JP2024093687A - アルミニウム合金鍛造品及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】常温における機械的特性に優れたアルミニウム合金鍛造品を提供することである。【解決手段】本発明のアルミニウム合金鍛造品は、Cuを0.25質量%以上0.45質量%以下、Mgを0.95質量%以上1.25質量%以下、Siを0.6質量%以上0.85質量%以下、Mnを0.05質量%以上0.2質量%以下、Feを0.15質量%以上0.4質量%以下、Znを0.25質量%以下、Crを0.050質量%以上0.30質量%以下、Tiを0.01質量%以上0.1質量%以下、Bを0.001質量%以上0.03質量%以下、Zrを0.0010質量%以上0.050質量%以下の範囲内で含有する合金組成を有し、1.5μm以内に0.2μm以下のMn含有析出物の数密度が4個/μm2以上含まれ、大角粒界の比率が30%以下で、0.2%耐力が280MPa以上である。【選択図】図1

Description

本発明は、アルミニウム合金鍛造品及びその製造方法に関する。
近年、アルミニウム合金は、軽量性を生かして各種製品の構造部材としての用途が拡大しつつある。例えば、自動車の足廻りやバンパー部品では、今まで高張力鋼が用いられてきた。一方、近年は高強度アルミニウム合金材が用いられるようになっている。
また、自動車部品、その中でも、例えばサスペンション部品には、専ら鉄系材料が使用されていた。一方、近年は軽量化を主目的として、アルミニウム材料又はアルミニウム合金材料に置き換えられることが多くなってきた。
これらの自動車部品では、優れた耐食性、高強度及び優れた加工性が要求されることから、アルミニウム合金材料としてAl-Mg-Si系合金、特にA6061が多用されている。そして、このような自動車部品は、強度の向上を図るため、アルミニウム合金材料を加工用素材として塑性加工の1つである鍛造加工を行って製造される。
また、最近では、コストダウンを図る必要があるため、押出をせずに鋳造部材をそのまま素材として鍛造した後、溶体化処理と人工時効処理を行う処理(T6処理)して得たサスペンション部品が実用化され始めており、さらなる軽量化を目的として、従来のA6061に代わる高強度合金の開発が進められている(例えば、特許文献1~3を参照。)。
特開平5-59477号公報 特開平5-247574号公報 特開平6-256880号公報
しかしながら、上述したAl-Mg-Si系の高強度合金は、鍛造及び熱処理工程において加工組織が再結晶し、粗大結晶粒が発生することにより、十分な高強度を得ることができないという問題があった。そのため、粗大再結晶粒生成防止のため、Zr(ジルコニウム)を添加して再結晶を防止しているものがある(例えば、上記特許文献1,2を参照。)。
しかしながら、Zrを添加することは、再結晶防止に効果があるものの、次のような問題点があった。
(1)Zrの添加により、Al-Ti-B系合金の結晶粒微細化効果が弱められ、鋳塊自体の結晶粒が粗くなり、塑性加工後の加工品(鍛造品)の強度低下を招く。
(2)鋳塊自体の結晶粒微細化効果が弱められるため、鋳塊割れが発生し易くなり、内部欠陥が増加し、歩留まりが悪化する。
(3)Zrは、Al-Ti-B系合金と化合物を形成し、合金溶湯を貯留する炉の底に化合物が堆積し、炉を汚染すると共に、製造した鋳塊においてもこれら化合物が鋳塊中に粗大に晶出し、強度を低下させる。
このように、Zrの添加は、再結晶防止に効果があるものの、強度の安定性を維持するのが困難であった。
本発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、常温における機械的特性に優れたアルミニウム合金鍛造品及びその製造方法を提供することを目的とする。
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
本発明の態様1は、Cuを0.25質量%以上0.45質量%以下の範囲内、Mgを0.95質量%以上1.25質量%以下の範囲内、Siを0.6質量%以上0.85質量%以下の範囲内、Mnを0.05質量%以上0.2質量%以下の範囲内、Feを0.15質量%以上0.4質量%以下の範囲内、Znを0.25質量%以下の範囲内、Crを0.050質量%以上0.30質量%以下の範囲内、Tiを0.01質量%以上0.1質量%以下の範囲内、Bを0.001質量%以上0.03質量%以下の範囲内、Zrを0.0010質量%以上0.050質量%以下の範囲内で含有し、残部がAl及び不可避不純物からなる合金組成を有するアルミニウム合金から構成されるアルミニウム合金鍛造品であって、粒界を含む1.5μm以内にサイズが0.2μm以下のMnを含有する析出物の数密度が4個/μm以上含まれており、結晶方位差15゜以上の大角粒界の比率が30%以下であり、かつ、常温における0.2%耐力が280MPa以上である、アルミニウム合金鍛造品である。
本発明の態様2は、態様1のアルミニウム合金鍛造品の製造方法であって、前記アルミニウム合金の溶湯を得る溶湯形成工程と、前記得られた溶湯を鋳造加工することによって鋳造品を得る鋳造工程と、前記鋳造品を500℃~融点以下の温度で素材加熱し塑性加工を施して鍛造品を得る鍛造工程と、前記得られた鍛造品に20℃~500℃までの昇温速度が5.0℃/min以上で昇温し、530~560℃で0.3~3時間以内で保持する溶体化処理を行う溶体化処理工程と、前記溶体化処理後5~60秒以内に前記鍛造品の全ての表面が焼き入れ水に接触し、1分を超え、40分以内水槽内で焼き入れする焼き入れ工程と、前記焼き入れ処理工程を経た鍛造品に180℃~220℃の温度で0.5時間~8時間加熱して時効処理を行う時効処理工程と、を有する、アルミニウム合金鍛造品の製造方法である。
本発明によれば、常温における機械的特性に優れたアルミニウム合金鍛造品を提供できる。
また、本発明によれば、これまでアルミ合金溶湯を鋳造したのちに、偏析除去するために施していた均質化処理工程を削減している為、低コスト・省エネなアルミニウム合金鍛造品の製造方法を提供できる。
本発明の一実施形態に係るアルミニウム合金鍛造品の一例を示す斜視図である。 本発明の一実施形態に係るアルミニウム合金鍛造品の別の一例を示す平面図である。 本発明の一実施形態に係るアルミニウム合金鍛造品のさらに別の一例を示す斜視図である。 本発明の一実施形態に係るアルミニウム合金鍛造品を製造するための水平連続鋳造装置の鋳型付近の一例を示す断面図である。 図4に示す水平連続鋳造装置の冷却水キャビティ付近の要部を拡大した断面図である。 水平連続鋳造装置の冷却壁部の熱流束を説明する説明図である。 本実施例で得られたアルミニウム合金鍛造品から機械的特性評価用試験片の作製用として採取した中央部の採取位置を示す平面図である。 本実施例で作製した機械的特性評価用試験片を示す平面図である。
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに必ずしも限定されるものではなく、その効果を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
[アルミニウム合金鍛造品]
先ず、本発明の一実施形態に係るアルミニウム合金鍛造品について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るアルミニウム合金鍛造品の斜視図である。
図1に示すように、アルミニウム合金鍛造品1aは、長尺部2と、長尺部2の長手方向の両端にそれぞれ接続された連結部4a,4bとを有する。長尺部は断面が4角形とされている。これら2つの連結部4には、それぞれ貫通孔が設けられていればよい。この形状のアルミニウム合金鍛造品1aは、例えば、I型サスペンションアームとして用いることができる。
本実施形態のアルミニウム合金鍛造品は、Cuを0.25質量%以上0.45質量%以下の範囲内、Mgを0.95質量%以上1.25質量%以下の範囲内、Siを0.6質量%以上0.85質量%以下の範囲内、Mnを0.05質量%以上0.2質量%以下の範囲内、Feを0.15質量%以上0.4質量%以下の範囲内、Znを0.25質量%以下の範囲内、Crを0.050質量%以上0.30質量%以下の範囲内、Tiを0.01質量%以上0.1質量%以下の範囲内、Bを0.001質量%以上0.03質量%以下の範囲内、Zrを0.0010質量%以上0.050質量%以下の範囲内で含有し、残部がAl及び不可避不純物からなる合金組成を有するアルミニウム合金から構成されるアルミニウム合金鍛造品であって、粒界を含む1.5μm以内にサイズが0.2μm以下のMnを含有する析出物の数密度が4個/μm以上含まれており、結晶方位差15゜以上の大角粒界の比率が30%以下であり、かつ、常温における0.2%耐力が280MPa以上である。
本実施形態のアルミニウム合金鍛造品は、MgとSiを含む点で6000系アルミニウム合金の鍛造品に相当する。
(Cu:0.25質量%以上、0.45質量%以下)
Cuは、アルミニウム合金中でMg-Si系化合物を微細に分散させる作用や、Q相を始めとするAl-Cu-Mg-Si系化合物として析出することでアルミニウム合金の引張強さを向上させる作用を有する。Cuの含有率が上記の範囲内にあることによって、アルミニウム合金鍛造品1aの常温における機械的特性を向上させることができる。
(Mg:0.95質量%以上、1.25質量%以下)
Mgは、アルミニウム合金の引張強さを向上させる作用を有する。アルミニウム母相へMgが固溶する、あるいは、β”相などのMg-Si系化合物(MgSi)、またはQ相を始めとするAl-Cu-Mg-Si系化合物(AlCuMgSi)として析出することで、アルミニウム合金の強化に寄与する。また、MgSiは、アルミニウム合金中でのCuAl相の生成を抑制する作用がある。CuAl相の生成が抑制されることによって、アルミニウム合金鍛造品1aの耐食性が向上する。Mgの含有率が上記の範囲内にあることによって、アルミニウム合金鍛造品1aの常温における機械的特性とともに耐食性を向上させることができる。
(Si:0.6質量%以上0.85量%以下)
Siは、Mgと同様にアルミニウム合金鍛造品1aの常温における機械的特性と共に耐食性を向上させる作用を有する。但し、アルミニウム合金にSiを過剰に添加すると、粗大な初晶Si粒が晶出することにより、アルミニウム合金の引張強さが低下するおそれがある。Siの含有率が上記の範囲内にあることによって、初晶Siの晶出を抑えつつ、アルミニウム合金鍛造品1aの常温における機械的特性と共に耐食性を向上させることができる。
(Mn:0.05質量%以上、0.2質量%以下)
Mnは、アルミニウム合金中でAl-Mn-Fe-SiやAl-Mn-Cr-Fe-Siなどの金属間化合物を含む微細な粒状の晶出物を形成することで、アルミニウム合金の引張強さを向上させる作用を有する。Mnの含有率が上記の範囲内にあることによって、アルミニウム合金鍛造品1aの常温における機械的特性を向上させることができる。
(Fe:0.15質量%以上、0.4質量%以下)
Feは、アルミニウム合金中でAl-Mn-Fe-Si、Al-Mn-Cr-Fe-Si、Al-Fe-Si、Al-Cu-Fe、Al-Mn-Feなどの金属間化合物を含む微細な晶出物として晶出することで、アルミニウム合金の引張強さを向上させる作用がある。Feの含有率が上記の範囲内にあることによって、アルミニウム合金鍛造品1aの常温における機械的特性を向上させることができる。
(Cr:0.050質量%以上、0.30質量%以下)
Crは、アルミニウム合金中でAl-Mn-Cr-Fe-SiやAl-Fe-Crなどの金属間化合物を含む微細な粒状の晶出物を形成することで、アルミニウム合金の引張強さを向上させる作用を有する。Crの含有率が上記の範囲内にあることによって、アルミニウム合金鍛造品1aの常温における機械的特性を向上させることができる。
(Ti:0.01質量%以上、0.1質量%以下)
Tiは、アルミニウム合金の結晶粒を微細化し、展伸加工性を向上させる作用を有する。Ti含有率が0.01質量%未満の場合、結晶粒の微細化効果が十分に得られないおそれがある。一方、Ti含有率が0.1質量%を超えると、粗大な晶出物を形成し、展伸加工性が低下するおそれがある。また、アルミニウム合金鍛造品1aにTiを含む粗大な晶出物が多量に混入すると靭性が低下する場合がある。したがって、Tiの含有率は0.012質量%以上、0.035質量%以下とする。Tiの含有率は、好ましくは0.015質量%以上、0.050質量%以下である。
(B:0.001質量%以上、0.03質量%以下)
Bは、アルミニウム合金の結晶粒を微細化し、展伸加工性を向上させる作用を有する。上述したTiと共にBをアルミニウム合金に添加することによって、結晶粒の微細化効果が向上する。Bの含有率が0.0010質量%未満では、結晶粒の微細化効果が十分に得られないおそれがある。一方、Bの含有率が0.030質量%を超えると、粗大な晶出物を形成し、介在物としてアルミニウム合金鍛造品1aに混入するおそれがある。また、アルミニウム合金の最終製品にBを含む粗大な晶出物が多量に混入すると靭性が低下する場合がある。したがって、Bの含有率は0.0010質量%以上、0.030質量%とする。Bの含有率は、好ましくは0.0050質量%以上、0.025質量%である。
(Zr:0.0010質量%以上、0.05質量%以下)
Zrは、0.05質量%以下であれば、AlZrおよびAl-(Ti,Zr)という形で析出することで、再結晶抑制効果や析出強化によりアルミニウム合金鍛造品1aの強度の向上に寄与する。Zrの含有率が0.050質量%を超えると粗大なZr化合物として晶出することによって、アルミニウム合金鍛造品1aの耐食性の低下につながるおそれがある。このため、Zrの含有率は、0.050質量%以下とする。また、上記の再結晶抑制効果や析出強化による鍛造品の強度の向上の効果を得るためにはZrの含有率は、0.0010質量%以上であることが好ましい。
(Zn:0.250質量%以下)
Znは0.250質量%以下であればよい。Znの含有率が0.250質量%を超えるとMgZnが生成し、Al母相から粒界に析出することで粒界腐食を起こし、アルミニウム合金鍛造品の耐食性の低下につながる。このため、Znの含有率は、0.250質量%以下、あるいは全く含まないことが好ましい。
(不可避不純物)
不可避不純物は、原料又は製造工程から不可避的にアルミニウム合金に混入する不純物である。不可避不純物の例としては、Ni、Sn、Beなどを挙げることができる。これらの不可避不純物の含有率は0.1質量%を超えないことが好ましい。
本実施形態のアルミニウム合金鍛造品1aの長尺部2の長手方向の中央部2aは、例えば、アルミニウム合金鍛造品1aを車両のサスペンションアームとして使用した場合に、最大主応力がかかる部分である。中央部2aは、例えば、長尺部2の長手方向の中心を含む長尺部2の全体に対して1%以上80%以下の範囲内の領域である。長尺部2のアスペクト比(長手方向の長さ/長手方向に垂直な方向の短辺の長さ)は、例えば、2以上100以下の範囲内にある。長尺部2の中央部2aの断面は、鍛造加工によってアルミニウム合金鍛造品1aを製造する際に、圧力を加えた方向に沿った方向の断面(以下、中央部断面と称することがある)である。
(平均粒子径が2.0μm以上のAIFeSi(Mn)系化合物を含まない)
アルミニウム合金鍛造品1aの中央部断面における合金組織には、平均粒子径が2.0μm以上のAIFeSi(Mn)系化合物を含まないようにする。平均粒子径が2.0μm以上のAIFeSi(Mn)系化合物が存在すると、機械的特性(引張特性/疲労特性等)が低下するおそれがある。
(0.2%耐力が280MPa以上)
アルミニウム合金鍛造品1aの中央部断面は、常温(20℃)での引張特性において、280MPa以上の機械的特性を有する。この0.2%耐力が280MPa未満では、部品の耐久性が低下するおそれがある。
(結晶方位差15°以上の大角粒界の比率30%以下)
アルミニウム合金鍛造品1aの中央部断面において、結晶方位差15°以上の結晶粒界(大角粒界)は、アルミニウム合金鍛造品1aの長尺部2の再結晶化の進行程度の指標となる。この大角粒界の比率が30%以下であることは、再結晶化が十分に抑制されていることを表す。再結晶化が十分に抑制されていることによって、長尺部2の機械的特性が向上する。大角粒界の比率は、EBSD像から得ることができる。
以上のような構成とされた本実施形態のアルミニウム合金鍛造品1aは、その材料であるアルミニウム合金が上記の合金組成とされているので、鍛造品を製造する際に再結晶化が起こりにくい。このため、過度に粗大な結晶粒が生成しにくい。また、本実施形態のアルミニウム合金鍛造品1aの長尺部2の中央部2aの断面は、粒界を含む1.5μm以内に、サイズが0.2μm以下のMnを含む析出物の数密度が4個/μm以上であり、且つ結晶方位差15°以上の大角粒界の比率30%以下の合金組織を有する。
このため、長尺部2の中央部2aは、引張特性や疲労特性が高く、靭性に優れ耐衝撃性が向上する。さらに、本実施形態のアルミニウム合金鍛造品1aは、アルミニウム合金鍛造品1aの長尺部2の中央部2aの0.2%耐力が280MPa以上であり、鉄系の金属材料に匹敵する耐久性を有する。
本実施形態のアルミニウム合金鍛造品1aは、長尺部2の中央部2aの強度や耐久性が高く、かつ軽量であるため、自動車などの車両のサスペンションアーム用として有利に使用することができる。
図1に示す本実施形態のアルミニウム合金鍛造品1aにおいては、一方の連結部4aは相対的に直径が小さい円柱状で、一方の連結部4bは相対的に直径が大きい円柱状とされ、長尺部2は、一方の連結部4a側の端辺から他方の連結部4b側の端辺に向けて幅が広くなった形状とされているが、アルミニウム合金鍛造品1aの形状は、これに限定されるものでない。例えば、アルミニウム合金鍛造品1aの一方の連結部4aと他方の連結部4bは同じ形状であってもよい。長尺部2の幅は一定であってもよい。また、長尺部2は湾曲した形状であってもよい。連結部4は3個以上形成されていてもよい。
図2は、本発明の一実施形態に係るアルミニウム合金鍛造品の別の一例の平面図である。
図2に示すアルミニウム合金鍛造品1bは、3つの連結部4c,4d,4eを有する。連結部4cと連結部4dは長尺部2で接続され、連結部4dと連結部4eとは、長尺部2よりも相対的に長さが短く短尺部5で接続されている。連結部4cには、貫通孔が設けられている。このアルミニウム合金鍛造品1bは、例えば、L型サスペンションアームとして用いることができる。
図3は、本発明の一実施形態に係るアルミニウム合金鍛造品のさらに別の一例の平面図である。
図3に示すアルミニウム合金鍛造品1cは、3つの連結部4f,4g,4hを有する。連結部4fと連結部4g及び連結部4fと連結部4hはそれぞれ長尺部2で接続されている。連結部4fには、貫通孔が設けられている。このアルミニウム合金鍛造品1bは、例えば、A型サスペンションアームとして用いることができる。
[アルミニウム合金鍛造品の製造方法]
次に、本実施形態のアルミニウム合金鍛造品の製造方法について説明する。
本実施形態のアルミニウム合金鍛造品の製造方法は、例えば、溶湯形成工程と、鋳造工程と、鍛造工程と、溶体化処理工程と、焼き入れ処理工程と、時効処理工程とを含む。
(溶湯形成工程)
溶湯形成工程は、原料を溶解して組成を調製したアルミニウム合金溶湯を得る工程である。アルミニウム合金溶湯の組成は、Cuを0.25質量%以上0.45質量%以下の範囲内、Mgを0.95質量%以上1.25質量%以下の範囲内、Siを0.6質量%以上0.85質量%以下の範囲内、Mnを0.05質量%以上0.2質量%以下の範囲内、Feを0.15質量%以上0.4質量%以下の範囲内、Znを0.25質量%以下の範囲内、Crを0.050質量%以上0.30質量%以下の範囲内、Tiを0.01質量%以上0.1質量%以下の範囲内、Bを0.001質量%以上0.03質量%以下の範囲内、Zrを0.0010質量%以上0.050質量%以下の範囲内で含有し、残部がAl及び不可避不純物からなる合金組成になるように調整して6000系アルミニウム合金の溶湯を得る。
上記組成のアルミニウム合金溶湯を用いてこれ以降の工程を行うことで、再結晶発生がしにくく、常温における機械的特性に優れたAl-Mg-Si系のアルミニウム合金鍛造品を得ることができる。なお、アルミニウム新塊とは、鉱物から製造されたアルミナに、電解精錬と呼ばれる電気分解を行うことで得られる濃度99%以上のアルミニウムである。
アルミニウム合金溶湯は、アルミニウム合金を加熱して溶融させることによって得ることができる。また、アルミニウム合金の原料となる元素の単体若しくは元素を2種以上含む化合物を、目的のアルミニウム合金を生成する割合で含む混合物を溶融させることによって成形してもよい。例えば、鋳造工程で生成させるアルミニウム合金の結晶粒径を制御する目的で、TiやBをAl-Ti-Bロッドなどの結晶粒微細化材として混合してもよい。
また、アルミニウム合金溶湯の原料として1000系、2000系、3000系、4000系、5000系、6000系、7000系のアルミニウム合金のスクラップ材を10%以上使用し、残部がアルミニウム新塊、上記の添加元素であるものを用い、これらを溶解して組成を調製したアルミニウム合金溶湯を得てもよい。この場合、再結晶発生がしにくく常温における機械的特性に優れたAl-Mg-Si系アルミニウム合金鍛造品を得ることができる。なお、アルミニウム新塊とは、鉱物から製造されたアルミナに、電解精錬と称される電気分解を行うことで得られる、例えば純度が99%以上のアルミニウムである。
(鋳造工程)
鋳造工程では、アルミニウム合金の溶湯(液相)を冷却して固体(固相)に凝固させて、アルミニウム合金鋳造品を得る。鋳造工程は、例えば、水平連続鋳造法を用いることができる。
ここで、本実施形態のアルミニウム合金鋳造品の製造に用いることができる水平連続鋳造装置を図4及び図5に示す。
なお、図4は、水平連続鋳造装置10の鋳型12付近の一例を示す断面図である。図5は、水平連続鋳造装置10の冷却水キャビティ24付近の要部を拡大した断面図である。
図4及び図5に示す水平連続鋳造装置10は、溶湯受部(タンディッシュ)11と、中空円筒状の鋳型12と、この鋳型12の一端側12aと溶湯受部11との間に配される耐火物製板状体(断熱部材)13とを有している。
溶湯受部11は、上記の溶湯形成工程で得られたアルミニウム合金溶湯Mを受ける溶湯流入部11a、溶湯保持部11b、鋳型12の中空部21への流出部11cから構成されている。
溶湯受部11は、アルミニウム合金溶湯Mの上液面のレベルを鋳型12の中空部21の上面よりも高い位置に維持し、且つ、多連鋳造の場合には、それぞれの鋳型12にアルミニウム合金溶湯Mを安定的に分配するものである。
溶湯受部11内の溶湯保持部11bに保持されたアルミニウム合金溶湯Mは、耐火物製板状体13に設けられた注湯用通路13aから鋳型12の中空部21内に注湯される。そして、中空部21内に供給されたアルミニウム合金溶湯Mは、後述する冷却装置23によって冷却されて固化し、凝固鋳塊であるアルミニウム合金棒Bとして、鋳型12の他端側12bから引き出される。
鋳型12の他端側12bには、鋳造されたアルミニウム合金棒Bを一定速度で引き出す引出駆動装置(図示略)が設置されていればよい。また、連続して引き出されたアルミニウム合金棒Bを任意の長さに切断する同調切断機(図示略)が設置されていることも好ましい。
耐火物製板状体13は、溶湯受部11と鋳型12との間の熱移動を遮断する部材であり、例えば、ケイ酸カルシウム、アルミナ、シリカ、アルミナとシリカの混合物、窒化珪素、炭化珪素、グラファイト等の材料で構成されていてもよい。こうした耐火物製板状体13は、互いに構成材料の異なる複数の層から構成することもできる。
鋳型12は、本実施形態では中空円筒状の部材であり、例えば、アルミニウム、銅、若しくはそれらの合金から選ばれる1種又は2種以上の組み合わせた材料から形成されている。こうした鋳型12の材料は、熱伝導性、耐熱性、機械強度の点から最適な組み合わせを選択すればよい。
鋳型12の中空部21は、鋳造するアルミニウム合金棒Bを円筒棒状にするために断面円形に形成されており、この中空部21の中心を通る鋳型中心軸(中心軸)Cがほぼ水平方向に沿うように鋳型12が保持されている。
鋳型12の中空部21の内周面21aは、アルミニウム合金棒Bの鋳造方向(図1を参照)に向けて鋳型中心軸Cに対して0°~3°(より好ましくは0°~1°)の仰角で形成されている。すなわち、内周面21aは、鋳造方向に向かってコーン状に開いたテーパー状に構成されている。そしてそのテーパーのなす角度が仰角である。
仰角が0°未満では、アルミニウム合金棒Bが鋳型12から引き出される際に、鋳型出口である他端側12bで抵抗を受けるために鋳造が困難になるおそれがある。一方、仰角が3°を越えると、内周面21aのアルミニウム合金溶湯Mへの接触が不十分になり、アルミニウム合金溶湯Mやこれが冷却固化した凝固殻から鋳型12への抜熱効果が低下することによって凝固が不十分になるおそれがある。その結果、アルミニウム合金棒Bの表面に再溶融肌が生じ、又は、アルミニウム合金棒Bの端部から未凝固のアルミニウム合金溶湯Mが噴出するなどの鋳造トラブルにつながるおそれがあるので好ましくない。
なお、鋳型12の中空部21の断面形状(鋳型12の中空部21を他端側21bから見たときの平面形状)は、本実施形態の円形以外にも、例えば、三角形や矩形断面形状、多角形、半円、楕円若しくは対称軸や対称面を持たない異形断面形状を有した形状など、鋳造するアルミニウム合金棒の形状に合わせて選択されればよい。
鋳型12の一端側12aには、鋳型12の中空部21内に潤滑流体を供給する流体供給管22が配置されている。流体供給管22から供給される潤滑流体としては、気体潤滑材、液体潤滑材から選ばれる何れか1種又は2種以上の潤滑流体とすることができる。気体潤滑材と液体潤滑材を両方供給する場合には、それぞれ流体供給管を別々に設けることが好ましい。流体供給管22から加圧供給された潤滑流体は、環状の潤滑材供給口22aを通って鋳型12の中空部21内に供給される。
本実施形態では、圧送された潤滑流体が潤滑材供給口22aから鋳型12の内周面21aに供給される。なお、液体潤滑材は加熱されて分解気体となって、鋳型12の内周面21aに供給される構成であってもよい。また、潤滑材供給口22aに多孔質材料を配して、この多孔質材料を介して潤滑流体を鋳型12の内周面21aに滲出させる構成であってもよい。
鋳型12の内部には、アルミニウム合金溶湯Mを冷却、固化させる冷却手段である冷却装置23が形成されている。本実施形態の冷却装置23は、鋳型12の中空部21の内周面21aを冷却するための冷却水Wを収容する冷却水キャビティ24と、この冷却水キャビティ24と鋳型12の中空部21とを連通させる冷却水噴射通路25とを有している。
冷却水キャビティ24は、鋳型12の内部で中空部21の内周面21aよりも外側に、中空部21を取り巻くように環状に形成され、冷却水供給管26を介して冷却水Wが供給される。
鋳型12は、冷却水キャビティ24に収容される冷却水Wによって内周面21aが冷却されることにより、鋳型12の中空部21内に充満したアルミニウム合金溶湯Mの熱を鋳型12の内周面21aに接触する面から奪って、アルミニウム合金溶湯Mの表面に凝固殻を形成させる。
また、冷却水噴射通路25は、中空部21に臨むシャワー開口25aから、鋳型12の他端側12bにおいてアルミニウム合金棒Bに向けて直接、冷却水Wを当ててアルミニウム合金棒Bを冷却する。こうした冷却水噴射通路25の縦断面形状は、本実施形態の円状以外にも、例えば、半円、洋ナシ形状、馬蹄形状であってもよい。
なお、本実施形態では、冷却水供給管26を介して供給される冷却水Wを、先ず冷却水キャビティ24に収容して鋳型12の中空部21の内周面21aの冷却を行い、更に冷却水キャビティ24の冷却水Wを冷却水噴射通路25からアルミニウム合金棒Bに向けて噴射しているが、これらをそれぞれ別系統の冷却水供給管によって供給する構成にすることもできる。
冷却水噴射通路25のシャワー開口25aの中心軸の延長線が、鋳造されたアルミニウム合金棒Bの表面に当る位置から、鋳型12と耐火物製板状体13との接触面までの長さを有効モールド長Lと称し、この有効モールド長Lは、例えば、10mm以上40mm以下であるのが好ましい。この有効モールド長Lが、10mm未満では、良好な皮膜が形成されない等から鋳造不可となり、40mmを超えると、強制冷却の効果が低くなり、鋳型壁による凝固が支配的になって、鋳型12とアルミニウム合金溶湯M又はアルミニウム合金棒Bとの接触抵抗が大きくなって、鋳肌に割れが生じたり、鋳型内部で千切れたりする等、鋳造が不安定になるおそれがあるので好ましくない。
これら冷却水キャビティ24への冷却水Wの供給や、冷却水噴射通路25のシャワー開口25aからの冷却水Wの噴射は、制御装置(図示略)からの制御信号によってそれぞれ動作を制御できることが好ましい。
冷却水キャビティ24は、鋳型12の中空部21寄りの内底面24aが、鋳型12の中空部21の内周面21aに対して、互いに平行面になるように形成されている。
なお、ここでいう平行とは、冷却水キャビティ24の内底面24aに対して、鋳型12の中空部21の内周面21aが0°~3°の仰角で形成されている場合、すなわち、内底面24aが内周面21aに対して0°を超えて3°まで傾斜している場合も含む。
図4に示すように、こうした冷却水キャビティ24の内底面24aと鋳型12の中空部21の内周面21aとが対向する部分である鋳型12の冷却壁部27は、中空部21のアルミニウム合金溶湯Mから冷却水キャビティ24の冷却水Wに向かう単位面積当たりの熱流束値が10×10W/m以上、50×10W/m以下の範囲内になるように形成されている。
こうした鋳型12の冷却壁部27の厚みt、即ち冷却水キャビティ24の内底面24aと鋳型12の中空部21の内周面21aとの間隔が、例えば、0.5mm以上3.0mm以下、好ましくは0.5mm以上2.5mm以下の範囲内になるように鋳型12が形成されていればよい。また、鋳型12の少なくとも冷却壁部27の熱伝導率が100W/m・K以上400W/m・K以下の範囲内になるように、鋳型12の形成材料が選択されればよい。
図4において、溶湯受部11中のアルミニウム合金溶湯Mは、耐火物製板状体13を経て鋳型中心軸Cがほぼ水平になるように保持された鋳型12の一端側12aから供給され、鋳型12の他端側12bで強制冷却されてアルミニウム合金棒Bとなる。
アルミニウム合金棒Bは、鋳型12の他端側12b近くに設置された引出駆動装置(図示略)によって一定速度で引き出されるため、連続的に鋳造されて長尺のアルミニウム合金棒Bが形成される。引き出されたアルミニウム合金棒Bは、例えば、同調切断機(図示略)によって所望の長さに切断される。
なお、鋳造されたアルミニウム合金棒Bの組成比は、例えば、「JIS H 1305」に記載されているような光電測光式発光分光分析装置(装置例:日本島津製作所製PDA-5500)による方法で確認できる。
溶湯受部11内に貯留されたアルミニウム合金溶湯Mの液面レベルの高さと、鋳型12の上側の内周面21aとの高さの差は、0mm~250mm(より好ましくは50mm~170mm。)とするのが好ましい。こうした範囲にすることで、鋳型12内に供給されるアルミニウム合金溶湯Mの圧力と潤滑油及び潤滑油が気化したガスとが好適にバランスするために鋳造性が安定する。
液体潤滑材は、潤滑油である植物油を用いることができる。例えば、菜種油、ひまし油、サラダ油を挙げることができる。これらは環境への悪影響が小さいので好ましい。
潤滑油供給量は0.05mL/分~5mL/分(より好ましくは0.1mL/分以上、1mL/分以下。)であるのが好ましい。供給量が過少だと、潤滑不足によってアルミニウム合金棒Bのアルミニウム合金溶湯Mが固まらずに鋳型12から漏れるおそれがある。
供給量が過多であると、余剰分がアルミニウム合金棒B中に混入して内部欠陥となるおそれがある。
鋳型12からアルミニウム合金棒Bを引き抜く速度である鋳造速度は、200mm/分以上、1500mm/分以下(より好ましくは400mm/分以上、1000mm/分以下。)であるのが好ましい。それは、この範囲内の鋳造速度であれば、鋳造で形成される晶出物のネットワーク組織が均一微細となり、高温下でのアルミニウム生地の変形に対する抵抗が増し、高温機械的強度が向上するためである。
冷却水噴射通路25のシャワー開口25aから噴射される冷却水量は、鋳型当り10L/分以上、50L/分以下(より好ましくは25L/分以上、40L/分以下。)であるのが好ましい。冷却水量がこれよりも少ないと、アルミニウム合金溶湯Mが固まらずに鋳型12から漏れるおそれがある。また、鋳造したアルミニウム合金棒Bの表面が再溶融して不均一な組織が形成され、内部欠陥として残存するおそれがある。一方、冷却水量がこの範囲よりも多い場合、鋳型12の抜熱が大き過ぎて途中で凝固してしまうおそれがある。
溶湯受部11内から鋳型12へ流入するアルミニウム合金溶湯Mの平均温度は、例えば、650℃以上、750℃以下(より好ましくは680℃以上、720℃以下。)であるのが好ましい。アルミニウム合金溶湯Mの温度が低すぎると、鋳型12及びその手前で粗大な晶出物を形成してアルミニウム合金棒Bの内部に内部欠陥として取り込まれるおそれがある。一方、アルミニウム合金溶湯Mの温度が高すぎると、アルミニウム合金溶湯M中に大量の水素ガスが取り込まれやすく、アルミニウム合金棒B中にポロシティーとして取り込まれ、内部の空洞となるおそれがある。
そして、鋳型12の冷却壁部27において、中空部21のアルミニウム合金溶湯Mから冷却水キャビティ24の冷却水Wに向かう単位面積当たりの熱流束値は、10×10W/m以上50×10W/m以下の範囲内にすることによって、アルミニウム合金棒Bの焼き付きが発生することを防止できる。
鋳型12の冷却壁部27は、アルミニウム合金溶湯Mからの抜熱によって熱を受け、この熱を冷却水キャビティ24に収容される冷却水Wで冷却することで熱交換を行っているが、この熱交換の状態について、図6に示す説明図のように、単位面積あたりの熱流束に着目した。単位面積あたりの熱流束は、フーリエの法則にて以下の式(1)で表される。
Q=-k×(T1-T2)/L・・・(1)
Q:熱流束
k:熱を通過する箇所(本実施形態では鋳型12の冷却壁部27)の熱伝導率(W/m・K)
T1:熱が通過する箇所の低温側温度(本実施形態では冷却水キャビティ24の内底面24a)
T2:熱が通過する箇所の高温側温度(本実施形態では鋳型12の中空部21の内周面21a)
L:熱が通過する箇所の区間長さ(mm)(本実施形態では鋳型12の冷却壁部27の厚みt)
鋳造時に潤滑油量を減らしても良好な結果が得られた鋳型材質、厚み、測温データに基づいて、単位面積当たりの熱流束値が10×10W/m以上になるように鋳型12の冷却壁部27を構成することで、鋳造したアルミニウム合金棒Bの焼き付きを防止することができる。また、単位面積当たりの熱流束値が50×10W/m以下にすることが好ましい。
鋳型12の冷却壁部27をこうした熱流束値の範囲にするために、鋳型12の冷却壁部27の厚みtを例えば、0.5mm以上、3.0mm以下の範囲になるように鋳型12を形成すればよい。また、鋳型12の少なくとも冷却壁部27の熱伝導率を100W/m・K以上、400W/m・K以下の範囲にすればよい。
本実施形態のアルミニウム合金棒Bを製造する際には、上述した水平連続鋳造装置10を用いて、溶湯受部11内に貯留されたアルミニウム合金溶湯Mを、鋳型12の一端側12aから中空部21内に連続して供給する。また、冷却水キャビティ24に冷却水Wを供給すると共に、流体供給管22から潤滑流体、例えば潤滑油を供給する。
そして、中空部21内に供給されたアルミニウム合金溶湯Mを、冷却壁部27における単位面積当たりの熱流束値が10×10W/m以上の条件で冷却、凝固させてアルミニウム合金棒Bを鋳造する。また、アルミニウム合金棒Bを鋳造時において、冷却水Wによって冷却される鋳型12の冷却壁部27の壁面温度を100℃以下にすることが好ましい。
こうして得られるアルミニウム合金棒Bは、冷却壁部27における単位面積当たりの熱流束値が10×10W/m以上の条件で冷却、凝固させることによって、潤滑油のガスとアルミニウム合金溶湯Mとの接触による反応生成物、例えば炭化物の固着が抑制される。これにより、アルミニウム合金棒Bの表面の炭化物等を切削除去する必要がなく、高収率でアルミニウム合金棒Bを製造することができる。
アルミニウム合金溶湯Mから鋳造品を得る鋳造工程は、上述の水平連続鋳造法に限定されるものではなく、垂直連続鋳造法など公知の連続鋳造法を用いることができる。垂直連続鋳造法は、アルミニウム合金溶湯Mのモールド(鋳型12)への供給方式によってフロート法やホットトップ法に分類されるが、以下では、ホットトップ法を用いる場合について簡単に説明する。
ホットトップ法に用いられる鋳造装置は、モールド、溶湯受容器(ヘッダー)等を備えている。溶湯受部へ供給された溶湯は、出湯口を通り、ヘッダーを通ることで流速を調整され、ほぼ水平に設置された筒状鋳型内に入り、ここで強制冷却されて溶湯の外表面に凝固殻が形成される。
さらに、鋳型から引き出された鋳造品に冷却水が直接放射され、鋳造品内部まで金属の凝固が進行しつつ鋳造品が連続的に引き出される。一般的にモールドは熱伝導性の良い金属部材が用いられ、内部に冷媒を導入するための中空構造を有している。
使用する冷媒は、工業的に利用可能なものから適宜選べばよいが、利用しやすさの観点から水が推奨される。
本実施形態で使用するモールドは、溶湯との接触部における伝熱性能及び耐久性の観点から銅やアルミニウムなどの金属、若しくはグラファイトから適宜選択する。ヘッダーは、一般に耐火物製であり、モールドの上側に設置されている。ヘッダーの材料やサイズは鋳造する合金の成分範囲や鋳造品の寸法によって適宜選択すればよく、特に制約されるものではない。
鋳造時の平均冷却速度は、例えば10~300℃/秒などの一般的に推奨される範囲から適宜選定すればよい。鋳造速度は水平連続鋳造において一般的な範囲から適宜選択すればよく、例えば200~600mm/分の範囲から適宜選定すればよい。
以上に記載した鋳造方法によって、中型~大型の鋳造品であっても、均一な金属組織が得られるようになる。対象とする鋳造品の直径は特に制限されるものでなく、直径30~100mmの棒材に対して好適に用いられる。
(鍛造工程)
鍛造工程は、鋳造後のアルミニウム合金鋳造品を所定のサイズに切断して、得られた鍛造用素材を所定の温度に加熱し、その後プレス機で圧力をかけて金型成型する工程である。本発明では、従来、鋳造後に偏析除去のために実施していた均質化処理を施さずに鍛造加工を実施する。そのため均質化処理でおこなっていた偏析除去を鍛造時素材加熱で実施する必要があるため、加熱は500℃以上、融点以下の温度で素材加熱を実施する必要がある。その後鍛造加工を行って鍛造品(例えば自動車のサスペンションアーム部品等)を得る。鍛造時素材加熱温度が500℃未満になると合金組織中のAlFeSi系、MgSi系等の化合物が偏析した状態で残存し、変形抵抗が高くなって十分な加工ができなくなる、及び割れが発生する。また融点温度を超えると共晶融解等の欠陥が発生し易くなる。
(溶体化処理工程)
溶体化処理工程は、鍛造工程で得られた鍛造品を加熱して溶体化させることにより、鍛造工程で導入された歪みを緩和し、溶質元素の固溶を行う工程である。
本実施形態では、鍛造品を530℃以上、560℃以下の処理温度で0.3以上、3時間以下で保持することにより溶体化処理を行う。室温から上述した処理温度までの昇温速度は、5.0℃/分以上であることが好ましい。処理温度が530℃未満であると、溶質元素の固溶が不十分となるおそれがある。一方、560℃を超えると、溶質元素の固溶がより促進されるものの、共晶融解や再結晶が生じ易くなるおそれがある。また、昇温速度が5.0℃/分未満である場合は、MgSiが粗大析出するおそれがある。一方、処理温度が530℃未満である場合は、溶体化が進まず時効析出による高強度化を実現しにくくなるおそれがある。
(焼き入れ処理工程)
焼き入れ処理工程は、溶体化処理工程によって得られた固溶状態の鍛造品を急速に冷却せしめて、過飽和固溶体を形成する工程である。
本実施形態では、水(焼き入れ水)が貯留された水槽に鍛造品を投入して、鍛造品を水没させることによって焼き入れ処理を行う。水槽内の水温は、20℃以上、60℃以下であることが好ましい。鍛造品の水槽への投入は、溶体化処理後に5秒以上、60秒以下で鍛造品の全ての表面が水に接触するように行うことが好ましい。鍛造品の水没時間は、鋳造品のサイズによっても異なるが、例えば、1分を超え30分以内の間である。
(時効処理工程)
時効処理工程は、鍛造品を比較的低温で加熱保持し過飽和に固溶した元素を析出させて、適度な硬さを付与する工程である。
本実施形態では、焼き入れ処理工程後の鍛造品に170℃以上、210℃以下の温度に加熱し、その温度で0.5時間以上、7時間以下で保持することにより時効処理を行う。処理温度が170℃未満、若しくは保持時間が0.5時間未満では、引張強度を向上させるMgSi系析出物が十分に成長できなくなるおそれがある。一方、処理温度が190℃を超える場合、若しくは保持時間が7時間を超える場合、MgSi系析出物が粗大になり過ぎて引張強度を十分に向上させることができなくなるおそれがある。
次に、本発明の具体的実施例について説明するが、本発明はこれら実施例のものに特に限定されるものではない。
[実施例1~3及び比較例1~3]
(連続鋳造品の作製)
先ず、下記の表1に示す合金組成(残部はアルミニウム)のアルミニウム合金を用意した。用意したアルミニウム合金を用いて、直径82mmの断面円形の連続鋳造品を作製した。
Figure 2024093687000002
(アルミニウム合金鍛造品の製造)
次に、得られた連続鋳造品に対して、均質化熱処理工程(比較例2、3のみ)、鍛造加工工程、溶体化処理工程、焼き入れ処理工程、人工時効処理工程をこの順で行って、図1に示す形状のアルミニウム合金鍛造品1aを得た。均質化熱処理工程(比較例2、3のみ)、鍛造加工工程、溶体化処理工程、焼き入れ処理工程、人工時効処理工程の条件を下記の表2に示す。
Figure 2024093687000003
[評価]
以上のようにして得られた実施例1~3及び比較例1~3のアルミニウム合金鍛造品1aにおける、長尺部2の長さ方向の中央部2aについて、下記の評価を行った。長尺部2の中央部2aの評価結果を下記の表3に示す。
<機械的特性(引張特性)評価>
アルミニウム合金製鍛造品1aの長尺部2の中央部2aを、図7に示すように切断して、機械的特性評価用試験片の作製用の角柱体を採取した。得られた角柱体を加工して、図8に示す円柱状の機械的特性評価用試験片を作製した。機械的特性評価用試験片の平行部直径Aは6.4mm、標点間距離Gは25.4mmとした。機械的特性評価用試験片について、常温(25℃)で引張試験を行って、0.2%耐力を測定した。得られた0.2%耐力を下記の基準に基づいて判定して、機械的特性を評価した。
(判定基準)
「〇」・・・常温での0.2%耐力が280MPa以上である。
「×」・・・常温での0.2%耐力が280MPa以下である。
<微細化評価、再結晶・結晶粗大化評価>
アルミニウム合金鍛造品1aの長尺部2の中央部2aを、中央部2aの表面に対して垂直方向に切断して、微細化評価用試験片の作製用の板状体(厚さ2mm)を採取した。得られた板状体を7mm角に切断して、7mm×7mm×厚さ2mmの微細化評価用の試験片とした。採取した微細化評価用の試験片の表面(中央部2aの断面)について、SEM-EBSD(走査型電子顕微鏡-電子線後方散乱回折装置)を用いて、2.0μm以上のAlFeSi系化合物の数、及び、結晶方位差15゜以上の大角粒界の比率を測定した。得られた2.0μm以上のAlFeSi系化合物の数、及び、大角粒界の比率をそれぞれ下記の基準に基づいて判定して、結晶粒子の微細化及び再結晶・結晶粗大化を評価した。なお、SEM-EBSDの測定条件は、加速電圧を15kV、測定ピッチを0.5μm/px、解析領域を500×500μm、粒界定義角を15゜とした。
(判定基準)
(2.0μm以上のAlFeSi系化合物の数の判定基準)
「O」・・・無い場合(0個)。
「×」・・・有る場合。
(大角粒界の比率の判定基準)
「O」・・・30%以下である。
「×」・・・30%超えである。
<アルミニウム合金鍛造品におけるMn系を含む析出物の数密度測定法>
また、各アルミニウム合金鍛造品についてFE―SEM装置(電界放出型走査電子顕微鏡装置)を用いて、粒界を含む1.5μm以内にMnを含む析出物の数密度測定を行った。なお、アルミニウム合金鍛造品1aの長尺部2の中央部2aより約10mm×横10mm×厚さ10mmの大きさの組織観察用サンプル片を切り出し、このサンプル片を断面試料作製装置(Cross section polisher)を用いて研磨した。そして、この研磨後のサンプル片のFE-SEM写真(電界放出型走査電子顕微鏡写真)を撮影し、このSEM写真における視野面積1.5815mmの範囲において、粒界を含む1.5μm以内にMnを含む析出物の数密度を求め、以下の判定基準で数密度を評価した。
(数密度の判定基準)
「O」・・・4個/μm以上である。
「×」・・・4個/μm以下である。
<総合評価>
常温での疲労特性、2.0μm以上のAlFeSi系化合物の数、AlMn系化合物の数密度、結晶方位差15°以上の大角粒界の比率の4つの評価結果を、下記の判定基準に基づいて評価した。
(判定基準)
「O」・・・4つの評価の全てが「O」である。
「×」・・・4つの評価のうち1つ以上が「×」である。
Figure 2024093687000004

10…水平連続鋳造装置
11…溶湯受部(タンディッシュ)
11a…溶湯流入部
11b…溶湯保持部
11c…流出部
12…鋳型
12a…一端側
12b…他端側
13…耐火物製板状体(断熱部材)
13a…注湯用通路
21…中空部
21a…内周面
21b…他端側
22…流体供給管
22a…潤滑材供給口
23…冷却装置
24…冷却水キャビティ
24a…内底面
25…冷却水噴射通路
25a…シャワー開口
26…冷却水供給管
27…冷却壁部
B…アルミニウム合金棒
M…合金溶湯
W…冷却水
100…アルミニウム合金鍛造品

Claims (2)

  1. Cuを0.25質量%以上0.45質量%以下の範囲内、Mgを0.95質量%以上1.25質量%以下の範囲内、Siを0.6質量%以上0.85質量%以下の範囲内、Mnを0.05質量%以上0.2質量%以下の範囲内、Feを0.15質量%以上0.4質量%以下の範囲内、Znを0.25質量%以下の範囲内、Crを0.050質量%以上0.30質量%以下の範囲内、Tiを0.01質量%以上0.1質量%以下の範囲内、Bを0.001質量%以上0.03質量%以下の範囲内、Zrを0.0010質量%以上0.050質量%以下の範囲内で含有し、残部がAl及び不可避不純物からなる合金組成を有するアルミニウム合金から構成されるアルミニウム合金鍛造品であって、
    粒界を含む1.5μm以内にサイズが0.2μm以下のMnを含有する析出物の数密度が4個/μm以上含まれており、結晶方位差15゜以上の大角粒界の比率が30%以下であり、かつ、常温における0.2%耐力が280MPa以上である、アルミニウム合金鍛造品。
  2. 請求項1に記載のアルミニウム合金鍛造品の製造方法であって、
    前記アルミニウム合金の溶湯を得る溶湯形成工程と、
    前記得られた溶湯を鋳造加工することによって鋳造品を得る鋳造工程と、
    前記鋳造品を500℃~融点以下の温度で素材加熱し塑性加工を施して鍛造品を得る鍛造工程と、
    前記得られた鍛造品に20℃~500℃までの昇温速度が5.0℃/min以上で昇温し、530~560℃で0.3~3時間以内で保持する溶体化処理を行う溶体化処理工程と、
    前記溶体化処理後5~60秒以内に前記鍛造品の全ての表面が焼き入れ水に接触し、1分を超え、40分以内水槽内で焼き入れする焼き入れ工程と、
    前記焼き入れ処理工程を経た鍛造品に180℃~220℃の温度で0.5時間~8時間加熱して時効処理を行う時効処理工程と、を有する、アルミニウム合金鍛造品の製造方法。
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