JP3692520B2 - 車両用乗員保護装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両に発生した衝撃から乗員を保護する車両用乗員保護装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、車両に発生した衝撃から乗員を保護する車両用乗員保護装置が提案されており、例えば特開平7−165008号には、オートモードにおいて検出したシートのスライド量に応じて、エアバックの作動ゲインを変更するスマートエアバック装置が提案されている。
【0003】
また、特開平10−71878号、或いは特開平11−99905号には、エアバック展開時の衝撃による乗員への悪影響を極小化すべく、シート位置を自動的に移動させる車両用乗員保護装置が提案されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来の車両用乗員保護装置によれば、エアバック展開時の衝撃による乗員への悪影響を極小化することができ、エアバックの保護性能を享受することができる。
【0005】
しかしながら、上記従来の乗員保護装置においては、乗員の意思或いは姿勢等には関らずエアバックの作動ゲインやシート位置が自動的に変更されるため、乗員にとって最善の動作であるとは限らず、また、乗員に違和感を与えることも予想され、利便性が良くない。
【0006】
そこで、例えば特開平10−44920号には、エアバックの展開を禁止・許容を乗員が選択可能なマニュアルモードを有するエアバック装置が提案されているが、この場合、展開を許容すると乗員が自らの意思で選択しているときであっても、シート位置(乗員の着座位置)によってはエアバック展開時の本来の乗員保護性能を十分に享受できない、或いはエアバック展開時の衝撃による乗員への悪影響が懸念される。
【0007】
そこで本発明は、エアバック展開時の本来の乗員保護性能を適切に発揮すると共に、利便性を兼ね備える車両用乗員保護装置の提供を目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するため、本発明に係る車両用乗員保護装置は、以下の構成を特徴とする。
【0009】
即ち、車両に加えられた衝撃を検出する衝撃センサによって検出した衝撃に応じて、エアバックを展開させる車両用乗員保護装置であって、前記エアバックの動作モードを設定可能なマニュアルスイッチと、前記エアバックによる保護対象の乗員が着座するシート及びそのシートバックの移動を指示するための移動指示スイッチと、前記移動指示スイッチに対する乗員の操作に応じて、所定の移動可能範囲内で前記シート及び前記シートバックの移動を制御する制御手段と、を備え、前記移動可能範囲は、前記マニュアルスイッチの設定状態に応じて、前記シートバック上部のヘッドレストが位置可能な車両前方方向の最前位置が異なるように設定されていることを特徴とする。
【0010】
好ましくは、前記エアバックは、展開強度を変更可能な多段式のエアバックであって、前記移動可能範囲は、前記マニュアルスイッチの設定状態が該エアバックの展開強度を規制可能な規制モードに設定されているときには、該エアバックの展開強度が前記衝撃センサによって検出された衝撃に応じて決定される許容モードに設定されているときと比較して、前記ヘッドレストの前記最前位置がより車両前方側となるように設定される。
【0011】
また、例えば前記制御手段は、前記マニュアルスイッチによる前記動作モードの設定が行われていないときに、前記衝撃センサによって検出された衝撃に応じて、前記エアバックの展開の要否及び展開強度を、所定の条件に従って自動的に決定する自動モードを有すると良い。
【0012】
また、好ましくは、前記エアバックは、展開強度を変更可能な多段式のエアバックであって、前記移動可能範囲は、前記マニュアルスイッチの設定状態が該エアバックの展開強度を規制可能な規制モードに設定されているときには、該エアバックの展開強度が前記衝撃センサによって検出された衝撃に応じて決定される許容モードに設定されているとき、並びに、該エアバックの展開を禁止可能な禁止モードに設定されているとき、と比較して、前記ヘッドレストの前記最前位置がより車両前方側となるように設定される。
また、好ましくは、前記制御手段は、前記マニュアルスイッチの設定状態が前記許容モードに設定されているときであっても、前記シート及び前記シートバックが前記規制モードに対応した前記移動可能範囲内に位置しているときには、前記エアバックの展開強度を自動的に規制する。
【0013】
尚、上記の車両用乗員保護装置の各構成において、前記シート及びそのシートバックの移動可能範囲は、重量センサにより検出した乗員の体重や、超音波センサ等により検出した乗員の体格や身長に応じて調整すると良い。
【0014】
また、前記シート及びそのシートバックの設定位置の変更は、電気モータを備えるシートスライド機構及びシートリクライニング機構を備えることにより実現すれば良く、更に好ましくは、この構成において、設定されたある動作モードにおける所定の移動可能範囲の先端位置にシートが位置するにも関らず、乗員が更にシートを前に設定しようとする場合には、当該先端位置を越えて当該シートを車両前方方向に移動させると共に、そのシートのヘッドレストの位置が、そのシートに着座した乗員がエアバックの乗員保護性能を効果的に享受できる適切な位置に存在するように、自動的にシートバックのリクライニング角度を小さく変更する(倒し込む)と良い。
【0015】
また、車速センサやパーキングブレーキの状態によって停車中であることを検出したときには、利便性を向上させるべく(例えばフルフラット状態に設定する等)、前記制御手段による前記シート及びそのシートバックの移動可能範囲の規制を中止すると良い。
【0016】
【発明の効果】
上記の本発明によれば、エアバック展開時の本来の乗員保護性能を適切に発揮すると共に、利便性を兼ね備える車両用乗員保護装置の提供が実現する。
【0017】
即ち、請求項1の発明によれば、マニュアルスイッチの操作によってエアバックの動作モードが変更されても、その変更に応じた最適な移動可能範囲にシート及びそのシートバックの設定位置が規制されるので、エアバック展開時の本来の乗員保護性能の発揮と利便性とを両立することができる。
【0018】
また、請求項2の発明によれば、エアバックの展開強度が小さく規制される規制モードに設定されているときにおいても、乗員を確実に保護することができる。
【0019】
また、請求項3の発明によれば、マニュアルスイッチの操作を乗員が行っていないときには、エアバックの適切な展開動作が自動的に行われるので、更に利便性を向上させることができる。
【0020】
また、請求項4の発明によれば、請求項2の発明と同様に、規制モードにおいて乗員を確実に保護することができると共に、例えばシートベルトのみによって乗員を保護する場合にも、そのシートベルトの乗員保護性能を十分に発揮させることができる。
【0021】
また、請求項5の発明によれば、マニュアルスイッチによる利便性の向上と共に、フェールセーフ性能を向上させることができる。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る車両用乗員保護装置を、代表的な車両である自動車の助手席に適用した実施形態として、図面を参照して詳細に説明する。
【0023】
はじめに、本実施形態における車両用乗員保護装置のシステム構成について、図1から図3を参照して説明する。
【0024】
図1は、本実施形態における車両用乗員保護装置の機器構成を示す概略図である。また、図2は、本実施形態における車両用乗員保護装置の動作モードを設定可能な動作モード選択スイッチのレイアウトを例示する図である。そして、図3は、本実施形態における車両用乗員保護装置の制御系統を示すブロック図である。
【0025】
図1から図3において、1は、助手席のシートバックである。2は、助手席のシートである。3は、シートバック1のリクライニング機構7を乗員が動作させることが可能なシートリクライニングスイッチである。4は、シート2のシートスライド機構6を乗員が動作させることが可能なシートスライドスイッチである。5は、シート2に加えられる重量を検出する圧電素子等を利用した重量センサである。
【0026】
8は、車両に発生した衝撃(加速度)を検出する加速度(G)センサである。
9は、エアバック10を展開させる多段式のインフレータモジュールである。11は、シートベルトの装着状態を検出するシートベルト装着検出センサである。
13は、車速を検出する一般的な車速センサである。
【0027】
12は、後述する各動作モードを乗員が選択可能な動作モード選択スイッチであり、例えば、センターコンソール等に配置すれば良い。動作モード選択スイッチ12は、後述する動作制御処理における動作モードとして、「マニュアル禁止モード」、「マニュアル規制モード」、「マニュアル許容モード」並びに「自動(オート)モード」の4つの動作モードのうち何れかの動作モードを選択することができ、その選択状態を乗員が識別可能な表示ランプを有する。また、動作モード選択スイッチ12は、更に、シートバック1またはシート2が上記の動作モードにおける作動限界位置に位置するときに、シートリクライニングスイッチ3またはシートスライドスイッチ4の操作により、その作動限界位置を越えてシートバック1またはシート2を移動させることを可能にするキャンセルスイッチを有する(詳細は後述する)。
【0028】
100は、本実施形態に係る車両用乗員保護装置のシステムを制御するマイクロコンピュータである。マイクロコンピュータ100には、Gセンサ8の出力信号、動作モード選択スイッチ12の設定状態、シートリクライニングスイッチ3の操作状態、シートスライドスイッチ4の操作状態、重量センサ5の出力信号、車速センサ13の出力信号、シート位置検出センサ6Bの出力信号、リクライニング角度検出センサ7Bの出力信号、並びにシートベルト装着検出センサ11の出力信号が入力される。
【0029】
マイクロコンピュータ100は、上記の各入力信号に基づいて後述する動作制御処理を実行することにより、インフレータモジュール9に備えられた2つのエアバックインフレータ9A及び9Bの展開制御、シートスライド機構6に内蔵されたシートスライドモータ6Aを駆動することによるシート2の車両前後方向への移動制御、並びにリクライニング機構7に内蔵されたシートリクライニングモータ7Aを駆動することによるシートバック1の角度制御を行う。
【0030】
尚、乗員によるシートリクライニングスイッチ3の操作に応じて動作するシートスライド機構6の機構及びシートスライドスイッチ4の操作に応じて動作するリクライニング機構7の機構については、一般的な構成を採用するものとし、本実施形態における詳細な説明は省略する。
【0031】
次に、本実施形態における4つの動作モードについて概説する。以下の説明においては、一例として、ヘッドレスト14とダッシュボード(計器パネル)との離間距離Dを、エアバック10が2つのインフレータ9A及び9Bを使用する多段式エアバックとして機能する場合には50cmから100cmの範囲内、インフレータ9Aまたは9Bの何れか1つだけ使用する場合には30cmから80cmの範囲内、そしてインフレータ9A及び9Bの作動を禁止してシートベルトだけにより乗員を保護する場合には40cm以上にそれぞれ維持すると最も効率良く乗員を保護することができるものと仮定して説明する。
【0032】
(1)「マニュアル許容モード」:基本的には2つのインフレータ9A及び9Bを必要に応じて1つまたは2つ作動させる多段式エアバックとしてエアバック10の展開を許容する動作モードであり、それら2つのインフレータ9A及び9Bによる多段式のエアバックとしての乗員保護性能を発揮すべく、離間距離Dが例えば50cmから100cmの範囲内となるように、シートスライド機構6及びリクライニング機構7の動作範囲が制限される。
【0033】
(2)「マニュアル規制モード」:エアバック10の展開に際して使用するインフレータを、基本的にはインフレータ9Aまたは9Bの何れか1つだけに規制する動作モードであり、その何れか1つのインフレータを作動させた場合のエアバック10の乗員保護性能を発揮すべく、離間距離Dが30cmから80cmの範囲内となるように、シートスライド機構6及びリクライニング機構7の動作範囲が制限される。
【0034】
(3)「マニュアル禁止モード」:エアバック10の展開を基本的には禁止する動作モードであり、シートベルトのみによる乗員保護を達成すべく、離間距離Dが例えば40cm以上となるように、シートスライド機構6及びリクライニング機構7の動作範囲が制限される。
【0035】
(4)「自動モード」:シートバック1のリクライニング角度、シート2の位置、並びに重量センサ5の出力信号に応じて推定した乗員の体格に基づいて、エアバック10の展開モードを、2つのインフレータ9A及び9Bを必要に応じて1つまたは2つ作動させる「オート許容モード」、インフレータ9Aまたは9Bを1つだけ作動させる「オート規制モード」、並びに2つのインフレータ9A及び9Bの作動を何れも禁止する「オート禁止モード」の何れかに設定し、その設定した展開モードに対応する動作範囲内にシートスライド機構6及びリクライニング機構7の動作範囲が制限される。
【0036】
この「自動モード」の各展開モードにおけるシートスライド機構6及びリクライニング機構7の動作範囲は、上記の(1)から(3)にて説明したマニュアル時の動作範囲にそれぞれ対応しており、「オート許容モード」では離間距離Dが50cmから100cmの範囲内、「オート規制モード」では離間距離Dが30cmから80cmの範囲内、そして「オート禁止モード」では離間距離Dが40cm以上となるように、それぞれシートスライド機構6及びリクライニング機構7の動作範囲が制限される。
【0037】
図4は、本実施形態におけるシートスライド機構6及びリクライニング機構7の動作範囲を示す図であり、マイクロコンピュータ100の不図示のROM等に予め格納されるマップを表わす。
【0038】
同図において、横軸は、シートスライド機構6により移動するシート2の位置を示しており、当該横軸の左端及び右端は、車両前後方向の当該機構の機械的な作動限界位置である先端位置及び後端位置である。また、縦軸は、リクライニング機構7により移動するシートバック1のリクライニング角度を示しており、当該縦軸の上に向かってシートバック1が起立した状態を表わす。
【0039】
図4において、破線で示す「許容モード」は、上述した「マニュアル許容モード」、或いは「自動モード」における展開モードが「オート許容モード」の場合において、シートバック1及びシート2が採り得る位置(状態)の範囲を示しており、この範囲内に、シートスライド機構6及びリクライニング機構7の動作が制限される。即ち、乗員がシートリクライニングスイッチ3及びシートスライドスイッチ4を操作して着座状態を調整するときに、図4に示す2本の破線の範囲内にシートバック1及びシート2を制限することにより、離間距離Dを50cmから100cmの範囲内にすることができるため、シート2に着座した乗員を、2つのインフレータ9A及び9Bを適宜作動させることによって効率的に保護することができる。
【0040】
同様に、太い実線で示す「規制モード」は、上述した「マニュアル規制モード」、或いは「自動モード」における展開モードが「オート規制モード」の場合において、シートバック1及びシート2が採り得る位置(状態)の範囲を示しており、この範囲内に、シートスライド機構6及びリクライニング機構7の動作が制限される。即ち、乗員がシートリクライニングスイッチ3及びシートスライドスイッチ4を操作して着座状態を調整するときに、図4に示す2本の太い実線の範囲内にシートバック1及びシート2の位置を制限することにより、離間距離Dを30cmから80cmの範囲内にすることができるため、シート2に着座した乗員を、インフレータ9Aまたは9Bの何れか1つを適宜作動させることによって効率的に保護することができる。
【0041】
更に、1点鎖線で示す「禁止モード」は、上述した「マニュアル禁止モード」、或いは「自動モード」における展開モードが「オート禁止モード」の場合において、シートバック1及びシート2が採り得る位置(状態)の範囲を示しており、この範囲内に、シートスライド機構6及びリクライニング機構7の動作が制限される。即ち、乗員がシートリクライニングスイッチ3及びシートスライドスイッチ4を操作して着座状態を調整するときに、図4に示す1本の1点鎖線より下の範囲にシートバック1及びシート2の位置を制限することにより、離間距離Dを40cm以上に維持することができるため、シート2に着座した乗員を、シートベルトのみによっても効率的に保護することができる。
【0042】
次に、マイクロコンピュータ100が予め記憶されている制御プログラムに従って実行するところの、動作制御処理について、図5から図8を参照して説明する。
【0043】
図5は、本実施形態における車両用乗員保護装置の動作制御処理の全体構成を示すフローチャートである。
【0044】
同図において、ステップS1:動作モード選択スイッチ12の設定状態を検出し、その検出した設定状態に応じて分岐する。即ち、設定状態が「自動モード」のときにはステップS2に進み、設定状態が「マニュアル許容モード」のときにはステップS4に進み、設定状態が「マニュアル規制モード」のときにはステップS5に進み、設定状態が「マニュアル禁止モード」のときにはステップS6に進む。
【0045】
ステップS2:Gセンサ8の出力信号に基づいて衝突が発生したかを判断し、この判断でYESのとき(衝突が発生したとき)にはステップS3に進み、NOのとき(衝突が発生していないとき)にはステップS1に戻る。
【0046】
ステップS3:設定状態が「自動モード」におけるエアバック10の展開モードを決定するところの、エアバック展開モード決定サブルーチン1を実行する(詳細は後述する)。
【0047】
ステップS4〜ステップS6:乗員により設定された動作モードに応じて、シートバック1(リクライニング機構7)及びシート2(シートスライド機構6)の動作を規制するシート変位規制サブルーチン1乃至シート変位規制サブルーチン3を実行する(詳細は後述する)。
【0048】
ステップS7:ステップS2と同様にGセンサ8の出力信号に基づいて衝突が発生したかを判断し、この判断でYESのとき(衝突が発生したとき)にはステップS8に進み、NOのとき(衝突が発生していないとき)にはステップS1に戻る。
【0049】
ステップS8:設定状態が「マニュアル許容モード」、「マニュアル規制モード」、或いは「マニュアル禁止モード」におけるエアバック10の展開モードを決定するところの、エアバック展開モード決定サブルーチン2を実行する(詳細は後述する)。
【0050】
ステップS9:ステップS3またはステップS8にて決定された展開モードに従ってインフレータ9A及び/またはインフレータ9Bを作動させることにより、エアバック10を展開(展開禁止状態を含む)させる。
【0051】
次に、上記の各サブルーチンの詳細な処理について説明する。
【0052】
図6は、本実施形態における車両用乗員保護装置の動作制御処理に含まれるエアバック展開モード決定サブルーチン1を示すフローチャートであり、図5のステップS3に相当する。
【0053】
同図において、ステップS51,ステップS52:重量センサ5の出力信号に基づいて、シート2に着座している乗員の重量を検出する(ステップS51)と共に、その検出した重量に応じて、検出した重量が略0のときにはステップS53に進み、検出した重量が所定重量より大きいときにはステップS54に進み、検出した重量が所定重量より小さいときにはステップS62に進む。
【0054】
ステップS53:ステップS51にて重量を検出しておらず、乗員はシート2に着座していないと判断できるため、不必要なエアバック10の展開により発生する修理費を抑制すべく、エアバック展開モードを、インフレータ9A及びインフレータ9Bの作動を禁止する禁止状態に決定する。
【0055】
ステップS54,ステップS55:シートベルト装着検出センサ11の出力信号に基づいて、シート2に着座している乗員がシートベルトを装着しているか否かを検出し、その検出した状態がシートベルト装着中であるときにはステップS56に進み、装着していないときには、2つのインフレータを作動させてエアバック10を展開させることによる乗員への悪影響を軽減すべくエアバック展開モードを規制状態に決定するステップS62に進む。
【0056】
ステップS56,ステップS57:シート位置検出センサ6Bの出力信号に基づいて、シートスライド機構6によるシート2の現在位置を検出する(ステップS56)と共に、リクライニング角度検出センサ6Aの出力信号に基づいて、シートリクライニング機構7によるシートバック1の現在の設定角度を検出する(ステップS57)。
【0057】
ステップS58:ステップS56及びステップS57にて検出したシート位置及びリクライニング角度に基づいて、正常な着座状態(図1に示す乗員の状態)にある乗員の頭部位置とダッシュボードとの離間距離の推定値として、ヘッドレスト14とダッシュボードとの離間距離Dを求める。本ステップにおける離間距離Dの求め方は、車両前後方向におけるシート位置、シートバック1(ヘッドレスト14を含む)のリクライニング角度、並びに離間距離Dとの関係が予め記憶されているテーブルを、ステップS56及びステップS57にて検出したシート位置及びリクライニング角度に従って参照すれば良い。
【0058】
ステップS59:ステップS51にて検出した乗員の重量に基づいて、ステップS58にて求めた離間距離Dを補正する。体重と体格(座高)との間には一般に相関関係が成り立つため、本ステップにおける離間距離Dの補正は、重量と離間距離Dとの関係が予め記憶されているテーブルを、ステップS59にて検出した離間距離Dに従って参照すれば良い。
【0059】
ステップS60:ステップS59にて補正した離間距離Dが例えば60cmより短いかを判断し、この判断でNO(離間距離D≧60cm)のときにはステップS61に進み、YES(離間距離D<60cm)のときには、ヘッドレスト14(乗員の頭部位置)がダッシュボードに近づき過ぎており2つのインフレータを作動させてエアバック10を展開させることは好ましくないため、エアバック展開モードを規制状態に決定するステップS62に進む。
【0060】
ステップS61:前段の処理により、乗員はシートベルトを装着しており、且つヘッドレスト14の位置とダッシュボードとの離間距離も十分に離れていると判断しており、必要に応じて2つのインフレータを作動させてエアバック10を展開させることが望ましいため、エアバック10を所謂多段式のエアバックとして動作させるべく、エアバック展開モードを、検出した衝撃の大きさに応じてインフレータ9A及び/またはインフレータ9Bを作動させる許容状態に決定する。
【0061】
ステップS62:前段の処理により、乗員の重量が所定値より少ない、乗員はシートベルトを装着していない、或いは、ヘッドレスト14の位置(乗員の頭部位置)とダッシュボードとの離間距離が十分でないと判断されており、1つのインフレータを作動させてエアバック10を展開させることが望ましいため、エアバック展開モードを、インフレータ9Aまたはインフレータ9Bを作動させる規制状態に決定する。
【0062】
図7は、本実施形態における車両用乗員保護装置の動作制御処理に含まれるエアバック展開モード決定サブルーチン2を示すフローチャートであり、図5のステップS8に相当する。
【0063】
同図において、ステップS71:図6のステップS51と同様に乗員の重量を検出する。
【0064】
ステップS72:ステップS71にて乗員の重量を検出したかを判断し、この判断で乗員の重量を検出しなかった(重量が略ゼロ)のときにはステップS53に進み、重量を検出したときにはステップS74に進む。
【0065】
ステップS73〜ステップS83:図6のステップS53からステップS62に示す処理と略同様な処理構成であり、重複する説明は省略するるが、ステップS75の判断で乗員がシートベルトを装着していると判断したときには、動作モード選択スイッチ12の設定状態に応じて、「マニュアル禁止モード」のときにはステップS73に進み、「マニュアル許容モード」のときにはステップS77に進み、「マニュアル規制モード」のときにはステップS83に進む判断ステップを含む点が異なる。
【0066】
また、ステップS81にて補正後の離間距離Dの大きさを判断する基準距離が、40cmと「自動モード」の場合と比較して短い点が異なり、その基準距離より補正後の離間距離Dが短いときには、動作モードを乗員が自らの意思で「マニュアル許容モード」に設定している場合であっても、2つのインフレータを作動することは好ましくないため、1つのインフレータに規制するステップS83に自動的に分岐することによりフェールセーフ性能を向上させている。
【0067】
図8は、本実施形態における車両用乗員保護装置の動作制御処理に含まれるシート変位規制サブルーチン1を示すフローチャートであり、図5のステップS4に相当する。
【0068】
同図において、ステップS91:車速センサ13(或いはパーキングブレーキの操作状態を検出しても良い)の出力信号に基づいて停車中か否かを判断し、この判断でYES(停車中)のときには、利便性を向上させるべく(例えばフルフラット状態に設定する等)、変位規制を中止すべく処理を終了し、NO(走行中)のときにはステップS92に進む。
【0069】
ステップS92〜ステップS94:図6のステップS56からステップS58の同様に離間距離Dを求める。
【0070】
ステップS95,ステップS96:図6のステップS51と同様に乗員の重量を検出する(ステップS95)と共に、図6のステップS59と同様に離間距離Dを補正する(ステップS96)。
【0071】
ステップS97,ステップS98:ステップS96にて補正した離間距離Dが例えば50cmより短いかを判断し(ステップS97)、この判断でNO(離間距離D≧50cm)のときにはシート位置が「マニュアル許容モード」における上述の先端位置でないためステップS101に進み、YES(離間距離D<50cm)のときにはシート位置が当該先端位置である旨を報知するワーニングを行う(ステップS98)。
【0072】
ステップS99,ステップS100:図2に示す動作モード選択スイッチ12に含まれるキャンセルスイッチが操作されたかを判断し(ステップS99)、この判断でNO(当該スイッチの操作無し)のときには処理を終了し、YES(当該スイッチの操作有り)のときには、乗員のシートスライドスイッチ4の操作に応じてシート2を当該先端位置を越えて前方に移動させると共に、その移動においても補正後の離間距離Dが50cmより長く維持されるように(即ち、図4に破線で示す「許容モード」の動作範囲内にシート位置とリクライニング角度とが含まれるように)、シートバック1を自動的に倒し込む動作を、例えば所定時間後に開始する。
【0073】
ステップS101:シートスライドスイッチ4及び/またはシートリクライニングスイッチ3の操作に応じて、補正後の離間距離Dが50cmから100cmの範囲内に維持されるところの、図4に破線で示す「許容モード」の動作範囲内にシート位置とリクライニング角度とが含まれる範囲内で、シートスライド機構6及び/またはシートリクライニング機構7を動作させる。本ステップでは、乗員のシートスライドスイッチ4及び/またはシートリクライニングスイッチ3の操作の結果、補正後の離間距離Dが100cmとなったときには、その旨を報知するワーニングを行うと良い。
【0074】
次に、「マニュアル規制モード」にて行うシート変位規制サブルーチン2(ステップS5)は、上述した図8のシート変位規制サブルーチン1と同様な処理構成であり、両者が異なるのは、シート変位規制サブルーチン2ではインフレータ9Aまたはインフレータ9Bの何れか1つを作動させてエアバック10を展開させるので、補正後の離間距離Dの比較基準が、上記の「規制モード」における最短距離である30cmと、最長距離である80cmとなる点が異なる。
【0075】
同様に、「マニュアル禁止モード」にて行うシート変位規制サブルーチン3(ステップS6)は、上述した図8のシート変位規制サブルーチン1と同様な処理構成であり、両者が異なるのは、シート変位規制サブルーチン3ではシートベルトのみによる乗員の保護を行うため、補正後の離間距離Dの比較基準が上記の「マニュアル禁止モード」における最短距離である40cm以上となる点が異なる。
【0076】
このように、本実施形態によれば、動作モード選択スイッチ12により、上述した「マニュアル許容モード」、「マニュアル規制モード」、並びに「マニュアル禁止モード」の各モードを乗員が自らの意思で選択可能であり、且つ選択された各動作モードにおける最適なエアバック10の展開動作及びシート状態に自動的に調整されるため、エアバック展開時の本来の乗員保護性能を適切に発揮できると共に、利便性を損なうことを防止することができる。
【0077】
尚、上述した本実施形態において、エアバック10は助手席用のエアバックを想定しているが、この構成に限られるものではなく、本実施形態に係る車両用乗員保護装置は、後部座席にも適用することができる。
【0078】
また、上述した本実施形態においては、乗員の頭部位置とダッシュボードとの離間距離を、ヘッドレスト14とダッシュボードとの離間距離Dにより推測したが、この装置構成に限られるものではなく、超音波センサ等により直接的に検出する装置構成としても良い、
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施形態における車両用乗員保護装置の機器構成を示す概略図である。
【図2】本実施形態における車両用乗員保護装置の動作モードを設定可能な動作モード選択スイッチのレイアウトを例示する図である。
【図3】本実施形態における車両用乗員保護装置の制御系統を示すブロック図である。
【図4】本実施形態におけるシートスライド機構6及びリクライニング機構7の動作範囲を示す図である。
【図5】本実施形態における車両用乗員保護装置の動作制御処理の全体構成を示すフローチャートである。
【図6】本実施形態における車両用乗員保護装置の動作制御処理に含まれるエアバック展開モード決定サブルーチン1を示すフローチャートである。
【図7】本実施形態における車両用乗員保護装置の動作制御処理に含まれるエアバック展開モード決定サブルーチン2を示すフローチャートである。
【図8】本実施形態における車両用乗員保護装置の動作制御処理に含まれるシート変位規制サブルーチン1を示すフローチャートである。
【符号の説明】
1:シートバック,
2:シート,
3:シートリクライニングスイッチ,
4:シートスライドスイッチ,
5:重量センサ,
6:シートスライド機構,
6A:シートスライドモータ,
6B:シート位置検出センサ,
7:シートリクライニング機構,
7A:シートクライニングモータ,
7B:クライニング角度検出センサ,
8:加速度センサ,
9:インフレータモジュール,
9A,9B:インフレータ,
10:エアバック,
11:シートベルト装着検出センサ,
12:動作モード選択スイッチ,
13:車速センサ,
100:マイクロコンピュータ,
Claims (5)
- 車両に加えられた衝撃を検出する衝撃センサによって検出した衝撃に応じて、エアバックを展開させる車両用乗員保護装置であって、
前記エアバックの動作モードを設定可能なマニュアルスイッチと、
前記エアバックによる保護対象の乗員が着座するシート及びそのシートバックの移動を指示するための移動指示スイッチと、
前記移動指示スイッチに対する乗員の操作に応じて、所定の移動可能範囲内で前記シート及び前記シートバックの移動を制御する制御手段と、を備え、
前記移動可能範囲は、
前記マニュアルスイッチの設定状態に応じて、前記シートバック上部のヘッドレストが位置可能な車両前方方向の最前位置が異なるように設定されていることを特徴とする車両用乗員保護装置。 - 前記エアバックは、展開強度を変更可能な多段式のエアバックであって、
前記移動可能範囲は、
前記マニュアルスイッチの設定状態が該エアバックの展開強度を規制可能な規制モードに設定されているときには、該エアバックの展開強度が前記衝撃センサによって検出された衝撃に応じて決定される許容モードに設定されているときと比較して、前記ヘッドレストの前記最前位置がより車両前方側となるように設定されていることを特徴とする請求項1記載の車両用乗員保護装置。 - 前記制御手段は、前記マニュアルスイッチによる前記動作モードの設定が行われていないときに、前記衝撃センサによって検出された衝撃に応じて、前記エアバックの展開の要否及び展開強度を、所定の条件に従って自動的に決定することを特徴とする請求項1記載の車両用乗員保護装置。
- 前記エアバックは、展開強度を変更可能な多段式のエアバックであって、
前記移動可能範囲は、
前記マニュアルスイッチの設定状態が該エアバックの展開強度を規制可能な規制モードに設定されているときには、該エアバックの展開強度が前記衝撃センサによって検出された衝撃に応じて決定される許容モードに設定されているとき、並びに、該エアバックの展開を禁止可能な禁止モードに設定されているとき、と比較して、前記ヘッドレストの前記最前位置がより車両前方側となるように設定されていることを特徴とする請求項1または請求項3記載の車両用乗員保護装置。 - 前記制御手段は、前記マニュアルスイッチの設定状態が前記許容モードに設定されているときであっても、前記シート及び前記シートバックが前記規制モードに対応した前記移動可能範囲内に位置しているときには、前記エアバックの展開強度を自動的に規制することを特徴とする請求項2記載の車両用乗員保護装置。
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