JP2024088949A - 生体高分子溶液のろ過方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明は、生体高分子溶液を15nmウイルス除去膜でろ過する際に、効率よくウイルス除去膜でろ過する方法を提供することを目的とする。【解決手段】生体高分子溶液を孔径約20nmのウイルス除去フィルターで処理する工程と、得られたろ液を孔径約15nmのウイルス除去フィルターで処理する工程を含む、生体高分子のろ過方法であって、ここで該生体高分子のろ過量が孔径約20nmまたは孔径約15nmのフィルター膜面積当たり20kg/m2以上である、ろ過方法を提供する。【選択図】図1

Description

本発明は、生体高分子溶液を孔径約20nmのウイルス除去フィルターで処理する工程と、得られたろ液を孔径約15nmのウイルス除去フィルターで処理する工程を含む、生体高分子のろ過方法であって、ここで該生体高分子のろ過量が孔径約20nmまたは孔径約15nmのフィルター膜面積当たり20kg/m以上である、ろ過方法に関する。
生物由来原料は、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器および再生医療等製品に使用されるヒトおよびその他の生物(植物を除く)に由来する原料である。これらが医薬品等の製造に使用される場合には、医薬品等の品質、有効性、安全性を確保するために構ずべき必要な措置が日本では「生物由来原料基準」(非特許文献1:厚生労働省告示第37号/平成30年2月28日制定)で定められている。
生物由来原料は、主に生物の細胞が作り出す天然の高分子であり、生体高分子である。生体高分子は、モノマー単位が共有結合して構成された大きな分子である。構成するモノマーと形成される生体高分子の構造によって、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、および多糖の3つの主要なクラスに分類される。RNAやDNAなどのポリヌクレオチドは、13個以上のヌクレオチドモノマーで構成される長い高分子である。ポリペプチドはアミノ酸の重合体であり、インスリンなどの小さな分子からコラーゲン、アクチン、フィブリノーゲンなど大きなタンパク質まで多様である。多糖は直鎖状または分岐状の高分子炭水化物のことで、たとえばデンプン、セルロース、アルギン酸が含まれる。生体高分子の別の例としては、天然ゴム(イソプレンの高分子)、スベリンとリグニン(ポリフェノールの複合高分子)、クチンやクタン(長鎖脂肪酸の複合高分子)、メラニンなどがある。
これら生物由来原料は、生物に由来する生体高分子であるため、ウイルス等病原体感染のリスクを有している。このため、ヒト血漿からタンパク質が精製されて使用される血漿分画製剤や、ウシ血清等を添加して培養発現された生体高分子を有効成分とする生物学的製剤においては、原料由来または製造工程由来のウイルス等の感染性因子の混入が懸念され、製造過程においてウイルスを不活化または除去する工程、すなわちウイルス不活化・除去工程がその安全性の観点から非常に重要である。またウイルス不活化・除去の対象となる感染性因子はウイルスに限定されない。タンパク質性の感染性因子プリオンの伝播によるクロイツフェルトヤコブ病などの例も知られている。以上のように、生物由来の高分子溶液は種々のウイルス等の感染性因子を含む可能性がある。したがって、これらを原料とした製品の製造に際しては、ウイルス等を十分に不活化・除去する工程を組み込むことが必須である。
これらウイルスを不活化する方法としては、熱処理法、有機溶媒/界面活性剤処理(S/D処理)法、化学物質処理法、pH処理法、照射法、光増感剤+UV処理法がある(非特許文献2:バイオ医薬品ハンドブック第4版、2020年、株式会社じほう)。しかし、これらいずれの方法も一長一短があり、単独の方法での各種ウイルスの完全不活化または完全除去は難しく、またこれらの方法では製品中の生体高分子そのものを変質させる可能性もある。ゆえに、複数のウイルス不活化・除去の方法を組み合わせて用いることが有効であると考えられている。
これらウイルスを除去する方法は、生体高分子の化学的な変質を伴わずに物理的にウイルスを除去するものであり、沈殿法、クロマトグラフィー法、ろ過法によるウイルスの除去/分離方法がある(非特許文献2:バイオ医薬品ハンドブック第4版、2020年、株式会社じほう)。この中で、近年最も堅牢なウイルス除去技術とされているのが、ウイルス除去膜によるろ過法である。ウイルス除去膜は、ろ過膜の素材として、セルロースのような天然素材よりなる膜、あるいはポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリスルホン(PSU)またはポリエチレン(PE)のような合成高分子素材よりなる膜が知られている。
ウイルス除去膜によるろ過法では、生体高分子溶液中の生体高分子の分子量が小さい場合、ウイルスは透過できないが、その生体高分子は透過できるようなサイズの孔径を有するウイルス除去膜が用いられる。ウイルス除去膜ろ過は、除去膜の孔径よりも大きなサイズを有するウイルス等病原体を製造工程で製品から排除するものである。しかしながら、生体高分子溶液からの膜によるウイルス等の病原体除去における大きな問題の一つは、ウイルス除去膜が目詰まりを起こして、ろ過が困難になるか、不能になる点である。ウイルス除去膜の孔径はメーカーや規格毎に異なり、10~70nmの大きさを有する。一方、ろ過において除去膜の孔を通液させたい生体高分子の例として、タンパク質を対象とする場合は、その分子量は10~数1000kDaであり、生体高分子の大きさとしてはウイルス除去膜の孔径と同レベルにある。ウイルス除去膜の孔径は小さければ小さい程より小さいウイルスまでを捕捉して除去できるため、ウイルス除去工程方法としての期待される効果は大であるが、通過させる生体高分子の大きさ次第では、生体高分子とウイルスとの分離は不可能となる。したがって、生体高分子溶液のウイルス除去膜ろ過においては、通過させたい生体高分子の大きさを考慮して、使用する除去膜の孔径を選択する必要がある。また、適切な孔径の除去膜を選定したとしても、その目的とする生体高分子溶液中に存在する微量の凝集体や夾雑する別の生体高分子がウイルス除去膜の孔を通過できずに孔を塞いでしまい、ウイルス除去膜の目詰まり、ひいてはろ過の障害を引き起こす。特に、小孔径(10~20nm)のウイルス除去膜のろ過においては、孔を通過できる生体高分子の大きさは小さくなり、ろ過液中に含まれる生体高分子の種類と量次第では、この目詰まり防止が課題となる。
ウイルス除去膜を装填したウイルス除去フィルター装置によるウイルス含有溶液のろ過は、短時間でより多くの量の生体高分子溶液をろ過でき、かつ十分に高いウイルス除去性能を発揮できることが望ましい。短時間でより多くの量の生体高分子溶液を処理するためには、一般にウイルス含有溶液のろ過をできるかぎり高流速下または高圧力下で行うことになる。このような高圧力下でのろ過を続けると、膜の内部にろ液に含まれるべき生体高分子が残留して除去膜細孔の閉塞に向かう場合がある。また、近年では生体高分子の一種であるタンパク質性の製品である、タンパク質を有効成分とした医薬品中のタンパク質濃度は高くなる傾向にあり、それに伴いウイルスを除去するためのウイルス除去膜ろ過工程においてはウイルス除去膜ろ過に供するタンパク質の濃度を高くする方が製造工程上は有利である。高濃度のタンパク質溶液を小孔径ウイルス除去膜でろ過する場合、特に膜の内部へのタンパク質残留によるウイルス除去膜の目詰まりの発生が顕著となるため、高い圧力でのろ過は不都合となる場合がある。
近年最も堅牢な技術と位置付けられているこのウイルス除去膜ろ過において、極端な圧力条件がウイルス除去膜ろ過後のウイルスの検出性、すなわち、ウイルスの漏出に影響を与えうる例が報告されている。上述のように、ウイルス除去膜ろ過における膜間差圧(TMP)が高い場合はウイルス除去膜ろ過におけるワーストケースの一つとして例示されている(非特許文献2:バイオ医薬品ハンドブック第4版、2020年、株式会社じほう)。
別の知見として、このTMPが低い場合や一時的な圧力開放に続く再加圧直後のろ液に、一過性にウイルス粒子が検出されることが、特に小型のパルボウイルスやバクテリオファージを負荷したろ過実験系で観察されることが示されている。この現象の原因はろ過液流によりブラウン運動が抑制されウイルス除去膜内に捕捉されていたウイルス粒子が、圧力がなくなることでブラウン運動を再開してウイルス除去膜壁から離れ、次の加圧時に粒子径より大きな穴を通り膜外部に流れ出るためと考えられている。本現象は特定のウイルス除去膜に特有の現象ではなく、一般的なものである。(非特許文献2:バイオ医薬品ハンドブック第4版、2020年、株式会社じほう)
さらに別の知見として、マウス微小ウイルス(MVM)のような非エンベロープウイルスを一例とする小径ウイルスまたは小径ウイルス様粒子は、ウイルス除去膜への負荷量が多くなるとウイルス除去膜は目詰まりすることなく、当該ウイルスを漏出しうることが報告されている(非特許文献3:Kayukawa T, Yanagibashi A, Hongo-Hirasaki T, Yanagida K. Particle-based analysis elucidates the real retention capacities of virus filters and enables optimal virus clearance study design with evaluation systems of diverse virological characteristics. Biotechnol Prog. 2022 Mar;38(2):e3237.)。
したがって、ウイルスと同程度の大きさの分子がウイルス除去膜によってろ過される生体高分子試料溶液中にどれだけ存在するかにより、小径ウイルスの漏出に影響することが考えられる。ゆえに、このウイルスと同程度の大きさの分子はウイルスに限定されるものでなく、生体高分子やその凝集物、あるいはその他の種類の生体高分子の共存とその量がウイルスの漏出に影響する可能性がある。
そのため、ウイルス除去膜によるろ過は、ろ過する生体高分子の大きさ、特性および供試量並びに夾雑しうる感染性物質の大きさ、特性および存在量等を踏まえた事前の適正なウイルス除去膜ろ過の条件設定が必要である。
ウイルス除去膜ろ過工程によるウイルス除去能への影響は、実際の工程を模したウイルスクリアランス試験を行うことで予想可能である。
ウイルスクリアランス試験は、例えばバイオテクノロジーを応用した医薬品の安全性を管理するためにプロセス開発時や医薬品の承認申請時に必要なウイルス不活化・除去能力を評価する試験であり、「ヒト又は動物細胞株を用いて製造されるバイオテクノロジー応用医薬品のウイルス安全性評価(ICH-Q5A)」(非特許文献4)に示されているように、ウイルス不活化・除去工程におけるウイルスの不活化・除去能力を製造システムのスケールダウン系において定量的に評価するものである。
また、日本においては、血漿分画製剤に対して「血漿分画製剤のウイルスに対する安全性確保に関するガイドライン」(非特許文献5)があり、原料血漿に存在する可能性のある既知のウイルスおよび未知のウイルスを、製造工程で効果的に除去および不活化できることを検証または推測するためにウイルス・プロセスバリデーション試験と称するウイルクリアランス試験が求められている。
ウイルス不活化・除去工程のウイルスクリアランス試験により得られるウイルスクリアランス指数は、ウイルス不活化・除去工程によるウイルス減少値を一般的には対数値で表示される。例えば、「血漿分画製剤のウイルスに対する安全性確保に関するガイドライン」(非特許文献5)において、ウイルスクリアランス指数Rは次式で示される。
R=log((V1×T1)/(V2×T2))
ここで、Rは対数で表される減少度、V1は工程処理前の試料の容量、T1は工程処理前の試料のウイルス力価、V2は工程処理後の試料の容量、T2は工程処理後の試料のウイルス力価である。
対数除去率であるウイルスクリアランス指数は、RF(リダクションファクター)やLRV(log reduction value、対数減少値)とも称される。
本明細書において、ウイルスクリアランス指数は数値で示すが、原文からの引用では数字とlogを合わせた表記(例えば、「4log」)を用いることがある。
この「血漿分画製剤のウイルスに対する安全性確保に関するガイドライン」の改正案(非特許文献6)には、「頑健性の高い工程」として、4log以上のウイルスクリアランス能のあるウイルス不活化・除去工程を想定し、非常に高いウイルスクリアランス能のある工程を意味する目標値であることがその「用語」の項に記載されている。また、非特許文献7(小田昌宏、寺野剛、岡村元義、川俣治、新井健史、小澤貞雄、小杉公彦、洪苑起、高橋英晴、築山美奈、佐藤哲男、大場徹也、ウイルスクリアランス試験の課題と事例検討―総ウイルスクリアランス指数(LRV)をどこまで追求するかー、PDA Journal of GMP and Validation in Japan、2005 7(1):44-54)には2005年の時点において、「目標値としての達成すべきLRVを4程度」と示されており、ウイルス不活化・除去の一工程におけるウイルスクリアランス指数の目標値としては長年にわたってコンセンサスが得られているものと考えられる。
ウイルス除去膜の中で、非エンベロープウイルスのような小径ウイルスまでを除去対象としたウイルス除去フィルターとしては、例えば、プラノバ(商標)15N(旭化成)、プラノバ(商標)20N(旭化成)、プラノバ(商標)Bio-EX(旭化成)、ウルチポアVF-DV20(ポール)、バイアソルブNFP(ミリポア)等の製品名で市販されている。ウイルス除去フィルターの型としては中空糸型やプリーツ型、平膜型などがある。
このうち、中空糸膜フィルターとして市販されているプラノバ(商標)では、タンパク質溶液がこの中空糸内部に導入され、大きな空洞状のボイド孔や細長いキャピラリー孔が三次元的に結合した網目状の構造をした膜中を通過してろ過される。中空糸の膜厚が数十マイクロメーターの重層した孔構造を有し、ウイルスは膜内で段階的に効率よく捕捉・除去されるが、タンパク質は吸着や失活を最小限に抑えたまま膜を通過することが説明されている。そして、フィルターカートリッジ容器の基本構造は変わらず、サイズによって中空糸の本数が増減されるだけなので、開発段階の実験から製造まで安定したスケールアップが可能とされる。(プラノバフィルターカタログ、旭化成メディカル株式会社バイオプロセス事業部、TAE31002J-4.1:非特許文献8)
ウイルス除去膜であるプラノバ(商標)のウイルスクリアランス指数はウイルス粒子の大きさに比例して高くなる。小径の非エンベロープウイルスの一つとして知られているPPV(ブタパルボウイルス、サイズ18~24nm)のウイルスクリアランス指数は、プラノバ(商標)35N(平均孔径35±2nm)では1.0未満であるが、プラノバ(商標)20N(平均孔径19±2nm)やプラノバ(商標)15N(平均孔径15±2nm)では4.0以上である。これは、このウイルス除去膜ろ過が吸着などの物理化学的な性質に左右されず、サイズ排除(大きさによる篩い分け)のろ過原理によってウイルスを除去分離するためであることが示されている。さらに、ウイルスの大きさがウイルス除去膜の孔の条件を満たす限り、未知のウイルスが混入していようとも除去することが可能であることが示されている。(プラノバフィルターカタログ、旭化成メディカル株式会社バイオプロセス事業部、TAE31002J-4.1:非特許文献8)
そして、ウイルス除去膜の価格は一般的に孔径の大きさに反比例して高くなっている。
非特許文献9(モダンメディア.2013 59(9):231-237)には、孔径15nmのウイルス除去膜を用いたプリオンタンパク質溶液のろ過により、微粒子となった異常型プリオンタンパク質に対して、一定の除去効果(3.5log以上のクリアランス指数)を発揮し、感染リスクの低減に有用であることが示されている。
したがって、生体高分子溶液のウイルス除去膜ろ過においては、その生体高分子のろ過性を確認しつつ、できるだけ孔径の小さいウイルス除去膜でろ過することがパルボウイルスのような既知の非エンベロープウイルスのような小径ウイルスの除去のみならず、未知のウイルス等の病原体除去の観点からも有用と考えられる。
生体高分子の一種である血清アルブミンは分子量6.6万Daのタンパク質で、585個のアミノ酸からなる分子である。血清アルブミンは全タンパク質中の約6割を占める血漿中に最も多く含まれるタンパク質であって、生体内では肝臓で合成される。そして、血液中で血漿膠質浸透圧の維持、毒物の中和や酸塩基平衡の維持に関与しており、また多くの薬物や化合物と非特異的に結合し、それらを運搬する役割を担う。上記アルブミンを製剤化したアルブミン製剤は、火傷、ネフローゼ症候群等によるアルブミン喪失およびアルブミン合成能低下による低アルブミン血症、出血性ショックなどの治療に用いられている。アルブミン製剤は、タンパク質濃度が4.4~25%という高濃度のタンパク質製剤である。また、製剤1本あたりの容量も20~250mLと大量であり、その製造においては大容量かつ大量のタンパク質を短時間で処理することが求められる。
アルブミン製剤の製造工程は他の血漿タンパク質製剤に比べて、処理すベきタンパク質量が膨大であることから、ウイルス除去膜ろ過を導入する場合には、製造工程中のどの工程段階でろ過するか、いかなる組成、性状のアルブミン含有水溶液をろ過するかがウイルス除去膜導入のポイントとして考慮され得る。また、ウイルス除去膜の使用数量、ろ過面積およびそれに要するコストの面も条件設定のポイントとして挙げられる。つまり、ウイルス除去膜ろ過工程導入にあたっては、高価なウイルス除去膜の使用数量をできるだけ少なく抑えることができる条件を見出すことが、工業的な応用には重要である。通常、アルブミン製剤の製造工程で導入されるウイルス除去膜の孔径は、その分子量の大きさに基づくろ過性から、約15nmまたは約20nmである。
アルブミン製剤のウイルス除去膜ろ過に関しては、いくつかの報告がある。特許文献1(特開平06-279296)では、ヒト血清アルブミンを15nm、35nm、40nm、75nmの4種ウイルス除去膜でろ過した例が記載されている。また、特許文献2(WO2004/089402)では、ヒト血清アルブミン含有水溶液を15nmのウイルス除去膜でろ過する前に、陰イオン交換体およびプレフィルターにより処理することから成る前処理に関する報告がある。さらに、特許文献3(特表2007-535495)では、15g/L~80g/Lの濃度および9~11.5の範囲のpHを有するアルブミン水溶液を15℃~55℃の温度範囲におけるウイルス除去膜に供する工程を含むアルブミンを精製するための方法が開示されている。その実施例2には、ウイルス除去膜として、孔径15nmのフィルターを用い、膜面積当たりのろ過量が0.5および1kg/mのろ過例が示されている。次に、実施例3および実施例4では膜面積当たりの同ろ過量が4kg/mのろ過例が示されている。さらに、実施例5および実施例6では最大の膜面積当たりのろ過量として8kg/mのろ過例が示されている。このようなアルブミン製剤におけるウイルス除去膜ろ過において、孔径15nmのウイルス除去膜ろ過にプレフィルターを設けることも試みられている。しかしながら、孔径20nm以下のフィルターをプレフィルターのように使用した例はない。
他方で、非特許文献10(Biologicals.2012.40(6):473-481)では、タンパク質であるホロトランスフェリンのウイルス除去膜ろ過において、孔径15nmまたは孔径20nmをそれぞれ単独で使用、あるいは、孔径15nmまたは孔径20nmをそれぞれ膜面積比を変えて連結した場合のウイルスクリアランス指数が示されており、同孔径のフィルターを連結してろ過することによってウイルスクリアランス指数が増加する例が示されている。また、タンパク質アポトランスフェリンやC1-インヒビターを連結したウイルス除去膜フィルターによってろ過した例も示されている。さらに、タンパク質プロトロンビン複合体濃縮(PCC)製剤では、イヌパルボウイルス(CPV,18-26nm)を用いた孔径15nmまたは孔径20nmのウイルス除去膜を連結した例も示されている。しかしながら、そのフィルター膜面積当たりの負荷量は明らかではないが、使用した孔径15nmまたは孔径20nmのウイルス除去膜は、膜面積が0.001mまたは0.01mと示されており、PCC製剤は20g/Lを200mLまたは40g/Lを100mLろ過している。したがって、これらのフィルター膜面積当たりのタンパク質負荷量は、最大4kg/mと見積もることができる。
このように生体高分子を孔径15nmのウイルス除去膜でろ過する先行例はあるものの、十分な生体高分子の負荷量と小径ウイルスの除去能を達成するには、なお課題が存在していた。
特開平06-279296 WO2004/089402 特表2007-535495
平成30年2月28日制定厚生労働省告示第37号、生物由来原料基準 バイオ医薬品ハンドブック第4版、2020年、株式会社じほう Kayukawa T, Yanagibashi A, Hongo-Hirasaki T, Yanagida K. Particle-based analysis elucidates the real retention capacities of virus filters and enables optimal virus clearance study design with evaluation systems of diverse virological characteristics. Biotechnol Prog. 2022 Mar;38(2):e3237. ヒト又は動物細胞株を用いて製造されるバイオテクノロジー応用医薬品のウイルス安全性評価(ICH-Q5A) 平成11年8月30日付医薬発第1047号、血漿分画製剤のウイルスに対する安全性確保に関するガイドライン 令 和 4 年 3 月厚生労働省医薬・生活衛生局血液対策課「血漿分画製剤のウイルスに対する安全性確保に関するガイドラインについて」の一部改正案について 小田昌宏、寺野剛、岡村元義、川俣治、新井健史、小澤貞雄、小杉公彦、洪苑起、高橋英晴、築山美奈、佐藤哲男、大場徹也、ウイルスクリアランス試験の課題と事例検討―総ウイルスクリアランス指数(LRV)をどこまで追求するかー、PDA Journal of GMP and Validation in Japan、2005 7(1):44-54 プラノバフィルターカタログ、旭化成メディカル株式会社バイオプロセス事業部、TAE31002J-4.1 加藤(森)ゆうこ、柚木幹弘、生田知良、萩原克郎、血液製剤の安全対策―プリオン除去の現状―、モダンメディア.2013 59(9):231-237 Koenderman AH, ter Hart HG, Prins-de Nijs IM, Bloem J, Stoffers S, Kempers A, Derksen GJ, Al B, Dekker L, Over J. Virus safety of plasma products using 20 nm instead of 15 nm filtration as virus removing step. Biologicals. 2012 Nov;40(6):473-81.
本発明は、生体高分子溶液を15nmウイルス除去膜でろ過する際に、効率よくウイルス除去膜でろ過する方法を提供することを目的とする。
本発明者等は、上記の目的を達成するために検討を重ねた結果、生体高分子溶液を孔径約20nmのウイルス除去フィルターで処理する工程と、得られたろ液を孔径約15nmのウイルス除去フィルターで処理する工程を含む、生体高分子のろ過方法であって、ここで該生体高分子のろ過量が孔径約20nmまたは孔径約15nmのフィルター膜面積当たり20kg/m以上である、ろ過方法を見出し、本発明を完成させるに至った。
したがって、本発明には以下の発明が含まれる:
[1]
生体高分子溶液を孔径約20nmのウイルス除去フィルターで処理する工程と、得られたろ液を孔径約15nmのウイルス除去フィルターで処理する工程を含む、生体高分子のろ過方法であって、ここで該生体高分子のろ過量が孔径約20nmまたは孔径約15nmのフィルター膜面積当たり20kg/m以上である、ろ過方法。
[2]
前記生体高分子がタンパク質である、[1]に記載のろ過方法。
[3]
前記タンパク質がヒト血清アルブミンである、[2]に記載のろ過方法。
[4]
ウイルスのクリアランス指数が3.5またはそれ以上である、[1]に記載のろ過方法。
[5]
生体高分子のろ過量が孔径約20nmまたは孔径約15nmフィルター膜面積当たり40kg/m以上、または60kg/m以上である、[1]に記載のろ過方法。
[6]
生体高分子溶液を孔径約20nmのウイルス除去フィルターで処理する工程と、得られたろ液を孔径約15nmのウイルス除去フィルターで処理する工程を含む、生体高分子をろ過する工程、および得られた生体高分子を製剤化する工程を含み、ここで該生体高分子のろ過量が孔径約20nmまたは孔径約15nmのフィルター膜面積当たり20kg/m以上である、生体高分子を含む製剤の製造方法。
本発明によれば、生体高分子溶液を孔径約15nmのウイルス除去フィルターでろ過する際に、効率よくウイルス除去膜でろ過する方法を提供できる。
図1は、ヒト血清アルブミン溶液の小孔径ウイルス除去フィルターによるろ過性を示す。左図はろ過タンパク質の量(throughput、kg/m)の経時変化を示し、右図はろ過タンパク質の流速(flux、kg/m/h)の経時変化を示す。Aは、圧力0.3barでプラノバ(商標)15Nにてろ過した結果であり、Bは、圧力0.9barでプラノバ(商標)15Nにてろ過した結果であり、Cは、圧力0.9barでプラノバ(商標)20Nにてろ過した結果である。
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
1つの態様において、本発明は、生体高分子溶液を孔径約20nmのウイルス除去膜で処理する工程と、得られたろ液を孔径約15nmのウイルス除去膜で処理する工程を含む、生体高分子のろ過方法であって、ここで該生体高分子のろ過量が孔径約20nmまたは孔径約15nmのウイルス除去膜面積当たり20kg/m以上である、ろ過方法に関する。
本発明において、生体高分子溶液は、生体高分子を含む水溶液を指す。好ましくは、生体高分子溶液は、孔径約15nmを通過しうる生体高分子を含む。ろ過において除去膜の孔を通液させたい生体高分子の例として、タンパク質を対象とする場合は、その分子量は、10kDa、20kDa、30kDa、40kDa、50kDa、60kDa、70kDa、80kDa、90kDa、100kDa、200kDa、250kDa、500kDa、750kDa、1000kDa、1500kDa、2000kDa、2500kDa、3000kDa、4000kDa、5000kDa、6000kDa、7000kDa、8000kDa、9000kDa、10000kDa以下である。好ましくは、10~数1000kDaの間の任意の分子量であり、生体高分子の大きさとしてはウイルス除去膜の孔径と同レベルにある。生体高分子として、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、および多糖を含んでもよい。ポリヌクレオチドは、RNAやDNAが挙げられる。ポリペプチドはアミノ酸の重合体であり、インスリンなどの小さな分子からコラーゲン、アクチン、フィブリノーゲンなど大きなタンパク質までを含むがこれらに限定されない。本発明において、好ましくは、生体高分子は、タンパク質である。タンパク質として、顆粒球コロニー刺激因子、インターフェロン、インターロイキン、マクロファージコロニー刺激因子、トロンビン、エリスロポエチン、血液凝固第VII因子、ウロキナーゼ、α1プロテアーゼインヒビター、血液凝固第IX因子、プロテインC、アンチトロンビンIII、ヘモグロビン、アルブミン、オステオポンチン、組織プラスミノーゲン活性化因子、C1インヒビター、セルロプラスミン、モノクローナルlgG、血液凝固第XI因子、血漿由来マンノース結合レクチン、血液凝固第VIII因子、ヒト免疫グロブリンG、フィブリノーゲン、フォンビルブランド因子、または免疫グロブリンMを含むがこれらに限定されない。さらに好ましくは、タンパク質はアルブミンである。より好ましくは、タンパク質はヒト血清アルブミンである。
本発明において使用されるウイルス除去膜は、サイズ排除(大きさによるふるい分け)のろ過原理によってウイルスを除去分離するためのフィルターを指す。ウイルス除去膜またはウイルス除去フィルターとして、セルロース(例えば、銅アンモニア法再生セルロース)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリスルホン(PSU)またはポリエチレン(PE)等から形成された膜を含み得る。ウイルス除去フィルターとして、例えば、プラノバ(商標)15N(旭化成)、プラノバ(商標)20N(旭化成)、プラノバ(商標)Bio-EX(旭化成)、ウルチポアVF-DV20(ポール)、バイアソルブNFP(ミリポア)などが挙げられ、当業者は適宜該当する製品を選択できる。ウイルス除去フィルターの型としては中空糸型やプリーツ型、平膜型などが挙げられる。ウイルス除去フィルターの非限定的な例としては、銅アンモニア再生法セルロース中空糸膜を含む、旭化成メディカル株式会社製プラノバ(商標)の15Nまたは20Nフィルターが挙げられる。例えば、容器内には、中空糸の束が収められており、生体高分子溶液が、中空糸の内部に導かれ、大きな空洞状のボイド孔または細長いキャピラリー孔が三次元的に結合した網目状の構造をした膜中を通過して外に出ていくことにより、ろ過が行われる。このウイルス除去フィルタープラノバ(商標)Nシリーズの推奨操作圧力は0.98bar以下である。
本発明において使用されるウイルス除去フィルターは、孔径約15nm、または約20nmを有するフィルターが使用される。フィルターの孔径は平均孔径で示され、「約」という用語の記載により続く数値の±1nm、±2nm、または±3nmが孔径の指す範囲内にある。例えば、本発明において、孔径約15nmのフィルターとしてはプラノバ(商標)の15Nのフィルターを使用でき、孔径約20nmのフィルターとしてはプラノバ(商標)の20Nのフィルターを使用できる。
ウイルス除去フィルターは、例えば中空糸の本数の増加により、スケールアップが可能となる。ウイルス除去フィルターの膜面積は、約0.0001、0.0002、0.0003、0.0004、0.0005、0.0006、0.0007、0.0008、0.0009、0.001、0.002、0.003、0.004、0.005、0.006、0.007、0.008、0.009、0.01、0.011、0.012、0.013、0.014、0.015、0.016、0.017、0.018、0.019、0.02、0.05、0.10、0.11、0.12、0.13、0.14、0.15、0.16、0.17、0.18、0.19、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0mまたはそれ以上であってもよい。好ましくは、ウイルス除去フィルターの膜面積は、約0.0003、0.001、0.01、0.12、0.3、1.0、4.0mである。膜面積を増加させることにより、ろ過の効率が増加し得る。例えば、膜面積を増加させることにより、膜面積当たりの生体高分子溶液の負荷量が減少し、ろ過にかかる時間が短縮し得る。
本発明において、「ろ過量」とは、膜面積当たりのウイルス除去フィルターを通過する生体高分子溶液中の生体高分子の溶質量を指し、kg/mで表される。一実施形態では、ろ過量は、膜面積当たり10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80kg/mまたはそれ以上である。ろ過量は、好ましくは、膜面積当たり20、30、40、50、60、70、80kg/mまたはそれ以上である。
本発明において、ウイルス除去膜ろ過工程によるウイルス除去能への影響は、実際の工程を模したウイルスクリアランス試験を行うことで予想可能である。本発明において、「ウイルスクリアランス指数」とは、ウイルス除去率の対数値である。クリアランス指数は、本明細書において「RF(リダクションファクター)」としても使用されている場合がある。ウイルスクリアランス指数は、log((V1×T1)/(V2×T2))で表される。ここで、V1は工程処理前の試料の容量、T1は工程処理前の試料のウイルス力価、V2は工程処理後の試料の容量、T2は工程処理後の試料のウイルス力価である。一実施形態では、ウイルスクリアランス指数は、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0またはそれ以上である。別の実施形態では、クリアランス指数は、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0またはそれ以上である。
本発明において、ウイルスは、エンベロープウイルスであっても非エンベロープウイルスであってもよい。本発明において、ウイルスは、アベルソンマウス白血病ウイルス(A-MuLV)、ヒトパルボウイルスB19(B19)、ウシ下痢症ウイルス(BVDV)、イヌパルボウイルス(CPV)、脳心筋炎ウイルス(EMCV)、A型肝炎ウイルス(HAV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)、単純ヘルペスウイルス(HSV)、マウス微小ウイルス(MVM)、ポリオウイルス1型(Polio-1)、ブタパルボウイルス(PPV)、仮性狂犬病ウイルス(PRV)、レオウイルス3型(Reo-3)、サルウイルス40(SV40)、または異種指向性マウス白血病ウイルス(XMuLV)が挙げられる、がこれらに限定されない。
本発明では、ウイルス除去フィルターを用いたろ過工程に先立って前処理工程が行われてもよい。前処理には、イオン交換体による前処理、プレろ過による前処理またはそれらの組み合わせが含まれてもよい。一態様では、プレろ過による前処理が実施されてもよく、本発明の方法の前に、生体高分子溶液を、プレフィルター(除去サイズ35-200nm)に通液し、目詰まりの原因と考えられる35-200nm以上の大きさの粒子をこれに捕捉させることにより除去してもよい。
本発明において、孔径約20nmのウイルス除去フィルターと、孔径約15nmのウイルス除去フィルターが連結されていてもよいし、別々に分離されていてもよい。例えば、孔径約20nmのウイルス除去フィルターで処理する工程と、得られたろ液を孔径約15nmのウイルス除去フィルターで処理する工程が一連に行われてもよいし、孔径約20nmのウイルス除去フィルターで処理する工程のあとにろ液が回収され、得られたろ液を孔径約15nmのウイルス除去フィルターで処理してもよい。一実施形態では、生体高分子溶液を孔径約15nmのウイルス除去フィルターでろ過する場合に、孔径約15nmのウイルス除去フィルターの上流に孔径約20nmのフィルターを設けてもよい。
一実施形態では、ろ過によるウイルスの漏れは、低減されている、または生じない。ウイルスの漏れが低減または生じないことにより、生体高分子溶液のろ液の安全性が高まり、当該ろ液に由来する製品の製造や安全性に有利である場合がある。ウイルスの漏れや除去能は例えば、ウイルスクリアランス指数により確認することができる。
一実施形態では、ろ過フィルターに供する生体高分子溶液中の生体高分子の量は、約20、30、40、50、60、70kg/m以上であるが、これらに限定されない。好ましくは、50kg/m以上である。
一実施形態では、ろ過フィルターに供する生体高分子溶液中に含まれる生体高分子の濃度は、約0.001%、0.01%、0.1%、1%、8%、10%であるが、これらに限定されない。好ましくは、1%以上である。
一実施形態では、ろ過フィルターで処理する工程において、圧力は使用するウイルス除去フィルターの膜間差圧(TMP)を指し、このTMPは、約0.10、0.15、0.20、0.25、0.30、0.35、0.40、0.45、0.50.0.55.0.60、0.65、0.70、0.75、0.80、0.85、0.90、または0.98barである。好ましくは、そのTMPは使用するウイルス除去フィルターの推奨操作圧力の範囲内で実施される。
一実施形態では、ろ過フィルターで処理する工程は、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、35、37、40、45、50℃またはそれ以上で行われるが、これらに限定されない。好ましくは、室温(1℃~30℃)である。
一実施形態では、ろ過フィルターで処理する工程において、生体高分子溶液のpHは、当業者が目的に応じて適宜設定できる。ろ過フィルターで処理する工程において、生体高分子溶液は、生体高分子の他に種々の物質を含むことができ、当業者が目的に応じて適宜設定できる。例えば、生体高分子溶液は、安定化剤または緩衝剤を含む。
ウイルス除去フィルターでろ過する工程において、ウイルス除去フィルターの目詰まりによりろ過が困難になる場合がある。そのため、一実施形態では、ウイルス除去フィルターによるろ過は、ろ過終期の流速(flux)がろ過初期の流速(flux)の1%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、またはそれ以上の範囲で行うことができ、当業者が目的に応じて適宜設定できる。
ウイルス除去膜ろ過工程のウイルスクリアランス試験において、ウイルスの漏出が生じる場合がある。そのため、一実施形態では、ウイルス除去フィルターによるろ過は、ウイルスクリアランス指数が3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0またはそれ以上である。好ましくは、クリアランス指数は、3.5またはそれ以上の範囲で行うことができる。
本発明の一態様では、生体高分子溶液を孔径約20nmのウイルス除去フィルターで処理する工程と、得られたろ液を孔径約15nmのウイルス除去フィルターで処理する工程を含む、生体高分子のろ過方法であって、ここで該生体高分子のろ過量が孔径約20nmまたは孔径約15nmのフィルター膜面積当たり20kg/m以上である、ろ過方法、ならびに得られた生体高分子を製剤化する工程を含む、生体高分子を含む製剤の製造方法が提供される。
本発明において、「除去膜」および「除去フィルター」は相互互換的に使用される。特に指示がない限り、本明細書において「約」とは±10%、好ましくは±5%の範囲を意味する。
本発明者等は、より少量のフィルターによる効果的なウイルス除去膜ろ過方法を検討し、以下の知見を得た。孔径15nmのウイルス除去フィルターに供することができる生体高分子溶液であれば本発明のろ過方法を適用することができる。また、生体高分子の例としてタンパク質が挙げられる。その例として、アルブミン溶液を用いた実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
実施例1:ヒト血清アルブミン含有水溶液の調製
特許文献2(WO2004/089402)に記載の方法に従い、コーンのアルコール分画によって得られた第V画分ペーストに、注射用水(日局)をペースト重量の2倍以上加え撹拌溶解し、限外ろ過法により脱アルコールしたアルブミン画分を、pH4.5、EC1.5mS/cm以下、タンパク質濃度12w/v%に調整した。その後、pH4.5、EC5mS/cm以下の酢酸バッファーで平衡化した陰イオン交換体(Qセファロース(登録商標)FastFlow(Cytiva))にアルブミン含有水溶液を展開し、素通り画分を回収した。タンパク質濃度8w/v%、pH7.0に調整し、孔径0.1μmのフィルターでろ過したものを試験材料とした。
実施例2:ヒト血清アルブミン溶液の小孔径ウイルス除去膜によるろ過
ウイルス除去膜の孔径の違いによるろ過流量を比較確認するために、上記アルブミン含有水溶液(タンパク質濃度8%)を加圧容器に入れ、圧力調整器を備えた窒素ガスボンベにより一定の圧力を加えて、ウイルス除去膜(旭化成メディカル製)、プラノバ(商標)15N(孔径15±2nm)または20N(孔径19±2nm)(それぞれの膜面積は0.001m)に通液して、ウイルス除去膜ろ過を行った。プラノバ(商標)15Nは0.3barおよび0.9barの一定圧力下でろ過した。プラノバ(商標)20Nは0.9barの一定圧力下でろ過した。結果を図1に示す。左図はろ過量(throughput、kg/m)の経時変化を示し、右図は流速(flux、kg/m/h)の経時変化を示す。曲線Aはプラノバ(商標)15Nの0.3bar加圧ろ過、曲線Bはプラノバ(商標)15Nの0.9bar加圧ろ過、曲線Cはプラノバ(商標)20Nの0.9bar加圧ろ過の結果である。
プラノバ(商標)15Nを用いたA(圧力0.3bar)とB(圧力0.9bar)の曲線の比較から、ろ過圧力が大きくなるとろ過量が短時間で増加すること、および、ろ過圧力が大きくなると流速が大きくなることが確認された。同一圧力0.9barでのプラノバ(商標)15Nのろ過(曲線B)とプラノバ(商標)20Nのろ過(曲線C)の比較からは、ウイルス除去フィルターの孔径が大きくなるとろ過量が短時間で増加すること、及び、ウイルス除去フィルターの孔径が大きくなると流速が大きくなることが確認された。また、曲線Cの流速の低下傾向よりも曲線Bの流速の低下傾向の方が大きく、ウイルス除去膜の孔径の小ささによる目詰まり傾向が示された。
実施例3:同一ろ過量条件下でのヒト血清アルブミン溶液のろ過性
実施例2と同様のアルブミン含有水溶液を調製し、同一ろ過量(56kg/m)のときのウイルス除去膜ろ過に要する時間を比較した。結果を下表に示す。
プラノバ(商標)15Nによるアルブミン水溶液のろ過について、0.8barの一定圧力の条件下、ろ過温度を10℃、23℃、30℃および37℃と変化させると、ろ過時間(h)は101/97、64/55、52/48/55および44と、温度の上昇とともに短縮した(試験No.1~8)。これに対して、プラノバ(商標)15Nの前に同一膜面積のプラノバ(商標)20Nを加えて連結してろ過し、プラノバ(商標)15Nを80kPaの一定圧力でろ過した結果、そのろ過時間は52hとなり(試験No.9)、前段にプラノバ20Nをプレフィルターのように設けても、このようなプレフィルターがない試験No.5~7と同等のろ過時間であることがわかった。なお、プラノバ(商標)15N+プラノバ(商標)15Nの構成による連結した連続ろ過の挙動については、前段のプラノバ15Nろ過によるろ過性に主として支配されると考えられ、そのろ過時間は試験No.1~8の試験結果から予見することができると考えられる。
実施例4:モデルウイルスを添加したヒト血清アルブミン溶液のろ過性とウイルス捕捉能
ウイルス除去膜(旭化成メディカル製)プラノバ(商標)15Nのろ過条件を変えてろ過量(タンパク質負荷量)を比較した。また、上記アルブミン含有水溶液に対し、モデルウイルスとしてブタパルボウイルス(PPV、サイズ18~24nm)液を1v/v%または0.1v/v%の量で加え、これをプラノバ(商標)15Nに対してろ過し、ろ過前後でのウイルス混合溶液のウイルス感染価を測定して、ウイルスクリアランス指数(RF)を確認した。プラノバ(商標)15Nの前段にプラノバ(商標)20Nを設けた試験No.16では両ウイルス除去フィルターは同一の膜面積のものを連結してろ過し、プラノバ(商標)15NのTMPを0.8barに調節してろ過した。結果を下表に示す。
頑健性の高いウイルス不活化・除去工程としてウイルスクリアランス指数4以上の工程が想定されている。試験No.11の結果から、PPVを1v/v%量負荷したアルブミン溶液をプラノバ(商標)15Nのろ過に供したとき、約半分のろ過を経た時点でウイルス除去フィルターは目詰まりし、ウイルスクリアランス指数は評価できなかった。次に、試験No.12~15の結果から、プラノバ(商標)15Nのみによるろ過において、タンパク質の負荷量を62kg/mから56kg/m、45kg/mや23kg/mに減らしてもろ液からPPVが検出され、そのウイルスクリアランス指数は約3のままであり、頑健性の高いウイルス除去工程にはならず、ろ過温度の影響もなかった。このことは、孔径約15nmのフィルター量を単純に数倍増やしたとしても数十kg/mレベルのタンパク質負荷では頑健性の高いウイルス除去工程とすることは困難であることがわかった。また、これら試験No.12~15のPPVの負荷総量は、試験No.11のPPV負荷総量よりも少ないにもかかわらず、顕著なウイルス除去フィルターの目詰まりによる閉塞を生じることもなく、ウイルスの漏出が認められた。試験No.16では、プラノバ(商標)15Nの前段に同膜面積のプラノバ(商標)20Nを設けてろ過すると、ろ液からはPPVは検出されず、そのウイルスクリアランス指数は3.7以上となり、頑健性の高いウイルス除去工程となった。
実施例5:ウイルス除去膜ろ過前後の凝集体含量の比較
実施例2のろ過前後のアルブミン溶液をサイズ排除高速液体クロマトグラフィー(SE-HPLC)にて分析した。SE-HPLCの分析条件は以下の通りである。
カラム:TSKgel G3000SWXL、7.8mm×30cm
移動相:0.1mol/Lリン酸ナトリウム+ 0.1mol/L硫酸ナトリウム、0.05%アジ化ナトリウム、pH6.7
カラム温度:25℃付近の一定温度
流速:毎分0.5mL
検出:280nm
各試料に含まれる凝集体の量を比較した結果を下表に示す。
SE-HPLCは、サイズ排除の原理により、大きな分子から順に溶出される。本SE-HPLC分析では保持時間10分から20分の間に分画されて溶出する。分析の結果、人血清アルブミンの単量体は保持時間約18分に溶出し、二量体は保持時間約16分に溶出した。微小なピークは少なくとも0.1%の含量を検出できるが、保持時間約10分~16分の間にピークはなく、人血清アルブミンの二量体よりも大きな凝集物は検出されなかった。そして、表3より、ウイルス除去膜ろ過の前後で凝集体、人血清アルブミンの二量体及び単量体の含量に大きな変化はなかった。ウイルスと同程度の大きさの分子がウイルス除去膜によってろ過される生体高分子試料溶液中にどれだけ存在するかにより、小径ウイルスの漏出に影響することが考えられる。したがって、タンパク質の凝集体は少ない方が好ましい。分子量6.6万Daの人血清アルブミン8%溶液のモル濃度は約1.2mmol/Lである。そして、凝集体の量はSE-HPLCによりその1/1000レベルの量で評価できる。しかしながら、実施例4におけるろ過前の液に加えたPPVの量は10レベルである。このウイルス量はamolからfmolレベルの量となり、非常に微量である。高濃度タンパク質溶液のウイルス除去膜ろ過において、SE-HPLC等の分析方法によって凝集物を評価してもウイルス除去膜ろ過のろ過性への影響を推測することは困難であることがわかる。
例えば、プラノバ(商標)15Nの上流に孔径35nm以上のプレフィルターを設けることがこれまでに当業者において実施されている。しかしながら、PPV(ブタパルボウイルス、サイズ18~24nm)のような小径の非エンベロープウイルスに対し、このような孔径のプレフィルターの適用においては、PPVはプレフィルターを容易に通過する。したがって、プラノバ(商標)15Nへの既知のプレフィルターの追加により非エンベロープウイルスのような小径ウイルスのウイルスクリアランス能の増強効果は期待できない。そこで、例えば、孔径約15nmのウイルス除去フィルターでろ過した後にさらに孔径約15nmのウイルス除去フィルターで繰り返しろ過すること、あるいは、孔径約15nmのウイルス除去フィルターを連結してろ過することにより、頑健性の高いウイルス除去工程とすることは当業者において容易に実施することができる。しかしながら、このときの前段の孔径約15nmのウイルス除去フィルター側へのタンパク質及びウイルスの負荷が大きくなり、連続する両フィルターへのタンパク質及びウイルスの効果的な負荷の分散は期待できず、前段の孔径約15nmのウイルス除去フィルター側の目詰まりのリスクが潜在的に存在する。そして、ウイルス除去フィルターのコストは孔径約15nmのウイルス除去フィルターの2倍となる。これまでに、数十kg/mの生体高分子溶液のウイルス除去膜ろ過において、孔径20nm以下のフィルターをプレフィルターのように使用した例はなく、本発明者等は、孔径約20nmと孔径約15nmのフィルターとの生体高分子の目詰まりの特性の違いを実施例1により明らかにし、本願発明において孔径20nm以下のフィルターを孔径15nmのウイルス除去フィルターの前段に新規に使用し、孔径約20nmのウイルス除去フィルターおよび孔径約15nmのウイルス除去フィルターの両フィルターに生体高分子及びウイルスの負荷を分散させ、20kg/m以上の生体高分子を効率よく低コストでウイルス除去膜ろ過する方法となることを新規に見出した。生体高分子のろ過量として20kg/m以上のアルブミン含有水溶液を例にして孔径約15nmのウイルス除去膜でろ過するとき、孔径約15nmのウイルス除去膜の上流に孔径約20nmの膜を設けることが有効であり、生体高分子のろ過量が孔径約20nmまたは孔径約15nmの膜面積当たり数十kg/mのレベル、さらには60kg/m以上においても頑健性のあるウイルス除去膜ろ過の方法となる。
本発明によれば、生体高分子溶液を孔径約15nmのウイルス除去膜でろ過する際に、効率よくウイルス除去膜でろ過する方法を提供できる。

Claims (6)

  1. 生体高分子溶液を孔径約20nmのウイルス除去フィルターで処理する工程と、得られたろ液を孔径約15nmのウイルス除去フィルターで処理する工程を含む、生体高分子のろ過方法であって、ここで該生体高分子のろ過量が孔径約20nmまたは孔径約15nmのフィルター膜面積当たり20kg/m以上である、ろ過方法。
  2. 前記生体高分子がタンパク質である、請求項1に記載のろ過方法。
  3. 前記タンパク質がヒト血清アルブミンである、請求項2に記載のろ過方法。
  4. ウイルスのクリアランス指数が3.5またはそれ以上である、請求項1に記載のろ過方法。
  5. 生体高分子のろ過量が孔径約20nmまたは孔径約15nmフィルター膜面積当たり40kg/m以上、または60kg/m以上である、請求項1に記載のろ過方法。
  6. 生体高分子溶液を孔径約20nmのウイルス除去フィルターで処理する工程と、得られたろ液を孔径約15nmのウイルス除去フィルターで処理する工程を含む、生体高分子をろ過する工程、および得られた生体高分子を製剤化する工程を含み、ここで該生体高分子のろ過量が孔径約20nmまたは孔径約15nmのフィルター膜面積当たり20kg/m以上である、生体高分子を含む製剤の製造方法。
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