JP3669040B2 - 波形処理装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、波形データの分析及び合成を行なう波形処理の技術分野に属し、特に、自然音に基づく波形データを処理するのに適した波形処理装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
音源装置における楽音波形データの形成方式のひとつに、自然音(例えば楽器の演奏音等)を電気信号に変換した後にパルス符号変調して得た波形データを予めメモリに記憶しておき、波形形成時にはこのメモリから演奏情報に従って波形データを読み出すようにしたもの(PCM方式)がある。
【0003】
このPCM方式には、自然音の再現性に優れているという長所があるが、反面、ユーザーが波形データを任意に加工することは困難であり、したがって変化に富んだ楽音を創りだすことが困難であるという短所があった。
そこで、PCM方式においても波形データを容易に加工することができるようにした音源装置が、特開平5−108077号公報において本出願人により開示されている。
【0004】
その音源装置による波形データの加工の仕方の概要は、次のとおりである。すなわち、分析手段により波形データを所定区間のデータ毎に分析して、各区間毎のスペクトル成分の強度に関する強度情報と周波数情報とを求める。そして、各区間についての強度情報及び周波数情報をパラメータとして記憶手段に記憶させ、ユーザーがそれらのパラメータを調整できるようにする。こうして調整された各区間についてのパラメータを記憶手段から読み出して、それらのパラメータから合成手段により再び波形データを合成する。
こうしたパラメータの調整は容易なので、この音源装置によれば、波形データを任意に加工することができる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、こうしたパラメータを自由に調整すると、もともとの自然音の特徴を損ねた波形データが形成されてしまうおそれがある。また、各区間についてのパラメータを人為的に調整するだけでは、波形データの加工のバリエーションには限りがある。
【0006】
この発明は上述の点に鑑みてなされたものであり、波形データの分析及び合成を行なう音源装置その他の波形処理装置において、特に自然音の波形データを処理する場合に、もともとの自然音の特徴を活かした波形データを形成できるとともに、波形データの加工のバリエーションを拡大できるようにしたものを提供しようとするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
この発明に係る波形処理装置は、波形データを所定の時間長の区間毎に分析し、各区間毎に複数の周波数帯域毎の波形成分についての強度情報と周波数情報とをそれぞれ求める第1の分析手段と、第1の分析手段により複数の前記区間に亘って求められた強度情報と周波数情報のうち少なくとも周波数情報を分析し、該情報に含まれる時間的変動成分のうちの所定の変動成分を分離する第2の分析手段であって、前記周波数情報を分析して変動成分を分離するにあたっては、前記複数の周波数帯域のうち所定の1つの周波数帯域の周波数情報について前記変動成分を抽出して分離し、この分離前と分離後の周波数情報についての周波数比を求め、求めた周波数比を用いて前記複数の周波数帯域のうち残りの周波数帯域の周波数情報についてそれぞれの変動成分を算出して分離するものと、前記変動成分を分離する前の強度情報と前記変動成分を分離した強度情報との少なくともいずれか一方、及び前記変動成分を分離する前の周波数情報と前記変動成分を分離した周波数情報との少なくともいずれか一方に基づいて波形データを合成する合成手段とを具えたことを特徴としている。
【0008】
すなわち、波形処理装置に波形データが入力すると、最初に、所定の時間長の区間毎に複数の周波数帯域毎の波形成分についての強度情報及び周波数情報が第1の分析手段により求められる。次に、第2の分析手段により、複数の区間に亘って求められた強度情報や周波数情報のうち少なくとも周波数情報が分析され、そこから所定の時間的変動成分が分離される。ここで、周波数情報を分析して変動成分を分離するにあたっては、前記複数の周波数帯域のうち所定の1つの周波数帯域の周波数情報について前記変動成分を抽出して分離し、この分離前と分離後の周波数情報についての周波数比を求め、求めた周波数比を用いて前記複数の周波数帯域のうち残りの周波数帯域の周波数情報についてそれぞれの変動成分を算出して分離する。これにより、各周波数帯域で、分離前と分離後の周波数情報の周波数比を共通にすることができ、各周波数帯域間での波形成分の調和(又は非調和)関係が、分離前と分離後とで変わらないようにすることができる。
続いて、この変動成分を分離する前の強度情報と変動成分を分離した強度情報との少なくともいずれか一方、及び変動成分を分離する前の周波数情報と変動成分を分離した周波数情報との少なくともいずれか一方に基づき、合成手段により波形データが合成される。
【0009】
ここで、例えば、この変動成分を分離する前の強度情報と周波数情報とだけから波形データを合成した場合には、原波形データの強度や周波数の時間的変動成分をそのまま残した波形データが合成される。
また例えば、この変動成分を分離した強度情報と周波数情報とだけから波形データを合成した場合には、原波形データから強度や周波数の所定の時間的変動成分を全て除去した波形データが合成される。
また例えば、この変動成分を任意に制御した強度情報や周波数情報を求め、その強度情報や周波数情報から波形データを合成してもよいことはもちろんである。
このように、原波形データの強度や周波数の時間的変動成分そのものを制御することにより、原音の特徴を活かした波形データを形成できるとともに、波形データの加工のバリエーションを拡大できるようになる。
【0010】
ところで、楽器の演奏音には、演奏者が意識的に音量や音高のほぼ周期的なゆらぎを生じさせていることが少なくない。本明細書では、こうした音量や音高の周期的なゆらぎを一括してビブラートと呼ぶことにする。
そこで、こうしたビブラートを含む演奏音の波形データに対しては、一例として、強度や周波数の時間的変動成分のうち、ビブラートに対応する周期的変動成分(ビブラート成分と呼ぶことにする)を第2の分析手段に分離させ、このビブラート成分を任意に制御することが好ましい。これにより、もともとの演奏音のビブラートを活かした波形データを形成することができるようになる。
【0011】
尚、こうした変動成分を分離する前の強度情報と変動成分を分離した強度情報との少なくともいずれか一方、及び変動成分を分離する前の周波数情報と変動成分を分離した周波数情報との少なくともいずれか一方を予め記憶手段に記憶させておき、波形形成時には、この記憶手段から読出し手段が読み出す情報に基づいて合成手段に波形データを合成させるようにすることが好適である。
【0012】
また、原波形データの強度や周波数の時間的変動成分そのものを任意に制御するためには、一例として、強度情報と周波数情報との少なくともいずれか一方をこうした変動成分に応じて加工する加工手段を設け、この加工手段が加工した情報を用いて合成手段に波形データを合成させるようにすることが好適である。
このように加工手段を設ける場合には、記憶手段に、強度情報及び周波数情報だけでなく、変動成分に応じた加工情報を記憶させるようにし、演奏時には、記憶手段から読み出される強度情報及び周波数情報を、記憶手段から読み出される加工情報を用いて加工手段に加工させるようにすることが一層好適である。
【0013】
尚、ビブラート成分を分離する場合のように強度や周波数の周期的変動成分を分離する場合には、変動成分に応じた加工情報も、周期的に同じ値を繰り返す情報となる。そこで、このような場合には、全ての区間についての加工情報を記憶手段に記憶させるのではなく、周期的変動の1または複数周期分に相当する区間についての加工情報のみを記憶手段に記憶させておき、記憶手段からこの加工情報を繰り返し読み出して加工手段に利用させるようにしてもよい。そうすることにより、加工情報のデータ量を小さくすることができ、記憶手段の記憶領域も節約することができるようになる。
【0014】
更に、強度情報及び周波数情報を求めた波形データとは別の波形データについての加工情報を記憶手段に記憶させるようにし、記憶手段から読み出されるこの別の波形データについての加工情報を用いて加工手段に加工を行なわせるようにしてもよい。そうすることにより、強度や周波数の時間的変動のパターンを原音とは異なる自然音のものに置換することができるので、波形データの加工のバリエーションを一層拡大することができるようになる。
【0015】
【発明の実施の形態】
〔実施の形態1〕
以下、添付図面を参照してこの発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1は、この発明を適用した音源装置の構成の概要を示すブロック図である。この音源装置は、分析部1と、ビブラート除去部2と、記憶部3と、パラメータ加工部4と、補間部5と、合成部6と、波形後処理部7と、読出し制御部8と、タイミング生成部9と、CPU(セントラルプロセッシングユニット)10とを含んでいる。
CPU10は、装置の各部の動作を制御する。読出し制御部8は、CPU10の制御のもと、記憶部3からの記憶情報の読出しを制御する。タイミング生成部9は、CPU10の制御のもと、各部の動作タイミングを同期させる基本クロックを生成する。
【0016】
分析部1には、波形データ(一例として、自然楽器の楽音を32kHzのサンプリング周波数でサンプリングしたPCM波形データ)が時系列に入力される。尚、分析部1における処理の前後に、必要に応じて、データ圧縮処理等の前処理を行なうようにしてよい。
【0017】
図2は、分析部1の構成の一例を示す。同図(a)に示すように、分析部1は、チャンネルナンバーCH0〜CH127で識別される128個のバンドパスフィルタ(BPF)が並列に接続されており、波形データはこれらのBPFを通過する。同図(b)に示すように、各BPFの帯域幅はそれぞれ125Hzであり、その通過帯域は、CH0:0〜125Hz,CH1:125〜250Hz,CH2:250〜375Hz…,CH127:15750〜16000Hzというように、0Hzから16kHzまで順に並べられている。(但し、BPFのチャンネル数は128以外であってもよいし、各BPFの帯域幅も125Hz以外であってもよい。また、BPFとして、通過帯域が固定されたフィルタを用いる代わりに、通過帯域を任意に変化させることのできるダイナミック可変フィルタを用いるようにしてもよい。)
各BPFの通過帯域を通過した波形データは、図2(a)に示すようにそれぞれ高速フーリエ変換(FFT)処理を施される。これに基づき、各通過帯域についての波形データの強度情報MAGorig及び周波数情報FREQorigがそれぞれ求められる。
【0018】
分析部1におけるこうした強度情報MAGorig及び周波数情報FREQorigの検出は、図3に示すように、連続する2048サンプル分の波形データを単位(フレームと呼ぶことにする)として、且つ、隣合うフレーム同士がそれぞれ64サンプル分のずれで重なり合うようにして行なわれる。
【0019】
尚、分析部1の構成の別の一例として、各BPFの通過帯域を通過した波形データをそれぞれ高速フーリエ変換する代わりに、波形データ全体をFFTアナライザを用いて高速フーリエ変換することによって強度情報MAGorig及び周波数情報FREQorigを求めるようにしてもよい。
【0020】
分析部1の各BPFで検出された強度情報MAGorig(CH,t)及び周波数情報FREQorig(CH,t)(但し、tは波形データの立上り部分からのフレームの通し番号を表わす)は、ビブラート除去部2及び記憶部3に供給される。
【0021】
ビブラート除去部2は、図4及び図5に示すような処理を実行することにより、強度情報MAGorig(CH,t),周波数情報FREQorig(CH,t)からそれぞれ原音のビブラートに対応する周期的変動成分(ビブラート成分)を除去する回路である。一例として、ビブラート除去部2は、FFTアナライザで構成されている。
【0022】
図4は、強度情報MAGorig(CH,t)からビブラート成分を除去する強度情報処理の一例を示すフローチャートである。
この処理では、最初に、BPFのチャンネルナンバーCHiのiの値を0に設定する(ステップS1)。
続いて、チャンネルCHiのBPFから供給される強度情報MAGorig(CHi,t)から、連続する複数のフレーム(最初からa番目のフレームから、最初からb番目のフレームまで)を含むフレーム区間(a,b)に亘る強度情報MAG(CHi,a〜b)を切り出す(ステップS2)。
【0023】
尚、a及びbの値は、原音の持続部(サステイン)に該当する(すなわち立上り部(アタック)や減衰部(ディケイ)に該当しない)フレーム区間を切り出せるような値に設定するものとする。立上り部や減衰部は音の特徴を決定するために非常に重要な部分であり、この部分に手を加えると原音の特徴が全く損なわれてしまうからである。
このa及びbの値を設定する手段としては、音源装置のパネルスイッチ(図示せず)の操作によりユーザーがチャンネル毎に任意の値に設定できるようになっていることが好ましいが、CPU10がチャンネル毎に(または全てのチャンネル共通に)所定の値に設定するようになっていてもよい。
【0024】
続いて、フレーム区間(a,b)における強度情報の平均値MAVRiを求める(ステップS3)。尚、このステップS3以下の処理を行なう前提として、必要に応じて、強度情報MAG(CHi,a〜b)に含まれるデータとデータとの間に値「0」を示すデータを挿入する0詰め処理を行なうことにより、強度情報MAG(CHi,a〜b)のみかけ上のデータ量を多くしておいてもよい。
【0025】
続いて、強度情報MAG(CHi,a〜b)から平均値MAVRiを減算することにより、フレーム区間(a,b)における強度情報の時間的変動成分MCVIB(CHi,a〜b)を求める(ステップS4)。この変動成分MCVIB(CHi,a〜b)は、有限長の離散的な時間の信号の一種である。
【0026】
続いて、変動成分MCVIB(CHi,a〜b)に高速フーリエ変換処理(FFT)処理を施すことにより、そのスペクトル分布TMV(CHi,a〜b)を求める(ステップS5)。
そして、スペクトル分布TMV(CHi,a〜b)のうち、原音に含まれるビブラート(音量の周期的なゆらぎ)に対応するスペクトル成分(ビブラート成分)の実部と虚部との値をすべて「0」にすることにより、ビブラート成分を除去したスペクトル分布TMV’(CHi,a〜b)を求める。(ステップS6)。
【0027】
尚、このステップS6における処理は、ビブラートに対応するスペクトル成分を実際に検出することによって実現してもよいが、それに限らず、変動成分MCVIB(CHi,a〜b)における所定範囲の周期的変動に相当するスペクトル成分(一例として4Hzから12Hzの周期的変動に相当するスペクトル成分)を、一律にビブラートに対応するものと見做して「0」にするようにしてもよい。
【0028】
続いて、スペクトル分布TMV’(CHi,a〜b)に高速逆フーリエ変換(IFFT)処理を施すことにより、変動成分MCVIB’(CHi,a〜b)(すなわち、変動成分MCVIB(CHi,a〜b)からビブラート成分を除去した変動成分)を求める(ステップS7)。
そして、変動成分MCVIB’(CHi,a〜b)に平均値MAVRiを加算することにより、強度情報MAG’(CHi,a〜b)(すなわち、強度情報MAG(CHi,a〜b)からビブラート成分を除去した強度情報)を求める(ステップS8)。
【0029】
続いて、iの値を1だけインクリメントし(ステップS9)、iの値が最終チャンネルのチャンネルナンバーである127を上回ったか否かを判断する(ステップS10)。
上回っていなければ(すなわち、最終チャンネルまでステップS2乃至S8の処理を終えていなければ)、ステップS10でノーと判断されてステップS2に戻り、次のチャンネルに関してステップS2以下の処理を繰り返す。こうし全てのチャンネルCH0〜CH127についてステップS2乃至S8までの処理を終えると、ステップS10でイエスと判断されてステップS11に進む。
【0030】
ステップS11では、各チャンネルCH0〜CH127について、強度情報MAGorig(CH,t)のうちのフレーム区間(a,b)における強度情報MAG(CH,a〜b)をそれぞれ当該チャンネルの強度情報MAG’(CH,a〜b)に入れ替えたものを、ビブラート成分を除去した強度情報MAGsmooth(CH,t)として記憶部3に記憶させる。そして処理を終了する。
【0031】
尚、図4では、各チャンネルCH0〜CH127毎に、ステップS1乃至S8の処理をそれぞれ一回だけ実行している。しかし、各チャンネルCH0〜CH127毎に、原音の持続部の一部に該当するフレーム区間(a,b)についてのステップS1乃至S8の処理を、持続部の範囲内でフレーム区間を少しずつずらしながら(すなわちa及びbの値を少しずつ変えながら)複数回実行するようにしてもよい。また、その場合には、いずれかのフレーム区間(a,b)(例えば、ステップS5で求めたスペクトル分布に、ビブラート成分に対応するスペクトル成分が最もよく表われていたフレーム区間)についてステップS7で求めた変動成分MCVIB’(CH,a〜b)を、他のフレーム区間(a,b)についてステップS8で強度情報MAG’(CHi,a〜b)を求めるために共通して用いるようにしてもよい。
【0032】
図5は、周波数情報FRQorig(CH,t)からビブラート成分を除去する周波数情報処理の一例を示すフローチャートである。
この処理では、最初に、CH0〜CH127のうちのいずれか1つのチャンネルCHxを、処理対象のチャンネルとして選択する(ステップS21)。この処理対象としては、周波数成分の時間的変動が安定しているチャンネル(一例として、基本周波数成分を通過させる通過帯域のチャンネル)を選択することが好ましい。
【0033】
続いて、チャンネルCHxのBPFから供給される周波数情報FRQorig(CHx,t)のうち、連続する複数のフレーム(最初からc番目のフレームから、最初からd番目のフレームまで)を含むフレーム区間(c,d)における周波数情報FRQ(CHx,c〜d)を切り出す(ステップS22)。
尚、図4に示した強度情報処理におけるa及びbの値と同様に、このc及びdの値も、原音の持続部に該当するフレーム区間を切り出せるような値に設定するものとする。また、c及びdの値の設定も、やはり、音源装置のパネルスイッチの操作によりユーザーが任意に行なえるようになっていることが好ましい。
【0034】
続いて、上記フレーム区間(c,d)における周波数情報の平均値FAVRxを求める(ステップS23)。尚、強度情報処理において強度情報MAG(CH,a〜b)の0詰め処理を行なうようにしたのと同様に、このステップS23以下の処理を行なう前にも、必要に応じて、周波数情報FRQ(CHx,c〜d)の0詰め処理を行なうようにしてよい。
【0035】
続いて、周波数情報FRQ(CHx,c〜d)から平均値FAVRxを減算することにより、フレーム区間(c,d)における周波数情報の時間的変動成分FCVIB(CHx,c〜d)を求める(ステップS24)。この変動成分FCVIB(CHx,c〜d)も、有限長の離散的な時間の信号の一種である。
【0036】
続いて、変動成分FCVIB(CHx,c〜d)に高速フーリエ変換処理(FFT)処理を施すことにより、そのスペクトル分布TFV(CHx,c〜d)を求める(ステップS25)。
そして、スペクトル分布TFV(CHx,c〜d)のスペクトル成分のうち、原音に含まれるビブラート(音高の周期的なゆらぎ)に対応するスペクトル成分(ビブラート成分)の実部と虚部との値をすべて「0」にすることにより、ビブラート成分を除去したスペクトル分布TFV’(CHx,c〜d)を求める(ステップS26)。
【0037】
尚、このステップS26における処理も、強度情報処理のステップS6におけると同様に、変動成分FCVIB(CHx,c〜d)における所定範囲の周期的変動に相当するスペクトル成分(一例として4Hzから12Hzの周期的変動に相当するスペクトル成分)を一律にビブラートに対応するものと見做して「0」にすることによって実現してよい。
【0038】
続いて、スペクトル分布TFV’(CHx,c〜d)に高速逆フーリエ変換(IFFT)処理を施すことにより、変動成分FCVIB’(CHx,c〜d)(すなわち、変動成分FCVIB(CHx,c〜d)からビブラート成分を除去した変動成分)を求める(ステップS27)。
そして、変動成分FCVIB’(CHx,c〜d)に平均値FAVRxを加算することにより、周波数情報FRQ’(CHx,c〜d)(すなわち、周波数情報FRQ(CHx,c〜d)からビブラート成分を除去した周波数情報)を求める(ステップS28)。
【0039】
続いて、周波数情報FRQorig(CHx,t)のうち、フレーム区間(c,d)における周波数情報FRQ(CHx,c〜d)を、ステップS28で算出した周波数情報FRQ’(CHx,c〜d)に入れ替えることにより、ビブラート成分を除去した周波数情報FRQsmooth(CHx,t)を求める(ステップS29)。
【0040】
次に、周波数情報FRQorig(CHx,t)に対する周波数情報FRQsmooth(CHx,t)の比を求める。そして、チャンネルCHx以外の各チャンネルCH0〜CH127からの周波数情報FRQorig(CH,t)にその比をそれぞれ乗算することにより、それらのチャンネルについて、ビブラート成分を除去した周波数情報FRQsmooth(CH,t)を求める(ステップS30)。
【0041】
そして、ステップS29及びS30で求めた全チャンネルCH0〜CH127についての周波数情報FRQsmooth(CH,t)を、記憶部3に記憶させる(ステップS31)。そして処理を終了する。
【0042】
このように、周波数情報処理では、強度情報処理とは異なり、1つの処理対象チャンネルに対してのみ、ビブラート成分を除去した周波数情報を高速フーリエ変換処理に基づいて求めており、残りのチャンネルについては、ビブラート成分の除去の前後における周波数情報の比が、処理対象チャンネルにおけると同じになるように、ビブラート成分を除去した周波数情報を求めている。これは、波形を加工する際には、基本周波数と各倍音周波数との間の調和関係を崩さないようにすることが重要なので、全てのチャンネルについて、ビブラート成分の除去の前後における周波数情報の比を等しくしておくことが望ましいからである。
【0043】
尚、この周波数情報処理でも、原音の持続部の一部に該当するフレーム区間(c,d)についてのステップS21乃至S28の処理を、持続部の範囲内でフレーム区間を少しずつずらしながら複数回実行するようにしてよい。
【0044】
記憶部3には、図6に示すように、分析部1から供給された強度情報MAGorig(CH,t)及び周波数情報FRQorig(CH,t)を記憶するためのパラメータメモリ3aと、ビブラート除去部2から供給された強度情報MAGsmooth(CH,t)及び周波数情報FRQsmooth(CH,t)を記憶するためのパラメータメモリ3bとが含まれている。
【0045】
図7は、パラメータメモリ3a及び3bの記憶内容の一例を示す。メモリ3aには、同図(a)に示すように、強度情報MAGorig(CH,t)及び周波数情報FRQorig(CH,t)が、それぞれ各チャンネルCH0〜CH127の各フレーム毎に記憶されている。メモリ3bには、同図(b)に示すように、各チャンネルCH0〜CH127の各フレーム毎に、強度情報MAGsmooth(CH,t)及び周波数情報FRQsmooth(CH,t)が記憶されている。
【0046】
分析部1,ビブラート除去部2及び記憶部3での以上のような処理は、この音源装置において楽音波形の形成処理を行なう以前に予め行なっておくべき処理である。これに対し、パラメータ加工部4,補間部5,合成部6及び波形後処理部7では、記憶部3に記憶されたデータを用いて、楽音波形形成処理を実行する。
【0047】
楽音波形合成時には、各チャンネルCH0〜CH127毎の強度情報MAGorig(CH,t)及び周波数情報FRQorig(CH,t)と、各チャンネルCH0〜CH127毎の強度情報MAGsmooth(CH,t)及び周波数情報FRQsmooth(CH,t)とが、読出し制御部8により、それぞれ1フレーム分ずつパラメータメモリ3a,3bから読み出されてパラメータ加工部4に逐次供給される。
パラメータ加工部4は、各チャンネルCH0〜CH127の各フレーム毎に、下記数1に基づいてビブラートの深さの制御を行なう回路である。
【0048】
【数1】
【0049】
上記数1において、a(t),b(t)は、それぞれ強度情報,周波数情報に対してビブラートの深さの制御を行なうための制御パラメータである。これらの制御パラメータの値は、パネルスイッチの操作によってユーザーが任意に設定できるようになっていることが好ましいが、ファクトリーセットに所定値に設定されていてもよい。
【0050】
ここで、a(t),b(t)の値が「1」に設定されたときは、MAGedit(CH,t),FRQedit(CH,t)はそれぞれMAGorig(CH,t),FRQorig(CH,t)に等しくなるので、ビブラート成分をそのまま含んだ強度情報,周波数情報が求められる。
a(t),b(t)の値が「0」に設定されたときは、MAGedit(CH,t),FRQedit(CH,t)はそれぞれMAGsmooth(CH,t),FRQsmooth(CH,t)に等しくなるので、ビブラート成分を全て除去した強度情報,周波数情報が求められる。
a(t),b(t)が「1」よりも大きい値に設定されたときは、MAGorig(CH,t),FRQorig(CH,t)よりもビブラート成分を増大させた強度情報,周波数情報が求められる。
a(t),b(t)が「0」と「1」の間の値に設定されたときは、MAGorig(CH,t),FRQorig(CH,t)よりもビブラート成分を減少させた強度情報,周波数情報が求められる。
また、a(t),b(t)が「0」よりも小さい値に設定されたときは、MAGorig(CH,t),FRQorig(CH,t)とは逆相のビブラート成分を含んだ強度情報,周波数情報が求められる。
このように、a(t),b(t)の値を任意に設定することにより、原波形データのビブラート成分そのものの深さを任意に制御することができる。
【0051】
パラメータ加工部4で求められた強度情報MAGedit(CH,t)及び周波数情報FRQedit(CH,t)は、補間部5に逐次供給される。
補間部5は、隣合うフレーム同士の強度情報MAGedit(CH,t),周波数情報FRQedit(CH,t)をそれぞれ補間する回路である。すなわち、図3に示したように隣合うフレームは64サンプル分ずつずれているので、記憶部3からは64再生サンプリングクロック毎に読出しデータが出力され、したがってパラメータ加工部4からも64再生サンプリングクロック毎にMAGedit(CH,t)及びFRQedit(CH,t)が出力される。補間部5は、その間の63再生サンプリングタイミングにおける強度情報MAGedit(CH,t)及び周波数情報FRQedit(CH,t)を補間によって算出するものであり、一例として、図8に示すように、隣合うフレームについての強度情報MAGedit(CH,t),周波数情報FRQedit(CH,t)をそれぞれ直線補間する。
【0052】
補間部5で補間処理を施された強度情報MAGedit(CH,t)及び周波数情報FRQedit(CH,t)は、合成部6に逐次供給される。
合成部6は、強度情報MAGedit(CH,t)及び周波数情報FRQedit(CH,t)を用いて波形データを合成する回路であり、一例として、全てのチャンネルCH0〜CH127についてのこれらの情報を加算することによって合成を行なう。
尚、別の例として、合成部6は、高速逆フーリエ変換(IFFT)処理を実行することによって合成を行なうものであってもよい。その場合には、補間処理を経ておかなくても全てのサンプリングタイミングにおける波形データが合成されるので、補間部5を設ける必要はない。
【0053】
合成部6で合成された波形データは、波形後処理部7に供給されて所定の処理(例えば、圧縮していたデータの解凍処理やエフェクトの付与処理等)を施された後、音源装置から出力されて外部のサウンドシステム等に送られる。
【0054】
このように、この実施の形態では、原波形データの強度情報MAGorig(CH,t),周波数情報FRQorig(CH,t)をそれぞれ分析することにより、ビブラート成分を除去した強度情報MAGsmooth(CH,t),周波数情報FRQsmooth(CH,t)を求めている。そして、MAGorig(CH,t),FRQorig(CH,t)とMAGsmooth(CH,t),FRQsmooth(CH,t)とをそれぞれ任意の割合で加算することにより、原波形データのビブラート成分そのものの深さを任意に制御した強度情報MAGedit(CH,t),周波数情報FRQedit(CH,t)を求め、このMAGedit(CH,t),FRQedit(CH,t)を用いて波形データを合成している。これにより、原音の特徴を活かした波形データを形成することができるとともに、波形データの加工のバリエーションを拡大することができるようになる。
【0055】
〔実施の形態2〕
次に、この発明の別の実施の形態を説明する。
この実施の形態では、記憶部3の構成とパラメータ加工部4の実行する演算処理内容とが〔実施の形態1〕の音源装置と異なっているが、その他は〔実施の形態1〕におけると全く同様である。
この実施の形態における記憶部3には、図9に示すように、分析部1から供給された強度情報MAGorig(CH,t)及び周波数情報FRQorig(CH,t)を一時記憶するためのバッファ3cと、ビブラート除去部2から供給された強度情報MAGsmooth(CH,t)及び周波数情報FRQsmooth(CH,t)を記憶するためのパラメータメモリ3dと、比発生部3eとが含まれている。
【0056】
バッファ3cに一時記憶された強度情報MAGorig(CH,t)及び周波数情報FRQorig(CH,t)は、比発生部3eに逐次供給される。パラメータメモリ3dに記憶された強度情報MAGsmooth(CH,t)及び周波数情報FRQsmooth(CH,t)も、読出し制御部8により読み出されて比発生部3eに供給される。
【0057】
比発生部3eは、各チャンネルCH0〜CH127の各フレーム毎に、下記数2に基づき、MAGsmooth(CH,t),FRQsmooth(CH,t)に対するMAGorig(CH,t),FRQorig(CH,t)の比をそれぞれ表わす比情報Vmag(CH,t),Vfrq(t)を求め、それらの比情報を記憶する回路である。(図5の周波数情報処理から明らかなとおり、FRQsmooth(CH,t)に対するFRQorig(CH,t)の比は、全てのチャンネルCH0〜CH127で同じ値になる。)
【0058】
【数2】
【0059】
尚、MAGsmooth(CH,t),FRQsmooth(CH,t)の値が「0」であるフレームについては、便宜上、Vmag(CH,t),Vfrq(t)の値としてそれぞれ「1」を比発生部3eに記憶させる。
また、Vmag(CH,t),Vfrq(t)の値が所定以上の大きさであるフレームについても、後述するパラメータ加工部4の処理によってビブラート成分が極端に大きくなることを防止するために、Vmag(CH,t),Vfrq(t)の値としてそれぞれ「1」を比発生部3eに記憶させることにする。
【0060】
図10は、パラメータメモリ3d及び比発生部3eの記憶内容の一例を示す。メモリ3dには、同図(a)に示すように、強度情報MAGsmooth(CH,t)及び周波数情報FRQsmooth(CH,t)が、それぞれ各チャンネルCH0〜CH127の各フレーム毎に記憶されている。比発生部3eには、同図(b)に示すように、比情報Vmag(CH,t)及びVfrq(t)が、それぞれ各チャンネルCH0〜CH127の各フレーム毎に記憶されている。
【0061】
尚、別の例として、比発生部3eに、今回の波形データについての比情報Vmag(CH,t)及びVfrq(t)に加えて、または今回の波形データについてのVmag(CH,t)及びVfrq(t)に代えて、別の演奏音の波形データについての比情報Vmag[another](CH,t)及びVfrq[another](t)を1または複数種類記憶しておくようにしてもよい。ここで、別の演奏音の波形データについての比情報Vmag[another](CH,t)及びVfrq[another](t)のみを記憶する場合には、演奏上の手本となるようなビブラートを含んだ演奏音についてのものを選ぶようにすることが好適である。
【0062】
この実施の形態では、楽音波形合成時には、パラメータメモリ3a,3bから、各チャンネルCH0〜CH127毎の強度情報MAGsmooth(CH,t)及び周波数情報FRQsmooth(CH,t)が、読出し制御部8によりそれぞれ1フレーム分ずつ読み出されてパラメータ加工部4に逐次供給される。
また、比発生部3eからも、各チャンネルCH0〜CH127毎の比情報が、読出し制御部8によって読み出されてパラメータ加工部4に逐次供給される。
【0063】
ここで、読出し制御部8が比発生部3eから比情報を読み出す速さを、パネルスイッチの操作によってユーザーが任意に調整できるようになっていることが好ましい。
また、比情報Vmag(CH,t)及びVfrq(t)と比情報Vmag[another](CH,t)及びVfrq[another](t)との双方が比発生部3eに記憶されている場合や、複数種類の比情報Vmag[another](CH,t)及びVfrq[another](t)が比発生部3eに記憶されている場合には、比発生部3eからいずれの比情報を読み出すかを、パネルスイッチの操作によってユーザーが任意に選択できるようになっていることが好ましい。
【0064】
この実施の形態では、パラメータ加工部4は、各チャンネルCH0〜CH127の各フレーム毎に、下記数3乃至数5に基づき、ビブラートの深さ,速さの制御及びビブラートのパターンの置換を行なう。
【数3】
【0065】
上記数3において、α(t),β(t)は、それぞれ強度情報,周波数情報に対してビブラートの深さの制御を行なうための制御パラメータである。これらの制御パラメータの値は、パネルスイッチの操作によってユーザーが任意に設定できるようになっていることが好ましいが、ファクトリーセットに所定値に設定されていてもよい。
【0066】
ここで、α(t),β(t)の値が「1」に設定されたときは、MAGedit(CH,t),FRQedit(CH,t)はそれぞれMAGorig(CH,t),FRQorig(CH,t)に等しくなるので、ビブラート成分をそのまま含んだ強度情報,周波数情報が求められる。
α(t),β(t)の値が「0」に設定されたときは、MAGedit(CH,t),FRQedit(CH,t)はそれぞれMAGsmooth(CH,t),FRQsmooth(CH,t)に等しくなるので、ビブラート成分を全て除去した強度情報,周波数情報が求められる。
α(t),β(t)が「1」よりも大きい値に設定されたときは、MAGorig(CH,t),FRQorig(CH,t)よりもビブラート成分を増大させた強度情報,周波数情報が求められる。
α(t),β(t)が「0」と「1」の間の値に設定されたときは、MAGorig(CH,t),FRQorig(CH,t)よりもビブラート成分を減少させた強度情報,周波数情報が求められる。
また、α(t),β(t)が「0」よりも小さい値に設定されたときは、MAGorig(CH,t),FRQorig(CH,t)とは逆相のビブラート成分を含んだ強度情報,周波数情報が求められる。
このように、α(t),β(t)の値を任意に設定することにより、原波形データのビブラート成分の深さを任意に制御することができる。
【0067】
【数4】
【0068】
上記数4において、τ(t)は、強度情報,周波数情報に対してビブラートの速さの制御を行なうための制御パラメータである。比発生部3eから比情報を読み出す速さをユーザーが任意に指定できるようになっている場合には、そのユーザーの指定した速さに応じてこのτ(t)の値が決定される。
【0069】
ここで、τ(t)の値が「1」に設定されたときは、ビブラート成分の時間的変動の速さがMAGorig(CH,t),FRQorig(CH,t)と同じである強度情報,周波数情報が求められる。
τ(t)の値が「1」よりも大きい値に設定されたときは、ビブラート成分の時間的変動がMAGorig(CH,t),FRQorig(CH,t)よりも速い強度情報,周波数情報が求められる。
τ(t)の値が「1」よりも小さい値に設定されたときは、ビブラート成分の時間的変動がMAGorig(CH,t),FRQorig(CH,t)よりも遅い強度情報,周波数情報が求められる。
このように、τ(t)の値を任意に設定することにより、原波形データのビブラート成分の速さを任意に制御することができる。
【0070】
【数5】
【0071】
上記数5では、比情報Vmag(CH,t)及びVfrq(t)の代わりに別の波形データについての比情報Vmag[another](CH,t)及びVfrq[another](t)を用いることにより、ビブラートのパターンを原音とは異なる演奏音のものに置換することができる。また、こうしたビブラートのパターンの置換を行なうことにより、もともとビブラートを含まない音の波形データに対しても、ビブラート成分を付与することが可能になる。
【0072】
上記数3乃至数5に示した計算処理は、それぞれ独立して実行するだけでなく、それらを組み合わせて実行することにより、ビブラートの深さ,速さの制御及びビブラートのパターンの置換を同時に行なうようにしてもよいことはもちろんである。
【0073】
ところで、ビブラートはほぼ周期的なゆらぎなので、比情報もほぼ周期的に同じ値を繰り返す情報となる。そこで、MAGsmooth(CH,t)及びFRQsmooth(CH,t)を求めた全てのフレームについての比情報Vmag(CH,t),Vfrq(t)を比発生部3eに記憶させるのではなく、一部のフレーム区間(例えば、ビブラートの1または複数周期分に相当するフレーム区間)についての比情報Vmag*(CH,t),Vfrq*(t)のみを比発生部3eに記憶させておき、この比情報を読出し制御部8に繰り返し比発生部3eから読み出させてパラメータ加工部4に利用させるようにしてもよい。そうすることにより、比情報のデータ量を小さくすることができ、比発生部3eの記憶領域も節約することができるようになる。しかも、比情報を繰り返し用いるので、上記数4によりビブラートの速さを任意に制御しても、MAGsmooth(CH,t)及びFRQsmooth(CH,t)に対して比情報の過不足を生じることがなくなるという利点も存在する。
【0074】
下記数6は、ビブラートの1周期分に相当するフレーム区間(T個のフレームから成っている)についての比情報Vmag*(CH,t),Vfrq*(t)を繰り返し用いて上記数3乃至数5の計算処理を同時に行なう場合の計算式である。
【数6】
【0075】
尚、比発生部3eに、このような1または複数周期分の比情報を、1つの波形データについて複数種類記憶させておくようにしてもよい。その場合には、読み出すべき1種類の比情報を、パネルスイッチの操作によりユーザーが任意に選択できるようになっていることが好ましい。あるいは、複数種類の比情報の間で補間やクロスフェードを行なうことによって新たに1または複数周期分の比情報を算出することを、パネルスイッチの操作によりユーザーが指示できるようになっていてもよい。
【0076】
クロスフェードによる新たな1周期(フレームT個分のフレーム区間に相当)分の比情報Vmag*(CH,t)の算出例を示すと、下記数7のとおりである。(比情報Vfrq*(t)についても、下記数7と同様にして算出してよい。)
【数7】
【0077】
上記数7では、周期の前半部分では、フレームTs乃至フレーム(Ts+T/2)(但しTsは任意のフレームの番号である)における比情報Vmag(CH,Ts)乃至V(CH,Ts+T/2)を徐々に増加させると共に、それらのフレームよりも1周期後のフレーム(Ts+T)乃至フレーム(Ts+T+T/2)における比情報Vmag(CH,Ts+T)乃至Vmag(CH,Ts+T+T/2)を徐々に減少させることによってVmag*(CH,t)を算出している。また、周期の後半部分では、フレーム(Ts−T/2)乃至フレームTsにおける比情報Vmag(CH,Ts−T/2)乃至Vmag(CH,Ts)を徐々に増加させると共に、それらのフレームよりも1周期後のフレーム(Ts+T/2)乃至フレーム(Ts+T)における比情報VTs+T/2)乃至Vmag(CH,Ts+T)を徐々に減少させることによってVmag*(CH,t)を算出している。このようなクロスフェードを行なうことにより、変動の滑らかな比情報Vmag*(CH,t)を得ることができる。
【0078】
最後に、この実施の形態におけるビブラート制御の全体的な流れを示すと、図11のようになる。
このように、この実施の形態では、MAGsmooth(CH,t),FRQsmooth(CH,t)に対するMAGorig(CH,t),FRQorig(CH,t)の比情報を求め、この比情報を用いて、原波形データのビブラート成分そのものの深さや速さを任意に制御したり、ビブラートのパターンを原音とは異なる音のものに置換したりしている。これにより、原音の特徴を活かした波形データを形成することができるとともに、〔実施の形態1〕よりも一層波形データの加工のバリエーションを拡大することができるようになる。
【0079】
尚、この実施の形態では、MAGsmooth(CH,t),FRQsmooth(CH,t)に対するMAGorig(CH,t),FRQorig(CH,t)の比情報を求め、この比情報とMAGsmooth(CH,t),FRQsmooth(CH,t)とを乗算することに基づいてMAGedit(CH,t),FRQedit(CH,t)を求めているが、逆に、MAGorig(CH,t),FRQorig(CH,t)に対するMAGsmooth(CH,t),FRQsmooth(CH,t)の比情報を求め、この比情報とMAGorig(CH,t),FRQorig(CH,t)とを乗算することに基づいてMAGedit(CH,t),FRQedit(CH,t)を求めるようにしてもよいことはもちろんである。
【0080】
また、以上の〔実施の形態1〕及び〔実施の形態2〕では、分析部1の求めた強度情報MAGorig(CH,t)と周波数情報FRQorig(CH,t)との双方について、ビブラート除去部2によるビブラート成分の除去からパラメータ加工部4によるビブラートの制御までの処理を実行しているが、強度情報MAGorig(CH,t)と周波数情報FRQorig(CH,t)とのいずれか一方のみについてこれらの処理を実行するようにしてもよい。
【0081】
また、以上の〔実施の形態1〕及び〔実施の形態2〕では、ビブラート除去部は、FFT処理によってMAGorig(CH,t),FRQorig(CH,t)を分析しているが、これに限らず、例えばバンドパスフィルタを用いてMAGorig(CH,t),FRQorig(CH,t)を分析するものであってもよい。
【0082】
また、以上の〔実施の形態1〕及び〔実施の形態2〕では、MAGorig(CH,t),FRQorig(CH,t)を分析して求めたスペクトル分布のうち、原音に含まれるビブラートに対応した(あるいはビブラートに対応するものと見做した)スペクトル成分を除去しているが、ビブラートに対応するか否かに係わらず、所定のスペクトル成分を除去するようにしてもよい。
また、以上の〔実施の形態1〕及び〔実施の形態2〕では、この発明を音源装置に適用しているが、波形データの分析及び合成を行なう他の適宜の装置に適用するようにしてもよい。
【0083】
また、本発明に係る波形処理装置は、ハードウェアで構成するようにしてもよく、あるいは、MPU(マイクロプロセッサ)またはDSP(ディジタルシグナルプロセッサ)等を利用したシステムによって構成するようにしてもよい。もちろん、パーソナルコンピュータによって本明細書に開示したような波形処理を実行することも可能である。
【0084】
最後に、この発明の実施態様を幾つか列挙すると、次のとおりである。
(a) 前記第2の分析手段は、前記第1の分析手段により複数の前記区間に亘って求められた強度情報と周波数情報との少なくともいずれか一方を高速フーリエ変換することによりそのスペクトル分布を求める手段と、前記スペクトル分布のうちの所定のスペクトル成分を除去する手段と、前記スペクトル成分を除去したスペクトル分布を高速逆フーリエ変換する手段とを含んだ請求項1乃至7のいずれかに記載の波形処理装置。
【0085】
(b) 前記加工手段は、前記変動成分を分離する前の強度情報と前記変動成分を分離した強度情報とを任意の割合で加算する処理と、前記変動成分を分離する前の周波数情報と前記変動成分を分離した周波数情報とを任意の割合で加算する処理との少なくともいずれか一方を行なうものである請求項4に記載の波形処理装置。
(c) 前記割合を任意に調整するための調整手段を更に備えた(b)に記載の波形処理装置。
【0086】
(d) 強度情報についての前記加工情報は、前記変動成分を分離する前の強度情報と前記変動成分を分離した強度情報との比を示す比情報から成り、周波数情報についての前記加工情報は、前記変動成分を分離する前の周波数情報と前記変動成分を分離した周波数情報との比を示す比情報から成るものである請求項5乃至7のいずれかに記載の波形処理装置。
(e) 前記加工情報の大きさを任意に調整するための調整手段を更に備えた請求項5乃至7または(d)のいずれかに記載の波形処理装置。
(f) 前記加工情報の読み出し速度を任意に調整するための調整手段を更に備えた請求項5乃至7または(d)または(e)のいずれかに記載の波形処理装置。
【0087】
【発明の効果】
以上のように、この発明によれば、波形データの分析及び合成を行なう音源装置その他の波形処理装置において、特に自然音の波形データを処理する場合に、原波形データの強度や周波数の時間的変動そのものを制御することにより、原音の特徴(例えばビブラート等)を活かした波形データの形成や、波形データの加工のバリエーションの拡大が可能になるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明を適用した音源装置の全体構成ブロック図
【図2】音源装置の分析部の構成の一例を示す図
【図3】分析部が分析を行なう波形データの単位を表わす図
【図4】ビブラート除去部の実行する強度情報処理の一例を示すフローチャート
【図5】ビブラート除去部の実行する周波数情報処理の一例を示すフローチャート
【図6】音源装置の記憶部の構成の一例を示す図
【図7】記憶部の記憶内容の一例を示す図
【図8】音源装置の補間部による補間処理の一例を示す図
【図9】音源装置の記憶部の構成の別の一例を示す図
【図10】記憶部の記憶内容の別の一例を示す図
【図11】ビブラート制御の全体的な流れを示す図
【符号の説明】
1 分析部
2 ビブラート除去部
3 記憶部
3a,3b,3d パラメータメモリ
3c バッファ
3e 比発生部
4 パラメータ加工部
5 補間部
6 合成部
7 波形後処理部
8 読出し制御部
9 タイミング生成部
10 CPU
Claims (7)
- 波形データを所定の時間長の区間毎に分析し、各区間毎に複数の周波数帯域毎の波形成分についての強度情報と周波数情報とをそれぞれ求める第1の分析手段と、
第1の分析手段により複数の前記区間に亘って求められた強度情報と周波数情報のうち少なくとも周波数情報を分析し、該情報に含まれる時間的変動成分のうちの所定の変動成分を分離する第2の分析手段であって、前記周波数情報を分析して変動成分を分離するにあたっては、前記複数の周波数帯域のうち所定の1つの周波数帯域の周波数情報について前記変動成分を抽出して分離し、この分離前と分離後の周波数情報についての周波数比を求め、求めた周波数比を用いて前記複数の周波数帯域のうち残りの周波数帯域の周波数情報についてそれぞれの変動成分を算出して分離するものと、
前記変動成分を分離する前の強度情報と前記変動成分を分離した強度情報との少なくともいずれか一方、及び前記変動成分を分離する前の周波数情報と前記変動成分を分離した周波数情報との少なくともいずれか一方に基づいて波形データを合成する合成手段と
を具えた波形処理装置。 - 前記第2の分析手段は、時間的変動成分のうちの所定の周期的変動成分を分離するものである請求項1に記載の波形処理装置。
- 前記変動成分を分離する前の強度情報と前記変動成分を分離した強度情報との少なくともいずれか一方、及び前記変動成分を分離する前の周波数情報と前記変動成分を分離した周波数情報との少なくともいずれか一方を記憶するための記憶手段と、該記憶手段に記憶された情報を読み出す読出し手段とを更に具えており、前記合成手段は、前記読出し手段により前記記憶手段から読み出された情報に基づいて波形を合成するものである請求項1乃至2のいずれかに記載の波形処理装置。
- 強度情報と周波数情報との少なくともいずれか一方を前記変動成分に応じて加工する加工手段を更に具えており、前記合成手段は、該加工手段によって加工された情報を用いて波形を合成するものである請求項1乃至3のいずれかに記載の波形処理装置。
- 前記記憶手段には、前記変動成分に応じた加工情報が更に記憶され、前記加工手段は、前記読出し手段により前記記憶手段から読み出される該加工情報を用いて加工を行なうものである請求項4に記載の波形処理装置。
- 前記記憶手段には、前記変動成分の変動の1または複数周期に相当する区間についての前記加工情報が記憶され、前記加工手段は、前記読出し手段により前記記憶手段から繰り返し読み出される前記加工情報を用いて加工を行なうものである請求項5に記載の波形処理装置。
- 前記記憶手段には、強度情報及び周波数情報を求めた波形データとは別の波形データについての前記加工情報が記憶されており、前記加工手段は、前記読出し手段により前記記憶手段から読み出される該別の波形データについての前記加工情報を用いて加工を行なうものである請求項5または6に記載の波形処理装置。
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