JP2023089963A - 二相ステンレス鋼およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】高い強度を有するとともに、優れた耐食性および加工性を有する二相ステンレス鋼およびその製造方法を提供する。【解決手段】厚さ方向中心位置におけるフェライト相の面積率が40%以上60%未満である金属組織を有し、表面から深さ方向に少なくとも50μmまでの領域において、フェライト相の面積率が60%以上であるフェライト濃化層を有する、二相ステンレス鋼。【選択図】なし
Description
本発明は、二相ステンレス鋼およびその製造方法に関する。
二相ステンレス鋼は、耐食性に優れるとともに、特に高い強度を有することから、建材または構造材料として使用されている。例えば、「熱間圧延ステンレス鋼板および鋼帯」(JIS G 4304:2021)や「冷間圧延ステンレス鋼板および鋼帯」(JIS G4305:2021)、「熱間成形ステンレス鋼形鋼」(JIS G4317:2021)、「冷間成形ステンレス鋼形鋼」(JIS G4320:2021)、などの中で二相ステンレス鋼の鋼種として記載されている、SUS329J1や、SUS329J4L等が挙げられる。
これら従来の二相ステンレス鋼は、添加元素量が多く比較的高価であるため、近年、添加元素量を抑えた安価な二相ステンレス鋼が開発されている。特許文献1および2には、希少金属に分類され高価なNi含有量が低く、MnおよびN等のオーステナイト生成元素を活用した安価な二相ステンレス鋼(リーン型二相ステンレス鋼)が開示されている。
しかし、二相ステンレス鋼は、オーステナイト相とフェライト相という異なる相の混合組織からなる。それに加えて、Nを活用したリーン型二相ステンレス鋼は、強力な固溶強化元素であり、容易に化合物を形成するNを多く含有する。そのため、様々な形状への加工が難しいという問題があった。特に、熱間加工では、オーステナイト相とフェライト相との特性の差が顕在化する。
そのことを背景に、特許文献3には、高い強度を有するとともに、耐食性および加工性に優れた二相ステンレス鋼が開示されている。さらに、特許文献4には、高い強度を有するとともに、優れた耐疲労特性を有する二相ステンレス鋼が開示されている。
ところで、製造工程における熱間加工では、耳割れ等の発生による圧延不良および表面性状の劣化を引き起こし、冷間での成形加工時にも割れおよび表面性状の劣化を引き起こす場合がある。本発明者らの検討の結果、これらの問題も、オーステナイト相とフェライト相との特性の差に起因することが分かった。
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、高い強度を有するとともに、優れた耐食性および加工性を有する二相ステンレス鋼およびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、前記した課題を解決するために検討を重ねた結果、以下の知見を得るに至った。
(a)数種の二相ステンレス鋼を溶製し、多種の条件で熱処理した結果、金属Cr粉末およびSiO2を含む薬剤を母材表面に塗布した場合において、母材表層部にCrが濃化することを見出した。
(b)母材表層部にCrが濃化することで、耐食性を向上させることが可能となる。加えて、二相ステンレス鋼において、フェライト安定化合金元素であるCrを表層部で濃化させると、二相ステンレス鋼の表層部には、フェライト相の分率が高いフェライト濃化層(以下、「α濃化層」ともいう。)が形成される。表層部において軟質なフェライト相の分率を増加させることによって、オーステナイト相とフェライト相との特性の差も緩和されるため、加工性が向上する。
(c)なお、フェライト相では、Nの固溶限が低いことから、表層部におけるN濃度が低下し、組織および組成変化に応じて加工性および耐食性を劣化させる要因となる粗大な窒化物が形成しやすくなる。しかし、本発明に係る二相ステンレス鋼では、表層部においてフェライト濃化層が形成するものの、このような粗大な窒化物は析出せず、フェライト相化による窒化物生成を抑制することが可能となる。
(d)これらの特徴を有することにより、表面に上記のα濃化層が形成された二相ステンレス鋼は、高い強度を維持しつつも、加工性および耐食性に優れる。
(e)上記のα濃化層は、金属Cr粉末およびSiO2を含む薬剤を母材表面に塗布した状態で、O2濃度が30体積%以下である雰囲気中において、1150~1300℃で5h以上加熱保持することにより形成することができる。
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、下記の二相ステンレス鋼およびその製造方法を要旨とする。
(1)厚さ方向中心位置におけるフェライト相の面積率が40%以上60%未満である金属組織を有する二相ステンレス鋼であって、
表面から深さ方向に少なくとも50μmまでの領域において、フェライト相の面積率が60%以上であるフェライト濃化層を有する、
二相ステンレス鋼。
表面から深さ方向に少なくとも50μmまでの領域において、フェライト相の面積率が60%以上であるフェライト濃化層を有する、
二相ステンレス鋼。
(2)前記フェライト濃化層の厚さをtとした時に、前記表面から深さ方向にtの位置におけるCr濃度より、前記表面から深さ方向にt/2の位置におけるCr濃度の方が高く、前記表面から深さ方向にt/2の位置におけるCr濃度より、前記表面から深さ方向にt/10の位置におけるCr濃度の方が高い、
上記(1)に記載の二相ステンレス鋼。
上記(1)に記載の二相ステンレス鋼。
(3)前記表面から深さ方向にt/10の位置におけるフェライト相の面積率が90%以上である、
上記(1)または(2)に記載の二相ステンレス鋼。
上記(1)または(2)に記載の二相ステンレス鋼。
(4)前記厚さ方向中心位置における化学組成が、質量%で、
C:0.0010~0.0600%、
Si:0.01~1.50%、
Mn:0.10~6.00%、
P:0.050%以下、
S:0.0050%以下、
Cr:19.00~25.00%、
Ni:1.00~6.00%、
N:0.050~0.250%、
Al:0.001~0.050%、
Ti:0~0.050%、
Nb:0~0.150%、
Mo:0~2.00%、
Cu:0~3.00%、
W:0~2.00%、
Mg:0~0.0050%、
Ca:0~0.0050%、
REM:0~0.30%、
B:0~0.0040%、
残部:Feおよび不純物である、
上記(1)から(3)までのいずれかに記載の二相ステンレス鋼。
C:0.0010~0.0600%、
Si:0.01~1.50%、
Mn:0.10~6.00%、
P:0.050%以下、
S:0.0050%以下、
Cr:19.00~25.00%、
Ni:1.00~6.00%、
N:0.050~0.250%、
Al:0.001~0.050%、
Ti:0~0.050%、
Nb:0~0.150%、
Mo:0~2.00%、
Cu:0~3.00%、
W:0~2.00%、
Mg:0~0.0050%、
Ca:0~0.0050%、
REM:0~0.30%、
B:0~0.0040%、
残部:Feおよび不純物である、
上記(1)から(3)までのいずれかに記載の二相ステンレス鋼。
(5)前記厚さ方向中心位置における化学組成が、質量%で、
Ti:0.010~0.050%、
Nb:0.020~0.150%、
Mo:0.05~2.00%、
Cu:0.05~3.00%、
W:0.05~2.00%、
Mg:0.0002~0.0050%、
Ca:0.0002~0.0050%、
REM:0.005~0.30%、および、
B:0.0003~0.0040%、
から選択される1種以上を含有する、
上記(1)から(4)までのいずれかに記載の二相ステンレス鋼。
Ti:0.010~0.050%、
Nb:0.020~0.150%、
Mo:0.05~2.00%、
Cu:0.05~3.00%、
W:0.05~2.00%、
Mg:0.0002~0.0050%、
Ca:0.0002~0.0050%、
REM:0.005~0.30%、および、
B:0.0003~0.0040%、
から選択される1種以上を含有する、
上記(1)から(4)までのいずれかに記載の二相ステンレス鋼。
(6)上記(1)から(5)までのいずれかに記載の二相ステンレス鋼を製造する方法であって、
厚さ方向中心位置におけるフェライト相の面積率が40%以上60%未満である金属組織を有する二相ステンレス鋼に対して、
(a)金属Cr粉末およびSiO2を含む薬剤を母材表面に塗布する工程と、
(b)O2濃度が30体積%以下である雰囲気中において、1150℃超1300℃以下で5h以上加熱する工程と、
(c)ショットブラストを施す工程と、
(d)1~10%の佛酸と2~20%の硝酸とを含む水溶液をノズルから吹き付けることにより酸洗する工程とを順に施す、
二相ステンレス鋼の製造方法。
厚さ方向中心位置におけるフェライト相の面積率が40%以上60%未満である金属組織を有する二相ステンレス鋼に対して、
(a)金属Cr粉末およびSiO2を含む薬剤を母材表面に塗布する工程と、
(b)O2濃度が30体積%以下である雰囲気中において、1150℃超1300℃以下で5h以上加熱する工程と、
(c)ショットブラストを施す工程と、
(d)1~10%の佛酸と2~20%の硝酸とを含む水溶液をノズルから吹き付けることにより酸洗する工程とを順に施す、
二相ステンレス鋼の製造方法。
本発明によれば、高い強度を有するとともに、優れた耐食性および加工性を有する二相ステンレス鋼を工業的に安定して得ることができる。
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。
1.二相ステンレス鋼
本発明に係る二相ステンレス鋼は、厚さ方向中心位置におけるフェライト相の面積率が、常温で40%以上60%未満である金属組織を有する。なお、残部はオーステナイト相および析出物である。フェライト相の面積率が60%以上であると、オーステナイト相の面積率が40%以下となり、十分な強度が得られない。一方、フェライト相の面積率を40%未満とするためには、オーステナイト相の面積率を60%超とすることとなり、以下のような種々の問題が生じ得る。
本発明に係る二相ステンレス鋼は、厚さ方向中心位置におけるフェライト相の面積率が、常温で40%以上60%未満である金属組織を有する。なお、残部はオーステナイト相および析出物である。フェライト相の面積率が60%以上であると、オーステナイト相の面積率が40%以下となり、十分な強度が得られない。一方、フェライト相の面積率を40%未満とするためには、オーステナイト相の面積率を60%超とすることとなり、以下のような種々の問題が生じ得る。
まず、一般的に希少金属にも分類され高価なオーステナイト安定化元素であるNiの含有量を増加する必要があり、高価となる。また、省合金で安価な二相ステンレス鋼を想定した場合、Nの含有量が高くなり過ぎ、高強度となり過ぎる。それに加えて、熱間加工時に粗大な化合物を形成する。以上の理由から、厚さ方向中心位置におけるフェライト相の面積率は40%以上60%未満とする。
厚さ方向中心位置におけるフェライト相の面積率は、45~55%であることが好ましい。フェライト相以外の相は、オーステナイト相および析出物である。析出物は炭化物、窒化物、硫化物、または金属間化合物等のいずれでもよい。析出物の合計面積率は、0.1%以下とすることが好ましい。
フェライト相の面積率は、電子線後方散乱回折装置(EBSD)により測定する。具体的には、各深さ位置を中心として100μm×100μmの領域を対象とし、1μmのステップで測定を行うものとする。そして、測定結果からBCC相を特定し面積率を求め、フェライト相の面積率とする。ただし、表面から深さ50μmまでの深さ位置の場合、深さ位置から表面方向には表面まで、厚さ中心方向へは50μmの範囲として、100μm×100μmよりも深さ方向には狭い範囲の試験片断面での平均値となる。例えば、最表面の場合、幅100μm×深さ50μmの領域とする。
なお、本発明において、「鋼」とは、鋳塊、鋼片、鋳塊や鋼片を加工した熱間圧延材および冷間圧延材等の中間材、ならびに、その後製造される形鋼、鋼板、棒線、および鋼帯等の鋼材を含むものとする。鋼片には、スラブ、ビレット、ブルームなどが含まれる。後述するように、本発明におけるフェライト濃化層は、鋳塊、鋼片、熱間圧延材あるいは冷間圧延材の各中間材に対して、所定の条件で加熱することによって、各中間材に対してフェライト濃化層を形成および増加させることができ、最終的な製品においてもフェライト濃化層を残存させることができる。このように、鋳塊、鋼片、中間材、および最終製品としての鋼材のいずれもが、本発明の特徴を有し得るため、本発明の対象となる。
2.フェライト濃化層
本発明に係る二相ステンレス鋼においては、表面から深さ方向に少なくとも50μmまでの領域において、フェライト濃化層を有する。本発明において、「フェライト濃化層(α濃化層)」とは、フェライト相の面積率が60%以上である領域を指す。
本発明に係る二相ステンレス鋼においては、表面から深さ方向に少なくとも50μmまでの領域において、フェライト濃化層を有する。本発明において、「フェライト濃化層(α濃化層)」とは、フェライト相の面積率が60%以上である領域を指す。
上記のα濃化層は、フェライト相の面積率が40%以上60%未満である金属組織を有する二相ステンレス鋼が改質されることにより形成されたものである。したがって、α濃化層の金属組織において、残部はオーステナイト相および析出物である。
上述のように、表層部にCrが濃化することで耐食性が向上し、かつCrの濃化によりフェライト相に富むα濃化層を表面に有し、オーステナイト相とフェライト相との特性の差が緩和されることで、加工性を向上させる効果が得られる。α濃化層の厚さが50μm未満では、上記の効果が十分には得られない。そのため、α濃化層の厚さは50μm以上とする。好ましくは80μm以上である。
なお、α濃化層の厚さの上限は特に限定しないが、実機製造で想定される高温かつ長時間の熱処理である鋳塊や鋼片の固溶化熱処理(ソーキング)を想定した場合でも数mmが上限と考える。また、熱処理時に5mmを超える厚さとした場合、効果は飽和し、製造コストが嵩むといった問題が生じる。
より優れた耐食性および加工性を得る観点からは、二相ステンレス鋼の表面側ほどCr濃度が高く、フェライト相の面積率が高いことが好ましい。具体的には、フェライト濃化層の厚さをtとした時に、表面から深さ方向にtの位置におけるCr濃度より、表面から深さ方向にt/2の位置(以下、単に「t/2位置」ともいう。)におけるCr濃度の方が高く、t/2位置におけるCr濃度より、表面から深さ方向にt/10の位置(以下、単に「t/10位置」ともいう。)におけるCr濃度の方が高いことが好ましい。また、t/10位置におけるフェライト相の面積率は80%以上であってよいが、90%以上であることが好ましい。t/10位置におけるフェライト相の面積率は100%であってよく、95%以下であってもよい。
なお、α濃化層中にはCrが濃化しているため、厚さ方向中心位置におけるCr濃度より、t/2位置およびt/10位置におけるCr濃度の方が高くなる。しかしながら、Crの濃化が著しくなり、具体的には、t/2位置またはt/10位置におけるCr濃度が、厚さ方向中心位置におけるCr濃度より質量%で10%以上高くなると、表層部における硬化が過剰となり、表面性状を悪化させるおそれがある。さらに、Cr濃度を高めると粗大な窒化物が形成しやすくなり、耐食性等の表面特性に悪影響を及ぼす可能性がある。そのため、t/2位置およびt/10位置におけるCr濃度と、厚さ方向中心位置におけるCr濃度との差は10%未満であることが好ましい。
本発明において、α濃化層における粒径については特に制限はない。上述のように、α濃化層は、金属Cr粉末およびSiO2を含む薬剤を母材表面に塗布した状態で加熱、保持(熱処理)することにより、形成される。その過程で、α濃化層における結晶粒が厚さ方向中心位置に比べて粗粒になる傾向にある。
母材表層部が粗粒化すると、母材表面を占める粒界面積が減少し、亀裂発生が抑制されるため、曲げ加工性が向上する。そのため、曲げ加工性の向上効果を得たい場合には、本発明に係る二相ステンレス鋼においては、厚さ方向中心位置における平均結晶粒径dcと、表面から深さ方向に50μmまでの領域における平均結晶粒径dsとが、下記(i)式を満足することが好ましい。
ds/dc≧1.50 ・・・(i)
ds/dc≧1.50 ・・・(i)
上記のα濃化層は、上記の熱処理により形成され、熱間加工、室温へ冷却後に実施される冷間加工、および、例えば、製品または製品を構成する部品等への成形時にも、同熱処理で形成された割合のまま、少なくともほぼ近い割合のまま維持される。また、鋳塊、鋼片、それらの加工後の熱間圧延材、冷間圧延材の各中間材に対して、上記の熱処理をさらに行うことにより形成、厚さを増加させることも可能である。
なお、厚さ方向中心位置および表面から深さ方向に50μmまでの領域における平均結晶粒径は、フェライト相の面積率と同時に、EBSDにより測定することが可能である。また、平均結晶粒径とは、α濃化層を含み、オーステナイト相およびフェライト相からなる二相組織の全粒の結晶粒径の平均値を意味する。
3.寸法
本発明に係る二相ステンレス鋼の寸法については特に制限は設けない。なお、本発明の二相ステンレス鋼を加工後に鋼板として用いる場合には、その板厚は0.2~20.0mmであることが好ましい。また、本発明の二相ステンレス鋼を加工後に形鋼として用いる場合には、その板状部の厚さは、0.2~20.0mmであることが好ましい。また、本発明の二相ステンレス鋼を加工後に棒鋼として用いる場合には、その直径は、5.0~60.0mmであることが好ましい。
本発明に係る二相ステンレス鋼の寸法については特に制限は設けない。なお、本発明の二相ステンレス鋼を加工後に鋼板として用いる場合には、その板厚は0.2~20.0mmであることが好ましい。また、本発明の二相ステンレス鋼を加工後に形鋼として用いる場合には、その板状部の厚さは、0.2~20.0mmであることが好ましい。また、本発明の二相ステンレス鋼を加工後に棒鋼として用いる場合には、その直径は、5.0~60.0mmであることが好ましい。
4.化学組成
本発明に係る二相ステンレス鋼の化学組成については、フェライト相の面積率が40%以上60%未満となる限り、特に制限はない。以下に、厚さ方向中心位置における好適な化学組成について説明する。各元素の限定理由は下記のとおりである。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
本発明に係る二相ステンレス鋼の化学組成については、フェライト相の面積率が40%以上60%未満となる限り、特に制限はない。以下に、厚さ方向中心位置における好適な化学組成について説明する。各元素の限定理由は下記のとおりである。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
C:0.0010~0.0600%
Cは、耐食性を劣化させるため、その含有量は少ないほど好ましく、C含有量を0.0600%以下とすることが好ましい。しかし、過度な低減は精錬コストの上昇に繋がるため、C含有量を0.0010%以上とすることが好ましい。製造性の点から、C含有量のより好ましい範囲は0.0100~0.0450%である。
Cは、耐食性を劣化させるため、その含有量は少ないほど好ましく、C含有量を0.0600%以下とすることが好ましい。しかし、過度な低減は精錬コストの上昇に繋がるため、C含有量を0.0010%以上とすることが好ましい。製造性の点から、C含有量のより好ましい範囲は0.0100~0.0450%である。
Si:0.01~1.50%
Siは、強度を高める元素であり、精錬時の脱酸効果を有するため、その含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、過度な含有は、製造時の割れを招くため、Si含有量を1.50%以下とすることが好ましい。製造性の点から、Si含有量は1.00%以下であることがより好ましい。Si含有量のより好ましい範囲は0.10~0.90%であり、さらに好ましい範囲は0.20~0.80%である。
Siは、強度を高める元素であり、精錬時の脱酸効果を有するため、その含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、過度な含有は、製造時の割れを招くため、Si含有量を1.50%以下とすることが好ましい。製造性の点から、Si含有量は1.00%以下であることがより好ましい。Si含有量のより好ましい範囲は0.10~0.90%であり、さらに好ましい範囲は0.20~0.80%である。
Mn:0.10~6.00%
Mnは、二相ステンレス鋼ではオーステナイト相を安定化させる。加えて、高強度化に有効であり、脱酸効果を有する。そのため、Mn含有量を0.10%以上とすることが好ましい。一方、過度の含有は耐食性の劣化を招くため、Mn含有量を6.00%以下とすることが好ましい。製造性およびコストを両立するためには、Mn含有量は1.00~5.50%であることがより好ましい。Mn含有量は2.00~5.00%であることがさらに好ましい。
Mnは、二相ステンレス鋼ではオーステナイト相を安定化させる。加えて、高強度化に有効であり、脱酸効果を有する。そのため、Mn含有量を0.10%以上とすることが好ましい。一方、過度の含有は耐食性の劣化を招くため、Mn含有量を6.00%以下とすることが好ましい。製造性およびコストを両立するためには、Mn含有量は1.00~5.50%であることがより好ましい。Mn含有量は2.00~5.00%であることがさらに好ましい。
P:0.050%以下
Pは、製造性および溶接性を阻害する元素であり、その含有量は少ないほどよい。そのため、P含有量を0.050%以下とすることが好ましい。しかし、過度な低減は精錬コストの上昇に繋がるため、P含有量を0.003%以上とすることが好ましい。製造性および溶接性の点から、P含有量のより好ましい範囲は0.005~0.040%であり、さらに好ましい範囲は0.010~0.030%である。
Pは、製造性および溶接性を阻害する元素であり、その含有量は少ないほどよい。そのため、P含有量を0.050%以下とすることが好ましい。しかし、過度な低減は精錬コストの上昇に繋がるため、P含有量を0.003%以上とすることが好ましい。製造性および溶接性の点から、P含有量のより好ましい範囲は0.005~0.040%であり、さらに好ましい範囲は0.010~0.030%である。
S:0.0050%以下
Sは、鋼中に含まれる不可避的不純物元素であり、熱間加工性を低下させる。したがって、S含有量は低いほど好ましく、0.0050%以下とすることが好ましい。熱間加工性の点から、S含有量は低いほど好ましいが、過度な低減は原料および精錬のコストの上昇に繋がるため、S含有量を0.0001%以上とすることが好ましい。製造性の点から、S含有量のより好ましい範囲は0.0001~0.0020%であり、さらに好ましい範囲は0.0002~0.0010%である。
Sは、鋼中に含まれる不可避的不純物元素であり、熱間加工性を低下させる。したがって、S含有量は低いほど好ましく、0.0050%以下とすることが好ましい。熱間加工性の点から、S含有量は低いほど好ましいが、過度な低減は原料および精錬のコストの上昇に繋がるため、S含有量を0.0001%以上とすることが好ましい。製造性の点から、S含有量のより好ましい範囲は0.0001~0.0020%であり、さらに好ましい範囲は0.0002~0.0010%である。
Cr:19.00~25.00%
Crは、耐酸化性、耐食性を向上する元素である。二相ステンレス鋼として十分な耐食性を確保するために、Cr含有量を19.00%以上とすることが好ましい。しかし、過度なCrの含有は高温雰囲気に曝された際、脆化相であるσ相の生成を助長することに加え、合金コストの上昇を招くため、Cr含有量を25.00%以下とすることが好ましい。製造性の点から、Cr含有量のより好ましい範囲は20.00%を超えて24.50%以下である。Cr含有量のさらに好ましい範囲は20.50~24.00%である。
Crは、耐酸化性、耐食性を向上する元素である。二相ステンレス鋼として十分な耐食性を確保するために、Cr含有量を19.00%以上とすることが好ましい。しかし、過度なCrの含有は高温雰囲気に曝された際、脆化相であるσ相の生成を助長することに加え、合金コストの上昇を招くため、Cr含有量を25.00%以下とすることが好ましい。製造性の点から、Cr含有量のより好ましい範囲は20.00%を超えて24.50%以下である。Cr含有量のさらに好ましい範囲は20.50~24.00%である。
Ni:1.00~6.00%
Niは、耐食性を向上させ、二相ステンレス鋼ではオーステナイト相を安定化させる。耐食性向上のために、Ni含有量を1.00%以上とすることが好ましい。一方、Niは希少金属に分類され高価であるため、その含有量を6.00%以下とすることが好ましい。製造性の点から、Ni含有量のより好ましい範囲は1.50~4.50%である。
Niは、耐食性を向上させ、二相ステンレス鋼ではオーステナイト相を安定化させる。耐食性向上のために、Ni含有量を1.00%以上とすることが好ましい。一方、Niは希少金属に分類され高価であるため、その含有量を6.00%以下とすることが好ましい。製造性の点から、Ni含有量のより好ましい範囲は1.50~4.50%である。
N:0.050~0.250%
Nは、耐食性を向上させる元素であり、またNiと同様にオーステナイトを安定化させるため、Niの代替として用いることができる。N含有量が少ない場合には十分な耐食性が得られない場合がある。そのため、N含有量を0.050%以上とすることが好ましい。一方、N含有量が多い方が耐食性には効果的であるが、溶製時に窒素ガス化して気泡を生成する場合があるため、N含有量を0.250%以下とすることが好ましい。製造性の観点から、N含有量のより好ましい範囲は0.100~0.230%である。N含有量のさらに好ましい範囲は0.150~0.220%である。
Nは、耐食性を向上させる元素であり、またNiと同様にオーステナイトを安定化させるため、Niの代替として用いることができる。N含有量が少ない場合には十分な耐食性が得られない場合がある。そのため、N含有量を0.050%以上とすることが好ましい。一方、N含有量が多い方が耐食性には効果的であるが、溶製時に窒素ガス化して気泡を生成する場合があるため、N含有量を0.250%以下とすることが好ましい。製造性の観点から、N含有量のより好ましい範囲は0.100~0.230%である。N含有量のさらに好ましい範囲は0.150~0.220%である。
Al:0.003~0.050%
Alは、脱酸元素として用いられる。脱酸元素として0.003%以上含有すれば効果があるため、Al含有量を0.003%以上とすることが好ましい。一方、過度の含有は硬質化を招くため、Al含有量を0.050%以下とすることが好ましい。製造性の観点から、Al含有量のより好ましい範囲は0.030%以下である。Al含有量のさらに好ましい範囲は0.020%以下である。
Alは、脱酸元素として用いられる。脱酸元素として0.003%以上含有すれば効果があるため、Al含有量を0.003%以上とすることが好ましい。一方、過度の含有は硬質化を招くため、Al含有量を0.050%以下とすることが好ましい。製造性の観点から、Al含有量のより好ましい範囲は0.030%以下である。Al含有量のさらに好ましい範囲は0.020%以下である。
Ti:0~0.050%
Tiは、C、Nと結合し、溶接部耐食性の向上および高強度化に寄与する元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。一方、過度の含有は耐食性の低下および合金コスト増を招くため、Ti含有量を0.050%以下とすることが好ましい。なお、上記の効果を得たい場合には、Ti含有量を0.010%以上とすることが好ましい。Ti含有量のより好ましい範囲は0.015~0.045%であり、さらに好ましい範囲は0.020~0.040%である。
Tiは、C、Nと結合し、溶接部耐食性の向上および高強度化に寄与する元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。一方、過度の含有は耐食性の低下および合金コスト増を招くため、Ti含有量を0.050%以下とすることが好ましい。なお、上記の効果を得たい場合には、Ti含有量を0.010%以上とすることが好ましい。Ti含有量のより好ましい範囲は0.015~0.045%であり、さらに好ましい範囲は0.020~0.040%である。
Nb:0~0.150%
Nbは、C、Nと結合し、溶接部耐食性の向上および高強度化に寄与する元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。一方、過度の含有は耐食性の低下および合金コスト増を招くため、Nb含有量を0.150%以下とすることが好ましい。なお、上記の効果を得たい場合には、Nb含有量を0.020%以上とすることが好ましい。Nb含有量のより好ましい範囲は0.030~0.120%であり、さらに好ましい範囲は0.050~0.100%である。
Nbは、C、Nと結合し、溶接部耐食性の向上および高強度化に寄与する元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。一方、過度の含有は耐食性の低下および合金コスト増を招くため、Nb含有量を0.150%以下とすることが好ましい。なお、上記の効果を得たい場合には、Nb含有量を0.020%以上とすることが好ましい。Nb含有量のより好ましい範囲は0.030~0.120%であり、さらに好ましい範囲は0.050~0.100%である。
Mo:0~2.00%
Cu:0~3.00%
W:0~2.00%
Mo、CuおよびWは、耐食性の向上に寄与する元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。一方、過度の含有はコスト増加および熱間加工性の低下を招く。そのため、Mo含有量を2.00%以下、Cu含有量を3.00%以下、W含有量を2.00%以下とすることが好ましい。Mo含有量は1.80%以下、または1.50%以下とすることがより好ましく、Cu含有量は2.50%以下、または2.00%以下とすることがより好ましく、W含有量は1.50%以下、または1.00%以下とすることがより好ましい。なお、上記の効果を得たい場合には、これらの元素から選択される1種以上の含有量を0.05%以上、0.10%以上、0.20%以上、または0.50%以上とすることが好ましい。
Cu:0~3.00%
W:0~2.00%
Mo、CuおよびWは、耐食性の向上に寄与する元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。一方、過度の含有はコスト増加および熱間加工性の低下を招く。そのため、Mo含有量を2.00%以下、Cu含有量を3.00%以下、W含有量を2.00%以下とすることが好ましい。Mo含有量は1.80%以下、または1.50%以下とすることがより好ましく、Cu含有量は2.50%以下、または2.00%以下とすることがより好ましく、W含有量は1.50%以下、または1.00%以下とすることがより好ましい。なお、上記の効果を得たい場合には、これらの元素から選択される1種以上の含有量を0.05%以上、0.10%以上、0.20%以上、または0.50%以上とすることが好ましい。
Mg:0~0.0050%
Ca:0~0.0050%
REM:0~0.30%
B:0~0.0040%
Mg、Ca、REMおよびBは、熱間加工性を向上させる元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。一方、過度の含有は製造性を阻害することに繋がる。そのため、Mg含有量を0.0050%以下、Ca含有量を0.0050%以下、REM含有量を0.30%以下、B含有量を0.0040%以下とすることが好ましい。Mg含有量は0.0040%以下、または0.0030%以下とすることがより好ましく、Ca含有量は0.0035%以下、または0.0020%以下とすることがより好ましく、REM含有量は0.20%以下、または0.10%以下とすることがより好ましく、B含有量は0.0030%以下、または0.0020%以下とすることがより好ましい。なお、上記の効果を得たい場合には、上記効果を発揮するため、Mg:0.0002%以上、Ca:0.0002%以上、REM:0.005%以上、B:0.0003%以上から選択される1種以上を含有することが好ましい。Mg:0.0005%以上、Ca:0.0005%以上、REM:0.010%以上、B:0.0005%以上から選択される1種以上を含有することがより好ましい。また、Mg:0.0010%以上、Ca:0.0010%以上、REM:0.020%以上、B:0.0010%以上から選択される1種以上を含有することがさらに好ましい。
Ca:0~0.0050%
REM:0~0.30%
B:0~0.0040%
Mg、Ca、REMおよびBは、熱間加工性を向上させる元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。一方、過度の含有は製造性を阻害することに繋がる。そのため、Mg含有量を0.0050%以下、Ca含有量を0.0050%以下、REM含有量を0.30%以下、B含有量を0.0040%以下とすることが好ましい。Mg含有量は0.0040%以下、または0.0030%以下とすることがより好ましく、Ca含有量は0.0035%以下、または0.0020%以下とすることがより好ましく、REM含有量は0.20%以下、または0.10%以下とすることがより好ましく、B含有量は0.0030%以下、または0.0020%以下とすることがより好ましい。なお、上記の効果を得たい場合には、上記効果を発揮するため、Mg:0.0002%以上、Ca:0.0002%以上、REM:0.005%以上、B:0.0003%以上から選択される1種以上を含有することが好ましい。Mg:0.0005%以上、Ca:0.0005%以上、REM:0.010%以上、B:0.0005%以上から選択される1種以上を含有することがより好ましい。また、Mg:0.0010%以上、Ca:0.0010%以上、REM:0.020%以上、B:0.0010%以上から選択される1種以上を含有することがさらに好ましい。
ここで、REMは希土類金属(Rare Earth Metals)を指し、Sc、Yの2元素、およびLa、Ce、Ndなどのランタノイド15元素の合計17元素の総称を意味する。REM含有量とは前記17元素の合計含有量を意味する。
上記の化学組成において、残部はFeおよび不純物である。ここで「不純物」とは、鋼を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
5.製造方法
本発明の二相ステンレス鋼でα濃化層を形成するための製造方法について説明する。上述のように、金属Cr粉末およびSiO2を含む薬剤を母材表面に塗布した状態で熱処理することにより、母材表層部にCrを濃化させる。そして、フェライト安定化合金元素であるCrが濃化する結果、表層部におけるフェライト相の体積率が増加する。
本発明の二相ステンレス鋼でα濃化層を形成するための製造方法について説明する。上述のように、金属Cr粉末およびSiO2を含む薬剤を母材表面に塗布した状態で熱処理することにより、母材表層部にCrを濃化させる。そして、フェライト安定化合金元素であるCrが濃化する結果、表層部におけるフェライト相の体積率が増加する。
Crを濃化させ、十分な厚さのα濃化層を形成するためには、熱処理条件を適切に調整する必要がある。上述した化学組成を有する鋳塊、鋼片、熱間圧延材あるいは冷間圧延材の各中間材に対して、以下に示す条件で加熱することによって、各中間材にて50μm以上の厚さを有するα濃化層を形成、増加し、最終的な製品において残存させることが可能である。
処理条件について詳しく説明する。
金属Cr粉末およびSiO2を含む薬剤を母材表面に塗布した状態で、O2濃度を30体積%以下である雰囲気中において、1150℃超1300℃以下で5h以上加熱する。加熱後には、熱間圧延を実施してもよい。
<金属Cr粉末およびSiO2を含む薬剤>
金属Cr粉末およびSiO2を含む薬剤としては、金属Cr粉末を体積%で50%以上含むSiO2系酸化防止剤が挙げられる。また、薬剤の塗布量は0.3g/cm2以上とすることが好ましい。
金属Cr粉末およびSiO2を含む薬剤としては、金属Cr粉末を体積%で50%以上含むSiO2系酸化防止剤が挙げられる。また、薬剤の塗布量は0.3g/cm2以上とすることが好ましい。
<雰囲気>
加熱時における雰囲気中のO2濃度を30体積%以下とする。O2濃度が30体積%を超える場合、表層部における合金元素の酸化が過剰となってしまい、α濃化層が得られない場合がある。このため、雰囲気中のO2濃度は30体積%以下とする。O2濃度25体積%以下であるのが好ましく、20体積%以下であるのがより好ましい。
加熱時における雰囲気中のO2濃度を30体積%以下とする。O2濃度が30体積%を超える場合、表層部における合金元素の酸化が過剰となってしまい、α濃化層が得られない場合がある。このため、雰囲気中のO2濃度は30体積%以下とする。O2濃度25体積%以下であるのが好ましく、20体積%以下であるのがより好ましい。
<加熱温度>
加熱温度は1150℃超1300℃以下とする。加熱温度が1150℃以下では、Crの濃化が不十分となり、α濃化層が得られない。一方、1300℃を超えると、合金元素の酸化が過剰となってしまい、α濃化層が得られない場合がある。また、局所的に深いスケールが形成される異常な酸化が起こる可能性が高まることに加えて、生成スケールが多くなり、材料ロスにより歩留りが低下し、製造コストが嵩む問題がある。加熱温度は1170℃以上であるのが好ましく、1290℃以下であるのが好ましく、1280℃以下であるのがより好ましい。
加熱温度は1150℃超1300℃以下とする。加熱温度が1150℃以下では、Crの濃化が不十分となり、α濃化層が得られない。一方、1300℃を超えると、合金元素の酸化が過剰となってしまい、α濃化層が得られない場合がある。また、局所的に深いスケールが形成される異常な酸化が起こる可能性が高まることに加えて、生成スケールが多くなり、材料ロスにより歩留りが低下し、製造コストが嵩む問題がある。加熱温度は1170℃以上であるのが好ましく、1290℃以下であるのが好ましく、1280℃以下であるのがより好ましい。
<保持時間>
加熱時の保持時間は5h以上とする。保持時間が5h未満では、Crの濃化が不十分となり、α濃化層が得られない。一方、30hを超えて加熱しても効果は飽和し、コストが嵩むばかりであるため、製造性の観点から保持時間は30h以下とすることが好ましい。
加熱時の保持時間は5h以上とする。保持時間が5h未満では、Crの濃化が不十分となり、α濃化層が得られない。一方、30hを超えて加熱しても効果は飽和し、コストが嵩むばかりであるため、製造性の観点から保持時間は30h以下とすることが好ましい。
さらに、α濃化層の厚さは、前記の熱処理とともに熱処理後の脱スケール方法に依存する。本発明の二相ステンレス鋼は、加工された上で使用される製品において、α濃化層が50μm以上の厚さで存在することにより優れた効果を発現する。しかし、上記の厚さを満足しつつも、不適切な脱スケール方法では、α濃化層が減厚または消失する可能性もある。
脱スケールは、ショットブラスト後、適切な酸洗により達成され、その一例を説明する。
<脱スケール条件>
まず、スケールの破砕を目的とするショットブラストを実施する。スケールの破砕に用いるショット粒は運動エネルギーが大きく、空気抵抗による損失も少ない大きな粒径であることが望ましく、多数であることが効率的である。材質は、母材に付着しないことが望ましいが、その後に酸洗を実施することから鋼球の使用で構わない。また、母材への付着、押込みが生じない範囲で強い圧力での噴射が望ましい。
まず、スケールの破砕を目的とするショットブラストを実施する。スケールの破砕に用いるショット粒は運動エネルギーが大きく、空気抵抗による損失も少ない大きな粒径であることが望ましく、多数であることが効率的である。材質は、母材に付着しないことが望ましいが、その後に酸洗を実施することから鋼球の使用で構わない。また、母材への付着、押込みが生じない範囲で強い圧力での噴射が望ましい。
次に、1~10%の佛酸と2~20%の硝酸とを含む水溶液をノズルから吹き付けることで、スケールを飛散、除去することにより、優れた特性を発現される。佛酸と硝酸とを含む水溶液はスケールのみを腐食除去し、α濃化層を腐食しないことが最も望ましく、低い濃度であることが好ましい。佛酸の濃度は、好ましくは8%以下、さらに好ましくは6%以下である。また、硝酸の濃度は、好ましくは15%以下、さらに好ましくは12%以下である。各酸の濃度の下限値はスケールを腐食除去するために、佛酸1%以上、硝酸2%以上が好ましい。
本発明の製造方法は、上述した化学組成を有する二相ステンレス鋼に対する、α濃化層の形成を目的とする熱処理の実施と、α濃化層の残存を目的とする脱スケールの実施とを特徴とし、優れた特性を達成するものである。すなわち、(1)鋳塊もしくは鋼片の前記熱処理後に前記脱スケール、(2)鋳塊もしくは鋼片の前記熱処理後、熱間圧延に続けて前記脱スケール、(3)熱間圧延材に一般的方法で脱スケールを行い、続けて前記熱処理後に前記脱スケール、(4)冷間圧延材の前記熱処理後に前記脱スケールなどである。製品に50μm以上の厚さのα濃化層が存在することにより、優れた効果を発現する。
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
表1に示す化学組成を有する二相ステンレス鋼を溶製し、鋼片とした後、表2に示す組成の薬剤を塗布し、種々の条件で加熱した。その後、熱間圧延を実施し、試験材を得た。薬剤組成のCrは金属Cr粉末である。なお、加熱時の雰囲気は表2に示す濃度のO2を含み、残部がN2である混合ガス雰囲気とし、熱間圧延は、幅100mm、断面減少率95%の条件で実施した。
その後、加工による歪みの影響を除去するため、同雰囲気中において1100℃で5min熱処理した。次いで、ショットブラストを施し、その後、50℃に保持した6%佛酸および12%硝酸を含む水溶液中に20分浸漬することにより酸洗し、表面に形成したスケールを除去した。そして、スケール除去後の試験材を組織観察および評価試験に供した。なお、スケール除去前後の断面観察の比較より、全ての試験材において、スケールのみが除去されていることを確認した。
まず、上記試験材から組織観察用の試験片を切り出した。そして、圧延方向に垂直な断面を観察面とし、EBSDにより測定した。なお、結果の解析は、TSL社製OIM Analysis ver.7.3.0を用いて実施した。そして、板厚中心位置と表面付近とのそれぞれについて、フェライト相の面積率、ならびにオーステナイト相およびフェライト相の平均結晶粒径を求めた。
なお、各測定は、オーステナイト相およびフェライト相の両相を含む10以上の粒が測定対象となる状態で実施した。値の変動を抑制し、より正確な平均値を得るためには、20以上の粒を測定対象にすることが好ましい。
さらに、測定結果について、スケールまたは局所的に材料が存在しない部分が含まれた場合、平均値の算出時に除去した。そして、フェライト相の割合が60%となる深さ位置を特定し、表面から当該深さまでの距離をα濃化層の厚さとした。
また、同様の領域での結晶方位の測定結果より、結晶の角度の差が15゜以上となる部分を境界とし、それらに囲まれた部分の面積を円相当径に換算した値より円相当径を算出し、結晶粒径とした。
次に、同じ試験片を用いて、EPMAによる点分析を実施した。各深さ位置での測定は、所定の深さを中心として、100μm×100μmの領域について1μmの間隔(ピッチ)にて各点を1秒保持で実施し、その領域での平均値を採用した。なお、測定は100μmの一辺が、最も近い試験片の表面と最も平行になるような状態で実施した。
また、表面近傍については、例えば、最表面の場合、幅100μm×深さ50μmの領域、深さ10μmの場合、幅100μm×深さ60μmの領域、深さ20μmの場合、幅100μm×深さ70μmの領域について測定した。すなわち、表面から深さ50μmまでの場合、角100μmよりも狭い範囲の試験片断面での平均値となる。その後、t/2位置およびt/10位置において測定されたCr濃度をそれぞれの深さ位置におけるCr濃度とした。
続いて、加工性および耐食性の評価試験を行った。加工性については、熱間加工性および冷間成形性の2通りについて評価を行った。
熱間加工性の評価は、熱間圧延後の耳割れを調査することにより行った。そして、板幅端部での割れの深さが1mm未満の場合に熱間加工性を○とし、1mm以上2mm未満の場合に熱間加工性を△とし、2mm以上の場合に熱間加工性を×とした。また、冷間成形性の評価は、曲げ試験を実施することにより行った。JIS Z 2248に従って、鋼板から1号試験片を採取し、曲げ半径を板厚の2倍とし、角度180°まで押し曲げ、割れ発生の有無を調べた。割れが発生しなかった場合に冷間成形性を○、割れが発生した場合に冷間成形性を×とした。
耐食性の評価試験は以下の手順にて行った。まず、上記の試験材から厚さ方向が試験片の厚さ方向と一致するよう直径15mmの円筒状試験片を切り出した。そして、試験材の表面であった面を#600で研磨し、その後、JIS G 0577の「ステンレス鋼の孔食電位測定方法」に準拠して、孔食発生電位Vc100を測定した。研磨による板厚減少量は5μm未満とした。測定は3回行い、平均値を算出した。Vc100が0.4V以上の場合を耐食性に優れると判断し、0.4V未満の場合に耐食性に劣ると判断した。
それらの結果を表2に併せて示す。
表2に示す結果から明らかなように、本発明の規定を満足する試験No.1~19では、熱間加工性および耐食性の双方に優れる結果となった。それらに対して、試験No.20~23は、本発明の規定から外れる比較例である。具体的には、試験No.20ではCr含有薬剤を塗布していなかったため、また、試験No.21および22では加熱条件が不適切であったため、いずれも十分なα濃化層が形成されず、加工性および耐食性の双方が劣る結果となった。そして、試験No.23では鋼中のCr含有量が低いため、適切な条件で加熱処理を行ってもα濃化層が形成されず、加工性および耐食性の双方が劣る結果となった。
本発明によれば、高い強度を有するとともに、優れた耐食性および加工性を有する二相ステンレス鋼を工業的に安定して得ることができる。
Claims (8)
- 厚さ方向中心位置におけるフェライト相の面積率が40%以上60%未満である金属組織を有する二相ステンレス鋼であって、
表面から深さ方向に少なくとも50μmまでの領域において、フェライト相の面積率が60%以上であるフェライト濃化層を有する、
二相ステンレス鋼。 - 前記フェライト濃化層の厚さをtとした時に、前記表面から深さ方向にtの位置におけるCr濃度より、前記表面から深さ方向にt/2の位置におけるCr濃度の方が高く、前記表面から深さ方向にt/2の位置におけるCr濃度より、前記表面から深さ方向にt/10の位置におけるCr濃度の方が高い、
請求項1に記載の二相ステンレス鋼。 - 前記表面から深さ方向にt/10の位置におけるフェライト相の面積率が90%以上である、
請求項1に記載の二相ステンレス鋼。 - 前記表面から深さ方向にt/10の位置におけるフェライト相の面積率が90%以上である、
請求項2に記載の二相ステンレス鋼。 - 前記厚さ方向中心位置における化学組成が、質量%で、
C:0.0010~0.0600%、
Si:0.01~1.50%、
Mn:0.10~6.00%、
P:0.050%以下、
S:0.0050%以下、
Cr:19.00~25.00%、
Ni:1.00~6.00%、
N:0.050~0.250%、
Al:0.001~0.050%、
Ti:0~0.050%、
Nb:0~0.150%、
Mo:0~2.00%、
Cu:0~3.00%、
W:0~2.00%、
Mg:0~0.0050%、
Ca:0~0.0050%、
REM:0~0.30%、
B:0~0.0040%、
残部:Feおよび不純物である、
請求項1から請求項4までのいずれかに記載の二相ステンレス鋼。 - 前記厚さ方向中心位置における化学組成が、質量%で、
Ti:0.010~0.050%、
Nb:0.020~0.150%、
Mo:0.05~2.00%、
Cu:0.05~3.00%、
W:0.05~2.00%、
Mg:0.0002~0.0050%、
Ca:0.0002~0.0050%、
REM:0.005~0.30%、および、
B:0.0003~0.0040%、
から選択される1種以上を含有する、
請求項5に記載の二相ステンレス鋼。 - 請求項1から請求項4までのいずれかに記載の二相ステンレス鋼を製造する方法であって、
厚さ方向中心位置におけるフェライト相の面積率が40%以上60%未満である金属組織を有する二相ステンレス鋼に対して、
(a)金属Cr粉末およびSiO2を含む薬剤を母材表面に塗布する工程と、
(b)O2濃度が30体積%以下である雰囲気中において、1150℃超1300℃以下で5h以上加熱する工程と、
(c)ショットブラストを施す工程と、
(d)1~10%の佛酸と2~20%の硝酸とを含む水溶液をノズルから吹き付けることにより酸洗する工程とを順に施す、
二相ステンレス鋼の製造方法。 - 請求項5に記載の二相ステンレス鋼を製造する方法であって、
厚さ方向中心位置におけるフェライト相の面積率が40%以上60%未満である金属組織を有する二相ステンレス鋼に対して、
(a)金属Cr粉末およびSiO2を含む薬剤を母材表面に塗布する工程と、
(b)O2濃度が30体積%以下である雰囲気中において、1150℃超1300℃以下で5h以上加熱する工程と、
(c)ショットブラストを施す工程と、
(d)1~10%の佛酸と2~20%の硝酸とを含む水溶液をノズルから吹き付けることにより酸洗する工程とを順に施す、
二相ステンレス鋼の製造方法。
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