JP3546617B2 - 表面性状に優れた鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車や家電製品等への適用に適した、表面性状に優れた薄鋼板(鋼帯、表面処理鋼板用の原板、表面処理鋼板を含む)の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
自動車や家電製品等の部品に使用される鋼板では優れた表面性状が要求されることが多い。表面性状を劣化させる主要因はスケール性欠陥であり、この欠陥は、製鋼性と熱延性の2種類に大別される。
【0003】
前者の製鋼性欠陥は、連続鋳造時にスラブ表層部に巻き込まれたスラグやモールドパウダー等の製鋼性介在物が原因となるスケール性欠陥で、スラブ表層部を研削除去するいわゆるスラブ手入によって発生量を低減することができる。近年、鋳造技術の進歩に伴いスラブ手入を省略するいわゆる無手入れ化が拡大されてきているが、高度な表面品質が要求される鋼板については、スケール性欠陥の発生を完全に防止するために手入れ量を多くとっているのが現状であり、歩留や作業効率の低下が問題となっている。
【0004】
一方、後者の熱延性欠陥は、スラブ加熱時に発生する粒界酸化や熱延前のスケール残りに起因するスケール性欠陥で、熱延前の加熱条件、成分、デスケーリング方法等について種々の対策が検討されてきた。
【0005】
例えば、鉄と鋼, Vol.67 (1981),S1128 では、熱延前のスラブ加熱温度を低下することにより、スラブ表層の粒界酸化が抑制されて、スケール性欠陥の発生が回避できることが報告されている(以下「従来技術1」と呼ぶ)。
【0006】
さらに、特開平8−41588 号公報には、SiおよびOを低減してスラブ加熱時の粒界酸化を抑制し、Bを添加してスケール剥離性を向上させてスケール性欠陥の発生を抑制する技術が開示されている(以下「従来技術2」と呼ぶ)。
【0007】
一方で、CAMP−ISIJ,Vol.3 (1990),p.1452 に示されているように、熱延前の高圧水によるデスケーリングについて、高圧水の衝突圧を高めてスケール残りを低減する技術も検討されている(以下「従来技術3」と呼ぶ)。
【0008】
また、特開平6−269840号公報には、仕上げ圧延直前に鋼板表面を加熱した後に高圧水によるデスケーリングを行うことで、スケール厚さの増大と高圧水デスケーリング時の熱応力を増大させ、デスケーリング性を向上させて、仕上げ圧延前のスケール残りを低減する技術も開示されている(以下「従来技術4」と呼ぶ)。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
粗圧延段階では鋳造組織が残留して熱間延性が劣るため、熱延性および製鋼性を問わず、スケール性欠陥は特に粗圧延時に発生しやすい。すなわち、前記のような粒界酸化、スケール残り、パウダー等を起点として粗圧延中にクラックが発生し、クラック部分が倒れ込んでラップ状欠陥となって仕上げ圧延後も残留する。実機において、製鋼性欠陥が多発したものと同一チャージのスラブについて、粗圧延終了後に圧延を中断して急冷し、欠陥部分を調査したところ、欠陥の深さは100〜200μmのものが多く、中にはさらに深いものが認められたスラブもあった。
【0010】
「従来技術1」に示されているスラブの低温加熱は、粗圧延前に粒界酸化を残留させないという点で、非常に大きい効果がある。しかしながら、スラブの低温加熱を行うと、加熱中に酸化除去されるいわゆるスケールオフ量が減少し、従来加熱ではスケールと共に除去されていた製鋼性介在物が加熱後も残留するようになる。その結果、特に鋳造組織が残留して熱間延性が劣る粗圧延時にこれらを起点としてクラックが発生し、製鋼性欠陥が逆に増大することになる。そのため、スラブ表面の手入れ量の増大を図る必要があり、作業効率の低下やコスト増を招くという問題がある。
【0011】
また、「従来技術2」については、「従来技術1」のような問題はないが、低Si、低O化に伴うコスト増は避けられない。さらに、Siは偏析しやすいので、加熱条件と圧延条件によって偏析の程度が変化すると、偏析に起因する局部的な粒界酸化については必ずしも抑制することはできないという問題がある。
【0012】
一方、「従来技術3」については、粒界酸化の除去ができないことは言うまでもなく、さらに、スラブ温度の低下を考慮すると、デスケーリングに用いる高圧水の衝突圧の増大には限界があり、スケール残りの低減にも限界がある。
【0013】
これに対して、「従来技術4」では、表面加熱の温度や時間を増大すれば、スケール化して除去される厚さが増大するので、ラップ状欠陥を除去することも可能である。しかしながら、上記のような100μmを超えるような欠陥を酸化除去するためには、鋼板全体を100μm以上もスケール化することが必要となるので、当該技術中にも記述されているように、著しく歩留が低下することになる。
【0014】
このように、スケール性欠陥の抑制については種々の方法が検討されてきているが、いずれもスケール性欠陥対策としては不十分であり、あるいは著しいコスト増大をともなうものである。したがって、著しいコスト増大を招くことなく、熱延性欠陥と製鋼性欠陥を同時に抑制できる技術が求められているのが現状である。
【0015】
本発明は、このような事情を考慮したものであり、著しいコスト増大を招くことなく、熱延性欠陥と製鋼性欠陥を同時に抑制できる表面性状に優れた鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記のようにスケール性欠陥のほとんどは粒界酸化や製鋼性介在物を起点として粗圧延の段階で発生することから、粗圧延終了後にこれらの欠陥を効率良くかつ選択的に除去することが有効と考え、種々の方法を検討した。
【0017】
そして、粗圧延で得られた粗バーを酸化雰囲気中で高周波誘導加熱することでスケール性欠陥部分を選択的に酸化スケール化することができ、続く工程のデスケーリングで除去すれば、熱延性および製鋼性を問わず、歩留低下を生じることなくスケール性欠陥の発生を著しく低減できることを見いだした。
【0018】
前記の「従来技術4」にも粗バーを加熱する一見類似した技術が提案されており、本文中には誘導加熱を用いることもできるとの記述もある。しかしながら、本文中には高周波誘導加熱を用いることの優位性は言及されておらずかつ実施例もないことから、特に加熱方法の詳細な検討は為されておらず、単なる加熱技術の1つの選択肢として併記されているにすぎないことは明らかである。加熱方法について詳細な検討が為されていない背景には、上記のような粗圧延時に発生するラップ状欠陥を酸化スケール化する技術の重要性が見いだされていないことがある。
【0019】
本発明者らの調査によれば、高周波誘導加熱には、
1)バーナー等による通常加熱に比べラップ部が優先的に酸化スケール化される。
2)バーナー等による通常加熱に比べ酸化速度が大きい。
という重大な効果がある。
【0020】
1)の効果については、図1の矢印に示すように、正常部分では高周波による誘導電流が金属(地鉄)3の表層を優先的に流れるが、ラップ状欠陥部分1では誘導電流がラップ状欠陥部分1の根元を流れ、この部分の抵抗発熱量が表層に比べて大きいため温度上昇の程度も大きく、優先的に酸化が進行してスケール化がより短時間で完了することによると考えられる。
【0021】
一方、2)の効果は、粗圧延終了後から仕上げ圧延開始前までの間に、通常、50μmを超える厚さのスケールが粗バー表面に形成されることに関係するものと考えられる。すなわち、バーナー等の通常加熱では、熱伝導率が劣るスケールを介して熱伝導率に優れる下地金属を加熱するため、金属表面の温度が上がりにくい。これに対して、高周波誘導加熱では、金属のみに誘導電流が流れるため下地金属が直接加熱される。そのため、スケールの存在に影響されることなく昇温速度が増大して酸化も促進される。この効果による両者の酸化速度の格差は、粗バー加熱中の酸化でスケール厚さが増大するに従い、より拡大することになる。
【0022】
また、高周波誘導加熱を行うに先立って粗バーに表面歪みを付与することによって、ラップ状欠陥部分の開口を促進すると共に、スケール中にクラックを形成することが可能になり、その結果、酸素供給を促進し、酸化を促進できることが明らかになった。このような表面歪みの付与には、クラックの発生に至っていない表層直下の製鋼性介在物周辺を開口することあるいはクラック化することで、高周波誘導加熱による酸化スケール化を促進する効果があることもわかった。
【0023】
さらに、この技術によれば、スラブの低温加熱を行っても製鋼性欠陥の発生を抑制することができるので、スラブの低温加熱も合わせて行うことで、より低レベルまでスケール性欠陥の発生を低減することが可能である。
【0024】
本発明は、このような知見に基づくもので、本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)連続鋳造鋼スラブを、1160℃以下に加熱して粗圧延を行うかあるいは連続鋳造後直送圧延を行って粗バーとし、大気中または酸素濃度が3%以上の雰囲気ガス中で、高周波誘導加熱により粗バーの表面を1000℃以上に加熱して粗圧延時に生じたラップ状欠陥部分を優先的に酸化スケール化した後、高圧水によるデスケーリングを施して仕上げ圧延を行うことを特徴とする表面性状に優れた鋼板の製造方法。
(2)連続鋳造鋼スラブを、1160℃以下に加熱して粗圧延を行うかあるいは連続鋳造後直送圧延を行って粗バーとし、伸び率で0.1%以上の表面歪みを付与した後、大気中または酸素濃度が3%以上の雰囲気ガス中で、高周波誘導加熱により粗バーの表面を1000℃以上に加熱して粗圧延時に生じたラップ状欠陥部分を優先的に酸化スケール化した後、高圧水によるデスケーリングを施して仕上げ圧延を行うことを特徴とする表面性状に優れた鋼板の製造方法。
【0025】
<作用>
以下に本発明の限定理由を述べる。
【0026】
スラブの加熱温度:スラブ表層の粒界酸化を低減して高周波誘導加熱との相乗作用でスケール性欠陥をできるだけ低減するために、スラブの加熱は1160℃以下の低温加熱とする。
【0027】
直送圧延材:連続鋳造で得られる高温のスラブを直接圧延する直送圧延材では、前記低温加熱する再加熱材に比べて粒界酸化の程度が小さいので、低温加熱の場合と同様の効果を得ることができる。
【0028】
高周波誘導加熱:粗圧延時に生じたクラックは、粗バーの段階ではスケールをかみ込んでラップした形状になっている。前記したように、高周波誘導加熱は、特にラップしている鋭利な形状の部分のスケール化に対して有効である。高周波誘導加熱では、ラップ状欠陥部分を優先的に酸化することができ、また酸化速度も大きい。大気中または酸素濃度が3%以上の雰囲気中で加熱温度を1000℃以上にして加熱することにより、ラップ状欠陥部分を選択的に酸化スケール化することができる。なお、酸素濃度が3%未満の雰囲気中または加熱温度が1000℃未満では、前記の酸化スケール化が十分には進行しない。
【0029】
次いで、高圧水によるデスケーリングを施して仕上げ圧延を行うことにより、酸化スケールが除去されて、熱延性および製鋼性を問わずスケール性欠陥が著しく低減された表面性状に優れた鋼板を得ることができる。また、ラップ状欠陥部分が選択的に酸化スケール化されているので、デスケーリングによる歩留低下が少ない。
【0030】
粗バーへの表面歪み付与:前記したように、高周波誘導加熱に先立って、粗バーに表面歪みを付与することによって、ラップ状欠陥部分の開口を促進し、スケール中にクラックを形成し、また、クラックの発生に至っていない表層直下の製鋼性介在物周辺を開口しあるいはクラックを発生することによって、酸素供給を促進して、ラップ状欠陥部や製鋼性介在物周辺の酸化スケール化を促進することができる。より優れた酸化スケール化の促進効果を得るには、伸び率で0.1%以上の表面歪みを付与することが好ましい。
【0031】
【発明の実施の形態】
溶製した鋼を常法により連続鋳造してスラブにする。スラブ表層の粒界酸化を低減するため、スラブを1160℃以下に加熱して粗圧延を行うかあるいは連続鋳造後直送圧延を行って粗バーとする。なお、加熱温度は熱間圧延を行うため1000℃程度が実際的な下限である。
【0032】
粗バーを、大気中または酸素濃度が3%以上の雰囲気ガス中で、高周波誘導加熱により粗バー全体の表面を1000℃以上に加熱して、粗バーのラップ状欠陥部分を選択的に酸化スケール化する。酸素濃度は、通常は大気濃度で十分であるが、酸化促進のため、さらに高めてもよい。ただし、周辺設備への影響等を考慮すると50%程度がその上限である。酸化スケール化のためには、加熱温度は高い程よいが、粒界酸化を極力防止するという観点から、粗バーの加熱温度は1160℃以下であることが好ましい。ラップ状欠陥部分を選択的に加熱する効果をより高めるためには、高周波加熱の周波数は、1kHz 以上にすることがより好ましい。
【0033】
高周波誘導加熱に先立って、粗バーに表面歪みを付与すると、ラップ状欠陥部や製鋼性介在物周辺の酸化スケール化を促進できる。この場合、伸び率で0.1%以上の表面歪みを付与することが好ましい。高伸び率にする方が前記効果が優れるが、伸び率が5%を超えると表層部に粗大粒が発生しやすくなるので、5%以下にすることが好ましい。
【0034】
表面歪みを付与する方法としては、粗バーの表裏共に均等に伸び歪みを付与することが有効なため、レベラー等を用いることが好ましい。たとえば、コイル形状に巻き取って加熱するだけでは表裏のうち片面しか開口効果を得ることができず、さらに鋼板への酸素供給が十分になされなくなるので、酸化スケール化が十分に進行しないので表面歪みの付与方法としては適切でない。
【0035】
次いで、常法により、高圧水によるデスケーリングを施して仕上げ圧延を行って酸化スケールを除去した後、コイルに巻き取る。このようにして製造された鋼板は、表面性状に優れる。
【0036】
前記鋼板を脱スケールした鋼板、さらに冷間圧延、焼鈍、調質圧延等を施した鋼板、あるいは前記脱スケールした鋼板や前記冷間圧延、焼鈍、調質圧延等を施した鋼板に表面処理を施した鋼板についても表面性状に優れるという本発明の効果を発揮することができる。本発明の鋼板には、このような鋼板を含む。
【0037】
【実施例】
表1に示す成分組成の実機製造の鋼スラブを用いて、実験室で1100〜1300℃に加熱して熱間圧延を行って30mm厚の粗バーとした後、高周波誘導加熱炉に装入し、1.5KHz で、種々の酸素濃度雰囲気において900〜1150℃に加熱、酸化させ、引き続き120kgf/cm2 の衝突圧で高圧水によるデスケーリングを施した後、残留欠陥の進展を促進して、デスケーリング後の酸化スケールの残留状態の観察を行いやすくするために1パスで50%の強圧下の圧延を施し、急冷して軽酸洗を行った。
【0038】
酸洗後の鋼板表面を実体顕微鏡で観察し、スケール性欠陥の発生数を調べた。また、一部の鋼種については、高周波誘導加熱前にレベラーによる表面歪みを付与して、スケール性欠陥除去に及ぼす効果を調べた。
【0039】
製造条件と調査結果を表2に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
比較例1および3は粗バー加熱温度が1000℃未満であるため、また、比較例2は粗バー加熱の酸素濃度が3%未満であるため、それぞれ欠陥のスケール化が十分に進展せず、欠陥が多数発生している。また、比較例4および5は、スラブ加熱温度が1160℃を超えているため粒界酸化に起因するクラック深さが大きく、粗バー加熱によって十分にスケール化することができず、欠陥の発生数が増大している。また、Si添加鋼の比較例5では、赤スケールに起因する縞状欠陥およびスケール残りも多数認められた。
【0043】
これに対して、本発明例では、Si添加鋼を含めて、いずれも欠陥の発生数が少なく、比較例に対する優位性が明らかである。
【0044】
また、表面歪みを付与した本発明例鋼板10は、ほぼ同一条件で製造した表面歪みを付与してない本発明例鋼板9に比べて、欠陥発生数がより少ない。
【0045】
【発明の効果】
本発明によれば、著しいコスト増大を招くことなく、熱延性と製鋼性のスケール性欠陥を同時に抑制できる表面性状に優れた鋼板を安定して製造できる。本発明により製造された鋼板は、表面性状に優れるので、自動車や家電製品等に使用する鋼板として好適である。
【図面の簡単な説明】
【図1】高周波誘導加熱によりラップ状欠陥部を酸化スケール化する作用を示す図。
【符号の説明】
1 ラップ状欠陥部分
2 スケール
3 金属(地鉄)
Claims (2)
- 連続鋳造鋼スラブを、1160℃以下に加熱して粗圧延を行うかあるいは連続鋳造後直送圧延を行って粗バーとし、大気中または酸素濃度が3%以上の雰囲気ガス中で、高周波誘導加熱により粗バーの表面を1000℃以上に加熱して粗圧延時に生じたラップ状欠陥部分を優先的に酸化スケール化した後、高圧水によるデスケーリングを施して仕上げ圧延を行うことを特徴とする表面性状に優れた鋼板の製造方法。
- 連続鋳造鋼スラブを、1160℃以下に加熱して粗圧延を行うかあるいは連続鋳造後直送圧延を行って粗バーとし、伸び率で0.1%以上の表面歪みを付与した後、大気中または酸素濃度が3%以上の雰囲気ガス中で、高周波誘導加熱により粗バーの表面を1000℃以上に加熱して粗圧延時に生じたラップ状欠陥部分を優先的に酸化スケール化した後、高圧水によるデスケーリングを施して仕上げ圧延を行うことを特徴とする表面性状に優れた鋼板の製造方法。
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1996
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