JP2020180351A - 金属層の製造方法及びその装置、並びに配向性制御方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】金属層の製造方法及びその装置、並びに金属層を構成する結晶の結晶面の配向性を制御する方法の提供。【解決手段】物理蒸着法により成長される金属層の製造方法であって、前記物理蒸着を実行しつつ、成長中の前記金属層において金属材料が供給される成長面側へは該金属材料を融解可能な第1の熱量を供給し、前記金属層において前記成長面と反対側に位置する反対面側へは当該反対面を前記金属材料の融点より低温に維持可能な第2の熱量を供給し、成長中の金属層において成長面側に高温領域を生じさせかつその反対面側に金属の融点より低温の低温領域とを生じさせる金属層の製造方法。【選択図】図10
Description
本発明は金属層の製造方法及びその装置、並びに金属層を構成する結晶の結晶面の配向性を制御する配向性制御方法に関する。
金属層、特に薄膜の金属層を形成する方法として物理蒸着法が知られている。物理蒸着法の1つとしての真空蒸着法によれば、真空チャンバ内に基板(金属層の形成相手)と蒸着源である金属のポッドとが配置され、蒸着源を加熱して金属を蒸発させることで基板の表面に当該金属を蒸着させ、もって金属層が形成される。
軸受の表面層としてBi及びAg等からなる薄い金属層(オーバレイ層)を形成することがある。軸受のような過酷な条件で使用される金属層には高い耐久性が求められる。
特許文献1にはBi基材料からなる軸受用金属層を湿式めっきで形成する例が示されている。
特許文献2では、湿式めっきで形成されたBi基材料からなる金属層を構成する結晶がミラー指数で(202)面に強配向するものが高い耐焼付性を有することが示されている。
さらに、特許文献3では、Ag基材料からなる軸受用金属層を湿式めっきで形成する例が示されている。
特許文献1にはBi基材料からなる軸受用金属層を湿式めっきで形成する例が示されている。
特許文献2では、湿式めっきで形成されたBi基材料からなる金属層を構成する結晶がミラー指数で(202)面に強配向するものが高い耐焼付性を有することが示されている。
さらに、特許文献3では、Ag基材料からなる軸受用金属層を湿式めっきで形成する例が示されている。
特許文献1〜特許文献3の記載より、Bi及びAg基材料からなる金属層の特性が当該金属層を構成する結晶の結晶面の配向性に関係していることがわかる。
これらの特許文献に記載の金属層は湿式めっきにより形成されているが、湿式めっき形成による金属層の結晶面の配向性を制御する方法は限られており、従来以上に耐疲労性や耐食性を向上させることは困難である。
これらの特許文献に記載の金属層は湿式めっきにより形成されているが、湿式めっき形成による金属層の結晶面の配向性を制御する方法は限られており、従来以上に耐疲労性や耐食性を向上させることは困難である。
本発明者らは金属層を形成する方法として物理蒸着法に着目し、金属層を構成する結晶の結晶面の配向性を制御することを課題として鋭意検討を重ねてきた。
この発明の第1の局面はかかる課題を解決するものであり、次のように規定される。即ち、物理蒸着法により成長される金属層の製造方法であって、前記物理蒸着法を実行しつつ、成長中の前記金属層において金属材料が供給される成長面側へは該金属材料を融解可能な第1の熱量を供給し、前記金属層において前記成長面と反対側に位置する反対面側へは該反対面を前記金属材料の融点より低温に維持可能な第2の熱量を供給し、成長中の前記金属層において前記成長面側に高温領域を生じさせかつ前記反対面側に前記金属材料の融点より低温の低温領域を生じさせる金属層の製造方法。
この発明の第1の局面はかかる課題を解決するものであり、次のように規定される。即ち、物理蒸着法により成長される金属層の製造方法であって、前記物理蒸着法を実行しつつ、成長中の前記金属層において金属材料が供給される成長面側へは該金属材料を融解可能な第1の熱量を供給し、前記金属層において前記成長面と反対側に位置する反対面側へは該反対面を前記金属材料の融点より低温に維持可能な第2の熱量を供給し、成長中の前記金属層において前記成長面側に高温領域を生じさせかつ前記反対面側に前記金属材料の融点より低温の低温領域を生じさせる金属層の製造方法。
このように規定される第1の局面の製造方法により得られる金属層は、以下に説明するように、これを構成する結晶の結晶面の配向性が、汎用的な物理蒸着法及び湿式めっき法で得られた金属層のそれに比べて異なるものとなる。
例えば、図1は特許文献1に記載された実施例より算出した標準Bi試料のX線回析による、試料の表面を構成する結晶の配向率を示している。特許文献1の発明は実質的に標準Bi試料と同等の配向性を備える金属材料でオーバーレイ層を構成することにより、これに優れた摺動特性を発揮させようとするものである。
ここに、配向率とは、オーバーレイ層の表面から測定したX線回析強度R=(hkl)において、全配向面のピーク強度R=(hkl)の総和に対する各配向面のピーク強度R=(hkl)の比の値(%)を指す。
また、結晶の配向性とは、配向率の分布傾向を指す。
例えば、図1は特許文献1に記載された実施例より算出した標準Bi試料のX線回析による、試料の表面を構成する結晶の配向率を示している。特許文献1の発明は実質的に標準Bi試料と同等の配向性を備える金属材料でオーバーレイ層を構成することにより、これに優れた摺動特性を発揮させようとするものである。
ここに、配向率とは、オーバーレイ層の表面から測定したX線回析強度R=(hkl)において、全配向面のピーク強度R=(hkl)の総和に対する各配向面のピーク強度R=(hkl)の比の値(%)を指す。
また、結晶の配向性とは、配向率の分布傾向を指す。
試料における結晶の配向性と当該試料の物性には所定の関係がある。換言すれば、試料の結晶の配向性を変えることでその物性を変えることができる。
例えば、図2は特許文献2に記載された実施例より算出したBi試料のX線回折による、Bi試料の表面を構成する各結晶の配向率を示している。図1と異なる結晶の配向性を有する特許文献2のBi試料は実質的に(202)面に強配向しており、これにより、優れた耐焼付性が発揮される。
特許文献1及び特許文献2に記載のBi試料の製造には湿式めっき法が用いられている。湿式めっき法を用いてBi試料の結晶の配向性に変化を与えられるのは既述の通りである。しかしながら、結晶の配向性に変化を与えるには湿式めっきの条件を全く異なるものとしなければならず、それぞれ専用の湿式めっき装置の準備が必要となる。
例えば、図2は特許文献2に記載された実施例より算出したBi試料のX線回折による、Bi試料の表面を構成する各結晶の配向率を示している。図1と異なる結晶の配向性を有する特許文献2のBi試料は実質的に(202)面に強配向しており、これにより、優れた耐焼付性が発揮される。
特許文献1及び特許文献2に記載のBi試料の製造には湿式めっき法が用いられている。湿式めっき法を用いてBi試料の結晶の配向性に変化を与えられるのは既述の通りである。しかしながら、結晶の配向性に変化を与えるには湿式めっきの条件を全く異なるものとしなければならず、それぞれ専用の湿式めっき装置の準備が必要となる。
これに対し、実施例で説明する通り、同一の物理蒸着装置を用いて、単に、金属層の成長面側へ供給される第1の熱量と、金属層において成長面と反対に位置する反対面側へ供給される第2の熱量と、に変化を持たせることでBi試料の結晶の配向性に変化を与えることができた。
同一の物理蒸着装置を用い、更には蒸着源も同一として、第1及び第2の熱量の条件を第1実施例としたときに得られたBi試料の結晶の配向性を図3に示す。第1及び第2の熱量の条件を第2実施例としたときに得られたBi試料の結晶の配向性を図4に示す。
図3及び図4より、第1実施例で得られたBi試料と第2実施例で得られたBi試料とでは、結晶の配向性に大きな違いが現れていることがわかる。
図3及び図4の測定条件は後述する。
同一の物理蒸着装置を用い、更には蒸着源も同一として、第1及び第2の熱量の条件を第1実施例としたときに得られたBi試料の結晶の配向性を図3に示す。第1及び第2の熱量の条件を第2実施例としたときに得られたBi試料の結晶の配向性を図4に示す。
図3及び図4より、第1実施例で得られたBi試料と第2実施例で得られたBi試料とでは、結晶の配向性に大きな違いが現れていることがわかる。
図3及び図4の測定条件は後述する。
ちなみに、比較的多くの結晶面にピークが分散して現れている特許文献1のBi試料(図1)と実施例1のBi試料(図3)とを比較すると次のことが言える。
図1ように配向するBi試料は層内に同等の配向を有する結晶が近接して存在する可能性が高くなる(図5A参照)。このようなBi試料を摺動部材として使用した場合、大きな荷重(図5Aにおいて矢印線で示す)がかかった際に、膜厚方向へのクラックの伝播が生じやすい。他方、図3のように配向するBi試料では、同等の配向を有する結晶が近接して存在する可能性が低い、即ち、より多くの結晶面を有している(図5B参照)。このようなBi試料を摺動部材として使用した場合、大きな荷重(図5Bにおいて矢印線で示す)がかかった際に、膜厚方向へのクラックの伝播が抑制される。つまり、実施例1で得られるBi試料を摺動部材として利用した場合、当該摺動部材は耐疲労性に優れたものとなる。
図1ように配向するBi試料は層内に同等の配向を有する結晶が近接して存在する可能性が高くなる(図5A参照)。このようなBi試料を摺動部材として使用した場合、大きな荷重(図5Aにおいて矢印線で示す)がかかった際に、膜厚方向へのクラックの伝播が生じやすい。他方、図3のように配向するBi試料では、同等の配向を有する結晶が近接して存在する可能性が低い、即ち、より多くの結晶面を有している(図5B参照)。このようなBi試料を摺動部材として使用した場合、大きな荷重(図5Bにおいて矢印線で示す)がかかった際に、膜厚方向へのクラックの伝播が抑制される。つまり、実施例1で得られるBi試料を摺動部材として利用した場合、当該摺動部材は耐疲労性に優れたものとなる。
更には、比較的少数の結晶面にピークが集中して現れている特許文献2のBi試料(図2)と実施例2とBi試料(図4)とを比較すると次のことが言える。
図2のように配向するBi試料は表面面(図6Aにおいて太破線Hで示す)との挟角θが大きな面が優先的に現れる(図6A参照)。同図において1つの面の仮想延長面を細破線Iで示している。表面Hに現れたこれらの面の端は、摺動環境において腐食の起点(腐食起点A)になり易い。このようなBi試料を摺動面として使用した場合、摺動面における腐食起点Aの存在確率が大きくなり、もって摺動環境においてBi層からなる摺動面が腐食し易くなる。
他方、図4のように配向する実施例2のBi試料によれば、挟角θの小さな面が優先的に現れる(図6B参照)。このようなBi試料を摺動部材として使用した場合、その摺動面における腐食起点Aの存在確率は、図6Aの例と比べて、小さくなり、摺動環境において耐腐食性が向上する。
図2のように配向するBi試料は表面面(図6Aにおいて太破線Hで示す)との挟角θが大きな面が優先的に現れる(図6A参照)。同図において1つの面の仮想延長面を細破線Iで示している。表面Hに現れたこれらの面の端は、摺動環境において腐食の起点(腐食起点A)になり易い。このようなBi試料を摺動面として使用した場合、摺動面における腐食起点Aの存在確率が大きくなり、もって摺動環境においてBi層からなる摺動面が腐食し易くなる。
他方、図4のように配向する実施例2のBi試料によれば、挟角θの小さな面が優先的に現れる(図6B参照)。このようなBi試料を摺動部材として使用した場合、その摺動面における腐食起点Aの存在確率は、図6Aの例と比べて、小さくなり、摺動環境において耐腐食性が向上する。
図7は特許文献3に記載された実施例より算出したAg試料のX線回折による各結晶の配向率を示している。特許文献3の発明は実質的に(111)面に強配向させることによって、優れたなじみ性を発揮することを特徴としている。
他方、図8はこの発明の実施例3により得られたAg試料の各結晶面の配向率を示している。この図からわかるように、実施例3のAg試料は(200)面に強配向している。なお、図8の測定条件は後述する。
このように、この発明によれば、従来の湿式めっき法では得られなかった結晶の配向性を備えたAg試料を得られる。
図7に示すように(111)面に強配向したAg試料は摺動面との挟角θが大きな面が優先的に現れる。他方、図8に示すように(200)面に強配向したAg試料は摺動面との挟角θが小さな面が優先的に表れる。後者の耐腐食性が優れることは、図6で説明した通りである。
他方、図8はこの発明の実施例3により得られたAg試料の各結晶面の配向率を示している。この図からわかるように、実施例3のAg試料は(200)面に強配向している。なお、図8の測定条件は後述する。
このように、この発明によれば、従来の湿式めっき法では得られなかった結晶の配向性を備えたAg試料を得られる。
図7に示すように(111)面に強配向したAg試料は摺動面との挟角θが大きな面が優先的に現れる。他方、図8に示すように(200)面に強配向したAg試料は摺動面との挟角θが小さな面が優先的に表れる。後者の耐腐食性が優れることは、図6で説明した通りである。
つまり、この発明の第1の局面で規定するように、成長中の金属層において金属材料が供給される成長面側へ該金属材料を融解可能な第1の熱量を供給し、金属層において成長面と反対側に位置する反対面側へは該反対面を金属材料の融点より低温に維持可能な第2の熱量を供給すると、金属層を構成する結晶の結晶面の配向性は汎用的な物理蒸着法及び湿式めっきで形成した金属層の配向性と異なるものとなっていた。ここに、第1の熱量と第2の熱量は、単位面積当たりかつ単位時間当たりに供給される熱量を指し、冷却の場合の熱量は負の値をとる。
また第1の熱量と第2の熱量との差を変化させることで、配向性にも変化が現れた。
また第1の熱量と第2の熱量との差を変化させることで、配向性にも変化が現れた。
このように結晶面の配向性に変化が現われるには、成長中の金属層の成長面側へ当該金属を融解可能な第1の熱量を供給し、金属層において反対面側へはこれを金属の融点より低温に維持可能な第2の熱量を供給するだけでは不充分であり、成長中の金属層において成長面側に高温領域と、その反対面側に金属の融点より低温の低温領域とを生じさせる必要がある。換言すれば、第1の熱量及び/又は第2の熱量の供給を制御して、成長中の金属層に高温領域(成長面側)と低温領域(反対面側)を生じさせる。
ここで、高温領域と低温領域とは金属層を構成する結晶粒の径を超える大きさ(金属層の厚さ方向における)を有する。汎用的な物理蒸着法においても金属層が他の要素(例えば基板や基板保持部)に接しているとき、その接触面では温度勾配が生じており、物理的にはミクロな高温領域と低温領域が生じている。しかしながら、かかるミクロな温度勾配は結晶面の配向性に何ら影響を及ぼさない。他方、低温領域に存在する結晶粒の温度の如何はその上に成長する結晶粒の結晶面の配向性に影響を与えるものと考えられる。図3及び図4を比較すれば明らかなように、第1の熱量と第2の熱量の差により結晶面の配向性に変化が表れている。
このように高温領域と低温領域を設け、さらに低温領域の温度を調整することで、金属層中の結晶面を多くする。もしくは、表面との挟角が大きな面を有する結晶粒を減らしつつ、当該挟角が小さな面を有する結晶粒を従来よりも多くすることが出来た。
このように高温領域と低温領域を設け、さらに低温領域の温度を調整することで、金属層中の結晶面を多くする。もしくは、表面との挟角が大きな面を有する結晶粒を減らしつつ、当該挟角が小さな面を有する結晶粒を従来よりも多くすることが出来た。
金属材料を融解可能な熱量を第1の熱量として供給している。その結果、少なくとも成長面の最表層は液相状態になっている。それより深い部分には温度勾配が生じるので、如何ほどまでが液相状態にあるかを動的に特定することは、現在の、出願人の測定技術ではできなかった。
しかしながら、少なくとも、金属層においてその成長面側と反対面側との間に温度差が生じるようにしている。
換言すれば、物理蒸着法により成長中の金属層において、最表層のみが選択的に金属の融点以上に昇温されている。ここに最表層とは、金属層において固相状態の層の上に存在する成長面側の液相状態の層を指す。
しかしながら、少なくとも、金属層においてその成長面側と反対面側との間に温度差が生じるようにしている。
換言すれば、物理蒸着法により成長中の金属層において、最表層のみが選択的に金属の融点以上に昇温されている。ここに最表層とは、金属層において固相状態の層の上に存在する成長面側の液相状態の層を指す。
金属層において最表層を選択的に昇温するには、金属層の成長面に与えられる第1の熱量とその反対面に与えられる第2の熱量とに所定の差を設ける。なお、第1の熱量を供給した際に金属層の成長面を有する少なくとも最表層は、金属の融点以上に昇温されて液相状態になっているものとする。他方、第2の熱量を供給した際にその反対面は、溶融しない温度、即ちその結晶が維持される温度、即ち固相状態が維持されている。
この熱量の差は、金属層の成長面側へ供給する温度とその反対面側へ供給する温度に温度差を設けることはもとより、時間当たりの熱の供給量を制御することにより行える。例えば、間欠的に熱の供給を行う。間欠的な熱の供給方法として非電離放射線をパルス照射することが挙げられる。パルス幅、パルス振幅、デューティサイクル等を調整することで時間当たりに供給される熱量を制御できる。
また、高温領域と低温領域とを生じさせるには金属層の成長速度も関与する。
本発明者らの検討によれば、物理蒸着により金属層を成長させる際、その成長速度を10μm〜100μm/分とすることが好ましい。かかる成長速度を達成できる代表的な物理蒸着法として真空蒸着法を挙げられる。
この熱量の差は、金属層の成長面側へ供給する温度とその反対面側へ供給する温度に温度差を設けることはもとより、時間当たりの熱の供給量を制御することにより行える。例えば、間欠的に熱の供給を行う。間欠的な熱の供給方法として非電離放射線をパルス照射することが挙げられる。パルス幅、パルス振幅、デューティサイクル等を調整することで時間当たりに供給される熱量を制御できる。
また、高温領域と低温領域とを生じさせるには金属層の成長速度も関与する。
本発明者らの検討によれば、物理蒸着により金属層を成長させる際、その成長速度を10μm〜100μm/分とすることが好ましい。かかる成長速度を達成できる代表的な物理蒸着法として真空蒸着法を挙げられる。
実施例では赤外線を金属層の成長面側の全面へ均一にパルス照射している。
第1の熱量及び第2の熱量を制御した結果は、ワーク、即ち金属層の成長面側の温度(第1の温度)とその反対面側の温度(第2の温度)との差として現れる。
成長面側とその反対面側とを比較したとき、第1の温度と第2の温度が同じであっても、第1の熱量と第2の熱量との差によって、成長面側とその反対面側とにおいて内部の温度分布に差が生じている場合がある。第1の熱量を非電離放射線でパルス供給する場合、パルス幅、パルス振幅、デューティサイクル等によって、成長面側の高温領域の深さを調整できる。
第1の熱量及び第2の熱量を制御した結果は、ワーク、即ち金属層の成長面側の温度(第1の温度)とその反対面側の温度(第2の温度)との差として現れる。
成長面側とその反対面側とを比較したとき、第1の温度と第2の温度が同じであっても、第1の熱量と第2の熱量との差によって、成長面側とその反対面側とにおいて内部の温度分布に差が生じている場合がある。第1の熱量を非電離放射線でパルス供給する場合、パルス幅、パルス振幅、デューティサイクル等によって、成長面側の高温領域の深さを調整できる。
赤外線等の非電離放射線を金属層の成長面の全面へ均一に照射するには、少なくとも蒸着源が非電離放射線の照射面に影を作らないように、蒸着源を挟むように、その非電離放射線の線源を配置する。この場合、非電離放射線を反射する反射部材(ミラー等)も線源に該当する。
非電離放射線の線源は、物理蒸着装置の真空チャンバ内に設置しても、設置しなくてもよい。非電離放射線の線源を真空チャンバ内に設置するときは、蒸着源と基板との間に影を作らないように線源を配置する。他方、真空チャンバの外に線源を配置するときは、真空チャンバに当該非電離放射線を透過させる窓を設ける。この窓も蒸着源を挟むように、その両脇に配置されることとなる。
非電離放射線の線源は、物理蒸着装置の真空チャンバ内に設置しても、設置しなくてもよい。非電離放射線の線源を真空チャンバ内に設置するときは、蒸着源と基板との間に影を作らないように線源を配置する。他方、真空チャンバの外に線源を配置するときは、真空チャンバに当該非電離放射線を透過させる窓を設ける。この窓も蒸着源を挟むように、その両脇に配置されることとなる。
上記において、物理蒸着法には真空蒸着法の他、スパッタリング法、イオンプレ―ティング法等の一般的な物理蒸着法を採用できる。
金属層を構成する金属材料は、成長中の金属層に高温領域と低温領域を生じさせ得るものであれば任意に選択できる。用いる金属材料として、例えば、ビスマス(Bi),鉛(Pb)、スズ(Sn)、インジウム(In)、銅(Cu)、銀(Ag)、アンチモン(Sb)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)及びこれらの合金を挙げることができる。
金属層を構成する金属材料は、成長中の金属層に高温領域と低温領域を生じさせ得るものであれば任意に選択できる。用いる金属材料として、例えば、ビスマス(Bi),鉛(Pb)、スズ(Sn)、インジウム(In)、銅(Cu)、銀(Ag)、アンチモン(Sb)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)及びこれらの合金を挙げることができる。
金属層として用いられるBi及びAgには、Pb、Sn、In、Cu、Sb、Zn、Al、Ni、Cr等を添加できる。
金属層の成長面へ第1の熱量を供給する非電離放射線には、赤外線やレーザ等の光線の他、電子線、X線、高周波、マイクロ波等を金属材料や成長の条件等において任意に選択できる。
安価にかつ効率よく金属層の成長面を昇温させるには赤外線の採用が好ましい。金属層の成長面側へ選択的に高温領域を形成するには、赤外線をパルス照射する。ここに、赤外線を用いる場合その波長は0.5μm〜100μmとすることが好ましく、更に好ましくは0.8μm〜5μmである。
金属層の成長面へ第1の熱量を供給する非電離放射線には、赤外線やレーザ等の光線の他、電子線、X線、高周波、マイクロ波等を金属材料や成長の条件等において任意に選択できる。
安価にかつ効率よく金属層の成長面を昇温させるには赤外線の採用が好ましい。金属層の成長面側へ選択的に高温領域を形成するには、赤外線をパルス照射する。ここに、赤外線を用いる場合その波長は0.5μm〜100μmとすることが好ましく、更に好ましくは0.8μm〜5μmである。
金属層において反対面側へ供給する第2の熱量は、金属層が蒸着される基板を介して供給される。即ち、基板の保持部に温度制御部が備えられ、基板の温度を制御することで間接的に当該反対面側に供給される第2の熱量を制御する。基板側を冷却する場合、この熱量は負の値になることはいうまでもない。
金属層の成長面側の最表層を液相状態としその反対面側を固相状態とする加熱の条件を確定するためダミーサンプルを利用する。このダミーサンプルは金属層を模したものであり、このダミーサンプルを物理蒸着装置の基板保持部へ着脱自在に取付ける。ダミーサンプルには成長面側の面に相当する表面とその反対面側の面に相当する裏面に温度計が取り付けられている。
基板保持部の温度制御部を機能させて、ダミーサンプルの裏面側を冷却する。他方、ダミーサンプルの表面側へ赤外線を照射して加熱する。温度制御部の冷却機能と赤外線源の出力を調整しながら、ダミーサンプルの表面温度(但し、金属の融点若しくはそれ以上の温度)とダミーサンプルの裏面温度(金属の融点未満)とがそれぞれ安定したときの、温度制御部の冷却能力と赤外線の線源の出力(パルス幅、パルス振幅、デューティサイクル等)の各条件を保存する。そして、金属を物理蒸着する際、各条件を再現する。
上記のように、ダミーサンプルにおいて表面と裏面の温度に差が生じる条件を再現すれば、金属層において、成長面側に高温領域が生じ、その反対面側には低温領域が生じているものとなる。
上記のように、ダミーサンプルにおいて表面と裏面の温度に差が生じる条件を再現すれば、金属層において、成長面側に高温領域が生じ、その反対面側には低温領域が生じているものとなる。
以下、この発明を実施例に基づき説明する。
この実施例では、半割軸受の金属層としてBi及びAg層を形成する例を採用した。
図9に示すように、基板として半割筒状の裏金層3へ銅基軸受合金層5を積層した積層体を用意し、その上へBi及びAg又はBi及びAg合金からなる金属層7を真空蒸着してすべり軸受1を形成する。
裏金層3への銅基軸受合金層5の積層は、例えば焼結により行われる。焼結後、半割筒状に賦形し、内面切削によりネライの肉厚とする。裏金層3の厚さは1.2mm
であり、銅基軸上合金層5の厚さは0.3mmである。裏金層3と軸受合金層5の積層体を基板として、これを真空蒸着装置の真空チャンバ内へ蒸発源と対向させるようにセットする。また、蒸発源には蒸着材料のBi及びAgが入っている。
この実施例では、半割軸受の金属層としてBi及びAg層を形成する例を採用した。
図9に示すように、基板として半割筒状の裏金層3へ銅基軸受合金層5を積層した積層体を用意し、その上へBi及びAg又はBi及びAg合金からなる金属層7を真空蒸着してすべり軸受1を形成する。
裏金層3への銅基軸受合金層5の積層は、例えば焼結により行われる。焼結後、半割筒状に賦形し、内面切削によりネライの肉厚とする。裏金層3の厚さは1.2mm
であり、銅基軸上合金層5の厚さは0.3mmである。裏金層3と軸受合金層5の積層体を基板として、これを真空蒸着装置の真空チャンバ内へ蒸発源と対向させるようにセットする。また、蒸発源には蒸着材料のBi及びAgが入っている。
軸受合金層5には、Alやその合金の他、CuやSn及びそれらの合金等を用いることができる。軸受合金層5の厚さや材質は軸受の用途などに応じて適宜選択可能であり、圧接、焼結、鋳造、物理蒸着法、化学蒸着法、溶射、めっき等の方法で積層される。
軸受合金層5の上にAg,Ni等からなる中間層を形成することもある。形成方法は特に限定されないが、物理蒸着法、化学蒸着法、溶射、めっき等を採用できる。
軸受合金層5の上にAg,Ni等からなる中間層を形成することもある。形成方法は特に限定されないが、物理蒸着法、化学蒸着法、溶射、めっき等を採用できる。
軸受合金層5へ蒸着する金属層7の最終厚さは2〜20μmとしている。
なお、真空チャンバの真空度は5.0×10−3Paであり、成膜速度は15μm/分とした。これらの真空度や成膜速度は、金属層7に求められる性能やその使用環境、若しくは製造装置の仕様等に応じて適宜調整される。
この例では、金属層7としてBi及びAgを採用しているが、Bi及びAgやその合金の他にも、Sn、In、Cu、Sb、Zn、Al、Ni又はCr及びこれらの合金を用いることができる。
なお、真空チャンバの真空度は5.0×10−3Paであり、成膜速度は15μm/分とした。これらの真空度や成膜速度は、金属層7に求められる性能やその使用環境、若しくは製造装置の仕様等に応じて適宜調整される。
この例では、金属層7としてBi及びAgを採用しているが、Bi及びAgやその合金の他にも、Sn、In、Cu、Sb、Zn、Al、Ni又はCr及びこれらの合金を用いることができる。
この発明では、金属層7を真空蒸着する際に、その最表層のみを液相状態とする。そのため、金属層7の成長面側へ赤外線をパルス照射することとした。
この発明の金属層の製造方法に用いる金属層の製造装置10を図10に示す。
この製造装置10は汎用的な真空蒸着装置を構成する真空チャンバ11内に基板保持部13、蒸着源15、真空ポンプ17及び真空計19を備える。符号16は蒸着源の加熱装置である。
この発明の金属層の製造方法に用いる金属層の製造装置10を図10に示す。
この製造装置10は汎用的な真空蒸着装置を構成する真空チャンバ11内に基板保持部13、蒸着源15、真空ポンプ17及び真空計19を備える。符号16は蒸着源の加熱装置である。
この製造装置10では、基板保持部13に温度制御部21を設けている。この温度制御部21として水等の冷媒を熱媒体とした板状の熱交換器を用いる。そして、熱交換器の熱交換能力を調整することで基板保持部13の基板保持面の温度を制御する。更には、この熱交換器と基板保持部13との間に介在させるスペーサの熱伝導率を調整することで、基板保持面の温度を制御することもできる。
真空チャンバ11の底壁12には蒸着源15が、基板保持部13に対向して配置される。この蒸着源15は半割筒状の基板に応じて樋状であり、加熱装置16により加熱される。真空チャンバ11の底壁12において蒸着源15の両脇には石英ガラス等からなり、赤外線等の非電離放射線が透過できる窓23が形成され、この窓23を通して赤外線が基板方向に放射される。このとき、蒸着源15が赤外線に干渉しないようにする。これにより、基板の全面へ均一に赤外線を照射できる。
赤外線源25には、蒸着源に沿った、即ち半割筒状の基板に対向するように2本のハロゲンランプを準備した。本実施の形態では、それらの出力特性はパルス幅:1秒、デューティサイクル:50%、合計出力は750Wである。符号27はハロゲンランプのコントローラである。
赤外線源25には、蒸着源に沿った、即ち半割筒状の基板に対向するように2本のハロゲンランプを準備した。本実施の形態では、それらの出力特性はパルス幅:1秒、デューティサイクル:50%、合計出力は750Wである。符号27はハロゲンランプのコントローラである。
Bi及びAg層の最表層を選択的に液相状態とする条件を設定するため、ダミーサンプル30を用いた。
この例では、基板として用いる半割筒状の裏金層3へ銅基軸受合金層5を積層したものをダミーサンプル30とした。このダミーサンプル30の両面には温度計としての熱電対31,32が付設され、各表面の温度が測定される。このダミーサンプル30を真空チャンバ11の基板保持部13へセットしてその温度制御部21の熱交換能力を調整する。それとともに、コントローラ27を用いて赤外線源25の出力を調整し、ダミーサンプル30の表面(Bi及びAg層の成長面側)とダミーサンプル30の裏面(基板保持部13側)の温度がそれぞれ所定温度となるようした。
この例では、基板として用いる半割筒状の裏金層3へ銅基軸受合金層5を積層したものをダミーサンプル30とした。このダミーサンプル30の両面には温度計としての熱電対31,32が付設され、各表面の温度が測定される。このダミーサンプル30を真空チャンバ11の基板保持部13へセットしてその温度制御部21の熱交換能力を調整する。それとともに、コントローラ27を用いて赤外線源25の出力を調整し、ダミーサンプル30の表面(Bi及びAg層の成長面側)とダミーサンプル30の裏面(基板保持部13側)の温度がそれぞれ所定温度となるようした。
この例(実施例1)では、冷却水の循環量を制御して温度制御部21の熱交換能力を調整し、他方、赤外線源であるハロゲンランプの出力を50〜100%の範囲で調整した。これにより、ダミーサンプル30の表面温度がBiの融点の273℃、その裏面が140℃で安定するように、温度制御部21及びコントローラ27の条件を探して、かつ特定する。
なお、真空チャンバの真空度は、Bi層を成長させるときと同じ5.0×10−3Paとした。
赤外線源の出力条件は、パルス幅、パルス振幅、デューティサイクル等を調整して行うこともできる。
なお、真空チャンバの真空度は、Bi層を成長させるときと同じ5.0×10−3Paとした。
赤外線源の出力条件は、パルス幅、パルス振幅、デューティサイクル等を調整して行うこともできる。
ダミーサンプル30の裏面に対する温度制御部21の冷却能力(単位面積、単位時間当たりに裏面へ加えられる第2の熱量)とその表面へ照射される赤外線照射量(単位面積、単位時間当たりに表面へ加えられる第1の熱量)のバランスによって、ダミーサンプル30、即ち成長中の金属層の中に高温領域と低温領域とが形成される。
このようにして特定された温度制御部21による熱交換能力と赤外線源15の出力を用いてBiからなる金属層7を形成する。
即ち、裏金層3に軸受合金層5を積層してなるワークを基板として基板保持部13にセットする。真空ポンプ17を作動させて真空チャンバ11内を所望の真空度にするとともに、温度制御部21の熱交換能力を上記特定されたものとする。
真空度が安定した後、加熱装置16を作動させて蒸発源のBi原料の加熱を開始する。当該Biが蒸発する温度まで加熱されると同時に赤外線源25を起動する。その出力は上記特定されたものとする。
Bi層の成長速度は15μm/分であった。
即ち、裏金層3に軸受合金層5を積層してなるワークを基板として基板保持部13にセットする。真空ポンプ17を作動させて真空チャンバ11内を所望の真空度にするとともに、温度制御部21の熱交換能力を上記特定されたものとする。
真空度が安定した後、加熱装置16を作動させて蒸発源のBi原料の加熱を開始する。当該Biが蒸発する温度まで加熱されると同時に赤外線源25を起動する。その出力は上記特定されたものとする。
Bi層の成長速度は15μm/分であった。
このようにして得られたBi層を成長面側よりCu―kα線を用いたX線回析測定法で測定した。X線回析条件は次の通りであった。
得られた結果より、当該Bi層を構成する結晶の結晶面の配向性は図3に示すようなった。実施例1としての図3の結果を図1と比較すると、(012)面の配向率が小さく、(015)面及び(107)面の配向率が増加していることがわかる。
このことは、図1の配向性と比べて図3の配向性は、摺動面(オーバーレイ層の表面)において、当該摺動面に対して特定の結晶面への配向率の偏りが小さい、即ち、同等の配向性を有する結晶が近接して存在する確率が低くなるため、膜厚方向へのクラックの伝播は阻害される。これにより、オーバーレイ層が摺動面からの荷重による変形に対して耐え易くなり、オーバーレイ層としての耐疲労性が大きく向上した。
このことは、図1の配向性と比べて図3の配向性は、摺動面(オーバーレイ層の表面)において、当該摺動面に対して特定の結晶面への配向率の偏りが小さい、即ち、同等の配向性を有する結晶が近接して存在する確率が低くなるため、膜厚方向へのクラックの伝播は阻害される。これにより、オーバーレイ層が摺動面からの荷重による変形に対して耐え易くなり、オーバーレイ層としての耐疲労性が大きく向上した。
(実施例2)
次に、ダミーサンプル30の表面温度は273℃に維持し、その裏面温度が80℃になるように、温度制御部21の熱交換能力及び赤外線源25の出力を調整し、その調整条件で、他は上記と同じ条件でBi層を成長させた。
このようにして得られたBi層を上記と同様にX線回析測定法で測定し、図4に示す結果を得た。
図4の配向性から、このBi層を構成する結晶の結晶面に(104)面の影響が強く反映することがわかる。
このことは、図2の配向性と比べて図4の配向性は、摺動面(オーバーレイ層の表面)において、当該摺動面を構成する結晶として摺動面に対して平行に近い結晶面を持つものが数多く現れていることを示しており、表面に露出している腐食起点が少なくなるため、耐腐食性が向上する。
次に、ダミーサンプル30の表面温度は273℃に維持し、その裏面温度が80℃になるように、温度制御部21の熱交換能力及び赤外線源25の出力を調整し、その調整条件で、他は上記と同じ条件でBi層を成長させた。
このようにして得られたBi層を上記と同様にX線回析測定法で測定し、図4に示す結果を得た。
図4の配向性から、このBi層を構成する結晶の結晶面に(104)面の影響が強く反映することがわかる。
このことは、図2の配向性と比べて図4の配向性は、摺動面(オーバーレイ層の表面)において、当該摺動面を構成する結晶として摺動面に対して平行に近い結晶面を持つものが数多く現れていることを示しており、表面に露出している腐食起点が少なくなるため、耐腐食性が向上する。
(実施例3)
次に、ダミーサンプル30の表面温度はAgの融点である962℃に維持し、その裏面温度が140℃になるように、温度制御部21及び赤外線源25の出力を調整し、その調整条件で他は上記と同じ条件でAg層を成長させた。
このようにして得られたAg層を上記と同様にX線回折測定法で測定し、図8に示す結果を得た。図8の結果と図7と比較すると、(200)面の配向率が著しく増加していることがわかる。
このことは、図7の配向性と比べて図8の配向性は、摺動面(Ag層の表面)において、当該摺動面に対して平行に近い結晶面が優先的に現れていることを示している。よって、(111)面等の当該摺動面に対して垂直に近い結晶面が著しく少ないので、腐食起点を著しく少なくすることができ、耐腐食性が大きく向上した。
次に、ダミーサンプル30の表面温度はAgの融点である962℃に維持し、その裏面温度が140℃になるように、温度制御部21及び赤外線源25の出力を調整し、その調整条件で他は上記と同じ条件でAg層を成長させた。
このようにして得られたAg層を上記と同様にX線回折測定法で測定し、図8に示す結果を得た。図8の結果と図7と比較すると、(200)面の配向率が著しく増加していることがわかる。
このことは、図7の配向性と比べて図8の配向性は、摺動面(Ag層の表面)において、当該摺動面に対して平行に近い結晶面が優先的に現れていることを示している。よって、(111)面等の当該摺動面に対して垂直に近い結晶面が著しく少ないので、腐食起点を著しく少なくすることができ、耐腐食性が大きく向上した。
以上説明したように、基板に対してBiを真空蒸着する際に、Bi層の最表層のみを液相状態にすることにより得られたBi層では、これを構成する結晶の配向性が汎用的な真空蒸着法及び湿式めっき層で成長されたBi層のそれと、異なるものとなることがわかる。
更には、成長面側に加える熱量とその反対面側に加える熱量とのバランスを調整することで、得られるBi層を構成する結晶の結晶面の配向性を制御できることも図3及び図4の結果から明らかになった。
また、基板に対してAgを真空蒸着する際にも同様に成長面側に加える熱量とその反対面側に加える熱量とのバランスを調整することで、得られるAg層を構成する結晶面の配向性を制御できることも図8の結果から明らかになった。
以上、金属層の代表例としてBi及びAgを採り上げて説明をしてきたが、他の金属種の金属層においても同様にその結晶の配向性を変化ないし制御することが可能である。
更には、成長面側に加える熱量とその反対面側に加える熱量とのバランスを調整することで、得られるBi層を構成する結晶の結晶面の配向性を制御できることも図3及び図4の結果から明らかになった。
また、基板に対してAgを真空蒸着する際にも同様に成長面側に加える熱量とその反対面側に加える熱量とのバランスを調整することで、得られるAg層を構成する結晶面の配向性を制御できることも図8の結果から明らかになった。
以上、金属層の代表例としてBi及びAgを採り上げて説明をしてきたが、他の金属種の金属層においても同様にその結晶の配向性を変化ないし制御することが可能である。
この発明は、上記発明の実施形態の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本発明の摺動部材を用いた内燃機関等の軸受機構使用装置は、優れた摺動特性を発揮する。
実施の形態では、摺動部材として半円筒形状のすべり軸受を例にとり説明をしてきたが、平板形状のスラストワッシャ等その他の摺動部材にも適用できる。
実施の形態では、摺動部材として半円筒形状のすべり軸受を例にとり説明をしてきたが、平板形状のスラストワッシャ等その他の摺動部材にも適用できる。
3…裏金層
5…軸受合金層
7…金属層
10…製造装置
11…真空チャンバ
13…基板保持部
15…蒸発源
17…真空ポンプ
21…温度制御部
25…赤外線源
30…ダミーサンプル
31、32…熱電対
5…軸受合金層
7…金属層
10…製造装置
11…真空チャンバ
13…基板保持部
15…蒸発源
17…真空ポンプ
21…温度制御部
25…赤外線源
30…ダミーサンプル
31、32…熱電対
Claims (15)
- 物理蒸着法により成長される金属層の製造方法であって、前記物理蒸着法を実行しつつ、成長中の前記金属層において金属材料が供給される成長面側へは該金属材料を融解可能な第1の熱量を供給し、前記金属層において前記成長面と反対側に位置する反対面側へは当該反対面を前記金属材料の融点より低温に維持可能な第2の熱量を供給し、成長中の金属層において成長面側に高温領域を生じさせかつその反対面側に金属の融点より低温の低温領域を生じさせる金属層の製造方法。
- 前記第1の熱量は非電離放射線により供給される、請求項1に記載の製造方法。
- 前記非電離放射線はパルス照射される、請求項2に記載の製造方法。
- 前記物理蒸着法は真空蒸着法であり、前記非電離放射線は赤外線であって前記金属層の成長面へ均一に照射される、請求項2又は3に記載の製造方法。
- 前記赤外線の線源は蒸着源を挟むように配置される、請求項4に記載の製造方法。
- 前記第1の熱量と前記第2の熱量との差を制御することで、前記金属層を構成する結晶の結晶面の配向性を制御する、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
- 物理蒸着法により成長される金属層の製造方法であって、成長中の金属層において成長面側に高温領域を生じさせかつその反対面側に低温領域を生じさせる、金属層の製造方法。
- 前記高温領域は前記金属の融点以上に昇温されており、前記低温領域は前記金属の融点未満に維持されている、請求項7に記載の製造方法。
- 物理蒸着法により成長される金属層の製造方法であって、成長中の金属層において成長面側の最表層のみを液相状態にする、金属層の製造方法。
- 金属層を構成する結晶の結晶面の配向性を制御する配向性制御方法であって、金属層を物理蒸着法により成長させる際に、該金属層において成長面側へは該金属材料を融解可能な第1の熱量を供給し、前記金属層において前記成長面と反対側に位置する反対面側へは該反対面を前記金属の融点より低温に維持可能な第2の熱量を供給し、これにより、前記金属層において前記成長面側に高温領域と、前記反対面側に前記金属の融点より低温の低温領域とを生じさせ、前記第1の熱量と前記第2の熱量との差を制御することにより、前記金属層を構成する結晶の結晶面の配向性を制御する配向性制御方法。
- 真空チャンバ内の基板上に金属層を物理蒸着させる金属層の製造装置であって、
前記基板を保持する基板保持部と、
前記基板保持部の保持された基板の温度を該基板保持部側から制御する温度制御部と、
蒸着源と、
前記蒸着源側から前記基板へ非電離放射線を照射する線源と、を備える金属層の製造装置。 - 前記非電離放射線は赤外線である、請求項11に記載の製造装置。
- 前記線源は前記蒸着源を挟むように配置される、請求項11又は12に記載の製造装置。
- 前記線源は真空チャンバ外に存在して、前記真空チャンバに形成された窓を介して前記非電離放射線が照射される、請求項11〜13のいずれかに記載の製造装置。
- 前記金属層を模したダミーサンプルであって、その表面及び裏面の温度を測定可能なダミーサンプルが前記基板保持部に着脱自在に備えられる、請求項11〜14のいずれかに記載の製造装置。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2019084782A JP2020180351A (ja) | 2019-04-25 | 2019-04-25 | 金属層の製造方法及びその装置、並びに配向性制御方法 |
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Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
CN115094384A (zh) * | 2022-07-14 | 2022-09-23 | 扬州纳力新材料科技有限公司 | 铜复合集流体及其制备方法和应用 |
-
2019
- 2019-04-25 JP JP2019084782A patent/JP2020180351A/ja active Pending
Cited By (2)
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CN115094384A (zh) * | 2022-07-14 | 2022-09-23 | 扬州纳力新材料科技有限公司 | 铜复合集流体及其制备方法和应用 |
CN115094384B (zh) * | 2022-07-14 | 2023-07-28 | 扬州纳力新材料科技有限公司 | 铜复合集流体及其制备方法和应用 |
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