JP3395397B2 - 調味料の製造法 - Google Patents
調味料の製造法Info
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Description
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、調味料の製造法に関す
るものであり、さらに詳細には、調味料の好ましい呈味
性を決定するグルタミン酸を蛋白質原料より効果的かつ
高濃度に分離し、グルタミン酸含量の高い調味料または
調味料原料を製造する方法に関するものである。 【0002】 【従来の技術】蛋白質原料またはペプチドを含有する蛋
白質原料に、蛋白質加水分解酵素を含有する酵素活性物
質を作用せしめ、醤油または醤油様調味料あるいはそれ
らの調味料の原料を製造する方法に関しては、既に多数
の報告がなされている(例えば特公昭57−18859
号、特公昭63−94974号各公報参照)。 【0003】また、蛋白質原料に蛋白質加水分解酵素を
作用せしめた際には、その構成部分としてグルタミン酸
を有するにも関わらず、呈味性に寄与しない遊離形のグ
ルタミンが相当高濃度に生成するため、この遊離形グル
タミンにグルタミナ−ゼ等を作用せしめて、加水分解物
中のグルタミン酸の濃度を向上せしめる試みがあり、そ
れらの方法の一部は既に実用化されている(例えば、特
公昭47−17828号、特公昭49−15789号各
公報参照)。 【0004】さらに、遊離形グルタミンは、加水分解物
中で不安定であり、容易に環化(ピロ化)し、グルタミ
ナ−ゼ等が作用し難いピログルタミン酸に変化してしま
うため、加水分解物中のグルタミン酸の濃度を向上させ
る際の障害となっている。 【0005】以上、要するに、蛋白質原料に蛋白質加水
分解酵素を作用せしめ、単純に加水分解反応を行う従来
の方法は、蛋白質原料に存在する結合形のグルタミン酸
を効果的に遊離せしめる方法としては限界のある方法と
云わざるを得ない。 【0006】 【発明が解決しようとする課題】本発明にあっては、蛋
白質原料中に存在する結合形グルタミン酸を蛋白質加水
分解酵素の作用により、遊離形のグルタミン酸として加
水分解物中に効果的に遊離せしめ、且つ、遊離したグル
タミン酸を変化せしめることなく安定に保全し、グルタ
ミン酸を高濃度に含有する調味料または調味料原料を取
得することを目的とする。 【0007】 【課題を解決するための手段】本発明者等は、上記の課
題及び目的を解決すべく、従来の関連する技術を詳細に
亙って再検討し、更に新たな見地から種々の検討を行っ
た結果、蛋白質原料に蛋白質加水分解酵素を作用せしめ
るに先だって、従来より知られているトランスグルタミ
ナ−ゼに比較して架橋反応よりも脱アミド化反応を優先
的に触媒する能力を有するトランスグルタミナ−ゼ活性
物質を前記蛋白質原料に作用せしめ、その後、蛋白質加
水分解酵素活性物質を作用せしめる場合には、極めて効
果的に遊離形のグルタミン酸を加水分解物中に遊離また
は放出させることができ、且つ遊離したグルタミン酸は
変化することなく、加水分解物中に安定に保全出来るこ
とから、グルタミン酸を高濃度に含有する調味料または
調味料原料を製造し得るという知見を得た。 【0008】本発明者等は、この知見に基づき本発明を
完成した。すなわち、本発明は、蛋白質原料に、架橋反
応よりも脱アミド化反応を優先的に触媒する能力を有す
るトランスグルタミナ−ゼ活性物質を作用せしめた後、
蛋白質加水分解酵素活性物質を作用せしめることを特徴
とする調味料の製造法である。 【0009】 【作用】本発明における蛋白質原料には、各種の植物性
蛋白質原料、動物性蛋白質原料または微生物性蛋白質原
料、それらの部分加水分解物、それらの各種蛋白質原料
に由来するペプチドならびにそれらの混合物原料が使用
される。 【0010】植物性蛋白質原料としては、丸大豆、大豆
ミ−ル、大豆フレ−ク、大豆搾油ケ−ク、分離大豆蛋
白、小麦粉、分離小麦グルテン、コ−ン・グルテンが例
示される。 【0011】動物性蛋白質原料としては、鳥獣類肉、魚
介類肉、それらの加工品、フィシュ・ミ−ル、フィシュ
・ソルブル、カゼイン、分離乳精蛋白、コテ−ジ・チ−
ズ、絹糸部分加水分解物が例示される。 【0012】微生物性蛋白質原料としては、酵母菌体、
酵母エキス、アミノ酸発酵菌体、同抽出物が例示され
る。 【0013】架橋反応よりも脱アミド化反応を優先的に
触媒する能力を有するトランスグルタミナ−ゼ活性を有
するトランスグルタミナ−ゼ活性物質としては、架橋反
応よりも脱アミド化反応を優先的に触媒する能力を有す
るモルモット肝トランスグルタミナ−ゼ標品、架橋反応
よりも脱アミド化反応を優先的に触媒する能力を有する
微生物トランスグルタミナ−ゼ標品、架橋反応よりも脱
アミド化反応を優先的に触媒する能力を有する魚トラン
スグルタミナ−ゼ標品、これらの酵素の生成能を大腸菌
等の微生物菌体内で発現するプラスミドを導入して改質
した改質菌の培養物、同改質菌培養物の処理物などが挙
げられる。 【0014】この架橋反応よりも脱アミド化反応を優先
的に触媒する能力を有するトランスグルタミナ−ゼは、
従来より知られているトランスグルタミナ−ゼに対して
改変蛋白(ミュテイン、Mutein) の関係にある蛋白構
造、アミノ酸配列を有する。 【0015】従って、この架橋反応よりも脱アミド化反
応を優先的に触媒する能力を有するトランスグルタミナ
−ゼは、生物化学的あるいは遺伝子工学的な公知の改変
蛋白の調製法に準ずる方法によっても調製することが出
来る。 【0016】但し、本発明の方法において使用されるト
ランスグルタミナ−ゼ、即ち、架橋反応よりも脱アミド
化反応を優先的に触媒する能力を有するトランスグルタ
ミナ−ゼは、前述のようなトランスグルタミナ−ゼの改
変蛋白に限定されるものではなく、このような能力を有
するトランスグルタミナ−ゼであれば、何れの調製法に
より調製されたトランスグルタミナ−ゼであっても使用
可能である。 【0017】トランスグルタミナ−ゼ活性物質を作用せ
しめた後の蛋白質原料に作用せしめる蛋白質分解酵素活
性物質は、各種のプロテイナ−ゼ標品、プロテア−ゼ標
品、ペプチダ−ゼ標品、およびこれらの蛋白質分解酵素
を含有する混合物であって、その起源、原料には特に限
定されない。また、エンド型蛋白質分解酵素、エクソ型
蛋白質分解酵素、あるいはそれらの混合物であっても良
い。さらに蛋白質分解酵素活性物質は、精製された標品
である必要はなく、例えば米麹、麦麹、麹菌液体培地培
養物であっても良い。 【0018】架橋反応よりも脱アミド化反応を優先的に
触媒する能力を有するトランスグルタミナ−ゼ活性物質
を蛋白質原料に作用せしめるには、水性媒体中で、蛋白
質原料とこのトランスグルタミナ−ゼ活性物質を接触せ
しめる方法が採用される。 【0019】この酵素の活性範囲は、5〜55℃、pH
4〜10であるので、接触せしめる条件もこの範囲から
選択される。また、接触せしめる時間は0.1〜24時
間が適当である。蛋白質分解酵素の共存によって、この
酵素の活性は損われることが多いので、蛋白質加水分解
酵素活性物質を作用せしめる次工程を同時に実施するこ
とは得策ではない。 【0020】架橋反応よりも脱アミド化反応を優先的に
触媒する能力を有するトランスグルタミナ−ゼ活性物質
を作用せしめた後の蛋白質原料に、蛋白質加水分解酵素
活性物質を作用せしめるには、水性媒体中で、同トラン
スグルタミナ−ゼ活性物質を作用せしめた後の蛋白質原
料と蛋白質加水分解酵素活性物質を接触せしめる方法が
採用される。 【0021】この場合の接触の条件は、選択した蛋白質
加水分解酵素の活性範囲から選択される。また、接触せ
しめる時間は0.5〜12時間が適当である。尚、この
工程では、トランスグルタミナ−ゼ活性物質が共存して
いても、蛋白質加水分解酵素の活性には影響が生じない
ので、格別な中間処理を行うことなく、前工程より本工
程に移行することが出来る。 【0022】蛋白質加水分解酵素活性物質を作用せしめ
た後の蛋白質加水分解液は、そのまま、あるいは必要に
より固液分離、濃縮、乾燥などの処理工程を経た後、調
味料またはその原料として利用される。 【0023】本発明で使用するトランスグルタミナ−
ゼ、即ち、架橋反応よりも脱アミド化反応を優先的に触
媒する能力を有するトランスグルタミナ−ゼは、本発明
者等が新たに発見した酵素であって、その調製法および
特異活性については、後述の参考例1及び2にそれらの
具体的事項を述べる。尚、このトランスグルタミナ−ゼ
の調製法および特異活性については、各参考例の末尾に
記載したように既に公表されている事柄である。 【0024】以下、実施例により本発明の内容を具体的
に説明するが、本発明はこれに限定されるものではな
い。 【0025】 【実施例】 (実施例1)架橋反応よりも脱アミド化反応を優先的に
触媒する能力を有するトランスグルタミナ−ゼとして本
実施例で使用したトランスグルタミナ−ゼTGM1、T
GM2またはTGM3は、後述の参考例1の方法により
調製され、その特異活性は参考例2に記載した通りであ
る。 【0026】トランスグルタミナ−ゼTGM1、TGM
2又はTGM3の標品、各0.1gを、脱脂大豆粉また
は小麦粉よりアルカリ抽出等電点沈殿法によって各々新
たに分離した大豆蛋白粉末または小麦蛋白粉末の各5g
とpH7の燐酸塩緩衝液1L中にて弱撹拌下、37℃で
2.0時間に亘り接触せしめた。次いで、各々pHを7
に再調整した後、エクソ型ペプチダ−ゼ標品「プロテア
−ゼM」(商品名:天野製薬(株)製品)各0.1gを
添加し、弱撹拌下にて37℃で2.0時間に亘り更に接
触を続けた。この場合、何れの加水分解試料中にも固体
物は存在せず、蛋白粉末は完全に溶解したことが認めら
れた。 【0027】他方で、上記のトランスグルタミナ−ゼを
添加せずに、N塩酸0.1mLを添加した試料(対照
1)と、上記のトランスグルタミナ−ゼを添加しない試
料(対照2)と、モルモット肝トランスグルタミナ−ゼ
発現用プラスミドpKTG1を導入した大腸菌の培養物
より調製したトランスグルタミナ−ゼTG標品の0.1
gを添加した試料(対照3)とについても、同様に処理
した。尚、対照3で使用したトランスグルタミナ−ゼT
G標品は、架橋反応を優先的に触媒する通常のトランス
グルタミナ−ゼ活性を有する。 【0028】以上の合計12種類の加水分解試料につい
て、イオン交換カラムを使用する通常のアミノ酸分析
(液体クロマトグラフ法)により検出される総グルタミ
ン酸量(GH)の定量およびミクロケ−ルダ−ル法によ
る総窒素量(TN)の定量により、総窒素量に対するグ
ルタミン酸量の比(GH/TN)を算出した。それらの
結果をまとめて表1に示す。 【0029】 【表1】【0030】改変型トランスグルタミナ−ゼTGM1、
TGM2又はTGM3を使用した試料は、蛋白質原料が
大豆蛋白または小麦蛋白の場合とも、対照1、対照2及
び対照3の試料に比較して、総窒素量に対するグルタミ
ン酸量の比(GH/TN)は同等または高い数値が認め
られた。 【0031】この事実は、架橋反応よりも脱アミド化反
応を優先的に触媒する能力を有するトランスグルタミナ
−ゼTGM1、TGM2又はTGM3との接触により、
蛋白質原料からグルタミン酸が効果的に遊離し、加水分
解液中に保全されていることを示す。 【0032】尚、TGM1、TGM2又はTGM3を作
用せしめた試料では、対照1の試料のように酸処理は行
っていないので、人体に悪影響を与えるとされるモノク
ロロプロパノ−ル、ジクロロプロパノ−ルなどの有機塩
素化合物は全く副生しないと云う利点がある。 【0033】参考例1: =改変トランスグルタミナ−ゼTGM1、TGM2又は
TGM3の調製例= モルモット肝トランスグルタミナ−ゼの大腸菌発現用プ
ラスミドpKTG1を鋳型とし、ポリメラ−ゼ連鎖反応
(PCR)を使用する部位特異的変異法(特定部位を変
異させたプライマ−を使用したDNA鎖の特定部位のみ
を迅速且つ容易に増幅する反応;小野寺一清監修「組換
えDNA実験ノ−ト」112−115頁;現代工学社
刊)により、3種類の改変トランスグルタミナ−ゼTG
M1、TGM2又はTGM3を発現するプラスミドpK
TGM1、pKTGM2又はpKTGM3を構築した。
これらのプラスミドを大腸菌DH5αに導入して取得し
た改質菌を培養し、培養菌体よりTGM1、TGM2又
はTGM3を調製した。又、それらはpKTG1を導入
した大腸菌の場合と同程度のレベルで発現した。 【0034】改変トランスグルタミナ−ゼTGM1を発
現するプラスミドpKTGM1により形質転換された大
腸菌、エシェリヒア・コリ(Echerichia coli)AJ13
037は、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究
所に寄託されており、その寄託番号はFERM P−1
4513である。 【0035】また、改変トランスグルタミナ−ゼTGM
2を発現するプラスミドpKTGM2により形質転換さ
れた大腸菌、エシェリヒア・コリ(Echerichia coli)A
J13038は、通商産業省工業技術院生命工学工業技
術研究所に寄託されており、その寄託番号はFERM
P−14514である。 【0036】更に、改変トランスグルタミナ−ゼTGM
3を発現するプラスミドpKTGM3により形質転換さ
れた大腸菌、エシェリヒア・コリ(Echerichia coli)A
J13039は、通商産業省工業技術院生命工学工業技
術研究所に寄託されており、その寄託番号はFERM
P−14515である。 【0037】加えて、モルモット肝トランスグルタミナ
−ゼ発現用プラスミドpKTG1で形質転換された大腸
菌、エシェリヒア・コリ(Echerichia coli)AJ123
70は、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所
に寄託されており、その寄託番号はFERM P−10
008である。 【0038】また、(1)モルモット肝トランスグルタ
ミナ−ゼの大腸菌発現用プラスミドpKTG1を有する
大腸菌を培養して取得した生産物と、(2)その改変ト
ランスグルタミナ−ゼTGM1、TGM2及びTGM3
を発現するプラスミドpKTGM1、pKTGM2及び
pKTGM3をそれぞれ有する大腸菌を培養して取得し
た生産物と、(3)対照としてモルモット肝トランスグ
ルタミナ−ゼを発現する遺伝子を担持していないプラス
ミド・ベクタ−pKK233−2を有する大腸菌の培養
物の抽出物および(4)モルモット肝から抽出したトラ
ンスグルタミナ−ゼG.P.L.について、SDSポリ
アクリルアミド・ゲル上で電気泳動を行ったところ、
(3)を例外として他の試料では略全て殆ど同一の分子
量を有していることが判明した。(3)では該電気泳動
条件下でモルモット肝トランスグルタミナ−ゼ蛋白に対
応する蛋白の存在を認め得なかった。図1は、それらの
SDSポリアクリルアミド・ゲル上での電気泳動の結果
を示す模式図である。 【0039】尚、未改変トランスグルタミナ−ゼTGに
対するTGM1、TGM2またはTGM3の改変部位は
次の通りである。 TGM1:中央部負電荷領域、231および232残基
目のアスパラギン酸残基2個をアスパラギン残基に変
換。 TGM2:C−末端側負電荷領域、445、448、4
49、450および452残基目にあるグルタミン酸残
基5個をグルタミン残基に変換。 TGM3:TGM1およびTGM2の改変部位を併有。
尚、未改変モルモット肝トランスグルタミナ−ゼのDN
A配列およびアミノ酸配列については特開平1−300
889号公報等に記載されている。 【0040】参考例2 =改変トランスグルタミナ−ゼTGM1、TGM2又は
TGM3の特異活性の確認= (1)架橋反応の抑制: 改変トランスグルタミナ−ゼTGM1、TGM2又はT
GM3は、アセチル化αs1- カゼインへの蛍光性一級ア
ミンであるモノダンシルカダベリンに代表される架橋反
応において、この蛋白基質との間の酵素学的な親和性K
mは未改変トランスグルタミナ−ゼTGと変わりなく同
一である一方、最大反応速度Vmaxは2.5倍以上低
下していることから、架橋反応の抑制が発生しているこ
とを認めた。 【0041】尚、蛋白基質との間の酵素学的な親和性K
m及び最大反応速度Vmaxは次式により定義される。 Km=(Vmax/v−1)[S] Vmax=(Km+[S])v/[S] 但し、vは生成物の生成速度、[S]は基質濃度であ
る。 【0042】蛋白基質との間の酵素学的な親和性Km及
び最大反応速度Vmaxに関する測定値を表2に示す。 【0043】 【表2】 【0044】また、反応開始後、30分単位で測定した
反応系に存在するαs1- カゼイン単量体の存在比は、未
改変トランスグルタミナ−ゼTGの反応系では、時間の
経過と共に急速に低下したのに対し、改変トランスグル
タミナ−ゼTGM1、TGM2又はTGM3の反応系で
は殆ど変化がなく、当初の90〜95%に維持、抑制さ
れていることを認めた(図2参照)。 【0045】(2)脱アミド化反応の無変化:改変トラ
ンスグルタミナ−ゼTGM1、TGM2又はTGM3の
脱アミド化反応は、未改変トランスグルタミナ−ゼTG
のそれと比較して殆ど同一のレベルにあり、両者の間に
実質的な差異は認められなかった(図3参照)。 【0046】(3)改変トランスグルタミナ−ゼTGM
1、TGM2又はTGM3の酵素学的挙動:上記のよう
に、TGM1、TGM2又はTGM3は、未改変トラン
スグルタミナ−ゼTGに比較して、架橋反応の抑制が発
生している一方で脱アミド化反応には変化がないので、
TGM1、TGM2又はTGM3を作用せしめた蛋白基
質に蛋白加水分解酵素を作用せしめた場合、蛋白基質を
構成している結合グルタミン酸は、容易に且つ変化を蒙
ることなく、換言すれば効果的に、遊離のグルタミン酸
に変化して加水分解物中に放出される。 【0047】尚、参考例1及び参考例2に記載の事項
は、次の通り既に公表されている。『伊倉宏司ほか「ト
ランスグルタミナ−ゼ分子に保存された負電荷領域の部
位特異的変異」日本生化学会第66回大会発表:内容要
旨、同大会要旨733頁、要旨発行日、平成5年8月2
5日、口頭発表、平成5年10月2日』 【0048】 【発明の効果】本発明は、以上に説明した通り、蛋白質
原料中に存在する結合形グルタミン酸を、遊離形のグル
タミン酸として加水分解物中に効果的に遊離せしめ、且
つ遊離したグルタミン酸は変化することなく安定に保全
し得るので、グルタミン酸を高濃度に含有する調味料ま
たは調味料原料を製造出来るという効果がある。
るものであり、さらに詳細には、調味料の好ましい呈味
性を決定するグルタミン酸を蛋白質原料より効果的かつ
高濃度に分離し、グルタミン酸含量の高い調味料または
調味料原料を製造する方法に関するものである。 【0002】 【従来の技術】蛋白質原料またはペプチドを含有する蛋
白質原料に、蛋白質加水分解酵素を含有する酵素活性物
質を作用せしめ、醤油または醤油様調味料あるいはそれ
らの調味料の原料を製造する方法に関しては、既に多数
の報告がなされている(例えば特公昭57−18859
号、特公昭63−94974号各公報参照)。 【0003】また、蛋白質原料に蛋白質加水分解酵素を
作用せしめた際には、その構成部分としてグルタミン酸
を有するにも関わらず、呈味性に寄与しない遊離形のグ
ルタミンが相当高濃度に生成するため、この遊離形グル
タミンにグルタミナ−ゼ等を作用せしめて、加水分解物
中のグルタミン酸の濃度を向上せしめる試みがあり、そ
れらの方法の一部は既に実用化されている(例えば、特
公昭47−17828号、特公昭49−15789号各
公報参照)。 【0004】さらに、遊離形グルタミンは、加水分解物
中で不安定であり、容易に環化(ピロ化)し、グルタミ
ナ−ゼ等が作用し難いピログルタミン酸に変化してしま
うため、加水分解物中のグルタミン酸の濃度を向上させ
る際の障害となっている。 【0005】以上、要するに、蛋白質原料に蛋白質加水
分解酵素を作用せしめ、単純に加水分解反応を行う従来
の方法は、蛋白質原料に存在する結合形のグルタミン酸
を効果的に遊離せしめる方法としては限界のある方法と
云わざるを得ない。 【0006】 【発明が解決しようとする課題】本発明にあっては、蛋
白質原料中に存在する結合形グルタミン酸を蛋白質加水
分解酵素の作用により、遊離形のグルタミン酸として加
水分解物中に効果的に遊離せしめ、且つ、遊離したグル
タミン酸を変化せしめることなく安定に保全し、グルタ
ミン酸を高濃度に含有する調味料または調味料原料を取
得することを目的とする。 【0007】 【課題を解決するための手段】本発明者等は、上記の課
題及び目的を解決すべく、従来の関連する技術を詳細に
亙って再検討し、更に新たな見地から種々の検討を行っ
た結果、蛋白質原料に蛋白質加水分解酵素を作用せしめ
るに先だって、従来より知られているトランスグルタミ
ナ−ゼに比較して架橋反応よりも脱アミド化反応を優先
的に触媒する能力を有するトランスグルタミナ−ゼ活性
物質を前記蛋白質原料に作用せしめ、その後、蛋白質加
水分解酵素活性物質を作用せしめる場合には、極めて効
果的に遊離形のグルタミン酸を加水分解物中に遊離また
は放出させることができ、且つ遊離したグルタミン酸は
変化することなく、加水分解物中に安定に保全出来るこ
とから、グルタミン酸を高濃度に含有する調味料または
調味料原料を製造し得るという知見を得た。 【0008】本発明者等は、この知見に基づき本発明を
完成した。すなわち、本発明は、蛋白質原料に、架橋反
応よりも脱アミド化反応を優先的に触媒する能力を有す
るトランスグルタミナ−ゼ活性物質を作用せしめた後、
蛋白質加水分解酵素活性物質を作用せしめることを特徴
とする調味料の製造法である。 【0009】 【作用】本発明における蛋白質原料には、各種の植物性
蛋白質原料、動物性蛋白質原料または微生物性蛋白質原
料、それらの部分加水分解物、それらの各種蛋白質原料
に由来するペプチドならびにそれらの混合物原料が使用
される。 【0010】植物性蛋白質原料としては、丸大豆、大豆
ミ−ル、大豆フレ−ク、大豆搾油ケ−ク、分離大豆蛋
白、小麦粉、分離小麦グルテン、コ−ン・グルテンが例
示される。 【0011】動物性蛋白質原料としては、鳥獣類肉、魚
介類肉、それらの加工品、フィシュ・ミ−ル、フィシュ
・ソルブル、カゼイン、分離乳精蛋白、コテ−ジ・チ−
ズ、絹糸部分加水分解物が例示される。 【0012】微生物性蛋白質原料としては、酵母菌体、
酵母エキス、アミノ酸発酵菌体、同抽出物が例示され
る。 【0013】架橋反応よりも脱アミド化反応を優先的に
触媒する能力を有するトランスグルタミナ−ゼ活性を有
するトランスグルタミナ−ゼ活性物質としては、架橋反
応よりも脱アミド化反応を優先的に触媒する能力を有す
るモルモット肝トランスグルタミナ−ゼ標品、架橋反応
よりも脱アミド化反応を優先的に触媒する能力を有する
微生物トランスグルタミナ−ゼ標品、架橋反応よりも脱
アミド化反応を優先的に触媒する能力を有する魚トラン
スグルタミナ−ゼ標品、これらの酵素の生成能を大腸菌
等の微生物菌体内で発現するプラスミドを導入して改質
した改質菌の培養物、同改質菌培養物の処理物などが挙
げられる。 【0014】この架橋反応よりも脱アミド化反応を優先
的に触媒する能力を有するトランスグルタミナ−ゼは、
従来より知られているトランスグルタミナ−ゼに対して
改変蛋白(ミュテイン、Mutein) の関係にある蛋白構
造、アミノ酸配列を有する。 【0015】従って、この架橋反応よりも脱アミド化反
応を優先的に触媒する能力を有するトランスグルタミナ
−ゼは、生物化学的あるいは遺伝子工学的な公知の改変
蛋白の調製法に準ずる方法によっても調製することが出
来る。 【0016】但し、本発明の方法において使用されるト
ランスグルタミナ−ゼ、即ち、架橋反応よりも脱アミド
化反応を優先的に触媒する能力を有するトランスグルタ
ミナ−ゼは、前述のようなトランスグルタミナ−ゼの改
変蛋白に限定されるものではなく、このような能力を有
するトランスグルタミナ−ゼであれば、何れの調製法に
より調製されたトランスグルタミナ−ゼであっても使用
可能である。 【0017】トランスグルタミナ−ゼ活性物質を作用せ
しめた後の蛋白質原料に作用せしめる蛋白質分解酵素活
性物質は、各種のプロテイナ−ゼ標品、プロテア−ゼ標
品、ペプチダ−ゼ標品、およびこれらの蛋白質分解酵素
を含有する混合物であって、その起源、原料には特に限
定されない。また、エンド型蛋白質分解酵素、エクソ型
蛋白質分解酵素、あるいはそれらの混合物であっても良
い。さらに蛋白質分解酵素活性物質は、精製された標品
である必要はなく、例えば米麹、麦麹、麹菌液体培地培
養物であっても良い。 【0018】架橋反応よりも脱アミド化反応を優先的に
触媒する能力を有するトランスグルタミナ−ゼ活性物質
を蛋白質原料に作用せしめるには、水性媒体中で、蛋白
質原料とこのトランスグルタミナ−ゼ活性物質を接触せ
しめる方法が採用される。 【0019】この酵素の活性範囲は、5〜55℃、pH
4〜10であるので、接触せしめる条件もこの範囲から
選択される。また、接触せしめる時間は0.1〜24時
間が適当である。蛋白質分解酵素の共存によって、この
酵素の活性は損われることが多いので、蛋白質加水分解
酵素活性物質を作用せしめる次工程を同時に実施するこ
とは得策ではない。 【0020】架橋反応よりも脱アミド化反応を優先的に
触媒する能力を有するトランスグルタミナ−ゼ活性物質
を作用せしめた後の蛋白質原料に、蛋白質加水分解酵素
活性物質を作用せしめるには、水性媒体中で、同トラン
スグルタミナ−ゼ活性物質を作用せしめた後の蛋白質原
料と蛋白質加水分解酵素活性物質を接触せしめる方法が
採用される。 【0021】この場合の接触の条件は、選択した蛋白質
加水分解酵素の活性範囲から選択される。また、接触せ
しめる時間は0.5〜12時間が適当である。尚、この
工程では、トランスグルタミナ−ゼ活性物質が共存して
いても、蛋白質加水分解酵素の活性には影響が生じない
ので、格別な中間処理を行うことなく、前工程より本工
程に移行することが出来る。 【0022】蛋白質加水分解酵素活性物質を作用せしめ
た後の蛋白質加水分解液は、そのまま、あるいは必要に
より固液分離、濃縮、乾燥などの処理工程を経た後、調
味料またはその原料として利用される。 【0023】本発明で使用するトランスグルタミナ−
ゼ、即ち、架橋反応よりも脱アミド化反応を優先的に触
媒する能力を有するトランスグルタミナ−ゼは、本発明
者等が新たに発見した酵素であって、その調製法および
特異活性については、後述の参考例1及び2にそれらの
具体的事項を述べる。尚、このトランスグルタミナ−ゼ
の調製法および特異活性については、各参考例の末尾に
記載したように既に公表されている事柄である。 【0024】以下、実施例により本発明の内容を具体的
に説明するが、本発明はこれに限定されるものではな
い。 【0025】 【実施例】 (実施例1)架橋反応よりも脱アミド化反応を優先的に
触媒する能力を有するトランスグルタミナ−ゼとして本
実施例で使用したトランスグルタミナ−ゼTGM1、T
GM2またはTGM3は、後述の参考例1の方法により
調製され、その特異活性は参考例2に記載した通りであ
る。 【0026】トランスグルタミナ−ゼTGM1、TGM
2又はTGM3の標品、各0.1gを、脱脂大豆粉また
は小麦粉よりアルカリ抽出等電点沈殿法によって各々新
たに分離した大豆蛋白粉末または小麦蛋白粉末の各5g
とpH7の燐酸塩緩衝液1L中にて弱撹拌下、37℃で
2.0時間に亘り接触せしめた。次いで、各々pHを7
に再調整した後、エクソ型ペプチダ−ゼ標品「プロテア
−ゼM」(商品名:天野製薬(株)製品)各0.1gを
添加し、弱撹拌下にて37℃で2.0時間に亘り更に接
触を続けた。この場合、何れの加水分解試料中にも固体
物は存在せず、蛋白粉末は完全に溶解したことが認めら
れた。 【0027】他方で、上記のトランスグルタミナ−ゼを
添加せずに、N塩酸0.1mLを添加した試料(対照
1)と、上記のトランスグルタミナ−ゼを添加しない試
料(対照2)と、モルモット肝トランスグルタミナ−ゼ
発現用プラスミドpKTG1を導入した大腸菌の培養物
より調製したトランスグルタミナ−ゼTG標品の0.1
gを添加した試料(対照3)とについても、同様に処理
した。尚、対照3で使用したトランスグルタミナ−ゼT
G標品は、架橋反応を優先的に触媒する通常のトランス
グルタミナ−ゼ活性を有する。 【0028】以上の合計12種類の加水分解試料につい
て、イオン交換カラムを使用する通常のアミノ酸分析
(液体クロマトグラフ法)により検出される総グルタミ
ン酸量(GH)の定量およびミクロケ−ルダ−ル法によ
る総窒素量(TN)の定量により、総窒素量に対するグ
ルタミン酸量の比(GH/TN)を算出した。それらの
結果をまとめて表1に示す。 【0029】 【表1】【0030】改変型トランスグルタミナ−ゼTGM1、
TGM2又はTGM3を使用した試料は、蛋白質原料が
大豆蛋白または小麦蛋白の場合とも、対照1、対照2及
び対照3の試料に比較して、総窒素量に対するグルタミ
ン酸量の比(GH/TN)は同等または高い数値が認め
られた。 【0031】この事実は、架橋反応よりも脱アミド化反
応を優先的に触媒する能力を有するトランスグルタミナ
−ゼTGM1、TGM2又はTGM3との接触により、
蛋白質原料からグルタミン酸が効果的に遊離し、加水分
解液中に保全されていることを示す。 【0032】尚、TGM1、TGM2又はTGM3を作
用せしめた試料では、対照1の試料のように酸処理は行
っていないので、人体に悪影響を与えるとされるモノク
ロロプロパノ−ル、ジクロロプロパノ−ルなどの有機塩
素化合物は全く副生しないと云う利点がある。 【0033】参考例1: =改変トランスグルタミナ−ゼTGM1、TGM2又は
TGM3の調製例= モルモット肝トランスグルタミナ−ゼの大腸菌発現用プ
ラスミドpKTG1を鋳型とし、ポリメラ−ゼ連鎖反応
(PCR)を使用する部位特異的変異法(特定部位を変
異させたプライマ−を使用したDNA鎖の特定部位のみ
を迅速且つ容易に増幅する反応;小野寺一清監修「組換
えDNA実験ノ−ト」112−115頁;現代工学社
刊)により、3種類の改変トランスグルタミナ−ゼTG
M1、TGM2又はTGM3を発現するプラスミドpK
TGM1、pKTGM2又はpKTGM3を構築した。
これらのプラスミドを大腸菌DH5αに導入して取得し
た改質菌を培養し、培養菌体よりTGM1、TGM2又
はTGM3を調製した。又、それらはpKTG1を導入
した大腸菌の場合と同程度のレベルで発現した。 【0034】改変トランスグルタミナ−ゼTGM1を発
現するプラスミドpKTGM1により形質転換された大
腸菌、エシェリヒア・コリ(Echerichia coli)AJ13
037は、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究
所に寄託されており、その寄託番号はFERM P−1
4513である。 【0035】また、改変トランスグルタミナ−ゼTGM
2を発現するプラスミドpKTGM2により形質転換さ
れた大腸菌、エシェリヒア・コリ(Echerichia coli)A
J13038は、通商産業省工業技術院生命工学工業技
術研究所に寄託されており、その寄託番号はFERM
P−14514である。 【0036】更に、改変トランスグルタミナ−ゼTGM
3を発現するプラスミドpKTGM3により形質転換さ
れた大腸菌、エシェリヒア・コリ(Echerichia coli)A
J13039は、通商産業省工業技術院生命工学工業技
術研究所に寄託されており、その寄託番号はFERM
P−14515である。 【0037】加えて、モルモット肝トランスグルタミナ
−ゼ発現用プラスミドpKTG1で形質転換された大腸
菌、エシェリヒア・コリ(Echerichia coli)AJ123
70は、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所
に寄託されており、その寄託番号はFERM P−10
008である。 【0038】また、(1)モルモット肝トランスグルタ
ミナ−ゼの大腸菌発現用プラスミドpKTG1を有する
大腸菌を培養して取得した生産物と、(2)その改変ト
ランスグルタミナ−ゼTGM1、TGM2及びTGM3
を発現するプラスミドpKTGM1、pKTGM2及び
pKTGM3をそれぞれ有する大腸菌を培養して取得し
た生産物と、(3)対照としてモルモット肝トランスグ
ルタミナ−ゼを発現する遺伝子を担持していないプラス
ミド・ベクタ−pKK233−2を有する大腸菌の培養
物の抽出物および(4)モルモット肝から抽出したトラ
ンスグルタミナ−ゼG.P.L.について、SDSポリ
アクリルアミド・ゲル上で電気泳動を行ったところ、
(3)を例外として他の試料では略全て殆ど同一の分子
量を有していることが判明した。(3)では該電気泳動
条件下でモルモット肝トランスグルタミナ−ゼ蛋白に対
応する蛋白の存在を認め得なかった。図1は、それらの
SDSポリアクリルアミド・ゲル上での電気泳動の結果
を示す模式図である。 【0039】尚、未改変トランスグルタミナ−ゼTGに
対するTGM1、TGM2またはTGM3の改変部位は
次の通りである。 TGM1:中央部負電荷領域、231および232残基
目のアスパラギン酸残基2個をアスパラギン残基に変
換。 TGM2:C−末端側負電荷領域、445、448、4
49、450および452残基目にあるグルタミン酸残
基5個をグルタミン残基に変換。 TGM3:TGM1およびTGM2の改変部位を併有。
尚、未改変モルモット肝トランスグルタミナ−ゼのDN
A配列およびアミノ酸配列については特開平1−300
889号公報等に記載されている。 【0040】参考例2 =改変トランスグルタミナ−ゼTGM1、TGM2又は
TGM3の特異活性の確認= (1)架橋反応の抑制: 改変トランスグルタミナ−ゼTGM1、TGM2又はT
GM3は、アセチル化αs1- カゼインへの蛍光性一級ア
ミンであるモノダンシルカダベリンに代表される架橋反
応において、この蛋白基質との間の酵素学的な親和性K
mは未改変トランスグルタミナ−ゼTGと変わりなく同
一である一方、最大反応速度Vmaxは2.5倍以上低
下していることから、架橋反応の抑制が発生しているこ
とを認めた。 【0041】尚、蛋白基質との間の酵素学的な親和性K
m及び最大反応速度Vmaxは次式により定義される。 Km=(Vmax/v−1)[S] Vmax=(Km+[S])v/[S] 但し、vは生成物の生成速度、[S]は基質濃度であ
る。 【0042】蛋白基質との間の酵素学的な親和性Km及
び最大反応速度Vmaxに関する測定値を表2に示す。 【0043】 【表2】 【0044】また、反応開始後、30分単位で測定した
反応系に存在するαs1- カゼイン単量体の存在比は、未
改変トランスグルタミナ−ゼTGの反応系では、時間の
経過と共に急速に低下したのに対し、改変トランスグル
タミナ−ゼTGM1、TGM2又はTGM3の反応系で
は殆ど変化がなく、当初の90〜95%に維持、抑制さ
れていることを認めた(図2参照)。 【0045】(2)脱アミド化反応の無変化:改変トラ
ンスグルタミナ−ゼTGM1、TGM2又はTGM3の
脱アミド化反応は、未改変トランスグルタミナ−ゼTG
のそれと比較して殆ど同一のレベルにあり、両者の間に
実質的な差異は認められなかった(図3参照)。 【0046】(3)改変トランスグルタミナ−ゼTGM
1、TGM2又はTGM3の酵素学的挙動:上記のよう
に、TGM1、TGM2又はTGM3は、未改変トラン
スグルタミナ−ゼTGに比較して、架橋反応の抑制が発
生している一方で脱アミド化反応には変化がないので、
TGM1、TGM2又はTGM3を作用せしめた蛋白基
質に蛋白加水分解酵素を作用せしめた場合、蛋白基質を
構成している結合グルタミン酸は、容易に且つ変化を蒙
ることなく、換言すれば効果的に、遊離のグルタミン酸
に変化して加水分解物中に放出される。 【0047】尚、参考例1及び参考例2に記載の事項
は、次の通り既に公表されている。『伊倉宏司ほか「ト
ランスグルタミナ−ゼ分子に保存された負電荷領域の部
位特異的変異」日本生化学会第66回大会発表:内容要
旨、同大会要旨733頁、要旨発行日、平成5年8月2
5日、口頭発表、平成5年10月2日』 【0048】 【発明の効果】本発明は、以上に説明した通り、蛋白質
原料中に存在する結合形グルタミン酸を、遊離形のグル
タミン酸として加水分解物中に効果的に遊離せしめ、且
つ遊離したグルタミン酸は変化することなく安定に保全
し得るので、グルタミン酸を高濃度に含有する調味料ま
たは調味料原料を製造出来るという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】モルモット肝トランスグルタミナ−ゼの大腸菌
発現用プラスミドpKTG1を有する大腸菌を培養して
取得した生産物と、改変トランスグルタミナ−ゼTGM
1,TGM2及びTGM3を発現するプラスミドpKT
GM1,pKTGM2及びpKTGM3をそれぞれ有す
る大腸菌を培養して取得した各生産物、並びに対照とし
てモルモット肝トランスグルタミナ−ゼの遺伝子を担持
していないプラスミドpKK233−2を有する大腸菌
の培養物の抽出物、およびモルモット肝から抽出したト
ランスグルタミナ−ゼG.P.L.について、SDSポ
リアクリルアミド・ゲル上における電気泳動の結果を示
す模式図である。図において縦軸は分子量(KDa)
を、横軸には上記の生産物またはG.P.L.を示す。 【図2】モルモット肝トランスグルタミナ−ゼTGと、
その改変トランスグルタミナ−ゼTGM1、TGM2、
TGM3との架橋化反応活性を示す線図である。図2に
おいて縦軸は架橋化反応後のαs1- カゼイン単量体存在
比(%)を、横軸は反応時間(分)を示す。また、黒丸
はTGを、白三角はTGM1を、白丸はTGM2を、黒
三角はTGM3をそれぞれ示す。 【図3】モルモット肝トランスグルタミナ−ゼTGと、
その改変トランスグルタミナ−ゼTGM1、TGM2、
TGM3との脱アミド化反応活性を示す線図である。図
3において縦軸は脱アミド化反応で生成するアンモニア
量(mM) を、横軸は反応時間(分)を示す。また、黒
丸はTGを、白三角はTGM1を、白丸はTGM2を、
黒三角はTGM3をそれぞれ示す。
発現用プラスミドpKTG1を有する大腸菌を培養して
取得した生産物と、改変トランスグルタミナ−ゼTGM
1,TGM2及びTGM3を発現するプラスミドpKT
GM1,pKTGM2及びpKTGM3をそれぞれ有す
る大腸菌を培養して取得した各生産物、並びに対照とし
てモルモット肝トランスグルタミナ−ゼの遺伝子を担持
していないプラスミドpKK233−2を有する大腸菌
の培養物の抽出物、およびモルモット肝から抽出したト
ランスグルタミナ−ゼG.P.L.について、SDSポ
リアクリルアミド・ゲル上における電気泳動の結果を示
す模式図である。図において縦軸は分子量(KDa)
を、横軸には上記の生産物またはG.P.L.を示す。 【図2】モルモット肝トランスグルタミナ−ゼTGと、
その改変トランスグルタミナ−ゼTGM1、TGM2、
TGM3との架橋化反応活性を示す線図である。図2に
おいて縦軸は架橋化反応後のαs1- カゼイン単量体存在
比(%)を、横軸は反応時間(分)を示す。また、黒丸
はTGを、白三角はTGM1を、白丸はTGM2を、黒
三角はTGM3をそれぞれ示す。 【図3】モルモット肝トランスグルタミナ−ゼTGと、
その改変トランスグルタミナ−ゼTGM1、TGM2、
TGM3との脱アミド化反応活性を示す線図である。図
3において縦軸は脱アミド化反応で生成するアンモニア
量(mM) を、横軸は反応時間(分)を示す。また、黒
丸はTGを、白三角はTGM1を、白丸はTGM2を、
黒三角はTGM3をそれぞれ示す。
フロントページの続き
(56)参考文献 特開 昭48−82068(JP,A)
特開 平4−126039(JP,A)
特開 昭63−36797(JP,A)
特開 平7−23740(JP,A)
特開 平7−75569(JP,A)
特開 平6−225775(JP,A)
特公 昭47−37542(JP,B1)
特公 昭49−15789(JP,B1)
特公 昭48−43637(JP,B1)
(58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名)
A23L 1/228
A23L 1/23
Claims (1)
- (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 蛋白質原料に、架橋反応よりも脱アミド
化反応を優先的に触媒する能力を有するトランスグルタ
ミナ−ゼ活性物質を作用せしめた後、蛋白質加水分解酵
素活性物質を作用せしめることを特徴とする調味料の製
造法。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP23856794A JP3395397B2 (ja) | 1994-09-05 | 1994-09-05 | 調味料の製造法 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP23856794A JP3395397B2 (ja) | 1994-09-05 | 1994-09-05 | 調味料の製造法 |
Publications (2)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JPH0870815A JPH0870815A (ja) | 1996-03-19 |
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Family
ID=17032147
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP23856794A Expired - Fee Related JP3395397B2 (ja) | 1994-09-05 | 1994-09-05 | 調味料の製造法 |
Country Status (1)
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---|---|
JP (1) | JP3395397B2 (ja) |
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---|---|---|---|---|
CN104621530B (zh) * | 2015-01-12 | 2017-09-05 | 广东厨邦食品有限公司 | 一种酱油的制备方法 |
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---|---|---|---|---|
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JPS4915789B1 (ja) * | 1970-11-05 | 1974-04-17 | ||
JPS5121054B2 (ja) * | 1972-02-10 | 1976-06-30 | ||
JP2502531B2 (ja) * | 1986-07-31 | 1996-05-29 | 不二製油株式会社 | 改質蛋白の製造法 |
JP2572716B2 (ja) * | 1987-03-04 | 1997-01-16 | 味の素株式会社 | 新規なトランスグルタミナーゼ |
JP2958801B2 (ja) * | 1990-09-14 | 1999-10-06 | 味の素株式会社 | 脱苦味された機能性ペプチドの製造法 |
JP3364972B2 (ja) * | 1992-01-14 | 2003-01-08 | 味の素株式会社 | 魚由来トランスグルタミナーゼ遺伝子 |
JP3235278B2 (ja) * | 1993-07-02 | 2001-12-04 | 味の素株式会社 | 新規肉質改良剤および肉質改良方法 |
-
1994
- 1994-09-05 JP JP23856794A patent/JP3395397B2/ja not_active Expired - Fee Related
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