JP2512363B2 - 車輌用灯具の反射鏡及びその金型作製方法 - Google Patents

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】本発明は、車輌用灯具の反射鏡に
関し、車体形状に適合する反射面の形成にあたって反射
領域の区分に起因する反射領域境界での顕著な段差が生
じないようにすることで、見栄えや配光の向上を図るこ
とができる新規な車輌用灯具の反射鏡及びその金型作製
方法を提供しようとするものである。

【０００２】

【従来の技術】近時、自動車のスタイリングに関して空
力学特性やデザイン上の要請から車体形状に丸みが付け
られたり流線型状に近づけるために形状設計が行われる
ようになり、灯具の形状を車体の外形線に合うように湾
曲させたり、あるいは上下方向の傾斜をつけて設計する
必要性が生じる傾向にある。

【０００３】よって、反射面についてもこの影響を受け
て単一の回転放物面を固持する訳には行かなくなり、ま
た、アウターレンズに課せられてきた配光制御機能を反
射鏡側に転嫁する傾向が生まれるため、複数の回転放物
面の組み合わせ、あるいは微小な反射面の集合体として
形成される多重反射面として反射面を構成する方法等が
用いられる。

【０００４】図１１は、一例として自動車用テールアン
ドストップランプの外観を示すものであり、テールアン
ドストップランプａにおいてはストップランプ部ｂとタ
ーンシグナルランプ部ｃとが一体的に構成されている。

【０００５】そして、ランプボディｄに取付けられたア
ウターレンズｅは、車輌の端に近づくにつれて湾曲の度
合いが大きくなるとともに、上下方向に関して稍傾斜し
た形状とされている。

【０００６】図１２は反射鏡の要部を示すものである。

【０００７】アウターレンズｅが車体形状に適合するよ
うに設計されるのと同様に、反射鏡ｆも車体形状に対応
するために２つの反射部ｇ、ｇが連なった構成とされて
おり、ランプボディｄに対して蒸着による部分的な反射
処理を施すことによってそれぞれの反射面ｈ、ｈが形成
されている。

【０００８】そして、各反射面ｈは、放物面状をなすと
ともにそれぞれの焦点距離が異なる２つの反射領域ｉ、
ｉに区分されている。

【０００９】ｊ、ｊは反射部ｇ、ｇの中央にそれぞれ形
成された電球取付孔である。

【００１０】反射面ｈに関しては、回転放物面のような
解析的な関数によって表現し得る曲面を基本面とする限
り、車体形状に対して自在に対応した形状を得ることが
困難であり、よって反射領域ｉ、ｉの境界、つまり電球
取付孔ｊの上下における反射領域ｉ、ｉの合わせ目の位
置に段差ｋ、ｋが生じることになる。

【００１１】図１３は、灯具内に配置された状態のイン
ナーレンズｌを部分的に示すもので、下端寄りの部分ｍ
の裏面には水平方向に延びる数条のシリンドリカルレン
ズステップｎ、ｎ、・・・が形成され、その余の上側部
分ｏの裏面には魚眼ステップｑ、ｑ・・・が形成されて
いる。

【００１２】

【発明が解決しようとする課題】ところで、上記のよう
な灯具ａにあっては、点灯時において反射面の境界に形
成される段差ｋ、ｋがアウターレンズｅを通して外観上
に表出するため見栄えを損なってしまうという問題があ
る。

【００１３】このような現象は、特にインナーレンズｌ
の下端寄りの部分ｍと段差ｋとが対応している場所にお
いて著しく、図１１に破線の円で囲んで示すようにアウ
ターレンズｅの表面に段差ｋに対応した暗いスジｓとな
って現れるため目立ってしまう。

【００１４】そこで、このような不都合に対処するため
に、反射面ｈ、ｈにおける下側の半部が放物面からズレ
が生じるのを覚悟の上で強制的に滑らかに繋ぎ段差がで
きないようにする方法や、段差面を斜面にしたりインナ
ーレンズにシボ加工を施す等の方法が考えられるが、何
れも個別的な対処方法であり、最終的には配光制御への
影響（つまり、段差面やシボ加工による散乱光）を考慮
しなければならないという点で最良の方法とは言い難
い。

【００１５】

【課題を解決するための手段】そこで、本発明車輌用灯
具の反射鏡は上記した課題を解決するために、反射鏡の
光軸回りに形成される多数の反射ステップにより反射面
が構成された車輌用灯具の反射鏡において、反射面の基
本面を自由曲面として作成し基本面に対し反射ステップ
を割り付けるに際して、反射ステップ上の反射点での微
小反射面における接線ベクトルが、当該反射点における
微小反射面の法線ベクトルと、反射点における基本面の
接平面の法線ベクトルとの外積に一致するようにしたも
のである。

【００１６】また、本発明に係る車輌用灯具の反射鏡の
金型作製方法は、反射鏡の光軸回りに形成される多数の
反射ステップにより反射面が構成される車輌用灯具の反
射鏡の金型作製方法であって、先ず、車体形状に適合す
るように反射面の基本面を自由曲面として作った後、基
本面上に基準線を設定し、それから基準線に複数の反射
点を指定する。

【００１７】そして、光源から反射点に向かう入射光が
当該点で反射した後に光軸に対して平行光線となるよう
に、反射の法則に従って当該点での微小反射面を求める
とともに、反射点における微小反射面の法線ベクトル
と、反射点における基本面の法線ベクトルとの外積とし
て計算されるベクトルを、反射ステップの形成の向きを
定める方向ベクトルとして採用して、光軸回りの複数の
反射点における該方向ベクトルを接線ベクトルとするス
プライン近似によって閉曲線を生成し、各反射点での微
小反射面に対応した斜面をもつＶ字溝を閉曲線に沿って
金型材上に形成するようにしたものである。

【００１８】

【作用】本発明によれば、反射面の基本面上に基準線を
引き、該基準線上に複数の点を指定して、当該点での反
射光線が光軸に平行な光線となるように反射の法則に従
って微小反射面を決定し、その点での微小反射面の法線
ベクトルと基本面の法線ベクトルとの外積を求めてこれ
を接線ベクトルとする閉曲線をスプライン曲線として生
成して、この閉曲線に沿って金型材上にＶ字溝を形成し
ているので、成形品である反射鏡の反射ステップが反射
鏡の光軸回りに形成される。

【００１９】従って、光軸に平行な方向から反射面を見
たときに反射面が複数の反射領域に区分けされるような
ことはなく、車体形状に適合させるべく反射面の基本形
状を自由曲面を用いてＣＡＤ上である程度自由に設計し
たとしても反射領域の境界における段差によって灯具の
外観を損なったり、段差での反射光による配光への悪影
響を回避することができる。

【００２０】

【実施例】以下に、本発明車輌用灯具の反射鏡及びその
金型作製方法を図示した実施例に従って説明する。

【００２１】図１０は本発明を自動車のテールランプに
適用した構成例を示すものである。

【００２２】図示するように、灯具１は、自動車の車体
形状に適合するようにアウターレンズ２のレンズ面が湾
曲した形状に設計される。

【００２３】３はその反射鏡であり、その光軸ｘ−ｘが
電球４のフィラメントの中心を通って車輌の前後方向に
延びており、電球４とアウターレンズ２との間にはイン
ナーレンズ５が配置されている。

【００２４】インナーレンズ５はアウターレンズ２の直
ぐ内側に位置されており、アウターレンズ２と同様に車
体形状の影響を受けてレンズ面６が湾曲した形状となっ
ている。

【００２５】反射鏡３は、図示するようにその反射面３
ａが多数の反射ステップ７、７、・・・によって構成さ
れた所謂多重反射面とされており、その基本面が車体形
状に適合した形状に設計される。

【００２６】図１乃至図５は反射ステップ７、７、・・
・の金型の形成方法を段階的に示すものであり、光軸を
含む平面によって反射ステップを切ったときの断面形状
が三角形状をしていることから明らかなように、金型は
反射ステップに対応するＶ字状の溝をＮＣ加工によって
形成することによって作製される。

【００２７】また、図６乃至図９は反射ステップ７、
７、・・・の形成について説明するための概略図であ
る。

【００２８】図１乃至図４に示す曲面Ｋは反射面３ａに
ついての基本面であり、図６乃至図８において２点鎖線
で示す基準曲線８によってこの基本面Ｋを代表し、また
実線で示す曲線９が反射鏡３の外面を代表しており、曲
線９は曲線８と相似の形状をなしている。

【００２９】尚、これらの曲線８、９は反射鏡３の光軸
ｘ−ｘを含む平面によって反射鏡３を切断したときの交
線であり、車体形状に適合する形状として最初に与えら
れるものである。

【００３０】基準曲線８上の点Ｐは反射点であり、図２
乃至図４では基準曲線８上に点Ｐが複数個指定される様
子を表しており、図６乃至図９では反射点Ｐ、Ｐ、・・
・のうち特定のものについてその光路Ｌを示している。

【００３１】また、図６乃至図９において、ベクトル
「Ｖ＿ＩＮ」は入射光線の方向ベクトル、ベクトル「Ｖ
＿ＯＵＴ」は反射光線の方向ベクトルをそれそれ示して
おり、また、「Ｒ」は基本面Ｋに関する点Ｐでの微小反
射面を示し、これを線分１０によって表わしており、ま
た、ベクトル「Ｎ＿Ｒ」は反射点Ｐにおいて微小反射面
Ｒに立てた法線ベクトルを示し、「Ｔ」は基準面Ｓの点
Ｐにおける接平面、線分１１は接平面Ｔを代表する線分
を示し、ベクトル「Ｎ＿Ｔ」は点Ｐにおいて接平面Ｔに
立てた法線ベクトルをそれぞれ示している。

【００３２】先ず、図１に示すように、車体の形状に適
合するように反射面３ａの基本面ＫをＣＡＤ上で作成
し、該基本面Ｋ上に基準曲線８を引く。尚、一般に基本
面Ｋは、解析的な関数式で表現することができない自由
曲面である。

【００３３】次に、図２に示すように基準曲線８上に複
数の点Ｐ、Ｐ、・・・を設定する。これらの点は後述す
る閉曲線を得るにあたっての始点となる。尚、基準曲線
８の始端は基本面Ｋと光軸ｘ−ｘとの交点である。

【００３４】図６は、点Ｐ、Ｐ、・・・のうちの一の点
における反射光路を示しており、光路Ｌに示すように、
反射点Ｐにおける反射光が光軸ｘ−ｘに平行な光になる
ことを要求すると反射の法則から微小反射面Ｒの傾きが
一意に決定される。

【００３５】つまり、図７に示すように微小反射面Ｒの
法線ベクトルＮ＿Ｒに関して入射角θｉと反射角θｏと
が等しくなるように微小反射面Ｒが決められる。

【００３６】そして、図８に示すように基本面Ｋ上にお
ける反射点Ｐでの接平面Ｔの法線ベクトルＮ＿Ｔを求
め、この法線ベクトルＮ＿Ｔと、微小反射面Ｒの法線ベ
クトルＮ＿Ｒとの外積（ベクトル積）を求める（これを
ベクトル「Ｗ」とする。）。つまり、基本面Ｋ上の任意
の点Ｐにおける微小面素を点Ｐでの接平面Ｔによって近
似し、ベクトルＷを用いて基本面Ｋの形状を微小反射面
Ｒに関する形成の向きに反映させる。

【００３７】図３は、ある点Ｐを始点として光軸ｘ−ｘ
回りに反射点の位置を次々に変えて場所毎に求められる
ベクトルＷを、各点での接線ベクトルとして与えていく
ことによってスプライン曲線として得られる閉曲線１２
を示している。

【００３８】尚、各始点Ｐについて作成される閉曲線１
２、１２、・・・は、光軸ｘ−ｘを中心として反射ステ
ップの金型加工上の基準線であり、これらの閉曲線を光
軸に平行な方向から見たときの形状は一般に円形ではな
い。

【００３９】図９は基本面Ｋ、微小反射面Ｒ、接平面
Ｔ、各種ベクトルの位置関係を斜視図として示すもので
あり、これまでの手順を箇条書きにまとめると次のよう
になる。

【００４０】手順（１） 反射面３ａの基本面Ｋを作成する。

【００４１】手順（２） 基本面Ｋ上に基準曲線８を指定する。

【００４２】手順（３） 基準曲線８上に始点Ｐ、Ｐ、・・・を設定する。

【００４３】手順（４） 各始点Ｐ、Ｐ、・・・について閉曲線群１２、１２、・
・・を作成する。

【００４４】さらに、詳細には、基本面Ｋを微小面素を
反射点での接平面Ｔによって近似する手法を用いて、以
下の手順を踏む。

【００４５】・手順（４−１） 点Ｐにおける入射光線のベクトルＶ＿ＩＮと反射光線の
ベクトルＶ＿ＯＵＴとに基づい微小反射面Ｒの法線ベク
トルＮ＿Ｒを求めて微小反射面Ｒを決定する。

【００４６】・手順（４−２） 点Ｐにおける基本面Ｋの法線ベクトルＮ＿Ｔ及び接平面
Ｔを求める。

【００４７】・手順（４−３） 法線ベクトルＮ＿ＲとＮ＿Ｔとの外積としてベクトルＷ
を求める。

【００４８】・手順（４−４） 光軸ｘ−ｘ回りの各反射点におけるベクトルＷを接線ベ
クトルとしてスプライン近似（内挿法）により閉曲線１
２を得る。

【００４９】・手順（４ー５） 基準曲線８上の各始点に対して手順（４−１）乃至手順
（４−４）を繰り返す。

【００５０】そして、最終的に、 手順（５） 閉曲線群１２、１２、・・・に対して反射ステップを作
成する。

【００５１】即ち、図４に示すように、基本面Ｋに対し
て形成される微小反射面Ｒを閉曲線１２に従って繋ぐこ
とにより一の反射ステップに係る連続した反射面を形成
し、光源からこの反射ステップに入射した光が反射後に
光軸に平行になるように設計する。

【００５２】図５は、閉曲線１２、１２、・・・に沿っ
た加工工具の移動制御を行うことによって金型材１３上
に形成されるＶ字溝１４、１４、・・・を示している。

【００５３】図示するように金型材１３の表面は反射面
３の基本面Ｋに対応する形状をなしており、Ｖ字溝１４
における内周側の斜面１４ａが反射ステップ７、７、・
・・の反射面の形成に関与する。尚、Ｖ字溝１４を構成
する外周側の斜面が光軸に対してなす角度は型抜きの都
合により一定とされる。

【００５４】しかして、上記した反射鏡３にあっては、
反射ステップ７、７、・・・の形成過程から明かなよう
に、車体形状に適合した形状の基本面Ｋを基準として各
反射点での反射光線の向きが光軸ｘ−ｘに平行な光線と
なるように微小反射面Ｒを規定するとともに、ベクトル
Ｗにより微小反射面Ｒの形成方向を決めてこれらの連続
面として各反射ステップを形成しているので、反射面３
を正面から見たときに該反射面が光軸に関して配光制御
機能上複数の反射領域に区分けされることなく各反射ス
テップ７が光軸の回りにループ状に形成されるため、反
射領域の境界での著しい段差を伴うことなく反射面３ａ
の基本形状に合わせて正確な光線の制御を実現すること
ができる。

【００５５】

【発明の効果】以上に記載したところから明らかなよう
に、本発明車輌用灯具の反射鏡及びその金型作製方法に
よれば、車体形状に合わせて反射面の基本面を規定した
後、反射ステップでの反射光線が平行光線となるよう反
射点での微小反射面を光軸に関してループ状に繋いでい
くことによって反射ステップを設計することができるの
で、反射面を複数の反射領域に区分けする場合において
生じる境界での著しい段差による見栄えの悪化や配光制
御への悪影響を解消することができる。

【図面の簡単な説明】

【図１】基本面である自由曲面上に基準曲線を引いた状
態を示す図である。

【図２】図１の基準曲線上に複数の点を指定した状態を
示す図である。

【図３】基本面上の閉曲線について点Ｐでの接線ベクト
ルを示す図である。

【図４】図３において基準曲線上の点Ｐでの微小反射面
を示す図である。

【図５】反射ステップの反射面に対応する金型のＶ溝に
ついて示す図である。

【図６】反射点Ｐにおける入射光と反射光を示す光路図
である。

【図７】反射点Ｐでの微小反射面とその法線ベクトルを
示す図である。

【図８】反射点Ｐにおける基本面の接平面とその法線面
とを反射点Ｐでの微小反射面Ｒ及びその法線ベクトルと
併せて示す図である。

【図９】反射点Ｐにおける微小反射面、接平面、そして
各法線ベクトルと両者の外積との関係について示す斜視
図である。

【図１０】本発明に係る車輌用灯具の構成例を概略的に
示す断面図である。

【図１１】従来の車輌用灯具の一例を示す斜視図であ
る。

【図１２】従来の反射鏡の要部を示す斜視図である。

【図１３】従来の車輌用灯具の要部を示す拡大断面図で
ある。

【符号の説明】

３ 反射鏡 ３ａ 反射面 ４ 光源 ７ 反射ステップ ８ 基準線 １２ 閉曲線 １３ 金型材 １４ Ｖ字溝 Ｋ 基本面 Ｐ 反射点 Ｒ 微小反射面 Ｎ＿Ｒ （Ｒの）法線ベクトル Ｔ 接平面 Ｎ＿Ｔ （Ｔの）法線ベクトル Ｗ 外積 ｘ−ｘ 光軸

Claims (2)

(57)【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 反射鏡の光軸回りに形成される多数の反
   射ステップにより反射面が構成された車輌用灯具の反射
   鏡において、反射面の基本面を自由曲面として作成し基
   本面に対し反射ステップを割り付けるに際して、反射ス
   テップ上の反射点での微小反射面における接線ベクトル
   が、当該反射点における微小反射面の法線ベクトルと、
   反射点における基本面の接平面の法線ベクトルとの外積
   に一致することを特徴とする車輌用灯具の反射鏡。
2. 【請求項２】 反射鏡の光軸回りに形成される多数の反
   射ステップにより反射面が構成される車輌用灯具の反射
   鏡の金型作製方法であって、（１）車体形状に適合する
   ように反射面の基本面を自由曲面として作った後、
   （２）基本面上に基準線を設定し、（３）（２）の基準
   線に複数の反射点を指定し、（４）光源から（３）の反
   射点に向かう入射光が当該点で反射した後に光軸に対し
   て平行光線となるように、反射の法則に従って当該点で
   の微小反射面を求めるとともに、反射点における微小反
   射面の法線ベクトルと、反射点における基本面の法線ベ
   クトルとの外積として計算されるベクトルを、反射ステ
   ップの形成の向きを定める方向ベクトルとして採用し
   て、光軸回りの複数の反射点における該方向ベクトルを
   接線ベクトルとするスプライン近似によって閉曲線を生
   成し、（５）各反射点での微小反射面に対応した斜面を
   もつＶ字溝を（４）の閉曲線に沿って金型材上に形成す
   る、ことを特徴とする車輌用灯具の反射鏡の金型作製方
   法。