JP3690138B2 - トルク勾配推定装置及びアンチロックブレーキ制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、トルク勾配推定装置及びアンチロックブレーキ制御装置に係り、詳細には、車輪速の時系列データからスリップ速度に対するトルクの勾配を推定するトルク勾配推定装置及び制動トルクの勾配に基づいて車輪に作用するブレーキ力を制御するアンチロックブレーキ制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、所定のサンプリング周期毎に車輪速度の時系列データを検出し、検出した車輪速度の時系列データに基づいて、車輪速度の変化の履歴及び車輪加速度の変化の履歴を演算し、これらの演算値に基づいて制動トルク勾配(制動トルクのスリップ速度に対する勾配)を推定し、推定した制動トルク勾配に基づいて車輪に作用するブレーキ力を制御するアンチロックブレーキ制御装置が提案されている(特願平8−218828号公報)。
【0003】
ところで、このアンチロックブレーキ制御装置は、制動トルクをスリップ速度の一次関数で近似した車輪及び車体運動方程式に基づいて、制動トルク勾配を推定するものである。上記一次関数は、2つの未知係数の内の1つが制動トルク勾配となっている。
【0004】
しかしながら、上記一次関数は2つの未知係数を含んでいるので、制動トルク勾配の推定のための演算量が多く必要となる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記事実に鑑み成されたもので、演算量を少なくしてトルク勾配を推定することの可能なトルク勾配推定装置及びアンチロックブレーキ制御装置を提案することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的達成のため第1の発明は、所定のサンプル時間毎に車輪速度を検出する検出手段と、前記検出手段により検出された車輪速度を、車輪の加速度の定常成分が除去されるように、処理する処理手段と、車輪及び車体各々の運動方程式から得られかつ車輪の加速度を用いた運動方程式から車輪加速度の定常項を省略して得られるトルク勾配を未知数として含む関係式と前記処理手段により処理された車輪速度の時系列データとに基づいて、トルクの勾配を推定する推定手段と、を備えている。
【0007】
第2の発明は、所定のサンプル時間毎に車輪速度を検出する検出手段と、前記検出手段により検出された車輪速度を、車輪の加速度の定常成分が除去されるように、処理する処理手段と、車輪及び車体各々の運動方程式から得られかつ車輪の加速度を用いた運動方程式から車輪加速度の定常項を省略して得られるトルク勾配を未知数として含む関係式と前記処理手段により処理された車輪速度の時系列データとに基づいて、制動トルクの勾配を推定する推定手段と、前記推定手段により推定された制動トルク勾配が基準値を含む所定範囲の値となるように車輪に作用するブレーキ力を制御する制御手段と、を備えている。
【0008】
なお、上記第1の発明又は第2の発明において、前記処理手段は、1次以上のハイパスフィルタで構成することができる。更に、該処理手段は、例えば、車輪の加速度の定常的な値がオフセット値とみなすことの可能なハイパスフィルタで構成することができる。
【0009】
(第1の発明のトルク勾配の推定原理)
各車輪の車輪運動及び車体運動は次式の運動方程式によって記述される。
【0010】
【数1】
ただし、Fi ’は、第i輪に発生した制動力、Tbiは踏力に対応して第i輪に加えられたブレーキトルク、Mは車両質量、Rc は車輪の有効半径、Jは車輪慣性、vは車体速度である(図8参照)。なお、・は時間に関する微分を示す。(1) 式、(2) 式において、Fi ’はスリップ速度(v/Rc −ωi )の関数として示されている。
【0011】
ここで、車体速度を等価的な車体の角速度ωv で表すと共に、制動トルクRc Fi ’をスリップ速度の1次関数(傾きki 、y切片Ti )として記述する。
【0012】
v = Rc ωv (3)
Rc Fi ’(ωv −ωi )=ki ×(ωv −ωi )+Ti (4)
さらに、(3) 、(4) 式を(1) 、(2) 式へ代入し、車輪速度ωi 及び車体速度ωv をサンプル時間τ毎に離散化された時系列データωi [k] 、ωv [k] (kはサンプル時間τを単位とするサンプル時刻、k=1,2,.....)として表すと次式を得る。
【0013】
【数2】
ここで、(5) 、(6) 式を連立し、車体の等価角速度ωv を消去すると、
【0014】
【数3】
を得る。
【0015】
ところで、スリップ速度3rad/s という条件下でRc Mg/4(gは重力加速度)の最大制動トルクの発生を仮定すると、
【0016】
【数4】
を得る。ここで、具体的な定数として、τ=0.005 (sec) 、Rc =0.3 (m) 、M=1000(kg)を考慮すると、max(ki ) =245 となる。従って、
【0017】
【数5】
となり、(7) 式は(8) 式のように近似することができる。
【0018】
【数6】
このように整理することにより、(8) 式は未知係数ki 、fi に関し、線形の形で記述することが可能となる。即ち、(8) 式は、制動トルクをスリップ速度の一次関数で近似した車輪及び車体運動方程式となる。そして、(8) 式にオンラインのパラメータ同定手法を適用することにより、スリップ速度に対する制動トルク勾配ki を推定することもできる。
【0019】
ところで、上記(8) 式を、車輪の加速度に着目して整理すると、
【0020】
【数7】
となる。(9) 式からki とfi の同定は、車輪加速度の特性根−ki /jとオフセット−fi /τを推定すると解釈することもできる。
【0021】
ところで、車輪速信号を、車輪の加速度の定常成分が除去されるように処理すると、即ち、車輪速信号をハイパスフィルタに入れる(ハイパスフィルタ処理)と、オフセット項(−fi /τ)を0にすることができる。例えば、減速度一定で制動しているときには一次以上のハイパスフィルタ(車輪の加速度の定常的な値がオフセット値とみなすことの可能なハイパスフィルタ)を入れることによりオフセット項を省略することができる。従って、車輪速信号をハイパスフィルタに入れることによりfi =0と仮定することが可能となる。よって、車輪速信号をハイパスフィルタに入れて、トルク勾配を推定する場合には、(8) 式は、次のように変形することができる。即ち、車輪及び車体各々の運動方程式から得られかつ車輪の加速度を用いた運動方程式から車輪加速度の定常項を省略して得られるトルク勾配を未知数として含む関係式に変形することができる。
【0022】
【数8】
ただし、ωhi[k] はハイパスフィルタ処理後の車輪速度である。
【0023】
そして、以下のステップ1及びステップ2を繰り返すことにより、検出された車輪速度の時系列データωi [k] から制動トルク勾配の時系列データを推定することができる。
【0024】
【数9】
とおく。なお、(10)式のφi [k] は、1サンプル時間での車輪速度の変化に関する物理量であり、(12)式は、1サンプル時間の車輪速度の変化の1サンプル時間での変化に関する物理量である。
【0025】
【数10】
という漸化式からθの推定値
【0026】
【数11】
即ち、制動トルクの勾配を推定する。ただし、λは過去のデータを取り除く度合いを示す忘却係数(例えばλ=0.98)であり、”T ”は行列の転置を示す。
【0027】
なお、(13)式の左辺は、車輪速度の変化に関する物理量の履歴及び車輪速度の変化の変化に関する物理量の履歴を表す物理量である。
【0028】
以上のように、制動トルク勾配を推定ために従来必要であった未知係数fi を省略することができるので、制動トルク勾配の推定のための演算量を少なくすることができる。よって、制動トルク勾配の推定精度が向上することが期待できる。なお、制動トルクに代えて駆動トルクを適用することもできる。ここに示した推定法は最小自乗法を適用したものであるが、補助変数法など他のオンライン同定法を用いることも可能である。
【0029】
(第2の発明のABS制御の原理)
ブレーキ力は、路面と接するタイヤのトレッドの表面を介して路面に作用するが、実際には、このブレーキ力は路面と車輪との間の摩擦力を媒介として路面からの反力(制動トルク)として車体に作用する。車体がある速度で走行している時、ブレーキ力をかけていくと車輪と路面との間にスリップが生じるが、このときに路面からの反力として作用する制動トルクは、次式で表されるスリップ速度ωs (角速度換算)に対して図2のように変化する。
【0030】
ωs = ωv − ωi
ただし、ωv は車体速度(等価的に角速度で表現したもの)、ωi は第i輪(iは車輪番号、i=1,2,3,4 ・・・(4輪車であれば、i=1,2,3,4 (以下、4輪車を例にとる))の角速度に換算した車輪速度である。
【0031】
図2に示すように、制動トルクは、最初はスリップ速度の増大と共に増加し、スリップ速度ω0 時に最大値fi0に達し、ω0 より大きいスリップ速度ではスリップ速度の増大と共に減少する。なお、スリップ速度ω0 は車輪と路面との間の摩擦係数が最大値の時のスリップ速度に相当する。
【0032】
従って、図2から明らかなように、スリップ速度に対する制動トルクの勾配(以下「制動トルク勾配」という)は、ωs <ω0 で正(>0)、ωs =ω0 で0、ωs >ω0 で負(<0)となる。すなわち、制動トルク勾配が正の時は車輪が路面にグリップしている状態、制動トルク勾配が0の時はピークμの状態、制動トルク勾配が負の時は車輪がロックされている状態、というように制動トルク勾配に応じて車輪運動の動特性が変化する。
【0033】
そして、第2のの発明では、車体速度を推定せず、車輪速度の時系列データのみから現時点の制動トルク勾配を上記のように推定し、推定した制動トルク勾配が基準値を含む所定範囲の値となるように車輪に作用するブレーキ力を制御する。これによって、基準値を含む所定範囲の制動トルク勾配に対応した車輪運動の状態を保持できる。また、基準値をピークμに対応する0に設定すれば、車両の走行する路面状態によりピークμとなるスリップ速度が変化したとしても、ピークμで制動トルク勾配が0となることは変わらないので、制動トルク勾配を0にするように制御すれば完全にピークμ追従が可能となる。また、車体速度推定部が不要となるのでブレーキ力の増減を繰り返す必要がなく安定な走行が可能となる。
【0034】
制御トルク勾配をフィードバック制御する制御系は、PID制御等により各車輪ごとに設計してもよいが、現代制御理論の適用により全輪の統合系としてシステマティックに設計することも可能である。この場合、全輪の干渉等も設計に考慮されるためよりきめ細かい制御が実現できる。
【0035】
ところで、ABS制御系はタイヤの特性の強い非線形特性を有するシステムであり、単純に現代制御理論を適用することはできない。そこで、この非線形特性は見かけ上等価的なプラント変動としてみなすことができる点に着眼し、このプラント変動を許容するような制御系設計を現代制御理論の一つであるロバスト制御理論の適用により達成し、4輪の干渉等も設計に考慮したきめ細かな制御系設計を行った。以下に制御系設計の詳細を記す。
【0036】
各車輪の車輪運動および車体運動は次式の運動方程式によって記述される。
【0037】
【数12】
ただし、Fi は第i輪に発生した制動トルクでスリップ速度(ωv −ωi )の関数として示されている。また、Tbi’はブレーキペダルを車輪ロック直前まで踏み込んだ場合の踏力に対応したブレーキトルク、ubiは該ブレーキトルクが作用した状態で車輪がロック状態に陥らずにピークμ追従を行うように車輪に作用されるブレーキトルク(操作量)である。また、Mは車両質量、Rcは車輪の有効半径、ωv は車体速度(等価的に角速度で表現したもの)である。そして、(16)式は各車輪の制動トルク勾配ki は、スリップ速度の関数であることを示す出力方程式である。
【0038】
ところで、Fi 、Gi は図3(a)、図3(b)に各々示すようにωοでそれぞれピークおよび0となるスリップ速度の非線形関数であり、これらは実線によって示した直線20、23と所定範囲以内の変動という形式によって表すことができる。ここで、スリップ速度のωοからの擾乱をxi とすると
Fi =(fi +Wfi△fi)xi +fi0 (17)
Gi =(gi +Wgi△gi)xi (18)
と表すことができる。
【0039】
ここで、fi は図3(a)の直線20の傾き、gi は図3(b)の直線23の傾きを示す。また、Wfi、Wgiは変動を基準化するための重み係数であり、図3(a)の破線21、破線22及び図3(b)の破線24、25は非線形変動の上下限を各々表しており、△fi、△giを±1とすることに対応している。
【0040】
すなわち、(17)式は平衡点ω0 周りの攪乱xi に対する各車輪の制動トルクの非線形変動を、図3(a)の直線20を含む破線21から破線22の範囲以内の変動で表した線形モデルである。また、(18)式は平衡点ω0 周りの攪乱xi に対する各車輪の制動トルク勾配の非線形変動を、図3(b)の直線23を含む破線24から破線25の範囲以内の変動で表した線形モデルである。
【0041】
さらに、(17)、(18)式を(14)、(15)、(16)式に代入し、平衡点(ωο)周りの状態方程式として記述すると、次式を得る。
【0042】
【数13】
ただし、
【0043】
【数14】
また、
【0044】
【数15】
である。ここで、xはω0 周りの各車輪のスリップ速度攪乱、yはω0 周りの各車輪の制動トルク勾配、uはω0 周りの各車輪の操作量((14)式のubiに相当)を表している。
【0045】
ここで、(21)式の構造をもつ任意の△(−1≦△fi、△gi≦1)を許容する制御系設計を行うことにより、4輪の干渉を考慮に入れたABS制御系の設計ができる。この設計は、ロバスト制御の一手法であるμ設計法の適用により容易に行うことが可能である。
【0046】
すなわち、(21)式の構造を持つ任意のΔ(−1≦△fi、△gi≦1)を許容する制御系をいわゆるμ設計法を用いて設計することにより、以下のコントローラを導出する。
【0047】
【数16】
【0048】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態に係るABS制御装置を詳細に説明する。
【0049】
本実施の形態に係るABS制御装置の構成を図1に示す。
【0050】
図1に示すように、本実施の形態に係るABS制御装置は、所定のサンプル時間τ毎に車輪速度を検出する車輪速検出手段10と、該車輪速検出手段10により検出された車輪速度を、車輪の加速度との定常成分が除去されるように処理(ハイパスフィルタ処理)する処理手段(1次以上(本実施の形態では1次)のハイパスフィルタ)11と、処理手段11によりハイパスフィルタ処理された車輪速度の時系列データから制動トルク勾配を推定するトルク勾配推定手段12と、該トルク勾配推定手段12で推定された制動トルク勾配に基づいてABS制御のための各車輪毎の操作信号を演算するABS制御手段14と、該ABS制御手段14により演算された操作信号に基づいて各車輪毎にブレーキ圧を操作することによりABS制御を行うABS制御弁16と、から構成される。
【0051】
図1の車輪速検出手段10は、例えば、図4(a)の構成により実現できる。図4(a)に示すように、車輪速検出手段10は、所定数の歯が等間隔に切られかつ車輪と共に回転するように取り付けられたシグナルロータ30と、車体に固定されたピックアップコイル32と、該ピックアップコイル32の内部に磁束を貫通させるように配置された永久磁石34と、ピックアップコイル32に接続されると共にサンプル時間τ毎に該ピックアップコイル32に発生した交流電圧の周波数を検出して出力する周波数検出器36と、から構成される。
【0052】
車輪の回転と共にシグナルロータ30が回転すると、シグナルロータ30とピックアップコイル32の間のエアギャップが回転速度に応じた周期で変化する。このため、ピックアップコイル32を貫通する永久磁石34の磁束が変化しピックアップコイル32に交流電圧が発生する。ここで、ピックアップコイル32に発生した交流電圧の時間的変化を図4(b)に示す。
【0053】
図4(b)に示すように、ピックアップコイル32に発生した交流電圧は、シグナルロータ30の回転速度が低速時には周波数が低くなりシグナルロータ30の回転速度が高速時には周波数が高くなる。この交流電圧の周波数はシグナルロータ30の回転速度、すなわち車輪速度に比例するため、周波数検出器36の出力信号は、サンプル時間τ毎の車輪速度に比例する。
【0054】
なお、図4(a)の車輪速検出手段10は第1輪〜第4輪のすべてに取り付けられ、各車輪毎に周波数検出器36の出力信号から第i輪(iは車輪番号、i=1,2,3,4 )の車輪速度の時系列データωi [k] (kはサンプル時刻;k=1 、2 、..... ) が検出される。
【0055】
次に、ABS制御弁16の構成を図5を用いて説明する。
【0056】
図5に示すように、ABS制御弁16は、右前輪用の制御ソレノイドバルブ132(以下、「バルブSFR」)と、左前輪用の制御ソレノイドバルブ134(以下、「バルブSFL」)と、右後輪用の制御ソレノイドバルブ140(以下、「バルブSRR」)と、左後輪用の制御ソレノイドバルブ142(以下、「バルブSRL」)と、を含んで構成される。
【0057】
バルブSFR、バルブSFL、バルブSRR、バルブSRLは、各々、増圧側バルブ132a、134a、140a、142a及び減圧側バルブ132b、134b、140b、142bを備えると共に、それぞれフロントホイールシリンダ144、146、及びリヤホイールシリンダ148、150に接続されている。
【0058】
増圧側バルブ132a、134a、140a、142a及び減圧側バルブ132b、134b、140b、142bは、それぞれバルブの開閉を制御するSFRコントローラ131、SFLコントローラ133、SRRコントローラ139、SRLコントローラ141に接続されている。
【0059】
SFRコントローラ131、SFLコントローラ133、SRRコントローラ139、SRLコントローラ141は、ABS制御手段14から送られてきた各車輪毎の操作信号に基づいて、各制御ソレノイドバルブの増圧側バルブと減圧側バルブの開閉を制御する。
【0060】
ここで、ABS制御弁16を含むシステム油圧回路の構成を図6を用いて詳細に説明する。
【0061】
図6に示すように、システム油圧回路には、マスターシリンダー系及びパワーサプライ系のブレーキフルードを蓄えるリザーバー100が設けられている。このリザーバー100には、内部に蓄えられたブレーキフルードの液面低下を検出するレベルウォーニングスイッチ102と、パワーサプライ系の異常高圧時にブレーキフルードをリザーバー100へリリーフするためのリリーフバルブ104が設けられている。
【0062】
また、リザーバー100のリリーフバルブ104側から配設された配管には、リザーバー100からブレーキフルードを汲み上げ、高油圧のフルードを吐出するポンプ106が設けられ、さらにフルード吐出側には、該ポンプで発生させた油圧(パワーサプライ系)を蓄圧するアキュームレーター108と該アキュームレータ108の油圧を検出する圧力センサー110とが設けられている。この圧力センサー110は、アキュームレーター110の油圧に基づいてポンプ106の制御信号を出力し、低圧時にはウォーニング信号(ABS、TRC制御の禁止信号)を出力する。
【0063】
また、アキュームレータ108の高油圧側の配管には、アキュームレーター110の油圧低圧時にポンプ106の制御信号を出力すると共に油圧低圧時のウォーニング信号(ABS、TRC制御の禁止信号)を出力する圧力スイッチ112が設けられている。
【0064】
また、リザーバー100から延設された他の配管には、ブレーキペダル118にかかった踏力に応じた油圧を発生させるマスターシリンダー114が接続されている。このマスターシリンダー114とブレーキペダル118との間には、アキュームレーター110の高油圧を踏力に応じた油圧に調圧・導入しブレーキの助勢力を発生させるブレーキブースター116が配置されている。
【0065】
このブレーキブースター116には、アキュームレーターの高油圧側の配管とリザーバー100から直接延設された配管とが接続されており、ブレーキペダル118の踏み込み量が一定値以下の場合、リザーバー100からの通常の油圧が導入され、踏み込み量が一定値を越えるとアキュームレーター108からの高油圧が導入される。
【0066】
また、マスターシリンダー114からは該マスターシリンダーの油圧(マスタ圧)を前後輪に各々供給するためのフロント用マスタ圧配管164及びリヤ用マスタ圧配管166が設けられている。そして、フロント用マスタ圧配管164及びリヤ用マスタ圧配管166には、前後輪で適正な制動力の配分となるようにリヤ系統のブレーキ油圧を調圧するP&Bバルブ120が介在されている。なお、P&Bバルブ120は、フロント系統欠損時にはリヤ系統の調圧を中止する。
【0067】
また、P&Bバルブ120から延びたフロント用マスタ圧配管164には、パワーサプライ系の油圧が低下した場合にフロントホイールシリンダー油圧を増圧して高い制動力を確保するための増圧装置122が設けられている。この増圧装置122には、ブレーキブースター116のブースター室に接続されたブースター配管168が接続されており、このブースター配管168と増圧装置122との間には、圧力リミッター124及び差圧スイッチ126が介在されている。
【0068】
圧力リミッター124は、システム正常時にブレーキブースター116の助勢力限界以上の入力付加に対し、増圧装置122及び差圧スイッチ126を作動させないようにブースター室との経路を閉じる。また、差圧スイッチ126はマスターシリンダー114とブースター室との油圧差を検出する。
【0069】
このブースター配管168には、上述した右前輪用の制御ソレノイドバルブ132(「バルブSFR」)の増圧側バルブ132aと、左前輪用の制御ソレノイドバルブ134(「バルブSFL」)の増圧側バルブ134aが接続されている。さらにバルブSFRの減圧側バルブ132b及びバルブSFLの減圧側バルブ134bには、リザーバー100から直接延設された低圧配管162が接続されている。
【0070】
バルブSFR及びバルブSFLの圧力供給側の配管には、切り換えソレノイドバルブ136(以下、「バルブSA1」)及び切り換えソレノイドバルブ138(以下、「バルブSA2」)が各々接続されており、このバルブSA1及びバルブSA2には、さらに増圧装置122の増圧側配管が接続されている。そして、バルブSA1の圧力供給側の配管は、左前輪のブレーキディスク152にブレーキ圧を加えるフロントホイールシリンダー144に接続されており、バルブSA2は、右前輪のブレーキディスク154にブレーキ圧を加えるフロントホイールシリンダー146に接続されている。
【0071】
バルブSA1及びバルブSA2は、通常のブレーキモード時には、増圧装置122からの圧力が、各々フロントホイールシリンダー144、146にかかるように弁を切り換え、ABS制御モード時には、バルブSFR及びバルブSFLからの圧力が各々フロントホイールシリンダー144、146にかかるように弁を切り換える。すなわち、前輪では、通常ブレーキモードとABS制御モードとの切り換えは左右輪毎に独立して行うことが可能となっている。
【0072】
また、ブースター配管168には、切り換えソレノイドバルブ130(以下、「SA3」)を介して、上述した右後輪用の制御ソレノイドバルブ140(「バルブSRR」)の増圧側バルブ140aと、左後輪用の制御ソレノイドバルブ142(「バルブSRL」)の増圧側バルブ140bが接続されている。さらにバルブSRRの減圧側バルブ140b及びバルブSRLの減圧側バルブ142bには、リザーバー100から直接延設された低圧配管162が接続されている。
【0073】
バルブSRRの圧力供給側の配管は、右後輪のブレーキディスク156にブレーキ圧を加えるリヤホイールシリンダー148に接続されており、バルブSRLは、左後輪のブレーキディスク158にブレーキ圧を加えるリヤホイールシリンダー150に接続されている。
【0074】
バルブSA3は、通常のブレーキモード時には、リヤ用マスタ圧配管166からのマスタ圧が、バルブSRL及びバルブSRRにかかるように弁を切り換え、ABS制御モード時には、ブースター配管168の高油圧がバルブSRL及びバルブSRRにかかるように弁を切り換える。すなわち、後輪では、通常ブレーキモードとABS制御モードとの切り換えは左右まとめて行われる。
【0075】
次に、本実施の形態の作用を説明する。なお、ABSモード時には、図6のバルブSA1及びバルブSA2が増圧装置122側の弁を閉じバルブSFR及びバルブSFL側の弁を開ける。また、バルブSA3がリヤ用マスタ圧配管166側の弁を閉じブースター配管168側の弁を開ける。
【0076】
まず、車輪速検出手段10が、各輪各々についてサンプル時間τ毎に車輪速を検出し、各車輪毎の車輪速度の時系列データωi [k] を出力する。処理手段11は、各車輪毎の車輪速度の時系列データωi [k] をハイパスフィルタ処理する。
【0077】
次に、トルク勾配推定手段12が、上記ステップ1において、ハイパスフィルタ処理された車輪速度の時系列データωhi [k]に基づき(10)式、(12)式を計算し、次に上記ステップ2において(13)式の漸化式から制動トルク勾配を推定する。このステップ1及びステップ2を順次繰り返すことにより、推定された制動トルク勾配の時系列データを得る。
【0078】
そして、ABS制御手段14が図7のフローチャートの流れで処理を行う。
【0079】
図7に示すように、ABS制御手段14は、トルク勾配推定手段12が推定した各サンプル時刻の制動トルク勾配を用いて各サンプル時刻における各車輪の操作量u(ui :i=1、2、3、4)を演算する(ステップ200)。
【0080】
すなわち、(14)式〜(18)式から(19)式、(20)式の状態方程式を導出し、(19)式、(20)式で現れる(21)式の構造を持つ任意のΔ(−1≦△fi、△gi≦1)を許容する制御系をいわゆるμ設計法を用いて設計することにより、(23)式、(24)式のコントローラを導出する。そして、(24)式のxc にコントローラの状態値を、同式のyにトルク勾配推定手段12が推定した制動トルク勾配の値を代入することによりABS制御弁16の操作量uを得る。
【0081】
次に、車輪番号iを1に設定し(ステップ202)、第i輪の操作量ui が正の基準値+eより大きいか否かを判定する(ステップ204)。操作量ui が正の基準値+eより大きい場合(ステップ204肯定判定)、第i輪のABS制御弁の操作信号を、増圧信号に設定する(ステップ206)。
【0082】
操作量ui が正の基準値+eより大きくない場合(ステップ204否定判定)、操作量ui が負の基準値−eより小さいか否かを判定する(ステップ208)。操作量ui が負の基準値−eより小さい場合(ステップ208肯定判定)、第i輪のABS制御弁の操作信号を、減圧信号に設定する(ステップ210)。
【0083】
操作量ui が負の基準値−eより小さくない場合(ステップ208否定判定)、すなわち、操作量ui が負の基準値−e以上であってかつ正の基準値+e以下の場合には、第i輪のABS制御弁の操作信号を、保持信号に設定する(ステップ212)。
【0084】
このように第1輪の操作量u1 についての操作信号を設定すると、車輪番号iを1だけインクリメントし(ステップ214)、次にiが4を越えているか否かを判定する(ステップ216)。iが4を越えていない場合(ステップ216否定判定)、ステップ204に戻り、同様にしてインクリメントした車輪番号iの操作量ui について操作信号の設定を行う。
【0085】
車輪番号iが4を越えた場合(ステップ216肯定判定)、すなわち、第1輪〜第4輪すべてのABS制御弁の操作信号が設定されると、設定された操作信号をABS制御弁16へ送出する(ステップ218)。なお、以上のような操作信号の設定及び操作信号の送出は、各サンプル時刻毎に行われる。
【0086】
このように各車輪毎の操作信号が送出されると、ABS制御弁16では、図5のSFRコントローラ131、SFLコントローラ133、SRRコントローラ139、SRLコントローラ141が、各操作信号に応じてバルブSFR、バルブSFL、バルブSRR、バルブSRLの開閉の制御を行う。
【0087】
すなわち、増圧信号のときは増圧側バルブを開き、減圧側バルブを閉じる。これによって、図6のブースター配管168の高油圧が対応するホイールシリンダに加えられて制動力が増加する。逆に、減圧信号のときは増圧側バルブを閉じ、減圧側バルブを開く。これによって、図6の低圧配管162の低油圧が対応するホイールシリンダに加えられて制動力が減少する。また、保持信号のときは増圧側バルブ及び減圧側バルブを同時に閉じる。これによって、対応するホイールシリンダに加えられた油圧が保持されて制動力が保持される。
【0088】
以上説明したように本実施の形態では、制動トルク勾配を推定ために従来必要であった未知係数fi を省略することができるので、制動トルク勾配の推定のための演算量を少なくすることができる。よって、制動トルク勾配の推定精度が向上することが期待できる。
【0089】
即ち、図9(B)に示すように、タイヤ発生力特性に余裕がある制動の時、即ち、ホイールシリンダ油圧が0.5Pb以下の非常に弱い制動の時、図9(A)に示すように、車輪速度及び車体速度が徐々に減少する。そして、本実施の形態における新推定法及び従来推定法ともにμ勾配推定値50Nms/rad付近となっており、新推定法及び従来推定法ともにタイヤ発生力に余裕が残されていることを示している。
【0090】
また、図10(B)に示すように、タイヤ発生力限界付近の制動の時、即ち、車輪がロックするぎりぎりの時、図10(A)に示すように、車輪速度及び車体速度が徐々に減少する。そして、本実施の形態における新推定法及び従来推定法ともにμ勾配推定値20Nms/rad付近となっており、新推定法及び従来推定法ともにタイヤ発生力に余裕がなくタイヤ発生力限界に近いことを示している。
【0091】
また、上記のように推定した制動トルク勾配に基づいて、車輪に作用するブレーキ力を制御するので、精度のよいアンチロックブレーキ制御を期待できる。
【0092】
なお、本実施の形態では、車輪速の時系列データのみから制動トルク勾配を推定し、この制動トルク勾配が0となるようにABS制御を行うので、車両の走行する路面状態によりピークμとなるスリップ速度が変化したとしても、安定にABS制御を行うことができる。
【0093】
また、本実施の形態では、車体速度を推定する必要が無いので、従来のように、車体速度の推定のために車輪速度から求めた速度vw と実車体速度vv*とが一致もしくは近い値になるまでブレーキ力の増圧減圧を比較的低周波で繰り返したり、基準速度と比較する車体速度が実際の車体速度と大きく異なる場合等で、車輪が長時間ロック状態に陥るとか復帰のためブレーキ力を極端に減少させてしまうなどの問題を回避でき、快適なABS制御を実現できる。
【0094】
さらに、本実施の形態では、タイヤの特性の強い非線形特性を有するシステムに対し単純に現代制御理論を適用するのでなく、この非線形特性を見かけ上等価的なプラント変動としてみなすことができる点に着眼し、このプラント変動を許容するようなABS制御系設計をロバスト制御理論の適用により達成したので、4輪の干渉等も考慮されたきめ細かなABS制御を実現できる。
【0095】
以上が、本発明の実施の形態であるが、上記例にのみ限定されるものではない。例えば、上記実施の形態では、制動トルク勾配を0又は0に近い値とするようにピークμ追随するように設計したが、制動トルク勾配を0以外の基準値に制御するように設計することも可能である。
【0096】
【発明の効果】
以上説明したように本発明は、トルク勾配を推定ために従来必要であった未知係数(オフセット項)を省略することができるので、トルク勾配の推定のための演算量を少なくすることができ、トルク勾配の推定精度が向上することが期待できる、という効果を有する。
【0097】
また、本発明は、上記のように推定した制動トルク勾配に基づいて、車輪に作用するブレーキ力を制御するので、精度のよいアンチロックブレーキ制御を期待できる、という効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係るアンチロックブレーキ制御装置の構成を示す図である。
【図2】スリップ速度と、制動トルク及び制動トルク勾配との関係を示す図である。
【図3】スリップ速度の関数としての制動トルクFi 及び制動トルク勾配Gi の変化を示す図であって、(a)は制動トルクFi の変動の上限下限を、(b)は制動トルク勾配Gi の変動の上限下限を示す図である。
【図4】本実施の形態に係る車輪速検出手段の構成を説明するための図であって、(a)は車輪速検出手段の構成図、(b)はピックアップコイルに発生する交流電圧の時間的変化を示す図である。
【図5】本実施の形態に係るABS制御弁の構成を示す図である。
【図6】本実施の形態に係るABS制御弁を含むシステム油圧回路の構成を示す図である。
【図7】本実施の形態に係るABS制御の流れを示すフローチャートである。
【図8】本実施の形態に係るABS制御が適用される車両の力学モデルを示す図である。
【図9】本実施の形態及び従来の推定方法における余裕のある制動時の実験結果を示したグラフである。
【図10】本実施の形態及び従来の推定方法におけるタイヤ発生力限界付近の制動時の実験結果を示したグラフである。
【符号の説明】
10 車輪速検出手段
11 処理手段
12 トルク勾配推定手段
14 ABS制御手段
16 ABS制御弁
Claims (4)
- 所定のサンプル時間τ毎に車輪速度を検出する検出手段と、
前記検出手段により検出された車輪速度を、車輪の加速度の定常成分が除去されるように、処理する処理手段と、
以下の関係式と前記処理手段により処理された車輪速度の時系列データω hi とに基づいて、トルクのスリップ速度に対する勾配であるトルク勾配k i を推定する推定手段と、
を備えたトルク勾配推定装置。
k i (τ / J) [ ω hi [k-1] −ω hi [k-2]] =−ω hi [k] +2ω hi [k-1] −ω hi [k-2]
ただし、Jは車輪慣性、 i は車輪を識別する識別情報、kはサンプル時間τを単位とするサンプル時刻をそれぞれ表す。 - 前記処理手段は、1次以上のハイパスフィルタで構成した請求項1記載のトルク勾配推定装置。
- 前記処理手段は、車輪の加速度の定常的な値がオフセット値とみなすことの可能なハイパスフィルタで構成した請求項2記載のトルク勾配推定装置。
- 所定のサンプル時間τ毎に車輪速度を検出する検出手段と、
前記検出手段により検出された車輪速度を、車輪の加速度の定常成分が除去されるように、処理する処理手段と、
以下の関係式と前記処理手段により処理された車輪速度の時系列データω hi とに基づいて、制動トルクのスリップ速度に対する勾配である制動トルク勾配k i を推定する推定手段と、
前記推定手段により推定された制動トルク勾配が基準値を含む所定範囲の値となるように車輪に作用するブレーキ力を制御する制御手段と、
を備えたアンチロックブレーキ制御装置。
k i (τ / J) [ ω hi [k-1] −ω hi [k-2]] =−ω hi [k] +2ω hi [k-1] −ω hi [k-2]
ただし、Jは車輪慣性、iは車輪を識別する識別情報、kはサンプル時間τを単位とするサンプル時刻をそれぞれ表す。
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