本発明は、バイオテクノロジーの分野に関し、より詳細には、タンパク質合成効率を高めることができるタンデムDNAエレメントに関する。
タンパク質は、細胞における重要な分子であり、細胞のほとんど全ての機能に関与する。タンパク質の配列および構造は、その機能を決定する。細胞において、タンパク質は、酵素類として種々の生化学反応を触媒することができ、シグナル分子として生物体の種々の活動を協調することができ、生物形態をサポートし、エネルギーを蓄積し、分子を輸送し、生物体を動かせることができる。生体医学の分野において、標的薬としての抗体(タンパク質の一種)は、がんや他の病気を治療するための重要な手段である。
細胞では、栄養欠乏などの外界圧力に応答するだけでなく、細胞の発生や分化など様々なプロセスにおいて、タンパク質翻訳の調節が重要な役割を果たしている。タンパク質翻訳の4つのプロセスには、翻訳開始、翻訳伸長、翻訳終結およびリボソームのリサイクリングがある。その中でも、翻訳開始が最も調節されるプロセスである。真核細胞における翻訳開始には2つの方法がある。すなわち、伝統的なキャップ依存的方法およびキャップ非依存的方法(図1に示す)である。
「キャップ構造」依存的な翻訳開始は、いくつかの種類の翻訳開始因子と、リボソームの40S小サブユニットとが関与する非常に複雑なプロセスである。「キャップ構造」非依存的な翻訳開始は、主に、mRNAの5’非翻訳領域に位置する内部リボソームエントリーサイト(IRES)によって媒介される。IRESは、1980年代にウイルス性mRNAで初めて発見された。そして、細胞内の内因性IRESも、後に広く報告された。ウイルス性IRESは、通常、複雑な二次および三次構造を有する。宿主細胞内で、ウイルス性IRESは、宿主細胞の翻訳開始因子に依存して、または宿主細胞の翻訳開始因子とは無関係に、タンパク質翻訳を開始するために宿主細胞のリボソームをリクルート(recruit)する。ウイルス性IRESと比較して、細胞内の内因性IRESは、通常、タンパク質翻訳を開始する効率が低いであり、且つまた、共通性を持たない様々な複雑な機構によって調節される。細胞内の異なる内因性IRESは、配列や構造に共通性を有さない。これは、予測が困難である。
細胞内タンパク質合成の上記の理解に加えて、タンパク質合成はまた、細胞外で行われる。インビトロタンパク質合成系は一般に、細菌、真菌、植物細胞または動物細胞に基づく溶解システムを指す。これは、外来性タンパク質の迅速かつ効率的な翻訳を完了するために、mRNAまたはDNA鋳型、RNAポリメラーゼ、アミノ酸およびATPなどの成分を添加する。現在、頻繁に使用される市販のインビトロタンパク質発現系には、大腸菌抽出物(Escherichia coli extract,ECE)系、ウサギ網状赤血球溶解物(rabbit reticulocyte lysate,RRL)系、コムギ胚芽抽出物(wheat germ extract,WGE)系、昆虫細胞抽出物(insect cell extract,ICE)系およびヒト供給源系が含まれる。
インビトロで合成されたmRNAは通常、“キャップ構造”を有さない。“キャップ構造”によるmRNAの修正は、時間がかかり、高価である。結果として、インビトロタンパク質合成系は一般に、キャップ非依存的な翻訳開始方法を使用して、タンパク質合成が行われる。しかし、IRESまたはオメガ(Ω)配列のみを使用する翻訳開始の効率はかなり低く、インビトロでの迅速、効率的およびハイスループットなタンパク質合成の目的は達成されない。現在のところ、これら2つのタイプの翻訳開始エレメントをタンデムに連結することに関する研究はない。
したがって、IRES配列とΩ配列とをタンデムに連結し、タンパク質合成効率を高めることができる新規な核酸構築物を開発することが、当技術分野において緊急に必要とされている。
本発明の1つの目的は、IRES配列とオメガ(Ω)配列とをタンデムに連結し、タンパク質翻訳の効率を高めることができる新規な核酸構築物を提供することである。
第1の態様によれば、本発明は、式Iの核酸配列を含む核酸構築物を提供する。
Z1−Z2−Z3−Z4−Z5(I)
式中、Z1〜Z5は、それぞれ、構築物の一部としてのエレメントであり、
各「−」は、独立して、結合またはヌクレオチド連結配列であり、
Z1は、エンハンサーエレメントであり、エンハンサーエレメントは、IRESエレメントを含み、
Z2は、タバコモザイクウイルスの5’リーダー配列(leading sequence)であり、つまりΩ配列であり、
Z3は、アデニンデオキシヌクレオチドのオリゴマー鎖であり、[オリゴ(A)]nで表され、
Z4は、翻訳開始コドンであり、
Z5は、セリンコドンであり、
Z3、Z4およびZ5は、Kozak配列を構成し、Kozak配列は、酵母に由来する。
別の好ましい実施形態では、Z1は、酵母に由来する。
別の好ましい実施形態において、IRESエレメントの供給源は、原核細胞および真核細胞からなる群より選択される1つ以上のタイプの細胞である。
別の好ましい実施形態において、真核細胞は、高等真核細胞を含む。
別の好ましい実施形態において、IRESエレメントは、内因性IRESエレメントおよび外因性IRESエレメントを含む。
別の好ましい実施形態において、IRESエレメントの供給源は、ヒト(human)細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞(Chinese hamster overy cell)、昆虫細胞、コムギ胚芽細胞(Wheat germ cell)およびウサギ網状赤血球(Rabbit reticulocyte)からなる群より選択される1つ以上のタイプの細胞である。
別の好ましい実施形態において、IRESエレメントは、ScBOI1、ScFLO8、ScNCE102、ScMSN1、KlFLO8、KlNCE102、KlMSN1、KlBOI1、およびそれらの組合せからなる群より選択される。
別の好ましい実施形態において、酵母は、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、クルイベロマイセス(Kluyveromyces)およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。
別の好ましい実施形態において、クルイベロマイセスは、クルイベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)、クルイベロマイセス・マルキシアナス(Kluyveromyces marxianus)、クルイベロマイセス・ドブズハンスキ(Kluyveromyces dobzhanskii)、およびそれらの組合せからなる群より選択される。
別の好ましい実施形態において、翻訳開始コドンは、ATG、ATA、ATT、GTG、TTGおよびそれらの組合せからなる群より選択される。
別の好ましい実施形態では、翻訳開始コドンは、ATGである。
別の好ましい実施形態において、セリンコドンは、TCT、TCC、TCA、TCG、AGT、AGCおよびそれらの組合せからなる群より選択される。
別の好ましい実施形態では、セリンコドンは、TCTである。
別の好ましい実施形態において、nは、6〜12の範囲であり、好ましくは8〜10の範囲である。
別の好ましい実施形態では、Ω配列は、直接反復モジュール(ACAATTAC)mと、(CAA)pとを含む。
別の好ましい実施形態では、mは、1〜6の範囲であり、好ましくは2〜4の範囲である。
別の好ましい実施形態において、pは、6〜12の範囲であり、好ましくは8〜10の範囲である。
別の好ましい実施形態では、(CAA)pモジュールの数は、1〜5の範囲であり、好ましくは1〜3の範囲である。
別の好ましい実施形態では、(CAA)pモジュールは、改善された(CAA)pモジュールをさらに含む。
別の好ましい実施形態において、Kozak配列は、配列番号84に示される。
別の好ましい実施形態では、核酸構築物の配列は、配列番号2〜17のいずれか1つである。
別の好ましい実施形態では、核酸構築物の配列は、配列番号2〜9のいずれか1つである。
別の好ましい実施形態において、核酸構築物の配列は、配列番号3、4または6である。
第2の態様によれば、本発明は、5’から3’に式IIの構造を含む核酸構築物を提供する。
Z1−Z2 Z3−Z4−Z5−Z6(II)
式中、Z1〜Z6は、それぞれ核酸構築物の一部としてのエレメントであり、
各「−」は、独立して、結合またはヌクレオチド連結配列であり、
Z1はエンハンサーエレメントであり、エンハンサーエレメントはIRESエレメントを含み、
Z2は、タバコモザイクウイルスの5’リーダー配列(leading sequence)であり、つまりΩ配列であり、
Z3は、アデニンデオキシヌクレオチドのオリゴマー鎖であり、[オリゴ(A)]nで表され、
Z4は、翻訳開始コドンであり、
Z5は、セリンコドンであり、
Z6は、外来性タンパク質のコード配列であり、
Z3、Z4およびZ5は、Kozak配列を構成し、Kozak配列は、酵母に由来する。
別の好ましい実施形態において、外来性タンパク質のコード配列は、原核生物または真核生物に由来する。
別の好ましい実施形態において、外来性タンパク質のコード配列は、動物、植物または病原体に由来する。
別の好ましい実施形態において、外来性タンパク質のコード配列は、哺乳動物に由来し、好ましくは、霊長類またはげっ歯類に由来する(ヒト、マウスおよびラットを含む)。
別の好ましい実施形態では、外来性タンパク質のコード配列は、ルシフェリン、またはルシフェラーゼ(例えば、ホタルルシフェラーゼなど)、緑色蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質、アミノアシル−tRNAシンセターゼ、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、カタラーゼ、アクチン、抗体の可変領域、ルシフェラーゼ変異体、α−アミラーゼ、エンテロシンA、C型肝炎ウイルス(HCV)E2糖タンパク質、インスリン前駆体、インターフェロンαA、インターロイキン−1β、リゾチーム、血清アルブミン、抗体の単一鎖可変断片(scFv)、トランスチレチン、チロシナーゼ、キシラナーゼおよびこれらの組合せからなる群から選択される外来性タンパク質をコードする。
別の好ましい実施形態では、外来性タンパク質は、ルシフェリン、またはルシフェラーゼ(例えば、ホタルルシフェラーゼなど)、緑色蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質、アミノアシル−tRNAシンセターゼ、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、カタラーゼ、アクチン、抗体の可変領域、ルシフェラーゼ変異体、α−アミラーゼ、エンテロシンA、C型肝炎ウイルス(HCV)E2糖タンパク質、インスリン前駆体、インターフェロンαA、インターロイキン−1β、リゾチーム、血清アルブミン、抗体の単一鎖可変断片(scFv)、トランスチレチン、チロシナーゼ、キシラナーゼおよびこれらの組合せからなる群から選択される。
別の好ましい実施形態では、核酸構築物の配列は、配列番号85〜87のいずれか1つである。
第3の態様によれば、本発明は、5’から3’に式IIIの構造を含む核酸構築物を提供する。
Z0−Z1−Z2 Z3−Z4−Z5−Z6(III)
式中、Z0〜Z6は、それぞれ、核酸構築物の一部としてのエレメントであり、
各「−」は、独立して、結合またはヌクレオチド連結配列であり、
Z0は、プロモーターエレメントであり、プロモーターエレメントは、T7プロモーター、T3プロモーター、SP6プロモーターおよびこれらの組合せからなる群から選択され、
Z1は、エンハンサーエレメントであり、エンハンサーエレメントはIRESエレメントを含み、
Z2は、タバコモザイクウイルスの5’リーダー配列(leading sequence)であり、つまりΩ配列であり、
Z3は、アデニンデオキシヌクレオチドのオリゴマー鎖であり、[オリゴ(A)]nで表され、
Z4は、翻訳開始コドンであり、
Z5は、セリンコドンであり、
Z6は、外来性タンパク質のコード配列であり、
Z3、Z4およびZ5は、Kozak配列を構成し、Kozak配列は、酵母に由来する。
第4の態様によれば、本発明は、5’から3’に式IVの構造を含む核酸構築物を提供する。
Z0’−Z1−Z2 Z3−Z4−Z5−Z6(IV)
式中、Z0’〜Z6は、それぞれ、構築物の一部としてのエレメントであり、
各「−」は、独立して、結合またはヌクレオチド連結配列であり、
Z0’は、GAAであり、
Z1は、エンハンサーエレメントであり、エンハンサーエレメントは、IRESエレメントを含み、
Z2は、タバコモザイクウイルスの5’リーダー配列(leading sequence)であり、つまりΩ配列であり、
Z3は、アデニンデオキシヌクレオチドのオリゴマー鎖であり、[オリゴ(A)]nで表され、
Z4は、翻訳開始コドンであり、
Z5は、セリンコドンであり、
Z6は、外来性タンパク質のコード配列であり、
Z3、Z4およびZ5は、Kozak配列を構成し、Kozak配列は、酵母に由来する。
第5の態様によれば、本発明は、ベクターまたはベクターの組合せを提供する。ベクターまたはベクターの組合せは、本発明の第1の態様〜第4の態様に記載の核酸構築物を含有する。
第6の態様によれば、本発明は、遺伝子組み換えされた細胞を提供する。遺伝子組み換えされた細胞のゲノムは、1つ以上の部位で、本発明の第1の態様から第4の態様による核酸構築物と一体化される。または、遺伝子組み換えされた細胞は、本発明の第5の態様によるベクターまたはベクターの組み合わせを含む。
別の好ましい実施形態において、遺伝子組み換えされた細胞は、原核細胞および真核細胞を含む。
別の好ましい実施形態において、真核細胞は、高等真核細胞を含む。
別の好ましい実施形態において、遺伝子組み換えされた細胞は、ヒト細胞(例えば、Hela細胞)、チャイニーズハムスター卵巣細胞、昆虫細胞、コムギ胚芽細胞、ウサギ網状赤血球、酵母細胞およびそれらの組合せからなる群より選択される。
別の好ましい実施形態では、遺伝子組み換えされた細胞は、酵母細胞である。
別の好ましい実施形態では、酵母細胞は、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、クルイベロマイセス(Kluyveromyces)、およびそれらの組合せからなる群より選択される。
別の好ましい実施形態において、クルイベロマイセスは、クルイベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)、クルイベロマイセス・マルキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)、クルイベロマイセス・ドブズハンスキ(Kluyveromyces dobzhanskii)、およびそれらの組合せからなる群より選択される。
第7の態様によれば、本発明は、キットを提供する。キットに含まれる試薬は、以下の群のうちの1つ以上から選択される。
(a)本発明の第1の態様から第4の態様に記載の核酸構築物、
(b)本発明の第5の態様に記載のベクター又はベクターの組合せ、および
(c)本発明の第6の態様による遺伝子組み換え細胞。
別の好ましい実施形態では、キットは、(d)真核生物系のインビトロ生合成系(例えば、真核生物系のインビトロタンパク質合成系など)をさらに含む。
別の好ましい実施形態において、真核生物系のインビトロ生合成系は、酵母系のインビトロ生合成系、チャイニーズハムスター卵巣細胞系のインビトロ生合成系、昆虫細胞系のインビトロ生合成系、Hela細胞系のインビトロ生合成系、およびそれらの組合せからなる群より選択される。
別の好ましい実施形態において、真核生物系のインビトロ生合成系は、真核生物系のインビトロタンパク質合成系を含む。
別の好ましい実施形態において、真核生物系のインビトロタンパク質合成系は、酵母系のインビトロタンパク質合成系、チャイニーズハムスター卵巣細胞系のインビトロタンパク質合成系、昆虫細胞系のインビトロタンパク質合成系、Hela細胞系のインビトロタンパク質合成系、およびそれらの組合せからなる群より選択される。
別の好ましい実施形態では、キットは、(e)酵母系のインビトロ生合成系(例えば、酵母系のインビトロタンパク質合成系など)をさらに含む。
別の好ましい実施形態では、酵母系のインビトロ生合成系(例えば、酵母系のインビトロタンパク質合成系など)は、クルイベロマイセス系のインビトロ生合成系(例えば、クルイベロマイセス系のインビトロタンパク質合成系など)であり、好ましくは、クルイベロマイセス・ラクティス系のインビトロ生合成系(例えば、クルイベロマイセス・ラクティス系のインビトロタンパク質合成系ど)である。
第8の態様によれば、本発明は、本発明の第1の態様から第4の態様に係る核酸構築物と、本発明の第5の態様に係るベクターまたはベクターの組合せと、本発明の第6の態様に係る遺伝子組み換えされた細胞または本発明の第7の態様に係るキットの使用を提供する。これは、ハイスループットなインビトロタンパク質合成に適用可能である。
第9の態様によれば、本発明は、以下の工程を含む、外来性タンパク質合成のためのインビトロハイスループット方法を提供する。
(i)真核生物系のインビトロ生合成系の存在下で、本発明の第1の態様から第4の態様による核酸構築物を提供する工程、
(ii)適切な条件下で、工程(i)の真核生物系のインビトロ生合成系をT1の期間インキュベートして、外来性タンパク質を合成する工程。
別の好ましい実施形態において、この方法は、(iii)真核生物系のインビトロ生合成系から外来性タンパク質を任意選択で単離または検出する工程をさらに含む。
別の好ましい実施形態において、真核生物系のインビトロ生合成系は、酵母系のインビトロ生合成系(例えば、酵母系のインビトロタンパク質合成系など)である。
別の好ましい実施形態では、酵母系のインビトロ生合成系(例えば、酵母系のインビトロタンパク質合成系など)は、クルイベロマイセス系のインビトロ生合成系(例えば、クルイベロマイセス系のインビトロタンパク質合成系など)であり、好ましくはクルイベロマイセス・ラクティス系のインビトロ生合成系(例えば、クルイベロマイセス・ラクティス系のインビトロタンパク質合成系など)である。
別の好ましい実施形態において、外来性タンパク質のコード配列は、原核生物または真核生物に由来する。
別の好ましい実施形態において、外来性タンパク質のコード配列は、動物、植物または病原体に由来する。
別の好ましい実施形態において、外来性タンパク質のコード配列は、哺乳動物に由来し、好ましくは、霊長類またはげっ歯類に由来する(ヒト、マウスおよびラットを含む)。
別の好ましい実施形態では、外来性タンパク質のコード配列は、ルシフェリン、またはルシフェラーゼ(例えば、ホタルルシフェラーゼなど)、緑色蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質、アミノアシル−tRNAシンセターゼ、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、カタラーゼ、アクチン、抗体の可変領域、ルシフェラーゼ変異体、α−アミラーゼ、エンテロシンA、C型肝炎ウイルスE2糖タンパク質、インスリン前駆体、インターフェロンαA、インターロイキン−1β、リゾチーム、血清アルブミン、抗体の単一鎖可変断片(scFv)、トランスチレチン、チロシナーゼ、キシラナーゼ、およびこれらの組合せからなる群から選択される外来性タンパク質をコードする。
別の好ましい実施形態では、外来性タンパク質は、ルシフェリン、またはルシフェラーゼ(例えば、ホタルルシフェラーゼなど)、緑色蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質、アミノアシル−tRNAシンセターゼ、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、カタラーゼ、アクチン、抗体の可変領域、ルシフェラーゼ変異体、α−アミラーゼ、エンテロシンA、C型肝炎ウイルスE2糖タンパク質、インスリン前駆体、インターフェロンαA、インターロイキン−1β、リゾチーム、血清アルブミン、抗体の単一鎖可変断片(scFv)、トランスチレチン、チロシナーゼ、キシラナーゼ、およびこれらの組合せからなる群から選択される。
別の好ましい実施形態では、工程(ii)において、反応温度は、20〜37℃の範囲であり、好ましくは22〜35℃の範囲である。
別の好ましい実施形態では、工程(ii)において、反応時間は、1〜10時間の範囲であり、好ましくは2〜8時間の範囲である。
本発明の範囲内で、本発明において以下(例えば、実施形態または実施例)で具体的に説明されるそれぞれの技術的特徴および上述のそれぞれの技術的特徴は、互いに組み合わせることができ、それによって、新しいまたは好ましい技術的解決策を形成することができることを理解されたい。スペースの制約のため、ここでは、これ以上のトートロジーはない。
図1は、生合成においてタンパク質翻訳開始における5’−UTR配列の重要な役割を示す。5’−UTRは主に、細胞内で、タンパク質の翻訳開始を調節し、mRNAを安定化させる役割を果たしている。(A)キャップ依存的なタンパク質翻訳開始のプロセスにおいて、5’−UTRは、翻訳開始因子および43S開始前複合体(pre-initiation complex, PIC)をリクルート(recruit)するために重要な役割を果たす。そして、それは、43S PICのスキャニングおよび翻訳開始も調節できる。キャップ非依存的なタンパク質翻訳開始のプロセスでは、(B)二次構造をもつ5’−UTRと、(C)二次構造をもたない5’−UTRの両方がいくつかのタンパク質因子の助けを必要とし、43S PICをリクルートするために非常に重要である。
図2は、インビトロタンパク質合成系において、真核生物内因性IRESがタンパク質合成を開始する効率を示す。サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)およびクルイベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)に由来し、相同性を持つIRESから選択された8種のIRESは、酵母系のインビトロタンパク合成系で使用された。従来のΩ配列と比較して、6つのIRES(ScFLO8、ScMSN1、ScNCE102、KlFLO8、KlMSN1およびKlNCE102)を使用して、その合成を開始した場合のルシフェラーゼの相対発光量(RLU)値は、Ω配列を使用した場合よりも高かった。
図3は、インビトロタンパク質合成系においてタンパク質合成を開始する効率におけるタンデムDNAエレメントの比較を示す。Ω配列の上流または下流のそれぞれに位置する8個のIRESを、Ω配列およびクルイベロマイセス・ラクティス−に特異的Kozak配列とタンデムにそれぞれ連結した。16個のタンデムDNAエレメントを構築した。16個のタンデムDNAエレメントは、インビトロタンパク質合成系において使用された。合成を開始するためにKlNCE102−Ω−10Aを使用した場合のルシフェラーゼの相対発光量(RLU)値は、Ω配列とKozak配列とを連結するタンデムエレメントΩ−10Aを使用した場合の値を超えた。そして、その値は、Ω−10Aを使用した場合のRLU値に対して1.65倍であった。次に、別の二つのタンデムエレメント、ScFLO8−Ω−10AとKlMSN1−Ω−10Aを用いたときの相対発光量値は、Ω−10Aを用いたときのRLU値に近く、それぞれ、Ω−10Aを用いたときのRLU値の81.68%と85.35%に達した。
図4は、本発明におけるKlNCE102−Ω−10A配列によるインビトロタンパク質翻訳開始の効率を増大する原理を示す。(A)Ω配列は、43S PICをリクルートし、タンパク質翻訳を開始するために、翻訳開始因子eIF4Gを組み合わせる必要がある。(B)KlNCE102は、ポリ(A)結合タンパク質Pab1をリクルートすることができるAリッチ(A-rich)RNA配列である。Pab1は、eIF4Gと相互作用することがきる。それによって、43S PICに対する補充効果を増大させ、翻訳開始の効率を改善する。KlNCE102およびΩ配列は、相乗効果を形成し、翻訳開始効率を高める。
図5は、Ω−10A配列およびGAA配列がKlNCE102のインビトロタンパク質翻訳効率を増大したことを示す。KlNCE102−Ω−10Aタンデムエレメントのインビトロ翻訳効率は、KlNCE102のそれの1.23倍であった。GAA−KlNCE102−Ω−10Aタンデムエレメントのインビトロ翻訳効率は、KlNCE102−Ω−10Aのそれの1.28倍、Ω−10Aのそれの2.52倍であった。
広範かつ詳細な研究の後、多くのスクリーニングおよび探索を通して、インビトロタンパク質翻訳の効率を高めることができる新規な核酸構築物が、初めて予想外に見い出された。本発明の核酸構築物は、真核細胞(例えば、酵母)に由来するIRESエンハンサー(例えば、ScBOI1、ScFLO8、ScNCE102、ScMSN1、KlFLO8、KlNCE102、KlMSN1、KlBOI1)、Ω配列および酵母(例えば、クルイベロマイセス、好ましくはクルイベロマイセス・ラクティス)に特異的Kozak配列を連結することによって構築される。本発明の核酸構築物を酵母系のインビトロ生合成系(例えば、酵母系のインビトロタンパク質合成系)で使用する場合、合成されたルシフェラーゼの活性を示すための相対発光量(RLU)値は、非常に高く、Ω配列およびKozak配列によって連結されたタンデム配列(Ω−10A)の値の1.65倍に達する、または、Ω−10Aの値とほぼ均等物である。
さらに、本発明者らは、驚くべきことに、本発明の核酸構築物の上流にGAAの3残基を配置することがタンパク質合成の効率を増大させ、そしてインビトロ合成を媒介するために本発明の核酸構築物を使用する場合、ルシフェラーゼの相対発光量値が、約0.28倍(KlNCE102−Ω−10Aに対してGAA−KlNCE102−Ω−10A)に増大したことを見出した。Ω−10Aを用いた場合と比較して、GAA−KlNCE102−Ω−10Aを用いた場合のルシフェラーゼの相対発光量値は、1.52倍に増大した(すなわち、GAA−KlNCE102−Ω−10Aを用いた場合の相対発光量値は、Ω−10Aを用いた場合の値の2.52倍であった)(図5に示すように)。以上により、本発明者らは、本発明を完成させた。
真核生物系のインビトロ生合成系
真核生物系のインビトロ生合成系は、真核生物細胞に基づく転写−翻訳共役系である。それは、DNA鋳型から出発してRNAを合成するか、DNAまたはRNAを鋳型として用いてインビトロ(in vitro)でタンパク質合成を完了することができる。真核細胞は、酵母細胞、ウサギ網状赤血球、コムギ胚芽細胞、昆虫細胞、ヒト細胞等を含む。真核生物系のインビトロ生合成系は、複雑な構造を有するRNAまたはタンパク質を合成することができ、タンパク質の翻訳後の修飾ができるなどという利点がある。
本発明において、真核生物系のインビトロ生合成系は、特に限定されない。好ましい真核生物系のインビトロ生合成系は、酵母系のインビトロ生合成系を含み、好ましくは酵母系のインビトロタンパク質合成系を含み、より好ましくはクルイベロマイセス系の発現系(より好ましくは、クルイベロマイセス・ラクティス系の発現系)を含む。
酵母(yeast)は、単純な培養、効率的なタンパク質フォールディングおよび翻訳後の修飾の利点を有する。酵母の中で、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)とピキア・パストリス(Pichia pastoris)は、複雑な真核タンパク質と膜タンパク質を発現するモデル生物である。酵母はまた、インビトロ翻訳系の調製のための原料として使用される。
クルイベロマイセスは、子嚢胞子形成酵母である。クルイベロマイセスの中で、クルイベロマイセス・マルキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)およびクルイベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)は、産業界で広く使用されている酵母である。クルイベロマイセス・ラクティスは、他の酵母と比較して、超分泌能、より良好な大規模発酵特性、食品安全性レベルに適合すること、タンパク質の翻訳後の修飾能などの多くの利点を有する。
本発明において、真核生物系のインビトロ生合成系は、
(a)真核細胞抽出物と、
(b)ポリエチレングリコールと、
(c)選択可能にある外来性スクロースと、
(d)水または水性溶媒であり、選択可能にある溶媒と、を含む。
特に一つの好ましい実施形態において、本発明によって提供されるインビトロ生合成系は、真核細胞抽出物、4−ヒドロキシエチルピペラジンエタンスルホン酸、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、アデノシン三リン酸(ATP)、グアノシン三リン酸(GTP)、シチジン三リン酸(CTP)、チミジン三リン酸(TTP)、アミノ酸混合物、ホスホクレアチン、ジチオトレイトール(DTT)、クレアチンホスホキナーゼ、RNase阻害剤、ルシフェリン、ルシフェラーゼのDNAおよびRNAポリメラーゼを含む。
本発明において、RNAポリメラーゼは、特に限定されず、1つ以上のRNAポリメラーゼであってもよい。典型的なRNAポリメラーゼは、T7RNAポリメラーゼである。
本発明において、インビトロ生合成系における真核細胞抽出物の割合は、特に限定されない。通常、インビトロ生合成系における真核細胞抽出物は、20〜70%、好ましくは30〜60%、より好ましくは40〜50%である。
本発明において、真核細胞抽出物は、無傷細胞を含まない。典型的な真核細胞抽出物は、RNA合成のための種々のタイプのRNAポリメラーゼと、リボソーム、トランスファーRNA(tRNA)およびアミノアシル−tRNAシンセターゼを含むタンパク質翻訳のための因子と、開始因子、伸長因子および終止放出因子を含むタンパク質合成に必要な因子とを含む。さらに、真核細胞抽出物はまた、真核細胞の細胞質に由来するいくつかの他のタンパク質、特に、可溶性タンパク質を含む。
本発明において、真核細胞抽出物のタンパク質含量は、20〜100mg/mLであり、好ましくは50〜100mg/mLである。タンパク質含量の測定法は、クマシーブリリアントブルーアッセイである。
本発明において、真核細胞抽出物の調製方法は、限定されない。好ましい調製方法は、以下の工程、
(i)真核細胞を提供する工程と、
(ii)洗浄された真核細胞を得るために、真核細胞を洗浄する工程と、
(iii)洗浄された真核細胞を細胞溶解処理で処理し、粗真核細胞抽出物を得る工程と、
(iv)粗真核生物抽出物を固液分離により処理して、液相(すなわち、真核生物細胞抽出物)を得る工程と、を含む。
本発明において、固液分離の方法は、特に限定されない。好ましい方法は、遠心分離である。
好ましい実施形態では、遠心分離は、液体状態で行われる。
本発明において、遠心分離条件は、特に限定されない。好ましい遠心分離条件は、5000g〜100000gの範囲であり、好ましくは8000g〜30000gの範囲である。
本発明において、遠心分離時間は、特に限定されない。好ましい遠心分離時間は、0.5分〜2時間の範囲であり、好ましくは20分〜50分の範囲である。
本発明において、遠心分離の温度は、特に限定されない。好ましくは、遠心分離は、1〜10℃、好ましくは2〜6℃で行われる。
本発明において、洗浄処理方法は、特に限定されない。好ましい洗浄処理方法は、pH7〜8(好ましくはpH 7.4)の洗浄液を用いて処理を行うことである。洗浄液は、特に限定されない。典型的な洗浄液は、4−ヒドロキシエチルピペラジンエタンスルホン酸カリウム、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、およびこれらの組合せからなる群から選択される。
本発明において、細胞溶解処理の方法は、特に限定されない。細胞溶解処理のための好ましい方法は、高圧溶解および凍結融解(例えば、液体窒素低温での処理)溶解を含む。
インビトロ生合成系におけるヌクレオシド三リン酸の混合物は、アデノシン三リン酸、グアノシン三リン酸、シチジン三リン酸およびウリジン三リン酸を含む。本発明において、種々の単一ヌクレオチドの濃度は、特に限定されない。各単一ヌクレオチドの濃度は、通常、0.5〜5mMの範囲であり、好ましくは1.0〜2.0mMの範囲である。
インビトロ生合成系におけるアミノ酸混合物は、天然または非天然アミノ酸を含み、そしてD型またはL型のアミノ酸を含む。代表的なアミノ酸は、特に限定されないが、20種類の天然アミノ酸を含む。例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、プロリン、トリプトファン、セリン、チロシン、システイン、メチオニン、アスパラギン、グルタミン、トレオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、アルギニンおよびヒスチジン等が挙げられる。各タイプのアミノ酸の濃度は、通常、0.01〜0.5mMの範囲であり、好ましくは0.02〜0.2mMの範囲(例えば、0.05mM、0.06mM、0.07mMおよび0.08mM)である。
好ましい実施形態において、インビトロ生合成系は、ポリエチレングリコール(PEG)またはPEGの類似体をさらに含む。PEGまたはPEGの類似体の濃度は、特に限定されない。一般に、生合成系の総重量に基づいて、PEGまたはPEGの類似体の濃度(w/v)は、0.1〜8%の範囲であり、好ましくは0.5〜4%の範囲、より好ましくは1〜2%の範囲である。PEGの代表的な実施形態としては、PEG3000、PEG8000、PEG6000およびPEG3350が挙げられるが、これらに限定されない。本発明のシステムはまた、他の種々の分子量のポリエチレングリコール(例えば、PEG 200、400、1500、2000、4000、6000、8000、10000など)を含むことが理解されるべきである。
好ましい実施形態において、インビトロ生合成系は、スクロースをさらに含む。スクロースの濃度は、特に限定されない。一般に、タンパク質合成系の総重量に基づいて、スクロースの濃度は、0.03〜40重量%の範囲であり、好ましくは0.08〜10重量%の範囲であり、より好ましくは0.1〜5重量%の範囲である。
特に一つの好ましいインビトロ生合成系は、真核細胞抽出物に加えて、以下の成分を含む。例えば、22mMの4−ヒドロキシエチルピペラジンエタンスルホン酸(pH 7.4)、30〜150mMの酢酸カリウム、1.0〜5.0mMの酢酸マグネシウム、1.5〜4mMのヌクレオシド三リン酸混合物、0.08〜0.24mMのアミノ酸混合物、25mMのホスホクレアチン、1.7mMのジチオトレイトール、0.27mg/mLのクレアチンホスホキナーゼ、1%〜4%のPEG、0.5%〜2%のスクロース、8〜20ng/μLのホタルルシフェラーゼのDNAおよび0.027〜0.054mg/mLのT7RNAポリメラーゼなどである。
Ω配列
本明細書中で使用される場合、用語「Ω配列」(すなわち、オメガ配列)は、タバコモザイクウイルスゲノムの5’リーダー配列(5’リーディング配列)をいう。そしてそれは、ウイルスの翻訳エンハンサーである。ΩのDNA配列は、68塩基対を含み、1〜6(好ましくは2〜4、より好ましくは3)の数(quantities)の8塩基対長の直接反復モジュール(ACAATTAC)と、1〜5(好ましくは1〜3、より好ましくは1)の数の(CAA)pモジュールとを含む。ここで、pは、6〜12の範囲であり、好ましくは8〜10の範囲である。これらの2つのモジュールは、Ω配列の翻訳増大機能の鍵である。本発明の酵母系のインビトロタンパク質合成系において、Ω配列は、キャップ非依存的なタンパク質翻訳を開始することができる。これは、翻訳開始因子eIF4Gをリクルートすることによって達成される可能性がある。しかしながら、Ω配列によって開始されるタンパク質翻訳の効率は、比較的低い。Ω配列の構造配列は最適化される必要があり、タンパク質翻訳の効率を高めるために、他のDNAエレメントまたはタンパク質と協働する必要がある。
Kozak配列
既知の真核生物のmRNA分子中の翻訳開始コドン(AUG)の上流および下流の配列を解析することは、“Kozak配列”と呼ばれるコンセンサス配列を見つけるのに役立つ。Kozak配列は、mRNAの翻訳開始効率を高めることが検証されている。異なる生物種に由来するKozak配列は、しばしば異なる。例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisia)のKozak配列および哺乳動物細胞のKozak配列は、有意に異なる。
本発明において使用されるKozak配列は、6〜12(好ましくは8〜10)の数のアデニンデオキシヌクレオシドのオリゴマー鎖、翻訳開始コドン(例えば、ATG、ATA、ATT、GTG、TTGなど、好ましくはATG)およびセリンコドン(例えば、TCT、TCC、TCA、TCG、AGT、AGCなど、好ましくはTCT)を含む。そしてそれは、クルイベロマイセス(好ましくはクルイベロマイセス・ラクティス)に由来する。
外来性コード配列(外来性DNA)
本明細書中で使用される場合、用語「外来性コード配列」および「外来性DNA」は、互換的に使用され、そして両方とも、RNAまたはタンパク質の合成を導くために使用される外来性DNA分子をいう。通常、DNA分子は、線状または環状である。DNA分子は、外来性RNAまたは外来性タンパク質をコードする配列を含む。
本発明において、外来性コード配列の例としては、ゲノム配列およびcDNA配列が挙げられるが、これらに限定されない。外来性タンパク質をコードする配列はまた、プロモーター配列、5’非翻訳配列、および/または3’非翻訳配列を含む。
本発明において、外来性DNAの選択は、特に限定されない。通常、外来性DNAは、小さな非コードRNA(small non-coding RNA, sncRNA)、長い非コードRNA(long non-coding RNA,lncRNA)、転移RNA(transfer RNA,tRNA)、グルコサミン−6−リン酸シンセターゼ(glucosamine-6-phosphate synthase, glmS)などを含むリボザイム、小さな核RNA(small nuclear RNA,snRNA)、RNAとタンパク質の複合体(例えば、スプライソソーム(spliceosome)など)、他の様々な非コードRNA、およびそれらの組合せからなる群から選択される。
外来性DNAはまた、ルシフェリン、またはルシフェラーゼ(例えば、ホタルルシフェラーゼなど)、緑色蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質、アミノアシル−tRNAシンセターゼ、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、カタラーゼ、アクチンおよび抗体の可変領域をコードする外来性DNA、ルシフェラーゼミュータントのDNA、およびそれらの組合せからなる群から選択されることができる。
外来性DNAはまた、α−アミラーゼ、エンテロシンA、C型肝炎ウイルスE2糖タンパク質、インスリン前駆体、インターフェロンA、インターロイキン−1β、リゾチーム、血清アルブミン、抗体の単一鎖可変断片(scFv)、トランスチレチン、チロシナーゼ、およびキシラナーゼをコードする外来性DNA、およびそれらの組み合わせからなる群より選択されることができる。
好ましい実施形態において、外来性DNAは、緑色蛍光タンパク質(enhanced GFP、eGFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、大腸菌β−ガラクトシダーゼ(β-galactosidaseLacZ)、ヒトリジン−tRNAシンセターゼ(lysine-tRNA synthetase)、ヒトロイシン−tRNAシンセターゼ(leucine-tRNA synthetase)、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase)、マウスカタラーゼ(catalase)、およびそれらの組合せからなる群より選択されるタンパク質をコードする。
核酸構築物
本発明は、式Iの核酸配列を含む核酸構築物を提供する。
Z1−Z2−Z3−Z4−Z5 (I)
式中、Z1〜Z5は、それぞれ、構築物の一部としてのエレメントであり、
各「−」は、独立して、結合またはヌクレオチド連結配列であり、
Z1は、エンハンサーエレメントであり、エンハンサーエレメントはIRESエレメントを含み、
Z2は、タバコモザイクウイルスの5’リーダー配列(leading sequence)であり、つまりΩ配列であり、
Z3は、アデニンデオキシヌクレオチドのオリゴマー鎖[oligo(A)]nであり、
Z4は、翻訳開始コドンであり、
Z5は、セリンコドンであり、
Z3、Z4およびZ5は、Kozak配列を構成し、Kozak配列は酵母に由来する。
本発明はまた、5’から3’に式IIの構造を含む核酸構築物を提供する。
Z1−Z2 Z3−Z4−Z5−Z6 (II)
式中、Z1〜Z6は、それぞれ、構築物の一部としてのエレメントであり、
各「−」は、独立して、結合またはヌクレオチド連結配列であり、
Z1は、エンハンサーエレメントであり、エンハンサーエレメントはIRESエレメントを含み、
Z2は、タバコモザイクウイルスの5’リーダー配列(leading sequence)であり、つまりΩ配列であり、
Z3は、アデニンデオキシヌクレオチドのオリゴマー鎖[oligo(A)]nであり、
Z4は、翻訳開始コドンであり、
Z5は、セリンコドンであり、
Z6は、外来性タンパク質のコード配列であり、
Z3、Z4およびZ5は、Kozak配列を構成し、Kozak配列は酵母に由来する。
本発明はまた、5’から3’に式IIIの構造を含む核酸構築物を提供する。
Z0−Z1−Z2 Z3−Z4−Z5−Z6 (III)
式中、Z0〜Z6は、それぞれ、構築物の一部としてのエレメントであり、
各「−」は、独立して、結合またはヌクレオチド連結配列であり、
Z0は、プロモーターエレメントであり、プロモーターエレメントは、T7プロモーター、T3プロモーター、SP6プロモーター、およびこれらの組合せからなる群から選択され、
Z1は、エンハンサーエレメントであり、エンハンサーエレメントはIRESエレメントを含み、
Z2は、タバコモザイクウイルスの5’リーダー配列(leading sequence)であり、つまりΩ配列であり、
Z3は、アデニンデオキシヌクレオチドのオリゴマー鎖[oligo(A)]nであり、
Z4は、翻訳開始コドンであり、
Z5は、セリンコドンであり、
Z6は、外来性タンパク質のコード配列であり、
Z3、Z4およびZ5は、Kozak配列を構成し、Kozak配列は酵母に由来する。
本発明はまた、5’から3’に式IVの構造を含む核酸構築物を提供する。
Z0’−Z1−Z2 Z3−Z4−Z5−Z6(IV)
式中、Z0’〜Z6は、それぞれ、構築物の一部としてのエレメントであり、
各「−」は、独立して、結合またはヌクレオチド連結配列であり、
Z0’はGAAであり、
Z1は、エンハンサーエレメントであり、エンハンサーエレメントはIRESエレメントを含み、
Z2は、タバコモザイクウイルスの5’リーダー配列(leading sequence)であり、つまりΩ配列であり、
Z3は、アデニンデオキシヌクレオチドのオリゴマー鎖[oligo(A)]nであり、
Z4は、翻訳開始コドンであり、
Z5は、セリンコドンであり、
Z6は、外来性タンパク質のコード配列であり、
Z3、Z4およびZ5は、Kozak配列を構成し、Kozak配列は酵母に由来する。
本発明において、外来性タンパク質のコード配列の選択は、特に限定されない。通常、外来性タンパク質のコード配列は、ルシフェリン、またはルシフェラーゼ(例えば、ホタルルシフェラーゼ)、緑色蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質、アミノアシル−tRNAシンセターゼ、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、カタラーゼ、アクチンおよび抗体の可変領域をコードする外来性DNA、ルシフェラーゼ変異体のDNA、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。
外来性タンパク質のコード配列はまた、α−アミラーゼ、エンテロシンA、C型肝炎ウイルスE2糖タンパク質、インスリン前駆体、インターフェロンαA、インターロイキン−1β、リゾチーム、血清アルブミン、抗体の単一鎖可変断片(scFv)、トランスチレチン、チロシナーゼ、キシラナーゼ、およびそれらの組み合わせからなる群より選択されるタンパク質をコードすることができる。
さらに、本発明の核酸構築物は、線状または環状であってもよい。本発明の核酸構築物は、一本鎖または二本鎖であってもよい。本発明の核酸構築物は、DNA、RNA、またはDNA/RNAハイブリッドであってもよい。
好ましい実施形態において、本発明の核酸構築物の配列は、配列番号2〜17のいずれか1つである。
好ましい実施形態において、核酸構築物の配列は、配列番号2〜9のいずれか1つである。
好ましい実施形態において、核酸構築物の配列は、配列番号3、4または6である。
好ましい実施形態において、本発明の核酸構築物の配列は、配列番号85〜87のいずれか1つである。
別の好ましい実施形態において、構築物は、プロモーター、ターミネーター、poly(A)エレメント、輸送エレメント、遺伝子標的化エレメント、選択マーカー遺伝子、エンハンサー、耐性遺伝子、およびトランスポザーゼをコードする遺伝子からなる群より選択されるエレメントまたは組み合わせをさらに含む。
種々の選択マーカー遺伝子は、本発明において使用されることができる。これは、特に限定されないが、栄養要求性マーカー、耐性マーカー、およびレポーター遺伝子マーカーを含む。選択マーカーの適用は、組換え細胞(レコン)のスクリーニング(篩い分け)において役割を果たす。そこでは、レセプター細胞は、非形質転換細胞と有意に識別することができる。栄養要求性マーカーは、伝達されたマーカー遺伝子の助けを借りて、レセプター細胞の変異遺伝子に相補的である。その結果、レセプター細胞は、野生型増殖を示す。耐性マーカーは、耐性遺伝子がレセプター細胞に移入されることを指す。そして、移入された遺伝子により、レセプター細胞は一定の薬物濃度で薬物耐性を示すことができる。本発明の好ましい様式として、耐性マーカーは、組換え細胞の簡便なスクリーニングを達成するために使用される。
本発明において、本発明の核酸構築物を本発明の酵母系のインビトロ生合成系(例えば、酵母系のタンパク質生合成系等)に適用することにより、外来性タンパク質翻訳の効率を著しく向上させることができる。具体的には、本発明の核酸構築物を用いて合成されたルシフェラーゼの活性を示す相対発光量値は非常に高い。本発明の核酸構築物(例えば、KlNCE102−Ω−10A)を用いた場合の相対発光量値は、Ω−10A配列を用いた場合のそれの1.65倍であった。
ベクター、遺伝子組み換え細胞
本発明はまた、本発明の核酸構築物を含むベクターまたはベクターの組合せを提供する。好ましくは、ベクターは、細菌プラスミド、ファージ(すなわち、バクテリオファージ)、酵母プラスミド、動物細胞ベクター、およびシャトルベクターからなる群より選択される。ベクターは、トランスポゾンベクターである。組換えベクターを調製するための方法は、当業者に周知である。宿主中で複製され、安定である限り、任意のプラスミドまたはベクターを使用することができる。
当業者は、周知の方法を使用して、本発明のプロモーターおよび/または目的遺伝子配列を含む発現ベクターを構築する。これらの方法には、インビトロ組換えDNA技術、DNA合成技術、インビボ組換え技術などが含まれる。
本発明はまた、遺伝子組み換え細胞を提供する。遺伝子組み換え細胞は、構築物、ベクターまたはベクターの組合せを含む。または、遺伝子組み換え細胞の染色体は、構築物またはベクターに一体化される。別の好ましい実施形態において、遺伝子組み換え細胞は、トランスポザーゼをコードする遺伝子を含むベクターをさらに含む。または、遺伝子組み換え細胞の染色体は、トランスポザーゼ遺伝子と一体化される。
好ましくは、遺伝子組み換え細胞は、真核細胞である。
別の好ましい実施形態において、真核細胞は、ヒト細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞、昆虫細胞、コムギ胚芽細胞、ウサギ網状赤血球および他の高等真核細胞を含むが、これらに限定されない。
別の好ましい実施形態において、真核細胞は、酵母細胞(好ましくはクルイベロマイセス細胞、より好ましくはクルイベロマイセス・ラクティス細胞)を含むが、これらに限定されない。
本発明の構築物またはベクターは、適切な遺伝子組み換え細胞を形質転換するために使用される。遺伝子組み換え細胞は、原核細胞(例えば、大腸菌(E.coli)、ストレプトミセス、アグロバクテリウムなど)、下等真核細胞(例えば、酵母細胞)、または高等動物細胞(例えば、昆虫細胞など)であってもよい。当業者は、適切なベクターおよび遺伝子組み換え細胞を選択する方法を知っている。遺伝子組み換え細胞の組換えDNAによる形質転換は、当業者に周知の従来の技術を用いて実施されることができる。宿主が原核生物(例えば、大腸菌など)である場合、CaCl2法またはエレクトロポレーション法を用いて処理することができる。宿主が真核生物である場合、DNAトランスフェクション法、リン酸カルシウム共沈法および従来の機械的方法(例えば、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、リポソームパッケージングなど)を選択的に用いることができる。植物細胞の形質転換は、アグロバクテリウム媒介形質転換または遺伝子銃形質転換などの方法、例えば、リーフディスク法、未成熟胚形質転換法、花芽浸漬法などを用いることによって実行されることができる。
インビトロハイスループットタンパク質合成方法
本発明は、インビトロハイスループットタンパク質合成方法を提供する。この方法は、以下の工程:
(i)真核生物系のインビトロ生合成系の存在下で、本発明の第1〜第4の態様から選択される核酸構築物を提供する工程と、
(ii)適切な条件下で、工程(i)の真核生物系のインビトロ生合成系をT1の期間インキュベートして、外来性タンパク質を合成する工程と、を含む。
別の好ましい実施形態において、この方法は、(iii)真核生物系のインビトロ生合成系から外来性タンパク質を任意選択で単離または検出する工程をさらに含む。
本発明の主な利点は、次の(1)〜(7)を含む。
(1)初めて、本発明は、プロモーター、酵母由来IRES、Ω配列、Kozak配列および外来性タンパク質のコード配列を含む核酸構築物が本発明の真核生物系のインビトロ生合成系(例えば、酵母系のインビトロタンパク質合成系)に使用される場合、外来性タンパク質翻訳の効率を有意に向上させることができることを見出した。
(2)Ω配列およびKozak配列とタンデムに連結された本発明の真核細胞の内因性IRESは、真核生物系のインビトロ生合成系(eukaryote-based in vitro biosynthesis system)におけるタンパク質翻訳開始の効率を高めることができる。翻訳開始の効率を高めることに関して、タンデムDNAエレメントは、後者の2つのみを連結するタンデム配列(Ω−10A)よりも有利である。クルイベロマイセス・ラクティス系のインビトロ生合成系において、合成を開始するためにKlNCE102−Ω−10Aを使用した場合のホタルルシフェラーゼ(Fluc)の相対発光量(RLU)値は1.67×109に達した。これは、Ω−10A配列を使用した場合のそれの1.65倍であった。
(3)サッカロマイセス・セレビシエと比較して、クルイベロマイセス・ラクティスは、その安全性と高効率性のため、食品分野および医薬品分野において、タンパク質合成に使用されることができる。その安全性と高効率性、ならびにインビトロ生合成系(in vitro biosynthesis)の利点(例えば、ハイスループットタンパク質合成とスクリーニングに最適、毒性タンパク質を合成する能力、短時間、低コストなど)のため、その結果、クルイリベロマイセス・ラクティス細胞由来のインビトロ生合成系は、タンパク質合成の関連分野で広く利用されることができる。
(4)本発明によって提供される核酸構築物は、真核生物系のインビトロ生合成系のタンパク質翻訳を開始する効率を高めるだけでなく、より重要なことには、異なるタンパク質の合成のためのクルイベロマイセス・ラクティス系のインビトロ生合成系の可能性を増大させる。
(5)本発明の核酸構築物は、タンパク質翻訳開始の効率を高めるだけでなく、真核生物系の細胞インビトロ生合成系に使用されるDNAエレメントを設計するための新規なコンセプトおよび新しい方法を提供する。これは、科学的研究および工業生産の分野において、関連システムの適用を大いに高めることができる。
(6)本発明は、本発明の核酸構築物と強力なプロモーター(例えば、T7プロモーター、T3プロモーター、SP6プロモーター)を組み合わせることによっても、非常に高いタンパク質合成効率を達成することができることを初めて見出した。
(7)本発明は、本発明の核酸構築物の上流にGAAの3つの残基を配置することによって、非常に高いタンパク質合成効率も達成することができることを初めて見出した。
本発明を、具体的な実施例に関連して以下にさらに記載する。これらの実施例は、本発明を例示するためにのみ使用され、本発明の範囲を限定するためには使用されないことが理解されるべきである。以下の実施例において、特に記載された条件を伴わない実験方法に関して、当業者は、一般に、従来の条件(例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989)に記載された条件など)に従うか、または、製造業者によって推奨される条件に従う。特に断らない限り、パーセンテージおよび部分は、重量によるパーセンテージおよび部分を指す。
特に明記しない限り、本発明の実施例で使用される材料および試薬は、すべて市販の製品である。
実施例1:真核細胞の内因性IRES、Ω配列およびクルイベロマイセス・ラクティス特異的Kozak配列をタンデムに連結するDNAエレメントのデザイン
1.1 クルイベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)およびサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)における内因性IRESの測定:
クルイベロマイセス・ラクティスの4つ内因性IRESおよびサッカロマイセス・セレビシエにおけるそれらと相同性を持つタンパク質に対応するIRES(表1に示す)は、インビトロタンパク質合成を開始することができる。Flucの合成を開始するIRESの中で、6つのIRES(KlFLO8、KlMSN1、KlNCE102、ScFLO8、ScMSN1およびScNCE102)は、従来のΩ配列よりも高い相対発光量(RLU)値を示した。他の2つIRES(KlBOI1およびScBOI1)は、Ω配列よりも低いRLU値を示した(図2に示す)。これらの8つのIRESは、Ω配列およびKozak配列とタンデムに連結されることが決定された。
1.2 16のタンデムエレメントの決定:
8つの内因性IRESをΩ配列およびクルイベロマイセス・ラクティスに特異的Kozak配列とタンデムに連結し、Ω配列に対してIRESの上流または下流の位置を変化させる。その結果、合計16のタンデムDNAエレメントを設計した(KlFLO8、KlMSN1、KlNCE102、KlBOI1、ScFLO8、ScMSN1、ScMSN1、ScNCE102およびScBOI1−Ω−10A、ならびに、Ω−KlFLO8、KlMSN1、KlNCE102、KlBOI1、ScFLO8、ScMSN1、ScNCE102およびScBOI1−10A)。配列番号2〜17に示されるタンデムエレメントの配列は、上記のタンデムDNAエレメント(KlFLO8、KlMSN1、KlNCE102、KlBOI1、ScFLO8、ScMSN1、ScNCE102およびScBOI1−Ω−10A、ならびに、Ω−KlFLO8、KlMSN1、KlNCE102、KlBOI1、ScFLO8、ScMSN1、ScNCE102およびScBOI1−10A)の配列にそれぞれ対応する。
1.3 タンデムエレメントおよびレポータータンパク質遺伝子(Fluc)の設計:
上記に設計されたような16のタンデムエレメントは、Ω−10Aに置換するために、既存のΩ−10A−Flucプラスミド(カンマ−ヘルスケアコード(シャンハイ)バイオテックカンパニーリミテッドから入手、Ω−10A配列は配列番号1に示される)に挿入された。そして、16の新しいプラスミドは、形成された。得られた16の新しいプラスミドは、それぞれ、KlFLO8−Ω−10A−Fluc、KlMSN1−Ω−10A−Fluc、KlNCE102−Ω−10A−Fluc、KlBOI1−Ω−10A−Fluc、ScFLO8−Ω−10A−Fluc、ScMSN1−Ω−10A−Fluc、ScNCE102−Ω−10A−Fluc、ScBOI1−Ω−10A−Fluc、Ω−KlFLO8−10A−Fluc、Ω−KlMSN1−10A−Fluc、Ω−KlNCE102−10A−Fluc、Ω−KlBOI1−10A−Fluc、Ω−ScFLO8−10A−Fluc、Ω−ScMSN1−10A−Fluc、Ω−ScNCE102−10A−FlucおよびΩ−ScBOI1−10A−Flucだった。その中で、KlNCE102−Ω−10A−Fluc、ScFLO8−Ω−10A−Fluc、KlMSN1−Ω−10A−Fluc配列をそれぞれ配列番号85〜87に示した。
表1 サッカロマイセス・セレビシエおよびクルイベロマイセス・ラクティスにおける関連遺伝子
実施例2:インビトロタンパク質合成系のためのタンデムDNAエレメントを含むプラスミドの構築
2.1 プラスミドの構築:
Ω配列の上流または下流にそれぞれ位置することによって、Ω−10A−Flucプラスミドに、それぞれ8個の内因性IRESを挿入する。具体的に使用したプライマーを表2に示す。
1つのプラスミドの具体的な構築プロセスは、以下の通りである。
挿入するIRES断片と、Ω−10A−Flucベクタープラスミドをそれぞれ2対のプライマーを用いてPCR増幅した。各PCR増幅産物の10μLを採取し、混合した。次いで、増幅産物の20μL混合物に1μLのDpnIを添加し、続いて、37℃で6時間インキュベートした。その後、4μLのDpnI処理物を50μLのDH5αコンピテント細胞に添加した。混合物を氷上に30分間置き、42℃で45秒間熱ショックした。その後、氷上に3分間置き、LB液体培地200μLを加え、37℃で4時間振盪培養した。その後、混合物をAmp抗生物質を含有するLB固体培地上にコーティングし、一晩培養した。増殖培養を実施するために、6つのモノクローナルコロニーを採取した。配列決定により正しいことを確認した後、プラスミドを抽出し、保存した。
表2 PCR増幅用のプライマー
実施例3:酵母系のインビトロタンパク質合成システムにおけるタンデムDNAエレメントの適用
3.1 T7転写開始配列と終止配列との間にある全てのプラスミド中のタンデムDNAエレメントおよびFlucを含むフラグメント(断片)は、プライマーとするT7_pET21a_F:CGCGAAATTAATACGACTCACTATAGG(配列番号82)およびT7ter_pET21a_R:TCCGGATATAGTTCCTCCTTTCAG(配列番号83)を使用しながら、PCR法によって増幅された。
増幅したDNA断片をエタノール沈殿法を用いて精製し、濃縮した。1/10容量の3M酢酸ナトリウム(pH 5.2)をPCR産物に添加し、次いで、2.5〜3倍容量の95%エタノールを添加した(酢酸ナトリウムの添加後の容量に対して)。続いて、氷上で15分間インキュベートした。その後、混合物は、室温で14000gより高速で30分間遠心分離された。そして、上清を除去した。沈殿物を70%エタノールで洗浄し、次いで15分間遠心分離した。続いて、上清を除去した。この沈殿物を超純水に溶解し、DNA濃度を測定した。
3.2 使用説明書に従って、精製されたDNA断片を、自己作製されたクルイベロマイセス・ラクティス系のインビトロタンパク質合成系に添加した。上記反応系を25〜30℃の環境に置き、約2〜6時間混合物をインキュベートした。完了後、同じ容量のFlucの基質とするルシフェリン(luciferin)を、96ウェルまたは384ウェルホワイトプレートの上記反応用ウェルに添加した。これを直ちにEnvision 2120多機能マイクロプレートリーダー(Perkin Elmer)に置いた。吸光度を読み取って、Flucの活性を検出した。ここで、活性の単位は、図2に示すように、相対発光量(Relative Light Unit,RLU)値である。
3.3 真核細胞の内因性IRES配列を持たないDNA断片(Ω−10A−Fluc)群を対照として使用した。DNA鋳型を添加しない反応群を陰性対照(NC)として使用した。3つの独立したサンプリングを、各群について使用した。
実験結果
1.真核細胞の内因性IRESと、Ω配列と、クルイベロマイセス・ラクティスに特異的なKozak配列とを連結するDNAエレメントの設計
合計16個のタンデムDNAエレメントを設計した。Ω−10A配列を置換するために、16個のエレメントのすべてをΩ−10A−Flucプラスミドにそれぞれ挿入した。インビトロタンパク質合成に使用するための16個のプラスミドを形成した。
2.インビトロタンパク質合成系のためのタンデムDNAエレメントを含むプラスミドの構築
多くの試みの後、インビトロタンパク質合成系のための合計16個のプラスミドが首尾よく構築された。
3.酵母系のインビトロタンパク質合成系におけるタンデムDNAエレメントの応用
図3に示すように、選ばれた3つのタンデムDNAエレメントのうち、酵母系のインビトロタンパク質合成系におけるホタルルシフェラーゼ(firely luciferase, Fluc)の相対発光量(RLU)値に関して、KlNCE102−Ω−10AによるRLU値のみがΩ−10A配列によるRLU値を超えた。KlNCE102−Ω−10Aによる相対発光量値は、Ω−10A配列によるそれに対して1.65倍である1.67×109に達した(Ω−10A配列による相対発光量値は1.01×109であった)。さらに、ScFLO8−Ω−10AとKlMSN1−Ω−10Aによる相対発光量値は、Ω−10A配列による値に近く、それぞれ、Ω−10A配列によるRLU値の81.68%および85.35%に達した。
検出器による相対発光量(RLU)値と、タンパク質濃度との間の線形関係の範囲内で、最も高い活性を示したKlNCE102−Ω−10Aによる相対発光量値は、Ω−10A配列によるものの1.65倍であったので、タンデムDNAエレメントは、タンパク質合成を約1.65倍に増強することができることを示している。
本発明の結果は、真核細胞の内因性IRESと、Ω配列と、クルイベロマイセス・ラクティスに特異的なKozak配列をタンデムに連結することは、タンパク質合成の効率を高めることができることを示す。その2つは、互いに相互作用することができる翻訳開始因子Pab1およびeIF4Gをリクルートして、タンパク質合成効率を促進する相乗効果を達成することができる(図4に示す)。そして、酵母系のインビトロタンパク質合成系に適用することができる。それにおいて、タンパク質合成を開始する効率は、Ω配列およびKozak配列を含む一般に使用されるタンデムエレメントΩ−10Aのそれを超えることができる、合成がKlNCE102−Ω−10Aにより開始される合成するタンパク質の量は、Ω−10A配列によるそれの1.65倍であった。KlNCE102−Ω−10Aは、酵母系のインビトロタンパク質合成系のタンパク質翻訳効率を上昇させ、タンパク質合成を開始するためのクルイベロマイセス・ラクティス系のインビトロ合成系用の翻訳エレメントの選択性を増加させ、クルイベロマイセス・ラクティス系のインビトロタンパク質合成系の有用性を大幅に増大した。
さらに、研究結果によれば、本発明はまた、GAAの3つの残基をタンデムDNAエレメントの上流に配置すること(転写されたmRNAの5’末端はGAAである)により、タンパク質合成効率を増大することができることを見出した。インビトロ合成を媒介するために本発明の核酸構築物およびGAAのタンデムを使用した場合のルシフェラーゼの相対発光量値は、本発明の核酸構築物を単独で使用した場合のRLU値の1.28倍であった(図5に示す)。
さらに、研究結果によれば、本発明は、本発明の核酸構築物(例えば、KlNCE102−Ω−10A)による相対発光量値は、KlNCE102による相対発光量値の1.23倍である(図5に示す)ことも見出した。
本発明において言及される全ての文献は、各文献が参照により個々に組み込まれるのと同様に、参照により本出願に組み込まれる。また、当業者であれば、本発明の上記内容を読めば、本発明に様々な変更や修正を加えることができ、これらの均等な形成も本発明の特許請求の範囲に含まれることを理解されたい。
本発明は、バイオテクノロジーの分野に関し、より詳細には、タンパク質合成効率を高めることができるタンデムDNAエレメントに関する。
タンパク質は、細胞における重要な分子であり、細胞のほとんど全ての機能に関与する。タンパク質の配列および構造は、その機能を決定する。細胞において、タンパク質は、酵素類として種々の生化学反応を触媒することができ、シグナル分子として生物体の種々の活動を協調することができ、生物形態をサポートし、エネルギーを蓄積し、分子を輸送し、生物体を動かせることができる。生体医学の分野において、標的薬としての抗体(タンパク質の一種)は、がんや他の病気を治療するための重要な手段である。
細胞では、栄養欠乏などの外界圧力に応答するだけでなく、細胞の発生や分化など様々なプロセスにおいて、タンパク質翻訳の調節が重要な役割を果たしている。タンパク質翻訳の4つのプロセスには、翻訳開始、翻訳伸長、翻訳終結およびリボソームのリサイクリングがある。その中でも、翻訳開始が最も調節されるプロセスである。真核細胞における翻訳開始には2つの方法がある。すなわち、伝統的なキャップ依存的方法およびキャップ非依存的方法(図1に示す)である。
「キャップ構造」依存的な翻訳開始は、いくつかの種類の翻訳開始因子と、リボソームの40S小サブユニットとが関与する非常に複雑なプロセスである。「キャップ構造」非依存的な翻訳開始は、主に、mRNAの5’非翻訳領域に位置する内部リボソームエントリーサイト(IRES)によって媒介される。IRESは、1980年代にウイルス性mRNAで初めて発見された。そして、細胞内の内因性IRESも、後に広く報告された。ウイルス性IRESは、通常、複雑な二次および三次構造を有する。宿主細胞内で、ウイルス性IRESは、宿主細胞の翻訳開始因子に依存して、または宿主細胞の翻訳開始因子とは無関係に、タンパク質翻訳を開始するために宿主細胞のリボソームをリクルート(recruit)する。ウイルス性IRESと比較して、細胞内の内因性IRESは、通常、タンパク質翻訳を開始する効率が低いであり、且つまた、共通性を持たない様々な複雑な機構によって調節される。細胞内の異なる内因性IRESは、配列や構造に共通性を有さない。これは、予測が困難である。
細胞内タンパク質合成の上記の理解に加えて、タンパク質合成はまた、細胞外で行われる。インビトロタンパク質合成系は一般に、細菌、真菌、植物細胞または動物細胞に基づく溶解システムを指す。これは、外来性タンパク質の迅速かつ効率的な翻訳を完了するために、mRNAまたはDNA鋳型、RNAポリメラーゼ、アミノ酸およびATPなどの成分を添加する。現在、頻繁に使用される市販のインビトロタンパク質発現系には、大腸菌抽出物(Escherichia coli extract,ECE)系、ウサギ網状赤血球溶解物(rabbit reticulocyte lysate,RRL)系、コムギ胚芽抽出物(wheat germ extract,WGE)系、昆虫細胞抽出物(insect cell extract,ICE)系およびヒト供給源系が含まれる。
インビトロで合成されたmRNAは通常、“キャップ構造”を有さない。“キャップ構造”によるmRNAの修正は、時間がかかり、高価である。結果として、インビトロタンパク質合成系は一般に、キャップ非依存的な翻訳開始方法を使用して、タンパク質合成が行われる。しかし、IRESまたはオメガ(Ω)配列のみを使用する翻訳開始の効率はかなり低く、インビトロでの迅速、効率的およびハイスループットなタンパク質合成の目的は達成されない。現在のところ、これら2つのタイプの翻訳開始エレメントをタンデムに連結することに関する研究はない。
したがって、IRES配列とΩ配列とをタンデムに連結し、タンパク質合成効率を高めることができる新規な核酸構築物を開発することが、当技術分野において緊急に必要とされている。
本発明の1つの目的は、IRES配列とオメガ(Ω)配列とをタンデムに連結し、タンパク質翻訳の効率を高めることができる新規な核酸構築物を提供することである。
第1の態様によれば、本発明は、式Iの核酸配列を含む核酸構築物を提供する。
Z1−Z2−Z3−Z4−Z5(I)
式中、Z1〜Z5は、それぞれ、構築物の一部としてのエレメントであり、
各「−」は、独立して、結合またはヌクレオチド連結配列であり、
Z1は、エンハンサーエレメントであり、エンハンサーエレメントは、IRESエレメントを含み、
Z2は、タバコモザイクウイルスの5’リーダー配列(leading sequence)であり、つまりΩ配列であり、
Z3は、アデニンデオキシヌクレオチドのオリゴマー鎖であり、[オリゴ(A)]nで表され、
Z4は、翻訳開始コドンであり、
Z5は、セリンコドンであり、
Z3、Z4およびZ5は、Kozak配列を構成し、Kozak配列は、酵母に由来する。
別の好ましい実施形態では、Z1は、酵母に由来する。
別の好ましい実施形態において、IRESエレメントの供給源は、原核細胞および真核細胞からなる群より選択される1つ以上のタイプの細胞である。
別の好ましい実施形態において、真核細胞は、高等真核細胞を含む。
別の好ましい実施形態において、IRESエレメントは、内因性IRESエレメントおよび外因性IRESエレメントを含む。
別の好ましい実施形態において、IRESエレメントの供給源は、ヒト(human)細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞(Chinese hamster overy cell)、昆虫細胞、コムギ胚芽細胞(Wheat germ cell)およびウサギ網状赤血球(Rabbit reticulocyte)からなる群より選択される1つ以上のタイプの細胞である。
別の好ましい実施形態において、IRESエレメントは、ScBOI1、ScFLO8、ScNCE102、ScMSN1、KlFLO8、KlNCE102、KlMSN1、KlBOI1、およびそれらの組合せからなる群より選択される。
別の好ましい実施形態において、酵母は、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、クルイベロマイセス(Kluyveromyces)およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。
別の好ましい実施形態において、クルイベロマイセスは、クルイベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)、クルイベロマイセス・マルキシアナス(Kluyveromycesmarxianus)、クルイベロマイセス・ドブズハンスキ(Kluyveromycesdobzhanskii)、およびそれらの組合せからなる群より選択される。
別の好ましい実施形態において、翻訳開始コドンは、ATG、ATA、ATT、GTG、TTGおよびそれらの組合せからなる群より選択される。
別の好ましい実施形態では、翻訳開始コドンは、ATGである。
別の好ましい実施形態において、セリンコドンは、TCT、TCC、TCA、TCG、AGT、AGCおよびそれらの組合せからなる群より選択される。
別の好ましい実施形態では、セリンコドンは、TCTである。
別の好ましい実施形態において、nは、6〜12の範囲であり、好ましくは8〜10の範囲である。
別の好ましい実施形態では、Ω配列は、直接反復モジュール(ACAATTAC)mと、(CAA)pとを含む。
別の好ましい実施形態では、mは、1〜6の範囲であり、好ましくは2〜4の範囲である。
別の好ましい実施形態において、pは、6〜12の範囲であり、好ましくは8〜10の範囲である。
別の好ましい実施形態では、(CAA)pモジュールの数は、1〜5の範囲であり、好ましくは1〜3の範囲である。
別の好ましい実施形態では、(CAA)pモジュールは、改善された(CAA)pモジュールをさらに含む。
別の好ましい実施形態において、Kozak配列は、配列番号84に示される。
別の好ましい実施形態では、核酸構築物の配列は、配列番号2〜17のいずれか1つである。
別の好ましい実施形態では、核酸構築物の配列は、配列番号2〜9のいずれか1つである。
別の好ましい実施形態において、核酸構築物の配列は、配列番号3、4または6である。
第2の態様によれば、本発明は、5’から3’に式IIの構造を含む核酸構築物を提供する。
Z1−Z2−Z3−Z4−Z5−Z6(II)
式中、Z1〜Z6は、それぞれ核酸構築物の一部としてのエレメントであり、
各「−」は、独立して、結合またはヌクレオチド連結配列であり、
Z1はエンハンサーエレメントであり、エンハンサーエレメントはIRESエレメントを含み、
Z2は、タバコモザイクウイルスの5’リーダー配列(leading sequence)であり、つまりΩ配列であり、
Z3は、アデニンデオキシヌクレオチドのオリゴマー鎖であり、[オリゴ(A)]nで表され、
Z4は、翻訳開始コドンであり、
Z5は、セリンコドンであり、
Z6は、外来性タンパク質のコード配列であり、
Z3、Z4およびZ5は、Kozak配列を構成し、Kozak配列は、酵母に由来する。
別の好ましい実施形態において、外来性タンパク質のコード配列は、原核生物または真核生物に由来する。
別の好ましい実施形態において、外来性タンパク質のコード配列は、動物、植物または病原体に由来する。
別の好ましい実施形態において、外来性タンパク質のコード配列は、哺乳動物に由来し、好ましくは、霊長類またはげっ歯類に由来する(ヒト、マウスおよびラットを含む)。
別の好ましい実施形態では、外来性タンパク質のコード配列は、ルシフェリン、ルシフェラーゼ(例えば、ホタルルシフェラーゼなど)、緑色蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質、アミノアシル−tRNAシンセターゼ、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、カタラーゼ、アクチン、抗体の可変領域、ルシフェラーゼ変異体、α−アミラーゼ、エンテロシンA、C型肝炎ウイルス(HCV)E2糖タンパク質、インスリン前駆体、インターフェロンαA、インターロイキン−1β、リゾチーム、血清アルブミン、抗体の単一鎖可変断片(scFv)、トランスチレチン、チロシナーゼ、キシラナーゼおよびこれらの組合せからなる群から選択される外来性タンパク質をコードする。
別の好ましい実施形態では、外来性タンパク質は、ルシフェリン、ルシフェラーゼ(例えば、ホタルルシフェラーゼなど)、緑色蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質、アミノアシル−tRNAシンセターゼ、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、カタラーゼ、アクチン、抗体の可変領域、ルシフェラーゼ変異体、α−アミラーゼ、エンテロシンA、C型肝炎ウイルス(HCV)E2糖タンパク質、インスリン前駆体、インターフェロンαA、インターロイキン−1β、リゾチーム、血清アルブミン、抗体の単一鎖可変断片(scFv)、トランスチレチン、チロシナーゼ、キシラナーゼおよびこれらの組合せからなる群から選択される。
別の好ましい実施形態では、核酸構築物の配列は、配列番号85〜87のいずれか1つである。
第3の態様によれば、本発明は、5’から3’に式IIIの構造を含む核酸構築物を提供する。
Z0−Z1−Z2−Z3−Z4−Z5−Z6(III)
式中、Z0〜Z6は、それぞれ、核酸構築物の一部としてのエレメントであり、
各「−」は、独立して、結合またはヌクレオチド連結配列であり、
Z0は、プロモーターエレメントであり、プロモーターエレメントは、T7プロモーター、T3プロモーター、SP6プロモーターおよびこれらの組合せからなる群から選択され、
Z1は、エンハンサーエレメントであり、エンハンサーエレメントはIRESエレメントを含み、
Z2は、タバコモザイクウイルスの5’リーダー配列(leading sequence)であり、つまりΩ配列であり、
Z3は、アデニンデオキシヌクレオチドのオリゴマー鎖であり、[オリゴ(A)]nで表され、
Z4は、翻訳開始コドンであり、
Z5は、セリンコドンであり、
Z6は、外来性タンパク質のコード配列であり、
Z3、Z4およびZ5は、Kozak配列を構成し、Kozak配列は、酵母に由来する。
第4の態様によれば、本発明は、5’から3’に式IVの構造を含む核酸構築物を提供する。
Z0’−Z1−Z2−Z3−Z4−Z5−Z6(IV)
式中、Z0’〜Z6は、それぞれ、構築物の一部としてのエレメントであり、
各「−」は、独立して、結合またはヌクレオチド連結配列であり、
Z0’は、GAAであり、
Z1は、エンハンサーエレメントであり、エンハンサーエレメントは、IRESエレメントを含み、
Z2は、タバコモザイクウイルスの5’リーダー配列(leading sequence)であり、つまりΩ配列であり、
Z3は、アデニンデオキシヌクレオチドのオリゴマー鎖であり、[オリゴ(A)]nで表され、
Z4は、翻訳開始コドンであり、
Z5は、セリンコドンであり、
Z6は、外来性タンパク質のコード配列であり、
Z3、Z4およびZ5は、Kozak配列を構成し、Kozak配列は、酵母に由来する。
第5の態様によれば、本発明は、ベクターまたはベクターの組合せを提供する。ベクターまたはベクターの組合せは、本発明の第1の態様〜第4の態様に記載の核酸構築物を含有する。
第6の態様によれば、本発明は、遺伝子組み換えされた細胞を提供する。遺伝子組み換えされた細胞のゲノムは、1つ以上の部位で、本発明の第1の態様から第4の態様による核酸構築物と一体化される。または、遺伝子組み換えされた細胞は、本発明の第5の態様によるベクターまたはベクターの組み合わせを含む。
別の好ましい実施形態において、遺伝子組み換えされた細胞は、原核細胞および真核細胞を含む。
別の好ましい実施形態において、真核細胞は、高等真核細胞を含む。
別の好ましい実施形態において、遺伝子組み換えされた細胞は、ヒト細胞(例えば、Hela細胞)、チャイニーズハムスター卵巣細胞、昆虫細胞、コムギ胚芽細胞、ウサギ網状赤血球、酵母細胞およびそれらの組合せからなる群より選択される。
別の好ましい実施形態では、遺伝子組み換えされた細胞は、酵母細胞である。
別の好ましい実施形態では、酵母細胞は、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、クルイベロマイセス(Kluyveromyces)、およびそれらの組合せからなる群より選択される。
別の好ましい実施形態において、クルイベロマイセスは、クルイベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)、クルイベロマイセス・マルキシアヌス(Kluyveromycesmarxianus)、クルイベロマイセス・ドブズハンスキ(Kluyveromycesdobzhanskii)、およびそれらの組合せからなる群より選択される。
第7の態様によれば、本発明は、キットを提供する。キットに含まれる試薬は、以下の群のうちの1つ以上から選択される。
(a)本発明の第1の態様から第4の態様に記載の核酸構築物、
(b)本発明の第5の態様に記載のベクター又はベクターの組合せ、および
(c)本発明の第6の態様による遺伝子組み換え細胞。
別の好ましい実施形態では、キットは、(d)真核生物系のインビトロ生合成系(例えば、真核生物系のインビトロタンパク質合成系など)をさらに含む。
別の好ましい実施形態において、真核生物系のインビトロ生合成系は、酵母系のインビトロ生合成系、チャイニーズハムスター卵巣細胞系のインビトロ生合成系、昆虫細胞系のインビトロ生合成系、Hela細胞系のインビトロ生合成系、およびそれらの組合せからなる群より選択される。
別の好ましい実施形態において、真核生物系のインビトロ生合成系は、真核生物系のインビトロタンパク質合成系を含む。
別の好ましい実施形態において、真核生物系のインビトロタンパク質合成系は、酵母系のインビトロタンパク質合成系、チャイニーズハムスター卵巣細胞系のインビトロタンパク質合成系、昆虫細胞系のインビトロタンパク質合成系、Hela細胞系のインビトロタンパク質合成系、およびそれらの組合せからなる群より選択される。
別の好ましい実施形態では、キットは、(e)酵母系のインビトロ生合成系(例えば、酵母系のインビトロタンパク質合成系など)をさらに含む。
別の好ましい実施形態では、酵母系のインビトロ生合成系(例えば、酵母系のインビトロタンパク質合成系など)は、クルイベロマイセス系のインビトロ生合成系(例えば、クルイベロマイセス系のインビトロタンパク質合成系など)であり、好ましくは、クルイベロマイセス・ラクティス系のインビトロ生合成系(例えば、クルイベロマイセス・ラクティス系のインビトロタンパク質合成系ど)である。
第8の態様によれば、本発明は、本発明の第1の態様から第4の態様に係る核酸構築物と、本発明の第5の態様に係るベクターまたはベクターの組合せと、本発明の第6の態様に係る遺伝子組み換えされた細胞または本発明の第7の態様に係るキットの使用を提供する。これは、ハイスループットなインビトロタンパク質合成に適用可能である。
第9の態様によれば、本発明は、以下の工程を含む、外来性タンパク質合成のためのインビトロハイスループット方法を提供する。
(i)真核生物系のインビトロ生合成系の存在下で、本発明の第1の態様から第4の態様による核酸構築物を提供する工程、
(ii)適切な条件下で、工程(i)の真核生物系のインビトロ生合成系をT1の期間インキュベートして、外来性タンパク質を合成する工程。
別の好ましい実施形態において、この方法は、(iii)真核生物系のインビトロ生合成系から外来性タンパク質を任意選択で単離または検出する工程をさらに含む。
別の好ましい実施形態において、真核生物系のインビトロ生合成系は、酵母系のインビトロ生合成系(例えば、酵母系のインビトロタンパク質合成系など)である。
別の好ましい実施形態では、酵母系のインビトロ生合成系(例えば、酵母系のインビトロタンパク質合成系など)は、クルイベロマイセス系のインビトロ生合成系(例えば、クルイベロマイセス系のインビトロタンパク質合成系など)であり、好ましくはクルイベロマイセス・ラクティス系のインビトロ生合成系(例えば、クルイベロマイセス・ラクティス系のインビトロタンパク質合成系など)である。
別の好ましい実施形態において、外来性タンパク質のコード配列は、原核生物または真核生物に由来する。
別の好ましい実施形態において、外来性タンパク質のコード配列は、動物、植物または病原体に由来する。
別の好ましい実施形態において、外来性タンパク質のコード配列は、哺乳動物に由来し、好ましくは、霊長類またはげっ歯類に由来する(ヒト、マウスおよびラットを含む)。
別の好ましい実施形態では、外来性タンパク質のコード配列は、ルシフェリン、ルシフェラーゼ(例えば、ホタルルシフェラーゼなど)、緑色蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質、アミノアシル−tRNAシンセターゼ、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、カタラーゼ、アクチン、抗体の可変領域、ルシフェラーゼ変異体、α−アミラーゼ、エンテロシンA、C型肝炎ウイルスE2糖タンパク質、インスリン前駆体、インターフェロンαA、インターロイキン−1β、リゾチーム、血清アルブミン、抗体の単一鎖可変断片(scFv)、トランスチレチン、チロシナーゼ、キシラナーゼ、およびこれらの組合せからなる群から選択される外来性タンパク質をコードする。
別の好ましい実施形態では、外来性タンパク質は、ルシフェリン、ルシフェラーゼ(例えば、ホタルルシフェラーゼなど)、緑色蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質、アミノアシル−tRNAシンセターゼ、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、カタラーゼ、アクチン、抗体の可変領域、ルシフェラーゼ変異体、α−アミラーゼ、エンテロシンA、C型肝炎ウイルスE2糖タンパク質、インスリン前駆体、インターフェロンαA、インターロイキン−1β、リゾチーム、血清アルブミン、抗体の単一鎖可変断片(scFv)、トランスチレチン、チロシナーゼ、キシラナーゼ、およびこれらの組合せからなる群から選択される。
別の好ましい実施形態では、工程(ii)において、反応温度は、20〜37℃の範囲であり、好ましくは22〜35℃の範囲である。
別の好ましい実施形態では、工程(ii)において、反応時間は、1〜10時間の範囲であり、好ましくは2〜8時間の範囲である。
本発明の範囲内で、本発明において以下(例えば、実施形態または実施例)で具体的に説明されるそれぞれの技術的特徴および上述のそれぞれの技術的特徴は、互いに組み合わせることができ、それによって、新しいまたは好ましい技術的解決策を形成することができることを理解されたい。スペースの制約のため、ここでは、これ以上のトートロジーはない。
図1は、生合成においてタンパク質翻訳開始における5’−UTR配列の重要な役割を示す。5’−UTRは主に、細胞内で、タンパク質の翻訳開始を調節し、mRNAを安定化させる役割を果たしている。(A)キャップ依存的なタンパク質翻訳開始のプロセスにおいて、5’−UTRは、翻訳開始因子および43S開始前複合体(pre-initiation complex, PIC)をリクルート(recruit)するために重要な役割を果たす。そして、それは、43SPICのスキャニングおよび翻訳開始も調節できる。キャップ非依存的なタンパク質翻訳開始のプロセスでは、(B)二次構造をもつ5’−UTRと、(C)二次構造をもたない5’−UTRの両方がいくつかのタンパク質因子の助けを必要とし、43SPICをリクルートするために非常に重要である。
図2は、インビトロタンパク質合成系において、真核生物内因性IRESがタンパク質合成を開始する効率を示す。サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)およびクルイベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)に由来し、相同性を持つIRESから選択された8種のIRESは、酵母系のインビトロタンパク合成系で使用された。従来のΩ配列と比較して、6つのIRES(ScFLO8、ScMSN1、ScNCE102、KlFLO8、KlMSN1およびKlNCE102)を使用して、その合成を開始した場合のルシフェラーゼの相対発光量(RLU)値は、Ω配列を使用した場合よりも高かった。
図3は、インビトロタンパク質合成系においてタンパク質合成を開始する効率におけるタンデムDNAエレメントの比較を示す。Ω配列の上流または下流のそれぞれに位置する8個のIRESを、Ω配列およびクルイベロマイセス・ラクティス−に特異的Kozak配列とタンデムにそれぞれ連結した。16個のタンデムDNAエレメントを構築した。16個のタンデムDNAエレメントは、インビトロタンパク質合成系において使用された。合成を開始するためにKlNCE102−Ω−10Aを使用した場合のルシフェラーゼの相対発光量(RLU)値は、Ω配列とKozak配列とを連結するタンデムエレメントΩ−10Aを使用した場合の値を超えた。そして、その値は、Ω−10Aを使用した場合のRLU値に対して1.65倍であった。次に、別の二つのタンデムエレメント、ScFLO8−Ω−10AとKlMSN1−Ω−10Aを用いたときの相対発光量値は、Ω−10Aを用いたときのRLU値に近く、それぞれ、Ω−10Aを用いたときのRLU値の81.68%と85.35%に達した。
図4は、本発明におけるKlNCE102−Ω−10A配列によるインビトロタンパク質翻訳開始の効率を増大する原理を示す。(A)Ω配列は、43SPICをリクルートし、タンパク質翻訳を開始するために、翻訳開始因子eIF4Gを組み合わせる必要がある。(B)KlNCE102は、ポリ(A)結合タンパク質Pab1をリクルートすることができるAリッチ(A-rich)RNA配列である。Pab1は、eIF4Gと相互作用することがきる。それによって、43SPICに対する補充効果を増大させ、翻訳開始の効率を改善する。KlNCE102およびΩ配列は、相乗効果を形成し、翻訳開始効率を高める。
図5は、Ω−10A配列およびGAA配列がKlNCE102のインビトロタンパク質翻訳効率を増大したことを示す。KlNCE102−Ω−10Aタンデムエレメントのインビトロ翻訳効率は、KlNCE102のそれの1.23倍であった。GAA−KlNCE102−Ω−10Aタンデムエレメントのインビトロ翻訳効率は、KlNCE102−Ω−10Aのそれの1.28倍、Ω−10Aのそれの2.52倍であった。
広範かつ詳細な研究の後、多くのスクリーニングおよび探索を通して、インビトロタンパク質翻訳の効率を高めることができる新規な核酸構築物が、初めて予想外に見い出された。本発明の核酸構築物は、真核細胞(例えば、酵母)に由来するIRESエンハンサー(例えば、ScBOI1、ScFLO8、ScNCE102、ScMSN1、KlFLO8、KlNCE102、KlMSN1、KlBOI1)、Ω配列および酵母(例えば、クルイベロマイセス、好ましくはクルイベロマイセス・ラクティス)に特異的Kozak配列を連結することによって構築される。本発明の核酸構築物を酵母系のインビトロ生合成系(例えば、酵母系のインビトロタンパク質合成系)で使用する場合、合成されたルシフェラーゼの活性を示すための相対発光量(RLU)値は、非常に高く、Ω配列およびKozak配列によって連結されたタンデム配列(Ω−10A)の値の1.65倍に達する、または、Ω−10Aの値とほぼ均等物である。
さらに、本発明者らは、驚くべきことに、本発明の核酸構築物の上流にGAAの3残基を配置することがタンパク質合成の効率を増大させ、そしてインビトロ合成を媒介するために本発明の核酸構築物を使用する場合、ルシフェラーゼの相対発光量値が、約0.28倍(KlNCE102−Ω−10Aに対してGAA−KlNCE102−Ω−10A)に増大したことを見出した。Ω−10Aを用いた場合と比較して、GAA−KlNCE102−Ω−10Aを用いた場合のルシフェラーゼの相対発光量値は、1.52倍に増大した(すなわち、GAA−KlNCE102−Ω−10Aを用いた場合の相対発光量値は、Ω−10Aを用いた場合の値の2.52倍であった)(図5に示すように)。以上により、本発明者らは、本発明を完成させた。
真核生物系のインビトロ生合成系
真核生物系のインビトロ生合成系は、真核生物細胞に基づく転写−翻訳共役系である。それは、DNA鋳型から出発してRNAを合成するか、DNAまたはRNAを鋳型として用いてインビトロ(in vitro)でタンパク質合成を完了することができる。真核細胞は、酵母細胞、ウサギ網状赤血球、コムギ胚芽細胞、昆虫細胞、ヒト細胞等を含む。真核生物系のインビトロ生合成系は、複雑な構造を有するRNAまたはタンパク質を合成することができ、タンパク質の翻訳後の修飾ができるなどという利点がある。
本発明において、真核生物系のインビトロ生合成系は、特に限定されない。好ましい真核生物系のインビトロ生合成系は、酵母系のインビトロ生合成系を含み、好ましくは酵母系のインビトロタンパク質合成系を含み、より好ましくはクルイベロマイセス系の発現系(より好ましくは、クルイベロマイセス・ラクティス系の発現系)を含む。
酵母(yeast)は、単純な培養、効率的なタンパク質フォールディングおよび翻訳後の修飾の利点を有する。酵母の中で、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)とピキア・パストリス(Pichia pastoris)は、複雑な真核タンパク質と膜タンパク質を発現するモデル生物である。酵母はまた、インビトロ翻訳系の調製のための原料として使用される。
クルイベロマイセスは、子嚢胞子形成酵母である。クルイベロマイセスの中で、クルイベロマイセス・マルキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)およびクルイベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)は、産業界で広く使用されている酵母である。クルイベロマイセス・ラクティスは、他の酵母と比較して、超分泌能、より良好な大規模発酵特性、食品安全性レベルに適合すること、タンパク質の翻訳後の修飾能などの多くの利点を有する。
本発明において、真核生物系のインビトロ生合成系は、
(a)真核細胞抽出物と、
(b)ポリエチレングリコールと、
(c)選択可能にある外来性スクロースと、
(d)水または水性溶媒であり、選択可能にある溶媒と、を含む。
特に一つの好ましい実施形態において、本発明によって提供されるインビトロ生合成系は、真核細胞抽出物、4−ヒドロキシエチルピペラジンエタンスルホン酸、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、アデノシン三リン酸(ATP)、グアノシン三リン酸(GTP)、シチジン三リン酸(CTP)、ウリジン三リン酸(UTP)、アミノ酸混合物、ホスホクレアチン、ジチオトレイトール(DTT)、クレアチンホスホキナーゼ、RNase阻害剤、ルシフェリン、ルシフェラーゼのDNAおよびRNAポリメラーゼを含む。
本発明において、RNAポリメラーゼは、特に限定されず、1つ以上のRNAポリメラーゼであってもよい。典型的なRNAポリメラーゼは、T7RNAポリメラーゼである。
本発明において、インビトロ生合成系における真核細胞抽出物の割合は、特に限定されない。通常、インビトロ生合成系における真核細胞抽出物は、容量で、20〜70%、好ましくは30〜60%、より好ましくは40〜50%である。
本発明において、真核細胞抽出物は、無傷細胞を含まない。典型的な真核細胞抽出物は、RNA合成のための種々のタイプのRNAポリメラーゼと、リボソーム、トランスファーRNA(tRNA)およびアミノアシル−tRNAシンセターゼを含むタンパク質翻訳のための因子と、開始因子、伸長因子および終止放出因子を含むタンパク質合成に必要な因子とを含む。さらに、真核細胞抽出物はまた、真核細胞の細胞質に由来するいくつかの他のタンパク質、特に、可溶性タンパク質を含む。
本発明において、真核細胞抽出物のタンパク質含量は、20〜100mg/mLであり、好ましくは50〜100mg/mLである。タンパク質含量の測定法は、クマシーブリリアントブルーアッセイである。
本発明において、真核細胞抽出物の調製方法は、限定されない。好ましい調製方法は、以下の工程、
(i)真核細胞を提供する工程と、
(ii)洗浄された真核細胞を得るために、真核細胞を洗浄する工程と、
(iii)洗浄された真核細胞を細胞溶解処理で処理し、粗真核細胞抽出物を得る工程と、
(iv)粗真核生物抽出物を固液分離により処理して、液相(すなわち、真核生物細胞抽出物)を得る工程と、を含む。
本発明において、固液分離の方法は、特に限定されない。好ましい方法は、遠心分離である。
好ましい実施形態では、遠心分離は、液体状態で行われる。
本発明において、遠心分離条件は、特に限定されない。好ましい遠心分離条件は、5000g〜100000gの範囲であり、好ましくは8000g〜30000gの範囲である。
本発明において、遠心分離時間は、特に限定されない。好ましい遠心分離時間は、0.5分〜2時間の範囲であり、好ましくは20分〜50分の範囲である。
本発明において、遠心分離の温度は、特に限定されない。好ましくは、遠心分離は、1〜10℃、好ましくは2〜6℃で行われる。
本発明において、洗浄処理方法は、特に限定されない。好ましい洗浄処理方法は、pH7〜8(好ましくはpH 7.4)の洗浄液を用いて処理を行うことである。洗浄液は、特に限定されない。典型的な洗浄液は、4−ヒドロキシエチルピペラジンエタンスルホン酸カリウム、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、およびこれらの組合せからなる群から選択される。
本発明において、細胞溶解処理の方法は、特に限定されない。細胞溶解処理のための好ましい方法は、高圧溶解および凍結融解(例えば、液体窒素低温での処理)溶解を含む。
インビトロ生合成系におけるヌクレオシド三リン酸の混合物は、アデノシン三リン酸、グアノシン三リン酸、シチジン三リン酸およびウリジン三リン酸を含む。本発明において、種々の単一ヌクレオチドの濃度は、特に限定されない。各単一ヌクレオチドの濃度は、通常、0.5〜5mMの範囲であり、好ましくは1.0〜2.0mMの範囲である。
インビトロ生合成系におけるアミノ酸混合物は、天然または非天然アミノ酸を含み、そしてD型またはL型のアミノ酸を含む。代表的なアミノ酸は、特に限定されないが、20種類の天然アミノ酸を含む。例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、プロリン、トリプトファン、セリン、チロシン、システイン、メチオニン、アスパラギン、グルタミン、トレオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、アルギニンおよびヒスチジン等が挙げられる。各タイプのアミノ酸の濃度は、通常、0.01〜0.5mMの範囲であり、好ましくは0.02〜0.2mMの範囲(例えば、0.05mM、0.06mM、0.07mMおよび0.08mM)である。
好ましい実施形態において、インビトロ生合成系は、ポリエチレングリコール(PEG)またはPEGの類似体をさらに含む。PEGまたはPEGの類似体の濃度は、特に限定されない。一般に、生合成系の総重量に基づいて、PEGまたはPEGの類似体の濃度(w/v)は、0.1〜8%の範囲であり、好ましくは0.5〜4%の範囲、より好ましくは1〜2%の範囲である。PEGの代表的な実施形態としては、PEG3000、PEG8000、PEG6000およびPEG3350が挙げられるが、これらに限定されない。本発明のシステムはまた、他の種々の分子量のポリエチレングリコール(例えば、PEG 200、400、1500、2000、4000、6000、8000、10000など)を含むことが理解されるべきである。
好ましい実施形態において、インビトロ生合成系は、スクロースをさらに含む。スクロースの濃度は、特に限定されない。一般に、タンパク質合成系の総重量に基づいて、スクロースの濃度は、0.03〜40重量%の範囲であり、好ましくは0.08〜10重量%の範囲であり、より好ましくは0.1〜5重量%の範囲である。
特に一つの好ましいインビトロ生合成系は、真核細胞抽出物に加えて、以下の成分を含む。例えば、 22mMの4−ヒドロキシエチルピペラジンエタンスルホン酸(pH 7.4)、30〜150mMの酢酸カリウム、1.0〜5.0mMの酢酸マグネシウム、1.5〜4mMのヌクレオシド三リン酸混合物、0.08〜0.24mMのアミノ酸混合物、25mMのホスホクレアチン、1.7mMのジチオトレイトール、0.27mg/mLのクレアチンホスホキナーゼ、1%〜4%のPEG、0.5%〜2%のスクロース、8〜20ng/μLのホタルルシフェラーゼのDNAおよび0.027〜0.054mg/mLのT7RNAポリメラーゼなどである。
Ω配列
本明細書中で使用される場合、用語「Ω配列」(すなわち、オメガ配列)は、タバコモザイクウイルスゲノムの5’リーダー配列(5’リーディング配列)をいう。そしてそれは、ウイルスの翻訳エンハンサーである。ΩのDNA配列は、68塩基対を含み、1〜6(好ましくは2〜4、より好ましくは3)の数(quantities)の8塩基対長の直接反復モジュール(ACAATTAC)と、1〜5(好ましくは1〜3、より好ましくは1)の数の(CAA)pモジュールとを含む。ここで、pは、6〜12の範囲であり、好ましくは8〜10の範囲である。これらの2つのモジュールは、Ω配列の翻訳増大機能の鍵である。本発明の酵母系のインビトロタンパク質合成系において、Ω配列は、キャップ非依存的なタンパク質翻訳を開始することができる。これは、翻訳開始因子eIF4Gをリクルートすることによって達成される可能性がある。しかしながら、Ω配列によって開始されるタンパク質翻訳の効率は、比較的低い。Ω配列の構造配列は最適化される必要があり、タンパク質翻訳の効率を高めるために、他のDNAエレメントまたはタンパク質と協働する必要がある。
Kozak配列
既知の真核生物のmRNA分子中の翻訳開始コドン(AUG)の上流および下流の配列を解析することは、“Kozak配列”と呼ばれるコンセンサス配列を見つけるのに役立つ。Kozak配列は、mRNAの翻訳開始効率を高めることが検証されている。異なる生物種に由来するKozak配列は、しばしば異なる。例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisia)のKozak配列および哺乳動物細胞のKozak配列は、有意に異なる。
本発明において使用されるKozak配列は、6〜12(好ましくは8〜10)の数のアデニンデオキシヌクレオシドのオリゴマー鎖、翻訳開始コドン(例えば、ATG、ATA、ATT、GTG、TTGなど、好ましくはATG)およびセリンコドン(例えば、TCT、TCC、TCA、TCG、AGT、AGCなど、好ましくはTCT)を含む。そしてそれは、クルイベロマイセス(好ましくはクルイベロマイセス・ラクティス)に由来する。
外来性コード配列(外来性DNA)
本明細書中で使用される場合、用語「外来性コード配列」および「外来性DNA」は、互換的に使用され、そして両方とも、RNAまたはタンパク質の合成を導くために使用される外来性DNA分子をいう。通常、DNA分子は、線状または環状である。DNA分子は、外来性RNAまたは外来性タンパク質をコードする配列を含む。
本発明において、外来性コード配列の例としては、ゲノム配列およびcDNA配列が挙げられるが、これらに限定されない。外来性タンパク質をコードする配列はまた、プロモーター配列、5’非翻訳配列、3’非翻訳配列、またはそれらの組み合わせを含む。
本発明において、外来性DNAの選択は、特に限定されない。通常、外来性DNAは、小さな非コードRNA(small non-coding RNA, sncRNA)、長い非コードRNA(long non-coding RNA,lncRNA)、転移RNA(transfer RNA,tRNA)、グルコサミン−6−リン酸シンセターゼ(glucosamine-6-phosphate synthase, glmS)などを含むリボザイム、小さな核RNA(small nuclear RNA,snRNA)、RNAとタンパク質の複合体(例えば、スプライソソーム(spliceosome)など)、他の様々な非コードRNA、およびそれらの組合せからなる群から選択される。
外来性DNAはまた、ルシフェリン、ルシフェラーゼ(例えば、ホタルルシフェラーゼなど)、緑色蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質、アミノアシル−tRNAシンセターゼ、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、カタラーゼ、アクチンおよび抗体の可変領域をコードする外来性DNA、ルシフェラーゼミュータントのDNA、およびそれらの組合せからなる群から選択されることができる。
外来性DNAはまた、α−アミラーゼ、エンテロシンA、C型肝炎ウイルスE2糖タンパク質、インスリン前駆体、インターフェロンA、インターロイキン−1β、リゾチーム、血清アルブミン、抗体の単一鎖可変断片(scFv)、トランスチレチン、チロシナーゼ、およびキシラナーゼをコードする外来性DNA、およびそれらの組み合わせからなる群より選択されることができる。
好ましい実施形態において、外来性DNAは、緑色蛍光タンパク質(enhanced GFP、eGFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、大腸菌β−ガラクトシダーゼ(β-galactosidaseLacZ)、ヒトリジン−tRNAシンセターゼ(lysine-tRNA synthetase)、ヒトロイシン−tRNAシンセターゼ(leucine-tRNA synthetase)、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase)、マウスカタラーゼ(catalase)、およびそれらの組合せからなる群より選択されるタンパク質をコードする。
核酸構築物
本発明は、式Iの核酸配列を含む核酸構築物を提供する。
Z1−Z2−Z3−Z4−Z5 (I)
式中、Z1〜Z5は、それぞれ、構築物の一部としてのエレメントであり、
各「−」は、独立して、結合またはヌクレオチド連結配列であり、
Z1は、エンハンサーエレメントであり、エンハンサーエレメントはIRESエレメントを含み、
Z2は、タバコモザイクウイルスの5’リーダー配列(leading sequence)であり、つまりΩ配列であり、
Z3は、アデニンデオキシヌクレオチドのオリゴマー鎖[oligo(A)]nであり、
Z4は、翻訳開始コドンであり、
Z5は、セリンコドンであり、
Z3、Z4およびZ5は、Kozak配列を構成し、Kozak配列は酵母に由来する。
本発明はまた、5’から3’に式IIの構造を含む核酸構築物を提供する。
Z1−Z2−Z3−Z4−Z5−Z6 (II)
式中、Z1〜Z6は、それぞれ、構築物の一部としてのエレメントであり、
各「−」は、独立して、結合またはヌクレオチド連結配列であり、
Z1は、エンハンサーエレメントであり、エンハンサーエレメントはIRESエレメントを含み、
Z2は、タバコモザイクウイルスの5’リーダー配列(leading sequence)であり、つまりΩ配列であり、
Z3は、アデニンデオキシヌクレオチドのオリゴマー鎖[oligo(A)]nであり、
Z4は、翻訳開始コドンであり、
Z5は、セリンコドンであり、
Z6は、外来性タンパク質のコード配列であり、
Z3、Z4およびZ5は、Kozak配列を構成し、Kozak配列は酵母に由来する。
本発明はまた、5’から3’に式IIIの構造を含む核酸構築物を提供する。
Z0−Z1−Z2−Z3−Z4−Z5−Z6 (III)
式中、Z0〜Z6は、それぞれ、構築物の一部としてのエレメントであり、
各「−」は、独立して、結合またはヌクレオチド連結配列であり、
Z0は、プロモーターエレメントであり、プロモーターエレメントは、T7プロモーター、T3プロモーター、SP6プロモーター、およびこれらの組合せからなる群から選択され、
Z1は、エンハンサーエレメントであり、エンハンサーエレメントはIRESエレメントを含み、
Z2は、タバコモザイクウイルスの5’リーダー配列(leading sequence)であり、つまりΩ配列であり、
Z3は、アデニンデオキシヌクレオチドのオリゴマー鎖[oligo(A)]nであり、
Z4は、翻訳開始コドンであり、
Z5は、セリンコドンであり、
Z6は、外来性タンパク質のコード配列であり、
Z3、Z4およびZ5は、Kozak配列を構成し、Kozak配列は酵母に由来する。
本発明はまた、5’から3’に式IVの構造を含む核酸構築物を提供する。
Z0’−Z1−Z2−Z3−Z4−Z5−Z6(IV)
式中、Z0’〜Z6は、それぞれ、構築物の一部としてのエレメントであり、
各「−」は、独立して、結合またはヌクレオチド連結配列であり、
Z0’はGAAであり、
Z1は、エンハンサーエレメントであり、エンハンサーエレメントはIRESエレメントを含み、
Z2は、タバコモザイクウイルスの5’リーダー配列(leading sequence)であり、つまりΩ配列であり、
Z3は、アデニンデオキシヌクレオチドのオリゴマー鎖[oligo(A)]nであり、
Z4は、翻訳開始コドンであり、
Z5は、セリンコドンであり、
Z6は、外来性タンパク質のコード配列であり、
Z3、Z4およびZ5は、Kozak配列を構成し、Kozak配列は酵母に由来する。
本発明において、外来性タンパク質のコード配列の選択は、特に限定されない。通常、外来性タンパク質のコード配列は、ルシフェリン、またはルシフェラーゼ(例えば、ホタルルシフェラーゼ)、緑色蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質、アミノアシル−tRNAシンセターゼ、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、カタラーゼ、アクチンおよび抗体の可変領域をコードする外来性DNA、ルシフェラーゼ変異体のDNA、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。
外来性タンパク質のコード配列はまた、α−アミラーゼ、エンテロシンA、C型肝炎ウイルスE2糖タンパク質、インスリン前駆体、インターフェロンαA、インターロイキン−1β、リゾチーム、血清アルブミン、抗体の単一鎖可変断片(scFv)、トランスチレチン、チロシナーゼ、キシラナーゼ、およびそれらの組み合わせからなる群より選択されるタンパク質をコードすることができる。
さらに、本発明の核酸構築物は、線状または環状であってもよい。本発明の核酸構築物は、一本鎖または二本鎖であってもよい。本発明の核酸構築物は、DNA、RNA、またはDNA/RNAハイブリッドであってもよい。
好ましい実施形態において、本発明の核酸構築物の配列は、配列番号2〜17のいずれか1つである。
好ましい実施形態において、核酸構築物の配列は、配列番号2〜9のいずれか1つである。
好ましい実施形態において、核酸構築物の配列は、配列番号3、4または6である。
好ましい実施形態において、本発明の核酸構築物の配列は、配列番号85〜87のいずれか1つである。
別の好ましい実施形態において、構築物は、プロモーター、ターミネーター、poly(A)エレメント、輸送エレメント、遺伝子標的化エレメント、選択マーカー遺伝子、エンハンサー、耐性遺伝子、およびトランスポザーゼをコードする遺伝子からなる群より選択されるエレメントまたは組み合わせをさらに含む。
種々の選択マーカー遺伝子は、本発明において使用されることができる。これは、特に限定されないが、栄養要求性マーカー、耐性マーカー、およびレポーター遺伝子マーカーを含む。選択マーカーの適用は、組換え細胞(レコン)のスクリーニング(篩い分け)において役割を果たす。そこでは、レセプター細胞は、非形質転換細胞と有意に識別することができる。栄養要求性マーカーは、伝達されたマーカー遺伝子の助けを借りて、レセプター細胞の変異遺伝子に相補的である。その結果、レセプター細胞は、野生型増殖を示す。耐性マーカーは、耐性遺伝子がレセプター細胞に移入されることを指す。そして、移入された遺伝子により、レセプター細胞は一定の薬物濃度で薬物耐性を示すことができる。本発明の好ましい様式として、耐性マーカーは、組換え細胞の簡便なスクリーニングを達成するために使用される。
本発明において、本発明の核酸構築物を本発明の酵母系のインビトロ生合成系(例えば、酵母系のタンパク質生合成系等)に適用することにより、外来性タンパク質翻訳の効率を著しく向上させることができる。具体的には、本発明の核酸構築物を用いて合成されたルシフェラーゼの活性を示す相対発光量値は非常に高い。本発明の核酸構築物(例えば、KlNCE102−Ω−10A)を用いた場合の相対発光量値は、Ω−10A配列を用いた場合のそれの1.65倍であった。
ベクター、遺伝子組み換え細胞
本発明はまた、本発明の核酸構築物を含むベクターまたはベクターの組合せを提供する。好ましくは、ベクターは、細菌プラスミド、ファージ(すなわち、バクテリオファージ)、酵母プラスミド、動物細胞ベクター、およびシャトルベクターからなる群より選択される。ベクターは、トランスポゾンベクターである。組換えベクターを調製するための方法は、当業者に周知である。宿主中で複製され、安定である限り、任意のプラスミドまたはベクターを使用することができる。
当業者は、周知の方法を使用して、本発明のプロモーターおよび/または目的遺伝子配列を含む発現ベクターを構築する。これらの方法には、インビトロ組換えDNA技術、DNA合成技術、インビボ組換え技術などが含まれる。
本発明はまた、遺伝子組み換え細胞を提供する。遺伝子組み換え細胞は、構築物、ベクターまたはベクターの組合せを含む。または、遺伝子組み換え細胞の染色体は、構築物またはベクターに一体化される。別の好ましい実施形態において、遺伝子組み換え細胞は、トランスポザーゼをコードする遺伝子を含むベクターをさらに含む。または、遺伝子組み換え細胞の染色体は、トランスポザーゼ遺伝子と一体化される。
好ましくは、遺伝子組み換え細胞は、真核細胞である。
別の好ましい実施形態において、真核細胞は、ヒト細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞、昆虫細胞、コムギ胚芽細胞、ウサギ網状赤血球および他の高等真核細胞を含むが、これらに限定されない。
別の好ましい実施形態において、真核細胞は、酵母細胞(好ましくはクルイベロマイセス細胞、より好ましくはクルイベロマイセス・ラクティス細胞)を含むが、これらに限定されない。
本発明の構築物またはベクターは、適切な遺伝子組み換え細胞を形質転換するために使用される。遺伝子組み換え細胞は、原核細胞(例えば、大腸菌(E.coli)、ストレプトミセス、アグロバクテリウムなど)、下等真核細胞(例えば、酵母細胞)、または高等動物細胞(例えば、昆虫細胞など)であってもよい。当業者は、適切なベクターおよび遺伝子組み換え細胞を選択する方法を知っている。遺伝子組み換え細胞の組換えDNAによる形質転換は、当業者に周知の従来の技術を用いて実施されることができる。宿主が原核生物(例えば、大腸菌など)である場合、CaCl2法またはエレクトロポレーション法を用いて処理することができる。宿主が真核生物である場合、DNAトランスフェクション法、リン酸カルシウム共沈法および従来の機械的方法(例えば、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、リポソームパッケージングなど)を選択的に用いることができる。植物細胞の形質転換は、アグロバクテリウム媒介形質転換または遺伝子銃形質転換などの方法、例えば、リーフディスク法、未成熟胚形質転換法、花芽浸漬法などを用いることによって実行されることができる。
インビトロハイスループットタンパク質合成方法
本発明は、インビトロハイスループットタンパク質合成方法を提供する。この方法は、以下の工程:
(i)真核生物系のインビトロ生合成系の存在下で、本発明の第1〜第4の態様から選択される核酸構築物を提供する工程と、
(ii)適切な条件下で、工程(i)の真核生物系のインビトロ生合成系をT1の期間インキュベートして、外来性タンパク質を合成する工程と、を含む。
別の好ましい実施形態において、この方法は、(iii)真核生物系のインビトロ生合成系から外来性タンパク質を任意選択で単離または検出する工程をさらに含む。
本発明の主な利点は、次の(1)〜(7)を含む。
(1)初めて、本発明は、プロモーター、酵母由来IRES、Ω配列、Kozak配列および外来性タンパク質のコード配列を含む核酸構築物が本発明の真核生物系のインビトロ生合成系(例えば、酵母系のインビトロタンパク質合成系)に使用される場合、外来性タンパク質翻訳の効率を有意に向上させることができることを見出した。
(2)Ω配列およびKozak配列とタンデムに連結された本発明の真核細胞の内因性IRESは、真核生物系のインビトロ生合成系(eukaryote-based in vitro biosynthesis system)におけるタンパク質翻訳開始の効率を高めることができる。翻訳開始の効率を高めることに関して、タンデムDNAエレメントは、後者の2つのみを連結するタンデム配列(Ω−10A)よりも有利である。クルイベロマイセス・ラクティス系のインビトロ生合成系において、合成を開始するためにKlNCE102−Ω−10Aを使用した場合のホタルルシフェラーゼ(Fluc)の相対発光量(RLU)値は1.67×109に達した。これは、Ω−10A配列を使用した場合のそれの1.65倍であった。
(3)サッカロマイセス・セレビシエと比較して、クルイベロマイセス・ラクティスは、その安全性と高効率性のため、食品分野および医薬品分野において、タンパク質合成に使用されることができる。その安全性と高効率性、ならびにインビトロ生合成系(in vitro biosynthesis)の利点(例えば、ハイスループットタンパク質合成とスクリーニングに最適、毒性タンパク質を合成する能力、短時間、低コストなど)のため、その結果、クルイリベロマイセス・ラクティス細胞由来のインビトロ生合成系は、タンパク質合成の関連分野で広く利用されることができる。
(4)本発明によって提供される核酸構築物は、真核生物系のインビトロ生合成系のタンパク質翻訳を開始する効率を高めるだけでなく、より重要なことには、異なるタンパク質の合成のためのクルイベロマイセス・ラクティス系のインビトロ生合成系の可能性を増大させる。
(5)本発明の核酸構築物は、タンパク質翻訳開始の効率を高めるだけでなく、真核生物系の細胞インビトロ生合成系に使用されるDNAエレメントを設計するための新規なコンセプトおよび新しい方法を提供する。これは、科学的研究および工業生産の分野において、関連システムの適用を大いに高めることができる。
(6)本発明は、本発明の核酸構築物と強力なプロモーター(例えば、T7プロモーター、T3プロモーター、SP6プロモーター)を組み合わせることによっても、非常に高いタンパク質合成効率を達成することができることを初めて見出した。
(7)本発明は、本発明の核酸構築物の上流にGAAの3つの残基を配置することによって、非常に高いタンパク質合成効率も達成することができることを初めて見出した。
本発明を、具体的な実施例に関連して以下にさらに記載する。これらの実施例は、本発明を例示するためにのみ使用され、本発明の範囲を限定するためには使用されないことが理解されるべきである。以下の実施例において、特に記載された条件を伴わない実験方法に関して、当業者は、一般に、従来の条件(例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989)に記載された条件など)に従うか、または、製造業者によって推奨される条件に従う。特に断らない限り、パーセンテージおよび部分は、重量によるパーセンテージおよび部分を指す。
特に明記しない限り、本発明の実施例で使用される材料および試薬は、すべて市販の製品である。
実施例1:真核細胞の内因性IRES、Ω配列およびクルイベロマイセス・ラクティス特異的Kozak配列をタンデムに連結するDNAエレメントのデザイン
1.1 クルイベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)およびサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)における内因性IRESの測定:
クルイベロマイセス・ラクティスの4つ内因性IRESおよびサッカロマイセス・セレビシエにおけるそれらと相同性を持つタンパク質に対応するIRES(表1に示す)は、インビトロタンパク質合成を開始することができる。Flucの合成を開始するIRESの中で、6つのIRES(KlFLO8、KlMSN1、KlNCE102、ScFLO8、ScMSN1およびScNCE102)は、従来のΩ配列よりも高い相対発光量(RLU)値を示した。他の2つIRES(KlBOI1およびScBOI1)は、Ω配列よりも低いRLU値を示した(図2に示す)。これらの8つのIRESは、Ω配列およびKozak配列とタンデムに連結されることが決定された。
1.2 16のタンデムエレメントの決定:
8つの内因性IRESをΩ配列およびクルイベロマイセス・ラクティスに特異的Kozak配列とタンデムに連結し、Ω配列に対してIRESの上流または下流の位置を変化させる。その結果、合計16のタンデムDNAエレメントを設計した(KlFLO8、KlMSN1、KlNCE102、KlBOI1、ScFLO8、ScMSN1、ScMSN1、ScNCE102およびScBOI1−Ω−10A、ならびに、Ω−KlFLO8、KlMSN1、KlNCE102、KlBOI1、ScFLO8、ScMSN1、ScNCE102およびScBOI1−10A)。配列番号2〜17に示されるタンデムエレメントの配列は、上記のタンデムDNAエレメント(KlFLO8、KlMSN1、KlNCE102、KlBOI1、ScFLO8、ScMSN1、ScNCE102およびScBOI1−Ω−10A、ならびに、Ω−KlFLO8、KlMSN1、KlNCE102、KlBOI1、ScFLO8、ScMSN1、ScNCE102およびScBOI1−10A)の配列にそれぞれ対応する。
1.3 レポータータンパク質遺伝子(Fluc)を有するタンデムエレメントの設計:
上記に設計されたような16のタンデムエレメントは、Ω−10Aに置換するために、既存のΩ−10A−Flucプラスミド(カンマ−ヘルスケアコード(シャンハイ)バイオテックカンパニーリミテッドから入手、Ω−10A配列は配列番号1に示される)に挿入された。そして、16の新しいプラスミドは、形成された。得られた16の新しいプラスミドは、それぞれ、KlFLO8−Ω−10A−Fluc、KlMSN1−Ω−10A−Fluc、KlNCE102−Ω−10A−Fluc、KlBOI1−Ω−10A−Fluc、ScFLO8−Ω−10A−Fluc、ScMSN1−Ω−10A−Fluc、ScNCE102−Ω−10A−Fluc、ScBOI1−Ω−10A−Fluc、Ω−KlFLO8−10A−Fluc、Ω−KlMSN1−10A−Fluc、Ω−KlNCE102−10A−Fluc、Ω−KlBOI1−10A−Fluc、Ω−ScFLO8−10A−Fluc、Ω−ScMSN1−10A−Fluc、Ω−ScNCE102−10A−FlucおよびΩ−ScBOI1−10A−Flucだった。その中で、KlNCE102−Ω−10A−Fluc、ScFLO8−Ω−10A−Fluc、KlMSN1−Ω−10A−Fluc配列をそれぞれ配列番号85〜87に示した。
表1 サッカロマイセス・セレビシエおよびクルイベロマイセス・ラクティスにおける関連遺伝子
実施例2:インビトロタンパク質合成系のためのタンデムDNAエレメントを含むプラスミドの構築
2.1 プラスミドの構築:
Ω配列の上流または下流にそれぞれ位置することによって、Ω−10A−Flucプラスミドに、それぞれ8個の内因性IRESを挿入する。具体的に使用したプライマーを表2に示す。
1つのプラスミドの具体的な構築プロセスは、以下の通りである。
挿入するIRES断片と、Ω−10A−Flucベクタープラスミドをそれぞれ2対のプライマーを用いてPCR増幅した。各PCR増幅産物の10μLを採取し、混合した。次いで、増幅産物の20μL混合物に1μLのDpnIを添加し、続いて、37℃で6時間インキュベートした。その後、4μLのDpnI処理物を50μLのDH5αコンピテント細胞に添加した。混合物を氷上に30分間置き、42℃で45秒間熱ショックした。その後、氷上に3分間置き、LB液体培地200μLを加え、37℃で4時間振盪培養した。その後、混合物をAmp抗生物質を含有するLB固体培地上にコーティングし、一晩培養した。増殖培養を実施するために、6つのモノクローナルコロニーを採取した。配列決定により正しいことを確認した後、プラスミドを抽出し、保存した。
表2 PCR増幅用のプライマー
実施例3:酵母系のインビトロタンパク質合成システムにおけるタンデムDNAエレメントの適用
3.1 T7転写開始配列と終止配列との間にある全てのプラスミド中のタンデムDNAエレメントおよびFlucを含むフラグメント(断片)は、プライマーとするT7_pET21a_F:CGCGAAATTAATACGACTCACTATAGG(配列番号82)およびT7ter_pET21a_R:TCCGGATATAGTTCCTCCTTTCAG(配列番号83)を使用しながら、PCR法によって増幅された。
増幅したDNA断片をエタノール沈殿法を用いて精製し、濃縮した。1/10容量の3M酢酸ナトリウム(pH 5.2)をPCR産物に添加し、次いで、2.5〜3倍容量の95%エタノールを添加した(酢酸ナトリウムの添加後の容量に対して)。続いて、氷上で15分間インキュベートした。その後、混合物は、室温で14000gより高速で30分間遠心分離された。そして、上清を除去した。沈殿物を70%エタノールで洗浄し、次いで15分間遠心分離した。続いて、上清を除去した。この沈殿物を超純水に溶解し、DNA濃度を測定した。
3.2 使用説明書に従って、精製されたDNA断片を、自己作製されたクルイベロマイセス・ラクティス系のインビトロタンパク質合成系に添加した。上記反応系を25〜30℃の環境に置き、約2〜6時間混合物をインキュベートした。完了後、同じ容量のFlucの基質とするルシフェリン(luciferin)を、96ウェルまたは384ウェルホワイトプレートの上記反応用ウェルに添加した。これを直ちにEnvision 2120多機能マイクロプレートリーダー(Perkin Elmer)に置いた。吸光度を読み取って、Flucの活性を検出した。ここで、活性の単位は、図2に示すように、相対発光量(Relative Light Unit,RLU)値である。
3.3 真核細胞の内因性IRES配列を持たないDNA断片(Ω−10A−Fluc)群を対照として使用した。DNA鋳型を添加しない反応群を陰性対照(NC)として使用した。3つの独立したサンプリングを、各群について使用した。
実験結果
1.真核細胞の内因性IRESと、Ω配列と、クルイベロマイセス・ラクティスに特異的なKozak配列とを連結するDNAエレメントの設計
合計16個のタンデムDNAエレメントを設計した。Ω−10A配列を置換するために、16個のエレメントのすべてをΩ−10A−Flucプラスミドにそれぞれ挿入した。インビトロタンパク質合成に使用するための16個のプラスミドを形成した。
2.インビトロタンパク質合成系のためのタンデムDNAエレメントを含むプラスミドの構築
多くの試みの後、インビトロタンパク質合成系のための合計16個のプラスミドが首尾よく構築された。
3.酵母系のインビトロタンパク質合成系におけるタンデムDNAエレメントの応用
図3に示すように、選ばれた3つのタンデムDNAエレメントのうち、酵母系のインビトロタンパク質合成系におけるホタルルシフェラーゼ(firely luciferase, Fluc)の相対発光量(RLU)値に関して、KlNCE102−Ω−10AによるRLU値のみがΩ−10A配列によるRLU値を超えた。KlNCE102−Ω−10Aによる相対発光量値は、Ω−10A配列によるそれに対して1.65倍である1.67×109に達した(Ω−10A配列による相対発光量値は1.01×109であった)。さらに、ScFLO8−Ω−10AとKlMSN1−Ω−10Aによる相対発光量値は、Ω−10A配列による値に近く、それぞれ、Ω−10A配列によるRLU値の81.68%および85.35%に達した。
検出器による相対発光量(RLU)値と、タンパク質濃度との間の線形関係の範囲内で、最も高い活性を示したKlNCE102−Ω−10Aによる相対発光量値は、Ω−10A配列によるものの1.65倍であったので、タンデムDNAエレメントは、タンパク質合成を約1.65倍に増強することができることを示している。
本発明の結果は、真核細胞の内因性IRESと、Ω配列と、クルイベロマイセス・ラクティスに特異的なKozak配列をタンデムに連結することは、タンパク質合成の効率を高めることができることを示す。その2つは、互いに相互作用することができる翻訳開始因子Pab1およびeIF4Gをリクルートして、タンパク質合成効率を促進する相乗効果を達成することができる(図4に示す)。そして、酵母系のインビトロタンパク質合成系に適用することができる。それにおいて、タンパク質合成を開始する効率は、Ω配列およびKozak配列を含む一般に使用されるタンデムエレメントΩ−10Aのそれを超えることができる、合成がKlNCE102−Ω−10Aにより開始される合成するタンパク質の量は、Ω−10A配列によるそれの1.65倍であった。KlNCE102−Ω−10Aは、酵母系のインビトロタンパク質合成系のタンパク質翻訳効率を上昇させ、タンパク質合成を開始するためのクルイベロマイセス・ラクティス系のインビトロ合成系用の翻訳エレメントの選択性を増加させ、クルイベロマイセス・ラクティス系のインビトロタンパク質合成系の有用性を大幅に増大した。
さらに、研究結果によれば、本発明はまた、GAAの3つの残基をタンデムDNAエレメントの上流に配置すること(転写されたmRNAの5’末端はGAAである)により、タンパク質合成効率を増大することができることを見出した。インビトロ合成を媒介するために本発明の核酸構築物およびGAAのタンデムを使用した場合のルシフェラーゼの相対発光量値は、本発明の核酸構築物を単独で使用した場合のRLU値の1.28倍であった(図5に示す)。
さらに、研究結果によれば、本発明は、本発明の核酸構築物(例えば、KlNCE102−Ω−10A)による相対発光量値は、KlNCE102による相対発光量値の1.23倍である(図5に示す)ことも見出した。
本発明において言及される全ての文献は、各文献が参照により個々に組み込まれるのと同様に、参照により本出願に組み込まれる。また、当業者であれば、本発明の上記内容を読めば、本発明に様々な変更や修正を加えることができ、これらの均等な形成も本発明の特許請求の範囲に含まれることを理解されたい。