JP2022122233A - 細胞処理剤 - Google Patents

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Abstract

【課題】組織内細胞又は培養細胞に対して、その死滅を抑制可能で、かつ、そのバイアビリティ(Viability)を保持しつつ、例えば、剥離・浮遊化処理、休眠処理(休眠させると保護効果が高まるばかりでなく、細胞の不要な分化を抑制して未分化・低分化状態が維持できる)、保存運搬のための保護処理等、を安全かつ簡便に行うことが可能な手法、及び、休眠状態の浮遊化細胞を植え付けるための細胞活性化処理を安全かつ簡便に行うことが可能な手法を提供すること。【解決手段】アルギン酸、ヘパリン類、硫酸化デキストラン及び蛋白質分解酵素阻害剤から選択される少なくとも一種を有効成分として含む細胞処理剤。【選択図】なし

Description

本発明は、細胞処理剤に関し、特に、生体臓器の組織内細胞又は培養細胞に対して、細胞剥離・浮遊化、休眠、バイアビリティ(Viability)の保持、死滅抑制、浮遊化細胞活性化の処理を行う際に用いられる細胞処理剤に関するものである。
単細胞生物や血球細胞や癌細胞などの特殊な細胞(非接着系細胞)を除き、大多数の細胞である接着系細胞(以下、単に「細胞」と称する場合がある。)が生存・増殖する場合には、体内では体を構成する細胞外マトリックスの足場、また、培養基材では、培養容器の壁や所定の担体などの足場に接着して生存し、機能を発揮したり増殖などを行う。このような細胞を研究や医療に使用する場合、細胞を弱らさずに足場から剥離し、浮遊化する必要がある。
その剥離・浮遊化の操作には、界面活性剤やトリプシンのような細胞剥離酵素の細胞剥離作用を利用することが一般的である。例えば、生体臓器から細胞を剥離・浮遊化して細胞だけを採取する場合には、細胞剥離酵素や界面活性剤のような細胞剥離剤で細胞を足場に接着させている成分を消化処理し、細胞を剥離浮遊化して、生体臓器から細胞を洗い出して採集する処理方法が知られている(界面活性剤を用いる界面活性剤法について非特許文献1参照)。また、培養中の細胞を所定の足場から剥離して浮遊化するには、培養容器にトリプシンのような細胞剥離剤を含む液を加えて細胞剥離剤を培養細胞に作用させて、細胞を剥離浮遊化する処理方法が知られている(非特許文献2)。
しかし、これらの剥離・浮遊化処理に用いられる界面活性剤や細胞剥離酵素は、細胞自身の重要な構成成分も消化する。そのため、剥離・浮遊化の後も界面活性剤や細胞剥離酵素をそのまま細胞に作用させ続けると、浮遊化された細胞は弱り、やがて死滅してしまう。このように、界面活性剤や細胞剥離酵素は細胞毒性を有している。浮遊化された細胞をこの細胞毒性から防ぐために、細胞を浮遊化した後はこれらの浮遊化細胞を界面活性剤や細胞剥離酵素と分離し、あるいは分離した細胞を洗浄したり界面活性剤や酵素を不活性化させて界面活性剤や細胞剥離酵素の細胞毒性作用を除去する。しかし、このような細胞毒性を有する細胞剥離剤を用いて処理する以上、細胞は浮遊化の過程で一定程度死滅していくのを避けられない。また、浮遊化細胞を研究や医療に用いるには、剥離・浮遊化の際に細胞が弱らずにバイアビリティ(Viability)を維持可能なようにすることが求められる。
このような現状に対して、温度感受性の細胞培養足場として特殊なポリマーを用い、このポリマーの部分をある一定の温度まで加熱することにより、細胞を剥離・浮遊化する方法が開発されている(非特許文献3)。しかし、この方法は、特殊なポリマーを用いて高価であること、特殊な温度調節装置を要すること、温度調節等が困難で結果が安定しないこと、多量の細胞を培養する立体的で複雑な装置では使用できないこと、生体臓器から組織内細胞を剥離・浮遊化させることは不可能であること、等が指摘されている。
また、細胞を研究や医療に使用する場合、細胞を安全に保管や運搬をする必要がある。この場合、一般に、細胞を保存、運搬する液(保存運搬液)に入れて、運搬・保管されるが、室温(常温)では、細胞は時間単位で弱っていくため、冷蔵や冷凍状態で保管運搬し、使用時には常温に戻して使用する。
その冷蔵状態や常温化の過程においても、細胞は時間と伴にバイアビリティ(Viability)が低下し、死滅していく。この細胞死を防止して細胞のバイアビリティ(Viability)を保つ細胞保護の目的で、従来から、細胞を保存運搬する液内に10%ウシ胎児血清(FBS)或いは本人の血清を添加混合する方法が行われている。ウシ胎児血清(FBS)あるいは本人の血清を混合すると、これを混合しない場合に比較して、飛躍的に細胞のバイアビリティ(Viability)が高くなること(細胞保護効果)が知られている(非特許文献4~6)。
しかし、FBSや本人血清の添加は、生物製剤であること、感染、アレルギー、操作性や倫理面で多くの問題が指摘されている。その一方、FBSや自己血清を十分に代替する物質は知られていないのが現状である。
また、細胞、特に未分化や低分化の状態に現在はあって、将来には増殖して組織や臓器を再生・形成する能力に富む細胞は、保存されると不要な分化を行い、その細胞を用いて再生・形成させたい組織・臓器とは別の性質を示すように変化してしまう場合がある。細胞を保存しておく期間を通して細胞機能を休眠させて、この不要な分化を抑制することにより未分化や低分化の状態を維持することは、再生医療を実施する場合の重要項目であるが、その手段はいまだ確立されておらず、その解決手段の確立が望まれている。
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前述したように、生体臓器、又は、生体細胞の培養基材から、組織内細胞又は培養細胞を剥離・浮遊化する処理を行う場合、(a)細胞が死滅するのを抑制すること、(b)剥離・浮遊化する際に、細胞のバイアビリティ(Viability)が維持された状態の浮遊化細胞を得ること、すなわち、細胞のバイアビリティ(Viability)を低下させないことが求められる。
また、細胞を保存運搬する場合、保存運搬する細胞に再びその機能を良好に発揮させるには、保存運搬される細胞のバイアビリティ(Viability)を低下させることなく、細胞の死滅を防止するように保護する必要がある。
また、細胞、特に未分化や低分化の状態に現在はあって、将来増殖して組織や臓器を再生・形成する能力に富む細胞を、保存期間を通じて細胞機能を休眠させて不要な分化を抑制し、未分化や低分化の状態に維持する必要がある。
また、浮遊化させて休眠状態にある細胞を、生体臓器や培養基材等に接着させる際には、容易に接着させることが可能であることが望まれており、接着させた細胞を活性化させて増殖させる必要がある。
しかし、例えば剥離・浮遊化させた細胞が、培養容器の壁や所定の担体等の培養基材である足場に接着する、即ちそのような細胞を「植え付ける」には、通常の培養条件を保った装置内に12時間から24時間、足場に接触した状態で静置させた状態を保たなければならない。もし接触が悪ければ、細胞は足場に植え付けることが出来ない。特に生体の特定の局所の部位に細胞を植え付けるには、細胞を12時間から24時間、生体の足場に接触させた状態が保たれることが必要である。
この目的で、通常は不織布などの足場を生体外で12時間から24時間細胞と接触させて不織布の足場に細胞を接着させておき、この細胞が接着している足場ごと生体内の所望の局所に植え付けることが行われている。しかし、このような植え付けには時間と手間がかかるという問題がある。
そこで、本発明の目的は、組織内細胞又は培養細胞に対して、その死滅を抑制可能で、かつ、そのバイアビリティ(Viability)を保持しつつ、例えば、剥離・浮遊化処理、休眠処理(休眠させると保護効果が高まるばかりでなく、細胞の不要な分化を抑制して未分化・低分化状態が維持できる)、保存運搬のための保護処理等、を安全かつ簡便に行うことが可能な手法、及び、休眠状態の細胞(例えば、浮遊化細胞等)を植え付けるための細胞活性化処理を安全かつ簡便に行うことが可能な手法を提供することにある。
本発明者は、前述の課題解決のために鋭意検討を行った。その結果、アルギン酸、ヘパリン類、硫酸化デキストラン及び蛋白質分解酵素阻害剤から選択される少なくとも一種を用いることで、前述の課題が解決可能であることを見出した。本発明の要旨は、以下のとおりである。
(1)アルギン酸、ヘパリン類、硫酸デキストラン及び蛋白質分解酵素阻害剤から選択される少なくとも一種を有効成分として含む細胞処理剤。
(2)細胞培養液、細胞外液補充液及び維持輸液から選択される少なくとも一種を含む前項(1)記載の細胞処理剤。
(3)組織内細胞又は培養細胞を休眠させる細胞休眠用である前項(1)又は(2)に記載の細胞処理剤。
(4)組織内細胞又は培養細胞のバイアビリティ(Viability)を保持し死滅を抑制する細胞保護用である前項(1)又は(2)に記載の細胞処理剤。
(5)細胞を未分化又は低分化の状態に保持するための細胞保存用である前項(1)又は(2)に記載の細胞処理剤。
(6)培養細胞を生体組織の足場若しくは培養基材の足場から、又は、生体組織の組織内細胞を生体組織の足場から、剥離し、浮遊させる細胞剥離・浮遊化用である前項(1)又は(2)に記載の細胞処理剤。
(7)細胞保存用、組織保存用又は臓器保存用の液体である前項(1)~(5)の何れか一項に記載の細胞処理剤。
(8)前項(1)~(7)の何れか一項に記載の細胞処理剤と、多価陽イオンを含む固形又は液体製剤との組み合わせ試薬である、休眠細胞覚醒化用セット試薬。
「足場」とは、再生医療の三要素の一つとして本技術分野において知られているものを意味する。
生体を構成する細胞の大部分を占める接着系細胞は、本来の機能(増殖を含む)を発揮するには、細胞は固定した土台に接着した状態であることが必要である。この土台を再生医学では「足場」と称する。接着系細胞は、液体中に浮遊した状態では本来の機能を発揮することができない。この足場は、人工的な足場の場合と自然状態の足場がある。人工的な足場の例は、シャーレなどのような人工の細胞培養用の基材では、シャーレの壁等が該当する。また、人工的繊維等に細胞を担持・接着させた形で、体外の細胞を体内に植え込む場合の、細胞を担持する繊維等が足場に該当する。
生体の体組織や臓器は、細胞と細胞の周囲を取り囲む細胞外マトリックス(コラーゲン線維やプロテオグリカンなどが含まれる)により構成されている。接着系細胞は、この細胞外マトリックスに接着して存在し、生体内でその機能を発揮している。自然状態の足場の例としては、この生体組織内で細胞が接着している細胞外マトリックスが該当する。
尚、再生医療の三要素とは、組織や臓器を構成する「細胞」、細胞の働きのシグナル因子である「生理活性物質」、細胞や生理活性物質が身動きをとるための「足場(スキャホールド)」を指す。
「休眠」とは、細胞が、バイアビリティ(Viability)を有しつつ、増殖や呼吸・代謝や分化状態維持を停止すること(分化状態維持の停止とは脱分化状態、即ち、低分化や未分化の状態の維持でもある)、或いは、接着を停止することを意味する。
細胞に対する「保護」とは、バイアビリティ(Viability)を保持する、すなわち細胞の機能を発揮出来る能力の喪失や細胞の死滅を抑制することを意味する。
浮遊化細胞活性化とは、前述の「休眠」の状態又は前述の「保護」の状態の浮遊化細胞の増殖や呼吸・代謝や分化状態維持を開始させる、或いは、前述の「休眠」の状態又は前述の「保護」の状態の浮遊化細胞の接着性や呼吸・代謝や分化状態維持を回復させることを意味する。また、細胞活性化は浮遊化していない細胞も含めて、休眠している細胞を、再び、前述の「休眠」の状態又は前述の「保護」の状態の細胞の増殖や呼吸・代謝や分化状態維持を開始させる、或いは、前述の「休眠」の状態又は前述の「保護」の状態の細胞の接着性や呼吸・代謝や分化状態維持を回復させることを意味し、後述する「覚醒」と同義である。
前記バイアビリティ(Viability)とは、細胞が単に死なないで生存しているだけではなく、その細胞が生体内で本来の機能(増殖機能や呼吸・代謝や分化状態維持を含む)を発揮出来る能力を保持していることを意味する。
本発明によれば、組織内細胞又は培養細胞に対して、その死滅を抑制可能としてバイアビリティ(Viability)を保持しつつ、例えば、剥離・浮遊化処理、休眠処理、保存運搬のための保護処理等、を安全かつ簡便に行うことが可能な手法、及び、休眠状態の細胞を植え付けるための細胞活性化処理を安全かつ簡便に行うことが可能な手法を提供することができる。
実験例5において、硫酸デキストランで剥離浮遊化した細胞をリン酸カルシウム膜付き培養シャーレで培養した時のリン酸カルシウム膜表面の撮像を示したものである。 実験例5において、ヘパリンナトリウムで剥離浮遊化した細胞をリン酸カルシウム膜付き培養シャーレで培養した時のリン酸カルシウム膜表面の撮像を示したものである。 実験例5において、硫酸デキストランで剥離浮遊化した細胞をリン酸カルシウム膜なし培養シャーレで培養した時の培養シャーレの底面の撮像を示したものである。 実験例5において、ヘパリンナトリウムで剥離浮遊化した細胞をリン酸カルシウム膜なし培養シャーレで培養した時の培養シャーレの底面の撮像を示したものである。
本発明の実施形態に係る細胞処理剤は、アルギン酸、ヘパリン類、硫酸デキストラン及び蛋白質分解酵素阻害剤から選択される少なくとも一種を有効成分(以下、「処理剤の有効成分」又は「有効成分」と称する場合がある。)として含む。
アルギン酸は、コンブやワカメなどの世界中の様々な褐藻類に含まれるβ-D-マンヌロン酸とα-L-グルロン酸の2種類の単糖を構成成分とした直線状の多糖類である。その構造は、1,4結合したβ-(1-4)-D-マンヌロン酸からなるMブロック、1,4結合したα-(1-4)-L-グルロン酸からなるGブロック、及び、マンヌロン酸とグルロン酸が交互に1,4結合したMGブロックによって構成される部分を有する。また、アルギン酸は水に溶解すると滑らかな粘りのある水溶液(コロイド溶液)となり、この水溶液の粘性(粘度)はアルギン酸の重合度に比例し、重合度が大きいほど水溶液の粘度が高くなることが知られている。このような粘度の異なるアルギン酸は各種市販されており、一般的な粘りのある水溶液を形成するもの、粘度が一般的なものより低く調整されたもの等、各種のものを用いることが可能であるが、粘度に応じてより効果的な用法がある。ここでは、アルギン酸の粘度が、次の(a)~(c)の便宜的に区分した3種類の場合を例として説明する。(a)高粘度型アルギン酸:例えば、1質量%水溶液の20℃での粘度が60mPa・s以上の比較的粘度の高いアルギン酸、(b)低粘度型アルギン酸:例えば、1質量%水溶液の20℃での粘度が5mPa・s以上60mPa・s未満の比較的粘度が低いアルギン酸、(c)極低粘度型アルギン酸:例えば、1質量%水溶液の20℃での粘度が5mPa・s以下、又は、10質量%水溶液の20℃での粘度が30mPa・s以下の粘度が非常に低いアルギン酸。粘度が大きい(a)高粘度型アルギン酸は、例えば、室温(22℃)程度で保存時間が24時間程度の比較的短い場合に、例えば、5mg/ml以下となるように調製した液中で、(b)低粘度型及び(c)極低粘度型アルギン酸よりも効果的にその機能を発揮することができる傾向がある。比較的粘度が小さい(b)低粘度型アルギン酸は、例えば、室温(22℃)程度で保存時間が120時間程度の比較的長い場合に、例えば、0.5~10mg/mlとなるように調製した液中で、(a)高粘度型及び(c)極低粘度型アルギン酸よりも効果的にその機能を発揮することができる傾向がある。粘度が非常に小さい(c)極低粘度型アルギン酸は、例えば、冷蔵(4℃)で保存時間が168時間の比較的長い場合に、例えば、10mg/ml以上となるように調製した液中で、(a)高粘度型アルギン酸及び(b)低粘度型アルギン酸よりも効果的にその機能を発揮することができる傾向がある。尚、アルギン酸の細胞処理剤としての各種の効果は、一般的には濃度に依存して変化する傾向にあるが、その程度は細胞の種類、濃度等によっても異なるため、以上で述べた濃度範囲は一般的な傾向を示したものである。
「アルギン酸」には、薬理学上許容されるアルギン酸の塩が含まれるものとする。このような薬理学上許容されるアルギン酸の塩は、アルギン酸のカルボキシル基の水素イオンが遊離し、陽イオンと結合したものである。このような陽イオンとしては、薬理学上許容され得る塩を形成可能なものであればよく、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオン等の1価の陽イオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、鉄イオン、アンモニウムイオン等の無機多価イオンやポリリジン等の有機多価イオン等の多価の陽イオンが挙げられる。
以上のようなアルギン酸は、市販のものを使用することができる。
ヘパリン類は、ヘパリン及びヘパリン類似物質を意味する。ヘパリンは、生体内では主として肝臓において生成されるグリコサミノグリカンの一種である。数平均分子量は概ね3000~35000であるとされている。ウロン酸(D-グルクロン酸又はL-イズロン酸)とD-グルコサミンが交互に結合した直鎖の多糖類のN-硫酸、N-アセチル及びO-硫酸置換体で、概ね二糖当たり三分子の硫酸基を持つものであるとされており、最も硫酸化された酸性多糖類である。ヘパリンは、抗血液凝固活性、脂血清澄活性等を有する。ヘパリン類似物質は、ヘパリンが修飾・一部分解されたものであって、ヘパリンと同様の生理活性を備えたものである。ヘパリン類似物質には、例えば、薬理学上許容され得る塩を形成可能なヘパリンの塩(例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等)、未分画ヘパリン、低分子量化ヘパリン、ダナパロイド、及びその塩の他、フォンダパリヌクス等の抗血液凝固剤も含まれるものとする。ヘパリンの塩は、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。低分子量化ヘパリンは、数平均分子量が好ましくは2000~8000のものである。ヘパリン類は市販のものを使用することができる。
硫酸デキストラン(以下、DSと称する場合がある。)は、硫酸デキストラン、又は、その薬理学上許容される塩である。薬理学上許容される硫酸デキストランの塩は、硫酸デキストランのスルホン酸基の水素イオンが遊離し、陽イオンと結合したものである。このような陽イオンとしては、薬理学上許容され得る塩を形成可能なものであればよく、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオン等の1価の陽イオンが挙げられる。硫酸デキストランの平均分子量(Mw)は、200~1000000が好ましい。また、硫黄含量は、1単糖当たりの結合硫酸基個数として0.00001~2個が好ましく、更には0.001~2がより好ましい。平均分子量(Mw)及び硫黄含量は、日本薬局方に記載の方法に準拠して測定することができる。硫酸デキストランは、市販のものを使用可能である。
蛋白質分解酵素阻害剤(以下、単に「阻害剤」と称する場合がある。)は、プロテアーゼ阻害剤とも称されるもので、特に限定はなく、市販の各種のものを適用可能である。このような蛋白質分解酵素阻害剤としては、例えば、ウリナスタチン、ベンザミジン、フッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)、フッ化4-(2-アミノエチル)ベンゼン(AEBSF)、アプロチニン、E-64、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(EGTA)、ロイペプチン、ロイペプチンヘミ硫酸、アンチパイン、キモスタチン、ぺプスタチンA、ホスホラミドン、べスタチン、シベレスタットナトリウム水和物、ホスアンプレナビルカルシウム水和物、ダルナビルエタノール付加物、ロピナビル、リトナビル、アプロチニン及びその薬理学上許容される塩等、並びに、ナファモスタットメシル酸塩、アラフェナミドフマル酸塩、カモスタットメシル酸塩、アタザナビル硫酸塩等が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。これらは、1種用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
アルギン酸、ヘパリン類、硫酸デキストラン及び蛋白分解酵素阻害剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
細胞処理剤の剤形は特に限定はなく、各種の用途に応じて適切な賦形剤を用いて、粉状、液状等適宜決定することができる。また、必要に応じて、各種の添加剤を添加することもできる。
例えば、所望の細胞を一般的な細胞培養液で培養した後、細胞を体内へ投与する場合は、その細胞培養液から細胞を分離、洗浄して、細胞培養液に含まれる医療用には用いられない多種類の試薬を除去した後、得られた細胞を細胞外液補充液や維持輸液等に浸漬させ、これを体内へ投与することができる。この細胞外液補充液は、生体内で細胞の周囲を取り囲む細胞外液に類似する電解質組成等を持つ液の一群であり、維持輸液は、ヒトが生命を維持するために必要とされる1日の水分量と電解質に、糖、タンパク質(アミノ酸)、脂肪等の栄養素や微量栄養素を加味して投与される輸液である。この細胞外液補充液や維持輸液は、他の有効成分の注射液の溶媒として、あるいはそれ単体の点滴注射等に用いられる医療用液体であり、体内への投与の安全性が確立されている。このように、細胞周囲環境に類似した電解質組成等と安全性のために、再生医療において細胞を体内に投与する際に用いられる細胞処理剤の賦形剤として、細胞外液補充液や維持輸液は好適である。このような細胞外液補充液は、例えば、細胞外液の喪失を補充する目的で使用される所謂補充輸液が挙げられ、より具体的には、リンゲル液、乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液、重炭酸リンゲル液、ハルトマン液、生理食塩水、代用血漿剤、血漿製剤等が挙げられる。このうち、代用血漿剤や血漿製剤のようにヒト由来のものではない補充輸液等が望ましい。維持輸液は、例えば、アミノ酸を含まない糖・電解質輸液製剤、糖・電解質・アミノ酸輸液製剤、糖・電解質・アミノ酸・総合ビタミン液製剤、糖・電解質・アミノ酸・総合ビタミン・微量元素液製剤、糖・電解質・アミノ酸・脂肪乳剤等が挙げられる。
ところで、前述のように一般的な細胞培養液から細胞を分離、洗浄後に所謂細胞外液補充液に浸漬させて細胞処理剤を調製する場合、このような操作により、細胞のバイアビリティ(Viability)の低下や感染の可能性がある。一方、本発明者は、処理剤の有効成分は、細胞外液補充液の中でも一般的な細胞培養液中と同様に、細胞保護作用を有することを見出している。つまり、処理剤の有効成分を含むことで、細胞外液補充液や維持輸液等は、例えば保管運搬の際の細胞培養液の代替として用いることが可能であり、投与する際には細胞外液補充液中に浸したそのままの状態で直ちに細胞の投与が可能である。このため、培養液から所謂細胞外液補充液や維持輸液等に細胞を移し替えることによるバイアビリティ(Viability)の低下や感染の危険を防止することができる。
前述の細胞処理剤は、前述の特定の有効成分を含む所定剤形の試薬として用いることができるため、培養液、培養容器や細胞の担体等の培養基材、生体臓器に試薬を添加、塗布することで、(a)培養基材の足場又は生体組織の足場に増殖させた培養細胞を、培養基材の足場又は生体組織の足場から剥離させ、浮遊化させることができ、また、(b)生体組織の組織内細胞を、生体組織の足場(生体臓器等)から剥離させ、浮遊化させることができる。したがって、当該細胞処理剤は、細胞剥離・浮遊化用として好適に用いることができる。
前述の細胞処理剤は、生体組織の組織内細胞や、培養基材の足場や生体組織の足場の培養細胞を、そのバイアビリティ(Viability)を有しつつ、増殖を停止させたり、接着を停止させたり、細胞を分化させずに未分化・低分化の状態を維持することができる、即ち、休眠させることができる。そのため、それら細胞を休眠させるための細胞休眠用の細胞処理剤として好適に用いることができる。この休眠作用により、細胞は、その増殖は停止するものの、条件が整えば覚醒し、培養基材や生体組織に再接着し、増殖を開始することができる状態になっている。そのため、細胞を保存、運搬するために、一時的に休眠させて細胞の活動を停止させ、所望の時期に活動を再開させることができる点、剥離浮遊化処理により得られる浮遊化細胞をそのまま休眠させることができる点でも有効な細胞処理剤である。また、前述の細胞処理剤は、細胞を未分化又は低分化の状態で保持可能なため、休眠状態から覚醒させた後、所望の性質を示す組織・臓器の再生・形成を可能とする細胞保存用としても好適である。
前述の細胞処理剤は、培養容器を含む細胞容器内や生体組織の組織内細胞又は培養細胞がバイアビリティ(Viability)を保持させて死滅するのを抑制する細胞保護作用を有する。そのため、従来、細胞死を防止する保護作用を有するものとして用いられていたFBSやヒトの血清に替えて、当該細胞処理剤を用いることができる。したがって、FBSやヒトの血清を用いることなく、安全に細胞の死滅を防止して細胞を保護することができる。この細胞保護作用を有する細胞処理剤は、例えば、細胞を保存運搬する際に好適である。特に、前述のように、賦形剤としての細胞外液補充液や維持輸液と前述の特定の有効成分とを含む細胞処理剤は、保存運搬の際にも細胞を保護することが可能であり、かつ、そのまま直ちに投与が可能であり、医療の安全性や利便性に資するところ非常に大である。
細胞処理剤は、例えば、前述のように細胞休眠用、細胞保護用として、或いは、細胞を未分化又は低分化の状態で保持するための細胞保存用として機能し得るため、細胞処理剤の剤形が液体の場合は、細胞、組織又は臓器の保存用の液体として好適である。この場合は、剤形は、細胞培養液、細胞外液補充液や維持輸液等を用いるのが好ましい。
前述のように、細胞処理剤を用いることで、細胞を休眠させることができるが、休眠させた細胞に対して多価陽イオンを含む製剤を作用させると、休眠させた細胞を覚醒させることができる。このような多価陽イオンを含む製剤としては、例えば、キトサンのようなポリカチオン、アルミニウムイオン、鉄イオン、マグネシウムイオンやカルシウムイオン等の多価陽イオンを含む水溶液や、これら多価陽イオンのキレート化製剤、アルミニウム化合物、鉄化合物、マグネシウム化合物やカルシウム化合物の粉末などの水不溶性の多価陽イオンを生ずる固体、これらの多価陽イオン供給体を含浸或いは表面に担持させた布片等が挙げられる。カルシウムイオン源としては、例えば、塩化カルシウム、グルコン酸カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム等、鉄イオン源としては、例えば、水酸化鉄等、アルミニウムイオン源としては、例えば、水酸化アルミニウム等が挙げられる。多価陽イオン供給体としては、例えば、キレート化多価陽イオン等が挙げられる。布帛は、生体に適用可能な生体適合性のある繊維で形成されたガーゼ等が挙げられる。多価陽イオンを含む製剤の使用量は、適用対象、処理剤の有効成分の構成、製剤の形態等に応じて適宜決定することができる。以上のように、細胞処理剤と多価陽イオンを含む製剤とを組み合わせることで、休眠させた細胞を覚醒させることができるセット試薬とすることができる。
各種の用途に適用する際の細胞処理剤の添加量は、適用対象、処理剤の有効成分の構成等、に応じて適宜決定することができる。細胞保護用として培養液に適用する場合は、例えば、アルギン酸の濃度が200~0.001mg/ml、硫酸デキストランの濃度が100~0.0001mg/ml、ヘパリン類の濃度が1000~0.001単位/mlとなるように細胞処理剤を添加することができる。阻害剤はその種類等に応じて、適宜決定することができ、例えばウリナスタチンの濃度は2500~0・01単位/ml、ナファモスタットメシル酸塩の濃度は5~0.00001mg/ml、ガベキサートメシル酸塩の濃度は5~0.00001mg/mlとなるように細胞処理剤を添加することができる。
以下、実施例に基づき、本発明の実施形態について詳細に説明する。以下に示す例では、細胞培養容器又は保管容器内の細胞に対する各種の効果を検証したものであるが、これらに限らず、生体組織内の細胞や三次元細胞培養等によりスフェロイド化した細胞にも同様の効果を示すものであることは勿論のことである。
(使用細胞)
間葉系細胞としてチャイニーズハムスター線維芽細胞、上皮系細胞としてラット角膜上皮細胞、未分化状態の細胞としてヒト羊膜由来間葉系幹細胞、悪性腫瘍としてマウス悪性黒色腫高転移株を用いて実験を行った。
(細胞の準備)
通常の無血清細胞培養液に10%FBSを添加したFBS添加細胞培養液中で、通常の細胞培養条件(37℃、湿度100%、CO濃度5%)で前述の各細胞を培養容器内で培養した。その後、培養容器内の細胞を、通常のトリプシン法で剥離浮遊化した。得られた剥離浮遊化した細胞を以下の実験例に用いた。尚、通常のトリプシン法は、以下のようにして行った。
細胞の培養容器内の細胞培養液を吸い取って捨て、培養に使用する量の約半量のPBS(-)(Ca2+/Mg2+不含有PBS)で細胞表面を洗った。その後、25cmの細胞表面に対し1mLの0.2%トリプシン/EDTA液を容器内に行きわたらせてトリプシンを作用させた。その後、余分なトリプシン液を除いた。この培養容器をCOインキュベーター内で2分間通常条件(37℃、CO濃度5%、湿度100%)でインキュベートし、細胞の培養容器の内壁面からの剥離を確認した。その後、血清を含まない細胞培養液を使用する場合は、トリプシンインヒビターでトリプシンを完全に不活性化した。また、FBS添加細胞培養液を使用する場合はFBS添加細胞培養液を加えてトリプシンを完全に不活性化した。
(実験例1:細胞保護効果)
(1-1)アルギン酸
(1-1-1)常温24時間保存
細胞を例えば保存運搬する際に用いる調整液としてFBSを含まない通常の無血清細胞培養液又はリンゲル液(大塚製薬株式会社製、ラクテック注、日本薬局方 L-乳酸ナトリウムリンゲル液)を用い、これに、アルギン酸ナトリウム(アルギン酸Na)(富士化学工業株式会社製、スノーアルギンSSL、1%水溶液の粘度が20℃で30mPa・s)を表1に示す濃度となるように添加した細胞保存用液を準備した。各細胞保存用液に、表1に示す条件になるように、前述の各細胞を10Cells/mlの濃度で加え、そのまま常温(22℃)の部屋の中に24時間放置した後、細胞の生死を判定し、生細胞の割合(平均生存率(%))を求めて比較検討した。細胞の生死は、細胞の生死を確認する通常の方法であるトリパンブルー排出試験により行った。この排出試験は、Denizot F., et al., Rapid colorimetric assay for cell growth and survival. Modifications to the tetrazolium dye procedure giving improved sensitivity and reliability. J. Immunol. Methods,89,271-277 (1986)に記載の方法に従って行った。結果を表1に示す。N=4の結果である。
Figure 2022122233000001
(1-1-2)冷蔵72時間保存
保存条件を、設定温度4℃の冷蔵庫内で72時間放置した以外は、(1-1-1)の実験例と同様にして平均生存率(%)を求めた。結果を表2に示す。N=4の結果である。
Figure 2022122233000002
表1、2に示すように、アルギン酸を含有する細胞保存用液は、常温24時間と冷蔵(4℃)72時間の保存条件において、アルギン酸を含有しない無血清細胞培養液又はリンゲル液と比較して優れた細胞生存率を示し、優れた細胞保護効果を有することが分かる。また、このアルギン酸添加による細胞の生存率向上効果、即ち、細胞保護効果は、上皮系細胞のラット角膜上皮細胞でも、間葉系細胞のチャイニーズハムスター線維芽細胞でも同様に認められた。
(1-2)硫酸デキストラン
(1-2-1)常温24時間保存
アルギン酸ナトリウムに替えて、硫酸デキストラン(ナカライテスク株式会社製、硫酸デキストラン特級試薬)を用い、表3に示した条件とした以外は、(1-1-1)の実験例と同様にして細胞の平均生存率(%)を求めた。結果を表3に示す。N=4の結果である。
Figure 2022122233000003
(1-2-2)冷蔵72時間保存
保存条件を、設定温度4℃の冷蔵庫内で72時間放置し、表4に示す条件とした以外は、(1-2-1)の実験例と同様にして細胞の平均生存率(%)を求めた。結果を表4に示す。尚、無血清細胞培養液を用いた場合は、N=3、リンゲル液を用いた場合は、N=4の結果である。
Figure 2022122233000004
表3、4に示すように、硫酸デキストランを含有する細胞保存用液は、何れの調整液を用いた場合も、常温24時間と冷蔵(4℃)72時間の保存条件において、硫酸デキストランを含有しない細胞保存用液と比較して優れた細胞生存率を示し、優れた細胞保護効果を有することが分かる。また、この硫酸デキストラン添加による細胞生存率向上効果、即ち、細胞保護効果は、間葉系細胞のチャイニーズハムスター線維芽細胞に対しても同様に認められることを確認した。
(1-3)ヘパリン類
(1-3-1)常温24時間保存
アルギン酸に替えて、ヘパリンナトリウム(持田製薬株式会社製、ヘパリンNaモチダ、未分画ヘパリン)を用い、表5に示した条件とした以外は、(1-1-1)の実験例と同様にして細胞の平均生存率(%)を求めた。結果を表5に示す。N=4の結果である。
Figure 2022122233000005
(1-3-2)冷蔵72時間保存
保存条件を、設定温度4℃の冷蔵庫内で72時間放置し、表6に示す条件とした以外は、(1-3-1)の実験例と同様にして細胞の平均生存率(%)を求めた。結果を表6に示す。N=4の結果である。
Figure 2022122233000006
表5、6に示すように、ヘパリンナトリウムを含有する細胞保存用液は、何れの調整液を用いた場合も、常温24時間と冷蔵(4℃)72時間の保存条件において、ヘパリンナトリウムを含有しない細胞保存用液(即ち、調整液のみ)と比較して優れた細胞生存率を示し、優れた細胞保護効果を有することが分かる。また、このヘパリンナトリウム添加による細胞生存率向上効果、即ち、細胞保護効果は、間葉系細胞のチャイニーズハムスター線維芽細胞に対しても同様に認められることを確認した。さらに、ヘパリンナトリウムを低分子量化ヘパリンナトリウムに替えて同様の実験を行った場合も、細胞生存率向上効果、即ち、細胞保護効果が、各細胞に対して同様に認められることを確認した。
(1-4)蛋白質分解酵素阻害剤
(1-4-1)ウリナスタチン(阻害剤a)
(1-4-1-1)冷蔵72時間保存
ヘパリンナトリウムに替えて、蛋白質分解酵素阻害剤としてウリナスタチン(持田製薬株式会社製、ミラクリッド注射液、2.5万単位含有)を用い、表7に示す条件とした以外は、(1-3-2)の実験例と同様にして細胞の平均生存率(%)を求めた。結果を表7に示す。N=4の結果である。尚、表7中の阻害剤aの濃度の単位(単位/mL)における「単位(U)」は、例えば、第15改正日本薬局方ウリナスタチン定量法により測定することができる。即ち、試料液の405nmにおける吸光度をUV240型分光光度計で測定し、予め作成した検量線からウリナスタチンの濃度を算出することができる。
Figure 2022122233000007
(1-4-2)ナファモスタットメシルサン塩(阻害剤b)
(1-4-2-1)冷蔵72時間保存
調整液として5%ブドウ糖液を用い、これに蛋白質分解酵素阻害剤であるナファモスタットメシルサン塩(日医工株式会社製、注射用フサン)を表8に示す濃度となるように添加した細胞保存用液を準備した(注射用フサン(日医工株式会社製)では、その希釈液として5%ブドウ糖液を用いることが指定されている。)。各細胞保存用液に、マウス悪性黒色腫高転移株細胞を10Cells/mlの濃度で加え、4℃に設定した冷蔵庫に48時間放置した後、(1-4-1-1)の実験例と同様にして細胞の平均生存率(%)を求めた。結果を表8に示す。N=4の結果である。
Figure 2022122233000008
(1-4-3)プロテアーゼ阻害剤の混合物(阻害剤c)
(1-4-3-1)冷蔵72時間保存
ウリナスタチンに替えて、プロテアーゼ阻害剤の混合物(富士フィルム和光純薬株式会社製、プロテアーゼ阻害剤カクテルセットI)を用い、表9に示す条件とした以外は、(1-4-1-1)の実験例と同様にして細胞の平均生存率(%)を求めた。結果を表9に示す。N=4の結果である。尚、プロテアーゼ阻害剤の混合物は、1バイアルを蒸留水1mlに溶解させたときに、AEBSF塩酸塩を50mmol/l、アプロチニン(組換え体)を15μmol/l、E-64を0.1mmol/l、EDTA・2Na・2HOを50mmol/l、ロイペプチンヘミ硫酸を0.1mmol/lを含有する。これを原液として用い、調整液に対して、表9に示す希釈倍率になるように添加した。
Figure 2022122233000009
表7~9に示すように、蛋白分解酵素阻害剤を含有する細胞保存用液は、冷蔵(4℃)72時間又は48時間の保存条件において、蛋白分解酵素阻害剤を含有しない細胞保存用液(即ち、調整液のみ)と比較して優れた細胞生存率を示し、優れた細胞保護効果を有することが分かる。また、これらの蛋白分解酵素阻害剤添加による細胞生存率向上効果、即ち、細胞保護効果は、間葉系細胞のチャイニーズハムスター線維芽細胞に対しても同様に認められることを確認した。
(実験例2:細胞休眠効果)
細胞処理剤の有効成分として、アルギン酸ナトリウム(富士フィルム和光純薬株式会社製、アルギン酸ナトリウム一級試薬、1%水溶液の粘度が20℃で120mPa・s)、DS(実験例1と同じ)、ヘパリンナトリウム(実験例1と同じ)を用い、これらを作用させることにより細胞が休眠するか否かを、最も普遍的な細胞の活動である細胞の***増殖の活動性を下記のようにして比較することにより検討した。
(2-1)細胞休眠への導入
公知文献(Piotr Pozarowski and Zbigniew Darzynkiewicz, “Analysis of Cell Cycle by Flow Cytometry” Methods in Molecular Biology, vol. 281: Checkpoint Controls and Cancer, Volume 2)に記載の方法に準じてフローサイトメトリーにより細胞周期の解析を行い、細胞処理剤の有効成分の違いによる細胞の***増殖の頻度を比較した。具体的には以下のとおりである。先ず、調整液として、通常の無血清細胞培養液を用い、これを(a)比較対照とし、通常の無血清細胞培養液に対して、(b)アルギン酸ナトリウム(アルギン酸Na)を濃度2.5mg/mlとなるように添加したもの、(c)DSを0.1mg/mlとなるように添加したもの、(d)ヘパリンナトリウム(ヘパリンNa)を濃度50単位/mlとなるように添加したものを細胞保存用液として準備した。これらの細胞保存用液に、ラット角膜上皮細胞を細胞濃度10個/mlになるように加えて通常の細胞培養の条件下(37℃、CO濃度5%、湿度100%)に48時間培養した。得られた各培養細胞をフローサイトメトリーによる細胞周期解析により各細胞周期にある細胞数を求め、細胞の***増殖の過程の期間とされるS期およびG2期とM期にある細胞数の割合と、それ以外の期間とされるG0期とG1期にある細胞数の割合を比較した。結果を表10に示す。N=4の結果である。
Figure 2022122233000010
表10に示すように、比較対照である無血清細胞培養液単独の場合に比べて、各成分を添加した場合は、細胞の***増殖の過程の期間とされるS期およびG2期とM期にある細胞数の割合が著しく低下していることがわかった。つまり、無血清細胞培養液に各成分を添加した場合は、細胞の***増殖機能が低下して細胞が休眠している状態になることがわかる。したがって、各成分を添加した細胞保存用液は、培養細胞を休眠化させる細胞休眠用の細胞処理剤として有効であることがわかる。
(2-2)分化状態維持
細胞処理剤の有効成分として硫酸デキストラン(DS)を用い、DSによる細胞休眠効果を、細胞の未分化状態のままで維持して分化を抑制する効果を指標にして検討した。細胞としては未分化状態のヒト羊膜由来間葉系幹細胞を用いた。調整液として通常の無血清細胞培養液を用い、これに、DSを0.1mg/mlとなるように添加した細胞保存用液aと、FBSを10%となるように添加した細胞保存用液bとを準備した。各細胞保存用液a、bに、前述の幹細胞をそれぞれ10個/mlとなるように添加した後、通常の細胞培養条件(37℃、CO濃度5%、湿度100%)で5日間培養した。幹細胞の培養前と5日間培養後の細胞の分化の程度をフローサイトメトリーにより評価・比較した。方法は、Masoumeh Fakhr Taha, Vahideh HedayatiIsolation, “identification and multipotential differentiation of mouse adipose tissue-derived stem cells” Tissue and Cell 42 (2010) 211-216に記載の方法に準じた。評価は、未分化マーカーとしてCD29及びCD44を、また間葉系細胞への分化マーカーとしてCD11b、CD31及びCD45を指標とした。結果を表11に示す。
Figure 2022122233000011
表11に示すように、DSを含有する無血清細胞培養液を細胞保存用液として用いた場合は、3種類の分化マーカーの陽性率が全て培養前に対して培養後に若干増加するだけで大差が無く未分化状態を維持しているのに対して、FBSを含有する無血清細胞培養液を細胞保存用液として用いた場合は、3種類の分化マーカーの陽性率が全て培養前に対して培養後に大幅に増加して細胞分化の方向へと変化し始めていることがわかった。このようにDSは、同じように細胞保護効果があるFBSが細胞を分化させて抑制しないのに対して、細胞を未分化の状態のまま休眠させて分化を抑制することが明らかとなった。
(実験例3:細胞休眠からの覚醒)
前述の実験例で示したように、細胞処理剤の有効成分として用いたアルギン酸ナトリウム(実験例2と同じ)、DS(実験例1と同じ)、ヘパリンナトリウム(実験例1と同じ)を作用させて休眠した細胞が、カルシウムイオンを含む製剤(日医工株式会社製、カルチコール注射液、グルコン酸カルシウム水和物液)により覚醒するか否かを、最も普遍的な細胞の活動である細胞の***増殖がカルシウム剤を添加することにより活動を再開することを指標にして検討した。
(3-1)細胞休眠からの覚醒
先ず、調整液として、通常の無血清細胞培養液を用い、これを(a)比較対照とし、通常の無血清細胞培養液に対して、(b)DSを0.1mg/mlとなるように添加したもの、(c)ヘパリンナトリウム(ヘパリンNa)を濃度50単位/mlとなるように添加したもの、(d)アルギン酸ナトリウム(アルギン酸Na)を濃度2.5mg/mlとなるように添加したものを細胞保存用液として準備した。次に、(a)~(d)の細胞保存用液に、前述のようにして得た、ラット角膜上皮細胞を1×10個/mlの細胞個数となるように加え、これらを4℃の冷蔵に48時間保存した。このようにして得られた、(a)~(d)の細胞保存用液に含まれる細胞の試料番号をそれぞれ(a’)~(d’)とした。
同様にして、(a)~(d)の細胞保存用液を別途調製し、これらを2つに分けて、それぞれ試料番号をa-1~d-1、a-2~d-2とした。試料番号a-1~d-1の細胞保存用液には何も添加せず、試料番号b-2~d-2の細胞保存用液にはカルシウム濃度が5.23mg/mlとなるようにカルチコール注射液を添加した。
前述のようにして得られた冷蔵48時間保存後の、細胞を含む細胞保存用液(a)~(d)を遠心分離処理し、それぞれ細胞(a’)~(d’)を遠沈分離採取して、細胞(a’)~(d’)を、それぞれ対応するアルファベットの試料番号の細胞保存用液a-1~d-2に細胞含有量が6×10個/mlとなるように添加した。
所定の細胞(a’)~(d’)を添加した細胞保存用液a-1~d-2を、通常の細胞培養の条件下(37℃、CO濃度5%、湿度100%)で120時間培養した。
培養後、細胞保存用液a-1~d-2に含まれる単位体積当たりの生細胞数をMTTアッセイ法により定量した。MTTアッセイ法は、公知の文献(Priti Kumar et al. “Analysis of Cell Viability by the MTT Assay” Cold Spring Harbor Protocols. 6;2018 DOI: 10.1101/pdb.prot095505)に従って行った。培養の条件、測定結果を表12に示す。N=12の結果である。
Figure 2022122233000012
表12に示すように、カルシウムイオンを添加しない場合において、細胞処理剤の有効成分として用いた各成分を含む場合(b-1~d-1)は、これを含まない場合(a-1)に比べて生細胞数の増加が抑制されている。一方、カルシウムイオンを添加した場合(b-2~d-2)は、生細胞数が増加している。同様の実験をチャイニーズハムスター線維芽細胞を用いて行い、同様の結果を得た。これらの実験から、細胞処理剤の有効成分として用いた各成分を含むことで、休眠させた細胞の低下した***増殖能は、カルシウムイオンの添加により細胞が覚醒して、逆に細胞の***増殖能が活性化することが明らかとなった。
(実験例4:細胞の剥離・浮遊化作用)
<接着細胞の準備>
通常の無血清細胞培養液に、FBSの濃度が10%となるように添加した培養液(10%FBS細胞培養液)を培養シャーレに入れたものを準備した。これに、ラット角膜上皮細胞を10個/mlとなるように添加し、通常の細胞培養条件(37℃、CO濃度5%、湿度100%)で24時間培養して、培養細胞を十分に足場である培養シャーレ壁に接着させた。
<接着細胞の剥離・浮遊化>
前述のようにして得られた培養細胞が接着した培養シャーレの培養液を、硫酸デキストラン(富士フィルム和光純薬株式会社製、硫酸デキストランナトリウムMW36000~50000)及びデキストラン(富士フィルム和光純薬株式会社製、デキストランMW35000~50000)を精製水に溶解して得られた表13に示す各濃度の硫酸デキストラン水溶液、及びデキストラン水溶液に置換したものをそれぞれ準備し、通常の細胞培養条件(37℃、CO濃度5%、湿度100%)で培養を継続した。各接着細胞について、経時的に接着細胞のシャーレ壁からの剥離、浮遊化を観察した。この剥離浮遊化の判定に際しては、培養シャーレを軽く用手的に揺すって、細胞がシャーレ壁から剥離し、浮遊化するか否かを観察し、90%以上の細胞が剥離浮遊化した場合を接着細胞の剥離浮遊化と判定した。硫酸デキストラン水溶液の場合の結果を表13に示す。N=4の結果である。表13中、「○」は、細胞が剥離浮遊化したことを意味し、「×」は細胞が剥離浮遊化しなかったことを意味する。尚、デキストラン水溶液に置換した場合は、何れの場合も接着細胞は剥離浮遊化しなかった。
Figure 2022122233000013
表13に示すように、DSを含有する場合は、その濃度に依存して所定時間内に培養シャーレの内壁に接着した接着細胞が剥離浮遊化した。同様の実験を、チャイニーズハムスター線維芽細胞を用いて行い、同様の結果を得た。したがって、DSは、通常のデキストランと異なり、接着細胞を剥離し、浮遊化させる、細胞剥離・浮遊化作用を有することがわかった。
(実験例5:細胞の剥離・浮遊化作用と細胞の再接着作用)
<接着細胞の準備>
実験例4と同様にして、ラット角膜上皮細胞を十分に足場である培養シャーレ壁に接着させた。
<接着細胞の剥離・浮遊化>
前述のようにして得られた培養細胞が接着した培養シャーレの培養液に、表14に示す濃度になるように、各有効成分を添加したものと、有効成分を添加しないものとを作製した。次いで、各培養シャーレを振盪器(株式会社バイオクラフト製、製品名Laboshaker Model BC-740)の台上に乗せて振盪強度を最弱に設定し、振盪回数を4回/分として、各培養シャーレを穏やかに揺すりながら通常の細胞培養条件(37℃、CO濃度5%、湿度100%)で24時間培養した。そして、この24時間培養後の細胞の剥離浮遊化を観察した。剥離浮遊化の判定は、培養シャーレが揺すられている状態で、細胞がシャーレ壁から剥離浮遊化するか否かを観察し、90%以上の細胞が剥離浮遊化した場合を細胞の「剥離浮遊化」と判定し、「剥離浮遊化」したものを「○」、「剥離浮遊化」しないものを「×」とした。結果を表14に示す。N=4の結果である。
Figure 2022122233000014
<剥離浮遊化した細胞の再接着>
前述のようにして剥離浮遊化した細胞がカルシウムイオンによって再接着するか否かを検討した。先ず、培養シャーレの底の一部にリン酸カルシウムの微粉末に蒸留水を混ぜてスラリーとしたものを塗って感熱乾燥させ、リン酸カルシウムの微粉末の膜がシャーレ底に張り付いている状態の培養シャーレを別途準備した。次いで、このリン酸カルシウム膜付き培養シャーレ及びその膜なし培養シャーレ(対照)に、前述のようにして剥離浮遊化した細胞を含む細胞培養液を添加し、培養シャーレを、振盪器(株式会社バイオクラフト製、製品名Laboshaker Model BC-740)の台上に乗せて振盪強度を最弱に設定し、振盪回数を4回/分として培養シャーレを穏やかに揺すりながら通常の細胞培養条件(37℃、CO濃度5%、湿度100%)で24時間培養した。その後、各培養シャーレ中の培養液を除去し、10%FBS細胞培養液で培養シャーレを穏やかに洗浄した後、蛍光色素(CytoPainterF-actin Staining Kit、Abcam社製)による生細胞染色を用いて、F-actinの蛍光染色法により培養シャーレの内壁に接着している生細胞を顕微鏡(オリンパス株式会社製、冷却CCDカメラ付き倒立型 蛍光・可視顕微鏡、IX83)下で観察した。F-actinの蛍光染色法は、例えば、Vera DM, Robert J E, Ved PS, Orrin S and John SC, “Optimizing leading edge F-actin labeling using multiple actin probes, fixation methods and imaging modalities” BIOTECHNIQUES, VOL. 66, NO. 3, (2019)、或いは、Michael M, Matthias P and Robert G “Actin visualization at a glance” n J. Cell Sci. 130, 525-530. (2017) doi:10.1242/jcs.20448に記載の方法に準じて行うことができる。
顕微鏡の撮像を図1~4に示す。図1は、DSで剥離浮遊化した細胞をリン酸カルシウム膜付き培養シャーレで培養した時のリン酸カルシウム膜表面の撮像を示したものである。図2は、ヘパリンNaで剥離浮遊化した細胞をリン酸カルシウム膜付き培養シャーレで培養した時のリン酸カルシウム膜表面の撮像を示したものである。図3は、DSで剥離浮遊化した細胞をリン酸カルシウム膜なし培養シャーレで培養した時の培養シャーレの底面の撮像を示したものである。図4は、ヘパリンNaで剥離浮遊化した細胞をリン酸カルシウム膜なし培養シャーレで培養した時の培養シャーレの底面の撮像を示したものである。尚、図1~4中において、白色又は灰色に見えるのが蛍光色素に染まった生細胞群である。
図1、2に示すように、リン酸カルシウム膜の表面には無数の生細胞が、単独であるいは細胞クラスターを形成しながら付着しているのが認められた。一方、図3、4に示すように、リン酸カルシウム膜のない培養シャーレの底面には、生細胞の接着は極めて少数であった。チャイニーズハムスター線維芽細胞を用いて同様の実験を行い、同様の結果を得た。このように、固体製剤であるリン酸カルシウムは、DSやヘパリンNaのような有効成分により剥離浮遊化した細胞を再接着させ細胞を活性化することが分かる。即ち、有効成分を含む細胞処理剤と多価陽イオンの所定の製剤とを組み合わせて用いることにより、細胞処理剤で休眠状態になった休眠細胞を覚醒化することができるため、この両者を組み合わせたセット試薬は、休眠細胞覚醒化用として好適であることがわかる。
(実験例6:アルギン酸の粘度・濃度と細胞保護効果の関係)
細胞処理剤の有効成分として粘度の異なる3種のアルギン酸、細胞を例えば保存運搬する際に用いる調整液としてリンゲル液を用い、粘度の異なるアルギン酸ナトリウムの細胞保護効果を、以下に検討した。粘度の異なる3種のアルギン酸として、(a)1%水溶液、20℃での粘度が120mPa・s(高粘度)のアルギン酸ナトリウム(富士化学工業株式会社製、スノーアルギンL)、(b)1%水溶液、20℃での粘度が30mPa・s(低粘度)のアルギン酸ナトリウム(富士化学工業株式会社製、スノーアルギンSSL)、(c)10%水溶液、20℃での粘度が30mPa・s(非常に低粘度(極低粘度))のアルギン酸ナトリウム(共成製薬株式会社製、低分子化アルギン酸ナトリウム)を用いた。リンゲル液は実験例1と同じものを用いた。
(6-1)常温24時間保存
前述の粘度の異なるアルギン酸を表15に示す濃度となるようにリンゲル液に添加した細胞保存液を準備した。この細胞保存液中に、細胞として前述のラット角膜上皮細胞を10Cells/mlの濃度で加え、そのまま常温(22℃)の室内に24時間放置した後、細胞の生死を判定し、生細胞の割合(平均生存率(%))を求めて比較検討した。細胞の生死は、細胞の生死を確認する通常の方法であるトリパンブルー排出試験により行った。結果を表15に示す。N=4の結果である。
Figure 2022122233000015
(6-2)冷蔵168時間(7日間)保存
保存条件を、設定温度4℃の冷蔵庫内で7日間放置し、アルギン酸ナトリウムの濃度を表16に示すように設定した以外は、(6-1)の場合と同様にして平均生存率(%)を求めた。結果を表16に示す。N=4の結果である。
Figure 2022122233000016
表15に示すように、室温22℃で保存時間が24時間と比較的短い場合には、粘度が比較的大きい(1%水溶液、120mPa・s(20℃))アルギン酸(高粘度)は、他の粘度の場合(低粘度、極低粘度)と比較して、比較的低濃度(ここでは概ね2.5mg/ml程度以下)となるように調製した細胞保存液中で、より効果的に細胞保護効果を発揮することが分かる。表16に示すように、7日間と非常に長時間にわたり細胞を保存する場合には、粘度の非常に小さい(10%水溶液、30mPa・s(20℃))アルギン酸(極低粘度)は、他の粘度の場合(高粘度、低粘度)と比較して、比較的高濃度(ここでは概ね10mg/ml以上)となるように調製した細胞保存液中で、より効果的に細胞保護効果を発揮することが分かる。また、表16より、粘度の非常に小さいアルギン酸は、より高濃度側での効果の向上が期待できる。

Claims (8)

  1. アルギン酸、ヘパリン類、硫酸デキストラン及び蛋白質分解酵素阻害剤から選択される少なくとも一種を有効成分として含む細胞処理剤。
  2. 細胞培養液、細胞外液補充液及び維持輸液から選択される少なくとも一種を含む請求項1記載の細胞処理剤。
  3. 組織内細胞又は培養細胞を休眠させる細胞休眠用である請求項1又は2に記載の細胞処理剤。
  4. 組織内細胞又は培養細胞のバイアビリティ(Viability)を保持し死滅を抑制する細胞保護用である請求項1又は2に記載の細胞処理剤。
  5. 細胞を未分化又は低分化の状態に保持するための細胞保存用である請求項1又は2に記載の細胞処理剤。
  6. 培養細胞を生体組織の足場若しくは培養基材の足場から、又は、生体組織の組織内細胞を生体組織の足場から、剥離し、浮遊させる細胞剥離・浮遊化用である請求項1又は2に記載の細胞処理剤。
  7. 細胞保存用、組織保存用又は臓器保存用の液体である請求項1~5の何れか一項に記載の細胞処理剤。
  8. 請求項1~7の何れか一項に記載の細胞処理剤と、多価陽イオンを含む固形又は液体製剤との組み合わせ試薬である、休眠細胞覚醒化用セット試薬。
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