JP3636292B2 - フェライト焼結体の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、フェライト成形用顆粒を用いて成形、焼結することにより得られるフェライト焼結体の製造方法に係り、特に磁心損失が低減されたフェライト焼結体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
フェライトは電子部品に幅広く用いられる。そのフェライトはフェライト材料を用いて成形され、その成形体を焼成することにより得られる。従来、フェライト成形体を製造する方法としては、種々の方法が採用されているが、なかでも乾式の加圧成形法が一般的に広く行われている。たとえばフェライト原料粉末とバインダーと水とにより水性スラリーを調整し、これをスプレードライヤーで噴霧乾燥して作製した顆粒、またはフェライト原料粉末とバインダー溶液とを攪拌混合し、乾燥とオシレーティング押出し造粒を繰り返して作製した顆粒を加圧成形することにより、フェライト成形体が製造される。そしてその成形体を焼成することにより焼結体が得られる。なお、オシレーティング押出し造粒法とは、例えば数mm程度の粒径に造粒された粒子を網上で押し潰して細かくした粒子を落下させるという作業を、網目を順次細かくした数段の工程で行うことにより、所定の粒径以下の粒子を得る方法である。
【0003】
前述のような焼結前の成形体を得る際の加圧成形方法においては、フェライト成形用顆粒として、流動性が良好で、金型への充填性(流動性)が良く、しかも小さい圧力で潰れやすいものを使用することが、得られるフェライト焼結体の品質を良くし、かつ生産性を高めるという見地から重要である。
【0004】
ところで、流動性が良く、小さい圧力で潰れやすい顆粒を製造する方法としては、特開平5−159918号公報や特公平7−17460号公報に、分散剤を用いてスラリーを調整してこれを造粒する方法が開示されている。また、特公平3−31660号公報や特開平10−59776号公報には、バインダーの偏析を抑制して造粒する方法が開示されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前記公報に記載の方法は、一般にスプレードライヤーを用いた噴霧乾燥造粒法に適用される技術であって、オシレーティング押出し造粒法に適用しても、所定の効果を発揮することはできず、用途が狭い。
【0006】
また、前記公報に記載の方法は、顆粒の流動性や潰れ易さは改善されるものの、得られる成形体の強度や、焼結体の電磁気特性、特に磁心損失については満足しうる効果が得られない。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑み、磁心損失が低減されたフェライト焼結体の製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
請求項1のフェライト焼結体の製造方法は、フェライト原料粉末と、
バインダーとしてのポリビニルアルコールに可塑剤として分子量が1000以上6000以下のポリエチレングリコールを加えた水溶液とを混合してフェライト成形用顆粒を造粒し、
該顆粒を型により成形し、
該成形体を焼結して吸水率が0.2重量%以下の焼結体を得る
ことを特徴とする。
【0009】
請求項2のフェライト焼結体の製造方法は、請求項1のフェライト焼結体の製造方法において、
造粒用バインダーとしてのポリビニルアルコール100重量部に対し、可塑剤としてのポリエチレングリコールを5重量部以上50重量部以下添加する
ことを特徴とする。
【0010】
本発明のフェライト成形用顆粒の原料粉末は、特に限定されるものではないが、例えば、Fe2O3、MgO、MnO、NiO、CuO、ZnOを主成分とし、必要に応じて、さらに、副成分ないし不可逆的不純物として、Co、W、Bi、Si、B、Zr等の金属酸化物が含まれてもよい。
【0011】
また、フェライト原料粉末の好ましい平均粒径は、0.01〜5μmであり、より好ましくは0.1〜1.5μmである。好ましい平均粒径にするためには、ボールミル、攪拌ミル、アトライター等のような粉砕方式によっても良く、また、湿式粉砕、乾式粉砕のいずれでも良い。
【0012】
第一の必須成分であるポリビニルアルコールは、一次粒子の結合剤、すなわち原料粉末と原料粉末の結合材として機能するものであり、公知のものの中から、鹸化度や重合度を適宜選択して用いることができる。このポリビニルアルコールの添加量は、原料粉末100重量部に対して、通常0.2〜10重量部、より好ましくは0.5〜3重量部である。ポリビニルアルコールの添加量が0.2重量部未満であると、フェライト粒子を造粒できなくなるので好ましくない。逆に10重量部を超えると、フェライト顆粒が硬くなりすぎ、潰れが悪くなることにより、顆粒粒界を多く残し成形不良を発生させる。また、容量欠陥が増加するので好ましくない。
【0013】
第二の必須成分であるポリエチレングリコールは、フェライト成形体顆粒において、可塑剤として機能し、低圧潰れ性と圧力伝達性を改善し、顆粒粒界を低減するものである。ポリエチレングリコールの分子量は1000〜6000の範囲のものが好ましく、より好ましくは2000〜4000である。分子量が1000未満のものでは、低圧潰れ性は改善するが、吸湿性が大きいため、顆粒の流動性が低下し、金型への均一充填ができない。また、6000を超える分子量のものでは、添加による低圧潰れ性の改善効果が少なく、かつ成形体強度の低下によるクラックが発生し易くなる。
【0014】
本発明によるフェライト成形用顆粒は、従来より公知の方法である例えばスプレードライヤーによる噴霧造粒法や、オシレーティング押出し造粒法等により、フェライト粉末を造粒することにより得られる。このようにして得られたフェライト顆粒の平均粒径は、通常50〜500μm、好ましくは70〜300μm、より好ましくは80〜150μmである。平均粒径が50μm未満であると、流動性および金型への充填が悪くなることにより、成形体の寸法および単重量のばらつきが大きくなるので好ましくない。また、金型への微粉付着(スティッキング)が発生し易くなるので、好ましくない。逆に500μmを超えると、顆粒粒界を多く残し成形不良を発生させる。また、成形体の寸法および単重量のばらつきも大きくなる。
【0015】
本発明による高密度フェライト成形体を製造するには、フェライト成形用顆粒を金型を用いて乾式加圧成形を行う。この際、プレス圧力は、通常、40〜500MPa、好ましくは80〜400MPaの範囲で選ばれる。
【0016】
本発明の焼結体製造に用いる成形用顆粒において、ポリエチレングリコールの添加量が50重量部を越えると、成形体強度の低下によるクラックが発生し易くなる。また、5重量部未満では、添加による低圧潰れ性の改善効果が不十分である。ポリビニルアルコールに対するポリエチレングリコールの添加量は、より好ましくは、20〜40重量部である。
【0017】
【発明の実施の形態】
〔造粒材料の調整〕
表1、表2に示すように、フェライト焼結体を作製するに当たり、造粒は、オシレーティング押出し造粒法と、スプレー噴霧造粒法を用いた。また、このような造粒を行うための材料として、フェライト粉末と、ポリビニルアルコール(PVA)とポリエチレングリコールの水溶液またはポリビニルアルコール単独の水溶液とを混合し、造粒のための材料とした。
【0018】
ここで、PVA水溶液No.5〜7はスプレー噴霧造粒によるもので、それ以外のものはオシレーティング押出し造粒による。オシレーティング押出し造粒によるもの(No.5〜7以外のもの)については、Mn−Mg−Zn系フェライト粉末100重量部に、ポリエチレングリコール添加または不添加の種々のポリビニルアルコール水溶液を17重量部添加し、攪拌造粒機TMミキサー(三井鉱山社製)で混合攪拌造粒を行い、造粒粉を調整した。
【0019】
また、表1において、PVA水溶液No.5、6のもの(スプレー噴霧造粒)については、Mn−Mg−Zn系フェライト粉末69重量部、水25重量部、固形分濃度12重量%のポリエチレングリコール添加ポリビニルアルコール水溶液を6重量部および分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩0.25重量部を湿式混合して、フェライトスラリーを調整した。PVA水溶液No.7のもの(スプレー噴霧造粒)は、ポリエチレングリコールを添加しないこと以外はPVA水溶液No.5、6と同様に調整した。
【0020】
ここで、表1に示すように、ポリビニルアルコールは、鹸化度が98.5で重合度が2400のもの(PVA水溶液No.1〜4、8〜13、17〜20)と、鹸化度が88.0で重合度が500のもの(PVA水溶液No.5〜7)と、鹸化度が88.0で重合度が1700のもの(PVA水溶液No.14〜16、21〜23)とを使用した。
【0021】
また、ポリエチレングリコールは、分子量が600のもの(PVA水溶液No.3、20、22)と、分子量が1000のもの(PVA水溶液No.12〜14、23)と、分子量が2000のもの(PVA水溶液No.1、6、8、15〜18、21)と、分子量が4000のもの(PVA水溶液No.2、5、9、19)と、分子量が6000のもの(PVA水溶液No.10)、分子量が10000のもの(PVA水溶液No.11)とを使用し、ポリビニルアルコール100重量部に対するポリエチレングリコールの添加量を表1の右欄に示すように種々に変化させた。
【0022】
【表1】
【0023】
〔造粒〕
PVA水溶液No.1〜4、8〜23のものについては、表2に示すように、前記造粒粉をベルト乾燥機で乾燥処理し、オシレーティング造粒解砕機で押出し造粒を行い、シフターにて整粒し、平均粒径250μmの顆粒を得た。また、PVA水溶液No.5〜7のものにおいては、スプレー噴霧造粒機で造粒し、平均粒径125μmの球形顆粒を得た。
【0024】
〔流動度の測定〕
得られた顆粒の流動度をJIS Z2502に規定されている漏斗よりフェライト顆粒50gを流下させる時間(秒/50g)を測定した。
【0025】
〔顆粒の成形〕
次いで、得られた顆粒をそれぞれ98MPaの圧力で乾式加圧成形し、長さ55mm、幅12mm、高さ5mmの直方体状のブロック成形体を得た。このブロック成形体の抗折強度を、荷重試験機(アイコーエンジニアリング社製)を用いてJIS R1601に規定されている方法に従い測定した。
【0026】
〔成形体の焼結〕
さらに、得られた顆粒をそれぞれ98MPaの圧力で乾式加圧成形し、外径21mm、内径12mm、厚さ7mmのリング状成形体を作製した。ついで、これらを1300℃の温度において2時間焼結し、リング状コアを作製した。
【0027】
〔磁心損失の測定〕
次に、これらのリング状コアの磁心損失Pcvを、64kHz、50mT、100℃の条件下で、B−H アナライザー(岩崎通信機社製 SY−8216)により測定した。
【0028】
〔吸水率の測定〕
また、このコアの吸水率を、JIS C2141に準じた方法で測定した。すなわち、試験片となるコアを105℃〜120℃で乾燥後、デシケーター中で室温に戻し、乾燥質量W1を測定し、その後、コアを水中で沈め、煮沸して冷却した後、表面の水分をガーゼにより拭き取って飽水試験片を得てその重量W2を測定し、吸水率(%)を次式から求めた。
【0029】
吸水率=100×(W2−W1)/W1
得られた磁心損失Pcvと吸水率の測定結果を表2に示す。
【0030】
【表2】
【0031】
〔成形圧力と成形体密度との関係〕
次に、PVA水溶液No.6、7で作製した顆粒1.5gを直径6mmの金型に充填し、成形圧力49〜294MPaの間で変化させ、乾式加圧成形することにより、直径6mm、長さ16〜19mmの円柱状のフェライト成形体を作製し、このサンプルについて、成形圧力と成形体密度との関係を求めた。その結果を図1に示す。
【0032】
〔側面の写真〕
また、成形圧力196MPaで作製した成形体のコア側面の潰れ状態をSEM写真で撮影した結果を図2に示す。図2(a)、(b)、(c)は、PVA水溶液No.6で作製した顆粒を成形した成形体の上部、中間部、下部の各側面を示す。また、図2(d)、(e)、(f)は、PVA水溶液No.7で作製した顆粒を成形した成形体の上部、中間部、下部の各側面を示す。
【0033】
〔評価〕
(ポリエチレングリコールの添加の有無)
上述のように、可塑性剤としてポリエチレングリコールをポリビニルアルコールに加えて顆粒を得、その顆粒によりフェライト成形体を製造することにより、顆粒粒界が少ない高密度のフェライト成形体が得られる。この成形体を焼結することにより、緻密で空隙の少ない、すなわち吸湿性が少ない焼結体が得られる。
そのため、焼結体内の欠陥の減少により、磁心損失Pcvが大幅に改善されたフェライト焼結体が得られた。
【0034】
(ポリエチレングリコールの分子量について)
PVA水溶液No.12、14、すなわちポリエチレングリコールの分子量が1000の場合、磁心損失Pcvが70と低く、流動度がそれぞれ25、26であって、好ましい流動度である28以下であり、抗折強度も1.7、1.7と、好ましい抗折強度である1.2以上であり、両者とも良好な範囲である。
【0035】
一方、ポリエチレングリコールの分子量が600であるPVA水溶液No.3、20、22については、磁心損失Pcvはそれぞれ62、63、64と低く、良好であるが、流動度がそれぞれ30、29、31と悪く、抗折強度もそれぞれ0.9、0.9、1.0と低いという結果が得られた。そしてこの流動性の悪化により、金型への顆粒の充填性が悪く、不安定なものとなるため、寸法・単重量のばらつきにつながるため、好ましくない。また、抗折強度の低下もクラックの発生につながるため、好ましくない。従って、ポリエチレングリコールの分子量は1000以上であることが好ましい。
【0036】
一方、ポリエチレングリコールの分子量が6000であるPVA水溶液No.10の場合、磁心損失Pcvが72と低く、流動度が26、抗折強度が1.7と両者とも良好な範囲である。しかしポリエチレングリコールの分子量が10000であるPVA水溶液No.11の場合、磁心損失Pcvが85と高く、抗折強度も1.1と低い結果となった。このことから、ポリエチレングリコールの分子量は6000以下であることが好ましい。
【0037】
また、ポリエチレングリコールの分子量が2000または4000であって、ポリエチレングリコールの添加量が所定の範囲内(ポリビニルアルコール100重量部に対してポリエチレングリコール5〜50重量部)であるPVA水溶液No.1、2、5、6、8、10、12、15、21においては、吸水率がいずれも0.2%以下であり、また、磁心損失Pcvが72以下でいずれも低く、流動度も26以下、抗折強度も1.4以上と良好な範囲であるため、分子量は2000〜4000の範囲にあることが好ましい。
【0038】
(ポリエチレングリコールの添加量について)
ポリエチレングリコールの分子量が2000でポリビニルアルコールに対する添加量が5重量部であるPVA水溶液No.8の場合、磁心損失Pcvが74と低く、流動度は25、抗折強度は1.8といずれも良好な範囲である。しかし、ポリエチレングリコールの分子量が4000でポリビニルアルコールに対する添加量が3重量部であるPVA水溶液No.9の場合、ポリエチレングリコールの分子量が1000でポリビニルアルコールに対する添加量が2重量部であるPVA水溶液No.13の場合、ポリエチレングリコールの分子量が2000でポリビニルアルコールに対する添加量が3重量部であるPVA水溶液No.16の場合、いずれも磁心損失Pcvが80以上と高い値を示す。従ってポリエチレングリコールの添加量は5重量部以上であることが好ましい。
【0039】
一方、ポリエチレングリコールの添加量が50重量部であるPVA水溶液No.18やNo.23の場合、磁心損失Pcvがそれぞれ62、65と低く、良好である。また、抗折強度は低下するものの、許容範囲(1.2以上)である。
【0040】
しかし、ポリエチレングリコールの添加量が60重量部であるPVA水溶液No.17やNo.19の場合、磁心損失Pcvが60、62と低く、良好であるが、抗折強度が0.7と低く、クラックが発生し易い結果となった。このようなことから、ポリエチレングリコールの添加量は50重量部以下であることが好ましい。
【0041】
また、ポリエチレングリコールの分子量が2000、4000の場合、ポリエチレングリコールのポリビニルアルコールに対する添加量が20〜40重量部の範囲内にあるPVA水溶液No.1、2、5、6の場合、いずれも、吸水率が0.07以下と低く、また磁心損失Pcvが69以下と低く、流動度は26以下で、抗折強度も1.4以上と良好な範囲であるため、ポリエチレングリコールより好ましい添加量は20〜40重量部である。
【0042】
(吸水率と磁心損失Pcvとの関係について)
図3に表2の吸水率と磁心損失Pcvとの関係を散布図として示す。吸水率が0.2%以下であれば、この例の組成のフェライトにおいて、80kW/m3以下の低い磁心損失Pcvのコアが得られることが判る。さらに、70kW/m3以下のより低い磁心損失Pcvのコアを得るためには、吸水率が0.1%以下であることが好ましい。
【0043】
【発明の効果】
請求項1によれば、フェライト原料粉末と、バインダーとしてのポリビニルアルコールと、可塑剤として添加され、分子量が1000以上6000以下のポリエチレングリコールとを混合し造粒し、これを成形し、焼結することによりフェライト焼結体を得ているので、成形時の低圧潰れ性が改善され、フェライト成形体の顆粒粒界が低減され、その焼結体の内部欠陥の低減により磁心損失が低いフェライト焼結体が得られる。
【0044】
請求項2によれば、請求項1において、ポリビニルアルコール100重量部に対し、ポリエチレングリコールを5重量部以上50重量部以下添加してなるので、請求項1、の効果がよりよく達成される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例および比較例における成形体の成形圧力と成形体密度との関係を示すグラフである。
【図2】本発明の実施例および比較例における成形体の状態を示す写真図である。
【図3】本発明におけるフェライト焼結体の吸水率と磁心損失との関係図である。
Claims (2)
- フェライト原料粉末と、
バインダーとしてのポリビニルアルコールに可塑剤として分子量が1000以上6000以下のポリエチレングリコールを加えた水溶液とを混合してフェライト成形用顆粒を造粒し、
該顆粒を型により成形し、
該成形体を焼結して吸水率が0.2重量%以下の焼結体を得る
ことを特徴とするフェライト焼結体の製造方法。 - 請求項1のフェライト焼結体の製造方法において、
造粒用バインダーとしてのポリビニルアルコール100重量部に対し、可塑剤としてのポリエチレングリコールを5重量部以上50重量部以下添加する
ことを特徴とするフェライト焼結体の製造方法。
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