(本開示の基礎となった知見)
従来から、騒音と逆位相の制御音をスピーカから再生して、騒音を打ち消す技術が知られている。当該技術は、ヘッドホンやインナーホン(以降、イヤホン)では既に実用化されている。当該ヘッドホンやイヤホンは、ノイズキャンセルヘッドホンとして一般的に知られている。ヘッドホンやイヤホンは、耳に直接装着するものである。このため、前記従来技術をヘッドホンやイヤホンに適用する場合、ヘッドホンやイヤホンで密閉された耳の内部の極めて小さい空間に伝播される騒音が制御されればよい。
一方、自動車や航空機等の搭乗者が数人以上存在する空間に前記従来技術を適用するとする。この場合、各搭乗者が存在する位置で騒音を低減するように多点制御を行う必要があるため、制御が複雑となり、実用化は困難であった。特に、航空機のような多数の搭乗者が存在する大空間に前記従来技術を適用することは困難であった。
しかし、近年では、自動車のエンジン音に特化した簡易な騒音制御が実用化されている。図14は、従来例に係る自動車100のエンジン音を低減するための騒音制御装置1000aの構成図である。例えば、図14に示すように、騒音制御装置1000aでは、自動車100のエンジン101が起動しているときに、タコパルス発生器110がエンジン回転数に同期したパルス信号を出力する。このパルス信号は、低域通過フィルタ(以降、LPF)111により、車内の騒音として問題となる所定の周波数と等しい周波数の余弦波に変換される。LPF111から出力された余弦波は、第1の移相器112と第2の移相器113に入力される。
第1の移相器112は、第2の移相器113に対して位相特性がπ/2(rad)進むように設定されている。したがって、第1の移相器112の出力信号は、騒音の周波数と等しい周波数の余弦波信号(以降、参照余弦波信号)となる。一方、第2の移相器113の出力信号は、騒音の周波数と等しい周波数の正弦波信号(以降、参照正弦波信号)となる。参照余弦波信号と参照正弦波信号は、デジタル信号に変換された後、マイコン200に入力される。
マイコン200に入力された参照余弦波信号は、適応ノッチフィルタ210の係数乗算器211においてフィルタ係数W0と乗算される。マイコン200に入力された参照正弦波信号は、適応ノッチフィルタ210の係数乗算器212においてフィルタ係数W1と乗算される。そして、加算器213において、係数乗算器211の出力信号と係数乗算器212の出力信号とが加算された後、スピーカ160によって制御音として再生される。
スピーカ160から再生された制御音は、エラーマイク150の設置場所である制御点において、エンジンから伝播した騒音と干渉する。これにより、前記制御点における騒音が低減される。このとき、低減し切れなかった前記制御点に残留する騒音(以降、残留騒音)は、エラーマイク150によってエラー信号として検出される。エラーマイク150によって検出されたエラー信号は、二個のLMS演算器207、208に入力される。
伝達要素201では、第1の移相器112が出力した参照余弦波信号に、スピーカ160からエラーマイク150までの音の伝達特性C0を模擬した係数が畳み込まれる。伝達要素202では、第2の移相器113が出力した参照正弦波信号に、スピーカ160からエラーマイク150までの音の伝達特性C1を模擬した係数が畳み込まれる。伝達要素203では、第2の移相器113が出力した参照正弦波信号に、スピーカ160からエラーマイク150までの音の伝達特性C0を模擬した係数が畳み込まれる。伝達要素204では、第1の移相器112が出力した参照余弦波信号に、スピーカ160からエラーマイク150までの音の伝達特性C1と反対の伝達特性−C1を模擬した係数が畳み込まれる。
そして、伝達要素201の出力信号と伝達要素202の出力信号とが加算器205で加算された後、LMS演算器207に入力される。また、伝達要素203の出力信号と伝達要素204の出力信号とが加算器206で加算された後、LMS演算器208に入力される。
LMS演算器207は、エラーマイク150から入力されるエラー信号が最小となるように、LMS(LeastMean Square)アルゴリズム(最小二乗法)等の公知の係数更新アルゴリズムによって、係数乗算器211が用いるフィルタ係数W0を算出する。これと同様にして、LMS演算器208は、エラーマイク150から入力されるエラー信号が最小となるように、係数乗算器212が用いるフィルタ係数W1を算出する。
このように、適応ノッチフィルタ210の係数乗算器211、212が用いるフィルタ係数W0、W1は、エラーマイク150から入力されるエラー信号が最小となるように、再帰的に更新され、最適値に収束していく。すなわち、フィルタ係数W0、W1は、エラーマイク150の設置場所において、エンジンから伝播した騒音が最小となるように再帰的に更新され、最適値に収束していく。
このため、図14に示す従来の騒音制御装置1000aは、高価なDSPを用いずに、安価なマイコン200を用いて、エラーマイク150が設置されている制御点において、エンジンから伝播した騒音を低減することができる。
しかし、騒音制御装置1000aでは、適応ノッチフィルタ210で参照される信号として、エンジンで発生した騒音に基づく余弦波信号及び正弦派信号を使用しているので、エンジン以外の騒音源から伝播した騒音は低減できない。
そこで、エンジン音を含む自動車の走行騒音(以降、ロードノイズ)を低減する場合は、複数のセンサが用いられる。
図15Aは、従来例に係るロードノイズを低減するための騒音制御装置1000bが配置される自動車100内の構成を示す平面図である。図15Bは、従来例に係るロードノイズを低減するための騒音制御装置1000bが配置される自動車100内の構成を示す側面図である。図16は、従来例に係るロードノイズを低減するための騒音制御装置1000bの構成図である。
図15A及び図15Bに示すように、自動車100のタイヤの近傍のサスペンション部には、サスペンション部(騒音源)で生じたロードノイズ(騒音)を検出する四個のセンサ(騒音検出器)1a、1b、1c、1dが設置されている。具体的には、各センサ1a、1b、1c、1dは、ロードノイズとして、自動車100が走行しているときのサスペンション部の振動を検出する。
図16に示すように、センサ1a、1b、1c、1dで検出された振動信号は、それぞれ、制御フィルタ20aa、20ab、20ba、20bbに入力される。尚、説明の便宜上、図16には、自動車100の前側の半分に備えられた、二個のセンサ1a、1bと、二個のスピーカ3a、3bと、二個のエラーマイク2a、2bと、だけが図示されている。
しかし、実際には、騒音制御装置1000bは、自動車100の後側の半分に、二個のセンサ1c、1dと、二個のスピーカ3c、3dと、二個のエラーマイク2b、2cと、を更に備える。騒音制御装置1000bは、自動車100の前側の半分及び自動車100の後側の半分において、同様に、ロードノイズを低減する制御を行う。このため、以下では、図16に示す騒音制御装置1000bが、自動車100の前側の半分においてロードノイズを低減する制御についてのみ詳述する。
図16に示すように、騒音制御装置1000bは、自動車100の前側の半分においてロードノイズを低減する制御を行う場合、四個の制御フィルタ20aa、20ab、20ba、20bbと、二個のセンサ1a、1bと、二個の加算器30a、30bと、二個のスピーカ3a、3bと、二個(一以上)のエラーマイク2a、2bと、八個のLMS演算器(係数更新器)61aaa、61aab、61aba、61abb、61baa、61bab、61bba、61bbbと、八個の伝達特性補正フィルタ62aaa、62aab、62aba、62abb、62baa、62bab、62bba、62bbbと、を用いる。
尚、騒音制御装置1000bは、CPUやRAM及びROM等のメモリ等を備えた不図示のマイクロコンピュータ(コンピュータ)を備える。制御フィルタ20aa、20ab、20ba、20bb、加算器30a、30b、LMS演算器61aaa、61aab、61aba、61abb、61baa、61bab、61bba、61bbb及び伝達特性補正フィルタ62aaa、62aab、62aba、62abb、62baa、62bab、62bba、62bbbは、前記ROMに予め記憶されているプログラムがCPUによって実行されることによって構成される。
二個の制御フィルタ20aa、20abは、センサ1aが検出した振動を示す振動信号(騒音信号)に、所定の制御係数を用いて畳み込み処理(信号処理、第一信号処理)を行う。二個の制御フィルタ20ba、20bbは、センサ1bが検出した振動を示す振動信号に、所定の制御係数を用いて畳み込み処理を行う。
加算器30aは、制御フィルタ20aaの出力信号と制御フィルタ20baの出力信号とを加算し、当該加算後の信号をスピーカ3aへ出力する。加算器30bは、制御フィルタ20abの出力信号と制御フィルタ20bbの出力信号とを加算し、当該加算後の信号をスピーカ3bへ出力する。
スピーカ3aは、制御フィルタ20aaの出力信号と制御フィルタ20baの出力信号とを加算器30aで加算した信号を制御音として再生する。スピーカ3bは、制御フィルタ20abの出力信号と制御フィルタ20bbの出力信号とを加算器30bで加算した信号を制御音として再生する。
二個のエラーマイク2a、2bは、サスペンション部から車内に伝播したロードノイズとスピーカ3a、3bで再生された制御音との干渉が生じる領域内に設置されている。二個のエラーマイク2a、2bは、前記干渉によって各自の設置場所である制御点に残留する残留騒音を検出する。
エラーマイク2aは、検出した残留騒音を示すエラー信号を、四個のLMS演算器61aaa、61aba、61baa、61bbaへ出力する。エラーマイク2bは、検出した残留騒音を示すエラー信号を、四個のLMS演算器61aab、61abb、61bab、61bbbへ出力する。一方、センサ1aは、検出した振動を示す振動信号を、四個の伝達特性補正フィルタ62aaa、62aab、62aba、62abbへ出力する。
ここで、伝達特性補正フィルタ62aaaは、スピーカ3aからエラーマイク2aまでの音の伝達特性C11を近似した係数を用いて、センサ1aが出力した振動信号に畳み込み処理(信号処理、第二信号処理)を行い、当該畳み込み処理後の信号をLMS演算器61aaaへ出力する。伝達特性補正フィルタ62aabは、スピーカ3aからエラーマイク2bまでの音の伝達特性C12を近似した係数を用いて、センサ1aが出力した振動信号に畳み込み処理を行い、当該畳み込み処理後の信号をLMS演算器61aabへ出力する。同様にして、伝達特性補正フィルタ62aba、62abbは、それぞれ、スピーカ3aからエラーマイク2a、2bまでの音の伝達特性C21、C22を近似した係数を用いて、センサ1aが出力した振動信号に畳み込み処理を行い、当該畳み込み処理後の信号をLMS演算器61aba、61abbへ出力する。
LMS演算器61aaaは、伝達特性補正フィルタ62aaaから入力された信号と、エラーマイク2aから入力されたエラー信号と、を用いてLMSアルゴリズムを実行することにより、エラーマイク2aから入力されるエラー信号を最小化するように、制御フィルタ20aaの制御係数を更新する。LMS演算器61aabは、伝達特性補正フィルタ62aabから入力された信号と、エラーマイク2bから入力されたエラー信号と、を用いてLMSアルゴリズムを実行することにより、エラーマイク2bから入力されるエラー信号を最小化するように、制御フィルタ20aaの制御係数を更新する。
同様にして、LMS演算器61aba、61abbは、伝達特性補正フィルタ62aba、62abbから入力された信号と、エラーマイク2a、2bから入力されたエラー信号と、を用いてLMSアルゴリズムを実行する。これにより、LMS演算器61aba、61abbは、エラーマイク2a、2bから入力されるエラー信号を最小化するように、制御フィルタ20abの制御係数を更新する。
同様にして、センサ1bは、検出した振動を示す振動信号を、四個の伝達特性補正フィルタ62baa、62bab、62bba、62bbbへ出力する。伝達特性補正フィルタ62baa、62babは、スピーカ3aからエラーマイク2a、2bまでの音の伝達特性C11、C12を近似した係数を用いて、センサ1bが出力した振動信号に畳み込み処理を行い、当該畳み込み処理後の信号をLMS演算器61baa、61babへ出力する。伝達特性補正フィルタ62bba、62bbbは、スピーカ3bからエラーマイク2a、2bまでの音の伝達特性C21、C22を近似した係数を用いて、センサ1bが出力した振動信号に畳み込み処理を行い、当該畳み込み処理後の信号をLMS演算器61bba、61bbbへ出力する。
LMS演算器61baa、61babは、伝達特性補正フィルタ62baa、62babから入力された信号と、エラーマイク2a、2bから入力されたエラー信号と、を用いてLMSアルゴリズムを実行する。これにより、LMS演算器61baa、61babは、エラーマイク2a、2bから入力されるエラー信号を最小化するように、制御フィルタ20baの制御係数を更新する。同様にして、LMS演算器61bba、61bbbは、伝達特性補正フィルタ62bba、62bbbから入力された信号と、エラーマイク2a、2bから入力されたエラー信号と、を用いてLMSアルゴリズムを実行する。これにより、LMS演算器61bba、61bbbは、エラーマイク2a、2bから入力されるエラー信号を最小化するように、制御フィルタ20bbの制御係数を更新する。
以上より、最終的には、センサ1a、1b、1c、1dが検出した振動を示す振動信号に起因するロードノイズが、エラーマイク2a、2b、2c、2dの設置箇所である制御点において、スピーカ3a、3b、3c、3dが再生した制御音と干渉することによって低減される。
ところで、通常、運転者は、自動車の運転時に、自動車の走行状態に応じてアクセルの開度を変化させることで、自動車の走行速度やエンジンの回転数を状況に応じて調整する。したがって、自動車の走行中、エンジン音の周波数やレベルは頻繁に変動する。このため、エンジン音を低減する制御では、スピーカに再生させる制御音を走行状態に常に適応させる必要がある。つまり、エンジン音の周波数(エンジン回転数)が一旦収束したとしても、上記制御係数を更新する動作(以降、適応動作)を継続する必要がある。このように、エンジン音を低減させる制御は、エンジン音だけの適応動作を継続する制御を行えばよいので、簡易且つ安価に実現することができる。
一方、ロードノイズは、複数の騒音源から発生するランダム性の強い騒音であり、幅広い周波数帯域を有する。このため、ロードノイズを低減する制御では、前記制御係数のタップ長が長めに設定され、前記複数の騒音源から発生する騒音を検出する複数のセンサが設けられればよい。また、車内の複数個所において、それぞれ、ロードノイズを適切に低減させるために、複数のスピーカと複数のエラーマイクとが設けられ、前記適応動作が継続されればよい。この場合、各エラーマイクで集音された残留騒音を最小化するように各制御係数の更新を継続することで、各エラーマイクの設置場所である制御点において、ロードノイズを低減することができる。
尚、ロードノイズは、上記のように、一般的にランダム性の強い幅広い周波数帯域を有する。このため、例えば図16に示す制御フィルタ20aa、20abの制御係数は、センサ1aの近傍のサスペンション部で発生したロードノイズがエラーマイク2a、2bまで伝達されるときの音の伝達特性に応じて収束する。つまり、ロードノイズを低減する場合、一旦、前記伝達特性に応じた制御係数に収束すれば、適応動作を継続しなくても、一定の騒音の低減効果を持続することができる。
具体的には、制御係数が、ある走行状態(例えば60km/h走行時)において、100〜500Hzの帯域のロードノイズを10dB低減するような制御係数に収束するものとする。この場合、当該制御係数を用いれば、別の走行状態(例えば100km/h走行時)においても、100〜500Hzの帯域のロードノイズを10dB低減することができる。
このように、ロードノイズを低減する制御では、エンジン音を低減する制御とは異なり、自動車の走行速度(又はエンジン回転数)の変化によらず、制御係数を固定したとしても、一定の騒音の低減効果を得ることができる。このため、自動車に騒音制御装置1000bを適用してロードノイズを低減する場合には、制御係数の初期値を定め、制御係数を当該初期値に固定することが考えられる。以下では、このような制御係数の初期値の決定方法の具体例について説明する。
カーメーカは、ユーザーがどのような場所で自動車を走行させるのか、運転者以外に何人乗車させるのか、又は、カーオーディオで音楽等を再生しながら走行させるのか等、自動車の走行状態を予め把握することは不可能である。例えば、ナビゲーションシステムが記憶している情報に基づいて、自動車の走行位置を判断できたとしても、自動車が走行している路面の状態まで正確に把握又は予測することはできない。例えば、自動車が走行している路面が、凸凹が多い路面であるか、又は、マンホールがある路面であるか等、路面状態が一定のアスファルト路面ではないことを正確に把握又は予測することは困難である。
また、自動車が走行している路面が、道路工事の終了前後の路面であって、凸凹道から新しいアスファルトの平坦路面に急に変化した路面であることを正確に把握又は予測することは困難である。また、自動車が走行している路面が、雨や降雪で濡れた路面であること、又は、乾燥していない路面であることを正確に把握又は予測することは困難である。更には、本線の路面状態と追い越し車線の路面状態が同じではない場合に、自動車が本線と追い越し車線のどちらを走行中であるのか、又は、自動車が車線を変更中であるのかまで、正確に把握又は予測することは困難である。
そこで、カーメーカは、通常、路面状態が一定に管理されたテストコースにおいて自動車を走行させる。そして、カーメーカは、例えば、時速60km/hで、カーオーディオで何も再生せずに走行する等、自動車の走行状態を一定にして制御係数を求める。そして、カーメーカは、制御係数を当該求めた制御係数に固定して、自動車が所定の効果測定区間(例えばテストコースの直線区間)を走行している時のロードノイズを一定期間(例えば10秒間)毎に平均化して測定する。
図17は、従来例に係る騒音制御装置1000bによるロードノイズの騒音制御の効果を示す図である。そして、カーメーカは、例えば、図17の実線部に示すような、測定したロードノイズの周波数と測定したロードノイズのレベル(音圧)との関係を示す制御オフ特性を導出する。具体的には、騒音制御装置1000bに前記適応動作を行わせないで、自動車が前記効果測定区間を走行している時のロードノイズを一定期間(例えば10秒間)毎に平均化して測定すればよい。次に、カーメーカは、騒音制御装置1000bに前記適応動作を行わせながら、自動車が前記効果測定区間を走行している時のロードノイズを一定期間(例えば10秒間)毎に平均化して測定する。そして、カーメーカは、例えば、図17の破線部に示すような、測定したロードノイズの周波数と測定したロードノイズのレベルとの関係を示す制御オン特性を導出する。
次に、カーメーカは、導出した制御オフ特性及び制御オン特性における各周波数のレベルの差分を計算し、当該差分が示すロードノイズの低減効果が所定の目標値を達成しているか否かを確認する。これにより、カーメーカは、制御係数が収束しているか否かを確認する。カーメーカは、前記差分が示すロードノイズの低減効果が所定の目標値を達成していない場合、制御係数が収束していないと判定する。この場合、カーメーカは、再度、騒音制御装置1000bに前記適応動作を行わせながら、自動車に前記効果測定区間を走行させ、上記と同様に、制御オン特性を再び導出する。そして、カーメーカは、前記低減効果が所定の目標値を達成するまで、これを繰り返す。
その後、カーメーカは、前記低減効果が所定の目標値を達成した場合、制御係数が収束したと判定し、これ以降、制御係数を固定することができると判断する。そして、カーメーカは、当該収束したときの制御係数を、制御係数の初期値として前記ROMに予め記憶する。
しかし、この方法では、カーメーカは、一台ずつ制御係数を設計しなければならないので、自動車を大量に販売するためには膨大な手間がかかることになる。仮に、一台の自動車を用いて決定した制御係数の初期値が代表値とされ、当該代表値が他の自動車における制御係数の初期値として設定されたとする。しかし、この場合、全ての自動車において、ロードノイズの伝達特性が一致しているとは限らないため、所望の低減効果が得られる保証はない。
特に、スピーカは、一般的に、出力特性に10〜20%程度のバラツキがあることを許容して製品管理されている。また、自動車に組み込まれた状態のスピーカの出力特性は、更にバラツキが生じると考えられる。この他にも、マイクや、マイクアンプあるいはパワーアンプなどの回路における特性にもバラツキが生じると考えられる。このため、ある一台の自動車を用いて決定した制御係数の初期値を代表値として、他の自動車における制御係数の初期値として設定したとしても、全ての自動車においてロードノイズの低減効果が所望の目標値を達成することは保証できない。場合によっては、騒音制御装置1000bが発振するかもしれない。
そこで、自動車を購入したユーザーに、制御係数の初期値を設定させることが考えられる。しかし、ユーザーは、上述したカーメーカのテストコースのような安定した走行条件下で、制御オフ特性と制御オン特性の差分を導出することは困難である。このため、ユーザーが適切な制御係数の初期値を決定することは困難といえる。
以上のことから、本発明者は、制御係数を固定したまま、ロードノイズを低減し続けることは困難であると考えた。そこで、本発明者は、制御係数を固定する固定動作を行っている場合に所望の低減効果が得られない状況になったときは、前記適応動作を行わせ、その後、所望の低減効果が得られる状況になれば、制御係数をそのときの制御係数に固定し、再び固定動作を行わせることについて検討した。
しかし、例えば、運転者が他の搭乗者の要望に応じてカーオーディオの再生音を大きく変更したこと等によって、低減する対象ではない騒音(以降、対象外の騒音)が生じたとする。この場合、上記従来技術では、エラーマイクによって、低減する対象の騒音だけでなく、対象外の騒音も含んだ騒音が集音される。
このため、対象外の騒音を含んだ騒音を最小化するように制御音が制御され、対象の騒音だけを精度良く低減することができなかった。つまり、上記従来技術では、低減対象の騒音の低減効果を正確に把握することができなかった。そこで、本発明者は、低減対象の騒音の低減効果を正確に把握することについて鋭意検討を行った結果、本開示を想起するに至った。
本開示に係る実施形態では、騒音源で生じた騒音を検出する騒音検出器と、前記騒音検出器が検出した騒音を示す騒音信号に所定の制御係数を用いて信号処理を行う制御フィルタと、前記制御フィルタの出力信号を制御音として再生するスピーカと、前記騒音源から伝搬した騒音と前記スピーカで再生された制御音との干渉が生じる制御点に設置され、前記干渉によって前記制御点に残留する残留騒音を検出するエラーマイクと、前記スピーカから前記エラーマイクまでの音の伝達特性を用いて前記騒音信号を信号処理する伝達特性補正フィルタと、前記エラーマイクが検出した残留騒音を示すエラー信号と前記伝達特性補正フィルタの出力信号とを用いて、前記エラー信号を最小化するように前記制御係数を更新する係数更新器と、前記スピーカから前記エラーマイクまでの音の伝達特性を用いて前記制御フィルタの出力信号を信号処理する補正フィルタと、前記エラー信号から前記補正フィルタの出力信号を差し引く減算器と、前記減算器の出力信号を、前記干渉による制御前の騒音を表す制御オフ信号とし、前記エラー信号を、前記干渉による制御後の騒音を表す制御オン信号として、前記制御オフ信号と前記制御オン信号との差分に基づき、前記制御点における騒音の低減効果を測定する効果測定部と、を備える騒音制御装置が提供される。
また、本開示に係る実施形態では、騒音制御装置のコンピュータが、騒音源で生じた騒音をセンサを用いて検出し、前記センサが検出した騒音を示す騒音信号に所定の制御係数を用いて第一信号処理を行い、前記第一信号処理後の信号を制御音としてスピーカに再生させ、前記騒音源から伝搬した騒音と前記スピーカで再生された制御音との干渉が生じる制御点に設置されたエラーマイクを用いて、前記干渉によって前記制御点に残留する残留騒音を検出し、前記スピーカから前記エラーマイクまでの音の伝達特性を用いて前記騒音信号に第二信号処理を行い、前記エラーマイクが検出した残留騒音を示すエラー信号と前記第二信号処理後の信号とを用いて、前記エラー信号を最小化するように前記制御係数を更新し、前記スピーカから前記エラーマイクまでの音の伝達特性を用いて前記第一信号処理後の信号に第三信号処理を行い、前記エラー信号から前記第三信号処理後の信号を差し引き、当該差し引き後の信号を、前記干渉による制御前の騒音を表す制御オフ信号とし、前記エラー信号を、前記干渉による制御後の騒音を表す制御オン信号として、前記制御オフ信号と前記制御オン信号との差分に基づき、前記制御点における騒音の低減効果を測定する、騒音制御方法が提供される。
また、本開示に係る実施形態では、前記騒音制御方法をコンピュータに実行させるためのプログラムが提供される。
また、本開示に係る実施形態では、騒音源で生じた騒音を検出する騒音検出器と、前記騒音検出器が検出した騒音を示す騒音信号に所定の制御係数を用いて信号処理を行う制御フィルタと、前記制御フィルタの出力信号を制御音として再生するスピーカと、前記騒音源から伝搬した騒音と前記スピーカで再生された制御音との干渉が生じる制御点に設置され、前記干渉によって前記制御点に残留する残留騒音を検出するエラーマイクと、前記スピーカから前記エラーマイクまでの音の伝達特性を用いて前記制御フィルタの出力信号を信号処理する補正フィルタと、前記エラー信号から前記補正フィルタの出力信号を差し引く減算器と、前記減算器の出力信号を、前記干渉による制御前の騒音を表す制御オフ信号とし、前記エラー信号を、前記干渉による制御後の騒音を表す制御オン信号として、前記制御オフ信号と前記制御オン信号との差分に基づき、前記制御点における騒音の低減効果を測定する効果測定部と、を備える騒音制御装置が提供される。
上記態様によれば、エラーマイクが検出した残留騒音を示すエラー信号から補正フィルタの出力信号を差し引いた信号を制御オフ信号とし、前記エラー信号を制御オン信号として、制御オフ信号と制御オン信号との差分に基づき、制御点における騒音の低減効果が測定される。つまり、エラー信号から補正フィルタの出力信号を差し引いた信号と、エラー信号と、の差分である、補正フィルタの出力信号に基づき、制御点における騒音の低減効果が測定される。
このため、対象とする騒音源で生じる騒音とは無関係な音が制御点に伝播し、エラーマイクが検出した残留騒音を示すエラー信号に、騒音源で生じる騒音とは無関係な音が含まれていたとしても、当該無関係な音に関係のない補正フィルタの出力信号のみに基づき、制御点における騒音源から伝播した騒音の低減効果を精度良く測定することができる。
上記態様において、前記係数更新器に前記制御係数の更新を実施させるか否かを判定する適応可能状態判定部を更に備えてもよい。
本態様によれば、係数更新器に制御係数の更新を実施させるか否かを判定することができる。このため、係数更新器に制御係数の更新を実施させることで制御点における騒音が悪化するような場合には、係数更新器に制御係数の更新を実施させず、係数更新器に制御係数の更新を実施させることで制御点における騒音が低下するような場合にのみ、係数更新器に制御係数の更新を実施させることができる。
上記態様において、前記係数更新器は、所定の収束定数を用いて前記制御係数を更新し、前記効果測定部は、前記制御オフ信号と前記制御オン信号との差分を前記低減効果として測定し、前記低減効果が所定の目標値を達成しているか否かを判定する判定処理を行い、前記判定処理において、前記低減効果が前記目標値を達成していると判定した場合、前記制御係数が最適値に収束したものとして、前記係数更新器による前記制御係数の更新を停止して前記制御係数を前記最適値に固定し、前記低減効果が前記目標値を達成していないと判定した場合、前記制御係数が最適値に収束していないものとして、前記低減効果の測定時点に前記係数更新器が用いていた前記収束定数に所定値を加えたものを新たな収束定数とし、前記係数更新器による前記新たな収束定数を用いた前記制御係数の更新を再開させてもよい。
本態様によれば、前記制御オフ信号と前記制御オン信号との差分が所定の目標値を達成し、制御係数が最適値に収束していると考えられるような場合には、制御係数を当該最適値に固定して、無駄に制御係数を更新することを回避することができる。一方、前記差分が所定の目標値を達成していず、制御係数が最適値に収束していないと考えられるような場合には、前記低減効果の測定時点よりも大きい新たな収束定数を用いて制御係数を更新することができる。このようにして、本態様によれば、制御係数を効率よく最適値に収束させることができる。
上記態様において、前記効果測定部は、前記制御オフ信号及び前記制御オン信号のそれぞれに、人間の聴覚特性を模擬したA特性を示すA特性係数を用いて信号処理を行い、当該信号処理後の前記制御オフ信号と当該信号処理後の前記制御オン信号との差分を前記低減効果として測定してもよい。
本態様によれば、人間の聴覚特性を加味して、前記低減効果を測定することができる。このため、対象とする騒音源で生じる騒音とは無関係な音が制御点にいる人間に聴こえる場合であっても、当該無関係な音の影響を受けずに、当該制御点における前記騒音源から伝播した騒音の低減効果を精度良く測定することができる。
上記態様において、前記効果測定部は、前記制御オフ信号及び前記制御オン信号の周波数特性を計算する周波数分析部と、前記周波数特性における周波数毎に、前記制御オフ信号と前記制御オン信号との差分である第一差分を、前記低減効果の指標として計算する周波数差分効果計算部と、を備えてもよい。
本態様によれば、制御オフ信号及び制御オン信号の周波数特性における各周波数の制御オフ信号と制御オン信号との差分である第一差分を前記低減効果の指標として計算することができる。このため、前記低減効果が所定の目標値を達成しているか否かを、前記目標値に応じた所定の値を達成している第一差分の数等に応じて判定することができる。
上記態様において、前記効果測定部は、前記制御オフ信号及び前記制御オン信号の周波数特性を計算する周波数分析部と、前記周波数特性を用いて、前記制御オフ信号及び前記制御オン信号の其々の全周波数帯域におけるオーバーオール値を計算するオーバーオール計算部と、前記制御オフ信号のオーバーオール値と前記制御オン信号のオーバーオール値との差分である第二差分を、前記低減効果の指標として計算するオーバーオール値差分効果計算部と、を備えてもよい。
本態様によれば、制御オフ信号及び制御オン信号の周波数特性を用いて計算した、制御オフ信号のオーバーオール値と制御オン信号のオーバーオール値との差分である第二差分を前記低減効果の指標として計算することができる。このため、第二差分が前記目標値に応じた所定の値を達成しているか否かを判定すること等によって、前記低減効果が所定の目標値を達成しているか否かを判定することができる。
上記態様において、前記効果測定部は、前記制御オフ信号及び前記制御オン信号の周波数特性を計算する周波数分析部と、前記周波数特性における周波数毎に、前記制御オフ信号と前記制御オン信号との差分である第一差分を、前記低減効果の指標として計算する周波数差分効果計算部と、前記周波数特性を用いて、前記制御オフ信号及び前記制御オン信号の其々の全周波数帯域におけるオーバーオール値を計算するオーバーオール計算部と、前記制御オフ信号のオーバーオール値と前記制御オン信号のオーバーオール値との差分である第二差分を、前記低減効果の指標として計算するオーバーオール値差分効果計算部と、を備えてもよい。
本態様によれば、制御オフ信号及び制御オン信号の周波数特性における各周波数の制御オフ信号と制御オン信号との差分である第一差分を前記低減効果の指標として計算することができる。このため、前記低減効果が所定の目標値を達成しているか否かを、前記目標値に応じた所定の値を達成している第一差分の数等に応じて判定することができる。
また、制御オフ信号及び制御オン信号の周波数特性を用いて計算した、制御オフ信号のオーバーオール値と制御オン信号のオーバーオール値との差分である第二差分を前記低減効果の指標として計算することができる。このため、第二差分が前記目標値に応じた所定の値を達成しているか否かを判定すること等によっても、前記低減効果が所定の目標値を達成しているか否かを判定することができる。
上記態様において、前記効果測定部は、前記周波数特性を用いて、前記制御オフ信号及び前記制御オン信号の其々に含まれる所定の評価対象周波数帯域内の周波数の信号を抽出する帯域制限部を更に備え、前記オーバーオール計算部は、前記帯域制限部が前記制御オフ信号及び前記制御オン信号から抽出した信号の其々の全周波数帯域におけるオーバーオール値を計算し、前記オーバーオール値差分効果計算部は、前記帯域制限部が前記制御オフ信号から抽出した信号のオーバーオール値と、前記帯域制限部が前記制御オン信号から抽出した信号のオーバーオール値と、の差分を前記第二差分としてもよい。
本態様によれば、制御オフ信号に含まれる評価対象周波数帯域の信号のオーバーオール値と制御オン信号に含まれる評価対象周波数帯域の信号のオーバーオール値との差分が第二差分として計算される。このため、対象外の騒音が発生する等して、評価対象周波数帯域外の信号が制御オフ信号及び制御オフ信号に含まれていたとしても、当該第二差分が前記目標値に応じた所定の値を達成しているか否かを判定すること等によって、前記低減効果が所定の目標値を達成しているか否かを、評価対象周波数帯域外の信号の影響を除外して精度良く判定することができる。
上記態様において、前記係数更新器は、所定の収束定数を用いて前記制御係数を更新し、前記効果測定部は、前記低減効果が所定の目標値を達成しているか否かを判定する判定処理を行い、前記判定処理において、前記周波数差分効果計算部が計算した、所定の評価対象周波数帯域に含まれる周波数のうちの過半数の周波数の前記第一差分が、前記目標値に応じた所定の第一目標値を達成している場合、前記低減効果が前記目標値を達成していると判定し、前記制御係数が最適値に収束したものとして、前記係数更新器による前記制御係数の更新を停止して前記制御係数を前記最適値に固定し、前記周波数差分効果計算部が計算した、前記評価対象周波数帯域に含まれる周波数のうちの過半数の周波数の前記第一差分が前記第一目標値を達成していない場合、前記低減効果が前記目標値を達成していないと判定し、前記制御係数が最適値に収束していないものとして、前記第一差分の計算時点に前記係数更新器が用いていた前記収束定数に所定値を加えたものを新たな収束定数とし、前記係数更新器による前記新たな収束定数を用いた前記制御係数の更新を再開させてもよい。
本態様によれば、前記低減効果が前記目標値を達成しているか否かを、所定の評価対象周波数帯域に含まれる周波数のうちの、前記目標値に応じた所定の第一目標値を達成している第一差分に対応する周波数の割合に基づき、精度良く判定することができる。
そして、前記低減効果が所定の目標値を達成し、制御係数が最適値に収束していると考えられるような場合には、制御係数を当該最適値に固定して、無駄に制御係数を更新することを回避することができる。一方、前記低減効果が所定の目標値を達成していず、制御係数が最適値に収束していないと考えられるような場合には、第一差分の計算時点よりも大きい新たな収束定数を用いて制御係数を更新することができる。このようにして、本態様によれば、制御係数を効率よく最適値に収束させることができる。
上記態様において、前記係数更新器は、所定の収束定数を用いて前記制御係数を更新し、前記効果測定部は、前記低減効果が所定の目標値を達成しているか否かを判定する判定処理を行い、前記判定処理において、前記第二差分が前記目標値に応じた所定の第二目標値を達成している場合、前記低減効果が前記目標値を達成していると判定し、前記制御係数が最適値に収束したものとして、前記係数更新器による前記制御係数の更新を停止して前記制御係数を前記最適値に固定し、前記第二差分が前記第二目標値を達成していない場合、前記低減効果が前記目標値を達成していないと判定し、前記制御係数が最適値に収束していないものとして、前記第二差分の計算時点に前記係数更新器が用いていた前記収束定数に所定値を加えたものを新たな収束定数とし、前記係数更新器による前記新たな収束定数を用いた前記制御係数の更新を再開させてもよい。
本態様によれば、前記低減効果が前記目標値を達成しているか否かを、前記第二差分が前記目標値に応じた所定の第二目標値を達成しているか否かに応じて、精度良く判定することができる。
そして、前記低減効果が所定の目標値を達成し、制御係数が最適値に収束していると考えられるような場合には、制御係数を当該最適値に固定して、無駄に制御係数を更新することを回避することができる。一方、前記低減効果が所定の目標値を達成していず、制御係数が最適値に収束していないと考えられるような場合には、第二差分の計算時点よりも大きい新たな収束定数を用いて制御係数を更新することができる。このようにして、本態様によれば、制御係数を効率よく最適値に収束させることができる。
上記態様において、前記係数更新器は、所定の収束定数を用いて前記制御係数を更新し、前記効果測定部は、前記低減効果が所定の目標値を達成しているか否かを判定する判定処理を行い、前記判定処理において、前記周波数差分効果計算部が計算した、所定の評価対象周波数帯域に含まれる周波数のうちの過半数の周波数の前記第一差分が前記目標値に応じた所定の第一目標値を達成し、且つ、前記第二差分が前記目標値に応じた所定の第二目標値を達成している場合、前記低減効果が前記目標値を達成していると判定し、前記制御係数が最適値に収束したものとして、前記係数更新器による前記制御係数の更新を停止して前記制御係数を前記最適値に固定し、前記周波数差分効果計算部が計算した、前記評価対象周波数帯域に含まれる周波数のうちの過半数の周波数の前記第一差分が前記第一目標値を達成していない場合、前記低減効果が前記目標値を達成していないと判定し、前記制御係数が最適値に収束していないものとして、前記第一差分の計算時点に前記係数更新器が用いていた前記収束定数に所定値を加えたものを新たな収束定数とし、前記係数更新器による前記新たな収束定数を用いた前記制御係数の更新を再開させ、前記第二差分が前記第二目標値を達成していない場合、前記低減効果が前記目標値を達成していないと判定し、前記制御係数が最適値に収束していないものとして、前記第二差分の計算時点に前記係数更新器が用いていた前記収束定数に所定値を加えたものを新たな収束定数とし、前記係数更新器による前記新たな収束定数を用いた前記制御係数の更新を再開させてもよい。
本態様によれば、前記低減効果が前記目標値を達成しているか否かを、所定の評価対象周波数帯域に含まれる周波数のうちの、前記目標値に応じた所定の第一目標値を達成している第一差分に対応する周波数の割合に基づき、精度良く判定することができる。また、前記低減効果が前記目標値を達成しているか否かを、前記第二差分が前記目標値に応じた所定の第二目標値を達成しているか否かに応じて、精度良く判定することができる。
そして、前記低減効果が所定の目標値を達成し、制御係数が最適値に収束していると考えられるような場合には、制御係数を当該最適値に固定して、無駄に制御係数を更新することを回避することができる。一方、前記低減効果が所定の目標値を達成していず、制御係数が最適値に収束していないと考えられるような場合には、第一差分又は第二差分の計算時点よりも大きい新たな収束定数を用いて制御係数を更新することができる。このようにして、本態様によれば、制御係数を効率よく最適値に収束させることができる。
上記態様において、前記効果測定部は、前記判定処理において、前記周波数差分効果計算部が計算した、前記評価対象周波数帯域に含まれる所定の騒音増加帯域内の周波数のうち、所定数以上の周波数の前記第一差分が、前記目標値に応じた所定の許容値を超えている場合、前記制御係数に異常が生じたものとして、前記係数更新器による前記制御係数の更新を中止してもよい。
本態様によれば、前記制御係数に異常が生じたことを、所定の評価対象周波数帯域に含まれる所定の騒音増加帯域内の周波数のうちの、前記目標値に応じた所定の許容値を超えている第一差分に対応する周波数の割合に基づき、精度良く判定することができる。そして、前記制御係数に異常が生じたと判定したときには、係数更新器による制御係数の更新を適切に中止することができる。
上記態様において、前記所定数は1であってもよい。
本態様によれば、所定の評価対象周波数帯域に含まれる所定の騒音増加帯域内の周波数のうち、前記目標値に応じた所定の許容値を超えている第一差分に対応する周波数が一つでも存在する場合には、前記制御係数に異常が生じたものとして、係数更新器による制御係数の更新を中止することができる。
上記態様において、前記エラーマイクを複数個備え、前記効果測定部は、前記複数個の前記エラーマイクの其々について、各エラーマイクの設置場所を前記制御点とし、各エラーマイクに対して予め個別に設定された個別目標値を前記目標値として、前記判定処理を行ってもよい。
本態様によれば、各エラーマイクの設置場所における騒音の低減効果が、各エラーマイクに対して予め個別に設定された個別目標値を達成しているか否かを個別に判定することができる。
上記態様において、前記個別目標値には、優先順位が対応付けられ、前記効果測定部は、最も高い前記優先順位が対応付けられた前記個別目標値を前記目標値として用いる前記判定処理において、前記低減効果が前記目標値を達成していると判定した場合、全ての前記制御点についての前記判定処理において、前記低減効果が前記目標値を達成していると判定してもよい。
本態様によれば、一以上の制御点の其々における騒音の低減効果が前記個別目標値を達成しているか否かを判定しなくても、騒音の低減効果が、最も高い優先順位が対応付けられた個別目標値を達成していると判定することで、全ての制御点における騒音の低減効果が個別目標値を達成していると簡易的に判断することができる。
上記態様において、前記適応可能状態判定部は、前記エラー信号の瞬時値レベルを所定期間で平均化した値が所定の閾値範囲内である場合に、前記係数更新器に前記制御係数の更新を実施させると判定してもよい。
本態様によれば、エラー信号の瞬時値レベルが瞬時的に前記閾値範囲を超えるような場合であっても、エラー信号の瞬時値レベルを所定期間で平均化した値が所定の閾値範囲内であれば、係数更新器に制御係数の更新を実施させることができる。
以下で説明する実施の形態は、いずれも本開示の好ましい具体例の一例を示すものである。以下の実施の形態で示される構成要素、構成要素の配置位置および接続形態、動作の順序などは、一例であり、本開示を限定するものではない。本開示は、特許請求の範囲だけによって限定される。
よって、以下の実施の形態における構成要素のうち、本開示の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、本開示の課題を達成するのに必ずしも必要ではないが、より好ましい形態を構成するものとして説明される。
(実施の形態1)
実施の形態1に係る騒音制御装置の構成について説明する。図1は、実施の形態1に係る騒音制御装置1000の構成図である。
騒音制御装置1000は、図16に示した従来の騒音制御装置1000bと同様に、自動車100のサスペンション部に設けられたセンサ1a、1b、1c、1d(図15A及び図15B)が検出した振動を示す振動信号に起因するロードノイズを、エラーマイク2a、2b、2c、2dの設置場所である制御点において低減する。
説明の便宜上、図1には、図16に示した従来の騒音制御装置1000bと同様、騒音制御装置1000が自動車100の前側の半分においてロードノイズを低減する制御に用いる構成要素のみ図示している。しかし、実際には、騒音制御装置1000は、自動車100の後側の半分にも、図1に示した構成要素と同様の構成要素を更に備える。騒音制御装置1000は、騒音制御装置1000bと同様、自動車100の前側の半分及び自動車100の後側の半分において、同様に、ロードノイズを低減する制御を行う。このため、以下では、図1に示す騒音制御装置1000が、自動車100の前側の半分においてロードノイズを低減する制御についてのみ詳述する。
図1に示す、二個のセンサ1a、1b、四個の制御フィルタ20aa、20ab、20ba、20bb、八個の伝達特性補正フィルタ62aaa、62aab、62aba、62abb、62baa、62bab、62bba、62bbb、八個のLMS演算器61aaa、61aab、61aba、61abb、61baa、61bab、61bba、61bbb、二個の加算器30a、30b、二個のスピーカ3a、3b及び二個のエラーマイク2a、2bは、図16に示すものと同じ構成である。つまり、騒音制御装置1000は、従来の騒音制御装置1000bと同様、制御フィルタ20aa、20ab、20ba、20bbの制御係数を更新する適応動作によって、センサ1a、1bが検出した振動を示す振動信号に起因するロードノイズを、エラーマイク2a、2bの設置場所である制御点において低減する。
更に、騒音制御装置1000は、一旦、制御係数が最適値に収束すると、その後は、制御係数を当該最適値に固定する固定動作を行う。以下では、騒音制御装置1000が、制御係数が最適値に収束したか否かを判定する方法について説明する。
先ず、エラーマイク2aでは、センサ1a、1bが検出した振動を示す振動信号に起因する車室内のロードノイズとスピーカ3a、3bが再生した制御音とが干渉した結果、エラーマイク2aの設置場所である制御点に残留する残留騒音を示すエラー信号が出力される。ここで、エラーマイク2aの設置場所におけるロードノイズを示す信号を信号N1、スピーカ3aが再生する信号を信号y1、スピーカ3bが再生する信号を信号y2とすると、エラーマイク2aが出力するエラー信号e1は、式1で表現できる。
e1=N1+C11*y1+C21*y2・・・(式1)
ここで、C11は、スピーカ3aからエラーマイク2aへの音の伝達特性を示す。
C21は、スピーカ3bからエラーマイク2aへの音の伝達特性を示す。
*は、畳み込み演算を示す。
一方、信号y1は、伝達特性補正フィルタ40aaを経由して、減算器41aに入力される。伝達特性補正フィルタ(補正フィルタ)40aaは、伝達特性補正フィルタ62aaaと同じ、スピーカ3aからエラーマイク2aまでの音の伝達特性C11を近似した係数を用いて、信号y1に畳み込み処理(信号処理、第三信号処理)を行い、当該畳み込み処理後の信号を減算器41aへ出力する。同様に、信号y2は、伝達特性補正フィルタ40baを経由して、減算器41aに入力される。
減算器41aは、エラーマイク2aが出力するエラー信号から、伝達特性補正フィルタ40aa及び伝達特性補正フィルタ40baの出力信号を差し引く。具体的には、減算器41aは、式2の演算を行う。
off1=e1−C11*y1−C21*y2・・・(式2)
ここで、C11は、スピーカ3aからエラーマイク2aへの音の伝達特性を示す。
C21は、スピーカ3bからエラーマイク2aへの音の伝達特性を示す。
off1は、減算器41aの出力信号を示す。
式2に式1を代入すると、減算器41aの出力信号off1は、式3で表現できる。
off1=N1・・・(式3)
このように、減算器41aの出力信号off1は、エラーマイク2aの設定場所におけるロードノイズを示す信号と同じ信号であり、エラーマイク2aの設定場所におけるロードノイズと二個のスピーカ3a、3bの出力信号との干渉による制御前の騒音を表す信号となる。一方、式1のエラー信号e1は、当該干渉による制御後の騒音を表す信号on1である。
つまり、騒音制御装置1000では、エラーマイク2aの設定場所におけるロードノイズと二個のスピーカ3a、3bの出力信号との干渉による制御前の騒音を表す信号off1と、当該干渉による制御後の騒音を表す信号on1と、が同時に算出される。当該算出された制御前の騒音を表す信号off1と制御後の騒音を表す信号on1は、効果測定部50aに入力される。
同様にして、騒音制御装置1000では、エラーマイク2bの設定場所におけるロードノイズと二個のスピーカ3a、3bの出力信号との干渉による制御前の騒音を表す信号off2と、当該干渉による制御後の騒音を表す信号on2と、が同時に算出される。当該算出された制御前の騒音を表す信号off2と制御後の騒音を表す信号on2は、効果測定部50bに入力される。
効果測定部50aは、エラーマイク2aの設定場所におけるロードノイズと二個のスピーカ3a、3bの出力信号との干渉による制御前の騒音を表す信号(制御オフ信号)off1及び当該干渉による制御後の騒音を表す信号(制御オン信号)on1に基づき、エラーマイク2aの設定場所におけるロードノイズの低減効果を測定する。効果測定部50bは、エラーマイク2bの設定場所におけるロードノイズと二個のスピーカ3a、3bの出力信号との干渉による制御前の騒音を表す信号(制御オフ信号)off2及び当該干渉による制御後の騒音を表す信号(制御オン信号)on2に基づき、エラーマイク2bの設定場所におけるロードノイズの低減効果を測定する。
図2は、効果測定部50aの構成の一例を示す図である。効果測定部50bは、効果測定部50aと同様の構成である。このため、以下では代表して、効果測定部50aの構成についてのみ説明する。図2に示すように、効果測定部50aは、二個のA特性フィルタ部51a、51bと、二個の周波数分析部52a、52bと、二個のオーバーオール計算部53a、53bと、周波数差分効果計算部54aと、オーバーオール値差分効果計算部54bと、を備える。
効果測定部50aに入力されたロードノイズと二個のスピーカ3a、3bの出力信号との干渉による制御前の騒音を表す信号(以降、騒音制御前信号)off1と、ロードノイズと二個のスピーカ3a、3bの出力信号との干渉による制御後の騒音を表す信号(以降、騒音制御後信号)on1は、それぞれ、A特性フィルタ部51a、51bに入力される。
A特性フィルタ部51aは、入力された騒音制御前信号off1に、人間の聴覚特性を模擬したA特性を示す係数(A特性係数)を用いて畳み込み処理(信号処理)を行う。同様にして、A特性フィルタ部51bは、入力された騒音制御後信号on1に、人間の聴覚特性を模擬したA特性を示す係数(以降、A特性係数)を用いて畳み込み処理を行う。
周波数分析部52aは、FFT等の所定の周波数分析処理を行うことで、A特性フィルタ部51aによる畳み込み処理後の騒音制御前信号off1の周波数特性を計算する。周波数分析部52bは、FFT等の所定の周波数分析処理を行うことで、A特性フィルタ部51bによる畳み込み処理後の騒音制御後信号on1の周波数特性を計算する。
周波数差分効果計算部54aは、周波数分析部52a及び周波数分析部52bにより計算された周波数特性における周波数毎に、A特性フィルタ部51aによる畳み込み処理後の騒音制御前信号off1とA特性フィルタ部51bによる畳み込み処理後の騒音制御後信号on1との差分(以降、第一差分)を、エラーマイク2aの設定場所におけるロードノイズの低減効果の指標として計算する。
オーバーオール計算部53aは、周波数分析部52aによって計算された、A特性フィルタ部51aによる畳み込み処理後の騒音制御前信号off1の周波数特性を用いて、当該騒音制御前信号off1の全周波数帯域におけるオーバーオール値を計算する。以降、オーバーオール計算部53aによって計算されたオーバーオール値を第一オーバーオール値と記載する。オーバーオール計算部53bは、周波数分析部52bによって計算された、A特性フィルタ部51bによる畳み込み処理後の騒音制御後信号on1の周波数特性を用いて、当該騒音制御後信号on1の全周波数帯域におけるオーバーオール値を計算する。以降、オーバーオール計算部53bによって計算されたオーバーオール値を第二オーバーオール値と記載する。
オーバーオール値差分効果計算部54bは、オーバーオール計算部53aによって計算された第一オーバーオール値とオーバーオール計算部53bによって計算された第二オーバーオール値との差分(以降、第二差分)を、エラーマイク2aの設定場所におけるロードノイズの低減効果の指標として計算する。
図3は、効果測定部50aにおいて測定された騒音の低減効果の一例を示す図である。図3のセクション(a)には、周波数分析部52aが計算した騒音制御前信号off1の周波数特性が実線で示され、周波数分析部52bが計算した騒音制御後信号on1の周波数特性が破線で示されている。図3のセクション(b)には、図3のセクション(a)において実線で示す周波数特性と破線で示す周波数特性との差分に対応する、周波数差分効果計算部54aが計算した周波数毎の第一差分が示されている。
例えば、図3のセクション(a)及び(b)に示す例では、エラーマイク2aの設定場所において、0dBよりも下方の第一差分に対応するf1以上f2以下の周波数のロードノイズが低減されたことを把握することができる。また、0dBよりも上方の第一差分に対応する周波数が存在していないので、全周波数成分のロードノイズが増加していないことを把握することができる。
また、図3のセクション(a)における周波数特性の右方には、オーバーオール計算部53aによって計算された第一オーバーオール値(例えば、85dBA)と、オーバーオール計算部53bによって計算された第二オーバーオール値(例えば、80dBA)と、が示されている。また、図3のセクション(a)における周波数特性の右方には、オーバーオール値差分効果計算部54bによって計算された第一オーバーオール値と第二オーバーオール値との差分である第二差分(例えば、−5dBA)が示されている。図3のセクション(a)に示す例では、第二差分が−5dBAであるので、エラーマイク2aの設定場所におけるロードノイズが5dBAだけ低減されたことがわかる。
尚、人間の聴覚特性を考慮することなく、ロードノイズの低減効果を評価したい場合は、効果測定部50aに、A特性フィルタ部51a、51bを備えなくてもよい。これに合わせて、周波数分析部52aが、効果測定部50aに入力された騒音制御前信号(制御オフ信号)off1の周波数特性を計算し、周波数分析部52bが、効果測定部50aに入力された騒音制御後信号(制御オン信号)on1の周波数特性を計算するようにしてもよい。
効果測定部50aは、更に、周波数差分効果計算部54aによって計算された周波数毎の第一差分と、オーバーオール値差分効果計算部54bによって計算された第二差分と、を用いて、エラーマイク2aの設定場所におけるロードノイズの低減効果が目標値を達成しているか否かを判定する判定処理を行う。
具体的には、効果測定部50aは、前記判定処理において、以下の1)〜2)に示すようにして、エラーマイク2aの設定場所におけるロードノイズの低減効果が目標値を達成しているか否かを判定する。
1)所定の評価対象周波数帯域(例えば、図3のセクション(a)及び(b)における周波数f1〜f2)に含まれる周波数のうちの過半数の周波数の第一差分が、予め設定しておいた第一目標値を達成している場合、前記低減効果が目標値を達成していると判定する。尚、効果測定部50aが、より厳しい条件で当該判定を行うようにしてもよい。例えば、効果測定部50aが、前記評価対象周波数帯域に含まれる周波数のうちの過半数以上の所定数(例えば、70%)以上の周波数の第一差分が前記第一目標値を達成している場合に、前記低減効果が目標値を達成していると判定するようにしてもよい。
2)第二差分が、第一目標値とは異なる予め設定しておいた第二目標値を達成している場合、前記低減効果が目標値を達成していると判定する。
尚、効果測定部50bは、効果測定部50aと同様にして、エラーマイク2bの設定場所におけるロードノイズの低減効果が目標値を達成しているか否かを判定する判定処理を行う。
効果測定部50a及び効果測定部50bが判定処理を行った結果、車内に設置された全てのエラーマイク2a、2bの設定場所におけるロードノイズの低減効果が目標値を達成していると判定されたとする。この場合、効果測定部50a又は効果測定部50bは、全ての制御フィルタ20aa、20ab、20ba、20bbの制御係数が最適値に収束したと判断し、適応動作を停止する。
具体的には、効果測定部50a又は効果測定部50bは、八個のLMS演算器(係数更新器)61aaa、61aab、61aba、61abb、61baa、61bab、61bba、61bbbによる、四個の制御フィルタ20aa、20ab、20ba、20bbの制御係数の更新を停止させる。そして、効果測定部50a又は効果測定部50bは、各制御フィルタ20aa、20ab、20ba、20bbの制御係数を、当該最適値に収束したと判断した時の各制御係数に固定する。
上記構成によれば、各エラーマイク2a、2bの設置場所である制御点におけるロードノイズと各スピーカ3a、3bで再生された制御音との干渉による制御前のロードノイズを表す騒音制御前信号off1、off2と、制御点における前記干渉による制御前のロードノイズを表す騒音制御後信号on1、on2と、を同時に得ることができる。
また、エラーマイク2aが検出した残留騒音を示すエラー信号から、伝達特性補正フィルタ40aa、40baの出力信号を差し引いた騒音制御前信号off1と、エラーマイク2aが検出した残留騒音を示すエラー信号である騒音制御後信号on1と、の差分である、伝達特性補正フィルタ40aa、40baの出力信号に基づき、エラーマイク2aの設置場所における騒音の低減効果が測定される。
このため、対象とする騒音源で生じる騒音とは無関係な音が制御点に伝播し、エラーマイク2aが検出した残留騒音を示すエラー信号に、騒音源で生じる騒音とは無関係な音が含まれていたとしても、当該無関係な音に関係のない伝達特性補正フィルタ40aa、40baの出力信号のみに基づき、エラーマイク2aの設置場所における騒音の低減効果を精度良く測定することができる。
このため、例えば、カーメーカは、上述のように、販売する自動車100一台毎に、テストコースを走行させて、各制御フィルタ20aa、20ab、20ba、20bbの制御係数を決定しなくてもよい。一般ユーザーは、自動車100の運転中に、各制御フィルタ20aa、20ab、20ba、20bbの制御係数を適切に設定することができる。
また、ロードノイズのような広帯域騒音の場合、一度、制御係数を求めてしまえば制御係数を頻繁に変更しなくとも一定効果を持続できるので、予め定めた制御係数を用いて各制御フィルタ20aa、20ab、20ba、20bbを動作させてエラーマイク2aの設置場所における騒音の低減効果を測定できる。
図18は、実施の形態1に係る騒音制御装置1000の変形例を示す構成図である。このような場合には、LMS演算器61aaa〜61bbb及び伝達特性補正フィルタ62aaa〜62bbbは、騒音制御装置1000(図1)から取り外されてもよい。これにより、図18に示すような、簡素化した構成の騒音制御装置1002が構成されてもよい。
つまり、騒音制御装置1002が、自動車100の前側の半分においてロードノイズを低減する制御を行う場合、二個のセンサ1a、1bと、二個のセンサ1a、1bが出力する振動信号に予め定めた制御係数を用いて畳み込み処理を行う四個の制御フィルタ20aa、20ab、20ba、20bbと、二個の加算器30a、30bと、二個のスピーカ3a、3bと、二個のエラーマイク2a、2bと、四個の伝達特性補正フィルタ(補正フィルタ)40aa、40ab、40ba、40bbと、二個の減算器41a、41bと、二個の効果測定部50a、50bと、を備えるようにしてもよい。
図4は、効果測定部50aにおいて測定された騒音の低減効果の他の一例を示す図である。図4のセクション(a)には、図3のセクション(a)と同様、周波数分析部52aが計算した騒音制御前信号off1の周波数特性が実線で示され、周波数分析部52bが計算した騒音制御後信号on1の周波数特性が破線で示されている。図4のセクション(b)には、図3のセクション(b)と同様、図4のセクション(a)において実線で示す周波数特性と破線で示す周波数特性との差分に対応する、周波数差分効果計算部54aが計算した周波数毎の第一差分が示されている。
また、図4のセクション(a)には、効果測定部50aがロードノイズの低減効果の測定中に、エラーマイク2aに伝播する騒音が変化した場合の騒音制御前信号off1の周波数特性及び騒音制御後信号on1の周波数特性が点線で示されている。例えば、エラーマイク2aに伝播する騒音は、自動車100の走行速度が変化した場合や、自動車が走行する路面等の道路条件が変化した場合等に変化する。また、エラーマイク2aに伝播する騒音は、搭乗者が会話した場合、カーオーディオで音楽等が再生された場合、ナビゲーションシステムで音声案内が行われた場合、又は、トラック等の大型車がすれ違った場合などにも変化する。
上記構成によれば、図4のセクション(a)の点線部に示されるように、エラーマイク2aに伝播する騒音が変化した場合であっても、騒音制御前信号off1の周波数特性及び騒音制御後信号on1の周波数特性に同様の変化が現れる。このため、図4のセクション(b)に示すように、各周波数の第一差分は、図3のセクション(b)と変わらない特性となる。
このことは、上記の式1、式2及び式3からも把握することができる。その理由は、式1において、エラーマイク2aの設置場所におけるロードノイズを示す信号N1が、信号N1’に変化したとすると、信号N1’を代入した式1を式2に代入することで、式3と同様の式であるoff1=N1’が得られるからである。つまり、式1で示される、エラーマイク2aが出力するエラー信号e1である騒音制御後信号on1にも、騒音制御前信号off1にも同じ、変化後の騒音を示す信号N1’が含まれる。このため、騒音制御後信号on1と騒音制御前信号off1との差分を算出することで、信号N1’が相殺されるからである。
ところで、図4に示したように、対象とする騒音に無関係な音として、評価対象周波数帯域(周波数f1〜f2)内の周波数の音が発生した場合、これまで説明してきた構成で特に大きな問題は発生しない。図5は、効果測定部50aにおいて測定された騒音の低減効果の他の一例を示す図である。しかし、図5のセクション(a)の点線部に示すように、対象とする騒音に無関係な音として、評価対象周波数帯域外の周波数の音が発生し、当該無関係な音のレベルが、評価対象周波数帯域内の周波数の音のレベルに対して十分に小さいレベルではないとする。この場合、図5のセクション(b)に示すように、第一差分は、図3及び図4のセクション(b)に示した第一差分と同様となる。しかし、当該無関係な音のレベルは、第一オーバーオール値と第二オーバーオール値とに影響を与え、これらの差分である第二差分が、当該無関係な音がなかった場合の第二差分と異なることがある。
例えば、図5のセクション(a)に示す例では、騒音制御前信号off1のオーバーオール値である第一オーバーオール値が87dBAとなり、図3のセクション(a)に示す例よりも2dBA増加する。また、騒音制御後信号on1のオーバーオール値である第二オーバーオール値は、85dBAとなり、図3のセクション(a)に示す例よりも5dBA増加する。その結果、第一オーバーオール値と第二オーバーオール値との差分である第二差分は、−2dBAとなり、図3のセクション(a)に示す例よりも、3dBAだけ、騒音の低減効果が劣化することになる。
このように、図5のセクション(b)に示される第一差分に問題が生じなくても、第二差分に問題が生じる場合、当該第二差分の目標となる第二目標値の設定と、その目標の達成の判定に支障をきたすことになる。
そこで、図6に示すように、効果測定部50aの構成を変更してもよい。図6は、効果測定部50aの他の構成の一例を示す図である。つまり、効果測定部50aが、帯域制限部55a、55bを更に備えるようにしてもよい。そして、帯域制限部55aが、周波数分析部52aによって計算された騒音制御前信号off1の周波数特性を用いて、当該騒音制御前信号off1に含まれる評価対象周波数帯域(周波数f1〜f2)内の周波数の信号のみを抽出し、当該抽出した信号をオーバーオール計算部53aに出力するようにしてもよい。これと同様に、帯域制限部55bが、周波数分析部52bによって計算された騒音制御後信号on1の周波数特性を用いて、当該騒音制御後信号on1に含まれる評価対象周波数帯域(周波数f1〜f2)内の周波数の信号のみを抽出し、当該抽出した信号をオーバーオール計算部53bに出力するようにしてもよい。
そして、オーバーオール値差分効果計算部54bが、当該オーバーオール計算部53aで計算された第一オーバーオール値と、当該オーバーオール計算部53bで計算された第二オーバーオール値と、の差分である第二差分を計算するようにしてもよい。そして、当該第二差分が、エラーマイク2aの設定場所におけるロードノイズの低減効果の指標とされてもよい。
尚、実施の形態1では、自動車100に騒音制御装置1000を適用する例について説明したが、これに限らず、航空機や列車等に、騒音制御装置1000を適用してもよい。
(実施の形態2)
実施の形態2に係る騒音制御装置の構成について説明する。
実施の形態1では、制御係数を更新する適応動作と、ロードノイズの低減効果の測定と、を同時に実施可能であることを説明した。しかし、例えば、運転者が大音量でオーディオ再生したり、自動車100よりも大きいトラックが併走した場合等、ユーザーが自動車100を運転することで生じたロードノイズよりも大きな騒音が伝搬した場合、制御係数を更新する適応動作に悪影響を与える可能性がある。
このような場合に備え、実施の形態2に係る騒音制御装置1001は、実施の形態1に係る騒音制御装置1000とは異なり、適応動作に悪影響を与えない所定の条件を満たした場合にのみ適応動作を行う。尚、適応動作が停止され、制御係数が固定されている場合、ロードノイズよりも大きな騒音が伝搬したとしても制御係数は変化しないので、この場合の構成を実施の形態1と異ならせる必要はない。
以下、実施の形態2に係る騒音制御装置1001において行われる適応動作のフローについて説明する。尚、以降の説明において、八個のLMS演算器61aaa、61aab、61aba、61abb、61baa、61bab、61bba、61bbbと、八個の伝達特性補正フィルタ62aaa、62aab、62aba、62abb、62baa、62bab、62bba、62bbbと、を総称する場合、係数更新器60と記載する。また、二個の効果測定部50a、50bを総称する場合、効果測定部50と記載する。
図7は、実施の形態2に係る騒音制御装置1001の構成図である。図7に示すように、騒音制御装置1001は、実施の形態1に係る騒音制御装置1000(図1)の構成に加えて、適応可能状態判定部70を備える。適応可能状態判定部70は、前記ROMに予め記憶されているプログラムがCPUによって実行されることによって構成される。適応可能状態判定部70は、車内の環境が適応動作を実施させるための所定の適応条件を満たすか否かを判定することにより、係数更新器60に制御係数の更新を実施させるか否かを判定する。
図8は、適応動作のフローを示すフローチャートである。図8に示すように、騒音制御装置1001に電源が投入されたとき等の所定のタイミングで、適応動作が開始されると、適応可能状態判定部70は、車室内の環境が、適応動作を実施させるための適応条件を満たすか否かを判定する(ステップS1)。ステップS1において適応条件を満たすと判定された場合(ステップS1でYES)、効果測定部50は、係数更新器60に適応動作を実施させる(ステップS2)。尚、ステップS1の詳細については後述する。
その後、適応可能状態判定部70は、適応動作の実施中においても並行して、ステップS1と同様の判定を行う(ステップS3)。ステップS3において適応条件を満たさないと判定された場合(ステップS3でNO)、効果測定部50は、係数更新器60に適応動作の実施を中断させる(ステップS4)。その後は、再びステップS1以降の処理が行われる。尚、ステップS3の詳細については後述する。
一方、ステップS3において適応条件を満たすと判定された場合(ステップS3でYES)、効果測定部50は、係数更新器60に適応動作の実施を継続させつつ、ステップS2で適応動作を開始してから、予め設定していた所定時間(例えば30秒)が経過したかどうかを判定する(ステップS5)。効果測定部50は、ステップS5において、所定時間が経過していると判定した場合(ステップS5でYES)、係数更新器60による適応動作を終了させ、制御係数を当該終了時点の制御係数に固定する固定係数動作を行う(ステップS6)。
そして、効果測定部50は、実施の形態1で説明したように、各エラーマイクの設定場所である制御点におけるロードノイズの低減効果が目標値を達成しているか否かを判定する判定処理を行う(ステップS7)。効果測定部50は、ステップS7において、ロードノイズの低減効果が目標値を達成していないと判定した場合(ステップS7でNO)、処理をステップS1に戻す。一方、効果測定部50は、ステップS7において、ロードノイズの低減効果が目標値を達成していると判定した場合(ステップS7でYES)、前記固定係数動作を継続する(ステップS8)。また、効果測定部50は、ステップS7の実行中に制御係数に異常が発生したと判定した場合、制御係数の設計を中止する(ステップS9)。
次に、ステップS1及びステップS3の詳細について詳述する。図7に示すように、適応可能状態判定部70には、ナビゲーションシステム81とオーディオシステム82とタコメータ(回転数)83と速度メータ84から情報が入力される。また、適応可能状態判定部70には、エラーマイク2a、2bの出力信号も入力される。
オーディオシステム82から適応可能状態判定部70に入力される情報には、例えば、オーディオシステム82が起動しているか否かを示すスイッチ情報やオーディオ信号が含まれる。適応可能状態判定部70は、オーディオシステム82から入力されたスイッチ情報が、オーディオシステム82が起動していることを示す場合、適応条件を満たさないと判定する。また、適応可能状態判定部70は、オーディオシステム82から入力されたオーディオ信号の信号レベルが、所定の閾値以上の場合、適応条件を満たさないと判定する。
ナビゲーションシステム81から適応可能状態判定部70に入力される情報には、例えば、音声案内信号が含まれる。適応可能状態判定部70は、ナビゲーションシステム81から入力された音声案内信号の信号レベルが、所定の閾値以上の場合、適応条件を満たさないと判定する。
適応可能状態判定部70には、タコメータ83から、ロードノイズに関係するエンジンの回転数が入力される。適応可能状態判定部70は、入力されたエンジンの回転数が所定の第一回転数(例えば1000rpm)以下の場合、又は、所定の第二回転数(例えば4000rpm)以上の場合、適応条件を満たさないと判定する。また、適応可能状態判定部70には、速度メータ84から、ロードノイズに関係する走行速度が入力される。適応可能状態判定部70は、入力された走行速度が所定の第一速度(例えば40km/h)以下の場合、又は、所定の第二速度(例えば130km/h)以上の場合、適応条件を満たさないと判定する。
このように、適応可能状態判定部70が判定する理由は、走行速度が遅い場合又はエンジンの回転数が低い場合は、ロードノイズのレベルが通常走行時よりも小さいと推察されるので、適応条件に至っていないと考えられるからである。また、走行速度が相当速い場合又はエンジンの回転数が相当高い場合は、ロードノイズのレベルが通常走行時よりも大きいと推察されるので、適応条件を超えていると考えられるからである。
エラーマイク2a、2bから適応可能状態判定部70に入力される信号は、正に、車内環境の音であり、運転中のロードノイズ、搭乗者の会話音声、オーディオシステム82による再生音、ナビゲーションシステム81の案内音声、車外から伝播してきた騒音(例えば、併走したり、すれ違ったりしている他車の騒音)等が含まれる。このため、適応可能状態判定部70は、エラーマイク2a、2bから入力される信号のレベルが所定の第一閾値以上又は第二閾値以下の場合に、適応条件を満たさないと判定する。
次に、適応可能状態判定部70が、入力された信号のレベルを測定する方法について説明する。図9Aは、適応可能状態判定部70の構成図である。図9Bは、適応可能状態判定部70が用いる判定条件の一例を示す図である。図9Aに示すように、適応可能状態判定部70は、瞬時値レベル計算部71と、平均化部72と、閾値判定部73と、を備える。
瞬時値レベル計算部71は、エラーマイク2aの出力信号が入力された瞬間のレベル(例えば、−26dBのように)を計算する。
平均化部72は、瞬時値レベル計算部71が計算した瞬時値レベルを所定期間で平均化する。尚、当該所定期間は、例えば、1/10秒のように時間で定められてもよいし、1000個の瞬時値レベルが入力される期間のように、入力される瞬時値レベルの個数によって定められてもよい。
閾値判定部73は、平均化部72で平均化された信号レベル(値)が所定の閾値範囲内であるか否かを判定する。図9Bには、平均化部72で平均化された信号レベルの時系列変化を示すグラフと、前記閾値範囲の下限値THL1及び上限値THL2と、が示されている。閾値判定部73は、平均化された信号レベルが、下限値THL1以上且つ上限値THL2以下の場合、適応条件を満たすと判定する。
したがって、図9Bのグラフに示すように、平均化部72で平均化された信号レベル(値)が閾値判定部73に入力された場合、時間t1までの間は、平均化された信号レベルが前記閾値範囲内であるので、閾値判定部73は、適応条件を満たすと判定する。時間t1から時間t2までの期間は、平均化された信号レベルが上限値THL2を超えているため、閾値判定部73は、適応条件を満たさないと判定する。時間t2から時間t3までの期間は、平均化された信号レベルが前記閾値範囲内であるので、閾値判定部73は、再び適応条件を満たすと判定する。時間t3から時間t4までの期間は、平均化された信号レベルが下限値THL1未満となっているため、適応条件を満たさないと判定する。
尚、図9A及び図9Bでは、適応可能状態判定部70が、エラーマイク2aの出力信号が入力された場合に適応条件を満たすか否かの判定を行う例について説明したが、適応可能状態判定部70にエラーマイク2bの出力信号が入力された場合にも同様の判定が行われる。また、上述のように、適応可能状態判定部70が適応条件を満たすか否かの判定に用いる情報には、エラーマイク2a、2bの出力信号だけでなく、オーディオシステム82及び速度メータ84から入力される情報も含まれる。適応可能状態判定部70は、入力された全ての情報をそれぞれ用いて適応条件を満たすか否かの判定を行い、当該全ての判定において適応条件を満たすと判定した場合にのみ、車内の環境が適応動作を実施させるための適応条件を満たすと判定する。
以上の構成によれば、係数更新器60による制御係数の更新が、適応可能状態判定部70によって車内の環境が適応動作を実施させるための適応条件を満たすと判定された場合にのみ実行されるので、より安定的に最適な制御係数を設定することができる。
しかし、実際に適応動作を行った場合に、図3及び図4に示したように、ロードノイズの増加がなく、低減効果だけが得られることはほとんどない。なぜなら、図15A、図15B及び図4に示したように、センサ1a、1b、1c、1d、エラーマイク2a、2b、2c、2d又はスピーカ3a、3b、3c、3dが設置される場所には、実用上の制限があるからである。以降、センサ1a、1b、1c、1dを総称する場合、センサ1と記載する。エラーマイク2a、2b、2c、2dを総称する場合、エラーマイク2と記載する。スピーカ3a、3b、3c、3dを総称する場合、スピーカ3と記載する。
図10は、騒音制御装置1001におけるセンサ1からエラーマイク2までの距離D1とスピーカ3からエラーマイク2までの距離D2を示す図である。例えば、図10に示すように、騒音を検出するセンサ1からエラーマイク2までの距離D1と、スピーカ3からエラーマイク2までの距離D2の差分D1−D2が、騒音制御装置1001における信号の処理時間に対して、十分余裕のある距離を確保できないものとする。この場合、騒音制御装置1001における因果律条件は満たされない。
騒音制御装置1001における信号の処理時間をTとした場合、因果律条件が満たされるためには、全ての周波数において式4を満足しなければならない。
T≦(D1−D2)/v ・・・(式4)
ここで、vは、音速を示す。
しかし、上記したように距離D1−D2が十分長くなければ、特に波長が短くなる高い周波数の信号を処理する場合に、因果律条件(式4)が満たせなくなる。一方で、騒音の低減効果について考慮すると、騒音を検出するセンサ1が、エラーマイク2が設置されている制御点に近い程、低減効果が向上するという傾向がある。このため、騒音の低減効果を考慮して、センサ1、エラーマイク2及びスピーカ3を設置しようとすると、距離D1−D2が短くなり、因果律条件を満たすことが困難になるというジレンマに陥る。
さらに、スピーカ3の特性も因果律条件に影響を与える。特に、スピーカ3は、低域共振周波数で位相回りが大きくなり、当該低域共振周波数付近の信号の遅延(群遅延)が大きくなる。このため、当該低域共振周波数付近の信号に対して処理を行う場合には、因果律条件を満たすことが困難となる。つまり、騒音制御装置1001において、低域共振周波数以下の信号の群遅延を補正するためには、距離D1−D2を十分に長くする必要がある。
もし、因果律条件を十分に満たしていない場合、騒音制御装置1001における騒音の低減効果は、例えば図11に示すようになる。図11は、効果測定部50において測定された騒音の低減効果の他の一例を示す図である。図11のセクション(a)及び(b)に示す例では、周波数f1〜f3のロードノイズが増加しているが、これは、スピーカ3の低域共振周波数付近の群遅延の影響で発生していることが多い。尚、周波数f1以下のロードノイズが増加していないのは、スピーカ3の性能上、当該周波数f1以下の音声を再生できないからである。
また、周波数f4〜f2のロードノイズも増加しているが、これは、周波数が高いことが原因で位相のずれが発生しやすくなっているからである。尚、周波数f2以上のロードノイズが増加していないのは、当該ロードノイズ自体の信号レベルが低く、また、制御フィルタ20aa、20ab、20ba、20bbが制御係数を畳み込んだ結果、信号レベルが更に低下するからである。
このように、期待した騒音の低減効果が得られる周波数帯域と、期待していない騒音の増加が発生する周波数帯域と、が混在するのが、大多数の騒音の制御事例における一般的な制御効果である。このため、所望の騒音の低減効果の実現と騒音の増加の抑制とのバランスを図ることが、実際に制御係数を設計する上で課題となる。
以下では、制御係数を設計する上でキーポイントとなる騒音の低減効果の判定について図12を用いて説明する。図12は、効果測定部50において騒音の低減効果の判定を行った結果に基づく、制御係数の設計動作の流れを示す動作フロー図である。尚、図12に示すフローは、図8のステップS7に対応している。
つまり、効果測定部50が、エラーマイク2の設定場所である制御点におけるロードノイズの低減効果が目標値を達成しているか否かを判定するステップS7の判定処理を開始したとする。この場合、図12に示すように、A特性フィルタ部51a、51b(図2)は、効果測定部50に入力された騒音制御前信号off1及び騒音制御後信号on1に、A特性係数を用いて畳み込み処理を行う(ステップP1)。次に、周波数分析部52a、52b(図2)は、周波数分析処理を行うことで、ステップP1における畳み込み処理後の騒音制御前信号off1及び騒音制御後信号on1の周波数特性を計算する(ステップP2)。
ステップP2が行われると、周波数差分効果計算部54a(図2)は、ステップP2で計算された周波数特性における周波数毎に、A特性フィルタ部51aによる畳み込み処理後の騒音制御前信号off1とA特性フィルタ部51bによる畳み込み処理後の騒音制御後信号on1との差分である第一差分を計算する(ステップP4)。
一方、ステップP2が行われると、オーバーオール計算部53a、53b(図2)は、それぞれ、第一オーバーオール値、第二オーバーオール値を計算する(ステップP3)。尚、効果測定部50aが、図6に示したように、帯域制限部55a、55bを備えた構成であるとする。この場合、ステップP3において、オーバーオール計算部53aが、帯域制限部55aによって抽出された信号の全周波数帯域におけるオーバーオール値を第一オーバーオール値として計算してもよい。同様に、オーバーオール計算部53bが、帯域制限部55bによって抽出された信号の全周波数帯域におけるオーバーオール値を第二オーバーオール値として計算してもよい。次に、オーバーオール値差分効果計算部54bは、ステップP3で計算された第一オーバーオール値と第二オーバーオール値との差分である第二差分を計算する(ステップP5)。
効果測定部50は、ステップP5で計算された第二差分が、予め設定していた第二目標値を達成しているか否かを判定する(ステップP6)。例えば、第二目標値が−3dBAに設定されているとする。この場合、効果測定部50は、第二差分が第二目標値未満である場合に、第二差分が第二目標値を達成していると判定する。
一方、効果測定部50は、ステップP4で計算した各周波数の第一差分を用いて、所定の評価対象帯域内の所定の効果期待帯域(図11)に含まれる周波数のうちの過半数の周波数の第一差分が、予め設定していた第一目標値を達成しているか否かを判定する(ステップP7)。例えば、第一目標値が5dBに設定されているとする。この場合、効果測定部50は、効果期待帯域(図11)に含まれる周波数のうちの過半数の周波数の第一差分が第一目標値よりも大きい場合に、前記過半数の周波数の第一差分が第一目標値を達成していると判定する。
尚、ステップP7では、効果測定部50が、より厳しい条件で判定を行うようにしてもよい。例えば、効果測定部50が、前記効果期待帯域に含まれる周波数のうちの、過半数以上の所定数(例えば、80%)以上の周波数の第一差分が前記第一目標値を達成しているか否かを判定するようにしてもよい。
また、効果測定部50は、ステップP4で計算した各周波数の第一差分を用いて、所定の評価対象帯域内の所定の騒音増加帯域(図11)に含まれる周波数のうちの過半数の周波数の第一差分が、予め設定していた許容値を超えているか否かを判定する(ステップP8)。例えば、許容値が2dBに設定されているとする。この場合、効果測定部50は、騒音増加帯域(図11)に含まれる周波数のうちの過半数の周波数の第一差分が許容値よりも大きい場合に、前記過半数の周波数の第一差分が許容値を超えていると判定する。
尚、ステップP8では、効果測定部50が、より厳しい条件で判定を行うようにしてもよい。例えば、効果測定部50が、前記騒音増加帯域に含まれる周波数のうちの過半数未満の所定数(例えば、30%)以上の周波数の第一差分が前記許容値を超えているか否かを判定するようにしてもよい。また、効果測定部50が、前記騒音増加帯域に含まれる周波数のうちの一以上の周波数の第一差分が前記許容値を超えているか否かを判定するようにして、更に厳しい条件で判定を行うようにしてもよい。又は、ステップP8では、効果測定部50が、より優しい条件で判定を行うようにしてもよい。例えば、効果測定部50が、前記騒音増加帯域に含まれる周波数のうちの過半数以上の所定数(例えば、70%)以上の周波数の第一差分が前記許容値を超えているか否かを判定するようにしてもよい。
そして、効果測定部50が、ステップP6において第二差分が第二目標値を達成していないと判定し(ステップP6でNO)、又は(OR)、ステップP7において前記過半数の周波数の第一差分が第一目標値を達成していないと判定したとする(ステップP7でNO)。この場合に、効果測定部50が、更に(AND2)、ステップP8において前記過半数の周波数の第一差分が許容値を超えていないと判定したとする(ステップP8でNO)。この場合、効果測定部50は、制御点におけるロードノイズの低減効果が目標値を達成していないと判定する(ステップS7でNOに対応)。この場合、効果測定部50は、制御係数が最適値に収束していないものとして、制御係数の設計を継続すべく、適応動作を継続する(ステップP9(図8のステップS7でNOに対応))。
また、効果測定部50が、ステップP6において第二差分が第二目標値を達成していると判定し(ステップP6でYES)、且つ(AND1)、ステップP7において前記過半数の周波数の第一差分が第一目標値を達成していると判定したとする(ステップP7でYES)。この場合に、効果測定部50が、更に(AND1)、ステップP8において前記過半数の周波数の第一差分が許容値を超えていないと判定したとする(ステップP8でNO)。この場合、効果測定部50は、制御点におけるロードノイズの低減効果が目標値に達成したと判定する(ステップS7でYESに対応)。この場合、効果測定部50は、制御係数が最適値に収束したものとして、制御係数の設計を正常に完了し、制御係数を当該最適値に固定する(ステップP10(図8のステップS8に対応))。
また、効果測定部50が、ステップP8において前記過半数の周波数の第一差分が許容値を超えていると判定したとする(ステップP8でYES)。この場合、騒音の増加が無視できないレベルになっていることが想定される。このため、効果測定部50は、ステップS7の実行中に制御係数に異常が発生したと判定し、係数設計を強制的に中止する(ステップP11(図8のステップS9に対応))。
以上の構成によれば、図11に示すような騒音の増加が発生するような場合でも、現実的で実用的な制御係数の設計を実現することができる。さらに、効果期待帯域に含まれる周波数のうち、第一差分が第一目標値に達した周波数の割合と、騒音増加帯域に含まれる周波数のうち、第一差分が許容値に達した周波数の割合と、を把握することで、望ましい騒音の低減効果を実現しつつ、望ましくない騒音の増加を抑制することができる。これにより、制御係数の設計のバランスを適切に図ることができる。その結果、如何なる場合でも、ユーザーにはその時点で最適な制御効果を提供することができる。
尚、例えば、自動車に騒音制御装置1001を適用する場合、車体前方の座席(運転席と助手席)と後部座席とでは、ロードノイズの特性が異なることが多い。このため、自動車に設置された各エラーマイク2の設定場所である各制御点について、各制御点におけるロードノイズの低減効果が目標値を達成しているか否かを判定する判定処理(ステップS7)を行う場合に、同一の目標値を用いてもよい。しかし、これに代えて、各エラーマイク2に対して、予め個別に設定された個別目標値が用いられてもよい。そして、各個別目標値に応じた値が、第一目標値、第二目標値及び許容値として個別に設定されてもよい。
この場合、各座席で騒音の低減効果が最適化される。特に、航空機等のように、座席数が多く、また、窓側席及び通路側席等、様々な種類の座席が存在するような空間に、騒音制御装置1001を適用するものとする。このような場合は、エラーマイク2が設定された各席に応じた個別目標値を個別に設定し、また、当該個別目標値に応じた第一目標値、第二目標値、及び許容値を、個別に設定するようにしてもよい。
例えば、図7において、運転席の頭部近傍に設置したエラーマイク2aにおける騒音の低減効果は、効果測定部50aで測定され、助手席の頭部近傍に設置したエラーマイク2bにおける騒音の低減効果は、効果測定部50bで測定される。この場合、効果測定部50a及び効果測定部50bがそれぞれステップS7の判定処理で用いる目標値をそれぞれ個別目標値Ka、個別目標値Kbとしてもよい。これに応じて、効果測定部50aがステップP7、ステップP6、及びステップP8で用いる第一目標値、第二目標値及び許容値に、個別目標値Kaに応じた第一個別目標値K1a、第二個別目標値K2a及び個別許容値K3aを設定してもよい。同様に、効果測定部50bがステップP7、ステップP6、及びステップP8で用いる第一目標値、第二目標値及び許容値に、個別目標値Kbに応じた第一個別目標値K1b、第二個別目標値K2b及び個別許容値K3bを設定してもよい。尚、これらに限らず、図11に示す効果期待帯域及び騒音増加帯域も、各エラーマイク2と対応付けるようにして個別に設定してもよい。
図7に示すように、騒音制御装置1001全体としては、各エラーマイク2a、2bの設置場所における騒音が同時に制御される。このため、制御フィルタ20aa、20baだけがエラーマイク2aの設置場所における騒音を制御しているわけではなく、同様に、制御フィルタ20ab、20bbだけがエラーマイク2bの設置場所における騒音を制御しているわけではない。
つまり、制御全体としては、エラーマイク2a、2bの設置場所における騒音が一括で最適化されるように作用する。したがって、上述のように、目標値等を、エラーマイク2毎に個別に設定する場合に、他の目標値等から顕著に逸脱するような値にすると、エラーマイク2a、2bの設置場所における騒音は最適化されず、いつまでも制御係数の設計が完了しない状態に落ち込む可能性がある。
例えば、エラーマイク2aに対応する第二個別目標値K2aが3dBAに設定され、エラーマイク2bに対応する第二個別目標値K2bが4dBAに設定されたとする。この場合、エラーマイク2毎に第二目標値が個別に設定されなかったときは、エラーマイク2a及び2bにおける騒音の低減効果が共に3.0〜3.5dBAの範囲で落ち着くとすると、第二個別目標値K2bが4dBAに設定されると、これが支障となって制御係数の設計が終了しなくなる虞がある。
そこで、このような状態になることを避けるために、複数の制御点をまとめて制御している制御構成の場合は、その制御構成単位内で制御点の優先順位をつけ、優先順位の高い個別目標値を達成すると、制御係数の設計が完了するようにすればよい。例えば、第二個別目標値K2aを3dBAとし、優先順位を最も高く設定すれば、第二個別目標値K2bを4dBAと設定したとしても、エラーマイク2bの設置箇所における騒音の低減効果に関わらず、エラーマイク2aの設置箇所における騒音の低減効果が3dBA以上となった時点で制御係数の設計を完了することができる。尚、制御係数の設計を完了した場合、当該完了時の制御係数を最終的な制御係数とすればよい。
一方、騒音の増加が発生している場合は、どの制御点においても許容値を超えることは好ましくないと考えられるので、全ての制御点のうちの1つの制御点において、低減効果が許容値を超えれば、係数設計を中止するようにすればよい。尚、適応動作を中止した場合、当該中止までで最も効果のよかった制御係数を最終的な制御係数とすればよい。
尚、例えば、自動車100の場合は、車体前方の座席(運転席と助手席)及び後部座席の全てを“制御構成単位内”と想定できるが、航空機等の大きな空間内の騒音を制御する場合は、互いに所定距離以上離れた座席をまとめて“制御構成単位内”として当該制御構成単位内の騒音を制御する必要はない。例えば、隣り合う座席同士が“制御構成単位内”となるように、制御構成単位を構築してもよい。
以上の説明により、騒音の低減効果を測定して、その結果に基づき、制御係数の設計を完了したか、制御係数の設計を継続する必要があるか、及び、特定の周波数の騒音のレベルに応じて制御係数の設計を中止するのかという、制御係数の設計動作の全体の流れを示すことができた。
一方、例えば、航空機に騒音制御装置1001を適用する場合、エンジン前方の座席(ファーストクラス又はビジネスクラス)と、エンジン横の座席(ビジネスクラスの一部又はエコノミークラス)と、エンジン後方の座席(エコノミークラス)と、では、騒音のレベル及び騒音の周波数特性が顕著に異なる。また、航空機内の座席数は、100〜200、又はそれ以上あるので、座席毎に最適な騒音の低減効果が異なるのが普通である。よって、上記のように、座席毎にエラーマイク2を設置し、各エラーマイク2に対応する第一目標値、第二目標値及び許容値をそれぞれ個別に設定することが考えられる。しかし、それ以外に、制御係数を更新する適応動作の動作条件も、エラーマイク2毎に個別に設定することが好ましい。
具体的には、前記動作条件とは、LMS演算器61aaa、61aab、61aba、61abb、61baa、61bab、61bba、61bbbの収束定数μである。以降、LMS演算器61aaa、61aab、61aba、61abb、61baa、61bab、61bba、61bbbを総称する場合、LMS演算器61と記載する。特許文献1等に記載されているように、LMS演算器61では、以下の式5に従って制御係数が更新される。
W(n+1)=W(n)−μ・e・r・・・式(5)
ここで、W(n)は、更新前の制御フィルタ(例えば図7の制御フィルタ20aa)の制御係数を示し、W(n+1)は、更新後の制御フィルタの制御係数を示す。
eは、エラー信号(例えば図7のエラーマイク2aの出力信号)を示す。
rは、参照信号(例えば図7の伝達特性補正フィルタ62aaaの出力信号)を示す。
μは、収束定数(ステップサイズパラメータ)を示す。
・は、乗算を示す。
つまり、収束定数μは、収束速度や収束度合いを調整する値である。収束定数μが大きくなると、制御係数が最適値に収束する速度(以降、収束速度)は速くなるが、制御係数の更新動作が発散してしまうリスクが大きくなる。これとは反対に、収束定数μが小さくなると、安定して制御係数の更新動作が行われるが、収束速度が遅くなり、騒音の低減効果が十分に得られるまでに時間を要するという問題がある。
このため、適切な収束定数μを設定することが重要となる。しかし、航空機のように、多数の座席で騒音特性及び騒音レベルが異なる場合、各座席に最適な収束定数μも異なると考えられる。この収束定数μの最適値を予め確かめるには膨大な手間がかかるため、騒音制御装置1001が自動的に収束定数μの最適値を導出することが望ましい。そこで、以下では、収束定数μの最適値の導出方法について説明する。
図13A及び図13Bは、騒音制御装置1001全体における制御係数の設計動作の流れを示す動作フロー図である。図13A及び図13Bに示す動作フローには、図8及び図12に示したものと同じステップが含まれる。以下では、当該同じステップについての詳細な説明は省略し、主に、収束定数μの最適値の導出方法について説明する。
図13Aに示すように、効果測定部50は、ステップS1の実行前に、LMS演算器61が用いる収束定数μに、予め定めておいた初期値を設定する(ステップS0)。収束定数μは、0以上1以下の小数である。例えば、収束定数μの初期値は、適応動作の安定性を考慮して、0に近い値が定められている。ただし、収束定数μの初期値は、これに限らず、0であってもよい。ステップS0において、収束定数μに初期値が設定されると、ステップS1以降の処理が行われる。
その後、図13Bに示すように、効果測定部50が、ステップP6において第二差分が第二目標値を達成していないと判定し(ステップP6でNO)、又は(OR)、ステップP7において前記過半数の周波数の第一差分が第一目標値を達成していないと判定したとする(ステップP7でNO)。この場合に、効果測定部50が、更に(AND2)、ステップP8において前記過半数の周波数の第一差分が許容値を超えていないと判定したとする(ステップP8でNO)。これにより、効果測定部50が、制御点におけるロードノイズの低減効果が目標値を達成していないと判定したとする(ステップS7でNOに対応)。
この場合、効果測定部50は、制御係数が最適値に収束していないものとして、ステップP4における第一差分の計算時又はステップP5における第二差分の計算時の収束定数μに予め定めていた所定値Δを加えたものを新しい収束定数μ+Δとする。そして、効果測定部50は、係数更新器60による当該新たな収束定数μ+Δを用いた制御係数の更新を再開させる。これにより、効果測定部50は、適応動作を継続させる(ステップS79)。その後は、ステップS1以降の処理が行われる。
したがって、ステップS1からステップS6の実行後、ステップP1からステップS79に至る制御係数の設計過程を繰り返す度に、収束定数μは、所定値Δだけ増大する。その間、騒音の低減効果も測定されているので、収束定数μは、最適な騒音の低減効果が得られる収束定数μに調整されることとなる。
また、効果測定部50が、ステップP6において第二差分が第二目標値を達成していると判定し(ステップP6でYES)、且つ(AND1)、ステップP7において前記過半数の周波数の第一差分が第一目標値を達成していると判定したとする(ステップP7でYES)。この場合に、効果測定部50が、更に(AND1)、ステップP8において前記過半数の周波数の第一差分が許容値を超えていないと判定したとする(ステップP8でNO)。これにより、効果測定部50が、制御点におけるロードノイズの低減効果が目標値に達成したと判定したとする(ステップS7でYESに対応)。この場合、効果測定部50は、制御係数が最適値に収束したものとして、制御係数の設計を正常に完了し、制御係数を当該完了時の制御係数(最後の制御係数)に固定する(ステップS81(図8のステップS8に対応))。
また、効果測定部50は、ステップP8において前記過半数の周波数の第一差分が許容値を超えていると判定した場合(ステップP8でYES)、騒音の増加が無視できないレベルになっていることが想定されるので、ステップS7の実行中に制御係数に異常が発生したと判定する。この場合、制御係数の設計動作を強制的に中止し、制御係数を、当該異常が発生したと判定する以前に、ステップS81で最適値に収束したと判断したときの最適値に固定する(ステップP91(図8のステップS9に対応))。
以上のように、騒音制御装置1001では、収束定数μが初期値のときの適応動作、制御係数を固定してロードノイズの低減効果の測定、収束定数μを新たな収束定数μ+Δに更新及び新たな収束定数μ+Δを用いた適応動作が繰り返される。これにより、航空機のような、多数の座席を含む大空間に騒音制御装置1001を適用したとしても、収束定数μを自動的に最適な収束定数μに調整することができる。その結果、各座席において最適な騒音の低減効果を速やかに実現することができる。
尚、上記の実施の形態では、自動車100又は航空機に騒音制御装置1001を適用する例を示したが、騒音制御装置1001の適用先は、これに限定されるものではない。
(変形実施形態)
以上、本開示の実施の形態について説明したが、本開示の実施の形態は、上記の実施の形態に限定されず、例えば、以下に示す変形実施形態であってもよい。
実施の形態2の騒音制御装置1001において、ステップP8及びステップP11は、省略してもよい。この場合に、効果測定部50が、ステップP6において第二差分が第二目標値を達成していないと判定し(ステップP6でNO)、又は(OR)、ステップP7において前記過半数の周波数の第一差分が第一目標値を達成していないと判定したとする(ステップP7でNO)。この場合に、効果測定部50が、制御点におけるロードノイズの低減効果が目標値を達成していないと判定する(ステップS7でNOに対応)ようにしてもよい。また、効果測定部50が、ステップP6において第二差分が第二目標値を達成していると判定し(ステップP6でYES)、且つ(AND1)、ステップP7において前記過半数の周波数の第一差分が第一目標値を達成していると判定したとする(ステップP7でYES)。この場合に、効果測定部50が、制御点におけるロードノイズの低減効果が目標値に達成したと判定する(ステップS7でYESに対応)ようにしてもよい。
更に、実施の形態2の騒音制御装置1001において、ステップP7は、省略してもよい。この場合、効果測定部50は、ステップP6において第二差分が第二目標値を達成していないと判定した場合に(ステップP6でNO)、制御点におけるロードノイズの低減効果が目標値を達成していないと判定する(ステップS7でNOに対応)ようにしてもよい。また、効果測定部50は、ステップP6において第二差分が第二目標値を達成していると判定した場合に(ステップP6でYES)、制御点におけるロードノイズの低減効果が目標値に達成したと判定する(ステップS7でYESに対応)ようにしてもよい。
又は、実施の形態2の騒音制御装置1001において、ステップP6は、省略してもよい。この場合、効果測定部50は、ステップP7において前記過半数の周波数の第一差分が第一目標値を達成していないと判定した場合に(ステップP7でNO)、制御点におけるロードノイズの低減効果が目標値を達成していないと判定する(ステップS7でNOに対応)ようにしてもよい。また、効果測定部50は、ステップP7において前記過半数の周波数の第一差分が第一目標値を達成していると判定した場合に(ステップP7でYES)、制御点におけるロードノイズの低減効果が目標値に達成したと判定する(ステップS7でYESに対応)ようにしてもよい。
また、上述のセンサ1、1a、1b、1c、1dは、設置箇所に生じた騒音を検出し、当該検出した騒音を示す騒音信号を出力するマイクであってもよい。