JP2020039826A - 医療用具の製造方法および医療用具 - Google Patents

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Abstract

【課題】優れた耐久性(特に、摺動耐久性)を発揮する潤滑層(被覆層)を有する医療用具の製造方法を提供する。【解決手段】本発明の医療用具の製造方法は、基材層と、前記基材層の少なくとも一部に担持された潤滑層と、を備える医療用具の製造方法であって、疎水性単量体由来の構成単位(A)および親水性単量体由来の構成単位(B)を有するブロック共重合体と、常温で液体であるイオン液体と、溶媒と、を含むコート液を、前記基材層上に塗布することを含み、前記コート液は、前記イオン液体を、前記ブロック共重合体100質量部に対して、5質量部を超えて300質量部未満の量で含む、医療用具の製造方法。【選択図】なし

Description

本発明は、医療用具の製造方法および医療用具に関する。
カテーテル、ガイドワイヤ等の生体内に挿入される医療用具は、血管などの組織の損傷を低減させ、かつ術者の操作性を向上させるため、優れた潤滑性を示すことが要求される。このため、医療用具の基材層表面に潤滑性を有する親水性高分子を被覆する方法は、開発され実用化されている。一方、このような医療用具は、術者の操作性を保つため、術者の使用時に基材層表面に潤滑性を有する親水性高分子を維持できることも重要である。このため、親水性高分子によるコーティングには、優れた潤滑性のみならず磨耗や擦過等の負荷に対する耐久性も要求される。
このような観点から、特許文献1には、水溶性または水膨潤性重合体を、医療用具の基材が膨潤する溶媒に溶解させて重合体溶液を作製し、この重合体溶液に医療用具の基材を浸漬して膨潤させ、さらに基材層表面でこの重合体を架橋または高分子化させることによって、基材層表面に表面潤滑層を形成した医療用具が開示されている。
特許文献1に開示された技術によれば、良好な潤滑性を示す表面潤滑層を基材に固定することができると開示されている。
特開平8−33704号公報
特許文献1には、水溶性または水膨潤性重合体として、潤滑性を発現する親水性部位とエポキシ基を有する部位とからなるブロック共重合体を用いると好ましいことが開示されている。そして、このようなブロック共重合体を用いる場合、加熱操作によりブロック共重合体のエポキシ基を架橋させることができ、比較的剥離しにくい表面潤滑層を形成することができる。しかし、良好な潤滑性と優れた耐久性とはトレードオフの関係にあり、良好な潤滑性と優れた耐久性とを両立させる技術が求められている。
特に、近年の医療用具の小型化・細径化は著しく、生体内において、より屈曲性が高く、狭い病変部位へと医療用具をアプローチする医療手技が広まりつつある。また、医療手技の複雑化に伴い、医療用具の操作が長時間にわたる場合がある。したがって、複雑な病変部位であってもデバイスの操作性を良好に保つために、従来技術よりもさらにデバイス表面の潤滑維持性(耐久性)を高める技術が要求されている。より具体的には、デバイス表面の摺動を繰り返した場合であっても、高い潤滑性を維持できる、摺動耐久性に優れたデバイスが要求されている。
ゆえに、医療用具の耐久性(特に、摺動耐久性)を向上させ、複雑高度化する医療手技をサポートすることができる技術が求められている。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、優れた耐久性(特に、摺動耐久性)を発揮する潤滑層(被覆層)を有する医療用具の製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意研究を行った結果、疎水性単量体と親水性単量体とのブロック共重合体と共に、常温で液体であるイオン液体をさらに含む溶液を基材層上に塗布することにより、上記目的を達成できることを知得して、本発明を完成するに至った。
すなわち、上記目的は、基材層と、前記基材層の少なくとも一部に担持された潤滑層と、を備える医療用具の製造方法であって、疎水性単量体由来の構成単位(A)および親水性単量体由来の構成単位(B)を有するブロック共重合体と、常温で液体であるイオン液体と、溶媒と、を含むコート液を、前記基材層上に塗布することを含み、前記コート液は、前記イオン液体を、前記ブロック共重合体100質量部に対して、5質量部を超えて300質量部未満の量で含む、医療用具の製造方法によって達成される。
本発明によれば、優れた耐久性(特に、摺動耐久性)を発揮する潤滑層(被覆層)を有する医療用具の製造方法が提供される。また、本発明によれば、優れた耐久性(特に、摺動耐久性)を発揮する潤滑層(被覆層)を有する医療用具が提供される。
図1は、本発明に係る方法により製造される医療用具の代表的な実施形態の表面の積層構成を模式的に表した部分断面図である。 図2は、図1の実施形態の応用例として、表面の積層構成の異なる構成例を模式的に表した部分断面図である。 図3は、潤滑層の摺動性および摺動耐久性を評価するための試験装置(静動摩擦測定機)の模式図である。 図4は、実施例1で得られた被覆シート(1)の潤滑層の摺動耐久性評価結果を示すグラフである。 図5は、実施例2で得られた被覆シート(2)の潤滑層の摺動耐久性評価結果を示すグラフである。 図6は、実施例3で得られた被覆シート(3)の潤滑層の摺動耐久性評価結果を示すグラフである。 図7は、実施例4で得られた被覆シート(4)の潤滑層の摺動耐久性評価結果を示すグラフである。 図8は、比較例1で得られた比較被覆シート(1)の潤滑層の摺動耐久性評価結果を示すグラフである。 図9は、比較例2で得られた比較被覆シート(2)の潤滑層の摺動耐久性評価結果を示すグラフである。 図10は、比較例3で得られた比較被覆シート(3)の潤滑層の摺動耐久性評価結果を示すグラフである。
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。
本発明の一形態に係る医療用具の製造方法は、基材層と、前記基材層の少なくとも一部に担持された潤滑層と、を備える医療用具の製造方法であって、疎水性単量体由来の構成単位(A)および親水性単量体由来の構成単位(B)を有するブロック共重合体と、常温で液体であるイオン液体と、溶媒と、を含むコート液を、前記基材層上に塗布することを含み、前記コート液は、前記イオン液体を、前記ブロック共重合体100質量部に対して、5質量部を超えて300質量部未満の量で含む。
また、本発明の他の形態に係る医療用具は、基材層と、前記基材層の少なくとも一部に担持された潤滑層と、を備える医療用具であって、前記潤滑層が、疎水性単量体由来の構成単位(A)および親水性単量体由来の構成単位(B)を有するブロック共重合体と、常温で液体であるイオン液体と、を含む。
なお、本明細書では、疎水性単量体由来の構成単位(A)を、単に「疎水性単量体由来の構成単位」または「構成単位(A)」とも称する。同様にして、親水性単量体由来の構成単位(B)を、単に「親水性単量体由来の構成単位」または「構成単位(B)」とも称する。また、疎水性単量体由来の構成単位(A)および親水性単量体由来の構成単位(B)を有するブロック共重合体を単に「ブロック共重合体」とも称する。さらに、常温で液体であるイオン液体を、単に「イオン液体」または「本発明に係るイオン液体」とも称する。
本発明に係る医療用具の製造方法では、(a)疎水性単量体由来の構成単位および親水性単量体由来の構成単位を有するブロック共重合体、(b)ブロック共重合体100質量部に対して5質量部を超えて300質量部未満の量の、常温で液体であるイオン液体、および(c)溶媒を含む溶液を基材層上に塗布する。また、本発明に係る医療用具は、基材層の少なくとも一部に担持された潤滑層において、(a)疎水性単量体由来の構成単位および親水性単量体由来の構成単位を有するブロック共重合体と、(b)常温で液体であるイオン液体と、を含む。上記構成によって、本発明の方法により製造される医療用具および本発明に係る医療用具は、優れた耐久性(表面潤滑維持性、摺動耐久性)を発揮できる。
本発明に係る方法により製造される医療用具および本発明に係る医療用具が、優れた耐久性(表面潤滑維持性、摺動耐久性)を呈することができるメカニズムは、以下のように考えられる。なお、本発明は、下記推定メカニズムに限定されない。
本発明に係る医療用具の製造方法では、疎水性単量体由来の構成単位(A)および親水性単量体由来の構成単位(B)を有するブロック共重合体を基材層上に塗布する。これにより、基材層上に潤滑層が形成される。潤滑層を形成するブロック共重合体は、体液や水性溶媒との接触時に膨潤性を発揮し、ゆえに医療用具に潤滑性(表面潤滑性)を付与して血管壁などの管腔壁との摩擦を低減する。
ここで、潤滑層を形成するブロック共重合体は、構成単位(A)によって形成されるブロック(以下、「疎水性ユニット」とも称する)と、構成単位(B)によって形成されるブロック(以下、「親水性ユニット」とも称する)とを有する。かようなブロック共重合体においては、溶液中で、疎水性ユニットは性質の類似している疎水性ユニットに近接し凝集する性質を有する。同様にして、親水性ユニットは、やはり性質の類似している親水性ユニットに近接し凝集する性質を有する。上記性質に加えて、常温で液体であるイオン液体が存在すると、上記各ユニット同士の近接/凝集が促進される。より詳細には、常温で液体であるイオン液体が、ブロック共重合体の分子鎖(疎水性ユニットまたは親水性ユニット、特に疎水性ユニット)間に適度に入り、ブロック共重合体の分子鎖間の引力を低減し、各ユニットの移動性・運動性を高める(可塑化)。その結果、ブロック共重合体及びイオン液体を含む溶液中では、ブロック共重合体の末端の疎水性ユニットまたは親水性ユニット(特に疎水性ユニット)が相互に近接/凝集しあって、近接/凝集部位を中心にブロック共重合体の分子鎖が放射状に広がるような状態を形成している。
このような状態の溶液を基材層上に塗布して得られる被膜(潤滑層)は、ブロック共重合体の各ユニットの凝集による密な網目構造(ネットワーク)が形成されていると考えられ、この網目構造により、摺動後においても高い潤滑性(表面潤滑性)をより長期間にわたり維持できる(すなわち、優れた表面潤滑性を維持し、摺動耐久性を向上できる)と推測される。したがって、本発明に係る方法により製造される医療用具および本発明に係る医療用具は、優れた耐久性(表面潤滑維持性、摺動耐久性)を有する。
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
なお、本明細書において、上記で説明したブロック共重合体に含まれる各ユニットの凝集、および当該凝集によるブロック共重合体の網目構造の形成を、「ユニットの凝集およびブロック共重合体の高分子化」とも称することがある。
また、本明細書において、範囲を示す「X〜Y」はXおよびYを含み、「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%RHの条件で測定する。
<医療用具の製造方法>
本発明に係る医療用具の製造方法は、(a)疎水性単量体由来の構成単位(A)および親水性単量体由来の構成単位(B)を有するブロック共重合体と、(b)ブロック共重合体100質量部に対して5質量部を超えて300質量部未満の量の(以下、「特定量の」とも称する)、常温で液体であるイオン液体と、(c)溶媒と、を含む溶液を基材層上に塗布して塗布層(塗膜)を形成すること((I)溶液塗布工程、塗布層形成工程)を含む。また、必要に応じて、上記工程(I)の後、さらに塗布層(塗膜)に熱処理を行ってもよい((II)熱処理工程)。さらに、上記工程(II)の後、塗布層(塗膜)を洗浄すること((III)洗浄工程)を行ってもよい。このように、ブロック共重合体と共に特定の構造を有する常温で液体であるイオン液体を特定量含む溶液を塗布することにより、優れた耐久性を発揮する潤滑層(被覆層)を有する医療用具が得られる。
(I)溶液塗布工程(塗布層形成工程)
本発明に係る医療用具の製造方法では、まず、上記ブロック共重合体、特定量の上記常温で液体であるイオン液体および溶媒を含む溶液(本明細書中、単に「ブロック共重合体溶液」または「コート液」とも称する)を基材層上に塗布する((I)溶液塗布工程、塗布層形成工程)。溶液塗布工程は、基材層表面の少なくとも一部に、ブロック共重合体を含む潤滑層を担持(または被覆)させる目的で行われる。なお、「担持」とは、潤滑層が基材層表面から容易に遊離しない状態に固定化された状態を意味し、基材層の表面全体が塗布層(ゆえに潤滑層)により完全に覆われている形態のみならず、基材表面の一部のみが潤滑層により覆われている形態、すなわち、基材表面の一部のみに塗布層(塗膜)が付着した形態をも含むものとする。したがって、溶液を塗布する方法は、上記構成単位(A)および構成単位(B)を有するブロック共重合体と、特定量の上記常温で液体であるイオン液体と、溶媒とを含む溶液を使用する以外は特に制限されず、公知の方法と同様にしてあるいはこれを適宜修飾して適用できる。
溶液塗布工程において、具体的には、上記ブロック共重合体および特定量の上記イオン液体を溶媒に溶解させて溶液(コート液)を調製し、当該溶液(コート液)を基材上にコートして塗布層を形成する。
以下、(I)溶液塗布工程(塗布層形成工程)について、好ましい態様を詳説する。
≪ブロック共重合体溶液(コート液)の調製≫
上記の通り、溶液塗布工程(塗布層形成工程)では、ブロック共重合体、特定量の常温で液体であるイオン液体および溶媒を含む溶液を基材層上に塗布するため、まず、ブロック共重合体溶液(コート液)を調製する。
(ブロック共重合体)
本発明において、ブロック共重合体は、基材層の少なくとも一部に担持された潤滑層を形成する。すなわち、本発明に係る方法により製造される医療用具において、潤滑層は、ブロック共重合体を含む。
本発明におけるブロック共重合体は、疎水性単量体由来の構成単位(A)および親水性単量体由来の構成単位(B)を有する。
ブロック共重合体を構成する疎水性単量体および親水性単量体は、それぞれ、疎水性ユニットおよび親水性ユニットを構成する。そして、その性質の類似性に起因して、疎水性ユニット同士、親水性ユニット同士がそれぞれ凝集する。
ブロック共重合体を含む溶液に本発明に係る特定量のイオン液体が添加されることにより、ユニットの凝集およびブロック共重合体の高分子化が促進されるため、潤滑層の強度を向上させることができる。具体的には、本発明に係るイオン液体は、ブロック共重合体の運動性を高める(可塑化)ことで、類似の性質を有するユニット同士の凝集およびブロック共重合体の網目構造形成の促進に寄与していると推測される。ゆえに、本発明に係る方法により製造される医療用具は、摺動耐久性に優れ、また、摺動後もその潤滑性を良好に維持できる。
一方、疎水性単量体と親水性単量体とのランダム共重合体は、疎水性ユニットおよび親水性ユニットのサイズが小さいため、ユニットとしての性質(疎水性および親水性)が弱い。よって、上記のような、疎水性ユニット同士や親水性ユニット同士で近接し凝集する性質が弱いかまたはなく、網目構造(ネットワーク)がほとんど形成されないかまたは形成されない。したがって、上記のような複雑高度化した手技で要求されるほどの耐久性(表面潤滑維持性、摺動耐久性)を達成することが難しい。
《疎水性単量体》
ブロック共重合体を構成する疎水性単量体について説明する。本明細書中、「疎水性単量体」とは、当該単量体を用いて重合度が10以上のホモポリマーを作製したときに、当該ホモポリマーの20℃における水100gに対する溶解量が0.1g以下である化合物をいう。
ブロック共重合体を構成する疎水性単量体は、上記定義を満たすものであれば特に制限されず、公知の化合物を使用できる。かような疎水性単量体として、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート(GMA)、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルアクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレート、β−メチルグリシジルアクリレート、β−メチルグリシジルメタクリレート等のグリシジル基(エポキシ基)を有する(メタ)アクリル酸エステル;アリルグリシジルエーテル等のグリシジル基(エポキシ基)を有するビニルエーテル;メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−プロピルアクリレート、n−プロピルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート(BuMA)、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート等の炭素数1〜24のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;フェニルアクリレート、フェニルメタクリレート等の炭素数6〜20のアリール基を有する(メタ)アクリル酸エステル;ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート等の炭素数7〜30のアラルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;N−tert−ブチルアクリルアミド、N−tert−ブチルメタクリルアミド等のN−アルキルアクリルアミド;エチレン、プロピレン、イソブチレン、塩化ビニル、ビニリデンクロリド等のオレフィン;スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル;プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;等が挙げられるが、これらに制限されない。
なお、本明細書中、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸およびメタクリル酸の双方を包含する。また、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよびメタクリレートの双方を包含し、「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイルおよびメタクリロイルの双方を包含する。
なかでも、ユニットの凝集およびブロック共重合体の高分子化の制御がしやすいことから、疎水性単量体は、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルアクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレート、β−メチルグリシジルアクリレート、β−メチルグリシジルメタクリレート;アリルグリシジルエーテル;メチルアクリレート、メチルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ベンジルアクリレート、およびベンジルメタクリレートからなる群から選択される少なくとも一種を含むと好ましい。
さらに、耐久性の向上、基材層との密着性、凝集のしやすさ等の観点から、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルアクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレート、β−メチルグリシジルアクリレート、β−メチルグリシジルメタクリレート、およびアリルグリシジルエーテルからなる群から選択される少なくとも一種を含むとより好ましい。これらの疎水性単量体は、反応性基であるエポキシ基を有しており、このような疎水性単量体から得られる疎水性ユニットを含むブロック共重合体を用いて、後述の熱処理工程が行われると、ユニットの凝集およびブロック共重合体の高分子化が促進されることに加えて、エポキシ基の架橋反応も進行すると考えられる。よって、より強固な被膜(潤滑層)が形成され、耐久性(特に摺動耐久性)がより向上する。
疎水性単量体は、グリシジル(メタ)アクリレートであると特に好ましい。かような形態は、網目構造をより形成しやすく、製造も容易であるという利点も有する。
上記疎水性単量体は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。すなわち、疎水性単量体由来の疎水性ユニット(疎水性部位)は、1種単独の疎水性単量体から構成されるホモポリマー型であっても、あるいは上記疎水性単量体の2種以上から構成されるコポリマー型であってもよい。なお、上記疎水性単量体を2種以上用いる場合の疎水性部位の形態は、ブロック共重合体でもよいしランダム共重合体でもよいし交互共重合体でもよい。
《親水性単量体》
親水性単量体について説明する。本明細書中、「親水性単量体」とは、当該親水性単量体と、上記疎水性単量体に由来する構成単位とを有するブロック共重合体を作製したときに、当該ブロック共重合体が、体液や水性溶媒との接触時に膨潤性を有し、潤滑性(表面潤滑性)を医療用具に付与することができる化合物をいう。このような親水性単量体由来の構成単位(B)をブロック共重合体中に導入することにより、医療用具が潤滑性(表面潤滑性)を発揮し、医療用具が血管壁などの管腔壁と接触した際の摩擦を低減できる。
ブロック共重合体を構成する親水性単量体は、上記定義を満たすものであれば特に制限されず、公知の化合物を使用できる。かような親水性単量体は、アニオン性親水性単量体、カチオン性親水性単量体および非イオン性親水性単量体のいずれであってもよい。
アニオン性親水性単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸等のカルボン酸基含有モノマー;2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等のスルホン酸基含有モノマー等が挙げられる。
カチオン性親水性単量体としては、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩、(3−アクリロイルアミノプロピル)トリメチルアンモニウム塩、(3−メタクリロイルアミノプロピル)トリメチルアンモニウム塩等の四級塩基含有モノマー等が挙げられる。
非イオン性親水性単量体としては、N−メチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド(DMAA)、N−エチルアクリルアミド、アクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド(DEAA)、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、N−ビニル−2−ピロリドン、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、3−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、アルコキシポリエチレングリコールモノアクリレート、アルコキシポリエチレングリコールモノメタクリレート等が挙げられるが、これらに制限されない。
なかでも、優れた潤滑性の付与、合成の容易性や操作性、凝集のしやすさ等の観点から、親水性単量体は、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、アクリルアミド、N−ビニル−2−ピロリドン、2−ヒドロキシエチルアクリレートおよび2−ヒドロキシエチルメタクリレートからなる群から選択される少なくとも一種を含むと好ましい。優れた潤滑性の付与、凝集のしやすさ等の観点から、親水性単量体は、N,N−ジメチルアクリルアミドまたはN,N−ジエチルアクリルアミドがより好ましく、N,N−ジメチルアクリルアミドが特に好ましい。
上記親水性単量体は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。すなわち、親水性単量体由来の親水性ユニット(親水性部位)は、1種単独の親水性単量体から構成されるホモポリマー型であっても、あるいは上記親水性単量体の2種以上から構成されるコポリマー型であってもよい。なお、上記親水性単量体を2種以上用いる場合の親水性部位の形態は、ブロック共重合体でもよいしランダム共重合体でもよいし交互共重合体でもよい。
《構成単位の比率(組成比)》
ブロック共重合体中における構成単位(A)と構成単位(B)との比率(組成比)は、上記効果を奏する限り特に制限されない。良好な潤滑性、潤滑維持性、摺動性、摺動耐久性、被覆層の強度、基材層との密着性などを考慮すると、構成単位(A)と構成単位(B)との比率(構成単位(A):構成単位(B)のモル比)は、1:2〜100であることが好ましく、1:5〜50であることがより好ましく、1:10〜1:20であることがさらに好ましい。このような範囲であれば、潤滑層は、構成単位(B)により潤滑性を十分発揮でき、また、構成単位(A)により十分な被覆層の強度、基材層との密着性および耐久性を発揮できる。なお、上記構成単位(A):構成単位(B)のモル比は、ブロック共重合体の製造段階において、各単量体の仕込み比(モル比)を調整することにより制御することができる。このとき、ブロック共重合体の製造段階における疎水性単量体と、親水性単量体との仕込み比率(モル比)は、1:2〜100であると好ましく、1:5〜50であるとより好ましく、1:10〜1:20であるとさらに好ましい。また、上記構成単位(A):構成単位(B)のモル比は、例えば、共重合体についてNMR測定(H−NMR測定、13C−NMR測定等)を行うことにより確認することができる。
《ブロック共重合体の重量平均分子量(Mw)》
ブロック共重合体の重量平均分子量は、特に制限されないが、溶解性の点から、好ましくは10,000〜10,000,000である。そして、ブロック共重合体の重量平均分子量は、ブロック共重合体溶液(コート液)の調製のしやすさの点から、より好ましくは100,000〜5,000,000である。本明細書中、「重量平均分子量」は、ポリスチレンを標準物質とするゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography、GPC)により測定した値を採用するものとする。
《ブロック共重合体の製造方法》
ブロック共重合体の製造方法は、特に制限されず、例えば、リビングラジカル重合法、マクロ開始剤を用いた重合法、重縮合法など、従来公知の重合法を適用して作製可能である。これらのうち、疎水性単量体に由来する構成単位(部位)、親水性単量体に由来する構成単位(部位)の分子量および分子量分布のコントロールがしやすいという点で、リビングラジカル重合法またはマクロ開始剤を用いた重合法が好ましく使用される。リビングラジカル重合法としては、特に制限されないが、例えば、特開平11−263819号公報、特開2002−145971号公報、特開2006−316169号公報等に記載される方法、ならびに原子移動ラジカル重合(ATRP)法などが、同様にしてあるいは適宜修飾して適用できる。また、マクロ開始剤を用いた重合法では、例えば、疎水性官能基を有する疎水性部位と、パーオキサイド基等のラジカル重合性基とを有するマクロ開始剤を作製した後、そのマクロ開始剤と親水性部位(親水性ユニット)を形成するための単量体を重合させることで、親水性部位(親水性ユニット)と疎水性部位(疎水性ユニット)とを有するブロック共重合体を作製することができる。なお、共重合後のブロック共重合体は、再沈澱法、透析法、限外濾過法、抽出法など一般的な精製法により精製することが好ましい。
(常温で液体であるイオン液体)
本発明において、常温で液体であるイオン液体は、ブロック共重合体の各ユニットの運動性を高め、ユニットの凝集およびブロック共重合体の高分子化を容易にする。これにより、強固な潤滑層を形成することができ、優れた耐久性(摺動耐久性)を得ることができる。
本発明に係る常温で液体であるイオン液体は、常温(25℃)で液体を呈し、カチオン部(カチオン)およびアニオン部(アニオン)から構成される。ここで、カチオン部(カチオン)としては、特に制限されず、窒素原子、リン原子、硫黄原子、または上記のいずれの組み合わせ(例えば、窒素原子及び硫黄原子)がイオンの中心を構成するものなどが挙げられる。これらのうち、ブロック共重合体との相溶性、水溶性などの観点から、カチオン部(カチオン)としては、以下に制限されないが、窒素原子、硫黄原子がイオンの中心を構成するものが好ましく、窒素原子がイオンの中心を構成するもの(第4級アンモニウムカチオン)がより好ましい。このような第4級アンモニウムカチオンの構造は、特に制限されないが、下記式(1)を有することが好ましい。また、アニオン部(アニオン)もまた特に制限されないが、下記式(2)を有することが好ましい。すなわち、本発明の好ましい形態では、イオン液体は、下記式(1)を有するカチオン部および下記式(2)を有するアニオン部から構成される。このような構造を有するイオン液体は、ブロック共重合体との相溶性が非常に高い。このため、ブロック共重合体の分子鎖間の引力をより低減して、各ユニットの移動性・運動性をさらに向上することができる(可塑化をさらに促進できる)。このため、このようなイオン液体をブロック共重合体と共存させることにより、ユニットの凝集およびブロック共重合体の高分子化がさらに促進できる。また、このようなイオン液体は、水溶性に優れるため、下記に詳述する洗浄工程における除去効率をさらに向上できる。
カチオン部(カチオン)の好ましい構造を示す上記式(1)において、mは、0または1であり、好ましくは1である。すなわち、置換基XとXとは酸素原子(−O−)を介して連結していることが好ましい。
〜Rは、それぞれ独立して、炭素原子数1〜3のアルキル基を表わす。この際、R〜Rは、同じであってもまたは異なるものであってもよい。炭素原子数1〜3のアルキル基としては、特に制限されず、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基がある。これらのうち、ブロック共重合体とのより高い相溶性、ユニットの凝集およびブロック共重合体の高分子化のさらなる促進効果およびより高い水溶性(ゆえに、下記に詳述する洗浄工程における除去効率の向上効果)などの観点から、R〜Rは、メチル基、エチル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
は、水酸基を有してもよい炭素原子数2〜5のアルキレン基を表わす。ここで、炭素原子数2〜5のアルキレン基は、特に制限されないが、例えば、エチレン基(−CH−CH−)、トリメチレン基(−CH−CH−CH−)、プロピレン基(−CH(CH)CH−または−CH−CH(CH)−)、テトラメチレン基(−CH−CH−CH−CH−)、ペンタメチレン基(−CH−CH−CH−CH−CH−)などが挙げられる。これらのうち、ブロック共重合体とのより高い相溶性、ユニットの凝集およびブロック共重合体の高分子化のさらなる促進効果およびより高い水溶性(ゆえに、下記に詳述する洗浄工程における除去効率の向上効果)などの観点から、Xは、炭素原子数2〜4のアルキレン基であることが好ましく、エチレン基、トリメチレン基であることがより好ましく、トリメチレン基であることが特に好ましい。また、Xは、水酸基を有してもよい、すなわち、上記アルキレン基の少なくとも1個の水素原子が水酸基に置換されてもよい。ここで、水酸基は、疎水性ユニットまたは親水性ユニットと水素結合等を介した相互作用に寄与して、各ユニットの運動性を高める。このため、Xは水酸基を有することが好ましい。Xが水酸基を有する場合の水酸基数は、特に制限されないが、ブロック共重合体とのより高い相溶性、ユニットの凝集およびブロック共重合体の高分子化のさらなる促進効果などの観点から、Xは、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、特に好ましくは1または2個の水酸基を有する。すなわち、Xは、本発明の好ましい形態では、1〜2個の水酸基を有する炭素原子数2〜4のアルキレン基を表わす。具体的には、Xとしては、ヒドロキシエチレン基(−CH(OH)−CH−または−CH−CH(OH)−))、2−ヒドロキシ−トリメチレン基(−CH−CH(OH)−CH−)、3−ヒドロキシ−トリメチレン基(−CH(OH)−CH−CH−)、1,2−ジヒドロキシ−トリメチレン基(−CH(OH)−CH(OH)−CH−)、2,2−ジヒドロキシ−トリメチレン基(−CH−CH(OH)−CH−)、2,3−ジヒドロキシ−トリメチレン基(−CH−CH(OH)−CH(OH)−)、1−ヒドロキシ−テトラメチレン基(−CH−CH−CH−CH(OH)−)、2−ヒドロキシ−テトラメチレン基(−CH−CH−CH(OH)−CH−)、3−ヒドロキシ−テトラメチレン基(−CH−CH(OH)−CH−CH−)、4−ヒドロキシ−テトラメチレン基(−CH(OH)−CH−CH−CH−)、2,2−ジヒドロキシ−テトラメチレン基(−CH−CH−C(OH)−CH−)、2,3−ジヒドロキシ−テトラメチレン基(−CH−CH(OH)−CH(OH)−CH−)、1,3−ジヒドロキシ−テトラメチレン基(−CH−CH(OH)−CH−CH(OH)−)、3,3−ジヒドロキシ−テトラメチレン基(−CH−CH(OH)−CH−CH−)、2,4−ジヒドロキシ−テトラメチレン基(−CH(OH)−CH−CH(OH)−CH−)などが挙げられる。これらのうち、ブロック共重合体とのより高い相溶性、ユニットの凝集およびブロック共重合体の高分子化のさらなる促進効果およびより高い水溶性(ゆえに、下記に詳述する洗浄工程における除去効率の向上効果)などの観点から、ヒドロキシエチレン基、2−ヒドロキシ−トリメチレン基であることが好ましく、2−ヒドロキシ−トリメチレン基であることがより好ましい。
は、水酸基を有してもよい炭素原子数1〜8のアルキル基を表わす。ここで、炭素原子数1〜8のアルキル基としては、特に制限されないが、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基などの直鎖または分岐鎖のアルキル基が挙げられる。これらのうち、ブロック共重合体とのより高い相溶性、ユニットの凝集およびブロック共重合体の高分子化のさらなる促進効果およびより高い水溶性(ゆえに、下記に詳述する洗浄工程における除去効率の向上効果)などの観点から、Xは、炭素原子数2〜6のアルキル基であることが好ましく、炭素原子数3または4のアルキル基であることがより好ましく、n−ブチル基であることが特に好ましい。すなわち、本発明の好ましい形態では、Xは、水酸基を有してもよい炭素原子数2〜6のアルキル基を表わす。また、Xは、水酸基を有してもよい、すなわち、上記アルキル基の少なくとも1個の水素原子が水酸基に置換されてもよい。Xが水酸基を有する場合の水酸基数は、特に制限されない。ブロック共重合体とのより高い相溶性、ユニットの凝集およびブロック共重合体の高分子化のさらなる促進効果などの観点から、Xは、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、特に好ましくは1個の水酸基を有する。なお、イオン液体の他の置換基(X、Y)が水酸基を有する場合には、Xは、必ずしも水酸基を有する必要はなく、このような場合には、Xは、炭素原子数1〜8(好ましくは2〜6)のアルキル基を表わす(即ち、水酸基を持たない)。
すなわち、上記式(1)のカチオン部(カチオン)は、下記構造を有することが好ましい。
また、上記式(1)のカチオン部(カチオン)は、下記構造を有することがより好ましい。
上述したように、アニオン部(アニオン)は、下記式(2)の構造を有することが好ましい。
上記式(2)において、Yは、炭素原子数1〜5のアルキレン基を表わす。ここで、炭素原子数1〜5のアルキレン基は、特に制限されないが、例えば、メチレン基(−CH−)、エチレン基(−CH−CH−)、トリメチレン基(−CH−CH−CH−)、プロピレン基(−CH(CH)CH−または−CH−CH(CH)−)、テトラメチレン基(−CH−CH−CH−CH−)、ペンタメチレン基(−CH−CH−CH−CH−CH−)などが挙げられる。これらのうち、ブロック共重合体とのより高い相溶性、ユニットの凝集およびブロック共重合体の高分子化のさらなる促進効果およびより高い水溶性(ゆえに、下記に詳述する洗浄工程における除去効率の向上効果)などの観点から、Yは、炭素原子数1〜3のアルキレン基であることが好ましく、メチレン基、エチレン基であることがより好ましく、エチレン基であることが特に好ましい。
は、窒素原子または炭素原子を表わす。ここで、Yが窒素原子である場合には、nは2であり、Yが炭素原子である場合には、nは3である。ブロック共重合体とのより高い相溶性、ユニットの凝集およびブロック共重合体の高分子化のさらなる促進効果およびより高い水溶性(ゆえに、下記に詳述する洗浄工程における除去効率の向上効果)などの観点から、Yは窒素原子であり、nは2であることが好ましい。
は、それぞれ独立して、水酸基を有してもよい炭素原子数1〜8のアルキル基を表わす。ここで、複数(2個または3個)のYは、同じであってもまたは異なるものであってもよい。炭素原子数1〜8のアルキル基は、特に制限されず、具体例は上記Xと同様である。これらのうち、ブロック共重合体とのより高い相溶性、ユニットの凝集およびブロック共重合体の高分子化のさらなる促進効果およびより高い水溶性(ゆえに、下記に詳述する洗浄工程における除去効率の向上効果)などの観点から、Yは、炭素原子数1〜5のアルキル基であることが好ましく、炭素原子数1〜3のアルキル基であることがより好ましく、エチル基であることが特に好ましい。また、Yは、水酸基を有してもよい、すなわち、上記アルキル基の少なくとも1個の水素原子が水酸基に置換されてもよい。上述したように、水酸基は、疎水性ユニットまたは親水性ユニットと水素結合等を介した相互作用に寄与して、各ユニットの運動性を高める。このため、Yは水酸基を有することが好ましい。Yが水酸基を有する場合の水酸基数は、特に制限されないが、ブロック共重合体とのより高い相溶性、ユニットの凝集およびブロック共重合体の高分子化のさらなる促進効果およびより高い水溶性(ゆえに、下記に詳述する洗浄工程における除去効率の向上効果)などの観点から、Yの少なくとも一方は、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、特に好ましくは1または2個の水酸基を有する。なお、Yが全て水酸基を有する必要はない。すなわち、本発明の好ましい形態では、Yの少なくとも一つは、1〜5個(より好ましくは1〜3個、特に好ましくは1〜2個)の水酸基を有する炭素原子数1〜8のアルキル基を表わし、残りのYは炭素原子数1〜8のアルキル基を表わす(即ち、水酸基を持たない)。本発明のより好ましい形態では、Yの少なくとも一つは、1〜5個(より好ましくは1〜3個、特に好ましくは1〜2個)の水酸基を有する炭素原子数1〜5のアルキル基を表わし、残りのYは炭素原子数1〜5のアルキル基を表わす(即ち、水酸基を持たない)。本発明の特に好ましい形態では、Yの少なくとも一つは、1〜5個(より好ましくは1〜3個、特に好ましくは1〜2個)の水酸基を有する炭素原子数1〜3のアルキル基を表わし、残りのYは炭素原子数1〜3のアルキル基を表わす(即ち、水酸基を持たない)。具体的には、Yとしては、1−ヒドロキシエチル基(−CHCH(OH))、2−ヒドロキシエチル基(−CH(OH)CH)、1,2−ジヒドロキシエチル基(−CH(OH)CH(OH))、1−ヒドロキシ−プロピル基(−CHCHCH(OH))、2−ヒドロキシ−プロピル基(−CHCH(OH)CH)、3−ヒドロキシ−プロピル基(−CH(OH)CHCH)、1,2−ジヒドロキシ−プロピル基(−CHCHCH(OH))、2,2−ジヒドロキシ−プロピル基(−CH−CH(OH)−CH)、2,3−ジヒドロキシ−プロピル基(−CH(OH)−CH(OH)−CH)、1−ヒドロキシ−ブチル基(−CH−CH−CH−CH(OH))、2−ヒドロキシ−ブチル基(−CH−CH−CH(OH)−CH)、3−ヒドロキシ−ブチル基(−CH−CH(OH)−CH−CH)、4−ヒドロキシ−ブチル基(−CH(OH)−CH−CH−CH)、2,2−ジヒドロキシ−ブチル基(−CH−CH−C(OH)−CH)、2,3−ジヒドロキシ−ブチル基(−CH−CH(OH)−CH(OH)−CH)、1,3−ジヒドロキシ−ブチル基(−CH−CH(OH)−CH−CH(OH))、3,3−ジヒドロキシ−ブチル基(−CH−CH(OH)−CH−CH−)、2,4−ジヒドロキシ−ブチル基(−CH(OH)−CH−CH(OH)−CH)などが挙げられる。これらのうち、ブロック共重合体とのより高い相溶性、ユニットの凝集およびブロック共重合体の高分子化のさらなる促進効果およびより高い水溶性(ゆえに、下記に詳述する洗浄工程における除去効率の向上効果)などの観点から、1−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシエチル基であることが好ましく、1−ヒドロキシエチル基であることがより好ましい。
は、アニオンを表わす。ここで、Zは、カチオン(カチオン部)と塩を形成できるものであれば、特に制限されない。かようなアニオンとしては、例えば、亜硫酸イオン(−S(=O))、硫酸イオン(−O−S(=O))、カルボン酸イオン(−C(=O)O)が好ましく挙げられる。より好ましくは、Zは、亜硫酸イオン(−S(=O))、硫酸イオン(−O−S(=O))であり、特に好ましくは、Zは、亜硫酸イオン(SO )である。すなわち、本発明の好ましい実施形態では、Zは、亜硫酸イオン(−S(=O))、硫酸イオン(−O−S(=O))およびカルボン酸イオン(−C(=O)O)からなる群より選択される。
上述したように、本発明に係るイオン液体は、水酸基を有してもよい(式(1)中のX及びXならびに式(2)中のYが水酸基を有してもよい)。上述したように、水酸基は、疎水性ユニットまたは親水性ユニットと水素結合等を介した相互作用に寄与して、各ユニットの運動性を高める。このため、ユニットの凝集およびブロック共重合体の高分子化のさらなる促進効果(ゆえにより優れた耐久性(摺動耐久性)を有する潤滑層を形成する)という観点から、イオン液体は水酸基を有することが好ましい。ここで、イオン液体が有する水酸基数は、特に制限されないが、ユニットの凝集およびブロック共重合体の高分子化のさらなる促進効果の観点から、好ましくは1〜8個、より好ましくは2〜5個、特に好ましくは3または4個である。すなわち、本発明の好ましい形態では、カチオン部に存在する水酸基の数(p個)およびアニオン部に存在する水酸基の数(q個)の合計数(p+q)が、1〜8個である。本発明のより好ましい形態では、カチオン部に存在する水酸基の数(p個)およびアニオン部に存在する水酸基の数(q個)の合計数(p+q)が、2〜5個である。本発明の特に好ましい形態では、カチオン部に存在する水酸基の数(p個)およびアニオン部に存在する水酸基の数(q個)の合計数(p+q)が、3または4個である。
したがって、本発明に係るイオン液体は、下記式(1’)を有するカチオン部および下記式(2’)を有するアニオン部から構成されることが好ましい。
上記式(1’)中、R〜Rは、それぞれ独立して、炭素原子数1または2のアルキル基を表わし;Xは、1〜2個の水酸基を有する炭素原子数2〜4のアルキレン基を表わし;Xは、水酸基を有してもよい炭素原子数2〜6のアルキル基を表わす、
上記式(2’)中、Yは、炭素原子数1〜3のアルキレン基を表わし;Yは、1〜2個の水酸基を有する炭素原子数1〜5のアルキル基を表わし;Y3’は、0〜2個の水酸基を有する炭素原子数1〜5のアルキル基を表わし;Zは、亜硫酸イオン(−S(=O))、硫酸イオン(−O−S(=O))およびカルボン酸イオン(−C(=O)O)からなる群より選択され、
前記カチオン部に存在する水酸基の数(p個)およびアニオン部に存在する水酸基の数(q個)の合計数(p+q)が、2〜5個である。
すなわち、上記式(1)のカチオン部(カチオン)は、下記構造を有することが好ましい。なお、下記構造において、Zは、上記式(2)において定義したのと同様である。
また、上記式(1)のアニオン部(アニオン)は、下記構造を有することがより好ましい。
上記常温で液体であるイオン液体は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、上記常温で液体であるイオン液体は、合成品を用いてもよいし、市販品を用いてもよい。
本発明に係る常温で液体であるイオン液体は、コート液中に、ブロック共重合体100質量部に対して、5質量部を超えて300質量部未満の割合で含まれる。ここで、イオン液体の含有量がブロック共重合体100質量部に対して5質量部以下であると、イオン液体の添加量が少なすぎて、ブロック共重合体の疎水性ユニットまたは親水性ユニットの運動性を高める効果が低くなり、被膜(潤滑層)の摺動耐久性向上の効果が十分に得られない(下記比較例2参照)。逆に、イオン液体の含有量がブロック共重合体100質量部に対して300質量部以上であると、イオン液体が、ブロック共重合体の疎水性ユニットまたは親水性ユニット(特に疎水性ユニット)間に入り込みすぎて、各ユニットの近接・凝集が阻害されてしまう。このため、やはり被膜(潤滑層)の摺動耐久性向上の効果が十分に得られない(下記比較例3参照)。
ユニットの凝集およびブロック共重合体の高分子化のさらなる促進効果(ゆえにより優れた耐久性(摺動耐久性)を有する潤滑層を形成する)という観点から、コート液中のイオン液体の含有量は、ブロック共重合体100質量部に対して、好ましくは15〜200質量部、より好ましくは25〜100質量部、特に好ましくは25質量部を超えて50質量部以下である。すなわち、本発明の好ましい形態では、コート液は、イオン液体を、ブロック共重合体100質量部に対して、15〜200質量部の量で含む。本発明のより好ましい形態では、コート液は、イオン液体を、ブロック共重合体100質量部に対して、25〜100質量部の量で含む。本発明の特に好ましい形態では、コート液は、イオン液体を、ブロック共重合体100質量部に対して、25質量部を超えて50質量部以下の量で含む。
(溶媒)
本発明では、ブロック共重合体を均一に基材層上に担持させる目的から、上記ブロック共重合体および上記イオン液体を溶媒と混合して均一な溶液を調製し、当該溶液(コート液)を基材層上に塗布する。また、溶媒を使用することによって、コート液の粘度を下げることができるため、コート液を容易に基材層上に塗布することができる(塗工性に優れる)。
本発明に係るブロック共重合体およびイオン液体を溶解するのに使用される溶媒としては、本発明に係るブロック共重合体およびイオン液体を溶解できるものであれば特に制限されない。具体的には、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル等のエステル類、クロロホルム等のハロゲン化物、ヘキサン等のオレフィン類、テトラヒドロフラン(THF)、ブチルエーテル等のエーテル類、ベンゼン、トルエン等の芳香族類、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等のアミド類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類などを例示することができるが、これらに何ら制限されるものではない。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、ブロック共重合体および常温で液体であるイオン液体を均一に溶解でき、溶液の塗布を均一に行えるという観点から、溶液(コート液)の溶媒は、アセトン等のケトン類、およびDMF等のアミド類が好ましく、アセトンおよびDMFが特に好ましい。
(他の成分)
潤滑層を形成するためのブロック共重合体溶液(コート液)は、ブロック共重合体、常温で液体であるイオン液体、溶媒の他、他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、特に制限されず、例えば、医療用具がカテーテルなどの体腔や管腔内への挿入を目的とする場合には、抗癌剤、免疫抑制剤、抗生物質、抗リウマチ薬、抗血栓薬、HMG−CoA還元酵素阻害剤、ACE阻害剤、カルシウム拮抗剤、抗高脂血症薬、インテグリン阻害薬、抗アレルギー剤、抗酸化剤、GPIIb/IIIa拮抗薬、レチノイド、フラボノイド、カロチノイド、脂質改善薬、DNA合成阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、抗血小板薬、血管平滑筋増殖抑制薬、抗炎症薬、生体由来材料、インターフェロン、およびNO産生促進物質等の薬剤(生理活性物質)などが挙げられる。ここで、他の成分の添加量は、特に制限されず、通常使用される量が同様にして適用される。最終的には、他の成分の添加量は、適用される疾患の重篤度、患者の体重等を考慮して適切に選択される。
(ブロック共重合体溶液(コート液)の調製)
上記ブロック共重合体、常温で液体であるイオン液体および溶媒を用いて、ブロック共重合体溶液(コート液)を調製する。上記各成分の添加順、添加方法は特に制限されない。上記各成分を、一括してまたは別々に、段階的にまたは連続的に加えてもよい。また、混合方法も特に制限されず、公知の方法を用いることができる。好ましいブロック共重合体溶液(コート液)の調製方法としては、溶媒中にブロック共重合体およびイオン液体を順次添加し、溶媒中で撹拌することを含む。
ブロック共重合体溶液(コート液)中のブロック共重合体の濃度は、特に限定されない。塗布性、潤滑層の潤滑性および耐久性をより向上させるという観点からは、当該溶液(コート液)中のブロック共重合体の濃度は、0.01〜20質量%であると好ましく、0.05〜15質量%であるとより好ましく、1〜15質量%であるとさらに好ましい。すなわち、本発明の好ましい形態によると、コート液が、前記ブロック共重合体を1〜15質量%含む。ブロック共重合体の濃度が上記範囲であれば、得られる潤滑層の潤滑性、耐久性が十分発揮されうる。また、1回のコーティングで所望の厚みの均一な潤滑層を容易に得ることができ、また、溶液の粘度が適切な範囲内となり、操作性(例えば、コーティングのしやすさ)、生産効率の点で好ましい。但し、上記範囲を外れても、本発明の作用効果に影響を及ぼさない範囲であれば、十分に利用可能である。
≪ブロック共重合体溶液(コート液)の塗布≫
次に、上記の通りブロック共重合体、常温で液体であるイオン液体および溶媒を含む溶液(コート液)を調製した後、当該溶液を基材層上に塗布する。
基材層は、いずれの材料から構成されてもよいが、例えば、金属材料、高分子材料(樹脂材料またはエラストマー材料)、およびセラミックスなどが挙げられる。
基材層を構成する材料のうち、金属材料としては、特に制限されるものではなく、カテーテル、ガイドワイヤ、留置針等の医療用具に一般的に使用される金属材料が使用される。具体的には、SUS304、SUS314、SUS316、SUS316L、SUS420J2、SUS630などの各種ステンレス鋼、金、白金、銀、銅、ニッケル、コバルト、チタン、鉄、アルミニウム、スズあるいはニッケル−チタン合金、ニッケル−コバルト合金、コバルト−クロム合金、亜鉛−タングステン合金等の各種合金などが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記金属材料には、使用用途であるカテーテル、ガイドワイヤ、留置針等の基材層として最適な金属材料を適宜選択すればよい。
また、上記基材層を構成する材料のうち、高分子材料(樹脂材料またはエラストマー材料)としては、特に制限されるものではなく、カテーテル、イントロデューサー、ガイドワイヤ、留置針等の医療用具に一般的に使用される高分子材料が使用される。具体的には、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン樹脂、変性ポリオレフィン樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂(アリル樹脂)、ポリカーボネート樹脂、フッ素樹脂、アミノ樹脂(ユリア樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂)、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂などのポリエステル樹脂、スチロール樹脂、アクリル樹脂、ポリアセタール樹脂、酢酸ビニル樹脂、フェノール樹脂、塩化ビニル樹脂、シリコーン樹脂(ケイ素樹脂)、ポリエーテル樹脂、ポリイミド樹脂などの樹脂が挙げられる。
また、ポリウレタンエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマーなどの熱可塑性エラストマーも、基材層の材料として用いることができる。
これら高分子材料は、1種単独で使用してもよいし、2種以上の混合物または上記いずれかの樹脂またはエラストマーを構成する2種以上の単量体の共重合体として用いてもよい。なかでも、高分子材料としては、ポリエチレン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドエラストマーが好ましい。これらの高分子材料は、比較的柔らかく、潤滑層を構成するブロック共重合体がしみ込みやすいといえる。よって、高分子材料とブロック共重合体との相互作用が高まり、より耐久性に優れた潤滑層を形成することができる。上記高分子材料には、使用用途であるカテーテル、ガイドワイヤ、留置針等の基材層として最適な高分子材料を適宜選択すればよい。
本発明に係る医療用具の製造方法は、後述するように、ブロック共重合体溶液(コート液)を塗布した後、比較的低い温度で維持した場合であっても、ユニットの凝集およびブロック共重合体の高分子化が進行し、摺動耐久性に優れる潤滑層を形成できる。換言すると、潤滑層を基材層上に固定する温度を低くすることができるという効果もまた奏される。したがって、本発明に係る医療用具の製造方法においては、基材層の構成材料として、高分子材料(樹脂材料またはエラストマー材料)が好適に用いられる。本発明によれば、低温で潤滑層を固定できることから、熱により変形または可塑化しやすい高分子材料を基材層に含んでいても、基材層の変形や可塑化が抑制され、寸法安定性が向上する。
また、上記基材層の形状は、特に制限されることはなく、シート状、線状(ワイヤ)、管状など使用態様により適宜選択される。
基材層表面にブロック共重合体溶液(コート液)を塗布(コーティング)する方法は、特に制限されず、塗布・印刷法、浸漬法(ディッピング法、ディップコート法)、噴霧法(スプレー法)、スピンコート法、混合溶液含浸スポンジコート法、バーコート法、ダイコート法、リバースコート法、コンマコート法、グラビアコート法、ドクターナイフ法など、従来公知の方法を適用することができる。
なお、カテーテル、注射針等の細く狭い内面に潤滑層を形成させる場合、コート液中に基材層を浸漬して、系内を減圧にして脱泡させてもよい。減圧にして脱泡させることにより、細く狭い内面に素早く溶液を浸透させ、潤滑層の形成を促進できる。
また、基材層の一部にのみ潤滑層を形成させる場合には、基材層の一部のみをコート液中に浸漬して、コート液を基材層の一部にコーティングすることで、基材層の所望の表面部位に、潤滑層を形成することができる。
基材層の一部のみをコート液中に浸漬するのが困難な場合には、予め潤滑層を形成する必要のない基材層の表面部分を着脱(装脱着)可能な適当な部材や材料で保護(被覆等)した上で、基材層をコート液中に浸漬して、コート液を基材層にコーティングした後、潤滑層を形成する必要のない基材層の表面部分の保護部材(材料)を取り外し、その後、加熱処理等により反応させることで、基材層の所望の表面部位に潤滑層を形成することができる。ただし、本発明では、これらの形成法に何ら制限されるものではなく、従来公知の方法を適宜利用して、潤滑層を形成することができる。例えば、基材層の一部のみをコート液中に浸漬するのが困難な場合には、浸漬法に代えて、他のコーティング手法(例えば、医療用具の所定の表面部分に、コート液を、スプレー装置、バーコーター、ダイコーター、リバースコーター、コンマコーター、グラビアコーター、スプレーコーター、ドクターナイフなどの塗布装置を用いて、塗布する方法など)を適用してもよい。なお、医療用具の構造上、円筒状の用具の外表面と内表面との双方が、潤滑層を有する必要があるような場合には、一度に外表面と内表面との双方をコーティングすることができる点で、浸漬法(ディッピング法)が好ましく使用される。
ブロック共重合体溶液(コート液)の塗布量は、得られる被膜(潤滑層)の厚みが0.1〜10μmとなるような量であることが好ましく、0.5〜5μmとなるような量であることがより好ましく、1〜3μmとなるような量であることがさらに好ましい。被膜(潤滑層)の厚みが0.1μm以上となるような塗布量であれば、得られる被膜(潤滑層)の耐久性が十分達成できる。また、被膜(潤滑層)の厚みが10μm以下となるような塗布量であれば、被膜(潤滑層)の表面がべたつきにくくなり、製造時の取扱いがより容易になる。
(II)熱処理工程
本発明に係る医療用具の製造方法では、基材層上にブロック共重合体溶液(コート液)を塗布して塗布層を形成した後、熱処理工程を行ってもよい。熱処理工程により、ユニットの凝集およびブロック共重合体の高分子化をさらに促進できる。すなわち、本発明に係る医療用具の製造方法では、熱処理工程を行うことが好ましい。
また、ブロック共重合体の疎水性ユニットを構成する疎水性単量体としてエポキシ基を有する単量体を用いた場合、本工程において、エポキシ基の架橋反応も進行すると考えられる。よって、より強固な被膜(潤滑層)が形成され、摺動耐久性がより向上する。
以下、(II)ブロック共重合体溶液(コート液)の熱処理工程について、好ましい態様を詳説する。
上記(I)溶液塗布工程において、基材層上に、ブロック共重合体および常温で液体であるイオン液体を含む溶液(コート液)を塗布した後、本工程の熱処理を行うと好ましい。
熱処理時の条件は、ユニットの凝集およびブロック共重合体の高分子化をさらに促進できる条件であれば、特に制限されない。
熱処理の温度は、特に制限されないが、好ましくは10〜200℃である。すなわち、ブロック共重合体溶液を基材層上に塗布した後(塗布層を形成した後)、塗布層を10〜200℃で維持すると好ましい。かような温度で維持することにより、ユニットの凝集およびブロック共重合体の高分子化が効果的に促進され、強固な被覆層(潤滑層)が形成される。したがって、高い潤滑性(表面潤滑性)をより長期間にわたり維持できる。また、かような温度で維持することにより、上記ユニットの凝集およびブロック共重合体の高分子化が過剰に進行してしまうのを抑制することができる。よって、潤滑層が硬くなりすぎることに起因する膨潤性の低下を抑制でき、結果として、良好な潤滑性(表面潤滑性)を維持できる。
ブロック共重合体溶液を基材層上に塗布した後(塗布層を形成した後)、塗布層を150℃以下で維持するとより好ましく、25〜150℃で維持するとさらに好ましく、40〜100℃で維持すると特に好ましく、50℃以上100℃未満で維持すると最も好ましい。かような温度で維持することにより、優れた潤滑性を発揮することができ、かつ、高い耐久性を有する潤滑層を形成することができる。特に、100℃以下(さらには100℃未満)とすることにより、熱処理を長時間行っても、基材層に過剰な熱負荷を与えることなく、ユニットの凝集およびブロック共重合体を高分子化することができ、耐熱性の比較的低い基材であっても潤滑性の付与や制御をより容易に行うことが可能となる。なお、上記温度は、熱処理工程の途中で変更してもよい。
本発明に係る製造方法では、上記のように、ブロック共重合体溶液(コート液)を塗布した後、例えば80℃以下、さらには25〜80℃といった、比較的低い温度で維持した場合であっても、高い耐久性を有する潤滑層を形成できることもまた特徴の一つである。これにより、熱により変形または可塑化しやすい高分子材料であっても、基材層として使用できるという利点がある。したがって、本発明によれば、材料の選択性がより高くなり、多様な用途の医療用具を製造することができる。また、低温で耐久性に優れた潤滑層の形成が可能であるため、医療用具の製造時、エネルギーコスト的な観点からも好ましい。
また、熱処理の時間も特に制限されないが、好ましくは30分〜30時間、より好ましくは1〜25時間、さらに好ましくは2〜24時間、特に好ましくは3〜15時間である。かような時間とすることにより、ユニットの凝集およびブロック共重合体の高分子化が効果的に促進され、強固な被覆層(潤滑層)が形成される。よって、高い潤滑性(表面潤滑性)をより長期間にわたり維持できる。また、かような時間とすることにより、上記ユニットの凝集およびブロック共重合体の高分子化が過剰に進行してしまうのを抑制することができる。よって、潤滑層が硬くなりすぎることに起因する膨潤性の低下を抑制でき、結果として、良好な潤滑性(表面潤滑性)を維持できる。
なお、熱処理時の圧力条件は何ら制限されるものではなく、常圧(大気圧)下で行うことができるほか、加圧下または減圧下で行ってもよい。
加熱手段(装置)としては、必要であれば、例えば、オーブン、減圧乾燥機などを利用することができる。
(III)洗浄工程
本発明に係る医療用具の製造方法では、上記(I)溶液塗布工程または任意で行われる(II)熱処理工程の後、基材層上に設けられた被膜(潤滑層)を洗浄する((III)洗浄工程)。洗浄工程は、被膜(潤滑層)に含まれるイオン液体を効率よく除去し、被膜(潤滑層)に対してより優れた潤滑性(低摩擦性)を付与する目的で行われる。すなわち、本発明の好ましい形態では、上記コート液を前記基材層に塗布して塗膜を形成した後、前記塗膜を洗浄する。
以下、(III)洗浄工程について、好ましい態様を詳説する。
洗浄方法は特に限定されないが、ブロック共重合体による被膜(潤滑層)を洗浄溶媒に浸漬する方法、洗浄溶媒をかけ流す方法、またはこれらを組み合わせてもよい。このとき使用される洗浄溶媒は、ブロック共重合体による被膜(潤滑層)を溶解させず、かつ、イオン液体を効率よく除去することができるものであれば特に限定されないが、水(例えば、イオン交換水、蒸留水、逆浸透膜水、濾過水、滅菌水、精製水)または温水が好ましく用いられる。洗浄水の温度は特に制限されないが、好ましくは20℃〜100℃であり、より好ましくは25〜80℃である。また、洗浄時間(洗浄溶媒を被膜に接触させる時間)は特に制限されないが、好ましくは30秒〜60分、より好ましくは1〜30分である。上記条件によれば、イオン液体を効率よく除去することができる。その結果、基材層上に形成される潤滑層は、優れた潤滑性を呈することができる。
上記洗浄工程の後、さらに、乾燥工程を行ってもよい。乾燥方法および乾燥条件(温度、時間等)は特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。
本発明に係る方法により製造される医療用具は、潤滑層を形成するブロック共重合体および常温で液体であるイオン液体を含む溶液(コート液)を基材層上に塗布することにより、潤滑層が基材層上に担持された構成を有する。潤滑層中に常温で液体であるイオン液体が含まれているか否かは、以下の方法により確認することができる。すなわち、潤滑層を重クロロホルム等の有機溶媒を用いて抽出を行い、得られた抽出溶液をNMR(H−NMR測定、13C−NMR測定等)により分析し、常温で液体であるイオン液体由来のピークを検出することにより確認することができる。
<医療用具>
上記において説明した(I)溶液塗布工程(塗布層形成工程)、および必要に応じて行われる(II)熱処理工程、(III)洗浄工程を経ることで、優れた摺動耐久性を発揮する被覆層(潤滑層)を有する医療用具を製造することができる。
すなわち、本発明に係る方法によれば、基材層表面にブロック共重合体および常温で液体であるイオン液体を含む塗布層を形成した後、上記ユニットの凝集およびブロック共重合体の高分子化を行うことにより、基材層から容易に剥離することのない、強固な潤滑層を形成することができる。また、本発明に係る方法により製造される医療用具は、ブロック共重合体による潤滑層が表面に形成されるため、優れた潤滑性、潤滑維持性を発揮できる。
したがって、本発明は、基材層と、前記基材層の少なくとも一部に担持された潤滑層と、を備える医療用具であって、前記潤滑層が、疎水性単量体由来の構成単位(A)および親水性単量体由来の構成単位(B)を有するブロック共重合体と、常温で液体であるイオン液体と、を含む、医療用具を提供する。
以下、添付した図面を参照して本発明に係る方法により製造される医療用具の好ましい実施形態を説明する。
図1は、本発明に係る方法により製造される医療用具(本明細書中、「医療用具」とも略記する)の代表的な実施形態の表面の積層構造を模式的に表した部分断面図である。図2は、本実施形態の応用例として、表面の積層構造の異なる構成例を模式的に表した部分断面図である。なお、図1および図2中の各符号は、それぞれ、下記を表わす。符号1は、基材層を;符号1aは、基材層コア部を;符号1bは、基材表面層を;符号2は、潤滑層を;および符号10は、本発明に係る方法により製造される医療用具を、それぞれ表わす。
図1、図2に示されるように、本実施形態の医療用具10では、基材層1と、基材層1の少なくとも一部に設けられた(図中では、図面内の基材層1表面の全体(全面)に設けられた例を示す)ブロック共重合体を含む潤滑層2と、を備える。なお、図1、図2では、潤滑層2は基材層1の両面に形成されているが、本発明は上記形態に限定されず、基材層1の片面に形成されている形態;基材層1の片面または両面の一部に形成される形態など、いずれの形態であってもよい。
以下、医療用具を構成部材ごとに詳しく説明する。
≪基材層(基材)≫
本実施形態で用いられる基材層としては、いずれの材料から構成されてもよく、その材料は特に制限されない。具体的には、基材層1を構成する材料は、金属材料、高分子材料、およびセラミックスなどが挙げられる。なお、上記基材層1を構成する材料の具体例は、上記≪ブロック共重合体溶液(コート液)の塗布≫に記載の通りである。
ここで、基材層1は、基材層1全体が上記いずれかの材料で構成されてもよい。基材層1は、異なる材料を多層に積層してなる多層構造体、あるいは医療用具の部分ごとに異なる材料で形成された部材を繋ぎ合わせた構造などであってもよい。または、図2に示されるように、上記いずれかの材料で構成された基材層コア部1aの表面に他の上記いずれかの材料を適当な方法で被覆して、基材表面層1bを構成した構造を有していてもよい。後者の場合の例としては、樹脂材料等で形成された基材層コア部1aの表面に金属材料が適当な方法(メッキ、金属蒸着、スパッタ等従来公知の方法)で被覆されて、基材表面層1bを形成してなるもの;金属材料やセラミックス材料等の硬い補強材料で形成された基材層コア部1aの表面に、金属材料等の補強材料に比して柔軟な高分子材料が適当な方法(浸漬(ディッピング)、噴霧(スプレー)、塗布・印刷等の従来公知の方法)で被覆されて、あるいは基材層コア部1aを形成する補強材料と高分子材料とが複合化されて、基材表面層1bを形成してなるものなどが挙げられる。また、基材層コア部1aが、異なる材料を多層に積層してなる多層構造体、あるいは医療用具の部分ごとに異なる材料で形成された部材を繋ぎ合わせた構造などであってもよい。また、基材層コア部1aと基材表面層1bとの間に、さらに別のミドル層(図示せず)が形成されていてもよい。さらに、基材表面層1bに関しても異なる材料を多層に積層してなる多層構造体、あるいは医療用具の部分ごとに異なる材料で形成された部材を繋ぎ合わせた構造などであってもよい。
≪潤滑層(表面潤滑層、被覆層)≫
潤滑層は、上記基材層1の少なくとも一部に担持される。ここで、潤滑層2が、基材層1表面の少なくとも一部に担持されているとしたのは、使用用途であるカテーテル、ガイドワイヤ、留置針等の医療用具において、必ずしもこれらの医療用具の全ての表面(表面全体)が湿潤時に潤滑性を有する必要はなく、湿潤時に表面が潤滑性を有することが求められる表面部分(一部の場合もあれば全部の場合もある)のみに潤滑層が担持されていればよいためである。このため、上述したように、潤滑層は、図1、図2に示されるような基材層の両面全体を被覆するように形成される形態;基材層の片面全体のみを被覆するように形成される形態;基材層の両面の一部を同じまたは異なる形態で被覆するように形成される形態;基材層の片面の一部を被覆するように形成される形態などを包含する。
<医療用具の用途>
本発明の方法により製造される医療用具および本発明に係る医療用具は、体液や血液などと接触して用いるデバイスのことであり、体液や生理食塩水などの水系液体中において表面が潤滑性を有し、操作性の向上や組織粘膜の損傷の低減が可能なものである。具体的には、血管内で使用されるカテーテル、ガイドワイヤ、留置針等が挙げられるが、その他にも以下の医療用具が示される。
(a)胃管カテーテル、栄養カテーテル、経管栄養用チューブなどの経口もしくは経鼻的に消化器官内に挿入ないし留置されるカテーテル類。
(b)酸素カテーテル、酸素カヌラ、気管内チューブのチューブやカフ、気管切開チューブのチューブやカフ、気管内吸引カテーテルなどの経口または経鼻的に気道ないし気管内に挿入ないし留置されるカテーテル類。
(c)尿道カテーテル、導尿カテーテル、尿道バルーンカテーテルのカテーテルやバルーンなどの尿道ないし尿管内に挿入ないし留置されるカテーテル類。
(d)吸引カテーテル、排液カテーテル、直腸カテーテルなどの各種体腔、臓器、組織内に挿入ないし留置されるカテーテル類。
(e)留置針、IVHカテーテル、サーモダイリューションカテーテル、血管造影用カテーテル、血管拡張用カテーテルおよびダイレーターあるいはイントロデューサーなどの血管内に挿入ないし留置されるカテーテル類、あるいは、これらのカテーテル用のガイドワイヤ、スタイレットなど。
(f)人工気管、人工気管支など。
(g)体外循環治療用の医療用具(人工肺、人工心臓、人工腎臓など)やその回路類。
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)で行われた。また、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。
[合成例1:ブロック共重合体(1)の合成]
アジピン酸2塩化物72.3g中に50℃でトリエチレングリコール29.7gを滴下した後、50℃で3時間、塩酸を減圧除去して、オリゴエステルを得た。次に、得られたオリゴエステル22.5gにメチルエチルケトン4.5gを加え、これを、水酸化ナトリウム5g、31質量%過酸化水素6.93g、界面活性剤としてのジオクチルホスフェート0.44g及び水120gよりなる溶液中に滴下し、−5℃で20分間反応させた。得られた生成物は、水洗、メタノール洗浄を繰り返した後、乾燥させて、分子内に複数のパーオキサイド基を有するポリ過酸化物を(PPO)を得た。
次に、このPPOを0.5g、グリシジルメタクリレート(GMA)を9.5g、さらにベンゼン(溶媒)を30g混合して、65℃で2時間、減圧下で撹拌しながら重合した。重合後に得られた反応物をジエチルエーテルで再沈殿して、分子内にパーオキサイド基を有するポリグリシジルメタクリレート(PPO−GMA)を得た。
続いて、得られたPPO−GMA0.48g(GMA 3.38mmol相当)を、N,N−ジメチルアクリルアミド(DMAA)3.34g(37.1mmol)、溶媒としてのジメチルスルホキシド90gに仕込み、80℃で5時間、窒素雰囲気下で反応させた。反応後に得られた反応物をヘキサンで再沈殿して回収し、分子内にエポキシ基を有する湿潤時に潤滑性を発現するブロック共重合体(1)(構成単位(A):構成単位(B)=GMA:DMAA=1:11(モル比))を得た。このようにして得られたブロック共重合体(1)について、NMRおよびATR−IRにより分析したところ、分子内にエポキシ基が存在することを確認した。また、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC、ポリスチレン換算)によって測定されたブロック共重合体(1)の重量平均分子量(Mw)は、約860,000であった。
なお、グリシジルメタクリレート(GMA)を用いて重合度が10のホモポリマーを作製したところ、当該ホモポリマーの水100gに対する溶解量は0.1g以下であった。
[実施例1]
上記合成例1で得られたブロック共重合体(1)を5質量%の濃度になるようN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解して、ブロック共重合体溶液(1)を調製した。このブロック共重合体溶液(1)に、下記構造を有するカチオン部及びアニオン部からなるイオン液体(イオン液体(1))を、ブロック共重合体(1)に対して25質量%の割合で添加して溶解し、混合溶液(コート液)(1)を調製した。
得られた混合溶液(1)に、ポリアミドエラストマー(グリルフレックス(登録商標)ELG5660、エムスケミー・ジャパン株式会社製)のシート(大きさ:15mm×50mm、膜厚:1mm)を10mm/secの速度でディップコートし、塗膜を形成した。さらに、シートを50℃のオーブン中で12時間保管して塗膜を加熱処理した。加熱処理後、シートを逆浸透膜水(RO水)に1分間浸漬することにより、塗膜の洗浄を行った。その後シートを自然乾燥し、表面にブロック共重合体(1)およびイオン液体(1)を含む被覆層(潤滑層)を有する被覆シート(1)(潤滑層の厚さ(乾燥後の膜厚)=1.5μm)を作製した。
この被覆シート(1)が有する被覆層(潤滑層)を重クロロホルムで抽出し、得られた抽出溶液をH−NMRにより分析した(分析結果1)。別途、上記イオン液体(1)について同様にしてH−NMRにより分析した(分析結果1’)。この結果、分析結果1’でのピークが分析結果1でも認められたことから、被覆層(潤滑層)がイオン液体を含むことを確認した。
[実施例2]
実施例1において、イオン液体を、ブロック共重合体(1)に対して50質量%の割合で添加して溶解した以外は、実施例1と同様にして、混合溶液(コート液)(2)を調製した。
実施例1において、混合溶液(1)の代わりに、上記で調製した混合溶液(2)を使用する以外は、実施例1と同様にして、被覆シート(2)(潤滑層の厚さ(乾燥後の膜厚)=1.5μm)を作製した。
この被覆シート(2)が有する被覆層(潤滑層)を重クロロホルムで抽出し、得られた抽出溶液をH−NMRにより分析した(分析結果2)。この結果、分析結果1’でのピークが分析結果2でも認められたことから、被覆層(潤滑層)がイオン液体を含むことを確認した。
[実施例3]
実施例1において、イオン液体を、ブロック共重合体(1)に対して100質量%の割合で添加して溶解した以外は、実施例1と同様にして、混合溶液(コート液)(3)を調製した。
実施例1において、混合溶液(1)の代わりに、上記で調製した混合溶液(3)を使用する以外は、実施例1と同様にして、被覆シート(3)(潤滑層の厚さ(乾燥後の膜厚)=1.5μm)を作製した。
この被覆シート(3)が有する被覆層(潤滑層)を重クロロホルムで抽出し、得られた抽出溶液をH−NMRにより分析した(分析結果3)。この結果、分析結果1’でのピークが分析結果3でも認められたことから、被覆層(潤滑層)がイオン液体を含むことを確認した。
[実施例4]
実施例1において、イオン液体を、ブロック共重合体(1)に対して200質量%の割合で添加して溶解した以外は、実施例1と同様にして、混合溶液(コート液)(4)を調製した。
実施例1において、混合溶液(1)の代わりに、上記で調製した混合溶液(4)を使用する以外は、実施例1と同様にして、被覆シート(4)(潤滑層の厚さ(乾燥後の膜厚)=1.5μm)を作製した。
この被覆シート(4)が有する被覆層(潤滑層)を重クロロホルムで抽出し、得られた抽出溶液をH−NMRにより分析した(分析結果4)。この結果、分析結果1’でのピークが分析結果4でも認められたことから、被覆層(潤滑層)がイオン液体を含むことを確認した。
[比較例1]
実施例1において、イオン液体を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、混合溶液(コート液)(5)を調製した。
実施例1において、混合溶液(1)の代わりに、上記で調製した混合溶液(5)を使用する以外は、実施例1と同様にして、比較被覆シート(1)(潤滑層の厚さ(乾燥後の膜厚)=1.5μm)を作製した。
この比較被覆シート(1)が有する被覆層(潤滑層)を重クロロホルムで抽出し、得られた抽出溶液をH−NMRにより分析した(分析結果5)。この結果、分析結果1’でのピークが分析結果5では認められなかった。
[比較例2]
実施例1において、イオン液体を、ブロック共重合体(1)に対して5質量%の割合で添加して溶解した以外は、実施例1と同様にして、混合溶液(コート液)(6)を調製した。
実施例1において、混合溶液(1)の代わりに、上記で調製した混合溶液(6)を使用する以外は、実施例1と同様にして、比較被覆シート(2)(潤滑層の厚さ(乾燥後の膜厚)=1.5μm)を作製した。
この比較被覆シート(2)が有する被覆層(潤滑層)を重クロロホルムで抽出し、得られた抽出溶液をH−NMRにより分析した(分析結果6)。この結果、分析結果1’でのピークが分析結果6でも認められたことから、被覆層(潤滑層)がイオン液体を含むことを確認した。
[比較例3]
実施例1において、イオン液体を、ブロック共重合体(1)に対して300質量%の割合で添加して溶解した以外は、実施例1と同様にして、混合溶液(コート液)(7)を調製した。
実施例1において、混合溶液(1)の代わりに、上記で調製した混合溶液(7)を使用する以外は、実施例1と同様にして、比較被覆シート(3)(潤滑層の厚さ(乾燥後の膜厚)=1.5μm)を作製した。
この比較被覆シート(3)が有する被覆層(潤滑層)を重クロロホルムで抽出し、得られた抽出溶液をH−NMRにより分析した(分析結果7)。この結果、分析結果1’でのピークが分析結果7でも認められたことから、被覆層(潤滑層)がイオン液体を含むことを確認した。
[摺動性、摺動耐久性評価]
上記実施例1〜4および比較例1〜3で得られた被覆シート(1)〜(4)および比較被覆シート(1)〜(3)(以下、単に「サンプル」とも称する)について、下記方法にしたがって、摺動性(潤滑層の摺動性)、および摺動耐久性(潤滑層の耐久性)を評価した。
(評価方法)
サンプル16をシャーレ12中に固定し、サンプル16全体が浸る高さまでシャーレ12内に水17を入れサンプルを浸漬させた。このシャーレ12を静動摩擦測定機(ハンディートライボマスターTL201、株式会社トリニティーラボ製)20の移動テーブル15に載置した。
円柱状ゴム製端子(φ10mm)13をサンプル16に接触させ、端子13上に200gの荷重14をかけた。速度100mm/分、移動距離2cmの設定で、移動テーブル15を水平に100回摺動(往復移動)させ、その際の端子にかかる水平応力を摺動抵抗値(単位:gf)として測定した。1往復目から100往復目までの摺動抵抗値を往復回数毎に摺動抵抗値(gf)としてグラフにプロットすることにより、100回の繰り返し摺動に対する潤滑耐久性を評価した。なお、各試験において、1個のサンプルについて試験を行った。また、摺動抵抗値(gf)は低いほど表面潤滑性に優れることを意味する。
実施例1〜実施例4および比較例1〜3で得られた被覆シートおよび比較被覆シートの結果を、それぞれ、下記表1および図4〜10に示す。
上記表1及び図4〜7から明らかなように、実施例1〜4の被覆シート(1)〜(4)は100回の繰り返し摺動に対しても摺動抵抗値がほぼ一定値を示し、安定した摺動耐久性を示すことがわかる。これに対して、上記表1及び図8〜10から明らかなように、比較例1〜3の比較被覆シート(1)〜(3)は摺動を繰り返すうちに徐々に摺動抵抗値が増加し、潤滑層の潤滑性が低下し、摺動耐久性に劣ることが示される。
以上の結果から、本発明に係るイオン液体を含む混合溶液を用いることにより、摺動性および摺動耐久性に優れる潤滑層を有する医療用具が得られることが期待できる。特に、イオン液体がブロック共重合体100質量部に対して25〜100質量部と少量であっても、複雑高度化した医療手技に十分対応できる摺動耐久性が達成されることが考察される。
1 基材層、
1a 基材層コア部、
1b 基材表面層、
2 潤滑層、
10 医療用具、
12 シャーレ、
13 円柱状ゴム製端子、
14 荷重、
15 移動テーブル、
16 被覆シート(サンプル)、
17 水、
20 摩擦測定機。

Claims (11)

  1. 基材層と、前記基材層の少なくとも一部に担持された潤滑層と、を備える医療用具の製造方法であって、
    疎水性単量体由来の構成単位(A)および親水性単量体由来の構成単位(B)を有するブロック共重合体と、常温で液体であるイオン液体と、溶媒と、を含むコート液を、前記基材層上に塗布することを含み、
    前記コート液は、前記イオン液体を、前記ブロック共重合体100質量部に対して、5質量部を超えて300質量部未満の量で含む、医療用具の製造方法。
  2. 前記コート液は、前記イオン液体を、前記ブロック共重合体100質量部に対して、15〜200質量部の量で含む、請求項1に記載の方法。
  3. 前記コート液が、前記ブロック共重合体を1〜15質量%含む、請求項1または2に記載の方法。
  4. 前記イオン液体は、下記式(1)を有するカチオン部および下記式(2)を有するアニオン部から構成される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法:
    上記式(1)中、R〜Rは、それぞれ独立して、炭素原子数1〜3のアルキル基を表わし;Xは、水酸基を有してもよい炭素原子数2〜5のアルキレン基を表わし;Xは、水酸基を有してもよい炭素原子数1〜8のアルキル基を表わし;およびmは、0または1である、
    上記式(2)中、Yは、炭素原子数1〜5のアルキレン基を表わし;Yは、窒素原子または炭素原子を表わし;Yは、それぞれ独立して、水酸基を有してもよい炭素原子数1〜8のアルキル基を表わし;Zは、アニオンを表わし;Yが窒素原子である場合には、nは2であり、Yが炭素原子である場合には、nは3である。
  5. 前記イオン液体は、下記式(1’)を有するカチオン部および下記式(2’)を有するアニオン部から構成される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
    上記式(1’)中、R〜Rは、それぞれ独立して、炭素原子数1または2のアルキル基を表わし;Xは、1〜2個の水酸基を有する炭素原子数2〜4のアルキレン基を表わし;Xは、水酸基を有してもよい炭素原子数2〜6のアルキル基を表わす、
    上記式(2’)中、Yは、炭素原子数1〜3のアルキレン基を表わし;Yは、1〜2個の水酸基を有する炭素原子数1〜5のアルキル基を表わし;Y3’は、0〜2個の水酸基を有する炭素原子数1〜5のアルキル基を表わし;Zは、亜硫酸イオン(−S(=O))、硫酸イオン(−O−S(=O))およびカルボン酸イオン(−C(=O)O)からなる群より選択され、
    前記カチオン部に存在する水酸基の数(p個)およびアニオン部に存在する水酸基の数(q個)の合計数(p+q)が、2〜5個である。
  6. 前記コート液を前記基材層に塗布して塗膜を形成した後、前記塗膜を洗浄することをさらに有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の医療用具の製造方法。
  7. 前記疎水性単量体は、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルアクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレート、β−メチルグリシジルメタクリレート、およびアリルグリシジルエーテルからなる群から選択される少なくとも一種を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
  8. 前記親水性単量体は、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、アクリルアミド、N−ビニル−2−ピロリドン、2−ヒドロキシエチルアクリレートおよび2−ヒドロキシエチルメタクリレートからなる群から選択される少なくとも一種を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の医療用具の製造方法。
  9. 基材層と、前記基材層の少なくとも一部に担持された潤滑層と、を備える医療用具であって、前記潤滑層が、疎水性単量体由来の構成単位(A)および親水性単量体由来の構成単位(B)を有するブロック共重合体と、常温で液体であるイオン液体と、を含む、医療用具。
  10. 前記イオン液体は、下記式(1)を有するカチオン部および下記式(2)を有するアニオン部から構成される、請求項9に記載の医療用具:
    上記式(1)中、R〜Rは、それぞれ独立して、炭素原子数1〜3のアルキル基を表わし;Xは、水酸基を有してもよい炭素原子数2〜5のアルキレン基を表わし;Xは、水酸基を有してもよい炭素原子数1〜8のアルキル基を表わし;およびmは、0または1である、
    上記式(2)中、Yは、炭素原子数1〜5のアルキレン基を表わし;Yは、窒素原子または炭素原子を表わし;Yは、それぞれ独立して、水酸基を有してもよい炭素原子数1〜8のアルキル基を表わし;Zは、アニオンを表わし;Yが窒素原子である場合には、nは2であり、Yが炭素原子である場合には、nは3である。
  11. 前記イオン液体は、下記式(1’)を有するカチオン部および下記式(2’)を有するアニオン部から構成されるイオン液体と、を含む、請求項9または10に記載の医療用具:
    上記式(1’)中、R〜Rは、それぞれ独立して、炭素原子数1または2のアルキル基を表わし;Xは、1〜2個の水酸基を有する炭素原子数2〜4のアルキレン基を表わし;Xは、水酸基を有してもよい炭素原子数2〜6のアルキル基を表わす、
    上記式(2’)中、Yは、炭素原子数1〜3のアルキレン基を表わし;Yは、1〜2個の水酸基を有する炭素原子数1〜5のアルキル基を表わし;Y3’は、0〜2個の水酸基を有する炭素原子数1〜5のアルキル基を表わし;Zは、亜硫酸イオン(−S(=O))、硫酸イオン(−O−S(=O))およびカルボン酸イオン(−C(=O)O)からなる群より選択され、
    前記カチオン部に存在する水酸基の数(p個)およびアニオン部に存在する水酸基の数(q個)の合計数(p+q)が、2〜5個である。
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