JP3461320B2 - 耐食性に優れた溶射被覆部材およびその製造方法 - Google Patents

耐食性に優れた溶射被覆部材およびその製造方法

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【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、海水や塩分などに
対して優れた耐食性を示す溶射被覆部材およびその製造
方法に関し、とくに基材表面に電気化学的には貴な電位
をもつ金属成分を含む皮膜を形成して防食するという全
く新しい考え方の下に創案した技術についての提案であ
る。なお、本発明の技術は、重工業地帯、田園地帯など
に建設される鋼構造物や産業機械用部材あるいはアルミ
ニウムやアルミニウム合金部材の耐食性被覆としても利
用できる。
【0002】
【従来の技術】橋梁, 建築用鉄骨, 塔槽類などに用いら
れる鋼材の多くは、自然環境下において赤さびを発生し
て損耗する。特に、硫黄酸化物 (SO) や窒素酸化物
(NO ) 含有量の多い重工業地帯に建設される鋼構造
物は、酸性雨などによる腐食作用を強く受けるものであ
り、また海洋気象地域に構築されている鋼構造物は、海
水や海塩粒子による腐食により著しく損耗することが知
られている。そのため、これらの鋼構造物には通常、何
らかの防食表面処理を施して、腐食を抑制する工夫が払
われている。その代表的なものとして、塗装処理あるい
は溶融亜鉛めっき処理や溶融アルミニウムめっき処理な
どがある。
【0003】その他の防食法としては、炭素鋼の表面に
溶射法によって、電気化学的に卑な電位を示す亜鉛やア
ルミニウムまたはそれらの合金類の溶射皮膜を形成する
方法もある。例えば、JIS H8300 (1999)亜鉛・アルミニ
ウムおよびそれらの合金溶射として制定されている。こ
うした溶射による防食技術は、そもそもZn, Alおよびそ
れらの合金類の皮膜それ自身が優れた耐食性を発揮する
ことと、たとえ皮膜の一部が損耗して基材が露出したと
しても、残存する皮膜金属が電気化学的に鋼基材を保護
する性質 (犠牲陽極作用) を有することを利用したもの
である。なお、これらの溶射皮膜の表面に対しては、さ
らに塗装を施して長期間にわたる耐久性を保持させるい
わゆる重防食処理を施す例が多い。
【0004】しかしながら、最近の鋼構造物について
は、新しく建築されるものに加え、既存の鋼構造物の保
守点検にも莫大な人手と経費を必要とするようになって
おり、従来の上述した考え方による鋼構造物への防食技
術だけでは対処できなくなっているのが実情である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】鋼構造物に施されてい
る塗装や、ZnやAlなどの金属溶射皮膜による従来防食技
術は、ある程度の防食作用は認められるものの、周期的
な塗り替えや、溶射皮膜の場合多孔質であるから再施工
を行う必要がある他、次のような問題点もある。 (1) 基材に対して電気化学的に卑な電位をもつZn, Alお
よびそれらの合金などを用いた溶射皮膜は、犠牲陽極作
用によって鋼構造物を保護する方法であり、鋼構造物基
材の腐食をある程度抑制できるものの、一方でZn, Al金
属皮膜の側から見れば、これらが早く損耗することを意
味しており、再溶射を頻繁に行わねばならないという問
題点がある。 (2) とくに溶射皮膜の場合、多孔質となるため、重工業
が多いことに加え海岸線の長い我が国のような地域で
は、SO,NOの腐食作用に加え、塩害の影響をう
けやすく、そのために鋼構造物の腐食損耗速度が大きい
という問題点があった。
【0006】本発明の主たる目的は、海水やNO, S
などの腐食性ガスに対する耐久性に優れた溶射被覆
部材を提供することにある。本発明の他の目的は、緻密
で密着性に優れた溶射皮膜とすることによって皮膜寿命
を向上させることにて再施工の回数自体を少なくし、保
守作業の負担とコストを抑制することにある。本発明の
さらに他の目的は、耐塩水性等に優れた溶射被覆部材を
安価にかつ容易に製造する技術を提案することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】上述した従来技術が抱え
ている問題点について鋭意検討した結果、その解決のた
めに次に示すような知見に基づく技術手段を採用するこ
とが有利であることがわかった。 (1) 炭素鋼等の金属製基材に対し、従来の犠牲陽極作用
とは全く異なり、逆にこの基材とは電気化学的には貴
電位を示すもののうち特に耐食性に優れた金属を被覆材
料として用いることとし、そして、この材料を用いて溶
射して被覆した溶射皮膜中に、遊離状態の金属Alもしく
はその合金を含有させると、良好な耐食性を発揮するよ
うになる。 (2) 融点の低い金属Alもしくはその合金は、溶射熱源中
で容易に溶け、共存する前記耐食性金属材料と冶金反応
を起こして、アルミニウム金属間化合物を生成するとと
もに、この反応は発熱を伴うため、基材が被曝する温度
が実質的に高くなり、皮膜を構成する粒子の相互結合力
が向上し、ひいては炭素鋼基材と良好な密着性を発揮す
る。 (3) 上記(2) の現象によって、溶射皮膜特有の気孔の存
在が著しく減少し、例えば腐食媒体となる海水などの内
部浸入が効果的に防止できる。従って、少量の海水が皮
膜の気孔部を通って内部に浸入したとしても、皮膜中に
遊離状態で存在する未反応の金属Alもしくはその合金が
犠牲陽極作用を発揮して、炭素鋼基材および他の溶射粒
子の腐食を抑制するようになる。
【0008】上記の知見に基づき開発された本発明は、
炭素鋼基材の表面に、その炭素鋼に対して電気化学的に
同等もしくは貴な電位を示すNi,Cr,Co,Cu,Ti,MoおよびF
eから選ばれるいずれか1種以上の金属または合金から
なる耐食性金属の溶射防食皮膜が形成されていると共
に、この皮膜中には遊離状態の金属アルミニウムもしく
はアルミニウム合金を1〜30wt%含有することを特徴とす
る耐食性に優れた溶射被覆部材である。
【0009】また、本発明のさらに好ましい形態は、金
属製基材の表面に、その基材金属に対して電気化学的
な電位をもつ耐食性金属の溶射防食皮膜が形成され、
かつその溶射防食皮膜中には、遊離状態の金属アルミニ
ウムもしくはアルミニウム合金を1〜30wt%含有する
と共に、アルミニウムと貴な電位の前記金属材料との冶
金反応によって生成するAl金属間化合物を0.3 〜15wt
%含有することを特徴とする耐食性に優れた溶射被覆部
材である。
【0010】上記部材を製造する本発明方法は、炭素鋼
基材の表面に、金属アルミニウムもしくはその合金と、
残部として含む前記炭素鋼に対して電気化学的に貴な電
位をもつNi,Cr,Co,Cu,Ti,MoおよびFeから選ばれるいず
れか1種以上の金属または合金からなる耐食性金属・合
とからなる粉末材料を溶射して溶射防食皮膜を形成す
ると同時に、その皮膜中には遊離状態の金属アルミニウ
ムもしくはその合金を1〜30wt%残留させることを特徴と
する耐食性に優れた溶射被覆部材の製造方法を特徴とす
る。
【0011】また、本発明の他の方法は、金属製基材の
表面に、金属アルミニウムもしくはその合金と、残部と
して含む前記基材金属に対して電気化学的に貴な電位を
もつ耐食性金属・合金(以下、合金を含めて単に金属と
いう)とからなる粉末材料を溶射して溶射防食皮膜を形
成すると同時に、その皮膜中には遊離状態の金属アルミ
ニウムもしくはその合金を1〜30wt%残留させ、次い
で、その溶射防食皮膜をアルミニウムの融点より高い温
度で熱処理することによって、該皮膜中にはさらにAl金
属間化合物を生成分散させることを特徴とする。
【0012】そして、本発明においては、上記溶射防食
皮膜中には、FeAl, FeAl, FeAl, FeAl, NiAl,
NiAl, NiAl, NiAl, CoAl, CoAl12, Co
Al, CoAl, CrAl, CrAl11, CrAl, CrAl
およびCrAl から選ばれる1種以上のAl金属間化合物
が含まれていることが好ましい実施形態と言える。
【0013】
【発明の実施の形態】本発明は、鋼構造物の基材として
炭素鋼材に着目し、その炭素鋼材の表面に対し、炭素鋼
と電気化学的に貴な電位を有すると同時にそれ自体が耐
食性に優れた耐食性金属を主成分とする溶射防食皮膜を
形成させる。そして、その皮膜中には1〜30wt%の遊
離状態の金属Alもしくはその合金を含有させることを特
徴とするものである。
【0014】ここで、基材が炭素鋼 (SS材) である場
合、この炭素鋼の腐食電位(-0.440V vs SCE) と電気
化学的に貴な電位を示す金属としては、Ni, Cr,Co, Cu,
Ti,MoあるいはFeなどがあり、実用金属としては各種の
ステンレス鋼、インコロイ合金、インコネル合金、ハス
テロイ合金、ステライト合金、Ni−Cr合金などが知られ
ている。また、カンタル合金のようにAlを含んでいても
Ni−Cr−Al系合金ではAlが完全に合金化したりまた金属
間化合物として含まれているものも炭素鋼 (SS材) に
対して貴な電位を示す材料である。なお、Cr, Tiなどの
純金属は、酸化膜のない状態ではFeより卑な電位を示す
が、自然環境下においては必ずCrO,TiOのような
酸化膜を生成するので、Feより貴な電位を示す。インコ
ロイ合金、インコネル合金、各種のステンレス鋼などに
含まれているCrも同じ現象を示し、耐食性を向上させ
る。
【0015】即ち、上掲の基材金属、例えば鋼材 (SS
材) に対して貴な電位をもつ金属,合金類は、基本的に
は炭素鋼に比較すると耐海水性に優れ、自然環境下にお
いても長期間にわたって安定した性能を発揮するもので
ある。しかしながら、これらの材料を溶射法によって、
炭素鋼基材の表面に被覆形成すると、溶射プロセスのも
つ本質的な特性である多孔質膜に由来する次のような問
題点がある。というのは、一般的な溶射皮膜中には、必
ず気孔が存在し、海水, 雨水などが内部へ浸入し易い皮
膜構造となっている。そのために、皮膜内部に浸入した
例えば海水は、電解質的な作用を発揮して、貴な電位
(高電位) をもつ溶射皮膜がカソードとなり、卑な電位
(低電位) をもつ炭素鋼基材の方がアノードとなり、い
わゆる腐食電池をつくり、アノードからカソードに向か
う腐食電流が流れる結果、炭素鋼基材の腐食が進行する
という基本的な問題点を抱えている。従って、本発明に
おいて、卑な電位とは、よりマイナス側の電位を示す金
属 (低電位) を意味し、一方、貴な電位とは、よりプラ
ス側の電位を示す金属 (高電位) を意味するものとす
る。
【0016】さらに、一般的な溶射皮膜において、溶射
材料はその微粒子が溶射気流中を飛行する際に扁平化さ
れて基材上に積層した構造を呈すると共に、それぞれの
微粒子は加熱, 溶融される際に溶射雰囲気中の空気によ
って酸化されるため、その表面には必ず酸化膜が生成す
る。したがって、扁平化した積層粒子は、酸化膜を介し
て相互に接触した皮膜構成になる。そのために、積層粒
子間結合力はもとより、炭素鋼基材との結合力も弱くな
る欠点がある。そのうえ、これらの扁平化した積層溶射
粒子表面の酸化膜は、延性に乏しく、また金属のように
融合することもないので、微小な空隙を生成する原因と
なり、これが海水などの水溶液の内部浸入経路となって
いる。
【0017】こうした現象は、Zn, Alおよびそれらの合
金の溶射皮膜にも発生するが、これらの金属溶射皮膜
は、もともと炭素鋼よりも電気化学的に卑な電位 (低電
位) をもつため、たとえ海水が浸入してきたとしても、
炭素鋼基材の方がカソードとなって逆の腐食電流が流れ
るから防食作用を伴う。従って、現在の多くの防食皮膜
というのは、Zn, Alなどの基材に対して相対的に卑な
(低電位) 金属の溶射皮膜の施工が一般的となっている
のである。いわゆる本発明は、もともと炭素鋼よりも電
気化学的に貴な電位 (高電位) をもつ金属, 合金を被覆
して、以下に説明するような溶射防食皮膜を形成するこ
とにより、防食しようとする技術であると言える。
【0018】即ち、本発明にかかる技術は、もっと詳し
く述べると、いわゆる炭素鋼に対し電気化学的に貴な電
位を示す金属材料であっても、金属それ自体の耐食性が
優れていれば、宿命的な溶射皮膜中の気孔の影響を受け
ないようにすることができることを利用したものであ
る。その方法とは、第1に、溶射材料中に金属Alを添加
し、溶射後はその皮膜中に遊離状態のその金属Alを残留
分散させることによって、フリーな金属Alにて気孔を封
孔するとともに、該溶射皮膜を構成する微粒子の相互結
合力や炭素鋼基材との結合力を向上させることにある。
なお、本発明に従って形成した溶射皮膜は、未反応の残
留金属Alが気孔中に侵入して封孔することから、密度の
高い皮膜となる。即ち、本発明にかかる上記皮膜の密度
は、従来の皮膜の気孔率1〜3%に比べて0.2 〜0.5 と
低く、特に貫通気孔が消滅する特徴がある。
【0019】第2に、その溶射皮膜を形成した後にあっ
ては、この皮膜中に独立して固溶した金属Alが遊離状態
で含まれていると、この遊離金属Alは、該皮膜中の電気
化学的に貴な金属粒子および炭素鋼基材に対して、いわ
ゆるアノードとして作用して自らが犠牲陽極となつて前
記金属粒子や炭素鋼基材を保護する作用を担うことにな
る。
【0020】例えば、SUS 304 ステンレス鋼粒子の表面
に、金属Alを造粒法を利用してコーティングした溶射材
料を用いて成膜すると、次のような反応が起こる。 (1) 溶射熱源中では、まず表面の融点の低い金属Alが溶
融するとともに、その内部のステンレス鋼粒子と冶金反
応を起こす。 (2) 上記冶金反応によって、FeAl, FeAl, FeAl, Fe
Al, NiAl, NiAl , NiAl, NiAl, CrAl, Cr
Al11, CrAl, CrAlおよび CrAlなどの金属間
化合物が生成する。これらの反応は、いずれも発熱反応
であるため、溶融・半溶融粒子の温度を上げて粘度を低
下させる。その結果、該溶融・半溶融粒子が炭素鋼基材
へ衝突する際、粒子はよく扁平化して積層していくの
で、粒子間結合力が向上すると共に、気孔の減少に役立
つこととなる (NiAl金属間化合物の生成時に発生する熱
量である断熱燃焼温度は約1900Kである) 。 (3) 溶射熱源中を通過する溶射粒子は、時間的には非常
に短い (1/100 〜1/1000秒) ため、上記(2) の反応は完
結することなく炭素鋼基材の表面に衝突するので、すべ
ての反応が非平衡のままとなり、Alもまた未反応のまま
の状態, 即ち少なくとも一部が遊離状態で皮膜中に残留
することとなる。 (4) 上述した未反応金属Alは、溶融状態にあるため、ス
テンレス鋼粒子との相互結合を促すと共に、流動性が良
好なため、炭素鋼基材に衝突したときの密着力を向上さ
せる。しかも、皮膜の気孔部は、この未反応金属Alの侵
入によって封孔されることとなる。 (5) 溶融した金属Alは、脱酸作用があるため、ステンレ
ス鋼粒子の酸化膜生成反応を抑制する。このことは、ス
テンレス鋼粒子と金属Alとの相互結合力の向上に寄与す
る。なお、Coを含む溶射材料とAlが冶金反応をすると、
CoAl, CoAl12, CoAlあるいは CoAl などの
金属間化合物を生成する。 (6) 溶射皮膜中に生成するAl金属間化合物は硬質である
ため、皮膜の耐摩耗性や耐ブラストエロージョン性を向
上させる効果がある。
【0021】本発明で使用する電気化学的に貴な電位を
示す溶射材料としては、Ni, Cr, Co, Cu, Ti, Moなどの
金属およびこれらの金属を主要成分とする合金、例えば
Fe合金 (例えばステンレス鋼:18wt%Cr−8wt%Ni−残
Fe) やAl合金 (例えばカンタル合金:23wt%Cr−6wt%
Al−2wt%Co−残Fe) を使用することができる。なお、
前記Fe合金、Al合金は、溶射前の状態でFeやAlが合金と
して固溶していたり、金属間化合物として含まれている
ものであるが、炭素鋼に対してはいずれも貴な挙動を示
す金属材料の一種である。表1は、これらの金属, 合金
材料の腐食電位測定例を示すものである。
【0022】
【表1】
【0023】本発明において、溶射皮膜中に含まれる遊
離状態の金属Al量は、1wt%〜30wt%の範囲がよい。
金属Alの量が1wt%より少ないと該Alによる犠牲陽極作
用が起こらず、添加の効果に乏しくなる。一方、この量
が30wt%より多くなっても、本発明の上記作用・効果
が格別大きくならないので実用的でない。
【0024】なお、金属Alの添加方法は、基材金属より
も電気化学的に貴な電位をもつ溶射材料粒子の表面を覆
うように金属Alを被覆したものを用いることが最良であ
るが、もちろん金属Alの粒子を単に物理的に混合したも
のであってもよい。ここで、Al合金の例としては、例え
ば JIS H4000, JIS H4040 に規定されている合金であれ
ばすべて使用することができる。
【0025】上記の耐食性を有する溶射皮膜を形成する
ための有効な方法は、プラズマ溶射法, フレーム溶射
法, 高速フレーム溶射法、爆発溶射法などのように、粉
末状の溶射材料の使用が可能な溶射法がよく適合する
が、溶射法それ自体については特に限定がある訳ではな
い。上掲の溶射法に用いる溶射粉末材料の粒径は、5〜
80μmの範囲がよく、特に10〜50μmの範囲が好
適である。5μmより小さい粒径では流動性が悪く、ま
た80μm以上のものでは溶射熱源中における加熱昇温
速度が遅くなるため、Al金属間化合物の生成が円滑に完
結されにくい傾向があるからである。
【0026】
【実施例】実施例1 この実施例では、溶射材料として表2に示すような成分
組成の合金を用いて実験した。これらの溶射材料および
溶射皮膜は、すべて炭素鋼 (-0.440V) に対し電気化学
的に貴な電位を示すものであり、同時にそれぞれの材料
を単独で海水中に浸漬すると、いずれも炭素鋼より優れ
た耐食性を示すものである。皮膜の形成方法は、上記各
溶射材料中に、金属Alの含有量がそれぞれ8wt%となる
ように添加 (溶射粒子の表面に金属Alを造粒法によって
被覆) した後、高速フレーム溶射法によって、炭素鋼試
験片 (SS400 寸法:幅50×長100 ×厚 5mm)上に150 μ
m厚となるように成膜し、その後、試験片の端面および
裏面については防錆塗装を施し、炭素鋼の露出部がない
ように処理した。さらにその後、JIS Z2371 規定の塩水
噴霧試験を行い、溶射皮膜表面における赤さびの発生状
況を調査した。なお、比較試験片としては、金属Alを添
加しない表1に記載の溶射材料による150 μm厚の溶射
皮膜を成膜したものを用いた。
【0027】表3は、塩水噴霧試験結果を示したもので
ある。比較例 (No. 8〜14) については、24時間の塩
水噴霧試験後においてすでに赤さびが点状に発生してお
り、48時間後の赤さびの発生率は1〜10% (表面積
率) に達し、炭素鋼基材の防錆力に乏しいことが認めら
れた。これに対し、金属Al入りの溶射皮膜を用いた本発
明例では、96時間後でも赤さびの発生は認められず、
炭素鋼基材に対し、優れた防錆能力のあることがわかっ
た。
【0028】このような結果を示した理由としては、比
較例の溶射皮膜では、気孔部を通して塩水が内部へ侵入
して、皮膜と基材の間で局部電池を構成し、電気化学的
に卑な炭素鋼基材がアノードとなって腐食が進行し、溶
出したイオンが赤さびとなって皮膜表面へ浮き出したも
のと考えられる。一方、金属Al入りの本発明に適合する
溶射皮膜では、溶射粒子が熱源中で加熱された際に、融
点の低い金属Alがいち早く溶融して粒子の相互結合作用
を促し、その結果として皮膜の気孔を消滅させ、塩水の
内部侵入を阻止した結果によるものと考えられる。な
お、この表3の結果から明らかなように、No.10 の溶射
皮膜は、溶射材料中にAlを6wt%含む合金を用いている
にもかかわらず、24時間後からすでに赤さびが発生し
ている。即ち、溶射金属材料中に完全に合金化している
Alを含むものでは、防食性に劣ることが明らかであり、
皮膜中での金属Alの形態は遊離金属Alとして未反応状態
で固溶していることが必要である。
【0029】
【表2】
【0030】
【表3】
【0031】実施例2 実施例1の結果から、本発明に係る試験片上に被成した
遊離状態の金属Al入り溶射皮膜には気孔が存在しないこ
とが考えられる。そこで、これらの皮膜のうちの材料成
分中に鉄 (Fe) を含んでいないもの (D〜G)を選択
し、実施例1と同じ要領で溶射皮膜を形成した後、JIS
H8666 規定のフェロキシル試験法によって皮膜の貫通気
孔の有無を調査した。表4は、この試験の結果を示した
もので、比較例の溶射皮膜 (No. 5〜8) にはすべて青
色の斑点が明瞭に認められるのに対し、本発明の溶射皮
膜 (No. 1〜4) では小さな青色斑点が1〜2ヶ所に発
生したのみであった。次いで、青色斑点が認められた溶
射皮膜について、700 ℃に保持した電気炉中に15分間
保持した後、再びフェロキシル試験を実施したところ、
新たな青色斑点は発生しなかった。
【0032】これらの結果から、溶射材料は溶射熱源中
における加熱により、この材料中に添加している金属Al
が溶融することで互いの粒子間結合力を完結させること
が重要である。もし、この粒子間結合力が不十分な場合
には、成膜後Alの融点 (660℃) 以上に加熱することに
よって、前記作用を完結させる操作が有効であることが
わかった。これに対し、比較例の溶射皮膜 (No. 6 , 8
) は、加熱による封孔効果は認められず、多数の青色
斑点が発生した。
【0033】
【表4】
【0034】実施例3 この実施例では、海岸に隣接する重工業地帯に建設され
た鋼構造物を想定して、実施例1の塩水噴霧試験の雰囲
気を硫酸によって酸性化 (pH4.0)させて腐食試験を行っ
た。比較例の溶射皮膜としては、現行のJIS H8300(199
9) 規定のZn, Zn−10wt%Al, Al, Al−5wt%Mgなどの
溶射材料を高速フレーム溶射して皮膜を供試した。
【0035】表5は、この結果を示したものである。試
験雰囲気が極めて厳しいため、比較例の皮膜は48時間
後には溶解が甚だしく、また、全面にわたって炭素鋼基
材から赤さびが発生した。これに対し、本発明の遊離金
属Al入り溶射皮膜は、一部の皮膜 (No. 1, 2) に点状
の赤さびの発生は認められるものの、全体としては良好
な耐食性を発揮していることが判明した。
【0036】
【表5】
【0037】実施例4 この実施例では、炭素鋼と同質の炭素鋼の溶射材料70
wt%に対し、金属Al,Al−3wt%Si合金, Al−5wt%Zn
およびAl−5wt%Mg合金をそれぞれ30wt%となるよう
に配合した粉末溶射材料を用い、高速フレーム溶射法に
よって炭素鋼試験片 (SS400 寸法:幅50×長100 ×厚 5
mm) の表面に、本発明にかかる200 μm厚になるように
成膜した。また、試験片の一部は、電気炉中で 700℃×
1hの加熱処理を行った。なお、加熱に際しては、炭素
鋼の酸化を防止するためArガスを通した。以上のように
して作製した溶射皮膜について、実施例1と同じ要領で
塩水噴霧試験を実施した。
【0038】表6は、その結果を要約したものである。
比較例の炭素鋼および炭素鋼溶射皮膜は、いずれも48
時間後全面にわたって赤さびが発生したのに対し、本発
明の溶射皮膜は1〜4ヶ所程度点状の赤さびは発生する
ものの、大きく進展する状態は認められず、優れた耐食
性を示した。また、皮膜形成後、加熱処理する方が点状
の赤さびの発生が幾分少なくなる傾向が見られた。
【0039】
【表6】
【0040】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、
炭素鋼基材に対して電気化学的に同等または貴な電位を
示す材料で被覆したものであっても、その皮膜中に、基
材に対して犠牲陽極作用を担う遊離の金属Alを混合させ
ることにより、そして、さらには溶射熱源による加熱ま
たは成膜後の加熱処理によって該皮膜中にAl金属間化合
物を生成させた場合には、その加熱による発熱によって
気孔の消滅をも実現できるので、溶射材料本来の耐食性
を十分に発揮させることが可能となった。従って、本発
明によれば、海水やNO, SOなどの腐食性ガスに対す
る耐久性と密着性に優れた溶射被覆部材を提供すること
ができる。また、本発明によれば、Zn, Alおよびそれら
の合金溶射皮膜の耐久性が、環境の汚染に伴って短くな
っている問題点を克服できるので、鋼構造物の保守点
検、そのコストを大幅に改善することができると同時
に、皮膜の寿命の向上を大幅に実現することができる。

Claims (6)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】炭素鋼基材の表面に、その炭素鋼に対して
    電気化学的に貴な電位を示すNi,Cr,Co,Cu,Ti,MoおよびF
    eから選ばれるいずれか1種以上の金属または合金から
    なる耐食性金属・合金の溶射防食皮膜が形成されている
    と共に、この皮膜中には遊離状態の金属アルミニウムも
    しくはアルミニウム合金を1〜30wt%含有することを特徴
    とする耐食性に優れた溶射被覆部材。
  2. 【請求項2】炭素鋼基材の表面に、その炭素鋼に対して
    電気化学的に貴な電位を示すNi,Cr,Co,Cu,Ti,MoおよびF
    eから選ばれるいずれか1種以上の金属または合金から
    なる耐食性金属・合金の溶射防食皮膜が形成されている
    と共に、この皮膜中には遊離状態の金属アルミニウムも
    しくはアルミニウム合金を1〜30wt%含有すると共に、ア
    ルミニウムと貴な電位の前記金属材料との冶金反応によ
    って生成するAl金属間化合物を0.3〜15wt%含有すること
    を特徴とする耐食性に優れた溶射被覆部材。
  3. 【請求項3】請求項2の記載において、上記溶射防食皮
    膜中には、Fe3Al,FeAl,FeAl2,FeAl3,NiAl3,Ni2Al3,NiA
    l,Ni3Al,Co2Al9,Co4Al12,Co2Al5,CoAl,CrAl7,Cr2Al11,C
    r4Al9,Cr5Al8およびCr2Alから選ばれる1種以上のAl金
    属間化合物が含まれていることを特徴とする耐食性に優
    れた溶射被覆部材。
  4. 【請求項4】炭素鋼基材の表面に、金属アルミニウムも
    しくはその合金と、残部として含む前記炭素鋼に対して
    電気化学的に貴な電位をもつNi,Cr,Co,Cu,Ti,MoおよびF
    eから選ばれるいずれか1種以上の金属または合金から
    なる耐食性金属・合金とからなる粉末材料を溶射して溶
    射防食皮膜を形成すると同時に、その皮膜中には遊離状
    態の金属アルミニウムもしくはその合金を1〜30wt%残留
    させることを特徴とする耐食性に優れた溶射被覆部材の
    製造方法。
  5. 【請求項5】炭素鋼基材の表面に、金属アルミニウムも
    しくはその合金と、残部として含む前記炭素鋼に対して
    電気化学的に貴な電位をもつNi,Cr,Co,Cu,Ti,MoおよびF
    eか ら選ばれるいずれか1種以上の金属または合金から
    なる耐食性金属・合金とからなる粉末材料を溶射して溶
    射防食皮膜を形成すると同時に、その皮膜中には遊離状
    態の金属アルミニウムもしくはその合金を1〜30wt%残留
    させ、次いで、その溶射防食皮膜をアルミニウムの融点
    より高い温度で熱処理することによって、該皮膜中には
    さらにAl金属間化合物を生成分散させることを特徴とす
    る耐食性に優れた溶射被覆部材の製造方法。
  6. 【請求項6】請求項の記載において、上記溶射防食皮
    膜中には、Fe3Al,FeAl,FeAl2,FeAl3,NiAl3,Ni2Al3,NiA
    l,Ni3Al,Co2Al9,Co4Al12,Co2Al5,CoAl,CrAl7,Cr2Al11,C
    r4Al9,Cr5Al8およびCr2Alから選ばれる1種以上のAl金
    属間化合物が含まれていることを特徴とする耐食性に優
    れた溶射被覆部材の製造方法。
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