JP2020005581A - γH2AXを定量する方法、ヒストン含有試料を調製する方法、およびその利用 - Google Patents

γH2AXを定量する方法、ヒストン含有試料を調製する方法、およびその利用 Download PDF

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Abstract

【課題】夾雑物を含む試料であってもγH2AXを定量的に測定できる方法;上記方法を利用した、DNA損傷を判定する方法、化合物のスクリーニング方法、化合物の遺伝毒性試験方法、化合物の薬効を予測する方法;およびヒストン含有試料を調製する方法、を提供すること。【解決手段】試料中のγH2AXを定量する方法であって、試料を低張液で処理するa1工程と、a1工程で得られる破砕処理した試料を高張液で洗浄処理するa2工程と、a2工程で得られる洗浄処理した試料を硫酸で処理してヒストンを含む試料を調製するa3工程とを含む、ヒストン含有試料を調製するa工程と;a工程で得られるヒストン含有試料中のγH2AXを質量分析法により検出するb工程と;b工程で検出されるγH2AXを絶対定量するc工程とを含む方法。【選択図】なし

Description

本発明は、試料中のγH2AXを定量する方法、試料中のDNA損傷を判定する方法、化合物のスクリーニング方法、化合物の遺伝毒性試験方法、化合物の薬効を予測する方法、およびヒストン含有試料を調製する方法に関する。
ヒストンH2AXは、DNA二本鎖切断(double stand break:DSB)や複製フォーク崩壊(replication fork collapse)に応答して139番目のセリン(Ser−139)がリン酸化されることが知られている(非特許文献1および2)。Ser−139リン酸化ヒストンH2AX(γH2AX)は一か所のDSBでも形成されること、DSBの数に比例して形成されること、並びに様々なDNA損傷がDSBを介してγH2AXを誘導することから、γH2AXはDNA損傷の高感度かつ定量的なバイオマーカーとして利用されている。
γH2AXの検出には、抗γH2AX抗体を用いた免疫学的手法(ウエスタンブロッティング法、免疫染色法、酵素免疫測定法(Enzyme-Linked Immunosorbent Assay:ELISA)、およびフローサイトメトリー法など)が汎用されている。しかしこれらの方法においては、抗体の入手先やロットにより不可避的に特異性や感度が異なる場合があることから、定量性に問題があり、絶対定量(試料中のγH2AX分子数を求めること)は非常に困難であった。
これらの問題を解消する方法として、液体クロマトグラフィー−質量分析法(LC−MS/MS)を用いたγH2AX定量法が報告された(非特許文献3)。この方法では、γH2AXとH2AXの2種のタンパク質が定量される。この方法では、γH2AXおよびH2AXを含む試料をトリプシン(消化酵素)で断片化し、得られた消化産物の中のγH2AXおよび非リン酸化H2AXに特異的な断片(ペプチド)を測定する。
また、同位体で標識された生体分子を内部標準物質として添加し、タンパク質を質量分析計で測定する方法が報告されている(特許文献1)。
特許第4714584号公報
Rogakou EP, Pilch DR, Orr AH, Ivanova VS, Bonner WM, DNA double-stranded breaks induce histone H2AX phosphorylation on serine 139, Journal of Biological Chemistry, 273(10), p5858-5868, 1998. Ward IM, Chen J, Histone H2AX is phosphorylated in an ATR-dependent manner in response to replicational stress, Journal of Biological Chemistry, 276(51), p47759-47762, 2001. S Matsuda, T Ikura, T Matsuda, Absolute quantification of γH2AX using liquid chromatography-triple quadrupole tandem mass spectrometry, Analytical and Bioanalytical Chemistry, 407, p5521-5527, 2015.
特許文献1においては、測定に用いる試料(サンプル)として溶解液(生体試料から抽出して得た上清)を使用しているため、夾雑物が多く、γH2AXの定量には不適である。非特許文献3の方法によればin vitro(培養細胞)試料中のγH2AXの高精度な定量が可能であるが、試料中の夾雑物が測定に干渉するため、in vivo試料中のγH2AXを定量することができない。上記の通り、in vivo試料などの夾雑物を多く含む試料中のγH2AXを精度よく分析するためにはさらなる改善が望まれていた。
本発明は、夾雑物を含む試料であってもγH2AXを定量的に測定できる方法を提供することを解決すべき課題とする。また、本発明は、上記のγH2AXの定量をもとに、試料中のDNA損傷を判定する方法、化合物のスクリーニング方法、化合物の遺伝毒性試験方法、化合物の薬効を予測する方法を提供することを解決すべき課題とする。さらに、本発明は、試料からヒストンをきれいに精製できる、ヒストン含有試料を調製する方法を提供することを解決すべき課題とする。
上記の課題は以下の手段により解決された。
<1>試料中のγH2AXを定量する方法であって:
試料を低張液で処理するa1工程と、a1工程で得られる破砕処理した試料を高張液で洗浄処理するa2工程と、a2工程で得られる洗浄処理した試料を硫酸で処理してヒストンを含む試料を調製するa3工程とを含む、ヒストン含有試料を調製するa工程と;
a工程で得られるヒストン含有試料中のγH2AXを質量分析法により検出するb工程と;
b工程で検出されるγH2AXを絶対定量するc工程と;
を含む方法。
<2>上記試料が、ヒトまたは動物から採取した体液または組織である、<1>に記載の方法。
<3>体液または組織が、血液、骨髄、肺、肝臓、腎臓、脾臓、胃、小腸および精巣から選ばれる、<2>に記載の方法。
<4>上記低張液が、0.5〜2.0mmol/Lの塩化カリウムまたは0.5〜2.0mmol/Lの塩化ナトリウム、および0.7〜3.0mmol/Lの塩化マグネシウムを含む、<1>から<3>のいずれか一に記載の方法。
<5>上記高張液が、150〜500mmol/Lの塩化カリウムまたは150〜500mmol/Lの塩化ナトリウムを含む、<1>から<4>のいずれか一に記載の方法。
<6>b工程が、a工程で得られるヒストン含有試料に内部標準ペプチドを添加して、トリプシン処理する工程を含む、<1>から<5>のいずれか一に記載の方法。
<7>b工程が、液体クロマトグラフィー−質量分析法により、γH2AXを検出する工程を含む、<1>から<6>のいずれか一に記載の方法。
<8>試料中のDNA損傷を判定する方法であって:
試料を低張液で処理するa1工程と、a1工程で得られる破砕処理した試料を高張液で洗浄処理するa2工程と、a2工程で得られる洗浄処理した試料を硫酸で処理してヒストンを含む試料を調製するa3工程とを含む、ヒストン含有試料を調製するa工程と;
a工程で得られるヒストン含有試料中のγH2AXを質量分析法により検出するb工程と;
b工程で検出されるγH2AXを絶対定量するc工程と;
を含む方法。
<9>上記試料が、ヒトまたは動物から採取した体液または組織である、<8>に記載の方法。
<10>体液または組織が、血液、骨髄、肺、肝臓、腎臓、脾臓、胃、小腸および精巣から選ばれる、<9>に記載の方法。
<11>上記低張液が、0.5〜2.0mmol/Lの塩化カリウムまたは0.5〜2.0mmol/Lの塩化ナトリウム、および0.7〜3.0mmol/Lの塩化マグネシウムを含む、<8>から<10>のいずれか一に記載の方法。
<12>上記高張液が、150〜500mmol/Lの塩化カリウムまたは150〜500mmol/Lの塩化ナトリウムを含む、<8>から<11>のいずれか一に記載の方法。
<13>b工程が、a工程で得られるヒストン含有試料に内部標準ペプチドを添加して、トリプシン処理する工程を含む、<8>から<12>のいずれか一に記載の方法。
<14>b工程が、液体クロマトグラフィー−質量分析法により、γH2AXを検出する工程を含む、<8>から<13>のいずれか一に記載の方法。
<15>上記DNA損傷が、DNAの二本鎖切断による損傷を含む、<8>から<14>のいずれか一に記載の方法。
<16><1>から<15>のいずれか一に記載の方法を含む、化合物のスクリーニング方法。
<17><1>から<15>のいずれか一に記載の方法を含む、化合物の遺伝毒性試験方法。
<18><1>から<15>のいずれか一に記載の方法を含む、化合物の薬効を予測する方法。
<19>試料を低張液で処理するa1工程と、a1工程で得られる破砕処理した試料を高張液で洗浄処理するa2工程と、a2工程で得られる洗浄処理した試料を硫酸で処理してヒストンを含む試料を調製するa3工程とを含む、ヒストン含有試料を調製する方法。
本発明により、夾雑物を含む試料であってもγH2AXを定量的に測定することが可能である。また本発明によれば、上記のγH2AXの定量をもとに、試料中のDNA損傷を判定する方法、化合物のスクリーニング方法、化合物の遺伝毒性試験方法、化合物の薬効を予測する方法が提供される。本発明のヒストン含有試料を調製する方法によれば、試料からヒストンをきれいに精製することができる。
図1は、マウス肝臓から抽出したヒストンの精製度を示す実験結果である。 図2は、各臓器中のγH2AXの存在率の経時変化をLC−MS/MSで測定した結果を示すグラフである。 図3は、マウスXenograftモデルから採取した各臓器中のγH2AXの存在率の経時変化をLC−MS/MSで測定した結果を示すグラフである。
以下、本発明について詳細に説明する。
本明細書において「〜」は、その前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示す。
<用語の説明>
(γH2AX)
H2AXタンパク質はヒストンの一種であり、その139番目のセリンがリン酸化したものをγH2AXと呼ぶ。ヒストンは、DNA分子を折り畳んで核内に収納する役割をもつ。
コアヒストンはH2A,H2B,H3,H4の4種類に分類される。それぞれ2分子ずつ集まり、ヒストン八量体(ヒストンオクタマー)を形成する。ヒストン八量体は、DNAを巻き付け、ヌクレオソームを構成する。ヌクレオソームはクロマチン構造の最小単位である。ヒストンにはバリアントと呼ばれるサブタイプ(亜種)が存在する。例えばヒストンH2AにはH2AXやH2AZなどのバリアントがある。
ヒトの遺伝情報を担うDNAには様々な損傷が発生している。その中でも特にDNAの二本鎖切断(double-strand break:DSB)は、染色体異常、細胞の老化、さらには細胞のがん化に深くかかわる致死的な損傷になりうる。そのため細胞は相同組み換えや非相同DNA末端再結合など複数の損傷修復経路を有しており、日々発生するDNA DSBを修復している。DNA DSB損傷修復過程における重要な因子がヒストンH2AXである。上記のとおり、H2AXはヌクレオソームを構成するコアヒストンの一つであるH2Aのバリアントである。DNA DSBが発生すると傷周辺のH2AXはリン酸化され、γH2AXが生成される。多くのDNA損傷修復タンパク質はγH2AXと相互作用することでDSB部位に局在し、DNA損傷修復を行う。つまり、DSB発生後H2AXが速やかにγH2AXに変化することによって、その位置を損傷修復タンパク質に知らせる役割を果たす。したがって、γH2AXを絶対的に定量することができれば、DNA損傷の程度を検知することができる。
(定量)
本発明において「定量」とは、測定対象物質の量または濃度に関する情報を検知することであり、絶対定量および相対定量を含む概念である。本発明において「絶対定量」とは、測定結果を、測定対象物質の絶対量または濃度として得ることを目的とする定量方法である。これに対し、「相対定量」とは絶対定量以外の定量方法を指し、比較対象との相対比を求める定量方法が含まれる。
「相対定量」とは、例えば、量的には未定な所定のマススペクトルピークの強度を100などと基準化して、これに対する他のマススペクトルピーク強度の相対的な比率(単位のない数値)を順次特定する場合が挙げられる。相対定量では、例えばγH2AXを介したDNA損傷の測定の際にも、得られた数値(比率)に対して一義的に判断することができず、各試料間での比較がそのままではできないか、できたとしても手間のかかるものとなる。一方、絶対定量ができれば、得られた量または濃度についてその多寡を一義的に判断することができ、得られた量または濃度をもって試料間の対比や判定が可能となる。
(低張液および高張液)
低張液とは、生理食塩水の浸透圧である285mOsM未満(溶質濃度(電解質の場合イオン濃度)が285mmol/L未満)の水溶液である。
高張液とは、生理食塩水の浸透圧である285mOsMより高い(溶質濃度(電解質の場合イオン濃度)が285mmol/Lより高い)水溶液である。
(内部標準物質)
本発明において「内部標準物質」とは、質量分析法にて測定対象物質を定量するときに、試料中に一定量を加えられる物質をいう。本発明では、内部標準物質は、実験操作の誤差や、試料中マトリックスの影響により定量値が変動することを補正するため、試料中に一定量を加えることが好ましい。
(試料)
本発明における試料の種類は特に限定されないが、試料としては、ヒトまたは動物から採取した体液または組織が好ましい。
体液または組織は、特に限定されないが、組織としては、例えば、脳、脳の各部位(例えば、嗅球、扁桃核、大脳基底球、海馬、視床、視床下部、大脳皮質、延髄、小脳)、脊髄、下垂体、胃、膵臓、腎臓、肝臓、生殖腺、甲状腺、胆嚢、骨髄、副腎、皮膚、筋肉、肺、十二指腸、小腸、大腸、血管、心臓、胸腺、脾臓、顎下腺、耳下腺、舌下腺、末梢血、前立腺、睾丸、卵巣、胎盤、子宮、骨、関節、骨格筋などが挙げられる。体液としては、例えば、血液(血漿、血清を含む)、尿、糞、唾液、涙液、浸潤液(腹水、組織液を含む)などが挙げられる。なかでも、血液、骨髄、肺、肝臓、腎臓、脾臓、胃、小腸、また精巣であることが好ましい。
(夾雑物)
本発明において「夾雑物」とは、試料中に混じっている余計なものを意味する。具体的には、試料中の検出対象物質(γH2AX、H2AX)以外の物質が該当する。夾雑物を構成する物質としては、生体分子が挙げられ、タンパク質、核酸、糖類、ペプチド、またはそれらの断片が例示される。
<試料中のγH2AXを定量する方法>
本発明による試料中のγH2AXを定量する方法は、
試料を低張液で処理するa1工程と、a1工程で得られる破砕処理した試料を高張液で洗浄処理するa2工程と、a2工程で得られる洗浄処理した試料を硫酸で処理してヒストンを含む試料を調製するa3工程とを含む、ヒストン含有試料を調製するa工程と;
a工程で得られるヒストン含有試料中のγH2AXを質量分析法により検出するb工程と;
b工程で検出されるγH2AXを絶対定量するc工程と;
を含む方法である。
(a工程)
a工程では、体液または組織からヒストン含有試料を調製する。
a工程は、下記の工程a1、工程a2、および工程a3の手順で行われる。
a1工程:試料を低張液で処理する。
a2工程:a1工程で得られる破砕処理した試料を高張液で洗浄処理する。
a3工程:a2工程で得られる洗浄処理した試料を硫酸で処理してヒストンを含む試料を調製する。
本発明によれば、上記したa1工程と、a2工程と、a3工程とを含む、ヒストン含有試料を調製する方法も提供される。
本発明においては、a1工程〜a3工程の間またはその前後に、任意の別工程を含むことを妨げるものではない。例えば、低張液による処理(a1工程)を複数回行ってもよいし、低張液と高張液との処理(a1工程、a2工程)を複数回行って、その後に、硫酸による処理(a3工程)を行ってもよい。あるいは、高張液による洗浄(a2工程)の後に、別の有機溶剤(アセトンなど)で追加洗浄し、その後に硫酸による処理(a3工程)を行ってもよいし、低張液による処理(a1工程)の前に、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄処理を行ってもよい。
(a1工程:低張液による試料の破砕処理)
a1工程で用いられる低張液は、0.1〜3.0mmol/Lの塩化カリウム(KCl)または0.1〜3.0mmol/Lの塩化ナトリウム(NaCl)、および0.5〜4.0mmol/Lの塩化マグネシウム(MgCl)を含むことが好ましく、0.5〜2.0mmol/LのKClまたは0.5〜2.0mmol/LのNaCl、および0.7〜3.0mmol/LのMgClを含むことがより好ましく、0.7〜1.7mmol/LのKClまたは0.7〜1.7mmol/LのNaCl、および1.0〜2.0mmol/LのMgClを含むことがさらに好ましい。
低張液の塩濃度(KCl、NaCl、MgClの濃度)を上記した範囲内にすることにより、臓器や細胞などの粉砕効果を発揮することができる。
上記で規定するNaClまたはKCl、およびMgClとは、典型的には、NaClとMgClとの組合せ、あるいは、KClとMgClとの組合せが想定される。しかし、本発明においては、NaClとKClとMgClとを組み合わせることを妨げるものではない。ただし、このときは、NaClとKClとの合計で上記の好ましい範囲(例えば、一番広い範囲で示すと0.1〜3.0mmol/L)となることが好ましい。
低張液には、ヒドロキシ基とリン酸基とを分子中に含む有機化合物(炭素数2〜24が好ましく、2〜12がより好ましく、2〜8がさらに好ましい)を添加してもよく、好ましくはグリセロリン酸、より好ましくはβ−グリセロリン酸を添加してもよい。また、必要に応じて他のホスファターゼ阻害剤を添加してもよい。
低張液には、芳香族基とフッ素原子と硫黄原子とを分子中に含む有機化合物(炭素数6〜24が好ましく、6〜12がより好ましく、6〜8がさらに好ましい)を添加してもよく、例えば、フッ化フェニルメチルスルホニルを添加してもよい。また、必要に応じて他のプロテアーゼ阻害剤を添加してもよい。
低張液にはさらに、酸化防止剤(ジチオトレイトール(DTT))、緩衝剤(Tris(トリスヒドロキシメチルアミノメタン)−HCl)などを添加してもよい。
低張液の添加量は、試料の量に応じて適宜定めればよいが、例えば、試料5〜50mgに対し、0.01mL以上であることが好ましく、0.2mL以上であることがより好ましく、0.4mL以上であることがさら好ましく、0.5mL以上であることがよりさらに好ましい。上限は特にないが、低張液の量が、100mL以下であることが好ましく、10mL以下であることがより好ましく、5mL以下であることがさらに好ましい。
本処理により、細胞の細胞膜を低張液処理で膨張させて壊し、細胞核をむき出しにすることが好ましい。
破砕し抽出する方法は、ビーズ式細胞破砕装置、ダウンス型テフロン(登録商標)・ホモジナイザー、ポリトロン、ワーリング・ブレンダー、ポッター型ガラス・ホモジナイザー、超音波破砕装置を用いる方法または凍結融解法などが挙げられる。
定量される組織が臓器の場合、臓器に0.1〜10mL(好ましくは、0.5〜5mL)の低張液を加え、ビーズ式細胞破砕装置などで破砕することが好ましい。その後、遠心操作により上清を除くことが好ましい。この操作で必要な臓器量は、好ましくは5mg以上50mg未満であり、より好ましくは5mg以上30mg未満である。
より重量の大きい臓器を処理する場合は、複数回に分けて処理することが好ましい。具体的には、臓器に0.1〜10mL(好ましくは、0.5〜5mL)の低張液を加えて破砕した後に、5〜100mg(好ましくは、10〜50mg)臓器等量分(脾臓の場合は1〜50mg(好ましくは、2〜30mg)等量分)の破砕液を別の容器に取り分け、これに0.1〜10mL(好ましくは、0.5〜5mL)の低張液を加えて0〜10℃(好ましくは、1〜5℃)で1〜30分間(好ましくは、2〜20分間)回転混和させることが好ましい。その後遠心操作(例えば500〜3,000×g、1〜10℃、2〜20分)により上清を除くことが好ましい。
骨髄の場合は、回収した骨髄に0.1〜10mL(好ましくは、0.5〜5mL)の低張液を加えて懸濁させ、0〜10℃(好ましくは、1〜5℃)で1〜30分間(好ましくは、2〜20分間)回転混和させることが好ましい。その後遠心操作(例えば500〜3,000×g、1〜10℃、2〜40分)により上清を除くことが好ましい。
血液の場合は、回収した血液から、Red Blood Cell Lysis Buffer(Roche)などを用いて、所定のプロトコールに従って有核細胞を回収することが好ましい。回収した有核細胞に0.1〜10mL(好ましくは、0.5〜5mL)の低張液を加えて懸濁させ、0〜10℃(好ましくは、1〜5℃)で1〜30分間(好ましくは、2〜20分間)回転混和させることが好ましい。その後遠心操作(例えば500〜3,000×g、1〜10℃、2〜40分)により上清を除くことが好ましい。
(a2工程:高張液による試料の洗浄処理)
a2工程で用いられる高張液は、100〜600mmol/LのKClまたは100〜600mmol/LのNaClを含むことが好ましく、150〜500mmol/LのKClまたは150〜500mmol/LのNaClを含むことがより好ましく、200〜400mmol/LのKClまたは200〜400mmol/LのNaClを含むことがさらに好ましい。上記の濃度範囲とすることにより、十分な洗浄効果を発揮することができる。
上記で規定するNaClまたはKClは、NaCl単独で添加する態様とKCl単独で添加する態様が想定されるが、本発明においては、NaClとKClとを組み合わせて併用してもよい。この場合、NaClとKClとの合計で上記の好ましい範囲(例えば、一番広い範囲で示すと100〜600mmol/L)となることが好ましい。
低張液と高張液との電解質の濃度の差は、特に限定されないが、試料の破砕処理とその後の洗浄処理との作用的な棲み分けの観点からは、高張液の濃度と低張液の濃度との比率(高張液濃度/低張液濃度)で、2〜50倍であることが好ましく、5〜30倍であることがより好ましい。
高張液には、ヒドロキシ基とリン酸基とを分子中に含む有機化合物(炭素数2〜24が好ましく、2〜12がより好ましく、2〜8がさらに好ましい)を添加してもよく、好ましくはグリセロリン酸、より好ましくはβ−グリセロリン酸を添加してもよい。また、必要に応じて他のホスファターゼ阻害剤を添加してもよい。
高張液には、芳香族基とフッ素原子と硫黄原子とを分子中に含む有機化合物(炭素数6〜24が好ましく、6〜12がより好ましく、6〜8がさらに好ましい)を添加してもよく、例えば、フッ化フェニルメチルスルホニルを添加してもよい。また、必要に応じて他のプロテアーゼ阻害剤を添加してもよい。
高張液にはさらに、酸化防止剤(DTT)、緩衝剤(Tris−HCl)などを添加してもよい。
高張液の添加量は、試料の量に応じて適宜定めればよいが、例えば、試料5〜50mgに対し、0.01mL以上であることが好ましく、0.2mL以上であることがより好ましく、0.4mL以上であることがさらに好ましく、0.5mL以上であることがよりさらに好ましい。上限は特にないが、高張液の量が、100mL以下であることが好ましく、10mL以下であることがより好ましく、5mL以下であることがさらに好ましい。
a1工程で処理した試料に0.1〜10mL(好ましくは、0.5〜5mL)の高張液を加えて懸濁させた後は、0〜10℃(好ましくは、1〜5℃)で1〜30分間(好ましくは、2〜20分間)回転混和させることが好ましい。その後遠心操作(例えば500〜3,000×g、1〜10℃、2〜20分)により上清を除くことが好ましい。
本処理により、夾雑物(核中の遊離タンパク質や、DNAに弱く結合したタンパク質など)を、高張液を用いて細胞核から溶出して除くことが好ましい。このとき、ヒストンはDNAに強く結合しているために溶出しない。
(a3工程:ヒストンの硫酸抽出)
a3工程では、a2工程で得られる洗浄処理した試料を硫酸で処理してヒストンを含む試料を調製する。具体的には、試料中のヒストンを、硫酸で溶出し、溶出液中のタンパク質をトリクロロ酢酸で沈殿精製することが好ましい。
具体的には、以下の実施形態が挙げられる。
硫酸処理:
a2工程で処理した試料に100〜1000μL(好ましくは200〜500μL)の0.025〜1mol/L(好ましくは、0.05〜0.5mol/L)の硫酸を加えて懸濁させ、30分間以上0〜10℃(好ましくは、1〜6℃)で回転混和する。その後遠心操作(5,000〜30,000×g、1〜10℃、2〜40分)により上清を回収する。回転混和および遠心操作を低温で行うことで、意図しない生化学反応や測定対象の分解を抑え、効率的にヒストンが抽出されるという効果が期待できる。また、遠心操作の遠心力を上記の範囲とすることで、硫酸で溶出されない夾雑物と上清が分離されるという効果が期待できる。
トリクロロ酢酸による処理:
硫酸処理において得た上記の上清に10〜1000μL(好ましくは50〜500μL)の98〜102%(w/v)トリクロロ酢酸(trichloroacetic acid:TCA)を加えて転倒混和し、氷上で10〜100分(好ましくは、20〜50分)静置する。氷上での静置により、効率的にタンパク質が沈殿するという効果が期待できる。次に遠心操作(5,000〜30,000×g、1〜10℃、2〜40分)によりタンパク質を沈殿させる。遠心操作を低温で行うことで、効率的にタンパク質が沈殿するという効果が期待できる。また、遠心操作の遠心力を上記の範囲とすることで、沈殿したタンパク質と上清が分離するという効果が期待できる。
アセトンによる洗浄:
タンパク質を沈殿させた後に、沈殿を10〜2000μL(好ましくは、50〜1000μL)氷冷アセトンで2回洗浄し、風乾する。洗浄時の遠心操作は、5,000〜30,000×g、1〜10℃、2〜40分で行う。洗浄の遠心操作を低温で行うことで、意図しないタンパク質の溶出が抑えられるという効果が期待できる。また、遠心操作の遠心力を上記の範囲とすることで、沈殿タンパク質と上清が分離するという効果が期待できる。
(b工程:液体クロマトグラフィー−質量分析法)
b工程では、a工程で得られるヒストン含有試料中のγH2AXおよびH2AXを質量分析法により検出する。γH2AXおよびH2AXの質量分析計による測定(b4工程)に先立って、b1工程の内部標準ペプチドの添加、b2工程の消化、b3工程の脱塩を行うことが好ましい。
(b1工程:内部標準ペプチドの添加)
b1工程により、試料に、同位体で標識された生体分子(好ましくはペプチド)を添加することが好ましい。特に、測定対象に安定同位体で標識した非リン酸化H2AXおよびγH2AXに特異的なペプチドを一定量で用いることが好ましい。同位体による標識には、放射性同位体を適用することもできるが、放射性を有さない安定同位体が、取り扱いが容易であることから好ましい。好ましくは、H、13C、15N、17O、18Oなどが挙げられる。具体的には、同位体で標識された生体分子であることが好ましく、同位体で標識されたペプチド(内部標準ペプチド)であることがより好ましい。
具体的には、マウスH2AX [1315N]ASQASQEY、マウスγH2AX [1315N]ASQA(pS)QEY、ヒトH2AX [1315N]ATQASQEY、ヒトγH2AX [1315N]ATQA(pS)QEYが挙げられる。Aはアラニン、Sはセリン、Qはグルタミン、Eはグルタミン酸、Yはチロシン、Tはトレオニンである。pSはセリンがリン酸化されたことを意味している。
内部標準ペプチドの添加量は適宜必要に応じて定めればよいが、例えば、a工程で得られた試料100μLに対して、γH2AXおよびH2AXに対応する内部標準ペプチドを、各0.1〜20ngで添加することが好ましく、0.5〜10ng添加することがより好ましく、1〜5ngで添加することが特に好ましい。
b1工程では、重炭酸アンモニウムを添加してもよい。重炭酸アンモニウムの添加量は、例えば、試料(5mg以上50mg未満の臓器から抽出したヒストン)に対して、100mmol/Lの重炭酸アンモニウムを10〜1000μLであることが好ましく、50〜500μLであることがより好ましく、70〜300μLであることが特に好ましい。
(b2工程:消化)
b2工程により、ヒストンをLC−MSで定量可能なペプチドに消化することが好ましい。消化方法には、酵素消化、化学分解などが挙げられ、好ましくは酵素消化であるが、これに限定されるものではなく、適当なものを選択すればよい。酵素消化に用いる酵素としては、トリプシン、キモトリプシン、Lys−C、Lys−N、Asp−N、Glu−Cなどが挙げられ、好ましくはトリプシンである。消化処理の温度は特に限定されないが20℃〜50℃が好ましく、30℃〜40℃であることがより好ましい。
消化酵素の添加量は、上記a工程で得た試料(5mg以上50mg未満の臓器から抽出したヒストン)に対して、0.1μg/μLの濃度で0.1〜200μLであることが好ましく、1〜100μLであることがより好ましく、2〜50μLであることがさらに好ましい。
(b3工程:ペプチドの脱塩)
b3工程により、消化産物のうち、測定対象を含むペプチドを脱塩精製することが好ましい。精製する方法は、例えば、脱塩チップ(例えば、GL−Tip GC(GLサイエンス社)など)を用いて、所定のプロトコールに従って脱塩精製する態様が挙げられる。脱塩チップを用いた脱塩精製の一例を示すと、ペプチド試料を脱塩チップに通液させることで、チップに充填されたレジンにペプチドを吸着させる。次いで、洗浄ステップを繰り返し実行することで、汚染物を除去し、超高純度なペプチド分画を達成することができる。最終段階で、少量の低pH溶出バッファでレジンからペプチドが溶出し、高純度な濃縮ペプチドを得ることができる。
あるいは、アフィニティーカラム精製、カチオン交換クロマトグラフィー、アニオン交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、順相クロマトグラフィーなどを利用する方法、免疫沈降法、硫安沈殿法、有機溶媒による沈殿法、限外ろ過法、ゲルろ過法、透析法などが挙げられる。
脱塩精製した後は、ペプチド溶出液を遠心濃縮機で乾燥させることが好ましい。
(b4工程:検出工程)
b4工程では、液体クロマトグラフィー−質量分析法(LC−MS/MSやLC−MS/MS/MSなどのLC−MS)により、γH2AXおよびH2AX並びにそれらの内部標準ペプチドを検出する工程を含むことが好ましい。
・液体クロマトグラフィー(LC)
液体クロマトグラフィーは、従来公知のものを適宜選定して使用することができ、例えば、HPLC(高速液体クロマトグラフィー:High Performance Liquid Chromatography)が挙げられる。HPLC装置は、分離カラム、試料導入部、および移動相を分離カラムに送り込むポンプを備える。HPLC装置は、それ以外の要素、例えば、オートサンプラー、ヒーター、分離された成分を検出する検出器、脱気装置、カラムオーブン、データ処理装置などを備えていてもよい。検出器としては、例えば、UV検出器や蛍光検出器、示差屈折率検出器、蒸発光散乱検出器、荷電化粒子検出器、電気化学検出器、電気伝導度検出器などが挙げられる。例えば、検出器は、カラムとイオン源(イオン化部)の間に接続することができる。
液体クロマトグラフィー(LC)は、より迅速に高感度で分離分析が可能な超高速液体クロマトグラフィー(Ultra High Performance Liquid Chromatography、以下、UHPLC、UPLCなどと記載することがある)を用いてもよい。UPLCは60MPa以上で高圧送液が可能であることが好ましく、100MPa程度での高圧送液が可能であることがより好ましい。HPLCとの明確な境はないが、UPLCは通常粒径2μm程度の充填剤のカラムを用い、例えばHPLCの1/10程度でより高速に、より高分離能での分析が可能である。分離カラムやポンプなどの装置部品の基本構成は、各仕様は別として、HPLCと同様である。
UPLCは、高圧に耐え得る粒子を充填したカラムを使用しており、上記のとおり、HPLC装置に比べてより迅速に高感度で分離分析が可能である。UPLCによる分離条件はHPLCの条件設定を行う場合の検討と同様に行うことができ、当業者であれば適宜条件を設定できる。
液体クロマトグラフィー(LC)による分離の方法としては、HILIC(親水性相互作用クロマトグラフィー:Hydrophilic Interaction Liquid Chromatography)、RPLC(逆相クロマトグラフィー:Reversed Phase Liquid Chromatography)、イオンペア試薬を用いたクロマトグラフィーまたはイオン交換クロマトグラフィーなどを挙げることができる。
液体クロマトグラフィー(LC)に用いる移動相としては、酸性または塩基性である水溶液の移動相Aと、有機溶媒を含む移動相Bとを組み合わせて使用することが好ましい。
移動相AのpH値は、使用するカラムの種類に応じて設定すればよい。LCに用いる移動相Aとして、例えば、酸性の場合はギ酸水溶液、塩基性の場合は重炭酸アンモニウム水溶液を用いることができる。酸性の移動相Aがギ酸水溶液であるとき、例えば0.01%〜1.0%(V/V)のギ酸水溶液を用いることができる。溶媒としての水は、純水または超純水であることが好ましい。
移動相Bに用いられる有機溶媒としては、非プロトン性極性有機溶媒が好ましく、具体的には、アセトニトリル、メタノール、2−プロパノールまたはエタノールなどが挙げられ、好ましくはアセトニトリルまたはメタノールであり、より好ましくはアセトニトリルである。
移動相Bとして、アセトニトリルを使用する場合、移動相中のアセトニトリルの濃度は任意に調節すればよく、例えば、0〜100%(v/v)で調節でき、さらに1〜80%(v/v)で調節できる。移動相Aの溶媒としては、水(純水または超純水が好ましい)を使用することができる。
溶出は、移動相Aと移動相Bの比率を経時的に変化させるリニアグラジエント溶出により行っても、移動相Aと移動相Bの比率を変化させないイソクラティック溶出により行ってもよい。
液体クロマトグラフィーに用いられる分析カラムの条件としては、特に制限されず、諸条件に応じて適宜選択することができる。分配クロマトグラフィーにおける分離カラムとしては、順相カラムを用いても、逆相カラムを用いてもよい。順相(normal phase)の場合は固定相の極性が移動相の極性よりも大きい。逆相(reversed phase)の場合は、固定相の極性が移動相の極性よりも小さい。順相カラムの充填剤(固定相)の代表例としては、シリカゲルである。逆相カラムの充填剤の典型例としては、ODS(オクタデシルシリル化シリカゲル)充填剤を充填したカラムが挙げられる。したがって、順相分配クロマトグラフィーでは、極性が大きな溶質ほどカラムに保持される。逆に、逆相分配クロマトグラフィーでは、疎水性が大きな溶質ほどカラムに保持される。本発明において、必要に応じてカラムを使い分ければよいが、γH2AXおよびH2AX並びにそれらの内部標準物質を分離する観点で、ODSカラムを用いた逆相分配クロマトグラフィーが好ましい。UPLCによる分析を行う観点からは、粒径が1.5μm以上のオクタデシルシリル化シリカゲル充填剤を充填したカラム(ODSカラム)を使用することが好ましい。充填剤(ODS)の粒径はさらに1.7〜5.0μmであることがより好ましく、粒径は1.8〜3.0μmであることがさらに好ましい。
溶出法は、イソクラティック溶出法とグラジエント溶出法を適宜選択すればよいが、クロマトグラム上で確認できる夾雑物と測定対象物質を十分に分離することが好ましい。クロマトグラム上では確認できないがマトリクス由来の成分がイオン化効率に悪影響を与える可能性があるため、保持時間を長く保つことが、好ましい。グラジエントの条件は特に限定されず、例えば、アセトニトリル(移動相B)と、ギ酸水溶液(移動相A)の送液の比率を調節することが挙げられる。
流速は、分離カラムの内径などの諸条件に応じて適宜選択できる。分離溶液の流速は、分離工程を通じて一定であってもよく、そうでなくてもよい。例えば、エレクトロスプレーイオン化法(ESI)に合わせて0.1〜1.5mL/分の範囲で適宜選択することができる。
また、液体クロマトグラフィーにおけるカラム温度は、当業者であれば、分析対象や使用する分析カラムの仕様に合わせて適宜選択することができる。
・質量分析計(MS)
本工程では、上記の液体クロマトグラフィーで分離したγH2AXとH2AXの質量を質量分析法(MS:mass spectrometry)により同定することが好ましい。
質量分析計(mass spectrometer)は公知の質量分析計が使用できるが、特にLC装置に直列に接続することが可能なものが好ましい。用いられる質量分析計は、1つであってもよく、2つまたはそれ以上であってもよい。2つまたはそれ以上の質量分析計は、直列に接続して用いることができる。すなわち、LC−MSシステムは、例えば、直列に接続された2つまたはそれ以上の質量分析計を備える、LC−MS/MSやLC−MS/MS/MSであってよい。
質量分析計としては、磁場セクター型質量分析計(magnetic sector mass spectrometer)、四重極型質量分析計(quadrupole mass spectrometer:QMS)、飛行時間質量分析計(time-of-flight mass spectrometer:TOF−MS)、イオントラップ質量分析計(ion trap mass spectrometer)、フーリエ変換質量分析計(fourier transform mass spectrometer)などが挙げられる。本発明においては、なかでも、タンデム四重極型質量分析計が好ましい。
質量分析計におけるイオン化法としては、エレクトロスプレーイオン化法(ESI)、大気圧化学イオン化法(APCI)、高速原子衝撃法(FAB)、光イオン化法(APPI)、電子イオン化法(EI法)、化学イオン化法(CI法)、電界脱離法(FD法)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI法)、および音速イオン化法(SSI)が挙げられるが、特にエレクトロスプレーイオン化法(ESI)が好ましい。
タンデム四重極型質量分析計は、イオン源、四重極(Q1)、コリジョンセル(Q2)、四重極(Q3)、検出器で構成される質量分析計である。測定対象物質は、イオン源でイオン化され、プリカーサーイオンが生成され、その質量電荷比(m/z)によって、四重極(Q1)で質量分離される。次いで、コリジョンセル(Q2)内で窒素やアルゴンなどの不活性ガスと衝突させることでプロダクトイオンが生成される(衝突誘起解離:CID)。プロダクトイオンの質量電荷比(m/z)によって、四重極(Q3)で再度、質量分離され、検出器で検出される。
上述のように、本発明においては、LC−MS/MSを用いることが好ましく、液体クロマトグラフィーにより分離した試料を、インターフェース(イオン源)を介してイオン化し、生成したイオンは第一の質量分析計(MS)で分離して特定の質量イオンを解離・フラグメント化させる。そのイオンを第二の質量分析計で検出することが好ましい。このとき、系内には、ポジティブイオン、ネガティブイオン、荷電していない中性分子が生成しうる。
MS/MSは、プリカーサーイオンを衝突誘起解離させて得られたプロダクトイオンをモニターする手法が好ましい。すなわち、多重反応モニタリング(Multiple Reaction Monitoring:MRM)あるいは選択反応モニタリング(selected reaction monitoring:SRM)があるが、本発明においては、多重反応モニタリング(MRM)が好ましい。
SRMは、プロダクトイオンスキャンにより得られた特定のプロダクトイオンのm/zを利用することで、選択性の高い高感度定量が行える。ここでは、Q1でプリカーサーを選択し、コリジョンセルにおいてCIDを行い、Q3で特定のプロダクトイオンを選定し検出する。
MRMは、イオン化プローブでイオン化したさまざまなイオンに対し、Q1において特定のプリカーサーイオンを選択し、コリジョンセルでそのイオンを壊し(CID)、Q3において壊したイオン(プロダクトイオン)の中から特定のイオンを検出する方法である。一度の測定で複数のチャンネルを設定することができる利点を有し、同時定量には好ましいモニタリング法である。例えば、市販品で、一分析最大512イベント×32チャンネルの設定が可能である。
一方、アナライザは真空下に導入されたイオンを分離する部分である。イオン源では分子関連イオンであるポジティブイオンおよびネガティブイオン、また荷電していない中性分子も生成する。しかし、正負両イオンを同時に取り込むことは原理的に不可能である。そのため、正負イオンを同時にモニターするには時間で正負を切り替えて測定しなければならない。本発明においては、多重反応モニタリングをポジティブイオンモードで行うことが好ましい。
検出部は、分析部で選別されたイオンを電子増倍管またはマイクロチャンネルプレートで増感して検出する部位である。データ処理部は、得られたデータからマススペクトルを作製する部位である。
b工程における具体的な検出条件としては、LC−MSを通じた条件として、1〜200μL(好ましくは、10〜100μL)の0.1〜50%(好ましくは、1〜10%)(v/v)アセトニトリル/0.01〜5%(好ましくは、0.05〜1%)(v/v)ギ酸混合液を加えて溶解し、LC−MS/MS分析に用いることが好ましい。その後、0.1〜50μL(好ましくは、1〜20μL)試料を流速0.01〜50mL/分(好ましくは、0.1〜2mL/分)でカラムに展開し、溶出することが好ましい。
LC−MSにおける各保持時間(Retention Time)で、イソクラティックとリニアグラジエントの溶出分を分離し、質量分析計に連動させることが好ましい。MS/MS分析は多重反応モニタリング(MRM)モードで行うことが好ましい。
ペプチド定量に用いることができるMRM条件は、測定対象物質の標準品(ペプチド)を用いて適宜最適化したものを用いることが好ましく、例えば、本発明のMRM条件(ヒト、マウス)は、以下のとおりに設定することがより好ましい。
(Q1 m/z > Q3 m/z)
マウスH2AX
ASQASQEY(配列番号1)(442.3>182.0)
1315N]ASQASQEY(配列番号1)(444.3>182.0)内部標準ぺプチド
マウスγH2AX
ASQA(pS)QEY(482.4>182.1)
1315N]ASQA(pS)QEY(484.4>182.0)内部標準ぺプチド
ヒトH2AX
ATQASQEY(配列番号2)(449.5>182.0)
1315N]ATQASQEY(配列番号2)(451.5>182.0)内部標準ぺプチド
ヒトγH2AX
ATQA(pS)QEY(489.4>182.1)
1315N]ATQA(pS)QEY(491.5>182.1)内部標準ぺプチド
(b5工程:H2AXの総分子数に対するγH2AXの分子数の割合の算出)
本工程および次のc工程により、試料中のγH2AXおよびH2AXに特異的なペプチドを定量することができる。具体的には、H2AXの総分子数(γH2AX分子数+H2AX分子数)に対するγH2AXの分子数の割合(以下、この比率を「γH2AX存在率」と呼ぶ)を算出する。なお、図2においては、「γH2AX分子数+H2AX分子数」を、「総H2AX」と表記している。
(c工程)
c工程では、b工程で検出されるγH2AXを絶対定量する。
γH2AX存在率を求める手段としては、例えば、本目的に適合する計算ソフトまたはプログラムを有する電子計算機(コンピューター)を使用することができる。
各ペプチドの定量は、各ペプチドのクロマトグラムピーク面積と同位体で標識した内部標準物質のクロマトグラムピーク面積の比を求めて定量する。具体的に、非リン酸化H2AX(マウスASQASQEY)の絶対定量測定をする場合の例を下記に挙げる。LC−MS/MSにより非リン酸化H2AX(マウスASQASQEY)のピークが得られたとする。このピークの位置と、同位体で標識した内部標準物質のピークとが一致しペアとなるものを確認する。内部標準物質のピークが同位体非リン酸化H2AX(マウスASQASQEY)のものだったとする。であれば、検出されたピークは非リン酸化H2AX(マウスASQASQEY)のものと特定できる。他のペプチドも同様にして種類が特定される。特定された各ペプチドとその内部標準ペプチドのクロマトグラムピーク面積を計測する。この面積の比を求めれば、相対的な定量が可能となる。
本発明においては、各ペプチドの検量線を予め作成し、作成した検量線に基づいて各ペプチドを定量することが好ましい。これにより、例えば、非リン酸化H2AX(マウスASQASQEY)の検量線と照らし合わせることで、先に検出された非リン酸化H2AX(マウスASQASQEY)と同位体非リン酸化H2AX(マウスASQASQEY)のクロマトグラムピーク面積との比から、絶対量を測定することができる。同様にして、各ペプチドの絶対定量が可能となる。検量線作成用試料として、分析対象の各ペプチドの標準物質、および内部標準物質としての同位体で標識した上記各ペプチドを含むサンプルを用いることが好ましい。H2AXの総分子数は、非特許文献1に従い、非リン酸化H2AX(マウスASQASQEY、ヒトATQASQEY)とγH2AX(マウスASQA(pS)QEY、ヒトATQA(pS)QEY)の和として算出する。
<試料中のDNA損傷を判定する方法>
本発明によれば、化学物質の遺伝毒性や、抗がん剤のがん殺傷作用(薬効)や正常組織への殺傷作用(副作用)を、夾雑物を相当量含むサンプル、すなわち、in vitroだけではなく、in vivoサンプル(組織、血液)でも定量することが可能となる。したがって、上述したようなDNA損傷のレベルを、直接生体から採取した検体によって判定することができ、より正確な評価が可能となる。
化学物質のDNAを傷つける活性は、細胞のがん化や細胞死に繋がりうる。細胞のがん化で捉えると、化学物質の安全性評価においてDNA損傷性は遺伝毒性と呼ばれ、重要視される毒性の1つである。細胞死で捉えると、DNA損傷の誘導はがん細胞を殺傷する抗がん剤の作用メカニズムに関する有力な情報となりうる。
バイオマーカーであるγH2AXは、細胞内のDNA二本鎖が切断された際に形成される生体内分子であり、DNA損傷の高感度かつ定量的なバイオマーカーとして利用されている。このγH2AXを利用することにより、細胞のDNA損傷の場所やレベルを特定することが可能となる。さらに、個体全体の生物学的影響を評価することもできる。がん治療薬の多くはがん細胞にDNA損傷を誘発することでがん細胞を死滅させる。そのため、がん治療薬投与後、実際にがん細胞にDNA損傷が誘発されているか、また逆に、がん細胞以外に過度のDNA損傷が誘発されていないかをγH2AXの検出によって確認することが可能となる。
上記の通り、本発明の一実施形態としては、上記したa工程、b工程およびc工程を含む、試料中のDNA損傷を判定する方法が提供される。本実施形態においても、低張液の濃度や高張液の濃度、その他の検出条件など、あるいは、その好ましい範囲は、上記で述べた通りである。上記したDNA損傷は、DNAの二本鎖切断による損傷を含むことが好ましい。
<化合物のスクリーニング方法、化合物の遺伝毒性試験方法および化合物の薬効を予測する方法>
DNA損傷マーカーとしてのγH2AXの適用例として、レギュラトリーサイエンスにおける化学物質や環境汚染物質の遺伝毒性評価、創薬におけるDNA損傷を誘導する抗がん剤の薬効評価、臨床におけるがんの放射線治療や化学療法の治療成績評価などが挙げられる。したがって、本発明のγH2AXの定量方法は、化合物のスクリーニング方法、化合物の遺伝毒性試験方法および化合物の薬効を予測する方法として使用することができる。
以下に本発明を実施例に基づきより詳細に説明するが、本発明がこれにより限定して解釈されるものではない。
(実施例1)マウスへの遺伝毒性物質マイトマイシンC投与による遺伝毒性評価
本実施例においては、遺伝毒性物質マイトマイシンCをマウスに投与した後の、各臓器、体液中のγH2AXの経時変化を定量した。
(マウスへの投与)
8週齢の雄ICRマウスに2mg/kgマイトマイシンCを腹腔内投与し、投与後2、4、8、24、および48時間後に安楽死させ、血液、骨髄、肝臓、胃、小腸、脾臓、肺、腎臓、および精巣を採取した。陰性対照として無処理のマウスを用いた。
(1)低張液による試料の処理
臓器:
臓器に1mLの低張液(10mmol/L Tris−HCl pH 8.0、1mmol/L KCl、1.5mmol/L MgCl、1mmol/Lジチオスレイトール、0.2mmol/Lフッ化フェニルメチルスルホニル、10mmol/L β−グリセロリン酸)(以下、本低張液を低張液Aと称する)を加え、ビーズ式細胞破砕装置で破砕した。その後遠心操作(1,300×g、4℃、5分)により上清を除いた。
骨髄:
回収した骨髄に1mLの低張液Aを加えて懸濁させ、4℃で10分間回転混和した。その後遠心操作(1,300×g、4℃、5分)により上清を除いた。
血液:
回収した血液から、Red Blood Cell Lysis Buffer(Roche)を用いて、所定のプロトコールに従って有核細胞を回収した。回収した有核細胞に1mLの低張液Aを加えて懸濁させ、4℃で10分間回転混和した。その後遠心操作(1,300×g、4℃、5分)により上清を除いた。
(2)高張液による試料の洗浄処理
(1)で処理した試料に1mLの高張液(300mmol/L KCl、0.2mmol/Lフッ化フェニルメチルスルホニル、10mmol/L β−グリセロリン酸)を加えて懸濁させ、4℃で10分間回転混和した。その後、遠心操作(1,300×g、4℃、5分)により上清を除去した。
図1には、マウス肝臓から抽出したヒストンの精製度を示している。ここでは、マウス肝臓15.6〜23.2mgから低張液中で破砕した後に、沈殿からヒストンを酸抽出(高張液による洗浄なし)、または低張液〜高張液にあたるKCl濃度の洗浄液で沈殿を洗浄した後にヒストンを酸抽出した。その後、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミド電気泳動で展開してクマシーブリリアントブルー染色を行った。ヒストンを示すバンドを矢印で示した。この結果から、高張液による洗浄を行わない場合は、ヒストンを分離できていないことが分かる。これに対し、高張液を用いたものではヒストンを好適に分離できていることが分かる。特に、高張液の濃度が150mmol/L以上になると、より精度よくヒストンを分離できていることが分かる。
(3)ヒストンの硫酸による抽出
(2)で処理した試料に400μLの0.2mol/L硫酸を加えて懸濁させ、30分間以上4℃で回転混和した。その後遠心操作(16,000×g、4℃、10分)により上清を回収した。上清に132μLの100%(w/v)トリクロロ酢酸を加えて転倒混和し、氷上で30分間静置した。次に遠心操作(16,000×g、4℃、10分)によりタンパク質を沈殿させた後に、沈殿を500μL氷冷アセトンで2回洗浄し、風乾した。洗浄時の遠心操作は、16,000×g、4℃、5分で行った。
(4)トリプシン消化
(3)の試料に100μLの100mmol/L重炭酸アンモニウムと、測定対象の安定同位体で標識したペプチド、つまり非リン酸化H2AXおよびγH2AXに特異的な内部標準ペプチド(マウスH2AX [1315N]ASQASQEY、マウスγH2AX [1315N]ASQA(pS)QEY)を各1.5ngで添加し、溶解、懸濁した。
次に10μLの0.1μg/μLトリプシンを添加し、37℃で一晩静置した。
(5)ペプチドの脱塩
(4)の試料中のペプチドを、脱塩チップGL−Tip GC(GLサイエンス)を用いて、所定のプロトコールに従って脱塩精製した。次にチップから溶出したペプチド溶出液を遠心濃縮機で乾燥させた。
(6)LC−MS/MS分析
(5)の試料に50μL 5%(v/v)アセトニトリル/0.1%(v/v)ギ酸混合液を加えて溶解し、LC−MS/MS分析に用いた。LC−MS/MSはACQUITY UPLC H−ClassBio/Xevo TQ−S micro(Waters)を用いた。5μL試料を流速0.3mL/分でUHPLC−PEEK 2.1×100mm column packed with InertSustainSwift C18 1.9μm (GLサイエンス)に展開し、以下のように溶出した(溶離液A 0.1%ギ酸、溶離液B アセトニトリル)。
0−0.5分:1% 溶離液B イソクラティック(isocratic)、0.5−7分:30% 溶離液Bへのリニアグラジエント(linear gradient)、7−9分:80% 溶離液Bへのリニアグラジエント、9−10分:80% 溶離液B イソクラティック、10−13.5分:1% 溶離液B イソクラティック
MS/MS分析は多重反応モニタリング(MRM)モードで、以下の条件で行った。
霧化ガス,窒素、イオン源温度,150°C、脱溶媒温度,550°C、脱溶媒ガス流量,1200L/h、キャピラリー電圧,1.5kV、コーン電圧,25V、コーンガス流量,110L/h、衝突ガス,アルゴン
ペプチド定量に用いたMRM条件は以下のとおりである。
(Q1 m/z > Q3 m/z)。
ASQASQEY(配列番号1)(442.3 > 182.0)
ASQA(pS)QEY(482.4 > 182.0)
1315N]ASQASQEY(配列番号1)(444.3 > 182.0)
1315N]ASQA(pS)QEY(484.4 > 182.0)
各ペプチドは、測定対象ペプチドとその同位体で標識された内部標準ペプチドのピーク面積比で定量した。検量線の作成には内部標準を添加したペプチド標準品を用いた。H2AXの総分子数は、非特許文献1に従い、非リン酸化H2AX(マウスASQASQEY)とγH2AX(マウスASQA(pS)QEY)の和として算出した。
図2は、上記のとおりH2AXの総分子数に対するγH2AXの分子数の比率(γH2AX存在率)を測定した結果をグラフに整理したものである。陰性対照(0時間)として無処理のマウスを用いた。平均±標準偏差、n=5(小腸、血液以外)。小腸の標本数は、グラフの各測定点に示した。血液は、5匹分を1つにプールして測定した。
無処理条件では、精巣のγH2AXレベルが最も高く(2.18%)、次いで骨髄(0.35%)、胃(0.26%)、血液(0.24%)、脾臓(0.23%)、腎臓(0.16%)、肝臓(0.12%)、小腸(0.11%)、肺(0.07%)の順にγH2AXレベルが高かった。2mg/kgマイトマイシンCを腹腔内投与したところ、精巣以外の臓器でγH2AXの増加が見られたが、その経時変化は臓器によって異なっていた。精巣ではγH2AXの変化は見られなかった。
以上の結果より、本発明によれば、夾雑物が含まれるin vivo試料(臓器や体液)であっても、高張液による洗浄を行うことにより、γH2AXを定量的に測定することができた。これにより、生物へのマイトマイシンCの投与によるγH2AXの経時的変化をとらえることができる。
<比較例>
(1)の処理として、細胞塊を1mL低張液に懸濁させ、4℃で30分間回転混和させた。その後遠心操作(10,000×g、4℃、10分)により上清を除いた。高張液による処理は行わず、(3)、(4)、および(5)の処理は実施例と同様にして行った。(6)の分析は実施例と同様に行った。その結果、本試料では、夾雑物の影響から、満足な分析結果を得ることはできなかった。
(実施例2)マウスXenograftモデルによる抗がん剤の薬効および副作用評価
本実施例においては、ヒト卵巣癌細胞株ES−2細胞を皮下移植したXenograftモデルマウスに抗がん剤を投与した後の、各臓器のγH2AXの経時変化を定量した。
トポテカン塩酸塩(Topotecan-HCl)は、Biocompounds Pharmaceutical社より購入した。トポテカン塩酸塩溶液の調製には、生理食塩水(大塚製薬)を用いた。
10mmol/Lヒスチジン/9.4%スクロース溶液は、スクロース9.4g/100mLである水溶液に、ヒスチジン濃度が10mmol/Lとなるようにした溶液である。
マウス卵巣癌細胞株ES-2細胞は、ATCC細胞バンクより入手した。
(試料採取)
ヒト卵巣癌細胞株ES−2細胞3×10個を雌性BALB/cAJcl−nu/nuマウスの脇腹部皮下に移植し、皮下腫瘍を形成させた。移植7日後に2mg/kgのトポテカン塩酸塩溶液を静脈内に投与し、投与3時間後または24時間後に腫瘍および骨髄細胞を採取した。腫瘍はメスを用いて壊死のない中央部分を薄く輪切りにし、約20mgの切片を作成した。骨髄細胞は両脛骨を取り出した後、脛骨遠位端骨頭を切断し、遠心機にて9,100×g、1分遠心して回収した。試料は使用直前まで−80℃で冷凍保存した。陰性対照として、10mmol/Lヒスチジン/9.4%(w/v)スクロース溶液を投与して24時間後のマウスを用いた。
(1)低張液による試料の処理
腫瘍:
腫瘍に1mLの低張液(10mmol/L Tris−HCl pH 8.0、1mmol/L KCl、1.5mmol/L MgCl、1mmol/Lジチオスレイトール、0.2mmol/Lフッ化フェニルメチルスルホニル、10mmol/L β−グリセロリン酸)(以下、本低張液を低張液Aと称する)を加え、ビーズ式細胞破砕装置で破砕した。その後遠心操作(1,300×g、4℃、5分)により上清を除いた。
骨髄:
回収した骨髄に1mLの低張液Aを加えて懸濁させ、4℃で10分間回転混和した。その後遠心操作(1,300×g、4℃、5分)により上清を除いた。
(2)高張液による試料の洗浄処理
実施例1の(2)高張液による試料の洗浄処理と同様の方法で、洗浄処理を行った。
(3)ヒストンの硫酸による抽出
実施例1の(3)ヒストンの硫酸による抽出と同様の方法で、抽出処理を行った。
(4)トリプシン消化
(3)の試料に100μLの100mmol/L重炭酸アンモニウムと、測定対象の安定同位体で標識したペプチド、つまり非リン酸化H2AXおよびγH2AXに特異的な内部標準ペプチド(マウスH2AX [1315N]ASQASQEY、マウスγH2AX [1315N]ASQA(pS)QEY、ヒトH2AX [1315N]ATQASQEY、ヒトγH2AX [1315N]ATQA(pS)QEY)を各1.5ngで添加し、溶解、懸濁した。
次に10μLの0.1μg/μLトリプシンを添加し、37℃で一晩静置した。
(5)ペプチドの脱塩
実施例1の(5)ペプチドの脱塩と同様の方法で、脱塩処理を行った。
(6)LC−MS/MS分析
(5)の試料に50μL 5%(v/v)アセトニトリル/0.1%(v/v)ギ酸混合液を加えて溶解し、LC−MS/MS分析に用いた。LC−MS/MSはACQUITY UPLC H−ClassBio/Xevo TQ−S micro(Waters)を用いた。5μL試料を流速0.3mL/分でUHPLC−PEEK 2.1×100mm column packed with InertSustainSwift C18 1.9μm (GLサイエンス)に展開し、以下のように溶出した(溶離液A 0.1%ギ酸、溶離液B アセトニトリル)。
0−1分:1% 溶離液B イソクラティック(isocratic)、1−7分:30% 溶離液Bへのリニアグラジエント(linear gradient)、7−9分:80% 溶離液Bへのリニアグラジエント、9−10分:80% 溶離液B イソクラティック、10−13.5分:1% 溶離液B イソクラティック
MS/MS分析は多重反応モニタリング(MRM)モードで、以下の条件で行った。
霧化ガス,窒素、イオン源温度,150°C、脱溶媒温度,550°C、脱溶媒ガス流量,1200L/h、キャピラリー電圧,1.5kV、コーン電圧,25V、コーンガス流量,110L/h、衝突ガス,アルゴン
ペプチド定量に用いたMRM条件は以下のとおりである。
(Q1 m/z > Q3 m/z)。
ASQASQEY(配列番号1)(442.3 > 182.0)
ASQA(pS)QEY(482.4 > 433.3)
ATQASQEY(配列番号2)(449.5 > 182.0)
ATQA(pS)QEY(489.4 > 182.1)
1315N]ASQASQEY(配列番号1)(444.3 > 182.0)
1315N]ASQA(pS)QEY(484.4 > 435.3)
1315N]ATQASQEY(配列番号2)(451.5 > 182.0)
1315N]ATQA(pS)QEY(491.5 > 182.1)
各ペプチドは、測定対象ペプチドとその同位体で標識された内部標準ペプチドのピーク面積比で定量した。検量線の作成には内部標準を添加したペプチド標準品を用いた。H2AXの総分子数は、非特許文献1に従い、非リン酸化H2AX(マウスASQASQEYまたはヒトATQASQEY)とγH2AX(マウスASQA(pS)QEYまたはヒトATQA(pS)QEY)の和として算出した。
図3は、上記のとおりH2AXの総分子数に対するγH2AXの分子数の比率(γH2AX存在率)を測定した結果をグラフに整理したものである。ヒト卵巣癌細胞株ES−2細胞を播種した雌性BALB/cAJcl−nu/nuマウスに2mg/kgトポテカンを投与し、3時間または24時間後の骨髄および腫瘍内のγH2AXレベルを測定した。陰性対照として10mmol/Lヒスチジン/9.4%(w/v)スクロース溶液を投与して24時間後のマウスを用いた。測定値(n=1)または平均値(n=2)を棒グラフで、各個体の測定値をひし形で示した。
骨髄からはヒト非リン酸化およびリン酸化(γ)H2AXは検出されなかった。陰性対照群の骨髄中マウスγH2AXレベルは0.41%であったのに対し、トポテカン投与3時間後には0.91%に増加した。以上より、骨髄にはマウス非リン酸化およびリン酸化(γ)H2AXのみが存在し、トポテカン投与により骨髄にDNA損傷が生じたことが強く示唆された。腫瘍からは、ヒトおよびマウス両方の非リン酸化およびリン酸化(γ)H2AXが検出された。腫瘍中ヒトγH2AXレベルは、陰性対照群では4.5%であったのに対し、トポテカン投与3時間後には13.7%にまで増加し、投与24時間後には11.3%に減少した。腫瘍中マウスγH2AXレベルは陰性対照群で0.4%であったのに対し、トポテカン投与3時間後には2.3%にまで増加し、投与24時間後には0.6%に減少した。このことは、マウス皮下で形成されたヒト由来腫瘍にはヒトとマウス由来の細胞が混在し、トポテカン投与により双方の細胞にDNA損傷が生じたことを強く示唆している。
以上の結果により、本測定法は抗がん剤の薬効および副作用評価に有用であること、臓器間のγH2AXレベルを同じ手法で直接比較可能であること、同一サンプル中のヒトおよびマウス由来細胞に生じたDNA損傷の程度(γH2AXレベル)を切り分けて定量的に評価できることが示された。

Claims (19)

  1. 試料中のγH2AXを定量する方法であって:
    試料を低張液で処理するa1工程と、a1工程で得られる破砕処理した試料を高張液で洗浄処理するa2工程と、a2工程で得られる洗浄処理した試料を硫酸で処理してヒストンを含む試料を調製するa3工程とを含む、ヒストン含有試料を調製するa工程と;
    a工程で得られるヒストン含有試料中のγH2AXを質量分析法により検出するb工程と;
    b工程で検出されるγH2AXを絶対定量するc工程と;
    を含む方法。
  2. 前記試料が、ヒトまたは動物から採取した体液または組織である、請求項1に記載の方法。
  3. 体液または組織が、血液、骨髄、肺、肝臓、腎臓、脾臓、胃、小腸および精巣から選ばれる、請求項2に記載の方法。
  4. 前記低張液が、0.5〜2.0mmol/Lの塩化カリウムまたは0.5〜2.0mmol/Lの塩化ナトリウム、および0.7〜3.0mmol/Lの塩化マグネシウムを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
  5. 前記高張液が、150〜500mmol/Lの塩化カリウムまたは150〜500mmol/Lの塩化ナトリウムを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
  6. b工程が、a工程で得られるヒストン含有試料に内部標準ペプチドを添加して、トリプシン処理する工程を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
  7. b工程が、液体クロマトグラフィー−質量分析法により、γH2AXを検出する工程を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
  8. 試料中のDNA損傷を判定する方法であって:
    試料を低張液で処理するa1工程と、a1工程で得られる破砕処理した試料を高張液で洗浄処理するa2工程と、a2工程で得られる洗浄処理した試料を硫酸で処理してヒストンを含む試料を調製するa3工程とを含む、ヒストン含有試料を調製するa工程と;
    a工程で得られるヒストン含有試料中のγH2AXを質量分析法により検出するb工程と;
    b工程で検出されるγH2AXを絶対定量するc工程と;
    を含む方法。
  9. 前記試料が、ヒトまたは動物から採取した体液または組織である、請求項8に記載の方法。
  10. 体液または組織が、血液、骨髄、肺、肝臓、腎臓、脾臓、胃、小腸および精巣から選ばれる、請求項9に記載の方法。
  11. 前記低張液が、0.5〜2.0mmol/Lの塩化カリウムまたは0.5〜2.0mmol/Lの塩化ナトリウム、および0.7〜3.0mmol/Lの塩化マグネシウムを含む、請求項8から10のいずれか一項に記載の方法。
  12. 前記高張液が、150〜500mmol/Lの塩化カリウムまたは150〜500mmol/Lの塩化ナトリウムを含む、請求項8から11のいずれか一項に記載の方法。
  13. b工程が、a工程で得られるヒストン含有試料に内部標準ペプチドを添加して、トリプシン処理する工程を含む、請求項8から12のいずれか一項に記載の方法。
  14. b工程が、液体クロマトグラフィー−質量分析法により、γH2AXを検出する工程を含む、請求項8から13のいずれか一項に記載の方法。
  15. 前記DNA損傷が、DNAの二本鎖切断による損傷を含む、請求項8から14のいずれか一項に記載の方法。
  16. 請求項1から15の何れか一項に記載の方法を含む、化合物のスクリーニング方法。
  17. 請求項1から15の何れか一項に記載の方法を含む、化合物の遺伝毒性試験方法。
  18. 請求項1から15の何れか一項に記載の方法を含む、化合物の薬効を予測する方法。
  19. 試料を低張液で処理するa1工程と、a1工程で得られる破砕処理した試料を高張液で洗浄処理するa2工程と、a2工程で得られる洗浄処理した試料を硫酸で処理してヒストンを含む試料を調製するa3工程とを含む、ヒストン含有試料を調製する方法。
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