JP3570425B2 - キャピラリー電気泳動装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はDNA、蛋白質等を分離分析するキャピラリー電気泳動装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
DNA、蛋白質等の分析技術は、遺伝子解析や遺伝子診断を含む医学、生物学の分野で重要で、特に最近では、高スループットのDNA解析装置の開発が進んでいる。これらの解析は主にゲル電気泳動によって行なわれている。ゲル電気泳動は電気泳動の分離媒体にゲル状物質を使う方法で、通常、レーザを泳動する試料に照射して、試料を標識する蛍光標識から誘起された蛍光を検出する。例えば、測定試料がDNAの場合、蛍光標識したDNAを調製し、2枚のガラス板の間に形成したアクリルアミドゲル(平板ゲル)の上端に蛍光標識DNA試料を注入する。その後、ゲルの両端に電界を印加して試料DNAの各成分(断片)を分子量分離しながら下端方向に泳動させ、各成分が一定距離だけ泳動した上端から所定の位置をレーザで照射し、所定の位置を通過する各成分からの蛍光を検出する。この結果を解析することによりDNA塩基配列を決定したり、制限酵素断片の多型性を識別できる。最近では平板ゲルに替わり、石英毛細管(キャピラリー)内にゲルを重合させたキャピラリーゲルが用いられるようになった。キャピラリーゲル電気泳動は、平板ゲル電気泳動と比較して大きな電界を加えられるため、高速、高分離が可能な方法として注目を集めている。通常、キャピラリーゲル電気泳動装置では、1本のキャピラリー管を用い、その下端近傍のキャピラリー中をレーザ照射し、蛍光検出するオンカラム計測を行なっている(ぶんせき、342頁(1995))。 また、スループットの向上を目的とし、キャピラリー複数本をアレイ化して多くの試料を同時に分析するキャピラリーアレイゲル電気泳動装置が報告されている。第1の例では、複数のキャピラリーアレイを順次移動させ、キャピラリーを1本ずつ順番にレーザ照射し、オンカラム蛍光計測するものである(Analytical Biochemistry、215、163−170(1993))。第2の例では、特開平06−138037号公報に記載のように、シースフローを利用した方式である。この装置ではキャピラリーアレイ下端をシース液中に浸し、ゲル電気泳動によって分子量分離された試料成分をそのままシース液中に溶出させ、キャピラリーの存在しない部分で試料成分からの蛍光を検出する。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
キャピラリーゲル電気泳動では、上部に開口を有する電極槽(正極、負極)内の電解液にキャピラリーの両端をそれぞれ直接挿入し、電圧を印加する。同様に測定試料をキャピラリーゲル内に注入する際にも、上部に開口を有するサンプルチューブ等の容器内に測定試料液を入れ、キャピラリーの一端を直接測定試料液に接触させ、他端との間に電圧を印加する。つまり、試料注入端のキャピラリーは、電極槽内の電解液またはサンプル容器内の測定試料液に対してほぼ垂直上方に配置され、ほぼ垂直に挿入される。同様に、キャピラリーの他端は、キャピラリーが途中で折り曲げられ、電極槽内の電解液にほぼ垂直に挿入される配置を採る。測定試料のキャピラリー内での移動方向は、キャピラリーの注入端ではまず垂直上方に移動し、キャピラリーの他端では逆に垂直下方に移動し、移動方向が反転する。この配置により、キャピラリーそのものがピペットの代わりになり、試料液のキャピラリーへの注入が容易になる。しかし、キャピラリーを屈曲させるため、使用できるキャピラリーの長さがある程度必要であり、例えば、キャピラリー全長を20cm以下にすることが困難になり、高速の電気泳動に不適となるという問題がある。また、キャピラリーを複数本並べて使用する場合、キャピラリー群は3次元の空間配置にならざるを得ず、キャピラリー群の温度調節には空気循環するしかなく装置構造が大きくなるという問題がある。さらにゲルキャピラリーの屈曲により、分離性能の低下の可能性もある。また、一般にキャピラリーは褐色のポリイミドで被覆されており、アルゴンレーザ光等を励起光とする蛍光検出時等にポリイミドが蛍光を発し、背景光となり、測定感度が低下しやすいという問題がある。さらに、シースフローを使ったキャピラリーアレイ装置では、シース液中のゴミまたは気泡がノイズになる可能性があり、取り付け時、測定時に注意が必要である。本発明の目的は、上記の問題を解決し、温度調整、試料注入の操作が容易で、迅速、高精度なキャピラリー電気泳動装置を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
上記の目的は、各キャピラリーの試料注入端の向きをほぼ垂直に保ち、キャピラリーの折り曲げ、特に折り返しのない構造とすることで達成される。詳しくは、試料注入端のキャピラリーは電極槽内の電解液またはサンプル容器内の測定試料液に、ほぼ垂直上方から挿入されるような配置とし、さらに、試料注入端を除くキャピラリーの任意の位置でのキャピラリーの中心軸と、試料注入端のキャピラリーの中心軸とが成す角度を±90°以内、より好ましくは、キャピラリーの試料注入端と試料流出端でのキャピラリーの中心軸をほぼ平行とする構成とする。即ち、試料流出端の位置を試料注入端より高い位置として、試料注入端が垂直下方に向き、試料流出端が垂直上方に向いた配置とする。このような構成により、単一のキャピラリー、又は複数のキャピラリーを大きく屈曲させることなく配置でき、試料は下方から垂直上方に移動し、泳動分離できる。
【0005】
複数のキャピラリーの各一端(試料流出端)をシースフローセル中に一直線状に配列させて終端させ、シースフローセル中でキャピラリー内で分離泳動された成分を計測する電気泳動装置においても、上述と同様のキャピラリーの配置をとり、シースフローセルの下部近傍にキャピラリーの試料流出端の終端面がセル上方に面して配置され、シースフロー流がセルの下部からセルの上部に向けて流れる構成とする。また、複数のキャピラリーの長さ方向の大部分をほぼ垂直平面内に配置し、各キャピラリーの試料注入端を下方に配置し、試料を上方へ泳動させ、試料の泳動方向を反転させない構成とする。さらに、キャピラリーの被覆を黒色にして、レーザ光の散乱光又は反射光によるキャピラリーからの蛍光の発生を防止し、背景光強度を小さくし高感度な検出ができる。
【0006】
さらに詳細に本発明の特徴を説明すると、本発明のキャピラリー電気泳動装置では、泳動媒体が充填され、試料が注入される第1の端部と試料に含まれる成分が流出する第2の端部を有する複数のキャピラリーと、第2の端部が第1の所定の間隔で直線状に配置されて終端するシースフローセルと、シースフロー液をシースフローセルの下部から上部に流す手段と、シースフローセル中でキャピラリー内を泳動して分離した成分を第2の端部の近傍で検出する手段とを有し、シースフロー液がシースフローセルの下部から上部に流れることを特徴とする。さらにこのキャピラリー電気泳動装置において、キャピラリーの長さの大部分がほぼ同一平面内に配置すること、シースフローセルの内部に複数のキャピラリーの第2の端部の配列に隣接して、キャピラリーとほぼ同寸法の外形を有する細管又は棒状体が、第1の所定の間隔で複数配置されること、泳動媒体がアクリルアミドゲル、ポリマー、ポリマーゲルの何れかであること、第1の端部が第2の端部の下方に配置されること、第1の端部の配列する第2の所定の間隔で直線状に配置され、第1の端部の配列と平行して配置される複数の試料を各々分離して収納する容器を有すること、第1の端部の配列する第2の所定の間隔で直線状に配置され、第1の端部の配列と平行して配置される複数の試料を各々分離して収納する容器を有する試料容器を具備し、試料容器を移動する手段を有することに特徴がある。
【0007】
さらに、本発明のキャピラリー電気泳動装置は、試料分離部がキャピラリーであるキャピラリー電気泳動装置において、キャピラリーの試料注入端を除くキャピラリーの位置でのキャピラリーの中心軸と、試料注入端のキャピラリーの中心軸とが成す角度が±90°以内であること、キャピラリーの試料注入端と試料流出端でのキャピラリーの中心軸の方向をほぼ平行とし、試料の注入方向と試料のキャピラリーからの流出方向がほぼ一致すること、キャピラリーの試料注入端でのキャピラリーの中心軸の方向と試料流出端でのキャピラリーの中心軸の方向とが交叉し、試料の注入方向と試料のキャピラリーからの流出方向が交叉する(交叉する角度は180°に近い方が複数のキャピラリーを小さい空間に収納でき、温度制御を簡単な方法で行なうことができ、複数のキャピラリーをほぼ同一温度に保持できる)ことに特徴がある。
【0008】
【発明の実施の形態】
(実施例1)
以下では、ゲルを充填した複数のキャピラリー(即ち、キャピラリーアレイ)を使い、シースフローセル内で試料を標識する蛍光体から蛍光を計測する方式で、DNAの塩基配列を決定する装置及び方法について説明する。DNAシーケンシング用の試料(蛍光標識されたDNA断片(蛍光標識DNA断片))を調製する。1本の泳動路(ゲルキャピラリー)で蛍光標識DNA断片の末端塩基種を識別するために、末端塩基種が各々A、C、G、TであるA、C、G、T断片群を得るため互いに異なる蛍光体(蛍光体FA、FC、FG、FT)で標識する。そこでA、C、G、T断片群毎に、蛍光極大波長が各々、約550nm、約520nm、575nm、605nmの蛍光体を標識したプライマー(各々、プライマーA、プライマーC、プライマーG、プライマーTと略記)を使用する。これら標識されたプライマーを使用し、周知のサンガー(Sanger)らのジデオキシ法により、DNAポリメラーゼ反応を各々行ない、蛍光標識DNA断片を調製する。これらの4つの断片群は最終的に単一サンプルチューブに入れて混合し、エタノール沈殿処理の後、脱イオン化ホルムアミド(1/10量のトリス緩衝液を含む)に溶解させ、試料液とした。ゲルキャピラリーへの注入前に試料液90℃で2分間加熱して熱変性させ、その後すぐに氷冷し、キャピラリーの試料注入端への注入操作に使用する。なお、蛍光標識をプライマーにではなく、ターミネータに標識して試料を調製しても同様の処理を行ない試料注入端への注入操作に使用する。
【0009】
次に、装置について説明する。図1はキャピラリーアレイ、及び蛍光測定部となるシースフローセル部の構成と配置を示す図である。内部にゲルを充填したキャピラリーを48本用い(以下に図では簡単のために、その一部の本数のみを示す、また液体をシールするためのOリング等の部品等は省略している。)、一端を一直線状に揃えて並べたキャピラリーアレイを作製する。ここで使用するキャピラリーは種々の内外径のものが使用できるが、例えば、内径0.075mm、外径0.2mm、長さ約20cmのものを使用し、周知の方法でその内部にアクリルアミドゲルを充填して使用する。ゲル濃度は4%T((アクリルアミド+ビスアクリルアミド)の全溶液量に対する比率)、5%C(ビスアクリルアミドの(アクリルアミド+ビスアクリルアミド)に対する比率)とする。なお、キャピラリーはその表面に折り曲げ時の破損を防ぐ等の目的でポリイミドコーティングがされているが、ここでは、ポリイミドにカーボンを混入させる等して黒色のコーティングをしたものを使用する。キャピラリー保持具91及び92には各々2.25mm間隔及び0.4mm間隔の取付溝を形成してあり、キャピラリー同士の間隔を揃え、キャピラリーアレイの取付等を容易にするために使う。まず、48本のキャピラリー90を同一平面上に並べ、各端をキャピラリー保持具91及び92に固定して、一端が2.25mm間隔、他端が0.4mm間隔に保持して、キャピラリーの両端を切断して揃える。2.25mm間隔に固定されたキャピラリー端90aは試料注入側の端であり、反対側のキャピラリー端90bは泳動分離された試料断片が流出される試料流出側の端である。キャピラリー端90bはキャピラリー保持具92とともに、シースフローセルの下部に取り付けられる。キャピラリー保持具92には48本のキャピラリー90の外側に、各々6本ずつダミーガラス棒93をキャピラリー90bの間隔と同じ間隔で取り付けた。このダミーガラス棒93はキャピラリー90のキャピラリー端90bの個々の環境を全て同じするために設けたもので、キャピラリー90とほぼ同等の外径を持っていればよい。ここではキャピラリー90と同じ寸法のキャピラリーを用い、その内部を固形物で埋めて使用した。ダミーガラス棒93の数はシースフローセルの流路の断面の幅に依存し、幅全体にキャピラリーが均一に存在するように調整する。このダミーガラス棒93により、キャピラリー端90bの個々のシースフローの環境が全て同じになり、キャピラリー90の1本目から48本目までのキャピラリー端90bで安定した均一の流れを形成できる。
【0010】
シースフローセル部は、流路の断面が0.22mm×24.2mmである、石英ガラス製のシースフローセル83、その上下をシースフローセル固定用の保持具82、84で固定したものである。保持具82、84はシース用の液体(シース液)が流れるような空間を有する。シース液にはアクリルアミドゲルを調製したものと同等の緩衝液を使用する。シース液は、シース液容器80からチューブ81を介し、保持具82、フローセル83、保持具84を通り、チューブ85を介して廃液容器86に流れ込むという流路を流れる。シース液容器80を廃液容器86より高く配置することで、流路をシース液がサイホンの原理でゆっくりと安定に流れ、キャピラリー端90bの近傍にシースフローが形成される。キャピラリー90のシースフローセル部への取付は、キャピラリー端90bの端面の乾燥によるダメージを可能な限り低減するため、シースフローセル内部をシース液で満たした後に行う。キャピラリー端90aの端面も乾燥によるダメージを可能な限り低減するため、キャピラリーを切断した後は、緩衝液中に保持する。
【0011】
図2は図1に示すキャピラリーアレイを使った電気泳動装置の構成図である。キャピラリー保持具92、キャピラリー90、キャピラリー保持具91、シースフローセル83等は平面内に配置され、シースフローセル83の側が上部になるように垂直に立てて固定されて、シースフローセル83内をシース液は下から上方に流れる。キャピラリー90の下部には、1列に並んだキャピラリー端90aの間隔と同じ間隔に形成された48個のウエルを有する試料容器100(各ウエルには測定する試料液が収納される)、及び緩衝液が収納される電極槽101、洗浄液が収納される洗浄液槽102が並び、移動台103により上下、左右(試料容器100、及び電極槽101、洗浄液槽102が並ぶ方向、即ち複数のキャピラリー90が成す面とほぼ直交する方向)に移動させ、キャピラリー端90aを目的によって試料液、緩衝液、洗浄液に挿入、着脱できる(図2では、移動台103の移動駆動系は省略してある)。試料容器100の48個のウエル内に測定用の試料液をピペットで注入する。電極槽101には緩衝液を、洗浄液槽102には洗浄液として蒸留水を注入する。まず、移動台103を移動駆動系(図2では、移動駆動系は省略してある)により移動し、キャピラリー端90aを洗浄液槽102の上部に置き、移動台103を上下させて洗浄液槽102内に浸しキャピラリー端90a端に付着している可能性のあるゴミや緩衝液等を洗浄する。次いで、移動台103を移動駆動系により移動し、キャピラリー端90aを試料容器100の上部に置き、移動台103を上下させて試料容器100内の試料液をキャピラリー端90aに接触させ、試料液側に25V/cmの電界強度となる電圧−500V、シースフローセル83内のシース液側を0Vにして電圧を印加し、キャピラリー端90a内に試料を注入する。なお、図2では正極、負極の電極及び高電圧電源を省略している。試料容器100の48穴のウエル毎に配置した白金電極、又は試料容器をステンレスで作製して試料容器そのものを正極の電極とする。ステンレスで作製して保持具84そのもの、又はシースフローセル83内の上部に配置した白金電極、又は廃液容器86内に配置した白金電極を負極の電極とする。
【0012】
キャピラリー端90a内への試料注入後、移動台103を移動駆動系により移動し、キャピラリー端90aを電極槽101の上部に置き、移動台103を上下させてキャピラリー端90aを電極槽101に移して緩衝液中に挿入する。電極槽101内の緩衝液中に保持された白金電極に電圧を印加する。印加する電圧は最初の5分間を25V/cmの電界強度となる電圧−500Vで、次に100V/cmの電界強度となる電圧−2000Vとする。電気泳動の結果、DNA断片が分子量毎に分離してキャピラリー端90bからシースフローセル中に溶出する。この溶出されるDNA断片をシースフロー状態で蛍光計測する。キャピラリー端90bの近傍にシースフローを形成するので、各キャピラリー端90bから溶出するDNA断片同士が混じらないで流れる。この結果、48試料を別々に各キャピラリーへ同時注入して同時に電気泳動し、蛍光計測ができる。また、試料の注入は、予め、試料容器100に試料液を入れておけば、従来の平板ゲルを使用する場合のようにさらにピペッティングにより1試料ずつ手操作で行う必要が無くなり、操作性を向上できる。次に、蛍光測定法について説明する。試料を励起するための光源として、2種のレーザ装置(波長488nmのアルゴンレーザ装置108、波長532nmのYAGレーザ装置107)を使用し、ミラー109とダイクロイックミラー110によりアルゴンレーザ光112とYAGレーザ光111を同軸にして、1本のレーザ光113として、シースフローセル83に焦点距離が約80mmのレンズ(図示せず)で絞って照射した。蛍光標識から生じる蛍光は、集光レンズ114、4種の分光フィルタ115a〜d、像分割プリズム116、結像レンズ117により、2次元検出器118に結像させ、電気泳動によって分離される各試料のDNA断片からの蛍光強度の時間波形をデータ処理ユニット119で解析する構成である。
【0013】
蛍光像の検出について、蛍光検出、色分離部の構成を示す図3により説明する。蛍光発光点220から発する蛍光を、集光レンズ114により集光し、像分割プリズム116により4つに分割し、結像レンズ117により、各々結像(221a〜b)させる。この際、4種の分光フィルタ115a〜dを像分割プリズムの前面、又は後面に配置することで、各々分割された光が別々の波長成分となる。図3では、1つの蛍光発光点220について説明したが、全ての発光点についても同様にして、全ての蛍光発光点からの蛍光が各々同時に分割され各々分割された光が別々の波長成分となる。以上説明した蛍光像の検出では、レーザ光走査や検出器の機械的走査をして蛍光検出する場合のように時間分割して蛍光検出しないので、蛍光強度の測定間隔が長くなることは無く、高速に計測でき、リアルタイムで連続的に計測できる。また、像分割プリズムの前に集光レンズを配置するので蛍光の集光効率が向上し、検出感度が向上する。集光レンズの代わりに円筒レンズを使うこともでき、1方向のみの光を集光するので通常の凸レンズを使う場合に比べて効率は約半分になるが、使わない場合に比べ大幅に検出感度を向上できる。また像分割プリズムを使う場合、蛍光発光点の位置がずれると分割される像の強度の比率が大きく変動する。平板ゲルを使う場合は、ゲルの発熱等により、ゲルに入射したレーザ光の進行方向が曲がって蛍光発光点の位置がずれ、測定精度が低下しやすいという問題があるが、本実施例の場合、レーザ光は水溶液中を通るのでレーザ光は曲がることなく一定位置を照射するので従来に比べ測定精度が向上する。なお本実施例では、キャピラリーの被覆の色を黒色にするので、レーザ光の散乱光又は反射光がキャピラリーに照射されても殆ど蛍光を出さないため、背景光強度が増大せず高感度な検出ができる。4種の分光フィルタ115a〜dを、各々蛍光体FA、FC、FG、FTからの蛍光を透過するように調整して、A、C、G、T断片群を識別して計測できる。但し実際には、蛍光体FA、FC、FG、FTからの蛍光はブロードであり、4種の蛍光体からの蛍光が重なり合っているので、この重なりを補正して蛍光体FA、FC、FG、FT単独の蛍光強度の時間波形が得られる。この時間波形は各々T、G、A、C断片の泳動スペクトルを与え、通常の方法によりDNAの塩基配列が決定できる。
【0014】
なお、レーザ光113は、レンズにより絞って照射するが、焦点距離が約80mmのレンズを使用するので、キャピラリーアレイの幅(本実施例では約20mm)全体に渡って均一に照射できる。本実施例では以下に説明する各種の変形例が可能である。レーザ光は同軸にしないで照射できるが、同軸にした場合、2本のレーザ光が同一個所を照射するので、各々のレーザで励起されるDNA断片の泳動距離が一定になるので泳動時間のずれがなくなり、解析精度が向上する。両方のレーザ光波長に吸収のある蛍光体の場合、同軸にすると、励起光強度が増大することになり検出感度が向上する。なお、1種のみのレーザでも測定は可能である。さらに、2種の波長のレーザ光を使う場合、レーザ光は平行にずらして照射してもよい。例えばArレーザ光による水のラマン波長が別の波長のレーザで励起できる蛍光体からの蛍光波長に近い場合に、水のラマン光強度がノイズとなって測定感度が悪くなるが、2種の波長のレーザ光を平行にずらし、別々の位置で蛍光強度を測定してこのようなラマン光強度の影響を防止できる。
【0015】
本実施例での泳動条件(泳動電圧、時間、ゲル濃度)、キャピラリーの数、長さ、太さ、キャピラリーアレイの上下端の間隔、試料容器の形状(ウエルの数、間隔、材質を含む)等は種々変更可能である。本実施例ではキャピラリー端90aは1列であるが、キャピラリー端端90aの部分近傍のみを2列又はそれ以上の列にすることもでき、この場合、試料容器の形状もキャピラリー端端90aの列に合わせて変更すればよい。さらに、本実施例の装置は、DNA塩基配列決定のみでなく、DNAの制限酵素断片の多型性等のDNA断片一般の検出・診断に使用できる。蛍光検出の際に、像分割プリズムを用いず分光フィルタを1色(1種類)のみとして1種類のみ蛍光体からの蛍光の計測に使用できる。レーザ光の照射法も、本実施例に限定されず、レーザ光を走査する照射法、レーザ光をキャピラリーアレイの幅以上に拡げて照射する方法が可能であり、レーザ光と光電子増倍管をペアにして同時に走査して、キャピラリーアレイからの蛍光を検出できる。
【0016】
本実施例によれば、全てのキャピラリーが同一平面上に配列されているため、平面状の温調パネルで全てのキャピラリーを挟むことができ、容易に温度調節が可能となり、キャピラリーの長手方向の大部分(90%以上)を温調できる。また、キャピラリーをほぼまっすぐにして使用できるため、キャピラリー全長を短くでき、キャピラリー内に作製したゲルに折り曲げ等の負荷を与えずゲルの分離能の低下の可能性を考える必要がなくなる。キャピラリー全長を10cm以下にすることも容易で、試料の高速計測が可能になる。さらに、シースフローを下方から上方に流すので、何らかの原因でシースフロー内に気泡が発生した場合でも、気泡が上部に抜けやすくなり、シース液中に水より重い大きなゴミ等が混入した場合でも、セル内の下部に沈降し、ゴミ等がシース液流れに乗ってレーザ光を遮ることがなく測定が安定する。
(実施例2)
ゲルを充填したキャピラリーアレイを使った実施例2の構成の電気泳動装置について説明する。図4はキャピラリーアレイ及び電気泳動部の実施例2の概略構成を示す正面図、側面図である。内部にゲルを充填したキャピラリーを8本用い、一端を一直線状に揃えて並べたキャピラリーアレイを作製する。ここで使用するキャピラリーは種々の内外径のものが使用できるが、例えば、内径0.075mm、外径0.2mm、長さ約20cmのものを使用し、実施例1と同様に、周知の方法でその内部にアクリルアミドゲルを充填して使用する。但し、キャピラリーの試料注入端から約15cmの位置に蛍光測定用の窓を予め開けておく。窓はキャピラリーのポリイミドコーティングを約3mmから5mmの長さだけレーザ光を通過させる部位及び蛍光を検出する部位、あるいは全周に渡り除去して作成し、この部分にレーザ光を照射してオンカラム計測により蛍光の検出を行なう。即ち、レーザ光を複数のキャピラリーの各窓を通して照射する。キャピラリー保持具6及び7には各々3mm間隔及び0.2mm間隔の取付溝を形成してあり、キャピラリー同士の間隔を揃え、キャピラリーアレイの取付等を容易にするために使う。まず8本のキャピラリー1の蛍光測定用の窓2の位置が揃うようにして、キャピラリー1を同一平面上に並べ、キャピラリー保持具6及び7に固定して、一端が3mm間隔、他端が0.2mm間隔に配置して、各端を切断してほぼ揃える。3mm間隔に固定されたキャピラリー端1aは試料注入側の端であり、反対側のキャピラリー端1bは泳動分離された試料断片が流出される試料流出端である。キャピラリー保持具6、キャピラリー1、キャピラリー保持具7等は平面内に配置されており、キャピラリー保持具7側を電極槽5の下部に取り付け、キャピラリーアレイを垂直に立てて固定する。キャピラリー1の下部には、1列に並んだキャピラリー端端1aの間隔と同じ間隔に形成された8個のウエルを有する試料容器3(各ウエル4には測定する試料液が収納される)、及び図示していないが実施例1と同様に緩衝液が収納される電極槽等が移動台に固定され、実施例1と同様にして動作する。実施例1と同様にして各ウエル4に試料を注入し、電圧を印加すると、試料は下方から電極槽5に向かって垂直上方へ泳動していき、蛍光測定用の窓2で蛍光計測され、キャピラリー端1bから電極槽5内に流出される。蛍光計測は実施例1と同様にしてレーザ光の照射及び蛍光検出を行なう。即ち、実施例1では図2に示すシースフローセル83にレーザ光が照射されるが、本実施例では、レーザ光を複数のキャピラリーの各窓を通して照射する。蛍光計測は複数のキャピラリーの各窓を通して図2に示す蛍光計測系、又は実施例1に説明した各種の蛍光計測系を使用して行なう。レーザ光の照射法は実施例1で説明した各種の方法が可能である。本実施例でも全てのキャピラリーが同一平面内に配置されるため、実施例1に記載したのと同様の効果がある。
(実施例3)
ゲルを充填したキャピラリーアレイを使った実施例3の構成の電気泳動装置について説明する。図5はキャピラリーアレイ及び電気泳動部の実施例3概略構成を示す正面図、側面図である。内部にゲルを充填したキャピラリーを8本用い、一端を一直線状に揃えて並べたキャピラリーアレイを作製する。ここで使用するキャピラリーは種々の内外径のものが使用できるが、例えば、内径0.075mm、外径0.2mm、長さ約25cmのものを使用し、実施例1と同様に、周知の方法でその内部にアクリルアミドゲルを充填して使用する。レーザ光を照射してオンカラム計測により蛍光の検出を行なために、実施例2と同様の条件で、キャピラリーの試料注入端から約15cmの位置に窓22を予め開けておく。キャピラリー保持具26及び27には各々3mm間隔及び0.2mm間隔の取付溝を形成してあり、キャピラリー同士の間隔を揃え、キャピラリーアレイの取付等を容易にするために使う。まず8本のキャピラリー21の蛍光測定用の窓22位置が揃うようにして、キャピラリー21を同一平面上に並べ、キャピラリー保持具26及び27に固定して、一端が3mm間隔、他端が0.2mm間隔になるようにし、各端を切断してほぼ揃える。3mm間隔に固定されたキャピラリー端21aは試料注入側の端であり、反対側のキャピラリー端21bは泳動分離された試料断片が流出される試料流出端である。キャピラリー保持具27をキャピラリー端21bと共に電極槽25の側面の下方に取り付け、キャピラリー21はキャピラリー端21aから蛍光測定用の窓22までが同一平面になるようにして垂直に立て、その後曲げて、キャピラリー保持具27をキャピラリー端21bと共に電極槽25の側面の下方に取り付けて固定する。キャピラリー21の下部には、1列に並んだキャピラリー端21aの間隔と同じ間隔に形成された8個のウエルを有する試料容器23(各ウエルには測定する試料液が収納される)、及び図示していないが実施例1と同様に緩衝液が収納される電極槽等が移動台に固定され、実施例1と同様に動作する。実施例1、実施例2と同様にして各ウエル24に試料を注入し、電圧を印加すると、試料は下方から電極槽25に向かって垂直上方へ泳動していき、蛍光測定用の窓2で蛍光計測され、その後移動方向が90度曲がってキャピラリー端21bから電極槽25内に流出する。蛍光計測は実施例1、及びその変形例と同様にレーザ照射及び蛍光検出ができる。本実施例についても全てのキャピラリーが試料注入端から蛍光測定位置まで同一平面内に配置されるため、実施例1に記載したのと同様の効果がある。
【0017】
以上説明した、各実施例では各キャピラリーに充填する泳動媒体としてアクリルアミドゲルを例にとり説明したが、ポリマー、ポリマーゲルを充填しても良いことは言うまでもない。
【0018】
【発明の効果】
本発明によれば、温度調整、試料注入等の操作が容易で、高感度で迅速な計測ができるキャピラリー電気泳動装置が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例1のキャピラリーアレイ、及び蛍光測定部となるシースフローセル部の構成と配置を示す図。
【図2】図1に示すキャピラリーアレイを使った電気泳動装置の構成図。
【図3】本発明の実施例1の蛍光検出、色分離部の構成を示す図。
【図4】本発明の実施例2のキャピラリーアレイ及び電気泳動部の概略構成を示す正面図、側面図。
【図5】本発明の実施例3のキャピラリーアレイ及び電気泳動部の概略構成を示す正面図、側面図。
【符号の説明】
1、21…キャピラリー、1a、1b、21a、21b…キャピラリー端、2、22…蛍光測定用の窓、3、23、100…試料容器、4、24…ウエル、5、25…電極槽、6、7、26、27、91、92…キャピラリー保持具、80…シース液容器、81、85…チューブ、82、84…シースフローセル固定用の保持具、83…シースフローセル、86…廃液容器、90…キャピラリー、90a、90b…キャピラリー端、93…ダミーガラス棒、101…電極槽、102…洗浄液槽、103…移動台、107…YAGレーザ装置、108…アルゴンレーザ装置、109…ミラー、110…ダイクロイックミラー、111…YAGレーザ光、112…アルゴンレーザ光、113…レーザ光、114…集光レンズ、115〜d…分光フィルタ、116…像分割プリズム、117…結像レンズ、118…2次元検出器、119…データ処理ユニット、220…蛍光発光点、221a〜d…結像。
Claims (2)
- 蛍光物質で標識された試料が注入される第1の端部と、前記試料が流出する第2の端部とを有する複数のキャピラリーと、
前記第1の端部の配列に対応して配列され、複数の前記試料を各々分離して収納するための容器と、
緩衝液を収めるセルと、
前記第2の端部の近傍で、前記緩衝液のシースフローを生じさせる手段と、
前記試料の蛍光を検出するための検出手段とを有し、
前記第1の端部が、前記検出手段で検出される部位よりも低い部位に配置され、
前記緩衝液を前記セルの下部から上部に流す手段を有することを特徴とするキャピラリー電気泳動装置。 - 前記検出手段は、前記セルの内部で生じる蛍光を検出するものであることを特徴とする請求項1に記載のキャピラリー電気泳動装置。
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