JP2023025447A - 素地調整鉄鋼製構造物の塩化物除去方法 - Google Patents

素地調整鉄鋼製構造物の塩化物除去方法 Download PDF

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Abstract

【課題】鉄鋼製構造物の表層にまで浸透した塩化物でも効果的に除去することができる、素地調整鉄鋼製構造物の塩化物除去方法を提供する。【解決手段】素地調整した後も塩化物が表層に残存している鉄鋼製構造物に対して、水と水溶性高分子とを含有する水性湿潤剤を素地調整面に塗布し、未乾燥のまま4時間以上放置する。これにより、塩化物が溶解して生じた塩化物イオンが水性湿潤剤中に溶出する。その後、水性湿潤剤を除去する。水性湿潤剤は、さらに陰イオン交換形層状顔料を含有することが好ましい。【選択図】図1

Description

本発明は、鉄鋼製構造物の保護塗膜を塗り替える際に、素地調整しても残存している塩化物を除去する、素地調整鉄鋼製構造物の塩化物除去方法に関する。
従来から、橋梁や鉄塔等の鉄鋼製構造物は、錆の発生を防止し強度を保全するため、保護塗膜により表面保護されている。しかし、当該保護塗膜も風雨や紫外線等に晒されることによる経時劣化により、被塗物たる鉄鋼製構造物の保護機能(防食機能)は徐々に低下する。このため、劣化した既存の保護塗膜を除去して、新たな保護塗膜に塗り替えるメンテナンス作業が定期的に行われる。その際、劣化した既存の保護塗膜を掻き落とし、腐食により生じた錆層を、動力工具等を用いた物理的ケレンにより除去することで、塗替えに適した素地を形成するための素地調整が実施される。しかしながら、鉄鋼製構造物に固着した強固な固着錆層が形成されている箇所、及び狭隘部や凹凸部のように素地調整が困難な部位においては、錆の除去が不十分となりやすい。そして、そのままの状態で塗替え塗装が実施されると、塗り替えた新しい保護塗膜の下で腐食が早期に進行して保護塗膜の膨れと錆が生じ、保護塗膜の本来の防食機能を果たせないことになる。
中でも、沿岸地区等のように腐食環境が厳しい条件下では、鉄鋼製構造物に塩化ナトリウムや塩化マグネシウムを主成分とする飛来塩化物が多量に付着する。また、沿岸地区等に限らず、寒冷期に路面凍結防止剤として塩化カルシウムや塩化ナトリウムが散布されると、塩水として周囲の鉄鋼製構造物に付着する。これらの塩化物は、水への溶解度が高いため、劣化した保護塗膜や脆弱錆(鉄鋼製構造物と固着しておらず比較的容易に除去できる層状剥離錆)の内部に雨雪等の水を媒体として侵入し、更にその下層に存在する固着錆層の内部、及び、鉄鋼製構造物との界面にも蓄積する。これらの塩化物が水に溶解して生じる塩化物イオンは、鉄鋼製構造物の腐食促進物質となる。そのため、塗替え塗装を実施する際には、これらを錆と共に十分に取り除いておかないと、想定しているよりも遥かに短期間で錆が再発する。特に、腐食した鉄鋼製構造物の表面に強固な固着錆層が形成されている場合、動力工具を用いても固着錆層を完全除去するには著しく手間が掛かる。このため、素地調整した後も、残存する固着錆層の内部及び鉄鋼製構造物との界面(以下、両領域を含めて「表層」と称す。)に塩化物が残存している場合がある。
一方、物理的ケレンの中でも素地調整方法として最も精度の高いブラスト工法によれば、固着錆層の除去は比較的容易であるが、それでも一部の塩化物はブラストされた鉄鋼製構造物表層に封じ込められ、完全に除去することは困難である。また、最近では環境負荷の少ない素地調整方法として、レーザー又は誘導加熱(IH)による工法が非特許文献1に提案されており、これによっても、塩化物の残存量がある程度低下することが報告されている。しかし、非特許文献1の工法は、塩化物の除去を直接目的とした工法ではなく、塩化物残存量の低下はあくまで副次的効果であって、その効果は動力工具を用いた一般的な物理的ケレンと大差はない。
なお、鋼道路橋防食便覧(公益社団法人日本道路協会)には、海岸地区における塗装鋼橋の塩分(NaCl)平均付着量が数百mg/mとなる測定例を掲載している。また、旧塗膜(既存の保護塗膜)上に50mg/m以上の塩分が付着していると、塗替え塗装後に早期に塗膜欠陥を生じやすいため、付着塩分の除去方法としては高圧水による洗浄が効果的としている。但し、素地調整により旧塗膜を含めて脆弱錆を除去した後、鉄鋼製構造物表層に残存している塩分量とその除去方法については言及していない。一方、無塗装で使用できる耐候性鋼の場合、建設後長期間経過した橋における緻密な錆層の付着塩分量は、50~1000mg/m程度であると記述されている。そして、層状剥離錆が発生したため塗装により補修する場合は、素地調整により層状剥離錆を除去した後、水洗等によって付着塩分量を50mg/m以下にすることを指針としている。
このように、素地調整後に残存している塩化物を、従来は水洗等により除去していた。しかし、旧塗膜に含有されている有害物質による環境汚染が問題視されるようになり、現在では水洗等の実施も困難な状況となっている。このため、水洗等に替え、素地調整した後も鉄鋼製構造物に残存している塩化物を、効率的かつ安全に除去できる工法の開発が望まれている。
そのための技術として、例えば下記特許文献1~4が開示されている。特許文献1では、塩分除去剤を用いた塗装方法として、下塗りまで工場塗装後現地搬入されてきた鋼構造物に中塗りを塗布する際、下塗り塗装面が設置工事中塩分飛来環境に長期間暴露されたため規定値以上の塩分量が付着した場合、下塗り塗装面に対し、アルカノールアミンとヒドロキシカルボン酸混合物を含有する塩分除去剤を高圧洗浄機によって噴霧後、中塗りを塗布する方法。また、中塗りに対しても養生期間中に飛来塩分により汚染され、規定値以上の塩分量が付着した場合にも、同様に塩分除去剤を噴霧後、上塗りを塗布する方法。さらに、桟橋橋脚の塗装工事等、潮の干満を利用して満潮時没水部分に塗装を行う際、素地調整としてアルカノールアミンとヒドロキシカルボン酸混合物を含有する塩分除去剤を高圧洗浄機にて噴霧後下塗りを塗装し、下塗り工程以降の各塗膜塗装前にも同様に塩分除去剤を噴霧し、被塗面の塩分を除去する方法が開示されている。これによれば、アルカノールアミンとヒドロキシカルボン酸混合物の錯体形成による塩素イオン捕捉作用により、被塗面を損傷することなく塩分除去効果をもたらすとされている。
特許文献2では、補修或いは塗装補修のために、処理対象とする鋼構造物の鉄鋼製構造物表面を研削、研磨或いはショットブラストなどの下地処理によって、素地露出面積率60%以上とする工程Aと、その後、所定濃度の炭酸ナトリウム水溶液を塗布する工程Bを施す方法である。この事前処理液としての炭酸ナトリウム水溶液は、素地調整面に残存する固着さびに浸透し、さび/鋼界面を不動態化して腐食を停止または抑制するものである。さび物質の表面化学的作用により、固着さび中に取り込まれた塩化物イオンを炭酸イオンにイオン交換し、塩分を腐食界面から離脱させる。この事前処理液を塗布すると、残存する固着さびが暗褐色に変化し、水分が付着した状態であっても戻りさびが発生しない。すなわち、腐食活性点が死滅したことになる。事前処理液は水溶液であるため乾燥すると炭酸ナトリウムの粉末が晶出する。その後、晶出した粉を電動回転工具に取り付けたナイロンカップワイヤーブラシなどで除去して、次の塗装工程に入ればよいとされている。
特許文献3には、鉄鋼製構造物の塗装前に行われる鉄鋼製構造物の下地処理方法であって、鉄鋼製構造物の表面に錆分解剤としてグリコール酸と、陰イオン吸着剤としてハイドロタルサイトやハイドロカルマイトとを含有する下地処理剤を塗布した後、鉄鋼製構造物の表面から錆分解剤および陰イオン吸着剤を除去する方法が開示されている。これによれば、錆分解剤が錆を分解して固着した塩化物イオンを可溶性の塩化物イオンに変化させ、陰イオン吸着剤が可溶性の塩化物イオンを吸着する。その後、この下地処理剤を水拭き等により除去することで、塗り替え塗膜の耐久性を向上させることができるとされている。
特許文献4には、塗装塗り替え時に軽度なケレンで長期の防食性を有する補修用下地塗料組成物が開示されている。具体的には、亜鉛末を主成分とする有機ジンクリッチペイントからなる補修用下地塗料組成物において、亜鉛末の含有量が前記組成物の全固形分に対して50~90質量%であり、さらに前記組成物の全固形分に対して0.5~3.5質量%の硫酸第一スズを含有している。この補修用下地塗料組成物は、残存塩化物量がNaCl換算で50mg/m以上である鉄鋼製構造物の表面に塗装するとされている。
なお、素地調整後の鉄鋼製構造物に残存する塩化物の除去方法ではないが、特許文献5には、物理的ケレン作業により発生する粉塵状微細塗膜片等の飛散を抑制できる水性湿潤剤を用いた既存塗膜の除去方法が開示されている。具体的には、粘度が500~20000mPa・sで、アルカリ成分により水への溶解が促進されるアルカリ膨潤性の水溶性高分子を含有する水性湿潤剤を既存塗膜の表面に塗布し、前記水性湿潤剤が付着したままの状態で前記既存塗膜を物理的ケレン作業により除去した後、ケレン作業面に残存した前記水性湿潤剤を、炭酸ナトリウム、セスキ炭酸ナトリウム、及び炭酸水素ナトリウムから選ばれる一種以上を含有するpH8.5~12.0のアルカリ水溶液で洗浄している。
一般社団法人日本防錆技術協会、「防錆管理」、Vol.64、No.3,2020、79~87頁
特開平10-237417号公報 特開2007-283237号公報 特開2017-193768号公報 特開2016-040350号公報 特開2020-132874号公報
特許文献1~3は、素地調整面に残存する塩化物を、塩化物除去剤によって吸着したり不動態化したりしてそれらを除去又は無害化するものである。しかし、素地調整面に塩化物除去剤を塗布等により付与しても、水と比べると、塩化物除去剤と塩化物との接触効率、延いては塩化物除去剤と塩化物との反応性には限界がある。特に、固着錆層の内部及び鉄鋼製構造物との界面を含む鉄鋼製構造物の表層にまで浸透した塩化物に対して、塩化物除去剤がどこまで反応できるかが懸念される。
特許文献4は、塗り替え塗料の塩化物に対する防食性を向上したものであって、そもそも残存塩化物を除去するのではない。特許文献5は、残存塩化物には着目しておらず、水性湿潤剤を素地調整面に塗布した後すぐに、ケレン作業及びアルカリ水によって水性湿潤剤を除去するものである。
そこで、本発明は上記課題を解決するものであって、鉄鋼製構造物の表層にまで浸透した塩化物でも効果的に除去することができる、素地調整鉄鋼製構造物の塩化物除去方法を提供することを目的とする。
そのための手段として、素地調整した後も塩化物が表層に残存している鉄鋼製構造物に対して、水と水溶性高分子とを含有する水性湿潤剤を素地調整面に塗布し、未乾燥のまま4時間以上放置することで塩化物が溶解して生じた塩化物イオンを前記水性湿潤剤中に溶出させた後、前記水性湿潤剤を除去する、素地調整鉄鋼製構造物の塩化物除去方法を提供する。
前記水性湿潤剤は、さらに陰イオン交換形層状顔料を含有することも好ましい。
<保護塗膜下での錆の発生メカニズム>
鉄鋼製構造物上の保護塗膜の表面が水分で湿潤すると、水分が保護塗膜内部に浸透し、保護塗膜下の鉄鋼製構造物との界面に水層が形成され、保護塗膜の付着性が低下する。そして、保護塗膜下の水層中に酸素が存在すると、鉄鋼製構造物の表面に局部電池が形成され、アノード部では鉄イオン(Fe2+)が溶出して腐食が生じ、カソード部では電極反応により水酸化物イオン(OH)が生成する。これらの電極反応生成物は保護塗膜下の水層に溶解するため、浸透圧の作用により、保護塗膜表面側の水分が保護塗膜下に侵入するのを促すことで、保護塗膜の膨れを生じる。そして、水分と同時に酸素も侵入するため、カソード部での電極反応が更に進行し、腐食電流が増加して鉄鋼製構造物の腐食が促進される。また、アノード反応生成物である鉄イオン(Fe2+)と、カソード反応生成物である水酸化物イオン(OH)は、結合して不溶物を析出し、酸化が進行することで赤黄色のオキシ水酸化鉄や黒色酸化鉄となり、保護塗膜の膨れと劣化を助長する。
<塩化物イオンの影響>
塩化物イオン(Cl)の存在は、錆の進行を一層速める。素地調整後の鉄鋼製構造物表層に塩化物が残存したまま保護塗膜を形成すると、後に水の侵入に伴い、保護塗膜下に腐食促進物質である塩化物イオンが溶出する。その結果、保護塗膜下で腐食電流が流れやすくなり、同時に浸透圧の作用も大きくなるため、保護塗膜下への水分と溶存酸素の侵入が促進され、腐食が一層進行する。これにより、早期に保護塗膜の膨れと錆が発生し、保護塗膜の本来の防食機能を果たせないことになる。
<解決原理>
橋梁や鉄塔等の鉄鋼製構造物を改修するにあたり、塗替え後に保護塗膜の膨れと錆が早期に再発するのを防ぐためには、素地調整した後も鉄鋼製構造物表層に残存している塩化物を、十分に除去してから塗替え塗装を実施する必要がある。そこで、本願発明者は、素地調整した後の鉄鋼製構造物に、水と水溶性高分子を含有する水性湿潤剤を塗布し、鉄鋼製構造物表面に保水層を形成することで、鉄鋼製構造物表層に残存している塩化物が溶解し、解離した塩化物イオンが水性湿潤剤中に溶出することを見出した。
そこで本発明では、水と水溶性高分子を含有する水性湿潤剤を、素地調整した後も塩化物が表層に残存している鉄鋼製構造物に塗布し、未乾燥のまま所定時間以上放置する。これにより、塩化物が溶解して生じた塩化物イオンを溶出させた後、水性湿潤剤と共に容易に除去することができる。
更に、水性湿潤剤に陰イオン交換形層状顔料を含有することで、これに塩化物イオンを吸着させ、塩化物イオンの吸収性延いては塩化物除去性能が向上する。但し、陰イオン交換形層状顔料の使用はあくまで塩化物除去性能の向上であって、塩化物除去の主体は、鉄鋼製構造物の表層まで浸透可能な水である。
錆鋼板の浸漬時間と塩化物イオンの溶出量及び溶出率との関係を示したグラフである。
≪水性湿潤剤≫
本発明で使用する水性湿潤剤は、水と水溶性高分子とを混合して得ることができる。
<水溶性高分子>
水溶性高分子は、水に溶解して水性湿潤剤に適度な粘度を付与するものである。これにより、水性湿潤剤は一定の保水性を有するジェル状になり、例え鉄鋼製構造物のほぼ垂直面に塗布しても所定時間留めておくことができる。水溶性高分子の具体例としては、高分子の構造ユニットに水酸基及びカルボキシル基のいずれか一方、又は双方を有するものであればよい。例えば、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、グアーガム、カラギーナン、アルギン酸、キサンタンガム、澱粉、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、水溶性ポリウレタン等、及び、これらの変性物を挙げることができる。これらの水溶性高分子は、一種のみを単独使用することもできるし、二種以上を混用することもできる。
なお、水に水溶性高分子を溶解させる際に、必要に応じて塩基性物質を添加することで、水溶性高分子の溶解を促進させることができる。塩基性物質としては、例えば、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アンモニア、アミン類、アミノアルコール類などを用いることができる。中でも、揮発性が良好であるため、使用後にケレン作業面に残存しにくいアンモニアが好ましい。
塩基性物質を添加する場合、その添加量は、0.01~1重量%が好ましく、0.05~0.5重量%がより好ましい。塩基性物質の添加量が少な過ぎると、水溶性高分子の溶解促進効果を得られ難い。一方、塩基性物質の添加量が多過ぎると、水溶性高分子に対して過剰添加となって、コストの無駄である。
水性湿潤剤の粘度(23℃)は、塗布する前の状態で500~20,000mPa・sが好ましく、1,000~10,000mPa・sがより好ましく、1,500~5,000mPa・sがさらに好ましい。水性湿潤剤の粘度が低すぎると、垂直面に塗布した際に流れ落ち易くなって、水性湿潤剤を鉄鋼製構造物表面に留め難くなる。延いては、水性湿潤剤の付着量が少なくなって湿潤状態を長時間維持するのが困難となり、水性湿潤剤中の水分が鉄鋼製構造物表層に十分浸透せず、水性湿潤剤への塩化物イオンの溶出が不十分となる。但し、鉄鋼製構造物のほぼ水平面へ塗布する場合は、水性湿潤剤の粘度はある程度低くてもよい。一方、水性湿潤剤の粘度がある程度高くても塩化物除去効果は大きく低下しないが、製造性や塗布作業性が低下する。
水溶性高分子の含有量は、水性湿潤剤の粘度を上記範囲で調整可能な範囲であればよい。具体的には、水性湿潤剤中における水溶性高分子の含有量は0.1~10重量%が好ましく、0.3~5重量%がより好ましい。水性湿潤剤の粘度は水溶性高分子の含有量に連動するため、水溶性高分子の含有量が少な過ぎると水性湿潤剤の粘度が低くなり過ぎ、水溶性高分子の含有量が多過ぎると、水性湿潤剤の粘度が高くなり過ぎる。
<陰イオン交換形層状顔料>
水性湿潤剤は、陰イオン交換形層状顔料を含有することで、更に塩化物イオン除去効果を高めることができる。陰イオン交換形層状顔料とは、アニオン交換機能を有する層状複水酸化物に分類される化合物、及び、その焼成物であり、2種以上の2価及び3価の金属を含む水酸化物層又は酸化物層を有しており、その層間に陰イオンを挟む構造を形成することが可能である。この特性を利用し、外部に存在する塩化物イオンを層間に取り込んで固定化することができる。陰イオン交換形層状顔料としては、ハイドロタルサイト及びその焼成物であるMg-Al酸化物、又は、ハイドロカルマイト等を挙げることができる。中でも、ハイドロタルサイトの焼成物であるMg-Al酸化物が好ましい。一般的なハイドロタルサイトは、炭酸イオンをインターカレートしており、酸性雰囲気でないと塩化物イオンと置換しにくい。これに対しハイドロタルサイトの焼成物は、水溶液中で層状複水酸化物構造を再生し、中性雰囲気であっても塩化物イオンをインターカレートできるからである。また、ハイドロタルサイト及びハイドロカルマイトの場合、いずれも亜硝酸イオンをインターカレートしたものが、亜硝酸イオンと交換して塩化物イオンを吸着し、さらに放出された亜硝酸イオンが防錆効果を有するため、より好ましい。
陰イオン交換形層状顔料を配合する場合、その含有量は0.1~10重量%が好ましく、0.5~8重量%がより好ましく、1~5重量%がさらに好ましい。陰イオン交換形層状顔料錆の含有量が少な過ぎると、水性湿潤剤に溶出した塩化物イオンの吸着性能が低下する。一方、陰イオン交換形層状顔料の含有量が多すぎると、溶出する塩化物イオンに対して過剰添加となって、コストの無駄である。
また、水性湿潤剤には、湿潤効果の持続性を高めるために、必要に応じてポリオール類を配合することができる。ポリオール類とは、主にポリウレタン用のポリエーテルポリオールのことであり、多価アルコールにプロピレンオキサイドやエチレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加重合させたものである。ポリオール類は常温(室温)において液状であり、水へは難溶であるが、水溶性高分子が界面活性剤として機能することで乳化し、水性湿潤剤中に均一分散する。水性湿潤剤中にポリオール類が配合されていることで、水性湿潤剤中の保水性がより向上し、より長時間湿潤状態を保つことができる。
ポリオールの数平均分子量は、200~3、000が好ましい。ポリオール類の具体例としては、例えばポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシプロピレングリセルエーテル、ポリエチレンアジペート、ポリエチレンブチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ネオペンチルアジペート、ポリオキシエチレンビスフェノールAエーテル、ポリオキシプロピレンビスフェノールAエーテル、及びこれらのアクリル酸エステルの重合物等が挙げられる。中でも、比較的入手が容易で安価であることから、数平均分子量が400~2、000のポリオキシプロピレングリコール又はポリオキシプロピレングリセルエーテルが好ましい。これらポリオール類は、一種のみを単独使用することもできるし、二種以上を混用することもできる。
水性湿潤剤にポリオール類を配合する場合、その含有量は0.5~30重量%が好ましく、1~25重量%がより好ましい。ポリオール類の含有量が少な過ぎると、保水性向上効果が得られ難い。但し、ポリオール類は必要に応じて添加する成分なので、0重量%でもよい。一方、ポリオール類の含有量が多すぎると、水性湿潤剤の洗浄に長時間を要するなど無駄な労力が必要になる。
また、水性湿潤剤には、湿潤化の速度を上げるため、必要に応じて錆浸透性湿潤剤を配合することができる。錆浸透性湿潤剤は、水に溶解又は分散し、水の表面張力を下げることで、錆層に水が浸透しやすくなる。錆浸透性湿潤剤のタイプとしては、ノニオン系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、アニオン系活性剤、カチオン系界面活性剤等があり、錆層に水が浸透し易くするものであれば特に限定されない。
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレン誘導体、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド等が挙げられる。中でも、HLB(Hydrophilic-Lipophilic Balance)が12以上のものが錆層への水の浸透性に優れている。
シリコーン系界面活性剤としては、例えば、ポリエーテル変性シリコーン、ポリエステル変性シリコーン、アラルキル変性シリコーン等が挙げられる。アニオン系活性剤としては、例えば、脂肪酸塩、スルホン酸塩、硫酸エステル塩、ナフタレンスルフォン酸ホルマリン縮合物、ポリカルボン酸塩等が挙げられる。カチオン系界面活性剤としては、例えば、アルキルアミン塩、第四級アンモニウム塩等が挙げられる。両性界面活性剤としては、例えば、アルキルベタイン、アルキルアミンオキサイド等が挙げられる。これらの錆浸透性湿潤剤は、一種のみを単独使用することもできるし、二種以上を混用することもできる。
錆浸透性湿潤剤を配合する場合、その含有量は0.01~1重量%が好ましく、0.05~0.5重量%がより好ましい。錆浸透性湿潤剤の含有量が少な過ぎると、水性湿潤剤の湿潤化促進効果が得られ難い。一方、錆浸透性湿潤剤の含有量が多すぎると、水性湿潤剤を洗浄した後も鉄鋼製構造物表層に錆浸透性湿潤剤が多く残存しがちとなり、塗替えた保護塗膜の耐水性や防食性を低下させる。
さらに、水性湿潤剤には、本発明の作用効果を阻害しない範囲で、防腐剤、防カビ剤、消泡剤、初期防錆剤、ゲル化剤、及び蛍光増白剤等の添加剤を、必要に応じて添加することができる。なお、ゲル化剤は、水性湿潤剤の調製時ではなく、素地調整面に水性湿潤剤を塗布する前、又は水性湿潤剤の塗布時(水性湿潤剤の塗布と同時)に、水性湿潤剤と接触させてもよい。
≪水性湿潤剤の調整方法≫
水性湿潤剤は、水を撹拌しながら水溶性高分子を徐々に水中に投入して均一に分散させた後、十分に溶解するまで撹拌することで調製できる。水溶性高分子が粉末状の場合、水溶性高分子粉末を一度に水中に投入すると、膨潤した水溶性高分子の粒子同士が凝集してその周囲に被膜を形成し、継粉(いわゆる“ダマ”)と呼ばれる固まりができてしまい、水への溶解性が悪化することがある。そこで、必要に応じて水溶性高分子粉末をアルコール等の親水性溶剤によって事前に湿潤させておくことも好ましい。
≪塩化物イオン除去方法≫
水性湿潤剤は、橋梁や鉄塔等の鉄鋼製構造物を塗り替える際に、劣化した既存の保護塗膜や腐食箇所に対して、物理的ケレンによる素地調整を実施した後、素地調整面に塗布する。水性湿潤剤の塗布方法は特に制限されず、代表的には植毛ローラーや多孔質スポンジローラー等を用いたローラー塗布のほか、刷毛塗り、及びスプレーや噴射機等を用いた噴射塗布などを例示できる。このとき、水性湿潤剤は適度に流動性が抑制された粘度を有するため、鉄鋼製構造物表面に付着したまま留まる。また、水性湿潤剤は保水性が良好であり、水分が蒸発し難く、長時間に渡り湿潤状態が保たれる。
鉄鋼製構造物表面に保水層を形成するため、水性湿潤剤の塗布量は、0.1~1.0kg/mが好ましく、0.2~0.6kg/mがより好ましい。水性湿潤剤の塗布量が少なすぎると、水性湿潤剤中の水分が鉄鋼製構造物表層に十分浸透せず、十分に塩化物を除去できない。一方、水性湿潤剤の塗布量が多くても塩化物除去効果に関しては問題ないが、鉄鋼製構造物への塗布量過剰となって、水平面では一部の水性湿潤剤が素地調整面の周囲まで無駄に濡れ広がったり、垂直面では一部の水性湿潤剤が無駄に流れ落ちたりするため、その拭き取り作業が必要となることがある。
このような無駄な濡れ広がりや流れ落ちを防止するため、水性湿潤剤の塗布後、その表面に不織布等の吸水性シートを覆い被せて、水性湿潤剤を吸水性シートに含浸させることもできる。これにより、水性湿潤剤の粘度が低めの場合、又は、水性湿潤剤の塗布量が多めの場合であっても、水性湿潤剤の無駄な濡れ広がりや流れ落ちを抑制できる。また、十分に塩化物イオンを水性湿潤剤中に溶出させた後、水性湿潤剤を素地調整面から除去する際に、吸水性シートを取り外せば、これと共にある程度の水性湿潤剤を一緒に除去することができる。
水性湿潤剤を素地調整面へ塗布した後は、水性湿潤剤が未乾燥のままの状態で、少なくとも4時間以上、好ましくは10時間以上、より好ましくは16時間以上放置する。水性湿潤剤は一定の保水性を有するため、素地調整面に塗布した後も一定時間湿潤状態が保たれるが、水性湿潤剤中の水分蒸発による乾燥を抑制して長時間確実に湿潤状態を保つため、必要に応じて塗布した水性湿潤剤の表面にビニルシート等の乾燥防止シートを覆い被せてもよい。そして、放置している間に水性湿潤剤中の水分が鉄鋼製構造物表層に浸透することで、素地調整面に残存している塩化物が溶解して塩化物イオンを生じ、水性湿潤剤中に溶出する。このため、放置時間が4時間未満では、水性湿潤剤中の水分が鉄鋼製構造物表層に十分浸透せず、又、塩化物イオンが水性湿潤剤中への溶出に要する時間も不足する。放置時間の上限は、水性湿潤剤が乾燥しない限り制限はない。
十分に水性湿潤剤中へ塩化物イオンを溶出させた後は、未乾燥状態の水性湿潤剤を、ヘラ等によりすくい取り、或いは、布ウエス、吸水紙等により拭き取ることで、溶出した塩化物イオンを水性湿潤剤と共に除去することができる。
このとき、必要に応じて水性湿潤剤にゲル化剤を付与して水性湿潤剤をゲル化(粘度を上げる)することもできる。ゲル化剤は、ゲル化剤を含有する水を水性湿潤剤の表面へ塗布することで付与することができる。ゲル化剤含有水の塗布方法は、水性湿潤剤の塗布方法と同じでよい。水性湿潤剤のゲル化には、水溶性高分子中の水酸基をゲル化剤中の水酸基により水素結合させる方法、又は、水溶性高分子中のカルボキシル基を多価金属イオンにより金属架橋させる方法を利用することができる。前者の例としては、ポリビニルアルコールと硼砂、グアーガムと硼砂等があり、後者の例としては、カルボキシメチルセルロースとミョーバン、アルギン酸と乳酸カルシウム等がある。これらのゲル化方法は、二種以上を組み合わせることもできる。ただし、鉄鋼製構造物の腐食を促進する物質となる塩化物は、ゲル化剤として好ましくない。水溶性高分子とゲル化剤の組合せ及び比率は、ゲル化するまでの時間、ゲル化や粘着性等の要求程度に応じて、適宜調整すればよい。
ゲル化剤によりゲル化された水性湿潤剤は、凝集力が増すため塊状に剥離しやすくなり、撤去時に散逸しにくく、回収するのが容易となる。また、ゲル化剤によってゲル化する他に、水性湿潤剤を乾燥させてある程度皮膜化した状態で撤去することもできる。皮膜化させれば、ゲル化剤を使用する場合よりも廃棄物としての重量が少なくなり、廃棄コストを低減できる。但し、皮膜化が進行し過ぎると付着強度が増すため、引き剥がすのが困難となる場合がある。
水性湿潤剤の塗布から除去までの工程は、必要に応じて複数回繰り返しても良い。ヘラ取りや拭き取りだけでは除去しきれなかった水性湿潤剤は、水拭きにより洗浄除去すればよい。このとき、水性湿潤剤によって鉄鋼製構造物表層から塩化物を完全に除去できていなかったとしても、当該塩化物は水性湿潤剤によって塩化物イオン化されているので、水拭きによる洗浄除去と同時に、残存する塩化物イオンも容易に除去することができる。
水性湿潤剤の拭き取り後の洗浄には、水のほか、アルカリ水を使用することも好ましい。本発明で使用する水溶性高分子はアルカリ膨潤性を有しているため、鉄鋼製構造物表面に残存する水性湿潤剤の乾燥が進み皮膜化しかけても、アルカリ水で速やかに再溶解することが可能であるからである。また、アルカリ水によって戻り錆の発生を抑制する効果もある。
アルカリ水としては、炭酸ナトリウム、セスキ炭酸ナトリウム、又は炭酸水素ナトリウム、若しくはそれらの混合物を含有し、pH8.5~12.0に調製した水溶液を使用できる。或いは、水酸化カリウムを含有し、pH11.0~13.0に調製された水溶液も使用できる。戻り錆の発生を効果的に抑制するためには、pH11.0以上とすることが好ましい。一方、作業者の取り扱い安全性を重視する場合は、皮膚の腐食性の影響を避けるためにpH11.5未満とすることが好ましい。
アルカリ水による洗浄方法は特に制限されないが、単純に噴きかけたり流しかけたりしてアルカリ水が地面に垂れ流れ土壌汚染が懸念される場合は、アルカリ水をスポンジ、ブラシ、タワシ、布ウエス等に含ませて少量ずつ塗布しながら素地を擦るか、若しくは、アルカリ水をムース状にして素地に吐出し、少量ずつ塗布しながら、スポンジ、ブラシ、タワシ、布ウエス等で素地を擦ることもできる。
水性湿潤剤の洗浄後は、戻り錆の発生を防ぐため速やかに乾燥させる。そのため、布ウエス、吸水紙等により水分を拭き取った上で、通気と換気を良くすることが好ましい。
以下に、本発明を具体化した実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
本発明による塩化物の除去性を評価するにあたっては、表面に強固な固着錆層を有し、錆中に含有する塩化物イオン量が1000mg/mを超えない程度に調製された錆鋼板を試験用基材として使用した。該錆鋼板の具体的な作製手順を以下に示す。
<錆鋼板の作製手順>
以下の手順1~6により、試験用基材である錆鋼板を作製した。
手順1:基材は、JIS G 3101に規定する構造用鋼板SS400(サイズ:縦150mm×横70mm×厚さ3.2mm)を用い、錆させる側の表面を、JIS K 5551の7.14(サイクル腐食性)に準じてブラスト処理する。
手順2:基材の裏面及び側面に、融解したパラフィン(JIS K 2235に規定する石油ワックスで、融点55~65℃のもの)を刷毛で塗付し、常温で固化させる。
手順3:JIS K 5600-7-9の5.(装置)に規定するサイクル腐食試験機を用い、同附属書1(サイクルD)の条件で基材のサイクル腐食を60サイクル実施し、表面に錆層を形成させた後、基材を試験機から取り出す。
手順4:基材を水道水に1~16時間浸漬して過度の含有塩分を除去した後、室温で24時間乾燥させる。
手順5:基材表面の脆弱な錆層をハンマーで叩いて除去し、更に金属光沢が出るまで表面をワイヤーブラシで擦り、表面に付着している粉状物を除去する。
手順6:手順1~5により作製した複数の錆鋼板の内1枚について、含有する塩化物イオン量が1000mg/mを超えない程度になっていることを確認し、残りの錆鋼板を試験用基材として使用する。含有する塩化物イオン量が1000mg/mを超える場合は、1000mg/mを超えない程度となるまで上記手順4~6を繰り返し、錆鋼板を調製する。
錆鋼板に含有する塩化物イオン量の測定方法としては、脱イオン水に浸漬して自然溶出させて測定する方法(以下、「浸漬法」と称する)、及び/又は、電解質溶液に浸漬して通電し、電気泳動により短時間で強制溶出させて測定する方法(以下、「通電法」と称する)を用いた。そして、通電法による飽和溶出量を、錆鋼板に含有する全塩化物イオン量と見なした。これらの具体的な測定方法を以下に示す。
<浸漬法による塩化物イオン含有量の測定>
錆鋼板を角型プラスチック容器(サイズ:縦18cm×横12cm×深さ6cm)の底に設置し、脱イオン水500mLを注ぎ入れ(試料負荷率21m/m)、容器を密閉後、室温で16時間浸漬する。錆鋼板を取り出し、脱イオン水に溶出した塩化物イオンの濃度(mg/L)を、塩素イオン測定用水質検知管「201SC」(光明理化学工業製)を用いて測定する。そして、塩化物イオンの溶出量(mg)を算出し、錆鋼板に含有する塩化物イオン量(mg/m)を求める。尚、試料負荷率(m/m)は以下の計算式による。
試料負荷率(m/m)=錆鋼板の錆面の面積(m)÷水の容量(m
<通電法による塩化物イオン含有量の測定>
錆鋼板上端の小部分の錆を研磨紙で削り落とし、通電するための配線を鰐口クリップで繋ぐ。次に、該錆鋼板を角型プラスチック容器(サイズ:縦18cm×横12cm×深さ6cm)の底に設置し、その上に接触しないように間隔を空けて、格子状の穴が開いたスペーサーを被せる。更に、その上に錆鋼板と同サイズのグラファイトシート電極を、錆鋼板の真上となるように固定し、通電するための配線を鰐口クリップで繋ぐ。最後に、グラファイトシート電極が完全に浸かるまで0.1規定の硝酸カリウム水溶液500mLを注ぎ入れ(試料負荷率21m/m)、容器を密閉する。この状態で、グラファイトシート側を陽極、錆鋼板側を陰極として、安定化電源から2.0Vの直流を流すことにより、錆中の塩化物イオンを溶出させ、電気泳動により陽極側に引き寄せる。10分間置きに通電を止め、溶出した塩化物イオンの濃度(mg/L)を、塩素イオン測定用水質検知管「201SC」により測定する。そして、塩化物イオンの濃度上昇がほぼ無くなるまで通電と測定を繰り返し、飽和溶出量(mg)から錆鋼板に含有する塩化物イオン量(mg/m)を求める。
図1は、浸漬法による塩化物イオンの飽和溶出量が約1100mg/mであった錆鋼板について、浸漬時間と塩化物イオンの溶出量及び溶出率との関係を示したグラフである。72時間まで浸漬を継続しており、溶出量は16時間でほぼ飽和状態になった。その後、更に該錆鋼板に対して通電法による溶出を試み、塩化物イオンの残存の有無を確認した。その結果、溶出量は塩素イオン測定用水質検知管「201SC」の測定下限値(1ppm)未満であったことから、浸漬法によっても塩化物イオンが残存せずに、ほぼ全量溶出することが判明した。このため、含有する塩化物イオン量が1000mg/mを超えない程度に調製された錆鋼板を用い、塩化物イオンの除去処理を実施した後は、測定操作が容易な浸漬法により塩化物イオンの残存量を測定した。
≪水性湿潤剤の調製≫
本発明による塩化物の除去性を評価するため、以下の手順で水性湿潤剤1~3を調製した。これらの原料と配合量(重量%)を表1に示す。
<水性湿潤剤1>
1Lポリカップに水を量り取り、撹拌装置で撹拌しながら水溶性高分子Aを少量ずつ添加して分散させ、次に30%アンモニア水を添加して均一に溶解させた。これにポリオール類を加えて約1時間撹拌し、水性湿潤剤1を調製した。
<水性湿潤剤2>
1Lポリカップに水を量り取り、撹拌装置で撹拌しながら水溶性高分子Aを少量ずつ添加して分散させ、次に30%アンモニア水を添加して均一に溶解させた。これに陰イオン交換形層状顔料とポリオール類を順次加えて約1時間撹拌し、水性湿潤剤2を調製した。
<水性湿潤剤3>
1Lポリカップに水を量り取り、撹拌装置で撹拌しながら水溶性高分子Bを少量ずつ添加して分散させ、次に30%アンモニア水を添加して均一に溶解させた。これに陰イオン交換形層状顔料を加えて約1時間撹拌し、水性湿潤剤3を調製した。
表1に示す各原料としては、次のものを使用した。
水溶性高分子A:ヒドロキシエチルセルロース(住友精化(株)製「BG15」)
水溶性高分子B:ヒドロキシプロピルグアーガム(三昌(株)製「MYPRO HPG8111」)
陰イオン交換形層状顔料:合成ハイドロタルサイトの焼成品(協和化学工業(株)製「KW-2000」)
ポリオール類:ポリオキシプロピレングリコール(三洋化成工業(株)製「サンニックスPP-1000」)
Figure 2023025447000002
水性湿潤剤1~3の粘度も、表1に併せて示す。粘度の測定は、水性湿潤剤1~3の温度を23℃に調整し、B8H型粘度計(回転数20rpm、測定時間2分間)を用いて測定した。
得られた水性湿潤剤1~3を用いて、塩化物除去性を評価した。
<塩化物イオン除去性>
水性湿潤剤による塩化物除去性は、試験用基材である錆鋼板に水性湿潤剤1~3を塗布し、時間を変えて放置した後、水性湿潤剤中に溶出した塩化物イオン量、及び、該基材に残存している塩化物イオン量を測定し、その合計量に対する溶出量の比率から評価した。これらの実施例及び比較例について、具体的な試験手順を以下に示し、試験結果を表2に示す。
<塩化物イオン除去性の試験手順>
(実施例1、2及び比較例1)
以下の手順1~6により試験を実施した。
手順1:試験用基材である錆鋼板に、水性湿潤剤を塗布量が4.2g(0.4kg/m)となるように刷毛で塗布し、直ちに全体を隙間なく透明プラスチックフィルム(旭化成ホームプロダクツ(株)製「サランラップ」(登録商標))で包み、密封する。規定時間放置後、試験用基材を開封して取り出し、塗布されている水性湿潤剤を紙片ですくい取り、試料として100ccポリカップに2.0g採取する。
手順2:試験用基材に残存している水性湿潤剤を吸水紙で拭き取る。
手順3:手順2の試験用基材に対して、更に、アルカリ水を噴霧しながら残剤を吸水紙で拭き取って洗浄する。該アルカリ水は、セスキ炭酸ナトリウム((株)丹羽久製「セスキ炭酸ソーダ」)を脱イオン水に溶解してpH10.3に調製する。
手順4:手順1で採取した試料を脱イオン水で50倍希釈した試験液について、塩素イオン測定用水質検知管「201SC」を用いて塩化物イオン濃度(ppm)を測定する。これにより希釈前の塩化物イオン濃度(ppm)を算出し、水性湿潤剤の塗布量(0.4kg/m)から、1m当りに換算した溶解塩化物イオン量(mg/m)を求め、これを試験用基材からの溶出塩化物イオン量(mg/m)と見なす。
手順5:手順3で洗浄処理した試験用基材の残存塩化物イオン量(mg/m)を、既述の浸漬法により測定する。
手順6:試験用基材の塩化物イオン含有量(mg/m)及び塩化物イオン除去率(%)を次式により求める。
塩化物イオン含有量(mg/m)=溶出塩化物イオン量+残存塩化物イオン量
塩化物イオン除去率(%)=(溶出塩化物イオン量÷塩化物イオン含有量)×100
(実施例3、6)
実施例1、2及び比較例1における手順3を実施しなかった以外は、実施例1等と同様の手順によって試験を実施し、塩化物イオン除去率(%)を求めた。
(実施例4、5)
実施例1等における手順4までと同様の手順によって試験を実施し、水性湿潤剤の溶解塩化物イオン量(mg/m)を求めた。次に、該試験液に炭酸水素ナトリウムを0.01g添加し、10分間撹拌して溶解させることにより、陰イオン交換形層状顔料に吸着している塩化物イオンを炭酸イオンに置換し、脱着した塩化物イオンを該試験液に溶出させた。その上で塩素イオン測定用水質検知管「201SC」を用いて塩化物イオン濃度(ppm)を測定した。そして、希釈前の塩化物イオン濃度(ppm)を算出し、水性湿潤剤の塗布量(0.4kg/m)から、1m当りに換算した溶出塩化物イオン量(mg/m)を求めた。更に、溶出塩化物イオン量(mg/m)から溶解塩化物イオン量(mg/m)を差し引くことにより、吸着塩化物イオン量(mg/m)を算出した。その後は、実施例1等における手順5から手順6までと同様の手順によって試験を実施し、塩化物イオン除去率(%)を求めた。尚、塩化物イオンの脱着に要する炭酸水素ナトリウム量は、陰イオン交換形層状顔料に対する塩化物イオンの飽和吸着量を事前に測定し、炭酸イオンが飽和吸着した塩化物イオンと全量置換する当量以上となるように定めた。
<塩化物イオン除去性の評価基準>
塩化物除去性は、塩化物イオン除去率から以下の基準により評価した。
◎:90%以上
○:75%以上、90%未満
△:60%以上、75%未満
×:60%未満
Figure 2023025447000003
表2に示すように、各実施例及び比較例は、試験用基材の塩化物イオン含有量が1000mg/mを超えない程度に調製されていた。水性湿潤剤の塗布後の放置時間が4時間である実施例1は、塩化物イオン除去率が61%となり、更に、放置時間が16時間である実施例2は、塩化物イオン除去率が75%に向上した。又、陰イオン交換形層状顔料を添加している実施例4、5は、無添加の実施例1及び2よりも塩化物イオン除去率が高くなり、特に実施例5では96%という極めて高い塩化物イオン除去率を示した。水溶性高分子Bを要した実施例6も、高い塩化物イオン除去率を示した。
また、水性湿潤剤の拭き取り後に洗浄を実施した実施例2は、洗浄を実施していない実施例3よりも塩化物イオン除去率が向上していた。これにより、仮に全ての塩化物を水性湿潤剤中へ溶出できていなかったとしても、塩化物がイオン化されていることで、水洗によって残存塩化物イオンを容易に減少できることが確認された。
一方、比較例1は放置時間が1時間と短いため塩化物イオン除去性が不十分であった。これは、水性湿潤剤中の水分が鉄鋼製構造物表層に十分浸透せず、又、塩化物イオンが水性湿潤剤中へ十分に溶出していないからである。しかも、水性湿潤剤の拭き取り後に洗浄も実施したが、それでも塩化物イオン除去率は37%と低かった。

Claims (2)

  1. 素地調整した後も塩化物が表層に残存している鉄鋼製構造物に対して、水と水溶性高分子とを含有する水性湿潤剤を素地調整面に塗布し、
    未乾燥のまま4時間以上放置することで塩化物が溶解して生じた塩化物イオンを前記水性湿潤剤中に溶出させた後、前記水性湿潤剤を除去する、素地調整鉄鋼製構造物の塩化物除去方法。
  2. 前記水性湿潤剤が、さらに陰イオン交換形層状顔料を含有する、請求項1に記載の素地調整鉄鋼製構造物の塩化物除去方法。
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