JP2021090488A - データ処理装置、そのデータ処理装置を搭載したx線装置、及びデータ処理方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】対象が2種類の既知の物質A,Bから成る場合に、その一方の注目している物質Aをより簡単な演算で且つより精度良く求める。【解決手段】検出器により検出された光子計数データに基づきモニタに表示された、対象のX線像が処理される。X線像上で、X線のパスの方向において物質A(骨)、B(皮膚・筋肉)が存在すると推定される部分にROI(関心領域)が設定される。X線のn個(nは2以上の正の整数)のエネルギー領域のそれぞれにて当該X線が対象を透過するときの線減弱値に相当し、且つ、X線検出器の複数の画素それぞれの、n個の次元の空間ベクトルが光子計数データに基づき演算される。複数の画素それぞれの空間ベクトルの方向及び大きさが平均化されてROIを代表する代表ベクトルが演算される。物質Bの線減弱値に相当する前記n次元の参照ベクトルが、物質Aのみに等価な線減弱値に相当するn次元の目的ベクトルから減算される。【選択図】図15

Description

本発明は、連続X線を用いて撮像した対象物のX線透過データを処理するデータ処理装置、そのデータ処理装置を搭載したX線装置、及びデータ処理方法に関する。特に、本発明は、光子計数(フォトンカウンティング)型のX線検出器を用いて収集されたX線透過データを処理して、骨塩定量など、対象物の性状を評価するためのデータ処理装置、そのデータ処理装置を搭載したX線装置、及びデータ処理方法に関する。
近年、X線を用いて対象物の種類や性状を特定したいという要望は随所でみられる。その一例として、骨粗鬆症の予防や治療のため、人体の骨の密度を測定する骨密度測定(骨塩定量)がある。この骨粗鬆症を予防することは、健康寿命を伸ばすためにも重要な要素である。
この骨粗鬆症診断では、骨の強さを判定するための代表的な指標である骨密度(骨塩量)のほか、最近では骨質をも重視するようになってきている。骨密度(骨塩量)は骨の中にカルシウム等のミネラルがどの程度あるかを示すものであり、骨質は骨の微細構造、骨代謝回転の速さ、微小骨折の有無、及び、石灰化の状態、コラーゲンの状態を示す、一つの指標である。
この骨粗鬆症診断には、従来、DEXA(dual-energyX-ray absorptiometry:デクサ)法、超音波法、MD(エムディ)法が多く用いられている。DEXA法は、エネルギーの異なる2種類のX線を使って、その2種類のX線が骨を透過したあとのX線透過データ同士の差分情報に基づいて骨密度(骨塩量)を測定する手法である。超音波法は、踵や脛の骨に超音波を照射してその反射情報から骨密度を測定する手法である。MD法は、手の骨と厚さの異なるアルミニウム板(基準物質)とを同時にX線撮影し、撮影されたX線画像上で骨とアルミニウム板との濃度を比較することにより骨密度を測定する手法である。また、レントゲン検査によっても、そのX線写真から骨折や変形の有無、骨粗鬆化(骨密度の低下)の有無等の状態を確認できる。一方、骨質を測定するには、一般に、骨代謝マーカを用いた血液検査や尿検査により、骨の新陳代謝の速度を評価することで行われる。
このような骨粗鬆症診断法の一例は、特許文献1に記載のものが知られている。この特許文献1に記載の手法は、DEXA法に属するもので、X線画像診断装置として開示されており、その一態様によれば、高低2種類の異なる平均エネルギーを有するX線ビームを用いて撮影された各X線画像から差分画像を生成する差分画像生成部と、前記差分画像から腰椎領域を検出するとともに腰椎周辺部から横突起領域及び軟部組織領域を検出する検出部と、検出した軟部組織領域の画素値を基準として前記腰椎領域の画素値を補正する補正部と、補正した腰椎領域に基づき骨密度を算出する骨密度算出部と、を備えている。
つまり、この診断法は、X線の骨成分での減弱度合がエネルギーの違いよって異なることを利用した診断法である。
ところで、本発明者等は、既に、この光子計数型のX線検出に関して、特許文献2(国際公開番号WO 2016/171186 A1公報(国際公開日:2016年10月27日)に記載のデータ処理法を提案している。
この提案によれば、光子計数型のX線検出器により検出された計数値から対象物の画像を作成し、その画像上で関心領域を設定し、その画像において関心領域に存在する物質の背景となる画素情報を削除する。さらに、関心領域における連続X線の複数のエネルギー領域のそれぞれ毎に、画素毎の計数値に基づいて物質をX線が透過したときの透過特性をベクトル量として表し、このベクトル量から当該物質に固有の固有情報を演算する。
連続X線のエネルギー領域を例えば3つとし、その各エネルギー領域の実効エネルギーに対応した線減弱係数をμ、μ、μとすると、上述したベクトル量は、その線減弱係数をμ、μ、μを各次元とする3次元空間において3次元のベクトルとして表される。
勿論、統計ノイズや物質の厚さtの影響によって、関心領域を成す複数の画素それぞれの3次元ベクトルの方向はばらつき、ベクトルの長さもばらつくことで、座標原点を始点としたベクトルの終点は3次元的に広がりを持ちながら散布される。このため特許文献2の手法においては、まず物質の厚さtの要因を排除するため、全部の3次元ベクトルを正規化し、かつ、その正規化された長さを半径とする球状の散布面に、座標原点とを結ぶベクトル先端(終点)の位置(散布点)として表示させる。その上で、統計ノイズの影響を除去するため、散布点の集合毎に分布の重心位置を演算する等、平均化処理を行って、その重心位置と座標原点とを繋ぐベクトルを、その集合分布を代表する3次元ベクトルとして設定する。この代表3次元ベクトルの方向は、連続X線の減弱の観点からは、物質固有又は物質の性状に固有のものである。つまり、この特許公報2の手法は、そのベクトル方向を、予め既知のファントムを用いて測定・演算した参照値、又は理論的に演算した参照値と比較することによって、その物質の種類や性状を同定(推定、評価)できるというものであった。また、特許公報文献2の手法における、処理すべき次元は、3次元に限定されるものではなく、2次元以上の次元に適用可能な手法であった。
日本国特開2017−131427号公報 国際公開第2016/171186号
<特許文献1について>
しかしながら、上述した特許文献1に代表される、従来のDEXA法は、高低2種類のX線のエネルギー情報の差を利用して骨密度(骨塩量)を測定するだけであり、骨質という、骨粗鬆症の診断や治療において昨今、注目されている要素を加味できていない。したがって、このDEXA法は、骨粗鬆症の診断、治療に対する近年の要求を完全には満たしていないものである。
<特許文献2について>
一方で、前述した特許文献2においては、連続X線を成す光子のエネルギースペクトラムを例えば3つのエネルギー領域に分割して、その各エネルギー領域の実効エネルギーに対応した線減弱係数をμ、μ、μを各次元とする3次元空間のベクトルまで求めている。したがって、この3次元ベクトルが持つ物理的な意味を骨の評価に当てはめると、この3次元ベクトルの方向及び大きさは、骨質と骨密度(骨塩量)を含む骨の状態を示す指標の一つであると考えられる。
その理由は、呼称が同じ物質(例えば、骨)であっても、その物質の組織を通過するX線光子の減弱度合は、そのX線光子のエネルギーの高低によって異なるが、呼称が同じ物質であっても、それを構成する組成が異なれば、X線減弱の観点からは、異種の物質と考えることができるからである。例えば、低いエネルギーのX線光子の減弱に比して、高いエネルギーのX線光子の減弱が大きい骨とそうでない骨とでは、同じ“骨”という物質であっても、前述の3次元ベクトルの方向は互いに異なる。つまり、ベクトルの方向及び大きさは、骨塩量のみならず、骨を構成する組成や成分の違い(つまり、骨質の違い)をも示す指標の一つであると言える。
しかしながら、この特許文献2で提案される、物質厚さtに依存しない3次元ベクトルの散布図を用いたとしても、また、吸収ベクトル長画像と呼ばれる、正規化しない3次元ベクトルの長さ情報だけを用いたとしても、骨粗鬆症の診断や治療に要求される、骨密度及び骨質の計測や評価には物足りない。すなわち、そのままでは、共に精度良いものではない。
例えば、手をX線撮影して、その部分に写り込んでいる骨の骨塩定量(骨塩とは無機質の骨ミネラルを言い、化学物質としてはハイドロキシアパタイトであることが知られている)を行うことを考える(説明の都合上、骨は硬組織(骨塩に相当)からのみで構成されるとする)。この場合、そのX線画像に写り込んだ骨部分に関心領域を設定する。その領域を成すX線検出器の各画素へ至るX線パスには、皮膚・筋肉などの軟組織と骨部分の硬組織との両方が存在している。このため、X線検出器では軟組織と硬組織の減弱係数と厚さに依存した計数値が収集される。このため、この計数値から前述した3次元ベクトルを演算したとしても、硬組織(骨塩)による減弱特性を正確に反映した3次元ベクトルを求めることはできない。したがって、それに基づいた骨塩定量を、より高い精度で行うことは困難である。
なお、上述した問題点は、骨塩定量を例示してX線一般撮影領域における骨粗鬆診断について述べてきたが、対象物の種類や形状を特定したいという所謂、物質同定の分野を俯瞰してみると、必ずしもX線一般撮影の分野に限定される話ではない。例えば、歯科での骨塩定量や食品の異物を検査する場合であっても、X線パス上に2つの減弱係数が異なりかつそれぞれの厚さの不明な物質が存在する場合に、それらの物質のうちの注目している物質1つの性状を簡単に同定することは難しい。
そこで、本発明は、従来の光子計数型のX線検出における上述した物質同定に鑑みてなされたもので、対象が実質的に2種類の既知の物質A,Bから成る場合であっても、その一方の注目している物質Aの性状を、より簡単な演算で且つより精度良く、さらに、骨密度及び骨質などのように、その注目している物質の性状の情報をより多面的に提供することができる、光子計数型のX線検出に適したデータ処理装置、データ処理方法、及びそれらを搭載又は実装してX線装置を提供することを、その目的とする。
上記目的を達成するため、本発明の一態様に係るデータ処理装置は、n個(nは2以上の正の整数)の互いに異なるエネルギー領域を含む連続X線が、当該X線の透過特性に関して実質的に2種類の既知の物質A,Bから成る対象に照射され、当該対象を透過した前記X線が、複数の画素を有するX線検出器により検出データとして検出されるときに、当該検出データに基づく処理を行う。このデータ処理装置は、前記X線検出器により検出された前記検出データに基づき前記対象のX線像を作成してモニタ上に表示するX線透過像提供手段と、前記モニタに表示された前記X線像上で、前記X線のパスの方向において前記物質A,Bの合計の厚さが一定と推定される部分にROI(region of interest)を設定するROI設定手段と、前記n個のエネルギー領域のそれぞれにおいて前記X線の前記対象を透過するときの線減弱値に相当し、且つ、前記ROIを成す複数の前記画素に渡って大きさが平均化された1つのn次元の線減弱ベクトルを前記検出データに基づいて演算する線減弱ベクトル演算手段と、前記2種類の物質A,Bのうち、一方の物質Bのみを前記X線が透過したと仮定したときの、当該物質Bの線減弱値に相当する前記n次元の参照ベクトルを推定又は仮定して保持する参照ベクトル保持手段と、前記物質Aのみに等価な前記線減弱値に相当する前記n次元の目的ベクトルを、前記線減弱ベクトル演算手段により演算された前記n次元の線減弱ベクトルから前記n次元の参照ベクトルを減算する目的ベクトル演算手段と、を備えたことを特徴とするデータ処理装置、である。このとき、当該データ処理装置に、参照ベクトルを推定または仮定する演算手段を備えることもできる。
また、本発明に係る別の態様として、データ処理方法が提供される。このデータ処理方法は、n個(nは2以上の正の整数)の互いに異なるエネルギー領域を含む連続X線が、当該X線の透過特性に関して実質的に2種類の既知の物質A,Bから成る対象に照射され、当該対象を透過した前記X線が、複数の画素を有するX線検出器により検出データとして検出されるときに、当該検出データに基づく処理を行う。このデータ処理方法によれば、前記X線検出器により検出された前記検出データに基づき前記対象のX線像を作成してモニタ上に表示し、前記モニタに表示された前記X線像上で、前記X線のパスの方向において前記物質A,Bの合計の厚さが一定と推定される部分にROI(region of interest)を設定し、前記n個のエネルギー領域のそれぞれにおいて前記X線の前記対象を透過するときの線減弱値に相当し、且つ、前記ROIを成す複数の前記画素に渡って大きさが平均化された1つのn次元の線減弱ベクトルを前記検出データに基づいて演算し、前記2種類の物質A,Bのうち、一方の物質Bのみを前記X線が透過したと仮定したときの、当該物質Bの線減弱値に相当する前記n次元の参照ベクトルを推定又は仮定して保持している当該参照ベクトルを、前記線減弱ベクトル演算手段により演算された前記n次元の線減弱ベクトルから減算して、前記物質Aのみに等価な前記線減弱値に相当する前記n次元の目的ベクトルを演算する、ことを特徴とする。このとき、好適には、当該データ処理方法に、参照ベクトルを推定または仮定する演算処理が含まれる。
このデータ処理装置及びデータ処理方法を、一例として、骨塩定量装置に搭載することができる。その場合の一例として、物質Aは被検体の手足の骨(硬組織)であり、物質Bはその皮膚及び筋肉(軟組織)である。
本発明によれば、n個(nは2以上の正の整数)の互いに異なるエネルギー領域を含む連続X線が、当該X線の透過特性に関して実質的に2種類の既知の物質A,Bから成る対象に照射され、当該対象を透過した前記X線が、複数の画素を有するX線検出器により検出された計数値に基づく処理が行われる。
より具体的には、前記計数値に基づき前記対象のX線像が作成されてモニタ上に表示される。このモニタに表示されたX線像上で、X線のパスの方向において前記物質A,Bの合計の厚さが、例えば一定と推定される部分にROI(region of interest:関心領域)が設定される。さらに、前記n個のエネルギー領域のそれぞれにおいて、前記X線の前記対象を透過するときの線減弱値に相当し、且つ、前記ROIを成す複数の前記画素に渡って大きさが平均化された1つのn次元(nは2以上の正の整数)の線減弱ベクトルが前記計数値に基づいて演算される。前記2種類の物質A,Bのうち、一方の物質Bのみを前記X線が透過したと仮定したときの当該物質Bの線減弱値に相当する前記n次元の参照ベクトルを、前記線減弱ベクトル演算手段により演算された前記n次元の線減弱ベクトルから減算して、前記物質Aのみに等価な前記線減弱値に相当する前記n次元の目的ベクトルが演算される。このとき、参照ベクトルは、理論的に又は実験等によって事前に設定されているか、参照ベクトル演算用のROI設定が可能な被写体の場合(例えば、前記X線パス上に物質Bのみで構成されている場所が存在する場合など)は、リアルタイムにあるいは1枚の画像の中から、前記線減弱ベクトルの導出方法と類似の方法により、適宜演算される。
このため、連続X線を照射して得たX線像上で、所望の部分である、物質A,Bの合計の厚さが、例えば一定と推定される部分にROIが設定される。さらに、そのROIを成す複数の画素に渡って大きさが平均化された1つのn次元の線減弱ベクトルが演算される。このn次元の線減弱ベクトルは、そのROIにおいて種類の異なる2つの物質A,Bが合成されたX線透過特性を反映したものになる。
そこで、物質Aを対象(例えば人の手足)に含まれる例えば骨部分の組織(硬組織)とし、物質Bをその部分の筋肉及び皮膚の組織(軟組織)とし、目的部位は骨部分(物質Aの存在する部分)であるとする。この場合、筋肉及び皮膚の組織は診断に邪魔な部分に相当する。しかし、この物質BをX線が透過したと仮定したときの、当該物質Bの線減弱値に相当し且つ予め設定された前記n次元の参照ベクトルの情報が予め例えばメモリに保持されているか、容易に演算できるので、この参照ベクトルの情報をメモリから読み出すか演算する。さらに、この参照ベクトルが、前記2つの物質A,Bの合成されたX線透過特性に相当するn次元の線減弱ベクトルから減算される。これにより、前記物質Aのみに等価な線減弱値に相当するn次元の目的ベクトルが得られる。
このため、物質Aである、例えば骨部分のみのX線減弱を示す目的ベクトルが得られる。この目的ベクトルは、低いエネルギーから高いエネルギーまで連続するエネルギー分布を持つ連続X線の光子が骨部分の組織を通過するときの減弱度合を反映しているので、その骨部分の密度や骨質の状態(性状)をより的確に表した計数値を収集できる。そのうえ、ROI部分に物質A,B双方が含まれるとしても、目的とする物質Aのみの線減弱を反映した目的ベクトルをベクトル減算という容易な演算によって、より高精度に抽出できる。
つまり、従来の場合、物質A、Bの種類(骨とか筋肉とか概念的な種類)は既知であり且つそれらの合計厚さが一定だったとしても、それぞれのX線パス方向の厚さは不明であるとともに異なる2つのX線透過特性の物質が存在しているため、目的とする物質AのみのX線減弱に基づくベクトル情報を簡単な演算で且つ精度良く求めることは困難であった。
しかしながら、本願発明によれば、目的とする物質Aのみの線減弱を反映した目的ベクトルの導出を、関心領域毎のベクトル演算により簡単に、且つ、精度良く行うことができる。
また、本願発明によれば、関心領域毎に物質Aの目的ベクトルが得られ、そのベクトルの長さが、例えば骨の場合には単位体積当たりの骨量(骨密度)を示し、そのベクトルの方向が、例えば骨の場合には骨質を示す、など、関心領域毎に、より多面的な物質の性状(状態)を示す情報を提供することができる。従来のように、骨密度だけに基づく情報を提供する処理とは異なり、提供する性状情報の豊富化を図り、例えば骨粗鬆症の診断・治療の求められている要求に応えることができる。
この作用効果は、本願発明に係るデータ処理方法及びX線装置においても同様に享受される。
ここで好適には、前記参照ベクトルは、i)前記対象の前記X線照射する部位の厚さを含む外形サイズ、または、重量から推定する、又は、ii)予め統計的に収集してデータベース化した参照表から読み込む、iii)前記対象の撮影部位の内の前記物質Bのみである部分領域において前記線減弱ベクトルと同等である(物質Bのみなので、この領域内では前記線減弱ベクトル=参照ベクトル=物質Bのみの線減弱ベクトル)と見做されて事前に求められ保存されている参照ベクトルを呼び出す、もしくは、前記物質Aを含む関心領域の線減弱ベクトルを計測する際に同時に前記対象の撮影部位の内の前記物質Bのみである部分領域において前記線減弱ベクトルと同等であると見做して演算することにより設定することでよい。また、例えば、物質Bの部分が呈する参照ベクトルの方向が判れば、その大きさは実験や理論計算から推定して予め保持していた情報を使うことができる場合がある。このため、その場合ベクトル減算に必要な演算を更に簡単化できる。
さらに、参照ベクトルの方向自体も実験的、経験的に取得していた方向情報を事前に保有しておいて、必要なときに呼び出すようにしてもよい。これにより、参照ベクトルの演算量が極めて簡単になる。
添付図面において、
図1は、本発明の1つの実施形態に係る、データ処理装置を搭載したX線検査システムの概要を説明するブロック図である。 図2は、光子計数型検出器に設定したエネルギー領域とX線エネルギースペクトラムの一例を説明する図である。 図3は、単一物質モデルとエネルギー領域別の光子計数との関係を説明する図である。 図4は、複数物質モデルとエネルギー領域別の光子計数との関係を説明する図である。 図5は、データプロセッサにより実行される、物質同定の処理及びその前処理の概要を説明するフローチャートである。 図6は、データプロセッサにより実行される物質同定の前処理を説明する図である。 図7は、本実施形態においてデータプロセッサにより実行される物質同定の中心部分を説明する概略フローチャートである。 図8は、エネルギー領域毎の画像の関心領域の各画素から、X線吸収量の3次元ベクトルの生成を説明する図である。 図9は、3次元散布図の作成から同定情報の提示までの処理を説明する概略フローチャート。 図10は、前述した実施形態に係る図7のステップS134の処理をより詳細に説明する部分フローチャートである。 図11は、正規化された3次元散布図を模式的に説明する斜視図である。 図12は、3次元散布図から物質固有の散布点からの3次元ベクトルの生成を説明する図である。 図13は、対象物として手の甲(指)の骨へのROI設定から、そのROIで指定された骨部分のみを代表する1つの目的ベクトルを演算するまでの過程を説明する図である。 図14は、データプロセッサが実行する骨塩定量の処理を説明する概略フローチャートである。 図15は、指部分の断面と通過するX線パスの関係を説明する図である。
以下、添付図面を参照して、本発明に係る、X線検査用のデータ処理装置及びデータ処理方法の実施形態を説明し、そのデータ処理装置を搭載したX線検査装置を変形例として説明する。
[実施形態]
まず、図1〜図15を参照し、1つの実施形態として、本発明の一態様に係るX線検査用のデータ処理装置及びデータ処理方法を説明する。図1は、X線検査システムの概略構成を示す。このX線検査システムは、X線装置として機能するX線検査装置10を備える。
このX線検査システムは、本発明の一態様に係る、骨密度測定(骨塩定量)を行うためのデータ処理装置及びデータ処理方法を搭載及びインストールしたデータ処理装置12をも備える(図1参照)。このデータ処理装置12は、X線データを収集するシステムの一要素として一体に組み込んでもよいし、X線データ収集システムとは別個の汎用のコンピュータとしてスタンドアロン方式で設けてもよい。スタンドアロン方式の場合には、X線データ収集システムとは例えばインターネットを介して接続可能の構成とし、かかるコンピュータはX線収集データを読み込んで骨塩定量の処理を実行するようにも構成できる。
なお、このデータ処理装置12は、骨塩定量のための処理以外の処理をも実行するように、必要な他のプログラムを事前にインストールしておいてもよい。
さらに、このX線検査システムにおける、骨塩定量を行う機能的な構成及び作用効果を除くと、本出願人が既に開示している公報「WO 2016/171186 A1」(発明の名称:X線検査用のデータ処理装置及びデータ処理方法、並びに、その装置を搭載したX線検査装置、出願人:株式会社ジョブ)に記載の装置と同様に構成できる。但し、本実施形態においては、X線ビームをコリメータと共にスキャンすることは必ずしも必須ではなく、スキャンをしないで一回のX線照射に依るスポット撮影(単純撮影)であってもよい。
また、本実施形態に係る骨塩定量は、本出願人が既に提案している、所謂、物質同定と併用して行うことが有効である。このため、本実施形態の説明において、X線検査システムの構成、物質同定の処理、及び、骨塩定量の処理の順に、順番に説明する。
<X線検査システムの構成>
図1に示すように、X線検査装置10にはデータ処理装置12が通信ラインLNを介して通信可能に接続されているが、このデータ処理装置12はX線検査装置10の例えば制御部と一体に組込まれていてもよいし、別体で設置されていてもよい。
X線検査装置10は、本実施形態では、被検者としての患者(人体)の手、足(検査対象OB)のX線画像(ラミノグラフィー法に基づく再構成画像又はスポット撮影で得られるX線透過画像)に基づき骨塩定量を行うように構成されている。勿論、この装置10を例えば、X線による食品の異物検査等の非破壊検査システム、又は、医用のX線パノラマ撮影システムとして提供してもよい。骨塩定量も広義には、非破壊検査の一態様と考えることができる。
以下、本実施形態に係るX線検査装置10は、X線ビームと被検体との間での相対的な移動によってX線ビームをスキャンさせるラミノグラフィー法による骨塩定量を行うものとして説明する。
非破壊検査の一態様である骨塩定量を行う場合、本実施形態に係るX線検査用のデータ処理装置及びデータ処理方法は、X線が物質を透過するときの吸収情報(あるいは減弱情報)に基づき、その物質の種類や性状を同定(特定、弁別、識別、或いは決定とも言える)する処理を行うことを基本要素としている。以下の説明において、この処理を総括的に「物質同定」と呼ぶこともある。
このX線検査装置10は、図1に示すように、仮想的に、X、Y、Z軸の直交座標系を設定できるオブジェクト空間OSを有する。このうち、Z軸方向は、非破壊検査の場合にオブジェクト空間OSにおいてスキャン方向に相当させる。この装置10は、Z軸方向に所定のコーン角θを有し、且つ当該スキャン方向に直交する断面(XY面)に沿った方向(Y軸方向)に所定のファン角βを有するX線ビームXBを発生するX線管21及びコリメータ22を備えたX線発生器23を備える。X線管21は、点状のX線管焦点F(焦点径は例えば1.0mmφ)を有する、例えば回転陽極X線管である。このX線管21には、図示しないX線高電圧装置からX線照射のための駆動用高電圧が供給される。
さらに、X線検査装置10は、X線管21に一定距離だけ離間して対向可能に配置されたX線検出器24(以下、単に検出器とも呼ぶ)を備える。検出器24は、複数のモジュールをライン状に繋いで構成され、これにより、検出器24は、その全体として、細長い矩形状のX線入射窓を有する。各モジュールは、CdTe,CZT(CdZnTe)などの半導体材料から成る検出層を例えば20×80個の画素(各画素は0.2mm×0.2mmのサイズを持つ)に成形した、X線から電気信号に直接変換する、所謂、直接変換型のX線検出要素である。この複数の画素を成す検出層の両面には、図示しないが、実際には荷電電極と収集電極とが貼設されている。この両電極間にバイアス電圧が印加される。
この検出器24は、X線を様々なエネルギーを有する光子(フォトン)の集合であると見做して、それらの光子の個数をエネルギー領域別に計数可能な光子計数型(photon counting type)の検出器である。このエネルギー領域としては、例えば図2に示すように、4つのエネルギー領域Bin〜Binが設定されている。勿論、このエネルギー領域Binの数は複数であればよい。
この検出器24では、その画素毎に、且つ、エネルギー領域Bin毎に、X線強度が、単位時間当たりのX線のフォトン数として検出される(実際には一定時間の累積フォトン数を計測する)。1個のフォトンがある画素に入射すると、そのエネルギー値に応じた波高値の電気パルス信号がその画素に対応する収集電極に発生する。この電気パルス信号の波高値、すなわちエネルギー値は、収集電極より後段の計測回路により、所定のエネルギー領域Bin毎に分類され、その計数値が1つ増える。この計数値は一定時間毎の累積値(デジタル値)として画素毎且つそのエネルギー領域Bin毎に収集される。
この収集は、検出器24の検出層の下面にASIC層として作り込まれているデータ収集回路25により行われる。検出器24及びデータ収集回路25により、検出ユニット26が構成されている。このため、検出ユニット26、即ちデータ収集回路25から一定の画像転送速度(フレームレート)でX線透過データ(フレームデータ)がデータ処理装置12に送られる。なお、フレームとは、データ転送単位で、例えば、各画素で一定時間に収集されたデータを静止画のようにまとめたものをいう。
このような構成を持つX線検査システムの一例は、例えば特開2007−136163、国際公開公報WO 2007/110465 A1、同WO 2013/047778 A1に示されている。また、上述した光子計数型検出器24の例も、例えば国際公開公報WO 2012/144589 A1に示されている。
なお、このX線検査システムを例えば歯科用のX線パノラマ撮影に使用する場合、検査対象OBは被検者の頭部である。その場合、X線発生器23及び検出器24の対は、その頭部の周囲において例えば頭部を挟んで互いに対向した状態で回転移動する。このX線パノラマ撮影に関するスキャン構造も、例えば特開2007−136163に示されている。骨塩定量は必ずしも手足の骨に限らず、体内の様々な部位の骨で実施される。このため、被検者の顎部も骨塩定量の対象の一つである。
さらに、データ処理装置12は、X線検査装置10から通信ラインLNを介してX線透過データ(フレームデータ)を受信する。
このデータ処理装置12は、以下に詳述するように、このX線透過データを処理して検査対象それ自体を成す物質やその検査対象の注目部位に在る物質の種類又は性状に固有の情報(固有情報)を取得し、更には検査対象に異物等の他の物質が存在しているか否かを検出したり、骨塩定量を行ったりすることができるように構成されている。
[物質の固有情報の取得、及び、骨塩定量のためのデータ処理]
以下、データ処理装置12の構成及びその動作を、物質同定と共に行う骨塩定量に基づいて説明する。
データ処理装置12は、一例として、コンピュータシステムCPにより構成される。このコンピュータシステムCP自体は、図1に示すように、公知の演算機能を持つコンピュータシステムであってよく、検出ユニット26に通信ラインLNを介して接続されたインターフェース(I/O)31を備える。このインターフェース31には、内部バスBを介して、バッファメモリ32、ROM(read-only memory)33(“Non-transitorycomputer readable medium”として機能する)、RAM(random access memory)34、CPU(centralprocessing unit)を備えたデータプロセッサ35(このデバイスの呼称は、単にプロセッサ又はコンピュータなどであってもよい)、画像メモリ36、入力器37、及び表示器38が互いに通信可能に接続されている。
ROM33には、コンピュータ読出し可能な物質同定及び骨塩定量のプログラムが予め格納されており、データプロセッサ35がそのプログラムを自分のワークエリアに読み出して実行する。バッファメモリ32は、検出ユニット26から送られてきたフレームデータを一時的に保管するために使用される。RAM34は、データプロセッサ35の演算時に、演算に必要なデータを一時的に記憶するために使用される。
画像メモリ36は、例えば、SSD(ソリッドステートデバイス)やHDD(ハードディスクドライブ)で構成され、データプロセッサ35により処理された各種の画像データや情報を保管するために使用される。入力器37及び表示器38は、ユーザとの間のマン・マシンインターフェースとして機能し、このうち、入力器37はユーザからの入力情報を受け付ける。表示器38は、データプロセッサ35の制御下において画像等を表示することができる。インターフェース31、入力器37、及び表示器38により外部からの情報(例えばユーザからの情報)を入手するインターフェース部が構成される。
・光子計数法によるデータの収集と物質モデルとの関係
次に、X線管21から照射されたX線(ファン状のビームX線)が被検体OBを透過し、その透過X線が光子計数(フォトンカウンティング)法の下で検出器24により収集(計数)されるときの物質モデル毎のデータ収集の概念を図2〜4を用いて説明する。
図2に、横軸にX線のエネルギー[keV]をとり、縦軸にX線を成す光子(フォトン)の入射頻度(カウント)をとったときの、X線検出器で測定されたX線スペクトルの一般的なプロファイルを示す。光子計数の場合、周知の如く、横軸のエネルギーを複数のエネルギー領域Binに分けるために閾値THが設定される。この図2の例では、4つの閾値TH,TH,TH,THが比較器(図示せず)への適宜な基準電圧値として与えられ、これにより、使用可能な第1〜第3のエネルギー領域Bin,Bin,Binが設定される。なお、第1のエネルギー領域Binよりも下のエネルギーはノイズが多く計測不能なエネルギー領域に属し、一方、最上位の閾値THよりも上側に位置する第4のエネルギー領域Binは光子計数には関与しないとして、使用されない。このため、この例の場合、最上位及び最下位のエネルギー領域を除く、第1〜第3の3つのエネルギー領域Bin,Bin,Binが光子計数に使用される。
この図2に示す頻度のプロファイルの形状はX線管21の陽極材の種類や管電圧によっても決まり、通常、図示の如く、第2のエネルギー領域Binのカウントが一番大きくなる。このため、エネルギー領域毎の計数値(頻度、カウント)のバランスを考慮して適宜に閾値THが決められる。この4つの閾値TH〜THは、データ収集回路25を成すASICにおいて検出器24の画素毎に比較器への電圧閾値として設定される。このため、X線光子は、画素毎に且つエネルギー領域毎に計数される。勿論、各画素に閾値THの数は3つ以上であれば任意の数でよい。閾値THの数が3つであれば、使用されるエネルギー領域の数は2つである。さらに、Binに含まれる計数成分がゼロと見なされる場合には、Binの計数に変えて、THを設定せずにBin+Binの値を用いることもできる。この場合には、各画素に閾値THの数は2つ以上であれば任意の正の整数でよい。したがって、この場合は、閾値THの数が3つであれば、使用されるエネルギー領域の数n(正の整数)は2つである。
この計数値からX線透過画像(濃度画像)を作成するときには、様々な形態を採ることができる。検出器24のX線入射面を成す画素毎に、且つ、エネルギー領域Bin毎に計数情報が得られる。このため、検査対象OBを相対的に移動させる場合にはエネルギー領域Bin毎の各画素の計数値に適宜な重み係数を掛けてシフト加算(shift & add)をすれば、あるいは検査対象OBを静止させている場合にはエネルギー領域Bin毎の各画素の計数値をエネルギー領域Bin毎の各画素に単純加算すれば、その各エネルギー領域BinのX線透過データ(フレームデータ)が得られる。また、この3つのエネルギー領域Bin〜Binのうち、任意の2つ又は全てのエネルギー領域Binの計数値に適宜な重み係数を掛けて、同じ位置の画素に対して加算し、1フレームのX線透過データとしてもよい。
このように、エネルギー領域Bin毎にX線光子数を画素毎に収集し、画素への光子エネルギーの寄与度を勘案して画像作成等へ利用可能であるため、用途に応じ自在にエネルギー強調画像を作成でき、従来の積分型のX線透過データの収集に対する優位性がある。
さて、この光子計数法を物質同定に適用する場合、物質(検査対象OBの検査したい部位にある物質:検査対象自身を成す物質であることも、検査対象以外の物質であることもある)が単一の組織からできているのか、複数の組織からできているのかに分けて考え、各組織のX線吸収を考慮することが妥当である。例えば、手足の骨から骨塩定量を行う場合、後述する図15に一点鎖線IBnで示すように、X線は皮膚・筋肉(図15のB部分)、骨(海綿骨、皮質骨)(図15のA部分)、筋肉・皮膚(図15のB部分)の順に透過するので、一般的な呼称としての物質としては、「皮膚・筋肉」による軟組織と、骨による硬組織との2つの部位に大別できる。
(i)物質が単一の組織から成る場合(単一物質モデル)
この単一物質モデルの場合、例えば図15で言えば、A部分とB部分の物質は同一であり、図3(A)に示すように、第1、第2、及び第3のエネルギー領域Bin、Bin、Binそれぞれを代表する線減弱係数はμ、μ、μ(cm−1)とおける。この線減弱係数は、物質のX線に対する固有の透過特性を示す指標である。
このエネルギー領域Bin毎に異なる線減弱係数μ、μ、μを持ち且つ厚さt(cm)の物質にX線が入射するときのモデルは、図示の如く表される。つまり、入射するX線量(光子数)Cl1,Cl2,Cl3がそれぞれ線減弱係数μ、μ、μと厚さtに依存する減弱を受けて、その出力するX線量(光子数)Co1,Co2,Co3
o1=Cl1×e−μ1t
o2=Cl2×e−μ2t
o3=Cl3×e−μ3t
… (1)
と表すことができる。
このため、単一組織から成る単一物質モデルの場合、図3(B)に示すように、X線量(光子数)Cliが、線減弱係数μ,厚さtの物質に入射すると、その出力X線量(光子数)Coi
oi=Cli×e−μit
(i=1〜3)
… (2)
と表すことができる。
(ii)物質が複数の組織から成る場合(複数物質モデル)
この複数物質モデル(n個の組織が層状に重なっているモデル)の場合、そのX線減弱の観点からみると、図4(B)に示すように、物質は厚さt且つ線減弱係数μiaの層、厚さt且つ線減弱係数μibの層、…、厚さt且つ線減弱係数μinの層が積層された層構造であると言える。(添え字iは、1〜3の値を取り、Bin〜Binの添え字に対応している。)そこで、図4(A)に示すように、第1〜第3のエネルギー領域Bin〜Binそれぞれを代表する線減弱係数は各層ごとに線減弱係数が異なることを勘案すると、μ1a、…、μ1n;μ2a、…、μ2n;μ3a、…、μ3n(cm−1)と書ける。このエネルギー領域Bin毎に異なる線減弱係数μ1a、…、μ1n;μ2a、…、μ2n;μ3a、…、μ3nを層状に持ち且つ層厚さt,…,t(cm)の物質にX線が入射するときのモデルは、図示の如く表される。つまり、入射するX線量(光子数)Cl1,Cl2,Cl3がそれぞれ線減弱係数μ1a、…、μ1n;μ2a、…、μ2n;μ3a、…、μ3n且つそれぞれ厚さt,…,tに依存する減弱を受けて、その出力するX線量(光子数)Co1,Co2,Co3
o1=Cl1×e−μ1ata× … ×e−μ1ntn
o2=Cl2×e−μ2ata× … ×e−μ2ntn
o3=Cl3×e−μ3ata× … ×e−μ3ntn
… (3)
と表すことができる。
このため、複数の組成から成る複数物質モデルの場合、図4(B)に示すように、X線量(光子数)Cliの入射に対して、その出力X線量(光子数)Coi
oi=Cli×e−μiata× … ×e−μintn
(i=1〜3)
… (4)
と表すことができる。
[処理手順]
上述した物質モデルによる光子計測と線減弱値μtとの関係を前提にして、データ処理装置12により実行される物質同定及び骨塩定量の処理を説明する。データ処理装置12では、そのデータプロセッサ35が所定のプログラムを実行することにより、図5に示す手順に沿って物質同定及び骨塩定量を行う。勿論、データプロセッサ35は骨塩定量のみを実施するように構成してもよい。
[前処理]
まず、データプロセッサ35は、例えばユーザとの間でインターラクティブに又は自動的に画像取得を行うか否かを判断し(ステップS1)、画像取得のタイミングまで待機する。画像取得が判断された場合(ステップS1,YES)、検出器ユニット26からバッファメモリ32にフレームデータを転送して保存されているか、画像取得の判断の可否に関わらず自動的にバッファメモリ32に転送され既に保存されているフレームデータを例えばRAM34に呼び出す(ステップS2)。このフレームデータは、図6に模式的に示す如く、3つのエネルギー領域Bin、Bin,Binそれぞれに属するエネルギーを持つX線光子の計数値のフレームデータFD,FD,FDと、全エネルギー領域Binall(Bin+Bin+Bin)のX線光子の計数値のフレームデータFDallとから成る。
次いで、データプロセッサ35はユーザとの間でインターラクティブに、又は、自動指示に応じて物質同定及び/又は骨塩定量を行うか否かを判断する(ステップS3)。かかる指示があるまで待機し、終了の指令があるときには処理を終わる(ステップS4)。
[合焦画像の作成]
ステップS3において物質同定及び/又は骨塩定量を行うと判断された場合(ステップS3,YES)、データプロセッサ35はユーザとの間でインターラクティブに、又は、自動的に、例えば、検査対象OBと交差する断面を指定する(ステップS5)。
一例として、インターラクティブに断面の位置を指定する場合、図1に示すように、検出器24からの高さHcをユーザが入力器37を介して指定する例が挙げられる。例えば、図1においてX線透過性の材料形成された例えば寝台BDに載せられた検査対象OB(例えば手や足の甲)の高さ方向(Y軸方向)の高さがHOB又はそれ以上であることが判っている場合、その検査対象OBの高さ方向におけるほぼ中心に相当する高さHの断面を指定すればよい。勿論、この例の場合、検出ユニット26は寝台BDの下側に位置するので、その寝台BDと検出ユニット26の検出器24の検出面との間の隙間分の高さも考慮して高さHcが指定される。すなわちH=HBD+HOB/2として指定できる。検査対象OBの高さが不明又はばらつきがあるときには、高さHcを寝台BDの面の高さに設定しておいてもよい。この場合は、H=HBDとして指定できる。
一方、検査対象OBの断面を自動的に指定したい場合、ステップS5においては断面の指定情報として、高さHcではなく、画素毎に最適焦点化を図る全画素合焦面を設定する旨の指定がなされる。この場合、この全画素合焦面の高さは必ずしも一定ではなく、画素毎に最適焦点化を図るため、検査対象OBに交差するものの画素毎に高さが異なる凸凹を伴っていることが多い。このような全画素合焦面の作成法は、例えば米国特許第8,433,033やPCT/JP2010/62842に例示されている。これらの例示に係る作成にはラミノグラフィー法(又はトモシンセシス法)が使用されている。
このように断面指定が終わると、データプロセッサ35は指定断面の断層像を、例えば全ネルギー領域Binallに対する複数のフレームデータFDallを用いて作成する(ステップS6)。
一定の高さHcが指定されている場合には、その高さHcに相当するシフト量を以ってシフトしながら、複数のフレームデータFDallを相互に重ねて画素加算するラミノグラフィー法の下で作成すればよい。これにより、最適焦点化の位置を指定高さHcに合わせた断層像(ラミノグラフィー像)IMallが作成される(図6参照)。この断層像IMallも合焦の位置が高さHcに限定されてはいるが、合焦画像の1つである。
一方、検査対象OBの全画素合焦面を設定する旨の指定がなされている場合、収集したフレームデータの中の、例えば全エネルギー領域Binallに属する複数のフレームデータFDallを用いて全画素合焦画像IMall´がラミノグラフィー法の下で作成される(図6参照)。この全画素合焦画像IMall´には検査対象OBが写り込んでおり、かつ、その全画素合焦画像IMall´は高さ方向又はX線照射方向において画素毎に最適焦点化された断層像である。この断層像の例として、例えば前述の作成法と同様に、米国特許第8,433,033やPCT/JP2010/62842に記載のものが挙げられる。この公報記載の作成法は、歯科用について例示しているが、この作成法により作成された湾曲した擬似的な3次元画像を2次元画像に変換することで、本実施形態で使用可能な合焦画像としての2次元断層像が作成される。この2次元断層像は、全画素合焦という処理を経ている分、合焦の度合が前述した高さ一定の合焦画像IMallよりも精緻である。本実施形態では何れの合焦画像であってもよいので、以下、単に合焦画像IMallとして説明する。
続いて、データプロセッサ35は、3つのエネルギー領域Bin、Bin,Binから収集されたフレームデータFD,FD,FDそれぞれを用い、前記指定高さHc、又は、例えば全画素合焦面の平均の高さに応じて、ラミノグラフィー法の下で断層像を順次作成する(ステップS7,S8,S9)。これにより、図6に模式的に示す如く、エネルギー領域別の合計3つの合焦画像IM,IM,IMが作成される。この3つの合焦画像IM,IM,IMの作成順は任意である。勿論、この3つの合焦画像IM,IM,IMも、上述と同様に、全画素合焦画像として作成してもよい。
[関心領域の設定]
次いで、データプロセッサ35は全画素合焦画像IMall上で、ユーザとの間でインターラクティブに又は自動的に関心領域ROIを設定する(ステップS10)。この関心領域ROIは、例えば、検査対象OBを成す物質の種類を同定する場合には、合焦画像IMallに写り込んでいる検査対象OBの中の同一物質で構成されていると想定される部分(厚さは変わってもよい)を囲む適宜なサイズの関心領域ROIが設定される。異物検出や病変部特定の場合には、その疑いがある箇所又は病理学に疑わしい箇所を囲むように適宜なサイズの関心領域ROIが設定される(図6参照)。
詳しくは、骨塩定量の場合には、X線のパスの方向において同一の「皮膚・筋肉」及び「骨」であると推定される部分(例えば人差し指の第2関節部分)に)、微小な矩形状の関心領域ROIが設定される(後述する図13(A)参照)。この関心領域ROIは、例えば5mm×5mm程度のサイズであり、画素サイズが200μm×200μmであれば、画素が5×5=25個分のサイズになる。この関心領域ROIは必ずしも矩形でなくてもよく、不定形であってもよい。
この全画素合焦画像IMall上で関心領域ROIが決まると、この領域情報を使ってエネルギー領域別の3つの合焦画像IM,IM,IM上においても同様に関心領域ROIが設定される(図6参照)。
[背景推定及び背景削除]
次いで、データプロセッサ35は合焦画像IMall上で関心領域ROIにおける背景となる画素成分(背景成分)を推定する(ステップS11)。この背景成分は、前述したように、求めたい同定情報が何かによって決まる。物質の種類や性状を同定又は特定する場合、及び、本実施形態のようにX線スキャンにより骨塩定量を行う場合(X線スポット撮影でもよい)、背景成分は、多くは、寝台及び空気を含む既知成分である。異物の種類や病変部の状態を同定(推定)する場合には、それらの既知成分に、検査対象OB自体の成分が異物又は病変部の背景成分として加わる。この背景成分の情報は既知である場合には、それを固定値として、エネルギー領域別の3つの合焦画像IM,IM,IMそれぞれの関心領域ROIから減算される(ステップS12)。
一方、背景成分の量が不明である場合には、その背景成分を推定する必要がある。この推定法としては、適宜な手法、例えば関心領域外側かつ背景成分のみをX線パスに含む、相互に離間した任意の複数の位置の画素値から補間法によって推定すればよい。
なお、上述した前処理は、3つのエネルギー領域別の合焦画像IM,IM,IMそれぞれに関心領域ROIを設定し且つその背景成分を除去することが主な目的である。このため、全エネルギー領域の全画素合焦画像IMallを作成せずに、背景成分を推定するに足る画像、つまり、合焦画像IM,IM,IMの何れかで代替させてもよい。この場合、推定された背景成分のデータベース等を使用し、背景成分推定に直接使用されなかった合焦画像等の背景成分を間接的に推定するようにできる。
[物質同定のメイン処理]
上述のように前処理が終わると、データプロセッサ35は物質同定のためのメインの処理を行う(ステップS13)。このメインの処理は、後述する骨塩定量の処理の一部としても利用されるもので、図7に示すように行われる。
<線減弱値μtの演算>
まず、データプロセッサ35は、3つの合焦画像IM,IM,IMそれぞれにおいて関心領域ROIで囲まれ且つ背景成分が削除された画素値を用いて線減弱値μtを演算する(図7、ステップS131)。ここで、μは物質の線減弱係数(単に、減弱係数とも呼ばれる)であり、tは物質のX線照射方向に沿った厚さである。
前述した単一物質モデル及び複数物質モデルにおいて、各エネルギー領域Bin(i=1〜3)に対して、画素毎に、線減弱値μtは式(2)、(4)を変形した下記の式から演算される。
μt=lnCli−lnCoi
(i=1〜3:単一物質モデルの場合)
… (5)
Figure 2021090488

(i=1〜3、j=a〜n:複数物質モデルの場合)
… (6)
ここで、lnは自然対数を採ることを意味している。
このため、物質に入射(入力)した光子数と物質から出射(出力)した光子数が判れば、線減弱値μtは演算できる。出射光子数Coiは検出器24によりエネルギー領域別に且つ画素毎に検出された光子数である。Cliは実際のX線検査と同じ条件の下で入射するX線のフォトン数であり、例えば、予め設定されている既知の値である。勿論、その都度、実際のX線検査条件の変動を考慮して物質同定時に推定した値であってもよい。
なお、線減弱値μtは、ビームハードニング(線質硬化)現象の影響を受けていることが通常であるから、その補正処理をしたうえで、後述のベクトル演算を行うことが望ましい。ビームハードニングとは、連続X線が物質を通過するときに低エネルギーの光子の方が高エネルギーの光子より多く吸収され、結果的に平均(実効)エネルギーがエネルギーの高い側にシフトする現象である。このビームハードニングが生じると、アーチファクトが発生したり、再構成した画像の画素値を不正確にものにしたりする。ビームハードニングは程度の差こそあれ生じるもので、物質の厚みにも依存している(厚い程、ビームハードニングが大きくなる)。このため、本出願人が既に出願している、例えば、国際公開番号WO 2017/069286 A1に記載の補正処理法に基づき、線減弱値μtをエネルギー領域別に且つ画素毎に補正することが望ましい。
特に、上記ビームハードニングを補正する手法として、本出願人は、既に、国際公開番号WO 2019/083014 A1に記載の手法を採用してもよい。この手法は、より高精度なビームハードニング補正を、より広範囲な実効原子番号Zeffの元素を持つ対象まで低演算負荷で行い、より定量的なX線画像の提示に寄与することを目的として提案されている。
この補正手法は様々な態様で提案されているが、その一態様によれば、所望範囲(Zmin〜Zmax)の実効原子番号から所望の実効原子番号(例えばZm=7)を指定し、この指定された実効原子番号(例えばZm=7)の元素から成る物質に単色X線が照射されたと仮定したときの前記2次元座標上の直線を目標関数として設定する。さらに、2次元座標上で、横軸方向に目標関数の傾き(μ/ρ)を乗算して、複数の実効原子番号(例えばZ=5〜14)それぞれの複数の曲線を当該実効原子番号の変数であるとして一般化する。さらに、この一般化された複数の曲線の中から、指定された実効原子番号(例えばZm=7)の元素の曲線を指定し、この指定曲線と他の曲線との残差に基づく、前記ビームハードニングを補正するためのビームハードニング補正関数を前記補正情報として、記憶部に事前に記憶する。このため、一般化された目標関数と、所定の実効原子番号の範囲において指定した実効原子番号の残差に関する情報を保有していれば、上述の手順で、ビームハードニング補正関数を演算できる。したがって、予め設定する実効原子番号の範囲をより広く持っていても、ビームハードニング補正関数を演算する上で、その広さに比例したほどの演算量にならなくて済む。つまり、より広範囲な実効原子番号Zeffの元素を持つ対象物について、より少ない演算負荷でビームハードニング補正できる。
なお、医療検査の場合、***や手足の軟部組織では、より単純化された物質から構成されていると見做すことができ、さらに、その撮影部の圧迫又は固定に用いる器具が使用される場合であっても平板構造かつ材質が既知であるため、背景除去の精度が良く、この線減弱値μtはより精度良く演算可能である。また、食品などの非破壊検査においても、前述のように背景成分を適宜に推定できれば、その背景成分を除去した後の画素情報から線減弱値μtは精度良く演算可能である。
次いで、データプロセッサ35は、上述した3つのエネルギー領域Bin〜Binの合焦画像IM〜IMにおいて、それらの関心領域ROIを成す各画素の線減弱値μtをピックアップし、ベクトル化する(ステップS132:図8参照)。
つまり、各画素について3次元の線減弱ベクトル(μt、μt、μt)を作成する(図8参照)。この3次元線減弱ベクトル(μt、μt、μt)には未だ厚さt及び密度のファクタが含まれているので、このベクトル自体は厚さt及び密度に由来するX線減弱量を示しているに過ぎず、物質固有の指標になり得ない。それは、X線スキャノグラムやX線単純撮影と同様に、厚みtが未知のため、X線に対する物質固有の線減弱係数μ、μ、μを求めることができないからである。さらに、X線を用いた検査や診断の応用では、検査に使用するベルトコンベアの移動速度が速くX線の照射領域をすぐに通り過ぎてしまうことがあり、また、診断のための患者被ばく量低減の目的から、X線量が制限される。このような場合には、検査や診断のために収集された各画素における光子の計数値が少なくなるため、1つの3次元線減弱ベクトル(μt、μt、μt)だけでは、他のノイズ成分に埋もれて、物質固有の情報を求めることは困難である。
そこで、この3次元線減弱ベクトル(μt、μt、μt)を正規化し且つそれを集合で扱うことで物質同定を行う。
まず、各3次元線減弱ベクトル(μt、μt、μt)を下記の式(7)によって単位長さ(長さ1)に正規化(又は規格化)し、厚さt及び物質密度のファクタが入らない3次元質量減弱ベクトル(μ ´、μ ´、μ ´)を作成する(ステップS133)。
(μ ´、μ ´、μ ´
=(μt、μt、μt)/((μt)+(μt)+(μt)1/2
=(μ、μ、μ)/(μ 1/2 …(7)
勿論、この正規化は各3次元質量減弱ベクトル(μ ´、μ ´、μ ´)の長さを揃えることであり、必ずしも長さ=1でなくてもよく、適宜の係数を掛け合わせた任意の長さでもよい。
このように正規化することで厚さt及び密度のファクタは消えるので、線減弱係数μ、μ、μを互いに直交軸とする3次元座標上で、その座標原点に各3次元質量減弱ベクトル(μ ´、μ ´、μ ´)の始点を置けば(ステップS134)、その終点の位置座標はμ´に変化を生じせしめるような物質固有の情報(物質の種類、性状の情報)を表していることになる。
このように本実施形態では、X線減弱を示すベクトル量を、正規化前には3次元線減弱ベクトル(μt、μt、μt)として扱い、正規化後には3次元質量減弱ベクトル(μ ´、μ ´、μ ´)として扱うようにしている。本実施形態では何れも3次元で処理しているが、2次元であっても同様である。
このステップS134における処理は、例えば、図10に示すように、ROM33に予め格納されていた、質量線減弱係数μ ´、μ ´、μ ´を表す直交3軸の座標データを空間生成(表示用)のために読み出し(S134−1)、例えば質量減弱ベクトルの長さが1の場合、この直交3軸の長さ=1を通る部分球面をメモリ空間に設定し(ステップS134−2)、この部分球面に、原点Oから各3次元質量減弱ベクトル(μ ´、μ ´、μ ´)の先端を配置(打点又はマッピングとも呼ばれる)する(ステップS134−3)。
なお、各画素に対する3次元質量減弱ベクトル(μ ´、μ ´、μ ´)の3次元傾き情報は、ステップS134−1で設定した3次元空間において物質の種類や性状によって変化する、物質固有の情報を擬似的に(仮想的に)表す散布データとも言える。このため、この3次元質量減弱ベクトル(μ ´、μ ´、μ ´)の先端が指し示す位置、即ち、3次元質量減弱ベクトル(μ ´、μ ´、μ ´)の3次元傾き情報(つまり、散布点)の集合を「3次元散布図」とも呼んでいる。つまり、物質が変われば、3次元質量減弱ベクトル(μ ´、μ ´、μ ´)の傾きが変わり、その先端が指し示す3次元位置(散布点の位置)も変わるからであり、その3次元位置の情報が検査対象OBを透過する前後のX線フォトンのエネルギーの分布を反映している。
さらに、データプロセッサ35は、各画素に対して、各3次元線減弱ベクトル(μt、μt、μt)の長さを
((μt)+(μt)+(μt)1/2 …(8)
として演算する。この式(8)で表される量は、X線吸収量(またはX線減弱量;X線の撮影領域ではX線の吸収が減弱に与える中で最も大きいので、以降、“吸収”と記載)に対応するもので、これも物質同定の補完情報として有用であり、また従来の吸収画像の代替画像としての画素値を成す。このため、この吸収量を階調化した値を画素値とする画像を作成する(ステップS135)。この3次元線減弱ベクトルの長さは擬似的に(仮想的に)X線減弱値に対応する「吸収ベクトル長」と呼ばれ、これを画素値とした画像は「吸収ベクトル長画像(又は擬似吸収画像)」とも呼ばれている。この吸収ベクトル長画像は、X線の入射エネルギースペクトラムの形状に依存し難いことから安定した画像であり、各線減弱値μtを総合的に反映している。この結果、この吸収ベクトル長画像はコントラストの強い画像になる。この吸収ベクトル長画像を画像メモリ36に保管しておいて、必要なときに表示器38で表示するようにしてもよい。特にX線のビームハードニングが強い質量の大きな物質に対して特徴的な画像を得ることができる。
最後に、データプロセッサ35は、上述した3次元散布図のデータを物質固有情報として、また吸収ベクトル長画像を物質同定の補完情報として画像メモリ36に保存し(図5、ステップS14)、必要に応じて、それらを例えば表示器38を介してユーザに提示する(ステップS15)。
以上のように、光子計数型の検出器24により収集されたエネルギー領域別のX線光子計数値に基づいて、検査対象OBの厚さに無関係に物質固有の情報を取得することができる。これは以下に説明する物質固有情報の表示及び解析と組み合わせると大いなる優位性を発揮する。
[物質固有情報の表示及び解析の一例]
この物質固有情報の表示及び解析の処理は、例えば前述したステップS15の一環として実行される。データプロセッサ35は、例えばユーザから指示に応えて、上述した物質固有情報を表示する。具体的には、3次元質量減弱ベクトルの各要素μ ´、μ ´、μ ´を3軸とする3次元座標空間に原点を中心とする半径=1の球表面を設定する(図9、ステップS31)。
次いで、各画素の3次元質量減弱ベクトル(μ ´、μ ´、μ ´)から成る3次元散布図をその3次元座標空間の原点を始点とし、その終点を、一例として、同一面として機能する球表面上(半径=1に正規化された球面)にマッピング(打点)して表示する(ステップS32)。このマッピングされた球表面上の終点の集合は物質固有の情報に基づく、物質固有の散布点の集合となる。このため、たとえ画素間で厚さtが互いに異なる物質が検査対象であったとしても、その厚さtのファクタには依存しない散布点の集合が得られる。
図11に、この散布点の集合を3次元散布図として、正規化された球表面の一部(同一面の一部)に打点した例を模式的に示す。
次いで、データプロセッサ35は、図12(A)に示すように、例えば関心領域ROIを成す各画素の全部または一部に対して導かれた散布点をグループ化し(点線の囲み参照:ステップS33)、同図(B)に示すように、グループ分けされた散布点の重心位置GRを演算する(ステップS34)。次いで、同図(C)に示すように、各散布点グループの重心位置GRと原点とを結ぶベクトルVobjを演算する(ステップS35)。
グループ化については、分析内容により、適宜その範囲を変更できる。すなわち、関心領域ROIを成す各画素の全部に対して導かれた散布点をすべてグルーピングしても良いし、一旦すべてグルーピングした後、統計的にイレギュラーな(前記重心位置から大きく離間する)散布点を除去してから再グループ化するなどしても良い。あるいはROIの範囲が適切でなく、画素の面内方向に複数物質が広がっている場合には、当然に散布点が広がったり、離間したりするので、近接した散布点でグループ化が可能なようにROIを設定し直すか、ユーザまたは自動判定ソフトウェアが散布点上でグループ化対象範囲を指定して、グループ化を行っても良い。
次いで、このベクトルVobjを予め保有している基準データに比較して、物質の種類や性状を同定又は特定する(ステップS36)。基準データには、例えば記憶テーブルとして、予め物質の種類や性状に応じて測定したベクトルVobjの3次元傾きが許容幅と共に記憶されている。このため、演算したベクトルVobjの傾きがその許容幅に入るか否かで物質同定を行うことができるとともに、ノイズとなるベクトル情報を排除できる。同定された情報は保存される(ステップS37)。
このベクトルVobjは、関心領域ROIを成す複数の画素それぞれの3次元線減弱ベクトル(μt、μt、μt)の方向を平均化した平均ベクトルに相当する(但し、その長さは正規化されている)。
なお、前述したステップS15において、3次元散布図及び吸収ベクトル長画像は様々な態様で提示・提供できる。例えば、データプロセッサ35は、3次元散布図及び吸収ベクトル長画像を表示器38に分割表示してもよいし、最初に3次元散布図を表示し、ユーザから要請に応じて補助的に吸収ベクトル長画像を表示させるようにしてもよく、またその逆でも良い。また、ユーザからの要求により、一旦表示した画面上で、散布点のグループ化の範囲を再指定したり、ROIの範囲を再指定したりしてもよい。
<骨塩定量>
例えば被検者の手の甲OB(指)において骨塩定量を行う場合、図14の処理がデータプロセッサ35により実行される。
図14のステップS51でYES、即ち、骨塩定量を行う場合、既に、前述したステップS10において手の指FG(例えば、第2関節と第3関節の間の部分で、「皮膚・筋肉、骨、筋肉・皮膚」の複数物質モデルに合致する場所)の指定断面の断層像IMALLに関心領域ROIが設定されている(図13(A)、(B)参照)。ここでは、既に前述したステップ132において、この関心領域ROIの各画素PXにおける3次元線減弱ベクトル(μt、μt、μt)が演算されている(図13(C)参照)。この3次元線減弱ベクトル(μt、μt、μt)は、前述したステップS131,S132により機能的に構成される画素別ベクトル演算手段により演算されるn次元(ここでは3次元)の空間ベクトルに相当する。
そこで、データプロセッサ35は、骨塩定量を行う場合、前述したステップS31〜S35の演算により関心領域ROIの各画素PXの前記3次元線減弱ベクトル(μt、μt、μt)を利用して求めた散布点グループそれぞれの平均ベクトルであるベクトルVobj(但し、長さは正規化されている)を示す情報を画像メモリ36から自分のワークエリアに呼び出す(ステップS52:図13(D)参照)。この骨塩定量の場合、X線パスIBn(図15)に示すように、「皮膚・筋肉のB部分、骨のA部分、筋肉・皮膚のB部分」の順にX線が透過するので、上記ベクトルVobjはそのX線パスIBn上に存在する物質全部の合成特性で決まる1つの散布点グループを成す(但し、ノイズに因る広がりを持つ)。ベクトルVobjにより、関心領域ROIを代表する代表ベクトル(3次元質量減弱ベクトル)の方向が判る。
さらに、データプロセッサ35は、ステップS135で関心領域ROIの各画素PXについて既に演算していた吸収ベクトル長画像を成す吸収ベクトル長を示すデータを、画像メモリ36から自分のワークエリアに読み出す(ステップS53)。この吸収ベクトル長は、骨塩定量の場合、前述した定義に従えば、3次元線減弱ベクトルの長さに相当するもので、「皮膚・筋肉、骨、筋肉・皮膚」を透過したX線の擬似的な(仮想的な)X線減弱値におおよそ対応する。
そこで、データプロセッサ35は、読み出した各画素PXに対する吸収ベクトル長の平均値を演算する(ステップS54)。これにより、関心領域ROIを成す複数画素PXの3次元線減弱ベクトルの長さの平均値が判る。
したがって、データプロセッサ35は、ステップS52で求めていたベクトルの方向とステップS54で求めていた吸収ベクトル長の平均値とを持つ3次元ベクトルを、関心領域ROIを代表する3次元代表ベクトル(3次元線減弱ベクトルの平均;以下、3次元代表ベクトルと呼ぶ)Vobj-dとして演算する(ステップS55:図13(E)参照)。
なお、このステップS55で実施し得る、3次元代表ベクトル(3次元線減弱ベクトルの平均)Vobj-dを演算する変形例として、3次元線減弱ベクトル(μt、μt、μt)を前述したグループ化領域を成す複数の画素について、3次元線減弱ベクトルそのものの要素ごとに平均するベクトル平均手法を用いることもできる。
この3次元代表ベクトルVobj-dは、図15からも判るように、「皮膚・筋肉B」の軟組織、「骨A」の硬組織、及び「皮膚・筋肉B」を順に透過したときのトータルのX線減弱情報を含んでいる。一方で、骨塩定量で欲しい情報は、皮膚及び筋肉で囲まれた骨自体の情報(骨密度、骨量)である。この観点からすれば、この3次元代表ベクトルVobj-dには、皮膚及び筋肉に因る余分なX線減弱情報を含んでいる。
そこで、データプロセッサ35により、例えばROM33に予め設定・保存されている3次元参照ベクトルVrefが読み出される(図13(F)参照:ステップS56)。この3次元参照ベクトルVrefは、皮膚及び筋肉のみをX線が透過したと仮定したときの(図15の仮想線で示すパスIP参照)、当該皮膚及び筋肉の線減弱値に等価な3次元の参照ベクトルであり、予め推定・測定されている。なお、この事前の推定・測定に代えて、3次元代表ベクトルVobj-dを演算する際にほぼ同時に、X線が「皮膚・筋肉B」のみを透過していると思われる部分にROI:ROIref(図13(A)参照)を設定し、前述した3次元代表ベクトルの演算と同様に、3次元参照ベクトルVrefを演算することもできる。
具体的には、この3次元参照ベクトルVrefは、i)対象のX線照射する部位の厚さを含む外形サイズ、または、重量から推定する、又は、ii)予め統計的に収集してデータベース化した参照表から読み込む、iii)対象の撮影部位の内の皮膚・筋肉のみである部分領域において線減弱ベクトルと同等であると見做されて事前に求められ保存されている3次元参照ベクトルVref(3次元は、μt、μt、μtの次元を持つ)を呼び出す、又は、前述したように、iv)対象の撮影部位の内の皮膚・筋肉のみである部分領域(例えば、ROIrefで示す領域(図13(A)、図15参照)において線減弱ベクトルと同等であると見做して3次元参照ベクトルVrefを演算する、ことにより設定される。このうち、項目ivに示した演算を行う場合には、画像データの読み書きが必要で、ROM33からの読み出したデータだけではなく、当然にRAM34も使用し、データプロセッサ35により演算が行われる。
なお、この3次元参照ベクトルVrefの大きさは、通常、3次元代表ベクトルVobj-dのそれよりも相当に小さいが、精度良い骨塩定量を行う上では確実に排除しなければならない量である。
そこで、データプロセッサ35により、既に求められている関心領域ROIを代表する代表ベクトルVobj-dから参照ベクトルVrefを3次元座標上で減算する(ステップS57)。このベクトル減算により、実質的に、目的とする指の骨AのみのX線減弱情報を反映した3次元ベクトルVobj-d´が求められる。この3次元ベクトルVobj-d´を目的ベクトルと呼ぶ。したがって、この目的ベクトルVobj-d´は、指FGの指定断面の断層像上に設定した関心領域ROIの全体を代表し、平均線減弱値をベクトル長さとして持ち、かつ、質量減弱ベクトルの情報を反映した3次元ベクトル方向を持つ。このため、この目的ベクトルVobj-d´は、指の骨を介して骨塩定量を行う場合に、骨量や骨質の状態を反映した情報である。具体的には、発明者らが実施したシミュレーションによれば、目的ベクトルVobj-d´の長さが骨の部位のみの骨量(骨塩量)を強く反映するとともに、ベクトル方向が骨の部位のみの骨質を強く反映する、ものと推定される。
次いで、データプロセッサ35は、上述した目的ベクトルVobj-d´のベクトル長さ及びベクトル方向を可視化する処理を行って表示・データ保存をしたり、骨塩定量結果のデータのみを提示したりすることを行う(ステップS58)。この可視化は読影医や患者に見易い骨塩定量情報を提供するもので、カラー画像化及びその表示、並びに、数値化が典型的のものである。
なお、特に、異物検出において、画像をカラー化して表示することにより、実効原子番号画像として表示することが可能である。例えば、比較的均一(同一物質例えば、チョコレート、シリアル、ミルクの粉など)な商品などの中に異物が混入するような場合に、その商品の物質以外をカラー表示してもよく、これにより、異物検出が可能になる。
<作用効果>
このように、本実施形態に係るX線検査システムによれば、本発明者等が既に提案している、光子計数型X線検出によって得られる各画素PXの3次元線減弱ベクトル(μt、μt、μt)を利用して、物質の性状探索の一態様でもある骨診断のための骨情報(骨量(骨塩量)、骨質)をより精度よく定量できる。
本実施形態によれば、連続X線の透過特性に関して実質的に2種類の既知の物質A(骨(硬組織)),B(皮膚・筋肉(軟組織))から成る対象OB(例えば、患者の手又は足の甲)に照射され、当該対象を透過したX線が、複数の画素を有する検出器24により検出された、3つのX線エネルギー領域Bin〜Binそれぞれにおける計数値に基づく処理が行われる。
具体的には、その計数値に基づき対象OBのX線像が作成されて表示器38に表示される。この表示器38に表示されたX線像上で、X線のパスの方向において同一の骨の部分にROI(region of interest)が設定される。
さらに、3つのエネルギー領域のそれぞれにて前記X線の前記対象を透過するときの線減弱値に相当し、且つ、前記複数の画素それぞれの3次元の空間ベクトル(3次元線減弱ベクトル)が光子計数データに基づき演算される。さらに、複数の画素それぞれの前記空間ベクトルの方向及び大きさを平均化してROIを代表する3次元代表ベクトルVobj-dが演算される。2種類の物質A,Bのうち、一方の物質BをX線が透過したと仮定したときの、線減弱値に等価な当該物質Bの線減弱値に相当する3次元参照ベクトルVrefが、関心領域ROIの代表ベクトルVobj-dから減算されて、当該減算により補正された物質Aのみに等価な目的ベクトルVobj-d´が得られる、このとき、参照ベクトルVrefは、理論的に又は実験等によって事前に設定(推定・評価)され、読出し可能に保持されている。
この参照ベクトルVrefの決定は、表示器38に表示された対象OBのX線像の中から物質Bのみで構成される部分を参照ベクトル決定のための関心領域ROIrefとして設定して、その部分の3次元線減弱ベクトルを算出した後に、ROI部分とROIref部分の物質Bの厚さの相関情報(実測でも良いし、事前の実験から統計的に決定され、保持されていてもよい)から、ROIref部分の3次元線減弱ベクトルの大きさを調整して、参照ベクトル(ROI部分の物質Bのみの3次元線減弱ベクトルVref)を推定または演算するようにしても良い。特に、実測で3次元の代表ベクトルVobj-dを算出した部分の対象OBの厚さと、参照ベクトルVrefを算出した部分の対象OBの厚さとが判れば、目的ベクトルVobj-d’を解析的に算出できる。
上述した目的ベクトルVobj-d’は、低いエネルギーから高いエネルギーまで連続するエネルギー分布を持つ連続X線の光子が骨部分の組織を通過するときの減弱度合を反映しているので、その骨部分の密度や骨質の状態(性状)をより的確に表した計数値を収集できる。そのうえ、ROI部分に物質A,Bが含まれるとしても、目的とする物質Aのみの線減弱を反映した目的ベクトルをベクトル減算という容易な演算によって、より高精度に抽出できる。
つまり、従来の場合、物質A、Bの種類は既知であり且つそれらの合計厚さが一定だったとしても、それぞれのX線パス方向の厚さは不明であるとともに異なる2つの物質が存在しているため、目的とする物質AのみのX線減弱に基づくベクトル情報を簡単な演算で且つ精度良く求めることが困難であった。
しかしながら、本実施形態によれば、目的とする物質Aのみの線減弱を反映した目的ベクトルを、関心領域毎のベクトル演算により簡単に、且つ、精度良く行うことができる。
また、本実施形態によれば、骨診断(骨塩定量も含む)を行う場合、関心領域毎に物質Aの少なくとも性状を示す目的ベクトルが得られるので、そのベクトルの長さや方向が骨量や骨質に関する、より多面的な情報を提供することができる。従来のように、骨密度だけに基づく情報を提供する処理とは異なり、提供する性状情報の豊富化を図り、例えば骨粗鬆症の診断・治療の求められている要求に応えることができる。
さらに、3次元参照ベクトルの情報は、比較的に簡単な手法で事前の保有しておくこともできる。つまり、前述したように、i)対象のX線照射する部位の厚さを含む外形サイズ、または、重量から推定する、又は、ii)予め統計的に収集してデータベース化した参照表から読み込む、iii)前記対象の撮影部位の内の前記物質Bのみである部分領域において前記線減弱ベクトルと同等であると見做されて事前に求められ保存されている参照ベクトルを呼び出す、ことにより設定することでよい。この場合には、ベクトル減算に必要な演算(即ち、参照ベクトルを求めるための演算)を更に簡単化できる。
さらに、3次元参照ベクトルの方向自体も経験的に取得していた方向情報を事前に保有しておいて、必要なときに呼び出すようにしてもよい。これにより、参照ベクトルの演算量が極めて簡単になる。
また、さらに検査対象OBの厚さを適宜に実測して、3次元線減弱ベクトル(代表ベクトル)Vobj-dや3次元参照ベクトルVrefの推定や演算に使用すれば、適用の状況により、演算量は増えるものの、一方で定量精度を向上させることができる。
<その他の作用効果>
上述した骨塩定量の作用効果のほかに、本実施形態に係るX線検査システムによれば、各種の作用効果が得られる。
まず、検査対象OBの断面(又は凹凸のある断面)の焦点化された断層像(画像)に関心領域が設定されるとともに、その画像から、関心領域に存在する関心物質(検査対象や異物らしいもの)の背景となる画素情報(背景成分)が除去される。この除去後の断層像のデータとX線エネルギー領域毎且つ関心領域の画素毎の計数値とに基づいて、関心物質のX線に対する固有の透過特性(例えば線減弱係数μ)が画素毎に固有情報として演算される。この固有情報は、物質の厚さtに依存しないので、これに基づいて関心物質の種類や性状を同定又は特定することができる。例えば、演算された固有情報を、予め保有しておいた既知の固有情報(物質固有の既知である固有ベクトル情報(一定の許容範囲を持つ情報))と比較することで、物質同定が可能になる。
また、関心領域の設定次第で、検査対象の全体や一部まで物質同定したい範囲を調整することができる。このときに、この固有情報は厚さtに影響されない物質の種類や性状(状態)に固有の情報として得られるので、関心領域は物質の種類や性状が変化しない場所を選びさえすれば、厚さの変化に関わらず適宜な広さに設定すればよい。従来の物質同定と異なり、物質同定に不要な情報となる背景成分を除去してから固有情報を求めるので、物質同定をより精度高く行うことができ、その信頼性も向上する。
さらに具体的には、エネルギー領域別の、線減弱係数μからなるベクトルを正規化して球体面上に3次元散布図を提示可能である。この散布点(スペクトラム)は、かかるベクトルの3次元傾き情報(すなわち物質の固有情報)を表している。このため、この散布点の状態を見ただけで、検査対象OBが例えば金属なのかそれ以外のものか、検査対象OBにそれとは別のもの(異物等)があるか否か、検査対象OBの状態(筋肉と脂肪がどのような割合なのか、などの情報をばらつきのある散布点の重心を求め付加することで、視覚的にも定量的にも把握し易い。
また、3次元散布図を得る過程において、吸収ベクトル長画像のデータも得られる。本発明者等は、この吸収ベクトル長画像は、従来のX線吸収画像に比べて、照射されるX線のエネルギースペクトラム形状にそれほど依存しないことを、筋肉と軟骨の厚みを徐々に変えたファントムを使って確認している。スペクトラム形状とは、例えば図2に例示したように、真ん中のエネルギー領域BinにおけるX線光子の計数頻度がその両隣のそれよりも高いというスペクトラム形状のことである。本実施形態の場合、前述した実施形態に係る式(8)の処理を行っているので、スペクトラム形状に依存するX線吸収の違いが生じにくく、また線減弱係数が最も大きい低エネルギー側の計数頻度の画像への影響が安定するためであると考えられる。
このため、この吸収ベクトル長画像は、エネルギースペクトラムの形状依存性が少ない分、X線管電圧等のX線照射条件に対してよりロバストであり、画像コントラストが良く、且つ線減弱値μtに比例し、すべてのエネルギー帯域の線減弱値μt(エネルギー帯ごとの計数値に存在する量子化ノイズを反映して各画素、各エネルギー帯の線減弱値にもノイズが重畳される)を平均化する効果があるためノイズが少なくなる。
<変形例>
さらに、対象OBの厚さを実測して、物質Bの骨診断の評価精度を上げる方法を別の変形例を説明する。
図15に模式的に示すように、対象OBのうち、線減弱ベクトルを演算する関心領域ROIにおける複数物質の実測厚さをt、そのうち目的ベクトルに演算する対象である物質Aの厚さをt1、参照ベクトルに対応する物質Bの厚さをt2(=t21+t22)とする。すると、それぞれの3次元線減弱ベクトルは次のように表すことができる。
ROIの3次元線減弱ベクトル:
μt=(μt、μt、μt) ‥‥(A.1)
3次元参照ベクトル:
Vref=μref2=(μ1ref2、μ2ref2、μ3ref2) ‥‥(A.2)
3次元目的ベクトル:
Vobj-d’=μobj-d’t1 =(μ1obj-d’t1、μ2obj-d’t1、μ3obj-d’t1) ‥(A.3)
ここで、定義より、Vobj-d’=μt- Vref であったので、(A.1)〜(A.3)式を用いて、ベクトルの要素毎に、次のように表すことができる。
μ1obj-d’t1 = μt - μ1ref2 ‥‥(A.4)
μ2obj-d’t1 = μt - μ2ref2 ‥‥(A.5)
μ3obj-d’t1 = μt - μ3ref2 ‥‥(A.6)
さらに、複数物質モデルの仮定から、次の関係がある。
t = t1 + t2 ‥‥(A.7)
ここで、3次元参照ベクトルの線減弱係数を決定した時の、関心領域ROIrefの部分の物質Bの厚さtと関心領域ROIの部分の物質Bの厚さtの関係性が明らかな場合、tは実測しているので、tが既知となる。さらに、関心領域ROIrefの部分の演算から、μ1ref、μ2ref、μ3refが既知となっているので、その場合、独立の方程式(A.4)〜(A.7)が存在し、未知の変数はμ1obj-d’、 μ2obj-d’、 μ3obj-d’、 t1の4つであり、演繹的に解くことができる。
したがって、例えば、人の手(ROI部分は指)を撮影する場合は、関心領域ROIとROIrefは患者が変わっても同じような部位を撮影するようにして、データを蓄積して、関心領域ROIrefの部分の物質Bの厚さtと関心領域ROIの部分の物質Bの厚さtの関係性を統計的に処理し、精度よく推定できるようにしておくことが望ましい。より直接的には、X線撮影の向きを変えて、指の骨(物質A)の厚さt1を直接測るようにしても良い。この場合、tを推定しなくても、未知変数は4つとなり、演繹的に解くことができる。
本発明は、例えば、骨塩定量を実施する構成のみを採用してもよい。つまり、前述した実施形態のX線検査システムは骨塩定量に特化したシステムとして提供され、データ処理装置12は骨塩定量に特化したデータ処理装置として提供される。
以上、本発明に係るデータ処理装置、データ処理方法、及びX線検査装置の様々な態様について説明したが、本発明は勿論、上述した例に限定されるものではなく、特許請求の範囲の要旨を逸脱しない範囲で更に様々な態様に変更可能なものである。
10 X線検査システム(データ処理装置を搭載したX線検査装置:データ処理方法を実施するX線検査装置)
12 コンピュータシステム(データ処理装置)
21 X線管
24 検出器
25 データ収集回路
26 検出ユニット
12 データ処理装置
32 バッファメモリ(記憶手段)
33 ROM
34 RAM
35 データプロセッサ(CPU)
36 画像メモリ(記憶手段)
37 入力器
38 表示器
OB 検査対象(対象物)

Claims (11)

  1. n個(nは2以上の正の整数)の互いに異なるエネルギー領域を含む連続X線が、当該X線の透過特性に関して実質的に2種類の物質A,Bから成る対象に照射され、当該対象を透過した前記X線が、複数の画素を有するX線検出器により光子計数データとして検出されるときに、当該光子計数データに基づく処理を行うデータ処理装置において、
    前記X線検出器により検出された前記光子計数データに基づき前記対象のX線像を作成してモニタ上に表示するX線像表示手段と、
    前記モニタに表示された前記X線像上で、前記X線のパスの方向において前記物質A,Bが存在すると推定される部分にROI(region of interest:関心領域)を設定するROI設定手段と、
    前記n個のエネルギー領域のそれぞれにて前記X線の前記対象を透過するときの線減弱値に相当し、且つ、前記複数の画素それぞれの、当該n個の次元の空間ベクトルを前記光子計数データに基づき演算する画素別ベクトル演算手段と、
    前記複数の画素それぞれの前記空間ベクトルの方向及び大きさを平均化して前記ROIを代表する代表ベクトルを演算する代表ベクトル演算手段と、
    前記2種類の物質A,Bのうち、一方の物質Bを前記X線が透過したと仮定したときの、前記線減弱値に等価な当該物質Bの線減弱値に相当する前記n次元の参照ベクトルを推定又は仮定して保持する参照ベクトル保持手段と、
    前記物質Aのみに等価な前記線減弱値に相当する前記n次元の目的ベクトルから、前記n次元の参照ベクトルを減算して、当該減算により補正された目的ベクトルを取得する目的ベクトル取得手段と、
    を備えたことを特徴とするデータ処理装置。
  2. 前記n次元の参照ベクトルを推定又は仮定するための参照ベクトル演算手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載のデータ処理装置。
  3. 前記代表ベクトル演算手段は、
    前記複数の画素それぞれの前記空間ベクトルの大きさを正規化した分布を求め、その分布の重心位置から前記代表ベクトルの方向を演算する方向演算手段と、
    前記複数の画素それぞれの前記空間ベクトルの大きさであるベクトル長画素値又は平均ベクトル長画素値を平均して前記代表ベクトルの大きさを設定する大きさ設定手段と、
    を備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のデータ処理装置。
  4. 前記補正された目的ベクトルの情報に基づき画像データを作成する画像データ作成手段と、
    前記画像データ作成手段により作成された画像データを画像として表示する画像表示手段と、を備えたことを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載のデータ処理装置。
  5. 前記対象は人又動物の手又は足であり、
    前記物質Aは、その手又は足の指の骨部分の組織であり、
    前記物質Bは、その手又は指の筋肉及び皮膚の組織であり、
    前記画像データ作成手段は、前記骨部分の前記目的ベクトルの情報から当該骨部分の骨密度の情報を表す画像データを作成するように構成されている、ことを特徴とする請求項4に記載のデータ処理装置。
  6. 前記参照ベクトル演算手段は、前記参照ベクトルを、i)前記対象の前記X線照射する部位の厚さを含む外形サイズまたは重量から推定する、ii)予め統計的に収集してデータベース化した参照表から読み込む、iii)前記対象の撮影部位の内の前記物質Bのみである部分領域において前記線減弱ベクトルと同等であると見做されて事前に求められ保存されている参照ベクトルを呼び出す、又は、iv)対象の撮影部位の内の前記物質Bのみである部分領域において線減弱ベクトルと同等であると見做して演算する、ことを特徴とする請求項2〜5の何れか一項に記載のデータ処理装置。
  7. 前記n次元は3次元である、ことを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載のデータ処理装置。
  8. 請求項1〜7の何れか一項に記載のデータ処理装置を一体に組み込んだ、又は通信により協働可能に組み込んだことを特徴とX線装置。
  9. n個(nは2以上の正の整数)の互いに異なるエネルギー領域を含む連続X線が、当該X線の透過特性に関して実質的に2種類の既知の物質A,Bから成る対象に照射され、当該対象を透過した前記X線が、複数の画素を有するX線検出器により検出データとして検出されるときに、当該検出データ基づく処理を行うデータ処理方法において、
    前記X線検出器により検出された前記光子計数データに基づき前記対象のX線像を作成してモニタ上に表示させ、
    前記モニタに表示された前記X線像上で、前記X線のパスの方向において前記物質A,Bが存在すると推定される部分にROI(region of interest)を設定し、
    前記n個のエネルギー領域のそれぞれにて前記X線の前記対象を透過するときの線減弱値に相当し、且つ、前記複数の画素それぞれの、当該n個の次元の空間ベクトルを前記光子計数データに基づき演算し、
    前記複数の画素それぞれの前記空間ベクトルの方向及び大きさを平均化して前記ROIを代表する代表ベクトルを演算し、
    前記2種類の物質A,Bのうち、一方の物質Bを前記X線が透過したと仮定したときの、予め推定又は評価して保持している、前記線減弱値に等価な当該物質Bの線減弱値に相当する前記n次元の参照ベクトルが、前記物質Aのみに等価な前記線減弱値に相当する前記n次元の目的ベクトルから減算され、当該減算により補正された目的ベクトルが得られる、
    ことを特徴とするデータ処理方法。
  10. 前記参照ベクトルは、事前に用意されている前記n次元のベクトル情報であって、
    i)前記対象の前記X線照射する部位の厚さを含む外形サイズまたは重量から推定する、又は、ii)予め統計的に収集してデータベース化した参照表から読み込む、iii)前記対象の撮影部位の内の前記物質Bのみである部分領域において前記線減弱ベクトルと同等であると見做されて事前に求められ保存されている情報から読み出す、又は、iv)対象の撮影部位の内の前記物質Bのみである部分領域において線減弱ベクトルと同等であると見做して演算する、ことを特徴とする請求項9に記載のデータ処理方法。
  11. 前記n次元は3次元である、ことを特徴とする請求項9又は請求項10に記載のデータ処理方法。
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