JP3700280B2 - 缶用鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、極薄ぶりき原板やティンフリースチールなどの缶用鋼板の製造方法に関し、特にその加工性および強度特性バランスに優れるのは言うまでもなく、肌あれ等の缶用特性に優れ、しかも従来に比べて極薄で広幅の鋼板の製造を可能ならしめたものである。
【0002】
【従来の技術】
飲料缶、18リットル缶およびペール缶などの容器缶は、その製法(工程)から2ピース缶と3ピース缶に大別できる。
2ピース缶は、すずめっき、クロムめっき、化成処理、塗油などの処理を施した表面処理鋼板に、深絞り加工、DWI加工、DRD加工などの加工を施して、缶底と缶胴を一体成形し、これに蓋を取り付けた2部品からなる缶である。
また、3ピース缶は、表面処理鋼板を円筒状または角筒状に曲げて端部同士を接合して、缶胴を成形したのち、これに天蓋と底蓋を取り付けた3部品からなる缶である。
【0003】
これらの缶は、いずれも缶コストに占める素材コストの割合が高いため、素材鋼板に対するコスト低減への要求が強い。そのため、缶用鋼板の製造を、非効率的で材料の歩留りや表面品質が劣る箱焼鈍で行うのではなく、生産効率が高く、しかも歩留りや表面品質に優れた連続焼鈍で行うことが望まれる。
かような連続焼鈍技術としては、例えば、特公昭63−102113号公報に開示のような技術があり、さらにそれに改善を加えた技術も開発され、ロックウェル硬さ(HR30T)の値で表される調質度でT2(50−56)程度の軟質な缶用鋼板が得られるようになった。
さらに軟質な鋼板を連続焼鈍で製造する技術の開発も行われ、例えば特公平1-52452号公報のように、極低炭素鋼板を適用すると共に、焼鈍後の加工硬化との組み合わせで種々の硬さの缶用鋼板を製造する技術も開発されている。
【0004】
しかしながら、この種の缶用鋼板においても、より一層のコストダウンが要求されており、これに応えるためには新たな製造プロセスならびに新たな素材を開発する必要がある。
コストダウンの1手法としては、使用する鋼板の板厚の減少と上蓋の縮径(ネックイン)成形の強化が考えられる。しかしながら、板厚が減少しても缶強度は維持しなければならず、そのためには素材は高強度とせざるを得ないことから、要求される材料特性はますます厳しいものとなっており、それに耐え得る良好な加工性(例えば深絞り性)を有する缶用鋼板の製造技術が求められている。
【0005】
例えば、特開平6−306536号公報には、極低炭素鋼板を用いて強度と成形性の両者を両立させる技術が提案されている。
しかしながら、加工性に有利な極低炭素鋼板は、低炭素鋼板と比べると、粒径が大きくなり易く、缶成形後に肌あれなどの問題を生じるため、極低炭素鋼板の組織が均一かつ微細で、しかも極薄で広幅の表面処理用原板の製造技術の開発が望まれている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、厳しい加工条件下であっても良好な加工性を有し、缶用鋼板としての必要特性を維持しつつ、従来とは異なるより合理的な製造方法によって、より一層の強度と加工性の向上、さらには極薄で広幅の鋼板の製造を可能ならしめようとするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
さて発明者らは、上記の目的を達成すべく、鋼組成および製造条件について綿密な検討を行うと共に、缶用鋼板の必要特性についてそれを支配する因子に関し冶金学的な検討を行った結果、以下に述べる知見を得た。
(1) 従来の缶用鋼板では、自動車等に用いられる深絞り用鋼板と異なり、必ずしも高いr値は必須条件ではないとされていた。しかしながら、最近では、素材板厚の減少に伴い、缶体強度を満足させるために高強度化に向かっているため、均一延性の低下が余儀なくされている。そのため、延性を補うべく、特に2ピース缶用鋼板では、高いr値が要求されるようになってきた。高r値を得るためには、炭素量の低減が不可欠であり、低炭素鋼板では得られない高r値が極低炭素鋼板で期待できる。
【0008】
(2) r値の面内異方性(Δr)は小さい方が望ましい。というのは、絞り用鋼板において歩留りの向上につながるだけでなく、DRD缶のように、塗装印刷したあとに絞り加工を行う缶種では、異方性が大きいと印刷に歪みが生じてしまうからである。また、ネックイン加工性について検討を行ったところ、異方性が大きいと残留応力が発生し、ネックしわを発生する要因となることが判明した。最近の素材板厚の減少、高強度化は、一次冷間圧下率および焼純後の2次圧延率を高くしなけれはならず、どうしてもΔrを負の値で大きくさせる傾向にあるので、そのような条件下でも異方性の小さい鋼板が求められている。異方性の改善には、圧延中の結晶粒径や集合組織を制御する必要があり、特にγ域での材料特性の変化をうまく制御する必要がある。
【0009】
(3) 変形の均一化の面では微細な組織が望ましい。これには、肌あれなどが関係し、特に結晶粒径を細かくする手法が求められている。ただし、上記したような高r値が達成可能な極低炭素鋼板においては粒径が大きくなる傾向がある。
熱延板の結晶粒径は、鋼組成による粒成長性の他に、熱延条件の適正化による結晶粒の制抑、析出物の存在状態を制御することよる粒成長性の制御がポイントとなってくる。
【0010】
この発明は、製造工程の中でも製品の特性に大きな影響を与える重要な熱間圧延工程ではあるが、従来あまり注目されていなかった、鋼の変態、再結晶過程での圧下条件を詳細に検討した結果、開発されたものである。
【0011】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1) C:0.0005〜0.0150wt%、
Si:0.2 wt%以下、
Mn:0.05〜0.6 wt%、
P:0.02wt%以下、
S:0.02wt%以下、
Al:0.15wt%以下および
N:0.020 wt%以下
を含み、残部はFeおよび不可避不純物の組成になる鋼を、溶製した後、スラブとし、ついでスラブ加熱後、熱間粗圧延工程において、総圧下率:80%以上でかつ最終パス圧下率:20%以上の圧延を施し、ついで得られたシートバーを、仕上げ圧延前に、先行するシートバーと接合したのち、熱間仕上げ圧延工程において、950 ℃以上の温度域で総圧下率:70%以上の圧延を施し、ついでAr3〜950 ℃の温度域で総圧下率:55%以上の圧延を施して、最終仕上げ温度:Ar3−50℃以上で熱間圧延を終了し、ついで 550〜750 ℃の温度範囲で巻き取り、スケール除去後、冷間圧延、再結晶焼鈍を施したのち、圧下率:30%以下のスキンパスまたは二次圧延を施すことを特徽とする、缶用鋼板の製造方法。
【0012】
2)上記1において、鋼組成がさらに、
Nb:0.003 〜0.020 wt%、
Ti:0.003 〜0.020 wt%および
B:0.0002〜0.0020wt%
のうちから選んだ1種または2撞以上を含む組成になることを特徽とする、缶用鋼板の製造方法。
【0013】
3)上記1または2において、鋼組成がさらに、
Cu:0.5 wt%以下、
Ni:0.5 wt%以下、
Cr:0.5 wt%以下および
Mo:0.2 wt%以下
のうちから選んだ1種または2撞以上を含む組成になることを特徽とする、缶用鋼板の製造方法。
【0014】
4)上記1,2または3において、得られる鋼板が、板厚:0.25〜0.05mm、板幅:1200〜900mm、板幅/板厚<20000の要件を満足する、材質が均一な極薄・広幅材であることを特徴とする、缶用鋼板の製造方法。ここで、「材質が均一」とは、幅端より20mmの位置から反対側の幅端より20mmの位置までの領域において、HR30Tの変動値が5%以内にあることと定義する。
5)上記1,2,3または4において、熱間粗圧延で得られたシートバーを仕上げ圧延する前に、先行するシートバーと接合するとともに、シートバーの幅縁部および長さ端部における温度を均一にするための処理を施すことが望ましい。
【0015】
【発明の実施の形態】
強度と加工性のバランスを向上させるためには、最終的なめっき原板の組織を均一かつ微細にする必要がある。このためには、熱延段階で均一微細な組織とすることが必須条件となる。というのは、熱延段階で、粗粒または混粒組織であると、いくら冷延条件(例えば冷延圧下率の増加)、焼純条件(焼鈍温度の低下)に工夫を加えても、熱延組織の影響を受けてしまい、たとえ強度が高くても、加工性に劣る鋼板しか得られない。
また、本発明の成分系である極低炭素鋼板は、従来の熱延法では、低炭素鋼板に比べると、粒径が粗大となったり、加工組織が残存することによる焼鈍後の集合組織に悪影響を及ぼすことが稀ではなかった。
この理由は、変態点が高いことや、粒成長性の違いが考えられる。
【0016】
本発明は、成分を適正に制卸した鋼を用いると同時に、熱間圧延工程の加工熱処理条件を最適化することにより、冷延、焼純後の組織を均一微細化することを可能にしたものである。
特に、本発明は、熱延条件のなかでも、高温γ域(再結晶域)および低温γ域(未再結晶域)での加工歪量を適正化するという、従来あまり注目されていなかった制御法を用いることにより、上記の目標を達成したものである。
【0017】
以下、本発明において鋼板の成分組成および製造条件を上記の範囲に限定した理由について説明する。
まず、本発明の主たる条件である熱延条件についての限定理由を述べる。
(1) スラブ加熱温度
スラブ加熱温度は、高すぎると析出物が細かくなり、熱延板の粒径を細かくするため、硬質化し易いだけでなく、局部変形能を低下させるので好ましくない。従って、1250℃以下として、析出物を粗大化させ、成形性と軟質化を両立させることが望ましい。
【0018】
(2) 熱間圧延における圧下率の配分
この条件が、本発明のなかでも特に重要なパラメータであり、これを制御することによって均一で微細な組織とすることが可能となる。
粗圧延工程では、総圧下率:80%以上で、その内最終パス圧下率:20%以上の圧下を行う。さらに、これに続く仕上げ圧延工程では、 950℃以上の温度域で総圧下率:70%以上の圧延を施し、ついでAr3〜950 ℃の温度域で総圧下率:55%以上の圧下を行う必要がある。
【0019】
以下、それぞれについての作用および限定理由を述べる。
(a) 粗圧延工程において、総圧下率:80%以上でかつ、最終パス圧下率:20%以上の圧下を行うこと
特に重要な工程は、後述する(b), (c)であるが、仕上げ圧延に入るまでに、ある程度粒径を揃えておくためには、粗圧延での加工歪み量と、再結晶を伴うある程度の加工歪み量が必要である。また、本鋼板は、缶用鋼板に適用されるため、最終製品が、自動車、家電製品と比較して、非常に薄いことが特徴である。このため、粗圧延の段階である程度薄くしておかないと、仕上げ圧延機の許容量をオーバーしてしまう可能性がある。これらを考慮して、トータルの圧下量の下限を80%に定めた。
また、その内、最終パスの圧下量が20%に満たないと、仕上げ圧延機に入る段階で十分に整粒化されない(表層から中心部にいたる組織の不均一性)ことから、最終パスの圧下量は20%以上とした。
【0020】
(b) 仕上げ圧延工程において、 950℃以上の温度域での総圧下率を70%以上とすること
この温度域は、γ域でしかも、圧延の歪により充分再結晶できる領域であり、圧延歪→再結晶→圧延歪→再結晶を繰り返して、粒径が微細となる温度域といえる。とはいえ、圧下率が70%に満たないと、かような細粒化が十分に進行しないだけでなく、圧延歪の不足により、均一に再結晶せず、部分的に粒径の大きな領域が生じるので、 950℃以上の温度域での総圧下率は70%以上とすることが肝要である。
【0021】
(c) Ar3〜950 ℃の温度域での総圧下率を55%以上とすること
この温度域は、上記した(b) と同じγ域ではあるが、
1) 温度が低くなることにより元素の拡散現象が遅れること
2) 析出物によるピン止め効果
3) さらには固溶元素による再結晶抑制効果
が重なって、再結晶が十分に行い難い領域である。
従来の手法においては、この領域を他の温度域、とくに上記の再結晶γ域と区別していなかったため、成分によっては、加工性に望ましくない集合組織となったり、混粒となり、均一な組織に制御することが非常に困難であった。
実際、この領域の圧延率がトータルで55%に満たないと、まったく再結晶しないで加工性に悪影響を及ぼす集合組織を残したり、一部しか再結晶せず、混粒になるのが避けられなかった。
この点、圧下率を55%以上とすれば、Nbなどが入って再結晶が非常に遅れた場合でも、導入歪により、変態の核を均一微細に析出させることができる。
以上の理由により、Ar3〜950 ℃の温度域での総圧下率は55%以上の範囲に限定した。
【0022】
(3) 最終仕上げ温度
熱間仕上げ圧延は、Ar3−50℃以上の温度で終了する必要があり、この要件を満足させることによって、熱延板の組織、粒径を均一微細にすることができる。
熱延終了温度が、Ar3−50℃に満たないと、巻き取り温度によっては加工組織が残存して、冷間圧延性を悪化させるだけでなく、加工性に悪影響を及ぼす再結晶集合組織となり、また加工歪がなくとも組織が粗大となって強度一加工性バランスが悪化するので好ましくない。
【0023】
(4) 巻き取り温度
巻き取り温度が、 750℃を超えるとスケール厚みが著しく増大して、酸洗時の脱スケール性が低下し、一方 550℃未満で巻き取ると、析出物が充分に析出せず、再結晶集合組織に悪影響が生じるので、巻き取り温度は 550〜750 ℃の範囲に限定した。
【0024】
(5) 連続圧延(エンドレス圧延)
従来、製造が困難とされていた極薄で広幅の鋼板を製造するためには、薄くしかも広幅の熱延鋼帯を製造する必要がある。このためには、粗圧延後、シートバーを仕上げ圧延に先立って巻き取り、先行するシートバーと接合し、好ましくはエッジヒーター等でシートバーの幅縁部および長さ端部の温度を均一にすることが極めて有用なので、本発明ではかかる連続圧延を行うものとした。
【0025】
次に、鋼板の成分組成についての限定理由を述べる。
C:0.0005〜0.0150wt%
C含有量が高くなると、結晶粒径が細かくなり、調質度の高いものが得られるが、0.0150wt%を超えると、加工性の低下を招く。また時効劣化の面からもC量は0.0150wt%以下(望ましくは0.0100wt%未満)にする必要がある。
一方、成形性の面からは、C量は低い方が望ましいが、結晶粒径が粗大になること、および現在の製鋼技術レベルからCの下限は0.0005wt%に定めた。
【0026】
Si:0.2 wt%以下
Siは、鋼板の表面性状を劣化させる元素であり、添加量が多いと、表面処理鋼板として望ましくないだけでなく、鋼を硬化させ、熱間圧延を困難にし、しかも最終製品としての鋼を硬化させる。この観点からは、Siは 0.2wt%以下とする必要がある。なお、特に表面性状の要求が厳格な用途では 0.050wt%以下とすることが望ましい。
【0027】
Mn:0.05〜0.6 wt%
Mn含有量が、0.05wt%に満たないと、S含有量を低下させた場合でも、いわゆる熱間脆性を回避することが難しく、表面割れなどの問題が生じ、一方 0.6wt%を超えると、変態点が低下し過ぎて、好ましい熱延板を得ることが難しくなるので、Mn量は0.05〜0.6 wt%の範囲に限定した。
【0028】
P:0.02wt%以下
P含有量の低減により、耐食性の改善効果を狙えるが、過度の低減は、製造コストの増加につながるので、これらの兼ね合からPは0.02wt%以下で含有させるものとした。なお、加工性を顕著に改善するためには、0.010 wt%以下とするのが好ましい。
【0029】
S:0.02wt%以下
S含有量が多くなると、MnS等の介在物が増加し、伸びフランジ性に代表される局部延性を低下させる原因となり、また含有量を従来の鋼板よりもさらに低減することによって全伸びが著しく改善される。そこで、S含有量は0.02wt%以下に制限した。なお、加工性を顕著に改善するためには、0.010 wt%以下にすることが好ましい。
【0030】
sol.Al:0.15wt%以下
sol.Alは、脱酸に必要な元素であるが、0.15wt%を超えると脱酸効果が飽和するだけでなく、介在物が発生し、成形性に悪影響を及ぼす。このため、sol.Al含有量は0.15wt%以下に限定した。なお、安定した製造条件を確保するためには、0.030 〜0.10wt%の範囲が好ましい。
【0031】
N:0.020 wt%以下
Nは、析出物を形成し伸びを低下させる原因となる。一方、固溶状態で残存させた場合、鋼を適度に硬質化させ、強度と加工性のバランスを向上させることが可能である。ただし、0.020 wt%を超えると伸びを著しく低下させるだけでなく、スラブ割れの原因となることから、0.020 wt%以下に限定した。なお、強度以上に加工性を重視する場合には、0.010 wt%以下とすることが好ましい。
【0032】
以上、必須成分について説明したが、本発明ではさらに、次に述べるような元素も適宜含有させることができる。
Nb:0.003 〜0.020 wt%
Nbは、炭素の固着により、時効性の低減、鋼の軟質化に有効に寄与するだけでなく、熱間圧延時にγ領域にて再結晶を適度に抑制し、微細な組織とする点でも有用な元素である。しかしながら、含有量が 0.020wt%を超えると、熱延板に不均一な組織をもたらすばかりでなく、熱延時における負荷の増大を招き、一方、0.003 wt%未満ではその添加効果に乏しいので、Nbは 0.003〜0.020 wt%の範囲で添加するものとした。なお、加工性を重視する場合には、 0.003〜0.015 wt%の範囲とすることが望ましい。
【0033】
Ti:0.003 〜0.020 wt%
Tiは、、Nbと同様の効果があり、Nbとの複合添加により、成形性を向上させることができる。しかしながら、 0.020wt%を超えて添加してもその効果は飽和に達し、コストの増加を招くだけであり、一方 0.003wt%に満たないとその添加効果に乏しいので、Tiは 0.003〜0.020 wt%の範囲で添加するものとした。
【0034】
B:0.0002〜0.0020wt%
Bは、熱延条件と併せて熱延板の組織の微細化に有用な元素である。また、2次加工脆性を防止させる役目も果たす。しかしながら、過剰な添加は、熱間圧延時にオーステナイトの再結晶を遅らせ、圧延時の負荷を大きくするだけでなく、焼鈍材の材質、特に伸びを劣化させるので、Bは0.0002〜0.0020wt%の範囲で添加するものとした。
【0035】
Cu:0.5 wt%以下、Ni:0.5 wt%以下、Cr:0.5 wt%以下、Mo:0.2 wt%以下
Cu, Ni, CrおよびMoはいずれも、Mnと同様、固溶強化元素であり、変態点を低下させるので組織の微細化に有用な元素である。しかしながら、あまり過剰に添加すると、鋼のコストアツプのみならず、熱延板の硬質化による冷間圧延の負荷の増大を伴うので、上限を 0.5wt%、とくにMoについてはコストを考慮して0.2 wt%とした。
【0036】
次に、熱間圧延工程以外の製造条件について述べる。
(a) 酸洗後の冷間圧延条件
冷間圧延は、70〜90%の圧下率で行うことが望ましい。というのは、本発明鋼は、低減したとはいえ、それでも熱延板の粒径はかなり大きいため、圧下率が70%に満たないと再結晶の駆動力が少なくなって、焼鈍後、結晶粒が粗大となり易く、一方90%を超えると異方性の劣化を招くからである。
【0037】
(b) 冷間圧延後の焼鈍およびスキンパス、二次圧延条件
冷延圧延後の焼純は、生産性の面から、連続焼鈍で、再結晶以上の温度で行うことが望ましい。
その後、目的の調質度に調整するため、また耐ストレッチャーストレインの観点から、スキンパスまたは二次圧延を施す必要がある。その時と圧下率は、30%以下とする必要がある。というのは、これ以上の圧下率では、高強度になり過ぎて、加工性と強のバランスが維持できなくなるだけでなく、面内異方性が悪化するからである。
【0038】
上記した成分組成および製造条件とすることにより、強度および加工性に優れるだけでなく、板厚:0.25〜0.05mm、板幅:1200〜900 mm、板幅/板厚<20000の関係を満足する、極薄で広幅の鋼板を安定して得ることができる。かようなサイズの鋼板は、従来の製造法では望み得なかった極薄・広幅の鋼板である。
【0039】
【実鹿例】
実施例1
表1に示す成分組成になる鋼を溶製し、供試材とした。
まず、表1の鋼No.1, 11を用い、表2に示す条件で熱間圧延を行い、ついで酸洗後、同表に示す圧下率で冷間圧延、再結晶焼鈍を施したのち、表3に示す条件で二次圧延を施した。なお、いずれの供試材も仕上げ圧延に先立って先行するシートバーの後端部に接合しエンドレス圧延を行い、エッジヒーターによる幅縁部の均熱化も行った。
かくして得られた各鋼板の結晶粒径(G.S.N.)、板厚方向での組織の均一性、ロックウェル硬さ、r値、Δr値およびフランジ成形性について調べた結果を表3に併記する。
なお、ロックウェル硬さのスケールはHR30Tとした。また、r値はJISに定める弾性率の異方性により評価した。さらに、フランジ成形性は、通常の条件で#25相当のすずめっきを行い、これをロールフォーミング、高速シーム溶接で3P缶の缶胴部相当に成形し、これにネッキング、伸びフランジ加工を施したときの、肌あれ、割れ発生の有無で評価した。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【0043】
表3から明らかなように、本発明に従い、粗圧延工程で総圧下率:80%以上、その内最終パス圧下率:20%以上の圧延を施し、ついで仕上げ圧延工程において、950℃以上の温度域で総圧下率:70%以上の圧延を施し、さらにAr3〜950℃の温度域で総圧下率:55%以上の圧延を施して、最終仕上げ温度がAr3−50℃以上となるように熱間圧延を終了し、ついで 550〜750℃の温度範囲で巻き取ることにより、均一で微細な、加工性と強度バランスに優れ、しかも極薄で広幅(900〜1200mm、板幅/板厚< 20000)の鋼板を製造することができた。なお、本発明による鋼板では、幅端から20mm以内の幅縁部を除く領域における、HR30Tの変動値が5%以下にあり均一な材質を示した。
【0044】
また、図1には、仕上げ圧延工程における 950℃以上での圧下率と最終製品の粒度番号との関係を示す。
用いた素材は鋼No.11 で、製造条件は表2,3の条件Dと同じである。
同図に示したとおり、950 ℃以上の温度域で総圧下量:70%以上の圧延を行うことにより、最終段階における組織が微細となるため、その段階での再結晶を効果的に行わせることが可能となり、結果的に最終製品の粒径を微細化することができる。
【0045】
また、図2には、仕上げ圧延工程におけるAr3〜950 ℃の温度域での圧下率と最終製品の粒度番号との関係を示す。
用いた素材は鋼No.11 で、製造条件は表2,3の条件Dと同じである。
同図に示したとおり、Ar3〜950 ℃の温度域で55%以上の圧延を行うことにより、再結晶しにくいこの領域でも微細化が実現されることが判る。
【0046】
実施例2
前掲表1に示した鋼No.1〜19を用い、表4および表5に示す条件で缶用鋼板を製造した。
かくして得られた各鋼板の結晶粒径、板厚方向での組織の均一性、ロックウェル硬さ、r値、Δr値およびフランジ成形性について調べた結果を表5に併記する。
【0047】
【表4】
【0048】
【表5】
【0049】
比較鋼のうち、鋼No.7, 9はいづれも、r値が低く、深絞り性に劣っていた。また鋼No.7, 8, 9, 17, 18, 19はいずれも、Δrが負で大きな値となり、絞り変形した際に耳が大きく不良となることが判る。さらに、鋼No.10, 17, 18 については、混粒組織が残り、肌あれ判定が×となった。
これに対し、本発明の要件を全て満足する鋼No.1〜6、11〜16はいずれも、全ての特性に優れた極薄・広幅鋼板とすることができた。
【0050】
【発明の効果】
かくして、本発明によれば、極低炭素鋼板であっても、微細かつ均一な組織を持ち、強度と加工性の両者を兼ね備え、しかもフランジ成形性にも優れた缶用鋼板を得ることができ、しかも本発明によれば、従来望み得なかったほどの極薄で広幅の鋼板の製造も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】仕上げ圧延工程における 950℃以上での圧下率と最終製品の粒度番号との関係を示したグラフである。
【図2】仕上げ圧延工程におけるAr3〜950 ℃の温度域での圧下率と最終製品の粒度番号との関係を示したグラフである。
Claims (4)
- C:0.0005〜0.0150wt%、
Si:0.2 wt%以下、
Mn:0.05〜0.6 wt%、
P:0.02wt%以下、
S:0.02wt%以下、
Al:0.15wt%以下および
N:0.020 wt%以下
を含み、残部はFeおよび不可避不純物の組成になる鋼を、溶製した後、スラブとし、ついでスラブ加熱後、熱間粗圧延工程において、総圧下率:80%以上でかつ最終パス圧下率:20%以上の圧延を施し、ついで得られたシートバーを、仕上げ圧延前に、先行するシートバーと接合したのち、熱間仕上げ圧延工程において、950 ℃以上の温度域で総圧下率:70%以上の圧延を施し、ついでAr3〜950 ℃の温度域で総圧下率:55%以上の圧延を施して、最終仕上げ温度:Ar3−50℃以上で熱間圧延を終了し、ついで 550〜750 ℃の温度範囲で巻き取り、スケール除去後、冷間圧延、再結晶焼鈍を施したのち、圧下率:30%以下のスキンパスまたは二次圧延を施すことを特徽とする、缶用鋼板の製造方法。 - 請求項1において、鋼組成がさらに、
Nb:0.003 〜0.020 wt%、
Ti:0.003 〜0.020 wt%および
B:0.0002〜0.0020wt%
のうちから選んだ1種または2撞以上を含む組成になることを特徽とする、缶 用鋼板の製造方法。 - 請求項1または2において、鋼組成がさらに、
Cu:0.5 wt%以下、
Ni:0.5 wt%以下、
Cr:0.5 wt%以下および
Mo:0.2 wt%以下
のうちから選んだ1種または2撞以上を含む組成になることを特徽とする、缶用鋼板の製造方法。 - 請求項1,2または3において、得られる鋼板が、板厚:0.25〜0.05mm、板幅:1200〜900 mm、板幅/板厚<20000の要件を満足する、材質が均一な極薄・広幅材であることを特徴とする、缶用鋼板の製造方法。
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