JP3708233B2 - 接着芯地 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は衣服などに用いて好適な芯地に関し、特に、加熱することにより衣服の表地に接着し、かつ表地に追従し易く、風合がソフトな接着芯地に関する。
【0002】
【従来の技術】
従前、表地に接着して用いられる芯地として、アイロンなどの加熱手段により表地に接着させるため、点状の樹脂層を布はくの表面に直接形成したものが広く用いられてきた。しかしながら、この樹脂層を構成する樹脂は、上記加熱手段により溶融し易い材料で構成する必要があるため、表地との接着時に当該芯地を構成する布はく自体にも浸透して、前述した樹脂層の形成面とは反対の面に染み出す現象(逆染みまたはストライクバックと称される)を来す。
【0003】
この逆染み現象を低減するため、布はくの表地との接着面に、加熱手段による融着作業時に流動性が比較的低い材料で構成した第1樹脂層を点状に形成し、この第1樹脂層に、この樹脂よりも低融点である樹脂で構成した第2の樹脂を付着させた接着芯地が知られている。
【0004】
上述した2層構造の接着部を有する芯地を製造する技術として、例えばプリント技術によって布はく表面に第1樹脂層を形成し、当該樹脂層が乾燥前に有する粘着性を利用して第2の樹脂を付着する技術が知られている。即ち、第1樹脂層が点状に形成され、当該樹脂層が上述の粘着性を有する間に、この樹脂層を形成した繊維ウエブの全面に、第2の樹脂となる粒状のホットメルト樹脂を散布する。この状態では、第1樹脂層上に第2の樹脂が付着するのみならず、第1樹脂層を形成していない布はくの表面領域にもホットメルト樹脂が散布されることとなる。従って、この状態の布はくに、第1樹脂層を形成していない面側から、エアーを吹き付けるなどの手段により、第1樹脂層に固着した第2の樹脂を残存させて接着芯地が得られる。
【0005】
周知の通り、衣服の表地素材は種々の要求特性により、自由度が急激に広がりつつある。特に、着用者にとって衣服の伸縮性は大きな利点であり、これを構成する接着芯地にとっても、着用者の動きに対する追従性や風合のソフト感は重要な要素である。前述した布はくとして不織布を用いた場合、通常のポリエステル繊維、ナイロン繊維やレーヨン繊維といった汎用の繊維では、接着芯地の追従性を確保するための伸縮性や風合のソフトさを満足することが難しかった。
【0006】
この出願にかかる発明者は、この様な欠点を解消するため、潜在捲縮性繊維を主体とする繊維ウエブを用いた伸縮性に富む接着芯地を検討してきた。しかし、捲縮が発現された繊維ウエブはコイル状やスパイラル状の捲縮を表面に多く有する。このため、繊維端部とループ状の捲縮部分との間で面ファスナーと同様な係合を生じ、縫製時の作業性が低下したり、縫製後の衣服でまつわり付きやしわを生じやすいと言う不都合を生じていた。これに対して、本出願の発明者は、潜在捲縮性繊維を主体とし、捲縮発現された状態の繊維ウエブに所定量のバインダを含浸する事により、芯地としての伸縮性と風合のソフトさを確保し、かつ縫製時の作業性にも考慮した特性を有する芯地を提案している。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、潜在捲縮性繊維を用い、所定量のバインダを含浸した芯地に、前述した2層構造の接着部を形成しようとする場合、第2の樹脂を散布する工程で、当該バインダに第2の樹脂が付着してしまうという問題を生じた。一般に、含浸に用いるバインダは、そのガラス転移温度(以下、Tgと称する)が低いほど仕上がりの風合はソフトになるが、同時に、第2の樹脂を構成するホットメルト樹脂に対するタックを生じる。これがため、点状の第1樹脂層のみならず、繊維ウエブの全面に第2の樹脂が付着する傾向を生じ、仕上がった接着芯地の風合が硬くなってしまうという問題点が有った。
【0008】
この発明の目的は、上述した従来の問題点に鑑み、十分な伸縮性と強度とを有し、しかも、風合のソフトな接着芯地を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
この目的の達成を図るため、この発明の接着芯地は、繊維ウエブの、少なくとも一方の表面に形成された点状の第1樹脂層と、この第1樹脂層より低融点の樹脂よりなり、かつ前述の第1樹脂層に固着された第2の樹脂とを具える接着芯地において、前述した繊維ウエブが潜在捲縮性繊維を主体とし、捲縮発現された潜在捲縮性繊維同士が絡み合い、かつガラス転移温度(Tg)が−39〜0℃であるバインダと、撥水剤とを順次に被着されたものであることを特徴としている。
【0010】
【発明の実施の形態】
この発明の接着芯地は、捲縮発現された状態で伸縮性を有する潜在捲縮性繊維の強度を確保するため、低いTgのバインダを含浸する事により繊維ウエブに強度を付与し、しかも、ソフトな風合を実現する。また、この後に被着された撥水剤は、上記低Tgのバインダを被覆して、第2の樹脂が第1樹脂層に選択的に固着し、当該第1樹脂層が形成されない繊維ウエブの表面領域には第2の樹脂が付着残留しないように作用する。以下に、その生産工程の一例に従って、実施の形態につき説明する。
【0011】
本発明の接着芯地を構成する、潜在捲縮性繊維を主体とする繊維ウエブとは、繊維組成として、潜在捲縮性繊維が少なくとも50重量%以上含まれているものを言う。芯地として伸縮性を確保するために、より好ましくは60重量%以上の潜在捲縮性繊維を含む繊維ウエブとすれば良い。
【0012】
また、本発明に使用する潜在捲縮性繊維としては、加熱により捲縮が生じる繊維が望ましく、特に、コイル状またはスパイラル状の捲縮を多数生じるものが好ましい。この繊維が発現する捲縮数としては、最適な捲縮発現条件を選んだ場合に、外力がかからない状態で発現後の捲縮数が初期の捲縮数の少なくとも2倍以上に増加するものが好ましい。一例を挙げれば、室温で10〜20個/インチの初期捲縮数に対して、当該繊維を170℃、15分間加熱して、外力が加わらない状態で自由収縮させた場合、40〜200個/インチ程度にまで捲縮数が増加するものが好ましい。
【0013】
このような潜在捲縮性繊維としては、融点の異なる2種類の合成樹脂で構成された複合繊維や、繊維の一部に特定の熱履歴を施した繊維が知られている。このうち、複合型の潜在捲縮性繊維としては、例えば、偏芯型の芯鞘構造を有する複合繊維や、サイドバイサイド(貼り合わせ)構造の複合繊維を用いればよい。融点の異なる樹脂の組合せとしては、ポリエステル−低融点ポリエステル、ポリアミド−低融点ポリアミド、ポリエステル−低融点ポリアミド、ポリエステル−ポリプロピレン、ポリプロピレン−低融点ポリプロピレン、ポリプロピレン−ポリエチレンなど、種々の合成樹脂を組み合わせたものが使用できる。特に、ポリエステル−低融点ポリエステルの組合せからなる複合型の潜在捲縮性繊維は耐熱性や捲縮発現後の伸縮性に優れており、好適である。また、繊維の一部に特定の熱履歴を施した潜在捲縮性繊維としては、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリルなどの熱可塑性樹脂からなる繊維の一側面に熱刃などを当てながら通過させたもの等が使用できる。
【0014】
さらに、この発明の接着芯地を構成する繊維ウエブとして、上述の潜在捲縮性繊維を主体とする一方向性繊維ウエブと、潜在捲縮性繊維以外の繊維を主体とする交差繊維ウエブとを組み合わせたものであってもよい。ここで言う一方向性繊維ウエブとは、繊維ウエブを構成する繊維が、概ね一方向に配向している繊維ウエブをいい、例えばカード機から出た繊維をそのまま積層する。この場合、構成繊維は生産の流れ方向に一致した配向を有するのが一般的である。また、交差ウエブとは、繊維ウエブを構成する繊維が、ほぼ2方向に配向し、これら配向が交差しているものを言う。この交差繊維ウエブを得るには、例えばカード機から出た繊維をクロスラッパーなどにより交差させて積層するが、この場合、構成繊維は生産幅に相当する方向に配向するのが一般的である。
【0015】
上述した潜在捲縮性繊維以外の繊維とは、加熱により、実質的な捲縮数が増加しないものをいい、例えば、一般的に汎用されているポリエステル繊維、ナイロン繊維、ポリオレフィン系繊維、ポリアクリル繊維、レーヨン繊維、綿、羊毛などの繊維や、その他の複合繊維が挙げられる。この様な複合繊維としては、例えば、可染性ポリエステル−ポリアミドなどの組合せからなる芯鞘型複合繊維などがある。尚、加熱により実質的に捲縮数が増加しないとの表現は、繊維単独で外力が加わらない状態で加熱した場合、その捲縮数の増加分が、初期の捲縮数の5割未満のものを言う。
【0016】
この様な2種類の配向を有する繊維ウエブを組み合わせる場合、交差繊維ウエブに配合された潜在捲縮性繊維以外の繊維は、潜在捲縮性繊維の捲縮発現時に発生する幅引きを低減するように働く。しかしながら、潜在捲縮性繊維以外の繊維は、融着芯地の伸縮性低下を生じる場合もある。このため、当該交差繊維ウエブを構成する潜在捲縮性繊維と潜在捲縮性繊維以外の繊維との組成において、その潜在捲縮性繊維の繊維重量比は40重量%以下、より好ましくは30重量%以下とするのが好ましい。係る多層構造の繊維ウエブを適用する場合は、2層以上の構成としても良い。
【0017】
次いで、各繊維ウエブは積層された後、加熱により潜在捲縮性繊維の捲縮発現が行われる。捲縮発現に用いられる加熱手段としては、ドライヤー、加熱ロールなどが知られているが、一定の間隔で配置された加熱手段により、繊維ウエブの厚みを制限した状態での加熱手段が望ましい。即ち、所定のスリットを採った一対の加熱ロールの間に積層された繊維ウエブを通すことによって、捲縮発現による繊維ウエブの厚さの増大を抑え、当該捲縮による繊維絡合を効率的に行うことが可能となる。この加熱手段の間隔は、特に限定されないが、加熱手段通過前の繊維ウエブの厚さより小さいことが望ましく、例えば0.1〜1mm程度とすればよい。また、この捲縮発現工程の前段階として、例えば、ニードルパンチ法や水流絡合など、従来周知の絡合手段を実施してもよい。特に、水流絡合を適用する場合、10〜35g/m2程度の、芯地として一般的な目付範囲では効率的な絡合を行うことができる。このような絡合手段の適用は、同程度の強度を実現するために必要なバインダの被着量を低減させることができるため、風合いのソフトな芯地を実現するために好適である。
【0018】
この後、上記繊維ウエブに、低いTgを有するバインダを被着させる。ここで言う低いTgとは、従来一般に用いられてきたバインダのTgとの比較で用いた表現であり、ほぼ0℃以下のTgを表し、ポリアクリル酸エステル樹脂やポリウレタン樹脂などが好適である。
【0019】
この出願に係る発明者らの実験によれば、繊維ウエブに含浸した後であってもタック性を有し、従来、第2の樹脂の形成に妨げとなっていたにも拘わらず、本発明を適用することによって優れた接着芯地を実現し得る市販の低Tgバインダとしては、「Nipol LX−852B」(日本ゼオン(株)製、Tg=−6℃)、「Nipol LX−851C」(日本ゼオン(株)製、Tg=−13℃)、「Nipol LX−854」(日本ゼオン(株)製、Tg=−35℃)、「Voncoat AN−868H」(Tg=−39℃)などが挙げられる。尚、市販品に含まれる添加剤の違いによって、バインダとしての主な機能を有する構成成分が同一であっても、異なるTgを示す場合もあり、これ以外にも、この発明に用いて好適なバインダとして入手可能なものが多数有る。従って、ほぼ0℃以下のTgを有するバインダであって、風合をソフトにする事ができる反面、第2の樹脂被着時にタック性が障害となっているもので有れば、これに限定されるものではない。
【0020】
これら低Tgバインダの接着芯地における固形分としての付着量は、繊維の重量との比(繊維重量/バインダ重量)が97/3〜80/20の範囲に有ることが望ましい。この範囲よりもバインダの割合が少なくなると、前述のファスナー現象を十分に抑えることが難しくなり、この範囲よりもバインダの割合が多くなるに従ってバインダ自体の風合が仕上りの芯地に影響し易くなり、感触が硬くなり始める。特に好適には、上述した繊維重量/バインダ重量は、95/5〜82/18とするのが良い。
【0021】
続いて、バインダが被着された状態の繊維ウエブに撥水剤を被着する。即ち、少なくとも第1樹脂層を形成しようとする繊維ウエブの表面領域に、例えば、シリコーン系樹脂やフッ素系樹脂といった撥水剤をエマルジョンなどの液体の形で被着させる。この際、例えば周知のプリント技術により第1樹脂層を形成しようとする繊維ウエブの片面にのみ形成する場合であっても、含浸、コーティングによって、繊維ウエブ全体に撥水剤を付着させても良い。ここで用いる撥水剤としては、撥水剤自体が後述の第2の樹脂を構成する樹脂とのタックを認めないことが要件であり、具体的には、メチルハイドロジェンポリシロキサン又はパーフルオロアルキル基含有重合体などを挙げることができる。
【0022】
この撥水剤の被着に当たっては、撥水度(JIS L 1079撥水度A法による)70以上、好ましくは70〜90の範囲とすることによって、第1樹脂層の形状を立体的に形成することができ、特に、その表面に凹凸を有する表地との接着を所望とする場合には好適である。
【0023】
本発明において適用可能な第1樹脂層は、後段で述べる第2の樹脂に比べて高融点であり、所定温度(縫製時に行われる芯地の接着温度)での流動性が小さいもので有れば従来周知の樹脂を用いることができる。例えば、アクリル樹脂またはウレタン樹脂などが通常用いられ、特に自己架橋タイプのものが望ましい。
【0024】
この第1樹脂層を、上述した種々の形態で処理されている繊維ウエブの表面に点状に形成するに当たっては、従来の手段により行えばよい。ここで言う点状とは、従来と同様に、不連続な多数の点若しくは小区域から形成される模様を表わし、例えば、円形、楕円形、又は矩形や多角形であっても良い。この第1樹脂層の大きさ、或いは相互間の間隔、密度も従来と同様の構成とすればよい。一般に第1樹脂層に相当する構成成分の大きさは約0.01〜1.2mm2、好ましくは0.07〜0.5mm2とし、その総面積は、接着芯地の約2〜40%、好ましくは6〜20%とすればよい。
【0025】
また、第2の樹脂を被着形成するに当たっても、従来周知の技術により行えばよい。周知のホットメルト樹脂を挙げれば、融点80〜120℃に調製したポリエステル系共重合体、ポリアミド系共重合体、ポリエチレン、塩化ビニル系共重合体などが好適である。この樹脂の粒径は、得られる接着芯地の風合を考慮して300μm以下とするのが好適であり、散布時の飛散を考慮した80μm以上の粒径とすればよい。
【0026】
また、この発明の実施に当たっては、必要に応じて、上述の構成にチェーンステッチやビンステッチにより、糸を用いた補強を図っても良い。この発明に好適なチェーンステッチは、ラッセル編機や単糸環縫いミシンなどにより行うことができる。このようにすれば、捲縮構造を有する繊維ウエブの伸縮性を妨げることなく、糸による補強が可能である。特に、芯地の縦方向(生産の流れ方向)にチェーンステッチを施せば、チェーンステッチの編み目がのびきるまでは良好な伸縮性を示し、伸びきったところでは、補強目的の糸が芯地の形態の安定化に寄与する。尚、この糸に撚糸法による加工糸などを用いれば、糸自体が伸縮性を有するため、より良好な伸縮性と形態安定化を図ることができる。
【0027】
【実施例】
以下、この発明の好適実施例に付き説明する。尚、以下に説明する実施例は、この発明の理解が容易となるように、特定の数値条件を例示して説明するが、この発明はこれら実施例に限定されるものではないことを理解されたい。
【0028】
初めに、前述した第2の樹脂の、バインダに対する付着防止効果を試験した結果につき説明する。
まず、繊度1.5デニール、繊維長51mmのポリエステル/低融点ポリエステル潜在捲縮性繊維70重量%及び、繊度1デニール、繊維長30mmのポリエステル繊維30重量%からなる一方向性繊維ウエブと、繊度1.5デニール、繊維長51mmのポリエステル/低融点ポリエステル潜在捲縮性繊維30重量%及び繊度1デニール、繊維長38mmのポリエステル繊維からなる交差繊維ウエブとを積層する。この後、この積層繊維ウエブを、ロール間スリット0.5mm、温度175℃とした一対の加熱ロール間に通し、上記潜在捲縮性繊維を捲縮発現させ、目付19g/m2の繊維ウエブを作製した。
次いで、この繊維ウエブにアクリル酸エステル系の樹脂エマルジョンである「Voncoat AN−868H」(Tg=−39℃)を含浸、乾燥させ、目付22g/m2の繊維ウエブを得た。尚、繊維重量/バインダ重量は86/14であった。
続いて、この繊維ウエブにフッ素系撥水剤である「ユニダインTG−525」(ダイキン工業(株)製、商品名)の3重量%水溶液を含浸、乾燥して、撥水度70(JIS L 1079、撥水度A法)、目付22.5g/m2の基布(以下、撥水処理サンプルaと称する)を得た。また、このフッ素系撥水剤の代わりに、シリコン系の撥水剤である「ライトシリコン P−290」(共栄社製、商品名)の3重量%水溶液を用いて、同様な撥水度及び目付を有する撥水処理サンプルbを得た。さらに、これら撥水処理されていないことを除いて、同一構成の、目付22g/m2の基布を対照サンプルとした。
【0029】
この状態の撥水処理サンプルa、b及び対照サンプルに対して、ポリアミド系ホットメルト樹脂からなる粉体「ベスタメルト 430P2」(ヒュルス社製、商品名)を散布する。この粉体は、第2の樹脂に相当するものであり、融点120℃、粒径80μm〜200μmの範囲に調製したものを使用し、粉体の散布量は35g/m2 とした。この後、0.5mmのスリットを有する30cm幅のスリットノズルを用い、0.9Nm3/minの風量で、各々のサンプルの、粉体散布面の裏側から粉体除去のためのエアーブローを行なった。この試験結果は、ホットメルト樹脂散布前のサンプル重量と、上記エアーブロー後のサンプル重量との差を、面積当たりの散布量で割り、100を乗じた残存率(%)として表した。表1にその結果を示す。
【0030】
【表1】
【0031】
表1から理解できるように、フッ素系撥水処理を施した撥水処理サンプルaでは、残存率が3.9%であったのに対して、撥水剤を被着せずに作製した対照サンプルでは16.7%の残存率となった。この比較試験により、上記撥水剤による処理が、余剰に残存するホットメルト樹脂を1/5から1/4程度にまで低減できることが理解できる。また、シリコン系撥水処理を行った撥水処理サンプルbの場合には、残存率が9.5%であり、対照サンプルに較べて、残存率の低減が確認できた。
【0032】
続いて、この発明の実施例に係る接着芯地につき、その比較例との対比で説明する。
実施例1
まず、前述の「撥水処理サンプル」と同一の構成とした、目付19g/m2の繊維ウエブを作製した。次いで、この繊維ウエブに、前述と同様、低Tgのアクリル酸エステル系の樹脂エマルジョンである「Voncoat AN−868H」(Tg=−39℃)を含浸、乾燥させ、繊維重量/バインダ重量が86/14、目付22g/m2の繊維ウエブを得た。この繊維ウエブにフッ素系撥水剤である 「ユニダインTG−525」(ダイキン工業(株)製、商品名)の3重量%水溶液を含浸、乾燥し、撥水度70(JIS L 1079、撥水度A法)、目付22.5g/m2の基布を得た。
【0033】
続いて、この状態の基布の、一方向性繊維ウエブ側の表面に、アクリル酸エステル系樹脂エマルジョンをペースト化し、52個/cm2のドット密度で、プリント法による点状の第1樹脂層を形成した。この第一樹脂層が粘着性を有する状態で、前述したポリアミド系ホットメルト樹脂を80μm〜200μmに調製して35g/m2の散布量で散布し、エアーブローによる余剰粉体の除去を行って 第2の樹脂を形成した。この後、当該樹脂の固着を図るため、130℃のドライヤーを通して、目付33g/m2の接着芯地を得た。
【0034】
実施例2
実施例1に係る接着芯地に対して、撚糸法により得られた30デニールのポリエステル加工糸を用い、ラッセル編機(カールマイヤー社製、RS3MSU−V)により、18ゲージのチェーンステッチを施し、実施例2に係る接着芯地を得た。
【0035】
実施例3
実施例1に述べた構成の繊維ウエブに対して、その捲縮発現前の工程として、ノズル圧130Kg/cm2の高圧水流によって水流絡合処理を行った。然る後、実施例1と同一の条件で捲縮発現を行い、実施例1と同一のバインダを含浸、乾燥させ、繊維重量/バインダ重量が94/6、目付28g/m2の繊維ウエブと した。この繊維ウエブに対して、実施例1と同一条件で撥水処理を行い、目付28.5g/m2の基布を作製し、第1樹脂層及び第2の樹脂を実施例1と同一の 条件で形成して、実施例3に係る目付39g/m2の接着芯地を得た。
【0036】
比較例1
撥水剤を被着させないことを除いては、実施例1の製法及び材料を用いて、比較例1に係る接着芯地を得た。
【0037】
比較例2
撥水剤を被着させないことを除いては、実施例2の製法及び材料を用いて、チェーンステッチが施された比較例2に係る接着芯地を得た。
【0038】
比較例3
撥水剤を被着させないことを除いては、実施例3の製法及び材料を用いて、水流絡合を施した比較例3に係る接着芯地を得た。
【0039】
続いて、上記6種類の接着芯地の風合を評価した結果につき説明する。風合の評価には、各々の芯地を表地と接着して試験片を作製し、曲げ剛性及び剪断剛性を測定して数値化した。表地には目付170g/m2のウールトロピカルを用い、接着は、リライアントプレス機により温度130℃、圧力3Kg/cm2の条件 で10秒間プレスして行った。また、風合測定は、引張り・せん断試験機(カトーテック(株)製、KES−FB1)及び純曲げ試験機(カトーテック(株)製、KES−FB2)を用いて行った。これらの結果を表2に示す。
【0040】
【表2】
【0041】
表2において、Bは各接着芯地で作製した試験片の単位長さ当たりの曲げ剛性(単位:gf・cm2/cm)、Gは同試験片の単位幅当たりのせん断剛性(単位:gf/cm・degree)を表す。周知の通り、風合は、これら2種の特性値が低いほどソフトであるとされている。同表からも理解できるように、この発明に係る実施例1、実施例2及び実施例3では、何れの数値も比較例1〜3に較べて小さい値を示しており、風合がソフトで有ることが確認できた。
【0042】
これら表1及び表2の結果からも明らかなように、Tgの低いバインダを用いた場合であっても、撥水剤を被着した状態で第2の樹脂を形成する際の、余剰なホットメルト樹脂の付着が少なく、このため、上述した風合の指標となる2つの剛性が低く抑えられる。特に、チェーンステッチを施した実施例2に係る構成特有の効果として、極めて低いせん断剛性が認められた。さらに、絡合工程を付加して作製した実施例3の芯地では、物理的な絡合を施すことにより、風合いのソフト化に有効なバインダ被着量の低減を、強度低下を来すことなく実現し得ることが明らかとなった。
【0043】
【発明の効果】
この発明の接着芯地によれば、繊維ウエブの、少なくとも一方の表面上に形成された点状の第1樹脂層と、この第1樹脂層より低融点の樹脂よりなり、かつ前述した第1樹脂層に固着された第2の樹脂とを具える接着芯地において、前述の繊維ウエブが潜在捲縮性繊維を主体とし、捲縮発現された該潜在捲縮性繊維が絡み合い、かつ0℃以下の低ガラス転移温度を有するバインダと、撥水剤とを順次被着した構造としている。従って、風合をソフトにするための低Tgを有するバインダを被着させた場合であっても、撥水剤の配設により、当該バインダに対する第2の樹脂の付着を抑制することができる。このため、十分な伸縮性と強度とを有し、しかも風合がソフトな、優れた接着芯地を実現することができる。
Claims (3)
- 繊維ウエブの、少なくとも一方の表面上に形成された点状の第1樹脂層と、該第1樹脂層より低融点の樹脂よりなり、かつ前記第1樹脂層に固着された第2の樹脂とを具える接着芯地において、前記繊維ウエブが、潜在捲縮性繊維を主体とし、捲縮発現された該潜在捲縮性繊維が絡み合い、かつガラス転移温度が−39〜0℃であるバインダと、撥水剤とが被着されて成ることを特徴とする接着芯地。
- 請求項1に記載の繊維ウエブが、前記潜在捲縮性繊維を主体とする一方向性繊維ウエブと、潜在捲縮性繊維以外の繊維を主体とする交差繊維ウエブとを含んでなることを特徴とする接着芯地。
- 前記繊維ウエブにチェーンステッチが施されてなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の接着芯地。
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1996
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