JP2021066670A - 口腔用剤 - Google Patents

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Abstract

【課題】簡便な操作で短時間に処置可能で、安全で、齲蝕部に強固に結合し象牙細管の封鎖性に優れ、褐色乃至黒色に変色しないで審美性にも優れ、齲蝕及び知覚過敏症に有効な口腔用剤を提供する。【解決手段】齲蝕の進行抑制、二次齲歯の進行抑制及び象牙質知覚過敏症の抑制をするため、齲歯部46に強固に接着して保護膜を形成する口腔用剤であって、シアノアクリレート系物質を主成分とすることを特徴とする口腔用剤である。シアノアクリレート系物質は、エチル−2−シアノアクリレート、n−ブチルシアノアクリレート、オクチルシアノアクリレート、n−ブチルシアノアクリレートとオクチルシアノアクリレートの混合物質、又は、α−シアノアクリレートである。【選択図】図4

Description

本発明は、簡便な操作で短時間に処置可能で、安全で、齲蝕部分や歯表面に強固に結合して象牙細管の封鎖性に優れ、褐色乃至黒色に変色しないで審美性にも優れ、齲蝕症及び象牙質知覚過敏症の治療や予防に有効な口腔用剤に関する。
齲蝕は、歯垢(デンタルプラーク)中の細菌(ストレプトコッカスミュータンス菌:S. mutans)などのレンサ球菌(ストレプトコッカス属)の感染によって起こることが明らかにされた。代表的な齲蝕の原因菌であるS. mutans菌の細菌は飲食した食物から栄養を取り、酸を産生し、この酸によって歯が溶かされてしまった実質欠損の状態が齲蝕である。
齲蝕が歯表面に発症するメカニズムは、最初に歯表面に唾液中のタンパク質が付着しペリクル(獲得皮膜)が形成される。そして、ペリクルを構成する特定のタンパク質をレセプターとしてそのレセプターに対するアドヘジン(付着因子)をもつストレプトサンギス(S. sunguinis)、ストレプトオラリス(S. oraris)、ストレプトミイチィス(S. mitis)、ストレプトゴルドイイ(S. gordonii)といったレンサ球菌群が付着し、コロニーを形成し初期の歯垢になる、歯垢が成熟してくるとS. mutansなどが共凝集してバイオフィルムができあがる。
つまり、細菌をはじめとする微生物はバイ菌の塊(歯垢)になり、凝集しバイオフィルムという生態系を作り上げ、それぞれ共棲関係を保ちながら生息している。口腔内では約700種にのぼる微生物が存在しており、歯垢が成熟すると病的な口腔バイオフィルムを形成する。
一方、従来から齲蝕は進行して歯に穴ができていることが目に見えてわかる状態になった場合であり、その穴を齲窩と呼び、歯表面にある齲蝕を平滑面齲蝕と呼ぶ。また、最近では根面齲蝕(歯頚部齲蝕)が増加傾向にある。その理由は歯周病の増加やブラッシングの過剰な圧力のかけすぎなどにより、歯肉の退縮が起きると象牙質が露出してしまい、冷たいものやブラッシングで擦過痛(知覚過敏症)が起こる。また、象牙質はエナメル質よりも酸に侵されやすいため齲蝕になりやすい。
齲蝕が起こる前には、初期齲蝕といわれる現象が生じる。初期齲蝕とは、歯質の実質欠損は生じておらず、歯面表層は保持されているが、歯面の表層下からカルシウムとリン酸が失われている状態をいう。初期齲蝕になるとカルシウムとリン酸が失われたことにより歯の結晶状態が変化するために歯面が白く見える。齲蝕は実質欠損であるため自然修復が不可能であるが、初期齲蝕は、自然修復が可能である。これは、口腔内で通常、歯質の脱灰と再石灰化という事象が起こることによる。
一般に、歯面に存在する口腔内細菌によって産生された酸が何らかの障害物のために拡散を妨げられることにより歯が高濃度の酸にさらされ、その結果、齲蝕が進行する。酸産生に好都合な基質は糖類であり、これにはグルコース、スクロースなどの単糖類および少糖類、単糖の重合体であるデンプンなどの多糖類がある。
歯の健康を考える上で歯質の脱灰と再石灰化というミクロ的なレベルから齲蝕予防へのアプローチもある。歯は象牙質の部分とエナメル質の部分とからなっており、象牙質をエナメル質が覆っている。エナメル質の約97%は、ハイドロキシアパタイト[Ca10(PO(OH)]によって構成されている。ハイドロキシアパタイトは主にカルシウムとリン酸との結晶構造物である。エナメル質は歯の中で最も硬い部分であり、歯垢中の細菌が作り出す酸、食品に含まれる酸などによってエナメル質の内側から大切なカルシウムまたはリン酸が溶け出す(脱灰)のを防御している。酸は、水分で満たされたエナメル小柱間空隙からエナメル質に浸透し、ハイドロキシアパタイトを脱灰と呼ばれるプロセスにより溶解する。このエナメル質組織からのカルシウムとリン酸塩の喪失が、結果的にエナメル質表層下の初期齲蝕となる。初期齲蝕は、カルシウムおよびリン酸塩イオンが表層下の齲蝕部分に浸透し、再石灰化と呼ばれるプロセスによって、喪失したアパタイトを元に戻すことができる。
脱灰は、食事により口腔内で歯垢が形成されて酸が産生され、pHが低下し、エナメル質が溶解することで生じる。歯垢のpHは、発酵性炭水化物を含む飲食物を摂取することで酸性に傾き、脱灰の始まる臨界pHを超える。エナメル質の臨界pHは5.5であり、市販の飲み物の多くはpHが5.5よりも低い。通常、唾液には、歯の表面の汚れを洗い流す洗浄効果と、酸を中性化する緩衝能があり、エナメル質が保護されている。
再石灰化を利用して初期齲蝕を治療するための口腔用組成物、食品などは種々研究されている。例えば、特許文献1には、酸蝕の修復または抑制、歯の再石灰化の促進、及び/または、フッ化物の虫歯予防効果の増強を行う方法に有用である、部分的に加水分解した植物タンパク質を含む口腔ケア組成物が開示されている。
歯科分野においては、齲蝕予防へのフッ素の効果が一般的に知られている。医薬品および医薬部外品に使用されるフッ素は通常、フッ化ナトリウム、ケイフッ化ナトリウムなどの化合物である。例えば、ハイドロキシアパタイトの水酸基(−OH)の一部もしくは全てをフッ素(−F)に置換してフッ化アパタイトもしくはフルオロキシアパタイトにすると、アパタイトが硬くなり、歯の硬度の改善に役立つ。また、フッ化物イオンが吸着すると、フッ素コート作用でエナメル質表面が酸による影響を回避することができ、耐酸性が獲得される。
齲蝕のほか、疼痛を訴えるものに知覚過敏症がある。象牙細管が何らかの原因で開口した場合に象牙質知覚過敏症が惹起される。歯冠は、エナメル質、象牙質、歯髄の3層で構成され、象牙質全体を、象牙細管が走っており、象牙細管はエナメル質や歯肉などにより被覆されている。象牙質知覚過敏の改善には、例えば、歯を保護するための樹脂と溶媒を含むバーニッシュの塗布などがあり、象牙細管を封鎖することにより象牙質知覚過敏症の改善、或は、消失が期待されている。
齲蝕及び知覚過敏症(象牙細管過敏症)に対しては、フッ化ジアンミン銀の塗布が有効とされている。フッ化ジアンミン銀は、商品名「サホライド(登録商標)」(株式会社ビーブランド・メディコ・デンタル製)として市販されている。その作用機序は、銀によるタンパク固定、フッ化物による不溶性塩の生成により、象牙質細管を閉鎖し、齲蝕の進行を抑制する。フッ化ジアミン銀を主成分とする齲蝕抑制剤は、フッ化ジアミン銀(Ag(NHF)を380mg/ml含み、初期齲蝕の進行抑制剤、2次齲蝕の進行抑制剤、象牙質知覚過敏症鈍麻剤として、歯科治療に使用される薬剤である。
フッ化ジアミン銀を主成分とする齲蝕抑制剤中の銀塩濃度は、写真の定着液の廃液中の銀塩の濃度に比較して遙かに高く、薬剤中の銀イオンが還元されて極微粒子の銀粒子を析出し、更に酸化銀、硫化銀等となり、褐色乃至黒色となる。このため、使用が限られ、例えば見た目を気にしない乳幼児の平滑面齲蝕や、手足が不自由で介護を必要とする生活困難な高齢者の根面齲蝕や知覚過敏歯に用いられている。このように、現在、多くの歯科医師や国民がサホライドに代わる黒くならない齲蝕の進行抑制剤、象牙質知覚過敏症鈍麻剤を望んでいる状況である。
特許文献2には、象牙細管の封鎖性に優れ、歯質の耐酸性向上と再石灰化能力があり、簡便な操作で短時間に処置可能で、安全で、審美性にも優れた、齲蝕予防及び初期齲蝕治療剤、象牙質知覚過敏症予防及び/又は治療剤、及び窩洞形成歯面の裏層用剤に適した口腔用剤が開示されている。フルオロアルミノシリケートガラス微粒子を分散させた液と、シュウ酸化合物の酸性水溶液との混合液からなる、口腔用剤である。
特許文献3には、齲蝕予防及び初期齲蝕治療剤、象牙質知覚過敏症予防及び/又は治療剤、並びに窩洞形成歯面の裏層用剤に適した口腔用剤として、フルオロアルミノシリケートガラス微粒子を分散させた液と、無機リン酸水溶液とからなる、齲蝕予防及び/又は初期齲蝕治療剤、象牙質知覚過敏症予防及び/又は治療剤、窩洞形成歯面の裏層用剤などの口腔用剤が開示されている。
特表2018−534363号公報 特許第4662294号公報 特開2011−32250号公報
本発明は、簡便な操作で短時間に処置可能で、安全で、齲蝕部分に強固に結合し、また、象牙細管の封鎖性に優れ、褐色乃至黒色に変色しないで審美性にも優れ、齲蝕症及び象牙質知覚過敏症の治療や予防に有効な口腔用剤を提供することを目的としている。
(1)本発明は、齲蝕の進行抑制、二次齲歯の進行抑制及び象牙質知覚過敏症の抑制をするため、齲歯部に強固に接着して保護膜を形成する口腔用剤であって、シアノアクリレート系物質を主成分とすること、を特徴とする口腔用剤である。なお、「シアノアクリレート系物質を主成分とすること」とは、さらに添加物、即ち、歯の再石灰化を促進させる物質や酸の生成を抑える物質、殺菌作用を強化する物質、保護膜としての高強度化を図る物質やその他の添加剤を添加してもよいことを意味する。
(2)本発明は、(1)の口腔用剤であって、シアノアクリレート系物質は、エチル−2−シアノアクリレートであること、を特徴とする口腔用剤である。
(3)本発明は、(1)の口腔用剤であって、シアノアクリレート系物質は、n−ブチルシアノアクリレートであること、を特徴とする口腔用剤である。
(4)本発明は、(1)の口腔用剤であって、シアノアクリレート系物質は、オクチルシアノアクリレートであること、を特徴とする口腔用剤である。
(5)本発明は、(1)の口腔用剤であって、シアノアクリレート系物質は、n−ブチルシアノアクリレートとオクチルシアノアクリレートの混合物質であること、を特徴とする口腔用剤である。
(6)本発明は、(1)の口腔用剤であって、シアノアクリレート系物質は、α−シアノアクリレートであること、を特徴とする口腔用剤である。
本発明は、シアノアクリレート系物質が水分に触れるとすぐに反応して分子同士が協力に結びついて固まり、ポリモノマーの状態となって物と物を接着する性質を利用して、齲歯の表面に塗布してシアノアクリレート系物質の保護膜を形成し、高濃度の酸にさらされないようにして齲蝕の進行を抑制、停止させる効果を有している。
本発明によれば、シアノアクリレート系物質を主成分とする口腔用剤を塗布するだけの簡便な操作で短時間に処置可能であり、安全で、象牙細管の封鎖性に優れ、褐色乃至黒色に変色しないで審美性にも優れ、齲蝕症及び象牙質知覚過敏症の治療や進行抑制に有効な口腔用剤を提供することができる。
シアノアクリレート系物質のエチル−2−シアノアクリレートは、工業用に使用されてメチルシアノアクリレートに比べ毒性が低く、口腔用剤に好適である。
シアノアクリレート系物質のn−ブチルシアノアクリレート、オクチルシアノアクリレートは毒性が低く、これらの物質はさらに静菌作用を示し医療用に好適である。オクチルシアノアクリレートとn−ブチルシアノアクリレートをブレンドすると、柔軟性と強い結合を兼ね備えた口腔用剤となる効果がある。
シアノアクリレート系物質のα−シアノアクリレートは、アクリル酸エステルのα位の炭素に結合して水素の1つがCN基で置換された構造式を有し、結晶性が無く接着やコーティング用に適している。α−シアノアクリレート自身全く無菌的で毒性がなく、口腔用剤に好適である。
歯の構造を示す図である。 齲歯の発生メカニズムを説明する図である。 サホライド(登録商標)が塗布された上顎前歯部の外観を示している。 シアノアクリレート系薬剤を齲蝕部に塗布して強固に結合し、さらに保護膜を形成した場合の概念図である。 ガラス面からアロンアルファ(登録商標)A「三共」ごと抜去歯を取り外した状態を示している。 抜去歯面に付着した板状の保護膜の厚さを画像から計測した結果である。 経過観察において撮影した画像である。 上顎左上第3大臼歯近心面隣接面平滑面齲蝕に対する臨床例を示している。 上顎左上犬歯唇面の知覚過敏症に対する臨床例を示している。 下顎右下第1小臼歯歯頚部根面齲蝕に対する臨床例を示している。
図1は、歯の構造を示す断面である。歯の構造10は、表面に出ている部分である歯冠と歯茎に隠れている部分である歯根に分かれている。歯冠は、エナメル質12、セメント質14、象牙質16、歯髄18とからなっている。歯根部は、歯肉20、付着歯肉22、歯槽骨24、歯根膜26と根管28からなっている。
歯の一番外側の部分はエナメル質12で、歯冠の表面部分はほとんどエナメル質12である。エナメル質12は硬いリン酸カルシウム(ハイドロキシアパタイト)で作られている。エナメル質12は2〜3ミリ程度の厚みがあり、歯の表面に行くほど硬く、中に行くほど軟らかい構造になっている。セメント質14は、歯根部で象牙質16の外表を覆う非血管性の結合組織で、セメント質14の内側にある象牙質16を保護する役割も担っている硬組織である。歯髄18は、血管と神経が通っており、根管28で血管や神経に繋がっている。
歯は歯茎によって口の中に固定されており、歯周には歯槽骨24があり、歯槽突起とも言われ、歯槽骨24に歯を嵌め込むはめ込み口の役割を果たしている。歯根膜26は歯と歯槽骨24を結合させているものであり、神経や毛細血管なども含まれている。歯肉20と付着歯肉22は、歯と歯槽骨24をつないでいる部分を保護している組織であり、神経や血管が通っている歯根膜28を保護している。
歯のエナメル質12は歯冠を覆う石灰化された物質の薄く硬い層である。歯のエナメル質12の主要な鉱物成分は、リン酸カルシウムの結晶形であるヒドロキシアパタイトである。酸性食品及び飲料への歯の曝露、又は、胃の逆流に起因する胃酸によって、歯のエナメル質12の化学的な酸蝕が生じ得る。歯のエナメル質12の酸蝕は、象牙質16にあり神経から繋がっている管の象牙細管を刺激し痛みが生じる場合がある。象牙細管の曝露を増加させることで、歯の知覚過敏を高める可能性がある。ペリクル(獲得被膜:歯に沈着した唾液糖タンパク質の薄い層)は、酸蝕の攻撃から歯を保護する上で不可欠である。
図2は、齲歯の発生メカニズムを説明する図である。歯冠の表面部分の一部を示しており、図2(A)は、口腔内細菌32が歯冠の表面に付着した状態を示している。エナメル質12は、ハイドロキシアパタイト(Ca10(PO(OH))を成分としているが、その表面は、唾液中のタンパク質でつくられたペリクル30という膜で覆われている。口腔内は細菌の成長に適した環境であり、多くの口腔内細菌32が存在しているが、ペリクル30のタンパク質を好む性質により口腔内細菌32がペリクル30を介して歯の表面に付着して集合体を作り始める。この集合体の中には、齲歯の原因菌であるS. mutans菌(以下、ミュータンス菌という)も含まれている。
図2(B)は、歯垢の形成を示す図である。ミュータンス菌は、解糖作用により食事や飲料に含まれる糖類36をグルカンに転換しながらグリコカリックス(粘着性多糖体)を合成する。グリコカリックスは粘性を有し、ミュータンス菌を含めて他の口腔内細菌32も取り込んで成長し、歯垢34を形成する。歯垢34が成長して成熟したのがバイオフィルム38である。
図2(C)は、バイオフィルム38が形成され、齲歯となるメカニズムを説明する図である。バイオフィルム38内に含まれているミュータンス菌は、糖類36の解糖作用を伴い、この時に酸43を発生、放出する。この酸43にエナメル質12がさらされると、ハイドロキシアパタイト(Ca10(PO(OH))が溶解し、カルシウムイオン40やリン酸イオン42が溶出する。この現象が「脱灰」である。脱灰が開始されると、齲蝕の初期段階としてホワイトスポットが発生する。
歯のエナメル質12から溶出したカルシウムイオン40やリン酸イオン42が飽和状態になると、唾液44に含まれるフッ素の力を借りて、再び溶出したカルシウムイオン40やリン酸イオン42がエナメル質12の中に取り込まれ、歯の表面が再生される。この現象が「再石灰化」である。
通常、「脱灰」と「再石灰化」が繰り替えされているが、このバランスが崩れて脱灰が促進されると、図2(D)に示したように、脱灰が促進された齲蝕部46が成長し、齲歯へと発展する。その初期段階がホワイトスポットであり、象牙質にある象牙細管が刺激されると痛みを感じるようになる。象牙質知覚過敏症については、発症機序の解明はされていないが、象牙細管内液の移動を阻害する処置が、象牙質知覚過敏の改善に有効であり、例えば、歯をシールするための樹脂と溶媒を含むバーニッシュの塗布などの処置があり、象牙細管を封鎖することにより象牙質知覚過敏症が低減あるいは消失することが報告されている。
齲蝕の進行を抑制する口腔用剤としては、サホライド(登録商標)がある。サホライド(登録商標)は、38(w/v)%の銀と5.5(w/v)%のフッ素を含んでいる。このため、エナメル質のハイドロキシアパタイトに作用して、リン酸銀やフッ化カルシウムを生成するため、齲歯の予防や進行を抑制する効果を生じる。象牙質に作用させると、象牙細管内のタンパク質と反応してタンパク銀を生成するとともに、フッ化イオンにより石灰化が促進され、象牙細管を塞ぐことから象牙細管過敏症に対しても効果がある。さらにサホライド(登録商標)は、殺菌効果もあり塗るだけで完了し、痛みを伴わない齲歯治療が可能である。
しかしながらサホライド(登録商標)には、歯垢が付着した部位や齲歯に塗布すると歯質を黒変させるという大きな欠点がある。それは、フッ化ジアミン銀を主成分とする齲蝕抑制剤中の銀塩濃度は、写真の定着液の廃液中の銀塩の濃度に比較して遙かに高く、薬剤中の銀イオンが還元されて極微粒子の銀粒子を析出し、更に酸化銀、硫化銀等となり、褐色乃至黒色となることである。さらに、サホライド(登録商標)に触れた患者、術者の指や手などの皮膚を黒く着色させる。
図3は、サホライド(登録商標)が塗布された上顎前歯部の外観を示している。歯垢が付着した部位や齲歯に塗布されたサホライド(登録商標)塗布部が黒変している。一度黒変してしまうと変色を食い止めることができないため、審美性の問題から使用が限られる。このため、例えば見た目を気にしない乳幼児の平滑面齲蝕や介護の必要な高齢者の根面齲蝕や知覚過敏歯に用いられている。現在、多くの歯科医師や国民がサホライドに代わる黒くならない齲蝕の進行抑制剤、象牙質知覚過敏症鈍麻剤を待ち望んでいる状況である。
そこで発明者らは、黒くならない齲蝕の進行抑制剤、象牙質知覚過敏症鈍麻剤を目標に、古くから医療分野で使用されているシアノアクリレート系薬剤に注目して開発を進めた。シアノアクリレートは、1957年以来瞬間接着剤として工業用、一般家庭用や医療分野で広く使用されている透明な接着剤である。
シアノアクリレート系薬剤は、瞬間接着剤として広く使用されておりは、主成分のシアノアクリレートのモノマーが破着材料表面の水分と反応して急速に硬化し、重合してポリマーとなり、破着材料同士を強力に接着させる。この瞬間接着剤の長所は、常温で速硬化すること、一液無用剤であること、硬化物の透明性が良好であること、長期間強い接着力があることである。
この接着のメカニズムは、機械的結合、物理的相互作用、化学的相互作用の三つがあると考えられている。機械的結合とはアンカー効果あるいは投錨効果ともいわれ、材料表面の孔や谷間に液状接着剤が入り込んで、そこで固まることによって接着が成り立つと言う考え方である。これは、木材や繊維、皮等の吸い込みのある材料の接着を説明するのに有効であり、複雑な齲蝕部の表面に確実に密着する。また物理的相互作用とは分子間力(ファン・デル・ワールス力)をいい、二次結合力ともいって接着剤の基本的原理とされている。三つ目の化学的相互作用とは、一次結合力と言って最も強い接着力が期待される共有結合や水素結合をいう。
このように「接着」とは、機械的な引っ掛かりや分子間力、原子間力によって成り立つ複雑さを持っている。また、シアノアクリレートの硬化機序から類推すれば、エナメル質よりも水分に富み、有機質成分の多い象牙質には瞬間的に強固に接着すると考えることができる。このため、齲蝕の進行抑制剤及び象牙質知覚過敏症鈍麻剤としての保護膜形成には最適と考えられる。
図4は、シアノアクリレート系薬剤を齲蝕部に塗布して、保護膜を形成した場合の概念図である。シアノアクリレート系薬剤は、薬用のシアノアクリレート系物質を主成分とする口腔用剤である。シアノアクリレート系薬剤を接着目的ではなく、保護膜48として使用し、その強固な接着力と被膜で、バイオフィルム38とエナメル質12を分離し、放出される酸42を保護膜48で防護する。保護膜48は、シアノアクリレート系薬剤の機械的結合であるアンカー効果により、齲歯部表面の孔や谷間に液状接着剤が入り込んで、そこで固まることによって強固に接着した被膜により形成される。
従来、シアノアクリレート系薬剤を保護膜として歯科用に使用した例はなく、齲蝕の進行抑制剤及び象牙質知覚過敏症鈍麻剤としての効用は未知数であり、特に酸に対し溶解しないかどうか、長期的な効果があるかどうかが焦点となる。
シアノアクリレート系物質を主成分とする口腔用剤として、齲蝕の進行抑制剤及び象牙質知覚過敏症鈍麻剤を開発するには、以下の点をクリアしなければならない。
(1)人体への影響がなく安全であること
(2)口腔内での耐性(特に酸に対して)
(3)齲蝕の進行抑制、二次齲歯の進行抑制及び象牙質知覚過敏症の抑制に対する効果
の3点である。(1)安全性は、先行文献で調査し、(2)耐性と(3)効果については、in vitro試験を含めて実施例の結果をエビデンスとすることとした。そこで、まず安全性について調査した。
WHO(World Health Organization)の報告「METHYL CYANOACRYLATE AND ETHYL CYANOACRYLATE(12 April 2005)」によれば、人体に有害なデータは報告されていない。発がん性又は生殖毒性に関する有用なデータはなく、利用可能なin vitro試験では細菌のみであるが、エチル−2−シアノアクリレートでは陰性の結果が得られているとの報告がある。また、液体エチル−2−シアノアクリレートは、単体暴露の結果として皮膚刺激性物質ではないことを示している。
メチルシアノアクリレートを使用した試験では、1ppmでの感覚刺激作用は報告されていない。喉と鼻の「刺激」は2〜20ppm以上で主観的に報告されている。目への刺激と火傷は4〜15ppm以上で報告されている。エチル−2−シアノアクリレートに関する同様の情報はないが、同様の結果が期待されると判断している。このように、エチルシ−2−アノアクリレートに関しては安全と考えられる。英国の安全衛生庁および米国国家毒性プログラムでも、エチル−2−シアノアクリレートの使用は安全であり、追加の調査は不要であるとしている。
n−ブチルシアノアクリレートは、シアノアクリル酸エステルであり、2−シアノ−2−プロペン酸のブチルエステルである。n−ブチルシアノアクリレートは、大きなアルキル基により化学的に安定しており、ホルムアルデヒドとシアノ酢酸アルキルに分解され難い。シアノアクリレート系薬剤のシアノ基は化学的に安定しており、有毒物質である青酸(HCN)は発生しない。さらに、シアノアクリレート系薬剤のシアン基は化学的に安定しており、有毒物質である青酸(HCN)は発生しない。n−ブチルシアノアクリレートは薬事法上、皮膚欠損用創傷被覆材の一種として「医療用品(4)整形用品」に類別されている。即ち、皮膚損傷については、薬事法上認められており、高い安全性を有する。
オクチルシアノアクリレートは、シアノアクリル酸エステルであり、2−シアノ−2−プロペン酸のオクチルエステルである。オクチルシアノアクリレートもn−ブチルシアノアクリレートと同様に、長鎖アルキル基により化学的に安定しており、ホルムアルデヒドとシアノ酢酸アルキルに分解され難い。オクチルシアノアクリレートは止血効果とともに抗菌性もあり、角膜の補修や歯茎の接着にも用いられる。オクチルシアノアクリレートはn−ブチルシアノアクリレートより接着性が弱いが、柔軟性に優れている。オクチルシアノアクリレートとn−ブチルシアノアクリレートをブレンドすることで、柔軟性と強い接着性を兼ね備えたシアノアクリレート系薬剤となる
α−シアノアクリレートはアクリル酸エステルのα位の炭素に結合している水素の一つがCN基で置換された構造式を有する化合物である。ポリマーはその分子内にCN基をもつが,C−CN結合の解離エネルギーは121kca1/mo1程度で、きわめて熱的には安定である。また、α−シアノアクリレートは無菌的であり、皮膚塗抹、経口投与、皮下注射に対しても局所および全身に変化はなく,臨床的応用に際して毒性は考慮を要しない。さらに生体内に入れられた場合にも異物としての反応は少なく,大量のα−シアノアクリレートが隔壁とならない限り創傷治癒過程を障害する恐れもなく免疫学的にも全く問題がないとされている。既に医療用として厚生省の認可を得て市販されているものもあり、外科手術用、歯科用などに使用された実積にも表れているように、安全性は高い。
歯科分野においての論文では、アロンアルファ(登録商標)を使用した「外科用生体背着剤アロンアルファA(三共)の口腔外科への応用の試み。」が発表されている(本間純、牛丸喬、三嶋顕、宮地信明、永山正人「北海道歯科医師会誌」第35号、昭和55年2月1日発行)。アロンアルファ(登録商標)A「三共」は、エチル−2−シアノアクリレートを主成分として、ポリメタクリス酸メチルを添加物として含有した、生体組織(皮膚、血管、臓器など)の創傷癒合を目的とした軟組織接合用接着剤である。本論文は、6つの適用症例を例に、口腔外科への応用性を検討し、次のように考察している。
義歯不安定に対する歯槽提形成は、従来移行部の深化形成が計られるようにするために、移行部から小ゴム管を使用して、顔面部へ出した糸で固定する方法がとられていた。これに対して、移行部歯肉を切開し、歯肉頬移行部を深下させ、歯槽提の下方で骨膜にその切開部を縫合し、旧義歯を修正処理して、手術創部以外の正常粘膜相当部にアロンアルファAを塗布した後に口腔内に装着して接合した。その結果、顔面部の損傷もなく、しかも短時間で手術を行うことができた。
その他の各種症例も開示されており、「アロンアルファA(三共)を用いた一般臨床に多く見られる、歯槽提形成術、Fop、止血処理、手術創の接合、手術時間の短縮、創面の審美性、止血効果、及び創面の疼痛防止の目的において、十分に臨床に使用でき効果的な薬剤と考える。」との結論となっている。
論文「歯科領域へのα−シアノアクリレート系瞬間接着剤の応用に関する生物学的検討」(「北海道歯科医師会誌」第35号、昭和55年2月1日発行、森川公博:奥羽大学歯学部)では、α−シアノアクリレート重合時の発熱の影響が報告されている。結果としては、α−シアノアクリレートを歯科領域に適用しても重合時の発熱は問題ないものと結論付けている。
以上、先行文献によりシアノアクリレート系薬剤を医療用や歯科用に用いても問題なく、人体への毒性も報告されておらず、安全であるとの結論を得た。
次に、実施例によって効果を確認する。
(実施例1)
シアノアクリレート系物質を主成分とする口腔用剤を、ハイドロキシアパタイト製のアパタイトペレットに塗布し、強酸に浸漬して保護膜としての被膜の耐酸性を評価した。バイオフィルムからの酸に対する耐性を評価するためである。シアノアクリレート系物質、具体的にはα−シアノアクリレートを主成分とする口腔用剤は、第一三共株式会社から販売されている医療用のアロンアルファ(登録商標)A「三共」を使用した。成分は、α−シアノアクリレートが99%で、ヒドロキノンが1%未満である。アパタイトペレットは、HOYA Technosurgical社製で、10mm×10mmの大きさの平板である。
このアパタイトペレットの周りを完全に覆うようにアロンアルファ(登録商標)A「三共」を滴下した後、24時間静置した。これにバイオフィルムからの酸に相当するpH4.0のフタル酸塩標準液(キシダ化学)を10mL加え、室温下で1週間静置した。この時、比較のためにアロンアルファ(登録商標)A「三共」を塗布しないアパタイトペレットについても試験を行った。次いで、反応溶液に10%アンモニア水溶液を加えて塩基性とした。これにエリオクロムブラックT(東京化成)指示薬を3滴加えたところ、青みがかかった薄紫色の溶液となった。この溶液に0.02Mエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム溶液(キシダ化学)を滴下し、完全に色が変化したところを終点とした。
結果として、アロンアルファ(登録商標)A「三共」を被覆したアパタイトペレットの被覆試験において、アロンアルファ(登録商標)A「三共」で被覆したアパタイトペレットを浸漬した溶液のカルシウムイオン濃度は4.0×10−5M以下であったのに対し、アロンアルファ(登録商標)A「三共」で被覆していないアパタイトペレットを浸漬した溶液では、6.28×10−3Mのカルシウムイオン濃度となった。
耐酸性試験からpH4.0フタル酸酸性条件下において、アパタイトペレットはカルシウムイオンが溶出することが明らかとなった。一方、アロンアルファ(登録商標)A「三共」で被覆したアパタイトペレットでは酸性条件下においてもアパタイトペレットの溶出が検出されなかった。これらのことから、アロンアルファ(登録商標)A「三共」によって被覆することで、酸性条件下でもアパタイトペレットの溶出を抑制できることが示唆された。
この結果より、齲蝕部の表面にシアノアクリレート系物質を主成分とする口腔用剤を塗布することで、バイオフィルムから放出される酸に対して十分な耐性を有するものと考えられる。
(実施例2)
齲蝕部は口腔内で常に唾液にさらされており、塗布したシアノアクリレート系物質を主成分とする口腔用剤が長期的に安定な被膜として齲蝕部に密着している必要がある。このため、シアノアクリレート系物質を主成分とする口腔用剤による抜去歯の接着性を評価した。
抜去歯の上にアロンアルファ(登録商標)A「三共」が板状に接着するように、抜去歯をガラス面の上に置き、ガラス面と抜去歯の間にアロンアルファ(登録商標)A「三共」を塗布した。24時間後にガラス面からアロンアルファ(登録商標)A「三共」ごと抜去歯を取り外した。
図5は、ガラス面からアロンアルファ(登録商標)A「三共」ごと抜去歯を取り外した状態を示している。抜去歯50には齲蝕部46があり、円形状の保護膜48は、ガラス面に形成されたアロンアルファ(登録商標)A「三共」の膜である。
これを人工唾液としてのサリベート(登録商標)エアゾール(帝人ファーマ)20mLの中に入れて静置し、経過観察を行った。計測は、溶液から抜去歯を取り出し、画像撮影と、抜去歯面に付着した板状のアロンアルファの厚さを画像から計測した。
図6は、抜去歯面に付着した板状の保護膜の厚さを画像から計測した結果である。ガラス面からアロンアルファ(登録商標)A「三共」ごと抜去歯を取り外した直後の保護膜の厚さは約0.48mmであり、25日経過後でも厚さは約0.45mmであった。サリベート(登録商標)エアゾール(帝人ファーマ)を人工唾液として抜去歯に付着しているアロンアルファ(登録商標)A「三共」保護膜は、25日経過後も厚さに有意な変化は見られなかった。さらに25日間の人工唾液下において、抜去歯面から保護膜が取れることはなかった。
図7は、経過観察において撮影した画像である。ガラス面からアロンアルファ(登録商標)A「三共」ごと抜去歯を取り外した直後の初期状態と、25日経過後の状態では、外観上の変化は見られず、保護膜として安定に維持されていることが分かる。
これらの結果から、唾液などの化学的な要因でアロンアルファ(登録商標)A「三共」が抜去歯面から外れることはほとんどなく、安定な被膜として強固な密着性を維持することが示唆された。従って、齲蝕部の表面にシアノアクリレート系物質を主成分とする口腔用剤を塗布することで形成される保護膜は、口腔内においても安定な被膜として維持されるものと考えられる。
(実施例3)
実施例1と実施例2のin vitoro試験で、シアノアクリレート系物質を主成分とする口腔用剤の酸や唾液に対する効果が明らかとなり、先行文献の症例からも安全性は十分であるため、臨床試験を行った。症例として臼歯部の隣接面齲蝕部分、知覚過敏症の歯表面、上顎の右上の犬歯と楔状欠損部分を対象とした。この対象部にシアノアクリレート系物質であるアロンアルファ(登録商標)A「三共」を塗布し経過観察をした。
図8は、上顎左上第3大臼歯近心面隣接面平滑面齲蝕に対する臨床例を示している。図8(A)は、初診齲蝕部の口腔内写真である。齲蝕部46は、臼歯部の隣接面である。症状としては、全身症状良好で自発痛は無いが、食片圧入時に疼痛を感じている。図8(B)は、アロンアルファ(登録商標)A「三共」を齲蝕部に塗布した直後の状態とX線写真を示している。
図8(C)は、塗布15日後の状態とX線写真を示している。塗布後の15日間は、全く患者に自覚症状はなく、食片圧入時の疼痛も無くなった。X線写真においても齲蝕の進行は確認できなった。また、塗布後15日を経過した時点でも齲歯部の変色は無く審美性に影響を与えることはなかった。この結果、審美性を損なうことなく齲蝕の進行抑制の確認と知覚過敏を軽減できた。
(実施例4)
図9は、上顎左上犬歯唇面の知覚過敏症に対する臨床例を示している。図9(A)は、初診齲蝕部の口腔内写真である。初期症状としては、自発痛はなく全身状態も良好であるが、擦過痛、冷気痛、冷水痛がある。図9(B−1)は、アロンアルファ(登録商標)A「三共」を齲蝕部に塗布する直前の状態であり、図9(B−2)は、アロンアルファ(登録商標)A「三共」を齲蝕部に塗布した直後の状態を示している。
図9(C)は、塗布30日後の状態を示している。塗布後の30日間は、全く患者に自覚症状はなく、擦過、冷気、冷水による痛みは改善されていた。また、歯肉などの歯周組織に異常所見や齲歯部の変色はみられなかった。この結果、審美性を損なうことなく象牙質知覚過敏症に対する効果が確認できた。
(実施例5)
図10は、下顎右下第1小臼歯歯頚部根面齲蝕に対する臨床例を示している。図10(A)は、初診齲蝕部の口腔内写真である。初期症状としては、自発痛はなく全身状態良好も良好であるが、歯ブラシをするときに搾過痛ある。図10(B−1)は、アロンアルファ(登録商標)A「三共」を齲蝕部に塗布している塗布中の状態であり、図10(B−2)は、アロンアルファ(登録商標)A「三共」を齲蝕部に塗布した直後の状態を示している。
図10(C)は、塗布30日後の状態を示している。塗布後の30日間は、患者が歯ブラシをするときの搾過痛に対して全く自覚症状はく、搾過痛は改善されていた。また、歯肉などの歯周組織に異常所見や齲歯部の変色はみられなかった。この結果、審美性を損なうことなく根面齲蝕に対する効果が確認できた。
上記説明した臨床例により、シアノアクリレート系物質を主成分として保護膜を形成する口腔用剤は、齲蝕の進行抑制剤及び象牙質知覚過敏症鈍麻剤としての十分な機能を備えていることが明らかとなった。
本発明は、シアノアクリレート系物質を主成分として保護膜を口腔用剤であり、シアノアクリレートの接着力を利用して齲歯に保護膜を形成することで、齲蝕の進行抑制及び停止を目的としている。シアノアクリレートは水やアミンなどの塩基性酸化物との親和性が高く、水分を触媒として硬化反応が進行する。天然歯象牙質の表面には、象牙細管の中などに水分が存在するため、シアノアクリレートの硬化機序から類推すれば.水分に富み、有機質成分の多い象牙質には瞬間的に強固に接着すると考えることができ、他の歯科用セメントより強い接着力が得られる。
また、シアノアクリレートはvitroの条件下において、Streptococcus,Neiserla、Catarrhalls,Gaffkya,Staphylococcus aureusに対して成長抑制効果を示し、抗菌作用も有している。
本発明は、その目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、例えば、シアノアクリレート系物質を主成分として、歯の再石灰化を促進させる物質や酸の生成を抑える物質、殺菌作用を強化する物質、保護膜としての高強度化を図る物質等を添加してもよく、上記の実施形態よる限定は受けない。
10 歯の構造
12 エナメル質
14 セメント質
16 象牙質
18 歯髄
20 歯肉
22 付着歯肉
24 歯槽骨
26 歯根膜
28 根管
30 ペリクル
32 口腔内細菌
34 歯垢
36 糖類
38 バイオフィルム
40 カルシウムイオン
42 リン酸イオン
43 酸
44 唾液
46 齲蝕部
48 保護膜
50 抜去歯
60 経過観察

Claims (6)

  1. 齲蝕の進行抑制、二次齲歯の進行抑制及び象牙質知覚過敏症の抑制をするため、齲歯部に強固に接着して保護膜を形成する口腔用剤であって、
    シアノアクリレート系物質を主成分とすること、
    を特徴とする口腔用剤。
  2. 前記シアノアクリレート系物質は、エチル−2−シアノアクリレートであること、
    を特徴とする請求項1に記載の口腔用剤。
  3. 前記シアノアクリレート系物質は、n−ブチルシアノアクリレートあること、
    を特徴とする請求項1に記載の口腔用剤。
  4. 前記シアノアクリレート系物質は、オクチルシアノアクリレートであること、
    を特徴とする請求項1に記載の口腔用剤。
  5. 前記シアノアクリレート系物質は、n−ブチルシアノアクリレートとオクチルシアノアクリレートの混合物質であること、
    を特徴とする請求項1に記載の口腔用剤。
  6. 前記シアノアクリレート系物質は、α−シアノアクリレートであること、
    を特徴とする請求項1に記載の口腔用剤。
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