。このポリマーの比粘度は0.275、オリゴマー含量は3.1%、Tgは133℃、MFRは68g/10分であった。また吸水率は0.16重量%であった。
【0102】
このポリマーを実施例1と同様に成形し実施例1と同様に評価したところ、塩化メチレン未溶解粒子は0.5μm以上が16,000個/g、1μm以上が170個/gであった。全光線透過率は89%、光弾性定数は38×10-14cm2/μN、斜め入射複屈折位相差は20nm、[X]成分の含有率は0.03%、△Eは2.3、反りは0.2mm、BLERは33個/秒、ジッターは8.8%と良好であった。
【0103】
実施例4
実施例1と同様の装置にイオン交換水945部と48.5%水酸化ナトリウム水溶液62.5部を仕込み、実施例1.の1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン24部、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン9部(以下、ビスフェノールフルオレンと略称することがある)、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール53.6部を溶解させた後塩化メチレン649部を加え、p−tert−ブチルフェノール1.15部とトリエチルアミン0.09部を加えて激しく攪拌しながら20℃でホスゲン33部を約40分を要して吹き込み反応せしめた。次いで内温を30℃に上げ48.5%水酸化ナトリウム水溶液16部を加えて1時間攪拌を続けて反応を終了した。
【0104】
このものを実施例1と同様に精製してビスフェノールTMCとビスフェノールMとビスフェノールフルオレンの比がモル比で30:60:10であるポリマーを得た。このポリマーの比粘度は0.300、オリゴマー含量は3.9%、MFRは59g/10分、Tgは149℃であった。また吸水率は0.13重量%であった。このポリマーを実施例1と同様にして成形し評価したところ、塩化メチレン未溶解粒子は0.5μm以上が16,000個/g、1μm以上が180個/gであった。また全光線透過率は89%、光弾性定数は40×10-14cm2/μN、斜め入射複屈折位相差は37nm、[X]成分の含有率は0.02%、△Eは2.2、反りは0.15mm、BLERは35個/秒、ジッターは9.0%と良好であった。
【0105】
実施例5
実施例1と同様の装置にイオン交換水965.1部、48%水酸化ナトリウム水溶液63.6部を入れ、実施例1.の1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン24.3部、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン46.9部およびハイドロサルファイト0.18部を溶解した後、塩化メチレン662.5部を加え、攪拌下15〜20℃でホスゲン32.4部を40分を要して吹き込んだ。ホスゲン吹き込み終了後、p−tert−ブチルフェノール2部と48%水酸化ナトリウム水溶液16.2部を加え乳化後、トリエチルアミン0.09部を加えて、28℃〜33℃で1時間攪拌して反応を終了した。このものを実施例1と同様に精製して、ビスフェノールTMCとビスフェノールCの比がモル比で30:70であるポリマー75.7部を得た(収率97%)。
【0106】
このポリマーの比粘度は0.304、オリゴマー含量は3.8%、Tgは153℃、MFRは50g/10分であった。また吸水率は0.16重量%であった。このポリマーを実施例1と同様にして成形評価したところ、塩化メチレン未溶解粒子は0.5μm以上が14,000個/g、1μm以上が150個/gであった。また全光線透過率は89%、光弾性定数は49×10-14cm2/μN、斜め入射複屈折位相差は25nm、[X]成分の含有率は0.02%、△Eは2.1、反りは0.2mm、BLERは40個/秒、ジッターは9.3%と良好であった。
【0107】
実施例6
実施例5の1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンを48.7部、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパンを26.8部とし、p−tert−ブチルフェノールの代わりに炭素原子数17〜29(平均23)のアルキルフェノール(オルソ置換体70%とパラ置換体30%の混合物)を5部用いた以外は実施例5と同様にして、ビスフェノールTMCとビスフェノールCの比がモル比で60:40であるポリマー83.8部を得た(収率96%)。
【0108】
このポリマーの比粘度は0.293、オリゴマー含量は3.7%、Tgは148℃、MFRは45g/10分であった。また吸水率は0.18重量%であった。このポリマーを実施例1と同様にして成形評価したところ、塩化メチレン未溶解粒子は0.5μm以上が15,000個/g、1μm以上が170個/gであった。また全光線透過率は89%、光弾性定数は42×10-14cm2/μN、斜め入射複屈折位相差は20nm、[X]成分の含有率は0.04%、△Eは2.4、反りは0.3mm、BLERは45個/秒、ジッターは9.4%と良好であった。
【0109】
実施例7
実施例1の1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンを43部、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノールを39.2部とし、p−tert−ブチルフェノールの代わりに、炭素原子数17〜29(平均23)のアルキルフェノール(オルソ置換体70%とパラ置換体30%の混合物)を1.9部とp−tert−ブチルフェノールを0.8部用いる以外は、実施例1と同様にしてビスフェノールTMCとビスフェノールMの比がモル比で55:45であるポリマー87.7部(収率96%)を得た。
【0110】
このポリマーの比粘度は0.285、オリゴマー含量は2.9%、Tgは140℃、MFRは70g/10分であった。また吸水率は0.15重量%であった。このポリマーを実施例1と同様に成形し、実施例1と同様に評価したところ、塩化メチレン未溶解粒子は、0.5μm以上が14,000個/g、1μm以上が160個/gであった。また全光線透過率は89%、光弾性定数は39×10-14cm2/μN、斜め入射複屈折位相差は20nm、[X]成分の含有率は0.03%、△Eは2.2、反りは0.15mm、BLERは35個/秒、ジッターは9.3%と良好であった。
【0111】
比較例1
実施例1において、活性炭処理しなかったX成分の含有量が0.12%の1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンを使用する以外は実施例1と同様の方法で、ビスフェノールTMCとビスフェノールMの比がモル比で50:50である無色のポリマーを得た。このポリマーの比粘度は0.285、オリゴマー含量は2.3%、Tgは145℃、MFRは72g/10分であった。また吸水率は0.15重量%であった。
【0112】
このポリマーを実施例1と同様に成形し実施例1と同様に評価したところ、このものの塩化メチレン未溶解粒子は0.5μm以上が16,000個/g、1μm以上が195個/gであった。また全光線透過率は89%、光弾性定数は40×10-14cm2/μN、斜め入射複屈折位相差は25nm、反りは0.3mm、BLERは55個/秒であった。また、[X]成分の含有率は0.08%となり、△Eは3.9と熱安定性に劣り、ジッターは15.1%と悪化した。
【0113】
【表1】
【0114】
【発明の効果】
本発明の方法によれば、熱安定性の良好な優れた光学特性をもった光ディスク基板が得られるので、光ディスク、特に高画質ビデオ用光ディスクとして好適に用いられる。
Claims (11)
- 該芳香族ポリカーボネート樹脂は、全芳香族ジヒドロキシ成分の30〜90モル%が1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンである請求項1記載の光ディスク基板。
- 該芳香族ポリカーボネート樹脂は、全芳香族ジヒドロキシ成分の40〜80モル%が1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンである請求項1記載の光ディスク基板。
- 該芳香族ポリカーボネート樹脂は、(a)1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(成分a)および(b)4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノールおよび/または2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(成分b)を全芳香族ジヒドロキシ成分の少なくとも80モル%とし、且つ成分aと成分bの割合がモル比で20:80〜80:20である請求項1記載の光ディスク基板。
- 該成分bが4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノールである請求項4記載の光ディスク基板。
- 成分a:成分bの割合がモル比で30:70〜80:20である請求項5記載の光ディスク基板。
- 該成分bが2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパンである請求項4記載の光ディスク基板。
- 成分a:成分bの割合がモル比で30:70〜80:20である請求項7記載の光ディスク基板。
- 請求項1記載の光ディスク基板の片面に金属薄膜を形成させた光ディスク。
- 請求項1記載の光ディスク基板の片面に金属薄膜を形成させたビデオ用光ディスク。
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