JP3650822B2 - オーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化に対する非破壊測定方法 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、オーステナイト系ステンレス鋼構造材またはそれを用いたオーステナイト系ステンレス鋼構造体の経年による材料強度の劣化を非破壊的に測定し、定量的に求める方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
オーステナイト系ステンレス鋼は塑性変形により常磁性から強磁性に変態する事が半世紀以上前から知られている。この現象を利用した非破壊測定方法が米国、ドイツ、日本等で試みられている。その結果、オーステナイト系ステンレス鋼構造材またはそれを用いたオーステナイト系ステンレス鋼構造体の経年の金属疲労による材料強度の劣化(以下、強度の経年劣化という。)を非破壊的に測定する方法として、従来、オーステナイト系ステンレス鋼の塑性変形により変化したマルテンサイト相についてフェライトメータ等の測定器を用いて飽和磁化を測定することにより、強度の経年劣化を測定する方法が一般的に知られている。また、オーステナイト相から塑性変形によりマルテンサイト相へ変化するのに伴って測定対象の透磁率も変化することからその透磁率の変化に基づいて材料の疲労度(強度の経年劣化)を測定する方法も知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】
特開平8−248004号公報
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の、飽和磁化や透磁率等の磁気特性からオーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化を測定する方法によると、一義的に内部要因(内部応力)の情報を得ることはできなかった。即ち、上記従来の強度の経年劣化に対する非破壊測定方法では、加工によりマルテンサイト変態が起こることを利用して、オーステナイト相から変化するマルテンサイト相の量を変化させるために、マルテンサイト変態を起こす外部要因(外部応力、温度)の量(例えば上記特許文献1では繰り返し負荷の回数)を変化させて磁化測定を行って基準データを得て、その基準データに基づいて被測定対象の強度の経年劣化を非破壊的に評価するものであった。
【0005】
上記マルテンサイト変態は色々な要因によって起こり、外部要因(外部応力、温度)だけでなく内部要因(内部応力、化学組成)もマルテンサイト変態が起きる要因となる。しかし、経年劣化を評価するパラメータとして従来用いられてきた飽和磁化や透磁率等の磁気特性は、上記外部要因の量の変化に伴って変化するマルテンサイト相の量に応じて変化するものであり、強度の経年劣化の原因となる内部要因(内部応力)と必ずしも一対一の関係にならない。従って、上記従来の飽和磁化や透磁率等の磁気特性によるオーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化に対する非破壊測定方法では、材料内部の転位などの格子欠陥の情報を正確に得ることは出来なかった。
【0006】
そこで、本発明は、オーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化の原因となる転位などの格子欠陥を、定量的かつ非破壊的に測定する測定方法を提案することにより、オーステナイト系ステンレス鋼の使用当初から経年劣化して亀裂が発生するまでの間の非破壊検査を行うことができ、しかも亀裂発生時及び亀裂発生箇所等を詳細に特定することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段およびその作用・効果】
この発明は、オーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化を定量的かつ非破壊で測定する非破壊測定方法において、評価情報取得工程と、測定工程と、評価工程とを具えてなる。
【0008】
上記評価情報取得工程は、あらかじめ、測定対象のオーステナイト系ステンレス鋼と同種のオーステナイト系ステンレス鋼について、引張試験を行い応力と歪との関係を得て、前記同種のオーステナイト系ステンレス鋼に、前記応力と歪との関係に応じて値を変化させた負荷応力σを与えて測定して得た基準ヒステリシス・マイナーループから、オーステナイト系ステンレス鋼の経年劣化の評価情報となる物理量の相関関係(例えば、後述する、磁束密度Bの値がゼロのときの磁界強度Hの値である擬保磁力Hc*と材料に印加する磁界強度Hの最大値HMAXとの関係である第1の関係および、飽和磁化Msと擬保磁力Hc*における基準ヒステリシス・マイナーループの傾きである擬磁化率χH *との第1の比Ms/χH *と、磁界強度Hの最大値HMAXとの関係である第2の関係)を得ておくものである。
【0009】
上記測定工程は、前記測定対象のオーステナイト系ステンレス鋼について測定にて対象ヒステリシス・マイナーループを得て、このヒステリシス・マイナーループから、上記物理量の測定値(例えば、後述する、磁束密度Bの値がゼロのときの磁界強度Hの値である擬保磁力Hc*及び上記第1の比Ms/χH *との値)を得るものである。
【0010】
上記評価工程は、前記評価情報取得工程で得た上記物理量の相関関係(例えば先に例示した、第1の関係及び第2の関係)に基づいて、前記測定工程で得られた、上記物理量の測定値(先に例示した、擬保磁力Hc*および第1の比Ms/χH *の値)から前記測定対象のオーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化を評価するものである。
【0011】
なお、上記工程における各ヒステリシス・マイナーループは、飽和磁界強度よりも小さい前記磁界強度Hの範囲内で、材料に印加する前記磁界強度Hの最大値HMAXを段階的に変化させてオーステナイト系ステンレス鋼の磁束密度Bを測定することにより得られた前記磁界強度Hと前記磁束密度Bとの関係から、前記磁界強度Hの最大値HMAXごとに得るものである。
【0012】
この発明の測定方法を実際に行った試験データをもとに説明する。オーステナイト系ステンレス鋼の機械的性質と磁気的性質との相関関係を明らかにするため、原子炉配管や化学プラントで一般的に使用されているオーステナイト系ステンレス鋼SUS304を用い、高いニッケル成分のオーステナイト系ステンレス鋼SUS304(以下、H−SUS304という。)と、標準のオーステナイト系ステンレス鋼SUS304(以下、S−SUS304という。)とのそれぞれについて、引張試験を行った後にヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験を行った。なお、ここでは、上記H−SUS304としてJIS G4305に規定されるSUS304Lを、上記S−SUS304としてJIS G4305に規定されるSUS304をそれぞれ使用した。
【0013】
図1(a)は、上記引張試験に用いた試料の形状を示し、図1(b)は、上記ヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験に用いた試料の形状を示す。図2は、図1(a)に示す形状の試料について引張試験を行って得られたH−SUS304についての応力−歪特性を示す説明図であり、図3は、図1(a)に示す形状の試料について引張試験を行って得られたS−SUS304についての応力−歪特性を示す説明図である。また表1に、試験に用いたH−SUS304及びS−SUS304の化学組成を示す。なお、それぞれの試料について引張試験を行った結果、負荷応力σを、H−SUS304については534[MPa]よりも大きくしたときに(図2参照)、S−SUS304については608[MPa]よりも大きくしたときに(図3参照)それぞれ破断した。
【0014】
【表1】
【0015】
なお、上記ヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験とは、材料に印加する磁界強度Hの最大値(以下、「最大磁界」という。)HMAXが飽和磁化よりも小さい磁界(保磁力の2倍程度の磁界強度)を材料に加えて測定することにより、例えば図4に示すような、ヒステリシスループに相当する曲線(以下、「ヒステリシス・マイナーループ」という。)を得るために行う試験をいう。このヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験は、本願発明者が、一般的に磁界を飽和する(保磁力の数倍から数十倍程度の磁界強度)まで加えて測定することによりヒステリシスループを得るために行うヒステリシス磁化特性試験と区別するために便宜的に用いたものである。
【0016】
また本明細書では、ヒステリシスループから求められる保磁力および磁化率との区別のため、ヒステリシス・マイナーループにおいて、保磁力に相当するもの、即ち、磁束密度Bの値がゼロのときの磁界強度Hの値を擬保磁力Hc*といい、磁化率に相当するもの、即ち、擬保磁力Hc*におけるヒステリシス・マイナーループの傾きを擬磁化率χH *(=ΔB/ΔH)という(図4参照)。なお、擬保磁力及び擬磁化率は、磁界強度Hの関数で磁界強度Hが十分大きい場合はそれぞれヒステリシスループから求められる保磁力、磁化率と一致する。
【0017】
さらに、本明細書では、図5に示すように、ヒステリシス・マイナーループにおいて、そのヒステリシス・マイナーループで囲まれた部分の面積を擬ヒステリシス損失WFと、ヒステリシス・マイナーループで囲まれた部分の面積のうち、磁束密度B>0かつ磁界強度H<0の部分の面積を擬レマネンス損失WRといい、磁界強度Hの値がゼロのときの磁束密度Bの値を擬残留磁束密度Br*、擬残留磁束密度Br*におけるヒステリシス・マイナーループの傾きを擬磁化率χr *、最大磁界HMAXにおける磁束密度Bの値を擬磁束密度Bm*、最大磁界HMAXにおけるヒステリシス・マイナーループの傾きのうち、小さいものを擬磁化率χrev *、大きいものを擬磁化率χmax *とそれぞれいう。
【0018】
そして、先に行った引張試験の結果に基づいて、上記図1(b)に示す形状の試料について所定の応力を負荷した後、その負荷を取り除き、その変形した試料について、最大磁界HMAXを段階的に変化させて上記ヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験を行い、その都度ヒステリシス・マイナーループを得る。本試験では、最大磁界HMAXを0[Oe]から100[Oe]程度までの範囲で段階的に増加させてその都度測定することにより、ヒステリシス・マイナーループ磁化特性を得た。その得られたヒステリシス・マイナーループから、後述するような物理量を求めてそれら物理量の値をプロットすることで、後述する図6〜図32に示すような物理量の相関関係を得ることができる。
【0019】
なお、本発明のオーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化に対する非破壊測定方法によれば、50[Oe]程度の最大磁界HMAXで測定することにより、オーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化に関するより詳細な情報が得られることを後で説明する。また、ここでの測定では最大磁界HMAXの段階を1[Oe]にしたが、さらに細かく分けるとそれだけ情報量が多くなることはもちろんである。
【0020】
図6〜図32のうち、H−SUS304について示す、図6,8,10,12,15,17,19,21,23,25,27,29,31は、負荷応力σ=351[MPa],438[MPa],495[MPa],534[MPa]を、またS−SUS304について示す、図7,9,11,13,16,18,20,22,24,26,28,30,32は、負荷応力σ=375[MPa],488[MPa],557[MPa],608[MPa])をそれぞれ加えた後に、オーステナイト系ステンレス鋼についてのヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験を行うことで得られた、物理量の相関関係(試料の変形に伴うヒステリシス・マイナーループ磁化特性の変化に基づき得られる関係)である。なお、物理量の相関関係に示された負荷応力σの値は、先に引張試験を行った結果をもとにして、破断直前および応力を加える前からその破断直前までの間で選んでいる。
【0021】
従って、H−SUS304については、図6,8,10,12,15,17,19,21,23,25,27,29,31に示すように、負荷応力σ=351[MPa],438[MPa],495[MPa],534[MPa]の順に、黒正方形,白丸,上向き白三角,下向き黒三角でそれぞれプロットしている。また、S−SUS304については、図7,9,11,13,16,18,20,22,24,26,28,30,32に示すように、負荷応力σ=375[MPa],488[MPa],557[MPa],608[MPa]の順に、黒正方形,白丸,上向き白三角,下向き黒三角でそれぞれプロットしている。
【0022】
なお、上記負荷応力σの値に、応力を加える前の値σ=0[MPa]が無いのは、応力を加える前のオーステナイト系ステンレス鋼の試料は常磁性であって強磁性でないために、ヒステリシス・マイナーループ磁化特性が得られないからである。それゆえ、このヒステリシス・マイナーループ磁化特性から求める値(例えば、後述する、第1の比Ms/χH *,第2の比WR/WF,第3の比Br*/Bm*,第4の比χr */χH *,第5の比χrev */χmax *)も応力を加える前のオーステナイト系ステンレス鋼では得られない。
【0023】
ここに、図6及び図7は、擬保磁力Hc*と最大磁界HMAXとの関係についての変形応力依存性を示し、図8及び図9は、第1の比Ms/χH *と最大磁界HMAXとの関係についての変形応力依存性を示す。また、図10及び図11は、図6〜図9に示す関係から得られた、擬保磁力Hc*と第1の比Ms/χH *との関係を示し、図12,図13は、図10,図11に示す関係を、擬保磁力Hc*が0〜20[Oe]の範囲で拡大して示す部分拡大図である。
【0024】
上記図12及び図13の関係線図に示すように、擬保磁力Hc*と第1の比Ms/χH *との関係は、負荷応力(変形応力)σの増加とともに変化することが分かる。なお、図12に示すH−SUS304における負荷応力σ=534[MPa]の場合と、図13に示すS−SUS304における負荷応力σ=608[MPa]の場合とはそれぞれ、試料が破断する寸前の擬保磁力Hc*と第1の比Ms/χH *との関係を示している。
【0025】
このことから、上記負荷応力σは、オーステナイト相がマルテンサイト相に変化する要因となる内部要因(内部応力)に置き換えることができることから、擬保磁力Hc*と第1の比Ms/χH *との関係と、内部要因(内部応力)との間には密接な相関があることが本願発明者の研究により明らかになった。しかも、第1の比Ms/χH *は飽和磁化Msで規格化しているのでマルテンサイト相の量には依存しない。
【0026】
なお、上記第1の比Ms/χH *の値を求めるためには、飽和磁化Msの値を求めることが必要とされ、オーステナイト系ステンレス鋼中に塑性変形によって導入されたマルテンサイト相の飽和磁化Msを求めるためには、3T(=3×104[Oe])程度の磁界強度Hが必要となる。しかし、オーステナイト系ステンレス鋼構造材の実際の測定では、そのような強い磁界強度Hを加えるための測定装置を構成することは困難である。それゆえ、かかる強い磁界強度Hの磁界をオーステナイト系ステンレス鋼構造材に加えることは非常に難しく、高々100[Oe]程度の磁界強度Hで磁化測定を行うことができるのが限度であると考えられる。そこで、以下に、100[Oe]程度の磁界強度Hで飽和磁化Msを簡便的に求める方法を示す。
【0027】
図14には、塑性変形を加えたオーステナイト系ステンレス鋼S−SUS304及びH−SUS304の試料について、3T(=3×104[Oe])の強い磁界強度Hで測定して得られた飽和磁化Ms[gauss]と、100[Oe]の磁界強度Hで測定して得られた磁化M100[gauss]との関係を示す。なお、図14中、飽和磁化Msと磁化M100との関係を黒丸でプロットし、また、後述する飽和磁化Msと磁化M50との関係を黒正方形でプロットしている。ここでは、ヒステリシス・マイナーループ磁化特性を測定する際に、最大磁界HMAXを100[Oe]にして測定し、最大磁界HMAXのときの磁化の値を磁化M100として求めている。図14に示す飽和磁化Msと磁化M100との関係から、3Tの強い磁界強度Hで測定しなくても、最大磁界HMAXを100[Oe]にして測定して磁化M100を得ることにより、3Tの強い磁界強度Hで測定した場合に得られる飽和磁化Msと同様の飽和磁化Msの値を求めることができることが分かる。
【0028】
さらに、図14には、塑性変形を加えたオーステナイト系ステンレス鋼の試料について、3Tの強い磁界強度Hで測定して得られた飽和磁化Msの値と、50[Oe]の磁界強度Hで測定して得られた磁化M50との関係も示した。図14に示す結果から、最大磁界HMAXを50[Oe]として測定して得られた関係は、最大磁界HMAXの値を100[Oe]として測定して得られた上記関係と比較すると感度がやや低下するものの、最大磁界HMAXの値を50[Oe]として得られたヒステリシス・マイナーループ磁化特性からも飽和磁化Msの値を得ることができることが分かる。
【0029】
なお、上記した図10〜図13に示した擬保磁力Hc*と第1の比Ms/χH *との関係全体を測定により求めなくとも、以下に示すようにして、擬保磁力Hc*の値が小さい部分の関係から、オーステナイト系ステンレス鋼の経年劣化の進行状況が分かり、経年劣化を評価することができる。
【0030】
即ち、例えば、図10〜図13に示す関係は、最大磁界HMAXを100[Oe]まで加えて求めたものであるが、最大磁界HMAXを例えば50[Oe]まで加えて得られる結果によっても、例えば図12及び図13では擬保磁力Hc*=4[Oe]以下での第1の比Ms/χH *と擬保磁力Hc*との関係(図12及び図13中、破線より左側の部分)が得られる。従って、この関係から、オーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化の評価を十分に行うことができる。
【0031】
さらに、図15は、図12に示すH−SUS304についての、擬保磁力Hc*=4[Oe]における公称応力(変形応力σ)と第1の比Ms/χH *との関係を示し、図16は、図13に示すS−SUS304についての、擬保磁力Hc*=4[Oe]における公称応力(変形応力σ)と第1の比Ms/χH *との関係を示す。これら図15及び図16に示すように、小さな磁界により計測して得られた関係線図からでも、測定対象のオーステナイト系ステンレス鋼についてヒステリシス・マイナーループ磁化測定試験により測定を行って第1の比Ms/χH *の値を得ることにより、経年劣化の程度や後述するように転位密度の変化を知ることができる。つまり、このことは小さな磁界により計測した情報からでもオーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化を十分に評価できることを意味する。
【0032】
ところで、オーステナイト系ステンレス鋼は常磁性であるが、塑性変形によって導入されたマルテンサイト相は強磁性である。このマルテンサイト相内では金属疲労が進むに従い転位密度が高くなる。そしてマルテンサイト相内での磁壁移動も転位密度の増加に伴い動き難くなる。第1の比Ms/χH *の値は磁壁の動き難さを表しており、転位密度が高くなると共に増加する。また、擬保磁力Hc*は最大磁界HMAX以内で擬磁化率χH *が最大になる磁界強度である。それゆえ、最大磁界HMAXを変化させることにより、磁壁移動のポテンシャルエネルギーの全体像を捕らえることができる。
【0033】
従って、上記構成の本発明の測定方法によれば、評価情報取得工程で得た、物理量の相関関係として例えば、擬保磁力Hc*と最大磁界HMAXとの関係である第1の関係(例えば上記図6,図7に示す関係)及び、第1の比Ms/χH *と最大磁界HMAXとの関係である第2の関係(例えば上記図8,図9に示す関係)に基づいて、マルテンサイト相の磁壁が受ける力の大きさ及びその分布を求めることができる。このことから、強度の経年劣化の原因である様々な格子欠陥の形態を識別し、それらの量を定量化できる。
【0034】
これにより、測定工程で得られた、測定対象のオーステナイト系ステンレス鋼の第1の比Ms/χH *と擬保磁力Hc*との関係と、上記第1の関係及び第2の関係とを評価することで、オーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化の原因であってその経年劣化の状態を評価する上で重要である格子欠陥の種類及びその量をより詳しく計測させ得て、より詳細かつ正確にオーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化の状態の総合的な評価をすることができる。
【0035】
また、本発明の測定方法では、例えば上記図10〜図13に示すように、前記評価情報取得工程で、前記第1の関係および前記第2の関係から、前記第1の比Ms/χH *と前記擬保磁力Hc*との関係である第3の関係を得て、前記評価工程で、前記第3の関係から、前記オーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化の状態を評価しても良い。このようにすれば、この関係により示される関係線図(例えば図10〜図13に示す関係線図)が磁壁移動のポテンシャルエネルギーの形状及び大きさを示すので、この関係線図に基づいて測定対象であるオーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化をより正確かつ容易に評価することができる。
【0036】
なお、第1の比Ms/χH *及び擬保磁力Hc*はどちらも材料の特性に関する磁気的な量であるので、第1の比Ms/χH *と擬保磁力Hc*とで表される関係は、最大磁界HMAXのような外部変数が陽に(直接)含まれておらず、材料の内部因子だけの関係である。従って、第1の比Ms/χH *と擬保磁力Hc*とで表される関係は格子欠陥を含めた材料内部の物性の情報を与えるもので外部変数に依らない。
【0037】
また、本発明の測定方法では、前記評価情報取得工程で、前記第1の関係及び第2の関係、または第3の関係から、前記第1の比Ms/χH *と前記負荷応力σとの関係である第4の関係(例えば図15,図16に示す関係線図)を得て、前記評価工程で、前記第4の関係から、前記オーステナイト系ステンレス鋼の経年劣化の状態を評価しても良い。
【0038】
このようにすれば、測定対象の第1の比Ms/χH *の値を測定により求めることで、経年劣化前の状態と亀裂発生時の状態との間での負荷応力σの値を定量的に求めることができるので、経年劣化の進行の程度や寿命予測がさらに正確にできる。また、先に説明した情報取得工程により、負荷応力σの値から転位密度の変化を知ることができる。
【0039】
ところで、擬保磁力Hc*以外の物理量はマルテンサイト相の量に依存する。そのマルテンサイト相の量は飽和磁化Msに比例するが、必ずしも転位などの格子欠陥の量には依存しない。従って、かかる物理量を用いて経年劣化を評価するためには、擬保磁力Hc*以外の物理量を飽和磁化Msで規格化しなければならない。しかし、マルテンサイト相の飽和磁化Msを直接求めるためには、前述したように104[Oe]以上の磁界強度Hが必要であり、このことは、非破壊検査を利用する際には困難な条件である。
【0040】
また、擬保磁力Hc*以外の物理量、WF,WR,Br*,Bm*,χr *,χH *,χrev *,χmax *は、マルテンサイト相の量に比例する。これらの物理量を飽和磁化で規格化する代わりに、これらの物理量の比をとることにより、マルテンサイト相の量に依存しない量を作ることができる。具体的には以下で説明する。
【0041】
図17及び図18は、第2の比WR/WFと擬保磁力Hc*との相関関係(第5の関係)についての変形応力依存性を示し、図19及び図20は、擬保磁力Hc*と第3の比Br*/Bm*との相関関係(第6の関係)についての変形応力依存性を示す。また、図21及び図22は、第4の比χr */χH *と擬保磁力Hc*との相関関係(第7の関係)についての変形応力依存性を示し、図23及び図24は、第5の比χrev */χmax *と擬保磁力Hc*との相関関係(第8の関係)についての変形応力依存性を示す。
【0042】
上記図17〜図24に示すように、第2の比WR/WFと擬保磁力Hc*との相関関係(第5の関係)、第3の比Br*/Bm*と擬保磁力Hc*との相関関係(第6の関係)、第4の比χr */χH *と擬保磁力Hc*との相関関係(第7の関係)及び第5の比χrev */χmax *と擬保磁力Hc*との相関関係(第8の関係)はいずれも、変形応力σに敏感であり、それら相関関係により、オーステナイト系ステンレス鋼の経年劣化を評価できることが分かる。
【0043】
しかも、上記した第2の比WR/WF、第3の比Br*/Bm*、第4の比χr */χH *および第5の比χrev */χmax *のような物理量の比は、マルテンサイト相の量に依存しない。従って、マルテンサイト相の飽和磁化Msを直接求めるための104[Oe]以上の磁界強度Hを必要とせず、上述したような簡便的な方法によらなくても非破壊検査の行う際の困難性を伴うことがない。
【0044】
さらに、図17〜図24に示した、第2の比WR/WFと擬保磁力Hc*との相関関係(第5の関係)、第3の比Br*/Bm*と擬保磁力Hc*との相関関係(第6の関係)、第4の比χr */χH *と擬保磁力Hc*との相関関係(第7の関係)及び第5の比χrev */χmax *と擬保磁力Hc*との相関関係(第8の関係)の関係線図から分かるように、図示の関係線図全体を測定により求めなくとも、以下に示すようにして経年劣化を評価することができる。
【0045】
即ち、図25,図26は、上記図17,図18において、擬保磁力Hc*=一定としたときの、第2の比WR/WFと変形応力σとの関係(第9の関係)を示す。図27,図28は、上記図19,図20において、擬保磁力Hc*=一定としたときの、第3の比Br*/Bm*と変形応力σとの関係(第10の関係)を示す。図29,図30は、上記図21,図22において、擬保磁力Hc*=一定としたときの、第4の比χr */χH *と変形応力σとの関係(第11の関係)を示す。図31,図32は、上記図23,図24において、擬保磁力Hc*=一定としたときの、第5の比χrev */χmax *と変形応力σとの関係(第12の関係)を示す。
【0046】
上記図25及び図26では、擬保磁力Hc*=10又は20[Oe]のときの関係線図から、例えば破断直前の変形応力σ(図25ではσ=543[MPa]、図26ではσ=608[MPa])における第2の比WR/WFの値と、被測定対象について測定して求めた第2の比WR/WFの値とを比較することで、オーステナイト系ステンレス鋼の経年劣化の状態を知ることができる。
【0047】
また、上記した第2の比WR/WFと同様に、図27及び図28に示した関係線図から第3の比Br*/Bm*の値を比較することで、図29及び図30に示した関係線図から第4の比χr */χH *を比較することで、図31及び図32に示した関係線図から第5の比χrev */χmax *を比較することで、いずれもオーステナイト系ステンレス鋼の経年劣化の状態を知ることができる。
【0048】
このことから、上記負荷応力σは、オーステナイト相がマルテンサイト相に変化する要因となる内部要因(内部応力)に置き換えることができることから、先に説明した第1の比Ms/χH *と同様に、擬保磁力Hc*と第2の比WR/WFとの相関関係、擬保磁力Hc*と第3の比Br*/Bm*との相関関係、擬保磁力Hc*と第4の比χr */χH *との相関関係及び擬保磁力Hc*と第5の比χrev */χmax *との相関関係と、内部要因(内部応力)との間には密接な相関があることが本願発明者の研究により明らかになった。
【0049】
また、第2の比WR/WFと擬保磁力Hc*との相関関係、第3の比Br*/Bm*と擬保磁力Hc*との相関関係、擬保磁力Hc*と第4の比χr */χH *との相関関係及び擬保磁力Hc*と第5の比χrev */χmax *との相関関係は、材料の化学組成によっても異なることから、かかる相関関係によって材料の種類を識別することもできる。
【0050】
さらに、前述したように、オーステナイト系ステンレス鋼の塑性変形によって導入されたマルテンサイト相内では金属疲労が進むに従い転位密度が高くなり、マルテンサイト相内での磁壁も転位密度の増加に伴い動き難くなる。ヒステリシス・マイナーループの解析から得られる物理量は全て磁壁移動に関係した量であることから、これらの物理量から転位密度などの金属疲労の程度の情報を得ることができる。
【0051】
ここに、ヒステリシス・マイナーループで囲まれた部分の面積である擬ヒステリシス損失WFは、磁壁移動が非可逆的に起こるときに仕事が熱エネルギーに変化した量を表し、先の第1の比Ms/χH *と同様に、磁壁移動の障害物となる転位に関係した量である。また、ヒステリシス・マイナーループで囲まれた部分の面積のうち、磁束密度B>0かつ磁界強度H<0の部分の面積である擬レマネンス損失WRは、磁界強度Hがゼロから擬保磁力Hc*までの間で磁壁が移動する際に、仕事が熱エネルギーに変化した量を表す。それゆえ、最大磁界HMAXを変化させて第2の比WR/WFの値を求めることにより得られた相関関係により磁壁移動のポテンシャルエネルギーの全体像を捕らえることができる。
【0052】
また、擬残留磁束密度Br*は磁壁が最大磁界HMAX以内で移動する際に、磁界強度Hがゼロのときの磁壁が障害物によって止められることによる残留磁化を表し、その擬残留磁束密度Br*における磁化率χr *は磁壁を止めている力を表す。また、最大磁界HMAXにおける二つの磁化率χrev *、χmax *のうち、前者であるχrev *は、可逆磁化率と呼ばれ、磁界を減少させたときの磁化率を表し、後者であるχmax *は、磁界を増加させたときの磁化率を表す。これら磁化率χrev *、χmax *は、最大磁界HMAX付近で磁壁が移動する際に受ける力を表し、磁界強度Hを増加させる際の力は磁化率χmax *に対応し、磁界強度Hを減少させる際の力は磁化率χrev *に対応する。
【0053】
従って、評価情報取得工程で、第2の比WR/WFと擬保磁力Hc*との関係である第5の関係(図17,18参照)、第3の比Br*/Bm*と擬保磁力Hc*との関係である第6の関係(図19,20参照)、第4の比χr */χH *と擬保磁力Hc*との関係である第7の関係(図21,22参照)及び第5の比χrev */χmax *と擬保磁力Hc*との関係である第8の関係(図23,24参照)の少なくとも一つを得る。そして、評価情報取得工程で得られた相関関係に基づいて、測定工程で、擬保磁力Hc*の値と、第2の比WR/WF、第3の比Br*/Bm*、第4の比χr */χH *及び第5の比χrev */χmax *のうち、評価情報取得工程で得た物理量の相関関係に用いられる物理量の値とを物理量の測定値として求める。そして、評価情報取得工程で得た物理量の相関関係に基づいて、測定工程で得られた、物理量の測定値から、測定対象のオーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化を評価することにより、マルテンサイト相での磁壁が受ける力の大きさ及びその分布を求めることができる。このことから、経年劣化の原因である様々な格子欠陥の形態を識別し、それらの量を定量化することができる。従って、かかる測定方法によれば、物理量の相関関係の関係線図に基づいて、オーステナイト系ステンレス鋼構造材の経年劣化の状態としてその経年劣化の原因である格子欠陥の種類とその量とをより詳しく計測し得て、より詳細に材料の経年劣化を正確かつ総合的に評価することができる。
【0054】
なお、擬保磁力Hc*、擬ヒステリシス損失WF、擬レマネンス損失WR、擬保磁力Hc*における擬磁化率χH *、擬残留磁束密度Br*、擬残留磁束密度Br*における擬磁化率χr *、擬保磁力Hc*における擬磁化率χH *、最大磁界HMAXにおける二つの磁化率χrev *,χmax *は、すべて材料の特性に関する磁気的な量であるので、これら物理量で表される関係は、最大磁界HMAXのような外部変数が陽に含まれておらず、材料の内部因子だけの関係である。従って、かかる物理量で表される関係は格子欠陥を含めた材料内部の物性の情報を与えるもので外部変数に依らない。
【0055】
さらに、上記した測定方法から、例えば、上記図25〜図32に示すように、上記第5の関係、第6の関係、第7の関係、第8の関係及び第9の関係の少なくとも一つの物理量の相関関係から、さらに、或一定の前記擬保磁力Hc*における、第2の比WR/WFと負荷応力σとの関係である第9の関係、或一定の擬保磁力Hc*における、第3の比Br*/Bm*と負荷応力σとの関係である第10の関係、或一定の擬保磁力Hc*における、第4の比χr */χH *と負荷応力σとの関係である第11の関係、及び或一定の擬保磁力Hc*における、第5の比χrev */χmax *と負荷応力σとの関係である第12の関係の少なくとも一つの関係を得る。そして、評価工程で、評価情報取得工程関係で得た関係から、オーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化の状態を評価することとしても良い。
【0056】
このようにすれば、測定工程で、測定対象の、第2の比WR/WF、第3の比Br*/Bm*、第4の比χr */χH *、第5の比χrev */χmax *の値を測定により求めることで、経年劣化前の状態と亀裂発生時の状態との間での負荷応力σの値を定量的に求めることができるので、経年劣化の進行の程度や寿命予測がさらに正確にできる。また、先に説明した情報取得工程により、負荷応力σの値から転位密度の変化を知ることができる。
【0057】
加えて、擬保磁力Hc*、擬ヒステリシス損失WF、擬レマネンス損失WR、擬保磁力Hc*における擬磁化率χH *、擬残留磁束密度Br*、擬残留磁束密度Br*における擬磁化率χr *、擬保磁力Hc*における擬磁化率χH *、最大磁界HMAXにおける二つの磁化率χrev *,χmax *は、転位などの格子欠陥に敏感な物理量であり、それらいずれの物理量も測定にて得られるヒステリシス・マイナーループから求めることができる。又同時に、これらの物理量はマルテンサイト相の量にも依存するが、マルテンサイト相の量に関する効果はこれらの物理量の比を取ることで取り除くことができる。
【0058】
従って、本発明のオーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化に対する非破壊測定方法によれば、従来から一般的に行われているヒステリシスループは磁化が完全に飽和するまで磁界を外部から加える必要があるのに対して、本発明において行われる測定では、磁化が完全に飽和するまで磁界を外部から加える必要がなく、小さな外部磁界でヒステリシス・マイナーループを得ることができる。その上、測定装置を構成する観点からも、ヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験を行う本発明の測定方法の方が、ヒステリシスループ磁化特性試験を行う従来の一般的な測定方法よりも、測定装置を簡易に構成することができて有利である。
【0059】
なお、ヒステリシスループを得るためには、磁化が完全に飽和するまで外部から磁界を加えるため、これにより得られる物理量は外部磁界に依存しない量である。これに対して、本発明の測定方法では、外部磁界の強さの変化に伴い変化するヒステリシス・マイナーループを得る。従って、これにより得られる物理量(擬保磁力Hc*、擬ヒステリシス損失WF、擬レマネンス損失WR、擬保磁力Hc*における擬磁化率χH *、擬残留磁束密度Br*、擬残留磁束密度Br*における擬磁化率χr *、擬保磁力Hc*における擬磁化率χH *、最大磁界HMAXにおける二つの磁化率χrev *,χmax *)は外部磁界に応じて変化する。
【0060】
このため、ヒステリシス・マイナーループを測定する際に、反磁界や漏れ磁場の効果を考慮し、内部磁界の値を正確に求める必要がある。しかし、それら物理量の相関関係である、第2の比WR/WFと擬保磁力Hc*との関係である第5の関係(図17,18参照)、第3の比Br*/Bm*と擬保磁力Hc*との関係である第6の関係(図19,20参照)、第4の比χr */χH *と擬保磁力Hc*との関係である第7の関係(図21,22参照)及び第5の比χrev */χmax *と擬保磁力Hc*との関係である第8の関係(図23,24参照)は、先に述べたように、外部磁界の強さHは直接入っておらず、材料特有のものである。それゆえ、本発明の非破壊検査に適用する場合には、必ずしも内部磁界の値が必要となるわけではない。
【0061】
従来のヒステリシスループにより得られる飽和磁化、保磁力、残留磁束密度、磁化率はマルテンサイト相の量及び形状に大きく依存し、材料内部の格子欠陥に関する情報を取り出すことができない。それに対して、ヒステリシス・マイナーループから得られる、第2の比WR/WFと擬保磁力Hc*との関係(第5の関係)、第3の比Br*/Bm*と擬保磁力Hc*との関係(第6の関係)、第4の比χr */χH *と擬保磁力Hc*との関係(第7の関係)及び第5の比χrev */χmax *と擬保磁力Hc*との関係(第8の関係)を用いた、本発明の測定方法は従来の測定方法において飽和磁化等の値を比較するよりも、情報の質及び量、感度や精度の面で優れていることが本願発明者の研究により分かった。
【0062】
このように、第2の比WR/WFと擬保磁力Hc*との関係(第5の関係)、第3の比Br*/Bm*と擬保磁力Hc*との関係(第6の関係)、第4の比χr */χH *と擬保磁力Hc*との関係(第7の関係)及び第5の比χrev */χmax *と擬保磁力Hc*との関係(第8の関係)は、飽和磁化Msの値を必要としないため、先に説明したように、第1の比Ms/χH *において説明したような簡便的な方法によらなくても非破壊検査の行う際の困難性を伴うことがない。
【0063】
【発明の実施の形態】
以下に、この発明の実施の形態を、実施例によって図面に基づき詳細に説明する。図33は、この発明のオーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化に対する非破壊測定方法の第1実施例を示す説明図である。図中符号1は、何らかの材料の劣化が存在しているオーステナイト系ステンレス鋼構造材によって構成された被測定オーステナイト系ステンレス鋼構造体(以下、被測定構造体という。)、2は励磁巻線、3は磁束検出巻線、4はそれらの巻線が巻かれた磁気ヨークである。ここでは、図33に示すように、励磁巻線2と磁束検出巻線3とを直接巻けない形状の被測定構造体1に対し、励磁巻線2と磁束検出巻線3とを有する磁気ヨーク4を密着させ、磁気閉回路5を形成する。6は、上記励磁巻線2と磁束検出巻線3とが接続されたヒステリシス・マイナーループ磁化特性測定装置であり、このヒステリシス・マイナーループ磁化特性測定装置6には、一般の市販品を用いることができる。また7は、この実施例を実施した結果として、ヒステリシス・マイナーループ磁化特性測定装置6に表示される、被測定構造体1のヒステリシス・マイナーループ磁化特性である。
【0064】
なお、本実施例で測定する被測定構造体1は、200℃以下の温度での使用により経年劣化したものであり、その経年劣化によりマルテンサイト変態を起こしてオーステナイト相の一部がマルテンサイト相に変化している。
【0065】
上記ヒステリシス・マイナーループ磁化特性測定装置6によれば、測定工程で被測定構造体1を測定するに際しては、励磁巻線2に励磁電流が供給され、このとき磁束検出巻線3に誘起した電圧が、ヒステリシス・マイナーループ磁化特性測定装置6に導かれて増幅積分され、その結果ヒステリシス・マイナーループ磁化特性7が得られる。このヒステリシス・マイナーループ磁化特性7を対象ヒステリシス・マイナーループとしてこれから、擬保磁力HC *およびその点での擬磁化率χH *を求めることができる(上記図4参照)。
【0066】
上述した測定により得られたヒステリシス・マイナーループ磁化特性7は、被測定構造体1の内部での3次元的磁路の広がりや反磁界係数の影響による誤差を含んだものである。ゆえに、この誤差を除去したヒステリシス・マイナーループ磁化特性を得るための補正係数を求める必要があるが、この補正係数は、既知の静磁界解析手法を用いた計算機実験あるいは実測定体系を模擬したモックアップ実験により前もって求めておくことができる。
【0067】
上記測定工程で求めた擬保磁力Hc*及び第1の比Ms/χH *の値から被測定構造体1の強度の経年劣化を評価するに際しては、評価情報取得工程で、あらかじめ、被測定構造体1と同じ材料のテストピースについて、200℃以下の温度で引張試験を行い応力と歪との関係を得る。そのテストピースに、得られた応力と歪との関係に応じて値を変化させた負荷応力σを与えて、磁界強度Hが5[Oe]から100[Oe]までの間で、最大磁界HMAXを1[Oe]毎に段階的に変化させて測定する。その測定の都度得られた基準ヒステリシス・マイナーループから、第1の関係である擬保磁力Hc*と最大磁界HMAXとの関係(上記図6,図7参照)および、第2の関係である第1の比Ms/χH *と最大磁界HMAXとの関係を求め(上記図8,図9参照)、それら関係から、第3の関係の関係である、例えば図34に示すような擬保磁力Hc*と第1の比Ms/χH *との関係をプロットして求めておく。
【0068】
そして、評価工程で、測定工程で得られた被測定構造体1の擬保磁力Hc*及び第1の比Ms/χH *の値と、図34に示す第3の関係とを比較することで、被測定構造体1の強度の経年劣化の状態が定量的に調べられる。なお、図34では、変形応力σの増加とともに、曲線a→曲線b→曲線c→曲線dと関係が変化し、最終的に曲線dで破断する。
【0069】
さらに、上記で求めた被測定構造体1の擬保磁力Hc*と第1の比Ms/χH *との関係と、被測定構造体1の初期状態及び、亀裂発生時又は破壊時の擬保磁力Hc*と第1の比Ms/χH *との関係を比較するために、例えば上記図15及び図16でHc*=4[Oe]として求めたのと同様にして、図35に示すように、Hc*=一定での変形応力(負荷応力)σと第1の比Ms/χH *との関係を求める。そして、被測定構造体1についてヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験を行って求めておいた、所定の擬保磁力Hc*における第1の比Ms/χH *の値を測定値として図35中にプロットすることで、経年劣化を受けている被測定構造体1の実質的な内部応力(変形応力σ)を求めることができる。
【0070】
即ち、上記図35の関係線図に測定値をプロットすることにより、始点(初期状態)及び亀裂発生点との差δi,δfを求めることができる。ここでのδiは初期状態から測定時点までの第1の比Ms/χH *の変化量であって、材料がこれまでに受けた経年劣化の度合いを表す。またここでのδfは測定時点から亀裂発生までに見込まれる第1の比Ms/χH *の変化量であって余寿命、即ち、現状(測定時点)から材料に亀裂が発生するまでの期間を表す。それらδi,δfは被測定構造体1の強度の経年劣化の程度を示すパラメータとなることから、それらの値により、被測定構造体1の強度の経年劣化の程度を非破壊的に測定することができる。
【0071】
上述したように、本実施例のオーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化の非破壊測定方法にあっては、評価情報取得工程で、被測定構造体1と同種のオーステナイト系ステンレス鋼の試料について得た、擬保磁力Hc*と最大磁界HMAXとの関係である第1の関係(例えば上記図6,図7に示す関係)及び、第1の比Ms/χH *と最大磁界HMAXとの関係である第2の関係(例えば上記図8,図9に示す関係)から、第1の比Ms/χH *と擬保磁力Hc*との関係である図17に示す第3の関係を得ている。そして、評価工程で、その第3の関係から、第1の比Ms/χH *と負荷応力(変形応力)σとの関係である図35に示す第4の関係を得て、その第4の関係から、被測定構造体1の経年劣化の状態を評価している。
【0072】
これにより、測定工程で得られた、測定対象のオーステナイト系ステンレス鋼構造材の第1の比Ms/χH *と擬保磁力Hc*との関係と、上記第1の関係及び第2の関係とを評価することで、オーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化の原因であってその経年劣化の状態を評価する上で重要である格子欠陥の種類及びその量をより詳しく計測させ得て、より詳細かつ正確に材料の強度の経年劣化の状態の総合的な評価をすることができる。
【0073】
従って、本実施例のオーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化に対する非破壊測定方法によれば、小さい磁界強度Hの範囲内で測定するヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験により得られたヒステリシス・マイナーループ磁化特性7を計測して上記第1の関係及び第2の関係を得ることにより、オーステナイト系ステンレス鋼構造材で構成される、原子炉配管や化学プラントなど全ての構造物の強度の経年劣化の程度を、亀裂が発生する前段階での転位密度及びその分布の変化から非破壊的に正確に検査でき、なおかつ、小型の磁気ヨークと励磁電源とを具える簡易な装置を構成することで、試料及び被測定構造体1の測定を行うことができる。
【0074】
さらに本実施例の測定方法では、前述したように、評価情報取得工程で、第1の関係および第2の関係から、第1の比Ms/χH *と擬保磁力Hc*との関係である図34に示す第3の関係を得ている。これにより、この第3の関係で表された図34に示す関係線図が磁壁移動のポテンシャルエネルギーの形状及び大きさを示すので、この関係線図に基づいて測定対象の経年劣化をより正確かつ容易に評価することができる。
【0075】
なお、第1の比Ms/χH *及び擬保磁力Hc*はどちらも材料の特性に関する磁気的な量であるので、第1の比Ms/χH *と擬保磁力Hc*とで表される関係は、最大磁界HMAXのような外部変数が含まれておらず、材料の内部因子だけの関係である。従って、第1の比Ms/χH *と擬保磁力Hc*とで表される関係は格子欠陥を含めた材料内部の物性の情報を与えるもので外部変数やマルテンサイト相の量に依らない。
【0076】
しかも、本実施例の測定方法では、前述したように、評価情報取得工程で、図34に示す第3の関係から、第1の比Ms/χH *と負荷応力σとの関係である図35に示す第4の関係を得て、評価工程で、その第4の関係から、被測定構造体1の経年劣化の状態を評価している。
【0077】
これにより、第1の比Ms/χH *の値を測定により求めることで、経年劣化前の状態と亀裂発生時の状態との間での負荷応力σの値を定量的かつ容易に求めることができるので、経年劣化の進行の程度や寿命予測をさらに正確にできる。また、情報取得工程において、負荷応力σと転位密度の変化との相関関係を得ておくことにより、負荷応力σの値から転位密度の変化を知ることもできる。
【0078】
また、図36は、第1実施例の第1変形例において得られる、Hc*=一定での第2の比WR/WFと変形応力(負荷応力)σとの関係(第9の関係)を例示する説明図である。この変形例では、上記第1実施例の物理量の相関関係に変えて、基準ヒステリシス・マイナーループで囲まれた部分の面積である擬ヒステリシス損失WFと基準ヒステリシス・マイナーループで囲まれた部分の面積より求めた擬レマネンス損失WRとの第2の比WR/WFと、磁束密度Bの値がゼロのときの磁界強度Hの値である擬保磁力Hc*との関係である第5の関係とする。そして、測定工程にて測定される物理量の測定値を、擬保磁力Hc*の値と、第2の比WR/WFとする。さらにその第5の関係から、例えば図36に示すような、或一定の擬保磁力Hc*における、第2の比WR/WFと負荷応力σとの関係である第9の関係を得る。そして、その関係線図に基づいて、先に説明した図35に示す関係線図を用いた場合と同様にして、被測定構造体1の強度の経年劣化の情報を評価することができる。
【0079】
また、図37は、第1実施例の第2変形例において得られる、Hc*=一定での第3の比Br*/Bm*と変形応力(負荷応力)σとの関係(第10の関係)を例示する説明図である。この変形例では、上記第1実施例の物理量の相関関係に変えて、磁界強度Hの値がゼロのときの磁束密度Bの値である擬残留磁束密度Br*と最大磁界HMAXのときの磁束密度Bの値である擬磁束密度Bm*との第3の比Br*/Bm*と擬保磁力Hc*との関係である第6の関係とする。そして、測定工程にて測定される物理量の測定値を、擬保磁力Hc*の値と、第3の比Br*/Bm*とする。さらにその第6の関係から、例えば図37に示すような、或一定の擬保磁力Hc*における、第3の比Br*/Bm*と負荷応力σとの関係である第10の関係を得る。そして、その関係線図に基づいて、先に説明した図35に示す関係線図を用いた場合と同様にして、被測定構造体1の強度の経年劣化の情報を評価することができる。
【0080】
図38は、第1実施例の第3変形例において得られる、Hc*=一定での第4の比χr */χH *と変形応力(負荷応力)σとの関係(第11の関係)を例示する説明図である。この変形例では、上記第1実施例の物理量の相関関係に変えて、磁界強度Hの値がゼロのときの磁束密度Bの値である擬残留磁束密度Br*における擬磁化率χr *と擬保磁力Hc*における擬磁化率χH *との比である第4の比χr */χH *と擬保磁力Hc*との関係である第7の関係とする。そして、測定工程にて測定される物理量の測定値を、擬保磁力Hc*の値と、第4の比χr */χH *とする。さらにその第7の関係から、例えば図38に示すような、或一定の擬保磁力Hc*における、第4の比χr */χH *と負荷応力σとの関係である第11の関係を得る。そして、その関係線図に基づいて、先に説明した図35に示す関係線図を用いた場合と同様にして、被測定構造体1の強度の経年劣化の情報を評価することができる。
【0081】
図39は、第1実施例の第4変形例において得られる、Hc*=一定での第5の比χrev */χmax *と変形応力(負荷応力)σとの関係(第12の関係)を例示する説明図である。この変形例では、上記第1実施例の物理量の相関関係に変えて、最大磁界HMAXにおける二つの磁化率のうちの小さい磁化率χrev *と二つの磁化率のうちの大きい磁化率χmax *との比である第5の比χrev */χmax *と擬保磁力(Hc*)との関係である第8の関係とする。そして、測定工程にて測定される物理量の測定値を、擬保磁力Hc*の値と、第5の比χrev */χmax *とする。さらにその第8の関係から、例えば図39に示すような、或一定の擬保磁力Hc*における、第5の比χrev */χmax *と負荷応力σとの関係である第12の関係を得る。そして、その関係線図に基づいて、先に説明した図35に示す関係線図を用いた場合と同様にして、被測定構造体1の強度の経年劣化の情報を評価することができる。
【0082】
上記第1変形例、第2変形例、第3変形例及び第4変形例によれば、第2の比WR/WF、第3の比Br*/Bm*、第4の比χr */χH *および第5の比χrev */χmax *のような物理量の比は、マルテンサイト相の量に依存しない。従って、マルテンサイト相の飽和磁化Msを直接求めるための104[Oe]以上の磁界強度Hを必要とせず、前述したような、100[Oe]程度の磁界強度Hで飽和磁化Msを簡便的に求める方法によらなくても非破壊検査の行う際の困難性を伴うことがない。
【0083】
しかも、擬保磁力Hc*、擬ヒステリシス損失WF、擬レマネンス損失WR、擬保磁力Hc*における擬磁化率χH *、擬残留磁束密度Br*、擬残留磁束密度Br*における擬磁化率χr *、擬保磁力Hc*における擬磁化率χH *、最大磁界HMAXにおける二つの磁化率χrev *,χmax *は、すべて材料の特性に関する磁気的な量であるので、これら物理量で表される関係は、最大磁界HMAXのような外部変数が陽に含まれておらず、材料の内部因子だけの関係である。従って、かかる物理量で表される関係は格子欠陥を含めた材料内部の物性の情報を与えるもので外部変数に依らない。さらにこれらの物理量の比を取ることによりマルテンサイト相の量がこれらの物理量に与える効果を取り除き、材料内部の情報のみを得ることができる。
【0084】
さらに、図36〜図39の関係線図を用いることにより、測定工程で、測定対象の、第2の比WR/WF、第3の比Br*/Bm*、第4の比χr */χH *、第5の比χrev */χmax *の値を測定により求めることで、経年劣化前の状態と亀裂発生時の状態との間での負荷応力σの値を定量的に求めることができるので、経年劣化の進行の程度や寿命予測がさらに正確にできる。また、先に説明した情報取得工程により、負荷応力σの値から転位密度の変化を知ることができる。
【0085】
加えて、擬保磁力Hc*、擬ヒステリシス損失WF、擬レマネンス損失WR、擬保磁力Hc*における擬磁化率χH *、擬残留磁束密度Br*、擬残留磁束密度Br*における擬磁化率χr *、擬保磁力Hc*における擬磁化率χH *、最大磁界HMAXにおける二つの磁化率χrev *,χmax *は、転位などの格子欠陥に敏感な物理量であり、それらいずれの物理量も測定にて得られるヒステリシス・マイナーループから求めることができる。
【0086】
ところで、マルテンサイト相の量の変化に基づく従来の飽和磁化の測定では、200℃以下の温度範囲でも温度の上昇とともに、変態して生じるマルテンサイト相の量が急速に減少するため、転位などの格子欠陥により材料の強度の経年劣化を評価することは困難であった。これに対して、本実施例のオーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化に対する非破壊測定方法では、変態により生じるマルテンサイト相の量に基づかない第1の比Ms/χH *,第2の比WR/WF、第3の比Br*/Bm*、第4の比χr */χH *、第5の比χrev */χmax *を用いた関係で評価ができる。従って、マルテンサイト変態が温度の影響を受ける場合には、本実施例の測定方法による材料の評価が不可欠である。
【0087】
図40は、この発明のオーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化に対する非破壊測定方法の第2実施例を示す説明図である。この実施例では、第1実施例と異なり、何らかの経年劣化を受けている被測定構造体1が、励磁巻線2と磁束検出巻線3とを直接巻ける形状を有していることから、その被測定構造体1に、励磁巻線2と磁束検出巻線3とが直接巻かれている。ここでも、ヒステリシス・マイナーループ磁化特性測定装置6には、先の第1実施例と同様に、一般の市販品を用いることができる。また、7は、この実施例を実施した結果として、ヒステリシス・マイナーループ磁化特性測定装置6に表示されるヒステリシス・マイナーループ磁化特性である。
【0088】
この実施例では、先の第1実施例と同様にして、測定工程で、測定により得られたヒステリシス・マイナーループ磁化特性7を対象ヒステリシス・マイナーループとしてこれから擬保磁力Hc*及び第1の比Ms/χH *の値を求め、評価情報取得工程で、あらかじめ、被測定構造体1と同種の材料のテストピースについて求めておいた、基準ヒステリシス・マイナーループから、先の第1実施例と同様にして、第1の関係である擬保磁力Hc*と最大磁界HMAXとの関係および、第2の関係である第1の比Ms/χH *と最大磁界HMAXとの関係を求め、それら関係から第3の関係である擬保磁力Hc*と第1の比Ms/χH *との関係(先の第1実施例の図34参照)を求めておく。そして、評価工程で、評価情報取得工程で求めておいた擬保磁力Hc*と第1の比Ms/χH *と被測定構造体1の擬保磁力Hc*及び第1の比Ms/χH *の値とを比較することにより、被測定構造体1の実質的な経年劣化の程度を評価できる。
【0089】
さらに、先の第1実施例における図35に示すものと同様に、Hc*=一定での変形応力(負荷応力)σと第1の比Ms/χH *との関係を得て、経年劣化の度合いδi及び余寿命δfを求めることにより、被測定構造体1の強度の経年劣化の程度を非破壊的に測定することができる。
【0090】
従って、第2実施例のオーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化に対する非破壊測定方法によれば、先の第1実施例と同様の効果が得られることに加えて、磁気ヨークを使用しなくても済むことから、測定装置の単純化及び軽量化を図ることができる。
【0091】
ところで、本願発明者は、研究過程において、転位や結晶粒界がマルテンサイト変態を阻止することを見出した。このことから、転位密度の高いところでは外部から大きな変形応力を加えないとマルテンサイト変態を起こし難い一方、転位密度の比較的低いところでは、外部から大きな変形応力を加えなくてもマルテンサイト変態を起こし易いこととなる。しかも、塑性変形が進むに従い、マルテンサイト相内でも転位密度が増加することが分かった。従って、飽和磁化の測定等によるマルテンサイト相の量から経年劣化を求める従来の方法では、転位密度等の経年劣化の内部要因とマルテンサイト相の量とが対応せずに、マルテンサイト相内の転位密度等の測定が困難であることから、正確な経年劣化の測定を行うことはできなかった。
【0092】
これに対して、本発明の上記実施例のオーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化に対する非破壊測定方法によれば、得られた情報はマルテンサイト相の量には依存せず、マルテンサイト相以外の部分の転位密度等の内部要因を測定でき、かつ、マルテンサイト相内の転位密度その他格子欠陥を測定することができるので、より正確にオーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化の測定を行うことができる。
【0093】
また、オーステナイト系ステンレス鋼は、前述のように、塑性変形によりマルテンサイト変態し、常磁性から強磁性に遷移することが知られている。しかし、本願発明者の研究過程において、200℃以上で材料に塑性変形を加えてもマルテンサイト変態を起こさないことが分かった。例えば、オーステナイト系ステンレス鋼を200℃以上で熱間圧延した場合には、材料内に転位密度の高い状態が存在していてもマルテンサイト変態を起こさないために、塑性変形を加える前と区別が付かなくなってしまう。それゆえ、従来の飽和磁化等による測定方法では200℃以上で使用した材料の強度劣化を評価することができない。また、本発明の上記実施例の方法でもマルテンサイト相が全く存在しなければ評価できないことが考えられる。
【0094】
そこで、200℃以上の温度で使用したオーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化の測定に上記実施例の測定方法を適用できるようにするための方法を以下に説明する。
【0095】
オーステナイト系ステンレス鋼のマルテンサイト変態は、例えば、室温から液体窒素温度(77K)に急冷しても起こる。その際、オーステナイト相及びマルテンサイト変態により生じたマルテンサイト相では転位密度の増加は殆ど見られない。従って、変態により生じるマルテンサイト相の量の変化に伴って飽和磁化は増加するところ、上記実施例における第1の比Ms/χH *の関係は変化しない。一方、室温から液体窒素温度(77K)に急冷することにより変態して生じるマルテンサイト相の量はマルテンサイト変態を起こす前のオーステナイト相内の転位密度に大きく関係する。そこで、図41に、オーステナイト系ステンレス鋼に200℃で塑性変形を加えた後に、室温から液体窒素温度(77K)に急冷後、2分間保持したものについてマルテンサイト相の量を測定しその値を示す。横軸は200℃での変形量(歪み)を示す。なお、図41中、白丸でプロットしたものは200℃以上で塑性変形を加えたものについて示し、白正方形でプロットしたものは、200℃以上で塑性変形を加えた後、室温から液体窒素温度(77K)に急冷し、その後2分間保持したものについて示している。なお、図41では、飽和磁化Msの単位を[emu/g(イーエムユー/グラム)]として示し、塑性歪及びマルテンサイト相の量の単位を[%]として示している。
【0096】
図41に示すように、200℃以上で塑性変形を加えた場合、急冷をしないものについてはマルテンサイト変態を殆ど起こさない(図41中、白丸参照)。この一方、200℃以上で塑性変形を加えた後、室温から液体窒素温度(77K)に冷却して2分間保持したものについては、マルテンサイト変態を起こし塑性変形が進み転位密度が高くなるに従い(塑性歪が大きくなるに従い)、変態により生じるマルテンサイト相の量が急激に減少する(図41中、白正方形参照)。これは、転位がマルテンサイト変態を邪魔するように作用するからである。
【0097】
それゆえ、図41に示す関係を利用することにより、200℃以上で使用したオーステナイト系ステンレス鋼構造材及びそれを用いた構造体についての経年劣化の非破壊検査を行うことが可能である。具体的には、測定工程を行う前に、200℃以上で使用した被測定構造体1の測定部分を液体窒素温度(77K)に急冷するという急冷工程を行う。そして測定工程で、先の第1及び第2実施例と同様に、被測定構造体1についてヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験を行い、得られた対象ヒステリシス・マイナーループから第1〜第4の関係を適宜得るとともに、急冷工程での急冷により変態して生じたマルテンサイト相の量を測定してそのマルテンサイト相の量からオーステナイト相内の転位密度を計算する。なお、転位密度が比較的小さいときには、急冷により変態して生じるマルテンサイト相の量は比較的大きいが、塑性変形が進み転位密度が高くなると、急冷により変態して生じるマルテンサイト相の量が少なくなる。
【0098】
なお、被測定構造体1の測定部分を液体窒素温度に急冷するという急冷工程を行い、図41の関係から飽和磁化Msを測定しても内部応力(転位密度)が求まる。その場合、飽和磁化Msは104[Oe]の磁界を加えなくても図14の関係から簡易的に求めることができる。
【0099】
このことから、上記実施例の測定方法において200℃以上で使用した被測定構造体1の経年劣化を測定する場合には、その被測定構造体1の測定部分を室温から液体窒素温度(77K)に急冷してマルテンサイト変態によりマルテンサイト相を生じさせ、そのマルテンサイト相についてヒステリシス・マイナーループ磁化測定試験を行う。そしてこれにより得られた対象ヒステリシス・マイナーループから先の第1及び第2実施例と同様にして、変形応力σと第1の比Ms/χH *との関係等を得て、その関係に基づき材料の経年劣化を評価することができる。
【0100】
なお、急冷により変態して生じるマルテンサイト相の量は、転位密度、結晶粒界等の格子欠陥のほかにニッケルやクロムのような化学成分に依存する。従って、この方法を実施する際には、予め被測定構造体1と同種のテストピースを用いて、急冷により変態して生じるマルテンサイト相の量と歪(又は応力)との関係のデーターベースを求めておくことが必要となる。
【0101】
また、オーステナイト系ステンレス鋼を急冷してマルテンサイト変態によりマルテンサイト相を生じさせることは、厳密な意味では非破壊検査方法の理念から反するようにも思われる。しかし、経年劣化の測定後に、600℃〜700℃程度の温度で短時間(数分間)熱処理をすることにより、マルテンサイト相をオーステナイト相に回復させることができる。従って、200℃以上で使用したオーステナイト系ステンレス鋼の経年劣化の測定においても、材料の熱処理による影響が無視できるような場合には上記熱処理を行うことで先の第1及び第2実施例の測定方法が適用でき、非常に有効である。
【0102】
なお、材料の経年劣化は、一般的に、構造材全体について巨視的な意味で均一に進行すると考えられている。それゆえ、経年劣化の測定は被測定構造体1全体の経年劣化を測定することは一般的に必要とされず、部分的に経年劣化を測定すれば十分である。従って、200℃以上で使用した被測定構造体1の強度の経年劣化の測定においては、部分的に急冷、測定及び回復を行えば十分である。しかし、負荷応力が部分的に大きくなる場合もあり得る。そのような場合にも適用可能なように、いくつかの観測点を決め、それらの観測点を局部的に急冷して測定し、測定後にその部分を回復させることで、構造材全体の経年劣化の情報を得ることができる。
【0103】
従って、本発明のオーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化に対する非破壊測定方法における上記第1及び第2実施例の構成によれば、磁気ヨークと励磁電源とで非破壊測定が可能であって、しかもオーステナイト系ステンレス鋼構造材の強度の経年劣化の高感度な非破壊測定を行うことができる。
【0104】
なお、本実施例においても、先の第1実施例で説明した第1変形例、第2変形例、第3変形例及び第4変形例における関係線図を適用することができる。
【0105】
以上、図示例に基づき説明したが、この発明は上述の例に限定されるものではない。例えば、上記実施例では、オーステナイト系ステンレス鋼としてSUS304を用いたが、本発明の測定方法で経年劣化を測定できるオーステナイト系ステンレス鋼はSUS304に限られるものではなく、例えばSUS316についても、SUS304と同様にして実験を行った結果、本発明の測定方法で経年劣化を測定できることが確認できた。また、上記実施例では構造体について測定したが、構造体用の構造材料についても測定し得ることは言うまでもない。さらに、この発明の方法の各工程を実施する手段を組み合わせて、経年劣化測定装置を構成することができるのはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 (a)は引張変形を加えた試料の形状を示す斜視図であり、(b)はヒステリシス・マイナーループ磁化特性を測定した際の試料の形状を示す斜視図である。
【図2】 高いニッケル成分のオーステナイト系ステンレス鋼H−SUS304の引張試験の結果を例示する応力−歪特性を示す説明図である。
【図3】 標準のオーステナイト系ステンレス鋼S−SUS304の引張試験の結果を例示する応力−歪特性を示す説明図である。
【図4】 ヒステリシス・マイナーループにおいて、擬保磁力Hc*、最大磁界HMAX、擬磁化率χH *を例示して説明する説明図である。
【図5】 ヒステリシス・マイナーループにおいて、擬ヒステリシス損失WF、擬レマネンス損失WR、擬磁化率χr *,χrev *,χmax *を例示して説明する説明図である。
【図6】 負荷応力(変形応力)σ=351,438,495,534[MPa]を加えた後のH−SUS304についてヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験により得られた擬保磁力Hc*と最大磁界HMAXとの関係を示す説明図である。
【図7】 負荷応力(変形応力)σ=375,488,557,608[MPa]を加えた後のS−SUS304についてヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験により得られた擬保磁力Hc*と最大磁界HMAXとの関係を示す説明図である。
【図8】 負荷応力(変形応力)σ=351,438,495,534[MPa]を加えた後のH−SUS304についてヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験により得られた第1の比Ms/χH *と最大磁界HMAXとの関係を示す説明図である。
【図9】 負荷応力(変形応力)σ=375,488,557,608[MPa]を加えた後のS−SUS304についてヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験により得られた第1の比Ms/χH *と最大磁界HMAXとの関係を示す説明図である。
【図10】 上記図6及び図8に示す関係から得られた、H−SUS304についての擬保磁力Hc*と第1の比Ms/χH *との関係を示す説明図である。
【図11】 上記図7及び図9に示す関係から得られた、S−SUS304についての擬保磁力Hc*と第1の比Ms/χH *との関係を示す説明図である。
【図12】 上記図10に示す、H−SUS304についての擬保磁力Hc*と第1の比Ms/χH *との関係を、擬保磁力Hc*が0〜20[Oe]の範囲で拡大して示す部分拡大図である。
【図13】 上記図11に示す、S−SUS304についての擬保磁力Hc*と第1の比Ms/χH *との関係を、擬保磁力Hc*が0〜20[Oe]の範囲で拡大して示す部分拡大図である。
【図14】 塑性変形を加えたオーステナイト系ステンレス鋼H−SUS304及びS−SUS304の試料について、3T(=3×104[Oe])の強い磁界強度Hで測定して得られた飽和磁化Ms[gauss]と、100[Oe],50[Oe]の磁界強度Hで測定して得られた磁化M100[gauss],磁化M50[gauss]との関係を示す説明図である。
【図15】 上記図12に示すH−SUS304についての、擬保磁力Hc*=4[Oe]における公称応力(負荷応力σ)と第1の比Ms/χH *との関係を示す説明図である。
【図16】 上記図13に示すS−SUS304についての、擬保磁力Hc*=4[Oe]における公称応力(負荷応力σ)と第1の比Ms/χH *との関係を示す説明図である。
【図17】 オーステナイト系ステンレス鋼H−SUS304の第2の比WR/WFと擬保磁力Hc*との関係についての変形応力依存性を示す関係線図である。
【図18】 オーステナイト系ステンレス鋼S−SUS304の第2の比WR/WFと擬保磁力Hc*との関係についての変形応力依存性を示す関係線図である。
【図19】 オーステナイト系ステンレス鋼H−SUS304の第3の比Br*/Bm*と擬保磁力Hc*との関係についての変形応力依存性を示す関係線図である。
【図20】 オーステナイト系ステンレス鋼S−SUS304の第3の比Br*/Bm*と擬保磁力Hc*との関係についての変形応力依存性を示す関係線図である。
【図21】 オーステナイト系ステンレス鋼H−SUS304の第4の比χr */χH *と擬保磁力Hc*との関係についての変形応力依存性を示す関係線図である。
【図22】 オーステナイト系ステンレス鋼S−SUS304の第4の比χr */χH *と擬保磁力Hc*との関係についての変形応力依存性を示す関係線図である。
【図23】 オーステナイト系ステンレス鋼H−SUS304の第5の比χrev */χmax *と擬保磁力Hc*との関係についての変形応力依存性を示す関係線図である。
【図24】 オーステナイト系ステンレス鋼S−SUS304の第5の比χrev */χmax *と擬保磁力Hc*との関係についての変形応力依存性を示す関係線図である。
【図25】 オーステナイト系ステンレス鋼H−SUS304の擬保磁力Hc*=10及び20[Oe]における第2の比WR/WFと変形応力σとの関係を示す関係線図である。
【図26】 オーステナイト系ステンレス鋼S−SUS304の擬保磁力Hc*=10及び20[Oe]における第2の比WR/WFと変形応力σとの関係を示す関係線図である。
【図27】 オーステナイト系ステンレス鋼H−SUS304の擬保磁力Hc*=10及び20[Oe]における第3の比Br*/Bm*と変形応力σとの関係を示す関係線図である。
【図28】 オーステナイト系ステンレス鋼S−SUS304の擬保磁力Hc*=10及び20[Oe]における第3の比Br*/Bm*と変形応力σとの関係を示す関係線図である。
【図29】 オーステナイト系ステンレス鋼H−SUS304の擬保磁力Hc*=20[Oe]における第4の比χr */χH *と変形応力σとの関係を示す関係線図である。
【図30】 オーステナイト系ステンレス鋼S−SUS304の擬保磁力Hc*=10及び20[Oe]における第4の比χr */χH *と変形応力σとの関係を示す関係線図である。
【図31】 オーステナイト系ステンレス鋼H−SUS304の擬保磁力Hc*=10及び20[Oe]における第5の比χrev */χmax *と変形応力σとの関係を示す関係線図である。
【図32】 オーステナイト系ステンレス鋼S−SUS304の擬保磁力Hc*=10及び20[Oe]における第5の比χrev */χmax *と変形応力σとの関係を示す関係線図である。
【図33】 本発明のオーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化に対する非破壊測定方法の第1実施例を示す説明図である。
【図34】 上記第1実施例において得られる、擬保磁力Hc*と第1の比Ms/χH *との関係を例示する説明図である。
【図35】 上記第1実施例において得られる、Hc*=一定での第1の比Ms/χH *と変形応力(負荷応力)σとの関係(第4の関係)を例示する説明図である。
【図36】 上記第1実施例の第1変形例において得られる、Hc*=一定での第2の比WR/WFと変形応力(負荷応力)σとの関係(第9の関係)を例示する説明図である。
【図37】 上記第1実施例の第2変形例において得られる、Hc*=一定での第3の比Br*/Bm*と変形応力(負荷応力)σとの関係(第10の関係)を例示する説明図である。
【図38】 上記第1実施例の第3変形例において得られる、Hc*=一定での第4の比χr */χH *と変形応力(負荷応力)σとの関係(第11の関係)を例示する説明図である。
【図39】 上記第1実施例の第4変形例において得られる、Hc*=一定での第5の比χrev */χmax *と変形応力(負荷応力)σとの関係(第12の関係)を例示する説明図である。
【図40】 本発明のオーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化に対する非破壊測定方法の第2実施例を示す説明図である。
【図41】 200℃で塑性変形を加えたオーステナイト系ステンレス鋼を、室温から液体窒素温度(77K)に急冷後2分間保持したものについて、塑性歪[%]と飽和磁化Ms[emu/g]とマルテンサイト相の量[%]との関係を示す説明図である。
【符号の説明】
1 被測定構造体
2 励磁巻線
3 磁束検出巻線
4 磁気ヨーク
5 磁気閉回路
6 ヒステリシス・マイナーループ磁化特性測定装置
7 ヒステリシス・マイナーループ磁化特性
【発明の属する技術分野】
この発明は、オーステナイト系ステンレス鋼構造材またはそれを用いたオーステナイト系ステンレス鋼構造体の経年による材料強度の劣化を非破壊的に測定し、定量的に求める方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
オーステナイト系ステンレス鋼は塑性変形により常磁性から強磁性に変態する事が半世紀以上前から知られている。この現象を利用した非破壊測定方法が米国、ドイツ、日本等で試みられている。その結果、オーステナイト系ステンレス鋼構造材またはそれを用いたオーステナイト系ステンレス鋼構造体の経年の金属疲労による材料強度の劣化(以下、強度の経年劣化という。)を非破壊的に測定する方法として、従来、オーステナイト系ステンレス鋼の塑性変形により変化したマルテンサイト相についてフェライトメータ等の測定器を用いて飽和磁化を測定することにより、強度の経年劣化を測定する方法が一般的に知られている。また、オーステナイト相から塑性変形によりマルテンサイト相へ変化するのに伴って測定対象の透磁率も変化することからその透磁率の変化に基づいて材料の疲労度(強度の経年劣化)を測定する方法も知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】
特開平8−248004号公報
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の、飽和磁化や透磁率等の磁気特性からオーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化を測定する方法によると、一義的に内部要因(内部応力)の情報を得ることはできなかった。即ち、上記従来の強度の経年劣化に対する非破壊測定方法では、加工によりマルテンサイト変態が起こることを利用して、オーステナイト相から変化するマルテンサイト相の量を変化させるために、マルテンサイト変態を起こす外部要因(外部応力、温度)の量(例えば上記特許文献1では繰り返し負荷の回数)を変化させて磁化測定を行って基準データを得て、その基準データに基づいて被測定対象の強度の経年劣化を非破壊的に評価するものであった。
【0005】
上記マルテンサイト変態は色々な要因によって起こり、外部要因(外部応力、温度)だけでなく内部要因(内部応力、化学組成)もマルテンサイト変態が起きる要因となる。しかし、経年劣化を評価するパラメータとして従来用いられてきた飽和磁化や透磁率等の磁気特性は、上記外部要因の量の変化に伴って変化するマルテンサイト相の量に応じて変化するものであり、強度の経年劣化の原因となる内部要因(内部応力)と必ずしも一対一の関係にならない。従って、上記従来の飽和磁化や透磁率等の磁気特性によるオーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化に対する非破壊測定方法では、材料内部の転位などの格子欠陥の情報を正確に得ることは出来なかった。
【0006】
そこで、本発明は、オーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化の原因となる転位などの格子欠陥を、定量的かつ非破壊的に測定する測定方法を提案することにより、オーステナイト系ステンレス鋼の使用当初から経年劣化して亀裂が発生するまでの間の非破壊検査を行うことができ、しかも亀裂発生時及び亀裂発生箇所等を詳細に特定することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段およびその作用・効果】
この発明は、オーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化を定量的かつ非破壊で測定する非破壊測定方法において、評価情報取得工程と、測定工程と、評価工程とを具えてなる。
【0008】
上記評価情報取得工程は、あらかじめ、測定対象のオーステナイト系ステンレス鋼と同種のオーステナイト系ステンレス鋼について、引張試験を行い応力と歪との関係を得て、前記同種のオーステナイト系ステンレス鋼に、前記応力と歪との関係に応じて値を変化させた負荷応力σを与えて測定して得た基準ヒステリシス・マイナーループから、オーステナイト系ステンレス鋼の経年劣化の評価情報となる物理量の相関関係(例えば、後述する、磁束密度Bの値がゼロのときの磁界強度Hの値である擬保磁力Hc*と材料に印加する磁界強度Hの最大値HMAXとの関係である第1の関係および、飽和磁化Msと擬保磁力Hc*における基準ヒステリシス・マイナーループの傾きである擬磁化率χH *との第1の比Ms/χH *と、磁界強度Hの最大値HMAXとの関係である第2の関係)を得ておくものである。
【0009】
上記測定工程は、前記測定対象のオーステナイト系ステンレス鋼について測定にて対象ヒステリシス・マイナーループを得て、このヒステリシス・マイナーループから、上記物理量の測定値(例えば、後述する、磁束密度Bの値がゼロのときの磁界強度Hの値である擬保磁力Hc*及び上記第1の比Ms/χH *との値)を得るものである。
【0010】
上記評価工程は、前記評価情報取得工程で得た上記物理量の相関関係(例えば先に例示した、第1の関係及び第2の関係)に基づいて、前記測定工程で得られた、上記物理量の測定値(先に例示した、擬保磁力Hc*および第1の比Ms/χH *の値)から前記測定対象のオーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化を評価するものである。
【0011】
なお、上記工程における各ヒステリシス・マイナーループは、飽和磁界強度よりも小さい前記磁界強度Hの範囲内で、材料に印加する前記磁界強度Hの最大値HMAXを段階的に変化させてオーステナイト系ステンレス鋼の磁束密度Bを測定することにより得られた前記磁界強度Hと前記磁束密度Bとの関係から、前記磁界強度Hの最大値HMAXごとに得るものである。
【0012】
この発明の測定方法を実際に行った試験データをもとに説明する。オーステナイト系ステンレス鋼の機械的性質と磁気的性質との相関関係を明らかにするため、原子炉配管や化学プラントで一般的に使用されているオーステナイト系ステンレス鋼SUS304を用い、高いニッケル成分のオーステナイト系ステンレス鋼SUS304(以下、H−SUS304という。)と、標準のオーステナイト系ステンレス鋼SUS304(以下、S−SUS304という。)とのそれぞれについて、引張試験を行った後にヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験を行った。なお、ここでは、上記H−SUS304としてJIS G4305に規定されるSUS304Lを、上記S−SUS304としてJIS G4305に規定されるSUS304をそれぞれ使用した。
【0013】
図1(a)は、上記引張試験に用いた試料の形状を示し、図1(b)は、上記ヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験に用いた試料の形状を示す。図2は、図1(a)に示す形状の試料について引張試験を行って得られたH−SUS304についての応力−歪特性を示す説明図であり、図3は、図1(a)に示す形状の試料について引張試験を行って得られたS−SUS304についての応力−歪特性を示す説明図である。また表1に、試験に用いたH−SUS304及びS−SUS304の化学組成を示す。なお、それぞれの試料について引張試験を行った結果、負荷応力σを、H−SUS304については534[MPa]よりも大きくしたときに(図2参照)、S−SUS304については608[MPa]よりも大きくしたときに(図3参照)それぞれ破断した。
【0014】
【表1】
【0015】
なお、上記ヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験とは、材料に印加する磁界強度Hの最大値(以下、「最大磁界」という。)HMAXが飽和磁化よりも小さい磁界(保磁力の2倍程度の磁界強度)を材料に加えて測定することにより、例えば図4に示すような、ヒステリシスループに相当する曲線(以下、「ヒステリシス・マイナーループ」という。)を得るために行う試験をいう。このヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験は、本願発明者が、一般的に磁界を飽和する(保磁力の数倍から数十倍程度の磁界強度)まで加えて測定することによりヒステリシスループを得るために行うヒステリシス磁化特性試験と区別するために便宜的に用いたものである。
【0016】
また本明細書では、ヒステリシスループから求められる保磁力および磁化率との区別のため、ヒステリシス・マイナーループにおいて、保磁力に相当するもの、即ち、磁束密度Bの値がゼロのときの磁界強度Hの値を擬保磁力Hc*といい、磁化率に相当するもの、即ち、擬保磁力Hc*におけるヒステリシス・マイナーループの傾きを擬磁化率χH *(=ΔB/ΔH)という(図4参照)。なお、擬保磁力及び擬磁化率は、磁界強度Hの関数で磁界強度Hが十分大きい場合はそれぞれヒステリシスループから求められる保磁力、磁化率と一致する。
【0017】
さらに、本明細書では、図5に示すように、ヒステリシス・マイナーループにおいて、そのヒステリシス・マイナーループで囲まれた部分の面積を擬ヒステリシス損失WFと、ヒステリシス・マイナーループで囲まれた部分の面積のうち、磁束密度B>0かつ磁界強度H<0の部分の面積を擬レマネンス損失WRといい、磁界強度Hの値がゼロのときの磁束密度Bの値を擬残留磁束密度Br*、擬残留磁束密度Br*におけるヒステリシス・マイナーループの傾きを擬磁化率χr *、最大磁界HMAXにおける磁束密度Bの値を擬磁束密度Bm*、最大磁界HMAXにおけるヒステリシス・マイナーループの傾きのうち、小さいものを擬磁化率χrev *、大きいものを擬磁化率χmax *とそれぞれいう。
【0018】
そして、先に行った引張試験の結果に基づいて、上記図1(b)に示す形状の試料について所定の応力を負荷した後、その負荷を取り除き、その変形した試料について、最大磁界HMAXを段階的に変化させて上記ヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験を行い、その都度ヒステリシス・マイナーループを得る。本試験では、最大磁界HMAXを0[Oe]から100[Oe]程度までの範囲で段階的に増加させてその都度測定することにより、ヒステリシス・マイナーループ磁化特性を得た。その得られたヒステリシス・マイナーループから、後述するような物理量を求めてそれら物理量の値をプロットすることで、後述する図6〜図32に示すような物理量の相関関係を得ることができる。
【0019】
なお、本発明のオーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化に対する非破壊測定方法によれば、50[Oe]程度の最大磁界HMAXで測定することにより、オーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化に関するより詳細な情報が得られることを後で説明する。また、ここでの測定では最大磁界HMAXの段階を1[Oe]にしたが、さらに細かく分けるとそれだけ情報量が多くなることはもちろんである。
【0020】
図6〜図32のうち、H−SUS304について示す、図6,8,10,12,15,17,19,21,23,25,27,29,31は、負荷応力σ=351[MPa],438[MPa],495[MPa],534[MPa]を、またS−SUS304について示す、図7,9,11,13,16,18,20,22,24,26,28,30,32は、負荷応力σ=375[MPa],488[MPa],557[MPa],608[MPa])をそれぞれ加えた後に、オーステナイト系ステンレス鋼についてのヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験を行うことで得られた、物理量の相関関係(試料の変形に伴うヒステリシス・マイナーループ磁化特性の変化に基づき得られる関係)である。なお、物理量の相関関係に示された負荷応力σの値は、先に引張試験を行った結果をもとにして、破断直前および応力を加える前からその破断直前までの間で選んでいる。
【0021】
従って、H−SUS304については、図6,8,10,12,15,17,19,21,23,25,27,29,31に示すように、負荷応力σ=351[MPa],438[MPa],495[MPa],534[MPa]の順に、黒正方形,白丸,上向き白三角,下向き黒三角でそれぞれプロットしている。また、S−SUS304については、図7,9,11,13,16,18,20,22,24,26,28,30,32に示すように、負荷応力σ=375[MPa],488[MPa],557[MPa],608[MPa]の順に、黒正方形,白丸,上向き白三角,下向き黒三角でそれぞれプロットしている。
【0022】
なお、上記負荷応力σの値に、応力を加える前の値σ=0[MPa]が無いのは、応力を加える前のオーステナイト系ステンレス鋼の試料は常磁性であって強磁性でないために、ヒステリシス・マイナーループ磁化特性が得られないからである。それゆえ、このヒステリシス・マイナーループ磁化特性から求める値(例えば、後述する、第1の比Ms/χH *,第2の比WR/WF,第3の比Br*/Bm*,第4の比χr */χH *,第5の比χrev */χmax *)も応力を加える前のオーステナイト系ステンレス鋼では得られない。
【0023】
ここに、図6及び図7は、擬保磁力Hc*と最大磁界HMAXとの関係についての変形応力依存性を示し、図8及び図9は、第1の比Ms/χH *と最大磁界HMAXとの関係についての変形応力依存性を示す。また、図10及び図11は、図6〜図9に示す関係から得られた、擬保磁力Hc*と第1の比Ms/χH *との関係を示し、図12,図13は、図10,図11に示す関係を、擬保磁力Hc*が0〜20[Oe]の範囲で拡大して示す部分拡大図である。
【0024】
上記図12及び図13の関係線図に示すように、擬保磁力Hc*と第1の比Ms/χH *との関係は、負荷応力(変形応力)σの増加とともに変化することが分かる。なお、図12に示すH−SUS304における負荷応力σ=534[MPa]の場合と、図13に示すS−SUS304における負荷応力σ=608[MPa]の場合とはそれぞれ、試料が破断する寸前の擬保磁力Hc*と第1の比Ms/χH *との関係を示している。
【0025】
このことから、上記負荷応力σは、オーステナイト相がマルテンサイト相に変化する要因となる内部要因(内部応力)に置き換えることができることから、擬保磁力Hc*と第1の比Ms/χH *との関係と、内部要因(内部応力)との間には密接な相関があることが本願発明者の研究により明らかになった。しかも、第1の比Ms/χH *は飽和磁化Msで規格化しているのでマルテンサイト相の量には依存しない。
【0026】
なお、上記第1の比Ms/χH *の値を求めるためには、飽和磁化Msの値を求めることが必要とされ、オーステナイト系ステンレス鋼中に塑性変形によって導入されたマルテンサイト相の飽和磁化Msを求めるためには、3T(=3×104[Oe])程度の磁界強度Hが必要となる。しかし、オーステナイト系ステンレス鋼構造材の実際の測定では、そのような強い磁界強度Hを加えるための測定装置を構成することは困難である。それゆえ、かかる強い磁界強度Hの磁界をオーステナイト系ステンレス鋼構造材に加えることは非常に難しく、高々100[Oe]程度の磁界強度Hで磁化測定を行うことができるのが限度であると考えられる。そこで、以下に、100[Oe]程度の磁界強度Hで飽和磁化Msを簡便的に求める方法を示す。
【0027】
図14には、塑性変形を加えたオーステナイト系ステンレス鋼S−SUS304及びH−SUS304の試料について、3T(=3×104[Oe])の強い磁界強度Hで測定して得られた飽和磁化Ms[gauss]と、100[Oe]の磁界強度Hで測定して得られた磁化M100[gauss]との関係を示す。なお、図14中、飽和磁化Msと磁化M100との関係を黒丸でプロットし、また、後述する飽和磁化Msと磁化M50との関係を黒正方形でプロットしている。ここでは、ヒステリシス・マイナーループ磁化特性を測定する際に、最大磁界HMAXを100[Oe]にして測定し、最大磁界HMAXのときの磁化の値を磁化M100として求めている。図14に示す飽和磁化Msと磁化M100との関係から、3Tの強い磁界強度Hで測定しなくても、最大磁界HMAXを100[Oe]にして測定して磁化M100を得ることにより、3Tの強い磁界強度Hで測定した場合に得られる飽和磁化Msと同様の飽和磁化Msの値を求めることができることが分かる。
【0028】
さらに、図14には、塑性変形を加えたオーステナイト系ステンレス鋼の試料について、3Tの強い磁界強度Hで測定して得られた飽和磁化Msの値と、50[Oe]の磁界強度Hで測定して得られた磁化M50との関係も示した。図14に示す結果から、最大磁界HMAXを50[Oe]として測定して得られた関係は、最大磁界HMAXの値を100[Oe]として測定して得られた上記関係と比較すると感度がやや低下するものの、最大磁界HMAXの値を50[Oe]として得られたヒステリシス・マイナーループ磁化特性からも飽和磁化Msの値を得ることができることが分かる。
【0029】
なお、上記した図10〜図13に示した擬保磁力Hc*と第1の比Ms/χH *との関係全体を測定により求めなくとも、以下に示すようにして、擬保磁力Hc*の値が小さい部分の関係から、オーステナイト系ステンレス鋼の経年劣化の進行状況が分かり、経年劣化を評価することができる。
【0030】
即ち、例えば、図10〜図13に示す関係は、最大磁界HMAXを100[Oe]まで加えて求めたものであるが、最大磁界HMAXを例えば50[Oe]まで加えて得られる結果によっても、例えば図12及び図13では擬保磁力Hc*=4[Oe]以下での第1の比Ms/χH *と擬保磁力Hc*との関係(図12及び図13中、破線より左側の部分)が得られる。従って、この関係から、オーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化の評価を十分に行うことができる。
【0031】
さらに、図15は、図12に示すH−SUS304についての、擬保磁力Hc*=4[Oe]における公称応力(変形応力σ)と第1の比Ms/χH *との関係を示し、図16は、図13に示すS−SUS304についての、擬保磁力Hc*=4[Oe]における公称応力(変形応力σ)と第1の比Ms/χH *との関係を示す。これら図15及び図16に示すように、小さな磁界により計測して得られた関係線図からでも、測定対象のオーステナイト系ステンレス鋼についてヒステリシス・マイナーループ磁化測定試験により測定を行って第1の比Ms/χH *の値を得ることにより、経年劣化の程度や後述するように転位密度の変化を知ることができる。つまり、このことは小さな磁界により計測した情報からでもオーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化を十分に評価できることを意味する。
【0032】
ところで、オーステナイト系ステンレス鋼は常磁性であるが、塑性変形によって導入されたマルテンサイト相は強磁性である。このマルテンサイト相内では金属疲労が進むに従い転位密度が高くなる。そしてマルテンサイト相内での磁壁移動も転位密度の増加に伴い動き難くなる。第1の比Ms/χH *の値は磁壁の動き難さを表しており、転位密度が高くなると共に増加する。また、擬保磁力Hc*は最大磁界HMAX以内で擬磁化率χH *が最大になる磁界強度である。それゆえ、最大磁界HMAXを変化させることにより、磁壁移動のポテンシャルエネルギーの全体像を捕らえることができる。
【0033】
従って、上記構成の本発明の測定方法によれば、評価情報取得工程で得た、物理量の相関関係として例えば、擬保磁力Hc*と最大磁界HMAXとの関係である第1の関係(例えば上記図6,図7に示す関係)及び、第1の比Ms/χH *と最大磁界HMAXとの関係である第2の関係(例えば上記図8,図9に示す関係)に基づいて、マルテンサイト相の磁壁が受ける力の大きさ及びその分布を求めることができる。このことから、強度の経年劣化の原因である様々な格子欠陥の形態を識別し、それらの量を定量化できる。
【0034】
これにより、測定工程で得られた、測定対象のオーステナイト系ステンレス鋼の第1の比Ms/χH *と擬保磁力Hc*との関係と、上記第1の関係及び第2の関係とを評価することで、オーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化の原因であってその経年劣化の状態を評価する上で重要である格子欠陥の種類及びその量をより詳しく計測させ得て、より詳細かつ正確にオーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化の状態の総合的な評価をすることができる。
【0035】
また、本発明の測定方法では、例えば上記図10〜図13に示すように、前記評価情報取得工程で、前記第1の関係および前記第2の関係から、前記第1の比Ms/χH *と前記擬保磁力Hc*との関係である第3の関係を得て、前記評価工程で、前記第3の関係から、前記オーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化の状態を評価しても良い。このようにすれば、この関係により示される関係線図(例えば図10〜図13に示す関係線図)が磁壁移動のポテンシャルエネルギーの形状及び大きさを示すので、この関係線図に基づいて測定対象であるオーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化をより正確かつ容易に評価することができる。
【0036】
なお、第1の比Ms/χH *及び擬保磁力Hc*はどちらも材料の特性に関する磁気的な量であるので、第1の比Ms/χH *と擬保磁力Hc*とで表される関係は、最大磁界HMAXのような外部変数が陽に(直接)含まれておらず、材料の内部因子だけの関係である。従って、第1の比Ms/χH *と擬保磁力Hc*とで表される関係は格子欠陥を含めた材料内部の物性の情報を与えるもので外部変数に依らない。
【0037】
また、本発明の測定方法では、前記評価情報取得工程で、前記第1の関係及び第2の関係、または第3の関係から、前記第1の比Ms/χH *と前記負荷応力σとの関係である第4の関係(例えば図15,図16に示す関係線図)を得て、前記評価工程で、前記第4の関係から、前記オーステナイト系ステンレス鋼の経年劣化の状態を評価しても良い。
【0038】
このようにすれば、測定対象の第1の比Ms/χH *の値を測定により求めることで、経年劣化前の状態と亀裂発生時の状態との間での負荷応力σの値を定量的に求めることができるので、経年劣化の進行の程度や寿命予測がさらに正確にできる。また、先に説明した情報取得工程により、負荷応力σの値から転位密度の変化を知ることができる。
【0039】
ところで、擬保磁力Hc*以外の物理量はマルテンサイト相の量に依存する。そのマルテンサイト相の量は飽和磁化Msに比例するが、必ずしも転位などの格子欠陥の量には依存しない。従って、かかる物理量を用いて経年劣化を評価するためには、擬保磁力Hc*以外の物理量を飽和磁化Msで規格化しなければならない。しかし、マルテンサイト相の飽和磁化Msを直接求めるためには、前述したように104[Oe]以上の磁界強度Hが必要であり、このことは、非破壊検査を利用する際には困難な条件である。
【0040】
また、擬保磁力Hc*以外の物理量、WF,WR,Br*,Bm*,χr *,χH *,χrev *,χmax *は、マルテンサイト相の量に比例する。これらの物理量を飽和磁化で規格化する代わりに、これらの物理量の比をとることにより、マルテンサイト相の量に依存しない量を作ることができる。具体的には以下で説明する。
【0041】
図17及び図18は、第2の比WR/WFと擬保磁力Hc*との相関関係(第5の関係)についての変形応力依存性を示し、図19及び図20は、擬保磁力Hc*と第3の比Br*/Bm*との相関関係(第6の関係)についての変形応力依存性を示す。また、図21及び図22は、第4の比χr */χH *と擬保磁力Hc*との相関関係(第7の関係)についての変形応力依存性を示し、図23及び図24は、第5の比χrev */χmax *と擬保磁力Hc*との相関関係(第8の関係)についての変形応力依存性を示す。
【0042】
上記図17〜図24に示すように、第2の比WR/WFと擬保磁力Hc*との相関関係(第5の関係)、第3の比Br*/Bm*と擬保磁力Hc*との相関関係(第6の関係)、第4の比χr */χH *と擬保磁力Hc*との相関関係(第7の関係)及び第5の比χrev */χmax *と擬保磁力Hc*との相関関係(第8の関係)はいずれも、変形応力σに敏感であり、それら相関関係により、オーステナイト系ステンレス鋼の経年劣化を評価できることが分かる。
【0043】
しかも、上記した第2の比WR/WF、第3の比Br*/Bm*、第4の比χr */χH *および第5の比χrev */χmax *のような物理量の比は、マルテンサイト相の量に依存しない。従って、マルテンサイト相の飽和磁化Msを直接求めるための104[Oe]以上の磁界強度Hを必要とせず、上述したような簡便的な方法によらなくても非破壊検査の行う際の困難性を伴うことがない。
【0044】
さらに、図17〜図24に示した、第2の比WR/WFと擬保磁力Hc*との相関関係(第5の関係)、第3の比Br*/Bm*と擬保磁力Hc*との相関関係(第6の関係)、第4の比χr */χH *と擬保磁力Hc*との相関関係(第7の関係)及び第5の比χrev */χmax *と擬保磁力Hc*との相関関係(第8の関係)の関係線図から分かるように、図示の関係線図全体を測定により求めなくとも、以下に示すようにして経年劣化を評価することができる。
【0045】
即ち、図25,図26は、上記図17,図18において、擬保磁力Hc*=一定としたときの、第2の比WR/WFと変形応力σとの関係(第9の関係)を示す。図27,図28は、上記図19,図20において、擬保磁力Hc*=一定としたときの、第3の比Br*/Bm*と変形応力σとの関係(第10の関係)を示す。図29,図30は、上記図21,図22において、擬保磁力Hc*=一定としたときの、第4の比χr */χH *と変形応力σとの関係(第11の関係)を示す。図31,図32は、上記図23,図24において、擬保磁力Hc*=一定としたときの、第5の比χrev */χmax *と変形応力σとの関係(第12の関係)を示す。
【0046】
上記図25及び図26では、擬保磁力Hc*=10又は20[Oe]のときの関係線図から、例えば破断直前の変形応力σ(図25ではσ=543[MPa]、図26ではσ=608[MPa])における第2の比WR/WFの値と、被測定対象について測定して求めた第2の比WR/WFの値とを比較することで、オーステナイト系ステンレス鋼の経年劣化の状態を知ることができる。
【0047】
また、上記した第2の比WR/WFと同様に、図27及び図28に示した関係線図から第3の比Br*/Bm*の値を比較することで、図29及び図30に示した関係線図から第4の比χr */χH *を比較することで、図31及び図32に示した関係線図から第5の比χrev */χmax *を比較することで、いずれもオーステナイト系ステンレス鋼の経年劣化の状態を知ることができる。
【0048】
このことから、上記負荷応力σは、オーステナイト相がマルテンサイト相に変化する要因となる内部要因(内部応力)に置き換えることができることから、先に説明した第1の比Ms/χH *と同様に、擬保磁力Hc*と第2の比WR/WFとの相関関係、擬保磁力Hc*と第3の比Br*/Bm*との相関関係、擬保磁力Hc*と第4の比χr */χH *との相関関係及び擬保磁力Hc*と第5の比χrev */χmax *との相関関係と、内部要因(内部応力)との間には密接な相関があることが本願発明者の研究により明らかになった。
【0049】
また、第2の比WR/WFと擬保磁力Hc*との相関関係、第3の比Br*/Bm*と擬保磁力Hc*との相関関係、擬保磁力Hc*と第4の比χr */χH *との相関関係及び擬保磁力Hc*と第5の比χrev */χmax *との相関関係は、材料の化学組成によっても異なることから、かかる相関関係によって材料の種類を識別することもできる。
【0050】
さらに、前述したように、オーステナイト系ステンレス鋼の塑性変形によって導入されたマルテンサイト相内では金属疲労が進むに従い転位密度が高くなり、マルテンサイト相内での磁壁も転位密度の増加に伴い動き難くなる。ヒステリシス・マイナーループの解析から得られる物理量は全て磁壁移動に関係した量であることから、これらの物理量から転位密度などの金属疲労の程度の情報を得ることができる。
【0051】
ここに、ヒステリシス・マイナーループで囲まれた部分の面積である擬ヒステリシス損失WFは、磁壁移動が非可逆的に起こるときに仕事が熱エネルギーに変化した量を表し、先の第1の比Ms/χH *と同様に、磁壁移動の障害物となる転位に関係した量である。また、ヒステリシス・マイナーループで囲まれた部分の面積のうち、磁束密度B>0かつ磁界強度H<0の部分の面積である擬レマネンス損失WRは、磁界強度Hがゼロから擬保磁力Hc*までの間で磁壁が移動する際に、仕事が熱エネルギーに変化した量を表す。それゆえ、最大磁界HMAXを変化させて第2の比WR/WFの値を求めることにより得られた相関関係により磁壁移動のポテンシャルエネルギーの全体像を捕らえることができる。
【0052】
また、擬残留磁束密度Br*は磁壁が最大磁界HMAX以内で移動する際に、磁界強度Hがゼロのときの磁壁が障害物によって止められることによる残留磁化を表し、その擬残留磁束密度Br*における磁化率χr *は磁壁を止めている力を表す。また、最大磁界HMAXにおける二つの磁化率χrev *、χmax *のうち、前者であるχrev *は、可逆磁化率と呼ばれ、磁界を減少させたときの磁化率を表し、後者であるχmax *は、磁界を増加させたときの磁化率を表す。これら磁化率χrev *、χmax *は、最大磁界HMAX付近で磁壁が移動する際に受ける力を表し、磁界強度Hを増加させる際の力は磁化率χmax *に対応し、磁界強度Hを減少させる際の力は磁化率χrev *に対応する。
【0053】
従って、評価情報取得工程で、第2の比WR/WFと擬保磁力Hc*との関係である第5の関係(図17,18参照)、第3の比Br*/Bm*と擬保磁力Hc*との関係である第6の関係(図19,20参照)、第4の比χr */χH *と擬保磁力Hc*との関係である第7の関係(図21,22参照)及び第5の比χrev */χmax *と擬保磁力Hc*との関係である第8の関係(図23,24参照)の少なくとも一つを得る。そして、評価情報取得工程で得られた相関関係に基づいて、測定工程で、擬保磁力Hc*の値と、第2の比WR/WF、第3の比Br*/Bm*、第4の比χr */χH *及び第5の比χrev */χmax *のうち、評価情報取得工程で得た物理量の相関関係に用いられる物理量の値とを物理量の測定値として求める。そして、評価情報取得工程で得た物理量の相関関係に基づいて、測定工程で得られた、物理量の測定値から、測定対象のオーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化を評価することにより、マルテンサイト相での磁壁が受ける力の大きさ及びその分布を求めることができる。このことから、経年劣化の原因である様々な格子欠陥の形態を識別し、それらの量を定量化することができる。従って、かかる測定方法によれば、物理量の相関関係の関係線図に基づいて、オーステナイト系ステンレス鋼構造材の経年劣化の状態としてその経年劣化の原因である格子欠陥の種類とその量とをより詳しく計測し得て、より詳細に材料の経年劣化を正確かつ総合的に評価することができる。
【0054】
なお、擬保磁力Hc*、擬ヒステリシス損失WF、擬レマネンス損失WR、擬保磁力Hc*における擬磁化率χH *、擬残留磁束密度Br*、擬残留磁束密度Br*における擬磁化率χr *、擬保磁力Hc*における擬磁化率χH *、最大磁界HMAXにおける二つの磁化率χrev *,χmax *は、すべて材料の特性に関する磁気的な量であるので、これら物理量で表される関係は、最大磁界HMAXのような外部変数が陽に含まれておらず、材料の内部因子だけの関係である。従って、かかる物理量で表される関係は格子欠陥を含めた材料内部の物性の情報を与えるもので外部変数に依らない。
【0055】
さらに、上記した測定方法から、例えば、上記図25〜図32に示すように、上記第5の関係、第6の関係、第7の関係、第8の関係及び第9の関係の少なくとも一つの物理量の相関関係から、さらに、或一定の前記擬保磁力Hc*における、第2の比WR/WFと負荷応力σとの関係である第9の関係、或一定の擬保磁力Hc*における、第3の比Br*/Bm*と負荷応力σとの関係である第10の関係、或一定の擬保磁力Hc*における、第4の比χr */χH *と負荷応力σとの関係である第11の関係、及び或一定の擬保磁力Hc*における、第5の比χrev */χmax *と負荷応力σとの関係である第12の関係の少なくとも一つの関係を得る。そして、評価工程で、評価情報取得工程関係で得た関係から、オーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化の状態を評価することとしても良い。
【0056】
このようにすれば、測定工程で、測定対象の、第2の比WR/WF、第3の比Br*/Bm*、第4の比χr */χH *、第5の比χrev */χmax *の値を測定により求めることで、経年劣化前の状態と亀裂発生時の状態との間での負荷応力σの値を定量的に求めることができるので、経年劣化の進行の程度や寿命予測がさらに正確にできる。また、先に説明した情報取得工程により、負荷応力σの値から転位密度の変化を知ることができる。
【0057】
加えて、擬保磁力Hc*、擬ヒステリシス損失WF、擬レマネンス損失WR、擬保磁力Hc*における擬磁化率χH *、擬残留磁束密度Br*、擬残留磁束密度Br*における擬磁化率χr *、擬保磁力Hc*における擬磁化率χH *、最大磁界HMAXにおける二つの磁化率χrev *,χmax *は、転位などの格子欠陥に敏感な物理量であり、それらいずれの物理量も測定にて得られるヒステリシス・マイナーループから求めることができる。又同時に、これらの物理量はマルテンサイト相の量にも依存するが、マルテンサイト相の量に関する効果はこれらの物理量の比を取ることで取り除くことができる。
【0058】
従って、本発明のオーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化に対する非破壊測定方法によれば、従来から一般的に行われているヒステリシスループは磁化が完全に飽和するまで磁界を外部から加える必要があるのに対して、本発明において行われる測定では、磁化が完全に飽和するまで磁界を外部から加える必要がなく、小さな外部磁界でヒステリシス・マイナーループを得ることができる。その上、測定装置を構成する観点からも、ヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験を行う本発明の測定方法の方が、ヒステリシスループ磁化特性試験を行う従来の一般的な測定方法よりも、測定装置を簡易に構成することができて有利である。
【0059】
なお、ヒステリシスループを得るためには、磁化が完全に飽和するまで外部から磁界を加えるため、これにより得られる物理量は外部磁界に依存しない量である。これに対して、本発明の測定方法では、外部磁界の強さの変化に伴い変化するヒステリシス・マイナーループを得る。従って、これにより得られる物理量(擬保磁力Hc*、擬ヒステリシス損失WF、擬レマネンス損失WR、擬保磁力Hc*における擬磁化率χH *、擬残留磁束密度Br*、擬残留磁束密度Br*における擬磁化率χr *、擬保磁力Hc*における擬磁化率χH *、最大磁界HMAXにおける二つの磁化率χrev *,χmax *)は外部磁界に応じて変化する。
【0060】
このため、ヒステリシス・マイナーループを測定する際に、反磁界や漏れ磁場の効果を考慮し、内部磁界の値を正確に求める必要がある。しかし、それら物理量の相関関係である、第2の比WR/WFと擬保磁力Hc*との関係である第5の関係(図17,18参照)、第3の比Br*/Bm*と擬保磁力Hc*との関係である第6の関係(図19,20参照)、第4の比χr */χH *と擬保磁力Hc*との関係である第7の関係(図21,22参照)及び第5の比χrev */χmax *と擬保磁力Hc*との関係である第8の関係(図23,24参照)は、先に述べたように、外部磁界の強さHは直接入っておらず、材料特有のものである。それゆえ、本発明の非破壊検査に適用する場合には、必ずしも内部磁界の値が必要となるわけではない。
【0061】
従来のヒステリシスループにより得られる飽和磁化、保磁力、残留磁束密度、磁化率はマルテンサイト相の量及び形状に大きく依存し、材料内部の格子欠陥に関する情報を取り出すことができない。それに対して、ヒステリシス・マイナーループから得られる、第2の比WR/WFと擬保磁力Hc*との関係(第5の関係)、第3の比Br*/Bm*と擬保磁力Hc*との関係(第6の関係)、第4の比χr */χH *と擬保磁力Hc*との関係(第7の関係)及び第5の比χrev */χmax *と擬保磁力Hc*との関係(第8の関係)を用いた、本発明の測定方法は従来の測定方法において飽和磁化等の値を比較するよりも、情報の質及び量、感度や精度の面で優れていることが本願発明者の研究により分かった。
【0062】
このように、第2の比WR/WFと擬保磁力Hc*との関係(第5の関係)、第3の比Br*/Bm*と擬保磁力Hc*との関係(第6の関係)、第4の比χr */χH *と擬保磁力Hc*との関係(第7の関係)及び第5の比χrev */χmax *と擬保磁力Hc*との関係(第8の関係)は、飽和磁化Msの値を必要としないため、先に説明したように、第1の比Ms/χH *において説明したような簡便的な方法によらなくても非破壊検査の行う際の困難性を伴うことがない。
【0063】
【発明の実施の形態】
以下に、この発明の実施の形態を、実施例によって図面に基づき詳細に説明する。図33は、この発明のオーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化に対する非破壊測定方法の第1実施例を示す説明図である。図中符号1は、何らかの材料の劣化が存在しているオーステナイト系ステンレス鋼構造材によって構成された被測定オーステナイト系ステンレス鋼構造体(以下、被測定構造体という。)、2は励磁巻線、3は磁束検出巻線、4はそれらの巻線が巻かれた磁気ヨークである。ここでは、図33に示すように、励磁巻線2と磁束検出巻線3とを直接巻けない形状の被測定構造体1に対し、励磁巻線2と磁束検出巻線3とを有する磁気ヨーク4を密着させ、磁気閉回路5を形成する。6は、上記励磁巻線2と磁束検出巻線3とが接続されたヒステリシス・マイナーループ磁化特性測定装置であり、このヒステリシス・マイナーループ磁化特性測定装置6には、一般の市販品を用いることができる。また7は、この実施例を実施した結果として、ヒステリシス・マイナーループ磁化特性測定装置6に表示される、被測定構造体1のヒステリシス・マイナーループ磁化特性である。
【0064】
なお、本実施例で測定する被測定構造体1は、200℃以下の温度での使用により経年劣化したものであり、その経年劣化によりマルテンサイト変態を起こしてオーステナイト相の一部がマルテンサイト相に変化している。
【0065】
上記ヒステリシス・マイナーループ磁化特性測定装置6によれば、測定工程で被測定構造体1を測定するに際しては、励磁巻線2に励磁電流が供給され、このとき磁束検出巻線3に誘起した電圧が、ヒステリシス・マイナーループ磁化特性測定装置6に導かれて増幅積分され、その結果ヒステリシス・マイナーループ磁化特性7が得られる。このヒステリシス・マイナーループ磁化特性7を対象ヒステリシス・マイナーループとしてこれから、擬保磁力HC *およびその点での擬磁化率χH *を求めることができる(上記図4参照)。
【0066】
上述した測定により得られたヒステリシス・マイナーループ磁化特性7は、被測定構造体1の内部での3次元的磁路の広がりや反磁界係数の影響による誤差を含んだものである。ゆえに、この誤差を除去したヒステリシス・マイナーループ磁化特性を得るための補正係数を求める必要があるが、この補正係数は、既知の静磁界解析手法を用いた計算機実験あるいは実測定体系を模擬したモックアップ実験により前もって求めておくことができる。
【0067】
上記測定工程で求めた擬保磁力Hc*及び第1の比Ms/χH *の値から被測定構造体1の強度の経年劣化を評価するに際しては、評価情報取得工程で、あらかじめ、被測定構造体1と同じ材料のテストピースについて、200℃以下の温度で引張試験を行い応力と歪との関係を得る。そのテストピースに、得られた応力と歪との関係に応じて値を変化させた負荷応力σを与えて、磁界強度Hが5[Oe]から100[Oe]までの間で、最大磁界HMAXを1[Oe]毎に段階的に変化させて測定する。その測定の都度得られた基準ヒステリシス・マイナーループから、第1の関係である擬保磁力Hc*と最大磁界HMAXとの関係(上記図6,図7参照)および、第2の関係である第1の比Ms/χH *と最大磁界HMAXとの関係を求め(上記図8,図9参照)、それら関係から、第3の関係の関係である、例えば図34に示すような擬保磁力Hc*と第1の比Ms/χH *との関係をプロットして求めておく。
【0068】
そして、評価工程で、測定工程で得られた被測定構造体1の擬保磁力Hc*及び第1の比Ms/χH *の値と、図34に示す第3の関係とを比較することで、被測定構造体1の強度の経年劣化の状態が定量的に調べられる。なお、図34では、変形応力σの増加とともに、曲線a→曲線b→曲線c→曲線dと関係が変化し、最終的に曲線dで破断する。
【0069】
さらに、上記で求めた被測定構造体1の擬保磁力Hc*と第1の比Ms/χH *との関係と、被測定構造体1の初期状態及び、亀裂発生時又は破壊時の擬保磁力Hc*と第1の比Ms/χH *との関係を比較するために、例えば上記図15及び図16でHc*=4[Oe]として求めたのと同様にして、図35に示すように、Hc*=一定での変形応力(負荷応力)σと第1の比Ms/χH *との関係を求める。そして、被測定構造体1についてヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験を行って求めておいた、所定の擬保磁力Hc*における第1の比Ms/χH *の値を測定値として図35中にプロットすることで、経年劣化を受けている被測定構造体1の実質的な内部応力(変形応力σ)を求めることができる。
【0070】
即ち、上記図35の関係線図に測定値をプロットすることにより、始点(初期状態)及び亀裂発生点との差δi,δfを求めることができる。ここでのδiは初期状態から測定時点までの第1の比Ms/χH *の変化量であって、材料がこれまでに受けた経年劣化の度合いを表す。またここでのδfは測定時点から亀裂発生までに見込まれる第1の比Ms/χH *の変化量であって余寿命、即ち、現状(測定時点)から材料に亀裂が発生するまでの期間を表す。それらδi,δfは被測定構造体1の強度の経年劣化の程度を示すパラメータとなることから、それらの値により、被測定構造体1の強度の経年劣化の程度を非破壊的に測定することができる。
【0071】
上述したように、本実施例のオーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化の非破壊測定方法にあっては、評価情報取得工程で、被測定構造体1と同種のオーステナイト系ステンレス鋼の試料について得た、擬保磁力Hc*と最大磁界HMAXとの関係である第1の関係(例えば上記図6,図7に示す関係)及び、第1の比Ms/χH *と最大磁界HMAXとの関係である第2の関係(例えば上記図8,図9に示す関係)から、第1の比Ms/χH *と擬保磁力Hc*との関係である図17に示す第3の関係を得ている。そして、評価工程で、その第3の関係から、第1の比Ms/χH *と負荷応力(変形応力)σとの関係である図35に示す第4の関係を得て、その第4の関係から、被測定構造体1の経年劣化の状態を評価している。
【0072】
これにより、測定工程で得られた、測定対象のオーステナイト系ステンレス鋼構造材の第1の比Ms/χH *と擬保磁力Hc*との関係と、上記第1の関係及び第2の関係とを評価することで、オーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化の原因であってその経年劣化の状態を評価する上で重要である格子欠陥の種類及びその量をより詳しく計測させ得て、より詳細かつ正確に材料の強度の経年劣化の状態の総合的な評価をすることができる。
【0073】
従って、本実施例のオーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化に対する非破壊測定方法によれば、小さい磁界強度Hの範囲内で測定するヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験により得られたヒステリシス・マイナーループ磁化特性7を計測して上記第1の関係及び第2の関係を得ることにより、オーステナイト系ステンレス鋼構造材で構成される、原子炉配管や化学プラントなど全ての構造物の強度の経年劣化の程度を、亀裂が発生する前段階での転位密度及びその分布の変化から非破壊的に正確に検査でき、なおかつ、小型の磁気ヨークと励磁電源とを具える簡易な装置を構成することで、試料及び被測定構造体1の測定を行うことができる。
【0074】
さらに本実施例の測定方法では、前述したように、評価情報取得工程で、第1の関係および第2の関係から、第1の比Ms/χH *と擬保磁力Hc*との関係である図34に示す第3の関係を得ている。これにより、この第3の関係で表された図34に示す関係線図が磁壁移動のポテンシャルエネルギーの形状及び大きさを示すので、この関係線図に基づいて測定対象の経年劣化をより正確かつ容易に評価することができる。
【0075】
なお、第1の比Ms/χH *及び擬保磁力Hc*はどちらも材料の特性に関する磁気的な量であるので、第1の比Ms/χH *と擬保磁力Hc*とで表される関係は、最大磁界HMAXのような外部変数が含まれておらず、材料の内部因子だけの関係である。従って、第1の比Ms/χH *と擬保磁力Hc*とで表される関係は格子欠陥を含めた材料内部の物性の情報を与えるもので外部変数やマルテンサイト相の量に依らない。
【0076】
しかも、本実施例の測定方法では、前述したように、評価情報取得工程で、図34に示す第3の関係から、第1の比Ms/χH *と負荷応力σとの関係である図35に示す第4の関係を得て、評価工程で、その第4の関係から、被測定構造体1の経年劣化の状態を評価している。
【0077】
これにより、第1の比Ms/χH *の値を測定により求めることで、経年劣化前の状態と亀裂発生時の状態との間での負荷応力σの値を定量的かつ容易に求めることができるので、経年劣化の進行の程度や寿命予測をさらに正確にできる。また、情報取得工程において、負荷応力σと転位密度の変化との相関関係を得ておくことにより、負荷応力σの値から転位密度の変化を知ることもできる。
【0078】
また、図36は、第1実施例の第1変形例において得られる、Hc*=一定での第2の比WR/WFと変形応力(負荷応力)σとの関係(第9の関係)を例示する説明図である。この変形例では、上記第1実施例の物理量の相関関係に変えて、基準ヒステリシス・マイナーループで囲まれた部分の面積である擬ヒステリシス損失WFと基準ヒステリシス・マイナーループで囲まれた部分の面積より求めた擬レマネンス損失WRとの第2の比WR/WFと、磁束密度Bの値がゼロのときの磁界強度Hの値である擬保磁力Hc*との関係である第5の関係とする。そして、測定工程にて測定される物理量の測定値を、擬保磁力Hc*の値と、第2の比WR/WFとする。さらにその第5の関係から、例えば図36に示すような、或一定の擬保磁力Hc*における、第2の比WR/WFと負荷応力σとの関係である第9の関係を得る。そして、その関係線図に基づいて、先に説明した図35に示す関係線図を用いた場合と同様にして、被測定構造体1の強度の経年劣化の情報を評価することができる。
【0079】
また、図37は、第1実施例の第2変形例において得られる、Hc*=一定での第3の比Br*/Bm*と変形応力(負荷応力)σとの関係(第10の関係)を例示する説明図である。この変形例では、上記第1実施例の物理量の相関関係に変えて、磁界強度Hの値がゼロのときの磁束密度Bの値である擬残留磁束密度Br*と最大磁界HMAXのときの磁束密度Bの値である擬磁束密度Bm*との第3の比Br*/Bm*と擬保磁力Hc*との関係である第6の関係とする。そして、測定工程にて測定される物理量の測定値を、擬保磁力Hc*の値と、第3の比Br*/Bm*とする。さらにその第6の関係から、例えば図37に示すような、或一定の擬保磁力Hc*における、第3の比Br*/Bm*と負荷応力σとの関係である第10の関係を得る。そして、その関係線図に基づいて、先に説明した図35に示す関係線図を用いた場合と同様にして、被測定構造体1の強度の経年劣化の情報を評価することができる。
【0080】
図38は、第1実施例の第3変形例において得られる、Hc*=一定での第4の比χr */χH *と変形応力(負荷応力)σとの関係(第11の関係)を例示する説明図である。この変形例では、上記第1実施例の物理量の相関関係に変えて、磁界強度Hの値がゼロのときの磁束密度Bの値である擬残留磁束密度Br*における擬磁化率χr *と擬保磁力Hc*における擬磁化率χH *との比である第4の比χr */χH *と擬保磁力Hc*との関係である第7の関係とする。そして、測定工程にて測定される物理量の測定値を、擬保磁力Hc*の値と、第4の比χr */χH *とする。さらにその第7の関係から、例えば図38に示すような、或一定の擬保磁力Hc*における、第4の比χr */χH *と負荷応力σとの関係である第11の関係を得る。そして、その関係線図に基づいて、先に説明した図35に示す関係線図を用いた場合と同様にして、被測定構造体1の強度の経年劣化の情報を評価することができる。
【0081】
図39は、第1実施例の第4変形例において得られる、Hc*=一定での第5の比χrev */χmax *と変形応力(負荷応力)σとの関係(第12の関係)を例示する説明図である。この変形例では、上記第1実施例の物理量の相関関係に変えて、最大磁界HMAXにおける二つの磁化率のうちの小さい磁化率χrev *と二つの磁化率のうちの大きい磁化率χmax *との比である第5の比χrev */χmax *と擬保磁力(Hc*)との関係である第8の関係とする。そして、測定工程にて測定される物理量の測定値を、擬保磁力Hc*の値と、第5の比χrev */χmax *とする。さらにその第8の関係から、例えば図39に示すような、或一定の擬保磁力Hc*における、第5の比χrev */χmax *と負荷応力σとの関係である第12の関係を得る。そして、その関係線図に基づいて、先に説明した図35に示す関係線図を用いた場合と同様にして、被測定構造体1の強度の経年劣化の情報を評価することができる。
【0082】
上記第1変形例、第2変形例、第3変形例及び第4変形例によれば、第2の比WR/WF、第3の比Br*/Bm*、第4の比χr */χH *および第5の比χrev */χmax *のような物理量の比は、マルテンサイト相の量に依存しない。従って、マルテンサイト相の飽和磁化Msを直接求めるための104[Oe]以上の磁界強度Hを必要とせず、前述したような、100[Oe]程度の磁界強度Hで飽和磁化Msを簡便的に求める方法によらなくても非破壊検査の行う際の困難性を伴うことがない。
【0083】
しかも、擬保磁力Hc*、擬ヒステリシス損失WF、擬レマネンス損失WR、擬保磁力Hc*における擬磁化率χH *、擬残留磁束密度Br*、擬残留磁束密度Br*における擬磁化率χr *、擬保磁力Hc*における擬磁化率χH *、最大磁界HMAXにおける二つの磁化率χrev *,χmax *は、すべて材料の特性に関する磁気的な量であるので、これら物理量で表される関係は、最大磁界HMAXのような外部変数が陽に含まれておらず、材料の内部因子だけの関係である。従って、かかる物理量で表される関係は格子欠陥を含めた材料内部の物性の情報を与えるもので外部変数に依らない。さらにこれらの物理量の比を取ることによりマルテンサイト相の量がこれらの物理量に与える効果を取り除き、材料内部の情報のみを得ることができる。
【0084】
さらに、図36〜図39の関係線図を用いることにより、測定工程で、測定対象の、第2の比WR/WF、第3の比Br*/Bm*、第4の比χr */χH *、第5の比χrev */χmax *の値を測定により求めることで、経年劣化前の状態と亀裂発生時の状態との間での負荷応力σの値を定量的に求めることができるので、経年劣化の進行の程度や寿命予測がさらに正確にできる。また、先に説明した情報取得工程により、負荷応力σの値から転位密度の変化を知ることができる。
【0085】
加えて、擬保磁力Hc*、擬ヒステリシス損失WF、擬レマネンス損失WR、擬保磁力Hc*における擬磁化率χH *、擬残留磁束密度Br*、擬残留磁束密度Br*における擬磁化率χr *、擬保磁力Hc*における擬磁化率χH *、最大磁界HMAXにおける二つの磁化率χrev *,χmax *は、転位などの格子欠陥に敏感な物理量であり、それらいずれの物理量も測定にて得られるヒステリシス・マイナーループから求めることができる。
【0086】
ところで、マルテンサイト相の量の変化に基づく従来の飽和磁化の測定では、200℃以下の温度範囲でも温度の上昇とともに、変態して生じるマルテンサイト相の量が急速に減少するため、転位などの格子欠陥により材料の強度の経年劣化を評価することは困難であった。これに対して、本実施例のオーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化に対する非破壊測定方法では、変態により生じるマルテンサイト相の量に基づかない第1の比Ms/χH *,第2の比WR/WF、第3の比Br*/Bm*、第4の比χr */χH *、第5の比χrev */χmax *を用いた関係で評価ができる。従って、マルテンサイト変態が温度の影響を受ける場合には、本実施例の測定方法による材料の評価が不可欠である。
【0087】
図40は、この発明のオーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化に対する非破壊測定方法の第2実施例を示す説明図である。この実施例では、第1実施例と異なり、何らかの経年劣化を受けている被測定構造体1が、励磁巻線2と磁束検出巻線3とを直接巻ける形状を有していることから、その被測定構造体1に、励磁巻線2と磁束検出巻線3とが直接巻かれている。ここでも、ヒステリシス・マイナーループ磁化特性測定装置6には、先の第1実施例と同様に、一般の市販品を用いることができる。また、7は、この実施例を実施した結果として、ヒステリシス・マイナーループ磁化特性測定装置6に表示されるヒステリシス・マイナーループ磁化特性である。
【0088】
この実施例では、先の第1実施例と同様にして、測定工程で、測定により得られたヒステリシス・マイナーループ磁化特性7を対象ヒステリシス・マイナーループとしてこれから擬保磁力Hc*及び第1の比Ms/χH *の値を求め、評価情報取得工程で、あらかじめ、被測定構造体1と同種の材料のテストピースについて求めておいた、基準ヒステリシス・マイナーループから、先の第1実施例と同様にして、第1の関係である擬保磁力Hc*と最大磁界HMAXとの関係および、第2の関係である第1の比Ms/χH *と最大磁界HMAXとの関係を求め、それら関係から第3の関係である擬保磁力Hc*と第1の比Ms/χH *との関係(先の第1実施例の図34参照)を求めておく。そして、評価工程で、評価情報取得工程で求めておいた擬保磁力Hc*と第1の比Ms/χH *と被測定構造体1の擬保磁力Hc*及び第1の比Ms/χH *の値とを比較することにより、被測定構造体1の実質的な経年劣化の程度を評価できる。
【0089】
さらに、先の第1実施例における図35に示すものと同様に、Hc*=一定での変形応力(負荷応力)σと第1の比Ms/χH *との関係を得て、経年劣化の度合いδi及び余寿命δfを求めることにより、被測定構造体1の強度の経年劣化の程度を非破壊的に測定することができる。
【0090】
従って、第2実施例のオーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化に対する非破壊測定方法によれば、先の第1実施例と同様の効果が得られることに加えて、磁気ヨークを使用しなくても済むことから、測定装置の単純化及び軽量化を図ることができる。
【0091】
ところで、本願発明者は、研究過程において、転位や結晶粒界がマルテンサイト変態を阻止することを見出した。このことから、転位密度の高いところでは外部から大きな変形応力を加えないとマルテンサイト変態を起こし難い一方、転位密度の比較的低いところでは、外部から大きな変形応力を加えなくてもマルテンサイト変態を起こし易いこととなる。しかも、塑性変形が進むに従い、マルテンサイト相内でも転位密度が増加することが分かった。従って、飽和磁化の測定等によるマルテンサイト相の量から経年劣化を求める従来の方法では、転位密度等の経年劣化の内部要因とマルテンサイト相の量とが対応せずに、マルテンサイト相内の転位密度等の測定が困難であることから、正確な経年劣化の測定を行うことはできなかった。
【0092】
これに対して、本発明の上記実施例のオーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化に対する非破壊測定方法によれば、得られた情報はマルテンサイト相の量には依存せず、マルテンサイト相以外の部分の転位密度等の内部要因を測定でき、かつ、マルテンサイト相内の転位密度その他格子欠陥を測定することができるので、より正確にオーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化の測定を行うことができる。
【0093】
また、オーステナイト系ステンレス鋼は、前述のように、塑性変形によりマルテンサイト変態し、常磁性から強磁性に遷移することが知られている。しかし、本願発明者の研究過程において、200℃以上で材料に塑性変形を加えてもマルテンサイト変態を起こさないことが分かった。例えば、オーステナイト系ステンレス鋼を200℃以上で熱間圧延した場合には、材料内に転位密度の高い状態が存在していてもマルテンサイト変態を起こさないために、塑性変形を加える前と区別が付かなくなってしまう。それゆえ、従来の飽和磁化等による測定方法では200℃以上で使用した材料の強度劣化を評価することができない。また、本発明の上記実施例の方法でもマルテンサイト相が全く存在しなければ評価できないことが考えられる。
【0094】
そこで、200℃以上の温度で使用したオーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化の測定に上記実施例の測定方法を適用できるようにするための方法を以下に説明する。
【0095】
オーステナイト系ステンレス鋼のマルテンサイト変態は、例えば、室温から液体窒素温度(77K)に急冷しても起こる。その際、オーステナイト相及びマルテンサイト変態により生じたマルテンサイト相では転位密度の増加は殆ど見られない。従って、変態により生じるマルテンサイト相の量の変化に伴って飽和磁化は増加するところ、上記実施例における第1の比Ms/χH *の関係は変化しない。一方、室温から液体窒素温度(77K)に急冷することにより変態して生じるマルテンサイト相の量はマルテンサイト変態を起こす前のオーステナイト相内の転位密度に大きく関係する。そこで、図41に、オーステナイト系ステンレス鋼に200℃で塑性変形を加えた後に、室温から液体窒素温度(77K)に急冷後、2分間保持したものについてマルテンサイト相の量を測定しその値を示す。横軸は200℃での変形量(歪み)を示す。なお、図41中、白丸でプロットしたものは200℃以上で塑性変形を加えたものについて示し、白正方形でプロットしたものは、200℃以上で塑性変形を加えた後、室温から液体窒素温度(77K)に急冷し、その後2分間保持したものについて示している。なお、図41では、飽和磁化Msの単位を[emu/g(イーエムユー/グラム)]として示し、塑性歪及びマルテンサイト相の量の単位を[%]として示している。
【0096】
図41に示すように、200℃以上で塑性変形を加えた場合、急冷をしないものについてはマルテンサイト変態を殆ど起こさない(図41中、白丸参照)。この一方、200℃以上で塑性変形を加えた後、室温から液体窒素温度(77K)に冷却して2分間保持したものについては、マルテンサイト変態を起こし塑性変形が進み転位密度が高くなるに従い(塑性歪が大きくなるに従い)、変態により生じるマルテンサイト相の量が急激に減少する(図41中、白正方形参照)。これは、転位がマルテンサイト変態を邪魔するように作用するからである。
【0097】
それゆえ、図41に示す関係を利用することにより、200℃以上で使用したオーステナイト系ステンレス鋼構造材及びそれを用いた構造体についての経年劣化の非破壊検査を行うことが可能である。具体的には、測定工程を行う前に、200℃以上で使用した被測定構造体1の測定部分を液体窒素温度(77K)に急冷するという急冷工程を行う。そして測定工程で、先の第1及び第2実施例と同様に、被測定構造体1についてヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験を行い、得られた対象ヒステリシス・マイナーループから第1〜第4の関係を適宜得るとともに、急冷工程での急冷により変態して生じたマルテンサイト相の量を測定してそのマルテンサイト相の量からオーステナイト相内の転位密度を計算する。なお、転位密度が比較的小さいときには、急冷により変態して生じるマルテンサイト相の量は比較的大きいが、塑性変形が進み転位密度が高くなると、急冷により変態して生じるマルテンサイト相の量が少なくなる。
【0098】
なお、被測定構造体1の測定部分を液体窒素温度に急冷するという急冷工程を行い、図41の関係から飽和磁化Msを測定しても内部応力(転位密度)が求まる。その場合、飽和磁化Msは104[Oe]の磁界を加えなくても図14の関係から簡易的に求めることができる。
【0099】
このことから、上記実施例の測定方法において200℃以上で使用した被測定構造体1の経年劣化を測定する場合には、その被測定構造体1の測定部分を室温から液体窒素温度(77K)に急冷してマルテンサイト変態によりマルテンサイト相を生じさせ、そのマルテンサイト相についてヒステリシス・マイナーループ磁化測定試験を行う。そしてこれにより得られた対象ヒステリシス・マイナーループから先の第1及び第2実施例と同様にして、変形応力σと第1の比Ms/χH *との関係等を得て、その関係に基づき材料の経年劣化を評価することができる。
【0100】
なお、急冷により変態して生じるマルテンサイト相の量は、転位密度、結晶粒界等の格子欠陥のほかにニッケルやクロムのような化学成分に依存する。従って、この方法を実施する際には、予め被測定構造体1と同種のテストピースを用いて、急冷により変態して生じるマルテンサイト相の量と歪(又は応力)との関係のデーターベースを求めておくことが必要となる。
【0101】
また、オーステナイト系ステンレス鋼を急冷してマルテンサイト変態によりマルテンサイト相を生じさせることは、厳密な意味では非破壊検査方法の理念から反するようにも思われる。しかし、経年劣化の測定後に、600℃〜700℃程度の温度で短時間(数分間)熱処理をすることにより、マルテンサイト相をオーステナイト相に回復させることができる。従って、200℃以上で使用したオーステナイト系ステンレス鋼の経年劣化の測定においても、材料の熱処理による影響が無視できるような場合には上記熱処理を行うことで先の第1及び第2実施例の測定方法が適用でき、非常に有効である。
【0102】
なお、材料の経年劣化は、一般的に、構造材全体について巨視的な意味で均一に進行すると考えられている。それゆえ、経年劣化の測定は被測定構造体1全体の経年劣化を測定することは一般的に必要とされず、部分的に経年劣化を測定すれば十分である。従って、200℃以上で使用した被測定構造体1の強度の経年劣化の測定においては、部分的に急冷、測定及び回復を行えば十分である。しかし、負荷応力が部分的に大きくなる場合もあり得る。そのような場合にも適用可能なように、いくつかの観測点を決め、それらの観測点を局部的に急冷して測定し、測定後にその部分を回復させることで、構造材全体の経年劣化の情報を得ることができる。
【0103】
従って、本発明のオーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化に対する非破壊測定方法における上記第1及び第2実施例の構成によれば、磁気ヨークと励磁電源とで非破壊測定が可能であって、しかもオーステナイト系ステンレス鋼構造材の強度の経年劣化の高感度な非破壊測定を行うことができる。
【0104】
なお、本実施例においても、先の第1実施例で説明した第1変形例、第2変形例、第3変形例及び第4変形例における関係線図を適用することができる。
【0105】
以上、図示例に基づき説明したが、この発明は上述の例に限定されるものではない。例えば、上記実施例では、オーステナイト系ステンレス鋼としてSUS304を用いたが、本発明の測定方法で経年劣化を測定できるオーステナイト系ステンレス鋼はSUS304に限られるものではなく、例えばSUS316についても、SUS304と同様にして実験を行った結果、本発明の測定方法で経年劣化を測定できることが確認できた。また、上記実施例では構造体について測定したが、構造体用の構造材料についても測定し得ることは言うまでもない。さらに、この発明の方法の各工程を実施する手段を組み合わせて、経年劣化測定装置を構成することができるのはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 (a)は引張変形を加えた試料の形状を示す斜視図であり、(b)はヒステリシス・マイナーループ磁化特性を測定した際の試料の形状を示す斜視図である。
【図2】 高いニッケル成分のオーステナイト系ステンレス鋼H−SUS304の引張試験の結果を例示する応力−歪特性を示す説明図である。
【図3】 標準のオーステナイト系ステンレス鋼S−SUS304の引張試験の結果を例示する応力−歪特性を示す説明図である。
【図4】 ヒステリシス・マイナーループにおいて、擬保磁力Hc*、最大磁界HMAX、擬磁化率χH *を例示して説明する説明図である。
【図5】 ヒステリシス・マイナーループにおいて、擬ヒステリシス損失WF、擬レマネンス損失WR、擬磁化率χr *,χrev *,χmax *を例示して説明する説明図である。
【図6】 負荷応力(変形応力)σ=351,438,495,534[MPa]を加えた後のH−SUS304についてヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験により得られた擬保磁力Hc*と最大磁界HMAXとの関係を示す説明図である。
【図7】 負荷応力(変形応力)σ=375,488,557,608[MPa]を加えた後のS−SUS304についてヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験により得られた擬保磁力Hc*と最大磁界HMAXとの関係を示す説明図である。
【図8】 負荷応力(変形応力)σ=351,438,495,534[MPa]を加えた後のH−SUS304についてヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験により得られた第1の比Ms/χH *と最大磁界HMAXとの関係を示す説明図である。
【図9】 負荷応力(変形応力)σ=375,488,557,608[MPa]を加えた後のS−SUS304についてヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験により得られた第1の比Ms/χH *と最大磁界HMAXとの関係を示す説明図である。
【図10】 上記図6及び図8に示す関係から得られた、H−SUS304についての擬保磁力Hc*と第1の比Ms/χH *との関係を示す説明図である。
【図11】 上記図7及び図9に示す関係から得られた、S−SUS304についての擬保磁力Hc*と第1の比Ms/χH *との関係を示す説明図である。
【図12】 上記図10に示す、H−SUS304についての擬保磁力Hc*と第1の比Ms/χH *との関係を、擬保磁力Hc*が0〜20[Oe]の範囲で拡大して示す部分拡大図である。
【図13】 上記図11に示す、S−SUS304についての擬保磁力Hc*と第1の比Ms/χH *との関係を、擬保磁力Hc*が0〜20[Oe]の範囲で拡大して示す部分拡大図である。
【図14】 塑性変形を加えたオーステナイト系ステンレス鋼H−SUS304及びS−SUS304の試料について、3T(=3×104[Oe])の強い磁界強度Hで測定して得られた飽和磁化Ms[gauss]と、100[Oe],50[Oe]の磁界強度Hで測定して得られた磁化M100[gauss],磁化M50[gauss]との関係を示す説明図である。
【図15】 上記図12に示すH−SUS304についての、擬保磁力Hc*=4[Oe]における公称応力(負荷応力σ)と第1の比Ms/χH *との関係を示す説明図である。
【図16】 上記図13に示すS−SUS304についての、擬保磁力Hc*=4[Oe]における公称応力(負荷応力σ)と第1の比Ms/χH *との関係を示す説明図である。
【図17】 オーステナイト系ステンレス鋼H−SUS304の第2の比WR/WFと擬保磁力Hc*との関係についての変形応力依存性を示す関係線図である。
【図18】 オーステナイト系ステンレス鋼S−SUS304の第2の比WR/WFと擬保磁力Hc*との関係についての変形応力依存性を示す関係線図である。
【図19】 オーステナイト系ステンレス鋼H−SUS304の第3の比Br*/Bm*と擬保磁力Hc*との関係についての変形応力依存性を示す関係線図である。
【図20】 オーステナイト系ステンレス鋼S−SUS304の第3の比Br*/Bm*と擬保磁力Hc*との関係についての変形応力依存性を示す関係線図である。
【図21】 オーステナイト系ステンレス鋼H−SUS304の第4の比χr */χH *と擬保磁力Hc*との関係についての変形応力依存性を示す関係線図である。
【図22】 オーステナイト系ステンレス鋼S−SUS304の第4の比χr */χH *と擬保磁力Hc*との関係についての変形応力依存性を示す関係線図である。
【図23】 オーステナイト系ステンレス鋼H−SUS304の第5の比χrev */χmax *と擬保磁力Hc*との関係についての変形応力依存性を示す関係線図である。
【図24】 オーステナイト系ステンレス鋼S−SUS304の第5の比χrev */χmax *と擬保磁力Hc*との関係についての変形応力依存性を示す関係線図である。
【図25】 オーステナイト系ステンレス鋼H−SUS304の擬保磁力Hc*=10及び20[Oe]における第2の比WR/WFと変形応力σとの関係を示す関係線図である。
【図26】 オーステナイト系ステンレス鋼S−SUS304の擬保磁力Hc*=10及び20[Oe]における第2の比WR/WFと変形応力σとの関係を示す関係線図である。
【図27】 オーステナイト系ステンレス鋼H−SUS304の擬保磁力Hc*=10及び20[Oe]における第3の比Br*/Bm*と変形応力σとの関係を示す関係線図である。
【図28】 オーステナイト系ステンレス鋼S−SUS304の擬保磁力Hc*=10及び20[Oe]における第3の比Br*/Bm*と変形応力σとの関係を示す関係線図である。
【図29】 オーステナイト系ステンレス鋼H−SUS304の擬保磁力Hc*=20[Oe]における第4の比χr */χH *と変形応力σとの関係を示す関係線図である。
【図30】 オーステナイト系ステンレス鋼S−SUS304の擬保磁力Hc*=10及び20[Oe]における第4の比χr */χH *と変形応力σとの関係を示す関係線図である。
【図31】 オーステナイト系ステンレス鋼H−SUS304の擬保磁力Hc*=10及び20[Oe]における第5の比χrev */χmax *と変形応力σとの関係を示す関係線図である。
【図32】 オーステナイト系ステンレス鋼S−SUS304の擬保磁力Hc*=10及び20[Oe]における第5の比χrev */χmax *と変形応力σとの関係を示す関係線図である。
【図33】 本発明のオーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化に対する非破壊測定方法の第1実施例を示す説明図である。
【図34】 上記第1実施例において得られる、擬保磁力Hc*と第1の比Ms/χH *との関係を例示する説明図である。
【図35】 上記第1実施例において得られる、Hc*=一定での第1の比Ms/χH *と変形応力(負荷応力)σとの関係(第4の関係)を例示する説明図である。
【図36】 上記第1実施例の第1変形例において得られる、Hc*=一定での第2の比WR/WFと変形応力(負荷応力)σとの関係(第9の関係)を例示する説明図である。
【図37】 上記第1実施例の第2変形例において得られる、Hc*=一定での第3の比Br*/Bm*と変形応力(負荷応力)σとの関係(第10の関係)を例示する説明図である。
【図38】 上記第1実施例の第3変形例において得られる、Hc*=一定での第4の比χr */χH *と変形応力(負荷応力)σとの関係(第11の関係)を例示する説明図である。
【図39】 上記第1実施例の第4変形例において得られる、Hc*=一定での第5の比χrev */χmax *と変形応力(負荷応力)σとの関係(第12の関係)を例示する説明図である。
【図40】 本発明のオーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化に対する非破壊測定方法の第2実施例を示す説明図である。
【図41】 200℃で塑性変形を加えたオーステナイト系ステンレス鋼を、室温から液体窒素温度(77K)に急冷後2分間保持したものについて、塑性歪[%]と飽和磁化Ms[emu/g]とマルテンサイト相の量[%]との関係を示す説明図である。
【符号の説明】
1 被測定構造体
2 励磁巻線
3 磁束検出巻線
4 磁気ヨーク
5 磁気閉回路
6 ヒステリシス・マイナーループ磁化特性測定装置
7 ヒステリシス・マイナーループ磁化特性
Claims (6)
- オーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化を定量的かつ非破壊で測定する非破壊測定方法において、
あらかじめ、測定対象のオーステナイト系ステンレス鋼と同種のオーステナイト系ステンレス鋼について、引張試験を行い応力と歪との関係を得て、前記同種のオーステナイト系ステンレス鋼に、前記応力と歪との関係に応じて値を変化させた負荷応力(σ)を与えて測定して得た基準ヒステリシス・マイナーループから、前記オーステナイト系ステンレス鋼の経年劣化の評価情報となる物理量の相関関係を得ておく評価情報取得工程と、
前記測定対象のオーステナイト系ステンレス鋼について測定にて対象ヒステリシス・マイナーループを得て、このヒステリシス・マイナーループから、前記物理量の測定値を得る測定工程と、
前記評価情報取得工程で得た物理量の相関関係に基づいて、前記測定工程で得られた、前記物理量の測定値から、前記測定対象のオーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化を評価する評価工程と、を具えてなり、
前記各ヒステリシス・マイナーループは、飽和磁界強度よりも小さい前記磁界強度(H)の範囲内で、材料に印加する前記磁界強度(H)の最大値(HMAX)を段階的に変化させてオーステナイト系ステンレス鋼の磁束密度(B)を測定することにより得られた前記磁界強度(H)と前記磁束密度(B)との関係から、前記磁界強度(H)の最大値(HMAX)ごとに得るものである、オーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化に対する非破壊測定方法。 - 前記物理量の相関関係が、
磁束密度(B)の値がゼロのときの磁界強度(H)の値である擬保磁力(Hc*)と材料に印加する前記磁界強度(H)の最大値(HMAX)との関係である第1の関係および、飽和磁化(Ms)と前記擬保磁力(Hc*)における前記基準ヒステリシス・マイナーループの傾きである擬磁化率(χH *)との第1の比(Ms/χH *)と、前記磁界強度(H)の最大値(HMAX)との関係である第2の関係であって、
前記測定工程にて測定される物理量の測定値は、磁束密度(B)の値がゼロのときの磁界強度(H)の値である擬保磁力(Hc*)と、前記第1の比(Ms/χH *)との値であることを特徴とする、請求項1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化に対する非破壊測定方法。 - 前記評価情報取得工程で、前記第1の関係および前記第2の関係から、前記第1の比(Ms/χH *)と前記擬保磁力(Hc*)との関係である第3の関係を得て、前記評価工程で、前記第3の関係から、前記オーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化の状態を評価することを特徴とする、請求項2に記載のオーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化に対する非破壊測定方法。
- 前記評価情報取得工程で、前記第1の関係及び前記第2の関係、または前記第3の関係から、或一定の前記擬保磁力(Hc*)における、前記第1の比(Ms/χH *)と前記負荷応力(σ)との関係である第4の関係を得て、前記評価工程で、前記第4の関係から、前記オーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化の状態を評価することを特徴とする、請求項2または請求項3に記載のオーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化に対する非破壊測定方法。
- 前記物理量の相関関係が、
前記基準ヒステリシス・マイナーループで囲まれた部分の面積である擬ヒステリシス損失(WF)と前記基準ヒステリシス・マイナーループで囲まれた部分の面積より求めた擬レマネンス損失(WR)との第2の比(WR/WF)と、磁束密度(B)の値がゼロのときの磁界強度(H)の値である擬保磁力(Hc*)との関係である第5の関係と、
前記磁界強度(H)の値がゼロのときの磁束密度(B)の値である擬残留磁束密度(Br*)と前記磁界強度(H)の最大値(HMAX)のときの磁束密度(B)の値である擬磁束密度(Bm*)との第3の比(Br*/Bm*)と前記擬保磁力(Hc*)との関係である第6の関係と、
前記磁界強度(H)の値がゼロのときの磁束密度(B)の値である擬残留磁束密度(Br*)における擬磁化率(χr *)と前記擬保磁力(Hc*)における擬磁化率(χH *)との比である第4の比(χr */χH *)と前記擬保磁力(Hc*)との関係である第7の関係と、
前記磁界強度(H)の最大値(HMAX)における二つの磁化率のうち小さい方の磁化率(χrev *)と前記二つの磁化率のうち大きい方の磁化率(χmax *)との比である第5の比(χrev */χmax *)と前記擬保磁力(Hc*)との関係である第8の関係との少なくとも一つの関係であって、
前記測定工程にて測定される物理量の測定値は、前記擬保磁力(Hc*)の値と、前記第2の比(WR/WF)、前記第3の比(Br*/Bm*)、前記第4の比(χr */χH *)及び前記第5の比(χrev */χmax *)のうち前記物理量の相関関係に対応する物理量の値とであることを特徴とする、請求項1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化に対する非破壊測定方法。 - 前記評価情報取得工程で、前記物理量の相関関係から、或一定の前記擬保磁力(Hc*)における、前記第2の比(WR/WF)と前記負荷応力(σ)との関係である第9の関係、或一定の前記擬保磁力(Hc*)における、前記第3の比(Br*/Bm*)と前記負荷応力(σ)との関係である第10の関係、或一定の前記擬保磁力(Hc*)における、前記第4の比(χr */χH *)と前記負荷応力(σ)との関係である第11の関係、及び或一定の前記擬保磁力(Hc*)における、前記第5の比(χrev */χmax *)と前記負荷応力(σ)との関係である第12の関係の少なくとも一つの関係を得て、前記評価工程で、前記評価情報取得工程関係で得た関係から、前記オーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化の状態を評価することを特徴とする、請求項5に記載のオーステナイト系ステンレス鋼の強度の経年劣化に対する非破壊測定方法。
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