〔発明の詳細な説明〕
本開示の以下の説明は、本開示の様々な実施形態を例証することのみを意図している。
定義
冠詞「a」、「an」および「the」は、その冠詞の文法上の対象物の1または2以上(すなわち少なくとも1)を指すように本明細書において用いられる。例えば、「ある1つのポリペプチド複合体(a polypeptide complex)」は、1つのポリペプチド複合体または2以上のポリペプチド複合体を意味する。
本明細書において使用する用語「約」または「およそ」は、参照の数量、レベル、値、数、頻度、百分率、寸法、サイズ、量、重量または長さに対して30、25、20、15、10、9、8、7、6、5、4、3、2または1%の量だけ変動する、数量、レベル、値、数、頻度、百分率、寸法、サイズ、量、重量または長さを指す。特定の実施形態では、「約」または「およそ」という用語は、数値に先行して置かれる場合、プラスマイナス(±)15%、10%、5%または1%の範囲の値を示す。
本開示を通じて、文脈が別を必要としない限り、語句「~を含む(comprise, comprises)」および「~を含んでいる(comprising)」は、言及された一つの工程もしくは要素、または複数の工程もしくは要素の群を包含することを暗示するが、いずれか他の一つの工程もしくは要素、または他の複数の工程もしくは要素の群を排除することは暗示しないことが理解されるだろう。「~から成る」は、語句「~から成る」に続く要素はどのようなものでも含み、かつそれに限定することを意味する。従って、語句「~から成る」は、列挙された要素が必要または強制的であること、並びに他の要素が何も存在しないことを示している。「~から本質的に成る」は、その語句の後に列挙された任意の要素を含み、且つ列挙された要素に関して本開示の中で特定された活性または作用と干渉しないかまたはそれに寄与しない他の要素に限定されることを意味する。従って語句「~から本質的に成る」とは、列挙された要素は必要または強制的であるが、他の要素は随意であり、それらが列挙された要素の活性または作用に影響を及ぼすかどうかに応じて存在してもしなくてもよいことを示している。
本開示を通じての「一実施形態」、「ある実施形態」、「特定の実施態様」、「関連の実施形態」、「ある特定の実施形態」、「追加の実施形態」もしくは「更なる実施形態」またはそれらの組合せは、その実施形態と結びつけて説明された特定の特性、構造または特徴が、本開示の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。従って、この明細書全体を通して様々な場所における前述の語句の出現は、必ずしも全てが同じ実施形態に言及しているわけではない。更に、特別な特性、構造または特徴は、1以上の実施形態において任意の好適な様式で組み合わせることが可能である。
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」は、本明細書において互換的に用いられ、アミノ酸残基のポリマー、またはアミノ酸残基の複数のポリマーの集成体を指す。これらの用語は、その中の1以上のアミノ酸残基が、対応する天然型アミノ酸の人工の化学的模倣物であるアミノ酸ポリマー、並びに天然型アミノ酸ポリマーおよび非天然型アミノ酸ポリマーに適用される。用語「アミノ酸」とは、天然型および合成のアミノ酸、並びに天然型アミノ酸に類似した様式で機能するアミノ酸類似体およびアミノ酸模倣物を指す。天然型アミノ酸は、遺伝暗号によりコードされるもの、並びにその後修飾されるそれらのアミノ酸、例えばヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタメートおよびO-ホスホセリンなどである。アミノ酸類似体は、天然型アミノ酸と同じ基本的化学構造を有する化合物、すなわち、水素に結合しているα炭素、カルボキシル基、アミノ基およびR基を有する化合物、例えばホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウムなどを指す。そのような類似体は、修飾されたR基(例えばノルロイシン)または修飾されたペプチド骨格を有するが、依然として天然型アミノ酸と同じ基本的化学構造を保持している。α炭素は、カルボニルなどの官能基に結合している第一位の炭素原子を指す。β炭素は、α炭素に連結された第二位の炭素原子を指し、この体系は、ギリシャ文字によるアルファベット順に炭素を命名し続ける。アミノ酸模倣物は、アミノ酸の一般的化学構造とは異なる構造を有するが、天然型アミノ酸に類似した様式で機能する化合物を指す。「タンパク質」という用語は、典型的には、大型のポリペプチドを指す。「ペプチド」という用語は、典型的には、短いポリペプチドを指す。ポリペプチド配列は通常、ポリペプチド配列の左端がアミノ末端(N末端)であり;ポリペプチド配列の右端がカルボキシ末端(C末端)であるとして記載される。本明細書において使用する「ポリペプチド複合体」は、特定の機能を果たすように会合されている1つ以上のポリペプチドを含む複合体を指す。特定の実施形態において、このポリペプチドは免疫関連のものである。
本明細書において使用する「抗体」という用語は、特定の抗原に結合する任意の免疫グロブリン、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体、または二重特異性(二価)抗体を包含する。天然型の完全抗体は、2本の重鎖と2本の軽鎖とを含む。各重鎖は、可変領域(「HCVR」)と第一、第二、および第三の定常領域(CH1、CH2およびCH3)とから成り、一方で各軽鎖は、可変領域(「LCVR」)と定常領域(CL)とから成る。哺乳動物の重鎖はα、δ、ε、γおよびμとして分類され、哺乳動物の軽鎖はλまたはκとして分類される。抗体は、「Y字」型を有し、Y字の幹は、ジスルフィド結合を介して一緒に結合された2本の重鎖の第二および第三の定常領域からなる。このY字の各アームは、1本の軽鎖の可変領域と定常領域とに結合された、1本の重鎖の可変領域と第一の定常領域とを含む。軽鎖および重鎖の可変領域が抗原結合を担う。双方の鎖の可変領域は一般に、相補性決定領域(CDR)と称される、3つの超可変ループを含む(軽(L)鎖CDRは、LCDR1、LCDR2およびLCDR3を含み、重(H)鎖CDRは、HCDR1、HCDR2、HCDR3を含む)。抗体のCDR境界は、Kabat、Chothia、またはAl-Lazikaniの表現法に従って定義または同定される〔Al-Lazikani, B., Chothia, C., Lesk, A.M., J. Mol. Biol., 273(4), 927 (1997);Chothia, C.他、J Mol. Biol. Dec 5;186(3):651-63 (1985);Chothia, C.& Lesk, A.M., J.Mol.Biol., 196,901 (1987);Chothia, C.他、Nature. Dec 21-28; 342(6252):877-83 (1989);Kabat E.A.他、National Institutes of Health, メリーランド州ベセスダ(1991)〕。これら3種のCDRは、フレームワーク領域(FR)として公知の隣接配列(stretch)間に挟まれており、この領域はCDRよりも高度に保存されており、且つ超可変ループを支持するための足場(scaffold)を形成する。HCVRおよびLCVRの各々は4つのFRを含み、CDRとFRは、アミノ末端からカルボキシ末端の方向に、以下の順に配置される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。重鎖および軽鎖の定常領域は、抗原結合に関与しないが、様々なエフェクター機能を発揮する。抗体は、それらの重鎖の定常領域のアミノ酸配列に基づいて抗体クラスに割り当てられる。5種の抗体の主要クラスまたはアイソタイプは、IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMであり、これらはそれぞれα、δ、ε、γおよびμ重鎖の存在により特徴付けられる。主要な抗体クラスの幾つかは、IgG1(γ1重鎖)、IgG2(γ2重鎖)、IgG3(γ3重鎖)、IgG4(γ4重鎖)、IgA1(α1重鎖)、またはIgA2(α2重鎖)のようなサブクラスに分けられる。
本明細書において使用する抗体に関する「可変ドメイン」という用語は、1つ以上のCDRを含む抗体可変領域またはその断片(フラグメント)を指す。可変ドメインは、完全な可変領域(HCVRまたはLCVRなど)を含み得るが、抗原結合部位を形成する能力をまだ保持している、完全可変領域よりも小さい部分を含むことも可能である。
本明細書において使用する「抗原結合部分」という用語は、1つ以上のCDRを含む抗体の部分から形成された抗体断片、または、抗原に結合するが完全な生来の(天然型)抗体構造は含まない任意の他の抗体断片を指す。抗原結合部分の例としては、可変ドメイン、可変領域、ダイアボディ、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv断片、ジスルフィドで安定化されたFv断片 (dsFv)、(dsFv)2、二重特異性dsFv(dsFv-dsFv’)、ジスルフィドで安定化されたダイアボディ(dsダイアボディ)、多重特異性抗体、ラクダ化単一ドメイン抗体、ナノボディ、ドメイン抗体、および二価ドメイン抗体が挙げられるが、これらに限定されるものではない。抗原結合部分は、親抗体が結合するものと同じ抗原への結合が可能である。特定の実施態様では、抗原結合部分は、1以上の異なるヒト抗体由来のフレームワーク領域にグラフトされた特定のヒト抗体由来の1以上のCDRを含んでよい。抗原結合部分のより多くの詳細なフォーマットについては、Spiess他の論文(2015(前掲))およびBrinkman他の論文(mAbs, 9(2), pp.182-212 (2017))において説明されており、それらの全内容が引用により本明細書中に組み込まれる。
抗体に関連する「Fab」は、ジスルフィド結合によって1本の重鎖の可変領域と第一の定常領域に結合している1本の軽鎖(可変領域と定常領域の両方)とから成る抗体の部分を指す。特定の実施形態では、軽鎖と重鎖の両鎖の定常領域がTCR定常領域で置き換えられる。
「Fab’」は、ヒンジ領域の一部分を含むFab断片を指す。
「F(ab’)2」は、Fab’の二量体を指す。
抗体に関する「Fd(fragment difficult)」は、軽鎖と組み合わせられるとFabを形成することができる重鎖断片のアミノ末端の半分を指す。
抗体に関する「Fc」は、ジスルフィド結合を介して、第二の重鎖の第二の定常領域と第三の定常領域に結合した、第一の重鎖の第二(CH2)の定常領域と第三(CH3)の定常領域とから成る抗体の部分を指す。抗体のFc部分は、ADCCおよびCDCなど、様々なエフェクター機能を担うが、抗原結合には機能しない。
抗体に関する「ヒンジ領域」は、CH1ドメインをCH2ドメインに連結する重鎖分子の部分を含む。このヒンジ領域は、およそ25個のアミノ酸残基を含み、自由度があり、従って2つのN末端の抗原結合領域を独立して動けるようにする。
本明細書において使用する「CH2ドメイン」は、伝統的番号付け方法を使用し、例えばIgG抗体の約244番目のアミノ酸から360番目のアミノ酸にまで及ぶ、重鎖分子の部分を含むことを指す(244位アミノ酸から360位アミノ酸、Kabat番号付け法;および、231位アミノ酸から340位アミノ酸、EU番号付け法;Kabat, E.他、U.S. Department of Health and Human Services, (1983)を参照されたい)。
「CH3ドメイン」は、IgG分子のCH2ドメインからC末端にまで及び、且つおよそ108個のアミノ酸を含む。特定の免疫グロブリンクラス、例えばIgMは、更にCH4領域を含む。
抗体に関する「Fv」は、完全な抗原結合部位を有する最も小さい抗体断片を指す。Fv断片は、1本の重鎖の可変ドメインに結合した1本の軽鎖の可変ドメインから成る。数多くのFv設計が提供されており、例えば、2つのドメイン間の会合が、ジスルフィド結合の導入により増強されているdsFv;並びに、1つのポリペプチドとして2つのドメインを一緒に結合するために、ペプチドリンカーを使用して形成させることができるscFvがある。対応する免疫グロブリン重鎖または軽鎖の可変ドメインおよび定常ドメインに会合された免疫グロブリン重鎖または軽鎖の可変ドメインを含むFv構築体も、創製されている。Fvはまた、ダイアボディおよびトリボディを形成させるために多量化されている(Maynard他、Annu Rev Biomed Eng 2 339-376 (2000))。
「scFab」は、1本鎖Fab断片(scFab)の形成を生じる、ポリペプチドリンカーを介し軽鎖に連結されたFdを伴う融合ポリペプチドを指す。
「TriFab」は、Fab機能を持ち、3つのユニットから構成された、三価の二重特異性融合タンパク質を指す。TriFabは、非対称のFab様部分に融合された2つの通常のFabを含んでいる。
「Fab-Fab」は、第一のFabアームのFd鎖を、第二のFabアームのFd鎖のN末端に融合させることにより形成された、融合タンパク質を指す。
「Fab-Fv」は、HCVRをFd鎖のC末端にそしてLCVRを軽鎖のC末端に融合させることにより形成された、融合タンパク質を指す。「Fab-dsFv」分子は、HCVRドメインとLCVRドメインの間のドメイン間ジスルフィド結合の導入により、形成することができる。
「mAb-Fv」または「IgG-Fv」は、HCVRドメインを一方のFc鎖のC末端へ、そしてLCVRドメインを個別に発現させるかまたは他方のFc鎖のC末端へ融合させ、二重特異性の三価IgG-Fv(mAb-Fv)融合タンパク質を生成させることにより形成された融合タンパク質であって、そのFvがドメイン間ジスルフィド結合により安定化されている融合タンパク質である。
「scFab-Fc-scFv2」および「scFab-Fc-scFv」は、一本鎖Fabを、Fcおよびジスルフィドで安定化されたFvドメインと融合させることにより形成された融合タンパク質を指す。
「IgG付加体」は、二重特異性の(Fab)2-Fcのフォーマットを形成するために、IgGに融合されたFabアームを有する融合タンパク質を指す。これは、コネクターを伴ってまたは伴わずにIgG分子のC末端またはN末端にFabが融合されている、「IgG-Fab」または「Fab-IgG」を形成することができる。特定の実施態様において、IgG付加体は、IgG-Fab4のフォーマットに更に改変することができる(Brinkman他、2017、前掲参照)。
「DVD-Ig」は、第二の特異性の追加のHCVRドメインおよびLCVRドメインを、IgG重鎖と軽鎖へ融合させるこにより形成された、デュアル可変ドメイン抗体を指す。「CODV-Ig」は、2つのHCVRドメインと2つのLCVRドメインとが、可変HCVR-LCVRドメインの交差対合を可能にする形で連結されている、関連フォーマットを指し、これは(N末端からC末端方向において)順にHCVRA-HCVRBおよびLCVRB-LCVRA、または順にHCVRB-HCVRAおよびLCVRA-LCVRBのいずれかで配置される。
「CrossMab」は、未修飾軽鎖と対応する未修飾重鎖との対合、および修飾した軽鎖と対応する修飾した重鎖との対合技術であって、その結果、軽鎖における誤対合が低減した抗体をもたらす技術を指す。
「BiTE」は、LCVR-HCVR配向で第一の抗原特異性を持つ第一のscFvが、HCVR-LCVR配向で第二の抗原特異性を持つ第二のscFvに連結されている、二重特異性T細胞エンゲージャー(engager)分子である。
「WuXiBody」は、抗体の可変ドメインとTCRの定常ドメインとを有する可溶性キメラタンパク質を含む二重特異性抗体であって、前記TCR定常ドメインのサブユニット(例えばαおよびβドメイン)が、遺伝子工学的に改変された(engineered)ジスルフィド結合によって連結されている、二重特異性抗体である。
アミノ酸配列(または核酸配列)に関する「配列同一性パーセント(%)」は、配列を整列させ、必要であればギャップを導入した後に、同一アミノ酸(または核酸)の数が最大となるように、参照配列中のアミノ酸(または核酸)残基と同一である、候補配列中のアミノ酸(または核酸)残基の百分率として定義される。アミノ酸残基の保存的置換は、同一残基としてみなしてもみなさなくてもどちらでもよい。アミノ酸(または核酸)配列の同一性%を決定する目的での整列は、例えば、BLASTN、BLASTp(米国立生物工学情報センター(NCBI)のウェブサイトから入手可能、Altschul S.F.他、J. Mol. Biol., 215:403-410 (1990);Stephen F.他、Nucleic Acids Res., 25:3389-3402 (1997)も参照)、ClustalW2(欧州バイオインフォマティクス研究所(EBI)のウェブサイトから入手可能、Higgins D.G.他、Methods in Enzymology, 266:383-402 (1996);Larkin M.A.他、Bioinformatics(オックスフォード、英国), 23(21): 2947-8 (2007)も参照)、並びにALIGNまたはMegalign(DNASTAR)ソフトウェアなどの、公的に入手可能なツールを用いて、達成することができる。当業者は、ツールにより提供されたデフォルトパラメータを使用してよく、または例えば好適なアルゴリズムの選択などによって整列に適するようにパラメータをカスタマイズしてもよい。
本明細書において使用する「抗原」または「Ag」は、細胞培養物または動物において、抗体の産生またはT細胞応答を刺激することができる化合物、組成物、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質または物質を指し、細胞培養物に添加される(ハイブリドーマなど)組成物(例えば癌特異的タンパク質を含むものなど)、または動物へ注入もしくは吸収される組成物を含む。抗原は、異種抗原により誘導されたものを含む、特別な体液性免疫または細胞性免疫の産物(抗体など)と反応する。
「エピトープ」または「抗原決定基」は、それに結合剤(抗体など)が結合する抗原の領域を指す。エピトープは、タンパク質の三次元折り畳みにより並置された、連続アミノ酸(直線状または連続エピトープとも称される)または非連続アミノ酸の両方から形成されうる(立体配置的または高次構造的エピトープとも称される)。連続アミノ酸から形成されたエピトープは、典型的には、タンパク質上の一次アミノ酸残基に沿って直線状に配置され、且つ連続アミノ酸の小型セグメントは、主要組織適合性複合体(MHC)分子に結合している抗原から消化されるか、または変性溶媒に曝露した時に保持され得るのに対し、三次元折り畳みにより形成されたエピトープは、典型的には変性溶媒による処理時に失われる。エピトープは、独自の空間高次構造において、典型的には少なくとも3個、より一般には少なくとも5個、約7個、または約8個~10個のアミノ酸を含む。
本明細書において使用する「特異的結合」または「特異的に結合する」という用語は、例えば抗体と抗原の間など、2つの分子間の無作為ではない結合反応を指す。特定の実施形態では、本明細書に提供されるポリペプチド複合体および二重特異性ポリペプチド複合体は、結合親和性(KD)≦10-6M(例えば、≦5×10-7M、≦2×10-7M、≦10-7M、≦5×10-8M、≦2×10-8M、≦10-8M、≦5×10-9M、≦2×10-9M、≦10-9M、または≦10-10M)で、抗原に特異的に結合する。本明細書において使用されるKDは、解離速度対会合速度の比(koff/kon)を指し、これは例えばBiacore(登録商標)などの装置を使用した、表面プラズモン共鳴法を用いて決定されてよい。
用語「作動可能に連結する」または「作動可能に連結される」とは、2以上の着目の生物学的配列が、意図された様式でそれらを機能できるようにする関係にあるように、スペーサーまたはリンカーを伴ってまたは伴わずに、それらの配列が近位であることを指す。ポリペプチドに関して用いる場合、そのポリペプチド配列は、連結された生成物が意図された生物学的機能を有することができるように連結されることを意味するものである。例えば、抗体可変領域は、抗原結合活性を持つ安定した生成物を提供するように、定常領域に機能的に連結されてよい。この用語はまた、ポリヌクレオチドに関しても使用される。例として、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが、調節配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、サイレンサー配列など)に機能的に連結される場合、これらのポリヌクレオチド配列が、ポリヌクレオチドからのポリペプチドの制御された発現を可能にするように連結されることを意味するものである。
アミノ酸配列(例えばペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質)に関して使用される場合、用語「融合」または「融合された」とは、天然には存在しない、単独のアミノ酸配列への、例えば化学結合または組換え手段による、2以上のアミノ酸配列の結合を指す。融合アミノ酸配列は、2つのコード化ポリヌクレオチド配列の遺伝子組換えによって作製されてよく、また、宿主細胞への組換えポリヌクレオチドを含む構築体の導入方法により発現させることができる。
本明細書において使用する「スペーサー」という用語は、ペプチド結合により結合され、且つ1以上のポリペプチドを連結するために使用される、1、2、3、4または5個のアミノ酸残基、または長さ5から15、20、30、50もしくはそれ以上のアミノ酸残基を有する、人工のアミノ酸配列を指す。スペーサーは、二次構造を有しても有さなくともよい。スペーサー配列は、当該技術分野において公知であり、例えば、Holliger他、Proc.Natl. Acad. Sci. USA 90:6444-6448 (1993);Poljak他、Structure 2:1121-1123 (1994)を参照されたい。当該技術分野において公知の任意の好適なスペーサーを使用することができる。
用語「抗原特異性」は、抗原結合分子により選択的に認識される特定の抗原またはそのエピトープを指す。
本明細書において使用されるアミノ酸残基に関する用語「置換」は、ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質における、1つ以上のアミノ酸の、別のアミノ酸による、天然に生じるかまたは誘導された入れ替えを指す。ポリペプチドにおける置換は、ポリペプチドの機能の減退、増強、または消失を生じ得る。
置換はまた、アミノ酸配列に関して「保存的置換」であることができ、これは、アミノ酸残基の類似の物理化学的特性を持つ、側鎖を有する異なるアミノ酸残基による置換、またはそのポリペプチドの活性にとって重要でないそれらのアミノ酸の置換を指す。例えば、保存的置換は、非極性側鎖を持つアミノ酸残基間(例えば、Met、Ala、Val、Leu、およびIle、Pro、Phe、Trp)、無電荷の極性側鎖を持つ残基間(例えば、Cys、Ser、Thr、Asn、GlyおよびGln)、酸性側鎖を持つ残基間(例えば、Asp、Glu)、塩基性側鎖を持つアミノ酸間(例えば、His、LysおよびArg)、β分岐側鎖を持つアミノ酸間(例えば、Thr、ValおよびIle)、硫黄含有側鎖を持つアミノ酸間(例えば、CysおよびMet)、または芳香族側鎖を持つ残基間(例えば、Trp、Tyr、HisおよびPhe)で行うことができる。特定の実施形態では、置換、欠失または付加も「保存的置換」とみなすことができる。挿入または欠失されるアミノ酸の数は、約1~5個の範囲であることができる。保存的置換は通常、タンパク質の高次構造に著しい変化を引き起こすことはなく、その結果、そのタンパク質の生物活性を保持することができる。
本明細書において使用するアミノ酸残基に関する用語「変異」または「変異された」は、アミノ酸残基の置換、挿入、または付加を指す。
本明細書において使用するときの「T細胞」は、細胞媒介性免疫において重要な役割を果たすリンパ球の1つの型を指し、これはヘルパーT細胞(例えば、CD4+ T細胞、Tへルパー1型T細胞、Tヘルパー2型T細胞、Tヘルパー3型T細胞、Tヘルパー17型T細胞)、細胞傷害性T細胞(例えばCD8+ T細胞)、記憶T細胞(例えば、セントラル記憶キラーT細胞(TCM細胞)、エフェクター記憶キラーT細胞(TEM細胞およびTEMRA細胞)並びにCD8+またはCD4+のいずれかである組織潜在型記憶キラーT細胞(TRM))、ナチュラルキラーT(NKT)細胞および抑制性T細胞を含む。
天然型「T細胞受容体」または天然型「TCR」は、シグナル伝達を媒介することが可能である複合体を形成するために、変種CDR鎖に会合される、ヘテロ二量体のT細胞表面タンパク質である。TCRは、免疫グロブリンスーパーファミリーに属し、且つ1本の重鎖と1本の軽鎖を含む半抗体に類似している。天然型TCRは、細胞外部分、膜貫通部分および細胞内部分を有する。TCRの細胞外ドメインは、膜近位の定常領域および膜遠位の可変領域を有する。
本明細書において使用する用語「対象」または「個体」または「動物」または「患者」は、疾患または障害の診断、予後診断、改善、予防、および/または治療を必要とする、ヒトまたは哺乳動物もしくは霊長類を含む非ヒト動物を指す。哺乳動物の対象は、ヒト、家畜、飼育動物、および動物園の動物、スポーツ用動物、またはペット用動物、例えばイヌ、ネコ、モルモット、ウサギ、ラット、マウス、ウマ、ブタ、ウシ、クマなどを含む。
二重特異性ポリペプチド複合体
一態様では、本開示は二重特異性ポリペプチド複合体を提供する。本明細書で用いる「二重特異性」という用語は、2つの抗原結合部分が存在し、その各々が同一抗原上の異なる抗原または異なるエピトープに特異的に結合することができることを意味する。本明細書に提供される二重特異性ポリペプチド複合体は、第二の抗原結合部分と会合された第一の抗原結合部分を含み、それらのうちの一方がCD3を特異的に結合し、そして他方がCD20に特異的に結合する。言い換えれば、第一の抗原結合部分がCD3に特異的に結合しそして第二の抗原結合部分がCD20に特異的に結合してよい。あるいは、第一の抗原結合部分がCD20に特異的に結合しそして第二の抗原結合部分がCD3に特異的に結合してよい。本開示においては、「二重特異性抗CD3×CD20ポリペプチド複合体」、「CD3およびCD20を標的とするポリペプチド複合体」、または「抗CD3およびCD20ポリペプチド複合体」という用語は、互換的に用いることができる。
特定の実施形態では、本開示は、二重特異性ポリペプチド複合体であって、第二の抗原結合部分と会合されている第一の抗原結合部分を含み、ここで
第一の抗原結合部分は
N末端からC末端に向かって、第一のT細胞受容体(TCR)定常領域(C1)に作動可能に連結された第一の抗体の第一の重鎖可変ドメイン(VH)を含む、第一のポリペプチド;および
N末端からC末端に向かって、第二のTCR定常領域(C2)に作動可能に連結された第一の抗体の第一の軽鎖可変ドメイン(VL)を含む、第二のポリペプチド
を含み、ここで
C1とC2は、少なくとも1つの非天然の鎖間結合を含む二量体を形成することができ、そしてその非天然の鎖間結合が前記二量体を安定化させることができ、
そして
前記第二の抗原結合部分は
抗体重鎖CH1ドメインに作動可能に連結された第二の抗体の第二の重鎖可変ドメイン(VH2);および
抗体軽鎖定常(CL)ドメインに作動可能に連結された第二の抗体の第二の軽鎖可変ドメイン(VL2)
を含み、ここで
前記第一と第二の抗原結合部分のうちの一方が抗CD3結合部分であり、そして他方が抗CD20結合部分であり;
前記抗CD3結合部分が、以下を含む抗CD3抗体に由来する:
a) 配列番号1、13、25、37および49から成る群より選択されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
b)配列番号2、14、26、38および50から成る群より選択されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、
c)配列番号3、15、27、39および51から成る群より選択されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
d)配列番号4、16、28、40および52から成る群より選択されるアミノ酸配列を含むκ軽鎖CDR1、
e)配列番号5、17、29、41および53から成る群より選択されるアミノ酸配列を含むκ軽鎖CDR2、および
f)配列番号6、18、30、42および54から成る群より選択されるアミノ酸配列を含むκ軽鎖CDR3、
抗CD20結合部分が、以下を含む抗CD20抗体に由来する:
a)配列番号7、19、31、43および55から成る群より選択されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
b)配列番号8、20、32、44および56から成る群より選択されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、
c)配列番号9、21、33、45および57から成る群より選択されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
d)配列番号10、22、34、46および58から成る群より選択されるアミノ酸配列を含むκ軽鎖CDR1、
e)配列番号11、23、35、47および59から成る群より選択されるアミノ酸配列を含むκ軽鎖CDR2、および
f)配列番号12、24、36、48および60から成る群より選択されるアミノ酸配列を含むκ軽鎖CDR3。
特定の実施形態では、本明細書に提供される二重特異性ポリペプチド複合体は、TCR定常領域に由来する配列を含む第一の抗原結合部分を含むが、第二の抗原結合部分はTCR定常領域に由来する配列を含まない。
本明細書に提供される二重特異性ポリペプチド複合体は、誤対合した重鎖可変領域と軽鎖可変領域を有する傾向が有意に少ない。いかなる理論にも縛られることなく、第一の抗原結合部分の中の安定化されたTCR定常領域は、互いに特異的に会合することができるため、意図する抗原結合部位を提供しない他の可変領域とのVH1またはVL1の望ましくない誤対合を阻止しながら、意図するVH1とVL1の高特異的な対合に寄与すると考えられる。
特定の実施形態では、第二の抗原結合部分は、VH2に作動可能に連結された抗体重鎖定常CH1ドメインと、VL2に作動可能に連結された抗体軽鎖定常ドメインとを更に含む。よって、第二の抗原結合部分はFabを含む。
第一、第二、第三および第四の可変ドメイン(例えば、VH1、VH2、VL1およびVL2)が1つの細胞中で発現される場合、VH1がVL1と特異的に対合し、そしてVH2がVL2と特異的に対合し、生成した二重特異性タンパク質生成物が正しい抗原結合特異性を有することが非常に望ましい。しかしながら、ハイブリッド-ハイブリドーマ(またはクアドローマ)などの既存の技術では、VH1、VH2、VL1およびVL2のランダム対合が起こり、結果として10通りまでの異なる種の生成を引き起こし、そのうちのただ1つだけが機能的な二重特異性抗原結合分子である。これは、生産収率を低下させるだけでなく、標的生産物の精製も複雑にする。
本明細書に提供される二重特異性ポリペプチド複合体は、第一の抗原結合部分と第二の抗原結合部分の両方が天然Fabの対応物であるとしたら有していたであろう誤対合する傾向がより少ないという点で、並外れて優れている。例示的な例では、第一の抗原結合ドメインは、VL1-C2と対合したVH1-C1を含み、そして第二の抗原結合ドメインはVL2-C1と対合したVH2-CH1を含む。驚くべきことに、C1とC2は互いに優先的に結合し、CLまたはCH1と結合する傾向が少ないため、C1-CH、C1-CL、C2-CH、C2-CLなどの不要なペアの形成が阻止されて相当削減されることが判明した。C1-C2の特異的結合の結果として、VH1はVL1と特異的に対になることによって第一の抗原結合部位を提供し、CH1はCLと特異的に対になり、それによってVH2-VL2の特異的結合を可能にして第二の抗原結合部位を提供する。従って、第一の抗原結合部分と第二の抗原結合部分はミスマッチする傾向が少なく、そして第一抗原結合部分と第二の抗原結合部分の両方が天然Fabの対応物である場合に、例えばVH1-CH1、VL1-CL、VH2-CH1およびVL2-CLの形にある場合に有していたであろう、例えばVH1-VL2、VH2-VL1、VH1-VH2、VL1-VL2の間の誤対合が、相当削減される。
特定の実施形態では、本明細書に提供される二重特異性ポリペプチド複合体は、細胞から発現されると、同等の条件下で発現された比較参照(リファレンス)分子よりも、有意に少ない誤対合生成物(例えば少なくとも1、2、3、4、5またはそれ以上少ない誤対合生成物)および/または有意に高い生産収率(例えば少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%またはそれ以上の高収率)を有する。ここで、比較参照分子は、C1の代わりに天然型CH1を有しそしてC2の代わりに天然型CLを有すること以外は完全に二重特異性ポリペプチドと同一である。
改変型CαとCβを含む抗原結合部分
本明細書に提供される第一の抗原結合部分は、第一のT細胞受容体(TCR)定常領域に作動可能に連結された第一の抗体の重鎖可変ドメイン、および、第二のTCR定常領域に作動可能に連結された第一の抗体の軽鎖可変ドメインを含み、ここで前記第一のTCR定常領域と第二のTCR定常領域が、少なくとも1つの非天然の鎖間ジスルフィド結合によって結合している。第一の抗原結合部分は少なくとも2本のポリペプチド鎖を含み、その各鎖が1つの抗体に由来する可変ドメインと1つのTCRに由来する定常領域とを含んでいる。第一の抗原結合部分は、重鎖可変ドメインと軽鎖可変ドメインを含み、それらはそれぞれ一対のTCR定常領域に作動可能に連結されている。特定の実施形態では、第一の抗原結合部分のTCR定常領域のペアは、α/βTCR定常領域である。本明細書中に提供されるポリペプチド複合体中のTCR定常領域は、少なくとも1つの非天然のジスルフィド結合を介して互いに会合して二量体を形成することができる。
驚くべきことに、少なくとも1つの非天然のジスルフィド結合を有する本明細書に提供される第一の抗原結合部分が、組換え発現させることができ、且つ抗体可変領域の優れた抗原結合活性を提供しながらTCR定常領域二量体を安定化させる、望ましいコンホメーションへと組み立てることができることが判明した。更に、第一の抗原結合部分は、日常的な抗体工作、例えばグリコシル化部位の修飾、および幾つかの天然配列の除去を十分に寛容することが判明した。更に、本明細書に提供されるポリペプチド複合体は、容易に発現させることができ、かつ、第一の抗原結合部分のTCR定常領域の存在による抗原結合配列のミスペアリングを最小にまたは実質的にゼロにして組み立てることができる、二重特異性形態に組み込むことができる。本明細書に提供される第一の抗原結合部分および構築物の追加の利点は、以下の開示においてより明らかになるであろう。
要約すれば、本明細書に提供される第一の抗原結合部分は、N末端からC末端に向かって、第一のT細胞受容体(TCR)定常領域(C1)に作動可能に連結された第一の抗体の第一の重鎖可変ドメイン(VH)を含む第一のポリペプチドと、N末端からC末端に向かって、第二のTCR定常領域(C2)に作動可能に連結された第一の抗体の第一の軽鎖可変ドメイン(VL)を含む第二のポリペプチドとを含み、ここでC1とC2は二量体を形成することができ、そしてC1とC2との間の非天然の鎖間ジスルフィド結合が該二量体を安定化することができる。
TCR定常領域
本明細書に提供される第一の抗原結合部分は、TCRに由来するαまたはβ定常領域を含む。
ヒトTCRα鎖定常領域はTRACとして知られており、NCBIアクセッション番号P01848を有する。
ヒトTCRβ鎖定常領域は、TRBC1およびTRBC2(IMGT命名法)として知られる2種の異なる変異体を有する(Toyonaga B.他、PNAS、第82巻、8624-8628頁、Immunology (1985)も参照のこと)。
本開示では、本明細書に提供される第一の抗原結合部分の第一のTCR定常領域と第二のTCR定常領域は二量体を形成することができ、両TCR定常領域の間に、該二量体を安定化することができる少なくとも1つの非天然の鎖間ジスルフィド結合を含む。
本明細書中で用いる「二量体」という用語は、共有結合または非共有結合的相互作用を介して、ポリペプチドまたはタンパク質などの2分子により形成される、会合した構造体を指す。2つの同一分子によりホモ二量体またはホモ二量化が形成され、そして2つの異なる分子によりヘテロ二量体またはヘテロ二量化が形成される。第一のTCR定常領域と第二のTCR定常領域により形成される二量体は、ヘテロ二量体である。
「変異」アミノ酸残基は、置換、挿入または付加されたものであり、対応する天然のTCR定常領域中のその天然の対応残基とは異なるものである。例えば、野生型TCR定常領域中のある特定の位置のアミノ酸残基が「天然」残基と称されるならば、その変異対応物は、天然の残基とは異なっているがTCR定常領域上の同一位置にある任意の残基である。変異残基は、同じ位置にある天然残基を置換しているか、または天然残基の前に挿入されており、従って元の位置を占めている、異なる残基であることができる。
本明細書に提供されるポリペプチド複合体では、第一および/または第二のTCR定常領域は、非天然の鎖間ジスルフィド結合の形成を担う1つ以上の変異アミノ酸残基を含むように遺伝学的に改変されている。そのような変異残基をTCR定常領域に導入するために、TCR領域のコード配列を改変して、例えば、天然残基をコードするコドンを、変異残基をコードするコドンに置き換えるか、または天然残基のコドンの前に変異残基をコードするコドンを挿入することができる。
本明細書に提供されるポリペプチド複合体では、第一および/または第二のTCR定常領域は、システイン残基への置換の後、2つのTCR定常領域の間に非天然の鎖間ジスルフィド結合が形成されうるように、1つ以上の変異システイン残基を含むように遺伝学的に改変されている。
非天然の鎖間ジスルフィド結合は、第一の抗原結合部分を安定化することができる。安定化におけるそのような効果は、様々な方法で具体化することが可能である。例えば、変異アミノ酸残基または非天然の鎖間ジスルフィド結合の存在によって、ポリペプチド複合体を安定して発現させること、および/または高レベルで発現させること、および/または所望の生物活性(例えば抗原結合性)を有する所望の安定した複合体に会合させること、および/または所望の生物活性を有する高レベルの所望の安定した複合体を発現および会合させることが可能である。鎖間ジスルフィド結合が第一および第二のTCR定常領域を安定化させる能力は、当技術分野で公知の適切な方法を用いて、例えばSDS-PAGE上に表示される分子量、または示差操作熱量測定法(DSC)もしくは示差走査蛍光定量法(DSF)により測定される熱安定性を用いて評価することができる。例示的な例としては、本明細書に提供される安定な第一の抗原結合部分の形成は、生成物が第一ポリペプチドと第二ポリペプチドの合計分子量に匹敵する分子量を示すかどうか、SDS-PAGEによって確認することができる。特定の実施形態では、本明細書に提供される第一の抗原結合部分は、その熱安定性が天然Fabの熱安定性の50%、60%、70%、80%、または90%以上であるという点で安定である。特定の実施形態では、本明細書に提供される第一の抗原結合部分は、その熱安定性が天然Fabの熱安定性に匹敵するという点で安定である。
いかなる理論に束縛されることを望まなくとも、第一の抗原結合部分の第一のTCR定常領域と第二のTCR定常領域との間に形成される非天然鎖間ジスルフィド結合は、TCR定常領域のヘテロ二量体を安定化し、それによってヘテロ二量体および第一の抗原結合部分の正しい折り畳み(フォールディング)のレベル、構造的安定性および/または発現レベルを増加させることができる。T細胞表面膜上に固定される天然のTCRとは異なり、天然TCR細胞外ドメインのヘテロ二量体は、三次元構造における抗体Fabに対するその類似性にも関わらず、ずっと安定性が低いことが認められた。実際のところ、可溶性状態での天然TCRの不安定性は、常にその結晶構造の解明を妨げる重大な障害であった(Wang, Protein Cell, 5(9), pp.649-652 (2014)を参照)。TCR定常領域中に一対のシステイン(Cys)変異を導入し、それによって鎖間非天然ジスルフィド結合の形成を可能にすることにより、その間、抗体可変領域の抗原結合能を保持しながら、第一の抗原結合部分を安定に発現させることができる。
変異残基を含むTCR定常領域は、本明細書中、「改変された(engineered)」TCR定常領域とも称される。特定の実施形態では、ポリペプチド複合体の第一のTCR定常領域(C1)は、改変されたTCRα鎖(Cα)を含み、そして第二のTCR定常領域(C2)は改変されたTCRβ鎖(Cβ)を含む。
本明細書に提供されるポリペプチド複合体では、改変されたTCR定常領域は、第一および/または第二の改変されたTCR定常領域の接触インターフェース(境界面)の中に1つ以上の変異システイン残基を含んでいる。
本明細書中で用いる「接触インターフェース(境界面)」なる用語は、ポリペプチドが互いに相互作用/会合するポリペプチド上の特定領域(1または複数)を指す。接触インターフェースは、相互作用が起こると接触または会合した状態になる、対応アミノ酸残基(1または複数)と相互作用することができる1つ以上のアミノ酸残基を含む。
特定の実施形態では、改変されたCαと改変されたCβとの間に、1つ以上の非天然の鎖間ジスルフィド結合が形成され得る。特定の実施形態では、システイン残基のペアは、非天然鎖間ジスルフィド結合を形成することができる。
本明細書全体を通して用いられる、TCR定常領域に関する「XnY」とは、TCR定常領域上のn番目のアミノ酸残基Xがアミノ酸残基Yによって置換されることを意味するものであり、ここでXとYは、それぞれ特定のアミノ酸残基の1文字略号である。
本明細書に提供されるポリペプチド複合体では、改変されたCβは、配列番号121であるかまたはそれを含み、そして改変されたCαは、配列番号122であるかまたはそれを含む。
配列番号121と配列番号122により表される配列を、下記に提供する:
配列番号121:
LEDLKNVFPPEVAVFEPSEAEISHTQKATLVCLATGFYPDHVELSWWVNGKEVHSGVCTDPQPLKEQPALQDSRYALSSRLRVSATFWQNPRNHFRCQVQFYGLSENDEWTQDRAKPVTQIVSAEA
配列番号122:
PDIQNPDPAVYQLRDSKSSDKSVCLFTDFDSQTQVSQSKDSDVYITDKCVLDMRSMDFKSNSAVAWSQKSDFACANAFQNSIIPEDTFFPSPESS
本明細書に提供されるポリペプチド複合体では、天然のTCR定常領域中に存在する1つ以上の天然グリコシル化部位が、本開示に提供される第一の抗原結合部分において修飾(例えば削除)されている。ポリペプチド配列に関して本明細書で使用される「グリコシル化部位」という用語は、糖鎖部分(例えば、オリゴ糖構造)を結合することができる側鎖を有するアミノ酸残基を指す。抗体のようなポリペプチドのグリコシル化は、典型的にN-結合型またはO-結合型のいずれかである。N-結合型は、アスパラギン残基、例えば、アスパラギン-X-セリンおよびアスパラギン-X-スレオニンなどのトリペプチド配列中のアスパラギン残基の側鎖への糖鎖部分の結合を指し、ここで、Xはプロリンを除く任意アミノ酸である。O-結合型グリコシル化とは、N-アセチルガラクトサミン、ガラクトースまたはキシロースのうちの1つの糖がヒドロキシアミノ酸、最も一般的にはセリンまたはスレオニンに結合することを指す。天然グリコシル化部位の除去は、上記のトリペプチド配列の1つ以上(N-結合型グリコシル化部位の場合)または1つ以上のセリンもしくはスレオニン残基(O-結合型グリコシル化部位の場合)が置換されるようにアミノ酸配列を変更することによって、好都合に達成することができる。
本明細書に提供される第一の抗原結合部分では、改変されたTCR定常領域、例えば第一および/または第二のTCR定常領域において少なくとも1つの天然グリコシル化部位が欠けている。いずれの理論に束縛されるものではないが、タンパク質発現と安定性に影響を及ぼすことなく、本明細書に提供される第一の抗原結合部分は、グリコシル化部位の全部または一部の除去を許容することができると考えられる。これは、TCR定常領域、Cα上のN-結合型グリコシル化部位(すなわちN34、N68およびN79)およびCβ上のN-結合型グリコシル化部位(すなわちN69)の存在が、タンパク質発現と安定性にとって不可欠であるという現在の教示(Wu他、Mabs, 7:2, 364-376, 2015参照)とは、対照的である。
本明細書に提供される第一の抗原結合部分では、TCRに由来する定常領域は、1つの抗体から誘導された可変領域に作動可能に連結されている。
特定の実施形態では、第一の重鎖抗体可変ドメイン(VH)は、第一の(1番目の)接続ドメインのところで第一のTCR定常領域に融合され、そして第一の軽鎖抗体可変ドメイン(VL)は、第二の(2番目の)接続ドメインのところで第二のTCR定常領域に融合される。
本明細書で使用する「接続ドメイン」とは、2つのアミノ酸配列が融合または組み合わされる境界または境界域を指す。特定の実施形態では、第一の(1番目の)接続ドメインは抗体のV/C接続部のC末端断片の少なくとも一部を含み、そして第二の(2番目の)接続ドメインは、TCRのV/C接続部のN末端断片の少なくとも一部を含む。
本明細書で使用する「抗体のV/C接続」という用語は、抗体可変ドメインと定常ドメインの間の境界を指し、例えば、重鎖可変ドメインとCH1ドメインの間の境界、または軽鎖可変ドメインと軽鎖定常ドメインの間の境界を指す。同様に、「TCRのV/C接続」という用語は、TCR可変ドメインと定常ドメインの境界、例えば、TCRα可変ドメインと定常ドメインの間の境界、またはTCRβ可変ドメインと定常ドメインの間の境界を指す。
特定の実施形態では、第一のポリペプチドが、式(I):VH-HCJ-C1に示されるように作動可能に連結されたドメインを含む1配列を含み、そして第二のポリペプチドが、式(II):VL-LCJ-C2に示されるように作動可能に連結されたドメインを含む1配列を含み、ここでVHは抗体の重鎖可変ドメインであり;
HCJは上記で定義された第一の接続ドメインであり;
C1は上記で定義された第一のTCR定常ドメインであり;
VLは抗体の軽鎖可変ドメインであり;
LCJは上記で定義された第二の接続ドメインであり;
C2は上記で定義された第二のTCR定常ドメインである。
抗体可変領域
本明細書に提供される二重特異性ポリペプチド複合体は、第二の抗原結合部分に会合した第一の抗原結合部分を含み、それらの一方がCD3に特異的に結合し、他方がCD20に特異的に結合する。本明細書に提供されるポリペプチド複合体では、第一の抗原結合部分は、第一の抗体の第一の重鎖可変ドメイン(VH1)と第一の軽鎖可変ドメイン(VL1)とを含み、そして第二の抗原結合部分は、第二の抗体からの第二の重鎖可変ドメイン(VH2)と第二の軽鎖可変ドメイン(VL2)とを含み、ここで前記第一の抗体と第二の抗体は異なっており、抗CD3抗体と抗CD20抗体とから成る群より選択される。特定の実施形態では、第一の抗体が抗CD3抗体であり、そして第二の抗体が抗CD20抗体である。特定の他の実施形態では、第一の抗体が抗CD20抗体であり、そして第二の抗体が抗CD3抗体である。
従来の天然抗体では、可変領域は、例えばN末端からC末端方向で、次の式:FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4に表されるように、隣接フレームワーク(FR)領域が差し込まれた3つのCDR領域を含む。
a) 抗CD3結合部分
本明細書に提供されるポリペプチド複合体において、第一の抗原結合部分または第二の抗原結合部分が、抗CD3結合部分である。
特定の実施形態において、抗CD3結合部分は、下記のTable A(表1)に示す抗体W3278-T2U3.E17R-1.uIgG4.SPに由来する。W3278-T2U3.E17R-1.uIgG4.SP抗体の抗CD3結合部分のCDR配列が以下に提供される。
W3278-T2U3.E17R-1.uIgG4.SP抗体の抗CD3結合部分の重鎖およびカッパ(κ)軽鎖可変領域配列の抗CD3結合部分を、以下に提供する。
・VHアミノ酸配列(配列番号61):
QVQLVQSGAEVKKPGSSVKVSCKASGYSFTTYYIHWVRQAPGQGLEWMGWIFPGNDNIKYSEKFKGRVTITADKSTSTAYMELSSLRSEDTAVYYCAIDSVSIYYFDYWGQGTLVTVSS
・VH核酸配列(配列番号101):
caggtgcaactcgtgcagtctggagctgaagtgaagaagcctgggtcttcagtcaaggtcagttgcaaggccagtgggtattccttcactacctactacatccactgggtgcggcaggcaccaggacaggggcttgagtggatgggctggatctttcccggcaacgataatattaagtacagcgagaagttcaaagggagggtcaccattaccgccgacaaatccacttccacagcctacatggagttgagcagcctgagatccgaggatacagccgtgtactactgtgccattgacagcgtgtccatctactactttgactactggggccagggcacactggtcacagtgagcagc
・VKアミノ酸配列(配列番号62):
DIVMTQSPDSLAVSLGERATINCKSSQSLLNSRTRKNYLAWYQQKPGQPPKLLIYWASTRKSGVPDRFSGSGSGTDFTLTISSLQAEDVAVYYCTQSFILRTFGGGTKVEIK
・VK核酸配列(配列番号102):
gacatcgtcatgacccagtccccagactctttggcagtgtctctcggggaaagagctaccatcaactgcaagagcagccagtcccttctgaacagcaggaccaggaagaattacctcgcctggtaccaacagaagcccggacagcctcctaagctcctgatctactgggcctcaacccggaagagtggagtgcccgatcgctttagcgggagcggctccgggacagatttcacactgacaatttcctccctgcaggccgaggacgtcgccgtgtattactgtactcagagcttcattctgcggacatttggcggcgggactaaagtggagattaag
特定の実施形態において、抗CD3結合部分は、下記のTable B(表2)に示す抗体W3278-T3U2.F16-1.uIgG4.SPに由来する。W3278-T3U2.F16-1.uIgG4.SP抗体の抗CD3結合部分のCDR配列を以下に提供する。
W3278-T3U2.F16-1.uIgG4.SP抗体の抗CD3結合部分の重鎖およびカッパ(κ)軽鎖可変領域配列を以下に提供する。
・VHアミノ酸配列(配列番号63):
QVQLVQSGAEVKKPGSSVKVSCKASGFAFTDYYIHWVRQAPGQGLEWMGWISPGNVNTKYNENFKGRVTITADKSTSTAYMELSSLRSEDTAVYYCARDGYSLYYFDYWGQGTLVTVSS
・VH核酸配列(配列番号103):
caggtgcagcttgtgcagtctggggcagaagtgaagaagcctgggtctagtgtcaaggtgtcatgcaaggctagcgggttcgcctttactgactactacatccactgggtgcggcaggctcccggacaagggttggagtggatgggatggatctccccaggcaatgtcaacacaaagtacaacgagaacttcaaaggccgcgtcaccattaccgccgacaagagcacctccacagcctacatggagctgtccagcctcagaagcgaggacactgccgtctactactgtgccagggatgggtactccctgtattactttgattactggggccagggcacactggtgacagtgagctcc
・VKアミノ酸配列(配列番号64):
DIVMTQSPDSLAVSLGERATINCKSSQSLLNSRTRKNYLAWYQQKPGQPPKLLIYWASTRQSGVPDRFSGSGSGTDFTLTISSLQAEDVAVYYCTQSHTLRTFGGGTKVEIK
・VK核酸配列(配列番号104):
gatatcgtgatgacccagagcccagactcccttgctgtctccctcggcgaaagagcaaccatcaactgcaagagctcccaaagcctgctgaactccaggaccaggaagaattacctggcctggtatcagcagaagcccggccagcctcctaagctgctcatctactgggcctccacccggcagtctggggtgcccgatcggtttagtggatctgggagcgggacagacttcacattgacaattagctcactgcaggccgaggacgtggccgtctactactgtactcagagccacactctccgcacattcggcggagggactaaagtggagattaag
特定の実施形態において、抗CD3結合部分は、下記のTable C(表3)に示す抗体W3278-U2T3.F18R-1.uIgG4.SPに由来する。W3278-U2T3.F18R-1.uIgG4.SP抗体の抗CD3結合部分のCDR配列を以下に提供する。
W3278-U2T3.F18R-1.uIgG4.SP抗体の抗CD3結合部分の重鎖およびカッパ(κ)軽鎖可変領域配列を以下に提供する。
・VHアミノ酸配列(配列番号65):
QVQLVQSGAEVKKPGSSVKVSCKASGFAFTDYYIHWVRQAPGQGLEWMGWISPGNVNTKYNENFKGRVTITADKSTSTAYMELSSLRSEDTAVYYCARDGYSLYYFDYWGQGTLVTVSS
・VH核酸配列(配列番号105):
caggtgcagcttgtgcagtctggggcagaagtgaagaagcctgggtctagtgtcaaggtgtcatgcaaggctagcgggttcgcctttactgactactacatccactgggtgcggcaggctcccggacaagggttggagtggatgggatggatctccccaggcaatgtcaacacaaagtacaacgagaacttcaaaggccgcgtcaccattaccgccgacaagagcacctccacagcctacatggagctgtccagcctcagaagcgaggacactgccgtctactactgtgccagggatgggtactccctgtattactttgattactggggccagggcacactggtgacagtgagctcc
・VKアミノ酸配列(配列番号66):
DIVMTQSPDSLAVSLGERATINCKSSQSLLNSRTRKNYLAWYQQKPGQPPKLLIYWASTRQSGVPDRFSGSGSGTDFTLTISSLQAEDVAVYYCTQSHTLRTFGGGTKVEIK
・VK核酸配列(配列番号106):
gatatcgtgatgacccagagcccagactcccttgctgtctccctcggcgaaagagcaaccatcaactgcaagagctcccaaagcctgctgaactccaggaccaggaagaattacctggcctggtatcagcagaagcccggccagcctcctaagctgctcatctactgggcctccacccggcagtctggggtgcccgatcggtttagtggatctgggagcgggacagacttcacattgacaattagctcactgcaggccgaggacgtggccgtctactactgtactcagagccacactctccgcacattcggcggagggactaaagtggagattaag
特定の実施形態において、W3278-U3T2.F18R-1.uIgG4.SP抗体の抗CD3結合部分の重鎖およびκ(カッパ)軽鎖可変領域配列を下記に提供する。
W3278-U3T2.F18R-1.uIgG4.SP抗体の抗CD3結合部分の重鎖およびκ軽鎖可変領域配列を以下に提供する。
・VHアミノ酸配列(配列番号67):
QVQLVQSGAEVKKPGSSVKVSCKASGYSFTTYYIHWVRQAPGQGLEWMGWIFPGNDNIKYSEKFKGRVTITADKSTSTAYMELSSLRSEDTAVYYCAIDSVSIYYFDYWGQGTLVTVSS
・VH核酸配列(配列番号107):
caggtgcaactcgtgcagtctggagctgaagtgaagaagcctgggtcttcagtcaaggtcagttgcaaggccagtgggtattccttcactacctactacatccactgggtgcggcaggcaccaggacaggggcttgagtggatgggctggatctttcccggcaacgataatattaagtacagcgagaagttcaaagggagggtcaccattaccgccgacaaatccacttccacagcctacatggagttgagcagcctgagatccgaggatacagccgtgtactactgtgccattgacagcgtgtccatctactactttgactactggggccagggcacactggtcacagtgagcagc
・VKアミノ酸配列(配列番号68):
DIVMTQSPDSLAVSLGERATINCKSSQSLLNSRTRKNYLAWYQQKPGQPPKLLIYWASTRKSGVPDRFSGSGSGTDFTLTISSLQAEDVAVYYCTQSFILRTFGGGTKVEIK
・VK核酸配列(配列番号108):
gacatcgtcatgacccagtccccagactctttggcagtgtctctcggggaaagagctaccatcaactgcaagagcagccagtcccttctgaacagcaggaccaggaagaattacctcgcctggtaccaacagaagcccggacagcctcctaagctcctgatctactgggcctcaacccggaagagtggagtgcccgatcgctttagcgggagcggctccgggacagatttcacactgacaatttcctccctgcaggccgaggacgtcgccgtgtattactgtactcagagcttcattctgcggacatttggcggcgggactaaagtggagattaag
特定の実施形態において、抗CD3結合部分は、下記のTable E(表5)に示す抗体W3278-T3U2.F17R-1.uIgG4.SPに由来する。W3278-T3U2.F17R-1.uIgG4.SP抗体の抗CD3結合部のCDR配列を以下に提供する。
W3278-T3U2.F17R-1.uIgG4.SP抗体の抗CD3結合部分の重鎖およびκ軽鎖可変領域配列を以下に提供する。
・VHアミノ酸配列(配列番号69):
QVQLVQSGAEVKKPGSSVKVSCKASGFAFTDYYIHWVRQAPGQGLEWMGWISPGNVNTKYNENFKGRVTITADKSTSTAYMELSSLRSEDTAVYYCARDGYSLYYFDYWGQGTLVTVSS
・VH核酸配列(配列番号109):
caggtgcagcttgtgcagtctggggcagaagtgaagaagcctgggtctagtgtcaaggtgtcatgcaaggctagcgggttcgcctttactgactactacatccactgggtgcggcaggctcccggacaagggttggagtggatgggatggatctccccaggcaatgtcaacacaaagtacaacgagaacttcaaaggccgcgtcaccattaccgccgacaagagcacctccacagcctacatggagctgtccagcctcagaagcgaggacactgccgtctactactgtgccagggatgggtactccctgtattactttgattactggggccagggcacactggtgacagtgagctcc
・VKアミノ酸配列(配列番号70):
DIVMTQSPDSLAVSLGERATINCKSSQSLLNSRTRKNYLAWYQQKPGQPPKLLIYWASTRQSGVPDRFSGSGSGTDFTLTISSLQAEDVAVYYCTQSHTLRTFGGGTKVEIK
・VK核酸配列(配列番号110):
gatatcgtgatgacccagagcccagactcccttgctgtctccctcggcgaaagagcaaccatcaactgcaagagctcccaaagcctgctgaactccaggaccaggaagaattacctggcctggtatcagcagaagcccggccagcctcctaagctgctcatctactgggcctccacccggcagtctggggtgcccgatcggtttagtggatctgggagcgggacagacttcacattgacaattagctcactgcaggccgaggacgtggccgtctactactgtactcagagccacactctccgcacattcggcggagggactaaagtggagattaag
本明細書に提供される抗CD3結合部分は、その抗CD3結合部分がCD3に特異的に結合することができる限りにおいて、適切なフレームワーク領域(FR)配列を更に含む。
本開示の抗体は、CD3発現細胞(例えばCD4 T細胞)対して特異的な結合親和性を有し、ヒトT細胞を活性化しかつTNF-αとIFNγの放出を引き起こすことができる。
本明細書に提供される抗CD3結合部分の結合親和性は、KD値により表すことができる。KD値は、抗原と抗原結合分子との間の結合が平衡に達したときの、解離速度対結合速度の比(koff/kon)を表す。抗原結合親和性(例えばKD)は、例えば、フローサイトメトリーアッセイを含む、当技術分野で既知の好適な方法を用いて適切に決定することができる。いくつかの実施形態において、異なる濃度での抗体の抗原への結合をフローサイトメトリーによって測定することができ、測定された平均蛍光強度(MFI)をまず最初に抗体濃度に対してプロットすることができ、次いで、特異的結合蛍光強度(Y)と抗体の濃度(X)の依存性を、Prismバージョン5(GraphPad Software、カリフォルニア州サンディエゴ)を使ってone site saturation方程式(特異的結合のSigmaProtモデル化):Y=Bmax×X/(KD+X)にフィッティングさせることによって計算することができる。ここでBmaxは、試験した抗体の抗原への最大特異的結合を指す。
特定の実施形態において、本明細書に提供される抗CD3結合部分は、細胞表面上に発現されたヒトCD3に、または組換えヒトCD3に特異的に結合することができる。CD3は細胞上に発現される受容体である。組換えCD3は、組換え発現され、細胞膜と結合しない可溶性CD3である。組換えCD3は、様々な組換え技術によって調製できる。一例では、ヒトCD3の細胞外ドメイン(NP_000724.1)(Met1-Asp126)をコードするCD3 DNA配列を、発現ベクター中でそのC末端のところでポリヒスチジンタグと融合させ、次にトランスフェクトして293E細胞で発現させ、そしてNi-アフィニティークロマトグラフィーにより精製することができる。
いくつかの実施形態において、本明細書に提供される抗CD3結合部分は、フローサイトメトリーにより測定したときに多くて5×10-9M、多くて4×10-9 M、多くて3×10-9 M、多くて2×10-9 M、多くて10-9 M、多くて5×10-10 M、多くて4×10-10 M、多くて3×10-10 M、多くて2×10-10 M、多くて10-10 M、多くて5×10-11 M、または多くて4×10-11 M、多くて3×10-11 M、多くて2×10-11 M、または多くて10-11 Mの結合親和性(KD)をもって、細胞の表面上に発現されたヒトCD3に特異的に結合することができる。
特定の実施形態において、本明細書に提供される抗CD3結合部分は、カニクイザルCD3、例えば、細胞表面上に発現されたカニクイザルCD3、または可溶性組換えカニクイザルCD3と交差反応する。
組換えCD3または細胞表面上に発現されたCD3への抗CD3結合部分の結合は、当業界で既知の方法、例えばサンドイッチアッセイ、例えばELISA、ウェスタンブロット、フローサイトメトリーアッセイ、および他の結合アッセイにより測定することができる。特定の実施形態では、本明細書に提供される抗CD3結合部分は、ELISAにより0.01 nM以下、0.02 nM以下、0.03 nM以下、0.04 nM以下、0.05 nM以下、0.06 nM以下、0.07 nM以下、または0.08nM以下のEC50(すなわち50%結合濃度)で組換えヒトCD3に特異的に結合する。特定の実施形態では、本明細書で提供される抗CD3結合部分は、フローサイトメトリー分析により0.5 nM以下、0.6 nM以下、0.7 nM以下、0.8 nM以下、0.9 nM以下、1 nM以下、2 nM以下、3 nM以下、4 nM以下、5 nM以下、6 nM以下、7 nM以下、8 nM以下、9 nM以下、または10 nM以下のEC50で、細胞表面に発現されたヒトCD3に特異的に結合する。
特定の実施形態において、抗CD3結合部分は、ヒトCD3のものと同様な結合親和性でカニクイザルCD3に結合する。
特定の実施形態において、本明細書に提供される抗CD3結合部分は、ELISAにより0.001 nM以下、0.005 nM以下、0.01 nM以下、0.02 nM以下、0.03 nM以下、0.04 nM以下、または0.05 nM以下のEC50で組換えカニクイザルCD3に特異的に結合する。
特定の実施形態において、本明細書に提供される抗CD3結合部分は、診断および/または治療用途に提供するのに十分であるほど、ヒトCD3に対する特異的結合親和性を有する。多数の治療戦略は、TCRシグナル伝達をターゲティングする(狙い撃ちする)ことにより、特に臨床的に利用される抗ヒトCD3モノクローナル抗体によって、T細胞免疫を調節する。
b) 抗CD20抗体
本明細書に提供されるポリペプチド複合体では、第一の抗原結合部分または第二の抗原結合部分が抗CD20結合部分である。
特定の実施形態では、抗CD20結合部分は、下記のTable A′(表6)に示す抗体W3278-T2U3.E17R-1.uIgG4.SPに由来する。W3278-T2U3.E17R-1.uIgG4.SP抗体の抗CD20結合部分のCDR配列を以下に提供する。
W3278-T2U3.E17R-1.uIgG4.SP抗体の抗CD20結合部分の重鎖およびκ軽鎖可変領域配列を以下に提供する。
・VHアミノ酸配列(配列番号71):
EVQLVESGGGLVQPGRSLRLSCAASGFTFNDYAMHWVRQAPGKGLEWVSTISWNSGSIGYADSVKGRFTISRDNAKKSLYLQMNSLRAEDTALYYCAKDIQYGNYYYGMDVWGQGTTVTVSS
・VH核酸配列(配列番号111):
gaggtgcaattggtggagagcggaggagggctcgtgcagcctggaagatctcttaggctgagttgcgctgcatctgggttcacattcaacgactacgccatgcactgggtgaggcaggctcccggcaaagggctggaatgggtgtcaactatctcctggaactccggcagcatcggctacgccgatagcgtcaagggccggtttacaatttcccgcgataacgccaagaagtccctgtacctgcagatgaacagcctgcgggccgaggatactgccctctactactgtgccaaggacattcagtacgggaattactattacgggatggacgtctggggccaggggaccaccgtgacagtcagctcc
・VKアミノ酸配列(配列番号72):
EIVLTQSPATLSLSPGERATLSCRASQSVSSYLAWYQQKPGQAPRLLIYDASNRATGIPARFSGSGSGTDFTLTISSLEPEDFAVYYCQQRSNWPITFGQGTRLEIK
・VK核酸配列(配列番号112):
gaaatcgtgctgacccagtccccagcaaccctctccctttctcctggagagagagctaccctcagctgtagggcctcacagtctgtctccagttacctggcttggtaccagcagaaacccgggcaggcccctaggttgctgatctacgacgccagcaatagggccactggcatcccagcccggttttccggaagcggcagcgggacagatttcacactcactattagcagcctggagcccgaggacttcgccgtgtactattgccagcagcggtccaactggcccattacatttggccaagggacacgcctggagattaag
特定の実施形態では、抗CD20結合部分が下記のTable B′(表7)に示す抗体 W3278-T3U2.F16-1.uIgG4.SPに由来する。W3278-T3U2.F16-1.uIgG4.SP抗体の抗CD20結合部分のCDR配列を以下に提供する。
W3278-T3U2.F16-1.uIgG4.SP抗体の抗CD20結合部分の重鎖およびκ軽鎖可変領域の配列を以下に提供する。
・VHアミノ酸配列(配列番号73):
QVQLQQPGAELVKPGASVKMSCKASGYTFTSYNMHWVKQTPGRGLEWIGAIYPGNGDTSYNQKFKGKATLTADKSSSTAYMQLSSLTSEDSAVYYCARSTYYGGDWYFNVWGAGTTVTVSA
・VH核酸配列(配列番号113):
caggtccagctgcagcagcccggagccgaactggtcaaacccggggctagcgtgaaaatgtcttgcaaagcaagtggttacacattcacttcctataacatgcactgggtgaagcagacacctgggcgaggtctggaatggatcggcgccatctacccaggcaacggagacactagctataatcagaagtttaaaggaaaggccaccctgacagctgataagtccagctctaccgcttacatgcagctgagttcactgacaagtgaggactcagcagtgtactattgcgcccgttctacctactatggcggagattggtatttcaatgtgtggggcgccggtaccacagtcaccgtgtccgcc
・VKアミノ酸配列(配列番号74):
QIVLSQSPAILSASPGEKVTMTCRASSSVSYIHWFQQKPGSSPKPWIYATSNLASGVPVRFSGSGSGTSYSLTISRVEAEDAATYYCQQWTSNPPTFGGGTKLEIK
・VK核酸配列(配列番号114):
cagattgtcctgagccagagccctgccatcctgtctgctagtcccggcgagaaggtgaccatgacatgcagggcatccagctctgtctcctacatccactggttccagcagaagcccgggagttcacctaaaccatggatctacgctacatccaacctggcaagcggtgtgcctgtcaggttttcaggttccggcagcggaacatcttacagtctgactatttctcgggtggaggccgaagacgccgctacctactattgccagcagtggacctccaatccccctacattcggcggagggactaagctggagatcaaa
特定の実施形態では、抗CD20結合部分が下記のTable C′(表8)に示す抗体 W3278-U2T3.F18R-1.uIgG4.SPに由来する。W3278-U2T3.F18R-1.uIgG4.SP抗体の抗CD20結合部分のCDR配列を下記に提供する。
W3278-U2T3.F18R-1.uIgG4.SP抗体の抗CD20結合部分の重鎖およびκ軽鎖可変領域の配列を以下に提供する。
・VHアミノ酸配列(配列番号75):
QVQLQQPGAELVKPGASVKMSCKASGYTFTSYNMHWVKQTPGRGLEWIGAIYPGNGDTSYNQKFKGKATLTADKSSSTAYMQLSSLTSEDSAVYYCARSTYYGGDWYFNVWGAGTTVTVSA
・VH核酸配列(配列番号115):
caggtccagctgcagcagcccggagccgaactggtcaaacccggggctagcgtgaaaatgtcttgcaaagcaagtggttacacattcacttcctataacatgcactgggtgaagcagacacctgggcgaggtctggaatggatcggcgccatctacccaggcaacggagacactagctataatcagaagtttaaaggaaaggccaccctgacagctgataagtccagctctaccgcttacatgcagctgagttcactgacaagtgaggactcagcagtgtactattgcgcccgttctacctactatggcggagattggtatttcaatgtgtggggcgccggtaccacagtcaccgtgtccgcc
・VKアミノ酸配列(配列番号76):
QIVLSQSPAILSASPGEKVTMTCRASSSVSYIHWFQQKPGSSPKPWIYATSNLASGVPVRFSGSGSGTSYSLTISRVEAEDAATYYCQQWTSNPPTFGGGTKLEIK
・VK核酸配列(配列番号116):
cagattgtcctgagccagagccctgccatcctgtctgctagtcccggcgagaaggtgaccatgacatgcagggcatccagctctgtctcctacatccactggttccagcagaagcccgggagttcacctaaaccatggatctacgctacatccaacctggcaagcggtgtgcctgtcaggttttcaggttccggcagcggaacatcttacagtctgactatttctcgggtggaggccgaagacgccgctacctactattgccagcagtggacctccaatccccctacattcggcggagggactaagctggagatcaaa
特定の実施形態では、抗CD20結合部分が下記のTable D′(表9)に示す抗体W3278-U3T2.F18R-1.uIgG4.SPに由来する。W3278-U3T2.F18R-1.uIgG4.SP抗体の抗CD20結合部分のCDR配列を以下に提供する。
W3278-U3T2.F18R-1.uIgG4.SP抗体の抗CD20結合部分の重鎖およびκ軽鎖可変領域の配列を以下に提供する。
・VHアミノ酸配列(配列番号77):
EVQLVESGGGLVQPGRSLRLSCAASGFTFNDYAMHWVRQAPGKGLEWVSTISWNSGSIGYADSVKGRFTISRDNAKKSLYLQMNSLRAEDTALYYCAKDIQYGNYYYGMDVWGQGTTVTVSS
・VH核酸配列(配列番号117):
gaggtgcaattggtggagagcggaggagggctcgtgcagcctggaagatctcttaggctgagttgcgctgcatctgggttcacattcaacgactacgccatgcactgggtgaggcaggctcccggcaaagggctggaatgggtgtcaactatctcctggaactccggcagcatcggctacgccgatagcgtcaagggccggtttacaatttcccgcgataacgccaagaagtccctgtacctgcagatgaacagcctgcgggccgaggatactgccctctactactgtgccaaggacattcagtacgggaattactattacgggatggacgtctggggccaggggaccaccgtgacagtcagctcc
・VKアミノ酸配列(配列番号78):
EIVLTQSPATLSLSPGERATLSCRASQSVSSYLAWYQQKPGQAPRLLIYDASNRATGIPARFSGSGSGTDFTLTISSLEPEDFAVYYCQQRSNWPITFGQGTRLEIK
・VK核酸配列(配列番号118):
gaaatcgtgctgacccagtccccagcaaccctctccctttctcctggagagagagctaccctcagctgtagggcctcacagtctgtctccagttacctggcttggtaccagcagaaacccgggcaggcccctaggttgctgatctacgacgccagcaatagggccactggcatcccagcccggttttccggaagcggcagcgggacagatttcacactcactattagcagcctggagcccgaggacttcgccgtgtactattgccagcagcggtccaactggcccattacatttggccaagggacacgcctggagattaag
特定の実施形態では、抗CD20結合部分が下記のTable E′(表10)に示す抗体 W3278-T3U2.F17R-1.uIgG4.SPに由来する。W3278-T3U2.F17R-1.uIgG4.SP抗体の抗CD20結合部分のCDR配列を以下に提供する。
W3278-T3U2.F17R-1.uIgG4.SP抗体の抗CD20結合部分の重鎖およびκ軽鎖可変領域の配列を以下に提供する。
・VHアミノ酸配列(配列番号79):
QVQLQQPGAELVKPGASVKMSCKASGYTFTSYNMHWVKQTPGRGLEWIGAIYPGNGDTSYNQKFKGKATLTADKSSSTAYMQLSSLTSEDSAVYYCARSTYYGGDWYFNVWGAGTTVTVSA
・VH核酸配列(配列番号119):
caggtccagctgcagcagcccggagccgaactggtcaaacccggggctagcgtgaaaatgtcttgcaaagcaagtggttacacattcacttcctataacatgcactgggtgaagcagacacctgggcgaggtctggaatggatcggcgccatctacccaggcaacggagacactagctataatcagaagtttaaaggaaaggccaccctgacagctgataagtccagctctaccgcttacatgcagctgagttcactgacaagtgaggactcagcagtgtactattgcgcccgttctacctactatggcggagattggtatttcaatgtgtggggcgccggtaccacagtcaccgtgtccgcc
・VKアミノ酸配列(配列番号80):
QIVLSQSPAILSASPGEKVTMTCRASSSVSYIHWFQQKPGSSPKPWIYATSNLASGVPVRFSGSGSGTSYSLTISRVEAEDAATYYCQQWTSNPPTFGGGTKLEIK
・VK核酸配列(配列番号120):
cagattgtcctgagccagagccctgccatcctgtctgctagtcccggcgagaaggtgaccatgacatgcagggcatccagctctgtctcctacatccactggttccagcagaagcccgggagttcacctaaaccatggatctacgctacatccaacctggcaagcggtgtgcctgtcaggttttcaggttccggcagcggaacatcttacagtctgactatttctcgggtggaggccgaagacgccgctacctactattgccagcagtggacctccaatccccctacattcggcggagggactaagctggagatcaaa
本明細書に提供される抗CD20結合部分は、その抗CD20結合部分がCD20に特異的に結合することができる限りにおいて、適切なフレームワーク領域(FR)配列を更に含む。
特定の実施形態において、本明細書に提供される抗CD20結合部分は、フローサイトメトリーにより測定したときに5×10-9 M以下、1×10-9 M以下、9×10-10 M以下、8×10-10 M以下、7×10-10 M以下、6×10-10 M以下、5×10-10 M以下、4×10-10 M以下、3×10-10 M以下、2×10-10 M以下、または1×10-10 M以下の結合親和性(KD)をもって、細胞の表面上に発現されたヒトCD20に特異的に結合することができる。
特定の実施形態では、本明細書に提供される抗CD20結合部分は、カニクイザルCD20、例えば、細胞表面上に発現されたカニクイザルCD20、または可溶性組換えカニクイザルCD20と交差反応する。
細胞表面上に発現されたCD20への抗CD20結合部分の結合は、当業界で既知の方法、例えばサンドイッチアッセイ、例えばELISA、ウェスタンブロット、フローサイトメトリーアッセイ、および他の結合アッセイにより測定することができる。特定の実施形態では、本明細書に提供される抗CD20結合部分は、フローサイトメトリーアッセイにより、0.01 nM以下、0.02 nM以下、0.03 nM以下、0.04 nM以下、0.05 nM以下、0.1 nM以下、0.2 nM以下、0.3 nM以下、0.4 nM以下、0.5 nM以下、0.6 nM以下、0.7 nM以下、0.8 nM以下、0.9 nM以下、または1 nM以下のEC50で、細胞上に発現されたヒトCD20に特異的に結合する。
特定の実施形態において、抗CD20結合部分は、ヒトCD20のものと同様な結合親和性でカニクイザルCD20に結合する。特定の実施形態では、本明細書に提供される抗CD20結合部分は、フロサイトメトリーアッセイにより、0.2 nM以下、0.5 nM以下、0.8 nM以下、1 nM以下、2 nM以下、または3 nM以下のEC50で、細胞上に発現されたカニクイザルCD20に特異的に結合する。
特定の実施形態において、本明細書に提供される抗CD20結合部分は、Fab-Zapアッセイにより、1 pM以下、2 pM以下、3 pM以下、4 pM以下、5 pM以下、6 pM以下、7 pM以下、8 pM以下、9 pM以下、10 pM以下、11 pM以下、12 pM以下、13 pM以下、14 pM以下、15 pM以下、16 pM以下、17 pM以下、18 pM以下、19 pM以下、20 pM以下、21 pM以下、22 pM以下、23 pM以下、24 pM以下、25 pM以下、30 pM以下、35 pM以下、40 pM以下、45 pM以下、または50 pM以下のEC50でCD20発現細胞により内在化される。
二重特異性ポリぺプチド複合体
特定の実施形態において、第一および/または第二の抗原結合部分は多価、例えば二価、三価、四価である。本明細書で用いる「価」という用語は、所与の分子内に特定の数の抗原結合部位が存在することを指す。このように、用語「二価」、「四価」、および「六価」は、抗原結合分子中にそれぞれ2つの結合部位、4つの結合部位および6つの結合部位が存在することを意味する。2つの結合部位が両方とも同一抗原または同一エピトープの特異的結合のためのものである場合、二価分子は単一特異性でありうる。同様に、三価分子は、2つの結合部位が第一の抗原(またはエピトープ)に対して単一特異性でありそして3つめの結合部位が第二の抗原(またはエピトープ)に対して特異的である場合、二重特異性でありうる。特定の実施形態では、本明細書に提供される二重特異性ポリペプチド複合体中の第一および/または第二の抗原結合部分は、同一抗原またはエピトープに対して特異的な少なくとも2つの結合部位を有する、二価、三価または四価でありうる。これは、ある実施形態では、一価の対応部分よりも抗原またはエピトープに対してより強力な結合を提供する。特定の実施形態において、二価の抗原結合部分において、第一価目の結合部位と第二価目の結合部位とは構造的に同じである(すなわち、同じ配列を有する)か、または構造的に異なる(すなわち、同じ特異性を有するが、異なる配列を有する)。
特定の実施形態では、第一および/または第二の抗原結合部分は多価であり、スペーサーを伴ってまたは伴わずに、作動可能に一緒に連結された2つ以上の抗原結合部位を含む。
特定の実施形態では、第二の抗原結合部分は、第二の抗体の2つ以上のFabを含む。2つのFabは、互いに作動可能に連結することができ、例えば、第一のFabが、間にスペーサーを伴ってまたは伴わずに、重鎖を介して第二のFabに共有結合することができる。
特定の実施形態では、第一の抗原結合部分が第一の二量化ドメインに連結され、そして第二の抗原結合部分が第二の二量化ドメインに連結される。本明細書中で用いる「二量化ドメイン」という用語は、互いに会合して二量体を形成することができ、また幾つかの例では、2つのペプチドの同時二量化を可能にするペプチドドメインを指す。
特定の実施形態では、第一の二量化ドメインは、第二の二量化ドメインと会合することができる。会合は、任意の特定の相互作用もしくは連結もしくは結合を介することができ、例えばコネクター(連結子)、ジスルフィド結合、水素結合、静電的相互作用、塩橋、もしくは疎水性-親水性相互作用、またはそれらの組み合わせを介することができる。典型的な二量化ドメインとしては、限定されないが、抗体ヒンジ領域、抗体CH2ドメイン、抗体CH3ドメイン、および互いに二量化して会合することができる他の適当なタンパク質モノマーが挙げられる。ヒンジ領域、CH2および/またはCH3ドメインは、IgG1、IgG2およびIgG4などの任意の抗体アイソタイプから誘導することができる。
「ジスルフィド結合」は、構造R-S-S-R′を有する共有結合を指す。アミノ酸システインは、第二のチオール基、例えば別のシステイン残基からのチオール基と共にジスルフィド結合を形成することができる。ジスルフィド結合は、2つのポリペプチド鎖上にそれぞれ存在する2つのシステイン残基のチオール基の間に形成させることができ、それによって鎖間架橋または鎖間結合を形成させることが可能である。
水素結合は、水素原子が窒素、酸素またはフッ素のような高電気陰性度の原子に共有結合したときに、2つの極性基の間の静電引力によって形成される。水素結合は、ポリペプチド中、2つの残基の骨格酸素(例えばカルコゲン基)とアミド水素(窒素基)との間、例えばAsn中の窒素原子とHis中の酸素原子との間、またはAsn中の酸素原子とLys中の窒素原子との間で、それぞれ形成することができる。水素結合は、ファンデルワールス相互作用よりも強力であるが、共有結合またはイオン結合よりも弱く、二次構造や三次構造を維持するのに重要である。例えば、アミノ酸残基の空間がi位~i+4位の間に規則的に存在するときには、αヘリックスが形成され、そして少なくとも2つまたは3つの骨格水素結合によって2本のペプチドが連結されるときには、3~10アミノ酸のペプチド鎖である、ねじれたプリーツシート構造を成すβシートが形成される。
静電相互作用は、非共有結合的な相互作用であり、イオン相互作用、水素結合およびハロゲン結合を伴う、タンパク質の折り畳み(フォールディング)、安定性、および機能において重要である。静電相互作用は、ポリペプチド中、例えばLysとAspの間、LysとGluの間、GluとArgの間、または第一鎖上のGlu,Trpと第二鎖上のArg,ValもしくはThrとの間に形成することができる。
塩橋は、AspもしくはGluのいずれかのアニオン性カルボン酸基から、およびLysのカチオン性アンモニウムまたはArgのグアニジウム基から主に生成する、近距離の静電相互作用であり、それらは生来のタンパク質構造中の反対の電荷に帯電した空間的に近い一対の残基である。主に疎水性の界面にある、帯電したまたは極性の残基は、結合のためのホットスポットとして機能しうる。他の中でも特に、His、TyrおよびSerのようなイオン化可能な側鎖を有する残基も、塩橋の形成に参加することができる。
疎水性相互作用は、第一鎖上の1つ以上のVal、TyrおよびAlaと、第二鎖上の1つ以上のVal、LeuおよびTyrとの間、または第一鎖上のHisおよびAlaと、第二鎖上のThrおよびPheとの間に形成することができる(Brinkmann他、2017、前掲)。
特定の実施形態では、第一および/または第二の二量化ドメインは、抗体ヒンジ領域の少なくとも一部分を含む。特定の実施形態では、第一および/または第二の二量化ドメインは、抗体CH2ドメイン、および/または抗体CH3ドメインを更に含んでもよい。特定の実施形態では、第一および/または第二の二量化ドメインは、ヒンジ-Fc領域、すなわちヒンジ-CH2-CH3ドメインの少なくとも一部分を含む。特定の実施形態では、第一の二量化ドメインは、第一のTCR定常領域のC末端に作動可能に連結することができる。特定の実施形態では、第二の二量化ドメインは、第二の抗原結合部分の抗体CH1定常領域のC末端に作動可能に連結することができる。
本明細書に提供されるポリペプチド複合体では、第一の二量化ドメインは、遺伝学的に工作された(改変された)TCR定常領域のC末端に作動可能に連結され、そして一緒になってキメラ定常領域を形成する。言い換えれば、キメラ定常領域は、工作されたTCR定常領域と作動可能に連結された第一の二量化ドメインを含んでいる。
特定の実施形態では、キメラ定常領域は、IgG1、IgG2またはIgG4に由来する第一のヒンジ-Fc領域に結合した、改変されたCβを含む。
特定の実施形態では、キメラ定常領域は、第一の抗体のCH2ドメインおよび/または第一抗体のCH3ドメインを更に含む。例えば、キメラ定常領域は、第三の結合ドメインのC末端に結合した、第一の抗体のCH2-CH3ドメインを更に含む。
キメラ定常領域と第二のTCR定常ドメインの上記ペアは、それらが本明細書に開示されるようなポリペプチド複合体を提供するように、巧く工作して所望の抗体可変領域に融合させることができるという点で、有用である。例えば、抗体重鎖可変領域は、キメラ定常領域(C1を含む)に融合させることによって、本明細書に提供されるポリペプチド複合体の第一のポリペプチド鎖を提供し;そして同様に、抗体軽鎖可変領域を第二のTCR定常ドメイン(C2を含む)に融合させることによって、本明細書に提供されるポリペプチド複合体の第二のポリペプチド鎖を提供する。
特定の実施形態では、第二の二量化ドメインは、ヒンジ領域を含む。 ヒンジ領域は、IgG1、IgG2またはIgG4のような抗体から誘導することができる。特定の実施形態では、第二の二量化ドメインは、随意に抗体CH2ドメイン、および/または抗体CH3ドメイン、例えばヒンジ-Fc領域を更に含んでよい。ヒンジ領域は、第二の抗原結合部位の抗体重鎖(例えばFab)に取り付けることができる。
二重特異性ポリペプチド複合体では、第一および第二の二量化ドメインは二量体へと会合することができる。特定の実施形態では、第一および第二の二量化ドメインは、ホモ二量化を阻止しそして/またはヘテロ二量化を優先するように異なっておりかつ一緒に会合する。例えば、第一および第二の二量化ドメインは、それらが同一でなく、かつ、それらが自身とホモ二量体を形成するのでなく、優先的に互いの間でヘテロ二量体を形成するように選択することができる。特定の実施形態では、第一および第二の二量化ドメインは、knobs-into-holes(ノブズ・イントゥー・ホールズ(***と陥没);KiH)、疎水性相互作用、静電相互作用、親水性相互作用、または増加した柔軟性の形成を介して、ヘテロ二量体に会合することができる。
特定の実施形態では、第一および第二の二量化ドメインは、それぞれがknobs-into-holes (KiH)を形成することができるように変異されているCH2および/またはCH3ドメインを含む。ノブ(***)は、第一のCH2/CH3ポリペプチド中の小さなアミノ酸残基をより大きなものに入れ替えることによって得られ、そしてホール(陥没)は、大きな残基を小さい残基に入れ替えることによって得られる(Ridgway他、1996、前掲、Spiess他、2015、前掲およびBrinkmann他、2017、前掲)。
二重特異性フォーマット
本明細書に提供されるポリペプチド複合体では、第一の抗原結合部分と第二の抗原結合部分はIg様構造へと集成される。Ig様構造は、Y形の構成物を有する天然抗体に類似しており、抗原結合のための2本のアームと、会合と安定化のための1つの幹(ステム)を有する。天然抗体への類似性のため、優れた生体内薬物動態、望ましい免疫応答および安定性等といった様々な利点を提供することができる。本明細書に提供される第一の抗原結合部分と、それに結合した本明細書に提供される第二の抗原結合部分とを含む、Ig様構造は、Ig(例えばIgG)のものに匹敵する熱安定性を有する。特定の実施形態では、本明細書に提供されるIg様構造は、天然IgGのものの少なくとも70%、80%、90%、95%、または100%の熱安定性を有する。
本明細書に提供される二重特異性ポリペプチド複合体は、i) VH1-C1-ヒンジ-CH2-CH3;ii) VL1-C2;iii) VH2-CH1-ヒンジ-CH2-CH3;およびiv)VL2-CLの4本のポリペプチド鎖を含み、ここでC1とC2は、少なくとも1つの非天然の鎖間結合を含む二量体を形成することができ、そして2つのヒンジ領域および/または2つのCH3ドメインは二量化を促進することができる1つ以上の鎖間結合を形成することができる。
本明細書に開示される二重特異性ポリペプチド複合体は、他のフォーマットの二重特異性ポリペプチド複合体に比較した場合、より長い生体内(in vivo)半減期を有し、かつ製造が比較的容易である。
二重特異性複合体配列
幾つかの実施形態では、二重特異性複合体の第一の抗原結合部分がCD3に特異的に結合することができ、そして第二の抗原結合部分がCD20に特異的に結合することができる。別の実施形態では、二重特異性複合体の第一の抗原結合部分がCD20に特異的に結合することができ、そして第二の抗原結合部分がCD3に特異的に結合することができる。
幾つかの実施形態では、二重特異性ポリペプチド複合体は、実施例2に示されるように、4つのポリペプチド配列:配列番号81、配列番号82、配列番号83および配列番号84の組み合わせを含む(W3278-T2U3.E17R-1.uIgG4.SP 抗体)。特定の実施形態では、二重特異性ポリペプチド複合体は、実施例2に示されるように、4つのポリペプチド配列:配列番号85、配列番号86、配列番号87および配列番号88の組み合わせを含む(W3278-T3U2.F16-1.uIgG4.SP 抗体)。特定の実施形態では、二重特異性ポリペプチド複合体は、実施例2に示されるように、4つのポリペプチド配列:配列番号89、配列番号90、配列番号91および配列番号92の組み合わせを含む。特定の実施形態では、二重特異性ポリペプチド複合体は、5本のポリペプチド鎖:a)配列番号89に示される配列を有する第一のポリペプチド鎖;b) 配列番号90に示される配列を有する第二のポリペプチド鎖;c) 配列番号91に示される配列を有する第三のポリペプチド鎖; d) 配列番号91に示される配列を有する第四のポリペプチド鎖;およびe) 配列番号92に示される配列を有する第五のポリペプチド鎖を含む。例えば、ある特定の実施形態では、二重特異性ポリペプチド複合体は、実施例2に示されるように、2つの抗CD20結合部分を含み、そのうちの1つの重鎖VH-CH1ドメインが、抗CD3結合部分の重鎖VHドメインに作動可能に連結されている、W3278-U2T3.F18R-1.uIgG4.SP 抗体である。特定の実施形態では、二重特異性ポリペプチド複合体は、実施例2に示されるように、4つのポリペプチド配列:配列番号93、配列番号94、配列番号95および配列番号96の組み合わせを含む(W3278-U3T2.F18R-1.uIgG4.SP 抗体)。特定の実施形態では、二重特異性ポリペプチド複合体は、実施例2に示されるように、4つのポリペプチド配列:配列番号97、配列番号98、配列番号99および配列番号100の組み合わせを含む(W3278-T3U2.F17R-1.uIgG4.SP 抗体)。そのような実施形態では、第一の抗原結合部分がCD3に結合し、そして第二の抗原結合部分がCD20に結合する。
特定の実施形態では、二重特異性ポリペプチド複合体は、i) 第一のキメラ定常領域に作動可能に連結されたVH1;ii) 第二のキメラ定常領域に作動可能に連結されたVL1;iii) 従来の抗体重鎖定常領域に作動可能に連結されたVH2;およびiv) 従来の抗体軽鎖定常領域に作動可能に連結されたVL2、の4本のポリペプチド鎖を含む。特定の実施形態では、第一のキメラ定常領域が、各々前記に定義されたC1-ヒンジ-CH2-CH3を含みうる。特定の実施形態では、第二のキメラ定常領域が、前記に定義されたC2を含みうる。特定の実施形態では、従来の抗体重鎖定常領域が、各々前記に定義されたCH1-ヒンジ-CH2-CH3を含みうる。特定の実施形態では、従来の軽鎖定常領域が、前記に定義されたCLを含みうる。
特定の実施形態では、配列番号92のポリペプチド配列中の182位、193位、203位、206位および207位にある天然のグリコシル化部位からの1つ以上のアミノ酸が修飾される。好ましくは、この修飾は配列番号92の193位のアミノ酸に対して行われる。特定の実施形態では、そのような修飾は、S182X、S193X、S203X、S206XまたはS207Xのうちの1つ以上の変異を含み、ここでXはSer(S)またはThr(T)以外の任意アミノ酸を表す。特定の好ましい実施形態では、前記修飾がS193Xであり、ここでXはAla、Gly、ProまたはValから選択される。特定の実施形態では、前記変異がO-グリコシル化部位を削除するものであり、O-グリコシル化部位の型がコア1配置でのO-結合型糖(サッカリド)、構造式NeuAc-Gal-GalNAc または NeuAc-Gal-(NeuAc) GalNAcを有する。
上述した通り、未修飾の二重特異性抗体と比較して、本明細書に記載の二重特異性抗体の対応ポリペプチド配列中の天然グリコシル化部位を修飾することによって生産される変異型二重特異性抗体は、天然抗体とより一層類似しており、有意に減少した免疫原性、改善された半減期、および改善された創薬可能性を有する。
作製方法
本開示は、本明細書に提供されるポリペプチド複合体、二重特異性抗CD3×CD20ポリペプチド複合体をコードする、単離された核酸またはポリペプチドを提供する。
本明細書で使用する「核酸」または「ポリヌクレオチド」は、一本鎖または二本鎖形態のいずれかのデオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(DNA)およびそのポリマーを指す。特に限定しない限り、この用語は、参照核酸と同様な結合特性を有し、かつ天然に存在するヌクレオチドと同様な方法で代謝される、天然ヌクレオチドの既知類似体を含むポリヌクレオチドを包含する。特に断らない限り、特定のポリヌクレオチド配列は、その保存的修飾変異体(例えば縮重コドン置換)、対立遺伝子、オルソログ、SNP、および相補的配列、並びに明確に指摘された配列も暗示的に包含する。具体的には、縮重コドン置換は、1つ以上の選択された(または全ての)コドンの三番目の位置が、混成塩基および/またはデオキシイノシン残基により置換されている配列を作出することにより達成することができる(Batzer 他、Nucleic Acid Res. 19:5081 (1991); Ohtsuka 他、J. Biol. Chem. 260:2605-2608 (1985); およびRossolini他、Mol. Cell. Probes 8:91-98 (1994)を参照のこと)。
本明細書に提供されるポリペプチド複合体および二重特異性ポリペプチド複合体をコードする核酸またはポリヌクレオチドは、組換え技術を使って作製することができる。このために、親抗体の抗原結合部分(例えばCDRまたは可変領域)をコードするDNAを単離し、そして従来の手法を使って(例えば、抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを用いることによって)配列決定することができる。同様に、TCR定常領域をコードするDNAも得ることができる。一例として、可変ドメイン(VH)をコードするポリヌクレオチド配列、および第一のTCR定常領域(C1)をコードするポリヌクレオチド配列を取得し、それらを作動可能に連結して、宿主中での転写と発現を可能にし、第一のポリペプチドを産生させる。同様に、宿主細胞中での第二のポリペプチドの発現を可能にするように、VLをコードするポリヌクレオチド配列を、C1をコードするポリヌクレオチド配列に作動可能に連結させる。必要であれば、1つ以上のスペーサーをコードするコード化ポリヌクレオチド配列が、所望の生成物の発現を可能にするように別のコード配列に作動可能に連結される。
前記コード化ポリヌクレオチド配列は、第一と第二のポリペプチドの発現または産生が実行可能でありかつ適正な制御下にあるように、所望により発現ベクター中で、更に1つ以上の調節配列に作動可能に連結させることが可能である。
コード化ポリヌクレオチド配列(1または複数)は、当業界で既知の技術を使って、クローニング用(DNAの増幅用)または発現用のベクター中に挿入することができる。別の実施形態では、本明細書に提供されるポリペプチド複合体および二重特異性ポリペプチド複合体は、当業界で既知の相同組換えによって産生させることができる。多数のベクターが入手可能である。ベクターの構成成分としては通常、限定されないが、つぎのものの1つ以上を含む:シグナル配列、複製開始点、1つ以上のマーカー遺伝子、エンハンサー要素、プロモーター(例えばSV40、CMV、EF-1α)、および転写終結配列。
本明細書中で用いる「ベクター」という用語は、タンパク質をコードするポリペプチドを、当該タンパク質の発現をもたらすように作動可能に連結せしめることができるベクターを指す。典型的には、ベクター構築物は、適当な調節配列も含む。例えば、ポリヌクレオチド分子は、宿主細胞において所望の転写遺伝子を発現することができるような形でコード配列に作動可能に連結された、ガイドRNAをコードするヌクレオチド配列および/または部位特異的変異誘発ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の5′隣接領域に配置した調節配列を含むことができる。ベクターは、宿主細胞内で該ベクターが担持している遺伝要素の発現をもたらすように、宿主細胞を形質転換、形質導入またはトランスフェクションさせるために用いることができる。ベクターの例としては、プラスミド、ファジミド、コスミド、人工染色体、例えば酵母由来人工染色体(YAC)、細菌由来人工染色体(BAC)またはP1由来人工染色体(PAC)、バクテリオファージ、例えばλファージもしくはM13ファージ、および動物ウイルスが挙げられる。ベクターとして用いられる動物ウイルスの範疇には、レトロウイルス(レンチウイルスを含む)、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス(例えば単純ヘルペスウイルス)、ポックスウイルス、バキュロウイルス、乳頭腫ウイルス、およびパポバウイルス(例えばSV40)が含まれる。ベクターは、発現を調節するための様々な要素、例えばプロモーター配列、転写開始配列、エンハンサー配列、選択可能要素、およびレポーター遺伝子などを含む。加えて、ベクターは複製開始点を含んでもよい。ベクターは、それが細胞中に入るのを助けるための物質、例えば限定されないが、ウイルス粒子、リポソーム、またはタンパク質被覆材も包含する。
幾つかの実施形態では、ベクター系は、哺乳類、細菌、酵母系などを含み、そして限定されないが、pALTER、pBAD、pcDNA、pCal、pL、pET、pGEMEX、pGEX、pCI、pCMV、pEGFP、pEGFT、pSV2、pFUSE、pVITRO、pVIVO、pMAL、pMONO、pSELECT、pUNO、pDUO、Psg5L、pBABE、pWPXL、pBI、p15TV-L、pPro18、pTD、pRS420、pLexA、pACT2.2 等のプラスミド、並びに他の実験用および市販のベクターを包含する。適当なベクターとしては、限定されないが、プラスミドまたはウイルスベクター(例えば複製欠陥レトロウイルス、アデノウイルス、およびアデノ随伴ウイルス)を挙げることができる。
本明細書に提供されるポリペプチドを含むベクターは、クローニングまたは遺伝子発現のために宿主細胞に導入することができる。本明細書中で用いる「宿主細胞」という表現は、異種ポリヌクレオチドおよび/またはベクターが中に導入されている細胞を指す。
ベクター中のDNAをクローニングするためまたは発現させるために適当な宿主細胞は、上述した原核生物、酵母または高等真核細胞である、この目的での適当な原核細胞には、真正細菌、例えばグラム陰性またはグラム陽性菌類、例えば腸内細菌科(Enterobacteriaceae)、例えばエシェリキア属、例えば大腸菌(E. coli)、エンテロバクター属、エルウィニア属、クレブシエラ属、サルモネラ属、例えばサルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurium;ネズミチフス菌)、セラチア属、例えばセラチア・マルセスカンス;セラチア菌)、およびシゲラ属、並びにバチルス属、例えばB.サチリス(B. subtilis;枯草菌)およびB.リケニフォルミス(B. licheniformis;リケニフォルミス菌)、シュードモナス属、例えばP.エルギノーザ(P. aeruginosa;緑膿菌)およびストレプトマイセス属菌が含まれる。
原核生物に加えて、真核微生物、例えば糸状菌または酵母が、ポリペプチド複合体および二重特異性ポリペプチド複合体をコードするベクターのクローニングまたは発現用宿主として適当である。サッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)、すなわち一般的なパン酵母は、下等真核宿主微生物の中で最も汎用されている。しかしながら、多数の他の属、種および株が商業的に入手可能であり、本発明に有用であり、例えば、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe);クリベロマイセス(Kluyveromyces)宿主、例えばK. ラクチス、K. フラジリス(ATCC 12,424)、K. ブルガリカス(ATCC 16,045)、K. ウィッカーラミ(K.wickeramii) (ATCC 24,178)、K.ウォルティ(K. waltii) (ATCC 56,500)、K.ドロソフィラルム(K. drosophilarum) (ATCC 36,906)、K. サーモトレランス(K.thermotolerans)およびK.マルキシアヌス(K. marxianus); ヤロウィア属 (EP 402,226);ピキア・パストリス(Pichia pastoris) (EP 183,070);カンジダ属;トリコデルマ・リーシア(Trichoderma reesia)(EP 244,234);ニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa);シュワンニオマイセス属(Schwanniomyces)、例えばシュワンニオマイセス・オクシデンタリス(Schwanniomyces occidentalis);並びに糸状菌、例えばニューロスポラ属(Neurospora;アカパンカビ)・ペニシリウム属(Penicillium;アオカビ)、トリポクラジウム属(Tolypocladium;ハナヤスリタケ)、およびアスペルギルス属(Aspergillus)宿主、例えばA.ニデュランス(A. nidulans)およびA.ニガー(A. niger;黒色アスペルギルス)が含まれる。
グリコシル化ポリペプチド複合体と本明細書に記載の二重特異性ポリペプチド複合体の発現に適当な宿主細胞は、多細胞生物から誘導される。無脊椎動物細胞の例としては、植物細胞と昆虫細胞が挙げられる。多数のバキュロウイルス株およびその変異体、並びにスポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda ;イモムシ)、 エーデス・エジプティ(Aedes aegypti ;ネッタイシマカ)、エーデス・アルボピクツス(Aedes albopictus ;ヒトスジシマカ)、ドロソフィラ・メラノガスター(Drosophila melanogaster ;キイロショウジョウバエ)、およびボンビックス・モリ(Bombyx mori;カイコ)といった宿主からの細胞が同定されている。トランスフェクション用の様々なウイルス株、例えば、オートグラファ・カリフォルニカ(Autographa californica)NPVのL-1変異株、およびボンビックス・モリ(Bombyx mori)NPVのBm-5株が広く入手可能であり、そのようなウイルスは本発明に従って、特にスポドプテラ・フルギペルダ細胞のトランスフェクション用ウイルスとして用いることができる。綿、トウモロコシ、ジャガイモ、大豆、ペチュニア、トマト、およびタバコの植物細胞培養物も宿主として用いることができる。
しかしながら、脊椎動物細胞が最も注目されており、培養物中での脊椎動物細胞の繁殖(組織培養)が日常的な手法となった。有用な哺乳動物宿主細胞系の例は、SV40により形質転換されたサル腎臓CV1系(COS-7, ATCC CRL 1651);ヒト胎児腎臓細胞系(293細胞または懸濁培養での増殖用にサブクローニングされた293細胞、Graham 他、J. Gen Virol. 36:59 (1977))、例えば Expi293; ベビーハムスター腎細胞(BHK, ATCC CCL 10);チャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR (CHO, Urlaub 他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:4216 (1980));マウスセルトリ細胞 (TM4, Mather, Biol. Reprod. 23:243-251 (1980));サル腎細胞(CV1 ATCC CCL 70);アフリカミドリザル腎細胞(VERO-76, ATCC CRL-1587);ヒト子宮頸癌細胞(HELA, ATCC CCL 2);ネコ腎細胞(MDCK, ATCC CCL 34); バッファローラット肝細胞(BRL 3A, ATCC CRL 1442);ヒト胚細胞(W138, ATCC CCL 75);ヒト肝細胞(Hep G2, HB 8065);マウス乳腺腫瘍(MMT 060562, ATCC CCL51); TRI細胞(Mather 他、Annals N.Y. Acad. Sci. 383:44-68 (1982)); MRC 5 細胞; FS4 細胞;およびヒト肝癌細胞(Hep G2)である。
宿主細胞は、上述した発現ベクターまたはクローニングベクターで形質転換させ、次いでプロモーターの誘導、形質転換体の選択またはクローニングベクターの増幅のために適宜改良された常用の栄養培地中で培養することができる。
本明細書に記載のポリペプチド複合体および二重特異性ポリペプチド複合体の生産のために、発現ベクターで形質転換された宿主細胞を様々な培地中で培養することができる。ハムF10(Sigma社製)、最小必須培地(MEM)(Sigma社製)、RPMI-1640(Sigma社製)、およびダルベッコ改良イーグル培地(DMEM)(Sigma社製)のような市販の培地が宿主細胞の培養に適当である。加えて、Ham 他、Meth. Enz. 58:44 (1979), Barnes 他、Anal. Biochem. 102:255 (1980)、米国特許第4,767,704号;同第4,657,866号;同第4,927,762号;同第4,560,655号;または同第5,122,469号;国際公開WO 90/03430号;同WO 87/00195号パンフレット;または 米国特許Re. 30,985 号に記載の培地のいずれも、宿主細胞用の培地として用いることができる。それらの培地のいずれも、必要であれば、ホルモンおよび/または他の増殖因子(例えばインスリン、トランスフェリン、または表皮増殖因子)、塩類(例えば塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウムおよびリン酸塩)、緩衝剤(例えばHEPES)、ヌクレオチド(例えばアデノシンおよびチミジン)、抗生物質(例えばゲンタマイシン(GENTAMYCINTM )(商標))、微量元素(マイクロモル領域の最終濃度で通常存在する無機化合物として定義される)、およびブドウ糖または同等のエネルギー源を補足することができる。他の任意サプリメントも、適当な濃度で含めることができ、それらは当業者に既知であろう。温度、pH等のような培養条件は、発現用に選択された宿主細胞に関して従来使用されているものであり、当業者に明白であろう。
一態様では、本発明は、本明細書に記載のポリペプチド複合体および二重特異性ポリペプチド複合体を発現させる方法であって、前記ポリペプチド複合体または二重特異性ポリペプチド複合体が発現される条件下で、本明細書に提供される宿主細胞を培養することを含む方法を提供する。
特定の実施形態では、本開示は、本明細書に提供される二重特異性ポリペプチド複合体を生産する方法であって、
a) 宿主細胞中に、N末端からC末端方向において、第一のTCR定常領域(C1)に作動可能に連結された第一の抗体の第一の重鎖可変ドメイン(VH)を含む第一のポリペプチドをコードする第一のポリヌクレオチド、N末端からC末端方向において、第二のTCR定常領域(C2)に作動可能に連結された第一の抗体の第一の軽鎖可変ドメイン(VL)を含む第二のポリペプチドをコードする第二のポリヌクレオチド、および、第二の抗原結合部分をコードする1または複数の追加のポリヌクレオチド、を導入する工程であって、ここでC1とC2は二量体を形成することができ、そして非天然の鎖間ジスルフィド結合がC1とC2の二量体を安定化することができ、前記第一の抗原結合部分と第二の抗原結合部分は、その第一の抗原結合部分と第二の抗原結合部分の両方が天然のFab相当物であったならば起こるであろうミスペアリングが低減されており、前記第一の抗原結合部分が第一の抗原特異性を有しそして前記第二の抗原結合部分が第二の抗原特異性を有している工程;
b) 前記宿主細胞が前記二重特異性ポリペプチド複合体を発現できるようにする工程
を含む方法を提供する。
特定の実施形態では、当該方法は、二重特異性ポリペプチド複合体を単離することを更に含む。
組換え技術を用いる場合、本明細書に提供される二重特異性ポリペプチド複合体は、ペリプラズム空間において細胞内で生産させることができ、または培地中に直接分泌させることができる。第一段階として、生成物が細胞内的に生産される場合には、宿主細胞または溶解した断片のいずれかの粒状破片が、例えば遠心分離または限外ろ過によって除去される。Carter他、Bio/Technology 10:163-167 (1992)は、大腸菌のペリプラズム空間に分泌された抗体を単離するための手順を記載している。簡単に述べると、細胞ペーストを酢酸ナトリウム(pH 3.5)、EDTAおよびフッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)の存在下で約30分間に渡り解凍させる。細胞破片は遠心分離によって除去することができる。生成物が培地中に分泌される場合、そのような発現系からの上清をまず最初に市販のタンパク質濃縮フィルター、例えばAmiconまたはMillipore Pellicon限外濾過装置を使って濃縮する。タンパク質分解を阻害するためにPMSFのようなプロテアーゼ阻害剤を上記工程のいずれにも含めることができ、そして偶発的な汚染物の増殖を防止するために抗生物質を含めることも可能である。
細胞から調製した本明細書に提供される二重特異性ポリペプチド複合体は、例えば、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、DEAE-セルロースイオン交換クロマトグラフィー、硫酸アンモニウム沈澱、塩析、およびアフィニティークロマトグラフィーを使って精製することができる。アフィニティークロマトグラフィーが好ましい精製技術である。
本明細書に提供される二重特異性ポリペプチド複合体が、免疫グロブリンFcドメインを含む場合、そのポリペプチド複合体中に存在するFcドメインの種とアイソタイプに依存して、プロテインAをアフィニティーリガンドとして使用することができる。プロテインAは、ヒトγ1、γ2またはγ4重鎖に基づいたポリペプチド複合体の精製に利用できる(Lindmark他、J. Immunol. Meth. 62:1-13 (1983))。プロテインGは、全てのマウスアイソタイプとヒトγ3に推奨される(Guss他、EMBO J. 5:1567 1575 (1986))。アフィニティーリガンドが取り付けられるマトリックスとしては、アガロースが最も頻繁に用いられるが、他のマトリックスも利用可能である。機械的に安定なマトリックス、例えば細孔度制御ガラスまたはポリ(スチレンジビニル)ベンゼンは、アガロースを用いて達成されるよりも速い流速と短い処理時間を可能にする。
本明細書中に提供される二重特異性ポリペプチド複合体がCH3ドメインを含む場合、Bakerbond ABX 樹脂が精製に有用である(J. T. Baker, 米国ニュージャージー州フィリップスバーグ)。イオン交換カラム上での分画、エタノール沈澱、逆相HPLC、シリカ上でのクロマトグラフィー、ヘパリンセファロース(SEPHAROSETM)(商標)上でのクロマトグラフィー、アニオンまたはカチオン交換樹脂上でのクロマトグラフィー(例えばポリアスパラギン酸カラム)、クロマト分画、SDS-PAGE、および硫酸アンモニウム沈澱といった技術も、回収すべき抗体に応じて利用可能である。
任意の予備精製工程の後、着目のポリペプチド複合体と汚染物を含む混合物は、約2.5~4.5のpHの溶出バッファーを使った低pH疎水性相互作用クロマトグラフィーに供することができ、好ましくは低塩濃度で実施することができる(例えば約0~0.25 Mの塩)。
特定の実施形態では、本明細書に提供される二重特異性ポリペプチド複合体は、従来法を使って高収率で容易に精製することができる。二重特異性ポリペプチド複合体の利点の1つは、重鎖可変ドメイン配列と軽鎖可変ドメイン配列との間のミスペアリングが有意に低減することである。これは、望ましくない副産物の生成を減らし、かつ比較的単純な精製方法を用いて高収率で高純度の生成物の取得を可能にする。
誘導体
幾つかの実施形態では、二重特異性ポリペプチド複合体は、所望のコンジュゲートとの結合(コンジュゲーション)の基剤として利用できる。
様々なコンジュゲートを本明細書に提供されるポリペプチド複合体または二重特異性ポリペプチド複合体に連結できることが期待される(例えば、“Conjugate Vaccines”, Contributions to Microbiology and Immunology, J. M. Cruse & R. E. Lewis, Jr.編, Carger Press, New York, (1989)を参照のこと)。それらのコンジュゲートは、他の方法の中でも特に、共有結合、親和性結合、インターカレーション、配位結合、錯生成、会合、ブレンド、または付加により、二重特異性ポリペプチド複合体に連結せしめることができる。
特定の実施形態では、本明細書に提供される二重特異性ポリペプチド複合体は、エピトープ結合部分の外側に特定の部位を含むように工作することができ、その部位は1以上のコンジュゲートへの結合に利用することができる。例えば、そのような部位は、コンジュゲートへの共有結合を促進するために、1以上の反応性アミノ酸残基、例えばシステインまたはヒスチジン残基を含み得る。
特定の実施形態では、二重特異性ポリペプチド複合体は、直接的に、または例えば別のコンジュゲートを介してもしくはリンカーを介して間接的に、コンジュゲートに連結することができる。
例えば、システインのような反応性残基を有する二重特異性ポリペプチド複合体は、チオール反応性試薬に連結せしめることができ、その反応性基は、例えば、マレイミド、ヨードアセトアミド、ピリジルジスルフィド、または他のチオール反応性コンジュゲーション相手である(Haugland, 2003, Molecular Probes Handbook of Fluorescent Probes and Research Chemicals, Molecular Probes, Inc.; Brinkley, 1992, Bioconjugate Chem. 3:2; Garman, 1997, Non-Radioactive Labelling: A Practical Approach, Academic Press, London; Means (1990) Bioconjugate Chem. 1:2; Hermanson, G. in Bioconjugate Techniques (1996) Academic Press, San Diego, pp. 40-55, 643-671)。
別の例として、二重特異性ポリペプチド複合体は、ビオチンにコン結合させることができ、次いでアビジンに結合されている第二のコンジュゲートに間接的に結合させることができる。更に別の例としては、ポリペプチド複合体または二重特異性ポリペプチド複合体は、リンカーに連結させてもよく、該リンカーがコンジュゲートに更に連結する。リンカーの例としては、二価のカップリング剤、例えばN-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)、スクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(SMCC)、イミノチオラン(IT)、イミドエステルの二価誘導体(例えばアジピン酸ジメチルHCl)、活性エステル(例えばジスクシンイミジルスベレート)、アルデヒド(例えばグルタルアルデヒド)、ビス-アジド化合物(例えばビス(p-アジドベンゾイル)ヘキサンジアミン)、ビス-ジアゾニウム誘導体(例えばビス(p-ジアゾニウムベンゾイル)エチレンジアミン)、ジイソシアネート(例えばトルエン2,6-ジイソシアネート)、およびhis-活性フッ素化合物(例えば1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼン)が挙げられる。ジスルフィド結合を提供するために特に好ましいカップリング剤としては、N-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)(Carlsson他、Biochem. J. 173:723-737 (1978))およびN-スクシンイミジル-4-(2-ピリジルチオ)ペンタノエート(SPP)が挙げられる。
コンジュゲートは、検出可能な標識、薬物動態変更成分、精製成分、または細胞傷害性成分であることができる。検出可能な標識の例には、蛍光標識(例えばフルオレセイン、ローダミン、ダンシル、フィコエリスリン、またはテキサスレッド)、酵素基質標識(例えば西洋わさびペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ルシフェラーゼ、グルコアミラーゼ、リゾチーム、糖質酸化酵素(グルコースオキシダーゼ)、またはβ-D-ガラクトシダーゼ)、放射性同位体(例えば123I、124I、125I、131I、35S、3H、111In、112In、14C、64Cu、67Cu、86Y、88Y、90Y、177Lu、211At、186Re、188Re、153Sm、212Bi、および32P、他のランタニド、蛍光標識)、発色成分、ジゴキシゲニン、ビオチン/アビジン、DNA分子、または検出用の金が含まれる。特定の実施形態では、コンジュゲートは、薬物動態変更成分、例えば抗体の半減期を増加させる働きをするPEGであることができる。他の適当なポリマーとしては、例えば、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、エチレングリコール/プロピレングリコールのコポリマー等が挙げられる。特定の実施形態では、コンジュゲートは、磁気ビーズのような精製成分であることができる。「細胞傷害性成分」は、細胞にとって有害であるかまたは細胞を損傷または致死させることができる任意の剤でありうる。細胞傷害性成分の例としては、限定でないが、タキソール、サイトカラシンB、グラミシジンD、臭化エチジウム、エメチン、マイトマイシン、エトポシド、テノポシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルヒチン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ジヒドロキシアントラシンジオン、ミトキサントロン、ミトラマイシン、アクチノマイシンD、1-デヒドロテストステロン、グルココルチコイド、プロカイン、テトラカイン、リドカイン、プロプラノロール、ピューロマイシンおよびその類似体、代謝拮抗薬(例えばメトトレキサート、6-メルカプトプリン、6-チオグアニン、シタラビン、5-フルオロウラシルデカルバジン)、アルキル化薬(例えばメクロレタミン、チオテパ、クロラムブシル、メルファラン、カルムスチン(BSNU)およびロムスチン(CCNU)、シクロホスファミド、ブスルファン、ジブロモマンニトール、ストレプトゾトシン、マイトマイシンC、およびシス-ジクロロジアミン白金(II)(DDP)、シスプラチン)、アントラサイクリン系薬(例えばダウノルビシン(正式名はダウノマイシン) およびドキソルビシン)、抗生物質(例えばダクチノマイシン(正式名はアクチノマイシン)、ブレオマイシン、ミトラマイシン、およびアントラマイシン(AMC))、並びに抗有糸***薬(例えばビンクリスチンおよびビンブラスチン)が挙げられる。
コンジュゲートを抗体、免疫グロブリンまたはその断片に結合する方法は、例えば、米国特許第5,208,020号;米国特許第6,441,163号;国際公開WO2005037992号;同WO2005081711号;および同WO2006/034488号パンフレット中に見つかり、それらは全内容が参照により本明細書中に援用される。
医薬組成物
本開示はまた、本明細書に提供される二重特異性ポリペプチド複合体と、医薬上許容される担体とを含有する、医薬組成物も提供する。
用語「医薬上許容される」とは、指定された担体(キャリア)、ビヒクル、希釈剤、賦形剤(1または複数)、および/または塩が、一般に製剤を構成するその他の成分と化学的および/または物理的に適合可能であり、且つそれの受容者と生理学的に適合可能であることを示す。
「医薬上許容される担体」とは、対象に対して許容できる生体活性があり且つ非毒性である、活性成分以外の医薬製剤中の成分を指す。本明細書において開示された医薬組成物中で使用するための医薬上許容される担体は、例えば、医薬上許容される液体、ゲル、固形担体、水性ビヒクル、非水性ビヒクル、抗菌剤、等張化剤、緩衝剤、抗酸化剤、麻酔薬、懸濁化剤/分散剤、金属イオン封鎖剤もしくはキレート剤、希釈剤、アジュバント、賦形剤、無毒の補助物質、当該技術分野において公知の他の成分、またはそれらの様々な組合せを含んでよい。
好適な成分としては、例えば、抗酸化剤、充填剤、結合剤、崩壊剤、緩衝剤、保存剤、滑沢剤、香味剤、増粘剤、着色剤、乳化剤、または糖やシクロデキストリンなどの安定化剤が挙げられる。好適な抗酸化剤には、例えば、メチオニン、アスコルビン酸、EDTA、チオ硫酸ナトリウム、白金、カタラーゼ、クエン酸、システイン、チオグリセロール、チオグリコール酸、チオソルビトール、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、および/または没食子酸プロピルが含まれ得る。本明細書に開示したように、本明細書に提供される医薬組成物中へのメチオニンなどの1以上の抗酸化剤の包含は、ポリペプチド複合体または二重特異性ポリペプチド複合体の酸化を減少させる。この酸化の減少は、結合親和性の損失を防止または減らし、それによりタンパク質の安定性を向上させ、且つ半減期を最大化する。従って、特定の実施態様において、本明細書開示のポリペプチド複合体または二重特異性ポリペプチド複合体と、メチオニンなどの1以上の抗酸化剤とを含有する、組成物が提供される。
更なる例証のために、医薬上許容される担体として、例えば、塩化ナトリウム注射液、リンゲル注射液、等張ブドウ糖注射液、滅菌水注射液、またはブドウ糖添加乳酸リンゲル注射液、などの水性ビヒクル、植物起源の固定油、綿実油、トウモロコシ油、ゴマ油もしくは落花生油などの非水性ビヒクル、静菌または静真菌濃度の抗菌剤、塩化ナトリウムもしくはブドウ糖などの等張化剤、リン酸塩もしくはクエン酸塩緩衝剤などの緩衝液、硫酸水素ナトリウムなどの抗酸化剤、塩酸プロカインなどの局所麻酔薬、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、またはポリビニルピロリドンなどの懸濁化剤および分散剤、ポリソルベート80(TWEEN(登録商標)80)などの乳化剤、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)もしくはEGTA(エチレングリコール四酢酸)などの金属イオン封鎖剤またはキレート化剤、エチルアルコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、水酸化ナトリウム、塩酸、クエン酸、または乳酸を挙げることができる。担体として利用される抗菌剤は、フェノールもしくはクレゾール、水銀、ベンジルアルコール、クロロブタノール、p-ヒドロキシ安息香酸メチルおよびプロピル、チメロサール、塩化ベンザルコニウムおよび塩化ベンゼトニウムを含む反復投与用容器内で、医薬組成物へ添加されてよい。好適な賦形剤には、例えば、水、食塩水、ブドウ糖、グリセロールまたはエタノールが含まれ得る。好適な非毒性の補助物質には、例えば、湿潤剤もしくは乳化剤、pH緩衝剤、安定剤、溶解促進剤、または酢酸ナトリウム、ソルビタンモノラウレート、トリエタノールアミンオレアート、もしくはシクロデキストリンなどの物質が含まれる。
医薬組成物は、液剤、懸濁剤、乳剤、丸剤、カプセル剤、錠剤、持続放出製剤、または散剤であることができる。経口製剤は、医薬等級のマンニトール、乳糖、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどの標準担体を含むことができる。
特定の実施態様では、本医薬組成物は、注射用組成物へ製剤化される。注射用医薬組成物は、通常の形状、例えば、液剤、懸濁液剤、乳剤など、あるいは液剤、懸濁液剤または乳剤を作製するのに適している固体形状で調製されてよい。注射用の調製品は、そのまま注射できる無菌および/または非発熱性の溶液、皮下注射用錠剤を含む、使用直前に溶媒とそのまま一緒にされる凍結乾燥した散剤など無菌の乾燥可溶性製品、そのまま注射できる無菌の懸濁液剤、使用直前にビヒクルとそのまま一緒にされる無菌の乾燥不溶性製品、並びに無菌および/または非発熱性の乳剤を含んでよい。これらの液剤は、水性または非水性のいずれかであってよい。
特定の実施態様では、単位用量の非経口製剤は、アンプル、バイアルまたは有針注射器に包装される。非経口投与のための全ての製剤は、当該技術分野において公知であり実施されるように、無菌でありかつ非発熱性でなければならない。
特定の実施態様において、無菌の凍結乾燥した散剤は、好適な溶媒中に本明細書に開示されたポリペプチド複合体または二重特異性ポリペプチド複合体を溶解することにより、調製される。溶媒は、安定性を向上する賦形剤または散剤もしくは散剤から調製された再構成溶液の他の薬理学的成分を含んでよい。使用される賦形剤としては、水、ブドウ糖、ソルビタール、フルクトース、トウモロコシシロップ、キシリトール、グリセリン、グルコース、ショ糖または他の好適な物質が挙げられるが、これらに限定されるものではない。溶媒は、一実施態様において、ほぼ中性pHの、クエン酸塩、リン酸ナトリウムもしくはカリウムなどの緩衝液、または他の当業者に公知のそのような緩衝液を含んでよい。この溶液の後続の滅菌濾過、それに続く当業者に公知の標準条件下での凍結乾燥が、所望の製剤を提供する。一実施態様において、得られた溶液は、凍結乾燥のためのバイアルへ分配される。各バイアルは、本明細書に提供されるポリペプチド複合体、二重特異性ポリペプチド複合体またはそれらの組成物の単回投与量または反復投与量を含むことができる。1回投与量または投与量のセットに必要とされる量を少し上回って過充填しているバイアル(例えば約10%)は、正確な試料の採取および正確な投薬を促進するために許容される。凍結乾燥された散剤は、約4℃~室温など、適切な条件下で貯蔵することができる。
凍結乾燥散剤の注射用水による再構成は、非経口的投与に使用するための製剤を提供する。一実施態様において、再構成のために、無菌および/または非発熱性の水または他の好適な液体担体が、凍結乾燥散剤へ添加される。正確な量は、既定の選択された療法によって決まり、経験的に決定することができる。
治療方法
本明細書に提供されるポリペプチド複合体または二重特異性ポリペプチド複合体の治療有効量を、それを必要とする対象へ投与し、これにより状態または障害を治療または予防することを含む、治療方法もまた提供される。特定の実施形態において、対象は、本明細書に提供されるポリペプチド複合体または二重特異性ポリペプチド複合体に反応しやすい障害または状態を有する者として同定されている。
本明細書において使用するときの状態を「治療すること」または「治療」は、状態を予防または緩和すること、状態の発生または発達速度を遅らせること、状態を発症するリスクを減らすこと、状態に関連した症状の発症を予防または遅延させること、状態に関連した症状を軽減または終結させること、状態の完全なもしくは部分的な退行を生じさせること、状態を治癒すること、またはそれらのいくつかの組合せを含む。
本明細書に提供されるポリペプチド複合体の治療有効量は、例えば、体重、年齢、病歴、現在の薬物治療、対象の健康状態並びに交差反応、アレルギー、過敏症および有害な副作用の可能性、更には、投与経路および疾病の発達の程度など、当該技術分野において公知の様々な要因によって左右されるだろう。投薬量は、これらおよび他の状況または必要要件により指摘されるように、当業者(例えば、医師または獣医)により、比例して増減されてよい。
特定の実施形態において、本明細書に提供される二重特異性ポリペプチド複合体は、約0.01 mg/kg~約100 mg/kg(例えば、約0.01 mg/kg、約0.5 mg/kg、約1 mg/kg、約2 mg/kg、約5 mg/kg、約10 mg/kg、約15 mg/kg、約20 mg/kg、約25 mg/kg、約30 mg/kg、約35 mg/kg、約40 mg/kg、約45 mg/kg、約50 mg/kg、約55 mg/kg、約60 mg/kg、約65 mg/kg、約70 mg/kg、約75 mg/kg、約80 mg/kg、約85 mg/kg、約90 mg/kg、約95 mg/kg、または約100 mg/kg)の治療有効量で投与することができる。特定のこれらの実施形態において、本明細書に提供されるポリペプチド複合体または二重特異性ポリペプチド複合体は、約50 mg/kg以下の用量で投与され、特定のこれらの実施形態において、投与量は、10 mg/kg以下、5 mg/kg以下、1 mg/kg以下、0.5 mg/kg以下、または0.1 mg/kg以下である。特定の実施形態において、投与量は、治療過程にわたって変化してよい。例えば、特定の実施態様において、初回投与量は、その後の投与量よりも多いことがある。特定の実施態様において、投与量は、対象の反応に応じて治療過程にわたって変化してよい。
投薬レジメンは、最適な所望の反応(例えば治療反応)を提供するように調節することができる。例えば、1回量を投与することができ、または数回の分割量を時間をかけて投与することができる。
本明細書に提供される二重特異性ポリペプチド複合体は、当該技術分野で公知の任意の経路、例えば、非経口(例えば、皮下、腹腔内、静脈内点滴を含む静脈内、筋肉内、または皮内注射)または非経口以外(non-parenteral)(例えば、経口、鼻腔内、眼内、舌下、直腸内、または局所)経路で投与することが可能である。
されてよい。
特定の実施形態では、本明細書に提供される二重特異性ポリペプチド複合体により処置される状態または障害は、癌または癌性状態、自己免疫疾患、感染性および寄生虫性疾患、心血管疾患、ニューロパチー、神経精神病的状態、傷害、炎症、または凝固障害である。
本明細書で用いる「癌」または「癌性状態」は、腫瘍性もしくは悪性細胞増殖、繁殖、または転移により媒介される任意の医学的状態を指し、それは固形癌と白血病のような非固形癌を包含する。本明細書で用いる「腫瘍」は、腫瘍性および/または悪性細胞の固形塊を指す。
癌に関して、「治療すること」または「治療」は、腫瘍性もしくは悪性の細胞増殖、繁殖または転移を阻害もしくは遅延させること、腫瘍性もしくは悪性の細胞増殖、繁殖または転移の発達を予防または遅延させること、またはいくつかのそれらの組合せを指す。腫瘍に関して、「治療すること」または「治療」は、腫瘍の全部もしくは一部を根絶すること、腫瘍の成長および転移を阻害または遅延させること、腫瘍の発達を予防または遅延させること、またはそれらのいくつかの組合せを含む。
例えば、癌を治療するための本開示の二重特異性ポリペプチド複合体の使用に関して、治療有効量は、腫瘍の全部もしくは一部を根絶すること、腫瘍の成長を阻害または遅延させること、癌性状態を媒介する細胞の成長または増殖を阻害すること、腫瘍細胞の転移を阻害すること、腫瘍もしくは癌性状態に関連した任意の症状またはマーカーを改善すること、腫瘍もしくは癌性状態の発達を予防または遅延させること、またはそれらのいくつかの組合せが可能である、ポリペプチド複合体の投薬量または濃度である。
特定の実施形態では、前記状態および障害には、腫瘍および癌、例えば、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、腎細胞癌、腫結腸直腸癌、卵巣癌、乳癌、膵臓癌、胃癌、膀胱癌、食道癌、中皮腫、メラノーマ、頭頸部癌、甲状腺癌、肉腫、前立腺癌、膠芽細胞腫、子宮頸癌、胸腺癌腫、白血病、リンパ腫、骨髄腫、菌状息肉腫、メルケル細胞癌、並びに他の血液系悪性疾患、例えば古典的ホジキンリンパ腫(CHL)、原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫、T細胞/組織球豊富型B細胞リンパ腫、EBV陽性および陰性PTLD、並びにEBV関連びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、形質芽球性リンパ腫、節外性NK/T細胞リンパ腫、鼻咽頭癌、およびHHV8関連原発性滲出性リンパ腫、ホジキンリンパ腫、中枢神経系(CNS)の新生物形成、例えば原発性CNSリンパ腫、脊髄腫瘍、脳幹神経膠腫などがある。
特定の実施形態では、前記状態および障害には、CD20関連状態、例えばB細胞リンパ腫、随意にホジキンリンパ腫または非ホジキンリンパ腫などが含まれ、ここで非ホジキンリンパ腫は、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、濾胞性リンパ腫、辺縁帯B細胞リンパ腫(MZL)、粘膜関連リンパ組織リンパ腫(MALT)、小リンパ球性リンパ腫(慢性リンパ球性白血病、CLL)、またはマントル細胞リンパ腫(MCL)、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、またはヴァルデンストレーム・マクログロブリン血症(WM)などを含む。
二重特異性ポリペプチド複合体は、単独でまたは1つ以上の追加の治療手段もしくは治療薬と組み合わせて投与することができる。
特定の実施態様において、癌または腫瘍または増殖性疾患の治療に使用される場合、本明細書に提供される二重特異性ポリペプチド複合体は、化学療法、放射線治療、癌治療のための手術(例えば腫瘍切除)、化学療法から生じる合併症の治療のための1以上の制吐薬もしくは他の処置、あるいは癌もしくは関連した医学的障害の治療における使用のための任意の他の治療薬と組合せて(併用して)、投与することができる。本明細書において使用される「組合せた投与」とは、同じ医薬組成物の一部として同時に、個別の組成物として同時に、または個別の組成物として異なる時点で、投与することを含む。別の剤の前後に投与される組成物は、その組成物と第二の剤とが異なる経路を介して投与されるとしても、その語句が本明細書において使用されるときには前記第二の剤と「組合せて(併用して)」投与されると見なされる。可能ならば、本明細書に提供されるポリペプチド複合体または二重特異性ポリペプチド複合体と組合せて(併用して)投与される追加の治療薬は、追加の治療薬の製品情報シート(Information sheet)に列挙されたスケジュールに従って投与されるか、または「米国医薬品便覧」(Physicians' Desk Reference、第70版(2016))または当該技術分野において周知のプロトコルに従って投与される。
特定の実施形態では、前記治療薬は、癌に対する免疫応答を誘導するまたは高める(boost)ことができる。例えば、腫瘍ワクチンは、特定の腫瘍または癌に対する免疫応答を誘導するために使用することができる。サイトカイン療法もまた、免疫系に対する腫瘍抗原提示を増強するために使用することができる。サイトカイン療法の例には、インターフェロンα、βおよびγなどのインターフェロン、マクロファージCSF、顆粒球マクロファージCSF、および顆粒球CSFなどのコロニー刺激因子、IL-1、IL-1α、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11およびIL-12などのインターロイキン、TNF-αおよびTNF-βなどの腫瘍壊死因子が含まれるが、これらに限定されるものではない。免疫抑制性標的を失活させる剤、例えば、TGF-β阻害剤、IL-10阻害剤、およびFasリガンド阻害剤なども、使用することができる。別の剤のグループには、腫瘍細胞または癌細胞に対する免疫反応を活性化するもの、例えば、T細胞活性化を増強するもの(例えば、CTLA-4、ICOSおよびOX-40などのT細胞共刺激分子のアゴニスト)、並びに樹状細胞の機能および抗原提示を増強するものが含まれる。
キット
本開示は更に、本明細書に提供される二重特異性ポリペプチド複合体を含むキットを提供する。幾つかの実施形態において、該キットは、生物学的試料中の1以上の着目の標的の存在もしくはレベルを検出し、または該標的を捕獲もしくは濃縮するのに有用である。生物学的試料は、細胞または組織を含むことができる。
幾つかの実施形態では、該キットは、検出可能な標識と結合(コンジュゲーション)された本明細書に提供される二重特異性ポリペプチド複合体を含む。特定の他の実施形態では、該キットは、本明細書に提供される未標識の二重特異性ポリペプチド複合体を含み、そして更に本明細書に提供される未標識の二重特異性ポリペプチド複合体に結合することができる標識された二次抗体を含む。このキットは、使用説明書、およびキット中の各成分を分別する包装を更に含んでよい。
特定の実施態様では、本明細書に提供される二重特異性ポリペプチド複合体は、支持体または装置に会合されている。有用な支持体または装置は、例えば、磁気ビーズ、マイクロタイタープレート、または試験片であることができる。それらは、結合アッセイ(ELISAなど)、イムノグラフィックアッセイ、生物学的試料中の標的分子の捕捉または濃縮に有用であり得る。
以下の実施例は、請求された発明をより十分に例証するために提供され、本発明の範囲を限定するものとして解釈されてはならない。以下に記載する全ての特定の組成物、材料および方法は、全部または一部を問わず、本発明の範囲内に入る。これらの特定の組成物、材料および方法は、本発明を限定する意図はなく、単に本発明の範囲内に入る特定の実施形態を例証するものである。当業者は、発明力を発揮することなくかつ本発明の精神から逸脱することなく、同等の組成物、材料および方法を開発することが可能である。本明細書記載の手順において多くの変更を行うことができる一方で、本発明の境界内に依然として保持されることは理解されるであろう。そのような変更が本発明の範囲内に含まれることは、本発明者らの意図するところである。
実施例1
材料とベンチマーク抗体の準備
1.材料の準備
実施例中で使用する市販材料に関する情報は、Table1(表11)に提供される。
2.ベンチマーク抗体の作製
2つの基準抗体W327-BMK1とW327-BMK4は、参照抗体として実施例に利用した。
抗ヒトCD20基準抗体BMK1(リツキシマブ)は、米国特許出願US 20140004037 A1からクローンC2B8の配列に基づいて作製した。抗CD3×CD20参照二重特異性抗体BMK4(REGN1979)遺伝子は、米国特許出願US 20150266966 A1に記載の配列に従って合成した。BMK抗体は、Expi293細胞から発現させ、プロテインAクロマトグラフィーを使って精製した。
実施例2
本開示の二重特異性抗体の調製
1.抗体およびTCRキメラタンパク質の設計と操作
TCR配列
TCRは二本鎖から構成されたヘテロ二量体タンパク質である。約95%のヒトT細胞がα(アルファ)鎖とβ(ベータ)鎖とからなるTCRを有している。β鎖TRBC1の方がより多くの結晶構造が利用可能であることを考慮して、本明細書に開示されるポリペプチド複合体(「WuXiBody」)を設計するための主骨格としてTRBC1を選択した。TRBC1の典型的なアミノ酸配列は、Protein Data Bank(PDB)機構 4L4Tに見い出すことができる。
TCRの鎖間ジスルフィド結合
当社のWuXiBody設計を導出するためにTCRの結晶構造を利用した。T細胞表面の膜に固定された生来のTCRとは異なり、可溶性TCR分子は安定性がより低いが、その三次元(3D)構造は抗体Fabと非常に類似している。ただ実際のところ、可溶性状態でのTCRの不安定性は、その結晶構造の解明を妨げる大きな障害であった(Wang, Protein Cell, 5(9), pp.649-652(2014)を参照)。本発明者らは、TCR定常領域に一対のCys変異を導入する戦略を採用した結果、鎖の会合を大幅に改善し、発現を増強できることを発見した。
抗体可変ドメインとTCR定常ドメインとを連結する接続(コンジャンクション)、それらの相対的な融合方向性、およびFcを連結する接続は全て、注意深く微調整した。TCR構造は抗体Fabと非常に似ているため、抗体のFv相同性モデルをTCR可変領域(PDB 4L4T)に重ね合わせた。重ね合わせた構造は、抗体FvがTCR定常ドメインと構造的に互換性があることを示した。この構造上の整列(アラインメント)および対応する配列に基づいて、関連する全ての操作パラメータを設計した。
2.本開示の二重特異性抗体の作製
W3278 BsAbは、knobs-into-holes(***と陥没)形式でヒトIgG4として産生された〔S. Atwell, J.B. Ridgway, J.A. Wells, P. Carter, “Stable heterodimers from remodeling the domain interface of a homodimer using a phage display library”, J. Mol. Biol. 270, 26-35 (1997) ; C. Spiess, M. Merchant, A. Huang他、D.G. Yansura, J.M. Scheer, “Bispecific antibodies with natural archtecture produced by co-culture of bacteria expressing two distinct half-antibodies”Nat. Biotechnol. 31, 753-758 (2013)〕。ヒトIgG4Fc領域配列は、S228P変異を用いて設計した。抗CD3モノクローナル抗体は、社内プログラムのハイブリドーマ技術により、ヒトCD3εおよびCD3δECDタンパク質を用いてマウスを免疫処置することにより作製した。抗CD20アーム可変領域配列は、オファツムマブ(PCT公開番号WO 2010083365 A1からのクローン2F2)またはリツキシマブ(米国特許出願US 20140004037 A1からのクローンC2B8)の配列に基づくものであった。W3278 BsAb候補の配列はTable 2(表12)に列挙されており、そのDNA配列はGenewiz社(上海)で合成され、改変型pcDNA3.3発現ベクター中でクローニングした。抗CD20アームおよび抗CD3アームの発現ベクターを、ExpiFectamine293トランスフェクションキット(Invitrogen-A14524)を用いてExpi293(Invitrogen-A14527)中に同時トランスフェクトさせた。細胞は、Expi293発現培地(Invitrogen-A1435101)中、8%CO
2湿潤雰囲気を含む37℃のインキュベーター内で、135 rpmで回転する軌道振盪器の壇上で培養した。プロテインAカラム(GE Healthcare社製、17543802)を使用し、タンパク質精製のために培養上清を回収した。タンパク質濃度は、UV-Vis分光光度計(NanoDrop 2000、Thermo Scientific社製)で測定した。タンパク質純度は、SDS-PAGEおよび分析用HPLC-SECによって推定した。W3278-BsAb候補の概略図は図1に示される。
更に、二重特異性抗体W3278-U2T3.F18R-1.uIgG4.SPについては、配列番号92のポリペプチド配列中の182位、193位、203位、206位および207位にある天然グリコシル化部位から1つ以上のアミノ酸を修飾した。好ましくは、修飾は、配列番号92の193位のアミノ酸に対して行った。特定の実施形態では、そのような修飾はS182X、S193X、S203X、S206XまたはS207Xの1つ以上の変異を含んだ。ここでXは、SerとThr以外の任意のアミノ酸を表す。特定の実施形態では、前記修飾はS193Xであり、ここでXはAla、Gly、ProまたはValから選択された。上記変異(1または複数)はO-グリコシル化部位を除去し、O-グリコシル化のタイプはコア1配置のO-結合型糖類であり、そしてNeuAc-GAL-GalNAcまたはNeuAc-Gal-(NeuAc)GalNAcの構造式を有した。
上述したとおり、未修飾の二重特異性抗体と比較して、本明細書に記載の二重特異性抗体の対応ポリペプチド配列中の天然グリコシル化部位を修飾することによって作製した変異型二重特異性抗体は、天然型抗体とより一層類似しており、有意に減少した免疫原性、改善された半減期および改善された創薬可能性(ドラッガビリティ)を有していた。
実施例3
インビトロ特性決定
1.細胞系と初代細胞の単離
完全培地(10%FBS、100 U/mL ペニシリン、100μg/mLストレプトアビジンが補足されたRPMI1640培地)中で培養した次の細胞系を使用した:Jurkat細胞(CD3+/CD20-細胞);Raji、Ramos、NAMALWA(CD20+/CD3-細胞)、SU-DHL-1(CD20-/CD3-細胞)。
ヒト末梢血単核細胞(PBMC)は、Ficoll-Paque(登録商標)PLUS(GE Healthcare社製、17-1440-03)密度勾配遠心分離によって、健全な正常ドナーのヘパリン添加静脈血から新たに単離した。初代ヒトCD8+ T細胞は、EasySep(登録商標)キット(Stemcell-19053)によって新鮮なヒトPBMCから単離し、CD4+ T細胞は、EasySep(登録商標)カラム(Stemcell社製、19052)によって精製した。
2.標的細胞へのW3278 BsAbの結合
W3278 BsAbの標的細胞への結合は、フローサイトメトリーによって測定した。簡単には、1×10
5個/ウェルの標的細胞(CD3+/CD20-細胞またはCD20+/CD3-細胞)を、W3278 BsAbまたはヒトIgG4アイソタイプ対照抗体の連続希釈液と共に、4℃で60分間インキュベートした。インキュベーション後、細胞を冷1%BSA/1×PBSで2階洗浄し、次いでAlexa Fluor647結合ヤギ抗ヒトIgG Fc(Jackson社製、109-605-098)を添加し、4℃で30分間インキュベートした。2回洗浄した後、染色細胞の幾何平均蛍光(MFI)を、FACS Canto
TM(商標)IIサイトメーター(BD Biosciences社製)を使用して測定した。抗体を含まないウェルまたは蛍光二次抗体のみを含むウェルを使用して、バックグラウンド蛍光を確立した。細胞結合のEC
50値は、GraphPad(登録商標)Prism 5ソフトウェア(GraphPad Software社、カリフォルニア州ラ・ホーヤ)を使って、4パラメータ線形回帰分析を用いて算出した値を使用して決定した。W3278 BsAbの標的細胞へのFACS結合は図2に示され、そして結合EC
50は下記のTable 3(表13)に示される。
CD3とCD20を発現している細胞へのW3278 BsAbの結合を試験するために、1×106個/mLのRaji細胞と1×106個/mLのJurkat細胞を、50 nM カルセイン-AM(Invitrogen社製、C3099)および20 nMのFarRed(Invitrogen社製、C34572)でそれぞれ標識した。冷1%BSA/1×PBSで洗浄した後、標識されたRajiおよびJurkat細胞を、1:1の比で最終濃度1×106個/mLになるように再懸濁し混合した。混合した細胞の1×105個/ウェルを播種し、次いでW3278 BsAbの連続希釈液を添加した。4℃で60分間インキュベートした後、カルセイン-AMとFarRedの二重陽性細胞の割合をFACSで分析した。
図3の結果は、W3278リードBsAbが、用量依存性の同時二重標的結合を示し、それはBMK4のものよりも強力である。
3.インビトロ(in vitro)細胞傷害性アッセイ
CD8+ Tリンパ球により腫瘍細胞溶解を媒介するBsAbの効力を、FACSベースの細胞傷害性アッセイにより決定した。簡単に説明すると、新たに単離したヒトCD8+ T細胞を、50 IU/mLの組換えヒトIL-2と10 ng/mLのOKT-3を含む完全培地中で3~5日間培養した。翌日、標的細胞であるRaji細胞、Ramos、NAMALWAおよびSU-DHL-1(1×106個の細胞/mL)を、DPBS中の20 nM Far-Red(Invitrogen社製 C34572)で37℃にて30分間標識し、次いでアッセイ緩衝液(フェノールレッド不含RPMI 1640培地+10%FBS)で2回洗浄した。Far-Red標識標的細胞(2×104個/ウェル)を、エフェクターCD8+ T細胞(エフェクター/標的細胞比5:1)と、BsAbsまたはhIgG4アイソタイプ対照の連続希釈液を含む110μL/ウェル完全培地中に播種し、37℃で一晩インキュベートした。最後に、ヨウ化プロピジウム(PI)(Invitrogen社製、P3566)を添加し、そして室温で15分間インキュベートした後、フローサイトメトリーにより分析した。細胞傷害性%は、次の式:細胞傷害性%=100×Far Red+PI+/(Far Red+PI++Far Red+PI-)×100%を使って算出した。in vitro細胞毒性のEC50値は、Prismソフトウェアの4パラメータ非線形回帰分析を用いて求めた。
図4に示す結果は、W3278リードAbである「W3278-U2T3.F18R-1.uIgG4」が、CD20陰性SU-DHL-1細胞の細胞殺傷を媒介しないことを示す。W3278リードAb「W3278-U2T3.F18R-1.uIgG4」は、BMK4よりも強力にCD20陽性細胞の細胞致死を媒介し、致死EC50は細胞表面CD20発現レベルと比例的に増加する。BsAb媒介の細胞毒性EC50と最大細胞毒性(Max Cyto)%がTable 4(表14)に示される。
4.細胞活性化およびサイトカイン放出アッセイ
BsAbにより媒介されるT細胞活性化は、CD69またはCD25を発現しているエフェクター細胞の割合を測定するフローサイトメトリーにより決定した。新しく単離した精製CD4+ T細胞とCD8+ T細胞を、それぞれ、エフェクター細胞として調べた。簡単に説明すると、5×104個のCD4+またはCD8+ T細胞を、BsAbまたはhIgG4アイソタイプ対照抗体の連続希釈液を含有する110μL/ウェルの完全培地中で、1×104個のRajiまたはSU-DHL-1細胞/ウェルの存在下で37℃にて24時間播種した。インキュベーション後、細胞を1%BSA/1×DPBSで2回洗浄し、次いで抗ヒトAbパネル〔FITC標識抗ヒトCD4(BD Pharmingen社-550628);PerCP-Cy5.5標識抗ヒトCD8(BD Pharmingen社製565310);PE標識抗ヒトCD69(BD Pharmingen社製555531)およびAPC標識抗ヒトCD25(BD Pharmingen社製555434)〕で4℃にて30分間染色した。CD69またはCD25の発現によって評価されるT細胞活性化を、FACSによって分析した。T細胞活性化のEC50は、Prism 4パラメータ非線形回帰分析を用いることによりもとめた。
標的細胞の非存在下では、W3278リードAbはT細胞活性化を誘導しない。標的細胞の存在下でのみ、W3278リードAbはCD4
+およびCD8
+ T細胞活性化を誘導する。これは、CD25発現(図5A)とCD69発現(図5B)により証明され、BMK4よりも強力である。活性化のEC
50は、下記のTable 5A(表15-A)およびTable 5B(表15-B)に示される。
サイトカイン放出(TNF-αおよびIL-2)アッセイのために、5×104個の新たに単離されたCD4+ T細胞を、1×104個のRajiまたはSU-DHL-1細胞/ウェルの存在下で、BsAbまたはhIgG4アイソタイプ対照抗体の系列希釈液を含む110μL/ウェルの完全培地中に播種し、37℃で24時間インキュベートした。24時間インキュベーション後、プレートを遠心分離し、ELISAによるサイトカイン濃度測定のために上清を回収して-80℃で保存した。
ELISAによるTNF-αの検出のために、96ウェルELISAプレート〔NuncMaxiSorp(登録商標)、ThermoFisher社製〕を、炭酸塩-重炭酸塩緩衝液(20 mM Na2CO3, 180 mM NaHCO3, pH 9.2)中の捕捉抗体精製済の抗ヒトTNF(BD Pharmingen社製51-26371E)50μLを用いて4℃で一晩コーティングした。翌日、プレートを洗浄緩衝液(1×PBST緩衝液、0.05%Tween-20(登録商標))で洗浄し、次いで200μLのアッセイ希釈剤(PBS+10%FBS)でブロックした。ブロッキング後、50μLの試験サンプルと組換えヒトTNF標準品(BD Pharmingen社製、51-26376E)を添加し、プレートを室温で2時間インキュベートした。プレートへのTNF-αの結合は、検出用抗体のビオチン化抗ヒトTNF(BD Pharmingen社製、51-26372E)により検出し、そして呈色反応にはテトラメチルベンジジン(TMB)基質(Sigma社製、860336-5G)を使用した。各工程の間に洗浄緩衝液での洗浄を適用した。呈色反応はおおよそ30分後に2 M HClにより停止させた。ウェルの吸光度をマルチウェルプレートリーダー(SpectraMax(登録商標)M5e)を用いて450 nmで測定した。同様に、培養上清中のIL-2濃度をELISAによって測定した。抗ヒトIL-2抗体 mAb(R&D社製、MAB602)を捕捉抗体として使用し、そして検出用抗体としてビオチン化抗ヒトIL-2抗体(R&D社製、BAF202)を使用した。
図6に示すように、CD20陰性SU-DHL-1細胞の存在下では、W3278リードAbはT細胞サイトカイン放出を誘導しない。標的Raji細胞の存在下でのみ、W3278リードAbは、BMK4によるものと比較して、より低レベルのサイトカイン放出を誘導することができる。また、サイトカイン放出と細胞致死との間のEC
50比によって示されるEC
50ウィンドウは、BMK4によるよりもW3278 ABによる方が大きい。
5.血清安定性試験
新たに回収したヒト血清と抗体とを静かに混合し、混合したサンプル中の血清比率を>95%に確保した。混合サンプルのアリコートを37℃で0~14日間インキュベートした。図7に示すような各時点において、サンプルを液体窒素中で急速凍結させ、分析まで-80℃で保存した。各サンプルのRajiまたはJurkat細胞への結合をFACSにより分析した。
図7に示すように、ヒト血清で処置したW3278 Abの、Jurkat(図7A)およびRaji(図7B)への結合は、新しく解凍したAb(0日目)のものと同様であった。これらの結果は、W3278 Abがヒト血清中で少なくとも14日間安定であることを示唆した。
6.DSFアッセイおよび熱安定性試験
DSFアッセイは、リアルタイム蛍光定量的PCR(QuantStudio(登録商標)7 Flex、Thermo Fisher Scientific社製)を用いて実施した。簡単に説明すると、19μLの抗体溶液を1μLの62.5×SYPRO Orange(登録商標)溶液(Invitrogen社製)と混合し、96ウェルプレート(Biosystems社製)に添加した。そのプレートを2℃/分の速度で26℃から95℃へと加熱し、得られた蛍光データを収集した。異なる温度に対する蛍光変化量の負の導関数を計算し、最大値を融解温度T
hとして定義した。タンパク質が複数のアンフォールディング遷移段階を有する場合、最初の2つのT
hをT
m1およびT
m2と名付け、記録した。T
m1は常に正式な融解温度Tmとして解釈され、異なるタンパク質間の比較を容易にする。データ収集とT
hの計算は、演算ソフトウェア(QuantStudio(登録商標)リアルタイムPCR PCRソフトウェア v1.3)により自動的に実行された。異なる緩衝液中でのW3278のT
m1およびT
m2値をTable 7(表17)に示した。W3278のT
mは約61℃であり、W3278 Abが良好な熱安定性を有することを示している。
実施例4
インビボ(in vivo)抗腫瘍効果
抗体のインビボ抗腫瘍効果は、Raji腫瘍を担持しているNOGマウスの混合PBMCヒト化モデルにおいて試験した。6~8週齢の雌NOGマウス(Beijing Vital River Laboratory Animal Technology Co.,LTD)を研究に用いた。Raji腫瘍細胞(ATCC(登録商標)CCL-86(登録商標))を、10%ウシ胎児血清、100 U/mLペニシリンおよび100μg/mLストレプトマイシンが補足された1640培地中で単層培養物として、空気中5%CO2の雰囲気下で37℃にて維持した。腫瘍細胞は規定通りに、週2回継代培養した。指数増殖期で増殖している細胞を収得し、腫瘍接種についてカウントした。単一の健常なドナーのヘパリン加全血から、製造業者の教示に従ってFicoll-Paque Plus(商標)を使ってヒトPBMCを単離した。
治療モデルの場合、各マウスに、予め混合したRaji腫瘍細胞(2.0×106個)とPBMC(3.0×106個)を右上脇腹に同時に皮下接種した。平均腫瘍体積が約60 mm3に達したとき、動物をグループ分けのために無作為化し、最初の抗体注射を行った。有効性試験用には、指示量の抗体を週に2回、3週間に渡りマウスに静脈内投与した。試験に際しての動物の取扱い、管理および処置に関する全ての手順は、国際実験動物管理公認協会(AAALAC)の指導に従ってWuXi AppTecの施設内動物管理および使用委員会により承認されたガイドラインに従って実施した。全ての腫瘍研究について、マウスの体重を測定し、ノギスを使用して腫瘍成長を週2回測定した。腫瘍体積は1/2(長さ×幅2)として概算した。
図8に示すように、W3278リードAb処置は、用量依存的な抗腫瘍活性を示し、それはBMK4に比較してより有力であった(図8A)。実験中、マウスの体重は正常である(図8B)。
実施例5
ナイーブカニクイザルにおけるWBP3278 BsAbの単回投与試験
WBP3278二重特異性抗体による治療が霊長類の循環B細胞を枯渇させることができるかどうか、およびそれが予期しない毒性をもたらすかどうかを調べるために、本発明者らはカニクイザル(Macaca Fascicularis)において探索的非GLP薬理学研究を実施した。3~4週齢の体重約4kgの4匹のナイーブ雄カニクイザルは、広東省肇慶(Guangdong Zhao Qing)Chuang Yao Biotechnology Co., Ltd.によって供給された。本研究における動物の取扱い、保護および処置に関連する全ての手順は、国際実験動物管理公認協会(Association for Assessment and Accreditation of Laboratory Animal;AAALAC)の指導に従ってPharmaLegacy Laboratoriesの施設内動物保護・使用委員会(Instituional Animal Care and Use Committee;IACUC)により承認されたガイドラインに従って実施した。
2つのグループ(群)に分けた4匹の動物(2匹/グループ)には、WBP3278リード二重特異性抗体(すなわち、W3278-U2T3.F18R-1.uIgG4、以降WBP3278リードAbと呼称する)を1 mg/kg(グループ1)および10 mg/kg(グループ2)の用量でそれぞれ60秒以内にゆっくりと静脈内注射することにより1回で投与した。末梢血中のB細胞とT細胞のレベルを、Bリンパ球(CD45+/CD20+);Tリンパ球(CD45+/CD3+);CD4+ Tリンパ球(CD4+/CD45+/CD3+)およびCD8+ Tリンパ球(CD8+/CD45+/CD3+)についてFACSにより4週間モニタリングした。循環炎症性サイトカインのレベルは、BD(登録商標) サイトメトリー用ビーズアレイ(CBA)非ヒト霊長類Th1/Th2サイトカインキット(BD Bioscience社製、カタログ番号:557800)を使用して分析した。WBP3278リードAbによる処置は、循環B細胞の即時的でかつ完全な枯渇をもたらし、少なくとも4週間持続した(図9)。T細胞の循環レベルは、WBP3278リードAb処置後に減少し、72時間後にベースラインまたはわずかに高いレベルに回復し、そして少なくとも4週間持続した(図10A)。CD8+ T細胞のレベル(図10B)は増加し、CD4+ T細胞(図10C)のものは、72時間後に正常レベルに戻り、少なくとも4週間続いた。WBP3278リードAbでの処置後に循環サイトカインのレベルの急速な上昇が観察されたが、24時間後には全てのサイトカインが正常レベルに戻った。
血清中WBP3278リードAbの濃度は、ELISAにより決定した。簡単に説明すると、ELISAプレートを抗ヒトIgG(SouthernBiotech社製、#2049-01)でコーティングし、次いで血清サンプルの連続希釈を加えた。結合シグナルをヤギ抗ヒトIgG-ビオチン(SouthernBiotech社製、#204908)およびストレプトアビジン-HRP(Life社製、#SNN1004)で検出した。マルチウェルプレートリーダー(SpetraMax(登録商標)M5e)を用いて(450-540)nmで吸光度を測定した。サルのWBP3278リードAbの血清濃度は、Phoenix製WinNonlin(登録商標)(バージョン8.1、Pharsight、カリフォルニア州マウンテンビュー)を使用して測定した。PKパラメータの取得には、線形/対数台形公式を適用した。平均濃度の計算から個々のBLQを除外した。名目用量レベルと名目サンプリング時間を、全ての薬物動態パラメータの計算に使用した。PKパラメータの概要をTable 8(表18)と図12に示す。結論として、投与量が1から10 mg/kgに増加すると、C
0の全身暴露が19.9μg/mLから282μg/mLに増加し(約14倍)、そしてAUC(0-最終)は259μg.h/mLから5788μg.h/mLに増加した(約22倍)。WBP3278リードAbの血清半減期(T
1/2)は、1 mg/kgと10 mg/kgの用量でそれぞれ約43.3時間と約89.8時間であった。
実験の間のケージサイドでの観察は、高用量と低用量レベルの両方でWBP3278リードAbの予期せぬ毒性を全く示さなかった(データは示してない)。
この実験は、WBP3278リードAbが、サイトカインストーム(免疫爆走)などの不利な反応を伴うことなくB細胞をインビボで効率的に枯渇することができることを証明した。また、それはカニクイザルにおいて有意な血清半減期(T1/2)を有した。これらの実験結果は、WBP3278リードAbの前臨床開発を進めるためのサポートを提供した。
当業者は、本発明が、その精神または中心的属性から逸脱することなく、他の特定の形態で具体化され得ることをさらに理解するであろう。本発明の上記説明がその例示的な実施形態のみを開示するという点で、他の変形が本発明の範囲内にあるものと企図されることは理解されるべきである。従って、本発明は、本明細書で詳細に説明されている特定の実施形態に限定されない。むしろ、本発明の範囲および内容を示すものとして、添付の特許請求の範囲を参照すべきである。