JP3680304B2 - 作用点の異なる呼吸阻害剤からなる農園芸用殺菌剤 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、ミトコンドリア電子伝達系の複合体Iおよび複合体III における酸化還元反応を阻害する化合物を含有することを特徴とする農園芸用殺菌剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
ミトコンドリア電子伝達系は複雑な酵素系からなり、複合体I、複合体II、複合体III および複合体IVと呼ばれる種々の酵素系が存在が知られている。このミトコンドリア電子伝達系における酸化還元反応を特異的に阻害する化合物として多くの農園芸用有害生物防除剤があり、例えば、複合体I(NADH:ユビキノン酸化還元酵素)の阻害剤としては、ロテノンやフェナザキン等、複合体II(コハク酸:ユビキノン酸化還元酵素)の阻害剤としては、カルボキシンやメプロニル等、複合体III (チトクロムbc1 複合体、ユビキノン:チトクロムc酸化還元酵素)の阻害剤としては、アンチマイシンAやストロビルリン等、複合体IV(チトクロムc:酸素酸化還元酵素)としては、青酸やアジ化ナトリウム等が知られている。
【0003】
これらの化合物は単独でも使用されるが、防除効果が不十分であったり、殺虫・殺ダニや殺菌スペクトラムが狭い等の欠点があった。そこで、より効果を高めるため、あるいは薬剤散布の労力を削減するために混合剤として使われることが多いが、これらの混合により奏される効果は、互いの狭いスペクトラムを補完する相加的な効果にすぎなかった。
【0004】
一方、平成6年度日本農薬学会講演要旨集100頁には、複合体III の阻害剤(SSF−126)単独では電子伝達系にシアン耐性のバイパスができるが、このバイパスは植物体内中のフラボノイド成分によって阻害を受け、SSF−126とフラボノイド成分が協力作用的に働くことによって効力を発揮している可能性が示唆されている。
【0005】
また、WO93−22921号公報には、複合体III の阻害剤(ICIA5504等)とアゾール系化合物を混合すると相乗作用が得られることが記載され、特開平5−221811号公報には、複合体III の阻害剤(BAS490F)とある種のエルゴステロール生合成阻害剤を混合すると相乗作用が得られることが記載されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
複合体Iの阻害剤の多くは殺虫剤または殺ダニ剤であり、殺菌剤としての効力は一般に低く、スペクトラムはうどんこ病など一部の病害に限られている。
複合体III の阻害剤の防除効果は、植物体中のフラボノイド成分と協力作用的に働くことによって、防除効果を発揮するものと考えられているが、このフラボノイド成分は植物によって種類や量が異なり、さらに植物の生理状態によっても変動するため、これら公知化合物の殺菌活性は必ずしも満足すべきものではなかった。
【0007】
本発明は、複数の異なる作用性を有する剤の組合せにより生じた相乗的作用により、優れた殺菌活性を有する混合型殺菌剤を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
このような状況下において、本発明者は鋭意研究を行った結果、複合体IおよびIII の各阻害剤を混合すると、著しい抗菌試験レベルの本質的な相乗効果が得られ、各病害に安定した高い活性を示したことを見出し、本発明を完成するに至った。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】
本発明において、文献等で複合体IあるいはIII の阻害が明らかでない呼吸阻害剤については、呼吸阻害部位の確認実験を行なうことにより、ミトコンドリア電子伝達系のどの部位の阻害剤であるのかを確認することができる。
すなわち、ピルビン酸を基質とした場合にミトコンドリアの呼吸を阻害し、かつコハク酸を基質にした場合には呼吸を阻害しない化合物を電子伝達系複合体Iの阻害剤とし、基質をピルビン酸にした場合でも、コハク酸にした場合でも呼吸を阻害し、アスコルビン酸を基質にした場合には呼吸を阻害しない化合物を電子伝達系複合体III の阻害剤と推定される。
【0010】
本発明において、広範囲の有害生物に優れた防除効果を示す混合剤の有効成分として、以下に示す複合体Iおよび複合体III の各阻害剤を例示することができる。
【0011】
(1)複合体Iの阻害剤:
ピエリシジンA、ミキサラミド、ブラタシン、アシミシン、アンノニンVI、ブラタシノン、オーラシンA、オーラシンB、チアンガゾール、フェナラミドAZ 、プロパルギット、ロテノン、フェノキサン、カプサイシン、フェナザキン、ピリダベン、フェンピロキシメート、フェナザフロール、特開昭63−290867号明細書例示化合物(公知化合物1)、特開昭63−225364号明細書例示化合物(公知化合物2)、特開平1−226877号明細書例示化合物(公知化合物3,4)、特開平1−246266号明細書例示化合物(公知化合物5)、特開平3−178903号明細書例示化合物(公知化合物6)、特開平1−246263号明細書例示化合物(公知化合物7)、フランス国特許1528020号明細書例示化合物(公知化合物8)等
【0012】
(2)複合体III の阻害剤:
アンチマイシンA、ミキソチアゾール、ストロビルリンA、オーデマンシンA、特開昭63−51376号明細書例示化合物(公知化合物9)、特開昭63−83044号明細書例示化合物(公知化合物10)、特開昭63−159379号明細書例示化合物(公知化合物11)、特開平1−131136号明細書例示化合物(公知化合物12)、特開平2−3651号明細書例示化合物(公知化合物13)、特開平2−15049号明細書例示化合物(公知化合物14)、特開平03−246268号明細書例示化合物(公知化合物15,16)、特開平5−170726号明細書例示化合物(公知化合物17)、特開平5−194398号明細書例示化合物(公知化合物18)、WO94−22844号明細書例示化合物(公知化合物19)、特願平6−172151号明細書例示化合物(公知化合物20)、ICIA5504、BAS490F、SSF−126等
上記公知化合物1〜20の構造式を下記に示す。
【0013】
【化1】
【0014】
【化2】
【0015】
【化3】
【0016】
【化4】
【0017】
なお、本発明は、複合体Iを阻害する殺菌剤と複合体III を阻害する殺菌剤との組合せにより優れた相乗的な防除効果を奏することに特徴を有するものであり、複合体Iおよび複合体III を阻害する物質は上記例示化合物に限定されるものではない。
【0018】
また、本発明において、複合体Iの阻害物質と複合体III の阻害物質の組合せとしては、上記例示化合物の任意の組合せが使用できるが、特に好ましい組み合わせとしては、以下のものが例示される。
(1)ピエリシジンA+ICIA5504、ピエリシジンA+BAS490F、ピエリシジンA+SSF126、ピエリシジンA+公知化合物20
(2)プロパルギット+ICIA5504、プロパルギット+BAS490F、プロパルギット+SSF126、プロパルギット+公知化合物20
(3)ロテノン+ICIA5504、ロテノン+BAS490F、ロテノン+SSF126、ロテノン+公知化合物20
(4)フェノキサン+ICIA5504、フェノキサン+BAS490F、フェノキサン+SSF126、フェノキサン+公知化合物20
(5)カプサイシン+ICIA5504、カプサイシン+BAS490F、カプサイシン+SSF126、カプサイシン+公知化合物20
(6)フェナザキン+ICIA5504、フェナザキン+BAS490F、フェナザキン+SSF126、フェナザキン+公知化合物20
(7)ピリダベン+ICIA5504、ピリダベン+BAS490F、ピリダベン+SSF126、ピリダベン+公知化合物20
(8)フェンピロキシメート+ICIA5504、フェンピロキシメート+BAS490F、フェンピロキシメート+SSF126、フェンピロキシメート+公知化合物20
(9)フェナザフロル+ICIA5504、フェナザフロル+BAS490F、フェナザフロル+SSF126、フェナザフロル+公知化合物20
(10)公知化合物1+ICIA5504、公知化合物1+BAS490F、公知化合物1+SSF126、公知化合物1+公知化合物20
(11)公知化合物2+ICIA5504、公知化合物2+BAS490F、公知化合物2+SSF126+公知化合物20
(12)公知化合物3+ICIA5504、公知化合物3+BAS490F、公知化合物3+SSF126、公知化合物3+公知化合物20
(13)公知化合物4+ICIA5504、公知化合物4+BAS490F、公知化合物4+SSF126、公知化合物4+公知化合物20
(14)公知化合物5+ICIA5504、公知化合物5+BAS490F、公知化合物5+SSF126、公知化合物5+公知化合物20
(15)公知化合物6+ICIA5504、公知化合物6+BAS490F、公知化合物6+SSF126、公知化合物6+公知化合物20
(16)公知化合物7+ICIA5504、公知化合物7+BAS490F、公知化合物7+SSF126、公知化合物7+公知化合物20
(17)公知化合物8+ICIA5504、公知化合物8+BAS490F、公知化合物8+SSF126、公知化合物8+公知化合物20
【0019】
複合体IとIII の各阻害剤の混合(重量)割合は、その相乗効果が優れて発揮されるように、一般的には1:99から99:1、好ましくは1:9から9:1である。
また、相乗作用は複合体IとIII の各阻害物質の混合による殺菌効果が、各阻害物質の単独による殺菌効果よりも著しく大きいことによって示される。
【0020】
本発明混合物は、広範囲の真菌類に対して、優れた殺菌効果を示すことから、花卉、芝、牧草を含む各種農園芸作物の病害防除に使用することが出来る。
例えば、
などの防除に使用することが出来る。
【0021】
また、本発明の混合剤に、さらに他の農園芸用有害生物防除剤、例えば殺虫剤、殺ダニ剤、殺線虫剤、除草剤、他の殺菌剤、植物成長制御剤を添加使用する事もできるのはいうまでもない。
【0022】
【実施例】
本発明混合物はそれ自体で用いてもよいが、通常は担体、界面活性剤、分散剤または補助剤等を配合して常法により、例えば水和剤、乳剤、粉剤、粒剤等に製剤する。
【0023】
次に、本発明の組成物の実施例を若干示すが、添加物及び添加割合は、これら実施例に限定されるべきものではなく、広範囲に変化させることが可能である。
なお、製剤実施例中の部は重量部を示す。
【0024】
実施例1 水和剤
本発明混合物 40部
珪藻土 53部
高級アルコール硫酸エステル 4部
アルキルナフタレンスルホン酸塩 3部
以上を均一に混合して微細に粉砕すれば、有効成分40%の水和剤を得る
。
【0025】
実施例2 乳剤
本発明混合物 30部
キシレン 33部
ジメチルホルムアミド 30部
ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル 7部
以上を混合溶解すれば、有効成分30%の乳剤を得る。
【0026】
実施例3 粉剤
本発明混合物 10部
タルク 89部
ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル 1部
以上を均一に混合して微細に粉砕すれば、有効成分10%の粉剤を得る。
【0027】
実施例4 粒剤
本発明混合物 5部
クレー 73部
ベントナイト 20部
ジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩 1部
リン酸ナトリウム 1部
以上をよく粉砕混合し、水を加えてよく練り合せた後、造粒乾燥して有効成分5%の粒剤を得る。
【0028】
実施例5 懸濁剤
本発明混合物 10部
リグニンスルホン酸ナトリウム 4部
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム 1部
キサンタンガム 0.2部
水 84.8部
以上を混合し、粒度が1ミクロン以下になるまで湿式粉砕すれば、有効成分10%の懸濁剤を得る。
【0029】
【発明の効果】
次に、本発明混合物が各種農園芸作物防除剤の有効成分として有用であることを試験例で示す。
【0030】
試験例1:抗菌試験
複合体IまたはIII の阻害剤をDMSOに単独または混合して溶解し、所定の濃度になるように殺菌蒸留水に希釈した。ジャガイモ煎汁培地に、きゅうり灰色かび病菌(Botrytis cinerea )の胞子を懸濁し、各阻害剤の溶液と胞子懸濁液を50μlづつ96穴マイクロプレートに等量混合した。これを20℃の恒温室で4日間培養し、菌体の増殖量を吸光度計で測定した。
【0031】
対照の水処理区と同じ菌体増殖を示した場合を菌体増殖阻害率0%、菌体の増殖が認められない場合を菌体増殖阻害率100%として、表1に示した。
【0032】
【表1】
【表2】
Claims (1)
- ミトコンドリア電子伝達系の複合体Iの酵素反応を阻害する物質(下記一般式(I)
R 5 、R 6 、R 7 が相互に無関係にそれぞれ水素、ヒドロキシル、シアノ、ニトロ、ハロゲン、C1−C7アルキル、C1−C7ハロアルキル、C1−7アルコキシ、C1−7ハロアルコキシ、C1−7アルキルチオ、C1−7ハロアルキルチオ、C1−7ヒドロキシアルキル、C2−4アシル、置換基として1から3個の以下の基、すなわちシアノ、ニトロ、ハロゲン、C1−C4アルキル、C1−C4ハロアルキル、C1−4アルコキシ、C1−4ハロアルコキシ、C1−4アルキルチオ、C1−4ハロアルキルチオを持っていてもよいアリール、アリールオキシを意味する)で示される化合物、そのN−オキシド、及びその塩を除く)、およびミトコンドリア電子伝達系の複合体IIIの酵素反応を阻害する物質を含有することを特徴とする農園芸用殺菌剤。
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- 1995-01-20 JP JP02619595A patent/JP3680304B2/ja not_active Expired - Lifetime
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